≪聖夜2016≫貴方とイヴ
●
「イヴなのだ。
クリスマスイヴと聞くと、心が躍るのだ。
今日は雪が降るそうなので、皆、風邪をひかぬように気を付けるのだぞ。
街はイルミネーションできらきらしていたのだ。見てくるといいのだぞ」
「イヴなのだ。
クリスマスイヴと聞くと、心が躍るのだ。
今日は雪が降るそうなので、皆、風邪をひかぬように気を付けるのだぞ。
街はイルミネーションできらきらしていたのだ。見てくるといいのだぞ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.イベシナを楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
カップルは気合入れて描写するのが今回の目標
●状況
クリスマス、夜、寒い、雪降ってる、イルミネーション綺麗、ケーキ美味い、チキンうまい
●場所:五麟市内
イルミネーションやら、ホワイトクリスマスやら
本部では一応、パーティのようなものが開かれている、食えるし飲めるし踊れる
五麟市内なので、自宅やチームにいるとかでもオッケーだし、割と手広になんでもできると思う
EXでもどこでもいいので、どこに居るのか書いてくれると助かります、僕が
聖夜は誰と過ごすのさ、工藤に教えてよ
●NPC
・樹神枢
・大神シロ
・逢魔ヶ時氷雨
呼ばれれば出てくるし、呼ばれなかったら出てこない
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
それではご縁がありましたら、どうぞ
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
34/∞
34/∞
公開日
2017年01月10日
2017年01月10日
■メイン参加者 34人■

●
寒空の下、雪はふわりと舞い落ちて。
暗い夜空の背景のなか、月明りに照らされた粉雪は淡く光を放っていた。
納屋 タヱ子(CL2000019)はふと、白い息を氷のように冷たい指先へと放った。その時ふと、見知った顔がこちらを見ていて、すぐに照れたようにそっぽを向いた。
「氷雨さん」
ぴく、と揺れた羽を有した少女は、観念したようにタヱ子へ向き合う。
「な、なによっ」
「先日の件……聞きました。その場に居た訳ではないのですけれど……」
ただ、ただ、良かったと。それは憤怒者であった氷雨の背中にある翼が、解決を物語っていただろう。
彼女に何かあれば、クリスマスにこんな気持ちでいられただろうか――わからないが。
「このところFiVEのお仕事も忙しくて電話もできませんでした……、七日どころじゃなく、四か月くらい後になってしまいましたけれど」
「い、いいのよっ、別に! お祝いなんて、いつでも、それこそ、クリスマスなんかじゃなくったって!」
どこか強がりな少女は、これでもタヱ子を気遣っているのだろうか。わかりにくい態度は常に高慢だが、しかし。
「今日この日に改めてお祝いを……メリークリスマス」
「めっ、メリークリスマス……」
タヱ子の呼びかけに、氷雨は髪の毛を指先でいじりながら答えた。
彼女の姉は――いや、今は言う事では無いのだろう。せめて、彼の兄と問題を解決してからでも――遅くはないのだから。
大辻・想良(CL2001476)はしんしんと降る、純白の綿の中、夜のお散歩である。
今は、ビルの屋上の柵の上に座り、見下げる世界はいつも以上に広がる光の庭であり、ちかちか点滅するネオンはリズミカルで心が弾む。
聖夜。
昨年も思えば、一人ではあった。父親は仕事だし……。
でもしかし、今年は一人では無い。想良の寂しげな背中にくっついていた守護使役の天が、服を引っ張りながら自己主張していた。
「いつも二人、だよね。ありがと」
天を抱きしめて、僅かな温かみを分け合う。凍れるように冷たい指先も、少しずつ体温を取り戻していくようだ。
その時、遠く背中のほうで、吼える声が聞こえた。
たたた、と走ってきた純白の犬、あ、違った、狼である。名前は、大神シロ。自称神様の古妖。
「フライドチキン食べる?」
箱を差し出し、鶏肉がこんがりきつね色に揚げられたそれを、シロは涎ぼたぼたぼたぁ!と垂らしてから、首を縦に振った。
「あれから、まんまるは…、…今日は、月が隠れてるから、大丈夫? まんまるが見えるってことは、目の中にいたりは、しないかな……」
瞳の中は、ふわり浮かぶ雪に照らされ光を放っていたが、元凶らしきものは見当たらない。
「思えば、キミとも長い付き合いなのだ」
そんなことを言い出す樹神枢。隣の野武 七雅(CL2001141)は一度目をぱちくりとさせた。
「メリークリマスマスなの!」
咲いたような七雅の笑顔に、安心感にも似たような感情が芽生えている枢。
二人は、五麟市のショッピングモールへと来ていた。普段の場所とは違い、クリスマスの飾りつけや、イルミネーションで幻想的な世界が広がるここ。
これがずっと続けばいいのに、と漏らした七雅に、枢も同じくそうだなと感じた。
「ずっとだと特別感がへっちゃうのかな?」
「そうかもしれないけれど、毎日がクリスマスも、楽しそうなのだ」
それから二人は色々な場所を廻るわけだが。
「枢ちゃんみてみて! サンタさんの恰好したぬいぐるみがいっぱいあるの! どれもかわいいの!」
「うむ、こっちは猫がサンタの恰好しているぞ」
「ほんとだ! あ、このクマさんふわふわであったかくて……一番かわいい顔してるの」
「ぬいぐるみにも表情があるのか?」
「これ、枢ちゃんのクリスマスプレゼントにするの」
「え? いいのか??」
七雅としては、クリスマス前に買っておきたかったのだが……なかなかどうして、いいものが見つからなかったのだという。
「あらためてメリークリスマスなの! これからもよろしくなの!」
「ああ! 僕からもメリークリスマスだぞ」
●
向日葵 御菓子(CL2000429)は毎年、恒例となったクリスマスコンサートを開く。
勿論、菊坂 結鹿(CL2000432)も一緒なのだが、そこに今年は樹神枢も一緒だ。
御菓子の旧友である演奏家たちに囲まれ、舞台の上で華々しく奏でる御菓子の姿は、普段目にする彼女とは遠くかけ離れていただろう。図書館で話をされている、精神の切り替えとやらがきっとここでも発揮されているのに違いない。
常連がスタンディングオベーションで拍手喝采を送るなか、こういう所は初めて完全に廻りの空気に飲まれている枢は挙動不審さもあったが、しかし演奏は素人の枢が聞いても上品で穏やか、かつ繊細なのはよく理解できた。
「御菓子は凄いな、結鹿」
「そうかな? へへ、お姉ちゃんのこと褒めてくれてるんだね」
隣で一緒に拍手をする結鹿と枢は、顔を見合わせてから微笑みを重ねた。
アンコールに応える御菓子を見守りながら、結鹿と枢は意地悪い笑みを浮かべていたとか。
暫くしてお茶会。
「さきほどの演奏は素晴らしかった、いや、それを伝える語彙が乏しく、すまないな」
「いいのよ、楽しんでもらえたなら何より!」
「お姉ちゃん!」
そこで結鹿と枢が同時に出したのは、サプライズのプレゼント。面食らった御菓子は、一瞬だけ驚いた表情を浮かべてから、すぐに笑った。
それは上手くいったようで結鹿と枢はハイタッチして喜びを表す。
「私からもあるのよ」
同じく御菓子はプレゼントを二人に差し出した。
「結鹿ちゃんに紅緋色のリボン、枢ちゃんにはヒイラギのチャームの付いた簪なの。喜んでもらえるかな?」
「もちろん、嬉しいのだぞ。ありがとう御菓子」
「私からもあるよ!」
結鹿は、今度は枢にプレゼントを出した。
「この間、サンタさんの洋服をきたテディベアがいいなっていってたんですよね」
「よく、覚えているな」
プレゼント袋に収まらないような嬉しさを抱いて、枢は泣きそうな表情でふたりに感謝を述べた。
昨年はお家で過ごしたクリスマスだが、今年は思い切って外出である。
「ほら、燐ちゃん……人が多いからね?」
柳 燐花(CL2000695)は、蘇我島 恭司(CL2001015)に手を引かれて歩いていく。
ネオンが飾る七色の世界、暗闇に完成された光のアーチは見る人の目を奪うものの――こうも人が多いと落ち着いてみるどころか。
「燐ちゃん、大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です……」
二人くらいの大きな人に挟まれて、それでも恭司の手を離さない燐花は立派ではあるのだが、どうみても大丈夫ではない。
ちょっとだけ考えた恭司、頬を人差し指で掻いてから、
「……燐ちゃん、ちょっとごめんね?」
繋いでいた手を反対側の手に繋ぎ変え、空いた手は燐花の肩に添えて。つまりエスコートするような形へと変わった。
「これだけ人混みだと、こうやってくっついて歩いた方が歩きやすいかな?」
ぽかん……と恭司を見つめた燐花の瞳。何が起こっているのか理解できていないというものだが、すぐに歩きやすくなったことに気づけて。
「あ、ありがとう……ございます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」
消え入りそうな声色で、恭司にそう訴えかけたのだ。
(どうしてここまでして下さるのですか?)
ふと浮かんだ疑問は、今は夜空に溶かしてしまいましょう。
とはいえ恭司も表面は平常だが、内心はパニックを起こしそうになっている。誤魔化すような微笑みに、しかし燐花は安堵していた。
まるで危ない橋でも渡る二人であるが、しかし辿り着く先は見えているのだろうか。お互いに守り、守られ、そしてその絆は空から降る真っ白な雪のように純粋無垢に満ち満ちていた。
麻弓 紡(CL2000623)が翼を広げて飾りつけしたであろう長身生木のクリスマスツリーが見守る四葩庵は、普段の賑わいを忘れ、静寂に包まれている。
灯は消え周囲は暗いものの。ローテーブルに置かれたライトが淡く照らし、夢の中か、星空の下のような幻想空間を作り上げていた。
「美味しかったですよ。見た目と味が反比例というサプライズには、びっくりしましたし」
時任・千陽(CL2000014)の落ち着いた声が儚く響き、それと一緒に珈琲の香り漂う茶器がテーブルの上で一度かちゃりと音を立てて置かれた。
少し甘めのカフェオレをお供に、紡は千陽の隣へと座る。
ふと、二度目のサプライズのように差し出されたのは、雪の結晶がお淑やかに煌くオーガンジーの袋。それを差し出した紡は、照れたようにはにかんでいた。
千陽は面食らって、身体を揺らしながらも受け取り、
「あ、そうですよね、クリスマスといえば、プレゼント、なんですよね。すみません、こう、なんというか気がきかなくて」
忙しく挙動不審でぽんこつな千陽が窓の外よりも遠くを見つめて立ち上がろうとしたが、
「明日……使ってくれたら、嬉しいな」
紡の言葉に、再び席へとついた千陽。
「手袋ですか……ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
ふと、甘い香り。紡の身体が千陽へと近づき、膝に手が置かれて支えにしながら、内緒話をするように唇を耳に近づけた。
「贈り物はいらないから……明日も、来年も、一緒にいてね」
「はい、明日も」
千陽だけに感じる――珈琲の香りに混ざる火薬の臭いや、紡の声と一緒に耳の奥で響く戦場の音。
戦争という状況に国家は狗吠の大義を望むのか。明日、生きているかもわからないというのに。
自傷気味に笑う千陽は、今日また約束という罪を重ねた。指切るような綾取りを悟られぬよう、千陽は瞳を閉じる。
「来年も……、ですね」
「今年もホワイトクリスマスか、活気が出てて良いね」
酒々井・千歳(CL2000407)は手の平に雪の結晶を受け止め、溶かしてから隣の水瀬 冬佳(CL2000762)へと言った。
彼女は普段通りの柔らかい笑みを浮かべながら、頷く。
「この日に雪が降るのは……偶然でしょうけど。でも、良いですね」
千歳は冬佳の指先まで冷え切った手を掴み、絡めて、歩んでいく。千歳は腕時計の針を見ながら、少し考え込むように瞳を細めた。
「レストランを予約をした時間には少し早いかな、店でも見て回ろうか」
「じゃあ、そうしましょう。見て回るのも悪くないです」
昨年は確か――冬佳へ服を選んでいた時間だろうか。あの時の服も、今も冬佳は大事にしているという。
そんな中、冬佳はネオン煌く幻想世界に瞳を輝かせていた。こんな中で、二人で歩んでいけるのはなんとも不思議な気分で、それが心地よい。
「……あれが良いかな」
ふと、千歳は目に留まったショーウィンドウで、エレガントに飾られた碧の色合いをしたショールを指さした。
さっと冬佳の手を引いて店に入り、そしてそれを購入。プレゼント用に可愛くあしらってもらってから、
「今日は何時もより少し寒いでしょ? 風邪を引いちゃいけないからね、とても似合ってるよ」
「――え」
千歳はそのまま冬佳へと手渡した。
突然のプレゼントに、冬佳の頬がほんのり赤く染まっていく。彼から沢山の嬉しさを貰ってばかりでいいのだろうか――悪い気がする裏に、隠せない喜びのほうが表情にはよく出ていて。
「その……ありがとう、酒々井君」
「どういたしまして」
いつまでも離れない手はもう温かみ帯びていて。そのままレストランへと向かった。
●
御白 小唄(CL2001173)はクー・ルルーヴ(CL2000403)の部屋に泊まることになった。
お布団を並べて、今は隣同士。お互いに、お互いを意識しながらどきどきと鼓動を高鳴らせていた。
とは言え、世間はクリスマス。そんな特別な日に、夜になったから帰りますというのも勿体ない気は大いにするのだ。
クーが隣にいる。それだけで小唄は満たされた気分になるのだが、状況が状況だ。
「一緒は、迷惑でしょうか?」
不安そうな、悲しそうな声色が響く。クーとしては、小唄と出会ってから弱くなってしまったと自身を嘆いていた。日本に売るまでは、一人で過ごすことなど毎日であったのに。
隣ではなく、向き合ってから、クーの瞳をじっと映す小唄。
迷惑とか、そういう気持ちでは無く。こんなに至近距離にいられると、先日の出来事を思い出して――そして、クーの不安そうな表情が相乗効果で小唄の心を締め付けているのだ。
好きなんだって。
ふと、クーは瞳を閉じた。この前、キスされたのは嘘なんかじゃなかったって思わせて欲しいのだ。
ちゃんとしてほしいのだ。だって、大事な『初めて』であったのだから。奪われたのは唇か、それとも心か。
「ん」
小唄はゆっくり、そして優しく、もう一度、キスをした。あの時と違うのは、もっと深くて、力強いキスであったこと。
それがクーにとって、女の子として、幸せな出来事で。長くも短すぎる一瞬の終わりに余韻を感じながら、小唄はクーを抱きしめた。
想いは言葉にできなくて、でもきっと、相手と同じことを思っているのだろうと確信し、直感し、そして信頼をする。
それが男女の在り方か。
そのまま一緒に布団へと倒れ、夢の中でもきっと一緒に――安心して、手を繋いで落ちていく。
水端 時雨(CL2000345)は月歌 浅葱(CL2000915)と共に、楽しくパジャマパーティである!
ベットの上に広げたお菓子の山と、炭酸やオレンジジュースなどのペットボトル。これだけでも胸が躍るのはなぜだろうか。
ケーキも蝋燭を刺して、クリスマスを祝うように火がぼんやりと揺れている。危ないからと、すぐに消してしまうだろうけれど。
淡い光に照らされたツリーが二人を見守っていた。
「あ、あれは用意しましたかっ。クリスマスといえば、これっ! 靴下ですよっ!」
どーんと大きな靴下を、どこからともなく出した浅葱。時雨は一瞬びっくりして身体を揺らしたが、頭の上に電球みたいなものが灯った。
「靴下っすか、時雨ちゃん用意してなかったっすね。でもそんな大きなのに入れたい欲しいものでなんすかね?」
時雨はポテトチップスをぱりぱり噛みしめながら、巨大な靴下を指さした。
ふふんと鼻を鳴らした浅葱。
「特にないですっ、しいて言えば、ノリですっ」
「ないんだ」
「でも時雨ちゃんにも予備の靴下があるのでこっちを差し上げますっ」
「じゃー時雨ちゃんのプレゼントは浅葱ちゃんでー!!」
「ふっ、プレゼントに貰われる方ですかっ、靴下には入りませんけどねっ!」
時雨は浅葱へと抱き着いて、二人一緒にベッドの上に倒れた。衝撃でポテチを入れていた皿がちょっとだけひっくり返っているがお構いなしだ。
予備の靴下をベッド脇に飾り、結局二種類の靴下をつりさげることとなっている。その大きな靴下には入りきらないくらいに、二人の友情は深まったと思っていいのだろう。
「楽しんで後は眠るだけっすね」
「ですっ、それまで一緒にだらだらしながら楽しみますよっ」
時雨と浅葱はにんまり笑ってから、一緒にクリスマスを楽しんだ。暫くして静かになったと思えば、時雨は夢の中。
こっそり、浅葱は時雨の靴下へとプレゼントを差し入れていく。中身は――秘密ですよっ。
天堂・フィオナ(CL2001421)は八重霞 頼蔵(CL2000693)の事務所でゆっくりしてから、街へイルミネーションを見に行くことにした。
「……では行くか」
と頼蔵が声をかければ、待ってましたと言わんばかりにフィオナの表情が明るくなっていく。
もちろん事務所でも頼蔵と居られて楽しいというものあるのだが、イルミネーションを観に行くのはそれはそれ、これはこれ。
頼蔵はそれの何がいいのかさっぱりという顔をしていたが、フィオナに気づかれないようにはしていた。覗き込む彼女の表情はなんとなく、何故だか読めない。せめて、楽しんでくれればいいもの。
街の中は、予想ついていたがカップルだらけである。所狭しとくっつきながら歩いていく男女に、何故だかフィオナの顔は赤く染まっていく。
しかし、ちょっと頼蔵のことを思えば、フィオナの表情は暗がりを見せた。
「この前そういう依頼もあったけど……貴方が誰を口説こうが、全っ然問題ないし何とも思わないんだぞ!」
まるで自分に言い聞かせるように零れた言葉に、頼蔵は表情こそ変えなかったものの、溜息を喉まで出かけて、飲み込んだ。
「全く……待って居給え」
離れていく頼蔵に、フィオナは更に落ち込んだ表情をした。ぽつんと残されて、何故だか泣きそうに。そうだ、何か温まるものでも持っていけばと顔をあげたとき。
ふと、頼蔵は屋台で手に入れたホットココアをフィオナの前に差し出していた。
「ありがとう……美味しい」
その表情を移り変わりは、ネオンの点滅を見ているより遥かに頼蔵にとって楽しいものである。
「君は……君の真っ直ぐな様で何所か歪な生き様は、とてもきらきらとしているからね、飽きないよ」
「歪んでるってどういうことだ? ……そう、なのかなあ」
フィオナは身体を頼蔵へ寄せながら、嘘でもいいから抱きしめて欲しいような気分に浸っていた。
「全部思い出した時、私が私でなくなっても、貴方が面白いって言ってくれた”私”がここに居た事……覚えておいて欲しい」
今日は、クリスマスイヴ。
『ともしび』でも、ささやかながらクリスマスパーティをしている。
しかし、獅子神・玲(CL2001261)はとても特別な日を特別らしく過ごせる気分ではなかった。
何故なら、飛騨・沙織(CL2001262)はずっと寝込んでいるからだ。先日の大きな妖騒ぎで、沙織は命をすり減らし、その後遺症で伏せ続けている。それだけならまだしも、彼女の心も具合がよくはなかった。
「……そうか。今はクリスマスだっけ……ごめんね、玲。クリスマスケーキ作る約束だったのにおじゃんにしてしまって」
弱弱しくしゃべる沙織の手を、掴んだまま物言わぬ玲。悲しみは海よりも深く、ぐるぐると廻っている。
手を繋ぎ続けるのは、彼女がどこかへ消えてしまわないようにだ。それが恐怖でしかない。これまであった何かが、ある日突然消えてしまう程衝撃的なものはない。
きっとその時は、心がぽっかり、穴あいてしまうのだろう。
「……大丈夫だよ。もう少し寝てれば回復すると思うから……玲、ありがとう。こんなに心配してくれて。泣かないでよ、もう」
知らぬ間に泣いていた玲の頬をぬぐった沙織。それがまた、彼女の優しさがまた、玲にとっては心に杭を打たれたようなのだ。
「でも約束して欲しい……来年のクリスマスは一緒に祝おう。その頃にはお互い高校受験とか忙しいけど……一緒の高校に通いたいから。だからお願い、早く、よくなって」
「うん……うん、約束。メリークリスマス、玲」
そんな時、葛野 泰葉(CL2001242)は扉をばーんと開けて入ってきた。
「いやぁ、メリークリスマス! サンタさんからの贈り物を届けに来たよ! ……何をお通夜みたいな雰囲気を醸してるんだね君達は」
仮面で表情は見えないが、怪訝そうな声色になった泰葉。施設の子供たちは皆素敵な笑顔と素晴らしい感情に満たされていた、それもプレゼントを贈った甲斐があるというものだが――ここの一部は切り取られたように暗い。
「全く……玲君も心配し過ぎだ。沙織君もじき良くなる。君がそんな雰囲気では治る者も治らないよ。さあ、パーティーに行きたまえ。ここ数日全くご飯食べてないのだろう? 少しは食べてきたまえ」
泰葉は玲を見送ってから、扉を閉めた。
「……さて、沙織君。話とはなんだい?」
「……泰葉さん、お願い聞いてもらえますか? 私が死んだら……玲の事頼みます。
自分の事は自分がよくわかってますよ……命数も魂も残り少ない。それ以上にもう自分の存在意義がわからない……だから。私が私である内に『決着』を付けたい」
「……そうか。俺はその約束はしない……けど、玲君の手助けくらいはしよう。沙織君、悔いのない『選択を』。俺はその選択を尊重するよ」
「……お願いします」
●
坂上 懐良(CL2000523)は丹羽 志穂(CL2001533)……それと一緒に樹神枢と大神シロも誘って猫カフェにいた。
此処は志穂の勤め先であり、今日は貸し切り状態。店は休業ではあるものの、猫たちは今日も愛らしく部屋の中で過ごしていた。
狼型のシロが猫に怯えられていた。古妖だからか。
シロはそのまま懐良の足下にすり付いていた。彼が用意したターキーの香りに釣られたのだろう。
「シロは、オレと同じように肉好きらしいな」
シロは尻尾を大きく振っている。遠くで枢は猫と戯れており、恐らく彼女はケーキ好きだろうと、うんうん頷いた懐良である。
そんな時。
「……ねぇ坂上、これ、サイズ間違えてないかな?」
志穂がサンタ衣装に着替えて戻ってきたのだが、その、なんというか、胸元のあたりが抑えられていて、ボディラインが綺麗に出てしまっている。スカートは太もものぎりぎりのラインを攻めていて、少しでも前屈みになればヒップが見えてしまいそうだ。
これはワンサイズ下なのでは? と顔を傾けた志穂。それに対して、懐良はこれ以上なく笑顔で、隠すこともなく顔を上下に振った。満足である。
同じくサンタ衣装の懐良は手際よく食事の準備をしつつ、枢も何か手伝えないかと隣に来た。そんな枢も、覚醒した大人の姿でぴちぴちのぎりぎりサイズのサンタである。最早懐良の楽園が構築されている。
「樹神は、とっても似合ってるよ。サンタに猫耳。すごく可愛い」
「そうですか……? それは、とても嬉しいです」
屈託ない笑顔、だがサイズはワンサイズ下だ。
人型になったシロは、トナカイ衣装になりながらターキーを待ちきれないと臭いを嗅いでいる。
「お腹すきました」
シロのお腹がぐーっと鳴ったので、志穂は苦笑しながらシカの角の生えた頭を撫でた。
「気を取り直して、パーティだね!」
衣装でちょっとした事件は発生しているものの、暖房のよく効いた部屋でパーティは始まった。
「シロ、チキンもケーキも用意したから、たんと食べて欲しいな」
「うん」
シロはチキンをもぐもぐ咀嚼しながら、頬が赤くなっていた。美味しいのだろう、無心に食べ続けている。
「樹神も、あーん」
「はいっ、あーんです」
枢は志穂が切り分けたケーキを口で受け、楽しそうに笑った。
「坂上も、甘いのは平気?」
「そりゃあもう!!」
と言いながら懐良の鼻の下は伸びていく。ふと、志穂は反応が気になって、あーんと一緒に腕にたゆんと胸を押し付けて、意地悪く笑った。
ふと、思考が停止したように止まった懐良だが。しかし彼の頭のなかはフル回転し最適解を導き出すために暫くそのまま停止していた。
椿屋 ツバメ(CL2001351)はシロを散歩がてら、街の散策。
「シロ、そろそろこの街には慣れたか?」
「うん、それなりに」
狼型なら尻尾を振っていただろう、上機嫌のシロはツバメにしっかり手を引いてもらいながら街のネオンの中を珍しく見回していた。
そんな色々なものに興味を持っているシロの姿は、ツバメにとって微笑ましく映る。
あれはなに、これはなに、とふつうの子供のようにはしゃぐ姿は、同年代の子供たちと何が違うというのだろう。
夜。
イルミネーションが一望出来る場所へと移った一人と一匹。
「これから点灯するぞ」
とシロの小耳に言葉を挟んでみるが、シロはそれがなんのことか分からず首を傾げていた。
しかし、無知識もすぐに解消されるもの。前方に広がる、様々なイルミネーションの光景、次々と色が変わるネオンの煌きに、お互いに心を躍らせていた。
そんな時、ツバメのお腹が鳴ったのをシロは聞き逃さない。
照れ隠ししながら、膝を折って目線を同じくらいにし、シロの手を再び握るツバメ。
「今日は奢る。肉を食べに行くぞ!」
「おにく!」
二人でステーキ屋さんを探しに、再び煌きの街を歩いていく。
三島 柾(CL2001148)は逢魔ヶ時氷雨と買い物に来ていた。
隣で歩く氷雨はどこかぎこちない表情を浮かべながら歩いているのは少し気になる。
「体調はどうだ?」
「うん……大丈夫よ。あ、ありがとう……その、た、助けてくれ……て」
氷雨はお礼が言いたかったのだろう。しかし、彼女の嫌に強気な性格が素直さを見せなかっただけで。柾は笑いながら、翼を指さした。
「翼は馴染んできたか?」
「まだ……ちょっと変かも。あることを忘れて、よく潰してしまうの」
「妹も翼の因子なんだが最初は違和感があったらしく、馴染むまでは不思議そうに背中見ていたからな」
「そうね、私も今そんな感じになってしまっているわ」
氷雨は背中にある純白の翼を揺らした。
お昼ご飯を共にしてから、賑やかさを見せる街並みと平行に歩いていく。
「氷雨は、何か欲しいのあるか?」
「えっ!? な、ないよぅ!! その……あ、でも、いやいやっ大丈夫!!」
なんでか遠慮していた。
「それよりこんな、沢山迷惑かけっぱなしの、私になんかプレゼントあげてどうするのよっ!」
「あげたいと思っただけだから、気にするな」
「き、……気にするわよっ」
「どうしてだ?」
「ぷ……プレゼント、貰われ慣れてないだけよ! 言わせないでっ」
ぷいっとそっぽを向いた氷雨。怒っているわけでは無くて恥ずかしいのだろう。思えば彼女のことを思えば、誰かに何かを貰えたことが今までに一回でもあったのだろうか。いや――。
ふと、氷雨はウインドウディスプレイに瞳奪われ、硝子におでこを張り付けていた。
あ、やっぱり欲しいものあるんだなと瞬時に悟った柾。覗き込んでみれば、キラキラ輝く髪飾り。
「あれ、ちょっと綺麗かも……」
「じゃああれにしよう」
「え!?」
ということで、即店内に入って購入。からのプレゼント。
辛い事や悲しい事は、いつだって突然やってくる。だからそれと同じくらい、楽しい思い出を少しでも作ってやりたい。
その思いと共に、氷雨の頭に咲いた青色の花がついた髪飾り。
「ありがと……なんか、家族ってこういう感じかな?」
●
「今年もまた随分と雪が積もったな」
「本当ね、一面真っ白!」
天原・晃(CL2000389)の隣で宇賀神・慈雨(CL2000259)は両手の平を重ねながら笑顔を作った。
まるで雪に溶けてしまいそうな程に儚い色彩の彼女と、一面の真っ白な雪は、重ねて見れば神秘的であり、妖艶ともとれる。そんな彼女と今年も一緒に過ごせることが、晃にとってこの上ない幸せであった。
それは勿論、慈雨にとっても同じことで。二人の距離は、腕が触れ合う程に近い。
「……ふむ、作ってみるか? 雪だるまでも」
「寒いの得意よ、喜んで付き合うの」
晃の申し出に応える慈雨は無邪気に雪を掬ってから、丸めていく。こんなのを作るのは本当に久しぶりの出来事で、指先が赤らんでいくのも気にしない程だ。
大きいのが一つ、中くらいのが一つ。小さいのは、二つくらい作る予定のその途中。
晃の指先の赤さに気づいた慈雨は、その手を取って、ぎゅっと握りしめて体温を分け合う。晃も同じく、細い慈雨の指先に吐息を送れば、自然と指先の赤みのように慈雨の頬も朱に満ちていた。
「よ、し…… こんな物か?」
原型の、丸い形が大きな丸に乗っかり、雪だるまの形はできたところ。
晃が腕のようにつけた枝に、慈雨は手袋をはめてやり、そこらへんに落ちていた赤い木の実を目の位置に置いたり、歯で鼻と口を演出したり。
気づけば複数の雪だるまに表情ができて、見た目はきちんと雪だるまらしく完成していた。
「中々良い出来栄えの物が出来たんじゃないかと自負するが、どうか。いい家族だろう?」
「大きさが違うなって思ったけど納得したの、うん、素敵な家族!」
これは祈りが込められた、家族の雪だるま。
「俺もまた父や母の様な暖かい家庭を作りたい、そう思ってな」
「……晃なら作れるよ、絶対に」
雪だるまの家族は、明後日の昼頃には雪解け水となり流されてしまうのだろう。
しかし、思い出としていつまでも残るこの家族の有様に、慈雨は願う。
どうか、どうか、この人に温かな未来がありますように。願わくば、隣に私がいられますように――
切裂 ジャック(CL2001403)は諏訪 奈那美(CL2001411)とショッピングモールへと来ていた。
「孤児院の子達にプレゼント? そりゃ、とってもええことやんな。てか孤児院なんか行ってたのか? なんか、お前も大変やってんやな」
ジャックの言葉に一部、奈那美は首を横に振る。
「私自身がお世話になっていた訳ではありませんが、親がいないというのはやはり寂しいものですので、一助になれば良いかと」
好きでやっているので、と奈那美は付け足した。それはそれはとても素晴らしい事であると、まるで勇者でも見る目線でジャックは奈那美を映していた。それでは協力しない訳はない。
「ふーん。おけおけ! これとかどう?」
ジャックはサンタの恰好したクマの人形を持った。大きさは子供が抱けば、お腹にすっぽり収まるくらいのサイズ。愛嬌のある顔だが、人形の表情が個々によって違うのがポイント。
「男の子は……」
そういえばと、ジャックは。ばっちゃはお守りをくれたなあ、と追憶の日々を思い出しながら、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「ま、男の子は順当にプラモとかか?」
「なるほど、羽虫にしては悪くないセンスですね。犬に格上げしてあげます」
「やっと哺乳類かよ」
ふと、ジャックは奈那美の髪に星の形をした髪飾りをかけてみた。黒の背景一色に満たされた彼女であるからこそ、目立つ髪飾りである。
「む、いきなり人の頭にヒトデをつけるとは何事ですか」
「これがヒトデに見えるのかよ。これお前にやるよ、プレゼント」
「ああ、星なのですね」
クリスマスだから、奈那美も祝福されるべきなのだ。いつも真っ黒ではなく、ひとつくらい華やかなものがあってもいいだろうと。
しかし奈那美はジャックへブレスレットを渡した。同じことを考えていて、非常に癪ではあるものの。
「メリークリスマス、ななみ」
「メリークリスマス、切裂くん」
その時だけ奈那美の表情が柔らかく微笑した。
(斗真さん……紫雨さん……私は信じています。いつか必ず一緒にこの日を迎えられる事を)
神城 アニス(CL2000023)は家族とクリスマスを迎えた、本当は――例え敵であろうとも、あの人と一緒にクリスマスを迎えたいのだが。
その気持ちを心の中の秘密の宝石箱に押し込んで、今は屈託のない笑顔を浮かべている。
そして、その時のためにお料理の勉強も必須だと気合をいれた。特にオムライスは彼の好物、とりあえずそこから集中的に努力するのだ。
「……ふぅ……流石に作りすぎてしまったでしょうか?」
七面鳥、ケーキ、パスタ、コンソメスープ、オムライス。張り切って作ってしまい、逆に張り切り過ぎただろうか。
家族はもう少しで帰宅するだろう。その前に部屋に飾り付けをしておこう。
今宵はクリスマス。どうか皆さんに素敵で特別な聖夜が訪れますように……。私もこのお祝い事を精一杯楽しみます!
多分その頃、斗真も同じようなこと考えていたよ、たぶん。
氷門・有為(CL2000042)は偶然にも逢魔ヶ時氷雨と接触していた。
普通に道端を歩いていたら、鉢会った、という形である。氷雨は一瞬隠れようと電柱の裏に逃げていたが、モロバレ。即座に出てきて、顔を赤らめていた。
「げ、元気? こ、こんなところで何してるのよ、暇ね!」
氷雨の表情がどこかぎこちない。
「まあ、私はこれからミサに行く為に外に出たわけですが。家がそうでしたし、色々事情があって習慣になってる感じですね」
「そ、そう?」
なんとなく一緒に歩いていく。何故か距離は近く、言葉では辛く当たられているようだが照れ隠しと、懐かれているのだろう。
「……、実は内心結構気になってる事がありまして」
「な、なによっ」
「この前、割と感情的になってしまった事もあって」
「あったっけ?」
――本来なら、口に出してはいけない事まで言ってしまったのではないかという懸念があり彼女が覚えていないならノーカンかなと思う有為。
それは恐らく氷雨には難しいものであったかもしれないが、隣でちょっと笑ってくれているのは嫌な気がしない。
有為としては、魔法の言葉『あんたの事なんて全然気にしてないんだからね』が効かなくなっている感もあり危機感を覚えている。来年のクリスマスのときにはどうなっているか、今から考えても遠すぎるか。
●
焔陰 凛(CL2000119)はお昼、公園のベンチに座っていると、人型の姿で歩いている大神シロがいた。
呼びかけてみれば、耳がいい彼はすぐに振り向き、いつもの無表情のような顔のまま走り寄ってくる。
「シロは本部のパーティ行くんか? あたしはこれからライブハウスでクリスマスライブやねん。シロも招待したいけど子供も動物も入場でけんからなぁ」
「動物はだめ? 仕方ないです。また今度、路上とかでも……」
遠慮気味に微笑む凛は、エレキギターを見せてみる。シロはそれをじいっと見つめながら、少し残念そうにしていた。
ふと、歩き出した凛の後ろをついていくシロ。自販機がガタン!と音をたてながら、温かい飲み物がふたつ落ちてくる。その一つを、シロは受け取った。開け方が、わからないみたいだったのを開けてやった。
「もう五麟には慣れたか?」
「うん。それなりに」
しかし凛たち周囲はカップルばっかりで、まさにクリスマスという雰囲気。
「シロもいつか好きな子が出来て結婚とかするんかな? そん時は是非式に姉ちゃんも呼んでや。所でシロはどんな女の子がタイプなん?」
「女性……考えたこと、ありませんでした。が、ボクは人狼なので、種は残さなければいけないので、健康的な女性がいいです」
タイプとかはまだよくわからないと、ちょっとだけ頬を赤らめていたシロであった。
「ちなみにあたしは自分より強い男やな!」
「自分より、強い。じゃあ、強くなりますね、ボク」
冷える手を、吐息で温める東雲 梛(CL2001410)。
「梛!」
どん、と膝当たりに違和感と思えば、大神シロがぎゅうっと梛の足を抱きしめていた。唐突だなあ、と梛は苦笑まじりになりながら、シロの頭を撫でた。
「元気そうだね。ここには慣れた?」
「うん。それなりに」
シロは梛の足から離れたシロは、梛の隣について一緒に歩く。ネオンに輝く世界はシロにとって珍しいものであるようで、瞳は忙しく動いていた。
「そういえば今日はクリスマスだけど、シロはクリスマスを知ってる?」
「ちょっとだけ。特別な日? なのでしょうか」
「そうだなあ」
ぼんやりとクリスマスを知っているシロへ、梛は丁寧に説明した。大昔の偉人の誕生日であること、今ではプレゼントを渡したり、ケーキを食べたり。
話の途中でそういえばと、梛は温かい飲み物をスーパーのビニール袋から取り出した。
「メリークリスマス」
温かいそれを貰ったシロは、嬉しそうに飛び跳ねて。
「また会うだろうし、その時に返してくれればいいよ」
梛はシロへマフラーを巻いた。
今日はクリスマスだったけど、特に予定はないし。そんな中で誰かとクリスマスぽい時間を過ごせたのは良かったかな。さて急いで身体が冷える前に家に帰ろう。
ストイックな梛は、シロと別れては足早に雪の世界を駆けて行った。
お約束をしていた通り、工藤・奏空(CL2000955)は賀茂たまき(CL2000994)の手を引いている。
いつまで経っても何故だか、好きな人とデートというものに慣れなくて、奏空の表情はどこか強張りながら、真っ赤になっていた。
たまきの希望もあり、ケーキバイキングのお店へと入っていく。店内に入った瞬間から甘い香りが漂い、そしてお菓子のようなピンク色の椅子に向かいあって座った。
ふとたまきは、簡易なメニューを開きながら奏空をじいっと見ていた。
(お好きなケーキは、なんでしょう……?)
こっそり、それをプレゼントして差し上げられたら……と、小さな企みをしていたところで、奏空が「たまきちゃん!」と顔をあげ、ケーキやお菓子があるコーナーへと二人で向かう。
「たまきちゃん、このケーキ、サンタさんが乗ってて可愛いよ!」
なんて奏空とはしゃぎながら、皿に盛ったケーキ。それを口の中に入れれば、自然と二人に笑みが零れていた。
温かい室内から外を見れば、ゆったりと雪が舞い落ちていく。それに反射するようにイルミネーションが煌き、夢のような世界に貴方といられることに特別を感じる。
ふと――そういえば、お付き合いを始めてから一周年。
ケーキバイキングをあとにして、
「奏空さんへのプレゼントがあるのです」
彼へ向き直ったたまきは、階段を上がって、彼を手招きした。
「いつも傍で支えて下さって、ありがとうございますね」
頭に「?」を浮かべながら、同じように階段をのぼってきた奏空の唇に、たまきの唇が重なった。
驚いたように身体を揺らし、反射的にたまきの手を両手で包み込むように触れた。お互いに恥ずかしくも思いながら、言葉さえ要らず、笑顔が全てを物語っていた。

寒空の下、雪はふわりと舞い落ちて。
暗い夜空の背景のなか、月明りに照らされた粉雪は淡く光を放っていた。
納屋 タヱ子(CL2000019)はふと、白い息を氷のように冷たい指先へと放った。その時ふと、見知った顔がこちらを見ていて、すぐに照れたようにそっぽを向いた。
「氷雨さん」
ぴく、と揺れた羽を有した少女は、観念したようにタヱ子へ向き合う。
「な、なによっ」
「先日の件……聞きました。その場に居た訳ではないのですけれど……」
ただ、ただ、良かったと。それは憤怒者であった氷雨の背中にある翼が、解決を物語っていただろう。
彼女に何かあれば、クリスマスにこんな気持ちでいられただろうか――わからないが。
「このところFiVEのお仕事も忙しくて電話もできませんでした……、七日どころじゃなく、四か月くらい後になってしまいましたけれど」
「い、いいのよっ、別に! お祝いなんて、いつでも、それこそ、クリスマスなんかじゃなくったって!」
どこか強がりな少女は、これでもタヱ子を気遣っているのだろうか。わかりにくい態度は常に高慢だが、しかし。
「今日この日に改めてお祝いを……メリークリスマス」
「めっ、メリークリスマス……」
タヱ子の呼びかけに、氷雨は髪の毛を指先でいじりながら答えた。
彼女の姉は――いや、今は言う事では無いのだろう。せめて、彼の兄と問題を解決してからでも――遅くはないのだから。
大辻・想良(CL2001476)はしんしんと降る、純白の綿の中、夜のお散歩である。
今は、ビルの屋上の柵の上に座り、見下げる世界はいつも以上に広がる光の庭であり、ちかちか点滅するネオンはリズミカルで心が弾む。
聖夜。
昨年も思えば、一人ではあった。父親は仕事だし……。
でもしかし、今年は一人では無い。想良の寂しげな背中にくっついていた守護使役の天が、服を引っ張りながら自己主張していた。
「いつも二人、だよね。ありがと」
天を抱きしめて、僅かな温かみを分け合う。凍れるように冷たい指先も、少しずつ体温を取り戻していくようだ。
その時、遠く背中のほうで、吼える声が聞こえた。
たたた、と走ってきた純白の犬、あ、違った、狼である。名前は、大神シロ。自称神様の古妖。
「フライドチキン食べる?」
箱を差し出し、鶏肉がこんがりきつね色に揚げられたそれを、シロは涎ぼたぼたぼたぁ!と垂らしてから、首を縦に振った。
「あれから、まんまるは…、…今日は、月が隠れてるから、大丈夫? まんまるが見えるってことは、目の中にいたりは、しないかな……」
瞳の中は、ふわり浮かぶ雪に照らされ光を放っていたが、元凶らしきものは見当たらない。
「思えば、キミとも長い付き合いなのだ」
そんなことを言い出す樹神枢。隣の野武 七雅(CL2001141)は一度目をぱちくりとさせた。
「メリークリマスマスなの!」
咲いたような七雅の笑顔に、安心感にも似たような感情が芽生えている枢。
二人は、五麟市のショッピングモールへと来ていた。普段の場所とは違い、クリスマスの飾りつけや、イルミネーションで幻想的な世界が広がるここ。
これがずっと続けばいいのに、と漏らした七雅に、枢も同じくそうだなと感じた。
「ずっとだと特別感がへっちゃうのかな?」
「そうかもしれないけれど、毎日がクリスマスも、楽しそうなのだ」
それから二人は色々な場所を廻るわけだが。
「枢ちゃんみてみて! サンタさんの恰好したぬいぐるみがいっぱいあるの! どれもかわいいの!」
「うむ、こっちは猫がサンタの恰好しているぞ」
「ほんとだ! あ、このクマさんふわふわであったかくて……一番かわいい顔してるの」
「ぬいぐるみにも表情があるのか?」
「これ、枢ちゃんのクリスマスプレゼントにするの」
「え? いいのか??」
七雅としては、クリスマス前に買っておきたかったのだが……なかなかどうして、いいものが見つからなかったのだという。
「あらためてメリークリスマスなの! これからもよろしくなの!」
「ああ! 僕からもメリークリスマスだぞ」
●
向日葵 御菓子(CL2000429)は毎年、恒例となったクリスマスコンサートを開く。
勿論、菊坂 結鹿(CL2000432)も一緒なのだが、そこに今年は樹神枢も一緒だ。
御菓子の旧友である演奏家たちに囲まれ、舞台の上で華々しく奏でる御菓子の姿は、普段目にする彼女とは遠くかけ離れていただろう。図書館で話をされている、精神の切り替えとやらがきっとここでも発揮されているのに違いない。
常連がスタンディングオベーションで拍手喝采を送るなか、こういう所は初めて完全に廻りの空気に飲まれている枢は挙動不審さもあったが、しかし演奏は素人の枢が聞いても上品で穏やか、かつ繊細なのはよく理解できた。
「御菓子は凄いな、結鹿」
「そうかな? へへ、お姉ちゃんのこと褒めてくれてるんだね」
隣で一緒に拍手をする結鹿と枢は、顔を見合わせてから微笑みを重ねた。
アンコールに応える御菓子を見守りながら、結鹿と枢は意地悪い笑みを浮かべていたとか。
暫くしてお茶会。
「さきほどの演奏は素晴らしかった、いや、それを伝える語彙が乏しく、すまないな」
「いいのよ、楽しんでもらえたなら何より!」
「お姉ちゃん!」
そこで結鹿と枢が同時に出したのは、サプライズのプレゼント。面食らった御菓子は、一瞬だけ驚いた表情を浮かべてから、すぐに笑った。
それは上手くいったようで結鹿と枢はハイタッチして喜びを表す。
「私からもあるのよ」
同じく御菓子はプレゼントを二人に差し出した。
「結鹿ちゃんに紅緋色のリボン、枢ちゃんにはヒイラギのチャームの付いた簪なの。喜んでもらえるかな?」
「もちろん、嬉しいのだぞ。ありがとう御菓子」
「私からもあるよ!」
結鹿は、今度は枢にプレゼントを出した。
「この間、サンタさんの洋服をきたテディベアがいいなっていってたんですよね」
「よく、覚えているな」
プレゼント袋に収まらないような嬉しさを抱いて、枢は泣きそうな表情でふたりに感謝を述べた。
昨年はお家で過ごしたクリスマスだが、今年は思い切って外出である。
「ほら、燐ちゃん……人が多いからね?」
柳 燐花(CL2000695)は、蘇我島 恭司(CL2001015)に手を引かれて歩いていく。
ネオンが飾る七色の世界、暗闇に完成された光のアーチは見る人の目を奪うものの――こうも人が多いと落ち着いてみるどころか。
「燐ちゃん、大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です……」
二人くらいの大きな人に挟まれて、それでも恭司の手を離さない燐花は立派ではあるのだが、どうみても大丈夫ではない。
ちょっとだけ考えた恭司、頬を人差し指で掻いてから、
「……燐ちゃん、ちょっとごめんね?」
繋いでいた手を反対側の手に繋ぎ変え、空いた手は燐花の肩に添えて。つまりエスコートするような形へと変わった。
「これだけ人混みだと、こうやってくっついて歩いた方が歩きやすいかな?」
ぽかん……と恭司を見つめた燐花の瞳。何が起こっているのか理解できていないというものだが、すぐに歩きやすくなったことに気づけて。
「あ、ありがとう……ございます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」
消え入りそうな声色で、恭司にそう訴えかけたのだ。
(どうしてここまでして下さるのですか?)
ふと浮かんだ疑問は、今は夜空に溶かしてしまいましょう。
とはいえ恭司も表面は平常だが、内心はパニックを起こしそうになっている。誤魔化すような微笑みに、しかし燐花は安堵していた。
まるで危ない橋でも渡る二人であるが、しかし辿り着く先は見えているのだろうか。お互いに守り、守られ、そしてその絆は空から降る真っ白な雪のように純粋無垢に満ち満ちていた。
麻弓 紡(CL2000623)が翼を広げて飾りつけしたであろう長身生木のクリスマスツリーが見守る四葩庵は、普段の賑わいを忘れ、静寂に包まれている。
灯は消え周囲は暗いものの。ローテーブルに置かれたライトが淡く照らし、夢の中か、星空の下のような幻想空間を作り上げていた。
「美味しかったですよ。見た目と味が反比例というサプライズには、びっくりしましたし」
時任・千陽(CL2000014)の落ち着いた声が儚く響き、それと一緒に珈琲の香り漂う茶器がテーブルの上で一度かちゃりと音を立てて置かれた。
少し甘めのカフェオレをお供に、紡は千陽の隣へと座る。
ふと、二度目のサプライズのように差し出されたのは、雪の結晶がお淑やかに煌くオーガンジーの袋。それを差し出した紡は、照れたようにはにかんでいた。
千陽は面食らって、身体を揺らしながらも受け取り、
「あ、そうですよね、クリスマスといえば、プレゼント、なんですよね。すみません、こう、なんというか気がきかなくて」
忙しく挙動不審でぽんこつな千陽が窓の外よりも遠くを見つめて立ち上がろうとしたが、
「明日……使ってくれたら、嬉しいな」
紡の言葉に、再び席へとついた千陽。
「手袋ですか……ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
ふと、甘い香り。紡の身体が千陽へと近づき、膝に手が置かれて支えにしながら、内緒話をするように唇を耳に近づけた。
「贈り物はいらないから……明日も、来年も、一緒にいてね」
「はい、明日も」
千陽だけに感じる――珈琲の香りに混ざる火薬の臭いや、紡の声と一緒に耳の奥で響く戦場の音。
戦争という状況に国家は狗吠の大義を望むのか。明日、生きているかもわからないというのに。
自傷気味に笑う千陽は、今日また約束という罪を重ねた。指切るような綾取りを悟られぬよう、千陽は瞳を閉じる。
「来年も……、ですね」
「今年もホワイトクリスマスか、活気が出てて良いね」
酒々井・千歳(CL2000407)は手の平に雪の結晶を受け止め、溶かしてから隣の水瀬 冬佳(CL2000762)へと言った。
彼女は普段通りの柔らかい笑みを浮かべながら、頷く。
「この日に雪が降るのは……偶然でしょうけど。でも、良いですね」
千歳は冬佳の指先まで冷え切った手を掴み、絡めて、歩んでいく。千歳は腕時計の針を見ながら、少し考え込むように瞳を細めた。
「レストランを予約をした時間には少し早いかな、店でも見て回ろうか」
「じゃあ、そうしましょう。見て回るのも悪くないです」
昨年は確か――冬佳へ服を選んでいた時間だろうか。あの時の服も、今も冬佳は大事にしているという。
そんな中、冬佳はネオン煌く幻想世界に瞳を輝かせていた。こんな中で、二人で歩んでいけるのはなんとも不思議な気分で、それが心地よい。
「……あれが良いかな」
ふと、千歳は目に留まったショーウィンドウで、エレガントに飾られた碧の色合いをしたショールを指さした。
さっと冬佳の手を引いて店に入り、そしてそれを購入。プレゼント用に可愛くあしらってもらってから、
「今日は何時もより少し寒いでしょ? 風邪を引いちゃいけないからね、とても似合ってるよ」
「――え」
千歳はそのまま冬佳へと手渡した。
突然のプレゼントに、冬佳の頬がほんのり赤く染まっていく。彼から沢山の嬉しさを貰ってばかりでいいのだろうか――悪い気がする裏に、隠せない喜びのほうが表情にはよく出ていて。
「その……ありがとう、酒々井君」
「どういたしまして」
いつまでも離れない手はもう温かみ帯びていて。そのままレストランへと向かった。
●
御白 小唄(CL2001173)はクー・ルルーヴ(CL2000403)の部屋に泊まることになった。
お布団を並べて、今は隣同士。お互いに、お互いを意識しながらどきどきと鼓動を高鳴らせていた。
とは言え、世間はクリスマス。そんな特別な日に、夜になったから帰りますというのも勿体ない気は大いにするのだ。
クーが隣にいる。それだけで小唄は満たされた気分になるのだが、状況が状況だ。
「一緒は、迷惑でしょうか?」
不安そうな、悲しそうな声色が響く。クーとしては、小唄と出会ってから弱くなってしまったと自身を嘆いていた。日本に売るまでは、一人で過ごすことなど毎日であったのに。
隣ではなく、向き合ってから、クーの瞳をじっと映す小唄。
迷惑とか、そういう気持ちでは無く。こんなに至近距離にいられると、先日の出来事を思い出して――そして、クーの不安そうな表情が相乗効果で小唄の心を締め付けているのだ。
好きなんだって。
ふと、クーは瞳を閉じた。この前、キスされたのは嘘なんかじゃなかったって思わせて欲しいのだ。
ちゃんとしてほしいのだ。だって、大事な『初めて』であったのだから。奪われたのは唇か、それとも心か。
「ん」
小唄はゆっくり、そして優しく、もう一度、キスをした。あの時と違うのは、もっと深くて、力強いキスであったこと。
それがクーにとって、女の子として、幸せな出来事で。長くも短すぎる一瞬の終わりに余韻を感じながら、小唄はクーを抱きしめた。
想いは言葉にできなくて、でもきっと、相手と同じことを思っているのだろうと確信し、直感し、そして信頼をする。
それが男女の在り方か。
そのまま一緒に布団へと倒れ、夢の中でもきっと一緒に――安心して、手を繋いで落ちていく。
水端 時雨(CL2000345)は月歌 浅葱(CL2000915)と共に、楽しくパジャマパーティである!
ベットの上に広げたお菓子の山と、炭酸やオレンジジュースなどのペットボトル。これだけでも胸が躍るのはなぜだろうか。
ケーキも蝋燭を刺して、クリスマスを祝うように火がぼんやりと揺れている。危ないからと、すぐに消してしまうだろうけれど。
淡い光に照らされたツリーが二人を見守っていた。
「あ、あれは用意しましたかっ。クリスマスといえば、これっ! 靴下ですよっ!」
どーんと大きな靴下を、どこからともなく出した浅葱。時雨は一瞬びっくりして身体を揺らしたが、頭の上に電球みたいなものが灯った。
「靴下っすか、時雨ちゃん用意してなかったっすね。でもそんな大きなのに入れたい欲しいものでなんすかね?」
時雨はポテトチップスをぱりぱり噛みしめながら、巨大な靴下を指さした。
ふふんと鼻を鳴らした浅葱。
「特にないですっ、しいて言えば、ノリですっ」
「ないんだ」
「でも時雨ちゃんにも予備の靴下があるのでこっちを差し上げますっ」
「じゃー時雨ちゃんのプレゼントは浅葱ちゃんでー!!」
「ふっ、プレゼントに貰われる方ですかっ、靴下には入りませんけどねっ!」
時雨は浅葱へと抱き着いて、二人一緒にベッドの上に倒れた。衝撃でポテチを入れていた皿がちょっとだけひっくり返っているがお構いなしだ。
予備の靴下をベッド脇に飾り、結局二種類の靴下をつりさげることとなっている。その大きな靴下には入りきらないくらいに、二人の友情は深まったと思っていいのだろう。
「楽しんで後は眠るだけっすね」
「ですっ、それまで一緒にだらだらしながら楽しみますよっ」
時雨と浅葱はにんまり笑ってから、一緒にクリスマスを楽しんだ。暫くして静かになったと思えば、時雨は夢の中。
こっそり、浅葱は時雨の靴下へとプレゼントを差し入れていく。中身は――秘密ですよっ。
天堂・フィオナ(CL2001421)は八重霞 頼蔵(CL2000693)の事務所でゆっくりしてから、街へイルミネーションを見に行くことにした。
「……では行くか」
と頼蔵が声をかければ、待ってましたと言わんばかりにフィオナの表情が明るくなっていく。
もちろん事務所でも頼蔵と居られて楽しいというものあるのだが、イルミネーションを観に行くのはそれはそれ、これはこれ。
頼蔵はそれの何がいいのかさっぱりという顔をしていたが、フィオナに気づかれないようにはしていた。覗き込む彼女の表情はなんとなく、何故だか読めない。せめて、楽しんでくれればいいもの。
街の中は、予想ついていたがカップルだらけである。所狭しとくっつきながら歩いていく男女に、何故だかフィオナの顔は赤く染まっていく。
しかし、ちょっと頼蔵のことを思えば、フィオナの表情は暗がりを見せた。
「この前そういう依頼もあったけど……貴方が誰を口説こうが、全っ然問題ないし何とも思わないんだぞ!」
まるで自分に言い聞かせるように零れた言葉に、頼蔵は表情こそ変えなかったものの、溜息を喉まで出かけて、飲み込んだ。
「全く……待って居給え」
離れていく頼蔵に、フィオナは更に落ち込んだ表情をした。ぽつんと残されて、何故だか泣きそうに。そうだ、何か温まるものでも持っていけばと顔をあげたとき。
ふと、頼蔵は屋台で手に入れたホットココアをフィオナの前に差し出していた。
「ありがとう……美味しい」
その表情を移り変わりは、ネオンの点滅を見ているより遥かに頼蔵にとって楽しいものである。
「君は……君の真っ直ぐな様で何所か歪な生き様は、とてもきらきらとしているからね、飽きないよ」
「歪んでるってどういうことだ? ……そう、なのかなあ」
フィオナは身体を頼蔵へ寄せながら、嘘でもいいから抱きしめて欲しいような気分に浸っていた。
「全部思い出した時、私が私でなくなっても、貴方が面白いって言ってくれた”私”がここに居た事……覚えておいて欲しい」
今日は、クリスマスイヴ。
『ともしび』でも、ささやかながらクリスマスパーティをしている。
しかし、獅子神・玲(CL2001261)はとても特別な日を特別らしく過ごせる気分ではなかった。
何故なら、飛騨・沙織(CL2001262)はずっと寝込んでいるからだ。先日の大きな妖騒ぎで、沙織は命をすり減らし、その後遺症で伏せ続けている。それだけならまだしも、彼女の心も具合がよくはなかった。
「……そうか。今はクリスマスだっけ……ごめんね、玲。クリスマスケーキ作る約束だったのにおじゃんにしてしまって」
弱弱しくしゃべる沙織の手を、掴んだまま物言わぬ玲。悲しみは海よりも深く、ぐるぐると廻っている。
手を繋ぎ続けるのは、彼女がどこかへ消えてしまわないようにだ。それが恐怖でしかない。これまであった何かが、ある日突然消えてしまう程衝撃的なものはない。
きっとその時は、心がぽっかり、穴あいてしまうのだろう。
「……大丈夫だよ。もう少し寝てれば回復すると思うから……玲、ありがとう。こんなに心配してくれて。泣かないでよ、もう」
知らぬ間に泣いていた玲の頬をぬぐった沙織。それがまた、彼女の優しさがまた、玲にとっては心に杭を打たれたようなのだ。
「でも約束して欲しい……来年のクリスマスは一緒に祝おう。その頃にはお互い高校受験とか忙しいけど……一緒の高校に通いたいから。だからお願い、早く、よくなって」
「うん……うん、約束。メリークリスマス、玲」
そんな時、葛野 泰葉(CL2001242)は扉をばーんと開けて入ってきた。
「いやぁ、メリークリスマス! サンタさんからの贈り物を届けに来たよ! ……何をお通夜みたいな雰囲気を醸してるんだね君達は」
仮面で表情は見えないが、怪訝そうな声色になった泰葉。施設の子供たちは皆素敵な笑顔と素晴らしい感情に満たされていた、それもプレゼントを贈った甲斐があるというものだが――ここの一部は切り取られたように暗い。
「全く……玲君も心配し過ぎだ。沙織君もじき良くなる。君がそんな雰囲気では治る者も治らないよ。さあ、パーティーに行きたまえ。ここ数日全くご飯食べてないのだろう? 少しは食べてきたまえ」
泰葉は玲を見送ってから、扉を閉めた。
「……さて、沙織君。話とはなんだい?」
「……泰葉さん、お願い聞いてもらえますか? 私が死んだら……玲の事頼みます。
自分の事は自分がよくわかってますよ……命数も魂も残り少ない。それ以上にもう自分の存在意義がわからない……だから。私が私である内に『決着』を付けたい」
「……そうか。俺はその約束はしない……けど、玲君の手助けくらいはしよう。沙織君、悔いのない『選択を』。俺はその選択を尊重するよ」
「……お願いします」
●
坂上 懐良(CL2000523)は丹羽 志穂(CL2001533)……それと一緒に樹神枢と大神シロも誘って猫カフェにいた。
此処は志穂の勤め先であり、今日は貸し切り状態。店は休業ではあるものの、猫たちは今日も愛らしく部屋の中で過ごしていた。
狼型のシロが猫に怯えられていた。古妖だからか。
シロはそのまま懐良の足下にすり付いていた。彼が用意したターキーの香りに釣られたのだろう。
「シロは、オレと同じように肉好きらしいな」
シロは尻尾を大きく振っている。遠くで枢は猫と戯れており、恐らく彼女はケーキ好きだろうと、うんうん頷いた懐良である。
そんな時。
「……ねぇ坂上、これ、サイズ間違えてないかな?」
志穂がサンタ衣装に着替えて戻ってきたのだが、その、なんというか、胸元のあたりが抑えられていて、ボディラインが綺麗に出てしまっている。スカートは太もものぎりぎりのラインを攻めていて、少しでも前屈みになればヒップが見えてしまいそうだ。
これはワンサイズ下なのでは? と顔を傾けた志穂。それに対して、懐良はこれ以上なく笑顔で、隠すこともなく顔を上下に振った。満足である。
同じくサンタ衣装の懐良は手際よく食事の準備をしつつ、枢も何か手伝えないかと隣に来た。そんな枢も、覚醒した大人の姿でぴちぴちのぎりぎりサイズのサンタである。最早懐良の楽園が構築されている。
「樹神は、とっても似合ってるよ。サンタに猫耳。すごく可愛い」
「そうですか……? それは、とても嬉しいです」
屈託ない笑顔、だがサイズはワンサイズ下だ。
人型になったシロは、トナカイ衣装になりながらターキーを待ちきれないと臭いを嗅いでいる。
「お腹すきました」
シロのお腹がぐーっと鳴ったので、志穂は苦笑しながらシカの角の生えた頭を撫でた。
「気を取り直して、パーティだね!」
衣装でちょっとした事件は発生しているものの、暖房のよく効いた部屋でパーティは始まった。
「シロ、チキンもケーキも用意したから、たんと食べて欲しいな」
「うん」
シロはチキンをもぐもぐ咀嚼しながら、頬が赤くなっていた。美味しいのだろう、無心に食べ続けている。
「樹神も、あーん」
「はいっ、あーんです」
枢は志穂が切り分けたケーキを口で受け、楽しそうに笑った。
「坂上も、甘いのは平気?」
「そりゃあもう!!」
と言いながら懐良の鼻の下は伸びていく。ふと、志穂は反応が気になって、あーんと一緒に腕にたゆんと胸を押し付けて、意地悪く笑った。
ふと、思考が停止したように止まった懐良だが。しかし彼の頭のなかはフル回転し最適解を導き出すために暫くそのまま停止していた。
椿屋 ツバメ(CL2001351)はシロを散歩がてら、街の散策。
「シロ、そろそろこの街には慣れたか?」
「うん、それなりに」
狼型なら尻尾を振っていただろう、上機嫌のシロはツバメにしっかり手を引いてもらいながら街のネオンの中を珍しく見回していた。
そんな色々なものに興味を持っているシロの姿は、ツバメにとって微笑ましく映る。
あれはなに、これはなに、とふつうの子供のようにはしゃぐ姿は、同年代の子供たちと何が違うというのだろう。
夜。
イルミネーションが一望出来る場所へと移った一人と一匹。
「これから点灯するぞ」
とシロの小耳に言葉を挟んでみるが、シロはそれがなんのことか分からず首を傾げていた。
しかし、無知識もすぐに解消されるもの。前方に広がる、様々なイルミネーションの光景、次々と色が変わるネオンの煌きに、お互いに心を躍らせていた。
そんな時、ツバメのお腹が鳴ったのをシロは聞き逃さない。
照れ隠ししながら、膝を折って目線を同じくらいにし、シロの手を再び握るツバメ。
「今日は奢る。肉を食べに行くぞ!」
「おにく!」
二人でステーキ屋さんを探しに、再び煌きの街を歩いていく。
三島 柾(CL2001148)は逢魔ヶ時氷雨と買い物に来ていた。
隣で歩く氷雨はどこかぎこちない表情を浮かべながら歩いているのは少し気になる。
「体調はどうだ?」
「うん……大丈夫よ。あ、ありがとう……その、た、助けてくれ……て」
氷雨はお礼が言いたかったのだろう。しかし、彼女の嫌に強気な性格が素直さを見せなかっただけで。柾は笑いながら、翼を指さした。
「翼は馴染んできたか?」
「まだ……ちょっと変かも。あることを忘れて、よく潰してしまうの」
「妹も翼の因子なんだが最初は違和感があったらしく、馴染むまでは不思議そうに背中見ていたからな」
「そうね、私も今そんな感じになってしまっているわ」
氷雨は背中にある純白の翼を揺らした。
お昼ご飯を共にしてから、賑やかさを見せる街並みと平行に歩いていく。
「氷雨は、何か欲しいのあるか?」
「えっ!? な、ないよぅ!! その……あ、でも、いやいやっ大丈夫!!」
なんでか遠慮していた。
「それよりこんな、沢山迷惑かけっぱなしの、私になんかプレゼントあげてどうするのよっ!」
「あげたいと思っただけだから、気にするな」
「き、……気にするわよっ」
「どうしてだ?」
「ぷ……プレゼント、貰われ慣れてないだけよ! 言わせないでっ」
ぷいっとそっぽを向いた氷雨。怒っているわけでは無くて恥ずかしいのだろう。思えば彼女のことを思えば、誰かに何かを貰えたことが今までに一回でもあったのだろうか。いや――。
ふと、氷雨はウインドウディスプレイに瞳奪われ、硝子におでこを張り付けていた。
あ、やっぱり欲しいものあるんだなと瞬時に悟った柾。覗き込んでみれば、キラキラ輝く髪飾り。
「あれ、ちょっと綺麗かも……」
「じゃああれにしよう」
「え!?」
ということで、即店内に入って購入。からのプレゼント。
辛い事や悲しい事は、いつだって突然やってくる。だからそれと同じくらい、楽しい思い出を少しでも作ってやりたい。
その思いと共に、氷雨の頭に咲いた青色の花がついた髪飾り。
「ありがと……なんか、家族ってこういう感じかな?」
●
「今年もまた随分と雪が積もったな」
「本当ね、一面真っ白!」
天原・晃(CL2000389)の隣で宇賀神・慈雨(CL2000259)は両手の平を重ねながら笑顔を作った。
まるで雪に溶けてしまいそうな程に儚い色彩の彼女と、一面の真っ白な雪は、重ねて見れば神秘的であり、妖艶ともとれる。そんな彼女と今年も一緒に過ごせることが、晃にとってこの上ない幸せであった。
それは勿論、慈雨にとっても同じことで。二人の距離は、腕が触れ合う程に近い。
「……ふむ、作ってみるか? 雪だるまでも」
「寒いの得意よ、喜んで付き合うの」
晃の申し出に応える慈雨は無邪気に雪を掬ってから、丸めていく。こんなのを作るのは本当に久しぶりの出来事で、指先が赤らんでいくのも気にしない程だ。
大きいのが一つ、中くらいのが一つ。小さいのは、二つくらい作る予定のその途中。
晃の指先の赤さに気づいた慈雨は、その手を取って、ぎゅっと握りしめて体温を分け合う。晃も同じく、細い慈雨の指先に吐息を送れば、自然と指先の赤みのように慈雨の頬も朱に満ちていた。
「よ、し…… こんな物か?」
原型の、丸い形が大きな丸に乗っかり、雪だるまの形はできたところ。
晃が腕のようにつけた枝に、慈雨は手袋をはめてやり、そこらへんに落ちていた赤い木の実を目の位置に置いたり、歯で鼻と口を演出したり。
気づけば複数の雪だるまに表情ができて、見た目はきちんと雪だるまらしく完成していた。
「中々良い出来栄えの物が出来たんじゃないかと自負するが、どうか。いい家族だろう?」
「大きさが違うなって思ったけど納得したの、うん、素敵な家族!」
これは祈りが込められた、家族の雪だるま。
「俺もまた父や母の様な暖かい家庭を作りたい、そう思ってな」
「……晃なら作れるよ、絶対に」
雪だるまの家族は、明後日の昼頃には雪解け水となり流されてしまうのだろう。
しかし、思い出としていつまでも残るこの家族の有様に、慈雨は願う。
どうか、どうか、この人に温かな未来がありますように。願わくば、隣に私がいられますように――
切裂 ジャック(CL2001403)は諏訪 奈那美(CL2001411)とショッピングモールへと来ていた。
「孤児院の子達にプレゼント? そりゃ、とってもええことやんな。てか孤児院なんか行ってたのか? なんか、お前も大変やってんやな」
ジャックの言葉に一部、奈那美は首を横に振る。
「私自身がお世話になっていた訳ではありませんが、親がいないというのはやはり寂しいものですので、一助になれば良いかと」
好きでやっているので、と奈那美は付け足した。それはそれはとても素晴らしい事であると、まるで勇者でも見る目線でジャックは奈那美を映していた。それでは協力しない訳はない。
「ふーん。おけおけ! これとかどう?」
ジャックはサンタの恰好したクマの人形を持った。大きさは子供が抱けば、お腹にすっぽり収まるくらいのサイズ。愛嬌のある顔だが、人形の表情が個々によって違うのがポイント。
「男の子は……」
そういえばと、ジャックは。ばっちゃはお守りをくれたなあ、と追憶の日々を思い出しながら、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「ま、男の子は順当にプラモとかか?」
「なるほど、羽虫にしては悪くないセンスですね。犬に格上げしてあげます」
「やっと哺乳類かよ」
ふと、ジャックは奈那美の髪に星の形をした髪飾りをかけてみた。黒の背景一色に満たされた彼女であるからこそ、目立つ髪飾りである。
「む、いきなり人の頭にヒトデをつけるとは何事ですか」
「これがヒトデに見えるのかよ。これお前にやるよ、プレゼント」
「ああ、星なのですね」
クリスマスだから、奈那美も祝福されるべきなのだ。いつも真っ黒ではなく、ひとつくらい華やかなものがあってもいいだろうと。
しかし奈那美はジャックへブレスレットを渡した。同じことを考えていて、非常に癪ではあるものの。
「メリークリスマス、ななみ」
「メリークリスマス、切裂くん」
その時だけ奈那美の表情が柔らかく微笑した。
(斗真さん……紫雨さん……私は信じています。いつか必ず一緒にこの日を迎えられる事を)
神城 アニス(CL2000023)は家族とクリスマスを迎えた、本当は――例え敵であろうとも、あの人と一緒にクリスマスを迎えたいのだが。
その気持ちを心の中の秘密の宝石箱に押し込んで、今は屈託のない笑顔を浮かべている。
そして、その時のためにお料理の勉強も必須だと気合をいれた。特にオムライスは彼の好物、とりあえずそこから集中的に努力するのだ。
「……ふぅ……流石に作りすぎてしまったでしょうか?」
七面鳥、ケーキ、パスタ、コンソメスープ、オムライス。張り切って作ってしまい、逆に張り切り過ぎただろうか。
家族はもう少しで帰宅するだろう。その前に部屋に飾り付けをしておこう。
今宵はクリスマス。どうか皆さんに素敵で特別な聖夜が訪れますように……。私もこのお祝い事を精一杯楽しみます!
多分その頃、斗真も同じようなこと考えていたよ、たぶん。
氷門・有為(CL2000042)は偶然にも逢魔ヶ時氷雨と接触していた。
普通に道端を歩いていたら、鉢会った、という形である。氷雨は一瞬隠れようと電柱の裏に逃げていたが、モロバレ。即座に出てきて、顔を赤らめていた。
「げ、元気? こ、こんなところで何してるのよ、暇ね!」
氷雨の表情がどこかぎこちない。
「まあ、私はこれからミサに行く為に外に出たわけですが。家がそうでしたし、色々事情があって習慣になってる感じですね」
「そ、そう?」
なんとなく一緒に歩いていく。何故か距離は近く、言葉では辛く当たられているようだが照れ隠しと、懐かれているのだろう。
「……、実は内心結構気になってる事がありまして」
「な、なによっ」
「この前、割と感情的になってしまった事もあって」
「あったっけ?」
――本来なら、口に出してはいけない事まで言ってしまったのではないかという懸念があり彼女が覚えていないならノーカンかなと思う有為。
それは恐らく氷雨には難しいものであったかもしれないが、隣でちょっと笑ってくれているのは嫌な気がしない。
有為としては、魔法の言葉『あんたの事なんて全然気にしてないんだからね』が効かなくなっている感もあり危機感を覚えている。来年のクリスマスのときにはどうなっているか、今から考えても遠すぎるか。
●
焔陰 凛(CL2000119)はお昼、公園のベンチに座っていると、人型の姿で歩いている大神シロがいた。
呼びかけてみれば、耳がいい彼はすぐに振り向き、いつもの無表情のような顔のまま走り寄ってくる。
「シロは本部のパーティ行くんか? あたしはこれからライブハウスでクリスマスライブやねん。シロも招待したいけど子供も動物も入場でけんからなぁ」
「動物はだめ? 仕方ないです。また今度、路上とかでも……」
遠慮気味に微笑む凛は、エレキギターを見せてみる。シロはそれをじいっと見つめながら、少し残念そうにしていた。
ふと、歩き出した凛の後ろをついていくシロ。自販機がガタン!と音をたてながら、温かい飲み物がふたつ落ちてくる。その一つを、シロは受け取った。開け方が、わからないみたいだったのを開けてやった。
「もう五麟には慣れたか?」
「うん。それなりに」
しかし凛たち周囲はカップルばっかりで、まさにクリスマスという雰囲気。
「シロもいつか好きな子が出来て結婚とかするんかな? そん時は是非式に姉ちゃんも呼んでや。所でシロはどんな女の子がタイプなん?」
「女性……考えたこと、ありませんでした。が、ボクは人狼なので、種は残さなければいけないので、健康的な女性がいいです」
タイプとかはまだよくわからないと、ちょっとだけ頬を赤らめていたシロであった。
「ちなみにあたしは自分より強い男やな!」
「自分より、強い。じゃあ、強くなりますね、ボク」
冷える手を、吐息で温める東雲 梛(CL2001410)。
「梛!」
どん、と膝当たりに違和感と思えば、大神シロがぎゅうっと梛の足を抱きしめていた。唐突だなあ、と梛は苦笑まじりになりながら、シロの頭を撫でた。
「元気そうだね。ここには慣れた?」
「うん。それなりに」
シロは梛の足から離れたシロは、梛の隣について一緒に歩く。ネオンに輝く世界はシロにとって珍しいものであるようで、瞳は忙しく動いていた。
「そういえば今日はクリスマスだけど、シロはクリスマスを知ってる?」
「ちょっとだけ。特別な日? なのでしょうか」
「そうだなあ」
ぼんやりとクリスマスを知っているシロへ、梛は丁寧に説明した。大昔の偉人の誕生日であること、今ではプレゼントを渡したり、ケーキを食べたり。
話の途中でそういえばと、梛は温かい飲み物をスーパーのビニール袋から取り出した。
「メリークリスマス」
温かいそれを貰ったシロは、嬉しそうに飛び跳ねて。
「また会うだろうし、その時に返してくれればいいよ」
梛はシロへマフラーを巻いた。
今日はクリスマスだったけど、特に予定はないし。そんな中で誰かとクリスマスぽい時間を過ごせたのは良かったかな。さて急いで身体が冷える前に家に帰ろう。
ストイックな梛は、シロと別れては足早に雪の世界を駆けて行った。
お約束をしていた通り、工藤・奏空(CL2000955)は賀茂たまき(CL2000994)の手を引いている。
いつまで経っても何故だか、好きな人とデートというものに慣れなくて、奏空の表情はどこか強張りながら、真っ赤になっていた。
たまきの希望もあり、ケーキバイキングのお店へと入っていく。店内に入った瞬間から甘い香りが漂い、そしてお菓子のようなピンク色の椅子に向かいあって座った。
ふとたまきは、簡易なメニューを開きながら奏空をじいっと見ていた。
(お好きなケーキは、なんでしょう……?)
こっそり、それをプレゼントして差し上げられたら……と、小さな企みをしていたところで、奏空が「たまきちゃん!」と顔をあげ、ケーキやお菓子があるコーナーへと二人で向かう。
「たまきちゃん、このケーキ、サンタさんが乗ってて可愛いよ!」
なんて奏空とはしゃぎながら、皿に盛ったケーキ。それを口の中に入れれば、自然と二人に笑みが零れていた。
温かい室内から外を見れば、ゆったりと雪が舞い落ちていく。それに反射するようにイルミネーションが煌き、夢のような世界に貴方といられることに特別を感じる。
ふと――そういえば、お付き合いを始めてから一周年。
ケーキバイキングをあとにして、
「奏空さんへのプレゼントがあるのです」
彼へ向き直ったたまきは、階段を上がって、彼を手招きした。
「いつも傍で支えて下さって、ありがとうございますね」
頭に「?」を浮かべながら、同じように階段をのぼってきた奏空の唇に、たまきの唇が重なった。
驚いたように身体を揺らし、反射的にたまきの手を両手で包み込むように触れた。お互いに恥ずかしくも思いながら、言葉さえ要らず、笑顔が全てを物語っていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
