決戦、黒麒麟
●大妖と戦う気概はあるか……?
奈良県のとある遺跡群。
その中央に、古妖「麒麟」が鎮座する遺跡がある。
真下に自身と同じ姿をした大妖らしき存在を封じている彼は何らかの影響もあって自我を失い、荒れ狂ってしまっていた。
F.i.V.E.の覚者達がこの地の調査を行う最中に麒麟を鎮め、彼と話をしたことでようやく、この遺跡群について存在意義などが徐々に明らかになってきつつある。
その四方にはそれぞれ、似たような構造の遺跡が確認されていた。
遺跡の奥に妖がいるのであれば、対処をして欲しいと麒麟から依頼を受けている状況である。
北の大亀遺跡で大亀、南の朱鳥遺跡で朱鳥、西の白虎遺跡で白虎、そして、先日、水竜遺跡で水竜を撃破している覚者達だ。
その後、麒麟に会った覚者達は、足元に封印する影、大妖『黒雷』黒麒麟の討伐を検討すべく、F.i.V.E.へと一旦帰投する。
F.i.V.E.の司令室にて。
麒麟と会った面々はこれまでの遺跡調査を含め、報告を行っていた。
「大妖『黒雷』黒麒麟……か」
F.i.V.E.にて実効指揮をとる、中 恭介(nCL2000002)がそれを聞いて難色を示す。
まだまだ、問題が山積している状況の中、新たな脅威の存在が現われたのだから、頭が痛くなるのも仕方のないこと。
まして、それが大妖と呼ばれるレベルの存在であればなおのこと。
現状、大妖は表立って行動を起こしてはいないが、過去、『新月の咆哮』ヨルナキ、『紅蜘蛛』継美はAAAに壊滅的な被害を及ぼしている。
果たして、今のF.i.V.E.に大妖と対するだけの力はあるのか……。
「とはいえ、現状大妖の大きな動きはありません。叩くなら今のうちですね」
久方真由美(nCL2000003)も報告書を手に進言する。
覚者達も士気は決して低くはない。自分達の今の力があれば、立ち向かうことはできると語る。
そして、これまで協力してくれていたMIAの二人、そして、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)を申し出ているという。
「…………」
ここで、皆を失えば、妖や隔者組織と対する術はなくなる。
一方で、もし勝つことが出来たなら。F.i.V.E.はそれらに対する大きな抑止力に繋がるかもしれない。
判断に迷う恭介だったが、覚者達への信頼が勝ったようで。
「お前達に任せよう」
そして、彼は最後に1つだけ、現場の覚者達へと指令を出す。
――必ず、生きて戻れ、と。
奈良県のとある遺跡群。
その中央に、古妖「麒麟」が鎮座する遺跡がある。
真下に自身と同じ姿をした大妖らしき存在を封じている彼は何らかの影響もあって自我を失い、荒れ狂ってしまっていた。
F.i.V.E.の覚者達がこの地の調査を行う最中に麒麟を鎮め、彼と話をしたことでようやく、この遺跡群について存在意義などが徐々に明らかになってきつつある。
その四方にはそれぞれ、似たような構造の遺跡が確認されていた。
遺跡の奥に妖がいるのであれば、対処をして欲しいと麒麟から依頼を受けている状況である。
北の大亀遺跡で大亀、南の朱鳥遺跡で朱鳥、西の白虎遺跡で白虎、そして、先日、水竜遺跡で水竜を撃破している覚者達だ。
その後、麒麟に会った覚者達は、足元に封印する影、大妖『黒雷』黒麒麟の討伐を検討すべく、F.i.V.E.へと一旦帰投する。
F.i.V.E.の司令室にて。
麒麟と会った面々はこれまでの遺跡調査を含め、報告を行っていた。
「大妖『黒雷』黒麒麟……か」
F.i.V.E.にて実効指揮をとる、中 恭介(nCL2000002)がそれを聞いて難色を示す。
まだまだ、問題が山積している状況の中、新たな脅威の存在が現われたのだから、頭が痛くなるのも仕方のないこと。
まして、それが大妖と呼ばれるレベルの存在であればなおのこと。
現状、大妖は表立って行動を起こしてはいないが、過去、『新月の咆哮』ヨルナキ、『紅蜘蛛』継美はAAAに壊滅的な被害を及ぼしている。
果たして、今のF.i.V.E.に大妖と対するだけの力はあるのか……。
「とはいえ、現状大妖の大きな動きはありません。叩くなら今のうちですね」
久方真由美(nCL2000003)も報告書を手に進言する。
覚者達も士気は決して低くはない。自分達の今の力があれば、立ち向かうことはできると語る。
そして、これまで協力してくれていたMIAの二人、そして、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)を申し出ているという。
「…………」
ここで、皆を失えば、妖や隔者組織と対する術はなくなる。
一方で、もし勝つことが出来たなら。F.i.V.E.はそれらに対する大きな抑止力に繋がるかもしれない。
判断に迷う恭介だったが、覚者達への信頼が勝ったようで。
「お前達に任せよう」
そして、彼は最後に1つだけ、現場の覚者達へと指令を出す。
――必ず、生きて戻れ、と。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.黒麒麟の討伐
2.四妖獣の討伐
3.なし
2.四妖獣の討伐
3.なし
遺跡シナリオ、決戦シナリオです。
●状況
麒麟が封印を開放すると遺跡は破壊され、
瓦礫散らばる地上にて、
黒麒麟と四妖獣との交戦を行うこととなります。
難易度:難の決戦シナリオです。
一撃死の展開もありえますので、くれぐれもご注意くださいませ。
遺跡は破壊され、地上平原となりますが、
各妖間は10数m離れております。
個々の妖が完全フリーの状況となっていなければ、
妖ごとに独立した戦場として
交戦することが可能です。
中央に黒麒麟、
東西南北に四妖獣が配備されており、
これまで巡った遺跡の配置と同様に陣取っております。
北:大亀、南:朱鳥、西:白虎、東:水竜
●敵
◎大妖
○黒麒麟
体長は5mほど。
一見、竜にも見える馬のような姿をした妖です。
一部ラーニング可能技はありますが、
習得時に弱体化した効果となる可能性があります。
・黒雷光……特遠列[不随]……ラーニング可能
・大豪炎……特敵全[焔傷]……ラーニング可能
・迅駿……物貫3[100・60・40%]・ノックB……ラーニング可能
・咆吼……物敵全[錯乱]
弱体・麻痺・鈍化無効。50%の確率で攻撃に二連が発動します。
◎四妖獣
いずれもランク3、自然系。
今回現れるのは黒麒麟が具現化した妖ですが、
これまでの4つの遺跡奥で交戦した妖とほぼ同じ姿、能力を持っております。
○大亀……全長5mほど。土をメインに身体を構成しております。
・噛み砕き……物近列・虚弱
・体当たり……物近列[貫3・100・70・30]・溜め2
・瘴気……特全・混乱……すでにラーニング済
・地響き……物全・解除
○朱鳥……全長は3m。炎で構成された鳥です。
・業火……特全・炎傷
・熱風……物近列貫2[100、50%]
・嘶き……特全・解除
・再生……特遠味単・BS回復100%……ラーニング可能
火傷、麻痺無効。30%の確率でニ連が発動します。
○白虎……全長3m。風の如く駆け巡る白い虎です。
・疾走……物単貫3[100、65、35%]
・咆哮……特全・減速
・捕食……物近単・HP吸収
・烈風爪襲撃……特近列貫2[100、50%]……ラーニング可能
鈍化、重力無効。30%の確率で攻撃にニ連が発動します。
○水竜……全長4m。水で構成された長い竜です。
・角……物近貫3[100・60・40%]
・水砕爆流……特全・重圧……ラーニング可能
・締め付け……物近単・痺れ
・揮発油……特遠列・火傷
●NPC
基本は四妖獣の対処に当たります。
○河澄・静音(nCL2000059)
後方で回復支援に当たります。
◎『MIA』……発現者女性2人組。
名前は彼女達の苗字、頭文字から。
両者共にかなりの力を持ちます。
○水玉・彩矢(みずたま・あや)翼×水
ぐいぐい引っ張るタイプのちょっと露出高めの女性。
戦闘では回復支援を行いつつ、弓矢、波動弾を放ちます。
○荒石・成生(あらいし・なるき)獣(酉)×土
相棒の彩矢に振り回されがちな気弱な性格で、露出が小さな服を着た女性。
前に立って直接拳で殴りかかり、防御態勢を取ります。
○麒麟
今回は、いつ封印を再び閉じることができるようにと
戦況を見守る形をとります。
最悪の場合、彼は再び黒麒麟の封印に当たってくれますが、
それでも周囲に壊滅的な被害をもたらすのは避けられないでしょう。
それでは、よろしくお願いいたします!
2018.7.18追記 四妖の場所詳細を追記いたしました。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
37/50
37/50
公開日
2018年07月30日
2018年07月30日
■メイン参加者 37人■

●大妖が解き放たれる時
奈良県の遺跡群。
その中央、古妖麒麟が鎮座する遺跡の付近へと、F.i.V.E.の覚者達は散開していくことになる。
「確か、何度か探索の手伝いはしたことがあったな。随分、派手な事態になったようだ」
関連依頼には久々の参加、『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)が状況を見守る。
「この作戦がうまくいったら、大妖そのものに関して情報増えるかな」
発生経緯が個別だと無意味かもしれないとは考えるものの『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)は新たな情報を期待する。
さて、遺跡の天井を破壊し、麒麟が覚者達へと姿を晒す。
その白い龍を思わせる馬のような姿を、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525) は興味津々に見つめて。
「麒麟……有名な聖獣だ」
歴史、考古学が好きな彼女は、報告書の中だけの存在を目にできて心弾ませていたようだ。
「麒麟ちゃんが大変ー!! って、なってたのだ!」
『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は関連依頼でこの地を訪れ、麒麟に鹿せんべいを分け与えたことがある。
「お礼に、ナナンも麒麟ちゃんの為にお手伝いするねぇ!」
「こんにちはキリンさん、余だよ! ゾウさんもいるかい?」
続き、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)も茶目っ気交じりに麒麟へと呼びかけていた。
そんな覚者達へと、麒麟は期待と不安を織り交ぜながらも低い声で呼びかける。
「準備はいいか?」
揃って覚者達が同意を示すと、麒麟はこの地に抑え付けていたモノを解き放っていく。
すると完全に吹き飛んだ遺跡の残骸の上に、黒い麒麟の姿があった。
「――大妖黒麒麟だ」
麒麟の言葉に、その黒い体躯の妖が口を開く。
「どれほどの間、この地に束縛されていたことか……」
妖とは思えぬしっかりとした口調。
そして、麒麟と同じ姿ながらも、禍々しさを感じる威容。
彼こそが、大妖と呼ばれる力を持つも、歴史の中からも忘れられた存在、黒麒麟だ。
そして、同時に東西南北に四神を思わせる妖が現れる。
いずれも、これまで遺跡探索を行ってきた覚者達が討伐してきた妖とほぼ同じ姿をした相手だ。
黒麒麟と共に封じられたのか、それとも黒麒麟が作り出した存在なのか……。
「大変だってお話なので、手伝いにはきたんですが」
草原に現われた巨大な妖達はまさに怪獣とも言える姿をしている。
そんな敵を前に、宮神 羽琉(CL2001381)は腰が引けてしまうが。
「ええと、まず四方のを倒してから中央のボス、ですね」
「まずは敵を全て孤立させ、各個撃破。しかる後に、中央の親玉に集中攻撃だ」
簡単に、全体作戦を復唱した赤貴。
妖を倒すまでの序盤がキツいだろうと想定する彼は、数人の仲間と共に北の大亀目指して草原を駆けて行く。
覚者達は5チームを編成しており、こちらは南側のチーム。
「いいぜ、この喧嘩乗った! 強い奴は大歓迎だ」
この遺跡の存在に当初は疑問を抱いていた『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)も、現われた妖の姿にテンションを高める。
「いずれ他の大妖とも戦って斬る必要がある以上、避けては通れない、とは思うのです」
大妖の姿を直接見た、『継承者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)は、絶対自身の手で黒麒麟を倒さねばならぬと考えているわけではない、が。
「やる気一杯な子らを、そのままいかせはしないのです」
「大妖を倒す……か。前だったら考えてもみなかったけど」
それを聞き、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)も本音を漏らしつつ気を引き締め、保健委員腕章をびしっと掲げて決めポーズしてみせる。
「大丈夫だよ、心配しないでね。私がみんなのこと守ってみせるからさ」
そんな渚の姿は、実に心強い。
「黒麒麟はもちろんですが、四妖獣も大きいですね……」
これまで、このような妖と戦ってきた皆の後押しとなるように。
【四葩】のメンバーで参加する『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が気合を入れると。
「うん、助けになれるなら、がんばらないと」
彩吹が同行する二人に笑いかけ、『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)もにっこりと微笑を返す。
「帰ったら、花火しようね」
別方向に向かう相棒、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)を気遣いつつも、紡は仲間と南の朱鳥の元へと向かう。
東方面からは、そんな【四葩】の面々に気をつけてと手を振る『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)の姿がある。
「彩吹さん達は南にいくみたいだし、場所的にお手伝いは無理そうだよねー。ちぇー」
残念がる『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)だが、その彩吹に『兄さんのこと、任せたね』と笑顔で言われていた。
「高ランクの妖を滅することが出来れば、大きなアドバンテージになるだろう」
「人が少ないから、お手伝いにきたの!」
このチームには、この一戦は負けられぬと意気込む『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)や、回復支援に駆けつけた野武 七雅(CL2001141)らの姿がある。
「四聖獣に麒麟か。これだけ瑞獣がいると 昔の人がひっくり返りそうだ」
一度、蒼羽は背後を振り返って。
「……じゃ 千雪君行こうか」
その上で、同行者と目下の敵である水竜へと近づいていく。
西の白虎にも、覚者の一隊が向かう。
「段々、なんでもありになってきた気がします。ヤマタノオロチとか四神とか」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)も、何処かの本で読んだ相手と戦うことになるとは思わなかったと語る。
「古代の伝説は大凡、古妖なんだろうけどねぇ……。そのうち、神話の神様も出てきそうだよ」
キュウビにヤマタノオロチに四聖獣もどき。
それらの存在について、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)がそんな主観を語り、燐花の頭をぽんぽんと撫でる。
「連戦続きで大変だけど、放って置くわけにはいかないからねぇ……」
(……ぽんぽんされてしまいました)
戦い続きで疲れていることを、恭司に気付かれたのだろうか。
「終わったら、ぽんぽんお代わりお願いしますね」
気持ちを切り替える燐花の傍で、篁・三十三(CL2001480)は久々の戦線復帰とあって気合を入れる。
「皆が頑張っている……僕もやらねば」
ブランクと力不足を実感しつつも、彼は目の前の戦いに尽力するつもりだ。
「黒麒麟の取り巻きをどうにかしないと、本腰を入れて黒麒麟と戦えませんからね……!」
納屋 タヱ子(CL2000019)は黒麒麟と対するメンバーを見て。
「こちらは任せて、先へ進んで下さい。すぐに追いつきます」
そうして、タヱ子は西の白虎へと仲間と向かっていく。
「……もしかして、大妖って結構いる?」
今回の事態を聞き、桂木・日那乃(CL2000941)はそんな推論を立てていたが、残念ながら今はそれを実証する余裕はなさそうだ。
黒麒麟の前にプリンスが立ち塞がると、大辻・想良(CL2001476)も相手に敵意を示す。
「……妖は、倒します」
「人間……、ずいぶんと弱そうになったものだ」
相手は明らかに、覚者達を小馬鹿にしたような態度をとっている。
「遺跡探索に何度か参加して、その結果がこれか」
小さく嘆息した『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)が黒麒麟の姿を見て、得心する。
「封じられていたのはそれなりの理由があったんだろうが、出てきたからには消えて貰うしかねーな」
その凜音含め、仲間達が覚醒して武器を手に取るのに、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403) が逡巡する。
(人間の都合で消されるのか……。大妖とも、歩み寄る術は、無かったものか……)
人間を毛嫌いするジャックはそんな考えに鬱になりかけるが、そこに凜音が彼と戦うのが久々だと声をかける。
「終わったら、疲れたーって言いながら、俺の家でごろごろしよーぜ」
「ああ! 凛音、生きて帰ろう。俺たちの役目は、仲間を守り抜く事だ」
そんな友人の姿を確認し、ジャックも心なしか安心して戦いに臨む。
「やっとだ。やっと、麒麟の力になれる。助けられる」
翔はこれまでの依頼を思い返す。
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994) もまた、麒麟を自由にさせる為にと黒麒麟の打倒を強く誓う。
「奏空さん、翔さん、想良さんも一緒です。負ける訳にはいきません!」
そして、関連事件のほとんどに携わってきた『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「思えば、遺跡に関わってから二年か。最初は何があるのかと楽しくて……」
地割れの遺跡から、炎、風、そして水。
ここまでの道のりは決して、楽ではなかった。
しかし、皆で力を合わせて乗り越え、麒麟と出会うことができたのだ。
「待ってて、麒麟! 絶対解放するからね!」
麒麟へと呼びかけた奏空は、仲間と共に黒麒麟へと対していくのである。
●四方の交戦・1
北、大亀と対するチーム。
この場で、黒麒麟と同程度の巨体を持つ相手だ。
「ふふ、那由多さん、無茶しないでくださいね?」
肩に白い羽根を現した『深緑』十夜 八重(CL2000122)は、無理しない程度になら存分に暴れて大丈夫と、微笑ましげにと相方へと告げる。
「暴れません……! うちは今回、回復支援やの!」
猫耳を立てつつ反論する『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442)。
ただ、八重の存在があるからこそ、那由多は安心してこの場に立つことができる。
「背中は守りますからね」
「お任せします。この命、那由多推して参る!」
地響きを響かせる大亀へ、彼女達は対していく。
「大亀を抑えにいくぜ! おっと、抑えっつっても、倒す気は満々だけどな!」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が意気揚々と肉薄していき、地響きを起こす敵に対して拳で反撃を叩き込んでいく。
「……鹿ノ島がいるか」
「せっきー、こっちでうまく援護するから、動き合わせてよろしく!」
馴染みの姿を確認した赤貴は早速立ち回り出し、地面から岩槍を隆起させて大亀の腹下を傷つける。
「天が知る地が知る人知れずっ。大妖退治のお時間ですっ」
ぐらつく足元に『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は多少態勢を乱されながらも、ナックルをつけた拳でのワンツーを大亀へと叩き込む。
「いくら硬く大きくても、壊れないものはないっ」
彼女はひたすら敵を叩いて、相手の体の破壊を目指す。
相手の地響きを地面すれすれを飛ぶことで回避していた梶浦 恵(CL2000944)は、一度大亀と対した際に彼女自身が習得した靄を発し、大亀の理性を奪おうとしていく。
大亀ならなんとか見た目が我慢できそうだと、羽琉はこのチームに加わっていた。
彼もまた翼飛行で浮遊し、足場に注意しつつ高圧縮した空気を撃ち出して応戦する。
回復支援にと駆けつけた離宮院・太郎丸(CL2000131) は、比較的被害が浅い序盤は雷雲を呼び、巨大な敵に雷を叩き落としていた。
那由多も前衛陣のサポートにと祝詞を唱え、戦巫女の恩恵を与えていく。これを切らさないようにと気がけながら、彼女は次なる支援に移る。
「ふふ、それだけ大きいと、良い花を咲かせそうですね」
相棒の八重は大亀の動きを止めようと植物の種を投げ飛ばし、その巨体のあちらこちらに急成長させた植物を絡ませて動きを止めようとしていく。
「お庭に飾るプランターにはちょっと大きいですから、小さくなってくださいね?」
だが、相手もやられてばかりではおらず、前線メンバーへと大きく口を開き、その身体を噛み砕こうとしてきていた。
南、朱鳥と対するメンバー達。
燃え上がる体を持つ相手を前に、シャーロットは一つ嘆息して。
「覚者剣士たるもの、炎やら雷でも斬らねばならぬのですね。やれやれ」
相手は、物理攻撃にやや耐性がある自然系。
されど、シャーロットは剣士としてのスタンスを貫いて。
「我が剣技の神髄、受けるがよいのです」
手にする刀「蓮華」で斬りかかり、シャーロットは通常切れぬものまで切り伏せようとする。これならば、剣もより極まるだろうと信じて。
彩吹は自らの細胞を活性化させ、自らの瞬発力を高める。
「自然系か、苦手だけれど……。倒れるまで攻撃すればいいんだよね」
自然系に苦手意識を抱く彩吹だが、今は敵に広範囲の攻撃を使わぬよう攻撃に切れ目がないようするのが優先と判断する。
その上で、彩吹は宙で回転し、遠心力をのせて燃え上がる敵の体を蹴り付けていく。
そこに浴びせかかる、朱鳥の発する熱風。
澄香は手前の仲間の態勢を少しでも整えるべく、心地よい香りを振り撒いて自然治癒力を高める。
同じく、周囲に香りを振り撒く紡だが、他の妖と対するメンバーには距離も遠く効果は及ばなかったようだ。
渚も自身独自のスキル「予防措置」を使い、朱鳥の及ぼす異常が及ばぬようにと仲間達の治癒力をより高めようとしていた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
叫ぶ『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
早々に四妖獣を撃破し、中央で大妖と戦うメンバーの援護をと、ラーラは前方に魔法陣を描き、生み出した流転する紅の炎を朱鳥へと浴びせかけていく。
火傷は効かずとも、炎自体の効果は十分。ラーラは火力で相手をねじ伏せようとする。
「鍛えた剣に斬れないものはねーんだ」
そして、前に出る飛馬も、無銘号無太刀脇差『厳馬悠馬』を抜き、振るった刀身から拳大の炎を飛ばしていく。
それを叩きつけられて苦しむ朱鳥でなく、飛馬は中央にいる黒麒麟を見据えて。
「待ってろ、大妖。こいつらを倒したら、次はお前の番だ」
一言告げた彼は、改めて朱鳥目掛けて切りかかっていくのである。
西は白虎。
以前は遺跡内の限られた空間を駆け巡っていた敵だったが、今回は遮る物のない平原でも戦いとあって、捉えるのが非常に厄介な相手だ。
後方に立つ恭司は起こした雷雲から雷を叩き落とし、この場の仲間達へと回復支援に当たる。
前線には燐花が立ち、妖刀「疾蒼」で相手の体を圧倒的な速度をもって切り裂いていった。
自身への負担もかなり大きな大技ではあるが、後方支援を期待するからこそ、彼女は連続して相手を攻め立てる。
「ドッカーン!」
奈南は「ホッケースティック改造くん」を手に、自身の土行の力を纏わせた上で、ひたすら殴りつけていく。
「更にドッカンカーン!!」
とはいえ、相手はかなり素早い。
一撃に威力はあれども、奈南は当てるのに苦労していた様子だ。
白虎は戦場を疾走し、この場のメンバー達へと突撃し、さらに鋭い爪を薙ぎ払ってくる。速度を生かす敵はかなり手強い。
うまくそれに対するべく、三十三は毒の皮膜を纏って強化を施す。
そうして、三十三は仲間の為にと癒しをもたらしていくのだが、彼もまた他戦場に癒しを届けられぬことを確認し、この場のメンバーの治癒に全力を尽くす。
前線に立つタヱ子も岩と宝石をその身に纏って防御を固め、仲間達の回復へと気力を使うこととなる。
癒力大活性を使い、最前線という場所でメンバーの回復に当たるタヱ子だ。
「体力があって場を持たせる癒力大活性を使うわたしを、白虎は【捕食】したがるでしょう」
彼女はそうして、できる限り敵の気を引こうと考える。
そして、ククル ミラノ(CL2001142)も大樹の生命力を凝縮した雫を振り撒いていく。
ミラノの発する癒しの霧に包まれつつ、この場のメンバー達は素早い動きの白虎の討伐の手を強めていた。
東は水竜が荒ぶり、覚者達を苛むこととなる。
その長い体躯を活かした締め付けだけでなく、水の妖にもかかわらず、揮発性のある液体を飛ばして燃え上がらせてくる難敵だ。
その相手に、『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は相手の姿を観察しつつ、戦場で立ち回る。
「物質的な実体の無い……。恐らくは、形を成した源素の塊」
大妖黒麒麟が妖は、眷属として見るのが妥当。
そして、その力は四神と同等と見るのは不思議なことではないと冬佳は考える。
「――源素とは何か、という根本的な命題にここでも行き当たるのね」
研究対象として、実に興味深い対象。
英雄の力を引き出す冬佳はエネミースキャンで相手を解析しつつ、祈りを込めて相手の体を魔力で射抜いていく。
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は布陣の中央から、神秘の力を持つ水竜を生み出して妖へと食らいつかせる。
こちらのスキルの水竜が押し負けるのはやむを得ないが、秋人はさらに波動弾を発射し、相手の体力を削ぎ落とす。
水竜はさらにすさまじい勢いの水の流れで、この場の面々の体を砕き、押し流そうとしてくる。
重圧すら覚える流れにも耐えるゲイルは、相手の攻撃に備えて仲間と一直線上にならないよう立ち回りながら、眩い光を放つ手榴弾をバラ撒き、相手の動きを少しでも制しようとしていた。
それだけでなく、彼はじっとその技を見定め、自身のものにしようと機会を窺っていたようである。
「皆の為に、回復を行うの!」
前に出るのは難しいとは判断していたが、七雅はこの場を支えようと仲間達に癒しの雨を降らせる。
「単純な話。水には雷が効果ありそうなのよね」
そんな理由で、目下の敵を見定めていた『月々紅花』環 大和(CL2000477) 。
「わたしの雷は甘くはないわよ」
大和は自らを雷の力で強化した後、他メンバーよろしく戦場をあちらこちら飛び回る水竜へと激しく雷を叩き落としていく。
さらに、【手風琴】として共に参加する蒼羽と千雪。
「さぁ、琴巫姫、気合いいれてこっかー」
千雪も妖の靄を振り撒き、水竜を惑わせようとする。
一時だけ相手が躊躇すれば、それで十分。
英雄の力で高めた力を持って、蒼羽は召喚した雷雲からまるで檻のように敵へと雷の矢を降り注がせた。
その雷自体に威力はないが、強く相手を束縛する力がある。
覚者達は十分な隙を活かし、水竜の撃破を目指す。
●大妖黒麒麟・1
四方で皆、妖と交戦する中、中央部でも覚者と大妖の戦いが始まっていた。
相手はおたけびを上げ、戦う覚者達に強い精神障害を及ぼす。
それは、敵味方の区別すらできなくする恐ろしい一撃。
「何もしねーで、錯乱させられてたまるか!!」
翔が耳を塞ごうとするが、それで抑えられるほど大妖の攻撃は甘くない。
奏空が法薬を宿した瑠璃光の力を皆に振り撒き、それでも錯乱してしまう仲間の気の流れを活性化させ、素早く我に戻るよう促していく。
破壊された遺跡付近での戦いとあって、想良は翼を羽ばたかせて足場の悪さをものともせず、空気を高圧縮させて黒麒麟の体を撃ち抜いていった。
この場には、MIAの二人の姿もある。
「いよいよだね、やってやるよ」
「負けないんだよー」
翼人の水玉・彩矢が回復支援に動き、酉の獣憑、荒石・成生が防御耐性を取りつつ少しでもこの場のメンバーの力にと尽力してくれていた。
もっとも、相手は大妖だ。
こちらの攻撃を多少受けたところで、まるでビクともしない。
「愚かな連中よ」
人間を見下す大妖は、長期間封印されていたことでなまっているはずの力を存分に発揮する。
全てを焼き尽くす灼熱の炎。そして、塵も残さず破壊する黒い雷光。
それがAAAなどの組織を軽く壊滅させる威力を持つのは、間違いない。
だからこそ、この場の回復の手は非常に厚い。
自身の力を高める凜音は、適度に相手との距離を維持し、仲間に潤しの雨を降らす。
日那乃もまた翼で足元の瓦礫を避けつつ、まともに黒麒麟の攻撃を受けたメンバーへと潤しの滴を落として次なる攻撃に耐えられるよう体力回復を優先させる。
「倒れるまで、皆様のお手伝いを……!」
また、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)も癒しの力を振り撒き、できる範囲内で仲間の癒しに当たっていた。
これだけ回復支援のメンバーを重ねても、なんとか耐えるという状況の中、たまきは自らの力を高めて。
「奏空さんが大事な事を、私に教えて下さいました……」
彼が考えた末での判断したこの戦い。だからこそ、自分に止める権利などないとたまきは考えていた。
(どうか奏空さんの行動が、その対価に見合った効果で現れます様に……)
それを祈りながらも、彼女は護符の力で大地との親和性を高め、龍の如き槍を舞わせて黒麒麟の体を貫く。
その間に、祝詞の力で仲間の力と速度を高めたジャックが相手へと叫ぶ。
「さあ、ここからが、本番さ! 黒麒麟、人間の力を見せてやる!」
回復の手が少しでも空けば、ジャックは鋭利な氷柱を生み出し、相手の体を貫くべく撃ち出していくのだった。
●四方の交戦・2
各妖との戦場はかなり距離が開いている。
支援回復に当たるメンバーは、できる限り他戦場の合わせて考え、回復支援をと考えていた。
南、朱鳥と対していた紡は東寄りに布陣し、水竜と戦いメンバーの支援もと動くよう試みていたが、何らかの力が働いて相互に支援ができぬ状況となっていた。
それを、中央で戦うプリンスが遠くから見ていたのだが。
(やっぱり、思ったとおりだね)
支援するなら、個別に妖を撃破してから。
そんなことを考えるプリンスに、紡は大きく手を振っていた。
とりわけ戦況が厳しいのは、西の白虎との交戦チームだった。
相手は素早く、なかなか補足が難しい相手。
「素早い相手みたいだけど、速さなら負けてない子もいるし」
駆け巡って攻撃する以上、方向転換は必須。
そう考え、相手が止まったわずかなタイミングで悠乃は自らの辰の獣憑の力と、黒炎の術式を織り交ぜた独自の格闘術で、自らの爪、蹴りを浴びせかけていく。
ただ、その間に、メンバー達は徐々に傷が深まってしまう。
相手の猛襲を受けた奈南は、自身の体力が危険だと察して。
「ピコーン! ピコーン! って、鳴ってるよぉ!」
自らに癒力での回復を行う奈南だが、直後さらに白虎が牙をむき、彼女を噛み砕こうとしてくる。
身体を裂かれるような衝撃にも、奈南は命を砕いてなおも白虎と対する。
「ミラノのおーえんっとっどけーーーっ!!」
叫ぶミラノも、すでにふらふらとなっている。
相手の咆哮で一度意識が途絶えかけたのを何とか踏みとどまっていたのだが、疾走してくる白虎の勢いを止められず、地を這うこととなってしまう。
こうなると、相手のスキルを吸収するどころの話ではなくなる。
三十三は圧縮した空気を放ちながらも、仲間の回復に手数の多くを裂いていく。
前線で耐えていたタヱ子は仲間と盾とならんと、仲間が傷つくごとに自身をアピールするが、なかなか敵の気を引けずにいたようだ。
「絶対に持ち帰ってみせます。これからの戦いの為にも」
それでも、燐花は諦めずに白虎を注視し続ける。
これからの戦いは、さらに激化するであろう。
だから新しい技が欲しいと、彼女は考えていたのだ。
しかしながら、白虎との戦況は余りにも悪すぎた。
戦場を疾走してくる白虎は、燐花の体を無残にも切り裂いてしまう。
その威力は後方の恭司にまで及び、二人は気を失いかけながらも倒れることを拒絶する。
「さすがに、甘い相手ではなかったようだね」
ランク3かつ、報告書時と同様の力を持つ敵。
ただ、その力はランク4にも届く力とあって、ここぞと力を発揮してくる相手に、恭司も舌を巻いていたようだった。
水竜チームも序盤は出だしこそ好調だったが、かなりの苦戦を強いられている。
奈良というこの歴史古い街にあって、遺跡を大事にしたいと考え立ち回る大和。
「とはいえ、相手が大妖なら、こちらも遠慮していては倒せないわ」
彼女も苛烈に雷を落として水竜を攻め立てるのだが、相手の発する膨大な量の水に押し流されてしまう。
命の力に縋るきっかけも失い、大和はこの場で力尽きてしまった。
その水が押し流すは、大和だけではない。
祈りを込めた射撃を放ち続ける冬佳、そして、後から回復に専念し続けていた七雅の体力を一度は奪ってしまったようだ。
「負けるわけにはいかないの!」
二人が命の灯火を体力に変え、七雅が仲間を支えようと更なる癒しの力を行使する。
それでも西に比べれば、敵のスキルを注視する余裕はまだあったと言えた。
蒼羽は相手の放つ爆流を注視しつつ相手との距離を詰め、死角から攻め入る。
そのタイミングで、千雪が飛ばす植物の種や、手元の植物から放つ独特の香りで相手の牽制を行い、支援をしてくれた。
それでも、攻めと観察を同時に行うのは難しく、蒼羽は相手のスキルの全てを把握するには至らぬようだった。
同じく、秋人もまた水竜が使う最大の技を我が物にしようと動いていく。
エネミースキャンも合わせて、スキルを解析しようとする秋人だが、頭ではある程度理解ができても、その行使となれば話は別。
まして、別途スキルの水竜や波動弾での攻撃を合わせてだと、なかなかコツがつかめない。
「名前からして水の源素を集めて圧縮して、一気に解き放つイメージだろうか」
ただ、ゲイルは回復を行いつつ、その力の流れを実際に試してみる。
彼の背後に巻き起こる水の勢いが水竜を飲み込む。
観察、そして感覚を掴み、行使したことで得られたその力にゲイルは大きく目を見張っていたのだった。
●大妖黒麒麟・2
黒麒麟と交戦するメンバー達もまた、苦戦を強いられる。
「なるほど、人間も力をつけたものよ」
それでも、かなり冷めた視線で覚者達を見下す黒麒麟。
そいつは崩れた遺跡の上を駆け巡り、覚者達の体力を大きく削いでいく。
仲間の回復と行いながら、奏空は「MISORA」の刃で黒麒麟へと切りかかっていくが、相手の発する光で瞬く間に命が削られる感覚を味わう。
「絶対、解放するって約束したんだ……!」
倒れることなく、更なるスキルを使う奏空。
「いけません……」
前線で身を固めていたたまきは、仲間に危険を訴えかける。
その上で前に出て身構えるのだが、想像を超えた黒麒麟の攻撃の威力に一度地を這いそうになってしまう。
黒麒麟の力は、やはり強大だ。
回復に立ち回っていた日那乃が命の力に頼って堪えたものの……。
「後は、頼みます……」
静音がその雷に焼かれ、意識をなくしてしまう。
「回復な必要な人は?」
日那乃は送受心で仲間達へと問うが、黒麒麟と対するメンバー達は徐々に態勢を乱されることとなる。
同じタイミングで雷に焼かれた想良も一度命の力を使って踏み止まり、動けなくなった仲間に浄化成分を振り撒いていく。
さらに、素早く戦場を駆け抜ける黒麒麟。
前線のメンバーの体ごと貫かれ、日那乃も今度は堪えられずに草の上へと倒れてしまった。
前に立ち、相手の手前で防御に徹するプリンス。
相手はかなり狡猾で、確実に頭を潰そうと動いてくることにプリンスも気付き、できるだけ状況が整うまではと防御に徹する。
「ほらほら、お前ら無理すんなー!」
仲間達が苦しい状況の中、凜音も一度意識が途絶えかけていたが、それでも仲間の支援の為にと潤しの雨を降らせ続ける。
MIAの二人も命の力に頼って、ギリギリの戦いを行っていたようだ。
「大妖ども! 究極まで力に秀でた魔神どもよ!」
そこで、ジャックが相手に向けて叫ぶ。
――今日、黒麒麟を倒し、妖や隔者だけに影響を与えるのではなく、大妖、君達に人間が追いついた証明をしよう!
「その瞬間を目に焼き付けろ!」
その目からジャックは怪光線を放つが、黒麒麟が即座に反撃し、燃え上がる炎でジャックの身体を蒸発させようとする。
命を砕き、それに耐え切ったジャック。
彼を安全な場所へ運ぶのはまだ先になりそうだと、凜音は考えていた。
●四方の交戦・3
それぞれ激しい戦いが繰り広げられる中で、安定した立ち回りで妖を攻め立てていたのは、大亀チームだ。
「自然系は物理が効きにくいんだっけ?」
「そのようだな」
確認する遥に赤貴が返す。
立ち回りつつ、彼らが攻撃のチャンスを図る中、相手に二連撃を浴びせた浅葱が嫌な予感がして全身で身構える。
敵も自らの攻撃の効果は把握していたらしく、地響きがさほど効果がないと察してか、時にのそりと戦場を移動してメンバーの側面から体当たりをブチかます。
ここに来て、大亀が自身の底力を見せ付ける。
回復へと当たり続けていた太郎丸は、立ち回りまで意識していなかったらしい。
それまで癒しを仲間に与え続けていた彼は強い衝撃を幾度か受け、命に縋って立ち上がっていたものの、それでも耐えられずに戦場に崩れ落ちてしまう。
相手がしぶとく攻撃してくることを察した恵がそこで、一つの考えに至る。
「少々、実験をしてみましょうか」
ならばと、恵が自らの魂を大きく削り、試してみる。
それは、自身を力の増幅装置とし、皆の力のブースターになるというもの。
並々ならぬ力を、この場のメンバーへと分け与える恵。それは大亀と戦うメンバーだけでなく、戦場全ての仲間達に凄まじい力を与えて。
大亀と対するメンバー達はそれによって、攻勢を大きく強めることとなる。
「甲羅が割れてきています」
相手の甲羅に入った亀裂に気付いた羽琉は足が竦みそうになるのを堪え、甲羅目掛けて圧縮した空気を発射する。
「もっと違うお花が見たいわ……。大きい花は燃やしてしまお」
――誰も死なせはしない。
那由多は強く意気込み、津波を思わせるような炎を大亀へと浴びせかけていく。
「ふふ、無茶は駄目ですよ?」
大切な友達である那由多を庇えるよう立ち回る八重も、敵へと種を投げつけ、急成長する植物で牽制していく。
その直後、赤貴がより効果のあると判断した隆神槍を敵の真下から突き出すと、相手が動きを止めたと見計らった遥が飛び出して。
「悪いが、ここに浦島太郎はいないぞ! 蹴っ飛ばさせてもらうぜ!」
彼は相手の正面から、正拳を叩き込んでいく。
すると、大亀の巨大な甲羅が砕け散り、その体はボロボロと崩れ、土と同化していったのだった。
朱鳥チームも善戦していた。
北側で発せられた力が戦場を越えてこちらにも及び、皆溢れる力を感じていた。
相手の炎によって、これ以上仲間達が倒れないようにと渚が一人一人の気の流れを活性化させて癒しに当たる。
それによって、癒しを受けた飛馬は自身の状況を見ながら刃を振るって朱鳥に炎の塊を飛ばしていく。
比較的安定した立ち回りを見せていたメンバー達は相手のスキルを見定め、自分の物にしようと注意深く見定めようとする。
だが、敵もそこまで簡単に技を覚えさせてくれるほど、甘くはない。
守護使役ペスカに預けた金のカギを使ったラーラ。
魔導書の封印を解除したラーラは紅の炎を浴びせかけ、相手の炎の勢いを弱めていく。
だが、それでも相手の発する熱風は激しく、シャーロットはあわやその身が焦がされかけたところで、命を削ってなんとか持ちこたえていた。
「赤い翼の貴方には、絶対に負けたくありません……!」
気の置けない仲間に助けられながらも、澄香は彩吹の援護にと独特の植物の香りで相手の弱体化をはかる。
「一回くらい許されるよね? 遊んでおいで?」
それまで回復に当たっていた紡が前方へと鳳凰を模した青い稲妻を呼び出し、戦場へと解き放つ。
「や、だって火の鳥じゃん? 鳳凰じゃん? 行くしかなくない?」
そんな仲間達の支援を受けつつ、彩吹は相手の体をコマンドブーツで強く蹴り込む。
炎の鳥は危険を察してか、その身を大きく燃え上がらせる。
それを、澄香がじっと観察していた。
「そのスキル……。ぜひ、私に下さい……」
必ず異常回復できるというスキルは非常に心強い。
模倣で多少能力が落ちても、F.i.V.E.にとってかなりの力になると澄香は相手の力の流れを注視し、操ることができるようにと反復していたようだ。
そして、自らの回復に回る敵へ、シャーロットが仲間の攻撃の直後に攻め込む。
「この国の夏どう生きるか、しっかり学んでいるワタシなのです」
暑さならぬ熱さをもたらす敵に、彼女はただ自らの剣技を見せ付け、その身体を切り裂く。
一声嘶いた朱鳥はそのまま燃え尽き、姿を消した。
その時、四妖獣二体の撃破を確認したプリンスは、防御態勢を解いて黒麒麟へと攻勢を開始していたようだった。
かなり崩れかけていた水竜チーム。
とはいえ、こちらも湧き上がる力を持って、水竜を少しずつ押していく。
「なるほど……」
相手にエネミースキャンを使いつつ、観察していた冬佳。
水祈りを込めた一射で、彼女は水竜の腹を射抜く。
ゲイルもスキルを習得した後は癒しの霧を発して仲間の回復に当たる。
「気力が枯渇した人は、なつねに声をかけてほしいの!」
これ以上倒させはしないと、七雅も傷を押して仲間の回復支援を続ける。
そんな仲間の援護を受け、秋人はスキルの水竜で相手を攻め立てていたようだ。
そこで、朱鳥と戦っていたメンバーがこちらへと支援に回ってくる。
澄香が植物の香りを振り撒き、彩吹が三段蹴りを浴びせかければ、紡がこの場の【手風琴】へとにこやかに笑い、癒しの雨を降らして。
「攻撃が良かった?」
「あ、麻弓くん。ついでに攻撃もー」
彼女達の支援もあり、覚者達はさらに勢いづく。
「もう一息だ」
長い戦いも一段落付きそうだと秋人が仲間達に告げれば、今しがた支援を受けた千雪が投げ付けた種が水竜の体を縛りつける。
すると、水竜の背後から一気に距離を詰めた蒼羽が相手の体を真っ二つに切り裂く。
すると、勢い余って地面に激突したそれはただの水となって、地面に吸い込まれていったのだった。
最も苦しい戦いを強いられていた白虎チームにも、援護の手が入っていた。
大亀を倒した赤貴がこちらに立ち寄り、隆神槍を敵の足元から隆起させれば、朱鳥を倒したラーラが燃え上がる炎を相手に浴びせかけ、さらに飛馬が炎の連弾を飛ばしていく。
「白虎ちゃんとかくれんぼもするよぉ!」
かなり傷が深まっていた奈南だったが、少し余裕が出たのか、白虎へと飛び込み呼びかける。
「白虎ちゃんが鬼役をしてねぇ!」
迷彩を使ってこの場に潜もうとする奈南。
さすがに妖の目はごまかせなかったが、その間に三十三が「略式滅相銃・業型」から射撃を行い、相手を怯ませる。
素早く動く白虎が怯むと、今度こそとタヱ子が相手の正面に立って押さえつける。
「何とか持たせますから、その間に白虎の首をお願いします!」
――先の先を行く白虎は追えずとも、後の先を取る事はできる。
タヱ子がしばし時間を稼ぐ間に、恭司は雷を敵の頭上から落としていき、燐花が妖刀「電燐」で相手の胴体へと連続斬りを食らわせていく。
「こっちだよぉ、ドッカーン!」
奈南が「ホッケースティック改造くん」で相手の頭を殴り付けた直後、悠乃が仲間の連携を受けて畳み掛ける。
拳、蹴り、尻尾、自らの全身全てを武器とし、黒炎を纏わせて繰り出す悠乃は相手の腹目掛けて拳で強烈な一打を喰らわせた。
暴れ放題だった白虎もついに力つき、空中にその存在を霧散させていったのだった。
●大妖黒麒麟・3
残る敵は、黒麒麟のみ。
「全て退けたか……」
最初は侮蔑の眼差しすら浮かべていた大妖だったが、思った以上に力をつけた人間……覚者の姿に驚きを見せていた。
それもあり、相手も激しい雷を発して攻め立ててくる。
広範囲に落ちてくる黒い雷光は、覚者達の身を強く束縛することとしていく。
「こんな強い雷、手に入れたいに決まってる!!」
相手に雷を落とす翔は、ラーニングを試みようとするが、さすがに相手の攻撃が苛烈すぎて、じっくり見ている余裕を与えてくれない。
しかしながら、徐々にこの場へと四妖獣を倒したメンバーが駆けつけてくる。
「ふふ、なんだか見ようによっては可愛いですね?」
八重は相手の姿を微笑ましげに見ていたが、最初から抑える仲間の状態を見れば、そう楽観的な態度をとってばかりもいられない。
彼女が投げ付けた種が急成長し、植物が相手の脚へと絡みつく。
その間に那由多がこの場のメンバーに祝詞を唱え、仲間の力を高める。
「止められるかじゃなくて、止めるですねっ」
無茶を通すか砕けるか。
浅葱はこの状況にも己の正義を貫き通すべく、拳で連撃を叩き込み、相手の体を砕こうとしていく。
黒麒麟相手では距離も何もないと考えて赤貴は攻め立てるが、その最中で別件の依頼で抱いた疑問を思い出す。
(大妖とは……いや)
とはいえ、今は目の前の相手を倒すことが先。
赤貴は拳を振るって、黒麒麟にダメージを蓄積させていく。
さらに、朱鳥を倒したメンバーもまた加わって。
「翔、生きてる?」
彩吹が声をかけながら加わり、相手の攻撃に備える。
彼女が黒麒麟の使う技を傍目から見て気にかけていたのは、激しい炎を起こす大豪炎。
「炎の力。どうせ使うなら、人を守るのに使わせてよ」
彩吹と同じく、ラーラもそのスキルに興味を持ち、エネミースキャンを使いつつ敵を注視していたのだが。
「……舐められたものだな」
そんな態度の覚者に黒麒麟も憤り、お望みどおりにと燃え盛る炎を起こし、覚者達に浴びせかける。
それを受けた彩吹、ラーラが命を砕いて立ち上がる中……。
「まさか、このあたしが……」
「もう、ダメなんだよー……」
ここまで戦線を支えていたMIAの二人ももたなくなり、崩れ落ちてしまう。
さらに、紡が前線に立って回復スキルを使いつつ戦線の立て直しに動き出すと、プリンスがその隣にやってきて。
「カケルー、ツム姫が来たよ! イチャイチャする?」
ただ、翔はそのタイミング、何か神妙な顔で物思いに耽りつつ戦っていたようだ。
渚はここでも癒しを振り撒いて仲間の治癒に当たり、前に出る飛馬も鬨の声を上げて仲間の指揮を高めていく。
そうした仲間の援護を受け、シャーロットは自身の刀「蓮華」で黒麒麟の体を切り刻む。
覚者の数が増えてくれば、さすがの大妖も徐々に押され始める。
戦場を駿馬のように駆け抜けても、そこは己の体力を温存していたプリンスが結界王の技を駆使して鉄壁の防御で相手を抑え付けていく。
「タイヨーがどうとか言うけど、余達が相手にしないといけないのって元々その辺じゃないか」
そう告げながらも、駆け抜けた敵の動きに合わせて彼は妖槌「アイラブニポン」で強くカウンターを叩き込んだ。
「迅駿……、これは速度を生かした技か」
その隙は奏空にとって、これ以上ない好機となる。
彼は超視力で黒麒麟の動きを捉え、戦場を駆け抜ける駿馬の如き動きを我が物としていく。
「……黒麒麟は麒麟さんの影? 麒麟さんは古妖?」
ここに来て、息が切れかける想良は相手の体力をスキャンする。
まだ少なくない体力を持つ敵を見ながら、古妖と妖の関係性について、想良は戸惑っていた様子。
ただ、人一倍古妖との関係性を重視するジャックが、敵と見定めた相手には違いない。
(けして、倒れさせない。けして、誰一人死なせない)
彼がこの場に立っている理由は、人間を守る為。
半妖である身なれど、その為なら大妖だって殺してみせる。
「これが!! 俺たち人間の、全力、だぁぁあー!!」
踵を鳴らすジャック。それは相手にとって、死の刻限となる。
黒麒麟の体には徐々に、覚者達がつけた傷が目立ち始めていた。
「人間め、いつの間にこれほどの力を……」
だが、黒麒麟が動きを止める様子はない。
そいつはけたたましい叫びを上げ、覚者達を惑わせてしまう。
相手の数が増えれば増えるほど、黒麒麟の咆哮は敵陣を大きく混乱させて勝手に自滅すらさせる。
これぞ、黒麒麟が大妖として、はるか昔に恐れられた力なのだろう。
ただ、覚者達とて、その対策を練る力があるのだ。
凜音はただ仲間達に癒しを振り撒き、体力の回復へと当たる。
そして、水竜を倒したメンバーも駆けつけ、千雪が植物の雫を振り撒いて回復支援を始めていた。
一気に距離を詰めた蒼羽が黒麒麟に殴りかかれば、秋人は我を忘れたメンバーへと深想水を振り撒いて不浄を払っていく。
冬佳もメンバーの回復にと仲間の気の流れを正常にしようと活性化に当たり、ゲイルは回復に動く仲間と一直線に並ばぬよう立ち回りを気をつけ、癒しの霧を発していた。
「皆、無事でいてほしいの!」
七雅もまた、支援の手が止まらぬようにと仲間達へと気力を分け与える。
さらに、白虎と戦っていたメンバーも姿を見せ、これで終わりにすべく燐花が手にする刃で連撃を繰り出していく。
すぐ、恭司が相手へと雷を叩き落とせば、奈南がホッケースティックを振り上げて。
「麒麟ちゃんと皆をいじめるのは、ナナンがこらしめてあげるねぇ!」
彼女は、相手の頭を強く殴りつけていく。
――この勝利の先に、繋がるものを得る為に。
大地の力を得た悠乃、タヱ子が仲間と変わるよう前線に出て身構え、三十三は相手の広範囲のスキルで傷つく仲間に癒しの霧を展開していた。
かなりの数の覚者が黒麒麟の周りへと集まる。
幾分、表情も和らいだたまきが御朱印帳を手に黒麒麟を殴りつけると、相手の体にエネルギーの高まりを感じて。
「気をつけてください。黒雷光が来ます……!」
だが、そこで、翔と奏空が同時に仕掛けていた。
「黒麒麟、お前がこの世界を滅ぼそうとするんなら、オレ達は絶対にそれを止める」
「麒麟に再び、封印の負担はさせない! ここで必ず、黒麒麟を倒す!」
二人は同時に、自身の魂を大きく削る。
翔はその力を、構えた波動弾へと全てつぎ込んで。
「黒麒麟の頭をぶち抜いてやるぜ!」
今まで見た事のないほどの威力で、翔は黒麒麟の硬い身体をも易々と貫通する弾丸を発していく。
「……なっ」
それが相手の頭を射抜く瞬間、奏空が「MISORA」を振り上げていて。
「俺の魂! 風になれぇ!」
スピードを威力と変換した逢魔ヶ時紫雨の「激鱗」。
奏空はそれに魂の力を加えたことで、全てを凌駕する渾身の斬撃を黒麒麟の頭部へと放つ。
二人の人間が全てを、魂すらもかけて繰り出す全力を超えた一撃。
これまでにない強烈な力に、大妖が恐怖を覚えた。
「な、何……!」
頭を射抜かれ、切り落とされた黒麒麟はその身が光に包まれる。
どれほどとも分からぬ時を生きていた黒麒麟は、その生を完全に終えた。
「閉じ込められて窮屈だったろうが、これで仕舞いだ」
その後に近寄り、凜音が消え行く大妖に対し、そんな餞の言葉を贈ったのだった。
●全てが終わって……。
静まり返った平原で、恭司は燐花へと歩み寄ってその頭を再び撫でる。
好きな人の願いを守った千雪。
「ごめんね妹じゃなくて」
守られていた蒼羽は、千雪の背中を軽く叩いていた。
そして、草の上に座り込んで安堵していた麒麟に、奏空が抱きついていく。
微笑ましげな表情のたまきが慈しみを持って、その光景を見つめていた。
「四神を模した妖か」
二度、覚者が倒したという四神を思わせる妖。
ならば、実際の四神はいずこへ……。
三十三は改めて、自分の耳でこうなった経緯を聞きたいと考え、麒麟の元へと近づいていくのだった。
奈良県の遺跡群。
その中央、古妖麒麟が鎮座する遺跡の付近へと、F.i.V.E.の覚者達は散開していくことになる。
「確か、何度か探索の手伝いはしたことがあったな。随分、派手な事態になったようだ」
関連依頼には久々の参加、『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)が状況を見守る。
「この作戦がうまくいったら、大妖そのものに関して情報増えるかな」
発生経緯が個別だと無意味かもしれないとは考えるものの『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)は新たな情報を期待する。
さて、遺跡の天井を破壊し、麒麟が覚者達へと姿を晒す。
その白い龍を思わせる馬のような姿を、『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525) は興味津々に見つめて。
「麒麟……有名な聖獣だ」
歴史、考古学が好きな彼女は、報告書の中だけの存在を目にできて心弾ませていたようだ。
「麒麟ちゃんが大変ー!! って、なってたのだ!」
『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は関連依頼でこの地を訪れ、麒麟に鹿せんべいを分け与えたことがある。
「お礼に、ナナンも麒麟ちゃんの為にお手伝いするねぇ!」
「こんにちはキリンさん、余だよ! ゾウさんもいるかい?」
続き、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)も茶目っ気交じりに麒麟へと呼びかけていた。
そんな覚者達へと、麒麟は期待と不安を織り交ぜながらも低い声で呼びかける。
「準備はいいか?」
揃って覚者達が同意を示すと、麒麟はこの地に抑え付けていたモノを解き放っていく。
すると完全に吹き飛んだ遺跡の残骸の上に、黒い麒麟の姿があった。
「――大妖黒麒麟だ」
麒麟の言葉に、その黒い体躯の妖が口を開く。
「どれほどの間、この地に束縛されていたことか……」
妖とは思えぬしっかりとした口調。
そして、麒麟と同じ姿ながらも、禍々しさを感じる威容。
彼こそが、大妖と呼ばれる力を持つも、歴史の中からも忘れられた存在、黒麒麟だ。
そして、同時に東西南北に四神を思わせる妖が現れる。
いずれも、これまで遺跡探索を行ってきた覚者達が討伐してきた妖とほぼ同じ姿をした相手だ。
黒麒麟と共に封じられたのか、それとも黒麒麟が作り出した存在なのか……。
「大変だってお話なので、手伝いにはきたんですが」
草原に現われた巨大な妖達はまさに怪獣とも言える姿をしている。
そんな敵を前に、宮神 羽琉(CL2001381)は腰が引けてしまうが。
「ええと、まず四方のを倒してから中央のボス、ですね」
「まずは敵を全て孤立させ、各個撃破。しかる後に、中央の親玉に集中攻撃だ」
簡単に、全体作戦を復唱した赤貴。
妖を倒すまでの序盤がキツいだろうと想定する彼は、数人の仲間と共に北の大亀目指して草原を駆けて行く。
覚者達は5チームを編成しており、こちらは南側のチーム。
「いいぜ、この喧嘩乗った! 強い奴は大歓迎だ」
この遺跡の存在に当初は疑問を抱いていた『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)も、現われた妖の姿にテンションを高める。
「いずれ他の大妖とも戦って斬る必要がある以上、避けては通れない、とは思うのです」
大妖の姿を直接見た、『継承者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)は、絶対自身の手で黒麒麟を倒さねばならぬと考えているわけではない、が。
「やる気一杯な子らを、そのままいかせはしないのです」
「大妖を倒す……か。前だったら考えてもみなかったけど」
それを聞き、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)も本音を漏らしつつ気を引き締め、保健委員腕章をびしっと掲げて決めポーズしてみせる。
「大丈夫だよ、心配しないでね。私がみんなのこと守ってみせるからさ」
そんな渚の姿は、実に心強い。
「黒麒麟はもちろんですが、四妖獣も大きいですね……」
これまで、このような妖と戦ってきた皆の後押しとなるように。
【四葩】のメンバーで参加する『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が気合を入れると。
「うん、助けになれるなら、がんばらないと」
彩吹が同行する二人に笑いかけ、『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)もにっこりと微笑を返す。
「帰ったら、花火しようね」
別方向に向かう相棒、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)を気遣いつつも、紡は仲間と南の朱鳥の元へと向かう。
東方面からは、そんな【四葩】の面々に気をつけてと手を振る『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)の姿がある。
「彩吹さん達は南にいくみたいだし、場所的にお手伝いは無理そうだよねー。ちぇー」
残念がる『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)だが、その彩吹に『兄さんのこと、任せたね』と笑顔で言われていた。
「高ランクの妖を滅することが出来れば、大きなアドバンテージになるだろう」
「人が少ないから、お手伝いにきたの!」
このチームには、この一戦は負けられぬと意気込む『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)や、回復支援に駆けつけた野武 七雅(CL2001141)らの姿がある。
「四聖獣に麒麟か。これだけ瑞獣がいると 昔の人がひっくり返りそうだ」
一度、蒼羽は背後を振り返って。
「……じゃ 千雪君行こうか」
その上で、同行者と目下の敵である水竜へと近づいていく。
西の白虎にも、覚者の一隊が向かう。
「段々、なんでもありになってきた気がします。ヤマタノオロチとか四神とか」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)も、何処かの本で読んだ相手と戦うことになるとは思わなかったと語る。
「古代の伝説は大凡、古妖なんだろうけどねぇ……。そのうち、神話の神様も出てきそうだよ」
キュウビにヤマタノオロチに四聖獣もどき。
それらの存在について、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)がそんな主観を語り、燐花の頭をぽんぽんと撫でる。
「連戦続きで大変だけど、放って置くわけにはいかないからねぇ……」
(……ぽんぽんされてしまいました)
戦い続きで疲れていることを、恭司に気付かれたのだろうか。
「終わったら、ぽんぽんお代わりお願いしますね」
気持ちを切り替える燐花の傍で、篁・三十三(CL2001480)は久々の戦線復帰とあって気合を入れる。
「皆が頑張っている……僕もやらねば」
ブランクと力不足を実感しつつも、彼は目の前の戦いに尽力するつもりだ。
「黒麒麟の取り巻きをどうにかしないと、本腰を入れて黒麒麟と戦えませんからね……!」
納屋 タヱ子(CL2000019)は黒麒麟と対するメンバーを見て。
「こちらは任せて、先へ進んで下さい。すぐに追いつきます」
そうして、タヱ子は西の白虎へと仲間と向かっていく。
「……もしかして、大妖って結構いる?」
今回の事態を聞き、桂木・日那乃(CL2000941)はそんな推論を立てていたが、残念ながら今はそれを実証する余裕はなさそうだ。
黒麒麟の前にプリンスが立ち塞がると、大辻・想良(CL2001476)も相手に敵意を示す。
「……妖は、倒します」
「人間……、ずいぶんと弱そうになったものだ」
相手は明らかに、覚者達を小馬鹿にしたような態度をとっている。
「遺跡探索に何度か参加して、その結果がこれか」
小さく嘆息した『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)が黒麒麟の姿を見て、得心する。
「封じられていたのはそれなりの理由があったんだろうが、出てきたからには消えて貰うしかねーな」
その凜音含め、仲間達が覚醒して武器を手に取るのに、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403) が逡巡する。
(人間の都合で消されるのか……。大妖とも、歩み寄る術は、無かったものか……)
人間を毛嫌いするジャックはそんな考えに鬱になりかけるが、そこに凜音が彼と戦うのが久々だと声をかける。
「終わったら、疲れたーって言いながら、俺の家でごろごろしよーぜ」
「ああ! 凛音、生きて帰ろう。俺たちの役目は、仲間を守り抜く事だ」
そんな友人の姿を確認し、ジャックも心なしか安心して戦いに臨む。
「やっとだ。やっと、麒麟の力になれる。助けられる」
翔はこれまでの依頼を思い返す。
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994) もまた、麒麟を自由にさせる為にと黒麒麟の打倒を強く誓う。
「奏空さん、翔さん、想良さんも一緒です。負ける訳にはいきません!」
そして、関連事件のほとんどに携わってきた『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「思えば、遺跡に関わってから二年か。最初は何があるのかと楽しくて……」
地割れの遺跡から、炎、風、そして水。
ここまでの道のりは決して、楽ではなかった。
しかし、皆で力を合わせて乗り越え、麒麟と出会うことができたのだ。
「待ってて、麒麟! 絶対解放するからね!」
麒麟へと呼びかけた奏空は、仲間と共に黒麒麟へと対していくのである。
●四方の交戦・1
北、大亀と対するチーム。
この場で、黒麒麟と同程度の巨体を持つ相手だ。
「ふふ、那由多さん、無茶しないでくださいね?」
肩に白い羽根を現した『深緑』十夜 八重(CL2000122)は、無理しない程度になら存分に暴れて大丈夫と、微笑ましげにと相方へと告げる。
「暴れません……! うちは今回、回復支援やの!」
猫耳を立てつつ反論する『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442)。
ただ、八重の存在があるからこそ、那由多は安心してこの場に立つことができる。
「背中は守りますからね」
「お任せします。この命、那由多推して参る!」
地響きを響かせる大亀へ、彼女達は対していく。
「大亀を抑えにいくぜ! おっと、抑えっつっても、倒す気は満々だけどな!」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が意気揚々と肉薄していき、地響きを起こす敵に対して拳で反撃を叩き込んでいく。
「……鹿ノ島がいるか」
「せっきー、こっちでうまく援護するから、動き合わせてよろしく!」
馴染みの姿を確認した赤貴は早速立ち回り出し、地面から岩槍を隆起させて大亀の腹下を傷つける。
「天が知る地が知る人知れずっ。大妖退治のお時間ですっ」
ぐらつく足元に『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は多少態勢を乱されながらも、ナックルをつけた拳でのワンツーを大亀へと叩き込む。
「いくら硬く大きくても、壊れないものはないっ」
彼女はひたすら敵を叩いて、相手の体の破壊を目指す。
相手の地響きを地面すれすれを飛ぶことで回避していた梶浦 恵(CL2000944)は、一度大亀と対した際に彼女自身が習得した靄を発し、大亀の理性を奪おうとしていく。
大亀ならなんとか見た目が我慢できそうだと、羽琉はこのチームに加わっていた。
彼もまた翼飛行で浮遊し、足場に注意しつつ高圧縮した空気を撃ち出して応戦する。
回復支援にと駆けつけた離宮院・太郎丸(CL2000131) は、比較的被害が浅い序盤は雷雲を呼び、巨大な敵に雷を叩き落としていた。
那由多も前衛陣のサポートにと祝詞を唱え、戦巫女の恩恵を与えていく。これを切らさないようにと気がけながら、彼女は次なる支援に移る。
「ふふ、それだけ大きいと、良い花を咲かせそうですね」
相棒の八重は大亀の動きを止めようと植物の種を投げ飛ばし、その巨体のあちらこちらに急成長させた植物を絡ませて動きを止めようとしていく。
「お庭に飾るプランターにはちょっと大きいですから、小さくなってくださいね?」
だが、相手もやられてばかりではおらず、前線メンバーへと大きく口を開き、その身体を噛み砕こうとしてきていた。
南、朱鳥と対するメンバー達。
燃え上がる体を持つ相手を前に、シャーロットは一つ嘆息して。
「覚者剣士たるもの、炎やら雷でも斬らねばならぬのですね。やれやれ」
相手は、物理攻撃にやや耐性がある自然系。
されど、シャーロットは剣士としてのスタンスを貫いて。
「我が剣技の神髄、受けるがよいのです」
手にする刀「蓮華」で斬りかかり、シャーロットは通常切れぬものまで切り伏せようとする。これならば、剣もより極まるだろうと信じて。
彩吹は自らの細胞を活性化させ、自らの瞬発力を高める。
「自然系か、苦手だけれど……。倒れるまで攻撃すればいいんだよね」
自然系に苦手意識を抱く彩吹だが、今は敵に広範囲の攻撃を使わぬよう攻撃に切れ目がないようするのが優先と判断する。
その上で、彩吹は宙で回転し、遠心力をのせて燃え上がる敵の体を蹴り付けていく。
そこに浴びせかかる、朱鳥の発する熱風。
澄香は手前の仲間の態勢を少しでも整えるべく、心地よい香りを振り撒いて自然治癒力を高める。
同じく、周囲に香りを振り撒く紡だが、他の妖と対するメンバーには距離も遠く効果は及ばなかったようだ。
渚も自身独自のスキル「予防措置」を使い、朱鳥の及ぼす異常が及ばぬようにと仲間達の治癒力をより高めようとしていた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
叫ぶ『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
早々に四妖獣を撃破し、中央で大妖と戦うメンバーの援護をと、ラーラは前方に魔法陣を描き、生み出した流転する紅の炎を朱鳥へと浴びせかけていく。
火傷は効かずとも、炎自体の効果は十分。ラーラは火力で相手をねじ伏せようとする。
「鍛えた剣に斬れないものはねーんだ」
そして、前に出る飛馬も、無銘号無太刀脇差『厳馬悠馬』を抜き、振るった刀身から拳大の炎を飛ばしていく。
それを叩きつけられて苦しむ朱鳥でなく、飛馬は中央にいる黒麒麟を見据えて。
「待ってろ、大妖。こいつらを倒したら、次はお前の番だ」
一言告げた彼は、改めて朱鳥目掛けて切りかかっていくのである。
西は白虎。
以前は遺跡内の限られた空間を駆け巡っていた敵だったが、今回は遮る物のない平原でも戦いとあって、捉えるのが非常に厄介な相手だ。
後方に立つ恭司は起こした雷雲から雷を叩き落とし、この場の仲間達へと回復支援に当たる。
前線には燐花が立ち、妖刀「疾蒼」で相手の体を圧倒的な速度をもって切り裂いていった。
自身への負担もかなり大きな大技ではあるが、後方支援を期待するからこそ、彼女は連続して相手を攻め立てる。
「ドッカーン!」
奈南は「ホッケースティック改造くん」を手に、自身の土行の力を纏わせた上で、ひたすら殴りつけていく。
「更にドッカンカーン!!」
とはいえ、相手はかなり素早い。
一撃に威力はあれども、奈南は当てるのに苦労していた様子だ。
白虎は戦場を疾走し、この場のメンバー達へと突撃し、さらに鋭い爪を薙ぎ払ってくる。速度を生かす敵はかなり手強い。
うまくそれに対するべく、三十三は毒の皮膜を纏って強化を施す。
そうして、三十三は仲間の為にと癒しをもたらしていくのだが、彼もまた他戦場に癒しを届けられぬことを確認し、この場のメンバーの治癒に全力を尽くす。
前線に立つタヱ子も岩と宝石をその身に纏って防御を固め、仲間達の回復へと気力を使うこととなる。
癒力大活性を使い、最前線という場所でメンバーの回復に当たるタヱ子だ。
「体力があって場を持たせる癒力大活性を使うわたしを、白虎は【捕食】したがるでしょう」
彼女はそうして、できる限り敵の気を引こうと考える。
そして、ククル ミラノ(CL2001142)も大樹の生命力を凝縮した雫を振り撒いていく。
ミラノの発する癒しの霧に包まれつつ、この場のメンバー達は素早い動きの白虎の討伐の手を強めていた。
東は水竜が荒ぶり、覚者達を苛むこととなる。
その長い体躯を活かした締め付けだけでなく、水の妖にもかかわらず、揮発性のある液体を飛ばして燃え上がらせてくる難敵だ。
その相手に、『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は相手の姿を観察しつつ、戦場で立ち回る。
「物質的な実体の無い……。恐らくは、形を成した源素の塊」
大妖黒麒麟が妖は、眷属として見るのが妥当。
そして、その力は四神と同等と見るのは不思議なことではないと冬佳は考える。
「――源素とは何か、という根本的な命題にここでも行き当たるのね」
研究対象として、実に興味深い対象。
英雄の力を引き出す冬佳はエネミースキャンで相手を解析しつつ、祈りを込めて相手の体を魔力で射抜いていく。
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は布陣の中央から、神秘の力を持つ水竜を生み出して妖へと食らいつかせる。
こちらのスキルの水竜が押し負けるのはやむを得ないが、秋人はさらに波動弾を発射し、相手の体力を削ぎ落とす。
水竜はさらにすさまじい勢いの水の流れで、この場の面々の体を砕き、押し流そうとしてくる。
重圧すら覚える流れにも耐えるゲイルは、相手の攻撃に備えて仲間と一直線上にならないよう立ち回りながら、眩い光を放つ手榴弾をバラ撒き、相手の動きを少しでも制しようとしていた。
それだけでなく、彼はじっとその技を見定め、自身のものにしようと機会を窺っていたようである。
「皆の為に、回復を行うの!」
前に出るのは難しいとは判断していたが、七雅はこの場を支えようと仲間達に癒しの雨を降らせる。
「単純な話。水には雷が効果ありそうなのよね」
そんな理由で、目下の敵を見定めていた『月々紅花』環 大和(CL2000477) 。
「わたしの雷は甘くはないわよ」
大和は自らを雷の力で強化した後、他メンバーよろしく戦場をあちらこちら飛び回る水竜へと激しく雷を叩き落としていく。
さらに、【手風琴】として共に参加する蒼羽と千雪。
「さぁ、琴巫姫、気合いいれてこっかー」
千雪も妖の靄を振り撒き、水竜を惑わせようとする。
一時だけ相手が躊躇すれば、それで十分。
英雄の力で高めた力を持って、蒼羽は召喚した雷雲からまるで檻のように敵へと雷の矢を降り注がせた。
その雷自体に威力はないが、強く相手を束縛する力がある。
覚者達は十分な隙を活かし、水竜の撃破を目指す。
●大妖黒麒麟・1
四方で皆、妖と交戦する中、中央部でも覚者と大妖の戦いが始まっていた。
相手はおたけびを上げ、戦う覚者達に強い精神障害を及ぼす。
それは、敵味方の区別すらできなくする恐ろしい一撃。
「何もしねーで、錯乱させられてたまるか!!」
翔が耳を塞ごうとするが、それで抑えられるほど大妖の攻撃は甘くない。
奏空が法薬を宿した瑠璃光の力を皆に振り撒き、それでも錯乱してしまう仲間の気の流れを活性化させ、素早く我に戻るよう促していく。
破壊された遺跡付近での戦いとあって、想良は翼を羽ばたかせて足場の悪さをものともせず、空気を高圧縮させて黒麒麟の体を撃ち抜いていった。
この場には、MIAの二人の姿もある。
「いよいよだね、やってやるよ」
「負けないんだよー」
翼人の水玉・彩矢が回復支援に動き、酉の獣憑、荒石・成生が防御耐性を取りつつ少しでもこの場のメンバーの力にと尽力してくれていた。
もっとも、相手は大妖だ。
こちらの攻撃を多少受けたところで、まるでビクともしない。
「愚かな連中よ」
人間を見下す大妖は、長期間封印されていたことでなまっているはずの力を存分に発揮する。
全てを焼き尽くす灼熱の炎。そして、塵も残さず破壊する黒い雷光。
それがAAAなどの組織を軽く壊滅させる威力を持つのは、間違いない。
だからこそ、この場の回復の手は非常に厚い。
自身の力を高める凜音は、適度に相手との距離を維持し、仲間に潤しの雨を降らす。
日那乃もまた翼で足元の瓦礫を避けつつ、まともに黒麒麟の攻撃を受けたメンバーへと潤しの滴を落として次なる攻撃に耐えられるよう体力回復を優先させる。
「倒れるまで、皆様のお手伝いを……!」
また、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)も癒しの力を振り撒き、できる範囲内で仲間の癒しに当たっていた。
これだけ回復支援のメンバーを重ねても、なんとか耐えるという状況の中、たまきは自らの力を高めて。
「奏空さんが大事な事を、私に教えて下さいました……」
彼が考えた末での判断したこの戦い。だからこそ、自分に止める権利などないとたまきは考えていた。
(どうか奏空さんの行動が、その対価に見合った効果で現れます様に……)
それを祈りながらも、彼女は護符の力で大地との親和性を高め、龍の如き槍を舞わせて黒麒麟の体を貫く。
その間に、祝詞の力で仲間の力と速度を高めたジャックが相手へと叫ぶ。
「さあ、ここからが、本番さ! 黒麒麟、人間の力を見せてやる!」
回復の手が少しでも空けば、ジャックは鋭利な氷柱を生み出し、相手の体を貫くべく撃ち出していくのだった。
●四方の交戦・2
各妖との戦場はかなり距離が開いている。
支援回復に当たるメンバーは、できる限り他戦場の合わせて考え、回復支援をと考えていた。
南、朱鳥と対していた紡は東寄りに布陣し、水竜と戦いメンバーの支援もと動くよう試みていたが、何らかの力が働いて相互に支援ができぬ状況となっていた。
それを、中央で戦うプリンスが遠くから見ていたのだが。
(やっぱり、思ったとおりだね)
支援するなら、個別に妖を撃破してから。
そんなことを考えるプリンスに、紡は大きく手を振っていた。
とりわけ戦況が厳しいのは、西の白虎との交戦チームだった。
相手は素早く、なかなか補足が難しい相手。
「素早い相手みたいだけど、速さなら負けてない子もいるし」
駆け巡って攻撃する以上、方向転換は必須。
そう考え、相手が止まったわずかなタイミングで悠乃は自らの辰の獣憑の力と、黒炎の術式を織り交ぜた独自の格闘術で、自らの爪、蹴りを浴びせかけていく。
ただ、その間に、メンバー達は徐々に傷が深まってしまう。
相手の猛襲を受けた奈南は、自身の体力が危険だと察して。
「ピコーン! ピコーン! って、鳴ってるよぉ!」
自らに癒力での回復を行う奈南だが、直後さらに白虎が牙をむき、彼女を噛み砕こうとしてくる。
身体を裂かれるような衝撃にも、奈南は命を砕いてなおも白虎と対する。
「ミラノのおーえんっとっどけーーーっ!!」
叫ぶミラノも、すでにふらふらとなっている。
相手の咆哮で一度意識が途絶えかけたのを何とか踏みとどまっていたのだが、疾走してくる白虎の勢いを止められず、地を這うこととなってしまう。
こうなると、相手のスキルを吸収するどころの話ではなくなる。
三十三は圧縮した空気を放ちながらも、仲間の回復に手数の多くを裂いていく。
前線で耐えていたタヱ子は仲間と盾とならんと、仲間が傷つくごとに自身をアピールするが、なかなか敵の気を引けずにいたようだ。
「絶対に持ち帰ってみせます。これからの戦いの為にも」
それでも、燐花は諦めずに白虎を注視し続ける。
これからの戦いは、さらに激化するであろう。
だから新しい技が欲しいと、彼女は考えていたのだ。
しかしながら、白虎との戦況は余りにも悪すぎた。
戦場を疾走してくる白虎は、燐花の体を無残にも切り裂いてしまう。
その威力は後方の恭司にまで及び、二人は気を失いかけながらも倒れることを拒絶する。
「さすがに、甘い相手ではなかったようだね」
ランク3かつ、報告書時と同様の力を持つ敵。
ただ、その力はランク4にも届く力とあって、ここぞと力を発揮してくる相手に、恭司も舌を巻いていたようだった。
水竜チームも序盤は出だしこそ好調だったが、かなりの苦戦を強いられている。
奈良というこの歴史古い街にあって、遺跡を大事にしたいと考え立ち回る大和。
「とはいえ、相手が大妖なら、こちらも遠慮していては倒せないわ」
彼女も苛烈に雷を落として水竜を攻め立てるのだが、相手の発する膨大な量の水に押し流されてしまう。
命の力に縋るきっかけも失い、大和はこの場で力尽きてしまった。
その水が押し流すは、大和だけではない。
祈りを込めた射撃を放ち続ける冬佳、そして、後から回復に専念し続けていた七雅の体力を一度は奪ってしまったようだ。
「負けるわけにはいかないの!」
二人が命の灯火を体力に変え、七雅が仲間を支えようと更なる癒しの力を行使する。
それでも西に比べれば、敵のスキルを注視する余裕はまだあったと言えた。
蒼羽は相手の放つ爆流を注視しつつ相手との距離を詰め、死角から攻め入る。
そのタイミングで、千雪が飛ばす植物の種や、手元の植物から放つ独特の香りで相手の牽制を行い、支援をしてくれた。
それでも、攻めと観察を同時に行うのは難しく、蒼羽は相手のスキルの全てを把握するには至らぬようだった。
同じく、秋人もまた水竜が使う最大の技を我が物にしようと動いていく。
エネミースキャンも合わせて、スキルを解析しようとする秋人だが、頭ではある程度理解ができても、その行使となれば話は別。
まして、別途スキルの水竜や波動弾での攻撃を合わせてだと、なかなかコツがつかめない。
「名前からして水の源素を集めて圧縮して、一気に解き放つイメージだろうか」
ただ、ゲイルは回復を行いつつ、その力の流れを実際に試してみる。
彼の背後に巻き起こる水の勢いが水竜を飲み込む。
観察、そして感覚を掴み、行使したことで得られたその力にゲイルは大きく目を見張っていたのだった。
●大妖黒麒麟・2
黒麒麟と交戦するメンバー達もまた、苦戦を強いられる。
「なるほど、人間も力をつけたものよ」
それでも、かなり冷めた視線で覚者達を見下す黒麒麟。
そいつは崩れた遺跡の上を駆け巡り、覚者達の体力を大きく削いでいく。
仲間の回復と行いながら、奏空は「MISORA」の刃で黒麒麟へと切りかかっていくが、相手の発する光で瞬く間に命が削られる感覚を味わう。
「絶対、解放するって約束したんだ……!」
倒れることなく、更なるスキルを使う奏空。
「いけません……」
前線で身を固めていたたまきは、仲間に危険を訴えかける。
その上で前に出て身構えるのだが、想像を超えた黒麒麟の攻撃の威力に一度地を這いそうになってしまう。
黒麒麟の力は、やはり強大だ。
回復に立ち回っていた日那乃が命の力に頼って堪えたものの……。
「後は、頼みます……」
静音がその雷に焼かれ、意識をなくしてしまう。
「回復な必要な人は?」
日那乃は送受心で仲間達へと問うが、黒麒麟と対するメンバー達は徐々に態勢を乱されることとなる。
同じタイミングで雷に焼かれた想良も一度命の力を使って踏み止まり、動けなくなった仲間に浄化成分を振り撒いていく。
さらに、素早く戦場を駆け抜ける黒麒麟。
前線のメンバーの体ごと貫かれ、日那乃も今度は堪えられずに草の上へと倒れてしまった。
前に立ち、相手の手前で防御に徹するプリンス。
相手はかなり狡猾で、確実に頭を潰そうと動いてくることにプリンスも気付き、できるだけ状況が整うまではと防御に徹する。
「ほらほら、お前ら無理すんなー!」
仲間達が苦しい状況の中、凜音も一度意識が途絶えかけていたが、それでも仲間の支援の為にと潤しの雨を降らせ続ける。
MIAの二人も命の力に頼って、ギリギリの戦いを行っていたようだ。
「大妖ども! 究極まで力に秀でた魔神どもよ!」
そこで、ジャックが相手に向けて叫ぶ。
――今日、黒麒麟を倒し、妖や隔者だけに影響を与えるのではなく、大妖、君達に人間が追いついた証明をしよう!
「その瞬間を目に焼き付けろ!」
その目からジャックは怪光線を放つが、黒麒麟が即座に反撃し、燃え上がる炎でジャックの身体を蒸発させようとする。
命を砕き、それに耐え切ったジャック。
彼を安全な場所へ運ぶのはまだ先になりそうだと、凜音は考えていた。
●四方の交戦・3
それぞれ激しい戦いが繰り広げられる中で、安定した立ち回りで妖を攻め立てていたのは、大亀チームだ。
「自然系は物理が効きにくいんだっけ?」
「そのようだな」
確認する遥に赤貴が返す。
立ち回りつつ、彼らが攻撃のチャンスを図る中、相手に二連撃を浴びせた浅葱が嫌な予感がして全身で身構える。
敵も自らの攻撃の効果は把握していたらしく、地響きがさほど効果がないと察してか、時にのそりと戦場を移動してメンバーの側面から体当たりをブチかます。
ここに来て、大亀が自身の底力を見せ付ける。
回復へと当たり続けていた太郎丸は、立ち回りまで意識していなかったらしい。
それまで癒しを仲間に与え続けていた彼は強い衝撃を幾度か受け、命に縋って立ち上がっていたものの、それでも耐えられずに戦場に崩れ落ちてしまう。
相手がしぶとく攻撃してくることを察した恵がそこで、一つの考えに至る。
「少々、実験をしてみましょうか」
ならばと、恵が自らの魂を大きく削り、試してみる。
それは、自身を力の増幅装置とし、皆の力のブースターになるというもの。
並々ならぬ力を、この場のメンバーへと分け与える恵。それは大亀と戦うメンバーだけでなく、戦場全ての仲間達に凄まじい力を与えて。
大亀と対するメンバー達はそれによって、攻勢を大きく強めることとなる。
「甲羅が割れてきています」
相手の甲羅に入った亀裂に気付いた羽琉は足が竦みそうになるのを堪え、甲羅目掛けて圧縮した空気を発射する。
「もっと違うお花が見たいわ……。大きい花は燃やしてしまお」
――誰も死なせはしない。
那由多は強く意気込み、津波を思わせるような炎を大亀へと浴びせかけていく。
「ふふ、無茶は駄目ですよ?」
大切な友達である那由多を庇えるよう立ち回る八重も、敵へと種を投げつけ、急成長する植物で牽制していく。
その直後、赤貴がより効果のあると判断した隆神槍を敵の真下から突き出すと、相手が動きを止めたと見計らった遥が飛び出して。
「悪いが、ここに浦島太郎はいないぞ! 蹴っ飛ばさせてもらうぜ!」
彼は相手の正面から、正拳を叩き込んでいく。
すると、大亀の巨大な甲羅が砕け散り、その体はボロボロと崩れ、土と同化していったのだった。
朱鳥チームも善戦していた。
北側で発せられた力が戦場を越えてこちらにも及び、皆溢れる力を感じていた。
相手の炎によって、これ以上仲間達が倒れないようにと渚が一人一人の気の流れを活性化させて癒しに当たる。
それによって、癒しを受けた飛馬は自身の状況を見ながら刃を振るって朱鳥に炎の塊を飛ばしていく。
比較的安定した立ち回りを見せていたメンバー達は相手のスキルを見定め、自分の物にしようと注意深く見定めようとする。
だが、敵もそこまで簡単に技を覚えさせてくれるほど、甘くはない。
守護使役ペスカに預けた金のカギを使ったラーラ。
魔導書の封印を解除したラーラは紅の炎を浴びせかけ、相手の炎の勢いを弱めていく。
だが、それでも相手の発する熱風は激しく、シャーロットはあわやその身が焦がされかけたところで、命を削ってなんとか持ちこたえていた。
「赤い翼の貴方には、絶対に負けたくありません……!」
気の置けない仲間に助けられながらも、澄香は彩吹の援護にと独特の植物の香りで相手の弱体化をはかる。
「一回くらい許されるよね? 遊んでおいで?」
それまで回復に当たっていた紡が前方へと鳳凰を模した青い稲妻を呼び出し、戦場へと解き放つ。
「や、だって火の鳥じゃん? 鳳凰じゃん? 行くしかなくない?」
そんな仲間達の支援を受けつつ、彩吹は相手の体をコマンドブーツで強く蹴り込む。
炎の鳥は危険を察してか、その身を大きく燃え上がらせる。
それを、澄香がじっと観察していた。
「そのスキル……。ぜひ、私に下さい……」
必ず異常回復できるというスキルは非常に心強い。
模倣で多少能力が落ちても、F.i.V.E.にとってかなりの力になると澄香は相手の力の流れを注視し、操ることができるようにと反復していたようだ。
そして、自らの回復に回る敵へ、シャーロットが仲間の攻撃の直後に攻め込む。
「この国の夏どう生きるか、しっかり学んでいるワタシなのです」
暑さならぬ熱さをもたらす敵に、彼女はただ自らの剣技を見せ付け、その身体を切り裂く。
一声嘶いた朱鳥はそのまま燃え尽き、姿を消した。
その時、四妖獣二体の撃破を確認したプリンスは、防御態勢を解いて黒麒麟へと攻勢を開始していたようだった。
かなり崩れかけていた水竜チーム。
とはいえ、こちらも湧き上がる力を持って、水竜を少しずつ押していく。
「なるほど……」
相手にエネミースキャンを使いつつ、観察していた冬佳。
水祈りを込めた一射で、彼女は水竜の腹を射抜く。
ゲイルもスキルを習得した後は癒しの霧を発して仲間の回復に当たる。
「気力が枯渇した人は、なつねに声をかけてほしいの!」
これ以上倒させはしないと、七雅も傷を押して仲間の回復支援を続ける。
そんな仲間の援護を受け、秋人はスキルの水竜で相手を攻め立てていたようだ。
そこで、朱鳥と戦っていたメンバーがこちらへと支援に回ってくる。
澄香が植物の香りを振り撒き、彩吹が三段蹴りを浴びせかければ、紡がこの場の【手風琴】へとにこやかに笑い、癒しの雨を降らして。
「攻撃が良かった?」
「あ、麻弓くん。ついでに攻撃もー」
彼女達の支援もあり、覚者達はさらに勢いづく。
「もう一息だ」
長い戦いも一段落付きそうだと秋人が仲間達に告げれば、今しがた支援を受けた千雪が投げ付けた種が水竜の体を縛りつける。
すると、水竜の背後から一気に距離を詰めた蒼羽が相手の体を真っ二つに切り裂く。
すると、勢い余って地面に激突したそれはただの水となって、地面に吸い込まれていったのだった。
最も苦しい戦いを強いられていた白虎チームにも、援護の手が入っていた。
大亀を倒した赤貴がこちらに立ち寄り、隆神槍を敵の足元から隆起させれば、朱鳥を倒したラーラが燃え上がる炎を相手に浴びせかけ、さらに飛馬が炎の連弾を飛ばしていく。
「白虎ちゃんとかくれんぼもするよぉ!」
かなり傷が深まっていた奈南だったが、少し余裕が出たのか、白虎へと飛び込み呼びかける。
「白虎ちゃんが鬼役をしてねぇ!」
迷彩を使ってこの場に潜もうとする奈南。
さすがに妖の目はごまかせなかったが、その間に三十三が「略式滅相銃・業型」から射撃を行い、相手を怯ませる。
素早く動く白虎が怯むと、今度こそとタヱ子が相手の正面に立って押さえつける。
「何とか持たせますから、その間に白虎の首をお願いします!」
――先の先を行く白虎は追えずとも、後の先を取る事はできる。
タヱ子がしばし時間を稼ぐ間に、恭司は雷を敵の頭上から落としていき、燐花が妖刀「電燐」で相手の胴体へと連続斬りを食らわせていく。
「こっちだよぉ、ドッカーン!」
奈南が「ホッケースティック改造くん」で相手の頭を殴り付けた直後、悠乃が仲間の連携を受けて畳み掛ける。
拳、蹴り、尻尾、自らの全身全てを武器とし、黒炎を纏わせて繰り出す悠乃は相手の腹目掛けて拳で強烈な一打を喰らわせた。
暴れ放題だった白虎もついに力つき、空中にその存在を霧散させていったのだった。
●大妖黒麒麟・3
残る敵は、黒麒麟のみ。
「全て退けたか……」
最初は侮蔑の眼差しすら浮かべていた大妖だったが、思った以上に力をつけた人間……覚者の姿に驚きを見せていた。
それもあり、相手も激しい雷を発して攻め立ててくる。
広範囲に落ちてくる黒い雷光は、覚者達の身を強く束縛することとしていく。
「こんな強い雷、手に入れたいに決まってる!!」
相手に雷を落とす翔は、ラーニングを試みようとするが、さすがに相手の攻撃が苛烈すぎて、じっくり見ている余裕を与えてくれない。
しかしながら、徐々にこの場へと四妖獣を倒したメンバーが駆けつけてくる。
「ふふ、なんだか見ようによっては可愛いですね?」
八重は相手の姿を微笑ましげに見ていたが、最初から抑える仲間の状態を見れば、そう楽観的な態度をとってばかりもいられない。
彼女が投げ付けた種が急成長し、植物が相手の脚へと絡みつく。
その間に那由多がこの場のメンバーに祝詞を唱え、仲間の力を高める。
「止められるかじゃなくて、止めるですねっ」
無茶を通すか砕けるか。
浅葱はこの状況にも己の正義を貫き通すべく、拳で連撃を叩き込み、相手の体を砕こうとしていく。
黒麒麟相手では距離も何もないと考えて赤貴は攻め立てるが、その最中で別件の依頼で抱いた疑問を思い出す。
(大妖とは……いや)
とはいえ、今は目の前の相手を倒すことが先。
赤貴は拳を振るって、黒麒麟にダメージを蓄積させていく。
さらに、朱鳥を倒したメンバーもまた加わって。
「翔、生きてる?」
彩吹が声をかけながら加わり、相手の攻撃に備える。
彼女が黒麒麟の使う技を傍目から見て気にかけていたのは、激しい炎を起こす大豪炎。
「炎の力。どうせ使うなら、人を守るのに使わせてよ」
彩吹と同じく、ラーラもそのスキルに興味を持ち、エネミースキャンを使いつつ敵を注視していたのだが。
「……舐められたものだな」
そんな態度の覚者に黒麒麟も憤り、お望みどおりにと燃え盛る炎を起こし、覚者達に浴びせかける。
それを受けた彩吹、ラーラが命を砕いて立ち上がる中……。
「まさか、このあたしが……」
「もう、ダメなんだよー……」
ここまで戦線を支えていたMIAの二人ももたなくなり、崩れ落ちてしまう。
さらに、紡が前線に立って回復スキルを使いつつ戦線の立て直しに動き出すと、プリンスがその隣にやってきて。
「カケルー、ツム姫が来たよ! イチャイチャする?」
ただ、翔はそのタイミング、何か神妙な顔で物思いに耽りつつ戦っていたようだ。
渚はここでも癒しを振り撒いて仲間の治癒に当たり、前に出る飛馬も鬨の声を上げて仲間の指揮を高めていく。
そうした仲間の援護を受け、シャーロットは自身の刀「蓮華」で黒麒麟の体を切り刻む。
覚者の数が増えてくれば、さすがの大妖も徐々に押され始める。
戦場を駿馬のように駆け抜けても、そこは己の体力を温存していたプリンスが結界王の技を駆使して鉄壁の防御で相手を抑え付けていく。
「タイヨーがどうとか言うけど、余達が相手にしないといけないのって元々その辺じゃないか」
そう告げながらも、駆け抜けた敵の動きに合わせて彼は妖槌「アイラブニポン」で強くカウンターを叩き込んだ。
「迅駿……、これは速度を生かした技か」
その隙は奏空にとって、これ以上ない好機となる。
彼は超視力で黒麒麟の動きを捉え、戦場を駆け抜ける駿馬の如き動きを我が物としていく。
「……黒麒麟は麒麟さんの影? 麒麟さんは古妖?」
ここに来て、息が切れかける想良は相手の体力をスキャンする。
まだ少なくない体力を持つ敵を見ながら、古妖と妖の関係性について、想良は戸惑っていた様子。
ただ、人一倍古妖との関係性を重視するジャックが、敵と見定めた相手には違いない。
(けして、倒れさせない。けして、誰一人死なせない)
彼がこの場に立っている理由は、人間を守る為。
半妖である身なれど、その為なら大妖だって殺してみせる。
「これが!! 俺たち人間の、全力、だぁぁあー!!」
踵を鳴らすジャック。それは相手にとって、死の刻限となる。
黒麒麟の体には徐々に、覚者達がつけた傷が目立ち始めていた。
「人間め、いつの間にこれほどの力を……」
だが、黒麒麟が動きを止める様子はない。
そいつはけたたましい叫びを上げ、覚者達を惑わせてしまう。
相手の数が増えれば増えるほど、黒麒麟の咆哮は敵陣を大きく混乱させて勝手に自滅すらさせる。
これぞ、黒麒麟が大妖として、はるか昔に恐れられた力なのだろう。
ただ、覚者達とて、その対策を練る力があるのだ。
凜音はただ仲間達に癒しを振り撒き、体力の回復へと当たる。
そして、水竜を倒したメンバーも駆けつけ、千雪が植物の雫を振り撒いて回復支援を始めていた。
一気に距離を詰めた蒼羽が黒麒麟に殴りかかれば、秋人は我を忘れたメンバーへと深想水を振り撒いて不浄を払っていく。
冬佳もメンバーの回復にと仲間の気の流れを正常にしようと活性化に当たり、ゲイルは回復に動く仲間と一直線に並ばぬよう立ち回りを気をつけ、癒しの霧を発していた。
「皆、無事でいてほしいの!」
七雅もまた、支援の手が止まらぬようにと仲間達へと気力を分け与える。
さらに、白虎と戦っていたメンバーも姿を見せ、これで終わりにすべく燐花が手にする刃で連撃を繰り出していく。
すぐ、恭司が相手へと雷を叩き落とせば、奈南がホッケースティックを振り上げて。
「麒麟ちゃんと皆をいじめるのは、ナナンがこらしめてあげるねぇ!」
彼女は、相手の頭を強く殴りつけていく。
――この勝利の先に、繋がるものを得る為に。
大地の力を得た悠乃、タヱ子が仲間と変わるよう前線に出て身構え、三十三は相手の広範囲のスキルで傷つく仲間に癒しの霧を展開していた。
かなりの数の覚者が黒麒麟の周りへと集まる。
幾分、表情も和らいだたまきが御朱印帳を手に黒麒麟を殴りつけると、相手の体にエネルギーの高まりを感じて。
「気をつけてください。黒雷光が来ます……!」
だが、そこで、翔と奏空が同時に仕掛けていた。
「黒麒麟、お前がこの世界を滅ぼそうとするんなら、オレ達は絶対にそれを止める」
「麒麟に再び、封印の負担はさせない! ここで必ず、黒麒麟を倒す!」
二人は同時に、自身の魂を大きく削る。
翔はその力を、構えた波動弾へと全てつぎ込んで。
「黒麒麟の頭をぶち抜いてやるぜ!」
今まで見た事のないほどの威力で、翔は黒麒麟の硬い身体をも易々と貫通する弾丸を発していく。
「……なっ」
それが相手の頭を射抜く瞬間、奏空が「MISORA」を振り上げていて。
「俺の魂! 風になれぇ!」
スピードを威力と変換した逢魔ヶ時紫雨の「激鱗」。
奏空はそれに魂の力を加えたことで、全てを凌駕する渾身の斬撃を黒麒麟の頭部へと放つ。
二人の人間が全てを、魂すらもかけて繰り出す全力を超えた一撃。
これまでにない強烈な力に、大妖が恐怖を覚えた。
「な、何……!」
頭を射抜かれ、切り落とされた黒麒麟はその身が光に包まれる。
どれほどとも分からぬ時を生きていた黒麒麟は、その生を完全に終えた。
「閉じ込められて窮屈だったろうが、これで仕舞いだ」
その後に近寄り、凜音が消え行く大妖に対し、そんな餞の言葉を贈ったのだった。
●全てが終わって……。
静まり返った平原で、恭司は燐花へと歩み寄ってその頭を再び撫でる。
好きな人の願いを守った千雪。
「ごめんね妹じゃなくて」
守られていた蒼羽は、千雪の背中を軽く叩いていた。
そして、草の上に座り込んで安堵していた麒麟に、奏空が抱きついていく。
微笑ましげな表情のたまきが慈しみを持って、その光景を見つめていた。
「四神を模した妖か」
二度、覚者が倒したという四神を思わせる妖。
ならば、実際の四神はいずこへ……。
三十三は改めて、自分の耳でこうなった経緯を聞きたいと考え、麒麟の元へと近づいていくのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
重傷
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし

■あとがき■
ラーニング成功!!
取得キャラクター(ID):工藤・奏空(CL2000955)
取得スキル:迅駿
取得キャラクター(ID):ゲイル・レオンハート(CL2000415)
取得スキル:水砕爆流
取得キャラクター(ID):天野 澄香(CL2000194)
取得スキル:再生
取得キャラクター(ID):工藤・奏空(CL2000955)
取得スキル:迅駿
取得キャラクター(ID):ゲイル・レオンハート(CL2000415)
取得スキル:水砕爆流
取得キャラクター(ID):天野 澄香(CL2000194)
取得スキル:再生
