




「なんですって?」
その報告を伝令兵から聞くと、ヴィスマルク皇后は低い声で聞き返した。
「私の、可愛い、兵士たちが?」
伸びた爪が高級な絨毯をひっかき、解れさせる。
「道化師!! 道化師!! 説明しなさい!」
皇后は虚空に向かって呼びかける。
「私は道化師ではなく、この国の宮廷魔道士だったと思うが?」
すう、とどこからかアレイスター・クローリーが現れる。
「どうでもいいわよ! 『喜望峰』が駐屯兵団ごと破壊されたってどういうこと? 私はお誕生日は静かに過ごしたいっていったでしょ? 戦争はしないって! 貴方、ちゃんと皆に伝えたの?」
「それは余からも聞かせてもらいたい」
瞑目していたヴィスマルク5世アドルフ・シャリオヴァルトは静かに口をひらいた。
「そして、貴様は下がれ。伝令大義であった」
伝令兵に退去の命令をだせば、青い顔の伝令兵は王の間から逃げるように退去した。皇后の癇癪はもっと激しくなっていくだろうことは明らかだ。故にヴィスマルク5世は退去させたのだ。
「伝令兵の仕事だろ? そういうの」
ドアが閉められると、めんどうそうにクローリーがつぶやく。あといちいち僕の首をすっとばさないでよ? と皇后にたいして牽制するが、まあなんの抑止にもならないだろう。巻き込まれて伝令兵が首を落さずにいれるだろうことが幸いと思うことにしよう。
「まあ、あの伝令のいうとおりだよ。シェオール山脈……じゃなくて喜望峰だっけ? 国によって違う名前の山脈とか。名前統一しろよ、めんどくさい」
愚痴をこぼした瞬間、クローリーの胴体と首が別れ別れになる。
「ノルマ完了!」「で、続き言っていい?」「ミトラースが開発した魔導弾ってとこかな?」
「名付けて」「ジャッジ・フロム・ゴッド(神よりの裁き)」
クローリーも慣れたもので両手で自分の頭をキャッチボールしながら話す。
「ふざけないで!!」
「ふざけてなんて」「ないさ」「アルスマグナにつぐ、彼らの新たなる軍事展開ってとこだね」「まあ、軍事ドクトリンがぐだぐだの国のわりには」「よくやるよね」
皇后の爪が煌めきクローリーの両手が切断され、長い毛足の絨毯に音もなくクローリーの頭が落ちる。
「だからさあ、ほんと、たのむからさあ!」
「こちらの被害明細をあとで提出しろ。追って国境線に駐屯兵団を……いや鋼炎機甲団を一個大隊編成。砲火竜兵団は一個師団で。海洋方面には、竜牙艦隊をシャンバラ海洋に配置」
ヴィスマルク5世が口元に指を当てながら地図をにらみクローリーに指示をだす。
「おっと、攻め込むのかい?」
「イ・ラプセルもシャンバラに介入しているのだろう? 攻め込むというより前線を上げ様子見だ」
「お得意のギャンビットかい? イ・ラプセルから数えるならすでにダニッシュギャンビットだけど……いや、ヘルメリアへの一手も考えるとそうでもないな。スコッチゲームにでもするつもりかい? 僕としては君のブリッツ(早指し)を期待しているんだけどね」
「貴様の期待通りに盤面を動かすつもりはないさ」
「そりゃあ残念だ」
「兎にも角にもシャンバラを攻める上での邪魔な山岳がなくなった」
「■■さま! 早くミトラースを殺しましょう? 私達の誕生日を台無しにしたんですもの! 絶対に許さない」
「おちつけ、急いては■■■■のようになる。お前はクイーンだ。失うわけにはいかない」
「キングである■■さまももちろん。可愛そうなのはポーンだった■■■■ね。でも大丈夫。いつか取り戻してあげるから」