土蜘蛛がお礼に術を授けます
●とある土蜘蛛の贈り物
某県の境にある安土村。
そこは土蜘蛛『矢代』を崇める小さな村である。古妖を崇めると言っても奇妙な儀式をしているわけではなく、村の御祖父ちゃん的な崇め方だ。過去に傷つき、大人の握りこぶし程度の大きさにまで縮んだ土蜘蛛は、争うことも人を喰らうこともなくその大きさのまま静かに暮らしていた。
去年の年の瀬にFiVEという覚者集団が訪れ、怪の因子を持つ村の者と交流をしていたのを思い出す。なんでも彼らから見れば、この村の覚者は物珍しいとか。逆にこの村の者から見たら、羽や獣のような覚者が珍しかったのだが。
ともあれ、FiVEと安土村の交流はその時から始まった。とはいえこの村は小さな村。この村からは怪因子を持つ『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)が向こう側に行ってその知識を授けた程度で、FiVEから教えてもらう事の方が多い。
向こうはそれを気にせずともと良いと言ってくれるが、ここまでしてくれるのなら渡せるものは渡したいのが人情だ。
とはいえ、土蜘蛛である自分が渡せる物は多くはない。さて、これで喜んでくれるかどうか――
●FiVE
「えーと……こんにちは。僕の村に住んでいる土蜘蛛『矢代』様が、皆様に古妖の術を授けたいそうです」
八起は集まった覚者にそう告げる。
「それはどんな術なんだ?」
「はい。土蜘蛛の糸を放つ術です。僕らが知っている『蜘蛛糸』よりも強くしなやかなになるものです。使い方によっては足場にもなります」
八起の説明を聞いた覚者達の反応は様々だ。土蜘蛛らしいと思う者もいれば、もう少し使い勝手のある術がいいと思う者もいる。その反応は術を授ける土蜘蛛も予測していたらしい。
「僕らの村はFiVEほど知識がありませんので、こういうことでしかお返しできないことを矢代様は嘆いていました。
勿論不要と言うのでしたらそれは構わないそうです」
人口五十人程度の村と、人を襲わずに静かに過ごす土蜘蛛。FiVEの規模と比べるべくもない。
「術の伝授は体に糸をなじませるという事で、糸を体に縛られた状態で戦ってもらう形式です。僕らの村に居る覚者三人が相手をします。
手加減してくださいね。村の人達は古妖との『交渉』に回ることはありますけど、皆さんほど戦い慣れしていませんから」
某県の境にある安土村。
そこは土蜘蛛『矢代』を崇める小さな村である。古妖を崇めると言っても奇妙な儀式をしているわけではなく、村の御祖父ちゃん的な崇め方だ。過去に傷つき、大人の握りこぶし程度の大きさにまで縮んだ土蜘蛛は、争うことも人を喰らうこともなくその大きさのまま静かに暮らしていた。
去年の年の瀬にFiVEという覚者集団が訪れ、怪の因子を持つ村の者と交流をしていたのを思い出す。なんでも彼らから見れば、この村の覚者は物珍しいとか。逆にこの村の者から見たら、羽や獣のような覚者が珍しかったのだが。
ともあれ、FiVEと安土村の交流はその時から始まった。とはいえこの村は小さな村。この村からは怪因子を持つ『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)が向こう側に行ってその知識を授けた程度で、FiVEから教えてもらう事の方が多い。
向こうはそれを気にせずともと良いと言ってくれるが、ここまでしてくれるのなら渡せるものは渡したいのが人情だ。
とはいえ、土蜘蛛である自分が渡せる物は多くはない。さて、これで喜んでくれるかどうか――
●FiVE
「えーと……こんにちは。僕の村に住んでいる土蜘蛛『矢代』様が、皆様に古妖の術を授けたいそうです」
八起は集まった覚者にそう告げる。
「それはどんな術なんだ?」
「はい。土蜘蛛の糸を放つ術です。僕らが知っている『蜘蛛糸』よりも強くしなやかなになるものです。使い方によっては足場にもなります」
八起の説明を聞いた覚者達の反応は様々だ。土蜘蛛らしいと思う者もいれば、もう少し使い勝手のある術がいいと思う者もいる。その反応は術を授ける土蜘蛛も予測していたらしい。
「僕らの村はFiVEほど知識がありませんので、こういうことでしかお返しできないことを矢代様は嘆いていました。
勿論不要と言うのでしたらそれは構わないそうです」
人口五十人程度の村と、人を襲わずに静かに過ごす土蜘蛛。FiVEの規模と比べるべくもない。
「術の伝授は体に糸をなじませるという事で、糸を体に縛られた状態で戦ってもらう形式です。僕らの村に居る覚者三人が相手をします。
手加減してくださいね。村の人達は古妖との『交渉』に回ることはありますけど、皆さんほど戦い慣れしていませんから」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.覚者三名の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
安土村再び。
安土村は拙作『【古妖狩人】山奥の土蜘蛛住まう安土村』に出てきた村です。ですが知らずとも問題ありません。FiVEに友好的な古妖が住む片田舎、程度の認識で十分です。
●敵(?)情報
覚者(×3)
安土村に住む村人です。全員黄泉。
安土村は近辺の古妖と連絡を取っており、荒くれ者の古妖を相手することもあるため、それなりに戦闘経験はあります。ですが、FiVEの覚者に比べれば弱いです。
術伝授が目的なので相手を殺さないように動きます。
・安土・圭吾
安土村村長。八十七才男性。この村の怪因子発現第一号。
『破眼光』『纏霧』『演舞・舞衣』等を活性化しています。
・安土・八起
FiVEにやってきた少年。十二才男性。
『破眼光』『隆槍』『蔵王』等を活性化しています。
・三村・恵
安土村に住む高校生。十六歳女子。八起がFiVEに行ってから、彼女が古妖との交渉をしています。
『破眼光』『小手返し』『霞返し』等を活性化しています。
●シチュエーション
術伝授の為、土蜘蛛矢代の糸にある程度動きを封じられた状態からのスタートになります。
命中と回避が二割減になります。
●場所情報
安土村にある神社前。広さや足場は戦闘に支障なし。時刻は昼。安土村の人しかいないので、人払いは不要。祭の感覚で普通に見に来ています。
戦闘開始時、彼我の距離は一〇メートル。安土村の覚者は、戦闘開始時三人全員が前衛に居る形です。PC側の初期陣形などはご自由に。
事前付与は不可。互いに一礼してのスタートになります。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月13日
2016年05月13日
■メイン参加者 8人■

●
安土村。人口五十人程度の山の中にある小さな村だ。
そしてそこには、人と共存して静かに暮らす土蜘蛛がいる。
「古妖と人が仲良く暮らしている村があるのですね」
握りこぶし大程度の大きさの土蜘蛛を見ながら、上月・里桜(CL2001274)はその光景に感嘆していた。争うことなく人と怪異が混じりあう平和な光景。この平和がずっと続きますようにと、心の中で祈りをささげた。
「この村初めて来ましたけど、何だかホッとする雰囲気の所ですね」
よく言えば自然に恵まれた。悪く言えば自然以外は何もない。そんな村の空気を肌で感じながら、天野 澄香(CL2000194)は言葉を放つ。FiVEにも友好的な村人達。その目には覚者に対する偏見はなく、友人を迎え入れる優しさがあった。
「安土村……久々に訪れるな」
『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は久しぶりに訪れる村の景色を眺めていた。あの時は調査だったが、今は戦闘だ。最も村人に害をなすつもりはない。自分達に友好的な村人達を見ながら、軽く頭を下げた。
「感慨深いな。人知れず偽善を貫いてきた結果がこうやって芽吹いて返ってくるなんて」
『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)は大きく頷き、村人と土蜘蛛を見る。FiVEとして活動してきた活動が、こうして形となって帰ってくる。それが恩義からくるのなら、人を信じて見たくなるものだ。
「見返りを期待したことは一度もないが……それでも何かしようと考えてくれたことは嬉しいな」
言って頷く『白い人』由比 久永(CL2000540)。かつて訪れた安土村。その時久永が欲したのは交友だった。その結果として何かを返してくれるというのなら、その品物よりもその心の方が嬉しい。
(お祭り騒ぎになっていますね)
神社の前に集まってきている村人達を見て『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は言葉なく頷く。ここに来た第一義は土蜘蛛からの術の獲得。だが、それとは別にこの村との交流は行いたいと思っていた。そういう意味では、このお祭り騒ぎはもってこいだ。
「私の胸を借りる勢いでドーンと来るのデース! 私に任せなサーイ!」
どーん、と胸を叩く『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)。ハンデ戦だとわかっているのなら、それに相応した戦い方をするまでだ。持ち前の明るさと行動力で、ハンデを恐れることなく歩を進める。
「新しい術かー……どんなのだろう?」
言って首をかしげる『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。勿論概要は聞いている。土蜘蛛の使う糸。自分達が知っている蜘蛛糸の強化版、だがそれが人と交わる時どのような変化が起きるか。それはまだ誰にもわからない。
「安土村にようこそ」
安土村の覚者も準備ができたのか、挨拶をしながらやってくる。安土村の村長と、その孫。そして古風なセーラー服を着た女性。
FiVEの覚者達は体に糸をなじませる意味で、土蜘蛛の糸を体に巻き付ける。粘性があり弾力も強い。成程、覚者が使う蜘蛛糸とは別の質感だ。
両陣営の覚者は所定の位置につき、一礼する。その後に神具を構えた。
土蜘蛛の技と交流と。開始の合図と共に覚者達は地を蹴った。
●
(身体に馴染ませるのが目的、ひとまず動き続けてみましょうか)
最初に動いたのは誡女だった。今回の勝負はあくまで土蜘蛛の糸を会得するのが目的。相手を圧倒する必要はない。ならばこの糸がどういったものかを体感するのが一番だ。いつもは使用する術式ではなく、苦無を構えた。
拘束されて制限された状態。それは意外と戦闘に支障が出ると誡女は知らされる。制限された状態では飛び道具に満足な『加速』を加えることができない。フェイントなどの動きはもってのほかか。それを理解して、最小限の動きで苦無を投擲する。
(確かにこれは楽ではない。ですが、戦えないほどでもない)
「お辛いですかな? 足元に気を漬けなされよ」
「予想はしていたが、古妖の糸に縛られるとやはり動きにくいなぁ」
体に絡みつく土蜘蛛の糸。その制限を受けながら久永は呟く。不満はない。むしろそれを納得しての交戦だ。元々何かに動じる性格ではないこともあり、環境的な不利をあっさり受け入れていた。
霊鳥の羽を用いて作られた羽扇を手に、源素を練り上げる。この世界に存在する五行の一、天候を司る天行。螺旋を描く源素は稲光を生む。天に昇る龍のように稲妻は真上に向かい、そのまま相手に向かい降り注ぐ。
「土蜘蛛の術を会得出来れば、使いこなせるよう精進しよう」
「よろしくお願いします!」
「加減はするが、手を抜くつもりはない」
八起の言葉に行成は薙刀を構え、安土村の覚者達に迫る。この戦いは試合のようなモノ。必要なのは蜘蛛の糸に縛られた状態で戦うこと。そこに憎悪はない。だが、負けていい道理はない。戦うなら勝つ。その思いこそが術会得の下地になる。
八起の動きに合わせるように動く行成。滑るように小太刀を振るう八起の背中に張り付き、相手の動きに合わせるように回転する。状況的に敵だが、その八起の背中を守るように回転して薙刀を振るった。
「成程。これが――あの『二人』のような感覚か」
「動きが読まれてる……?」
「そりゃ同じ釜の飯を食った仲だからな」
身の丈ほどもある先端の尖った巨大な鉈を構えて、駆が笑みを浮かべる。覚醒して姿が若返った姿。それは駆の最高の状態である学生時代の姿。凶悪ともいえる神具を見せつけるようにしながら、真っ直ぐに戦いに挑む。
心の炎を燃やし、巨大な神具を回転させる駆。両足をしっかり地面に踏みしめて、腰を落とす。踏みしめた地面から腰に力を貯めるようにして体をねじる。溜めた力を解放してはるか遠くを突き刺すように神具を突き出せば、真っ直ぐに衝撃波が突き進む。
「ごらんのとおりの得物だ。悪いが『軽く当てる』なんてできねえ。だから、ギブアップは早めに頼むぜ?」
「きゃあっ。凄いです。流石FiVEの人達……!」
「お褒めに預かり。それでは参ります」
三村の言葉に一礼して里桜が札を構える。体を縛る蜘蛛糸に触れながら、思考を回す。覚者が扱う蜘蛛糸よりも頑丈で、粘性が高い糸。この土蜘蛛が生み出した古妖の産物。実際に触れてみて色々納得し、そして糸を吐き出した土蜘蛛にもいろいろ聞いてみたくなる。
思考を戦闘に戻す里桜。土の力を体内で生成し、味方の覚者に手をかざす。円を描くように力が動き、不可視の壁が展開される。それは土の盾。危害を加える物にその一部を跳ね返す護りの術。戦闘は得意ではない。だけど、仲間を守ることはできる。
「避けられないのなら、当たっても防げばいい。防御は任せてください」
「ほう。やはり戦い慣れておるのぅ」
「イエース! 縛られても何とかするのがFiVEなのデース!」
圭吾の感嘆の声に元気よく返すリーネ。両手が自由なら、Vサインを返していそうな元気である。体を縛る宇都に不自由さを感じながら、しかし思考はポジティブに。この糸も愛しのあの人が縛ったと思えば……。
妄想に更けそうになる前に頭を振るリーネ。土の源素を展開し、自らの前に二重の盾を展開する。それは強固な壁。リーネ自身の能力も加味されて、並の覚者では傷一つつけることができない要塞が生まれる。
「私が動け無くても問題無い完璧な処刑方法を思い付きマシタネ! ザ・ワールd……オウチ!」
「あ。すみません。何かやばそうなので攻撃しました」
「うん? よくわからないけどいいんじゃないかな」
八起の瞳から放たれた光線がリーネのセリフを遮る。それを見ながら渚はよくわからないけど頷いた。蜘蛛の糸で満足に動けずもどかしそうにしながら、巨大な金棒を手にする。鬼の住む村からFiVEに伝わった神具。それが別の古妖の術を運ぶのか。
動ける範囲で足を動かし、金棒をしっかり握りしめる。重量武器の扱いは体全体で行う。渚自身の体を軸として、体を回転させて金棒を振るう。一撃、手から伝わる命中の感覚。それを受けてさらに体を回転させる。旋風のような二撃が振るわれる。
「動きにくいけど負けないよー。慣れてくればこんなのっ」
「凄い。もう糸に適応しているなんて……」
「私もそれほど戦い慣れてるわけではないのですが……」
背中から伸びた黒い羽を広げ、澄香が舞う。蜘蛛の糸に体を縛られているため満足な動きはできないが、それでも戦闘は可能だ。戸惑っていたのは最初の時だけ。縛られて動けない範囲が分かれば、その前提で体を動かすことができる。
澄香は動かせる範囲で手をかざし、広げた手のひらに意識を集中させる。そこに集まる樹木の力。芽吹く生命は毒を持つ赤椿の花。開いた花弁から広がる花粉が、風に乗って安土村の覚者の元に届く。痺れるような痛みと毒に包まれ、咳き込む覚者達。
「それでも、全力を尽くしましょう」
「はい。矢代様もそれを望んでいます」
安土村の覚者を代表して、土蜘蛛『矢代』の言葉を告げる八起。
縛られて満足に動けない状態だが、それでもFiVEの覚者は持ち前のチームワークで安土村の覚者を攻め立てる。
戦いの熱気に乗せられるように、安土村の村人も歓声を上げる。
自然と両陣営の覚者の口に、笑みが浮かんでいた。
●
安土村の覚者の戦法は、八起と三村のツートップで後衛から圭吾がサポートする形式だ。土の術で攻める八起と、体術で攻める三村。そして後衛から天の術で覚者の戦闘力を下げる圭吾。怪因子の光線も、十分に覚者の足止めをしていた。
対しFiVEの覚者達は前中後の三つに分かれ、それぞれの役割を果たしていた。
前衛に立つリーネが防御に徹し、渚と行成が矢面に立って攻撃を受けながら同時に攻め立てる。中衛から澄香と里桜がサポートを行い、駆が衝撃波で攻め立てる。後衛から久永と誡女が回復を行う。攻防バランスよく攻めていた。
「ンー、ワタシは回復しなくてよさそうデスネー!」
味方のダメージ具合を考慮し、リーネはライフルを手に取る。一応回復の術は用意していたが、問題はなさそうだ。弾丸を体に当てるのではなく、相手の頬に掠る程の威嚇。試合形式なので、この程度でも十分だ。
「これで、どうだっ」
勢いよく金棒を振るう渚。渚が目指しているのは命を救う看護師。だが机に向かって勉強しているよりも、体を動かしている方が楽しいのだろう。その為こういった試合形式だと、元気良く動き回っていた。
「たまにはこういう気安い戦いも悪くない」
薙刀を振るいながら行成が呟く。妖事件。隔者事件。一般人との軋轢。これはそう言った事とは無関係の戦いだ。術を学ぶという目的もあるが、行成は純粋にこの勝負を楽しんでいた。礼で始まり、礼で終わる清々しい勝負を。
「はい、八起くん。お疲れ様です」
澄香が木の源素で生み出した刺を振るう。その一閃にふらついた八起が崩れ落ちた。深手を負っていないことを確認し、後で回復してあげますからね、と微笑んで次の目標に目を向ける。
「ええと、集中してから攻撃するといいのでしたでしょうか……?」
絡みつく糸で当たりにくい神具の攻撃に、里桜はFiVEの戦闘指南を思い出す。戦いなどあまり経験したことがないから、戸惑うのは当然と言えよう。時間をかけて狙いを定め、ゆっくりとそして確実に符を投擲する。
「そんじゃ、俺もやりますか」
中衛から貫くような衝撃波を放ち、安土村の覚者を攻め続ける駆。時折こちらに飛んでくる攻撃もあるが、味方が癒してくれるので大事には至らない。安定した前衛の動きに。前に出る必要もないかと安堵し、神具を振るう。
(注意するのは怪因子が放つ呪いの光と、村長が使う弱体化の霧。その回復さえ怠らなければ)
誡女は相手の戦術を的確に読み切っていた。相手の行動を封じることはできないが、行動に対応することはできる。呪い解除ができる仲間に指示を出し、誡女自身も微力ながら解除に動いていた。
「うむ、弐式は使わずとも勝てそうだな」
回復に徹していた久永は、このまま押し切れそうな流れを感じ取っていた。いざとなれば高火力の術式を放つ準備もしていたが、それが不要ならその方がいい。相対しているとはいえこれは試合。必要以上に傷つけるのは性に合わない。
土蜘蛛の糸に絡み取られているとは言え、ここに立つのは戦い慣れたFiVEの覚者。隙の無い動きで、不利をものともせずに攻め立てる。
結果大きな怪我を負うことなく、FiVEの覚者は安土村の覚者三人を戦闘不能に追い込むことができた。
●
「ありがとうございました」
闘いが終われば蜘蛛の糸を取り外し、一礼する覚者達。村人達から拍手と歓声が沸き上がった。
「力は抑えたつもりだが……すまんな」
久永を始めとしたFiVEの覚者が安土村の覚者達の傷を癒す。元々手加減してあったこともあって、こちらも大怪我はしていなかった。
「ところで、お疲れ様会しませんか? お肉持ってきましたし、竈があればバーベキューができますよ」
戦い終わって村人と交流をしようと提案する澄香。同じようなことを村人も考えていたらしく、境内に運ばれるバーベキューセット。炭も市販のものではなく、炭窯から作った物である。
「これはいい炭ですね。わかりました。私に任せてください。美味しく調理します」
火を起こしてその炭の良さを知る澄香。その美食家のセンスか、様々な調理法が脳裏に浮かぶ。
「ドイツ流のソーセージの美味しい作り方、皆さんにお教えしまショー!」
リーネは用意してきたドイツのソーセージを焼き始める。ケチャップソースととカレーがかかったカリーヴルスト。ニンニクとハーブを練り込んだテューリンガー。白ソーセージで有名なヴァイスヴルスト等様々なソーセージを用意してきていた。
「フランクフルトだけが、ドイツのソーセージじゃないデスヨ!」
パリッ、とソーセージを折るように食べるリーネ。
「バーベキューに合わせるなら、とりあえずはお握りかしら」
里桜は用意していた重箱を広げる。用意してあったおにぎりを村人に披露した。梅や昆布を一緒に握ったおにぎりのほかに、卵焼きや野菜の煮物など様々な種類のおかずが用意されていた。子供用にフルーツもある。
「矢代様は何がお好きでしょうか?」
「む、いいのか。いやはや、予想外のお返しだな」
覚者達の祭を眺めていた土蜘蛛は、里桜の誘いに驚き、そして肉を取ってもらう。
「お久しぶりです」
矢代に一礼する行成。以前安土村に来た時にもらった羽織の礼を言いに来たのだ。
「『矢代の羽織』、ありがとうございます、これは……私の身を守る、心強い鎧です」
「そうか。聞けば今の人の世は危険な事も多いと聞く。その守りになっているのなら、幸いだ」
「はい。この度授かった術も、我々の活動に大きく貢献するでしょう。本日は本当にありがとうございました」
土蜘蛛の糸の感覚。それをレポートすることで蜘蛛糸のさらなる強化が可能になる。そうすればFiVEの覚者全員がその恩恵にあずかることができるだろう。
「余からも礼を言いたい」
言って空から着地する久永。翼人に興味を持った村の子供達を抱え、空の散歩をしていたのだ。初めは慣れない空中の感覚に驚いていたが、慣れてくると子供達も空の感覚を楽しみ始めていた。その空中散歩がひと段落しての着地である。
「時間があればゆっくり茶でも飲みたいものだなぁ。昔の話でも聞きたいものだ」
「つまらん話でよければいつでも訪れてくれ。待っておるぞ」
永き時を生きる土蜘蛛は、人の姿であれば首肯しただろう声で応えた。
「いいねえ。こういう独自の文化がありそうな場所って好奇心が湧いちまうんだ」
境内から村の様子を見下ろす駆。バックパッカーの血が騒ぐのか、村の光景を眺めていた。素人目にはただの田園風景なのだが、田園にも歴史はある。水源、地理状況、地質……様々な国の様々な光景。それを見てきた駆は、その歴史を想像して、心躍らせる。
「いい水を引いてきているな。さぞ地酒も上手かろう」
「ほう、お分かりになりますか。一本お土産にどうです?」
気が付けば村人に溶け込んでいるのも、バックバッカーの手腕と言えよう。
(折角来たのですから、記録に残しましょうか)
誡女は歓談するFiVEの覚者と安土村の村人の姿を記録していた。カメラで撮影し、いろいろ話を聞いている。どこにでもいそうな山村との交流。そんな何でもない事こそが、掛け替えのない平和の象徴。この平和な一瞬を、逃すことなく記録に納める。
(そういえば、他の古妖の術を聞いてみるのもいいかもしれませんね……。まあ、今は記録を取りましょう)
焦ることはない。頷いて黒くを取り続ける誡女。
「安土村のみんな、今日は呼んでくれてありがとね。これからもずっと、仲良くしていけたらいいなって思う」
今日闘った安土村の覚者三人だけではなく、安土村の村人全員に向けて渚が感謝の言葉を告げる。それは渚だけではない。ここにいるFiVEの覚者全員の言葉だった。帰ってくる同委の言葉に、笑みを浮かべる渚。
食事会は、夕日が落ちるまで続いた。
某県の境にある安土村。
そこは土蜘蛛『矢代』を崇める小さな村である。
この日、FiVEと安土村の新たな一ページが刻まれた。
安土村。人口五十人程度の山の中にある小さな村だ。
そしてそこには、人と共存して静かに暮らす土蜘蛛がいる。
「古妖と人が仲良く暮らしている村があるのですね」
握りこぶし大程度の大きさの土蜘蛛を見ながら、上月・里桜(CL2001274)はその光景に感嘆していた。争うことなく人と怪異が混じりあう平和な光景。この平和がずっと続きますようにと、心の中で祈りをささげた。
「この村初めて来ましたけど、何だかホッとする雰囲気の所ですね」
よく言えば自然に恵まれた。悪く言えば自然以外は何もない。そんな村の空気を肌で感じながら、天野 澄香(CL2000194)は言葉を放つ。FiVEにも友好的な村人達。その目には覚者に対する偏見はなく、友人を迎え入れる優しさがあった。
「安土村……久々に訪れるな」
『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は久しぶりに訪れる村の景色を眺めていた。あの時は調査だったが、今は戦闘だ。最も村人に害をなすつもりはない。自分達に友好的な村人達を見ながら、軽く頭を下げた。
「感慨深いな。人知れず偽善を貫いてきた結果がこうやって芽吹いて返ってくるなんて」
『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)は大きく頷き、村人と土蜘蛛を見る。FiVEとして活動してきた活動が、こうして形となって帰ってくる。それが恩義からくるのなら、人を信じて見たくなるものだ。
「見返りを期待したことは一度もないが……それでも何かしようと考えてくれたことは嬉しいな」
言って頷く『白い人』由比 久永(CL2000540)。かつて訪れた安土村。その時久永が欲したのは交友だった。その結果として何かを返してくれるというのなら、その品物よりもその心の方が嬉しい。
(お祭り騒ぎになっていますね)
神社の前に集まってきている村人達を見て『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は言葉なく頷く。ここに来た第一義は土蜘蛛からの術の獲得。だが、それとは別にこの村との交流は行いたいと思っていた。そういう意味では、このお祭り騒ぎはもってこいだ。
「私の胸を借りる勢いでドーンと来るのデース! 私に任せなサーイ!」
どーん、と胸を叩く『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)。ハンデ戦だとわかっているのなら、それに相応した戦い方をするまでだ。持ち前の明るさと行動力で、ハンデを恐れることなく歩を進める。
「新しい術かー……どんなのだろう?」
言って首をかしげる『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。勿論概要は聞いている。土蜘蛛の使う糸。自分達が知っている蜘蛛糸の強化版、だがそれが人と交わる時どのような変化が起きるか。それはまだ誰にもわからない。
「安土村にようこそ」
安土村の覚者も準備ができたのか、挨拶をしながらやってくる。安土村の村長と、その孫。そして古風なセーラー服を着た女性。
FiVEの覚者達は体に糸をなじませる意味で、土蜘蛛の糸を体に巻き付ける。粘性があり弾力も強い。成程、覚者が使う蜘蛛糸とは別の質感だ。
両陣営の覚者は所定の位置につき、一礼する。その後に神具を構えた。
土蜘蛛の技と交流と。開始の合図と共に覚者達は地を蹴った。
●
(身体に馴染ませるのが目的、ひとまず動き続けてみましょうか)
最初に動いたのは誡女だった。今回の勝負はあくまで土蜘蛛の糸を会得するのが目的。相手を圧倒する必要はない。ならばこの糸がどういったものかを体感するのが一番だ。いつもは使用する術式ではなく、苦無を構えた。
拘束されて制限された状態。それは意外と戦闘に支障が出ると誡女は知らされる。制限された状態では飛び道具に満足な『加速』を加えることができない。フェイントなどの動きはもってのほかか。それを理解して、最小限の動きで苦無を投擲する。
(確かにこれは楽ではない。ですが、戦えないほどでもない)
「お辛いですかな? 足元に気を漬けなされよ」
「予想はしていたが、古妖の糸に縛られるとやはり動きにくいなぁ」
体に絡みつく土蜘蛛の糸。その制限を受けながら久永は呟く。不満はない。むしろそれを納得しての交戦だ。元々何かに動じる性格ではないこともあり、環境的な不利をあっさり受け入れていた。
霊鳥の羽を用いて作られた羽扇を手に、源素を練り上げる。この世界に存在する五行の一、天候を司る天行。螺旋を描く源素は稲光を生む。天に昇る龍のように稲妻は真上に向かい、そのまま相手に向かい降り注ぐ。
「土蜘蛛の術を会得出来れば、使いこなせるよう精進しよう」
「よろしくお願いします!」
「加減はするが、手を抜くつもりはない」
八起の言葉に行成は薙刀を構え、安土村の覚者達に迫る。この戦いは試合のようなモノ。必要なのは蜘蛛の糸に縛られた状態で戦うこと。そこに憎悪はない。だが、負けていい道理はない。戦うなら勝つ。その思いこそが術会得の下地になる。
八起の動きに合わせるように動く行成。滑るように小太刀を振るう八起の背中に張り付き、相手の動きに合わせるように回転する。状況的に敵だが、その八起の背中を守るように回転して薙刀を振るった。
「成程。これが――あの『二人』のような感覚か」
「動きが読まれてる……?」
「そりゃ同じ釜の飯を食った仲だからな」
身の丈ほどもある先端の尖った巨大な鉈を構えて、駆が笑みを浮かべる。覚醒して姿が若返った姿。それは駆の最高の状態である学生時代の姿。凶悪ともいえる神具を見せつけるようにしながら、真っ直ぐに戦いに挑む。
心の炎を燃やし、巨大な神具を回転させる駆。両足をしっかり地面に踏みしめて、腰を落とす。踏みしめた地面から腰に力を貯めるようにして体をねじる。溜めた力を解放してはるか遠くを突き刺すように神具を突き出せば、真っ直ぐに衝撃波が突き進む。
「ごらんのとおりの得物だ。悪いが『軽く当てる』なんてできねえ。だから、ギブアップは早めに頼むぜ?」
「きゃあっ。凄いです。流石FiVEの人達……!」
「お褒めに預かり。それでは参ります」
三村の言葉に一礼して里桜が札を構える。体を縛る蜘蛛糸に触れながら、思考を回す。覚者が扱う蜘蛛糸よりも頑丈で、粘性が高い糸。この土蜘蛛が生み出した古妖の産物。実際に触れてみて色々納得し、そして糸を吐き出した土蜘蛛にもいろいろ聞いてみたくなる。
思考を戦闘に戻す里桜。土の力を体内で生成し、味方の覚者に手をかざす。円を描くように力が動き、不可視の壁が展開される。それは土の盾。危害を加える物にその一部を跳ね返す護りの術。戦闘は得意ではない。だけど、仲間を守ることはできる。
「避けられないのなら、当たっても防げばいい。防御は任せてください」
「ほう。やはり戦い慣れておるのぅ」
「イエース! 縛られても何とかするのがFiVEなのデース!」
圭吾の感嘆の声に元気よく返すリーネ。両手が自由なら、Vサインを返していそうな元気である。体を縛る宇都に不自由さを感じながら、しかし思考はポジティブに。この糸も愛しのあの人が縛ったと思えば……。
妄想に更けそうになる前に頭を振るリーネ。土の源素を展開し、自らの前に二重の盾を展開する。それは強固な壁。リーネ自身の能力も加味されて、並の覚者では傷一つつけることができない要塞が生まれる。
「私が動け無くても問題無い完璧な処刑方法を思い付きマシタネ! ザ・ワールd……オウチ!」
「あ。すみません。何かやばそうなので攻撃しました」
「うん? よくわからないけどいいんじゃないかな」
八起の瞳から放たれた光線がリーネのセリフを遮る。それを見ながら渚はよくわからないけど頷いた。蜘蛛の糸で満足に動けずもどかしそうにしながら、巨大な金棒を手にする。鬼の住む村からFiVEに伝わった神具。それが別の古妖の術を運ぶのか。
動ける範囲で足を動かし、金棒をしっかり握りしめる。重量武器の扱いは体全体で行う。渚自身の体を軸として、体を回転させて金棒を振るう。一撃、手から伝わる命中の感覚。それを受けてさらに体を回転させる。旋風のような二撃が振るわれる。
「動きにくいけど負けないよー。慣れてくればこんなのっ」
「凄い。もう糸に適応しているなんて……」
「私もそれほど戦い慣れてるわけではないのですが……」
背中から伸びた黒い羽を広げ、澄香が舞う。蜘蛛の糸に体を縛られているため満足な動きはできないが、それでも戦闘は可能だ。戸惑っていたのは最初の時だけ。縛られて動けない範囲が分かれば、その前提で体を動かすことができる。
澄香は動かせる範囲で手をかざし、広げた手のひらに意識を集中させる。そこに集まる樹木の力。芽吹く生命は毒を持つ赤椿の花。開いた花弁から広がる花粉が、風に乗って安土村の覚者の元に届く。痺れるような痛みと毒に包まれ、咳き込む覚者達。
「それでも、全力を尽くしましょう」
「はい。矢代様もそれを望んでいます」
安土村の覚者を代表して、土蜘蛛『矢代』の言葉を告げる八起。
縛られて満足に動けない状態だが、それでもFiVEの覚者は持ち前のチームワークで安土村の覚者を攻め立てる。
戦いの熱気に乗せられるように、安土村の村人も歓声を上げる。
自然と両陣営の覚者の口に、笑みが浮かんでいた。
●
安土村の覚者の戦法は、八起と三村のツートップで後衛から圭吾がサポートする形式だ。土の術で攻める八起と、体術で攻める三村。そして後衛から天の術で覚者の戦闘力を下げる圭吾。怪因子の光線も、十分に覚者の足止めをしていた。
対しFiVEの覚者達は前中後の三つに分かれ、それぞれの役割を果たしていた。
前衛に立つリーネが防御に徹し、渚と行成が矢面に立って攻撃を受けながら同時に攻め立てる。中衛から澄香と里桜がサポートを行い、駆が衝撃波で攻め立てる。後衛から久永と誡女が回復を行う。攻防バランスよく攻めていた。
「ンー、ワタシは回復しなくてよさそうデスネー!」
味方のダメージ具合を考慮し、リーネはライフルを手に取る。一応回復の術は用意していたが、問題はなさそうだ。弾丸を体に当てるのではなく、相手の頬に掠る程の威嚇。試合形式なので、この程度でも十分だ。
「これで、どうだっ」
勢いよく金棒を振るう渚。渚が目指しているのは命を救う看護師。だが机に向かって勉強しているよりも、体を動かしている方が楽しいのだろう。その為こういった試合形式だと、元気良く動き回っていた。
「たまにはこういう気安い戦いも悪くない」
薙刀を振るいながら行成が呟く。妖事件。隔者事件。一般人との軋轢。これはそう言った事とは無関係の戦いだ。術を学ぶという目的もあるが、行成は純粋にこの勝負を楽しんでいた。礼で始まり、礼で終わる清々しい勝負を。
「はい、八起くん。お疲れ様です」
澄香が木の源素で生み出した刺を振るう。その一閃にふらついた八起が崩れ落ちた。深手を負っていないことを確認し、後で回復してあげますからね、と微笑んで次の目標に目を向ける。
「ええと、集中してから攻撃するといいのでしたでしょうか……?」
絡みつく糸で当たりにくい神具の攻撃に、里桜はFiVEの戦闘指南を思い出す。戦いなどあまり経験したことがないから、戸惑うのは当然と言えよう。時間をかけて狙いを定め、ゆっくりとそして確実に符を投擲する。
「そんじゃ、俺もやりますか」
中衛から貫くような衝撃波を放ち、安土村の覚者を攻め続ける駆。時折こちらに飛んでくる攻撃もあるが、味方が癒してくれるので大事には至らない。安定した前衛の動きに。前に出る必要もないかと安堵し、神具を振るう。
(注意するのは怪因子が放つ呪いの光と、村長が使う弱体化の霧。その回復さえ怠らなければ)
誡女は相手の戦術を的確に読み切っていた。相手の行動を封じることはできないが、行動に対応することはできる。呪い解除ができる仲間に指示を出し、誡女自身も微力ながら解除に動いていた。
「うむ、弐式は使わずとも勝てそうだな」
回復に徹していた久永は、このまま押し切れそうな流れを感じ取っていた。いざとなれば高火力の術式を放つ準備もしていたが、それが不要ならその方がいい。相対しているとはいえこれは試合。必要以上に傷つけるのは性に合わない。
土蜘蛛の糸に絡み取られているとは言え、ここに立つのは戦い慣れたFiVEの覚者。隙の無い動きで、不利をものともせずに攻め立てる。
結果大きな怪我を負うことなく、FiVEの覚者は安土村の覚者三人を戦闘不能に追い込むことができた。
●
「ありがとうございました」
闘いが終われば蜘蛛の糸を取り外し、一礼する覚者達。村人達から拍手と歓声が沸き上がった。
「力は抑えたつもりだが……すまんな」
久永を始めとしたFiVEの覚者が安土村の覚者達の傷を癒す。元々手加減してあったこともあって、こちらも大怪我はしていなかった。
「ところで、お疲れ様会しませんか? お肉持ってきましたし、竈があればバーベキューができますよ」
戦い終わって村人と交流をしようと提案する澄香。同じようなことを村人も考えていたらしく、境内に運ばれるバーベキューセット。炭も市販のものではなく、炭窯から作った物である。
「これはいい炭ですね。わかりました。私に任せてください。美味しく調理します」
火を起こしてその炭の良さを知る澄香。その美食家のセンスか、様々な調理法が脳裏に浮かぶ。
「ドイツ流のソーセージの美味しい作り方、皆さんにお教えしまショー!」
リーネは用意してきたドイツのソーセージを焼き始める。ケチャップソースととカレーがかかったカリーヴルスト。ニンニクとハーブを練り込んだテューリンガー。白ソーセージで有名なヴァイスヴルスト等様々なソーセージを用意してきていた。
「フランクフルトだけが、ドイツのソーセージじゃないデスヨ!」
パリッ、とソーセージを折るように食べるリーネ。
「バーベキューに合わせるなら、とりあえずはお握りかしら」
里桜は用意していた重箱を広げる。用意してあったおにぎりを村人に披露した。梅や昆布を一緒に握ったおにぎりのほかに、卵焼きや野菜の煮物など様々な種類のおかずが用意されていた。子供用にフルーツもある。
「矢代様は何がお好きでしょうか?」
「む、いいのか。いやはや、予想外のお返しだな」
覚者達の祭を眺めていた土蜘蛛は、里桜の誘いに驚き、そして肉を取ってもらう。
「お久しぶりです」
矢代に一礼する行成。以前安土村に来た時にもらった羽織の礼を言いに来たのだ。
「『矢代の羽織』、ありがとうございます、これは……私の身を守る、心強い鎧です」
「そうか。聞けば今の人の世は危険な事も多いと聞く。その守りになっているのなら、幸いだ」
「はい。この度授かった術も、我々の活動に大きく貢献するでしょう。本日は本当にありがとうございました」
土蜘蛛の糸の感覚。それをレポートすることで蜘蛛糸のさらなる強化が可能になる。そうすればFiVEの覚者全員がその恩恵にあずかることができるだろう。
「余からも礼を言いたい」
言って空から着地する久永。翼人に興味を持った村の子供達を抱え、空の散歩をしていたのだ。初めは慣れない空中の感覚に驚いていたが、慣れてくると子供達も空の感覚を楽しみ始めていた。その空中散歩がひと段落しての着地である。
「時間があればゆっくり茶でも飲みたいものだなぁ。昔の話でも聞きたいものだ」
「つまらん話でよければいつでも訪れてくれ。待っておるぞ」
永き時を生きる土蜘蛛は、人の姿であれば首肯しただろう声で応えた。
「いいねえ。こういう独自の文化がありそうな場所って好奇心が湧いちまうんだ」
境内から村の様子を見下ろす駆。バックパッカーの血が騒ぐのか、村の光景を眺めていた。素人目にはただの田園風景なのだが、田園にも歴史はある。水源、地理状況、地質……様々な国の様々な光景。それを見てきた駆は、その歴史を想像して、心躍らせる。
「いい水を引いてきているな。さぞ地酒も上手かろう」
「ほう、お分かりになりますか。一本お土産にどうです?」
気が付けば村人に溶け込んでいるのも、バックバッカーの手腕と言えよう。
(折角来たのですから、記録に残しましょうか)
誡女は歓談するFiVEの覚者と安土村の村人の姿を記録していた。カメラで撮影し、いろいろ話を聞いている。どこにでもいそうな山村との交流。そんな何でもない事こそが、掛け替えのない平和の象徴。この平和な一瞬を、逃すことなく記録に納める。
(そういえば、他の古妖の術を聞いてみるのもいいかもしれませんね……。まあ、今は記録を取りましょう)
焦ることはない。頷いて黒くを取り続ける誡女。
「安土村のみんな、今日は呼んでくれてありがとね。これからもずっと、仲良くしていけたらいいなって思う」
今日闘った安土村の覚者三人だけではなく、安土村の村人全員に向けて渚が感謝の言葉を告げる。それは渚だけではない。ここにいるFiVEの覚者全員の言葉だった。帰ってくる同委の言葉に、笑みを浮かべる渚。
食事会は、夕日が落ちるまで続いた。
某県の境にある安土村。
そこは土蜘蛛『矢代』を崇める小さな村である。
この日、FiVEと安土村の新たな一ページが刻まれた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『安土村の思い出』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
どくどくです。
たまにはこういう平和(?)な戦いも。
安土村初めての方も、再来の方も楽しんでもらえたでしょうか?
元々は怪因子覚者のいる村という事で設定された安土村。ですがこのままではもったいないという事での再使用です。
古妖は様々。人と共存できる個体もあれば、相対する個体もいます。
そう言ったアラタナルの世界を、参加者様が感じ取っていただければ幸いです。
解析されたスキルは、FiVEで研究後皆さまが使用できるでしょう。それまでお待ちください。
それではまた、五麟市で。
たまにはこういう平和(?)な戦いも。
安土村初めての方も、再来の方も楽しんでもらえたでしょうか?
元々は怪因子覚者のいる村という事で設定された安土村。ですがこのままではもったいないという事での再使用です。
古妖は様々。人と共存できる個体もあれば、相対する個体もいます。
そう言ったアラタナルの世界を、参加者様が感じ取っていただければ幸いです。
解析されたスキルは、FiVEで研究後皆さまが使用できるでしょう。それまでお待ちください。
それではまた、五麟市で。
