<黎明>白は嗤って回帰せん
<黎明>白は嗤って回帰せん



 暁は『血雨』に関するふたつの資料を提出した。


 ―――新興組織『黎明』所属、暁少年が所持していた薄汚れた黒いメモ帳内。
 『チサメ』についての調査手記より抜粋。

 知り過ぎた。
 私は血雨になるだろう。
 その前にこの手記に希望を託す。

 チサメは、二十代前半の女性。
 チサメは、能力者の枠から逸脱し、理性によるブレーキを払拭した存在。かつ、異常な速度で凶暴性の高い存在となっている。これには彼女が持つ『八尺大の鉈』が関係していると推測する。憑りつかれているのか……?
 チサメは、執着がましい恋慕と行き過ぎた嫉妬心を糧に生きている。
 チサメは、紫雨の女――――(ただし、この女という文字は女偏であるようだ)。

 ……あとは破り取られていて見えない。


 ―――新興組織『黎明』所属、暁少年が所持していた紙切れ。
 『八尺』についての調査手記より抜粋。所々、文字が潰れて見え辛い箇所アリ。

 みたままをそのままかき×こす。おれ×からだをみ×けたら、てあ××ほうむってくれ。

 八××、妖である。×霊系か、物×系かは未だ不明。
 ×尺は、人に執着する。若い×や、子×が高確率で対象になるが、例外は存在×る。持ち主の感情に左右されやすい。
 ××は、執着した××を×い回す。追い××れている××は、××の接近により悪寒症状を感じ取る事がある。今、俺がそうであるように。
 八×は、×を愛している。愛は食す事として取り込む事により×望を満たす。
 八×は、憑りついた×の理性を破壊し欲望を助長させる器具である。神具である。同時に多大な呪に侵されている。
 ××は、依代であり、器であるとすれば。八尺本体は此れに××されていると断定する。
 現時点の×尺は、紫×のみ攻撃しない。何故か、チサメの××に守られているのだろうと推測。

 ……あとは血がこびり付いていて見えない。


 十人+αは、人を寄せ付けない森に入り、乱雑に配置された地蔵の間を通り(内ひとつが壊されていた)、とある痛ましい残滓が残る廃村に立っていた。
 村と呼ぶには、最早そこは空白地帯に過ぎないだろう。森の中にぽっかり空いた平べったい土地に、申し訳程度の木々の残骸や、使われていたであろう家具。何に使ったか不明な金属に、祭壇らしきもの。他にも細かいものが多いが割愛としよう。
 それ以外は……草も、木も、花も、まるでそこを避けているように、只々、何も無い場所なのだ。
「君達に提示したふたつの資料はここで落ちていたものなんだ。僕は……此処の住民だったからね」
 案内役を担う+αの人員『暁』は、フードをこれでもかと深く被りながら懇切丁寧に説明を始めた。
「『憤怒者』に追われた覚者が、仕方なく外界から自分達を隔離して生きていた場所。
 そして、血雨……最初の、犠牲の村。隔絶していたから新聞等の記事にもならず、人の噂の中でしか残らない犠牲だから村の場所の認知度は低い。
 何よりこの村は地図に乗ってない。国から見捨てられた能力者しかいない村……だったしね。
 僕は事件が起きた時、森にいたから血雨にあわなかったんだ」
 乾いた風が流れていく。
「……富士山から地力というものが流れていて、それを『竜脈』という。その竜脈の、重要支流の一つに流れる地力が噴出する『竜穴』というものの直上に村は存在しているんだ。
 分かりやすく言えば、『特異点』。あ、『パワースポット』とか聞いたこと、ある?」
 だがしかし、
「力がある場所には古妖もそうだけど、妖……『良くないもの』が集まりやすいし、発生しやすい。そんな場所に住居を置くのは大変だろう。それでも住む事ができたのは………『大きな力は大きな繁栄をもたらす事もある』そういった、『本来忌避されるべき良くないものを、利益のある力に変える研究』をしていた村だったんだ。
 主に神具を作り出していたかな。『日本の歴史や伝説を題材にした模造品』みたいなものばっかりだったけど。
 何の為って? 『復讐』の為だよ。彼等は追われた身だから、追った方に仕返しのね。
 君達を此処に招いたのは、まだ神具が残っているかもしれないからその調査に。僕は君達に強くなって貰いたいからね、本心から………ん?」
 その時、村の奥から声が乱入してきたのだ。

「そう。逢魔ヶ時紫雨が神具を片っ端から奪って鳴いたのよ、ほほ」

 見目は、足が見えない程長い白ワンピースに、日本風に言えば『つば広帽子』と言えば良いのだろう白いキャペリンを被った『推定女』と思われる物体だった。美人なのだろうが、目から上がつばにかかって見えない。
「警戒しないで頂戴、と言っても無理かしら?私は『禍時の百鬼』では無く、自主的にあの子に力を貸しているだけの存在よ。
 逢魔ヶ時紫雨からの手紙を渡しに来ただけよ。それでもう帰りなさい。紫雨を怒らせたくないのよ、あの子、怒ると怖いの。村で何かするのなら、少しなら目を瞑ってあげるけれど……やりすぎたらいけないわ」
「う、ぅ……」
 推定女が喋れば喋る程、暁の吐く息がヒューヒューと音を立て、不調を訴えていた。
「早く去りなさい早く去りなさい、早くしないと早く早く早く、早く早く」


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:普通
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.探索で何か一つでも見つけて無事に帰る
2.なし
3.なし
 血雨編、どれだけ情報が手に入るかで今後が楽になります
 皆さん、都市伝説はお好きですか?
 参考にしたネタはありますが、そのまんまで出している訳ではありませんので、それだけ注意してください。

 リプレイは、OPの直後から始まります
 尚、当依頼にファイヴ所属の夢見の予知は一切ありません

●状況
・暁の故郷に来た。ここは普通の人達に追われた覚者たちの村であった。かつ血雨になった最初の村であった。
 竜脈の地力を直で受けているこの村は、いわゆる特異点である。その力を利用し神具を製造する事に長けた村であったようだ。
 されど、ある日突然紫雨が介入し、ここの神具の大多数は紫雨に持ち去られてしまったようだ。
 暁の勘ではまだ何かが残っているという。
 探しに来たのだが……紫雨の使いを名乗る『推定女であろうもの』が出現した。敵意は無いようだが、監視されているような雰囲気である。
 さてどうしたものか。

●依頼について
 探索の他に、
 当依頼では暁に質問が可能です。
 ですが……『何故だか』彼の体調は時間経過と共に悪化します。
 重要そうな質問は簡潔に纏め、重複しないように分担して、最初のほうでさらっと聞いた方がいいかと思います。つまりどういうことか? 聞ける質問回数には制限があるということです。
 『何故?』と思う事や『違和感』はバンバン質問したほうがよいです。(ブレインストーミングスペースなんかも活用してみるといいかもしれません)

 基本的に答えますが、答えられない質問も存在します。

●探索
 具体的に『どこ』を『どう』探すかプレイングに書いてください
 技能スキルがあると便利といえば便利ですが、無くても問題はありません

 村についての情報
・関東方面
・広い、殺風景
・村を囲う様に地蔵があった、内ひとつが破壊されていた
・住居らしきものは無い
・木々の残骸や金属、祭壇らしいもの、家具、小さな寄木細工のような箱が8つ転がっている
・村には蛇でも這ったかのような痕跡がある、小さな蛇では無い。人が丸のみされそうなくらい巨大な
・何かを引きずった痕跡がある
・やたらとスコップやシャベルなど、地面を掘る時に必要なものが落ちている

●推定女
・白いワンピースに、白い帽子。長身ではないが、艶めかしい雰囲気を持った存在です
 手紙を届けに来た、との事。
 暁曰く『彼女から見えないように上手く視界を誘導して探索すれば時間が稼げるかもしれない』との事です。

●暁
・新興組織『黎明』所属の少年。16歳、獣憑(辰)×?
 使用武器は清光という刀ですが、非常に体調を悪そうにしております


 戦闘をするかもしれない事を念頭にプレイングをお書きください。
 夢見の介入が一切無い現場では、PCと暁と推定女以外に何かがいる可能性もあります。
 戦闘した場合、規格外に強いですが相手の動きや攻撃方法、武器なども探索で得た情報として扱います(PL情報)

 難易度は条件をこなす意味での『普通』相当ですので、お気軽にどうぞ

 それではご縁がありましたら、宜しくお願い致します
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2015年11月25日

■メイン参加者 10人■



「早く去りなさい早く去りなさい、早くしないと早く早く早く、早く早く」
 推定女であろう物体は一歩、地面を踏みしめた。口に出来ない威圧感と、不敵な笑みが味方では無い事を告げているのは明確。
 そして正確には、暁へと向かっていた。
「うぁ、うぁぁあばばばばばばばばばばば!!」
 対して暁は、彼女が知り合いなのか、はたまた知り合いでは無いのか、困惑した表情で尻もちをついた。三島 椿(CL2000061)が推定女と暁の間に身を挟み、暁を隠しながら、けれど喉がごくりと鳴るくらい力んで唾を飲み込む。
「……っごめんなさい、彼の体調が悪化しているようだから休めそうな場所で話したいわっ」
 善処たる行動を促せば、それまで笑っていた口角が下を向く。不安な面を魅せた女ではあったが
「そう、大変そうね。なら、あっちの方に気持ちの良い木漏れ日があったわ。にしても今年の冬は暑いわね」
 流れるように推定女は退いた。

「歩けるかい?」
「二本の足が健在なら問題なく……」
 深緋・幽霊男(CL2001229)がフラついた暁の腕を持って支え、少しずつ後退し、推定女から彼を遠退けて行く。まさにその時であった、暁に触れた幽霊男の脊椎付近の感覚が、強烈な熱視線に貫かれていた時の冷酷な違和感に震えた。顔を上げ、周囲を見回す幽霊男。
(なにか、いるのは確かなようだね……)
 急ぎ足。
 幽霊男は椿と暁を連れて退く。

 ――渇いた風が通り過ぎていった。
 気になる事は多々あれど。各個人、各々の捜査場へ散らばっていった。

●暁←問
 葉の色を紅へ変えた紅葉が風に乗り、蕾花の髪に舞い降りた。指でつまんでくるくる弄びながら、彼女はまず、暁を追う。聞きたい事は、山程あるのだ。

「ここがあんたの故郷なんだね」
「まあ……そう、だね」
 影も形も無くなってしまったが。
 同じく故郷を失った同士。一度は敵と疑ったかもしれないが、味方だと言ってくれた暁。彼の心に、近づける事は出来るのか。蕾花は一抹の不安を覚えていたが、弱りながらも遠慮気味に笑った彼は優しい人間なのだと思い込む。
 昼だというのに、鳥の鳴き声ひとつ聞こえない不気味な場所。夜に来たら、それこそホラーゲームテイストの、愉快なフラグが無条件で味わえるに違いない。
 そういえばと、蕾花を含め、刀嗣以外の覚者は暁に自己紹介をしていなかった。
「あたしは鳴海蕾花……、そういやあんたの名字を聞いてなかったね」
「蕾花ちゃん……暁は、僕の……真名じゃない」
「違うのかい?」
「ほんとは、別の名前があるんだけど……」
「逢魔ヶ時とか?」
「それはナンセンスだよぉ……」
「だよね。初めてここで血雨が降ったそうだけど、それはいつ?」
「結構、前」
「血の梅雨と何か関係があるの?」
「それとは全く関係は無いかな」
「何故、秘密組織であるウチらを信用する?」
「君達は夢見を持ち、僕の事を助けた。そして暴力坂相手でも逃げなかった。あんな戦争馬鹿相手なら、逃げ出しても誰も咎めなかったのに……だから、信用してる」
「紫雨が隔者として組織に入れたのは、人でありながら妖に憑かれていたからなのか?」
「僕は七星剣の採用要項なんて知らないよ……予想で回答していいのなら、八神勇雄が必要と感じたからじゃないかな……?」

●箱←透視結果
 大きな欠伸をしてから、後頭部を掻いた『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。偶にチラチラと推定女を見ながら、心の中で不敵に笑むのは今後の面白味が増えたからだろう。目線を送る度に、推定女は手を振ってくるのはなんであろうか。さておき。
「で、どうなんだよ」
「駄目ね……この寄木細工みたいな箱の中、全然何も見えないわ」
 『浄火』七十里・夏南(CL2000006)は無造作に鏤められた箱を見ながら、頭を傾げた。何度試しても、手の平に収まるサイズの箱の中は視えないのだ。
「そもそも、それが本当に寄木細工であると仮定するなら、木製だろォ。透視は無機物しか見えねえんじゃねェのか」
「そうだったわね。箱は有機物であるか、またはなんからの魔術的神秘的作用で中身が隠蔽されていると判断するわ……。それか、本当に中身が真っ黒なのか、とか」
「俺の知ってる寄木細工なら、もっと秩序性のある柄が規則的に組まれているはずだったが」
「ええ……これは、最早秩序性の欠片も無いわね。この柄、見てると頭の中がぐちゃぐちゃしてくるわ……」
 あらゆる図形が、あらゆる角度と、絶妙の間の無さで組まれている箱はそれだけで『開けるべからず』と忠告されているようなものである。
 寄木細工もそうだ。たった一か所のすき間にある開け方を知らなければ、箱としては無意味。あれは只の四角いインテリアに過ぎない存在になるのだ。
 触る神に祟り無しという言葉は、言い得て妙である。
「手がかりかもしれないから、持って帰る事にしましょ」
「でもよ」
「何」
「あまりにも、お持ち帰り下さいと言わんばかりの置き方だろうがよ」
「それは……私も気になってはいたところなんだけれど」
「何も無い、いや、何も無くなった場所にどうしてこれだけが残る事ができた? まるで俺達に、『はいどうぞあげます』と言ってるようなものだ」
「そうね。さっき女が言っていた、『紫雨が神具を片っ端から持っていった』のが仮に本当であれば、何故この箱だけ取り残されたのかしら。例えば、『要らなかった』とか……?」
「要らねェもんならあげてもいいのかよ」
「本当に、そんな単純な理由であげるかしら?」
「さあ、な。だが、あげたいから連れて来られたんだろうな俺達は」

●地形←土の心
(八尺に謎の箱に滅びた村……どうにも、きな臭いですね)
 『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は、隠れた瞳を細く繕って思考に浸る。
 ――その前に、目の前を円が全速力で駆け抜けていった。
「待って、くださ、おひゃー!」
 ……駆け抜けていこうとしたのを、首根っこを掴んで静止させたが、円の足は軽やかに前後に動き、最早祇澄が円に引きずられながら移動している妙な絵になった。
「止まって、ぇぇく、ださいいい!」
「調査! 調査……スコップめっけ~」
 ボロボロのスコップを見つけて瞳の中に星屑を溜める円に対し、祇澄は額の汗を拭った。
 祇澄としては、やはり円に着いて来てよかったと思う。彼女を野放しにしていたら、迷子も確実性高い事になっていたかもしれない。これはもう円の生まれつきの性である……いやこれこそが彼女の良い所であるのかもしれないが。
 さて、と一息ついた所で祇澄は足下に力を籠めた。大地が『秘密』を教えてくれるのだ。これは土行だけが行える、神秘の技。同じスキルを同じ場所で発動しても仕方は無いと察した円は、周囲に何か面白いものが無いかを探して、顔が左右を忙しく向いた。棒を拾った、齧ってみた、苦い。
 祇澄の頭の中で3D上に組み込まれる周囲の地形図。何処かに何か不思議な点があるか、無いかを探す。
「あ」
 一見、『見ただけでは不明』な事が分った。
「下に、穴が空いて、ます……? それも、かなり、大きな。それでいて、細い、空洞がいくつも。なのに、入口が無い……どうして」
「そりゃー見たらわからないものだー。入れないのに、空間があるってこと~なら地底人さんがいるのかもね~」
「それはそれで、古妖の仕業なのかと、思ってしまいます……あ、なにをするんですか?」
 長い棒の先端を地面につけ、倒す。斜め右方向に倒れた。
 どうやら円の中のアミダバは運にものを言わせて、掘れと命じているらしい。
「ここほれわんわん~」
「えええっ、そんな、方法で、ここを、掘る、んですか?」
「運にはね、根拠も理論も希望も絶望も要らないんだよ~、あとさっきね、箱を拾ったの~」
「それって、諏訪さんたちが、調査、していたものの、ひとつに、似てますね……」

●蛇?の軌跡←散策
 見目麗しく、貫禄のある風貌の『木暮坂のご隠居』木暮坂 夜司(CL2000644)は、蛇らしき軌跡を辿っていた。
 戦の傷痕か、それによる退廃の残滓か。雀の涙程度の『ここには人間が住んでいた痕跡』さえ、悲しみを纏る一端に過ぎない。『終った村』を散策しながら、何を思うか。夜司のカメラは跡形も無い跡形を記憶に焼き付けていく。
 辿っていく軌跡は、森の奥へと消えていた。ここから先は、人間の手入れが一切されていない領域だ。獣道も無い。完全に自然に支配されている世界なのだ。
 一旦、夜司は後ろを振り向いた。仲間が、なんらかの作業をしている姿を見てから、もう一度森を見る。
 夜司の背から風が通り抜けていく。まるで見えぬ闇に誘われている様な、背中を押されている様な。そんな細やかな副音声が、風切り音と共に耳に囁かれている。
(ここから先に行ってしまえば、仲間の視界に映らない。声は届くか……送受心もあるから平気かのう)
 帽子を、深く被り直した。
(行くしか無い)
 一筋の不安が胸を燻るものの、夜司の探究は足を前へと進めた。

 進んだ。

 進んで、そして。

「―――――お主、一体」
 夜司が見つけたのは、幾数尺もある巨大は白蛇であった。木と木の間に身体を曲がらせては這う。いや、今は静止しているのだが。その縦に鋭く伸びた瞳孔が彼を捕えた。
 逃げられない。もう逃げられない。
 そう、夜司は察した。既に老いた身ではあるが、死を感じた。

●祭壇←調査
 古来より繋がる現在でも、竜穴に纏わる話や神社の類は多く残っている。
 もちろんそこには良い話も悪い話も跋扈する訳ではあるが、今回の場所とは、禍を転じて福と為すよりは、禍を転じて災厄と成したか。
 『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)の流れるように長い髪が風に揺れた。神職に就き、古くから神事を司る家の娘としては、怒りにも似た感情が小さく浮き出ていた事だろう。
 祭壇を四方八方から見て、触れてみて、中が無いか、穴を探したが形跡は少ない。
 本来、祭壇とは何からの儀式に使われるアイテムのひとつであるが、これが直接関与した形跡は見当たらなかった。
 では、何故このようなものがあるのか。
「放置具合からわかっていましたけれど……これは、ダミーですね」 
 例えば、目立つものを置いておけば、他に目が行きにくくなる事はよくある事だ。
 冬佳は顎を指で触りながら考えに浸る。
(ならば矢張り地脈が流れるとあれば、上よりも下に何かがあるはず……それを此処を訪れた『誰か』は気づいていた。だから下を掘る道具が転がっていたとすれば)

●地蔵←調査
 二刀のブレードを軽々振り回し、最強の名を高らかに宣言する戦闘とは打って変わって、本日は平和(?)に調査を実行する『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)。
 村の円周を囲う地蔵の一体の前で膝を折り、にらめっこをしながら自然と彼女の顔もしかめっつらになっていく。
 とはいえ、このにらめっこに聖華が敵とするはずの『相手の顔』というものは無い。
 何故なら、その顔は粉々に砕け散っているからだ。首から上、否、胴から上が完全に無くなっている滑稽な地蔵に、勝負を挑んだ所で意味も無い。
 元より目的はそれでは無く、どうやって上を失くしたか、何故失くしたかが重要だ。
「本来、内側から壊れたのなら、破壊された断面はここまで綺麗にカットされねえ。もっと無造作になってるもんだぜ。だが、これは」
 明らかに綺麗過ぎる断面なのだ。まるでそこの空間だけ削り取られたような。
(血雨か……? いや、八尺大の鉈の仕業か……って考えるのが普通かもしれねえが、八尺の鉈でこんな器用に切れるもんか? それに)
 聖華は地蔵の後ろへと目を向ける。
(八尺と長い鉈が振られたんなら、この後ろの木とかも切れてていいはずだ。なのに木は無傷だ。つまりもっと器用な奴がこれを壊したんだ)
 例えば。
(力が強くて、刃物を扱うのに長けていて、器用な奴……そんなやつといったら)

●地形←ていさつ
 蕾花は、守護使役である『つくね』を空へと飛ばす。
 村の外枠の形は円に近く、だがそれ以上には特に目立って情報になるものは無かった。祭壇や箱の配置には特に秩序があるものでは無く、地蔵は村を囲っている程度のものだ。
 周囲に自分達以外の人間は特におらず。また、現時点で自分達と推定女以外には出入りしている様な人影は見当たらない。

●暁←問
「えーっと……」
 暁は眉間を抑えていた。なんだろうか、この状況はと全身で抗議していた。
 椿は木の根元に正座しながら、膝をぽんぽんと叩いたのだ。まるでそれはまさかの『膝枕』というものなのだろうか。
「僕にとってはボーナスタイムなんだけど」
「ボーナスタイム?」
「だって、女性に膝枕させるってなかなか無い出来事だよ。軽く見積もっても一年間であるかないかのエンカウント率だよね」
 目がばってんになりながら、うんうん悩む暁に椿は頭をこてんと倒していた。
「だって、体調が悪そうだわ。休むべきよ」
「確かに僕は今非常に眩暈がしてる。休むにも選択肢は多々ある中で、一番難易度が高いのを選んだのは何故!?」
 とは言いつつ、甘んじて受けた暁であった(ドーン)。
 年々歳々飽きもせず来る『秋冬』という現象を比較しても、今年の秋は暖かい気温である。空から零れ落ちる日に打たれてい―――るとしても、暁のかく汗は異常である事を椿は見ていた。
 そっと、椿は彼の頭に手を乗せた。
 熱い。
「本当に、大丈夫?」
「慣れてるから大丈夫」
 時間は限られている。質問は、せねばならない。
「黎明の夢見とは、何時知り合ったの?」
「あー、うん。あいつは知らない人ですね」
「仲、いいのね」
「えええ、全然なかよくなっうぐ、げほっ」
「暁の行って何? 私は水だけど」
「……うう、火だよ、げほげほげほ!!」

●暁←問
『暁、いくつか質問良いか』
『簡潔に、幽霊男ちゃん。できるだけ、早く……』
『八尺が、この村で作られたのなら作った家や封印・保管してた場所があるなら併せて、その大凡の跡地はどのあたりか?』
『さあ』
『また封印方法などはあったのか?』
『全で一と成す地蔵があった、けど……あれも破られてる。ううん、あれは破ったんだろうね、必要無くなったから』
『地蔵は何らかの封印なのか? なぜ一つだけ破壊されたのか?』
『八尺を……この……『村から出さない』為のもの……破られたのは、そういうこ、と』
『寄木細工に関して、この村でそうした神具の作成はあったか?』
『神、具の、作成をして、いたと、は前に、言ったと……思う』
『初めて出会った際の『紫雨にも予想外』という意味の詳細は?』
『……』
『噂程度の情報しかない血雨を『最初』と断言する理由などから、別な情報を持っているのではないか?』
『君達が……推理していた事は、ほぼあってるよ。この村で八尺は作られた、保管されていた、だがある日血雨が起き、た……』
『暁自身が自身の経験などから、何らかの考察、正体に関する予測があるのではないか?』
『血雨。チサメ。………『智雨』。逢魔ヶ時智雨、あれは、智雨であって智雨じゃない』

●引きずった跡←探索
 引きずったような跡の始点には何も無かった。当たり前か。ふと、聴衆に長けた刀嗣の耳に声が聞こえる。
『おにいちゃん』
「あ?」
 痕跡の遠く、森の中。木の隣で、半透明の女の子が一人立っていた。
 だがおかしい。
 先に、蕾花の探索では周囲に自分達以外に何もいないと言われていたはずだ。
『ぬしさまが――いいよあげるって』
 そこまで言って、彼女は消え、夏南が持っていた箱が突如光輝き出したのであった。

●戦闘←開始
『!!』
 そして推定女は動き出した。トリガーは、箱が淡く輝いた刹那。
 行く手は再び暁へと向うのかと思われたが、その前に幽霊男は女の手前に身体を押し出し、問う。
「おぬし、智雨というのだな?」
『……』
「何故、最初の血雨事件で暁を見逃した?」
『……』
「何故、最初の事件を起す必要があった?」
『……ふ、ふふ』
 蕾花が拳を構え、近距離で女へと警戒の威を向けた。
「あんたは何者、暁と関係あるの?」
『……』
 蕾花の問いは続く。
「これと京都の村をお前がやったわけ?」
『……』
 ニィィィィ!! と、口元が横に裂けた女の足下から、炎が轟と音をたてて吹き荒れた。
 秋という季節を軽く嘲笑える熱風に汗が吹き出るのを拭う事もせず、刀嗣は推定女の正面から刀を構え、夏南は推定女の横からAGブルームを構えた。
「お前、八尺持ってんのに正気を失っちゃいねえな」
『回答します。そもそもです、八尺と智雨が別ものと思い込んでいるのは間違いであり、間違いではありません。でも、中々上手に演じていたでしょう?』
 推定女は右手を口の中に入れ、棒状の何かを喉の奥から引きずり出していく。泣き声のような嘔吐音と一緒にずるりと伸びた物体は、最初は内臓と肉体をごちゃまぜにしたような柔らかい形状であった。
「あぶねえ!!」
 聖華が飛び込み、夏南と一緒に地面に滑り込んだ。推定女が、不気味で意味不明の得物をひと振りしたのだ。掠ったか、聖華の肩がごっそり『食い千切られていた』。
 その後、それは鉈の形へと変形し、刃部には牙が並び口開く奇妙な形状へと変えた。口が開いたり閉じたりする度に、中の液がぐちゃぐちゃと音を立てる。
 夏南は瞳を細く。
「成程ね、それで喰ったと」
『一体化ですよ?』
 冬佳が高音の爆風を振り払いながら、目の前の『混合物』を睨む。
「聞いたことがある……、力を求めて『呪われた神具』を持った者が、力に飲まれるという事を」
 聖華が削れた肩を、制服のリボンで止血してから抜刀。
「……っ、じゃあつまりだ、『逢魔ヶ時智雨』という人物は、既に破綻者として自己破壊しており『八尺』という『妖』が身体を乗っ取った? おかしいじゃねえか、あれは俺的には『妖』じゃ……無い気がするぜ」
 祇澄も同じく抜刀、刃を向ける(祇澄が遅れて来たのは円が掘った穴から抜けなくなっていたから)。祇澄の頬から汗が流れた。
「……騙され、た? 妖では、無いから、妖だと、思わされた……?」
 その『情報』とは、誰が用意したのか。覚者の推理はかなりいい線をいっていた。そもそも平仮名を使う程に急いでいた人間が、直後、画数の多い漢字を使って文字を書くのか。
 騙されているのだ、『誰に』、そこに誰かが気づかれたくない情報がある。祇澄は歯奥を噛んだ。
 未だ真相は視えない。
 だが、あれは妖では無く、智雨でも無い。
 これが結論だ。
 鉈である八尺には目玉が幾数も蠢いていた。人間は無意識に目をというものを追いがちだ。目を合わせた刹那、その場に居た全員が一斉に嘔吐感を覚えた。この症状は、暁が帯びている症状と何処か似ている。祇澄だけは、何故か彼女だけはそれから逃れることができた。幸いだったのは自分の前髪か。細い刀で鉈を受け止め、弾き返そうとするが、受け止めた瞬間に腕ごと引きちぎられていく、食われている。力が吸われていくような、妙な感覚が走った。
「食べれば、食べるほど、成長、する」

「おー、なんかすごいことになってるー」
 因みにこの時はまだ、円は土に埋まっているままであった。だが何故だろうか、足下がぽかぽかと温かい。
 力が湧くような。それは、竜脈の上だからだろうか?
 違う。
 円は持っていた箱をポケットから出した。淡く光り輝き、何かを吸いだしているように風を飲み込んでいた。なんとなく、ほんの少しのなんとなくだが、円は思う。打開策はこれだと。

 智雨の身体で八尺は、己自身を振るう(以下、推定女を八尺と呼称する)。
 その前に幽霊男が解析を行った。だが、遥か許容できる戦闘能力は超えている、それだけは分ったのだが後はノイズが走って幽霊男の脳がかき回される痛みを帯び、強制的にリンクを切った。上から押さえつけられている様な威圧に、押されまいと足を奮い立たせるものの。
「全員食うつもりだな」
『ぽぽぽ』
 斜めから落とされた刃は、中衛位置まで問答無用で届く程に『伸びた』。狙いは幽霊男だ。解析、それはそれだけでピンチを招く。完全にガラ空きであった幽霊男の腹は抉られ、綺麗な歯型がそこに残った。一瞬で膝から崩れる幽霊男。されど魂を奮い立たせ、倒れることは許さない意思だけで立ち上がる。
「タコ、みたいな動きですね!!」
 率直に言えば冬佳が言った通りの軟体(硬質にもなる)だ。
 跳躍、または伏せて回避した覚者であるが、聖華の目に見えたのは地面にまで食い込んでいった八尺の鉈が、軽々と『地面を切って』元の位置に戻っていった事だ。
「なんでも切れるとかふざけんじゃねえぜ!!」
「食ってるに近いんだろうな!!」
 後ろから殴りかかる蕾花。幽霊男が無謀だと止めかけたが、彼女は止まらない。
 足下の砂を蹴り、背中さえ取ってしまえば。そう、本来なら『死角』には攻撃ができない。だがそんな『普通』も通用しなかった。回転してきた鉈が蕾花の腹部を捕え、吹き飛ばす。祭壇が半壊していく程の強激に蕾花は血の塊を吐き出した。幸いだったのは刃部では無く、柄でふっ飛ばされた事だ。
『食べ損ねたわ』
「へっ、食われて、たまる、か」
 がくがく痙攣する身体であったが、蕾花は命を燃やして奮い立つ。
「死角無し、と?」
 冷静に冬佳は判断した。
「その、鉈の眼玉でも見えてるんでしょう、……ね」
『回答を拒否します』
「拒否しても、はいと言ってるようなものですよ」
 冬佳、抜刀。だがどこから攻撃をすればいいのだろうか。下唇を噛みながら、寄れば食われるイメージしか湧かない相手に、何を、どうすればいいのだと。たった八人で噛みついて倒せるには、まだ時は早過ぎる。ふわり、淡い光が冬佳の服の中から現れた。
「これは……」

 さっき、拾った『箱』。

 その頃の椿であるが、暁になんらかのスイッチが入っていた。
「暁?! 暁!!」
「……おぼぇ、げほっうぐ」
 椿が暁に触れようとした途端の話だ。第六感が告げていた、『危険信号』は現実のものとなる。
「いひ、いぃひ、きひひ、くっ、くっくくくくくアハハハハハハハハハハーッ!!!!!」
 一瞬、遅れた反応のせい。暁の腕は椿の首を片手で掴み、地面へと押し付け馬乗りになった。彼の指は覚醒し赤い爪が椿の喉を抉る程にきつく縛った。
「あが、っつぎっ」
「いねすくれっちしあつおyそねろえすおd、うあぎつあぎt、? いくたか」
 暁は『正しく答えている』。
「あ、暁? いえ、あ、貴方は、誰……?」
「えるぎsいこたがむお」
 暁は小さな箱を出した、寄木細工のようなの『箱』を。
「あくおyせぢろむつるそうぃななへろ」
「やめ――」
 椿の胸元の服を剥いだ暁は、淡く輝く小箱を彼女の胸に押し付けたのであった。

 このまま戦い続けても勝ち目は無い。それは重々分っていた事であった。
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣。楽しませろよ。お姉ちゃん?」
 だがしかし彼はあえて火の中へと飛び込む。理由はたった一つ、目の前の智雨が気に入ったからだ。
 与えられる平和よりも、痺れるような高みに登れるきっかけを欲する彼にしてみれば、目の前の異常事態も強敵程度の認識に変換可能だろう。
 だが近寄る事もままならない。刀を押し出せば、縦横無尽に動く鉈が風圧を従え押し返される。
 それは彼ばかりでは無く、幽霊男も夏南も聖華も冬佳も同じなのだ。
 撤退するにも、彼女から少しでも視界を外せば飲み込まれるに違いない。さてどうしたものか――。祇澄が冬佳を庇い、刀で鉈を再び受け止めた。今度は鉈の口じゃない部分を抑え込んで。そうすればまだ鉈に触れることはできた。だが逆を言えば触れることしかできなかった。それは祇澄の力が弱いわけではない、幼きより剣を握った彼女に非はない。ただ、厄災は抑えきれないのが人間……か?

 ――……バキバキと、森の奥から叫び声が聞こえる。

「うわあああああああああああああ!!!」

 ここで急展開だが、大蛇と覚醒夜司がやってきたのだ。
 数尺にも及ぶ大蛇が牙を剥いて地をかける。そりゃあ大蛇が這った跡があるなら、大蛇はいてもおかしくは無いであろう。
「いだだだだだだだ!!!!」
 大蛇の尻尾の先を掴んで引きずられる夜司であったが、何か言いたげにしているのがだこの衝撃だと言う事も叶わない。
「もしかして、ここの、竜脈を、護るもの?」
 夜司の代わりに、ぼろぼろの祇澄が断言した。八尺も大蛇に気づいたのか、一歩仰け反ってから、後退していく。
「おいおい、逃げるのかあ?」
『……っ!』
 刀嗣は見逃さなかった、一歩退いた八尺に一歩駆け寄る。がら空きの胴に潜り込み、智雨の後頭部に手を回して唇を奪った。
『けけけけkkk警告! 思考力の低下と動機の発生、一時『回収』を破棄します』
「ハッ! ちょっとした悪戯だろ」
 聞こうとした時には彼の上から衝撃が落とされた。怒り任せの一撃、それとも照れ隠しといえば可愛いのか。
 夜司は大声で、いや、送受心で全貌を一瞬のうちに送った。
『白蛇が特異点を護っているのじゃが、その力を分けてくれるそうじゃ!!
 その箱は――』

「神祝(かむはふり)」

 ――暁が答えた。暁の足下で、へたり込む椿の武器に淡い光の球体が舞いを踊る。
 夜司は続ける。
『この村の研究は、覚者の中でも随分最先端を行っていたようじゃの。
 特異点の力を制御する事は不可能じゃが、特異点の力を借り、溜める事ができれば大きな力になる。その貯金箱になるのがその箱の役割じゃ。だが、特異点も力を分散すればする程に力を失うじゃろうて』
「だから、神祝の存在を知ってたここの特異点の守護者はその箱を使われるのを恐れ、ここの覚者を襲い、そして智雨が八尺で対抗し暴走した」
『そ、そういう事じゃな……それで、この白蛇は正しく扱える者を探していたのじゃ』
「それが、君達って?」
『ああ……そうじゃの』

『ああああああああああああああああああああ!!!』

 八尺は咆哮、地面が揺れる。
 更に急展開だが、円が爆発的な音と共に穴を抜け出した。淡く光り輝く円の身体。手の平には、『蓋が開いている箱』を持っていた。彼女の両刀の刃には赤い光が纏われていた。妖精かそれとも、星か。まわり巡って守護のように。
「逃がさないぞー、えーい」
 大上段から振り落した円の一撃が、地面を割りながら八尺の身体を引き裂いていく。衝撃に吹き飛んでいく八尺の身体であったが、追撃が必至。円は利き手の刃を投げ、八尺を追う。
 椿が弓矢を構えていた。距離にして、20mギリギリのライン。彼女も淡く輝く光を従わせ、解放した矢は竜巻のように轟風を乗せて八尺を射抜いたのだ。ここで確信した、覚者はそれぞれがそれぞれ、箱を一つ拾っていた。この光は、頼りである。握り締めれば、力が湧く。
 バウンドしながら地面を転がる八尺は、体勢を整えながら見上げつつ、矢と円の刃を抜いて投げ返す。
 上空、逆光の影に染まった冬佳が降りて来る。刀に光を纏わせ、空中で横に回転しながら八尺の頭身を斬った。肌色の奥に見える桃色の肉が露出した刹那、赤い血がわき出し冬佳を染めていく。されど八尺の反撃。力任せに振り落とした鉈が、冬佳をまともに叩き潰した。もう少しで二つに分かたれかけた彼女だが、今一歩のところで死を免れる。
「こっちだぜ!!」
 視界から消える程の速度で八尺の背に到着した聖華。にぃっと笑った聖華に対し、八尺は苦渋の表情を浮かべた。これが正義の、否、世界の頂点立つ(予定)の者の力である。両腕を平行に横に逸らせば、八尺の胴体から鮮血と激痛が迸った。赤い液体を裂き、その間から体を入れ込んだのは、夏南。美しくも狂気を孕んだ銀色のはけは空中と、飛んで弾ける血溜まりを裂きながら、はきながら、上から下へ八尺を押し潰していく。更に幽霊男が夏南のハケの上に体重任せに着地すれば、重力と位置エネルギーが相成って、ハケは更に押し潰していく。自転車でも轢いたかのような心地よいパキパキ音が聞こえる。
 八尺の鉈を一回転させ、少女達を退け。八尺が見たのは暁。だが中でも最高齢の男、夜司は、小さな身体を武器とした。回転した鉈を体勢低くして逃れれば。
 故に、隙を突く。
「暁少年は既に我らの仲間、儂の孫も同然じゃ」
 八尺の歯奥がガリリと音を奏でた。夜司の剣に纏いし光の色は赤。力を研ぎ澄まし、リミッターを超えた威力の刃が八尺を森の外へと吹き飛ばした――ので、あった。


「なんか、ドっと疲れたわ」
「お疲れ様」
 椿の隣に、にこにこ笑う暁が立っていた。
 手に持った箱が、ぷすぷす音を立て、淡い光が消えていく。
「あれ? あれれれ、あれれれれ?!!」
 円が箱を振ってみた。からからと、中身がすっからかんになったような、軽いもの寂しい音だけが聞こえた。
「まさか、そんな」
 夏南は頭を押さえ、
「あはは、まあこれから集めればいいじゃないですか」
 冬佳がフォローした。
「あん? どういう事だ、白蛇!!」
 刀嗣が刃を向けながら、当特異点の守護者に聞いてみれば、
『今の戦闘で、貯めた力を全部使い果たしたようですね』
「「駄目じゃん!!!」」
 聖華と蕾花がハモった。
「ふむ、でも大丈夫じゃなかろうか」
 幽霊男は思い出したように言う。
「五鱗も、特異点の上に無かったかの?」
「そうじゃったの。なら、まずは自分達の住まう場所のものから力を借りよう」
「まだ一連の事件は解決しちゃいねえ、次は」
「そうだね、そろそろ決着つけないとね」
 刀嗣が何かを言う間に、暁が話しを遮った。
「お手紙。『渡しておいてね』。君達の、上に乗っかる人に、さ?」
 思い出してみる。いつか言われた、あの言葉を。
『逢魔ヶ時は訪れた。夜明けは遠いぞ、覚悟しな』。
「ひとつ教えてあげる。逢魔ヶ時紫雨って、すっごく嘘つきなんだ」
 そう。
 まだまだ、逢魔ヶ時は訪れているのであった―――嗤いながら、そこに。
 いつでも回帰せんと。

■シナリオ結果■

大成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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