【憤怒の祈り】Faith Justice Anger(Ⅳ)
●『覚者もまた人間である』
源素の力に目覚めたとはいえ、覚者が人間であることは証明するまでもない。だからこそエグゾルツィーズムは『覚者は悪魔』と定義し、覚者を攻撃するという精神的な垣根を下げていたのだ。
それを知った覚者はこう思う。『あいつらは狂っている。だから殺そう』『狂信者だ。理解できない』……対話のテーブルに座るものはなく、双方がそれぞれの思いで敵対する。
エグゾルツィーズムは信仰と個人の怒りで。
覚者は信仰への恐怖と自衛で。
個としての能力は覚者に劣るだろうが、数と信仰による団結力で実力差を埋める。そして一定の熟練を得た人間が、実力ある隔者へと復讐に走る。
些か迂遠ではあるが、その流れは整いつつあった。
そう。あった、だ。それは過去のものとなった。
憤怒者を恨まず。理解しようとする覚者が現れるまでは。
覚者は悪魔ではなく人間で、互いに傷を持つ存在だと知る。この時代に翻弄される一人であり、力の差こそあれど共に語り合える存在なのだと歩み寄ってくる。
もちろん全ての覚者がそうかはわからない。だけど二度の対話はその可能性を見せてくれた。時間はかかるかもしれないが、分かり合える可能性を。
だけど――そうと割り切れない気持ちもある。
自分達が積み重ねてきた蓄積。武装、経験、戦士の訓練。それが覚者に通じないわけがない。抱え込んだ怒りもあり、覚者に歩み寄るのを拒む者もいる。
そうだ、エグゾルツィーズムは間違ってはいない。悪を為す隔者を滅するのは覚者ではない。俺達の怒りであるべきなのだ――
それは驕りなのかもしれない。ただ偶然力を得た奴よりも、数倍努力している自分達の方が強いという。
それは意地なのかもしれない。心のどこかで正しさを認め、しかし力在る者に受けた仕打ちがそれを打ち消す。
それはケジメなのかもしれない。多くの『人間』を殺した罪に対する清算。咎を受けなければという後ろめたさ。
それは――信仰なのかもしれない。正義なのかもしれない。怒りなのかもしれない。
ただ言えることは――
●FiVEとイレブン。覚者と憤怒者。
「ワタシたちは多くの人間を殺した犯罪者だ。それに変わりはない」
リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナは多くの武装を手に覚者に挑む。
彼女は言った。これがエグゾルツィーズムの最強戦力だ、と。
すなわち、ここを叩けばエグゾルツィーズムの戦力を大きく絶つことが出来る。事実上の武装放棄となる。統括する彼女を捕らえることで、上手くやれば組織崩壊まで持って行ける。イレブンの一翼をこの一戦で欠くことが出来るかもしれないのだ。
勿論、ここで負ければエグゾルツィーズムは武装の勢いが増すだろう。対話で得た流れは泡と消え、覚者と話をしようとする意見はなくなる。
「ワタシはアナタ達を信じた。だからこその一戦だ」
「負けたら好きにしていいぜ。それこそ法の裁きを受けてもいい」
「ふふ、大丈夫。殺しはしない。でも加減はできないわ。『私達が本気で』挑むから信者達も納得できる」
対話した『一線を越えた』憤怒者達が覚者に語りかける。
戦いは避けられそうにない。彼らは彼らの信念をもって、敢えて覚者に戦いを挑む。
覚者達は――
源素の力に目覚めたとはいえ、覚者が人間であることは証明するまでもない。だからこそエグゾルツィーズムは『覚者は悪魔』と定義し、覚者を攻撃するという精神的な垣根を下げていたのだ。
それを知った覚者はこう思う。『あいつらは狂っている。だから殺そう』『狂信者だ。理解できない』……対話のテーブルに座るものはなく、双方がそれぞれの思いで敵対する。
エグゾルツィーズムは信仰と個人の怒りで。
覚者は信仰への恐怖と自衛で。
個としての能力は覚者に劣るだろうが、数と信仰による団結力で実力差を埋める。そして一定の熟練を得た人間が、実力ある隔者へと復讐に走る。
些か迂遠ではあるが、その流れは整いつつあった。
そう。あった、だ。それは過去のものとなった。
憤怒者を恨まず。理解しようとする覚者が現れるまでは。
覚者は悪魔ではなく人間で、互いに傷を持つ存在だと知る。この時代に翻弄される一人であり、力の差こそあれど共に語り合える存在なのだと歩み寄ってくる。
もちろん全ての覚者がそうかはわからない。だけど二度の対話はその可能性を見せてくれた。時間はかかるかもしれないが、分かり合える可能性を。
だけど――そうと割り切れない気持ちもある。
自分達が積み重ねてきた蓄積。武装、経験、戦士の訓練。それが覚者に通じないわけがない。抱え込んだ怒りもあり、覚者に歩み寄るのを拒む者もいる。
そうだ、エグゾルツィーズムは間違ってはいない。悪を為す隔者を滅するのは覚者ではない。俺達の怒りであるべきなのだ――
それは驕りなのかもしれない。ただ偶然力を得た奴よりも、数倍努力している自分達の方が強いという。
それは意地なのかもしれない。心のどこかで正しさを認め、しかし力在る者に受けた仕打ちがそれを打ち消す。
それはケジメなのかもしれない。多くの『人間』を殺した罪に対する清算。咎を受けなければという後ろめたさ。
それは――信仰なのかもしれない。正義なのかもしれない。怒りなのかもしれない。
ただ言えることは――
●FiVEとイレブン。覚者と憤怒者。
「ワタシたちは多くの人間を殺した犯罪者だ。それに変わりはない」
リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナは多くの武装を手に覚者に挑む。
彼女は言った。これがエグゾルツィーズムの最強戦力だ、と。
すなわち、ここを叩けばエグゾルツィーズムの戦力を大きく絶つことが出来る。事実上の武装放棄となる。統括する彼女を捕らえることで、上手くやれば組織崩壊まで持って行ける。イレブンの一翼をこの一戦で欠くことが出来るかもしれないのだ。
勿論、ここで負ければエグゾルツィーズムは武装の勢いが増すだろう。対話で得た流れは泡と消え、覚者と話をしようとする意見はなくなる。
「ワタシはアナタ達を信じた。だからこその一戦だ」
「負けたら好きにしていいぜ。それこそ法の裁きを受けてもいい」
「ふふ、大丈夫。殺しはしない。でも加減はできないわ。『私達が本気で』挑むから信者達も納得できる」
対話した『一線を越えた』憤怒者達が覚者に語りかける。
戦いは避けられそうにない。彼らは彼らの信念をもって、敢えて覚者に戦いを挑む。
覚者達は――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.憤怒者達に勝利する(生死は問わない)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
エグゾルツィーズム最終。悪魔払いの牙を折ることが、最後の仕事です。
●敵条件
・『マリートヴァ』リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ(×1)
憤怒者。白い肌を持つシスターです。
対話の為にとFiVEの覚者を教会に呼び、対話が終わった後に戦いを仕掛けました。そこそこ重装備で挑みます。
ここで戦うことが彼女にとっても意味があるらしく、説得は意味を為しません。
攻撃方法
パリィ 自付 防御用ナイフを構えます。物防と回避が上昇。
スコップ 物近単 斬る、刺す、叩く、防ぐ。歩兵のお守り。【出血】
冷凍缶 特近単 マイナス四十℃まで冷やした酒を振りまきます。【凍傷】
自動小銃 物遠列貫2 アサルトライフルで一斉掃射します。シナリオ5回まで使用可能。
プーリァマリートヴァ 物遠単 『祈りの弾丸』。堕ちた聖女の理想の反転。祈り、そして撃つ。【三連】【溜め1】【射撃】【未開】
・『ネームレスシューター』佐伯・元春
五八才男性。憤怒者。白髪の初老です。
多くの覚者を銃殺してきた憤怒者です。後衛から効率よく相手を葬るように銃を撃ちます。
攻撃方法
大型拳銃 物遠単 衝撃の大きい拳銃を撃ちます。その分威力は高めです。【反動1】
二丁拳銃 物遠列 両手に銃を持ち、弾丸をばらまきます。命中精度は低めです。
不屈の精神 自付 心を強くもちます。自然回復上昇。
・『虚からの呼び声』芹沢・二葉
二四歳女性。。憤怒者。長髪の女性です。兄を覚者に殺され、その復讐を果たした憤怒者です。
ナイフを手に真っ直ぐに覚者を襲います。
攻撃方法
毒のナイフ 物近単 『覚者にのみ効く毒』を塗ったナイフを振るいます。【毒】【二連】
投げナイフ 物遠単 手にしたナイフを投げつけてきます。
虚ろの呼声 自付 『心の穴』から聞こえる声に従い、トランス状態になります。物攻上昇。物防上昇。自分に【怒り】【鈍化】
・神父(×6)
近接型です。革ひもを巻いて、拳を強化しています。
攻撃方法
セスタス 物近単 硬い革ひもを拳に巻いた物。そのまま殴ってきます。
カプセル 特近単 革ひもに漬けたるカプセルを割り、発火性の薬品を押し当てます。【火傷】
※憤怒者に対する備考
前作『Faith Justice Anger(Ⅲ)』にて対話を試みた相手を攻撃する際、命中に+20のボーナスがつきます(相手を理解している、という解釈です)。
覚者側が戦闘に勝利した場合、エグゾルツィーズムは戦意を失い事実上崩壊します。彼らの扱いをどうするかはPCに一任されます。何もなければ法の裁きに任せることになり、リーリヤ以下メンバーの四割強は囚われます(これに関して抵抗はしません)。残り罪を犯していない人達は復讐を諦めて日常に帰ることになります。
彼らに何かをさせたいのなら、プレイングで示してください。自殺的なこと以外なら応じてくれるでしょう。
●場所情報
エグゾルツィーズムが所有している教会の庭。憤怒者の数名が撮影用カメラを手に見ています。
広さ、足場、明るさなどは戦闘に影響なし。街から離れているため、無関係な人が来る可能性は皆無。
戦闘開始時、『神父(×4)』『リーリヤ』が前衛に。『神父(×2)』『芹沢』が中衛に。『佐伯』が後衛に居ます。
戦闘開始時、互いの距離は10メートルとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年07月14日
2017年07月14日
■メイン参加者 8人■

●
「戦わなくてはいけないのです、ね……」
悲し気に『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)が告げる。このまま話し合いで全てが解決すればという理想もあるが、こうすることでしか解決できないこともある。ならばと覚醒し、神具を握りしめた。
「でもこれが白黒つけるのにもっともわかりやすいなら……全力で勝たないとなの」
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)もまた、対話で気による解決を望んでいた。可能であるならば平和的に手を取り合う未来を。だがそれだけでは行かないことも知っている。ここで勝たなくては、意味がない。
「不殺を誓う、そして力の限りをぶつける。これが彼らにできる、唯一の証明方法だろう」
『雪舞華』を手に『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)が誓いを告げる。殺さない誓い。命を奪わず、また奪わせない。大事なのは勝つことであり、殺すことではない。示すことであり、奪う事ではない。それが覚者やと隔者の違いなのだ。
「そうだね、ユキ。彼らには生きてもらわないと」
行成の言葉に頷く『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)。罪を償わせるにせよ生きてもらわなければならない。だがそれは二の次だ。死は終わり。反省することも更生することもできない決着は、亮平自身望んでいない。
「ま、おっさんはやるだけやるさ。安心しな、今回は喰い殺さないでおくよ」
抜き身の刀を手に緒形 逝(CL2000156)は前に出る。エグゾルツィーズムの生死や未来には頓着しないが、彼らの在り方には興味がある。修道女リーリヤ。彼女を理解するために語りあいと行こうじゃないか。
「貴方達が悲観するほど、日本の状況はひどくはありません。少なくとも、救おうとする力はあります」
FiVEや今まで共闘してきた者達のことを思い出しながら『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は告げる。確かに安全とは言えない状況だが、それでもそれに抗おうとする力はある。それだけは解ってほしい。
「言葉だけじゃ……もう止まれないのは、わかったから」
心中の言葉を飲み込み、『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は神具を構えた。全力で来るのなら、全力で受け止める。エグゾルツィーズムにとってこれが一つの選択なら、それに本気で応じるのがこれまで付き合った努めだろう。
「おっけー、わかったわ。……ほんっと、不器用なんだから」
頭を掻きながら『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は抜刀する。リーリヤが自分たちを最大戦力と引き合わせたのは、この戦いをもってエグゾルツィーズムを終わらせるためだったのかもしれない。そう思い、ため息とともに言葉を付け加えた。
「――行くぞ」
言葉少なく、リーリヤは開戦の言葉を告げる。他の憤怒者もその言葉に従い動き、カメラを持った憤怒者が撮影を開始する。それを通じて、他のエグゾルツィーズムのメンバーもこの戦いを見ているのだろう。
覚者と憤怒者。源素持つ人間と源素なき人間。その戦いの火蓋が切って落とされた。
●
憤怒者の戦術は、基本的に『数で圧す』事である。
多人数で押さえ込み、自分の優位な陣形を形成する。初動を押さえ、その流れを維持する。個として弱い彼らが学んだスタイルだ。
前衛に立つ行成、逝、数多、冬佳の攻撃をリーリヤ含む五人の憤怒者が防ぎ、中衛の芹沢が前衛にダメージを重ね、後衛の佐伯が回復を行う鈴鹿を狙う。
覚者はその戦略を崩す動きを取る。憤怒者の数を減らし、数の優位性を取り除く為に。
「先ずは数を減らすの」
初手を取ったのは鈴鹿だ。水の源素を練り上げて竜の姿を形どらせる。圧倒的な質量の水をぶつけ、憤怒者の体力を一気に奪おうとする。殺すつもりはない。だが加減はできない。彼らの気持ちに応えるためにも。
「あとは任せたの。わたしは回復に移行するの」
「了解だ。一気に攻めるよ」
水飛沫の中から亮平がハンドガンとナイフをもって現れる。ナイフから斬撃が飛び、ハンドガンから弾丸が打ち出される。目で見るのは一瞬、同時に体は攻撃に移っていた。一呼吸で動作全てを終わらせ、攻撃に深く息を吸う。
「傷つけあうのはこれで最後だ。誰もそれを望んでいないんだろう?」
「殴られたり斬られたり撃たれたりしたら痛い。それは覚者もそうでない人も同じなのよ!」
源素の炎を体内で燃やし、数多が刀を振るう。痛みを伴わない戦いなどない。それは覚者でも憤怒者でも同じことだ。だからこそ、痛みや怒りが理解できる。それを伴わない解決策があるなら、誰だってそれを選ぶのに。
「だからね、絶対負けれない。このリーリヤさんが作ってくれた機会を逃さない」
「応えましょう。今の技全てを以て」
今まで以上に神経を研ぎ澄まし、冬佳が構える。思えばFiVEの闘いにおいて、お互いを見据えて戦うのは初めてかもしれない。戦を持って意志を交え、刃によって語らう事。それにより相手を理解すること。故に全力で挑む。
「貴方達の始まりの理想。それはけして終わってない夢。それを証明して見せます」
「私の持つ力の限りを尽くします」
強い決意をもって澄香は憤怒者と相対する。毒により苦しみ命を奪われた芹沢。それを前に毒を使わずに挑む。それは手加減ではない。『奪うことではなく、救うことが目的』である澄香にとって、目的にかなう全力だからだ。毒を使わず、相手を救う決意。
「皆さんがが何かを吹っ切る事ができるのでしたらそのお手伝いを」
「はっはっは。おっさんはまとめて撫で斬るぞう」
笑いながら逝が刀を振るう。妖刀の呪いを刃に乗せて、一気に薙ぎ払う。土の加護で身を固めた後に憤怒者の正面に立ち、思うがままに刀を振るう。その動きは熟練者から見れば稚拙なもの。なのに飛ぶ血飛沫は妖刀の禍々しさゆえか。
「アハハ。さあ、お話をしよう。人を喰った者同士。楽しい話になりそうだ」
「そうだな。これが最後の対話だ」
後衛で銃を撃つ佐伯を見ながら、梛が神具を振るう。これが最後。どういう結末になろうが、FiVEとエグゾルツィーズムの関係はこれで終わり、新たな形になるだろう。その未来を良き方向にするために。想いを込められた棍が、憤怒者を打つ。
「俺は全力で止める。だから全力できて」
「全身全霊で突き進む」
長柄の神具を振るう行成。迷いがないと言えば嘘になる。だが悩みを含めての自分であり、その自分の持ちうるすべてをもって突き進もう。この一歩は明日の為の歩み。強く踏み出した一歩からの鋭い突き。それが活路を開く。
「そっちが連携を取るように、こちらも連携を取る。背中を任せられる友がいる」
覚者は確かに個としては強い。だがそれに驕る者はいずれ道を踏み外し、独り善がりな隔者となるだろう。この場に仲間を想わぬ覚者はいなかった。背を任せ、連携を繋げ、憤怒者達の数を減らしていく。
そしてある程度の憤怒者を打ち倒した後、覚者達はかつて対話した憤怒者に迫る――
●
源素の毒で大事な兄を奪われた芹沢は、毒を塗ったナイフで覚者を襲う。その選択には並々ならない想いがあるだろう。覚者が憎いから? 覚者が苦しむのを見たいから? ……そうすることで、兄の無念が晴れるかもしれないから? 答えは彼女の心の中にのみある。
「毒ではありませんが、貴女からお兄さんを奪った木行の技です……」
そんな芹沢に澄香は木行の源素で攻撃を仕掛ける。それは自分が木行に長けていることもあるが、それ以外の意図もあった。
「この事でお兄さんの悲鳴は……聞こえます、か?」
芹沢のトラウマを抉ることになるのはわかる。だが、そうしないと芹沢は『兄の声』の正体に気づかないかもしれない。
「聞こえる……! あのうめき声が。あの怨嗟が!」
「はい。それは貴方の心の中の声です。……大事な兄の記憶、それを忘れたくないという芹沢さん自身の悲鳴なんです」
「うるさい……! 私が忘れたら、兄さんは本当に死んじゃう……!」
大事な兄だから。忘れたくないから。だから声を忘れまいと己の悲鳴と同化させた。
「……わかるの、その気持ち」
鈴鹿は芹沢の悲鳴に言葉を放つ。鈴鹿は育ての親である来ようと生き別れている。鈴鹿自身は生きていると思っているが、心のどこかで両親の死を受け入れている節があった。だからこそわかる。大事な人の喪失を受け入れられない心の在り方は。
「大丈夫、今私がその穴を埋めてあげるの。……これが終わったら、自分自身を許せる方法を一緒に模索しよう?」
一緒に。
無意識に出た言葉。同じ『穴』を持つ者同士、共に考えようと鈴鹿は言葉を紡いでいた。簡単な事ではないだろうけど、それでも方法はあると信じている。時間が、人の絆が、営みが、穴を塞ぐ何かになると信じていた。
「それでも、死んだ兄さんは戻らない……!」
「そうだね。貴方の兄の命を奪ったのは、源素の力だ」
ナイフを振るう芹沢に語りかける亮平。確かに殺したのは隔者の悪意でありそう言うことはできるが、嘘や誤魔化しに意味はない。覚者には人を殺す力がある。その事実は動かせない。
「だからと言って源素の力を持つもの全てを殺そうとするのは納得できない。お互い傷つくだけだ」
「許せと……苦しんで死んだ兄を、殺すのは良くないから殺すなというのですか……!」
交差する芹沢と亮平のナイフ。至近距離で火花が散り、言葉も交差する。
「いいや、それは違う。その怒りは正当なモノだ。理不尽に怒る事は間違ってない。
……それでも、覚者全てを恨んだら、戦いは終わらない」
亮平自身、芹沢と似た怒りを感じたことがある。大事な人を奪われ、怒るなというのは無理な話だ。それは人として壊れている。それでも――
「貴方達は話を聞いてくれた。だからその解決策も話し合えればいいと思っている」
きっといつかは解りあえる。二度の対話は、その可能性を覚者にも感じさせた。
そして――
「捕まりたくないなら逃げればいい。こんな勝負しなければいい。……だけど逃げないってことは、捕まりたいってことかな?」
銀色の棍を振るいながら梛は佐伯に話しかける。銃を使う後衛と思いきや、意外に素早い動きを取る。おそらく近接されるような戦いを何度も経験しているのだろう。動きに迷いはない。
「さあな。ここでFiVEを倒して、勢いをつけたいのかもしれないぞ」
「ああ、そうだね。そっちが勝てばそうなる。だけど――負けるつもりはない」
「こっちもだ。幸い、相性はこちらがいいみたいだしな」
バッドステータスを付与する戦術の梛に対し、佐伯は自然治癒力を高めて攻撃を絶やさない形式の射手だ。時に反動の大きな銃で高火力を叩き込み、時に広範囲に弾丸をばらまいたり。怯むことなく、多種多様な攻めを行う。
「そうだね。だけどわずかに隙は生める。その隙に仲間が動ける」
「そういう事だ。連携を行うのは、そちらの特権ではない」
梛の攻撃で怯んだ隙を逃さぬように行成が薙刀を振るう。薙ぎ払うは旋風。その威力は豪風。されどその動きは華風が舞う如く。
「殺さないと言ったな。そいつは俺へのあてつけか?」
佐伯は一度隔者を殺さず許し、その結果悲劇を生み出してしまった。
「違う。これは私の信念だ」
「殺さないまま戦い続ければ、いずれ俺のような目に合う。裏切られて絶望することになる」
「かもしれない。だが――その事実と、私が信念を貫くことは別の問題だ」
価値観として正しいというからその道を進むのではない。自分が正しいと信じたから、その信念を抱くのだ。
迷うこともあるだろう。挫けることもあるだろう。それは佐伯を見ればわかる。それでも、行成は殺さないと自分自身で誓ったのだ。その決断だけは正しいと信じて。
「その使い方は基礎がコンバットサンボかね? おっさんが知ってるのとは少し違うなあ」
「カドチニコフ・システマだ」
「なるほどねぇ。どこか柔軟な感じがしたんだ」
リーリヤのスコップ格闘術に覚えがあったのか、逝は刀を振るいながら語りかけていた。おしゃべりを止めるつもりがないのか、矢次に言葉を投げかける。
「そう言えば昨日いい刀が手に入ってねぇ。店に置くのも惜しいほどだ」
「骨董屋か。妖が跋扈する中、武器類は需要がありそうだが」
「物騒な考えだねぇ。でもまあ、確かに売れるかな。妖相手だと神具レベルでないと難しいけど」
言葉もどちらかというと世間話で、何かの情報を引き出すという目的はない。とりとめのない話。逝はそれを楽しんでいた。
「始まりの憤怒者とは、まさに悪を為す隔者を糾す事を選んだ人々だと聞いた事があります」
リーリヤに刃を向けながら、冬佳は憤怒者について語り始める。隔者の悪行に立ち向かった人間。それが団結し、組織となった。――それがイレブンという組織の興り。
「それが肥大化し、制御できなくなったのが今の憤怒者組織。行き過ぎた怒りが元の理想を塗りつぶし、そして暴走する」
リーリヤは何も答えない。沈黙をもって肯定していた。
「――その始まりの理想。祈りは『私達』の祈りと同じ」
『敵』などいない。覚者が『覚者も人間だ』と主張するように、力無き者もまた『人間』なのだ。手を取りあえないわけがない。――救いがないなんてことはない。
「決して終った夢などではないと、証明してみせます!」
「リーリヤさん、私も人を殺したことはあるわ。それは絶対に正しいことじゃない」
真っ直ぐにリーリヤの目を見て、数多が告げる。刀を持つ以上、いつかは通るだろう道。エグゾルツィーズムを人殺しと攻める権利はない。だが、間違っているということはできる。
「でもね私は間違えたことはしてない、ってはっきり言えるわ」
それはそこに信念があるからだ。自分が信じ、自分が選び、自分で行動し。例え万人に受け入れられずとも、数多自身が『正しい』と判断したから。
だから『正しく』はないかもしれないけど『間違ってない』と言える。
「あんたたちもそういいなさいよ。間違ってないって。
今はそのぶつかり合いでしょう?」
「無論だ」
リーリヤもまた『選んだ』人間だ。そこに後悔はない。今をよりよくしようとするために覚者を殺し、それを是とする集団を作る。
抱いた理想は平和に過ごせる明日。その為に祈り続けた修道女は――
「この『祈り』が……途切れぬことを……」
冬佳の一閃を受け、地面に倒れ伏す。
抱いた理想を託したかのように、憤りが晴れた顔つきだった。
●
「源素とはこういう使い方もあるのですよ」
戦いが終わった後、冬佳を始めとした覚者達は傷ついた憤怒者達に癒しの術を施す。すでに決着はついた。これ以上抵抗することもないだろうという判断である。
「やはり、勝てないか。加減をしたつもりはないのだが」
「いやぁ、大したもんよ。おっさん結構押されてただったし」
ため息を吐くリーリヤに逝が告げる。結果としてはFiVEの勝利だが、佐伯の射撃により鈴鹿が命数を削られ、芹沢のナイフで澄香が一度膝をついた。リーリヤに挑んだ逝と数多と冬佳も戦闘不能寸前まで追い込まれたのだ。
「あんた達はこれから罪を償う。これで止まれるかな?」
「……わからん。だが、すっきりはした」
放心している佐伯に語りかける梛。帰ってきた答えに頷き、覚醒状態を解除した。
「罪人は法の裁きを受ける。それはケジメだろう。だがそうでない人間は、拠り所を失うことになるな。それは……望ましい事ではない。
出来れば……この組織は、戦えるものを何名か残し存続させてほしいと思う」
行成はエグゾルツィーズムの今後を懸念してそんな提案をする。主力部隊が倒され、それが知れ渡れば組織としての信用は失墜する。そうなれば、エグゾルツィーズムに集まった人たちの心のよりどころが消えてしまう。
「わたしもこのままお別れするのは辛いの。だからFIVEと一緒に問題を解決する慈善組織として一緒にやっていきたいと提案するの!」
「そうですね。私としても貴方達の力を貸していただきたいと思います」
鈴鹿や冬佳も、エグゾルツィーズムの組織力をただ解体するのは惜しいと思っていた。罪滅ぼしというのなら、何かの役に立ってほしい。覚者に対する個人的な思いはあるだろうから簡単にはいかないだろうが、それでも手を取り合うことはできるかもしれないと思っていた。
「これが憤怒者と覚者の戦いよ。ここから何が生まれるのかわかんない」
数多は録画している憤怒者と、その画面を見ているであろう人達に向かって言葉を投げかけていた。
「それでも、両方本気で戦ったわ。だからソレを踏みにじるようなことは許さないから」
FiVEの覚者とエグゾルツィーズムの憤怒者の戦い。それを見た者がどう思うか。そしてそれが何を生み出すか。それは数多の言うように、まだわからない未来である。
「――待ってる、か」
犯罪者を送る護送車の中で、リーリヤは静かにほほ笑んだ。
刑期を終えたらまた五麟市で会おう。別れ際にそう言われたのだ。それがどれだけ先の未来になるかはわからないが、その時は日本も様変わりしているに違いない。それを見ることが出来ないのは残念だが、彼らが作る未来に期待しているの事実だ。
その未来への祝福の為に、修道女は静かに祈りを捧げた――
「戦わなくてはいけないのです、ね……」
悲し気に『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)が告げる。このまま話し合いで全てが解決すればという理想もあるが、こうすることでしか解決できないこともある。ならばと覚醒し、神具を握りしめた。
「でもこれが白黒つけるのにもっともわかりやすいなら……全力で勝たないとなの」
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)もまた、対話で気による解決を望んでいた。可能であるならば平和的に手を取り合う未来を。だがそれだけでは行かないことも知っている。ここで勝たなくては、意味がない。
「不殺を誓う、そして力の限りをぶつける。これが彼らにできる、唯一の証明方法だろう」
『雪舞華』を手に『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)が誓いを告げる。殺さない誓い。命を奪わず、また奪わせない。大事なのは勝つことであり、殺すことではない。示すことであり、奪う事ではない。それが覚者やと隔者の違いなのだ。
「そうだね、ユキ。彼らには生きてもらわないと」
行成の言葉に頷く『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)。罪を償わせるにせよ生きてもらわなければならない。だがそれは二の次だ。死は終わり。反省することも更生することもできない決着は、亮平自身望んでいない。
「ま、おっさんはやるだけやるさ。安心しな、今回は喰い殺さないでおくよ」
抜き身の刀を手に緒形 逝(CL2000156)は前に出る。エグゾルツィーズムの生死や未来には頓着しないが、彼らの在り方には興味がある。修道女リーリヤ。彼女を理解するために語りあいと行こうじゃないか。
「貴方達が悲観するほど、日本の状況はひどくはありません。少なくとも、救おうとする力はあります」
FiVEや今まで共闘してきた者達のことを思い出しながら『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は告げる。確かに安全とは言えない状況だが、それでもそれに抗おうとする力はある。それだけは解ってほしい。
「言葉だけじゃ……もう止まれないのは、わかったから」
心中の言葉を飲み込み、『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は神具を構えた。全力で来るのなら、全力で受け止める。エグゾルツィーズムにとってこれが一つの選択なら、それに本気で応じるのがこれまで付き合った努めだろう。
「おっけー、わかったわ。……ほんっと、不器用なんだから」
頭を掻きながら『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は抜刀する。リーリヤが自分たちを最大戦力と引き合わせたのは、この戦いをもってエグゾルツィーズムを終わらせるためだったのかもしれない。そう思い、ため息とともに言葉を付け加えた。
「――行くぞ」
言葉少なく、リーリヤは開戦の言葉を告げる。他の憤怒者もその言葉に従い動き、カメラを持った憤怒者が撮影を開始する。それを通じて、他のエグゾルツィーズムのメンバーもこの戦いを見ているのだろう。
覚者と憤怒者。源素持つ人間と源素なき人間。その戦いの火蓋が切って落とされた。
●
憤怒者の戦術は、基本的に『数で圧す』事である。
多人数で押さえ込み、自分の優位な陣形を形成する。初動を押さえ、その流れを維持する。個として弱い彼らが学んだスタイルだ。
前衛に立つ行成、逝、数多、冬佳の攻撃をリーリヤ含む五人の憤怒者が防ぎ、中衛の芹沢が前衛にダメージを重ね、後衛の佐伯が回復を行う鈴鹿を狙う。
覚者はその戦略を崩す動きを取る。憤怒者の数を減らし、数の優位性を取り除く為に。
「先ずは数を減らすの」
初手を取ったのは鈴鹿だ。水の源素を練り上げて竜の姿を形どらせる。圧倒的な質量の水をぶつけ、憤怒者の体力を一気に奪おうとする。殺すつもりはない。だが加減はできない。彼らの気持ちに応えるためにも。
「あとは任せたの。わたしは回復に移行するの」
「了解だ。一気に攻めるよ」
水飛沫の中から亮平がハンドガンとナイフをもって現れる。ナイフから斬撃が飛び、ハンドガンから弾丸が打ち出される。目で見るのは一瞬、同時に体は攻撃に移っていた。一呼吸で動作全てを終わらせ、攻撃に深く息を吸う。
「傷つけあうのはこれで最後だ。誰もそれを望んでいないんだろう?」
「殴られたり斬られたり撃たれたりしたら痛い。それは覚者もそうでない人も同じなのよ!」
源素の炎を体内で燃やし、数多が刀を振るう。痛みを伴わない戦いなどない。それは覚者でも憤怒者でも同じことだ。だからこそ、痛みや怒りが理解できる。それを伴わない解決策があるなら、誰だってそれを選ぶのに。
「だからね、絶対負けれない。このリーリヤさんが作ってくれた機会を逃さない」
「応えましょう。今の技全てを以て」
今まで以上に神経を研ぎ澄まし、冬佳が構える。思えばFiVEの闘いにおいて、お互いを見据えて戦うのは初めてかもしれない。戦を持って意志を交え、刃によって語らう事。それにより相手を理解すること。故に全力で挑む。
「貴方達の始まりの理想。それはけして終わってない夢。それを証明して見せます」
「私の持つ力の限りを尽くします」
強い決意をもって澄香は憤怒者と相対する。毒により苦しみ命を奪われた芹沢。それを前に毒を使わずに挑む。それは手加減ではない。『奪うことではなく、救うことが目的』である澄香にとって、目的にかなう全力だからだ。毒を使わず、相手を救う決意。
「皆さんがが何かを吹っ切る事ができるのでしたらそのお手伝いを」
「はっはっは。おっさんはまとめて撫で斬るぞう」
笑いながら逝が刀を振るう。妖刀の呪いを刃に乗せて、一気に薙ぎ払う。土の加護で身を固めた後に憤怒者の正面に立ち、思うがままに刀を振るう。その動きは熟練者から見れば稚拙なもの。なのに飛ぶ血飛沫は妖刀の禍々しさゆえか。
「アハハ。さあ、お話をしよう。人を喰った者同士。楽しい話になりそうだ」
「そうだな。これが最後の対話だ」
後衛で銃を撃つ佐伯を見ながら、梛が神具を振るう。これが最後。どういう結末になろうが、FiVEとエグゾルツィーズムの関係はこれで終わり、新たな形になるだろう。その未来を良き方向にするために。想いを込められた棍が、憤怒者を打つ。
「俺は全力で止める。だから全力できて」
「全身全霊で突き進む」
長柄の神具を振るう行成。迷いがないと言えば嘘になる。だが悩みを含めての自分であり、その自分の持ちうるすべてをもって突き進もう。この一歩は明日の為の歩み。強く踏み出した一歩からの鋭い突き。それが活路を開く。
「そっちが連携を取るように、こちらも連携を取る。背中を任せられる友がいる」
覚者は確かに個としては強い。だがそれに驕る者はいずれ道を踏み外し、独り善がりな隔者となるだろう。この場に仲間を想わぬ覚者はいなかった。背を任せ、連携を繋げ、憤怒者達の数を減らしていく。
そしてある程度の憤怒者を打ち倒した後、覚者達はかつて対話した憤怒者に迫る――
●
源素の毒で大事な兄を奪われた芹沢は、毒を塗ったナイフで覚者を襲う。その選択には並々ならない想いがあるだろう。覚者が憎いから? 覚者が苦しむのを見たいから? ……そうすることで、兄の無念が晴れるかもしれないから? 答えは彼女の心の中にのみある。
「毒ではありませんが、貴女からお兄さんを奪った木行の技です……」
そんな芹沢に澄香は木行の源素で攻撃を仕掛ける。それは自分が木行に長けていることもあるが、それ以外の意図もあった。
「この事でお兄さんの悲鳴は……聞こえます、か?」
芹沢のトラウマを抉ることになるのはわかる。だが、そうしないと芹沢は『兄の声』の正体に気づかないかもしれない。
「聞こえる……! あのうめき声が。あの怨嗟が!」
「はい。それは貴方の心の中の声です。……大事な兄の記憶、それを忘れたくないという芹沢さん自身の悲鳴なんです」
「うるさい……! 私が忘れたら、兄さんは本当に死んじゃう……!」
大事な兄だから。忘れたくないから。だから声を忘れまいと己の悲鳴と同化させた。
「……わかるの、その気持ち」
鈴鹿は芹沢の悲鳴に言葉を放つ。鈴鹿は育ての親である来ようと生き別れている。鈴鹿自身は生きていると思っているが、心のどこかで両親の死を受け入れている節があった。だからこそわかる。大事な人の喪失を受け入れられない心の在り方は。
「大丈夫、今私がその穴を埋めてあげるの。……これが終わったら、自分自身を許せる方法を一緒に模索しよう?」
一緒に。
無意識に出た言葉。同じ『穴』を持つ者同士、共に考えようと鈴鹿は言葉を紡いでいた。簡単な事ではないだろうけど、それでも方法はあると信じている。時間が、人の絆が、営みが、穴を塞ぐ何かになると信じていた。
「それでも、死んだ兄さんは戻らない……!」
「そうだね。貴方の兄の命を奪ったのは、源素の力だ」
ナイフを振るう芹沢に語りかける亮平。確かに殺したのは隔者の悪意でありそう言うことはできるが、嘘や誤魔化しに意味はない。覚者には人を殺す力がある。その事実は動かせない。
「だからと言って源素の力を持つもの全てを殺そうとするのは納得できない。お互い傷つくだけだ」
「許せと……苦しんで死んだ兄を、殺すのは良くないから殺すなというのですか……!」
交差する芹沢と亮平のナイフ。至近距離で火花が散り、言葉も交差する。
「いいや、それは違う。その怒りは正当なモノだ。理不尽に怒る事は間違ってない。
……それでも、覚者全てを恨んだら、戦いは終わらない」
亮平自身、芹沢と似た怒りを感じたことがある。大事な人を奪われ、怒るなというのは無理な話だ。それは人として壊れている。それでも――
「貴方達は話を聞いてくれた。だからその解決策も話し合えればいいと思っている」
きっといつかは解りあえる。二度の対話は、その可能性を覚者にも感じさせた。
そして――
「捕まりたくないなら逃げればいい。こんな勝負しなければいい。……だけど逃げないってことは、捕まりたいってことかな?」
銀色の棍を振るいながら梛は佐伯に話しかける。銃を使う後衛と思いきや、意外に素早い動きを取る。おそらく近接されるような戦いを何度も経験しているのだろう。動きに迷いはない。
「さあな。ここでFiVEを倒して、勢いをつけたいのかもしれないぞ」
「ああ、そうだね。そっちが勝てばそうなる。だけど――負けるつもりはない」
「こっちもだ。幸い、相性はこちらがいいみたいだしな」
バッドステータスを付与する戦術の梛に対し、佐伯は自然治癒力を高めて攻撃を絶やさない形式の射手だ。時に反動の大きな銃で高火力を叩き込み、時に広範囲に弾丸をばらまいたり。怯むことなく、多種多様な攻めを行う。
「そうだね。だけどわずかに隙は生める。その隙に仲間が動ける」
「そういう事だ。連携を行うのは、そちらの特権ではない」
梛の攻撃で怯んだ隙を逃さぬように行成が薙刀を振るう。薙ぎ払うは旋風。その威力は豪風。されどその動きは華風が舞う如く。
「殺さないと言ったな。そいつは俺へのあてつけか?」
佐伯は一度隔者を殺さず許し、その結果悲劇を生み出してしまった。
「違う。これは私の信念だ」
「殺さないまま戦い続ければ、いずれ俺のような目に合う。裏切られて絶望することになる」
「かもしれない。だが――その事実と、私が信念を貫くことは別の問題だ」
価値観として正しいというからその道を進むのではない。自分が正しいと信じたから、その信念を抱くのだ。
迷うこともあるだろう。挫けることもあるだろう。それは佐伯を見ればわかる。それでも、行成は殺さないと自分自身で誓ったのだ。その決断だけは正しいと信じて。
「その使い方は基礎がコンバットサンボかね? おっさんが知ってるのとは少し違うなあ」
「カドチニコフ・システマだ」
「なるほどねぇ。どこか柔軟な感じがしたんだ」
リーリヤのスコップ格闘術に覚えがあったのか、逝は刀を振るいながら語りかけていた。おしゃべりを止めるつもりがないのか、矢次に言葉を投げかける。
「そう言えば昨日いい刀が手に入ってねぇ。店に置くのも惜しいほどだ」
「骨董屋か。妖が跋扈する中、武器類は需要がありそうだが」
「物騒な考えだねぇ。でもまあ、確かに売れるかな。妖相手だと神具レベルでないと難しいけど」
言葉もどちらかというと世間話で、何かの情報を引き出すという目的はない。とりとめのない話。逝はそれを楽しんでいた。
「始まりの憤怒者とは、まさに悪を為す隔者を糾す事を選んだ人々だと聞いた事があります」
リーリヤに刃を向けながら、冬佳は憤怒者について語り始める。隔者の悪行に立ち向かった人間。それが団結し、組織となった。――それがイレブンという組織の興り。
「それが肥大化し、制御できなくなったのが今の憤怒者組織。行き過ぎた怒りが元の理想を塗りつぶし、そして暴走する」
リーリヤは何も答えない。沈黙をもって肯定していた。
「――その始まりの理想。祈りは『私達』の祈りと同じ」
『敵』などいない。覚者が『覚者も人間だ』と主張するように、力無き者もまた『人間』なのだ。手を取りあえないわけがない。――救いがないなんてことはない。
「決して終った夢などではないと、証明してみせます!」
「リーリヤさん、私も人を殺したことはあるわ。それは絶対に正しいことじゃない」
真っ直ぐにリーリヤの目を見て、数多が告げる。刀を持つ以上、いつかは通るだろう道。エグゾルツィーズムを人殺しと攻める権利はない。だが、間違っているということはできる。
「でもね私は間違えたことはしてない、ってはっきり言えるわ」
それはそこに信念があるからだ。自分が信じ、自分が選び、自分で行動し。例え万人に受け入れられずとも、数多自身が『正しい』と判断したから。
だから『正しく』はないかもしれないけど『間違ってない』と言える。
「あんたたちもそういいなさいよ。間違ってないって。
今はそのぶつかり合いでしょう?」
「無論だ」
リーリヤもまた『選んだ』人間だ。そこに後悔はない。今をよりよくしようとするために覚者を殺し、それを是とする集団を作る。
抱いた理想は平和に過ごせる明日。その為に祈り続けた修道女は――
「この『祈り』が……途切れぬことを……」
冬佳の一閃を受け、地面に倒れ伏す。
抱いた理想を託したかのように、憤りが晴れた顔つきだった。
●
「源素とはこういう使い方もあるのですよ」
戦いが終わった後、冬佳を始めとした覚者達は傷ついた憤怒者達に癒しの術を施す。すでに決着はついた。これ以上抵抗することもないだろうという判断である。
「やはり、勝てないか。加減をしたつもりはないのだが」
「いやぁ、大したもんよ。おっさん結構押されてただったし」
ため息を吐くリーリヤに逝が告げる。結果としてはFiVEの勝利だが、佐伯の射撃により鈴鹿が命数を削られ、芹沢のナイフで澄香が一度膝をついた。リーリヤに挑んだ逝と数多と冬佳も戦闘不能寸前まで追い込まれたのだ。
「あんた達はこれから罪を償う。これで止まれるかな?」
「……わからん。だが、すっきりはした」
放心している佐伯に語りかける梛。帰ってきた答えに頷き、覚醒状態を解除した。
「罪人は法の裁きを受ける。それはケジメだろう。だがそうでない人間は、拠り所を失うことになるな。それは……望ましい事ではない。
出来れば……この組織は、戦えるものを何名か残し存続させてほしいと思う」
行成はエグゾルツィーズムの今後を懸念してそんな提案をする。主力部隊が倒され、それが知れ渡れば組織としての信用は失墜する。そうなれば、エグゾルツィーズムに集まった人たちの心のよりどころが消えてしまう。
「わたしもこのままお別れするのは辛いの。だからFIVEと一緒に問題を解決する慈善組織として一緒にやっていきたいと提案するの!」
「そうですね。私としても貴方達の力を貸していただきたいと思います」
鈴鹿や冬佳も、エグゾルツィーズムの組織力をただ解体するのは惜しいと思っていた。罪滅ぼしというのなら、何かの役に立ってほしい。覚者に対する個人的な思いはあるだろうから簡単にはいかないだろうが、それでも手を取り合うことはできるかもしれないと思っていた。
「これが憤怒者と覚者の戦いよ。ここから何が生まれるのかわかんない」
数多は録画している憤怒者と、その画面を見ているであろう人達に向かって言葉を投げかけていた。
「それでも、両方本気で戦ったわ。だからソレを踏みにじるようなことは許さないから」
FiVEの覚者とエグゾルツィーズムの憤怒者の戦い。それを見た者がどう思うか。そしてそれが何を生み出すか。それは数多の言うように、まだわからない未来である。
「――待ってる、か」
犯罪者を送る護送車の中で、リーリヤは静かにほほ笑んだ。
刑期を終えたらまた五麟市で会おう。別れ際にそう言われたのだ。それがどれだけ先の未来になるかはわからないが、その時は日本も様変わりしているに違いない。それを見ることが出来ないのは残念だが、彼らが作る未来に期待しているの事実だ。
その未来への祝福の為に、修道女は静かに祈りを捧げた――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
四度にわたるエグゾルツィーズムのお話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
想定した中で、最も被害の少ない形での終結になりました。
そして憤怒者という相手に対する一つの答えになったのかもしれません。
リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナというキャラクターは、憤怒者の設定を見た瞬間に出来たキャラクターです。
人(非覚者)が人(覚者)を殺すという状況において、どうすれば殺人という心の垣根を乗り越えられるか。その罪を意識しながら、どう憤怒者として行動できるか。けして独り善がりではなく、人を束ねるキャラクターとしてどうすべきか。
まあ、その結果が『宗教による思想統一と洗脳』なのはもう性格としか。
エグゾルツィーズムは崩壊し、残った人たちは慈善事業に従事する団体になりました。どくどくのシナリオ内で、時々出てくるかもしれません。
ともあれお疲れさまでした。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
ラーニング成功!
取得キャラクター:水瀬 冬佳(CL2000762)
取得スキル:プーリァマリートヴァ
四度にわたるエグゾルツィーズムのお話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
想定した中で、最も被害の少ない形での終結になりました。
そして憤怒者という相手に対する一つの答えになったのかもしれません。
リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナというキャラクターは、憤怒者の設定を見た瞬間に出来たキャラクターです。
人(非覚者)が人(覚者)を殺すという状況において、どうすれば殺人という心の垣根を乗り越えられるか。その罪を意識しながら、どう憤怒者として行動できるか。けして独り善がりではなく、人を束ねるキャラクターとしてどうすべきか。
まあ、その結果が『宗教による思想統一と洗脳』なのはもう性格としか。
エグゾルツィーズムは崩壊し、残った人たちは慈善事業に従事する団体になりました。どくどくのシナリオ内で、時々出てくるかもしれません。
ともあれお疲れさまでした。先ずは傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
ラーニング成功!
取得キャラクター:水瀬 冬佳(CL2000762)
取得スキル:プーリァマリートヴァ
