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無料大規模シナリオ『決戦! 千葉辺りの水っぽいテーマパーク!』

●STAGE III
 小さな影がぴょこりと動いた。
「ハハッ! 楽しそうじゃないか。やぁ、僕美つk……」
 挨拶した臼間井 美月(BNE001362)――うすまいみつき、鼠のビーストハーフ(15)が、
「痛ーッ!? ちょ、何するんだ止め、止めて何で縛るの!?
『此処でかますとは良い度胸だ』ってどういう意味だよ僕はただ名乗ろうとしただけキャッ!?
 助けムグ!? ……ムググ…!」
 大きなお耳で何時も笑顔なあん畜生に縛られ連行され、永劫の深い闇に堕ちたのは本編に関係ねぇ余談である。

 ――リベリスタとフィクサードの決戦は遂に佳境を迎えようとしていた。
 フィクサードの突然の蜂起に対して迅速に作戦を発動したアークだったが、水際作戦は失敗。
 当初の防衛ラインだった封鎖道路を激戦の末突破したフィクサードは遂に本丸とも言える目的の地へと侵入を果たしたのである。
「バレンタイン中止だー! わー! ……で、中止して何か良い事あるの?
 そんな事よりさー、ボクと楽しく遊ぼうよっ! 特にいい男(女)は歓迎だよ☆」
「うー……せっかく千葉辺りの水っぽいテーマパークだというのに!
 しかしこれもリベリスタの責務だ、とっとと片付けて遊びに行くぞー!」
 リルファ・フィオ・フィナス(BNE001572)が笑み、石川 ブリリアント(BNE000479)はそんな風に気を吐いた。
 彼女等の視界に映るのは煌びやかなネオンと水飛沫。幻想的な夢の光景。
 人だかり、否が応なしに増えるカップル達のその姿。楽しそうなその声がしきりに耳朶を叩いている。
「バレンタイン! 千葉辺りの水っぽいテーマパーク! なんて素敵な響きでしょう!
 早い春の訪れを感じさせるこの胸の高鳴り! アベックの周りには花が咲いているようデス!
 イイですネ! 素敵デス! ボクも鶴ちゃんとランデブーしちゃいますヨォ!
 これでボクもリア充って奴の仲間入りデス。ね、鶴ちゃん?」
 稲荷山 透夏(BNE000336)の手にした人形がカクカク震え出す。
「あれ、何だか涙が出てきましタ。可笑しいナ、嬉しいはずなのに フフッ……」
 ……嗚呼、千葉辺りの水っぽいテーマパークよ。君の姿は痛ましい誰かを更に傷付け、
「せっかくさおりんの為にこんなに一生懸命チョコを作ったのに大事な日になんて事を企ててるですか!
 フィクサードなんかに邪魔させないのです!」
 このくだらない出来事の所為でチャンスを逃した悠木 そあら(BNE000020)を焚き付ける。
 聖地とも呼ぶべきこの千葉辺りの水っぽいテーマパークは成る程、確かに酷すぎる場所だった。
 愛を語らう誰かと訪れるならいざ知らず、目の幅血涙を流すフィクサード共にその宛てがあろう筈も無く。
 唯、しんしんと積もる雪のように誰の心も冷やし続けているのであった。
「バレンタインざまあ! フィクサードの皆さん、お勤めご苦労様なの!」
 電飾のパレードに乗って佐野倉 円(BNE001347)がやって来る。フィクサードを従えやって来る。
 はしゃぐ程に痛ましい、それはまるで呪いのようだった。
 破滅を知りながら、絶望と知りながら、今夜ここに引き寄せられてしまった誰をも的にした。
 最も無慈悲で容赦の無い呪いのようであると言えた――
「余計なお世話なの!」
 円ちゃんも可愛いですなの。
「うむ、バレインタインとはチョコレイトを貰える日だそうです。
 その邪魔をするとは迷惑千万許せません――」
 周囲を見回し、敵を見つけては千切っては投げ。
「……で、チョコレイトは誰に貰えば良いのでしょう?」
 容赦の無いアラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)――騎士子たんはフィクサードがリベリスタより得たなけなしのチョコレートを収奪する。悪人狩り(ボーナスつき)と化した現状にもしゃもしゃとチョコレートを頬ばる彼女は納得したのか「うむ」と頷く。
「おたくさん、野暮なフィクサードちゃん達ね。
 俺は流れ星のコヨーテ。流す涙を星にかえて、願いを叶えるさすらいのコヨーテ。
 まぁ……分かっただろうし、悪いけど、こっからバイバイしちゃってね!」
 星影・丈(BNE001305)が怒涛の勢いでそこらのカップルに突っ込もうとしたフィクサード数人を撃ち倒した。
 目を丸くした一般人のカップルはそれを特撮か何かか、或いはテーマパークの催しかと勘違いしたのか興奮した様子で拍手をしている。
「あー、すいませんね!」
 咄嗟に会釈をした丈は携帯を向けて写真を取るカップルに合わせるような仕草をしたが、問題は倒れているフィクサードの方であった。

 ……しょう……

 ちくしょう……

 呪われろ。呪われろ……

 冷たい地面に這い蹲り、一世一代の蜂起さえ見世物と化した彼等の怨念たるや尋常な程では無い。
「後ろ向きね! お説教が必要だわ!」
 ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)がぷくっと頬を膨らめた。
「あまり荒っぽい事なく収まれば一番良いのだが……」
「難しそうだにゃぁ……」
 ハイデ・黒江・ハイト(BNE000471)、桜 望(BNE000713)が見守る中、悲しみを怒りに変えたフィクサードは今まさにゆらりと立ち上がる。

 ――いてこましたらぁ――!

 男の生き様見せてやらぁ!

 滅びろ、バカップル!

 ……写真撮らないで、お願いだから!

 ……いきなり元気になったのと、最後の一言が涙声なのはアレである。
 わーきゃーと喧騒と悲鳴が響き渡る。
 まさに聖戦。蜂の巣をひっくり返したような大騒ぎが園内に広がるのには時間が掛からなかった。
 こんな人混みでは結界や何やも意味を成さぬ。
 神秘とは秘匿するものである。リベリスタは必死のフォローをもって事態の収拾に努めねばならなかったが、自由なるフィクサードは勝手が違う。後先考えない――というより後なんかあるか畜生め、みたいな勢いで一層の混乱をばら撒き続けているのであった。
「はっぴー・ばれんたいんんんんん!」
 拡声器で声を張り上げ、雑に十円チョコをばら撒く金原・文(BNE000833)。
「バレンタイン・イズ・デェェェェェッド!(バレンタインさんは死にました)」
 どうも標語に採用されたらしいアレを口々に叫ぶフィクサード。
「……もう、どうでもいい……」
 売店の椅子に座った遠野 うさ子(BNE000863)がぽつりと小さく呟いた。
「とてつもなくどうでもいい……」
 温かいチョコレートドリンクをちびりと舐めたうさ子は疲れた声でそう言ったが……
 機器遮断で警報装置をすり抜けてパーク深部に侵入した彼女が各種セキュリティを骨抜きにしたのは賢明な判断だった。とんでもない状況には変わらないが相手は一応フィクサード。早い段階で警備員や警察が現れては面倒が増すのは目に見えている。とは言え、それ以上動く心算は無い彼女である。園内各所に散ったしょうもないフィクサード達の数は多い。
「あれ? 俊介たんが見当たらないっす。あちょ、フィクサード邪魔!」
「誰が渡させるかー!」
 霧島俊介(BNE000082)に恋心を抱く紙袋――桐生 千歳(BNE000090)の戦いはこれからで。
「チョコ食べれないのは困るよ!
 それに水っぽいテーマパーク……さみぃからちょっと辛いうさ!」
「はいはい、大丈夫ですか。あとチョコは、にげ、ません、から」
 天月・光(BNE000490)に首をがくんがくんと揺すられて前に後ろに雪白 桐(BNE000185)が揺れる。
 桐の眺める光景は本当に酷かった。眩暈がする程にしょうもない今日という日に彼は最早言葉もない。
 今もほら、ちょっと向こうに視線をやれば――
「うははははははは! ざまあみろ、運行を邪魔してやる!」
 ――フィクサードはこの通りである。お前は子供か。
「日本のバレンタインって、フシギ。こんなの、よくあるの、かなぁ」
 アトラクションの一部を制圧し、高笑いを上げるフィクサードに立ち向かったのはジェイク・クロルベル(BNE000878)だった。
 頭を冷やせとばかりに繰り出された魔氷拳にもなかなかどうして粘り続けるフィクサード。
「死守じゃ、死守! 少しでも台無しにしてやらにゃ気がおさまらねー!」
 何とも志の低い目標ではあるが、数は力。
「お兄ちゃん、ちょっと……人前では恥ずかしいのでこっちに来て欲しいのデス」
 建物の影に釣り出してはシュート。ヒットマンスタイルな歪崎 行方(BNE001422)さん。
「過ちから遠ざかり、アーク(われわれ)のものになれ。
 今年止めさせても来年、再来年もこの日はある。
 終わりなき戦いだ。人を捨て、修羅の道をゆくか!? フィクサードよッ!」
 無駄にドラマチックで壮大なツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)。
「君達の嫉妬は理解できるよ。でもさ……初実戦が君達になったオレらの気持ちは分かるぅ!?」
 霧伏・燈弥(BNE000846)の抗議はもっともだ。
 わらわらと集まるフィクサードは散らされても懲りずあちこちで勢力を拡大し続ける。
「目がマジだぜ! あいつ等!」
 囮の坊主が走っている。焦燥院 フツ(BNE001054)が走っている。
 モテそうというのにある程度説得力を感じたのかチョコレートを抱える程に持ったままフィクサード達に追い回されている。

 ――秩父山中に埋めてやんぜ、コラァ!

「本当にやりそうで怖ぇぞ、こいつら!?」
「そこまでだー!」
 フツを救ったのは少女の声だった。
 何奴と聞かれれば、是非もない。
「てんよぶちよぶひとがよぶ! 悪を倒せとアタイを呼ぶ! 超ひーろー! アタイ六花!」
 高らかに名乗りを上げたのは無意味な高所にあおりで立ち、眼窩を指差した風芽丘・六花(BNE000027)である。ちなみに飛べるの忘れて高いの怖くて降りられない。
「くらえ悪者共! アタイからのバレンタインだ!」
 ぽてぽてと十円チョコを投げるつけるのが精一杯。要するに役に立たない六花に代わり、
「みなさん! こんな事を今すぐやめれば……これはみなさんのものです!」
『Dice cafe』の一団の内――蘭堂・かるた(BNE001675)が口に手を当て大声で呼びかけた。
 その手の袋にはあちこちの店で買えるだけ買い込んだチョコレートが山と入っている。
 しかし、フィクサード達は絶叫するようにその甘美なる申し出に注文をつけた。

 ――明らかに義理じゃねえか!

 ――それでここに居る奴等の罪が贖えるかアアアアアッ!

 ――もう話し合いの時間は終わったのだよ! お嬢さん!

 義理すらも無いとか、別に罪はないだろうとか、何時お前達が話し合える状態だったとかその辺はまぁ兎も角。
 園内で無数のカップルを目にしたフィクサード達はつい先程と比べてもその凶暴性を増していた。
 まさに退化と呼ぶに相応しいヤケクソぶりに頭痛を覚えたかるたは頭を抱えた。
「自分達にとって駄目な日だから潰すとかおかしい。
 女の子にとっては勇気出す大事な日なんだから中止とか許せない!」
「リア充爆発すればいいと思うよー!
 ……は、違った。だって…チョコ貰えるなら嬉しいけど作るの難しいんだもん!」
 そんなやり取りの一方で藤堂・刹華(BNE000383)は憤慨し、笠原・るえる(BNE000250)はカップルの足元に悪戯を仕掛けようとしていた。
「まぁチョコもらう努力をするべきだな。
 しかし刹華、お前は少し落ち着け。……こら、るえるは悪戯するんじゃない」
「だって、あいつらふざけてるし……!」
「あいたっ! 烈火さんひどい、うにゃー」

 ――ああああああああ!?

 ――やっぱりそういう事か――!

 俺達は最後の一兵まで戦ってやるちくしょーめ!

 短いやり取りでも察するものはあったのか。
 それともそれだけ強くオーラのようなものが出ていたからか。
 男一人に女子三人――藤堂・烈火(BNE000385)の充実っぷりにフィクサードの意気が上がる。
 フィクサードの目的は超強力なエリューションを作り出す事であると言う。
『儀式』と呼ばれるその未解の技術に着目したのは鬼ヶ島 正道(BNE000681)だった。
 上半身を裸になりその鍛え上げた肉体を誇示するかのように威嚇して。
 逆水平チョップでリベリスタ達を迎撃した正道は活躍が認められてか近くのフィクサードからある情報を手に入れる事に成功していた。
 フィクサード達の儀式はアーティファクト『念の壷』による怨嗟の集積であると言う。
 燃え上がるフィクサード達の恨み、バレンタインを台無しにされたカップルの嘆き、そういった意志の力を集めた『念の壷』はやがて大掛かりなエリューションを産み落とすのだと言う。
「……敵を欺くには味方から……とは申しますが」
「えっと……日本のぴんち……です?」
「そのようですな」
 リベリスタ陣営に戻った正道は偶然に現れた音更 鬱穂(BNE001949)の問いに苦笑いを浮かべた。
 話を聞く限りでは園内の敵を首尾良く駆逐したとしても計画が止まるかどうかは微妙な所である。
 エリューションが出現する前に『念の壷』を奪取するのに成功すれば別ではあるが、その所在は知れない。
 加えて情勢はフィクサードのゲリラ戦に手を焼いている状況だからそう簡単にいくとも思えない。
「そんなにチョコが欲しいのなら、
 私の失敗チョコを直に貴方たちのお口に流し込んであげるわ。
 きっと忘れられない思い出になるわよ」
「望む所だ!」
 神野・ルシア・淡雪(BNE001914)とフィクサードの一人が交戦している。
「もう、水場はクマ可愛いし、折角色んなチョコ食べられる日だってのに、何が不満なんだよぅ。
 取り敢えず、全力で中止を中止させるんだよっ!」
 頬を膨らめた榊原 大和(BNE000499)が迫り来るフィクサードをきっと見据える。
「行くよフィクサード、オレ達の歌を聞けぇっ☆」
 乱戦状態にあるのは彼等ばかりでは無い。
「気持ちは痛いほど良く分かるぜ……! 同志たちよ!
 だぁがしかし! テメェらは一つだけ間違いを犯した!
 可憐に健気に愛を伝えようとする少女たちの笑顔を曇らせる輩は俺が許さねぇ!」
 どどんと殴メイガス――闇蔵 銀次(BNE001180)が見得を切る。
「炉利魂道に退路なし!」
 かっこいいのか、悪いのか。
「……さらば、友よっ!」
 血の涙を流す陽渡・守夜(BNE001348)の拳が炎を巻き上げフィクサードの体を天に舞わせた。
 一瞬だけサムズアップしたフィクサードを目にして彼は心通っていた事実を痛感する。
「くそ、くそ……一体誰が、誰が悪いんだ。こんな戦い……!」
「……でもさ、フィクサード男余りすぎじゃね?
 もうあいつら同士でチョコレート、贈ればいんじゃねえかな」
 慟哭するその守夜の傍らにはとてつもなくなげやりな喜多村 茅(BNE000706)が居た。
「暇だし、両方ぶっ飛ばす」
 シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)といい、
「腕試しに丁度いい!」
 緋袴 雅(BNE001966)といい、
 ヴェネツィアの屋根の上突っ走り、純白のフードを目深に被り直し――宙高くからフィクサードに一撃を叩き込んだ鳳 天斗(BNE000789)といい、
「頬に切り傷のあるフィクサードだよ。知ってること吐け! このやろーっ!」
「お前ら赤い髪で優男のフィクサードを知らねえか?
 あ、知らねえ?ああそう。だったら手前ら、ここで死ね」
 私情全開な調査に走る早瀬 莉那(BNE000598)に雪白 凍夜(BNE000889)といい。
「甘いモノは、疲れたときによく効きますよ?」
 何故だか頬を赤らめて美形所にチョコレートを渡している中村 夢乃(BNE001189)も居るし、
「ああリア充。エリューションの次に憎らしい存在リア充。
 ちょっとばかり悪に揺らぎかけたけどあたしいい子だから!
 超いい子だから!!! 日本中のリア充のために! 頑張るわよォ!」
 ……花城 知恵(BNE000492)の情緒不安定っぷりも大概だ。
「今日ばかりは見逃してやる……というか、わっちは何も見ておらぬよ」
「あのアトラクション……ちょっとだけ……っちょっとだけならいいよな!」
「次はお化け屋敷じゃぞ?」
 完全にデート状態の隠 黒助(BNE000807)と伊勢 一日(BNE000411)はそもそもやる気が無い。
 温度差もメチャクチャ、状況もメチャクチャ、誰が本気で誰が適当か。そも敵だか味方だか分かったもんじゃない状況である。これで作戦行動を正しく遂行するのは難しい。悪い夢だからいいようなものの、悪目立ちは既に尋常でないと言える。
「この僕が愛してもいないのに特別に縛ってあげるんだ、悦びたまえ!」
 トラップネストを駆使したジェルヴェ・シメオン・デュジャルダン(BNE001101)は無駄と言えるレベルで真面目に働き健闘していたが、園内各所のフィクサードの猛威に、リベリスタ達は苦境に追い込まれ始めていた。
 しかし、そこはリベリスタ。この絶望的に混沌とした状況を覆す秘密兵器は彼等の中から現れた。
「あらあら、まあまあ……」
 深町・由利子(BNE000103)の周囲には死屍累々とフィクサード達の屍が積みあがっていた。
 おっとりとした彼女は善意の人だった。百パーセントの優しさのみをもって彼女は彼等にチョコを渡した。
 こうなったのは単純な理由である。悲しいかな彼女にはまともな味覚が備わっていなかった。
 如何に倒されても立つフィクサードであろうとも、食あたりの類はドラマ復活など出来はしない。
「……おかしいですねぇ……」
 フィクサードもおっとりと小首を傾げる由利子に一服盛られるとはまるで思っては居なかっただろう。
 そして彼女以上の大量破壊兵器となったのは……


「――アナスタシア、ちょっとこっちこい」
「ふふー、鷲祐殿は綺麗な目をしてるねぃ」
「……そうだ、顔を見せてくれ」
「……?」
「……ふっ、綺麗な唇だ」

 何処までもクレバーに抱きしめている司馬 鷲祐(BNE000288)とアナスタシア・カシミィル(BNE000102)、バカップル二名だった。

「……いつかここに鷲祐殿と来たいなぁ……
 アトラクションにいっぱい乗ってー、記念写真撮ってー……
 そんでもって、ポップコーンわけっこしたりしてー……」

 不意打ちのキスに頬を染め、褐色の肌に少しの朱色を差して。
 アナスタシアは少しだけ居心地が悪そうにもじもじとしながらも、鷲祐に上目遣いでおねだりする――


 マジで碌でもない光景は枯葉剤の如くフィクサードに作用していた。
 殴るとか倒すとかそんなん微塵も必要なく、灰のように燃え尽きてのたうち回る死傷者多数。
 追い討ちをかけるような連中は他にも居た。中止リプレイだというのに節操がねぇ!
 じゃなくて……確信犯的に非人道的なプレイングをかけたのは当然、英 正宗(BNE000423)も同じだった。


「いやっほう! デート! デート! でもいいのかな? 周り騒がしいけど……」
「静岡から千葉まで、わざわざ遠出したんだ。
 今日位、リベリスタの仕事は休ませて貰う。……ていうかデートさせろ」

 はしゃぎながらも少し辺りが気になる様子の東雲 聖(BNE000826)を正宗は強引に自分の方に向き直らせる。

「……強引だなー」
「こういう時は強引でいいの」
「あ、俺だけ見てろ……とか」

 聖は聖でフィクサードとか実にどうでもよさそう。
 キラキラと瞳を輝かせて傍らの恋人にぴったりと寄り添い、

「お尻ぷりぷりさせてるアヒルさん探すー! そんで写真撮る!」

 デジカメを苦笑する正宗に向けながらばしゃばしゃと激写。
 何て言うか砂吐きそうな位に甘ったるいオーラを全力で発揮している。


 ……(;´Д`)
 BC兵器の連発は園内のフィクサードのみならず、辛い気持ちで戦いを続けていたリベリスタ達にも決定的なまでの打撃を与えていた。
 どんよりと濁った瞳でその光景を眺めるフィクサードは唯ぐったりと項垂れ、絶望にその身を浸すのみ。
「ペンは剣よりも強し! だが愛はさらに強し!」
 颯爽と現れたのはソリッジ・ヴォーリンゲン(BNE000858)。
「mein Schatzに手を出すと紙面で叩くぞ?」
「来てくれたんですね! ……私の運命の人っ!
 殆ど瞳をハートマークにした藍苺・白雪・マリエンバート(BNE001005)にフィクサードは又ものたうち回る。
「あなた達、情けないわ」
 凍り付く程に辛辣な閏橋 雫(BNE000535)に続き、
「娼婦のように近づいて。獣のように貪り尽す。それが僕さ」
 持ち前のコケティッシュで散々っぱらフィクサードを弄んだ紅涙・りりす(BNE001018)が笑う。
「……うむ、気の毒だが戦争とは残酷なものなのだよ」
 そして、教授ことオーウェン・ロザイク(BNE000638)が彼我の戦力差を冷静に分析した。
 決定的な火力で焼き尽くされたフィクサード達は悄然と項垂れていた。
 仕事をした心算はなくても、奇しくも決定的にやらかした彼等の活躍は確かな好機だった。
「バレンタイン中止だって騒ぐ気力があるなら、ナンパの一つでもしてこい小僧ども!」
「はい、チョコやで♪ 成仏したってな?」
 一喝するソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)と慰める関 喜琳(BNE000619)はまさに飴と鞭である。
 複数のフィクサードが戦意を失いおいおいと泣き出した。後一押し。
 ここで真打とばかりにある一団が現れた。

 ――我はバレンタインの守護聖人、聖ゑる夢! 悪しき魔人共め、百鬼夜行に恐れ戦け!

 ――オイオイオイ、テメェでパーティ開催しといて即効ケツまくって逃げてんじゃねーぞオラ!

 ――諸君、たとえ日陰にあろうとも、紳士たれ!

 ――これはチャンスですね! このバールのようなものの、試し斬……

 ――そぉねぇ……恐怖にひきつり泣き叫ぶ姿を見るのは大好きよぉ……!

 ――ラブいカップルさんたちも血濡れましょー! それでも抱きしめてくれるならその愛は本物ですよう!?

 ――正義の味方、パピヨンレディただいま参上!

 ――ア、皆さんハ幸福にナルノでス!幸福にナらナい者にハ 死 アルノミ! でスヨ、うふふ

 ――カレーは日本の料理だと思うんですよな。お客さんはどう思います?

 番町・J・ゑる夢(BNE001923)、塵馳 雷嘩(BNE000489)、八文字・スケキヨ(BNE001515)、赤田 円(BNE001596)、ルートウィヒ・プリン(BNE001643)、ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)、虚ノ空 真白(BNE001874)、ハッピー チャイム(BNE001429)に百舌鳥 九十九(BNE001407)……
 怪人連合の皆さんだった。え? 聖ゑる夢軍? いいよ、怪人連合で。
 余りにも衝撃的かつ奇奇怪怪な面々に泣き出す子供、慄くカップル一般人。
 何処からどう見ても酷すぎる面々は比較的まともそうな奴がちょっぴり混ざっている位では中和されない。
 フィクサード以上の混乱を巻き起こすリベリスタチームの最大勢力の前にざざざっと黒い影が現れる。

 ――愛くるしい姿! あなたはマスコットのねず――

「げぼあっ!」

 ――誰かの言葉を遮るように生々しい声が重なって響き渡った。
 手短に面々のボディにワンパンを入れた彼等は「何もしてないよ」と言わんばかりに掌を見せ、コミカルなポーズを取っていた。
 その間にも係員が動かなくなった聖ゑる夢軍を素早く建物の影へと引きずっていく。
 夢壊す異物を許さぬまさに夢の国である。チームに参加しながらも間一髪他人のフリをする事に成功した付喪 モノマ(BNE001658)は、
「俺がチョコを手に入れようとした瞬間にバレンタイン中止なんて許せねぇぜっ!」
 取り敢えず当たり障りの無い事を言っておく。身の為に。取り敢えず。

 おおおおおおお……!

 しかし、大団円と思いきや。事件は終わっていなかった。
 肌を震わせるような声(おと)が響いたのはモノマの言葉とほぼ同時だった。
 信じられない事に。本当に信じられない事に。まさに突然、小さな山のような『モノ』が現れたのだ。

 超強力エリューション――

 その言葉がモノマの脳裏を過ぎる。
 そう、彼には知る由も無かったが……リベリスタの運用した火力は絶大で一撃で件の『念の壷』を満たすのに十分だったのである!
 世界がヤミに包まれる! 出たぜボス!
「嘘だろ……おい……」
 辺りを覆った黒い影――その正体を見上げた彼は呟いた。
 そこには冗談のような何処かで見たような。白くて甘くて可愛い何か巨人の姿が立っていた……
「避難はこっちであります!」
 ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)が何はなくとも一般人の混乱を抑えようと動き出す。
 事この期に及んでは恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)――お姫様も優雅に見物している余裕は無い。
「こりゃまぁ、何と酷い。若者の腕前拝見ともいかぬようじゃの――」



「分かっていたの」
 そんな風に呟いたのは艶やかな女の声だった。
「分かっていた?」
 楽しそうに問い返すのは男の声。
 やや高いテノールは彼女を試すような色を帯びていた。
「ええ、分かっていたわ。最初から。
 具体的には――マスターコメントとか見た辺りから」
 女の言葉は繰り返しだった。
 闇の中に立つフィクサードを真っ直ぐに見つめ、言葉を紡ぐ。
 その姿は自信に溢れ、揺らぎ無い。
『壷』を手にした彼を見やり、女――雨宮 弥人(BNE001632)はきっぱりと言い切った。
「千葉辺りの水っぽいテーマパークに潜伏していた黒幕は、あなたっ!」

 どどんっ!

 彼方から無責任に生み出された悪い夢――お菓子巨人による混乱が伝わってくる。
 とは言え、大した恐慌にならないのはそれがコミカル過ぎる事、後はどこかで見た事あるような格好をしている事に起因するだろう。
 まぁ、映画ネタでどうこうするのは千葉っぽい水の(略)ではなく、大阪の(略)の方だとは思うのだが。闇鍋である。 
「それで、分かってどうするの?」
「……え?」
「ほら、リベリスタってああいうの解決するのが仕事じゃん?」
「そ、そうね……」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「……何かとても全然釈然としない感じなんだけど!」
「常に落ちがつくと思ってはいけない」
「それって酷い投げっぱなしだと思うんだけど!?」

 ――言わないで欲しい。



 そして何たるや、カオティック。
 連鎖する悲鳴、混乱。
「んー、ナイスショット!」
 仕事はしていても撮影も止めないリスキー・ブラウン(BNE000746)。
「どうなれば終わるのかしら? これ」
 傍観者たる事を選んだ源兵島 こじり(BNE000630)がグダグダの過ぎる大騒ぎに小さく肩を竦めた。
 手を貸す心算も無い。こんなのに関わる心算も毛頭無い。
 彼女はギャグキャラの心算は無いのだから。
「まあ良いわ。勝った方が正義となり、負けた方は悪となる。
 歴史はそうやって積み重ねられて来たのだから――見届けましょう、この世界の、この騒乱の行く末を」
 悪い夢は未だ幕の時を迎えない。
 やがて来る朝はどんな姿をしているのだろう?
 いや、少なくともリベリスタは片付けなければならないのだ。朝までには。


 ――My Funny Valentine...

 ――Sweet comic Valentine...


 嗚呼、お願い。夢なら醒めて、バレンタイン。
 遠くから千代子 令斗(BNE001990)の声が聞こえた、そんな気がした。



<FIN>