



カタコンベの一角にて

諸君、緊急事態である。
現在、王家の者も眠るカタコンベより、大量の還リビトが発生した。
彼らは、明確に軍隊を率い、イ・ラプセル城を目指している。
その道のりにいる生者を飲み込み、彼らもまた還リビトとし、進んでくる。
――何故か?
『ヴィスマルクから、イ・ラプセルを守るために』だ。
ああ、疑問はわかる。
ヴィスマルクの侵攻はおおよそ2か月前だ。すでに終わった話である。
しかし、彼らは還ってきてしまった。
ゲシュペンスト。死を呼ぶ列車、幽霊列車。
かの、正体不明の存在を最近この国で見かけるようになった。 其の所為であることは確定的であろう。
昨今のゲシュペンストには変化が起こっているという。今までは、周囲の負の感情によって、死人が立ち上がるだけの、物質のイブリース化としての現象が還リヒトであった。
故に、生前の繰り返しでしかなかったそれは意味を持たなかった。
しかし、今は、死して残る残留思念すら喰らい糧にし、死者を還らせてしまっている、ようだ。
つまりは彼ら死人には意思が芽生えている。
彼らはいまだこの国がヴィスマルクに蹂躙されていると嘆き立ち上がったのだ。
しかしヴィスマルク兵は今はいない。
生きているものをヴィスマルク兵と思い込み屠っていく、死の行軍である。
その旗印は前国王、ミッシェル・イ・ラプセルその人である。
諸君らにはそれを止めてもらいたい。かつて祖国を守るために戦った王が、騎士たちが、祖国を滅ぼすなど言語道断だ。
どうか、彼らの魂をイブリースの呪縛から解き放ち、浄化してくれたまえ。
そして、安らかな眠りを――。

クラウス・フォン・プラテス
(VC:やむむ)