新春! 五麟にて2016!
●
あけまして、おめでとうなのだ。
今年も、宜しくお願い致しますなのだ。
あけまして、おめでとうなのだ。
今年も、宜しくお願い致しますなのだ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.日常を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
また来年も、宜しくお願い致します。
●状況
12月31日~1月1日の五麟の1日である。
●やれること
五麟市内での一日となります。
時刻はEXプレイングで指定して頂けると嬉しいです
あとはお好きに宜しくお願い致します
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
ご縁がございましたら、宜しくお願い致します
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
33/∞
33/∞
公開日
2016年01月17日
2016年01月17日
■メイン参加者 33人■

●
大晦日の早朝、七海 灯は両手に吐息を吐いて始発電車を待っていた。
本当はもっと早く帰省する予定ではあったのだが、直前の事件に巻き込まれては大晦日まで持ちこんでしまったようだ。
今年は濃い一年であったと、己の成長を両親は感じ取ってくれるだろうか。
淡い期待を胸に、扉が開く電車。歩み出し、五鱗へと向って。
「それじゃあ、いってきます」
阿久津 ほのかは風祭誘輔と共に父の墓参り。
「良かったね、お父ちゃん。誘輔さんが来てくれたよ」
誘輔は笑顔でも無く、無表情でも無い表情を浮かべながら墓の前で小さく、本当に小さく、頭を下げた。
仮にもこの墓の主には縁がある。それに、……ほのかを瞳に映しながら先にあるメシダネを思い浮かべながら誘輔は、いつもは煙草に火を点けるためのジッポで線香へ火を点けた。
「あ……お父ちゃんの事あまり気に病まないでね」
「ああ」
ほのかは気を使ったのか、そう言いながら二人は黙ったままで掃除を始めた。
未だ、元凶とやらは闇の奥で。尻尾さえ掴ませずに、鋭い瞳孔を光らせている最中かもしれない。だがしかし、せめて今日という日だけは冷たい思い出は忘れて、故人を想いたいものだ。
掃除を終え、手を合わす。ふと、誘輔はほのかの背が前よりも高い位置に来ている事を知る。
「大きくなったな、ほのかちゃん。もう高校生か」
「ふふ~、私ってば大きくなりましたか。念願の覚者にもなれたし、来年は気合いを入れて頑張りますよお」
ふふりと笑うほのかに、しんみりした空気が一掃されていく。
「アンタのガキは立派にやってるよ、阿久津さん」
安心しな、仇はとる。ほのかに聞こえないように小声で零した、確たる意志。
露と知らず、少女は合わせられた両手を解いて彼の腕を引いた。
「よし、報告終了! 今日は大きな海老天が乗った年越し蕎麦を作るって兄ィが言ってましたよ。一緒に食べましょ~♪」
木暮坂 夜司は、彼の邸宅の大掃除を開始していた。
始めて間もないが、既に埃に塗れている事に、一年間で積もった歴史の数々を思い出す。
しかし、夜司の屋敷は中々、広大だ。覚者とて老体ではある彼にとって、この広い面積を一人で掃除しきるには一体どれ程時間を費やせばいいものか。
愚痴を発したい気持ちを抑え込みつつ、道行く猫が通り過ぎていく。どうやら猫は手伝ってくれないようだ。
はあ、と溜息を吐きながら。だがすぐに笑顔に切り替えて、遺影を念入りに拭いていく。
夜には孫娘も帰宅するだろう、それまでにせめて見栄えだけでも綺麗にしたい。
「……朝路に宵一よ 儂はこの通りじゃ。夕凪も元気にやっておる 相変わらず男っ気がないのが心配じゃがそちらはどうじゃ?」
虚空に返事は返らないけれども、庭の草木が揺れる音が静寂を駆け抜けた。
大晦日は煩悩を祓うために除夜の鐘を突きに来た結城 美剣。
新年はまだ開けていない所ではあるが、人でごった返した並みの中で美剣はもみくちゃにされていた。
(人が多いですね。来ていらっしゃる方々も煩悩をたくさんお持ちなのかもしれないですね)
腰に貼ったカイロの温かみが感じ終わるまでに、終ればいいのだが。片手の珈琲も少し熱が消えかけている。
鐘の場所に到達できるまで、まだ少しかかるらしい。
「カウントダウンも色々あるけど……やっぱり、こうやって落ち着いた物は良いねぇ」
蘇我島 恭司は柳 燐花を傍に置き、呟く。
「人の多い場所で年を越す方もいらっしゃいますが、私は今みたいに落ち着いている方が好きですね」
テレビでは賑わう寺社の中継が始まり、たまに中継場所が変わったかと思えば、繁華街のライトアップやアイドルコンサートのカウントダウンがやっている。
「除夜の鐘撞き、アレって結構並びそうだよねぇ……っと、そろそろ年越しかな?」
「折角ですし、鐘つきは初詣がてら」
誰かと共に年が越せるようになるとは。一年前の燐花は思いもしなかっただろう。
「今年は色々あったけれど、燐ちゃんと過ごせて本当に良かったって思って――」
恭司が言いかけた所で、どうやら時刻は一年を一周したらしい。
彼から送られる言葉ひとつひとつが、燐花に感情を灯しつつあるのは紛れも無い事実で。それをどうすれば彼に返せるか、悩む時間は多く。
「あけましておめでとう、燐ちゃん! 今年も色々あるだろうけど、きっとまた良い一年になるから……今年もよろしくお願いします」
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます」
新年である。挨拶をひとつしあった所で、燐花の頭はコクコクと小刻みに動き始めた。
「はい……よい一年に」
「朝になったら僕らも初詣に行くから、そろそろ寝ないと……」
恭司はこたつの布団を彼女にかけてやりながら、見守るように横になった。
●
太陽は一番高い場所にあるとき、結城 華多那は神社に訪れていた。
午前零時から並んでいた客も、今は少し落ち着いたものか。それも、ほんの少しではあるが。
未だ長く続く行列の一部と化した華多那。暫くしてから、漸く五円玉を投げられる位置までたどり着けた。
(願い事は今年一年がいい年でありますように、って無難すぎか)
誰も欠けない一年に。平和な一年に。そう願いながら、合わせた両手に祈りを込めた。
「長く生きてるけど、やっぱしこの日は心がうきうきするね」
リリス・スクブスは出店で買ったわたあめや、チョコバナナを食べながら流れゆく人の波を観察していた。
そんな所で倶鞍 静が、
「はわわ……。人が沢山います。本日はお祭りでしたでしょうか?」
驚きに身を屈めながら、終始周囲を見回していた。静は最近この場所に来たばかりで、それまで村から出た事が無い。
友達は森の愉快な仲間達がほぼであり、同じ人間と関わるのはなかなかに乏しかった――らしく。
木陰に隠れながら、静はリリスをじぃっと見た。
「かわいいでしょ♪」
「はいです。でも、しずはそんな可愛い服無くて」
「あれま。でもそれはちょっと」
静が唐突に被り始めたビニール袋。流石にそれは無いと、リリスは袋を取り上げてみた。
「時雨ぴょんあそぼー!!!!」
楠瀬 ことこは今日も元気だ。初詣はいついこうか、なんて考えていた榊原 時雨の背中に飛び込んだことこ。
「ってうわ何ことこさん!? 今さっき年越し終わったばっかりやろ!? あ、あけおめー」
驚いた事に多少なりとも満足感を覚えたことこの表情が、満面の笑み。時雨の可愛い表情が、今年一番で見れたのだ、嬉しさもMAX振り切れていた事だろう。
「ほらほら、時雨ぴょん出かけるから支度して? あ、ことよろー!」
「えっ? 出かける? 支度? 何処へ!?」
部屋着姿の時雨もそれはそれで、ことこ的には無問題である。
確実に不意を突かれた表情の時雨はもうまさに、こたつを布団代わりに、いつでも眠くなって寝ても問題無いスタイルであった。
外から来たため、ことこの服も手も冷たく。ひんやりと香る夜の静け。ことこの指が、時雨の首筋をなぞれば、ぎゃあと叫びながら震えた時雨。
「初詣! 今年こそ時雨ぴょんに素敵な彼氏ができますようにってお祈りしてこよ?」
「いや、うちこの後お笑い見て寝よう思ってたんやけど!?」
「あー……初詣か、なるほどなーって、なんでうちクラスメイトに彼氏祈願されなあかんの!?」
「やだなぁ。クラスメイトじゃなくてお友達でしょ? ほら着替えて」
「あぁ、せやな、友達やったら仕方な……いことあるか!! いや、ちょ、待って!? 着替えるから待ってて!!」
ことこはアイドル☆だから彼氏がご法度。故に、代わりに、時雨がしてくれれば万々歳なのだが。
そんなこんなで二人は初詣に歩を進めるのであった。
天原・晃は空を見上げる。月明りは高く。けれど時間にして、零時過ぎ。
「もう年が明けたか……時間が経つのは早い」
晴れ着姿の宇賀神・慈雨と共に、お祭りの気が漂う道を歩いていく。
「明けましておめでとう、今年もどうぞ宜しくね」
「あけましておめでとう。良く似合っている」
「ふふ、ありがとう。そう言って貰えると着て来た甲斐があったの」
どうせならと、慈雨は箪笥に眠っていた晴れ着に腕を通してきたのだ。髪もしっかりアップにして、飾って。
流石に慣れないと歩きづらいか、何度かつまづきそうになった慈雨へ晃は手を差し出した。
一瞬、手を差し出されて取るか迷った慈雨であった。転んでしまい折角の晴れ着が汚れてしまっても……じゃなくて、何より、ていうか、恥ずかしい、照れる気分を抑え込みながら、彼の手を取った。
それから二人は、初詣を。
両手を合わせる慈雨をちらりと見て、
(俺の身近な人々が、新たな一年も幸福でありますように……だろうか)
廻りの人々への幸福を晃は願い、
(其方に行った家族が幸せでありますように、あとあと晃をどうかお守り下さい)
彼女は彼の幸福を願った。
「慈雨。君は俺にとって……大切で、掛け替えの無い人だ。迷惑を掛ける事もある思うが、またこの一年も宜しく頼む」
「私にとっても、晃は大切な人だよ。……迷惑を掛けるのなんてお互い様だよ、こちらこそ宜しくね」
交換し合った想いは、一年最初の大切な思い出。
照れくさそうに二人の視線は混じらず、けれど思いは繋がり、硬く繋ぎ止められているのであった。
●
「あけましておめで……ぐふっ!!」
人ごみの波に攫われていく鳴神零を、掴んで引き寄せた諏訪刀嗣。
「あー、くそ。人混みうぜぇな……。まとめてぶち焼いてやりてぇ」
刀嗣のイライラ度も、零の着飾った晴れ着姿で中和していく。対称的に、零は初詣に誘われた事に何か裏があるのでは無いかと終始びくついていた。
「なんで怯えてんだ?」
「自分の胸に手ぇあてて考えてみなさいよぉ」
「あーもーめんどくせぇ! 無理矢理突っ切るぞ」
「あ、ちょっと待って、ぶつか、うぎゃっ」
零を引っ張りながら人ごみをかき分けて行く刀嗣は、たまに後ろを振り向いて。零の面が剥がれかける所で止まっては、直させてからまた引っ張った。傷のせいで停滞する彼女を、突き動かしていく様に。
「オイ、お前仮面が取れねえように気を付けろよ」
「え?! お面、失くしたら見つけなれ無さそうだしねえ。あ、そういう事じゃない?」
「あ? お前の素顔を間近で見れるのは俺だけでいいんだよ!」
「なっ! あんたの前でもあんま見せないわ! 傷なんか見たいの? 物好きね!!」
「俺が物好きなら俺以外の奴は女の見る目がねえボンクラだろうがよ」
初詣を終え、冷えた身体をお汁粉で温めながら鈴白 秋人と、永倉 祝は歩いていた。
ふと、目に留まった晴れ着。
「来年は永倉さんの着物姿も見たいですね……」
零した秋人の言葉に祝は喜ぶよりは、少し表情が曇ってしまう。
「私にも着てほしい? ……あれを見た後で自分が着るのはちょっと自信ない」
祝は、秋人のほうが綺麗だし、と途中まで言った所で、
「……それは、言わないで下さい……。改めて言われると、少し恥ずかしいですから」
「す、すみません……」
なんともしがたい空気が流れる。女性としては美しいと言われることは光栄この上無い事だろうが、それよりも美しく誇れる少年の存在とは。女性として悔しいとか、悲しいとか、そんなネガティブな感情よりはもっと憧れにも似た気持ちを祝は持っているのだろうが。
頬が少しだけ紅潮した秋人。祝は遠慮気味に笑った。
「晴れ着はハードル高いけど、浴衣くらいなら着てもいい、かな?」
「そっか。じゃあ来年の夏が楽しみになったよ。そうだ、言い忘れていた。あけましておめでとう。今年も宜しくね。永倉さん」
「はい。今年もよろしくお願いします。お汁粉、美味しいですね」
二人の世界は、まだ続く――。
「人が、多いのね」
「ですねー、流石初詣!」
三島椿と、三峯・由愛は共に歩む。初詣参拝客により離れ離れにならないよう、身体を寄せ合いながら。
「由愛さんの着物、とても似合ってるわ」
「えへへ。いつもよ 着ないのですが、頑張ってみちゃいました。椿さんのもとてもきれいですね!」
二人で褒め合いながら、顔を見合わせて微笑んだ。ここには普通の女の子たちの光景が広がっていたことだろう。
暫くしてから初詣を済ませて、二人は帰路を寄り道しながら歩いていく。ふと、由愛が何を願ったのか椿に問うた。
「守ると決めた大事な人たちを守れますように、かな」
「そうなんですね!私も、周りの人たちが皆しあわせでありますように!です!」
決意にも似た願いを交し、御神籤の前で止まり。それを引きながら、由愛は椿に寄った。
縁が結ばれ、離れぬよう。触れ合った袖も、何かの縁。
「今日は、初詣ですけど。また今度、どこかへ遊びに出掛けませんか?もちろん、椿さんがよろしければ、ですけど」
「そうね、じゃあ」
今年最初の運試しに想いを乗せ、二人の仲が深まる事をまた願うのであった。
酒々井千歳は待ち合わせていた女性を迎えてにこり、笑う。
「明けましておめでとう、冬佳さん。今年も宜しくね、晴れ着も良く似合ってるよ。ご実家から送られて来たのかい?」
「明けましておめでとうございます、酒々井君。そんな所です。以前はこういう機会も無かったのですが……新鮮ですね。ありがとうございます」
行儀よく頭を下げた水瀬冬佳。千歳としては冬佳が実家で愛情を受けて育てられているのは、よくよく知っていた。それは、彼女が身に纏う美しくシワひとつ無いものが全てを語っていただろう。
暫くしてから、二人はお参りを済ませんと並ぶ。
「さて……何をお願いするかな」
「そうですね……」
揃って願ったのは、隣人達の幸福。勿論、隣にいるものもそれに含まれている。
それからは、道行く人を捕まえてカメラを渡した。折角彼女が美しい姿なのだ、刹那の思い出の中だけで閉じ込めておくには惜しいもの。
「折角冬佳さんも綺麗にしてるんだしね、記念に一枚」
「あ、ええと……すみません、お願いします」
寄り添い合い、まるで長きを共にする夫婦のように。おさめられた風景は、小さな長方形の写真という中で永遠に美しいまま生き続けるだろう。
工藤・奏空は先日まで風邪をこじらせていた。
治ったものの、未だ本調子では無いが彼は、賀茂 たまきを連れて初詣へ。
「この前は、薬を持ってきてくれてありがとう! すっごく助かっちゃった!」
「治って良かったです。もう、大丈夫ですか? 無理しないように」
元気アピールに両腕を振って見せた奏空。それよりもたまきが愛らしい晴れ着姿でいる事の方が、どんな薬よりも効果があるのかもしれない。
彼を無理させないようにゆっくり移動してきたたまきは、温かく微笑みを返しながらおみくじを引く。
凶。
そういう時もある。
せめて、奏空のおみくじは大吉であるようにと運を分け与えつつ、たまきは祈りを込めておみくじを結んだ。因みに奏空のおみくじは中吉であった。
星空色の髪飾りが揺れるとき、奏空はたまきの手を掴んで人ごみをかき分けていく。
冷たくしっとりとした彼女の手を、離さぬようにポケットの中に誘導して。あったかいでしょと、奏空が高鳴る鼓動を抑えながら震える声で説いた。
「この一年、できればこのさきもずっと、仲良くして頂けたらとっても嬉しいです!」
彼女の言葉に、奏空の風邪は完全に駆逐され、風邪のせいでは無い熱は高まり燃え上がるのであった。
野武 七雅は樹神枢と共に、初詣へ。
「あけましておめでとうなの!」
「うむ。あけましておめでとうなのだ!」
「今年もよろしくなの。枢ちゃんの晴れ着素敵なの」
「ありがとうなのだ、そっちも綺麗だぞ」
「なつねはちゃんと着こなせてるかな?」
「うむ!大丈夫なのだ」
そんな可愛らしい話をしながら、二人は手を繋いで歩んでいく。初詣までの道のりは遠く、背がお世辞にも高く無い二人は四苦八苦しながらたどり着いた。
「枢ちゃんは何てお願いしたの?」
「七雅が元気に過ごせますように、だ!」
「なつねは皆が仲良くできますようにってお願いしたの。そしたらきっとあたたかい気持ちになれるの」
それには、妖や古妖などなども入っている願いであることは枢は感じ取っていたことだろう。その後は二人で御神籤を引きに行ったそうな、二人で結果は大凶であったことに驚き、そして共に乗り越えようと笑いあった。
●
栗きんとん、黒豆、牛肉のゴボウ巻き、鶏の唐揚げ、豚の角煮、伊達巻、エビのうま煮、煮しめ、膾、豆腐と水菜のサラダ。
阿久津 亮平は並んだ料理に一息吐いてから、隣の酒の臭いから缶ビールを取り上げた。
「飲酒はまだ許可してなかったんだけどな」
「そんなあ」
和泉・鷲哉は笑いながら、片手を胸の前で立ててごめんなさいとする。
「んで、おかーさん。次は何手伝えばいい?」
「あとは御雑煮とぜんざいとお汁粉を作るから、とりあえずそっちの鍋で水を沸かして」
「へいへい」
暫くしてから、三島 柾と志賀 行成が来ており、持ちこんだものを料理の隣に並べる。
柾は、とっておきの秘蔵酒を持ってきながら、折角だしとつけ加えながら、箸で取った黒豆を空きっ腹に放り込む。
「流石だな、この黒豆もよくできてる。本当、料理上手だな阿久津」
「いやあ、それほどでも」
行成も同じく、出来立ての唐揚げを齧りながら、外の寒さで冷え切った日本酒を呷る。
「これはいいな。贅沢をしている」
「いやあ、それほどでも」
「鷲哉さんも一緒に作ったのか」
「手伝っただけだー」
「ああ、こいつは酒飲んでいただけだ」
「だろうなあ」
「ひどい!」
二人に絶賛されている時、亮平は終始部屋の隅でのほほんと頷いていた。
再び暫くしてから、京極 千晶が席についた。
「おせちって豪華ですねー」
色とりどりで目でも楽しめる、新春のご馳走。正方形の箱の中に、皆、上品に鎮座した料理を前に千晶は瞳を輝かせた。
つい、箸もどれからいくか迷ってしまう。迷い箸は良く無いが、それくらいどれから食べたいか、いっそ全部食べたいくらいに決められない。
気を利かせた鷲哉がお皿に料理を盛ってから千晶の前に置く。順番に、柾、亮平、行成と料理を盛った皿を並べて。
豪快に食べ始めた千晶。
「おせちすっごく美味しいです! おせち料理ってこんなに美味しい食べ物なんですね!」
「阿久津さんが作ったからってのもある!」
鷲哉はうんうん頷きながら、千晶も彼に合わせて頭が上下していく。
「はい! 流石、お店を切り盛りしてるから!」
「それほどでも……」
再び亮平は部屋の隅に頭をくっつけた。
「そろそろできるぞー…お、三島さん持参の酒美味そう。何処の?」
「これは、地元の日本酒でね。フルーティな味わいで飲みやすい日本酒なんだ。他にもラベルが逆のものや、ラベルが別の色のものもあったりして」
柾が鷲哉に説明をしている最中にも、器用に鷲哉は料理を並べていった。
どうやらそれも、揃ったようで。全員でひとつのテーブルを囲みながら、
「皆、今年もよろしくお願いします」
と亮平が挨拶をしてから、乾杯をする。
「千晶ちゃんは、ジュースだよ」
「そうっすね! 早くお酒が飲める齢になりたいです! お正月って楽しい行事ですね。楽しいお正月を過ごせて、すごく嬉しいです」
まるで家族の団欒風景を見ている気分だと行成は思う。一人暮らしを始めてから、こういったものに縁が遠かった彼としては、一年の始まりから幸先は良いのだろう。
「お汁粉美味しいなあ」
酔っぱらっている柾が唐揚げをお汁粉の中に落しながら、甘いものと酒は別腹だよとキメ込んだ所で全員が噴いた。
そんな風景を見ながら、鷲哉は今年も良き一年になることを密かに願うのだった。
流石。
元日というだけあって、大勢の人の行列の最後尾に並ぶだけでも憂鬱というものだ。
向日葵 御菓子はその億劫さを感じながら、菊坂結鹿と共に、というか同時に溜息を吐いた。
先まで寒かった両手の先も、今や少し火照り始めているのは人の密度のせいか。
「きゃっ……あ、ごめんなさい。あ、いえ、こちらこそ……はい」
「こちらこそ、すまぬのだ。前方不注意であった」
結鹿の手荷物がぶつかったか、ぶつかった相手と頭を下げ合う彼女を見て、御菓子は心の中で少し噴くのだが。
「って、なんだ枢ちゃんじゃない」
「おや……これは、向日葵殿。それと、菊坂殿であったか」
「ここで会ったのもご縁だね♪ 一緒にお参りしよっ」
「うむ! 良いぞ」
それから、結鹿と御菓子は、枢を連れながら参拝していく。
「これだけ人が多いと人波に飲まれてバラバラになっちゃいそうだから……ね」
先生が今年初めての先生らしい仕事をした。二人の腕を組んで歩む。離れないように。
それから、帰宅し、炬燵の上。
結鹿が、腕によりをかけて作ったおせち料理とお雑煮と。
「えっと……これは何ですか?」
「え?お屠蘇だよ?」
「えっと……お姉ちゃん・先生だよね?」
「そうよ? なんで疑問系?」
「先生が未成年にお酒飲ませちゃいけないでしょっ!」
「今日は……そう! 家族サービス? 付き合い? 縁起物? みたいな?」
「だからぁ……もぅ…しょうがないなぁ」
引かぬ御菓子に、結鹿は苦笑した。ぬくまる部屋に、お節料理の並び。
そこから、結鹿が酔っぱらいながら御菓子に絡んでいくまで、あと少し。
谷崎・結唯は、妖の資料を作る所だ。
「お前は……樹神枢か。あけましておめでとう」
「おめでとうなのだ。宜しくなのだ!」
「こちらこそ、宜しく。よくここまで来たな。探しても、来れるような場所では無いぞ」
「そうなのか? ならば、僕は今迷子なのかもしれないな。何をしていたのだ?」
「妖の情報をまとめていたんだ。ここはイデアランツ。妖や古妖、覚者などの超常的な存在の情報が集まる場所だ」
「壮大なのだ」
「いずれは、そいつらの引き起こす事件を解決する事を視野に入れいている。その為に情報を集めまとめておく必要があるんだ」
其の中には枢の情報もあった。
「……大変だったようだな」
「こんな世だ。僕みたいなのは珍しくもあるまい」
智を求めるのならば、ここにはそういった迷う人が訪れる場所。イデラアンツ――。
大晦日の早朝、七海 灯は両手に吐息を吐いて始発電車を待っていた。
本当はもっと早く帰省する予定ではあったのだが、直前の事件に巻き込まれては大晦日まで持ちこんでしまったようだ。
今年は濃い一年であったと、己の成長を両親は感じ取ってくれるだろうか。
淡い期待を胸に、扉が開く電車。歩み出し、五鱗へと向って。
「それじゃあ、いってきます」
阿久津 ほのかは風祭誘輔と共に父の墓参り。
「良かったね、お父ちゃん。誘輔さんが来てくれたよ」
誘輔は笑顔でも無く、無表情でも無い表情を浮かべながら墓の前で小さく、本当に小さく、頭を下げた。
仮にもこの墓の主には縁がある。それに、……ほのかを瞳に映しながら先にあるメシダネを思い浮かべながら誘輔は、いつもは煙草に火を点けるためのジッポで線香へ火を点けた。
「あ……お父ちゃんの事あまり気に病まないでね」
「ああ」
ほのかは気を使ったのか、そう言いながら二人は黙ったままで掃除を始めた。
未だ、元凶とやらは闇の奥で。尻尾さえ掴ませずに、鋭い瞳孔を光らせている最中かもしれない。だがしかし、せめて今日という日だけは冷たい思い出は忘れて、故人を想いたいものだ。
掃除を終え、手を合わす。ふと、誘輔はほのかの背が前よりも高い位置に来ている事を知る。
「大きくなったな、ほのかちゃん。もう高校生か」
「ふふ~、私ってば大きくなりましたか。念願の覚者にもなれたし、来年は気合いを入れて頑張りますよお」
ふふりと笑うほのかに、しんみりした空気が一掃されていく。
「アンタのガキは立派にやってるよ、阿久津さん」
安心しな、仇はとる。ほのかに聞こえないように小声で零した、確たる意志。
露と知らず、少女は合わせられた両手を解いて彼の腕を引いた。
「よし、報告終了! 今日は大きな海老天が乗った年越し蕎麦を作るって兄ィが言ってましたよ。一緒に食べましょ~♪」
木暮坂 夜司は、彼の邸宅の大掃除を開始していた。
始めて間もないが、既に埃に塗れている事に、一年間で積もった歴史の数々を思い出す。
しかし、夜司の屋敷は中々、広大だ。覚者とて老体ではある彼にとって、この広い面積を一人で掃除しきるには一体どれ程時間を費やせばいいものか。
愚痴を発したい気持ちを抑え込みつつ、道行く猫が通り過ぎていく。どうやら猫は手伝ってくれないようだ。
はあ、と溜息を吐きながら。だがすぐに笑顔に切り替えて、遺影を念入りに拭いていく。
夜には孫娘も帰宅するだろう、それまでにせめて見栄えだけでも綺麗にしたい。
「……朝路に宵一よ 儂はこの通りじゃ。夕凪も元気にやっておる 相変わらず男っ気がないのが心配じゃがそちらはどうじゃ?」
虚空に返事は返らないけれども、庭の草木が揺れる音が静寂を駆け抜けた。
大晦日は煩悩を祓うために除夜の鐘を突きに来た結城 美剣。
新年はまだ開けていない所ではあるが、人でごった返した並みの中で美剣はもみくちゃにされていた。
(人が多いですね。来ていらっしゃる方々も煩悩をたくさんお持ちなのかもしれないですね)
腰に貼ったカイロの温かみが感じ終わるまでに、終ればいいのだが。片手の珈琲も少し熱が消えかけている。
鐘の場所に到達できるまで、まだ少しかかるらしい。
「カウントダウンも色々あるけど……やっぱり、こうやって落ち着いた物は良いねぇ」
蘇我島 恭司は柳 燐花を傍に置き、呟く。
「人の多い場所で年を越す方もいらっしゃいますが、私は今みたいに落ち着いている方が好きですね」
テレビでは賑わう寺社の中継が始まり、たまに中継場所が変わったかと思えば、繁華街のライトアップやアイドルコンサートのカウントダウンがやっている。
「除夜の鐘撞き、アレって結構並びそうだよねぇ……っと、そろそろ年越しかな?」
「折角ですし、鐘つきは初詣がてら」
誰かと共に年が越せるようになるとは。一年前の燐花は思いもしなかっただろう。
「今年は色々あったけれど、燐ちゃんと過ごせて本当に良かったって思って――」
恭司が言いかけた所で、どうやら時刻は一年を一周したらしい。
彼から送られる言葉ひとつひとつが、燐花に感情を灯しつつあるのは紛れも無い事実で。それをどうすれば彼に返せるか、悩む時間は多く。
「あけましておめでとう、燐ちゃん! 今年も色々あるだろうけど、きっとまた良い一年になるから……今年もよろしくお願いします」
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます」
新年である。挨拶をひとつしあった所で、燐花の頭はコクコクと小刻みに動き始めた。
「はい……よい一年に」
「朝になったら僕らも初詣に行くから、そろそろ寝ないと……」
恭司はこたつの布団を彼女にかけてやりながら、見守るように横になった。
●
太陽は一番高い場所にあるとき、結城 華多那は神社に訪れていた。
午前零時から並んでいた客も、今は少し落ち着いたものか。それも、ほんの少しではあるが。
未だ長く続く行列の一部と化した華多那。暫くしてから、漸く五円玉を投げられる位置までたどり着けた。
(願い事は今年一年がいい年でありますように、って無難すぎか)
誰も欠けない一年に。平和な一年に。そう願いながら、合わせた両手に祈りを込めた。
「長く生きてるけど、やっぱしこの日は心がうきうきするね」
リリス・スクブスは出店で買ったわたあめや、チョコバナナを食べながら流れゆく人の波を観察していた。
そんな所で倶鞍 静が、
「はわわ……。人が沢山います。本日はお祭りでしたでしょうか?」
驚きに身を屈めながら、終始周囲を見回していた。静は最近この場所に来たばかりで、それまで村から出た事が無い。
友達は森の愉快な仲間達がほぼであり、同じ人間と関わるのはなかなかに乏しかった――らしく。
木陰に隠れながら、静はリリスをじぃっと見た。
「かわいいでしょ♪」
「はいです。でも、しずはそんな可愛い服無くて」
「あれま。でもそれはちょっと」
静が唐突に被り始めたビニール袋。流石にそれは無いと、リリスは袋を取り上げてみた。
「時雨ぴょんあそぼー!!!!」
楠瀬 ことこは今日も元気だ。初詣はいついこうか、なんて考えていた榊原 時雨の背中に飛び込んだことこ。
「ってうわ何ことこさん!? 今さっき年越し終わったばっかりやろ!? あ、あけおめー」
驚いた事に多少なりとも満足感を覚えたことこの表情が、満面の笑み。時雨の可愛い表情が、今年一番で見れたのだ、嬉しさもMAX振り切れていた事だろう。
「ほらほら、時雨ぴょん出かけるから支度して? あ、ことよろー!」
「えっ? 出かける? 支度? 何処へ!?」
部屋着姿の時雨もそれはそれで、ことこ的には無問題である。
確実に不意を突かれた表情の時雨はもうまさに、こたつを布団代わりに、いつでも眠くなって寝ても問題無いスタイルであった。
外から来たため、ことこの服も手も冷たく。ひんやりと香る夜の静け。ことこの指が、時雨の首筋をなぞれば、ぎゃあと叫びながら震えた時雨。
「初詣! 今年こそ時雨ぴょんに素敵な彼氏ができますようにってお祈りしてこよ?」
「いや、うちこの後お笑い見て寝よう思ってたんやけど!?」
「あー……初詣か、なるほどなーって、なんでうちクラスメイトに彼氏祈願されなあかんの!?」
「やだなぁ。クラスメイトじゃなくてお友達でしょ? ほら着替えて」
「あぁ、せやな、友達やったら仕方な……いことあるか!! いや、ちょ、待って!? 着替えるから待ってて!!」
ことこはアイドル☆だから彼氏がご法度。故に、代わりに、時雨がしてくれれば万々歳なのだが。
そんなこんなで二人は初詣に歩を進めるのであった。
天原・晃は空を見上げる。月明りは高く。けれど時間にして、零時過ぎ。
「もう年が明けたか……時間が経つのは早い」
晴れ着姿の宇賀神・慈雨と共に、お祭りの気が漂う道を歩いていく。
「明けましておめでとう、今年もどうぞ宜しくね」
「あけましておめでとう。良く似合っている」
「ふふ、ありがとう。そう言って貰えると着て来た甲斐があったの」
どうせならと、慈雨は箪笥に眠っていた晴れ着に腕を通してきたのだ。髪もしっかりアップにして、飾って。
流石に慣れないと歩きづらいか、何度かつまづきそうになった慈雨へ晃は手を差し出した。
一瞬、手を差し出されて取るか迷った慈雨であった。転んでしまい折角の晴れ着が汚れてしまっても……じゃなくて、何より、ていうか、恥ずかしい、照れる気分を抑え込みながら、彼の手を取った。
それから二人は、初詣を。
両手を合わせる慈雨をちらりと見て、
(俺の身近な人々が、新たな一年も幸福でありますように……だろうか)
廻りの人々への幸福を晃は願い、
(其方に行った家族が幸せでありますように、あとあと晃をどうかお守り下さい)
彼女は彼の幸福を願った。
「慈雨。君は俺にとって……大切で、掛け替えの無い人だ。迷惑を掛ける事もある思うが、またこの一年も宜しく頼む」
「私にとっても、晃は大切な人だよ。……迷惑を掛けるのなんてお互い様だよ、こちらこそ宜しくね」
交換し合った想いは、一年最初の大切な思い出。
照れくさそうに二人の視線は混じらず、けれど思いは繋がり、硬く繋ぎ止められているのであった。
●
「あけましておめで……ぐふっ!!」
人ごみの波に攫われていく鳴神零を、掴んで引き寄せた諏訪刀嗣。
「あー、くそ。人混みうぜぇな……。まとめてぶち焼いてやりてぇ」
刀嗣のイライラ度も、零の着飾った晴れ着姿で中和していく。対称的に、零は初詣に誘われた事に何か裏があるのでは無いかと終始びくついていた。
「なんで怯えてんだ?」
「自分の胸に手ぇあてて考えてみなさいよぉ」
「あーもーめんどくせぇ! 無理矢理突っ切るぞ」
「あ、ちょっと待って、ぶつか、うぎゃっ」
零を引っ張りながら人ごみをかき分けて行く刀嗣は、たまに後ろを振り向いて。零の面が剥がれかける所で止まっては、直させてからまた引っ張った。傷のせいで停滞する彼女を、突き動かしていく様に。
「オイ、お前仮面が取れねえように気を付けろよ」
「え?! お面、失くしたら見つけなれ無さそうだしねえ。あ、そういう事じゃない?」
「あ? お前の素顔を間近で見れるのは俺だけでいいんだよ!」
「なっ! あんたの前でもあんま見せないわ! 傷なんか見たいの? 物好きね!!」
「俺が物好きなら俺以外の奴は女の見る目がねえボンクラだろうがよ」
初詣を終え、冷えた身体をお汁粉で温めながら鈴白 秋人と、永倉 祝は歩いていた。
ふと、目に留まった晴れ着。
「来年は永倉さんの着物姿も見たいですね……」
零した秋人の言葉に祝は喜ぶよりは、少し表情が曇ってしまう。
「私にも着てほしい? ……あれを見た後で自分が着るのはちょっと自信ない」
祝は、秋人のほうが綺麗だし、と途中まで言った所で、
「……それは、言わないで下さい……。改めて言われると、少し恥ずかしいですから」
「す、すみません……」
なんともしがたい空気が流れる。女性としては美しいと言われることは光栄この上無い事だろうが、それよりも美しく誇れる少年の存在とは。女性として悔しいとか、悲しいとか、そんなネガティブな感情よりはもっと憧れにも似た気持ちを祝は持っているのだろうが。
頬が少しだけ紅潮した秋人。祝は遠慮気味に笑った。
「晴れ着はハードル高いけど、浴衣くらいなら着てもいい、かな?」
「そっか。じゃあ来年の夏が楽しみになったよ。そうだ、言い忘れていた。あけましておめでとう。今年も宜しくね。永倉さん」
「はい。今年もよろしくお願いします。お汁粉、美味しいですね」
二人の世界は、まだ続く――。
「人が、多いのね」
「ですねー、流石初詣!」
三島椿と、三峯・由愛は共に歩む。初詣参拝客により離れ離れにならないよう、身体を寄せ合いながら。
「由愛さんの着物、とても似合ってるわ」
「えへへ。いつもよ 着ないのですが、頑張ってみちゃいました。椿さんのもとてもきれいですね!」
二人で褒め合いながら、顔を見合わせて微笑んだ。ここには普通の女の子たちの光景が広がっていたことだろう。
暫くしてから初詣を済ませて、二人は帰路を寄り道しながら歩いていく。ふと、由愛が何を願ったのか椿に問うた。
「守ると決めた大事な人たちを守れますように、かな」
「そうなんですね!私も、周りの人たちが皆しあわせでありますように!です!」
決意にも似た願いを交し、御神籤の前で止まり。それを引きながら、由愛は椿に寄った。
縁が結ばれ、離れぬよう。触れ合った袖も、何かの縁。
「今日は、初詣ですけど。また今度、どこかへ遊びに出掛けませんか?もちろん、椿さんがよろしければ、ですけど」
「そうね、じゃあ」
今年最初の運試しに想いを乗せ、二人の仲が深まる事をまた願うのであった。
酒々井千歳は待ち合わせていた女性を迎えてにこり、笑う。
「明けましておめでとう、冬佳さん。今年も宜しくね、晴れ着も良く似合ってるよ。ご実家から送られて来たのかい?」
「明けましておめでとうございます、酒々井君。そんな所です。以前はこういう機会も無かったのですが……新鮮ですね。ありがとうございます」
行儀よく頭を下げた水瀬冬佳。千歳としては冬佳が実家で愛情を受けて育てられているのは、よくよく知っていた。それは、彼女が身に纏う美しくシワひとつ無いものが全てを語っていただろう。
暫くしてから、二人はお参りを済ませんと並ぶ。
「さて……何をお願いするかな」
「そうですね……」
揃って願ったのは、隣人達の幸福。勿論、隣にいるものもそれに含まれている。
それからは、道行く人を捕まえてカメラを渡した。折角彼女が美しい姿なのだ、刹那の思い出の中だけで閉じ込めておくには惜しいもの。
「折角冬佳さんも綺麗にしてるんだしね、記念に一枚」
「あ、ええと……すみません、お願いします」
寄り添い合い、まるで長きを共にする夫婦のように。おさめられた風景は、小さな長方形の写真という中で永遠に美しいまま生き続けるだろう。
工藤・奏空は先日まで風邪をこじらせていた。
治ったものの、未だ本調子では無いが彼は、賀茂 たまきを連れて初詣へ。
「この前は、薬を持ってきてくれてありがとう! すっごく助かっちゃった!」
「治って良かったです。もう、大丈夫ですか? 無理しないように」
元気アピールに両腕を振って見せた奏空。それよりもたまきが愛らしい晴れ着姿でいる事の方が、どんな薬よりも効果があるのかもしれない。
彼を無理させないようにゆっくり移動してきたたまきは、温かく微笑みを返しながらおみくじを引く。
凶。
そういう時もある。
せめて、奏空のおみくじは大吉であるようにと運を分け与えつつ、たまきは祈りを込めておみくじを結んだ。因みに奏空のおみくじは中吉であった。
星空色の髪飾りが揺れるとき、奏空はたまきの手を掴んで人ごみをかき分けていく。
冷たくしっとりとした彼女の手を、離さぬようにポケットの中に誘導して。あったかいでしょと、奏空が高鳴る鼓動を抑えながら震える声で説いた。
「この一年、できればこのさきもずっと、仲良くして頂けたらとっても嬉しいです!」
彼女の言葉に、奏空の風邪は完全に駆逐され、風邪のせいでは無い熱は高まり燃え上がるのであった。
野武 七雅は樹神枢と共に、初詣へ。
「あけましておめでとうなの!」
「うむ。あけましておめでとうなのだ!」
「今年もよろしくなの。枢ちゃんの晴れ着素敵なの」
「ありがとうなのだ、そっちも綺麗だぞ」
「なつねはちゃんと着こなせてるかな?」
「うむ!大丈夫なのだ」
そんな可愛らしい話をしながら、二人は手を繋いで歩んでいく。初詣までの道のりは遠く、背がお世辞にも高く無い二人は四苦八苦しながらたどり着いた。
「枢ちゃんは何てお願いしたの?」
「七雅が元気に過ごせますように、だ!」
「なつねは皆が仲良くできますようにってお願いしたの。そしたらきっとあたたかい気持ちになれるの」
それには、妖や古妖などなども入っている願いであることは枢は感じ取っていたことだろう。その後は二人で御神籤を引きに行ったそうな、二人で結果は大凶であったことに驚き、そして共に乗り越えようと笑いあった。
●
栗きんとん、黒豆、牛肉のゴボウ巻き、鶏の唐揚げ、豚の角煮、伊達巻、エビのうま煮、煮しめ、膾、豆腐と水菜のサラダ。
阿久津 亮平は並んだ料理に一息吐いてから、隣の酒の臭いから缶ビールを取り上げた。
「飲酒はまだ許可してなかったんだけどな」
「そんなあ」
和泉・鷲哉は笑いながら、片手を胸の前で立ててごめんなさいとする。
「んで、おかーさん。次は何手伝えばいい?」
「あとは御雑煮とぜんざいとお汁粉を作るから、とりあえずそっちの鍋で水を沸かして」
「へいへい」
暫くしてから、三島 柾と志賀 行成が来ており、持ちこんだものを料理の隣に並べる。
柾は、とっておきの秘蔵酒を持ってきながら、折角だしとつけ加えながら、箸で取った黒豆を空きっ腹に放り込む。
「流石だな、この黒豆もよくできてる。本当、料理上手だな阿久津」
「いやあ、それほどでも」
行成も同じく、出来立ての唐揚げを齧りながら、外の寒さで冷え切った日本酒を呷る。
「これはいいな。贅沢をしている」
「いやあ、それほどでも」
「鷲哉さんも一緒に作ったのか」
「手伝っただけだー」
「ああ、こいつは酒飲んでいただけだ」
「だろうなあ」
「ひどい!」
二人に絶賛されている時、亮平は終始部屋の隅でのほほんと頷いていた。
再び暫くしてから、京極 千晶が席についた。
「おせちって豪華ですねー」
色とりどりで目でも楽しめる、新春のご馳走。正方形の箱の中に、皆、上品に鎮座した料理を前に千晶は瞳を輝かせた。
つい、箸もどれからいくか迷ってしまう。迷い箸は良く無いが、それくらいどれから食べたいか、いっそ全部食べたいくらいに決められない。
気を利かせた鷲哉がお皿に料理を盛ってから千晶の前に置く。順番に、柾、亮平、行成と料理を盛った皿を並べて。
豪快に食べ始めた千晶。
「おせちすっごく美味しいです! おせち料理ってこんなに美味しい食べ物なんですね!」
「阿久津さんが作ったからってのもある!」
鷲哉はうんうん頷きながら、千晶も彼に合わせて頭が上下していく。
「はい! 流石、お店を切り盛りしてるから!」
「それほどでも……」
再び亮平は部屋の隅に頭をくっつけた。
「そろそろできるぞー…お、三島さん持参の酒美味そう。何処の?」
「これは、地元の日本酒でね。フルーティな味わいで飲みやすい日本酒なんだ。他にもラベルが逆のものや、ラベルが別の色のものもあったりして」
柾が鷲哉に説明をしている最中にも、器用に鷲哉は料理を並べていった。
どうやらそれも、揃ったようで。全員でひとつのテーブルを囲みながら、
「皆、今年もよろしくお願いします」
と亮平が挨拶をしてから、乾杯をする。
「千晶ちゃんは、ジュースだよ」
「そうっすね! 早くお酒が飲める齢になりたいです! お正月って楽しい行事ですね。楽しいお正月を過ごせて、すごく嬉しいです」
まるで家族の団欒風景を見ている気分だと行成は思う。一人暮らしを始めてから、こういったものに縁が遠かった彼としては、一年の始まりから幸先は良いのだろう。
「お汁粉美味しいなあ」
酔っぱらっている柾が唐揚げをお汁粉の中に落しながら、甘いものと酒は別腹だよとキメ込んだ所で全員が噴いた。
そんな風景を見ながら、鷲哉は今年も良き一年になることを密かに願うのだった。
流石。
元日というだけあって、大勢の人の行列の最後尾に並ぶだけでも憂鬱というものだ。
向日葵 御菓子はその億劫さを感じながら、菊坂結鹿と共に、というか同時に溜息を吐いた。
先まで寒かった両手の先も、今や少し火照り始めているのは人の密度のせいか。
「きゃっ……あ、ごめんなさい。あ、いえ、こちらこそ……はい」
「こちらこそ、すまぬのだ。前方不注意であった」
結鹿の手荷物がぶつかったか、ぶつかった相手と頭を下げ合う彼女を見て、御菓子は心の中で少し噴くのだが。
「って、なんだ枢ちゃんじゃない」
「おや……これは、向日葵殿。それと、菊坂殿であったか」
「ここで会ったのもご縁だね♪ 一緒にお参りしよっ」
「うむ! 良いぞ」
それから、結鹿と御菓子は、枢を連れながら参拝していく。
「これだけ人が多いと人波に飲まれてバラバラになっちゃいそうだから……ね」
先生が今年初めての先生らしい仕事をした。二人の腕を組んで歩む。離れないように。
それから、帰宅し、炬燵の上。
結鹿が、腕によりをかけて作ったおせち料理とお雑煮と。
「えっと……これは何ですか?」
「え?お屠蘇だよ?」
「えっと……お姉ちゃん・先生だよね?」
「そうよ? なんで疑問系?」
「先生が未成年にお酒飲ませちゃいけないでしょっ!」
「今日は……そう! 家族サービス? 付き合い? 縁起物? みたいな?」
「だからぁ……もぅ…しょうがないなぁ」
引かぬ御菓子に、結鹿は苦笑した。ぬくまる部屋に、お節料理の並び。
そこから、結鹿が酔っぱらいながら御菓子に絡んでいくまで、あと少し。
谷崎・結唯は、妖の資料を作る所だ。
「お前は……樹神枢か。あけましておめでとう」
「おめでとうなのだ。宜しくなのだ!」
「こちらこそ、宜しく。よくここまで来たな。探しても、来れるような場所では無いぞ」
「そうなのか? ならば、僕は今迷子なのかもしれないな。何をしていたのだ?」
「妖の情報をまとめていたんだ。ここはイデアランツ。妖や古妖、覚者などの超常的な存在の情報が集まる場所だ」
「壮大なのだ」
「いずれは、そいつらの引き起こす事件を解決する事を視野に入れいている。その為に情報を集めまとめておく必要があるんだ」
其の中には枢の情報もあった。
「……大変だったようだな」
「こんな世だ。僕みたいなのは珍しくもあるまい」
智を求めるのならば、ここにはそういった迷う人が訪れる場所。イデラアンツ――。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
