●南の島! 地上の楽園なんていう、陳腐で使い古されたフレーズがあながち冗談に聞こえない程である。 太平洋に浮かぶ『南の島』――言葉から受け取るイメージを実に、実に、実に、全く冗談のように忠実に再現した場所は確かに特別な意味を持っていた。 日々、激戦と危険に身を置くリベリスタ達にとっては――一時、安心出来る時間である。それぞれに事情はあれ、ゆっくりと流れる島の時間は彼等にそれを一瞬だけ忘れさせてくれるだろう。 「――はい、ももこさんに注目!」 熱い砂浜に降り立った(見た目だけ)天使(エンジェル)のその声に、我に返ったリベリスタは視線をやった。彼女の清楚な『イメージ』を崩さないその水着姿は素晴らしいスタイルに良くマッチしている。(見た目は)エンジェルはニコニコと笑いながら『たびのしおり』なる小冊子をリベリスタに押し付けてくる。 「基本的に自由なんですけど、これだけは説明しておけと」 「……は?」 「このエリアは昼間にビーチで遊ぶのと、船で快適に過ごすのがメインです!」 「成る程」 「アウトドア派の皆さんはたっぷりと海遊び、浜遊びを。日焼けが気になる方はあちら! 流石にアミューズメントにも抜かりは無いようですよ!」 桃子の言葉にリベリスタは一つ頷いた。彼女が指差す沖の風景に目をやればそこには皆が乗ってきた時村観光所有の貸し切り豪華客船が停泊している。 「基本的にしなければいけない事はありませんからね。 骨休めをするなり、活動的に遊ぶなり、我が一子相伝の拳に悶えるなり好きにするといいと思いまーす。夕焼けのビーチでデートなんかも素敵ですね! きゃっ!」 身を捩る桃子に何かを言う事は諦めてリベリスタは夏のこの日に想いを馳せる。 確かに、今日も暑くなりそうだった―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月10日(月)23:20 |
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●ブルー・シャトー 「めい、めい、お船よ!すごく広いわ! 羽衣、小さなお船なら乗った事あるのよ。イルカさんを見に行ったの! どこを見ても、海と空。全部全部まっさおね。 お空が海に溶けちゃったんだわ。きらきらしてとっても綺麗――」 燦々とした太陽に目を細め、風景にはしゃぐ羽衣の目の前に広がる世界は見事なまでの『青』だった。 デッキから身を乗り出すようにして華やいだ声を上げる彼女の鼻腔を潮の香りがくすぐっている。 「いいお天気。あ、あの雲、わたあめみたい」 何処か口寂しそうに呟いた羽衣の声は可愛らしい愛嬌を十分に湛えていた。 遠く鳴き声を上げる海鳥と、ぽっかりと空に浮かぶ白い雲はまさに誰もが期待していた風景に違いない。 「なあ、空の色が反射して海がキラキラしてるのか? それだったらこの海も空も独り占めしてしまいたいな。両手を広げて全部一人占めだ! ぎゅっ! ういもぎゅーだ!」 「ねえめい、めいごとぎゅー! 大好きなものはみーんな抱きしめないと!」 共にこの場を過ごす五月(めい)の大袈裟な仕草に応えるようにして羽衣は笑った。 年齢こそ随分羽衣の方が上だったが、五月とのやり取りは不思議にしっくりとくるものがある。 人生とは何があるか分からないモノだ。見知らぬ異世界で激戦の中に放り出されたかと思えば――その傷も癒えない内に豪華客船で太平洋をクルーズする。リベリスタの人生の縮図とも言うべき怒涛の展開は何時もの事。「曰く、強制的にでも休ませる」と言った戦略司令室長の鶴の一声で決まったバカンスは多くのリベリスタを南国へと誘う事になったのだ。 「福利厚生も悪かぁないが。如何にもこうにもね。やっぱ性に合わないんだよ」 「まぁ、そう言わずに骨休めをしなさいよ」 「……たまにゃ僕の言う事を聞いてくれてもいいんじゃないかな。見た目は『可愛い』女の子だぜ?」 確かに『見た目は可愛い女の子』らしく拗ねたように唇を尖らせるりりすである。 最高の晩餐を常求めるりりすからすれば『食い足りない』。『もっと刺激の欲しい』話ではあるのかも知れないが―― 地上の楽園という使い古されたフレーズがやはりしっくり来る今日の目的地は、去年もリベリスタ達が訪れた時村家所有の南の島。 「南の島も良いけど……豪華客船だぜ? これはもう探検するしかねーだろ!」 道中の一行を、現地に滞在する一行を楽しませるのはラヴィアンが言う時村観光が誇る最新鋭の豪華客船である。それ自体が一つのアミューズメントパークと言っても過言では無いその場所は確かに十分に見て回る価値を感じさせるものであった。 「ごはんは美味しいし、PCを十分に使用できる環境。快適。 だけど、これが目的じゃ無い……豪華客船、大財閥の御曹司、それを取り巻く女達…… と、来れば……豪華客船殺人事件……!」 「おいおい」 「凄くベタだけど王道で鉄板。初のミステリー系にチャレンジするチャンス! ゲーム作りたいのよ」 「こら、小学生」 「いい台詞あったら頂戴ね。特に愛憎がドロドロしそうなヤツ。最低極まる男の台詞とかでもいいよ」 些か洒落にならない事を言う綺沙羅は今年で十二歳。 「甲板からスタートして……さーて、何処から回るかな!」 ラヴィアンがあちこちを見て回ったならば各所でめいめいの時間を過ごすリベリスタ達に会う事が出来るだろう。 各種設備を併せ持つ快適な船内で過ごす時間は完全なマイペースが許されている。本来の客船ならば『御法度』な行為も多少ならば見過ごして貰えるのはリベリスタの特権であり、貸切の魔力なのだから。 ――船内、バー。 「アルバイトでも、高級酒希少酒使い放題は役得だよね」 「ふふ、確かに仕事でも新兵共を海兵隊ばりに鍛え上げるのは楽しいですよね」 「何か違うと思うけどね!」 船内のバーではバーテンダーの制服を着た快が酒屋の息子らしい感想を述べてスツールに腰掛けた和泉に笑いかけた。 「ご注文は? もし良かったら、お任せで何か作るよ?」 「じゃあ、少し甘いのを」 「オッケー。マンゴージュースとミルク、そしてウィスキーに生クリームをブレンドしたリキュールをシェイクした『クリーム・チャレンジ』。ショートケーキのような味のカクテルで、お酒に慣れてない人にお薦めしてる。後、可愛い女の子にもね!」 この程、恋人も出来た所為か口も軽やかな快である。 「そうだ、そうなのだ。うむ、そこに居るのは天原和泉なのだな」 何時もより落ち着いたそんな空気を攪拌するのはこの場に登場した第三の人物――陸駆であった。 「あら? どうかしましたか?」 「うむ。天原和泉はさばげが好きときいた。 天才でレデーファースト的な僕は、日頃フォーチュナで忙しい天原和泉のためにさばげを持ってきてやろうとおもってな」 ……彼がお洒落なバーに携えてきたのはさばげ――つまり、レストランのシェフに態々リクエストした鯖の揚げ物である。 「……」 「……………」 顔を見合わせる快と和泉。少年は全く自信たっぷりに胸を張っていた。 「天原和泉、いつもお疲れ様だな。天才が労ってあげるのだ。うむ、褒めてもかまわないぞ」 そんな陸駆の滑稽で愛らしい姿に小さな笑いが零れ落ちた。 ――船内、大浴場。 「空気(からけ)さんは置いて来たー、この先着いて来れそうにないからねー! 電撃戦さながらに進軍ー、飛び込んだ勢いのまま潜水して直進ー! そんでもって端まで着いたらフィルムの怪獣映画さながらにザバーンと直立ー!」 プールのように広い大浴場を岬が泳いだり潜ったりひっくり返ったり殆ど貸切の風情で楽しんでいるかと思えば、 「言っておくが泳げないという訳ではないぞよ!?」 一方で『本当の』船内プールでは必死に泳ぎを練習するレイラインの姿を見る事が出来る。 弁明めいた彼女の名誉の為に言っておくならばあくまでそれは『覚醒してからというものの何故か泳ごうとすると犬……ならぬ猫掻きになってしまうだけなのじゃ』という不可思議な現象に対しての修練であり、猫が水に沈むという訳では無いらしい。 ――船内、レストラン。 「あ、智親さん。いい所に。初めまして……いつもお疲れ様です。良かったらご一緒しませんか……?」 『若い女の子』の誘いを断る訳も無く、一も二も無く了承した智親にパフェをつつきながら紅瑠が困り事の相談をしている。 「日差しの強い所だとこの時期はどうもオーバーヒートが……あの、メタフレ専用の冷却材とかって作れないものですか……?」 「うーん? 個人差あるのか? 基本的に人間『寄り』の筈なんだが……廃熱機関に問題が……」 機械の身体も色々大変なものなのか。おでこに手を当てるのは、何気に出る所に出たら勝てそうな智親の所業である。 そして何より、ある意味でのお約束と言おうか。 「豪華客船か、豪華客船と言えばやっぱりカジノだよな。一度やってみたかったんだよ」 太平洋上を行く船の中で格別の盛り上がりを見せるのは禅次郎の言う通り『日頃は関わろうにも関われない場所』である。 「さあ、賭けやるぞ賭け! 今年は誰の奢りになるかな? 去年は影の奢りで飲んだんだよな。 去年同様俺は負けない戦いを……って今年はクラップスだとツァイン!?」 「盛り上がるだろ?」 「確かに大勢でやるにはいいし、何より面白いけどな」 ツァインの返答に翔太が頷く。 そう、それは気合を入れる『やる気のない男』上沢翔太の矛盾を指摘するまでもない単純なる事実である。 元来人間とは競い合う事が好きな動物なのだ。否、失われて久しい『野生』がその場ばかりは蘇ると称した方が適切であろうか? 「そうそう。この前はフュリエ皆で助けてくれてありがとなっ、改めて宜しくな!」 「こ、これ……難しい……?」 ツァインが言葉と共に視線を投げた先には長い耳をぴこぴこと動かして何処かびくついているエウリスの姿もあった。 夏の福利厚生にフュリエの代表(?)として招待された彼女は全てが初めての経験に少し物怖じしている様子である。 「難しくないない、ただダイスを振るだけ! 7か11が出ればラッキーってとこだな! あ、ダイスって分かる? これね」 「うーん、多分。大丈夫、かな?」 エウリスをカジノに誘ったのは中々面倒見のいいツァイン本人である。 「更に俺が説明しよう! クラップスは二つのサイコロの出目で競うゲームの一種! (以下ステータスシート参照!)簡単なルール説明は以上だ! 詳しくはwikiで!」 「フッ。遊びといえど勝負とは常に真剣。それがポリシー。ルールは任務の合間に丸暗記してくれたわ!」 意外と親切な厨二病患者・影継にどんな時でも力一杯な優希が胸を張る。 「……ということで今回のゲスト、時村元首相をお呼びしました。はい、拍手!」 意外と年長には礼儀正しい厨二病患者・影継(二回目)がブン投げた説明と共に二人目のゲストを場に招く。 誰からともなく「おー」という声が上がり、選挙時代の所作宜しく手を振って応え貴樹が現れた。 (一国の宰相たるもの、爆運豪運は必須スキル! 折角の機会だ、胸を借りるべきだろう!) 何処で仕入れたか分からない妙な知識を元に『クラップスは自分の負けにも賭けられる』というルールを突く、これは影継の作戦である。尤も世界的な富豪とは言え好々爺然たる笑みを浮かべる貴樹が特別ギャンブルに強いかどうかは不明なのだが…… 何はともあれ強い弱い勝ち負けよりは和気藹々と楽しむのが目的の場ではある。 (基本ドントパスに安く賭け、カム連打で稼ぐ。カムの目がみっつ、よっつ揃ったら――) ルールはやりながら覚えると豪語した七海が予想以上の適応を見せている。 「ツァイン! ホーン! ホーン! ホーン!」 「信じるは自身の揺るぎない勝利。出でよエニーセブン!」 「魅せろ影継! 人生一発デットオアアライブ!」 優希がツァインが吠え、 「基本ドントパスで。シューターに負けて貰わないとな、俺のターンの時はもちパスライン。俺自身の運に賭ける……ってな」 「自分が投げる時は『自分が負ける』のに賭ける。敗北してもメダルは増える! 出る目を拝んで驚きやがれーッ! ……あれ?」 「ふーむ、若いのに詳しいな」 こちらは堅く遊び慣れている風の翔太が、影継が応戦し、貴樹がのんびりとコメントを添えている。 船内カジノのテーブルの上では悲喜こもごもと勝ったり負けたりの繰り返しが実に分かり易い盛り上がりを生んでいた。 「はいはい、狂気の沙汰狂気の沙汰。んなもん通じるのは創作だけだっての」 スロットで軽く『すった』弐升が肩を竦めた。 「新作格ゲーをフリプできるのはアークだけ!」 本命の格闘ゲームを目当てにウキウキとゲームアミューズメントエリアに向かう一方で、 「倍プッシュだ」 心なしか顎と鼻を尖らせた禅次郎はディーラー相手に果敢に攻めている。 「一度でもアガれたら相手にしてやるよ。これからはただ(俺が)アガるだけのゲームだ」 ……彼が口頭で「ざわ・・・ざわ・・・」しながら麻雀劇画している理由を知る者は居ない。 ともあれ、カジノが気楽で愉快な空気に包まれている事は間違いなかった。 本来ならば多少は殺気立つ所でも賭けが『(未成年多数なのでジュースの)呑み代』程度ならばそれも無い。 「私とポーカーで一発勝負です、301歳! ディーラーはロリコン眼鏡を指名です!」 盛り上がってきた場をエーデルワイスがかき回す。 「俺かよ」と肩を竦める沙織に「私ですか」と倣うアシュレイである。 エーデルワイスは大抵桃子にべったりなのだが、そんな彼女がアシュレイを指名した理由は実は…… 「私が勝ったら悩み事聞かせてくださいね~。私が負けたら……無条件で姉さんのお願い聞きますよ。何でも」 ……彼女なりの優しさとも言える所だったりもしない訳でもないのだが、まさに運命を見通す魔女に『ポーカー』で挑むのは。 「ぎゃー! ロイヤルストレートフラッシュー!?」 ――一方で。 熱気と歓声が零れるカジノからは離れ、デッキで一人彼方を見つめる少女が居る。 「ふふ……ばっちり決めて南の島に来たはいいのですが……私友達いないの忘れてました……暇ですね!」 アンニュイな雰囲気と言えなくもない彼女の――黎子の事情は案外随分と素直なストレートであった。 最近このアークにやって来たばかりの彼女である。彼女がここに来る事になった切っ掛け、自分の『妹』がここでどう過ごしたのかを思えば退屈だという事も無かったのだが――成る程、血は争えないといった所か。彼女も何処か孤独癖を持っている様子である。 要約すればコミュ障なのだが、要約しないと孤独癖がある、というお洒落な表現が使えるので覚えておくとお得ですよ。 そして、もう一人。 (何か……同じような事があったような……うーむ既視感か? ……顔似てるからか? この姉妹は全く……) 人付き合いの上手くなかった彼女を『思い出す』人物がデッキで一人きりの少女に溜息を吐いた。 「何一人で黄昏てんだ」 「おや……宮部乃宮さん。こないだぶりですね。 これは遊び疲れたので少し休んでるだけですので別に遊ぶ相手がいないわけではありませんよう、決して」 「……口数多いな」 掛けられた声に振り向いた黎子から戻って来た思いの外饒舌な黎子の言葉に火車は思わず呟いた。 呟いてから――黎子は彼女とは違うという当たり前を思い出した。 考えてみれば二人の関わりはこの間の『手痛い仕事』ばかりである。何も知らない。まだ知らない。 「折角の楽しかろう休日にボッチはねぇわな? でも、そりゃあ……来たばっかじゃ仕方なしか」 「その通りですよう。これは時間が問題であって……いや、少し休んでいるだけですよう」 「ああ、はいはい」 面倒臭そうに弁明(?)する黎子を制した火車は表情を緩めて問う。 「で? アークには慣れたかい?」 彼が彼女を気にする理由は、彼女の危うさにあった。 「案外、脆そうな女が好きなのか?」と自分で自分に問い掛けるもその答えは無い。 何とも名付け難い理由が――二人の間に横たわっているのは明白である。互いがそれを口にしなかったとしても。 「ええ、おかげ様で随分慣れました。結構大変ですがー。『死んだら何もなりませんから』。私は生きますよ、悪人は倒して私も生きます」 「全くだ。生きてりゃ次があるからな……」 互いの言外に在る大きなピースはある意味で二人に共通する大事であった。 大切な人を失う痛みはその当事者にしか分からない。分からないが、少なくとも二人は概ねそれを共有出来るだろう。 「何だかんだでアークはご覧の通り。 折角の福利厚生だし、気は切り替えねぇとな。オメェもダチの一人や二人見つかんだろ」 又、表情を緩めて努めて明るい雰囲気で言った火車に、 「……そうですね。折角ですから! 遊ぶとしましょう。友達はいませんが…… いえ、そうだ。じゃあまず、宮部乃宮さんに私の友達一号になってもらいましょう」 「……暇な時なら、まぁ付き合ってやんよ」 朗らかに笑った黎子の顔に少しぶっきらぼうに答える火車。 全ての事実が示すのは彼女がもう居ないという現実。 しかし、少年と少女は再び出会った。一面の海に青色を落とす空の下、二人はそれでも笑っていた。 ●南の島! 「2011年の夏…… 南国の海を、燃えるほどHOTにした、最高にCOOLなガールズ。 彼女たちは、あの日、ロックの伝説になった……」 燦々と照りつける太陽を仰ぎ見て、うっとりと舞姫が呟いた。 「そして、2012年。彼女たちが――帰ってくる!」 自分一人でそこまで出来ればたいしたもんだという彼女の芸人ぶりは留まる所を知りはしない。 ニューヨークでのインタビュー画像(自称・自作)が据えつけた小型画面の中で流れている。 『マジかよ!? サクラダのギターが復活しただって! ジーザス!』 『MAI†HIME、ヤツは天才だよ。アートの神に愛されてるんだ』 「熱海プラス、待望の世界ツアー決定……」 てなノリでバンドやりますな舞姫と彼女の後ろでギターを肩に掛けるのは、 「いえーい! 今年もやってまいりました夏のビックイベント! 皆さん福利厚生楽しんでいらっしゃいますか? 辛い事も苦しい事も色々ありましたけど、私達はそれ以上に素敵な出会いに恵まれました。 今日は皆、盛り上がっていっちゃいましょう!」 ……言わずと知れたサクラダ――京子である。 「今年もやって来たよ、福利厚生☆ 渚のラブカールズも帰って来たよ! あれ? オレ、ガールじゃないや(><) まあ、いっか(>▽<) 夏の終わりをエキサイティングにはしゃいでいこー☆」 細けぇ事は元より細かくねぇ事も一切合財気にしないのは終である。 ドラム役の彼は今回欠場した『よーこさん』の代わりの羊のぬいぐるみをステージ(笑)に備え、当然やる気たっぷりの構え。 「熱海プラスで曲は『さくらさくら』」 「デストローイ!」 「デストローイ! キャー舞りゅん今日もきれてる~☆」 「……あああああ……」 内心阻止しようと思っていた舞姫のデスなシャウトに頭痛を覚える京子である。 騒ぎに賑やかになってきた周辺に彼女は沙織の姿を認める。 不敵な表情のままひらひらと小さく手を振る彼に彼女の口を言葉が突いた。 「デストロイとか……違うんです! 沙織さん、これは舞姫が!」 「先輩を呼び捨て!?」 「い、いや……違う、べ、別に沙織さんなんかみてないんですからねっ! そう今回私達はバンドをやりにきたわけであって、沙織さんを見にきたわけではごにょごにょ……><;」 「こんにちは、室長。このような素敵な場所にご招待頂いたこと、感謝致します」 「いやいや、いいものを見せて頂いて」 「私はファッションというものには疎いので、水着を購入する時は店員の方にお任せしていたのですが似合っているのでしょうか?」 ツンデレはにゃーんのややこしい心象風景の彼方で、(それでも意識はしているものの)前より自然と笑顔を浮かべるようになった色っぺービキニ姿のベアトリクス(※近しい未来に於いてエロいからという理由で水着コンテスト特別入賞)が少し露骨なその感想に困ったように――それでも嫌では無い様子の、微妙な反応を見せていた。 「今度、デートしてよ」 「そうですね。また機会があればご一緒に食事にでもお誘い頂ければ嬉しく思います。それ以外でも……」 「意外と脈ある?」 「……? 言葉の意味は良く分かりませんが……」 息を吸うように何とやらな風景は良くあるワンシーン。 「べ、べつにかんけいないし! 私達はバンドですし!」 「デストローイ!」 京子さんのはにゃーんに今度はさっきより実感を込めて舞姫が叫んでいる。 ……熱海プラス周りの酷い有様はさて置いて。 「エウリスちゃん、海ははじめて? 海はね、とっても大きいんだよ。私達の世界の内、七割はこの海なんだ。 それでね、この世界の生物の祖先は海から生まれたの。世界樹みたいでしょ?」 「すごい!」 セラフィーナの説明に目を見張るのは初めて直接海を実感するエウリスである。 「それじゃあ、そんな海にれっつごー!」 「こ、こわくない?」 熱の放射を全身に浴び、暑い季節を存分に楽しむには季節も場所も、もってこい。 都会よりもずっと自己主張を強める太陽は、それでも誰にも殆ど不快感を感じさせない。 セラフィーナに手を引かれて海に入ったエウリスが水のひんやりした感覚に目を細めていた。 「海は波があるから気をつけてね。それと、しょっぱいから飲んじゃ駄目だよ」 「波!!! 海!!! 青!!! 最高!!! はの! ほら、海水飲んでみ!? マズッ!!!」 異世界出身のエウリスでもなかろーに。 全力全開ではしゃぎ一際騒がしさを発揮し海水を飲む俊介、 「え、あ、ほら、落ち着いて……? 俊介、海水は飲み物じゃないよ?」 「えー!?」 「ビーチでの遊びと言えば……やっぱ、これだよね…♪ ねぇ、俊介……ちょっと、ここに寝転んで? 俊介、マッチョになりたいって言ってたよね。その夢……あたしが、叶えてあげるっ」 「ん? 寝転べばいいのか!?」 そんな彼を嗜める一方で悪戯めいて砂で俊介の『身体』を作る心算の羽音、 「イヴたんと釣りしたりぃ、砂浜でお城作ったりするのだぁ! とにかくイヴたんと遊びまくるぅ!」 「うん、遊ぶ」 「遊んでくれるの!?」 「一緒に遊ぶよ」 強烈なテンションでそう宣言する御龍と再三の関わりからそんな彼女にもすっかり慣れたのか平然と頷くイヴに、 「もう一年がたつのねぇ。 去年は初めての休暇で来てから何をするか考えてたのだけど、今年は準備してきたのだわ まあ、やることは去年と変わらぬ訳だけど……」 「えなちゃんの助手!」 「独りはいいものだわ。 ……でも、『独りもいいものだ』と言える相手がいるならより良いことなのだわ。 だから、一人で回って作った去年よりずっと良い物になると思うのよ」 「えなちゃんがデレた! 皆を記録するえなちゃんはももこさんが記録するですよ!」 「私は殊更にしない方がいいのです……うぎぎ><。」 カメラを首から提げてライフワークじみてきた記録と観察に余念が無いエナーシアやお気に入りの彼女に誘われてご機嫌の桃子の姿もある。勿論、この時エナーシアの本能が多少の危険を感じているのは言うまでも無い!(※えっちな水着で入賞します) 浮かれ雰囲気を醸すのは、熱海プラスも含めた彼女達のみならず――である。この時を楽しみにしていなかった者は居ない。南の島に降り立ったリベリスタ達は再び――ないしは初めて訪れた美しいビーチに早々に散らばり始めていた。 (哀しい事に、この季節は水難事故の多発時期です。それはリベリスタであっても免れ得ない……ならば、俺は!) サーフボードを担いだ守の目が光る。 「海ではー、沖に出る時は気をつけてー、どこでも駆け付けますよ! 波乗りポリスメーン! でも桃子さんはパスします!」 すっかり警備員が転職と化している彼と、 「何事も無ければ良いのですけれど」 麦藁帽子、水着の上から白衣を纏い救急箱を片手に周囲をゆっくりと見回す凛子、 「浮かれるのは良いですが、羽目を外し過ぎないように」 上司の室長に見つかったらお前も遊べと苛められそうな程にクソ真面目な恵梨香は何時もの通りと言えば何時もの通りである。 「……色々、注意をしないといけない事が……」 警備の赤い腕章をつけた恵梨香の心配事は謂わばアークの『客』であるエウリスの事も含んでいる。 彼女とて何かが起きる可能性が高いとは考えて居なかったが、それがゼロではない限り気にせざるを得ないのは最早性分だった。 「大半はいい人なんですけど、変態さんが多いですからねぇ」 殊の外辛辣な凛子のリベリスタ評に大いに、大いに恵梨香は頷いた。 一癖も二癖もある者ばかり良く集まったものだと彼女は思う。一癖ある者が集まったのか、リベリスタだから一癖あるのか――正直な所、彼女には判断がつかなかったが。自分自身も含めて変わり者の集まりだ、と彼女は小さく苦笑いした。 諸々世話を焼く皆さんの手がどれ位煩わされるかは先の話である。 「むにゃ……司令が……自由と言うなら、次の指令に向けて身体を休めるのみです……」 波打ち際を少し離れた場所ではパラソルを開き、チェアにのんびりと寝そべる雫が喧騒も素知らぬ風で昼寝を決め込んでいる。 マイペースと言えば酷いのが二人居て、 「夏、海、水着! こういう時だからこそゲームをする! これぞうちら流の愉しみ方!」 「ちょwwwwこんな熱いとこでゲームやる必要なくない? これだからスイーツ(笑)は嫌いなんだ!」 「ほら七院、ビーチパラソル用意しなさい、うちが日焼けしたらファンががっかりするわ! はよ!」 (三次UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!) 瞑と凍の二人は南国の太陽を一杯に浴びながらポータブルゲームをやろうという腹積もりらしい。 タイトルの名は『モンスター繁多』。常に忙しい繁忙期タイトルであるらしく、凍がメイド(※式神のシノプレイ)を連れた伝説の廃痛人『黒炎のナナイン』だとかそういう余談はどうでも良くて! 「おい津布理、肉焼いてんじゃねーよ! 素材剥ぎは後にしろよ! 下手っぴがカタナ振りまわしてんじゃねーよ! モン繁は遊びじゃねーんだよ!」 海らしくないこいつ等はほっといて! 「綺麗なビーチだな」 「ほんと、キレイな、なの」 実に真っ当に彼方まで広がる一面の青に目を奪われたのはレンと那雪の二人である。 熱い砂浜に素足を伸ばし――ゆっくりと屈む。那雪の白く細い指の摘んだ貝殻の姿にレンは言った。 「綺麗なビーチは貝殻も綺麗なんだな。手を切らないように、俺も手伝うか」 「わあ」 嬉しそうに表情を綻ばせた彼女にレンは少し面映い。 「せっかく水着を着てきたんだから、後で少し泳いでみるか」 「水着は……ちょっと、恥ずかしいわね」 「たくさん泳いだら。きっと晩ご飯も美味しいし――」 少しはにかんだ様子を見せる那雪に少しだけやり難そうなレンである。 「黒ビキニと聞いて目の保養に来たんだが……って、これは酷い」 砂浜にシートを敷いてうつ伏せに寝そべるアシュレイを見下ろして烏がそんな風に声を掛けた。 麦藁帽子にアロハシャツ、その癖覆面はそのままという実にシュールな彼の言えた義理かどうかは分からないが、成る程。アシュレイの身につけた『自称黒ビキニ』の布地は極端に少ない。その総面積たるや彼女が海でも外さない左手の手袋に負けているのではないかと思う程である。 「……」 烏の視線がその手袋で止まっていたのは一瞬だった。 「んー?」 「いや、プリンスにやられた一撃は傷にはなってねぇかと思ってね。傷物になったら沙織君に責任取って貰わないとな」 「あはは! いいですねぇ、明日から私もお姫様だ!」 億劫そうに首だけ動かして声の主を見る彼女はなかなかどうして何時にも増してだらしない。 「どうもアシュレイさん。ちゃんと日焼け止め塗ってます? 何なら背中お塗りしますよ。寧ろ前もお塗りしますよ、こう、不必要にエロく」 無表情のまま淡々とそんな風に言ううさぎにアシュレイは何とも言えない顔をした。 「うさぎ様の場合、男性なんだか女性なんだか犬なんだか狸なんだがうさぎなんだか分からないのが!」 その身体つきも全くどうしてだらしない。 「……っ! 実際この目で見たのは初めてだが……これが塔の魔女アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアか! くそっ、なんて圧倒的な戦闘力だ……とても勝てる気がしねぇ……っ!」 「あー、おじさんもそう思うよ」 「おーい、同志藤倉隆明。ヒマなら飲もうぜー。ぃっく!」 露骨にその肢体をガン見しながらしきりに感心する隆明に烏が当然のコメントを添え、『いちごぱふぇのウォトカ掛け』なるキワモノで早々に出来上がったベルカが声を掛けた。 思春期の男子に衝撃を与える魔女(アシュレイ)の周りには何故か女性陣の姿も数多い。 「アシュレイちゃんの水着……大胆ですけど、とっても素敵ですっ☆ 折角ですから、ご一緒に泳ぎましょうよ……♪」 「しかし、水着になられても相変わらず慎みの無い格好ですわね……貴女様は」 「褒めても何も出ませんよー、泳ぐのはそうですねぇ。見ている方が好きですかねー」 「このものぐさ魔女は!」 空色基調のコーラルフリルビキニ水着で下はフレアスカート付き、髪はシュシュでポニーテールに……つまる所、瞳を輝かせる実に愛らしいアリスと、その彼女の反応を見てか今日も今日とて少しばかりその発言に棘のある――こちらは余り他人の事は言えないパープル基調の背中オープンなワンピース水着を着た――要するに色気十分なミルフィ辺りは毎度の掛け合いの相手である。 「そう言えばまともに話すのは久し振りだし、前は名乗って居なかったな」 インドア派らしく身体を動かすのには積極的ではないアシュレイに此方は一泳ぎを済ませたアイリが話しかけた。 「アイリ・クレンスだ。今更だがよろしく頼む。それと、怪我はもう……?」 「宜しくお願いします! あ、大丈夫ですよ。おかげさまで、ええ。すっかり!」 やや心配そうなアイリにアシュレイは軽く答えた。 「それは良かった。何よりだ。 ところで、その……不躾で申し訳無いがそれは、その。泳いでも脱げたりしないのか……? 純粋に不安なのだが」 「あはは、全年齢の結界は世界が壊れても壊れないんですよ!」 アイリは「成る程」と頷く。 そういうものかと言えばそういうものなのだろう。きっとそうに違いない。 「偶に、私は何をしているんだろうって思うんですよね。 今も、日差しは苦手で泳ぎも駄目なのに、水着なんか着て出歩いて、青空も海も綺麗だなって」 パラソルの下でだらりとした時間を過ごす魔女に幾らか共感を示すのはアーデルハイトだった。 確かに抜けるような――彼女の白い肌は強い日差しを浴びるのに不向きである。 第一、吸血鬼が南の島でビキニを着ているなんてブラム・ストーカーが聞いたなら卒倒してしまうに違いない。 「中庸と誇るべきか半端と恥じるべきか。しかし、開き直るのもいいものです。 私は何時かミノス王なりハーデースなりに、『私は精一杯生きた。文句あるか』と啖呵を切るのが夢なのですよ」 アシュレイは「あはは、いいですね。ソレ」と軽く笑う。 「一つ、私からも予言を。貴女が何をなさろうと、皆最後まで付き合うでしょう――貴女には、視えていますか?」 アーデルハイトの言葉にアシュレイは小首を傾げた。 そんな彼女に小さく嘆息して言葉を投げたのはうさぎである。 「……ま、それは兎も角。半年以上経ちましたよ。貴女と『オトモダチ』になってから。 それでもね、貴女の思惑は、私には分かりません。貴女との今後が都合の良い物とはなり得ないだろう事も。 そりゃね、分かってます。そもそも交渉の時、貴女はソレを隠さなかった訳ですし」 「んー……」 「……でも。この半年、そして今。楽しいです。楽しいんですよ。 貴女と一緒にいて、ね。これは理屈じゃなくて、それ以上で。貴女が『世界最悪の魔女』でも私には余り関係が無かった。 聞き及ぶ評判も、恐らく真実であろうそれ等も――いえ、貴女も、そうなら良いなと思います。 だから……今後どう転ぼうが、私はそれを忘れません。ずっと。 勝手ですが伝えておこうと思いまして。それから、貴女もそうなら良いなと、思います」 アシュレイはニコニコと笑っている。言葉に明白な答えを返さないのは返答を持たないからなのか、それとも嘘を言いたく無かったからなのか。語るに落ちるを嫌ったからなのかは彼女ならぬ誰にも分かる事では無い。 (成る程、確かに……その腹に何かがある事は事実だろう) もぐもぐ。 (彼女の人生遍歴を聞く限りそれらは全て裏切りと破滅に満ち満ちている。 彼女との日々は存外悪くないが……それは破滅してきた誰にも同じ事だったのだろう。あの、ジャックも) むしゃむしゃ。 (彼女には譲れない目的がある様に思う、信念、かも知れない。 それが何かまでは判らんが。だからこそ、今でも彼女を信頼してはいけないと思っている。 ではどうするべきか。うむ、裏切られても揺るがなければ良い。 裏切りを笑って受け止め、破滅の運命をも退ける。言うは易し、なすには難し……挑むには丁度良いか) んぐ、んが。 「……あ、これお代わりで。バーベキューソースは多目でお願いします」 騎士子(アラストール)さんは食べるかシリアスかハッキリしましょう! 「見ているのが好き」と言ったアシュレイのパラソルの下から見渡す光景は馬鹿馬鹿しい位の平和に満ちている。 開き直った吸血鬼が日光浴をして、最悪の魔女が和むこの時間は――得難い宝石のように貴重なものなのだろうか。 (普段は見られぬ白い素肌に白いビキニ。 太陽よりも眩しい素晴らしい水着姿、直視し辛いで御座るよこれ! だが……とてもよう似合って綺麗で御座る。綺麗で御座るよ、杏樹殿!) 忍者、流石きたない忍者。 真昼のビーチでまるで忍ばない黒部幸成は今まさに至福の時を迎えていた。 「……?」 「いや、そのままで! 杏樹殿はそのまま南の島を満喫するといいで御座るよ!」 麦藁帽子を被った水着の君は何ていうかとんでもなく可愛くて。 嗚呼、風景に遊ぶ君を両目のファインダーで一枚の絵のように切り取ってしまいたい。 ロマンチックに書くとこんな感じで、専門用語で言うと視か……いぇあ! ヴァンパイアだから日差しに弱い……というルールも無いのだが、普段は余り外を出歩かない杏樹である。 「差し支えなければ、背中、自分が塗って差し上げても……!」 「日焼け止めはきちっとな。背中は、お願いしようか」 少し照れてはにかんで言う杏樹。忍者きたない。流石忍者きたない。 複数回位罵られても仕方ない(※主観)彼は「サジタリーに勝てるかどうか、見てやる」と自信を見せる彼女と水鉄砲で戯れだす。 浜辺にはカップルも居れば芸術家達も居た。 「おい! 今笑ったろ! 写真とるんじゃない! 後で、おぼえてろー!」 「……ふふっ、ごめん。凄く、似合って……ぷふっ……」 砂に埋められ遊ばれる俊介と羽音の向こうにはミカサとモノマの姿があった。 「……ご覧、この砂浜が俺達のキャンバスだよ。 絵を描く訳じゃないだろなんて突っ込みはいらない。今はそういう気分じゃない」 「女体の美しさで芸術を表現するのだ」 サンド・アートに精を出す二人は完全無欠に真剣そのものである。 「等身大のミロのヴィーナスを作るぜ! 材料はビーチの砂!」 「水と砂だけで偉人に挑むんだね……いいね、それ。何か燃えるよ……」 遠大な――無茶振りとも思えるモノマの言葉にミカサは「うんうん」と頷いていた。 神経質そうな見た目通りの小器用さを見せるミカサと情熱溢れるモノマはなかなかどうして難題を結構な形にしようとしている。 「……ねえ、もう少しくびれをキツ目にしようか。胸や腰回りはもう少し肉を付けてもいいかもね。芸術作品はえろく無い」 「そーだぜ。芸術だからえっちくないもん」 無駄に俗っぽい腰つきをしたヴィーナスと真剣な顔でそれに向き合うモノマと――ミカサを見てアシュレイがポツリと呟いた。 「薄々思ってたんですけど、ミカサ様ってぶっちゃけ知り合いの音楽家の人に似てるんですよね」 「……そうなの!?」 音楽家。実に不吉なフレーズ、衝撃の発言に周りからツッコミが入る。しかし――その言葉の寿命は短かった。 「最後は顔か……」 神経質な上に気まぐれなミカサはサンド・アートに飽いていた。 若干うんざりしているような、そんな空気を声色から感じ取ったモノマが…… 「頭部どうする? アザラシにするか。 半獣半人は神秘的! 俺達のヴィーナスがより魅力的になるのさ! やる気のないアザラシ顔のヴィーナス……否、アザラシヘッドのヴィーナスができますよ!」 「! ……アザラシ! アザラシにするの……?」 俄然やる気になって食いついたミカサが自称芸術を酷ぇクリーチャーに変えていく。嬉々として。 「気のせいでしたね!」 アシュレイの言う『似ているかも知れなかった彼』は完璧主義者であるらしい。さもありなん。 そんなどうでもいい余談の枝葉は兎も角である。海遊びの醍醐味は当然浜で過ごすまでには留まらない。 寄せては返す波の向こうに目をやればそこには、 「ぼけーっ」 (´・ω・`)なビーチボールに捕まって海に漂うリンシードの姿があった。 「ぼーっ……」 少し眠そうな目でゆらりゆらりと波間に浮かぶ少女は『少し前までの死闘』と『信じられない位に穏やかな今』を考えていた。血で血を洗う戦いの風も決して悪いものではなく、ある種に於いては心躍るものだったのは確かだが…… (……こんな平穏も、悪くは無い……かもです) 胡乱と眠気さえ覚えるような緩い時間も『今の彼女』にとっては居心地の悪いものでは無かった。 何時ものスーツではなく、軽装に身を包んだ沙織を見かけた彼女はぽーんと(´・ω;`)を彼に投げた。 「お、どうした。リンシード」 「時村さんは、泳がないんですかー……? よければ、私が引っ張って泳いであげてもいいんですけど……」 「それは格好がつかねぇからなぁ」 それにしても可愛い少女である。 「ロッテちゃ~ん! バナナボート借りてきたよ~!」 「青い海、白い砂浜! 壱也様とあしょぶの、ワクワクですぅ! バナナボートでウッホッホ!!!」 仲睦まじく空気を入れた大きなビニールボートを水に浮かべる壱也とロッテが楽しそうに海に出た。 ……とは言え、二人の航海は余り順風満帆とはいかなかったようだ。 「いちやさま~! こっちこっち、早くあしょ……壱也、様……後ろ……なんか……ついて来てるのですぅ……!」 「やだ! 後ろ!? 何もいないよ、ついてきてないよ!」 ロッテの見つめる自分の背後に嫌な気配を感じた壱也はすかさず逃避を企てるも、 「い、いなあああい! 何もいないよ怖いこと言わないでぇええ!」 必死でそう主張してみせるも現実は残酷なものだった。 「hi! お姫様にプリンセスガール!借りてきた借りてきたー★」 「せっかくの海、せっかくのフロートでしょー☆」 「いやあああああああああああ!?」 恐る恐る壱也が振り返った先には何故か『ついてきた』甚内と葬識が居て…… 彼女等は経験則から何故か自分達を妙に気に入ってついてくるこの二人が碌でもない事をしでかす事を知っていた。確信していた。 「何するですぅ!」 「何するのって、きまってるじゃぁ~ん☆ しっかりつかまっててね。阿久津ちゃんエンジンGO!」 二人のフロートと自分達のモーターボートを繋いだ葬識が最高の笑顔でやがて来る運命を押し付ける。 「準備オッケー★ お姫様二人のため馬みたいにハイよーシルヴァー! ヨーソロー、発進ー!」 「いいいいいいやあああああああああああ――!?」 沖目掛けて壮絶な勢いですっ飛んでいくバナナボート。 芸人達の織り成す酷い一幕である。 「楽しそうね、中々個性的で」 一方此方は沖を行く白いクルーザーの後部デッキ、デッキチェアに身を横たえるミュゼーヌは小さな溜息を吐き出した。 「一面に広がる蒼と碧、雲と潮と光の白……絶景だわ」 薄いサングラスを掛けた彼女はスレンダーで美しい肢体を歯車模様の黒ビキニに包む彼女は、この一時ばかりは風情のないあれやこれやは意識的に視界と思考の外に追い出して――南国の空気を一杯に満喫していた。 「船に乗るのは初めてじゃねえが、クルーザーって初めてだな。これ、もう住めるんじゃねって位豪華だよな!」 「ええ。ゆっくり休日を過ごすのにクルージングはいい手段だわ。フツさんも気に入ったなら良かったわね」 「風も気持ちいいし、釣りでもするかなぁ」 「あら。釣れるといいわね。この辺りはどうなのかは知らないけど……」 歳不相応の得の高さを見せる爽やかなフツと「これが優雅でスマートなバカンスの過ごし方よ」と言わんばかりのミュゼーヌである。 サイドテーブルに手を伸ばした彼女は、グラスからはみ出すフルーツと色鮮やかな色彩が目を引くトロピカルジュースを手に取り、渇いた喉を潤す。何処からどう見ても南国リゾートでバカンスするお嬢様は全く見事に絵になるではないか。←ご贔屓 しかし、まぁ。 ……その『爽やかさ』と『優雅さ』は実は彼と彼女の類稀なるスルースキルが成せる業だったりもする。 沖を優雅に行く……筈だった貴婦人の如き『大御堂重工製』のクルーザーは先程から非常に無意味に無駄にノットを上げ、極めて無意味に無駄に蛇行を繰り返し、全く船に弱い者かバランス感覚の無い者ならばたちどころにKOされそうな挙動を繰り返しているのだ。 何故かと問うのは愚問である。 「おーっと手が滑って舵を思い切りきってしまったー」 運転手は大御堂が誇る君の僕等のロリロリ★メイド――モニカ・アウステルハム・大御堂その人である。 ――私は彩歌様の運転助手兼雑用係をメインに動きます。 いや、今回はマジで真面目に仕事しますよ? この海上において皆様の命を預かる重要な立場ですから。(※コピペ) まさに(キリッ)とか似合いそうな台詞を開始前に吐き出したモニカの顔が白々しい。 生い立ちが悪いのか育ちが悪いのか持って生まれた資質なのか捻くれ倒し、屈折した愛情表現(?)に余念が無い彼女は今日も今日とて何処からどう見てもモニカのままに違いない。都会の灰色の空の下でも、血に咽ぶ戦場でも、南国のピーカンに愛されていても彼女は彼女で―― 「ところで何か……船の尻尾のほうに変なのがくっついて来てますね。紐の先にコバンザメでもいるんですかね?」 「ちょ、ちょっと大丈夫……?」 「計算通りです。問題は何一つありません」 ドリフトでもしてやろうかというモニカの操舵に本来の運転手である彩歌の口元が引き攣った。 モニカの言う所の『コバンザメ』とはクルーザーに繋がれた水上スキーで波間を割るGカップの眩しい彩花である。 Gカップの素敵な彩花は「一度やってみたかったんですよね」等とそれにチャレンジし、持ち前の天才性を如何無く発揮していた。最初はコケさせてやろう、程度だったモニカの操舵が完璧に倒しに入っているのはGカップのナイスなGカップのイカス、Gカップが揺れるおっぱい……じゃなかった彩花が予想以上に『手強い』事に起因しているのだ。 「おーっと手が滑って急ブレーキをかけてしまったー」 「馬鹿メイドが何をしようとも心配無用。私のテクとバランス感覚をもってすればこの程度――!」 「(ガガピピ)なんて(ピピー)で(削除)」 「あ、あはは……そ、そろそろ休憩にしませんか。私、お茶淹れますし。海って綺麗じゃないですか、神秘的な感じがしますし」 ……口の中で何やら物騒を呟くモニカを宥めるのは慧架である。 「ほら、お菓子もありますし。予め用意してきたんですよ!」 「これはご丁寧にどうも」 「……ほっ」 頑張る慧架さんである。 「はあはあ、ぜえぜえ」 アドレナリンが出っ放しの彩花は兎も角、彼女に倣って『ちょっとした冒険心』と『船内の男女比』がやり難かったカルラは軽い気持ちでチャレンジした水上スキーが(諸々の事情によって)ハードコースになった事で大変な消耗をしている。 ――海で遊ぶなんて何年ぶりだろうな。 ……どこかへ遊びに行く度に似た事言ってる気がするが、気のせいだろう―― そう言った彼は持ち前の運動神経で惨状に耐え忍んではいたものの、バカンスが遊びじゃない事を知ったのは始まってすぐの出来事になっていた。 「ぶくぶくぶくぶく……」 クルーザーの後方で繋がれたもう一人……バナナボートで海を満喫する筈だった陽菜はある意味で最も気の毒でまさにイニシャルM(アイランド編)の煽りを喰らった彼女は「見て見てみんな~。秘技!立ち乗りバナナボーとっ……!?」の台詞を完遂する事も無く海面をゆらゆら漂う死体ごっこに興じる羽目になっていた。リベリスタだから多分きっと大丈夫。 「ほら、頑張ってー。振り落とされちゃうわよー」 「あなたが落としたのは、金の大御堂の嬢ちゃんですか? それとも銀の大御堂の嬢ちゃんですか?」 「落ちません! 落ちてません!」 ミュゼーヌとフツの無責任な言葉に律儀な彩花が声を張る……それは兎も角。 「んー……」 「どうかした?」 ぼーっと視線を自分に向けるミリィに彩歌が問い掛ける。 「べ、別にちょっと運転してみたいとか、そんな事を思った訳ではありませんよ?」 「初心者の繰り出す予測不能の攻撃ですか。効きそうですね」←お茶中のメイド 「免許大事!」 僅かな間にツッコミが板についてきた彩歌である。 「よーし、釣るか」 「あ、では私も……」 相変わらず泰然と動じないフツにミリィが頷く。 時に激しく、時にのんびりと休日の時間は時々でその顔を変えながら流れていく。 「それにしてもアークのリベリスタはレベル高いわよねえ」 海遊びに興じるリベリスタ達に向けてシャッターを切るエナーシアをにこにこしながら眺めていた桃子にティアリアが声を掛けた。 かなりきわどい実に扇情的な水着に身を包む彼女は日傘を片手にやって来た。桃子の方も慣れた相手に「こんにちわ!」とご挨拶。 「ジュースもありますよ!」 「あら、ありがと」 桃の果実水を受け取ったティアリアが浜辺に座る桃子の横に腰掛けた。 「水着色っぽくて素敵ですね!」 「あら、桃子の水着こそ、可愛らしいわ。とってもステキ」 互いに嗜虐的な肉食の獣で、互いに何故か美少女が大好きである。 同属嫌悪なんて言葉もあるが、この二人の場合はそういう事も無いらしい。 「散歩がてら時間を潰そうと思うのよね。……御一緒しても?」 「どうぞ!」 嫌な時は嫌と言う桃子であるから軽快な答えにティアリアは破顔した。 そんな女の子同士のきゃっきゃうふふなやり取りにずるずると近付いてくる黒い影が一つある…… 自称・魔の川、重装備に溢れ出す汗の川を砂浜に横たえながら……その男は少女達の前に立つ。 厳しい地獄の底より生み出されるかのような低音を響かせ、兜より覗く金色の瞳で女の子座りする桃子を見据えていた。 ――久しいな、魔王桃子よ 余が顔を見せぬ間も邪智暴虐に励んでおるようだな 一先ずは、褒めてやるとしよう 魔王桃子よ 時に余は考えたのだ 貴様に褒美を渡した事は何故かそれなりの数に登るが、貴様に何かを捧げられた事がないのではないかと 余は寛大だ それを咎める気はない 少なくとも貴様は世に蔓延る愚者どもに恐怖を与えるという意味では誰よりも忠勤していると言える だが貴様が余に捧げたいものがあるならば受け取るぞ どうだ?形あるものでも形なきものでも構わんぞ? 貴様が忠誠の証を見せる機会を作ってやろうと言うのだ 感謝に咽べ、光栄に打ち震え、さあ喜ぶが良いぞ―― 大魔王グランヘイトはバカンスの場においても引いてはいけない選択肢を引きに来た。 クソ暑い中、クソ暑い重装備で、こんな所までやって来て…… 「これは! メフィーさんのシャッターチャンスなのだわ!」 「伝説の左が見れるのね」 エナーシアを喜ばせ、ティアリアを喜ばせ、にこにこ笑う桃子のこめかみには青筋が軽く浮いている。 「誰が魔王だ★」 …… …………… ……浜より離れた岩場で海面に糸を垂らす人影が幾つか。 「こういう時間もよいものだ。昔話にも花が咲く」 「全く。命が洗われますな」 「この辺りは何が釣れるのでしょう。楽しみですね」 珍しく明るい色のシャツを着たウラジミールとセバスチャン、それから大和がのんびりと釣りに興じているのだ。 喧騒も良いが静けさも又良い。頬を撫でる海風は焼き付ける太陽の熱を程良く散らしてくれるし、居心地は案外悪くない。 「お、引きましたな」 「うむ。……おお……なかなかこれは」 ウラジミールの竿がしなる。 「……此方は、全然、かかりませんね」 疑似餌は使わず、のんびりと当たりを待つ大和がふうと息を吐き出した。 「やはり、素人には難しかったのでしょうか? でも、こうやって浮がプカプカ浮いては沈みを見ているだけでも楽しいものですね。 たまにツンツンと揺れるのは魚達が餌を突っついているのでしょうか……うん。見ていて飽きませんね」 「はは、それも釣りの醍醐味ですぞ」 大和の言葉にセバスチャンが笑っている。 大和から視線を横にずらした彼の視界の中には奮闘する御龍と風に揺られて眠そうなイヴの姿もあった。 「辛抱強く、待つ事もまた釣り。人生ですな」 「この釣れない時間も、また楽しからずや。良き哉良き哉」 歳不相応な『深い』言葉で答えた大和は胸一杯に潮の匂いと潮騒のざわめきを吸い込んだ。 貴重な時間は出来るだけゆっくりと過ぎて欲しいもの。やはりそれは気の持ちようである―― ぎゃあああああああああああ――!? ……この時、彼方より何か此の世のものとは思えない酷い断末魔の悲鳴が響き渡った。 何があったと顔を見合わせる面々。その時しなる大和の竿。 「……来たようだ、これからが勝負だな」 ウラミジールの一言に大和は一つ頷いた。 青空に入道雲とサムズアップする大魔王の笑顔が浮かんで消えた。 ●砂タイムはっじまるよー! 「懐かしいな。海なんていつ以来だろう」 波打ち際を進んで不意に呟いたマコトは小さくそんな言葉を零した。 「最近は御無沙汰だったけど……前にテレビで海が映ってた時、君が一度海に行ってみたいって言ってたからね。 丁度スケジュールも空いてたし、君を海に連れてこようかな、ってさ。 でも初めてとは意外だね、海とか湖とかそういう水の溜まる所って霊が集まるイメージが…… ごめんごめん。霊って訳じゃないんだよね」 冗談めいた彼はからかった事を拗ねるように甘く続けた。 「ほら、あんまり拗ねないで 拗ねてない? あぁ、うん、そうだよね。別に拗ねてないよね、ごめんごめん。 ほら見て、綺麗な貝殻。さっきそこで拾ったんだ。 海は泳ぐだけじゃなくて、色々と遊べるんだよ――じゃあちょっと宝探しと行ってみようか」 青年は何処からどう見ても一人だった。 しかし、神秘は時に孤独さえ実り在る刻(とき)に変える。 彼の脳内で大輪の笑顔を浮かべる『彼女』はまるでそう、向日葵だ。 【デート】 ブレイン・イン・ラヴァー(NOUNAI) プレイングのコレを見た時、僕の胸に大きな向日葵の花が咲いたんだ―― ……始まった詐欺はさて置いて。 夏のバカンスと言えば身も心も開放的になるのは当然である。 物理的にも薄着に水着のマーメイドは防御力が下がるものだし、心理的にも当然である。 何かが起きそうな『アツイ』季節とは良く言ったもので、それは既に『くっついている』カップルならば尚更である。 騒がしいビーチのそこかしこで、南の島を取り巻く世界の中では百花繚乱が咲き乱れる―― 幸せそうな彼等の一幕は誰にとっても特別で、強い思い出に残るものになるだろう。 本当に。 老若男女。 ビーチに、船に。 ロボ大好き。 「何その、どんなの着て出てきても可愛いと評しそうな言い草」 豪華な一等船室で唇を尖らせるのは随分と可愛らしい拗ね方をする未明である。 ――ん、こう言う奥ゆかしいのも、お前さんらしくて可愛いと思うぞ? オーウェンの発したこの一言が発端だ。 「"も"って何よ。も、って」 乙女心は複雑で、それがうら若き少女のものだとするならば――最早これは解けないロジックに違いあるまい。 プロフェッサーの呼び名がしっくり来る『Dr.Tricks』もこれにばかりはお手上げで小さく肩を竦めるばかり。 未明とて、本気で拗ねていると言うよりはどちらかと言えば…… (わざとらしくむくれた顔を見せても、どうせどこ吹く風なんでしょ) 自分がどうしたって掌の上に居るような、そんな年上の彼氏の余裕の方が気に入らない……ではない。 そんな所が格好良く思えたりするのが口惜しい、悔しい、たまには勝ちたい……中々難しい事情を抱えているという訳だ。 「心配するな。俺はお前さんを置いていったりは、しないさ」 ベッドの横に座り、むくれてそっぽを向く未明の肩に手を回す。 手慣れた所作は澱み無く、こんな事にさえ『完璧』を見せる男は確かに中々憎らしいだろう。 「調子が良いんだから。そういう事を吐くんなら、行動を伴わせて頂戴」 「了解した」 無理をして傷だらけで戻ってくる彼を心配しない訳が無い。 しかし、古来よりやはり繰り返されてきた殺し文句は少女を黙らすキスである。 こんな様で、それ以上言える訳も無い! 「十五歳なのだ」 「うん?」 トロピカルジュースを片手にデッキで海風に当たる雷音の言葉にカキ氷をつつく虎鐵が視線を投げた。 「ボクの年齢だ。もう人生の半分以上をお前とすごしているのだな。たった八年。けれどボクにとっては大切な八年だったのだ」 「もうそんなに経つのでござるか……時間の流れは速いでござるな」 彼と彼女が出会ったのは八年前。人生は時間で希釈されるものだ。子供にとっての――多感な年頃の少年少女にとっての時間と大人の時間の価値は等価では無い。彼女を形作る半分以上に自分が居る事を彼は改めて実感した。 「虎鐵、ボクはアークにきてどれだけ自分の手が小さいか思い知った。 今でも戦うのが怖い。人が死ぬのが怖い。いつか、虎鐵が夏栖斗が何処かに消えてしまいそうで怖い。 この『家族ごっこ』が終わってしまうのじゃないかと思って怖い。ボクは臆病なのかな? 虎鐵や夏栖斗のように強くなりたいのに」 アークに来てからの約二年間は小さな少女が抱え切るには余りに厳しい時間だった事は間違いない。 珍しく少女らしい弱音を吐露する雷音に虎鐵は何と言葉をかけるか考えた。考えてからやがて言った。 「まぁ、人間はそうそう全部助けれるほど万能ではないでござるしな」 でも。 「雷音は怖いのでござるな。ならば拙者はそれを守るだけでござる。 大丈夫でござるよ。そんな不安はないでござる。カズトと拙者を信じるでござるよ。拙者もカズトも雷音を置いていく訳がないでござる」 安請け合いは――しかし格別の効果をもって少女の胸に染み入った。 彼女は自分が最も安心出来る彼の背中に抱きついた。背中に感じる温もりに目を閉じた虎鐵は一言だけを付け足した。 「でも、『家族ごっこ』はなしでござる。雷音は拙者の娘で……その内、奥さんになるでござるよ」 熱い浜辺に降り立ったのは彼の愛しい小さな天使。 口が悪いようでいて、案外素直で、際限なく甘やかしてくれて、見た目はロリロリなのに包容力抜群な彼女。 女子数多しと言えど彼を――竜一を「可愛い」と乗りこなせる彼女は決して多くはあるまい。 「俺のマイエンジェルなユーヌたん! 真夏のビーチの視線はくぎ付け! ……釘付け?いやいや、ダメでしょ。ユーヌたん一人占めしないと!」 「……心配しないでも、スク水で視線集まる訳ないだろうに」 少し困ったような表情を浮かべるユーヌは、しかしはしゃぐ竜一に案外満更でも無さそうである。 実際の所、何処まで本気かは分からねど『移り気』な彼は彼女の庭での放し飼いである。 「……まぁ、嬉しいなら良いが」 呆れ半分、面映さ半分に小さく嘆息して見せたユーヌは年上の彼氏の落ち着きの無さをやはり『可愛い』と思うのだ。 「まずは、ユーヌたんのお肌が荒れないように、じっくりたっぷりとオイルを塗らないと!」 「オイル使ったことなかったんだが、海行かないし……何だか手つきがやらしいな?」 「そんな事無いよ! ユーヌたんを大事にするよ!」 「……そうか。じゃあ頼む」 二人の時間は独特のマイペースながら至極居心地のいいものだった。 「……ん、んンっ……」 へっちっち><。の名残か微妙に微妙な声を出させられるユーヌに竜一がぺたぺたとオイルを塗る。 案外負けず嫌いな彼女は一先ず肌を這う熱くて冷たい感触に耐え、 「ふむ、竜一も横になれ日焼け止めクリームぐらい塗ってやろう。 後々焼きすぎて苦しみたくないだろう? 心配するな竜一の手つきで、塗り方は憶えた。 ……くくっ、じっと耐えろよ?」 微妙に嗜虐的な視線を送り、そんな風に言うのだった。マイエンジェル。 「海、きれい……」 お腹も膨らみ、一通り泳いでそれから木陰で休憩する―― 極上の時間、まどろむような午睡の時間を共に過ごしているのはうっとりと呟いたニニギアとランディの二人だった。 「海ってのはいいよなぁ、底知れなさもあるが…… 全てを受け入れる寛容さも備えてる。ニニを見てると、そんな優しい海みたいな感じがするのさ」 浜辺で遊ぶ友人に、海に出る見慣れたカップル――竜一とユーヌに手を振った彼女は珍しく気障な事を言った恋人(ランディ)に「ありがと」と微笑んだ。荒れる海が嘘のように穏やかな凪に変わっている。憤怒と渇望に身を焦がす彼も彼女と居る時ばかりは別人という事か。言った後で僅かに照れて視線を逸らす仕草から全く年下らしい可愛げを感じてニニギアは小さく笑った。 「あのさ、ニニ……」 「ん? なぁに?」 小首を傾げたニニギアをじっと見つめたランディは彼女に小さな包みを手渡す。 「あれ、これ……!」 「ちょっと早いかも知れないが、誕生日おめでとう」 ニニギアは青いサファイアの輝く銀のブレスレットを確認して目を丸くした。 「ありがとう……サファイア、誕生石だわ。もしかして、調べてくれたの?」 陽に翳して散る光を確認するように眺めてから細い手首につけてみる。問い掛ける彼女に「まぁな」とだけ答えた彼はやはり不器用な所を見せている。「不器用な男が一生懸命なのが可愛い」とは魔女の言だが、胸が一杯になる感覚はニニギアも納得出来るものである。 「嬉しくて、笑っていいのか泣いていいのかわからないわ」 胸元に抱きついた彼女に彼は言った。 「なら、笑って泣くといい。俺は、お前の事が大好きだから」 細い頤をそっと持ち上げる力強い指先は、まるで硝子の壊れ物を扱うように甘やかで…… 輝く海面がどんな宝石より見事に光を乱反射している。 「来たな。こっちこっち」 「あ……猛さん」 熱砂のビーチをゆっくりと踏みしめるリセリアに明るい笑顔で大きく手を振ったのは猛だった。 (……新しい水着、どうでしょう。似合うでしょうか?) 内心では少し気恥ずかしく、当然それを口には出さない彼女に真夏の晴天のように晴れやかな少年はにっと笑って言葉を投げる。 「この間のタンキニも似合ってたが、新しい水着も良く似合ってる」 「あ、ありがとう……」 直情径行な少年が気を利かせる――何て洒落た事を考える筈も無く。 しかしタイミングの抜群に良かったその言葉はリセリアの白い頬にさっと朱を落とすに十分だった。 南の島の大きな太陽よりも効率的な言葉の魔力。駆け引きは無いが、その分純粋である。 「さて、泳ぎに行くか。時間も限られてるしな?」 「はい――」 自然に手を引いた猛の所作に惑う事は無く、互いの体温を伝える指先をリセリアはきゅっと握り返した。 夏色の世界に眩く散る光の雨は目の前の風景が見せる幻想だ。しかし、『恋人未満』の二人に捧ぐ祝福としては十二分。 さあ、舞台は整った。 (……なぁ、リセリア。もしかしたら、一歩進む事で俺達変わるかも知れないよな) 内心で彼女に問い掛ける彼は一大決心を抱いている。 さて、彼の言葉が彼女に届くかどうかのその先は――この後の二人だけが知っている。 「あ、パドルはこうやって動かすといいですよ」 「なるほど……そうやると前に進んでいくのですね」 海の上、燦々と熱を照りつける太陽の下。波間に浮かぶシーカヤックで二人の時間を過ごすのは光介とシエルの二人だった。 (ふふ、これでも一応経験者。日頃は年上のシエルさんにリードされっぱなしボクですが、今日はいいとこ見せちゃいます!) いじらしくも涙ぐましい少年の決意は誇り高いものである。 男児たるもの女子をエスコートしなければ……そういう風習と文化が一体何時頃から生まれたのかは正確に定かでは無いが、やはり年上の彼女には特にいい所を見せたくなるのが『男の子』のお約束である。 海の上に浮かぶその場所は外界から隔絶されているかのようだ。 二人の世界から浜からも遠く、二人きりの分――初心な少年の手元と注意をいともあっさりと狂わせた。 「わ、やばっ――!」 波に煽られ、あえなく転覆。 「光介様が海に投げ出され……何だか可愛い……」 『可愛い』のその評価はきっと光介に突き刺さる……が、まぁそれはさて置いて。 「静かに繰り返される潮騒の音……乗り手を失いしカヤック…… ああ、夏の終わりを告げる趣がございますね……」 ほう、と和んだ彼女はたっぷりツーテンポ遅れて次の事態に思い当たった。 「まずいです! お助けしないと!」 何だかマイペースな二人はのんびりと時間を過ごしている。 助けた自分を抱きしめる彼女の感触と温もりに光介は―― ――このまま、時間が止まればいいのに。 「どうせ皆さんおっぱいが大きな女性が好きなんですわあ!」 ひらがなで書けばびにう。意味はどっちか二通り。 必死で探しに探して南の島を駆け回る事半日、漸く拗ねたクラリスを捕まえた亘は弁明の機会を手に入れていた。 「いえ、ですから、それはっ、誤解で……」 「心拍数が上がってますわよ! これは嘘の味!」 駆け回る事数時間、精も根も注ぎに注いだ亘がバテているのは決してそういう問題では無い。 「ええと、ですから、それは――その――」 せめてもと乱れた襟を正し、亘は一つ大きな深呼吸をした。 片膝を突き、丁度騎士が気まぐれな姫に忠誠を捧げようとするかのように―― 「クラリスお嬢様、自分の偽ざる気持ちを聞いて下さい」 「ん……」 真っ直ぐに射抜く青い瞳に少しクラリスの様子が変わる。 「正直、アシュレイさんの姿は確かに魅力的でした。それは否定できません。 ですが……それでも自分の中での価値は……誰よりも輝いているのは貴方です。貴方だけなのです。 その想いが変わる事はありません。初めて出会った時を覚えていますか? 必要なら、それを証明してみせましょう、麗しのフロイライン――」 うーん。アシュレイの乳がどうとかびにうとか…… 冷静に考えたらコイツ等スゲー馬鹿馬鹿しい事に全力で取り組んでいるのでわ!!! 夕暮れの海辺に二人で佇む。 余りに圧倒的な――言葉にも出来ない位の夕暮れに自然と言葉はなりを潜めた。 砂浜に伸びる影法師が近い。並んで散策するその時間はそあらが求めていた――何より求めていた人並みの幸せを感じられる時間だった。 「憧れてたのです」 「こんな風景に?」 「こんな風景を、好きな人と見る事……なのです」 数限りなく繰り返されたその言葉は初めの一回と同じだけの価値と重みを持っている。 直球一本槍とからかわれるそあらはそれでも不器用に――一生懸命に。 逃げ水の性質を持つ変化球使い(ときむらさおり)を追いかけ続けている。一年前も、今も変わらずに。 「さおりんとこうして過ごせると思うと……不思議と心が落ち着くのです」 リベリスタを取り巻く環境がどれだけ苛酷でも。異世界での死闘が繰り広げられようとも。有史以来数限りない物語は『必ず最後に愛は勝つ』と無責任に担保してきた言葉のその通りに、そあらは決して負ける気がしないのだ。 「何時でもいいよ。暇な時なら付き合うから」 「……知らないのですよ、そんな事言って」 唇を愛らしく尖らせたそあらは歳不相応に幼く、歳相応に落ち着きを見せて珍しく冗句めかして言葉を投げる。 「あたし、好きなものだけには欲張りですから覚悟するですよ?」 「良く、知ってるよ」 甘酸っぱい苺をイメージした彼女の水着。 それはビキニとパレオが好きだと言った彼に向けた――彼だけに向けた『スペシャル』だ。 「可愛いね」何て当たり前の反応は引き出したけれど、それだけじゃ足りない。全然、足りない。 「……さおりんなら」 「ん?」 「さおりんなら特別に味見してみてもいいんですよ?」 上向いた彼女は目を閉じ、薄い唇を突き出した。 据え膳食わぬは男の恥、されど彼女の額がパチンと景気良い音を立てた。 「……いたい……;;」 デコピンを一つした沙織は何かを言わず彼女のお日様色の髪をくしゃりと手で撫でた。 サンセット・ビーチの片隅で、雑多な想いが浮かんで消える。 夕暮れの海を臨む客船のレストランで乾杯する。 クリスタルグラスが奏でるチン、と澄んだ音色は耳に麗しく心に染み渡るかのようだ。 室内に流れるピアノの生演奏は今ここを使う二人の為だけに奏でられている。 「庶民の僕らがこんなとこで食事が出来るなんて、沙織さんに感謝だね」 「沙織室長も多方面との調整でお忙しいでしょうに、私達のケアまで考えて下さるのがありがたい事です」 冗句めいた悠里に対面の席で応えたカルナが微笑んだ。 貸切豪華客船で行く六泊七日の長旅は確かに普通に生きていたなら中々巡り会えない機会ではある。 「でも結局――カルナはコンテストに出なかったんだね? 可愛い浴衣だったのに」 フランス料理のコースを丁寧に切り分けるカルナにふと思いついたように悠里が言う。 「でもちょっとだけ安心したかな? だって、カルナのあの姿を見て悪い虫がついたら僕は気が気じゃないからね」 「……もう」 眉を八の字にしたカルナは少し困ったように――上目遣いで悠里を見た。 「素敵な浴衣を仕立てて頂いたのですけれど、あまり人目にかかりたくないから、でしょうか。 ですけど、べ、別に悠里の為に着たわけではないですからね?」 念を押すような彼女にクスクスと笑う、悠里の『分かっているのだかどうなのだか微妙な反応』にカルナは「むぅ」と小さく呟く。 (……私のような面倒なのを好いて下さるのは悠里位なものだと思いますが……) 言葉にすれば負けた気になる。そう思った彼女はコホンと小さく咳払いして、代わりに微笑んで見せる事にした。 「う、それ反則……」 『聖女』の微笑みは傾国の魔力を持っている。 少なくとも個人戦を勃発させるには結構マジで十分だ。設楽悠里滅びろ! 「……?」 知らぬは本人ばかりなり…… 「実はお弁当作ってきたのデスよ。よかったら一口だけでもどうデス?」 「……いや、これは驚いた」 口では何と言おうともシュエシアの本質は尽くすタイプなのかも知れなかった。 客船内の特別船室は当然と言おうか船のオーナーである貴樹の居室である。深夜という程でもないが夜も深まってきたその頃に、孫程の年齢の彼女に尋ねられるというのは――年寄りの冷や水をモノともしない彼にしても予想外と言える出来事だった。 何をするでもなく――広い窓から暗い海の向こうに点る赤々としたキャンプファイアーを眺める時間。 「あーん」と甘えて言うシュエシアのその要求はやんわりとかわしつつ、重箱をつつきながら何気なく過ごす時間である。 「……ワタシ、思った事を色々出来るアークが好きデスよ。単純な正義の味方でないのも気に入ってます」 「そうか」 「まあ、その中で純粋な正義であろうとしている人を見るのも好きなんデスけどね」 「……そうだな。そう思う事もある」 専らシュエシアが話し役、貴樹は聞き役に回っていたが高いブランデーをグラスに開ける彼は上機嫌にも見えた。 「貴樹はこれからのアークをずっと見ていたいと思いますか? いいえ、アークが必要なくなる、その最後の時まで貴樹の隣に居ますから、覚悟しといてくださいね?」 テーブルの上に置かれた皺のあるその手に瑞々しい少女の白い小指が絡んだ。 「長生きはしなくては、な」 冗句めいた時村父(ふだつき)の真意を図るのは難しいが――少なくとも、この雰囲気は悪く無い。 「どうしたの? こじり」 夜のデッキで佇むこじりに声を掛けたのは彼女に連れられて外に出た夏栖斗だった。 「別に」 「別にって……」 気難しく、扱い難く、時折訳が分からない。 少女らしさとそれ以外をごった煮にして煮詰めたような自分の彼女に夏栖斗は何時もの少し情けない顔をする。 「星は綺麗よね」 一緒に歩いて船頭まで。 そこに静かに立ったこじりは夜に吐息を零して夏栖斗の方に向き直った。 「どうかしら。去年の今の事、覚えているかしら。色褪せていないかしら」 丁度、一年。辛い事もあり、喧嘩した事もあった一年。一年が過ぎた。 問い掛ける彼女の言葉は絶対的な自信を秘め、同時に万が一を恐れる少女の不安を孕んでいるかのようだった。 「まさか」 夏栖斗は小さく頭を振る。 「まあ、なんていうか……あんまいい彼氏じゃないかもだけど。 それでもこじりのことが好きなのだけは確かだから」 「そう――知ってたけれど」 「何か酷くない?」 「いいのよ、私は」 自分の事を呼び捨てで呼ぶようになった『彼氏』に目を細め、こじりは空を仰いだ。 目の前に広がる黒いスクリーン、瞬く星の数々の全てを知っている訳では無いけれど。 「もう、謎解きは必要無いわよね」 夏の第三角形に続き、夏栖斗の頬を指がなぞる。 「大好きよ。御厨夏栖斗」 口にするだけで頬が緩んでしまいそうになる、まるで呪文のようでは無いか。 「僕も大好きだよ、こじり」 触れる指先の熱は、前よりもずっと強くなった想いそのもの。 「夏目漱石? 彼はとことんロマンチストだったんだね」 前よりもほんの少しだけ強くなった少年は彼女を引き寄せ、そのまま優しくキスをする。 「……驚いた?」 「驚いた」 素直にこくんと頷いたこじりは彼に言う。 「今夜も月が綺麗よ……後は分かるわね?」 「話そう、これからの事ずっと」 「語らいましょう、朝が更けるまで――語らう以上でも別にいいけど」 「それはダメ!!!」 それは笑うチェシャ猫のようだ。 「あの日の気まぐれからもう一年も経つけれど――」 夜に零れた溜息交じりのその声は約束したバーで自分を待つスツールの彼に向けられた。 「――運命の悪戯か、最初からこうなる運命だったのか。 どちらかは分からないけれど、増えた三日分の過ごし方は――責任取って貰うわよ?」 「As you like it」 人気の無いバーでスコッチを呑む沙織は幾度か繰り返した台詞を現われた氷璃に向け芝居がかった調子で一礼をして見せる。 上等な仏蘭西人形のような彼女を隣の席に招き、リクエストを聞く。バーテンの真似事をしてもそれが様になるのは彼が彼であるが故。そんなスキルを御曹司が何に使うのかと問い掛ければ答えは自ずと決まっている。 「でもね、本当は何処でも良かったのよ」 「何処でも?」 「そう。アーク本部の地下室でも、書類が山積みの司令室でも。 沙織と一緒に居られるのなら何処でも構わなかったのよ。勿論、南の島でもね」 増えた時間をレクチャーしろ命じる尊大な彼女は実は何もしてくれなくても良いと言う。大凡、彼女を知る者からすれば信じられない位の健気な一言は全く彼が彼女にとってどれだけ特別な存在なのだかをこの上なくハッキリと物語るものだ。 彼女は命じる者。犬の真似でもしてみなさい、なら納得出来ても――貴方が居ればそれでいいの、は強烈だ。 「Je suis amoureuse de toi.」 「Parce que j'ai pris la magie.」 「……そうね」 沙織の言葉に氷璃の美貌が綻んだ。 「この半世紀で私を溶かしたのは貴方だけよ?」 夜は更けていく。 「それじゃあ、沙織。私、退屈しているのだけれど?」 「自慢じゃ無いが、俺は付き合わせた女に最後まで仏頂面をさせてた事はねぇんだよ」 退屈な永遠を飽いた『少女』と有限の退屈を嫌う『彼』のcon game、その二幕はまだこれから。 バカンスは続く。ゆっくりと、砂時計の砂は滑り落ちていくのだろう。 ――はい! 砂! 終わり!!! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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