妖刀が屍山血河を歩いてる
妖刀が屍山血河を歩いてる


●その刀の銘は――
 村正。
 現在の三重県に居を構えていた刀工の名で、同時にその刀工が作り出した刀の総称である。
『刀を川に突き刺した状態で、流れてくる葉を切り裂いた』『研いでいると裂手(刀身を握るための布)が斬れてしまう』『斬られた時、他の日本刀と違う感覚が走る』等と逸話も多い。
 その逸話の中でも最大級の物は『権力者殺し』であろう。徳川家康の祖父や父、妻や息子に至るまで村正銘の刀に傷を受け、家康自身も関ヶ原の戦いや大坂の陣の二度にわたって傷を受けている。これを受けてか、江戸後期の討幕派はこぞって村正を所持していたという。
 だがその切れ味故か美術品としての価値は低く、国宝と呼ばれる刀には村正銘の物はない。人の血が流れぬ時代において、村正は無用の刀となっていたのだ。
 そう、四半世紀前の妖登場までは――

●刀の付喪神
 刀を振るう。妖が倒れる。
 刀を振るう。隔者が倒れる。
 刀を振るう。憤怒者が倒れる。
 刀を振るう。覚者が倒れる。
 刀を振るう。古妖が倒れる。
 刀を振るう。無辜の少女が倒れる。
 その存在に味方はいない。あるのはただ、斬る対象のみ。
 分類するならそれは付喪神。刀が古妖となった存在。
 二十五年間、武具として愛用されてきた刀に意志が宿った存在。血を求め、武を求め、戦場を求めて道を進む。
 数百の肉を裂いても切れ味は衰えず。
 幾千の骨を斬っても刃毀れせず。
 万斛の命を奪っても満足せず。
 それはもはや斬る為だけの存在。荒れ狂う刃の災害――

●FiVE
「ま、そんな戦闘狂だ」
 久方 相馬(nCL2000004)は肩をすくめて覚者達に夢の内容を告げる。
「長く使われた刀が意志を持ち、妖力だか霊力だかで『人間の体』を作り出して自分を振るっている。おそらくは刀の持ち主なんだろうな」
 相馬が念写した映像には、血まみれになって戦闘に酔った笑みを浮かべる一人の男の姿があった。大小二本の刀を持ち、鋭い目でこちらを睨んでいる。その目は次の獲物を欲しているように見えた。
「放置すれば多くの血が流れるという事で、討伐することになった。
 皆が使う体術と、すこし変わった刀技を使うようだ。戦うときは注意してくれよ」



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.『村正』の討伐。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 CHAN-BARA Show Time!

●敵情報
『村正』
 カテゴリは古妖。付喪神です。名称は本体の銘から。
 意志を持った日本刀が自分を振るう『体』を生み出した状態です。なので体を斬れば、普通に本体も傷つきます。
 攻撃用の刀と防御用の小太刀を使って攻撃してきます。元の持ち主の体術を模しているのか、戦闘スタイルは体術中心です。
 性格は残忍……というよりは『生命は斬るモノ』というのが骨子になっています。会話自体は可能ですが、説得は不可能です。

・攻撃方法
鎧通し  物近貫2 同名の体術スキル参照。(50%、100%)
疾風双斬 物近列   同名の体術スキル参照。【出血】
烈空波  物遠列  同名の体術スキル参照。《射撃》
死の冷手 特遠全  刃に斬られた者達が死に誘う。【凍傷】【ダメージ0】
妖刀ノ楔 物近列  この刀は相手を呪い、そして殺す。【呪い】【未解】

●【未解】について
 このマークがついたスキルは、ラーニングの可能性があるスキルです。

●場所情報
 廃村。かつては人が住み、そして妖に蹂躙された捨てられた場所。村を歩けばすぐに『村正』を見つけることが出来ます。
 時刻は昼。人が来る可能性は皆無。広さや足場などは戦場に影響を及ぼしません。
 事前付与は不可。行えば気配を悟られ、不意打ちを受けるとのこと。
 戦闘開始時の互いの距離は十メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年01月24日

■メイン参加者 8人■



 村を歩くこと数分。覚者達は一人の男を見つける。
 初老ともいえる年齢の男の手には、大小二本の刀が握られている。鋭い瞳が覚者達を射抜き、武器を構えよと言葉なく告げていた。夢見の話がなければ、そういう人物だと勘違いしていただろう。
 村正の付喪神。自身を使っていた武芸者の身体を作り出し、人を斬る存在。 
「村正……逸話も多数あるかの名刀か」
 愛刀の『絶海』を抜きながら水蓮寺 静護(CL2000471)は前に出る。頬に精霊顕現の紋様が浮かび、腰を落として静かに構えた。刀の伝承は知っている。それが本物かどうか。それを愛刀と自分自身で確かめよう。
「俺みたいなガキでも知ってるくらいの有名どころが出て来たな」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は言って武者震いする。祖父と父の名を持つ刀を手に、巖心流の構えを取る。相手が殺す刀なら、こちらは守る刀。同じ刀だが相反する存在。どちらが在り方として正しいのか。それを示そう。
「すごい刀なんだよな! 妖刀とか言われてるヤツ! こりゃ強そうだ!」
 背筋に走る震えを楽しむように『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が拳を握る。刀のことは詳しくないが、それでも村正の伝説は聞いている。だが重要なのはもっと単純な事。強い相手が目の前にいる。それだけで充分だ。
「悪食や、村正だってさアレ。アハハ!」
 フルフェイスの奥で緒形 逝(CL2000156)が笑う。その表情は見えないが、声はとてもうれしそうに聞こえた。『直刀・悪食』を突き出し、村正に近づける。二十五年間戦い続けた刀。それがどのような物か、食らい尽くしてやろう。
(……語るは不要)
 八重霞 頼蔵(CL2000693)は言葉なく神具を構える。仕事である以上、課せられたオーダーは全うする。だが二本の刀を見て、己の深淵を見ている気分になっていた。刃としてあるその存在に、機能美を感じていた。
「お願い安らかに眠って……その刀がこれ以上血で汚れないように」
 戦いの中で生まれた付喪神を思いながら『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は神具を構える。戦いしか知らない存在。それをアニスは理解できない。理屈としては分かっても、命を奪うことを是とする存在は理解できなかった。
「大人しくどっかの社でご神体っぽくとどまってくれねーかな」
『慧眼の癒し手』香月 凜音(CL2000495)はため息交じりにそう告げる。その経歴を鑑みて御神刀として、大人しく祀られる類の刀ではないのは分かる。だが、わざわざ暴れなくてもという思いは捨てきれない。
「命を斬る事しかしてこなかった刀が『生命は斬るモノ』と思ってしまっても、それは仕方のない事なのでしょう」
 煌めく刃を見ながら『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)は頷く。命が宿るほどに使われた刀。武器が使われるという事は、命を奪う事だ。ならばこの戦いは必至。これ以上の被害を防ぐため、神具を握りしめた。
 戦意を高めた覚者達に、古妖は刀を向けた。心臓を護るように小の刀が、相手の心臓を穿つように大の刀が。攻防一体の独特の構え。それがこの刀の持ち主の構えだったのだろう。
 一陣の風が吹く。血と鉄の匂いを含んだ風が。
 その風が吹き終わると同時、両者は駆けていた。


「何はともあれ、刀を鞘に収めていただきましょうか。力尽くで」
 真っ先に動いたのは灯だった。『闇刈』と『影鎖』を手に間合を測る。刀の間合よりは慣れること二足。それだけ離れてもなお殺気が及んでくる。気を逸らさず、しかし気を張り詰めず。構えを解くことなく、隙を伺う。
 わずかに揺れた相手の切っ先。それを逃さず灯は鎖を放つ。鎖は灯の思惑通りに刀に絡まった。力で引っ張れば力で対抗される。そうなれば勝ち目はない。最低限の力と技術を用いて古妖の動きに制限をかける。少しでも長くその動きを封じるために。
「二刀流と鎖鎌だなんて、まるで宮本武蔵と宍戸梅軒みたいですね」
「その人は武人と言うよりは盗賊なんだがな」
 宮本武蔵の『二天記』を思い出しながら静護が刀を構える。かの書物のなかでも有名なエピソードだ。だが今は二刀流の方が殺人鬼で、鎖鎌の方がそれを止める側というのは皮肉なものか。そんなことを思いながら、相手との間合いと詰めていく。
 静護は水の源素を活性化させ、弾丸として撃ち放つ。相手がそれを避けるよりも早く踏み込み、『絶海』を振り下ろす。交差する互いの刀。刀を押しながら、静護は体内の血がふつふつと滾ってくるのを感じていた。
「贋作だろうが本物だろうが関係ない。この太刀筋は、本物だ」
「二十五年戦い続けた刀か」
 逝は『直刀・悪食』を手に古妖を見ていた。二十五年間戦闘に耐えうる刀。成程、年数ではかなわない。だが潜ってきた修羅場の数と質では負けるつもりはない。あれが妖刀なら、こちらはそれを喰らう悪食だ。さあ、喰らうぞい。
 土の加護で身を固め、真っ直ぐに古妖と打ち合う逝。村正の斬撃を受け止め、時には体で受ける。ピリッと電撃が走ったかのような痛み。成程、これが噂の村正独特の痛みか。打ち合うたびに村正を理解し、そして喰らっていく。
「此方は半分にも満たないが二度魂を喰わせ、意思も有る。負けるつもりはないぞう」
(血の匂い、斬撃、痛み。……確かに高揚している)
 古妖と斬り合いながら頼蔵は自身が高揚していることに気づいていた。敵を倒す。ただそれだけの依頼にここまで気分は昂らない。違う何かが頼蔵を刺激していた。サーベルで村正の攻撃を受け止める。その衝撃さえ、心地良い。
 大上段から振り下ろす頼蔵のサーベル。それが古妖の体を傷つける。お返しとばかりに小刀の突きが迫り、それをサーベルの柄で受け止めた。間近に迫った刃という死のカタチ。それが迫るたびに、頼蔵の意識が冴えていく。死線の中で、強く。
(久しくなかった高揚感。貴重な機会だ。どこまで昂るのだ、私は)
「『矛を止める』と書いて『武』と為す! 武術の本懐、ここにあり、ってもんだ!」
 拳を強く握り、遥がつま先を古妖に向ける。肘をわずかに曲げ、もう片方の拳は丹田を護るように。膝を曲げて重心を下ろし、足の裏全体で大地を踏みしめる。十年近く繰り返してきた空手の構え。それは心身正しく、武術家の構えだった。
 刀が斬るように、空手は穿つ。それを示すように遥は全身の筋肉を引き絞る。効率よく、最短動作で拳を叩きつける。捻じるように筋肉を引き絞り、力を拳に集中させた。踏み込むと同時に突き出された拳が、古妖の胸部に穿たれる。
「さあ、楽しもうぜ!」
「おう。前で戦うのは任せた」
 軽く言い放ち、後方に下がる凜音。そこが自分の立ち位置だとばかりに神具を構え、戦場を見やる。相手に集中するのではなく、戦場全てを冷静に見る。自分がやらなければならない事はそれだ。
 目まぐるしく動く戦場。敵味方の傷の具合を正確に見て、頭の中で整理する。水の源素を活性化させ、仲間たちに向かって解き放つ。清らかな水は覚者達の傷を洗い流し、その痛みを消し去っていく。村正の切り傷は、気が付けば塞がっていた。
「『生命は斬るモノ』……間違っちゃいねーよなぁ。刀なんだから」
「それは確かだ。けど――」
 付喪神の在り方に反論するように飛馬が口を開く。飛馬の刀は『護る』刀だ。斬るために作られた刀を使い、金城鉄壁の構えを為す。それが巖心流。村正の在り方と自分の在り方。同じ刀を使うのに、相反する存在。
 飛馬に向かい放たれる村正の突き。それぞれの手に構えた刀をその突きに絡めるように振るう。真正面から止めるのではなく、絡めとって突きの方向をいなすように。常人なら必殺であろう突きは、飛馬の頬に傷を作る程度にとどまった。
「あんたが斬るための剣なら、俺は守るための剣だ。ここから先は行かせねぇ」
「……っ今、癒します!」
 鉄に似た血の匂い。身を切るような殺気。アニスは何度戦場に立ってもその感覚には慣れず、恐怖を感じていた。だが恐怖を感じるという事は戦禍にあって戦闘に酔わず、心を正気に保っているからだ。それでも戦場に赴くことを止めないのは、命を救いたいからか。
 斬り合いの空気に飲まれないように深呼吸し、気持ちを静める。斬ることが戦いではない。癒すことが戦いなのだ。癒しの技術は仲間を救うために。解き放たれた源素は癒しの雨となり、深々と覚者達に降り注ぐ。
「貴方が命は切るモノというのであれば、私がその命を繋いで見せます! 何度でも……!」
 戦う者達の意志を感じ取り、古妖が言葉なく笑みを浮かべる。斬る者、穿つ者、守る者、癒す者、その全ての意志を識ったとばかりに。
 そしてその全てを切り伏せるとばかりに刃は速く鋭くなっていく。怨霊の冷気が振るわれ、呪いの刃が覚者達を襲う。
 だがそれに屈する覚者達ではない。
 覚者と村正との戦いは、剣戟と共に強く激しくなっていく。


 覚者は波状攻撃を仕掛け、古妖に挑む。
 アニスと凜音の回復を基点とし、交互に立ち位置を変えながら覚者達はそれぞれの武器を振るう。刀、鎖鎌、拳、サーベル。交差の度に激しい刃金の音が響き、血飛沫が舞う。それは覚者の血でもあり、古妖の血でもあった。
「おいで、村正。八尺を喰った時に使った魂と同じように、その呪いも喰って悪食の刃に変えてあげようじゃないの!」
 村正の呪いを受けながら逝が叫ぶ。楔。それは二つの意味を持っていた。隙間に穿ち、二つに割ること。物が離れないように接合を強化すること。相反する用で同一の一閃。身を裂かれそうなのに、縫いつけられたように動けない。その痛みを喰らっていた。
「呪いに凍傷……妖刀ってだけあって嫌な攻撃してくんじゃねーか」
 傷ついた仲間を庇いながら飛馬が歯を食いしばる。相応の対策を施しているが、それでも完全に防ぎきれるわけではない。人斬りとしての技量は相手が強い。だからどうしたと飛馬は刀の柄を握りしめる。相手がどれだけ強くとも、守りを放棄する理由にはならない。
(魅せてくれ。御前の生き様を)
 一心不乱にサーベルを振るいながら頼蔵が唇を歪ませる。一刀毎に相手の性格が読み取れる。太刀筋が、踏み込みが、力強さが。それを感じながら、頼蔵自身も己の生き様を見せるように立ち振る舞う。この喜びは前世の物か、それとも己のものか。
「なあムラマサ。お前、今『楽しい』か? 斬ることを、斬れることを『楽しんでる』か?」
 遥は拳を振るいながら古妖に問いかける。古妖は言葉なく首を縦に振った。それならよし、と遥も頷く。相手は刀という『物』だが、そこには確かに心がある『者』だ。ならばともに楽しもう。人斬りは斬ることを、自分は戦うことを。
「――四の刃」
 神具を鞘に納めて静護が気を静める。心穏やかに歩を進め、ゆっくりと間合いを詰める。そこに迫る村正の刃。その首を両断しようとする一閃は空を切った。気が付けば静護は刃をかいくぐり、古妖の懐で抜刀し――
「閃!」
(貴方を私は理解できるのでしょうか……?)
 アニスは喜々として人を斬る古妖を見ながら、悩みに耽る。刀の付喪神の存在意義は命を奪うしかないのだろうか? それ以外にも道はあるのではないだろうか? 傷ついた仲間を癒しながら、アニスは悩み苦しんでいた。
「元の持ち主も相当な技量だったようですね」
 灯は鎖を振るって古妖の動きを制限しながら、鎌で切りかかる。肩を斬りつけようと迫る小刀を鎌で受け止め、そのまま古妖の瞳を見た。人の形をしながら、人ではない冷たさがそこにある。元がそういう人格だったのか、それとも付喪神ゆえか。
「俺達の誰かに身を委ねれば、上手く使ってくれると思うけどな」
 ため息をつく凜音。人を斬るために暴れられるよりは、こちらで管理できた方がいい。だが付喪神の『心』がそれを善しとしないだろう。凜音とてそれを強要するつもりはなかった。故に仲間を癒し、戦闘を継続させる。
 飛馬の二刀が村正を受け止める。その一撃から元の持ち主の技量を読み取っていた。刀が交差する音と同時に頼蔵が古妖の横に回り、サーベルを振るう。古妖の脇腹に走る紅い傷。そこから流れる血が地面に落ちるより早く、静護の『絶海』が翻った。刃から放たれる白い妖気が刀の軌跡をなぞるように走った。
 受けた傷の痛みに顔をゆがめながら、古妖は歩を進める。小刀を振るえば冷たい風が吹きすさぶ。村正に殺された者達が怨霊となり、覚者達を襲う。アニスと凜音は水の加護をもってその傷を癒していく。戦いを好まない優しい心で術を放つアニス。癒すことが我が道と構える凜音。それぞれの信念が術となり、覚者を癒す。
 飛馬と入れ替わるように遥が踏み込む。鍛え抜かれた拳が古妖に叩きつけられた。お返しとばかりに振るわれた村正に胸を裂かれ、しかし戦意は衰えない。それを善しとするように妖刀がきらめいた。覚者達に呪いの楔が穿たれる。
 刻まれた呪いの強さに笑みを浮かべる逝。この感情は自分の物か、それとも魂を食わせた『直刀・悪食』の影響か。強い意志で呪いを弾き、古妖に神具を突き立てる。胸を貫いた一撃。だが古妖はまだ止まらず、逝の首に刃を突き立てようと――
 古妖の手首が切り落とされる。灯の鎖鎌が一閃したためだ。先の先。相手の意志を読み取り、その先手を打つ。斬首の刃は地面に落ちる。だがもう一刀残っている。鬼気迫る表情でその刃を灯に振るった。両断される灯の――残像。淡い炎の生み出した幻影。
「活きがいいのは歓迎さね。おっさんの店においてやるよ」
 古妖に突き立てた神具に力を籠める逝。古妖の身体が激しく痙攣し、笑みと共に消えていく。
 戦いの終わりを告げるように、カラン、と村正が地面に落ちた。


「ふはー」
 戦いが終わり、飛馬は崩れるように座り込む。剣戟の衝撃がいまだに手に残っている。だがその分強くなった感覚はある。殺す刀と護る刀。軍配はこちらに上がった。
「あいつも楽しんでくれたかな」
 遥は戦闘の余韻の中、そんなことを考える。自分は十分に楽しめた。この高揚と同じものを感じてくれたのなら嬉しい。
(見事。銘に恥じぬ戦いぶりだった)
 言葉なく頼蔵はサーベルを納める。戦いの中、確かに感じた自分の深淵。似たような戦いがあればまたみることが出来るのだろうか。
「おまえら、今癒してやるから動くなよ」
 凜音は覚者達に近寄り、癒しの術を施していく。刀傷は速めに処理をすれば傷跡も残らない。凜音が気を抜けるのは、皆の傷を治した後だ。
「安らかに眠ってください。刀が不要な時代は、私達が作ってみせます」
 もはや命のない村正にアニスが手を合わせて祈る。戦いのない平和な時代。いつか築き上げてみせると、真っ直ぐに祈りを捧げた。
「理解はしたが、さて上手く使えるかね」
 村正から受けた傷に触れながら逝は呟く。十分な知識の元、相手の攻撃を身に受けて理解した。あとは鍛錬すれば村正の技は使えるだろう。もはや意思なき村正を拾い、鞘に納めた。
(僕が死んだ後、遺された絶海が今回のような付喪神になるかもしれない)
 自分の神具を見ながら静護はそんなことを想う。遥か未来、己の闘いと思いから付喪神となった自分の愛刀。それはどのように語られるのだろうか?
「ありました。かなりの数ですね」
 灯は村の家屋から刀剣類を見つけ出す。おそらく元となった武芸者はこの村を拠点としていたのだろう。あるいはこの村を守っていたのだろうか。また付喪神になられると厄介なので回収することにしよう。

 覚者達は無人の村を後にする。
 付喪神は消えてなくなり、屍山血河の未来はなくなった。
 静かな風が村を通り抜ける。そこに鉄と血の匂いはなかった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 この世界にありえそうな付喪神でした。

 純戦は筆が躍るように書けます。やー、楽しい。
 戦う者。癒す者。護る者。それぞれの思いが詰め込まれたプレイングでした。そのプレイングあってのリプレイです。ありがとうございました。

 OP作成時は流行にあやかって『村正銘の槍を持ち、赤備えを着た武者』にしようとして、わかりにくいかとこの形になりました。時期ネタは風化すると虚しいだけなので。

 それではまた、五麟市で。


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スキルラーニング!

取得キャラクター:緒形 逝(CL2000156)
取得スキル:妖刀ノ楔





 
ここはミラーサイトです