じーさんを何故か労う子供の日
●じじいは言った。水着が見たいと
「老い先短いジジイのわがまm……願いと思って聞いてくれんかのぅ」
『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)はそんな理由で、五麟学園屋内共同プールを貸し切った。
「老い先短いジジイのわがまm……願いと思って聞いてくれんかのぅ」
『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)はそんな理由で、五麟学園屋内共同プールを貸し切った。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.GWの最中、ジジイの百一歳の誕生日を祝う
2.水着! プール!
3.楽しんだもの勝ち!
2.水着! プール!
3.楽しんだもの勝ち!
こんなジジイになりたいものです。
●説明ッ!
5月5日は榊原源蔵の誕生日である。
「そういえば誕生日プレゼントに何か欲しいものあります?」と聞いたところ、このジジイは「じゃあ一足早く水着が見たいのぅ」と言いました。
いやねえよ、と流そうとする前にジジイが五麟学園に電話し、一日貸し切り状態にしてしまいました。お代は何処にくのやら。
まあ源蔵自身も戦い疲れた皆の慰労を含めての行為。たまには羽目を外して遊ぶのも悪くはない、という事で許可がでました。
「あ、もちろん水着以外認めんからな」
……そうだと信じたい。
●場所情報
五麟学園にある屋内共同プール。ゴールデンウィーク中なので、学園外の人間でも普通に入ってこれます。時刻は昼から夕方にかけて。
清掃して水が張ってある25mプールと、プールサイドに様々な料理を用意してあります。プールで楽しむもよし。色々食べるもよし。歓談するもよし。何をしようが自由です。趣旨は榊原の誕生日だった気がしますが、当の本人もみんなが楽しんでいする方を見るのが楽しいらしく、むしろ好き勝手楽しんでもらうのは歓迎です。
あ、学校内なので成人でも飲酒禁止。喫煙行為も固く禁じられます。TPOを守るのが使用の条件です。
行動は主に四種類です。その他があれば【5】でお願いします。
プレイングの頭か、EXプレイングに番号を付けてください。
【1】プールで泳ぐ:プールで泳ぎます。一般的なプールでできることはまずできるでしょう。
【2】プールサイドで歓談:プールサイドで歓談します。食べ物や飲み物をもってきてもかまいません。
【3】料理や調理:料理を食べたり作ったり。給仕なども含まれます。
【4】榊原とバトる:イベシナなので模擬戦です。具体的にはどくどくが全力で戦闘描写します。
●NPC
榊原・源蔵(nCL2000050)
スケベな爺です。主賓のような気がする。呼ばれればどこにでも行きます。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
29/∞
29/∞
公開日
2016年05月18日
2016年05月18日
■メイン参加者 29人■

●
さて、水着目的でプールで誕生パーティを企画した源蔵であるが、
「こう、勢いポロリとかしねーかなー」
影踏も似たような感覚でプールで泳ぐ乙女達を見ていた。
「胸の部分がこー、ポロリと」
「水に潜った時に水着がずれて、水面に出るまで気付かずに」
駄目だこの男たち、はやく何とかしないと。
「所でご老体、俺っちの水着で悩殺されちゃうかい?」
「その年でブーメランパンツを吐く漢気は褒めてもいいと思うぞ、櫻舞の」
セクシーポーズをとる影踏に、呆れるように源蔵は言う。
「年齢と水着で言えばうちのシキちゃんも負けてない――」
「叔父! これ、きみの仕業だろう……!」
怒声と共にシキがプールサイドを大股で歩いてくる。紺色のスクール水着。胸に『白部』と刺繍してある名札。その胸の大きさもあって、なんというか十八歳のシキが着るには色々マニアックである。
「これは中学時代の水着じゃないか!」
「似合ってるしいいじゃねぇの……痛い、悪かった、悪かったから!」
「似合っていてたまるか! きみは、こんなことのためにプールに来たのか!」
ひとしきり影踏を攻めて落ち着いたのか、(一応)主賓の源蔵がいることに気づいて一礼する。
「ともかく、誕生日おめでとう。それからお招きありがとう」
「うむ。水着の件は災難じゃったが、それなりにあっておるぞ」
「……人は歳を経るだけでは変わらないものだな……」
盛大に肩をすくめるシキ。
「榊原さん、あの、初めまして。えっと、お誕生日……おめでとう御座います!」
壱縷は所々言葉を詰まらせながら、源蔵に祝いを告げた。緊張しているのか、動作も少しぎこちない。
「おお、ありがとう壱縷ちゃん。気楽に楽しんだほうがいいぞ」
そんな壱縷に肩の力を抜くように言う源蔵。
「はい、あの、私で良ければバースデーソングを歌えればと」
言って背筋を伸ばして真っ直ぐに立つ壱縷。肺に空気を吸い込めば、その瞬間緊張が消える。歌うという行為は壱縷の日常。この歌で誰かを励ますことができるのなら。その思いで歌い続けてきたのだ。
緩やかに響く誕生歌。それは聞く者を魅了していく。
「おお、たいしたもんじゃなぁ」
顔をほころばせて喜ぶ源蔵。その顔を見て壱縷は喜びの笑みを浮かべた。
「榊原さんはお誕生日、おめでとうございます」
「確か……百を超えられたとか。おめでとうございます」
やってきたのは千歳と冬佳だ。百を超えた老人なのに、FiVEでは退くことなく戦い続けている。その体力と精神力に驚きを禁じ得ない。
「まあの。百六十才までは生きるつもりじゃ」
と言う源蔵の言葉もまんざら嘘とは思えないほど、元気である。
「そういえば冬佳ちゃん、その水着は?」
「俺が選んだんですよ、よく似合っているでしょう?」
源蔵の問いに答えたのは、冬佳ではなく千歳だった。
「この前の休みに駅前で一緒に買いに行ったんです。水着には少し早いとは思ったんですが、思いのほかそうでもなかったみたいです」
「……酒々井君にそう説明されると、流石に恥ずかしさを感じますね」
少し照れるように肯定する冬佳。あまり自分から服を購入する性格ではなかったが、あちらこちらに連れ出してくれる千歳には感謝しているという。
「それじゃあ俺達はそろそろこれで。行こうか、冬佳さん」
「それでは榊原さん、ご健勝をお祈りしております」
千歳に手を引かれるままにプールに向かう冬佳。五麟市に来て二度目の夏も近い。楽観できる夏ではないかもしれないが、それでも二人一緒なら乗り越えられる。
「源蔵さん、お誕生日おめでとう御座います」
「プレゼントにお酒……はまずいのでお料理作ってきましたー!」
オレンジのビキニを着た御菓子と、重箱を手にした紺のスクール水着を着た結鹿が源蔵に近づいてくる。最初は日本酒とおつまみの予定だったが、学校でお酒はまずいという理由で変更となった。
「プールでお祝いなんて流石大先輩です。濡れてもいい様に水着を指定してくれるなんて、細かな配慮もありがたいです」
品行方正な結鹿は、源蔵の下心など想像すらしないようだ。そんな源蔵肉愚を指すように御菓子がにっこり微笑んで告げる。
「わたしにならともかく結鹿ちゃんへのお触りは厳禁ですよ。おいたが過ぎると、お仕置きですからね」
「ほっほ、そりゃ残念。両手に花と眼福で我慢するとしようか」
御菓子の笑顔は、社交辞令や冗談などではない。手を出したら本気でおしおきだ。言葉なくそう訴えていた。
「わたしのかわいい名コックの腕前を楽しんでね」
「ほほう、結鹿ちゃんが作ってくれたのか。そりゃ楽しみじゃ」
「源蔵さんの歯は丈夫だと聞いていたので、和牛を中心に作ってみました!」
「おお、いい味付けじゃな」
重箱を開けるとそこに並ぶ色とりどりの料理。それを口にして、舌堤を打つ源蔵であった。
「ちょっと休憩デスネー!」
「はい。長い間泳いでましたし、疲れました」
リーネと八重はプールから上がり、一息ついていた。リーネの視線は、水で濡れた八重の白い羽根に止まっていた。
「八重さん、羽根が濡れて重そうデスネ。私が拭いてあげマスヨ!」
「羽根はどうしても自分で拭きにくくて……ではお任せしますね」
言ってリーネに背中を見せる八重。リーネはバスタオルを手にして、羽根を拭きはじめる。羽毛の向きに沿って、髪を梳くように優しく。
「ふふ、くすっぐったいです」
「付け根部分が中々……チョット寝て下さいネ、上を取りマスカラー」
「寝そべった方がいいですか? 恥ずかしいですけど……」
羽根の付け根を拭きにくそうに眉を顰めるリーネ。やりにくいのか、八重を寝かせてようとする。恥ずかしそうな顔をしながら、八重はリーネの誘導のままにうつぶせになり背中を晒した。そのまま羽根の付け根を拭く。
「今回も愛しの彼に振られマシタ……そういえば八重さんはどうなのデスカ? 誰か意中の方トカ、いらっしゃいマスカー?」
「好きな人ですか? えと、そういう好きとは違いますが……可愛らしくて弄りがいがあって、直ぐ傍に居てくれる方が好きなのですよ。可愛い悪戯して、良い表情返してくれますしね?」
「ワオ、悪戯好きとは八重さんは結構お茶目で攻めっ気が強いのデスネ」
リーネの言葉に、顔をほころばせる八重。
仲のいい女性同士のじゃれあいは、和気藹々と続いていく。
●
「初めまして。101歳のお誕生日、おめでとうございます」
ウルは初めて会う源蔵に緊張しながらアイスクリームケーキを差し出す。白金のウェーブがかった髪。ペリドットの瞳。白猫の猫耳と尻尾。着ているのはセーラー襟の上着に、紺の半ズボン姿だ。中性的なウルの顔立ちは、その恰好もあって性別すら曖昧にしていた。
「おお、初めましてじゃ。美味いアイスじゃの」
「はい。沢山持ってきました」
量が多くて持ってくるだけでも疲れました、とウルは言う。だがその苦労が報われたのか、アイスを求める覚者は多い。皆、プールで遊んで一息つきたい時に甘いものを食べたいのだ。
「はい、すぐに用意しますね!」
「では私は和食の方を担当しましょう」
言って里桜が用意したのは柏餅だ。現地で作ったのではなく、家で作った物をもってきていた。蓬入りの生地で粒あんを包んだ物や、普通の生地でこし餡を包んだモノの二種類を用意してきていた。
「榊原さん、お誕生日おめでとうございます。良かったらおひとつどうぞ」
「いやいや、ワシは柏餅には目がなくてのぅ。……む、これはばーすでーかーど?」
「はい。これからも元気でいてくださいね」
言って微笑む里桜。パレオ付きのワンピース姿で、優雅に一礼した。水着の選択は、柔らかで穏やかな物腰の彼女らしい。高評価を示すように源蔵は顔をほころばせて手を振った。
「ねー時雨ぴょん。同じ苗字のおじーちゃんがいるんだけど、ご親戚?」
「んー? いや、全くの赤の他人やね」
言いながら源蔵に近づいてくるのは、ことこと時雨だ。榊原の姓を持つ源蔵と時雨。珍しい苗字じゃないので、それほど不思議ではない。
「まあ武術やってるから多少は関係が――」
「いや、違うってわかってるけど」
考え込みそうになる時雨と無視するようにことこが告げる。あるかも、と言いかけた時雨がその口のまま怒りで硬直する。
「おー、漫才しに来たのかの」
「漫才じゃないよ、アイドル(予定)。ところで榊原のおじーちゃん! この子が戦いたいって言ってる!」
源蔵の言葉にポーズを決めて笑みを浮かべることこ。そのまま時雨の肩を抱き寄せて、時雨を源蔵の方に押し出した。
「え、ちょ、何いってるん!? うち、今日はあんまり戦闘する気無いいうか、ここで覚醒するんもなぁ……」
現因子の時雨は、覚醒すると姿が変わる。今着ている水着と覚醒時の衣装が入れ替わるという事からと言うのもあるが、少し戦闘する気はなかった。
「あー、仕方あらへんなぁ。覚醒無しで、ってなにすんの!?」
「え? 時雨ぴょんの水着ずらそうかなって」
「おじーちゃん、ごめんやけどまた今度な! ぶっ飛ばしたる!」
「わーい、逃げろー!」
現れた時と同じように、嵐のように去っていくことこと時雨であった。あれはあれで仲がいいのだろう、と源蔵もそのまま見送った。
「榊原の御爺ちゃん、お誕生日おめでとう」
布が少なめのビキニを強調するように輪廻がやってくる。豊満な輪廻がそう言った水着を着ると刺激が倍増する。
「そうだ、私と変わった模擬戦してみない? 私は御爺ちゃんを床に倒せば勝ち、御爺ちゃんは……私の水着を取ったら勝ち。お誕生日だから御爺ちゃんが参るまで何度でも再戦OKのサービスよん」
「どうやらこの榊原源蔵、本気を出す時が来たようじゃ。魂を燃やす時が……!」
落ち着け。
刀を構えて輪廻は疾駆する。神具と自身を一体化させ、一つの線と化す。源蔵の手首と脳天と右肩を斬るイメージ。そのイメージのままに輪廻は刀を振るう。一拍子で三連撃。音もなく刀は源蔵の体に触れ――
「いや~ん。水着とられちゃった~」
わざとらしくしなを作って胸を隠す輪廻。お誕生日サービス旺盛であった。
そんな源蔵に近づく気配一つ。ツバメである。
「よろしいか。手合わせをしてくれると聞いた」
「ほ。いかつい武器じゃのう」
ツバメの持つ『大鎌・白狼』を見て目を細める源蔵。
源素の炎を体内で燃やし、ツバメは一歩踏み込む。第三の瞳から光を放って牽制を行い、さらに一歩踏み込んで神具を振るった。背丈を超える大鎌をツバメ自身の身体を軸にして回転させる。刃の旋風が二度巻き起こった。
「邪魔だな」
回転のたびに共に回転するパレオを脱ぎ去るツバメ。巨大武器はトンファーで受けるには分が悪い、とばかりに回避する源蔵。その着地地点を狙って放たれる黄泉の光線。光線にしびれるように足を止めた源蔵の足を掬うように鎌が振るわれた。
「おおっ!?」
源蔵はそのままプールに投げ飛ばされる。派手な水音が模擬戦の終了を告げた。
「大丈夫ですか?」
プールに落ちた源蔵を引き上げたのは、タヱ子だった。学校指定の水着を着て、プールに入ることなく模擬戦を見守っていた。
「おお、すまんすまん。ワシも年じゃのぅ」
「無理はなさらないでくださいね」
救急箱を横に置き、模擬戦の経緯を見守っていたタヱ子だが、その心配は不要かと安堵するように息を吐いた。傷をつけないように配慮してあるため、怪我人が出ることは皆無だ。あくまで誕生日の余興のようだ。
「ところで、タヱ子の御嬢さんは泳がんのかの? 折角のプールなのに、こんな老人に付き合うこともなかろうて」
「いえ、その……実は泳げなくて」
「それは残念。じゃが友人とプールの中を歩いて遊ぶだけでも楽しいと思うぞ」
落ち込むタヱ子に、源蔵はプールの方を指さす。
そこには、プールで遊ぶ覚者達がいた。
●
「屋内プールは冬場でも使えるのが嬉しいですよね」
寒色系の水着を着た由愛がプールの中で水の感覚を楽しんでいた。
「息継ぎが苦手なのよね」
由愛に手を引かれながら、椿が泳ぎの練習をしていた。
由愛と椿は源蔵へ祝辞を告げた後に、二人でプールで遊んでいた。椿が泳ぎが得意ではないという事で、由愛の指導の元、水泳の指導が始まったのである。
「慌てないでくださいね。ゆっくり、ゆっくり。苦しくなったら顔をあげて」
「はい。ゆっくり、ゆっくり」
ぎゅ、と由愛の手を握り椿は顔を水につけて、バタ足の練習をする。水の浮遊感に慣れない椿だが、由愛がしっかり手を握ってくれているのでその不安は拭い去られる。
「大丈夫です、三島さんならすぐ上手になりますよ。ふふっ」
「そうですか、ありがとうございます」
真面目にこちらの言うことを聞いてくれる椿を見ながら、笑みを浮かべる由愛。人見知りする性格の由愛。それがこういう笑みを浮かべることができるようになったのは、FiVEでの生活の影響だろうか。
「羽根が少し重くなって……わぷっ!」
「大丈夫、慌てないで」
水に濡れた羽を見ようとしてバランスを崩す椿。由愛は繋いだ手からその予兆を察し、声をかけながらそのバランスを戻してやる。
「ありがとう……空を飛ぶのは得意だけれど、水で泳ぐのは苦手なんて水の術師としてはどうなのかしら」
「それも含めて三島さんの個性だと思うわ。さあ、続けましょう」
水泳の訓練は続く。二人のペースで。
そしてこちらにも、水泳の訓練を行う二人がいた。
「蘇我島さん、お怪我は大丈夫なのでしょうか……?」
「これはこれで療養になるかな?」
燐花と恭司の二人である。発端は『泳げない』と言った燐花の言葉からである。丁度いい具合にプールが開いたので、泳ぎの練習という事になった、のだが……。
(まさかスク水とは……いや、ありえない話じゃなかったね……)
恭司は燐花の一世代前のスクール水着水着を見ながら、何とも言えない感情に包まれていた。祖父の教えからか、飾り気のない女の子に育った燐花。その性格を考えれば、この選択は想像の範疇内だったかもしれない。
そんな訓練の合間に、泳ぐ覚者の方を見て燐花は何かを考えていた。これは、と思っていた恭司だが、
「皆ひらひらした水着で泳ぎ辛くないでしょうか」
なんとも予想できた言葉だった。
「意外とあっちの方が、水の抵抗なんかが少ないかもしれないね。ほら、スク水って生地が厚いし?」
「抵抗……成程、そういうものですか」
いや、スクール水着とか着たことないけどね、と心の中で思う恭司であった。
「では、私もああいうのを買った方がいいのでしょうか。この水着では駄目でしょうか」
「ダメでは無いけれど、皆と泳ぎに行ったりするなら他の水着の方が良いかもしれないねぇ」
「そうですか。では、蘇我島さんの目から見て、泳ぎやすそうなものを選んで頂けますか? その……売り場が苦手なもので」
予想外の会話の流れに驚きながら、恭司は燐花の言葉に首肯する。
「うん、今度一緒に買いに行こうか」
「はい。いつもすみません。宜しくお願いします」
頭を下げる燐花。恭司は可愛い水着を買ってあげないとな、と保護者の心をくすぐられる。
「ほーら、榊のじーちゃんご所望の水着だよ!」
「男の水着とか見とうないわい! わかっててやっとるじゃろうが」
「わーい。あ、お誕生日おめでとうー」
奏空は源蔵に祝辞を告げた後、たまきとプールで遊んでいた。
「まずは、水中息止め合戦です……!」
たまきは桜色の短めフリルがついたワンピース型の水着を着ていた。動くたびにスカートがひらひらと揺れて、可愛さを醸し出している。
「いいよ受けて立つ! 負けたらゴムボートを引っ張る係な!」
「それではいきますよ。……よーい、すたーとっ!」
奏空とたまきは一世に水に沈む。青色の空間が体中を包み、浮遊感に似た重量の開放が訪れる。上を見れば水に反射した照明が幻想的な景色を生み出している。日常の中にある非日常。陸の上では決してみることのできない世界。
(息が続かないかも……。こうなったら……)
たまきは奏空に近づいて、くすぐろうろうとする。だが水の中では思った以上に体は動かず、動くことで逆に酸素を消費してしまう。なんとか奏空の近くにまでたどり着いたところで、奏空の目が開く。水中で視線が交差する二人。
(あ、顔が近い……)
奏空は自分の近くにあるたまきの顔に、思わず見入ってしまう。真黒な瞳。少し伸びた鼻、こちらを見てびっくりしているような表情、そして柔らかそうな唇……。驚きと、そして別の感情が入り乱れ、思わず奏空は空気を吐き出して、逃げるように水から顔を出す。
「あれ? 勝ち……かな?」
「負け! しょうがない、高速移動で引っ張ってやるぞ!」
その後、体力が尽きるまで奏空はたまきを乗せたゴムボートを引っ張るのであった。
「戦いあるところオレ在り! たとえそれがプールの中であろうとも!」
遥はプールの中で熱く燃え上がっていた。その手には竹筒式の水鉄砲がある。
「私の二刀流を見せてあげるわ」
桃は小ぶりの水鉄砲を両手に持ち、挑発的なセリフを吐いていた。
「みんなで水鉄砲で遊ぶよー!」
ゲーム大好きなきせき。ハイテンションに水鉄砲を構えていた。
「ふっ、プールといえば水遊びっ。水遊びと言えば水鉄砲ですねっ」
言ってポーズを決める浅葱。二段活用でプールにおける水鉄砲の正しさを説明した。
「生徒会のみんなと水鉄砲バトルロワイヤルだよ!」
中学生になったばかりの唯音。おニューの水着を引っ提げての登場である。
「ふっふっふ……吾輩に勝負を挑むとは良い度胸だ!」
腕を組んで尊大に言い放つ美咲。その頭脳には勝利への道筋が浮かんでいた。
「水鉄砲でバトロワ……うん、こういうのなら僕も怖がらずにできるよ」
頷く羽琉。少し弱腰だが、いやいや参加したわけではない。静かに闘志を燃やしていた。
ここに、七人の覚者による水鉄砲バトルロワイヤルが開始されたのであった。
如何なる戦いも戦略に勝るものはない。いち早く頭脳を動かして行動したのは美咲であった。見た目は幼いが高校生。小学生並みの体格だが、胸は高校生。その彼女が導き出した結論とは!
「……え、水鉄砲? これ、どうやったら勝負決まるのわぴゃあ!」
勝利条件のない勝負に、勝敗などないのである。迷っている間に水を受けてしまう。
「だが水の中では皆動きにくいはず。落ち着いて体制を整え直して……って水の上、走ってる!」
「ふっ、この闘いもらいましたっ」
水の上を走る浅葱。その速度を生かして、次々と他の参加者を狙い撃つ。
だが水の上を走るは格好の的。浅葱に向かって次々と放たれる水の弾丸。
「甘いっ。秘技っ、水っ・面っ・返しっ!」
水面を叩いて飛沫をあげる浅葱。飛沫の爆発が水の弾丸を弾くように広がった。そしてその爆心地に居た浅葱は――
「この秘技の弱点は、自分がずぶぬれになることですけどねっ」
「ふふふ。あと周りが見えなくなることだよ」
「なななっ、いつの間にか足元にっ」
足首を掴んでいる唯音に驚きの声をあげる浅葱。唯音は水の中を潜って、浅葱の足元に近づいてきたのだ。
「ゆいね勝つためなら手段を選ばない方! くすぐり攻撃だよ!」
「わはははははっ」
「これがゆいねの中学生デビューだよ! セクシー水着で悩殺して、勝利の女神になるの」
浅葱の足をくすぐりながら唯音が言う。実際の所は、環境の変化に不安があった唯音だが、行使て楽しい友人と遊べてその不安も解消していた。
「わきわきしちゃうよー! ほらほらー!」
「みんなテンション高いね」
そんな騒ぎから距離を離して、羽琉が遠距離から水鉄砲を放っていた。羽を使って飛行しながら、弓道の経験を生かして集中力を高める。狙いすまして水鉄砲の引き金を引いた。狙い通りに唯音の体に水が命中する。
「こっちだー!」
きせきはそんな羽琉に向けて水を撃つ。空中で急な回避は難しい。水で濡れた羽ではバランスを取りずらく、羽琉はよろけるように着水する。きせきはそのまま水鉄砲を手に羽琉に近づいていく。
「ごめんごめん。適度に援護して動くつもりだったけど、つい狙っちゃった」
「え? どうして?」
羽琉は遠くから見ていたこともあり、きせきがこちらを狙わないことをなんとなく察していた。だが急な心変わりはどういうことなのか。
「盛り上がっちゃって、つい」
それはきせきという少年を知る者なら、なるほどと納得する一言だった。楽しい事を求める少年の心。それがきせきと言う覚者だ。ゲームをするように敵を斬るきせきの精神は、むしろ辛い現実から逃げる『人間』らしさを感じさせる。閑話休題。まあ本当の理由は、
「それにバトルロワイヤルだもんね! 逃げたり庇ったりよりも積極的に勝負したほうが絶対楽しいよー!」
「なるほど、そんなものかもね」
同意でもなく否定でもない。羽琉の言葉は、現実に怯えながらも前を見る彼の性格を示していた。臆病で弱腰で、でも何とか前を見る羽琉。今日は一歩踏み込めた。足はもっと踏み込めるだろうか。分からないまま、進み続ける。
「この水鉄砲を古臭いと侮るな? オレが全力を叩き込むとき、竹の先端から放たれるのはもはやレーザーカッターよ!」
ポンプで圧力を加える形式の竹筒水鉄砲。それを遥が使えば、確かに痛いほどの水が放出されていた。
「遥だったかしら。いざ尋常に勝負!」
その遥に真正面から挑むのは桃だ。水の上を歩き、速度を生かして一気に距離を詰める。先ずは小手調べだ。
「ほう、見ない顔だな。新顔か? オレにかかってきたその勇気は褒めてやろう!
さあこい! 十天が一、鹿ノ島遥が胸を貸してやる!」
どこか悪役めいたセリフを吐きながら、迫る桃に水鉄砲を向ける遥。交差する水と互いの気迫。その距離は少しずつ迫っていく。
遥の戦法はレーザーカッター並(遥談)の攻撃力を生かした一撃離脱だ。その身体能力を生かして竹筒内の水を一気に使用し、水に潜って水を補充。フルチャージした水を水面に出てさらに打ち放つ。
「フフフ、神出鬼没、かつ圧倒的火力の前に全員屈服するがいいぜ!」
「甘い! 水鉄砲乱射!」
対して桃は小刻みに水の弾幕を放ち、水の上を走っていく。迫る遥のレーザー(水)を避け、時には避けきれずに受けながら遥との距離を詰めていく。そして一気に跳躍し、水中歩行を解除した。
「受けてみなさい!」
遥にタックルするように水中にもぐる桃。自ら出ようとしたところにカウンターを受ける形になった遥は、驚きながらも桃の気骨に笑みを浮かべていた。
「姫神桃か! その名前、覚えたぜ!」
――水鉄砲バトロワは続く。皆の笑い声が、プールにこだましていた。
●
そして夕日が落ちるころ、誕生会も終わる。
水の祭典を堪能した覚者達は、帰路につく。
「来年の誕生日も楽むぞぃ」
元気そうに宣言する源蔵。それは年齢を感じさせない元気のいいものだった。
さて、水着目的でプールで誕生パーティを企画した源蔵であるが、
「こう、勢いポロリとかしねーかなー」
影踏も似たような感覚でプールで泳ぐ乙女達を見ていた。
「胸の部分がこー、ポロリと」
「水に潜った時に水着がずれて、水面に出るまで気付かずに」
駄目だこの男たち、はやく何とかしないと。
「所でご老体、俺っちの水着で悩殺されちゃうかい?」
「その年でブーメランパンツを吐く漢気は褒めてもいいと思うぞ、櫻舞の」
セクシーポーズをとる影踏に、呆れるように源蔵は言う。
「年齢と水着で言えばうちのシキちゃんも負けてない――」
「叔父! これ、きみの仕業だろう……!」
怒声と共にシキがプールサイドを大股で歩いてくる。紺色のスクール水着。胸に『白部』と刺繍してある名札。その胸の大きさもあって、なんというか十八歳のシキが着るには色々マニアックである。
「これは中学時代の水着じゃないか!」
「似合ってるしいいじゃねぇの……痛い、悪かった、悪かったから!」
「似合っていてたまるか! きみは、こんなことのためにプールに来たのか!」
ひとしきり影踏を攻めて落ち着いたのか、(一応)主賓の源蔵がいることに気づいて一礼する。
「ともかく、誕生日おめでとう。それからお招きありがとう」
「うむ。水着の件は災難じゃったが、それなりにあっておるぞ」
「……人は歳を経るだけでは変わらないものだな……」
盛大に肩をすくめるシキ。
「榊原さん、あの、初めまして。えっと、お誕生日……おめでとう御座います!」
壱縷は所々言葉を詰まらせながら、源蔵に祝いを告げた。緊張しているのか、動作も少しぎこちない。
「おお、ありがとう壱縷ちゃん。気楽に楽しんだほうがいいぞ」
そんな壱縷に肩の力を抜くように言う源蔵。
「はい、あの、私で良ければバースデーソングを歌えればと」
言って背筋を伸ばして真っ直ぐに立つ壱縷。肺に空気を吸い込めば、その瞬間緊張が消える。歌うという行為は壱縷の日常。この歌で誰かを励ますことができるのなら。その思いで歌い続けてきたのだ。
緩やかに響く誕生歌。それは聞く者を魅了していく。
「おお、たいしたもんじゃなぁ」
顔をほころばせて喜ぶ源蔵。その顔を見て壱縷は喜びの笑みを浮かべた。
「榊原さんはお誕生日、おめでとうございます」
「確か……百を超えられたとか。おめでとうございます」
やってきたのは千歳と冬佳だ。百を超えた老人なのに、FiVEでは退くことなく戦い続けている。その体力と精神力に驚きを禁じ得ない。
「まあの。百六十才までは生きるつもりじゃ」
と言う源蔵の言葉もまんざら嘘とは思えないほど、元気である。
「そういえば冬佳ちゃん、その水着は?」
「俺が選んだんですよ、よく似合っているでしょう?」
源蔵の問いに答えたのは、冬佳ではなく千歳だった。
「この前の休みに駅前で一緒に買いに行ったんです。水着には少し早いとは思ったんですが、思いのほかそうでもなかったみたいです」
「……酒々井君にそう説明されると、流石に恥ずかしさを感じますね」
少し照れるように肯定する冬佳。あまり自分から服を購入する性格ではなかったが、あちらこちらに連れ出してくれる千歳には感謝しているという。
「それじゃあ俺達はそろそろこれで。行こうか、冬佳さん」
「それでは榊原さん、ご健勝をお祈りしております」
千歳に手を引かれるままにプールに向かう冬佳。五麟市に来て二度目の夏も近い。楽観できる夏ではないかもしれないが、それでも二人一緒なら乗り越えられる。
「源蔵さん、お誕生日おめでとう御座います」
「プレゼントにお酒……はまずいのでお料理作ってきましたー!」
オレンジのビキニを着た御菓子と、重箱を手にした紺のスクール水着を着た結鹿が源蔵に近づいてくる。最初は日本酒とおつまみの予定だったが、学校でお酒はまずいという理由で変更となった。
「プールでお祝いなんて流石大先輩です。濡れてもいい様に水着を指定してくれるなんて、細かな配慮もありがたいです」
品行方正な結鹿は、源蔵の下心など想像すらしないようだ。そんな源蔵肉愚を指すように御菓子がにっこり微笑んで告げる。
「わたしにならともかく結鹿ちゃんへのお触りは厳禁ですよ。おいたが過ぎると、お仕置きですからね」
「ほっほ、そりゃ残念。両手に花と眼福で我慢するとしようか」
御菓子の笑顔は、社交辞令や冗談などではない。手を出したら本気でおしおきだ。言葉なくそう訴えていた。
「わたしのかわいい名コックの腕前を楽しんでね」
「ほほう、結鹿ちゃんが作ってくれたのか。そりゃ楽しみじゃ」
「源蔵さんの歯は丈夫だと聞いていたので、和牛を中心に作ってみました!」
「おお、いい味付けじゃな」
重箱を開けるとそこに並ぶ色とりどりの料理。それを口にして、舌堤を打つ源蔵であった。
「ちょっと休憩デスネー!」
「はい。長い間泳いでましたし、疲れました」
リーネと八重はプールから上がり、一息ついていた。リーネの視線は、水で濡れた八重の白い羽根に止まっていた。
「八重さん、羽根が濡れて重そうデスネ。私が拭いてあげマスヨ!」
「羽根はどうしても自分で拭きにくくて……ではお任せしますね」
言ってリーネに背中を見せる八重。リーネはバスタオルを手にして、羽根を拭きはじめる。羽毛の向きに沿って、髪を梳くように優しく。
「ふふ、くすっぐったいです」
「付け根部分が中々……チョット寝て下さいネ、上を取りマスカラー」
「寝そべった方がいいですか? 恥ずかしいですけど……」
羽根の付け根を拭きにくそうに眉を顰めるリーネ。やりにくいのか、八重を寝かせてようとする。恥ずかしそうな顔をしながら、八重はリーネの誘導のままにうつぶせになり背中を晒した。そのまま羽根の付け根を拭く。
「今回も愛しの彼に振られマシタ……そういえば八重さんはどうなのデスカ? 誰か意中の方トカ、いらっしゃいマスカー?」
「好きな人ですか? えと、そういう好きとは違いますが……可愛らしくて弄りがいがあって、直ぐ傍に居てくれる方が好きなのですよ。可愛い悪戯して、良い表情返してくれますしね?」
「ワオ、悪戯好きとは八重さんは結構お茶目で攻めっ気が強いのデスネ」
リーネの言葉に、顔をほころばせる八重。
仲のいい女性同士のじゃれあいは、和気藹々と続いていく。
●
「初めまして。101歳のお誕生日、おめでとうございます」
ウルは初めて会う源蔵に緊張しながらアイスクリームケーキを差し出す。白金のウェーブがかった髪。ペリドットの瞳。白猫の猫耳と尻尾。着ているのはセーラー襟の上着に、紺の半ズボン姿だ。中性的なウルの顔立ちは、その恰好もあって性別すら曖昧にしていた。
「おお、初めましてじゃ。美味いアイスじゃの」
「はい。沢山持ってきました」
量が多くて持ってくるだけでも疲れました、とウルは言う。だがその苦労が報われたのか、アイスを求める覚者は多い。皆、プールで遊んで一息つきたい時に甘いものを食べたいのだ。
「はい、すぐに用意しますね!」
「では私は和食の方を担当しましょう」
言って里桜が用意したのは柏餅だ。現地で作ったのではなく、家で作った物をもってきていた。蓬入りの生地で粒あんを包んだ物や、普通の生地でこし餡を包んだモノの二種類を用意してきていた。
「榊原さん、お誕生日おめでとうございます。良かったらおひとつどうぞ」
「いやいや、ワシは柏餅には目がなくてのぅ。……む、これはばーすでーかーど?」
「はい。これからも元気でいてくださいね」
言って微笑む里桜。パレオ付きのワンピース姿で、優雅に一礼した。水着の選択は、柔らかで穏やかな物腰の彼女らしい。高評価を示すように源蔵は顔をほころばせて手を振った。
「ねー時雨ぴょん。同じ苗字のおじーちゃんがいるんだけど、ご親戚?」
「んー? いや、全くの赤の他人やね」
言いながら源蔵に近づいてくるのは、ことこと時雨だ。榊原の姓を持つ源蔵と時雨。珍しい苗字じゃないので、それほど不思議ではない。
「まあ武術やってるから多少は関係が――」
「いや、違うってわかってるけど」
考え込みそうになる時雨と無視するようにことこが告げる。あるかも、と言いかけた時雨がその口のまま怒りで硬直する。
「おー、漫才しに来たのかの」
「漫才じゃないよ、アイドル(予定)。ところで榊原のおじーちゃん! この子が戦いたいって言ってる!」
源蔵の言葉にポーズを決めて笑みを浮かべることこ。そのまま時雨の肩を抱き寄せて、時雨を源蔵の方に押し出した。
「え、ちょ、何いってるん!? うち、今日はあんまり戦闘する気無いいうか、ここで覚醒するんもなぁ……」
現因子の時雨は、覚醒すると姿が変わる。今着ている水着と覚醒時の衣装が入れ替わるという事からと言うのもあるが、少し戦闘する気はなかった。
「あー、仕方あらへんなぁ。覚醒無しで、ってなにすんの!?」
「え? 時雨ぴょんの水着ずらそうかなって」
「おじーちゃん、ごめんやけどまた今度な! ぶっ飛ばしたる!」
「わーい、逃げろー!」
現れた時と同じように、嵐のように去っていくことこと時雨であった。あれはあれで仲がいいのだろう、と源蔵もそのまま見送った。
「榊原の御爺ちゃん、お誕生日おめでとう」
布が少なめのビキニを強調するように輪廻がやってくる。豊満な輪廻がそう言った水着を着ると刺激が倍増する。
「そうだ、私と変わった模擬戦してみない? 私は御爺ちゃんを床に倒せば勝ち、御爺ちゃんは……私の水着を取ったら勝ち。お誕生日だから御爺ちゃんが参るまで何度でも再戦OKのサービスよん」
「どうやらこの榊原源蔵、本気を出す時が来たようじゃ。魂を燃やす時が……!」
落ち着け。
刀を構えて輪廻は疾駆する。神具と自身を一体化させ、一つの線と化す。源蔵の手首と脳天と右肩を斬るイメージ。そのイメージのままに輪廻は刀を振るう。一拍子で三連撃。音もなく刀は源蔵の体に触れ――
「いや~ん。水着とられちゃった~」
わざとらしくしなを作って胸を隠す輪廻。お誕生日サービス旺盛であった。
そんな源蔵に近づく気配一つ。ツバメである。
「よろしいか。手合わせをしてくれると聞いた」
「ほ。いかつい武器じゃのう」
ツバメの持つ『大鎌・白狼』を見て目を細める源蔵。
源素の炎を体内で燃やし、ツバメは一歩踏み込む。第三の瞳から光を放って牽制を行い、さらに一歩踏み込んで神具を振るった。背丈を超える大鎌をツバメ自身の身体を軸にして回転させる。刃の旋風が二度巻き起こった。
「邪魔だな」
回転のたびに共に回転するパレオを脱ぎ去るツバメ。巨大武器はトンファーで受けるには分が悪い、とばかりに回避する源蔵。その着地地点を狙って放たれる黄泉の光線。光線にしびれるように足を止めた源蔵の足を掬うように鎌が振るわれた。
「おおっ!?」
源蔵はそのままプールに投げ飛ばされる。派手な水音が模擬戦の終了を告げた。
「大丈夫ですか?」
プールに落ちた源蔵を引き上げたのは、タヱ子だった。学校指定の水着を着て、プールに入ることなく模擬戦を見守っていた。
「おお、すまんすまん。ワシも年じゃのぅ」
「無理はなさらないでくださいね」
救急箱を横に置き、模擬戦の経緯を見守っていたタヱ子だが、その心配は不要かと安堵するように息を吐いた。傷をつけないように配慮してあるため、怪我人が出ることは皆無だ。あくまで誕生日の余興のようだ。
「ところで、タヱ子の御嬢さんは泳がんのかの? 折角のプールなのに、こんな老人に付き合うこともなかろうて」
「いえ、その……実は泳げなくて」
「それは残念。じゃが友人とプールの中を歩いて遊ぶだけでも楽しいと思うぞ」
落ち込むタヱ子に、源蔵はプールの方を指さす。
そこには、プールで遊ぶ覚者達がいた。
●
「屋内プールは冬場でも使えるのが嬉しいですよね」
寒色系の水着を着た由愛がプールの中で水の感覚を楽しんでいた。
「息継ぎが苦手なのよね」
由愛に手を引かれながら、椿が泳ぎの練習をしていた。
由愛と椿は源蔵へ祝辞を告げた後に、二人でプールで遊んでいた。椿が泳ぎが得意ではないという事で、由愛の指導の元、水泳の指導が始まったのである。
「慌てないでくださいね。ゆっくり、ゆっくり。苦しくなったら顔をあげて」
「はい。ゆっくり、ゆっくり」
ぎゅ、と由愛の手を握り椿は顔を水につけて、バタ足の練習をする。水の浮遊感に慣れない椿だが、由愛がしっかり手を握ってくれているのでその不安は拭い去られる。
「大丈夫です、三島さんならすぐ上手になりますよ。ふふっ」
「そうですか、ありがとうございます」
真面目にこちらの言うことを聞いてくれる椿を見ながら、笑みを浮かべる由愛。人見知りする性格の由愛。それがこういう笑みを浮かべることができるようになったのは、FiVEでの生活の影響だろうか。
「羽根が少し重くなって……わぷっ!」
「大丈夫、慌てないで」
水に濡れた羽を見ようとしてバランスを崩す椿。由愛は繋いだ手からその予兆を察し、声をかけながらそのバランスを戻してやる。
「ありがとう……空を飛ぶのは得意だけれど、水で泳ぐのは苦手なんて水の術師としてはどうなのかしら」
「それも含めて三島さんの個性だと思うわ。さあ、続けましょう」
水泳の訓練は続く。二人のペースで。
そしてこちらにも、水泳の訓練を行う二人がいた。
「蘇我島さん、お怪我は大丈夫なのでしょうか……?」
「これはこれで療養になるかな?」
燐花と恭司の二人である。発端は『泳げない』と言った燐花の言葉からである。丁度いい具合にプールが開いたので、泳ぎの練習という事になった、のだが……。
(まさかスク水とは……いや、ありえない話じゃなかったね……)
恭司は燐花の一世代前のスクール水着水着を見ながら、何とも言えない感情に包まれていた。祖父の教えからか、飾り気のない女の子に育った燐花。その性格を考えれば、この選択は想像の範疇内だったかもしれない。
そんな訓練の合間に、泳ぐ覚者の方を見て燐花は何かを考えていた。これは、と思っていた恭司だが、
「皆ひらひらした水着で泳ぎ辛くないでしょうか」
なんとも予想できた言葉だった。
「意外とあっちの方が、水の抵抗なんかが少ないかもしれないね。ほら、スク水って生地が厚いし?」
「抵抗……成程、そういうものですか」
いや、スクール水着とか着たことないけどね、と心の中で思う恭司であった。
「では、私もああいうのを買った方がいいのでしょうか。この水着では駄目でしょうか」
「ダメでは無いけれど、皆と泳ぎに行ったりするなら他の水着の方が良いかもしれないねぇ」
「そうですか。では、蘇我島さんの目から見て、泳ぎやすそうなものを選んで頂けますか? その……売り場が苦手なもので」
予想外の会話の流れに驚きながら、恭司は燐花の言葉に首肯する。
「うん、今度一緒に買いに行こうか」
「はい。いつもすみません。宜しくお願いします」
頭を下げる燐花。恭司は可愛い水着を買ってあげないとな、と保護者の心をくすぐられる。
「ほーら、榊のじーちゃんご所望の水着だよ!」
「男の水着とか見とうないわい! わかっててやっとるじゃろうが」
「わーい。あ、お誕生日おめでとうー」
奏空は源蔵に祝辞を告げた後、たまきとプールで遊んでいた。
「まずは、水中息止め合戦です……!」
たまきは桜色の短めフリルがついたワンピース型の水着を着ていた。動くたびにスカートがひらひらと揺れて、可愛さを醸し出している。
「いいよ受けて立つ! 負けたらゴムボートを引っ張る係な!」
「それではいきますよ。……よーい、すたーとっ!」
奏空とたまきは一世に水に沈む。青色の空間が体中を包み、浮遊感に似た重量の開放が訪れる。上を見れば水に反射した照明が幻想的な景色を生み出している。日常の中にある非日常。陸の上では決してみることのできない世界。
(息が続かないかも……。こうなったら……)
たまきは奏空に近づいて、くすぐろうろうとする。だが水の中では思った以上に体は動かず、動くことで逆に酸素を消費してしまう。なんとか奏空の近くにまでたどり着いたところで、奏空の目が開く。水中で視線が交差する二人。
(あ、顔が近い……)
奏空は自分の近くにあるたまきの顔に、思わず見入ってしまう。真黒な瞳。少し伸びた鼻、こちらを見てびっくりしているような表情、そして柔らかそうな唇……。驚きと、そして別の感情が入り乱れ、思わず奏空は空気を吐き出して、逃げるように水から顔を出す。
「あれ? 勝ち……かな?」
「負け! しょうがない、高速移動で引っ張ってやるぞ!」
その後、体力が尽きるまで奏空はたまきを乗せたゴムボートを引っ張るのであった。
「戦いあるところオレ在り! たとえそれがプールの中であろうとも!」
遥はプールの中で熱く燃え上がっていた。その手には竹筒式の水鉄砲がある。
「私の二刀流を見せてあげるわ」
桃は小ぶりの水鉄砲を両手に持ち、挑発的なセリフを吐いていた。
「みんなで水鉄砲で遊ぶよー!」
ゲーム大好きなきせき。ハイテンションに水鉄砲を構えていた。
「ふっ、プールといえば水遊びっ。水遊びと言えば水鉄砲ですねっ」
言ってポーズを決める浅葱。二段活用でプールにおける水鉄砲の正しさを説明した。
「生徒会のみんなと水鉄砲バトルロワイヤルだよ!」
中学生になったばかりの唯音。おニューの水着を引っ提げての登場である。
「ふっふっふ……吾輩に勝負を挑むとは良い度胸だ!」
腕を組んで尊大に言い放つ美咲。その頭脳には勝利への道筋が浮かんでいた。
「水鉄砲でバトロワ……うん、こういうのなら僕も怖がらずにできるよ」
頷く羽琉。少し弱腰だが、いやいや参加したわけではない。静かに闘志を燃やしていた。
ここに、七人の覚者による水鉄砲バトルロワイヤルが開始されたのであった。
如何なる戦いも戦略に勝るものはない。いち早く頭脳を動かして行動したのは美咲であった。見た目は幼いが高校生。小学生並みの体格だが、胸は高校生。その彼女が導き出した結論とは!
「……え、水鉄砲? これ、どうやったら勝負決まるのわぴゃあ!」
勝利条件のない勝負に、勝敗などないのである。迷っている間に水を受けてしまう。
「だが水の中では皆動きにくいはず。落ち着いて体制を整え直して……って水の上、走ってる!」
「ふっ、この闘いもらいましたっ」
水の上を走る浅葱。その速度を生かして、次々と他の参加者を狙い撃つ。
だが水の上を走るは格好の的。浅葱に向かって次々と放たれる水の弾丸。
「甘いっ。秘技っ、水っ・面っ・返しっ!」
水面を叩いて飛沫をあげる浅葱。飛沫の爆発が水の弾丸を弾くように広がった。そしてその爆心地に居た浅葱は――
「この秘技の弱点は、自分がずぶぬれになることですけどねっ」
「ふふふ。あと周りが見えなくなることだよ」
「なななっ、いつの間にか足元にっ」
足首を掴んでいる唯音に驚きの声をあげる浅葱。唯音は水の中を潜って、浅葱の足元に近づいてきたのだ。
「ゆいね勝つためなら手段を選ばない方! くすぐり攻撃だよ!」
「わはははははっ」
「これがゆいねの中学生デビューだよ! セクシー水着で悩殺して、勝利の女神になるの」
浅葱の足をくすぐりながら唯音が言う。実際の所は、環境の変化に不安があった唯音だが、行使て楽しい友人と遊べてその不安も解消していた。
「わきわきしちゃうよー! ほらほらー!」
「みんなテンション高いね」
そんな騒ぎから距離を離して、羽琉が遠距離から水鉄砲を放っていた。羽を使って飛行しながら、弓道の経験を生かして集中力を高める。狙いすまして水鉄砲の引き金を引いた。狙い通りに唯音の体に水が命中する。
「こっちだー!」
きせきはそんな羽琉に向けて水を撃つ。空中で急な回避は難しい。水で濡れた羽ではバランスを取りずらく、羽琉はよろけるように着水する。きせきはそのまま水鉄砲を手に羽琉に近づいていく。
「ごめんごめん。適度に援護して動くつもりだったけど、つい狙っちゃった」
「え? どうして?」
羽琉は遠くから見ていたこともあり、きせきがこちらを狙わないことをなんとなく察していた。だが急な心変わりはどういうことなのか。
「盛り上がっちゃって、つい」
それはきせきという少年を知る者なら、なるほどと納得する一言だった。楽しい事を求める少年の心。それがきせきと言う覚者だ。ゲームをするように敵を斬るきせきの精神は、むしろ辛い現実から逃げる『人間』らしさを感じさせる。閑話休題。まあ本当の理由は、
「それにバトルロワイヤルだもんね! 逃げたり庇ったりよりも積極的に勝負したほうが絶対楽しいよー!」
「なるほど、そんなものかもね」
同意でもなく否定でもない。羽琉の言葉は、現実に怯えながらも前を見る彼の性格を示していた。臆病で弱腰で、でも何とか前を見る羽琉。今日は一歩踏み込めた。足はもっと踏み込めるだろうか。分からないまま、進み続ける。
「この水鉄砲を古臭いと侮るな? オレが全力を叩き込むとき、竹の先端から放たれるのはもはやレーザーカッターよ!」
ポンプで圧力を加える形式の竹筒水鉄砲。それを遥が使えば、確かに痛いほどの水が放出されていた。
「遥だったかしら。いざ尋常に勝負!」
その遥に真正面から挑むのは桃だ。水の上を歩き、速度を生かして一気に距離を詰める。先ずは小手調べだ。
「ほう、見ない顔だな。新顔か? オレにかかってきたその勇気は褒めてやろう!
さあこい! 十天が一、鹿ノ島遥が胸を貸してやる!」
どこか悪役めいたセリフを吐きながら、迫る桃に水鉄砲を向ける遥。交差する水と互いの気迫。その距離は少しずつ迫っていく。
遥の戦法はレーザーカッター並(遥談)の攻撃力を生かした一撃離脱だ。その身体能力を生かして竹筒内の水を一気に使用し、水に潜って水を補充。フルチャージした水を水面に出てさらに打ち放つ。
「フフフ、神出鬼没、かつ圧倒的火力の前に全員屈服するがいいぜ!」
「甘い! 水鉄砲乱射!」
対して桃は小刻みに水の弾幕を放ち、水の上を走っていく。迫る遥のレーザー(水)を避け、時には避けきれずに受けながら遥との距離を詰めていく。そして一気に跳躍し、水中歩行を解除した。
「受けてみなさい!」
遥にタックルするように水中にもぐる桃。自ら出ようとしたところにカウンターを受ける形になった遥は、驚きながらも桃の気骨に笑みを浮かべていた。
「姫神桃か! その名前、覚えたぜ!」
――水鉄砲バトロワは続く。皆の笑い声が、プールにこだましていた。
●
そして夕日が落ちるころ、誕生会も終わる。
水の祭典を堪能した覚者達は、帰路につく。
「来年の誕生日も楽むぞぃ」
元気そうに宣言する源蔵。それは年齢を感じさせない元気のいいものだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『五月のプール』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
じじい は げんき に なった!
