老人がまたまた勝負を挑んでる
●老人六人の歓談
「どうやら儂の勝ちのようじゃ」
「ふん! 今のはあえて勝ちを譲ってやったのがわからンのか、このスケベジジイ!」
「まーまー、トキコさん。負けは素直に認めんと」
「あたしゃトミ子だよ! この耄碌ジジイ!」
「もう六時? ああ、そんな時間かの。じゃあそろそろご飯でも食うとするか。どこかええ所があるか知らんか?」
「儂か?」
「この辺に一番詳しいのはお前じゃろうが。なんとかって学園に世話になってるとか。ゴ……ラン?」
「五麟学園じゃな。あそこの学園長が儂の息子の知り合いでなぁ」
「なんでお前はあたしの名前を憶えないくせにそういうところは覚えとるんじゃ!」
「このやり取り去年もやったのぅ」
そんな会話をするのは、平均年齢九十九歳の老人たち。敬老の日からの巨大連休を生かして、家族連れで京都に旅行に来ていた。なお、元から京都――というかFiVEにいる『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)はその付き添いで道場にいた。久しぶりに集まった親友同士、格闘の試合をしていたのだ。
「そうじゃ! お主あれじゃろう、ファインとかいう組織に入っとるそうじゃな! あの覚者組織の!」
「ファイブな。ちなみに去年戦った若造もFiVEじゃぞ」
「ああ、覚えておるぞ。中々骨のあるやつじゃった」
「よし、去年のお礼に今度は技を伝授してやろう。……無論、耐えられたらじゃがな」
「ははぁ、それはいい。ワシらの技が若者の役に立てばええがな」
「よーするに去年の借りを返したいだけじゃろうが……ま、構わんか」
そろそろ説明が必要だろうか。
この老人たちは源蔵の伝手を使って去年FiVEの覚者に試合を挑み(当時はFiVEは存在を秘していたため五麟学園の人間と言う扱いだった)、そして負けたのだ。老人達はその恨みを晴らそうとしているのである。
まあ恨みと言っても武術家における『次は勝つ!』程度であり、折角京都まで来たのだから今年もやろうか、と言う意図が深い。
かくして老人達は一路五麟市に向かうのであった。
●FiVE
「あー。まあ今年もよろしく頼む」
源蔵は一礼し、老人側に加わるのであった。
「どうやら儂の勝ちのようじゃ」
「ふん! 今のはあえて勝ちを譲ってやったのがわからンのか、このスケベジジイ!」
「まーまー、トキコさん。負けは素直に認めんと」
「あたしゃトミ子だよ! この耄碌ジジイ!」
「もう六時? ああ、そんな時間かの。じゃあそろそろご飯でも食うとするか。どこかええ所があるか知らんか?」
「儂か?」
「この辺に一番詳しいのはお前じゃろうが。なんとかって学園に世話になってるとか。ゴ……ラン?」
「五麟学園じゃな。あそこの学園長が儂の息子の知り合いでなぁ」
「なんでお前はあたしの名前を憶えないくせにそういうところは覚えとるんじゃ!」
「このやり取り去年もやったのぅ」
そんな会話をするのは、平均年齢九十九歳の老人たち。敬老の日からの巨大連休を生かして、家族連れで京都に旅行に来ていた。なお、元から京都――というかFiVEにいる『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)はその付き添いで道場にいた。久しぶりに集まった親友同士、格闘の試合をしていたのだ。
「そうじゃ! お主あれじゃろう、ファインとかいう組織に入っとるそうじゃな! あの覚者組織の!」
「ファイブな。ちなみに去年戦った若造もFiVEじゃぞ」
「ああ、覚えておるぞ。中々骨のあるやつじゃった」
「よし、去年のお礼に今度は技を伝授してやろう。……無論、耐えられたらじゃがな」
「ははぁ、それはいい。ワシらの技が若者の役に立てばええがな」
「よーするに去年の借りを返したいだけじゃろうが……ま、構わんか」
そろそろ説明が必要だろうか。
この老人たちは源蔵の伝手を使って去年FiVEの覚者に試合を挑み(当時はFiVEは存在を秘していたため五麟学園の人間と言う扱いだった)、そして負けたのだ。老人達はその恨みを晴らそうとしているのである。
まあ恨みと言っても武術家における『次は勝つ!』程度であり、折角京都まで来たのだから今年もやろうか、と言う意図が深い。
かくして老人達は一路五麟市に向かうのであった。
●FiVE
「あー。まあ今年もよろしく頼む」
源蔵は一礼し、老人側に加わるのであった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.老人達六名の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
敬老の日にまにあわんかった。
●敵情報
・老人達
一般人として武を重ね、老いた状態で因子発現した人達です。血気盛ん。
拙作『敬老の気持ちを込めて蹴る殴る』に出てきましたが、まあゲンキなジジババの認識で問題ありません。
戦いに勝てば、三種類の技のうち一つを最も活躍した人に伝授すると約束しています。一人一票、EXプレイングに取得したい技を書いてください。多数決で一番多かった技を伝授(ラーニングスキル不要)します。
『気炎万丈』榊原・源蔵
火の精霊顕現。百一歳男性。トンファー使いです。何故か相手側に居ます。
『五色の彩』『正鍛拳』『灼熱化』『鎧通し』『火纏』『物攻強化・弐』を活性化しています。
『万夫不当』米沢・トミ子
木の前世持ち。九十九歳女性。柔道家。
源素に頼るなど軟弱の証、とばかりに体術を重視しています。
『連覇法』『四方投げ』『物攻強化・弐』『空気投げ』『霞舞』『毘沙門力』を活性化しています。
『鴉天狗』久保田・大和
天の翼人。九十九歳男性。元AAA。この状況を楽しんでいます。
人の名前をわざと間違える意地悪ジジイ。後衛から攻めてきます。
『エアブリット』『迷霧』『演舞・清爽』『霞纏』『速度強化・弐』を活性化しています。
『堅牢なる十手』飯田・カナエ
土の付喪。百一歳女性。田舎で対妖の自警団長をしています。基本無言で、唯一の良識派。
十手(ナイフ相当)を武器とし、防御に長けます。
『機化硬』『無頼漢』蔵王・戒』『後の後』『土纏』『『物防強化・弐』『特防強化・弐』を活性化しています。
『物心一如』真淵・元
水の変化。小さな剣道場を開いています。九七歳男性。覚者と戦えることに心躍っています。変化後の姿は『百歳の自分』です。
自分の剣術に自信があるのか、水の術を使いません。
『B.O.T.』『斬・二の構え』『白夜』『福禄力』を活性化しています。
『正鵠を射る』双葉・仁
水の獣憑(未)。九七歳男性。国際大会で記録を残すほどの射撃手。ゴム弾が入った銃(スリングショット相当)を武器にしています。
戦局を冷静に見て、攻撃や支援に動きます。
『猛の一撃』『水龍牙』『水纏』『戦巫女之祝詞』『爽風之祝詞』『月穿』を活性化しています。
伝授対象体術
・空気投げ 物近単 最低限の力で相手を脱力させ、無力化します。[ダメージ0][弱体][鈍化][負荷]
・後の後 自 速度を犠牲にし、物理と特殊に対する防御力を増します。
・月穿 特遠単 月を穿つとまで言われた鋭い一撃。〔必殺〕
●補足事項
基本的に神具で本気攻撃しても問題ありませんが、明確な殺意を込めるのは禁止。
プレイングに『相手を倒したら殺します』旨のプレイングを書かない限りは、戦闘不能になっても死にません。
●場所情報
五麟学園にある剣道場。許可はとってあります。人の目とかは気にしなくていいです。
足場とか明るさとかは問題なし。便宜上、広さは二〇メートル四方とします。
戦闘開始時、『榊原』『米沢』『飯田』『真淵』が前衛に。『久保田』『双葉』が後衛にいます。味方前衛との距離は五メートルほど。味方の初期配置はご自由に。
事前付与なし。審判の試合開始合図と同時に行動です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年10月03日
2016年10月03日
■メイン参加者 8人■

●
「だいたい一年ぶりですか……」
昨年の事を思い出しながら『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は屈伸を行う。昨年の闘いは変則的な一対一だったが、今回は集団戦だ。この一年でかなりの経験を積んだ。また返り討ちにしてやると気合をいれる。
「こういう繰り返しは、ずっと続くといいと思うよ。そのうち私たちも、逆の側にまわるのだろうし」
神具を装着しながら『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)が笑みを浮かべる。遥か未来の『そのうち』を想像しながら、今はこれからの闘いに思いを馳せる。相手は六人の老人。数こそこちらに比べて少ないが、けして侮れない相手だ。
「ご高齢の方々を相手にするのは気が引けますが……」
鎖分銅にセーラー服。『希望峰』七海 灯(CL2000579)は言いながらも、矍鑠とした老人達を見てその考えを改める。相手は相応に鍛錬を積んだ武術家。全力で挑むことこそが最大の礼儀なのだと、気を引き締めた。
「おじいちゃんたちメッチャ元気そうやん」
戦いの準備をする老人達を見ながら茨田・凜(CL2000438)が頷いた。流石に凜の好みに合う相手ではないが、エネルギッシュな何かを感じる。それに負けないようにと頬を叩き、戦いに挑む。
「老いてなお、血気盛ん、ですね」
戦いを挑んできた老人達に『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)が剣術家として感嘆の声をあげる。自分が年を取ったときもかくありたいものだ。敬意をもって、しかし手を抜かず挑む。それが最大の礼儀だとばかりに抜刀する。
「ちょっとばかしつえーじいさんには心当たりがあるんでな。油断はしねーよ」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は祖父の事を思い出す。巖心流の流れを汲む小さな剣術道場の跡取りである飛馬は、祖父の強さを直で知っている。老いてなお衰えぬ強さがある。それを知っているがゆえに、油断はない。
「オレのじーさんもそうだからな……遠慮なく全力でぶつかろう」
同じく強い老人に覚えがある『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)。鹿島の太刀の流れをくむ兵法を祖父から学んでいた懐良。その強さは今でも思い出せる。老人だからと言って侮るつもりはない。むしろ学ばせてもらうつもりでいた。
「……そういえば、うちのじーさまはまだ生きておったろうか」
ふとそんなことを思い出す華神 刹那(CL2001250)。刀一本で旅をしていた刹那だが、しばらく祖父に会っていないことを思い出す。葬式には出ていないから死んでないだろう、と割り切れるのは、その強さを知っているからだ。
「かっかっ。まだまだ若造には負けん!」
老人達はFiVEの覚者達を前に構えを取る。その動くのスムーズさに、武を知る者は驚きを感じる。呼吸をするよりも自然に。数十年間繰り返された動作の所作。構え一つでそれが表される。
だがそれは勝敗を決定するものではない。勝負を挑まれた以上、負けるつもりは毛頭なかった。
「一同、礼!」
一礼後、審判の旗が上がる。弾かれるように覚者達は戦いに身を投じていた。
●
「全力で行かせていただきます!」
最初に動いたのは灯だった。青の炎を纏い、鎖鎌を構える。少し引いた位置で戦場を見渡し、状況を判断する。海を照らす灯台のように、誰かを導く光のように。誰が厄介な相手かを見極め、その一手を打つ。
灯が目をつけたのは、防御に長けた飯田だった。飯田がもつ十手に鎖を絡ませ、その動きを封じる。防御の基点を封じ、その出足をくじく。それが灯の役目。飯田と視線が絡まった。どちらともなく二人は笑みを浮かべる。
「私の役目は先手を取って封じること。皆の灯となることです」
「悪くない判断だ。初手を取られるとは意外だったな」
「素早い行動はどの兵法書でも推奨されてるからな」
『相伝当麻国包』を手に懐良が口を挟む。有史以来、戦いを始めるなら入念な準備よりも稚拙でも素早い方がいい、と謡う兵法書は多い。勿論入念な準備ができるに越したことはないのだが、速度により生まれる余裕があるのは確かだ。
腰を落とし、しっかりと足元を踏みしめる。重要なのは足からの感覚。それを強く意識して、地面を擦るように移動して刀を振るう。移動の力が、そのまま刀を振るう力に加算される。横一文字の広い一閃。それが老人達を一気に薙ぐ。
「一手の遅れというのは、戦いの上で不利となるからな」
「見事見事。さてこれで終わりかな?」
「まだまだ! 一気に攻めるよ!」
言って一気に間合いを詰める悠乃。去年は飯田とやりあったが、今年は総当たり戦。ならすべての老人とやりあおう。そんな気概で乱戦に挑む。全員三回は拳を交わしたい。そうすることで、得られるものがあるのだから。
両手にはめた手甲に炎を宿らせ、榊原に迫る。トンファーを構えた榊原に迫り、真っ直ぐに拳を突き出した。トンファーで受け止められたが、それは想定内。手のひらで榊原の腕を押さえて回転させ、ガードの隙を作りそこに拳を叩き込む。
「げんぞーさん、隙ありだよ!」
「むぅ、胸はむしろワシの方が触りたいのに!」
「セクハラは、御法度、です」
ぴしゃりと言い放つ祇澄。そういう行為はお断りだが、長年生きた武術家の行動は為になる。一合一合を大事にしながら祇澄は刀を振るっていた。ふざけているように見えて、その攻防には覚者の強さではない『巧み』を感じる。
飯田が防御の体勢に入るのを確認し、体内で炎を燃やす祇澄。呼吸を整え『夫婦刀・天地』を握りしめる。下段から回転するような二連撃。片方の刀で十手に一撃を叩き込んで揺らし、二度目の攻撃でその構えを崩す。
「貴女に、その構えは、取らせません」
「徹底してるね。何よりも基礎がしっかりしている」
「謝辞は返しておこう。刀で、だがな」
回転するように乱戦の間を移動し、刹那が刀を振るう。目指す先は同じ刀を持つ真淵。穏やかな笑みを浮かべながら、殺人を厭わぬほどの力で刀を振るう。それは無想剣。ただ刀を振り上げ、下ろすだけの邪気のない構え。
刹那が振り下ろす刀は真淵の刀と交差する。その動きは心妙剣。研ぎ澄ました精神で相手の動きを捕らえるという剣の境地の一つ。一合ごとに互いの剣の目指す境地を理解する。打ち合う刃音が言語。刹那と真淵は、無言で互いを理解していた。
「先達に噛み付き越えてこその成長よ」
「違いない。若いころを思い出す」
「生憎と老人だからと接待するつもりはないので」
斬りあう二人に水を差すように槐が割って入る。直接的な攻撃ではなく、味方強化や敵弱体化などの支援行動だ。力で攻めるだけが戦いではない。味方の戦力を最大限生かすように動くのも、また戦いなのだ。
治癒力を高める香を振りまき味方を強化し、老人達には不安を高める香を散布する。相手の気が逸れて集中砲火がずれれば良し。あわよくば、味方同士で殴り合ってくれればよし。相手のチームワークを乱せれば、それが一番だ。
「よし【混乱】した。喰らえ、久保田!」「本当に混乱しとるんか、トキコさん!?」「あたしゃトミ子だよ!」
「……割と通常運営っぽいですね」
「いいんちゃう? これはこれで」
手を叩きながら凜が老人達の行動を見て喜んでいた。どんな状況でも楽しんでいられるのは、長生きの秘訣なのかもしれない。『何事も適度に手抜き』をモットーとしている凜からすれば、BSを喰らっても嘆かない感性は素晴らしいと思う。
好感をもてる老人達だが、勝ち負けは別問題だ。傷ついている味方を見つけ、体内に水の力を循環させる凜。自分の腹部を抱くように優しく触れ、『生命』を強く意識して術式を解き放つ。透き通る水の雫が、仲間の傷を癒していく。
「でも、がんばりすぎて後でギックリ腰になったりしないかちょっと心配なんよ」
「ふん、ワシらの腰はあと六十年は大丈夫じゃよ」
「本当にあと六十年は大丈夫に思えるのは頼もしいというべきか」
榊原の言葉に呆れるような顔をする飛馬。だがそれが嘘にも思えない老人達の元気の良さを感じていた。ふと祖父の事を思い出し、その技の切れを思い出していた。年をとっても衰えを感じさせない剣筋。そこに老いのイメージはなかった。
祖父の構えをなぞるように飛馬も刀を構える。両手に構えた太刀を正中線を守るようにして、致命傷を避けるように立つ。乱暴な物言いだが、武術は効率よく人体の急所を狙う技術だ。急所を狙う一撃を太刀で受け止め、受け流す。
「普段は隔者やら妖やらの相手してっけど、俺けっこうこういう模擬戦好きだぜ」
「ほっほ。今のを受け止めるか。師に恵まれたな」
互いに打ち合いながら、しかし互いへの敬意を欠かさない。隔者や妖とは違った覚者同士の戦い。
無論、敬意は抱くが手加減はしない。誰も口にはしないが、それは互いの一撃が語っていた。
●
FiVEの覚者が老人達の戦術の要である飯田を責めるように、老人達も覚者達の要であるバッドステータスを振りまく灯と回復役の凜を狙っていた。
「流石ですね」
「あ、いったー」
命数を燃やして灯と凜は立ち上がる。
「本当に源蔵さんは向うに回っている上に厄介ですよ!」
槐は貫通スキルを使って中衛まで攻撃する榊原に対し、怒りをあらわにしていた。後で何か奢れ、と抗議する。飯田の与えるバッドステータスの解除にひっきりなしの槐。だがその甲斐もあって、味方前衛の動きは快調だった。
「乱戦!」
「上等」
悠乃と刹那の華神姉妹は前衛の老人四人に対して乱戦を挑んでいた。刹那の刀が戦線を開くように振るわれ、その隙間に突撃するように悠乃が割り込んでいく。布陣に穴が開けば、連携に僅かな途切れが生まれる。そのわずかを逃さぬように攻める。
米沢の腕が悠乃の腕をつかむ。投げられる、と思ったときには悠乃の体は宙を舞っていた。その体が地面に叩きつけられる前に、刹那が悠乃の服を掴んで着地させる。その動きが分かっていたかのように、悠乃が地面を蹴って米沢にタックルを仕掛けた。
「俺にできることっつーと守るくらいしかねーけどな」
飛馬は防御の構えを取って凜を守っていた。攻撃を受け止めるたびに痺れる手。防御一辺倒の剣術を華々しさに欠けると嫌がっていた時期があった。だが、いざ戦場に立てばその重要性が理解できる。そしてその難しさも。
「はいはい、行くよー」
飛馬に守られながら凜は回復の術式を行使する。諸事情でお腹は守るつもりだったが、以外にもそちらへの攻撃は来なかった。老人達が察してくれたのだろうか。
「楽しんでもらうぜ。これが未来を背負っていく若いモンの姿だ」
飯田の十手が懐良の刀に絡まる。梃子の原理で奪われそうになる刀。懐良は迷うことなく刀を手放し、飯田に蹴りを放つ。大切な事項を思考し、瞬時に最適解を出す。それが兵法者。懐良は剣士ではない。大切なのは、刀よりも勝利への道なのだ。
「ここで、決めます!」
バランスを崩した飯田に向かい、祇澄が走る。防御に長けた十手使いに生まれた隙。それを逃す手はない。二歩と半歩をすり足で迫り、身体ごと回転させるように刀を振るう。飯田の顔が笑顔に変わる。そのまま道場の畳に崩れ落ちた。
「貴女をここで止めさせてもらいます」
灯は米沢を足止めしていた。鎖鎌を絡ませ、その動きを制限する。鎖を通じて米沢が次にどう動くかを感じ取り、そのバランスを崩すように鎖を引き、あるいは緩める。綱引きと駆け引き。負ければまた鎖を絡ませて。重要なのは、ここで足止めをすることだ。
「剣士として、興味はあります」
「だな。拙も興味がある」
「来なさい。多対一を卑怯というほど緩く生きてはいない」
祇澄と刹那が剣士として真淵に挑む。詰め将棋のような綿密な攻めをする真淵に対し、心を無にして挑む刹那、舞うように攻める祇澄。刀はせわしなく交差し、刃金の音は途切れなく鳴り響く。
「そろそろ引いて回復に回った方がいいかな?」
「では私が前に行きますね」
仲間の傷が増えてきたのを察して悠乃が後ろに下がり回復役に移行する。それを察して穴埋めとばかりに槐が防御力を強化して前に出た。流動的な戦術の流れ。悠乃が思念で会話をしていることもあるが、それ以上に戦いの経験が動きをスムーズにしていた。
「見事な受けの構え。成程、巖心流の剣士であったか」
「まだまだ未熟だけどな。簡単には倒れねーぜ」
命数を燃やして双葉の一撃に耐える飛馬。月を穿つと言われた一撃で意識を失いかけったが、ここで倒れるわけにはいかない、と太刀を杖にして立ち上がる。今はまだ未熟だが、この道を進んだ先には何かが見えてくるのかもしれない。
「武芸百般こそが、兵法だ。学ばせてもらうぜ、ご老体の動き」
「なら学ンでみな! ただし授業料として何度畳に投げられるかはわからンけどね!」
「はい。学ばせてもらいます」
老人達の動きを学ぼうとする懐良に、呵々大笑と笑い飛ばす米沢。手痛い授業料になると知りながらも、むしろ喜々として頷く灯。そこに不純な思いはない。純粋に彼らの動きを学びたいと思うからこその、力強い言葉。
勝敗を分けたのは純粋な数と、そして戦術。最初に防御の基点である飯田を封したことが勝敗を分けたのだろう。老人達はその遅れを取り戻すには手数が足りなかった。押され続ける老人達。前衛に立つ老人が一人、また一人と倒れていく。
「げんぞーさん、これでおしまいだよ!」
悠乃の手甲が前衛に最後に残った榊原に迫る。ジャブで相手を牽制し、防御の構えを崩してからのストレート。基本に忠実な動きは、基本に忠実だからこそ最速でそして真っ直ぐに相手の顔に叩き込まれた。
「うっしゃー!」
倒れた榊原を前にこぶしを突き上げる悠乃。それはこの勝負の事実上の勝利決定の瞬間だった。
●
前衛が全員倒れたことで、勝負はFiVE側の勝利となる。これ以上の闘いは意味がないという審判の判断であり、老人達も反対はしなかった。
「あいたたた……。ワシらも年とったのぅ」
体の節々を擦りながら起き上がる老人達。そんな彼らに湿布を張ってやる凜。色々遊んでいるように見えるが、老人には優しいのである。
「拙はこちらを振舞ってやろう」
刹那は水の術式を使って老人達の傷を癒す。もっとも戦いで気力を結構削っているため、大盤振る舞いとはいかなかったが。大事なのは気持ちである。
「あー、負けた負けた。それじゃ約束通り技の伝授と行くか」
「ふん、基本的な部分はそこの嬢ちゃんに戦いで教えてるンで、後は数をこなして体に覚えさせるだけだよ」
「私……ですか?」
米沢が指をさしたのは、灯だった。
「鎖を通して何度か力の加減は教えたろう? あの加減を素手でやればいいンだよ。もう何度か受ければ、身につくンじゃないかね?」
言って立ち上がる米沢。灯を道場の方に連れて行き、技を体に覚えさせようと何度も繰り返す。
「他流派の話とか聞きかせてもらえねーかな」
「そうですね。色々、お話を聞かせて、貰えますか?」
飛馬と祇澄が老人達の武勇伝を聞こうと迫る。祇澄が淹れてくれたお茶を手に、老人達の武勇伝に花が咲く。大抵は荒唐無稽なお話だが、それを嘘と感じさせない何かが老人達にはあった。
このように年を重ねて、自分達も武勇伝を語れる日が来るのだろうか? そんな遠い未来の事を、ふと夢想していた。
灯への技の伝授は二時間に渡った。コツを掴めばあとは実戦、とばかりに米沢は満足げに帰宅の準備をする。
「んじゃ、ま。また来年かね。次にまた、見えるときまで死ぬんじゃねーぞ」
「来年にご期待ください」
「また会いましょうねー」
懐良と槐と悠乃が手を振って五人の老人を見送る。残った一人――榊原は軽く伸びをしながら帰路につこうとして、
「ですから何か奢ってくれないと許さないのです」
「仕方ないのぅ。焼肉でいいか?」
槐に捕まり、財布の中身を確認することになる。労いもかねて、榊原の奢りで焼き肉を食べることになった。
戦い疲れた八人の覚者の腹を満たすだけ奢った榊原は、しばらく煙草と酒の量が減ったのだが――それは些末な話である。
「だいたい一年ぶりですか……」
昨年の事を思い出しながら『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は屈伸を行う。昨年の闘いは変則的な一対一だったが、今回は集団戦だ。この一年でかなりの経験を積んだ。また返り討ちにしてやると気合をいれる。
「こういう繰り返しは、ずっと続くといいと思うよ。そのうち私たちも、逆の側にまわるのだろうし」
神具を装着しながら『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)が笑みを浮かべる。遥か未来の『そのうち』を想像しながら、今はこれからの闘いに思いを馳せる。相手は六人の老人。数こそこちらに比べて少ないが、けして侮れない相手だ。
「ご高齢の方々を相手にするのは気が引けますが……」
鎖分銅にセーラー服。『希望峰』七海 灯(CL2000579)は言いながらも、矍鑠とした老人達を見てその考えを改める。相手は相応に鍛錬を積んだ武術家。全力で挑むことこそが最大の礼儀なのだと、気を引き締めた。
「おじいちゃんたちメッチャ元気そうやん」
戦いの準備をする老人達を見ながら茨田・凜(CL2000438)が頷いた。流石に凜の好みに合う相手ではないが、エネルギッシュな何かを感じる。それに負けないようにと頬を叩き、戦いに挑む。
「老いてなお、血気盛ん、ですね」
戦いを挑んできた老人達に『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)が剣術家として感嘆の声をあげる。自分が年を取ったときもかくありたいものだ。敬意をもって、しかし手を抜かず挑む。それが最大の礼儀だとばかりに抜刀する。
「ちょっとばかしつえーじいさんには心当たりがあるんでな。油断はしねーよ」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は祖父の事を思い出す。巖心流の流れを汲む小さな剣術道場の跡取りである飛馬は、祖父の強さを直で知っている。老いてなお衰えぬ強さがある。それを知っているがゆえに、油断はない。
「オレのじーさんもそうだからな……遠慮なく全力でぶつかろう」
同じく強い老人に覚えがある『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)。鹿島の太刀の流れをくむ兵法を祖父から学んでいた懐良。その強さは今でも思い出せる。老人だからと言って侮るつもりはない。むしろ学ばせてもらうつもりでいた。
「……そういえば、うちのじーさまはまだ生きておったろうか」
ふとそんなことを思い出す華神 刹那(CL2001250)。刀一本で旅をしていた刹那だが、しばらく祖父に会っていないことを思い出す。葬式には出ていないから死んでないだろう、と割り切れるのは、その強さを知っているからだ。
「かっかっ。まだまだ若造には負けん!」
老人達はFiVEの覚者達を前に構えを取る。その動くのスムーズさに、武を知る者は驚きを感じる。呼吸をするよりも自然に。数十年間繰り返された動作の所作。構え一つでそれが表される。
だがそれは勝敗を決定するものではない。勝負を挑まれた以上、負けるつもりは毛頭なかった。
「一同、礼!」
一礼後、審判の旗が上がる。弾かれるように覚者達は戦いに身を投じていた。
●
「全力で行かせていただきます!」
最初に動いたのは灯だった。青の炎を纏い、鎖鎌を構える。少し引いた位置で戦場を見渡し、状況を判断する。海を照らす灯台のように、誰かを導く光のように。誰が厄介な相手かを見極め、その一手を打つ。
灯が目をつけたのは、防御に長けた飯田だった。飯田がもつ十手に鎖を絡ませ、その動きを封じる。防御の基点を封じ、その出足をくじく。それが灯の役目。飯田と視線が絡まった。どちらともなく二人は笑みを浮かべる。
「私の役目は先手を取って封じること。皆の灯となることです」
「悪くない判断だ。初手を取られるとは意外だったな」
「素早い行動はどの兵法書でも推奨されてるからな」
『相伝当麻国包』を手に懐良が口を挟む。有史以来、戦いを始めるなら入念な準備よりも稚拙でも素早い方がいい、と謡う兵法書は多い。勿論入念な準備ができるに越したことはないのだが、速度により生まれる余裕があるのは確かだ。
腰を落とし、しっかりと足元を踏みしめる。重要なのは足からの感覚。それを強く意識して、地面を擦るように移動して刀を振るう。移動の力が、そのまま刀を振るう力に加算される。横一文字の広い一閃。それが老人達を一気に薙ぐ。
「一手の遅れというのは、戦いの上で不利となるからな」
「見事見事。さてこれで終わりかな?」
「まだまだ! 一気に攻めるよ!」
言って一気に間合いを詰める悠乃。去年は飯田とやりあったが、今年は総当たり戦。ならすべての老人とやりあおう。そんな気概で乱戦に挑む。全員三回は拳を交わしたい。そうすることで、得られるものがあるのだから。
両手にはめた手甲に炎を宿らせ、榊原に迫る。トンファーを構えた榊原に迫り、真っ直ぐに拳を突き出した。トンファーで受け止められたが、それは想定内。手のひらで榊原の腕を押さえて回転させ、ガードの隙を作りそこに拳を叩き込む。
「げんぞーさん、隙ありだよ!」
「むぅ、胸はむしろワシの方が触りたいのに!」
「セクハラは、御法度、です」
ぴしゃりと言い放つ祇澄。そういう行為はお断りだが、長年生きた武術家の行動は為になる。一合一合を大事にしながら祇澄は刀を振るっていた。ふざけているように見えて、その攻防には覚者の強さではない『巧み』を感じる。
飯田が防御の体勢に入るのを確認し、体内で炎を燃やす祇澄。呼吸を整え『夫婦刀・天地』を握りしめる。下段から回転するような二連撃。片方の刀で十手に一撃を叩き込んで揺らし、二度目の攻撃でその構えを崩す。
「貴女に、その構えは、取らせません」
「徹底してるね。何よりも基礎がしっかりしている」
「謝辞は返しておこう。刀で、だがな」
回転するように乱戦の間を移動し、刹那が刀を振るう。目指す先は同じ刀を持つ真淵。穏やかな笑みを浮かべながら、殺人を厭わぬほどの力で刀を振るう。それは無想剣。ただ刀を振り上げ、下ろすだけの邪気のない構え。
刹那が振り下ろす刀は真淵の刀と交差する。その動きは心妙剣。研ぎ澄ました精神で相手の動きを捕らえるという剣の境地の一つ。一合ごとに互いの剣の目指す境地を理解する。打ち合う刃音が言語。刹那と真淵は、無言で互いを理解していた。
「先達に噛み付き越えてこその成長よ」
「違いない。若いころを思い出す」
「生憎と老人だからと接待するつもりはないので」
斬りあう二人に水を差すように槐が割って入る。直接的な攻撃ではなく、味方強化や敵弱体化などの支援行動だ。力で攻めるだけが戦いではない。味方の戦力を最大限生かすように動くのも、また戦いなのだ。
治癒力を高める香を振りまき味方を強化し、老人達には不安を高める香を散布する。相手の気が逸れて集中砲火がずれれば良し。あわよくば、味方同士で殴り合ってくれればよし。相手のチームワークを乱せれば、それが一番だ。
「よし【混乱】した。喰らえ、久保田!」「本当に混乱しとるんか、トキコさん!?」「あたしゃトミ子だよ!」
「……割と通常運営っぽいですね」
「いいんちゃう? これはこれで」
手を叩きながら凜が老人達の行動を見て喜んでいた。どんな状況でも楽しんでいられるのは、長生きの秘訣なのかもしれない。『何事も適度に手抜き』をモットーとしている凜からすれば、BSを喰らっても嘆かない感性は素晴らしいと思う。
好感をもてる老人達だが、勝ち負けは別問題だ。傷ついている味方を見つけ、体内に水の力を循環させる凜。自分の腹部を抱くように優しく触れ、『生命』を強く意識して術式を解き放つ。透き通る水の雫が、仲間の傷を癒していく。
「でも、がんばりすぎて後でギックリ腰になったりしないかちょっと心配なんよ」
「ふん、ワシらの腰はあと六十年は大丈夫じゃよ」
「本当にあと六十年は大丈夫に思えるのは頼もしいというべきか」
榊原の言葉に呆れるような顔をする飛馬。だがそれが嘘にも思えない老人達の元気の良さを感じていた。ふと祖父の事を思い出し、その技の切れを思い出していた。年をとっても衰えを感じさせない剣筋。そこに老いのイメージはなかった。
祖父の構えをなぞるように飛馬も刀を構える。両手に構えた太刀を正中線を守るようにして、致命傷を避けるように立つ。乱暴な物言いだが、武術は効率よく人体の急所を狙う技術だ。急所を狙う一撃を太刀で受け止め、受け流す。
「普段は隔者やら妖やらの相手してっけど、俺けっこうこういう模擬戦好きだぜ」
「ほっほ。今のを受け止めるか。師に恵まれたな」
互いに打ち合いながら、しかし互いへの敬意を欠かさない。隔者や妖とは違った覚者同士の戦い。
無論、敬意は抱くが手加減はしない。誰も口にはしないが、それは互いの一撃が語っていた。
●
FiVEの覚者が老人達の戦術の要である飯田を責めるように、老人達も覚者達の要であるバッドステータスを振りまく灯と回復役の凜を狙っていた。
「流石ですね」
「あ、いったー」
命数を燃やして灯と凜は立ち上がる。
「本当に源蔵さんは向うに回っている上に厄介ですよ!」
槐は貫通スキルを使って中衛まで攻撃する榊原に対し、怒りをあらわにしていた。後で何か奢れ、と抗議する。飯田の与えるバッドステータスの解除にひっきりなしの槐。だがその甲斐もあって、味方前衛の動きは快調だった。
「乱戦!」
「上等」
悠乃と刹那の華神姉妹は前衛の老人四人に対して乱戦を挑んでいた。刹那の刀が戦線を開くように振るわれ、その隙間に突撃するように悠乃が割り込んでいく。布陣に穴が開けば、連携に僅かな途切れが生まれる。そのわずかを逃さぬように攻める。
米沢の腕が悠乃の腕をつかむ。投げられる、と思ったときには悠乃の体は宙を舞っていた。その体が地面に叩きつけられる前に、刹那が悠乃の服を掴んで着地させる。その動きが分かっていたかのように、悠乃が地面を蹴って米沢にタックルを仕掛けた。
「俺にできることっつーと守るくらいしかねーけどな」
飛馬は防御の構えを取って凜を守っていた。攻撃を受け止めるたびに痺れる手。防御一辺倒の剣術を華々しさに欠けると嫌がっていた時期があった。だが、いざ戦場に立てばその重要性が理解できる。そしてその難しさも。
「はいはい、行くよー」
飛馬に守られながら凜は回復の術式を行使する。諸事情でお腹は守るつもりだったが、以外にもそちらへの攻撃は来なかった。老人達が察してくれたのだろうか。
「楽しんでもらうぜ。これが未来を背負っていく若いモンの姿だ」
飯田の十手が懐良の刀に絡まる。梃子の原理で奪われそうになる刀。懐良は迷うことなく刀を手放し、飯田に蹴りを放つ。大切な事項を思考し、瞬時に最適解を出す。それが兵法者。懐良は剣士ではない。大切なのは、刀よりも勝利への道なのだ。
「ここで、決めます!」
バランスを崩した飯田に向かい、祇澄が走る。防御に長けた十手使いに生まれた隙。それを逃す手はない。二歩と半歩をすり足で迫り、身体ごと回転させるように刀を振るう。飯田の顔が笑顔に変わる。そのまま道場の畳に崩れ落ちた。
「貴女をここで止めさせてもらいます」
灯は米沢を足止めしていた。鎖鎌を絡ませ、その動きを制限する。鎖を通じて米沢が次にどう動くかを感じ取り、そのバランスを崩すように鎖を引き、あるいは緩める。綱引きと駆け引き。負ければまた鎖を絡ませて。重要なのは、ここで足止めをすることだ。
「剣士として、興味はあります」
「だな。拙も興味がある」
「来なさい。多対一を卑怯というほど緩く生きてはいない」
祇澄と刹那が剣士として真淵に挑む。詰め将棋のような綿密な攻めをする真淵に対し、心を無にして挑む刹那、舞うように攻める祇澄。刀はせわしなく交差し、刃金の音は途切れなく鳴り響く。
「そろそろ引いて回復に回った方がいいかな?」
「では私が前に行きますね」
仲間の傷が増えてきたのを察して悠乃が後ろに下がり回復役に移行する。それを察して穴埋めとばかりに槐が防御力を強化して前に出た。流動的な戦術の流れ。悠乃が思念で会話をしていることもあるが、それ以上に戦いの経験が動きをスムーズにしていた。
「見事な受けの構え。成程、巖心流の剣士であったか」
「まだまだ未熟だけどな。簡単には倒れねーぜ」
命数を燃やして双葉の一撃に耐える飛馬。月を穿つと言われた一撃で意識を失いかけったが、ここで倒れるわけにはいかない、と太刀を杖にして立ち上がる。今はまだ未熟だが、この道を進んだ先には何かが見えてくるのかもしれない。
「武芸百般こそが、兵法だ。学ばせてもらうぜ、ご老体の動き」
「なら学ンでみな! ただし授業料として何度畳に投げられるかはわからンけどね!」
「はい。学ばせてもらいます」
老人達の動きを学ぼうとする懐良に、呵々大笑と笑い飛ばす米沢。手痛い授業料になると知りながらも、むしろ喜々として頷く灯。そこに不純な思いはない。純粋に彼らの動きを学びたいと思うからこその、力強い言葉。
勝敗を分けたのは純粋な数と、そして戦術。最初に防御の基点である飯田を封したことが勝敗を分けたのだろう。老人達はその遅れを取り戻すには手数が足りなかった。押され続ける老人達。前衛に立つ老人が一人、また一人と倒れていく。
「げんぞーさん、これでおしまいだよ!」
悠乃の手甲が前衛に最後に残った榊原に迫る。ジャブで相手を牽制し、防御の構えを崩してからのストレート。基本に忠実な動きは、基本に忠実だからこそ最速でそして真っ直ぐに相手の顔に叩き込まれた。
「うっしゃー!」
倒れた榊原を前にこぶしを突き上げる悠乃。それはこの勝負の事実上の勝利決定の瞬間だった。
●
前衛が全員倒れたことで、勝負はFiVE側の勝利となる。これ以上の闘いは意味がないという審判の判断であり、老人達も反対はしなかった。
「あいたたた……。ワシらも年とったのぅ」
体の節々を擦りながら起き上がる老人達。そんな彼らに湿布を張ってやる凜。色々遊んでいるように見えるが、老人には優しいのである。
「拙はこちらを振舞ってやろう」
刹那は水の術式を使って老人達の傷を癒す。もっとも戦いで気力を結構削っているため、大盤振る舞いとはいかなかったが。大事なのは気持ちである。
「あー、負けた負けた。それじゃ約束通り技の伝授と行くか」
「ふん、基本的な部分はそこの嬢ちゃんに戦いで教えてるンで、後は数をこなして体に覚えさせるだけだよ」
「私……ですか?」
米沢が指をさしたのは、灯だった。
「鎖を通して何度か力の加減は教えたろう? あの加減を素手でやればいいンだよ。もう何度か受ければ、身につくンじゃないかね?」
言って立ち上がる米沢。灯を道場の方に連れて行き、技を体に覚えさせようと何度も繰り返す。
「他流派の話とか聞きかせてもらえねーかな」
「そうですね。色々、お話を聞かせて、貰えますか?」
飛馬と祇澄が老人達の武勇伝を聞こうと迫る。祇澄が淹れてくれたお茶を手に、老人達の武勇伝に花が咲く。大抵は荒唐無稽なお話だが、それを嘘と感じさせない何かが老人達にはあった。
このように年を重ねて、自分達も武勇伝を語れる日が来るのだろうか? そんな遠い未来の事を、ふと夢想していた。
灯への技の伝授は二時間に渡った。コツを掴めばあとは実戦、とばかりに米沢は満足げに帰宅の準備をする。
「んじゃ、ま。また来年かね。次にまた、見えるときまで死ぬんじゃねーぞ」
「来年にご期待ください」
「また会いましょうねー」
懐良と槐と悠乃が手を振って五人の老人を見送る。残った一人――榊原は軽く伸びをしながら帰路につこうとして、
「ですから何か奢ってくれないと許さないのです」
「仕方ないのぅ。焼肉でいいか?」
槐に捕まり、財布の中身を確認することになる。労いもかねて、榊原の奢りで焼き肉を食べることになった。
戦い疲れた八人の覚者の腹を満たすだけ奢った榊原は、しばらく煙草と酒の量が減ったのだが――それは些末な話である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
ジジババ達の我儘にお付き合いいただき、ありがとうございました。
投票の結果は【空気投げ】となりました。ふわっと投げ飛ばします。
……これを次は私達(ST)が喰らうのかー、と思うと若干苦々しくもあるのですが、これもSTの楽しみだったりはします。
MVPは高速BS地獄を味合わせてくれた七海様に。
ともあれお疲れ様です。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
ジジババ達の我儘にお付き合いいただき、ありがとうございました。
投票の結果は【空気投げ】となりました。ふわっと投げ飛ばします。
……これを次は私達(ST)が喰らうのかー、と思うと若干苦々しくもあるのですが、これもSTの楽しみだったりはします。
MVPは高速BS地獄を味合わせてくれた七海様に。
ともあれお疲れ様です。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
