



イ・ラプセル北部森林地帯・海岸線

雲が多い日のことだった。
潮騒ばかりが耳に届くこの場所で、騎士達は厳しい顔つきで海を眺めた。
イ・ラプセルでもあまり開発が進んでいない北部森林地帯。
そこに、シャンバラ皇国の“魔女狩り”が現れたのはついこの間のことだ。
ヨウセイの少女を追って海を渡ってきた“魔女狩り”は、その後、この森林地帯の一部を占拠。
そこを切り開いて転移の魔導装置である“聖霊門”を設置しようとした。
だが自由騎士の奮闘によって“聖霊門”の開通は阻止できた。
現在、“聖霊門”は王国騎士団の管理下に置かれている。
また北部森林地帯にも幾つもの簡易拠点が設けられ、多数の騎士が派遣されていた。
国防の観点より、この事態を重く見た王国騎士団の判断であった。
これが、ここ数日の北部森林地帯における動きだ。
そして今日、たまたま視察に訪れていた『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は、報告を受けて自分も海岸近くに出てきていた。
「――やはり来たか」
遠い海岸線のさらに先、そこに幾つもの小さい影が見える。
魚、などではない。それは船だ。
しかもこの距離から肉眼で見えるならば、相応の大きさがあるということ。
「双眼鏡を」
「はっ!」
部下から受け取った双眼鏡を覗くと、そこに見えたのは真っ白い船だった。
船体の側面に、瞳にも似た文様が刻まれているのが見える。
間違いない。シャンバラ皇国の船だ。
その左右後方にも何隻かの船。かなりの大部隊であることが伺えた。
シャンバラによる二度目の襲来。
それは、水鏡に頼るまでもなく予測されていたことだ。
「ただちに王都へ報告せよ。自由騎士団の出動要請も一緒にだ!」
こうして、王都にシャンバラ皇国襲来の報はもたらされた。
そして同じタイミングで水鏡もまたシャンバラの襲撃を予見していた。
――北部森林地帯を舞台として【北方迎撃戦】の幕が上がる。
フレデリック・ミハイロフ
(VC:萌島ヘナ)