【攫ワレ】人体実験の行われる家
●研究者が出入りする家屋
以前、『F.i.V.E.』の覚者達が壊滅に追いやった、人身売買組織『テイク』。
そこは、攫って捕らえた覚者の販売を繰り返すチンピラの団体だった。その実、七星剣幹部、『濃霧』霧山・譲らが操る組織に操作されていた下部組織……らしい。
覚者達は売られた覚者の行く末を調べているうち、『カーヴァ生体工学研究所』にいきつく。研究者達は買い取った覚者を人体実験することで、生体工学について研究を進めていた。
先日、AAA所属鬼頭三等の力を借り、人身売買罪、逮捕・監禁罪容疑で所長コーディ・カーヴァ以下所員数名を拘束すべく、覚者チームが突入したのだが……。
結果、所員達を拘束した上、子供の覚者数名を保護したものの、所長カーヴァと、副所長・静永を取り逃がすこととなり、彼らに覚者の少女を連れ去られてしまった。
「依然として、その少女については、手がかりがつかめぬ状況が続いておるのじゃ……」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)がすまなさそうに覚者達へと告げる。
連れ去られた少女はなおも、研究と称した非人道的な責め苦を受けているだろうが……。現状は情報がなく、手の打ちようがないとけいは語る。
「じゃが、ほんの小さな手がかりを発見したのじゃ」
けいが取り出したのは、以前覚者の1人が確保した領収書。そのうちの1枚には、宛名が『清水』と書かれてある。
「これと、筆跡が非常に似ておっての」
もう1枚の領収書には、『カーヴァ生体工学研究所』とある。けいが言うには、その筆跡は筆跡鑑定によると同一人物である可能性が極めて高いのだそうだ。
さらに、けいは以前夢見の力で、この清水という家の内部にて命の危機に瀕する覚者の少年を視ていた。そこには、研究所の副所長、静永の姿があったという。
「AAAに家宅捜索の令状を取ってもらっておるから、踏み込むことはできそうじゃ」
家屋内は狭くて、戦いに向いているとはお世辞にも言いがたい。後々、調査を行うのであれば、庭に敵をおびき寄せて戦うなどしたいところではある。
「調査はもちろん行いたいのじゃが、やはり、攫われた覚者の保護を優先させたいところじゃな」
後はできればといったところ。もちろん、ここでの情報は後に繋がる可能性も高い。
「こちらは追って、コーディ・カーヴァと少年の捜索を続けるのじゃ。お主らは少年の保護を……」
けいは小さく、「お願いするのじゃ」と続け、覚者達の手をとるのだった。
以前、『F.i.V.E.』の覚者達が壊滅に追いやった、人身売買組織『テイク』。
そこは、攫って捕らえた覚者の販売を繰り返すチンピラの団体だった。その実、七星剣幹部、『濃霧』霧山・譲らが操る組織に操作されていた下部組織……らしい。
覚者達は売られた覚者の行く末を調べているうち、『カーヴァ生体工学研究所』にいきつく。研究者達は買い取った覚者を人体実験することで、生体工学について研究を進めていた。
先日、AAA所属鬼頭三等の力を借り、人身売買罪、逮捕・監禁罪容疑で所長コーディ・カーヴァ以下所員数名を拘束すべく、覚者チームが突入したのだが……。
結果、所員達を拘束した上、子供の覚者数名を保護したものの、所長カーヴァと、副所長・静永を取り逃がすこととなり、彼らに覚者の少女を連れ去られてしまった。
「依然として、その少女については、手がかりがつかめぬ状況が続いておるのじゃ……」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)がすまなさそうに覚者達へと告げる。
連れ去られた少女はなおも、研究と称した非人道的な責め苦を受けているだろうが……。現状は情報がなく、手の打ちようがないとけいは語る。
「じゃが、ほんの小さな手がかりを発見したのじゃ」
けいが取り出したのは、以前覚者の1人が確保した領収書。そのうちの1枚には、宛名が『清水』と書かれてある。
「これと、筆跡が非常に似ておっての」
もう1枚の領収書には、『カーヴァ生体工学研究所』とある。けいが言うには、その筆跡は筆跡鑑定によると同一人物である可能性が極めて高いのだそうだ。
さらに、けいは以前夢見の力で、この清水という家の内部にて命の危機に瀕する覚者の少年を視ていた。そこには、研究所の副所長、静永の姿があったという。
「AAAに家宅捜索の令状を取ってもらっておるから、踏み込むことはできそうじゃ」
家屋内は狭くて、戦いに向いているとはお世辞にも言いがたい。後々、調査を行うのであれば、庭に敵をおびき寄せて戦うなどしたいところではある。
「調査はもちろん行いたいのじゃが、やはり、攫われた覚者の保護を優先させたいところじゃな」
後はできればといったところ。もちろん、ここでの情報は後に繋がる可能性も高い。
「こちらは追って、コーディ・カーヴァと少年の捜索を続けるのじゃ。お主らは少年の保護を……」
けいは小さく、「お願いするのじゃ」と続け、覚者達の手をとるのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.覚者の少年の救出。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
前回の研究所に関して、
領収書を元に、別の場所の捜索に着手したのですが……。
思わぬ進展があったようです。
●状況
清水家と表札が掲げられた洋風の家屋です。
住宅地にそれなりの敷地を持ち、広い庭園もあります。
一見すると、なんの変哲もない二階建ての一軒屋です。
外からは分からぬ場所に研究室が隠されており、
そこにいる研究員が3名が覚者の少年に対して、
何らかの人体実験を行っております。
いずれも隔者で、覚者の姿を認めると襲い掛かってきます。
突入時、家主の姿は内部にありません。
●敵
○研究員……3名。いずれも30代くらい。
白衣にメガネの男性2人と、ショートカットの女性1人。
・男性……後衛、彩×水、氷巖華使用。
・男性……前衛、獣(未)×火、圧撃・改使用。
・女性……中衛、怪×木、棘散舞使用。
いずれもハンドガンを所持。
覚者としては、皆様と同等の力を持っております。
また、表記した弐式スキル以外の壱式スキルを
使用する可能性もあります。
また、捕らわれの覚者の少年が1人います。
○簗鶏・幸也(やなとり・ゆきなり)14歳。
翼×火、火焔連弾使用。ハンドガンを握らされています。
研究者に脅され、攻撃してきます。
皆様と同等レベルの力よりもやや強い力を振るってきます。
彼の首元には、金属製の枷が嵌められております。
前回の依頼に使われていたものと同様で、
体に強い電撃が走るものと思われます。
研究員の誰かがスイッチを握っていると思われますが……。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年11月30日
2016年11月30日
■メイン参加者 8人■

●捕らわれの少年
F.i.V.E.の覚者達は、夢見で視えたという家へと向かう。
「生体工学研究所ね。ガキ捕まえて人体実験たぁ、悪趣味だ」
「よくもまぁそんなことが出来るよな。自分だって同じ覚者なのによ」
カーヴァ関連事件初参加の『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)は、依頼書に目を通して悪態づく。『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466) は苛立ちを募らせていたようだ。
「さらわれたガキの行方もわかってねーみてえだし。蛇の道は蛇、裏社会に通じた俺の出番ってわけか」
煙草をくわえながら、誘輔はにやりと笑う。
「あの研究所以外にも、実験設備あんのか……。あいつら、どんだけ研究所持ってんだよ」
まさか個人宅で怪しげな実験をしているなんてと、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063) はうんざりとした表情をする。
「清水と静永……何となく字面的に似てる気がするわね」
その家は、『清水』という表札が掛かっているという。偽名にしては少々安直過ぎると、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は考えていた。
「いずれにせよ、そこの子は必ず助け出すわ」
「此処にも、囚われた子供がいるのですね」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)もまた少年の救出をと意気込み、その家を前にする。
「攫われて散り散りになっていた内の一人がこの家に……。早く助けに行かないと」
『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328) は改めて、その少年の名を確認する。
『簗鶏・幸也』。研究所より連れ去られた少女の苗字もまた、簗鶏といった。
「連れてかれた子の兄妹かな。この調子だと、他にもあるんだろうねえ。こういうの」
緒形 逝(CL2000156)はそれを調べる為にも、様々な資料を調べたいと考えるが、それより先に……。
「子供を捕まえて人体実験するなんて、悪の組織そのまんまやん」
「非道な行いをしている者には鉄槌を。そして、己の意に添わぬ事をさせられている少年を、何としても救い出さなければ!」
茨田・凜(CL2000438)もいのりも、捕らわれの少年、簗鶏・幸也の身を案じ、その救出を誓う。
「こうなったら全部潰す! 幸也って奴も絶対助けなきゃだよな!」
「連中は覚者の姿を見りゃ勇んで出張ってくる。なら、裏工作はいらねーな」
翔は意気揚々と、誘輔も正面から堂々と殴りこみをと考え、その家に入っていった。
中はあまり、生活観らしいものを感じさせない。ただ、暮らしているだけというか……個性を感じさせない内装だ。
ここに、隔者……研究員が詰めているはずだ。出来るならば、後々の調査の為に家屋内での戦いは避けたいところではあるが……。飛馬は内部に罠が張られていないかと気にかける。
「所々に、カメラが設置されているね」
守護使役の力で家屋内の偵察を行う亮平が言うように、その所々には赤外線センサーやカメラが設置されていた。
飛馬やエメレンツィアは発見したカメラを破壊、センサーは凜がエレトロテクニカで対処し、スムーズに解除していたようだ。
8人が同時に侵入すれば、穏やかとは行かない。敵も覚者の侵入に気づいている可能性は高いが……。
「外から分からぬ場所に研究所があるって、やっぱり地下?」
そう呟く凜。逝や翔も地下の可能性を疑う。研究所においても地下で怪しげな実験を行っていたことからも、その可能性は拭えない。凜は床下の階段、庭の枯れ井戸などの可能性を示唆し、懐中電灯などで隅っこの見落としがないようにとチェックする。
しかし、メンバーが思う程、複雑な構造をした家ではなさそうだ。
「ん……?」
一般家屋を多少改築してはいるようだが、家の間取りの中に隠された大きな空間を翔の透視が見逃さない。いのりも守護使役の力を借りて匂いをかぎ分け、同じ場所から薬品の匂いを感じていた。
「どうやら、密室があるのは間違いないね」
壁に覆われた場所から、逝も感情探査で複数の研究員らしきものと、少年の恐れに似た感情を感じる。
「おし、そんなら……」
逝の指す方向に翔が物質透過すると……、その先には3人の研究員とベッドの上で首輪を取り付けられた少年の姿があった。
「F.i.V.E.か……」
研究員達はすでにこちらの素性を知っていたらしく、覚者達の侵入に構えてすでに覚醒していた。
翔はすぐさま研究室のドアから出ようとするが、開かない。迫る敵から逃れる為に彼は再び物質透過で外へと出ると、研究員達はレバーを操作し、外側の家具を移動させてドアを開いてから追いかけてきた。
「待て!」
研究員はハンドガンを発射しながら近づいてくる。壁が多少破壊されてもお構いなしだ。
そのタイミングで、覚者達もまた覚醒していた。大人の姿となった翔は波動弾を飛ばしながら後退し、仲間に合流する。
「人の道に外れた行いは許しませんわ!」
いのりも大人の姿となり、相手の行いを非難しながらも後ろへと下がる。
メンバー達は不利を演出してじりじりと下がり、家の中での戦闘を避けようとしていた。この家には、姿を眩ましている研究所の所長らの手がかりがあるはずなのだ。
(貴重な資料を失うわけにはいかないわ)
また、英霊の力を引き出すエメレンツィア。覚者研究をライフワークとしている彼女は、この家にある資料をF.i.V.E.に持ち帰りたいと考えている。
逝は下がりながらも送受心を使い続ける。研究員に引き連れられた少年と意思疎通を図る為だ。
(安心しろ。俺らが絶対助け出してやるからな)
その少年へ、飛馬が逝を介して呼びかける。しかしながら、研究員に脅されているのか、少年は言葉を返そうとはしない。
メンバー達は家から出て庭へと回ると、研究員達が追いかけてきた。
比較的広い敷地に建てられた家ということもあり、庭も交戦できるスペースがある。もっとも、草刈りなど行われておらず、足を覆う程度に雑草が生えていたが……。
誘輔は仲間と共に布陣し、改めて攻撃態勢を整える。髪を赤く染めたエメレンツィアは水竜を呼び寄せた。
「悪事を働くものは皆、この女帝の前に跪かせてあげるわ!」
「待ってろよ、今助けてやるからな!!」
翔は捕らわれの少年へと呼びかけ、本格的に研究員を倒しにかかろうとする。
「お前もやるんだ、……いいな?」
研究員に脅された少年、簗鶏・幸也は頷き、ハンドガンを握って翼を広げて覚者へと襲い来るのだった。
●少年の保護を……!
主不在の清水家の庭で、戦いが始まる。
「研究材料は渡さんぞ!」
研究者達もこちらの目的は把握しているようで、覚者を排除しようとする。ハンドガンの攻撃に合わせ、それぞれ術式も合わせて行使していた。
特に、前に立つ羊の角を生やした研究員の攻撃は脅威だ。自らの炎と空気を融合させて放つ一撃は覚者を苦しめる。
この為、逝は周囲の土を鎧のように纏って身を固める。飛馬も前に立ち、岩を纏って防御力を高めて敵の攻撃に備えていた。
(どいつだ……?)
逝は研究員に視線を走らせる。少年の首に取り付けられた首輪。そこから発する電撃を制御するスイッチを、研究員の誰かが所持しているはずだ。
翔は攻撃をせず、透視を使って注意深く研究員を観察する。すると、中衛の女性研究員の右ポケットに何か四角いものが入っているのに翔は気づく。
「あいつがスイッチ持ってんぞ!」
翔が女性研究員を指差すと、メンバー達はそいつへと狙いを定めていた。
しかしながら、敵もそれがすぐ分かると、幸也を前面に出してくる。
「ごめん……っ!」
電撃の恐怖に怯える幸也は、拳大の炎を連続して飛ばしてくる。
優しき力の加護に護られる逝がそれを受け止めるが、威力は決して小さくはない。
「ん……っ」
その身が焦げる苦痛に、彼はうめき声を上げる。
亮平は蛇の瞳で女性を見定め、気弾を発した。敵と判別していない幸也を避け、それは女性だけに命中する。だが、彼女もやすやすとスイッチを手放しはしない。
幸也の解放に当たっては、凜が臨む。守護使役ばくちゃんに首輪を食べさせられれば早いが、迂闊に近づけば敵の銃弾で蜂の巣にされてしまう。
その為、凜は敵の攻撃に配慮しながら仲間に水のベールを纏わせ、研究員に霧を発して支援に当たっていく。
(おなかだけには被弾しないように、気をつけるんよ)
後方にいるとはいえ、立ち回り次第では敵の術式や銃弾に命中してしまう。新たな子をその身に宿す凜は、それらを上手く避けるようステップを踏む。
回復にはエメレンツィアが当たっていた。彼女は最初こそ放った水竜で研究員達を飲み込んではいたが、敵とて思った以上に覚者としての力を使いこなす。この為、エメレンツィアは次第に滴や雨を仲間に振りまき続けることとなる。
研究員の猛攻。女性が狙われていると知り、男性2人も果敢に攻め立ててくる。羊の研究員は拳に炎を乗せて殴りかかってくるし、彩の男性は氷柱を発して覚者達を貫いてきた。
それを飛馬が率先して受け止め、2本の刀で術式を切り裂いて見せた。
「巌心流の剣は術式だって斬り裂く。後学の為に覚えとくといいぜ」
飛馬はさらに研究員達の前に出て、仲間の盾となる。
ただ、後方で相手に霧を振りまくいのりへと氷の柱が貫通して飛んでくる。
「うっ……!」
その痛みに耐えるいのり。幸也はきっと、この数倍もの痛みを心に感じているはずだ。
だから、いのりは笑って言葉を掛ける。
「貴方の痛みも哀しみも、きっといのり達が取り除いてみせますわ。待っていてくださいませ!」
声は必ず届いているはず。そして、いのりは少年へと理不尽な仕打ちを強いる研究員達へと光の粒を降らす。
(操られているだけの覚者のガキを、傷付けるわけにはいかねえ)
誘輔も機関銃を構え、女性研究員へと目いっぱい弾丸を浴びせかけていく。
幾度か攻防を繰り返すうち、集中して攻撃を受けていた女性研究員が膝を突く。
翔が女性研究員のポケットを狙って波動弾を放つと、そいつは意識を失い、スイッチが地面に転がる。男性研究員2人がそれを回収する前に翔がすかさず駆け寄り、スイッチを取り上げて叩き潰した。
ただ、スイッチを破壊したからといって、幸也の攻撃は止まらない。首輪が彼を拘束し続けており、体に染み付いた研究員への恐れを取り去ることは出来ないのだ。
「もういい、いいんだ……!」
亮平が呼びかけるが、幸也は目を背けながらも炎の塊を放ち続ける。とはいえ、攻撃を続ける彼にも戸惑いが見受けられ始めていた。
前衛の羊の研究員は逝や飛馬が抑えてくれている。ならばと、エメレンツィアが回復の手を止めて敵陣へと飛び込み、そのまま幸也を取り押さえようとした。
「少しの我慢だから、暴れないで頂戴。そうすれば、もう苦しまなくて済むから!」
ただ、だからといって幸也は攻撃を止めない。ハンドガンを発射し、彼女の体を撃ち貫いてしまう。
そこで、凜が駆け寄り、幸也を拘束する首輪をばくちゃんに食べさせてしまう。
「これで、大丈夫なんよ」
「こんな子供を私利私欲で利用して……」
キッと睨むエメレンツィアに、研究員達は怯む。
しかしながら、彼らは幸也を取り返す為か、さらに攻勢を強める。発射される弾丸を、飛馬が身を固めつつ受け止めていた。
「下がっていて」
仲間が戦線を持たせてくれる間、亮平が庇うようにして幸也を後退させていく。
男性研究員達もまた、覚者達の攻撃によって傷を深めていた。後ろの彩の男性が回復に回り始めていたが、数で攻める覚者に対して追い込まれることになる。
翔が纏めて研究者達を波動弾で撃ち抜くと、身を張って盾となっていた逝が攻め込む。
「大人だもの、頭をカチ割られるくらいは平気だろう?」
彼は羊頭の研究員の体勢を崩し、飛行機の主翼にも似た腕を振るって直刀・悪食の刃を突き入れる。その一撃で、その研究員は昏倒してしまった。
残る1人はたじろぎながらも、氷の柱を飛ばす。凜が癒しの滴を振りまく中、いのりが怒りのままに光の粒を叩きつける。
「テメエ達が痛めつけてきたガキの分。そして……、これは俺の分だ!!」
さらに攻め入る誘輔。少年の首輪が解除されたこともあり、彼は遠慮なくその研究員に体術を叩き込み、後頭部へと拳を叩きつけた。
「が……っ」
「安心しろ、殺しゃしねーよ。情報吐かせてえしな」
誘輔の最後の言葉も届かず。そいつは地面へと崩れ落ちていったのだった。
●次に繋がる手がかりを……
研究員3名は重傷ではあったが、全員生きてはいる。亮平がバッグからロープを出して捕縛し、後ほどAAAに引き渡す予定だ。
「さて、お話しようかね」
逝は目覚めた研究員達へと、物理という名の話を持ちかけた。人の道に外れた行いをした彼らに、逝はひいきも偏見もなく、男女平等に話を聞くこととする。
「今はどこに拠点を置いている……?」
亮平も合わせて尋ねるが、彼らはすぐには口を割ろうとはしない。尋問にはしばらく時間がかかりそうだ。
覚者達は、保護した少年にも会話を試みる。
「怜佳という名に心当たりはありませんか?」
「簗鶏君は……、もしかして、簗鶏怜佳ちゃんのお兄さんか?」
「怜佳は……妹は無事なのか……!?」
いのりの質問に合わせ、亮平が問いかけると、彼は大きな反応を見せる。
亮平は以前、研究所で怜佳を発見したこと、そして、助け出せなかったことを語り、謝罪する。
「今はただ、無事でいてくれる事を願うしか出来ませんが……」
いのりもまた沈痛な表情で、ありのままの気持ちを語った。
そして、翔が研究員の話を何か聞いていないかと問う。
特にここに出入りしているという副所長について、何か会話のやり取りなどでどこに戻るかなど、今後の予定を口にしていなかったかと亮平も尋ねた。
「今度こそ、簗鶏怜佳ちゃんを助けたい。どんな事でもいい。何か気付いた事があったら聞かせてほしい」
「な、幸也のにーちゃん。もし良かったら教えちゃくれねーか?」
飛馬は研究室への出入り方法、家屋内で厳重に鍵などを管理していた場所がないかなど、幸也に尋ねる。
「思い出したくないかもしれねーけど。何か隠されてるかもしれないんだ」
「辛いだろうが手を貸してくれ 俺達にはお前が必要だ」
「わ、わかった……」
飛馬と誘輔が幸也へと告げると。彼は小さく頷き、記憶を辿り始めていた。
亮平は庭先などに庭園などないかと調べていたが、庭は草が生い茂っており、手入れされているとはいいがたい状況だった。
家屋に地下室もなく、収納場所もくまなく調べたが、これといった発見をすることが出来ない。
家の中もほとんど生活臭を感じさせぬ状況であり、メンバー達は幸也から研究室の入り方を聞き、その捜索に集中することとする。
そこに置かれていたファイル。
研究所の資料は一般実用的な研究が多かった印象だが、こちらは覚者寄りというべきか、覚者の力に関する実験が散見される。
エメレンツィアは興味深そうにそれらを目にし、後で御崎・衣緒への提出を考えていたようだ。
「……前回は一通りの因子持ちを揃えてたみたいだが、覚醒条件でも知りたいのかね?」
逝は敵の目的を考える。その為、彼は購入リストやスペックカタログ、取引先、実験記録に監視カメラなど、手がかりとなりそうなもの全てを確認していく。
凜はパソコンを調べていた。プロテクトが掛けられていてすぐにデータを閲覧することはできなかったが、そのそばにプリントアウトされているデータなどを回収する。
「助け損ねたあいつを助ける手掛かり……何か探すんだ」
翔はそれらに目を通し、透視の力でくまなく研究所内を眺め、敵が潜む居場所のかすかなヒントを探す。
誘輔もまた、仲間が発見した資料を片っ端から読み込んでいく。
(御しやすいガキばかり狙って、覚者の体をいじくって強化して、連中は何を企んでやがる?)
悪趣味な実験……その目的は。
『因子発現の研究』
『別因子の能力行使の研究』
どうやら、覚者の力についての研究らしいが……。中には明らかに無理だと思われる内容にも挑んでいるらしい。また、残念ながら、その成果までは確認できなかった。
誘輔は資料から目を離す。ともあれ、今は……。
「本命を叩かねーことにはいたちごっこだ。幸也は何か知らねーか」
多少落ち着いた幸也はそういえばと、静永が向かった別のアジトなど、少しずつ思い出していたようだ。また、この家には研究所所長、コーディ・カーヴァも出入りしていたらしい。
結果、具体的な居場所は分からなかったが、別所にアジトがあるのは間違いなさそうだ。そのどこかに、カーヴァや静永の潜伏先があるのだろう。
「まだまだ、先は長そうですわね……」
いのりが呟く。小さな成果を積み重ねながらも、覚者達は次の一手を打つべく、今回回収した物を持ち帰り、じっくりと確認することにしたのだった。
その家を、遠くから見つめる影が1つ。
「F.i.V.E.……本当に厄介な連中だ」
研究所副所長だった静永は銃砲を聞きつけて様子を探っていたが、結局F.i.V.E.に家を制圧されたのを知り、すぐさまこの場から姿を眩ましたのだった。
F.i.V.E.の覚者達は、夢見で視えたという家へと向かう。
「生体工学研究所ね。ガキ捕まえて人体実験たぁ、悪趣味だ」
「よくもまぁそんなことが出来るよな。自分だって同じ覚者なのによ」
カーヴァ関連事件初参加の『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)は、依頼書に目を通して悪態づく。『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466) は苛立ちを募らせていたようだ。
「さらわれたガキの行方もわかってねーみてえだし。蛇の道は蛇、裏社会に通じた俺の出番ってわけか」
煙草をくわえながら、誘輔はにやりと笑う。
「あの研究所以外にも、実験設備あんのか……。あいつら、どんだけ研究所持ってんだよ」
まさか個人宅で怪しげな実験をしているなんてと、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063) はうんざりとした表情をする。
「清水と静永……何となく字面的に似てる気がするわね」
その家は、『清水』という表札が掛かっているという。偽名にしては少々安直過ぎると、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は考えていた。
「いずれにせよ、そこの子は必ず助け出すわ」
「此処にも、囚われた子供がいるのですね」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)もまた少年の救出をと意気込み、その家を前にする。
「攫われて散り散りになっていた内の一人がこの家に……。早く助けに行かないと」
『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328) は改めて、その少年の名を確認する。
『簗鶏・幸也』。研究所より連れ去られた少女の苗字もまた、簗鶏といった。
「連れてかれた子の兄妹かな。この調子だと、他にもあるんだろうねえ。こういうの」
緒形 逝(CL2000156)はそれを調べる為にも、様々な資料を調べたいと考えるが、それより先に……。
「子供を捕まえて人体実験するなんて、悪の組織そのまんまやん」
「非道な行いをしている者には鉄槌を。そして、己の意に添わぬ事をさせられている少年を、何としても救い出さなければ!」
茨田・凜(CL2000438)もいのりも、捕らわれの少年、簗鶏・幸也の身を案じ、その救出を誓う。
「こうなったら全部潰す! 幸也って奴も絶対助けなきゃだよな!」
「連中は覚者の姿を見りゃ勇んで出張ってくる。なら、裏工作はいらねーな」
翔は意気揚々と、誘輔も正面から堂々と殴りこみをと考え、その家に入っていった。
中はあまり、生活観らしいものを感じさせない。ただ、暮らしているだけというか……個性を感じさせない内装だ。
ここに、隔者……研究員が詰めているはずだ。出来るならば、後々の調査の為に家屋内での戦いは避けたいところではあるが……。飛馬は内部に罠が張られていないかと気にかける。
「所々に、カメラが設置されているね」
守護使役の力で家屋内の偵察を行う亮平が言うように、その所々には赤外線センサーやカメラが設置されていた。
飛馬やエメレンツィアは発見したカメラを破壊、センサーは凜がエレトロテクニカで対処し、スムーズに解除していたようだ。
8人が同時に侵入すれば、穏やかとは行かない。敵も覚者の侵入に気づいている可能性は高いが……。
「外から分からぬ場所に研究所があるって、やっぱり地下?」
そう呟く凜。逝や翔も地下の可能性を疑う。研究所においても地下で怪しげな実験を行っていたことからも、その可能性は拭えない。凜は床下の階段、庭の枯れ井戸などの可能性を示唆し、懐中電灯などで隅っこの見落としがないようにとチェックする。
しかし、メンバーが思う程、複雑な構造をした家ではなさそうだ。
「ん……?」
一般家屋を多少改築してはいるようだが、家の間取りの中に隠された大きな空間を翔の透視が見逃さない。いのりも守護使役の力を借りて匂いをかぎ分け、同じ場所から薬品の匂いを感じていた。
「どうやら、密室があるのは間違いないね」
壁に覆われた場所から、逝も感情探査で複数の研究員らしきものと、少年の恐れに似た感情を感じる。
「おし、そんなら……」
逝の指す方向に翔が物質透過すると……、その先には3人の研究員とベッドの上で首輪を取り付けられた少年の姿があった。
「F.i.V.E.か……」
研究員達はすでにこちらの素性を知っていたらしく、覚者達の侵入に構えてすでに覚醒していた。
翔はすぐさま研究室のドアから出ようとするが、開かない。迫る敵から逃れる為に彼は再び物質透過で外へと出ると、研究員達はレバーを操作し、外側の家具を移動させてドアを開いてから追いかけてきた。
「待て!」
研究員はハンドガンを発射しながら近づいてくる。壁が多少破壊されてもお構いなしだ。
そのタイミングで、覚者達もまた覚醒していた。大人の姿となった翔は波動弾を飛ばしながら後退し、仲間に合流する。
「人の道に外れた行いは許しませんわ!」
いのりも大人の姿となり、相手の行いを非難しながらも後ろへと下がる。
メンバー達は不利を演出してじりじりと下がり、家の中での戦闘を避けようとしていた。この家には、姿を眩ましている研究所の所長らの手がかりがあるはずなのだ。
(貴重な資料を失うわけにはいかないわ)
また、英霊の力を引き出すエメレンツィア。覚者研究をライフワークとしている彼女は、この家にある資料をF.i.V.E.に持ち帰りたいと考えている。
逝は下がりながらも送受心を使い続ける。研究員に引き連れられた少年と意思疎通を図る為だ。
(安心しろ。俺らが絶対助け出してやるからな)
その少年へ、飛馬が逝を介して呼びかける。しかしながら、研究員に脅されているのか、少年は言葉を返そうとはしない。
メンバー達は家から出て庭へと回ると、研究員達が追いかけてきた。
比較的広い敷地に建てられた家ということもあり、庭も交戦できるスペースがある。もっとも、草刈りなど行われておらず、足を覆う程度に雑草が生えていたが……。
誘輔は仲間と共に布陣し、改めて攻撃態勢を整える。髪を赤く染めたエメレンツィアは水竜を呼び寄せた。
「悪事を働くものは皆、この女帝の前に跪かせてあげるわ!」
「待ってろよ、今助けてやるからな!!」
翔は捕らわれの少年へと呼びかけ、本格的に研究員を倒しにかかろうとする。
「お前もやるんだ、……いいな?」
研究員に脅された少年、簗鶏・幸也は頷き、ハンドガンを握って翼を広げて覚者へと襲い来るのだった。
●少年の保護を……!
主不在の清水家の庭で、戦いが始まる。
「研究材料は渡さんぞ!」
研究者達もこちらの目的は把握しているようで、覚者を排除しようとする。ハンドガンの攻撃に合わせ、それぞれ術式も合わせて行使していた。
特に、前に立つ羊の角を生やした研究員の攻撃は脅威だ。自らの炎と空気を融合させて放つ一撃は覚者を苦しめる。
この為、逝は周囲の土を鎧のように纏って身を固める。飛馬も前に立ち、岩を纏って防御力を高めて敵の攻撃に備えていた。
(どいつだ……?)
逝は研究員に視線を走らせる。少年の首に取り付けられた首輪。そこから発する電撃を制御するスイッチを、研究員の誰かが所持しているはずだ。
翔は攻撃をせず、透視を使って注意深く研究員を観察する。すると、中衛の女性研究員の右ポケットに何か四角いものが入っているのに翔は気づく。
「あいつがスイッチ持ってんぞ!」
翔が女性研究員を指差すと、メンバー達はそいつへと狙いを定めていた。
しかしながら、敵もそれがすぐ分かると、幸也を前面に出してくる。
「ごめん……っ!」
電撃の恐怖に怯える幸也は、拳大の炎を連続して飛ばしてくる。
優しき力の加護に護られる逝がそれを受け止めるが、威力は決して小さくはない。
「ん……っ」
その身が焦げる苦痛に、彼はうめき声を上げる。
亮平は蛇の瞳で女性を見定め、気弾を発した。敵と判別していない幸也を避け、それは女性だけに命中する。だが、彼女もやすやすとスイッチを手放しはしない。
幸也の解放に当たっては、凜が臨む。守護使役ばくちゃんに首輪を食べさせられれば早いが、迂闊に近づけば敵の銃弾で蜂の巣にされてしまう。
その為、凜は敵の攻撃に配慮しながら仲間に水のベールを纏わせ、研究員に霧を発して支援に当たっていく。
(おなかだけには被弾しないように、気をつけるんよ)
後方にいるとはいえ、立ち回り次第では敵の術式や銃弾に命中してしまう。新たな子をその身に宿す凜は、それらを上手く避けるようステップを踏む。
回復にはエメレンツィアが当たっていた。彼女は最初こそ放った水竜で研究員達を飲み込んではいたが、敵とて思った以上に覚者としての力を使いこなす。この為、エメレンツィアは次第に滴や雨を仲間に振りまき続けることとなる。
研究員の猛攻。女性が狙われていると知り、男性2人も果敢に攻め立ててくる。羊の研究員は拳に炎を乗せて殴りかかってくるし、彩の男性は氷柱を発して覚者達を貫いてきた。
それを飛馬が率先して受け止め、2本の刀で術式を切り裂いて見せた。
「巌心流の剣は術式だって斬り裂く。後学の為に覚えとくといいぜ」
飛馬はさらに研究員達の前に出て、仲間の盾となる。
ただ、後方で相手に霧を振りまくいのりへと氷の柱が貫通して飛んでくる。
「うっ……!」
その痛みに耐えるいのり。幸也はきっと、この数倍もの痛みを心に感じているはずだ。
だから、いのりは笑って言葉を掛ける。
「貴方の痛みも哀しみも、きっといのり達が取り除いてみせますわ。待っていてくださいませ!」
声は必ず届いているはず。そして、いのりは少年へと理不尽な仕打ちを強いる研究員達へと光の粒を降らす。
(操られているだけの覚者のガキを、傷付けるわけにはいかねえ)
誘輔も機関銃を構え、女性研究員へと目いっぱい弾丸を浴びせかけていく。
幾度か攻防を繰り返すうち、集中して攻撃を受けていた女性研究員が膝を突く。
翔が女性研究員のポケットを狙って波動弾を放つと、そいつは意識を失い、スイッチが地面に転がる。男性研究員2人がそれを回収する前に翔がすかさず駆け寄り、スイッチを取り上げて叩き潰した。
ただ、スイッチを破壊したからといって、幸也の攻撃は止まらない。首輪が彼を拘束し続けており、体に染み付いた研究員への恐れを取り去ることは出来ないのだ。
「もういい、いいんだ……!」
亮平が呼びかけるが、幸也は目を背けながらも炎の塊を放ち続ける。とはいえ、攻撃を続ける彼にも戸惑いが見受けられ始めていた。
前衛の羊の研究員は逝や飛馬が抑えてくれている。ならばと、エメレンツィアが回復の手を止めて敵陣へと飛び込み、そのまま幸也を取り押さえようとした。
「少しの我慢だから、暴れないで頂戴。そうすれば、もう苦しまなくて済むから!」
ただ、だからといって幸也は攻撃を止めない。ハンドガンを発射し、彼女の体を撃ち貫いてしまう。
そこで、凜が駆け寄り、幸也を拘束する首輪をばくちゃんに食べさせてしまう。
「これで、大丈夫なんよ」
「こんな子供を私利私欲で利用して……」
キッと睨むエメレンツィアに、研究員達は怯む。
しかしながら、彼らは幸也を取り返す為か、さらに攻勢を強める。発射される弾丸を、飛馬が身を固めつつ受け止めていた。
「下がっていて」
仲間が戦線を持たせてくれる間、亮平が庇うようにして幸也を後退させていく。
男性研究員達もまた、覚者達の攻撃によって傷を深めていた。後ろの彩の男性が回復に回り始めていたが、数で攻める覚者に対して追い込まれることになる。
翔が纏めて研究者達を波動弾で撃ち抜くと、身を張って盾となっていた逝が攻め込む。
「大人だもの、頭をカチ割られるくらいは平気だろう?」
彼は羊頭の研究員の体勢を崩し、飛行機の主翼にも似た腕を振るって直刀・悪食の刃を突き入れる。その一撃で、その研究員は昏倒してしまった。
残る1人はたじろぎながらも、氷の柱を飛ばす。凜が癒しの滴を振りまく中、いのりが怒りのままに光の粒を叩きつける。
「テメエ達が痛めつけてきたガキの分。そして……、これは俺の分だ!!」
さらに攻め入る誘輔。少年の首輪が解除されたこともあり、彼は遠慮なくその研究員に体術を叩き込み、後頭部へと拳を叩きつけた。
「が……っ」
「安心しろ、殺しゃしねーよ。情報吐かせてえしな」
誘輔の最後の言葉も届かず。そいつは地面へと崩れ落ちていったのだった。
●次に繋がる手がかりを……
研究員3名は重傷ではあったが、全員生きてはいる。亮平がバッグからロープを出して捕縛し、後ほどAAAに引き渡す予定だ。
「さて、お話しようかね」
逝は目覚めた研究員達へと、物理という名の話を持ちかけた。人の道に外れた行いをした彼らに、逝はひいきも偏見もなく、男女平等に話を聞くこととする。
「今はどこに拠点を置いている……?」
亮平も合わせて尋ねるが、彼らはすぐには口を割ろうとはしない。尋問にはしばらく時間がかかりそうだ。
覚者達は、保護した少年にも会話を試みる。
「怜佳という名に心当たりはありませんか?」
「簗鶏君は……、もしかして、簗鶏怜佳ちゃんのお兄さんか?」
「怜佳は……妹は無事なのか……!?」
いのりの質問に合わせ、亮平が問いかけると、彼は大きな反応を見せる。
亮平は以前、研究所で怜佳を発見したこと、そして、助け出せなかったことを語り、謝罪する。
「今はただ、無事でいてくれる事を願うしか出来ませんが……」
いのりもまた沈痛な表情で、ありのままの気持ちを語った。
そして、翔が研究員の話を何か聞いていないかと問う。
特にここに出入りしているという副所長について、何か会話のやり取りなどでどこに戻るかなど、今後の予定を口にしていなかったかと亮平も尋ねた。
「今度こそ、簗鶏怜佳ちゃんを助けたい。どんな事でもいい。何か気付いた事があったら聞かせてほしい」
「な、幸也のにーちゃん。もし良かったら教えちゃくれねーか?」
飛馬は研究室への出入り方法、家屋内で厳重に鍵などを管理していた場所がないかなど、幸也に尋ねる。
「思い出したくないかもしれねーけど。何か隠されてるかもしれないんだ」
「辛いだろうが手を貸してくれ 俺達にはお前が必要だ」
「わ、わかった……」
飛馬と誘輔が幸也へと告げると。彼は小さく頷き、記憶を辿り始めていた。
亮平は庭先などに庭園などないかと調べていたが、庭は草が生い茂っており、手入れされているとはいいがたい状況だった。
家屋に地下室もなく、収納場所もくまなく調べたが、これといった発見をすることが出来ない。
家の中もほとんど生活臭を感じさせぬ状況であり、メンバー達は幸也から研究室の入り方を聞き、その捜索に集中することとする。
そこに置かれていたファイル。
研究所の資料は一般実用的な研究が多かった印象だが、こちらは覚者寄りというべきか、覚者の力に関する実験が散見される。
エメレンツィアは興味深そうにそれらを目にし、後で御崎・衣緒への提出を考えていたようだ。
「……前回は一通りの因子持ちを揃えてたみたいだが、覚醒条件でも知りたいのかね?」
逝は敵の目的を考える。その為、彼は購入リストやスペックカタログ、取引先、実験記録に監視カメラなど、手がかりとなりそうなもの全てを確認していく。
凜はパソコンを調べていた。プロテクトが掛けられていてすぐにデータを閲覧することはできなかったが、そのそばにプリントアウトされているデータなどを回収する。
「助け損ねたあいつを助ける手掛かり……何か探すんだ」
翔はそれらに目を通し、透視の力でくまなく研究所内を眺め、敵が潜む居場所のかすかなヒントを探す。
誘輔もまた、仲間が発見した資料を片っ端から読み込んでいく。
(御しやすいガキばかり狙って、覚者の体をいじくって強化して、連中は何を企んでやがる?)
悪趣味な実験……その目的は。
『因子発現の研究』
『別因子の能力行使の研究』
どうやら、覚者の力についての研究らしいが……。中には明らかに無理だと思われる内容にも挑んでいるらしい。また、残念ながら、その成果までは確認できなかった。
誘輔は資料から目を離す。ともあれ、今は……。
「本命を叩かねーことにはいたちごっこだ。幸也は何か知らねーか」
多少落ち着いた幸也はそういえばと、静永が向かった別のアジトなど、少しずつ思い出していたようだ。また、この家には研究所所長、コーディ・カーヴァも出入りしていたらしい。
結果、具体的な居場所は分からなかったが、別所にアジトがあるのは間違いなさそうだ。そのどこかに、カーヴァや静永の潜伏先があるのだろう。
「まだまだ、先は長そうですわね……」
いのりが呟く。小さな成果を積み重ねながらも、覚者達は次の一手を打つべく、今回回収した物を持ち帰り、じっくりと確認することにしたのだった。
その家を、遠くから見つめる影が1つ。
「F.i.V.E.……本当に厄介な連中だ」
研究所副所長だった静永は銃砲を聞きつけて様子を探っていたが、結局F.i.V.E.に家を制圧されたのを知り、すぐさまこの場から姿を眩ましたのだった。

■あとがき■
リプレイ、公開です。
皆さんの活躍で、
無事、少年を助け出すことが出来ました。
追加情報に関しましては調査待ちといったところです。
MVPは
覚者の少年の保護すべく、
敵陣へと飛び込んだあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!
皆さんの活躍で、
無事、少年を助け出すことが出来ました。
追加情報に関しましては調査待ちといったところです。
MVPは
覚者の少年の保護すべく、
敵陣へと飛び込んだあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!
