世の中に酷い覚者がいたもんだ
●性格:暴れん坊
妖発生から四半世紀。
人は妖を退けるために様々な工夫を凝らしてきた。自営の為の武装強化や、壁などを使っての防衛力強化。力在る覚者がコミューン内に居ればそういった人間に頼るなどである。
覚者の割合はいまだ少なく、力在る覚者となればその数はさらに少ない。仮に力在る覚者がいたとしても、その覚者が品性方正であるとは限らないのだ。
「お前らみたいなクズ人間が覚者様に意見するんじゃねーよ!」
「しかし、お金を払ってもらわないと私達の生活が……!」
とある町の商店街。そこにあるケーキ屋。勝手にケーキを食べる覚者に向けて、ケーキ屋の主人が恐る恐る意見する。
「生活!? お前たちが生きているのは誰が妖と戦っているからと思ってるんだぁ? 生活できるのは、誰のおかげだと思ってるんだぁ!」
下劣な笑い声と共に、ショーウインドウに蹴りを入れる男。ウィンドウはその蹴りで砕け散り、中に合った商品はガラスまみれになる。
「おおっと、折角のケーキがガラスまみれだ。しょうがねーよなぁ、街を守る覚者様に逆らったんだからさぁ! ガハハハハ!」
街を守る覚者。彼がいなければ街の人間は妖に怯えて生活が出来なくなる。
だがその覚者はその状況を利用して、街で横暴を働いていた。街を守る代金と称してタダで飲み食いし、時には覚者の力を振るい営業妨害を行ったりしていた。
妖は怖い。だが、このままでは町の人間も参ってしまう。困り果てた町の元に、修道女が訪れる。
「この町に『悪魔』がいると聞いてやってきた。力に溺れ、町の人を恐怖に貶める者がいると」
紺色のシスター服を着た女性は一礼してた後に、自らの名を告げる。
「ワタシの名前はリーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ。アナタ達の生活を脅かす『悪魔』を討ちにやってきた。
こちらの情報違いというのなら、それでいい。だがここに『悪魔』がいるのなら、その情報を教えてほしい」
街の人達は修道女の言う『悪魔』が何なのか察しがついていた。そしてこの修道女がその『悪魔』に何をするのかも。
それから数時間後――
十名の憤怒者に襲われた覚者が、山の中に埋められそうになっていた。
●FiVE
「教訓。調子に乗ってはいけません」
久方 万里(nCL2000005)はうんうんと頷き、夢で見た予知を締めくくった。聞いていた覚者達も『自業自得だよなぁ』と渋い顔をする。
「とはいえ殺されちゃうのは流石にかわいそうなので助けてあげて、っていうのが今回の依頼。急いでいけば、覚者さんが倒された所に間に合うから」
件の覚者は山に埋められるまでは生きているという。体中傷だらけで手足を縛られているため、助けても戦力にはならないだろう。
「相手はイレブンの憤怒者。リーダーのシスターさんは結構強いから気を付けてね。後は車の中に色々兵器を積んでるので、凶悪な武装で挑んでくるみたい」
流石に銃器を持っているのは少数のようだが、それでも面倒なのは変わらない。
「後は……覚者さんに説教するぐらい? その辺りは皆に任せるね」
憤怒者が覚者を早く捕捉できたのは、ある意味街の人達に愛想をつかされたからである。そうなったのは覚者の日頃の態度に過ぎない。ここでお灸をすえることで、少しは態度が変わる……かもしれない。
万里の笑顔に送られて、覚者達は会議室を出た。
妖発生から四半世紀。
人は妖を退けるために様々な工夫を凝らしてきた。自営の為の武装強化や、壁などを使っての防衛力強化。力在る覚者がコミューン内に居ればそういった人間に頼るなどである。
覚者の割合はいまだ少なく、力在る覚者となればその数はさらに少ない。仮に力在る覚者がいたとしても、その覚者が品性方正であるとは限らないのだ。
「お前らみたいなクズ人間が覚者様に意見するんじゃねーよ!」
「しかし、お金を払ってもらわないと私達の生活が……!」
とある町の商店街。そこにあるケーキ屋。勝手にケーキを食べる覚者に向けて、ケーキ屋の主人が恐る恐る意見する。
「生活!? お前たちが生きているのは誰が妖と戦っているからと思ってるんだぁ? 生活できるのは、誰のおかげだと思ってるんだぁ!」
下劣な笑い声と共に、ショーウインドウに蹴りを入れる男。ウィンドウはその蹴りで砕け散り、中に合った商品はガラスまみれになる。
「おおっと、折角のケーキがガラスまみれだ。しょうがねーよなぁ、街を守る覚者様に逆らったんだからさぁ! ガハハハハ!」
街を守る覚者。彼がいなければ街の人間は妖に怯えて生活が出来なくなる。
だがその覚者はその状況を利用して、街で横暴を働いていた。街を守る代金と称してタダで飲み食いし、時には覚者の力を振るい営業妨害を行ったりしていた。
妖は怖い。だが、このままでは町の人間も参ってしまう。困り果てた町の元に、修道女が訪れる。
「この町に『悪魔』がいると聞いてやってきた。力に溺れ、町の人を恐怖に貶める者がいると」
紺色のシスター服を着た女性は一礼してた後に、自らの名を告げる。
「ワタシの名前はリーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ。アナタ達の生活を脅かす『悪魔』を討ちにやってきた。
こちらの情報違いというのなら、それでいい。だがここに『悪魔』がいるのなら、その情報を教えてほしい」
街の人達は修道女の言う『悪魔』が何なのか察しがついていた。そしてこの修道女がその『悪魔』に何をするのかも。
それから数時間後――
十名の憤怒者に襲われた覚者が、山の中に埋められそうになっていた。
●FiVE
「教訓。調子に乗ってはいけません」
久方 万里(nCL2000005)はうんうんと頷き、夢で見た予知を締めくくった。聞いていた覚者達も『自業自得だよなぁ』と渋い顔をする。
「とはいえ殺されちゃうのは流石にかわいそうなので助けてあげて、っていうのが今回の依頼。急いでいけば、覚者さんが倒された所に間に合うから」
件の覚者は山に埋められるまでは生きているという。体中傷だらけで手足を縛られているため、助けても戦力にはならないだろう。
「相手はイレブンの憤怒者。リーダーのシスターさんは結構強いから気を付けてね。後は車の中に色々兵器を積んでるので、凶悪な武装で挑んでくるみたい」
流石に銃器を持っているのは少数のようだが、それでも面倒なのは変わらない。
「後は……覚者さんに説教するぐらい? その辺りは皆に任せるね」
憤怒者が覚者を早く捕捉できたのは、ある意味街の人達に愛想をつかされたからである。そうなったのは覚者の日頃の態度に過ぎない。ここでお灸をすえることで、少しは態度が変わる……かもしれない。
万里の笑顔に送られて、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.憤怒者一〇名の打破(逃亡も打破と見なします)。
2.覚者の生存。
3.なし
2.覚者の生存。
3.なし
こんなんでも覚者です。一応町の人を守っているんだし。
●敵情報
・憤怒者(×10)
神父服&修道女服に身を包んだ男女で、源素を『悪魔の力』と称して排斥しようとしています。イレブン内では『エグゾルツィーズム(悪魔祓い)』と呼ばれている武装集団です。 個としての戦闘力は覚者に劣ります。
薬物を服用しているのかそういう洗脳を受けているのかは不明ですが、魔眼などの精神操作系技能に一定の耐性があります。彼らから大元の組織につながる情報は、得ることができないと思ってください。
拙作『その罪を、神は赦して清めよう』『十字架に『正義は何処?』と問いかける』『隣人を不幸と嘆き救い給う』等に出ている者と同グループの存在ですが、それ以上の関連性はありません。倒すべき相手、の認識で問題ありません。
戦闘になれば倒れている覚者よりも、PCを優先して攻撃してきます。
・神父(×4)
神父服を着ています。前衛で殴りながら、銃を撃ってきます。
攻撃方法
セスタス 物近単 硬い革ひもを拳に巻いた物。そのまま殴ってきます。
小型拳銃 物遠単 懐に隠した銃を撃ちます。
活性剤 P 十八ターンの間、一部精神的な技能と【睡眠系BS】を無効化します。毎ターン気力が減っていきます
・修道女(×5)
遠距離型です。折り畳み式のスリングを持っています。
攻撃方法
火矢 特遠単 発火性の液体を塗った燃える矢です。〔火傷〕
毒矢 特遠単 植物性の毒を塗った弾丸を撃ち放ちます。〔毒〕
活性剤 P 十八ターンの間、一部精神的な技能と【睡眠系BS】を無効化します。毎ターン気力が減っていきます
・『マリートヴァ』リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ(×1)
白い肌を持つシスターです。OPで話をしていたシスターです。
他の憤怒者に比べ、実力高めです。
攻撃方法
安全靴 物近単 鉄板の入ったブーツで蹴り上げます。〔致命〕
消火斧 物遠単 消火用の斧を投げつけてきます。〔必殺〕
パリィ 自付 防御用ナイフを構えます。物防と回避が上昇。
冷凍缶 特近単 マイナス四十℃まで冷やした酒を振りまきます。〔凍傷〕
畏怖の香 P 怯えを生む化学物質と言語誘導と特殊な体捌きにより、包囲に隙を生みます。このキャラクターをブロックすることはできません。
活性剤 P 十八ターンの間、一部精神的な技能と【睡眠系BS】を無効化します。毎ターン気力が減っていきます。
●NPC
・覚者
名前は小田原・平治。二十三才男性。天の翼人。ランク1の妖から街を守れる程度には強いのですが、素行は悪し。典型的な『覚者は人間より上の存在』論者です。
意識はありますが縛られており、精々が『街を守る有能な覚者様を助けろ!』だの『早くクズ人間を蹴散らせ!』だの口うるさくしゃべる程度です。
ルール上は戦闘不能状態のため、回復しても戦力にはなりません。
●場所情報
とある町の路地裏。人気はありません。時刻は夕方。明かりや足場、広さなどは戦闘に問題なし。
戦闘開始時、後衛に『修道女(×5)』、中衛に『覚者』、前衛に『神父(×4)』『リーリヤ(×1)』がいます。覚者との距離は十メートルとします。
急いでいるため、事前付与は不可です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年11月29日
2016年11月29日
■メイン参加者 8人■

●
路地裏。そこで一人の覚者が十名近くの人間に暴行を受けていた。
「覚者様に……グッ! てめぇら、傷が癒えたら覚えてろ……ガハァ!」
暴行を受けている覚者は減らず口を止めようとはしない。自分は覚者だ。死ぬはずがない。それよりもこいつらの顔を覚えて後で復讐してやる。そんな感情がありありと出ていた。
そこに、八人の覚者が訪れる。
「イレブン……憤怒者、か」
『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)は修道服に身を包む集団を前に呟く。覚者に牙をむく憤怒者。イレブンは国内最大の憤怒者組織だ。だが彼らも騎士の護るべき存在であることには違いない。そこに剣を向ける葛藤が心のどこかにあった。
「ロシア語の悪魔祓いを名に冠する組織。そこに属するロシア人聖職者とその衣装」
なるほど、と『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は頷いた。かの宗教は近年まで『悪魔祓い』が行われていたと聞く。覚者を『悪魔』と断じ、制裁を加える。それが日本にやってきたという事か。
「まぁ、色々と言いたい事はあるけど。その男は俺達がもらうよ」
憤怒者に袋叩きにあっている覚者を見ながら東雲 梛(CL2001410)は第三の瞳を開ける。その覚者を殺させないのが今回の仕事だ。だが、覚者を見る目には些か冷たい感情があった。どうしたものか、と言いたげな。
「こういう覚者もいるから憤怒者の増加をどんどん招いてる気がするんだけど」
額に手を当てて沈痛な顔をする『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)。覚者からの暴力を受けて憤怒者となる者は多い。それを思うとやるせない気分になってくる。だが今は嘆いている余裕はない。気持ちを切り替え、憤怒者に構える。
「街の人に引き渡される程の恨みを買ったとか、酷い話よね」
呆れたと言いたげに肩をすくめるのは『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)だ。覚者の力を恩に着せての無銭飲食や暴力行為。それが積み重なって憤怒者に売られる形となったという。先のセリフは心の底からの言葉である。
(リーリヤを認めてはいけない。だが……否、今は命を救う事が優先だ)
『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は目の前の憤怒者の言葉を頭の中で反芻し、頭を振って振り払う。憤怒者の言葉を真に受ければ、覚者は皆死ななければならない。だが覚者の横暴な振る舞いが平和を乱しているのも事実だ。
「やってた事は恐喝や無銭飲食ですし、これじゃチンピラと何も変わりませんよね……」
指折り罪状を数える『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)。恐喝、無銭飲食、器物破損、威力業務妨害、覚者の力が法的な凶器たりえるなら殺人未遂もあり得る。ともあれ警察を呼ばなくてはいけないのは確かだ。
「だからと言って死んでいいわけでもねーしな。護ってやるか」
二本の刀を構え、『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が憤怒者に向かって歩を進める。確かに覚者として問題のある相手だが、死んでいいわけでもない。この刀は守るための刀。その本領を発揮する時だ。
「街の人間がAAAに通報したとは思えない。夢見の予知――FiVEか」
リーダーらしき修道女が静かに告げる。何人かは見知った顔だ。硬い言葉と表情に込められた戦意。それに応じるように他の憤怒者達も武器を構える。
始まりの合図は何だったか。気がつけば、覚者と憤怒者の闘いは始まっていた。
●
「早く小田原さんを確保したいけど……」
亮平は憤怒者に囲まれている覚者を助けようと動くが、その数に阻まれて助けられないでいた。確保するには相手の数を減らし、囲みの中に進まないといけないのだ。少しでも数を減らさないと駄目か、と神具を構える。
ナイフとハンドガンを構え、憤怒者の前に立つ亮平。憤怒者の場所を見ながら、ハンドガンの引き金を引く。見るのではなく観る。細かな観察から相手の動きを予測し、その方向に向かって銃口を向ける。放たれた弾丸が憤怒者達に降り注ぐ。
「数だけ揃えたクズどもが! 覚者の強さを思い知れ!」
亮平の攻撃に倒れている覚者が叫ぶ。
「ギャンギャンうるさいなぁ。少し黙っててほしいんだけど」
「うっせーハゲ! ボケ! バカエラソーにしてるからそうなるのよ!」
騒ぐ覚者を一喝する数多。足が届けば蹴っ飛ばしていただろう。言いたいことはたくさんあるが、それは後の話だ。今やるべきはそちらではない。目の前のシスターに向かい視線を向け、刀の柄を握りしめる。
源素回転。呼気、そして紋様発光。胸に宿る熱い感覚。それが数多の血液を滾らせる。その熱のままに体を動かし、『マリートヴァ』に切りかかる。『愛対生理論』とパリィナイフが交差し、互いの武器ごしに視線も交差する。
「今日も邪魔しにきたわ、お相手よろしくね。まさか私から逃げるなんて無様なことないわよね?」
「安い挑発だが乗ってやろう。どの道悪魔は殲滅するのだから」
「……悪魔?」
フィオナは『マリートヴァ』の言葉に恐怖めいたモノを感じていた。人を悪魔と断じ、排すべき対象にしている。それを信じる者達が目の前に十人もいるのだ。何が彼らをそこまで思わせたのだろうか。如何なる怒りが、彼らを突き動かしているのか。
『ガラティーン・改』を握りしめ、フィオナは戦闘に思考を戻す。剣を使った戦闘術。それは『彼女』の記憶か『前世』の記憶かわからない。それでも体は動く。心の中にある『ノブレス・オブリージュ』を為す手段として。斬撃が憤怒者を裂き、鮮血が舞う。
「貴方達は『何を信じて、何に怒っている?』」
「神を信じ、悪魔に対し怒っている。平和を乱す『力』を討てと」
「貴方達の悪魔祓いの手法は大変結構ですが、実践は其方の影響地域の中だけにしていただきたいですね」
冬佳が『マリートヴァ』の言葉に口を挟む。この国にはこの国なりの作法があり、定義がある。他所の常識を持ち込まれては神職として困るのだ。宗教や信仰は自由だが、節度と礼節は守ってほしい。
刀を横に構え、精神を集中する。冬佳の周辺に涼風が吹いた。それは水の力。周辺の水が刀に集まる。源素の水を刀身に宿らせ、それを横なぎに切り払った。刀の軌跡を追うように、水の龍が憤怒者達に牙をむく。
「此処は日本、八百万神の地。貴方達が好き勝手していい場所ではありませんよ、異境の神の使徒」
「無礼な振る舞いは詫びよう。悪魔を殲滅すれば帰国すると約束するよ」
「それをさせるわけにはいきません」
大きく息を吐いて澄香が憤怒者の言葉に応える。彼らの言う悪魔は覚者の事。それを皆殺しにするという事は覚者を皆殺しにするという事だ。自分だけではない。FiVEの仲間や家族も含めて。
二枚のタロットカードを起点にして、澄香は源素を展開する。木の源素を振るい、香しい空気を振りまく。心を落ち着かせる効果のある香りが、仲間の抵抗力を増した。誰も倒れさせやしない。その決意を胸に澄香は戦場に立つ。
「小田原さんの事は、法の裁きに任せるわけにはいきませんか?」
「この男の傲慢は悪魔の力からくるものだ。その力がある以上、許せはしない」
「隔者を許せない気持ちは理解できる。だが……!」
薙刀を構えて行成が語気荒く迫る。力在る覚者の横暴。それに対する街の人の怒り。その怒りがなければ『エグゾルツィーズム』はここまで早く覚者を補足できなかっただろう。……彼らは間違っていないのではないか、という思いが行成の中にあった。
迷いを振り切るように行成は薙刀を振るう。憤怒者の動きを見ながら、薙刀の届く範囲をイメージする。一歩踏み込めば薙刀の間合が憤怒者に近づく。憤怒者がその間合いに入った瞬間に身体は自然と突きを放っていた。
(エグゾルツィーズムと戦うたびに、何かが引っかかり始めている……正しいのは、どちらなのだ?)
「あの動きが真似できれば、憤怒者の囲みからあの男を救えるんだけどな……」
梛は『マリートヴァ』の動きを探査し、その動きを盗もうと考えていた。特殊な香、視線を含めた体捌き、そして言語誘導。理屈は理解できてもそれを行おうとするのは容易ではなさそうだ。
『銀雪棍』を手に憤怒者に瞳を向ける。神具に集う木の源素。植物の力が一点に集中し、力を奪う香を生む。その香をさらに凝縮し、憤怒者達に向けて解き放った。香りを受けた憤怒者達が脱力し、武器を握る強さが弱くなる。
「やれやれ簡単には盗めないか」
「悪魔の力を放棄して仲間になるなら教えてやってもいいぞ」
「できねーよ、そんなこと」
二重の意味を込めて飛馬が『マリートヴァ』の言葉を否定する。一つは覚者の力を捨てることは不可能であること。一つはイレブンに入ることはできないという事。飛馬の刀は誰かを守る刀。覚者を傷つけることは本懐ではない。
水と土の源素を身にまとい、仲間を守る飛馬。神父が構える銃口を見ながら刀を構える。銃口の向き、引き金を引くタイミング、風向き、湿度……。様々な情報を経験則で組み立て、刀を振るう。確かな手ごたえと共に、刀は銃弾を切り裂いた。
「誰も殺させやしねー。当然そこの覚者もだ」
「純粋な体術で弾丸を両断したか。悪魔の力がなければ『冥宗寺』辺りが欲しそうだな」
ほう、と称賛の声をあげる『マリートヴァ』。瞳を細め、警戒のレベルを上げる。
覚者の攻撃は確実に憤怒者の数を減らしていた。その囲みも薄まり、亮平が袋叩きに会っていた覚者を救い出すことに成功する。
「ケッ! お前ら力のないザコが頭数を揃えたところで無駄なんだよ! 覚者の力を思い知れ!」
FiVEの覚者が優位に立てばたつほど、覚者の野次が強くなる。その状況に怒りを覚えながら、憤怒者との戦いは加速していく。
●
FiVEの覚者達は後衛で回復を行う澄香を守るように展開し、前衛の憤怒者を範囲攻撃で攻めていた。だが範囲攻撃は複数名を巻き込める利点こそあるが、多方面を攻めるため命中精度は単体攻撃より劣る。更には動きも激しく疲弊が激しいという弱点もある。
列攻撃の命中精度の低さを複数名が行うことでカバーし、数で押す憤怒者に対抗する覚者達。だが無傷とはいかなかった。
「流石に狙われるか……!」
「倒れるわけにはいかない!」
倒れていた覚者を救出に向かった亮平と、その進攻を援護した行成が憤怒者の攻撃を受けて命数を削る。
だが覚者の攻めは憤怒者達の体力を確実に削っていた。憤怒者が倒れるたびに、覚者のダメージが減っていく。
「ガッハッハ! クズ一般人が武器を持っても無駄なんだよ! お前らは覚者様のサンドバックが関の山……ムグッ!」
罵詈雑言を飛ばす覚者の口に、亮平がハンカチを詰める。その行為を誰も止めようとしなかった。そのまま思念で覚者に言葉を飛ばす。
『これ以上騒いだり文句を吐き出すなら、憤怒者達が縛った以上にきつく縛り、吊るし上げるぞ』
「本当に……せっかくの実力が勿体ないです」
声を出せなくなった覚者を見ながら澄香がため息をついた。それなりに実力のある覚者なのだろうが、素行の悪さが全てを無駄にしている。どこかのんびりしている澄香ですら嫌悪するレベルなのだ。
「ほんとにひどい覚者もいたものよね。そうは思わない? リーリヤさん」
「力を得た人間は大抵ああだ。力を誇示し、そして慢心する」
『マリートヴァ』と切り結びながら数多が問いかける。その反応は冷淡な物だった。源素であれ銃であれ、力を得れば人はああなる。そう言いたげな声だ。
「あなた達もまた、力無き守るべき人達だから。騎士として、もっと知らないといけない」
「高潔だな。だがその言葉を信じれるなら、人は武器を捨てる。そうできないからこその『今』だ」
フィオナは自らの正義を憤怒者達に語る。帰ってきたのは侮蔑ではなく、否定。フィオナの言葉を聞きいれ、その上で否定していた。
「悪魔認定、大変結構。神職の端くれとして――だからどうした、と言わざるを得ません」
刀を振るいながら冬佳が口を開く。相手にどう思われようとも構わない。言葉による説得が通じないなら、実力行使あるのみ。水の龍が牙をむき、憤怒者達に襲い掛かる。この国の神職として恥じぬよう、真っ向から相手に立ち向かう。
「流石に重いぜ……!」
飛馬は『マリートヴァ』の蹴りを受け止め、笑みを浮かべる。刀を通じて伝わってくる強い衝撃。単純な鉄板ブーツの蹴りだけではない。そういうの経験を積んだ格闘家の蹴りだ。だがまだ倒れるつもりはない。仲間を守ることが自分の使命だからだ。
「向こうもだいぶ弱ってきているようだ」
梛は敵の状態をスキャンして、その結果を皆に伝えていた。相手の情報が分かれば戦いのペース配分の参考になる。適当な様に見えて、律儀な部分があった。神具を振るって弱体の香を振りまき、味方の被害を押さえていく。
「ならば確実に潰していこう」
梛の言葉を受けて、行成は単体攻撃をメインに行っていく。命中精度を上げて、確実に相手を倒せるように。鋭い斬撃が憤怒者の胸を裂き、体力を奪っていく。悩みは心に在れど、今は戦うとき。振るわれる刃が確実に憤怒者達の体力を削っていく。
数の有利こそあるが、個の戦闘力では憤怒者は覚者に劣る。故に戦闘可能な憤怒者の数が減ればそれだけ、戦いは覚者に有利になっていく。
「これでどうだ!」
フィオナの斬撃が『マリートヴァ』を戦闘不能に追い込んだ。こうなれば、戦闘力の差は一気に覚者に有利になる。澄香の回復に支えられ、覚者は一気に攻め立てた。
「リーリヤさんも倒れたし、そっちに勝ち目ないわよ! 大人しく退きなさい!」
「く……っ、撤退だ!」
何人かの戦闘不能者が出た時に数多が降伏勧告を行う。悔しそうに憤怒者は臍をかみ、倒れた仲間を抱えて撤退する。
ファイブの覚者達はそれを追うことなく、神具を納めて勝利を確信した。
●
『明日の朝、生きているかどうかと不安になるという気持ちは、少しずつ分かってきた気がする』
去りゆく憤怒者のリーダーに亮平が思念で語り掛ける。以前彼女に言われた言葉だ。
『君達のやり方に賛同は出来ないけど……俺も自分の力と覚者の力をもっと理解出来るように努力する』
返事はない。無言の肯定か、あるいは否定か。どうあれ、今は決意を告げるのみだ。
戦いが終わった後、、梛は街の人と話をしていた。
「小田原の説教は俺達がしてるけどさ、あんた達も小田原がいなくなったら妖の被害で困るんじゃないの。
街を守る代金含めてちゃんとあいつを雇ったら?」
「ムリムリ! あいつがいるだけで皆ストレスなんだ。それに相応の代金は払ってるんだよ」
「あー……」
どうやら街の方は覚者に対する信用や愛想がゼロのようだ。そうでなければ憤怒者に売りはしないだろうが。
そして件の覚者はというと……。
「プハ……ざまあみろってーんだ、ザコシスター達! 覚者様に勝てないと悟って逃げていきやがったぜ!」
拘束を解いて猿ぐつわを外した瞬間に、変わらぬ調子で喋り出す覚者。
「覚者は人間より上の存在、か。なら、君と我々は対等という事になるのだろうか? それとも……強い方が上、という事になるのだろうか?」
静かな口調で覚者に問う行成。静かな問いかけの中に、強い怒りが含まれていた。
「その力をつかいチンピラまがいの事しかできないのならば、その程度ということだろう。そのままチンピラで終わるがいい」
「平治! 貴方がやっているのはただの搾取だぞ!」
「小田原さんはチンピラのままでいいんですか?」
フィオナや澄香に責められて、動揺する覚者。なぜ自分が攻められているのかわからない、という顔だ。
「ま、待ってくれよ。俺は覚者だぜ。選ばれた存在だ。あんた達だってそうじゃないか。仲間だろう?」
「こりゃひでーな。自分が悪いことしたっていう自覚がない」
飛馬は覚者の言葉に頭をかき、処置なしと肩をすくめた。
「あんたをあいつらに引き渡したの、街の人達だって。
助けてもらっといてほんと、めちゃくちゃよね。でもね、感謝より懲らしめてやれっていうほうが大きくなってんのよ」
数多が腰に手を当てて覚者に告げる。
「あんたはそんな人達に負けたのよ。
覚者だからって絶対じゃない。見下していた相手に足元を掬われることだってあるのよ。今回は夢見が気付いて助かったけど、次はないかもしれないわよ」
「言い分は理解できます。確かに命を懸けて戦うことは強要できません」
冬佳は静かに告げる。覚者だから戦わなくてはならない。そんな法は何処にもない。だが彼は街の為に命を懸けて戦ったのだ。
「……何故、貴方は命を賭けて戦い始めたのか。その原点の想いを、もしかして忘れているのではないですか?」
「戦う……原点……」
その一言に口を閉ざし、押し黙る覚者。彼なりに思う所があるのだろう。
話し合いの結果、覚者はAAAを通して法的処理を行うことになった。恨みがたまった街の人と覚者の距離を放した方がいい、という考えもある。
もしかしたら小田原平治は改心したかもしれない。しなかったかもしれない。それが分かるのは未来の話で、そして別の話だ。
だが、彼が生きている限りは改心の可能性はある。
街を守る覚者として、妖と戦う未来の可能性が――
路地裏。そこで一人の覚者が十名近くの人間に暴行を受けていた。
「覚者様に……グッ! てめぇら、傷が癒えたら覚えてろ……ガハァ!」
暴行を受けている覚者は減らず口を止めようとはしない。自分は覚者だ。死ぬはずがない。それよりもこいつらの顔を覚えて後で復讐してやる。そんな感情がありありと出ていた。
そこに、八人の覚者が訪れる。
「イレブン……憤怒者、か」
『星護の騎士』天堂・フィオナ(CL2001421)は修道服に身を包む集団を前に呟く。覚者に牙をむく憤怒者。イレブンは国内最大の憤怒者組織だ。だが彼らも騎士の護るべき存在であることには違いない。そこに剣を向ける葛藤が心のどこかにあった。
「ロシア語の悪魔祓いを名に冠する組織。そこに属するロシア人聖職者とその衣装」
なるほど、と『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は頷いた。かの宗教は近年まで『悪魔祓い』が行われていたと聞く。覚者を『悪魔』と断じ、制裁を加える。それが日本にやってきたという事か。
「まぁ、色々と言いたい事はあるけど。その男は俺達がもらうよ」
憤怒者に袋叩きにあっている覚者を見ながら東雲 梛(CL2001410)は第三の瞳を開ける。その覚者を殺させないのが今回の仕事だ。だが、覚者を見る目には些か冷たい感情があった。どうしたものか、と言いたげな。
「こういう覚者もいるから憤怒者の増加をどんどん招いてる気がするんだけど」
額に手を当てて沈痛な顔をする『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)。覚者からの暴力を受けて憤怒者となる者は多い。それを思うとやるせない気分になってくる。だが今は嘆いている余裕はない。気持ちを切り替え、憤怒者に構える。
「街の人に引き渡される程の恨みを買ったとか、酷い話よね」
呆れたと言いたげに肩をすくめるのは『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)だ。覚者の力を恩に着せての無銭飲食や暴力行為。それが積み重なって憤怒者に売られる形となったという。先のセリフは心の底からの言葉である。
(リーリヤを認めてはいけない。だが……否、今は命を救う事が優先だ)
『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は目の前の憤怒者の言葉を頭の中で反芻し、頭を振って振り払う。憤怒者の言葉を真に受ければ、覚者は皆死ななければならない。だが覚者の横暴な振る舞いが平和を乱しているのも事実だ。
「やってた事は恐喝や無銭飲食ですし、これじゃチンピラと何も変わりませんよね……」
指折り罪状を数える『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)。恐喝、無銭飲食、器物破損、威力業務妨害、覚者の力が法的な凶器たりえるなら殺人未遂もあり得る。ともあれ警察を呼ばなくてはいけないのは確かだ。
「だからと言って死んでいいわけでもねーしな。護ってやるか」
二本の刀を構え、『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が憤怒者に向かって歩を進める。確かに覚者として問題のある相手だが、死んでいいわけでもない。この刀は守るための刀。その本領を発揮する時だ。
「街の人間がAAAに通報したとは思えない。夢見の予知――FiVEか」
リーダーらしき修道女が静かに告げる。何人かは見知った顔だ。硬い言葉と表情に込められた戦意。それに応じるように他の憤怒者達も武器を構える。
始まりの合図は何だったか。気がつけば、覚者と憤怒者の闘いは始まっていた。
●
「早く小田原さんを確保したいけど……」
亮平は憤怒者に囲まれている覚者を助けようと動くが、その数に阻まれて助けられないでいた。確保するには相手の数を減らし、囲みの中に進まないといけないのだ。少しでも数を減らさないと駄目か、と神具を構える。
ナイフとハンドガンを構え、憤怒者の前に立つ亮平。憤怒者の場所を見ながら、ハンドガンの引き金を引く。見るのではなく観る。細かな観察から相手の動きを予測し、その方向に向かって銃口を向ける。放たれた弾丸が憤怒者達に降り注ぐ。
「数だけ揃えたクズどもが! 覚者の強さを思い知れ!」
亮平の攻撃に倒れている覚者が叫ぶ。
「ギャンギャンうるさいなぁ。少し黙っててほしいんだけど」
「うっせーハゲ! ボケ! バカエラソーにしてるからそうなるのよ!」
騒ぐ覚者を一喝する数多。足が届けば蹴っ飛ばしていただろう。言いたいことはたくさんあるが、それは後の話だ。今やるべきはそちらではない。目の前のシスターに向かい視線を向け、刀の柄を握りしめる。
源素回転。呼気、そして紋様発光。胸に宿る熱い感覚。それが数多の血液を滾らせる。その熱のままに体を動かし、『マリートヴァ』に切りかかる。『愛対生理論』とパリィナイフが交差し、互いの武器ごしに視線も交差する。
「今日も邪魔しにきたわ、お相手よろしくね。まさか私から逃げるなんて無様なことないわよね?」
「安い挑発だが乗ってやろう。どの道悪魔は殲滅するのだから」
「……悪魔?」
フィオナは『マリートヴァ』の言葉に恐怖めいたモノを感じていた。人を悪魔と断じ、排すべき対象にしている。それを信じる者達が目の前に十人もいるのだ。何が彼らをそこまで思わせたのだろうか。如何なる怒りが、彼らを突き動かしているのか。
『ガラティーン・改』を握りしめ、フィオナは戦闘に思考を戻す。剣を使った戦闘術。それは『彼女』の記憶か『前世』の記憶かわからない。それでも体は動く。心の中にある『ノブレス・オブリージュ』を為す手段として。斬撃が憤怒者を裂き、鮮血が舞う。
「貴方達は『何を信じて、何に怒っている?』」
「神を信じ、悪魔に対し怒っている。平和を乱す『力』を討てと」
「貴方達の悪魔祓いの手法は大変結構ですが、実践は其方の影響地域の中だけにしていただきたいですね」
冬佳が『マリートヴァ』の言葉に口を挟む。この国にはこの国なりの作法があり、定義がある。他所の常識を持ち込まれては神職として困るのだ。宗教や信仰は自由だが、節度と礼節は守ってほしい。
刀を横に構え、精神を集中する。冬佳の周辺に涼風が吹いた。それは水の力。周辺の水が刀に集まる。源素の水を刀身に宿らせ、それを横なぎに切り払った。刀の軌跡を追うように、水の龍が憤怒者達に牙をむく。
「此処は日本、八百万神の地。貴方達が好き勝手していい場所ではありませんよ、異境の神の使徒」
「無礼な振る舞いは詫びよう。悪魔を殲滅すれば帰国すると約束するよ」
「それをさせるわけにはいきません」
大きく息を吐いて澄香が憤怒者の言葉に応える。彼らの言う悪魔は覚者の事。それを皆殺しにするという事は覚者を皆殺しにするという事だ。自分だけではない。FiVEの仲間や家族も含めて。
二枚のタロットカードを起点にして、澄香は源素を展開する。木の源素を振るい、香しい空気を振りまく。心を落ち着かせる効果のある香りが、仲間の抵抗力を増した。誰も倒れさせやしない。その決意を胸に澄香は戦場に立つ。
「小田原さんの事は、法の裁きに任せるわけにはいきませんか?」
「この男の傲慢は悪魔の力からくるものだ。その力がある以上、許せはしない」
「隔者を許せない気持ちは理解できる。だが……!」
薙刀を構えて行成が語気荒く迫る。力在る覚者の横暴。それに対する街の人の怒り。その怒りがなければ『エグゾルツィーズム』はここまで早く覚者を補足できなかっただろう。……彼らは間違っていないのではないか、という思いが行成の中にあった。
迷いを振り切るように行成は薙刀を振るう。憤怒者の動きを見ながら、薙刀の届く範囲をイメージする。一歩踏み込めば薙刀の間合が憤怒者に近づく。憤怒者がその間合いに入った瞬間に身体は自然と突きを放っていた。
(エグゾルツィーズムと戦うたびに、何かが引っかかり始めている……正しいのは、どちらなのだ?)
「あの動きが真似できれば、憤怒者の囲みからあの男を救えるんだけどな……」
梛は『マリートヴァ』の動きを探査し、その動きを盗もうと考えていた。特殊な香、視線を含めた体捌き、そして言語誘導。理屈は理解できてもそれを行おうとするのは容易ではなさそうだ。
『銀雪棍』を手に憤怒者に瞳を向ける。神具に集う木の源素。植物の力が一点に集中し、力を奪う香を生む。その香をさらに凝縮し、憤怒者達に向けて解き放った。香りを受けた憤怒者達が脱力し、武器を握る強さが弱くなる。
「やれやれ簡単には盗めないか」
「悪魔の力を放棄して仲間になるなら教えてやってもいいぞ」
「できねーよ、そんなこと」
二重の意味を込めて飛馬が『マリートヴァ』の言葉を否定する。一つは覚者の力を捨てることは不可能であること。一つはイレブンに入ることはできないという事。飛馬の刀は誰かを守る刀。覚者を傷つけることは本懐ではない。
水と土の源素を身にまとい、仲間を守る飛馬。神父が構える銃口を見ながら刀を構える。銃口の向き、引き金を引くタイミング、風向き、湿度……。様々な情報を経験則で組み立て、刀を振るう。確かな手ごたえと共に、刀は銃弾を切り裂いた。
「誰も殺させやしねー。当然そこの覚者もだ」
「純粋な体術で弾丸を両断したか。悪魔の力がなければ『冥宗寺』辺りが欲しそうだな」
ほう、と称賛の声をあげる『マリートヴァ』。瞳を細め、警戒のレベルを上げる。
覚者の攻撃は確実に憤怒者の数を減らしていた。その囲みも薄まり、亮平が袋叩きに会っていた覚者を救い出すことに成功する。
「ケッ! お前ら力のないザコが頭数を揃えたところで無駄なんだよ! 覚者の力を思い知れ!」
FiVEの覚者が優位に立てばたつほど、覚者の野次が強くなる。その状況に怒りを覚えながら、憤怒者との戦いは加速していく。
●
FiVEの覚者達は後衛で回復を行う澄香を守るように展開し、前衛の憤怒者を範囲攻撃で攻めていた。だが範囲攻撃は複数名を巻き込める利点こそあるが、多方面を攻めるため命中精度は単体攻撃より劣る。更には動きも激しく疲弊が激しいという弱点もある。
列攻撃の命中精度の低さを複数名が行うことでカバーし、数で押す憤怒者に対抗する覚者達。だが無傷とはいかなかった。
「流石に狙われるか……!」
「倒れるわけにはいかない!」
倒れていた覚者を救出に向かった亮平と、その進攻を援護した行成が憤怒者の攻撃を受けて命数を削る。
だが覚者の攻めは憤怒者達の体力を確実に削っていた。憤怒者が倒れるたびに、覚者のダメージが減っていく。
「ガッハッハ! クズ一般人が武器を持っても無駄なんだよ! お前らは覚者様のサンドバックが関の山……ムグッ!」
罵詈雑言を飛ばす覚者の口に、亮平がハンカチを詰める。その行為を誰も止めようとしなかった。そのまま思念で覚者に言葉を飛ばす。
『これ以上騒いだり文句を吐き出すなら、憤怒者達が縛った以上にきつく縛り、吊るし上げるぞ』
「本当に……せっかくの実力が勿体ないです」
声を出せなくなった覚者を見ながら澄香がため息をついた。それなりに実力のある覚者なのだろうが、素行の悪さが全てを無駄にしている。どこかのんびりしている澄香ですら嫌悪するレベルなのだ。
「ほんとにひどい覚者もいたものよね。そうは思わない? リーリヤさん」
「力を得た人間は大抵ああだ。力を誇示し、そして慢心する」
『マリートヴァ』と切り結びながら数多が問いかける。その反応は冷淡な物だった。源素であれ銃であれ、力を得れば人はああなる。そう言いたげな声だ。
「あなた達もまた、力無き守るべき人達だから。騎士として、もっと知らないといけない」
「高潔だな。だがその言葉を信じれるなら、人は武器を捨てる。そうできないからこその『今』だ」
フィオナは自らの正義を憤怒者達に語る。帰ってきたのは侮蔑ではなく、否定。フィオナの言葉を聞きいれ、その上で否定していた。
「悪魔認定、大変結構。神職の端くれとして――だからどうした、と言わざるを得ません」
刀を振るいながら冬佳が口を開く。相手にどう思われようとも構わない。言葉による説得が通じないなら、実力行使あるのみ。水の龍が牙をむき、憤怒者達に襲い掛かる。この国の神職として恥じぬよう、真っ向から相手に立ち向かう。
「流石に重いぜ……!」
飛馬は『マリートヴァ』の蹴りを受け止め、笑みを浮かべる。刀を通じて伝わってくる強い衝撃。単純な鉄板ブーツの蹴りだけではない。そういうの経験を積んだ格闘家の蹴りだ。だがまだ倒れるつもりはない。仲間を守ることが自分の使命だからだ。
「向こうもだいぶ弱ってきているようだ」
梛は敵の状態をスキャンして、その結果を皆に伝えていた。相手の情報が分かれば戦いのペース配分の参考になる。適当な様に見えて、律儀な部分があった。神具を振るって弱体の香を振りまき、味方の被害を押さえていく。
「ならば確実に潰していこう」
梛の言葉を受けて、行成は単体攻撃をメインに行っていく。命中精度を上げて、確実に相手を倒せるように。鋭い斬撃が憤怒者の胸を裂き、体力を奪っていく。悩みは心に在れど、今は戦うとき。振るわれる刃が確実に憤怒者達の体力を削っていく。
数の有利こそあるが、個の戦闘力では憤怒者は覚者に劣る。故に戦闘可能な憤怒者の数が減ればそれだけ、戦いは覚者に有利になっていく。
「これでどうだ!」
フィオナの斬撃が『マリートヴァ』を戦闘不能に追い込んだ。こうなれば、戦闘力の差は一気に覚者に有利になる。澄香の回復に支えられ、覚者は一気に攻め立てた。
「リーリヤさんも倒れたし、そっちに勝ち目ないわよ! 大人しく退きなさい!」
「く……っ、撤退だ!」
何人かの戦闘不能者が出た時に数多が降伏勧告を行う。悔しそうに憤怒者は臍をかみ、倒れた仲間を抱えて撤退する。
ファイブの覚者達はそれを追うことなく、神具を納めて勝利を確信した。
●
『明日の朝、生きているかどうかと不安になるという気持ちは、少しずつ分かってきた気がする』
去りゆく憤怒者のリーダーに亮平が思念で語り掛ける。以前彼女に言われた言葉だ。
『君達のやり方に賛同は出来ないけど……俺も自分の力と覚者の力をもっと理解出来るように努力する』
返事はない。無言の肯定か、あるいは否定か。どうあれ、今は決意を告げるのみだ。
戦いが終わった後、、梛は街の人と話をしていた。
「小田原の説教は俺達がしてるけどさ、あんた達も小田原がいなくなったら妖の被害で困るんじゃないの。
街を守る代金含めてちゃんとあいつを雇ったら?」
「ムリムリ! あいつがいるだけで皆ストレスなんだ。それに相応の代金は払ってるんだよ」
「あー……」
どうやら街の方は覚者に対する信用や愛想がゼロのようだ。そうでなければ憤怒者に売りはしないだろうが。
そして件の覚者はというと……。
「プハ……ざまあみろってーんだ、ザコシスター達! 覚者様に勝てないと悟って逃げていきやがったぜ!」
拘束を解いて猿ぐつわを外した瞬間に、変わらぬ調子で喋り出す覚者。
「覚者は人間より上の存在、か。なら、君と我々は対等という事になるのだろうか? それとも……強い方が上、という事になるのだろうか?」
静かな口調で覚者に問う行成。静かな問いかけの中に、強い怒りが含まれていた。
「その力をつかいチンピラまがいの事しかできないのならば、その程度ということだろう。そのままチンピラで終わるがいい」
「平治! 貴方がやっているのはただの搾取だぞ!」
「小田原さんはチンピラのままでいいんですか?」
フィオナや澄香に責められて、動揺する覚者。なぜ自分が攻められているのかわからない、という顔だ。
「ま、待ってくれよ。俺は覚者だぜ。選ばれた存在だ。あんた達だってそうじゃないか。仲間だろう?」
「こりゃひでーな。自分が悪いことしたっていう自覚がない」
飛馬は覚者の言葉に頭をかき、処置なしと肩をすくめた。
「あんたをあいつらに引き渡したの、街の人達だって。
助けてもらっといてほんと、めちゃくちゃよね。でもね、感謝より懲らしめてやれっていうほうが大きくなってんのよ」
数多が腰に手を当てて覚者に告げる。
「あんたはそんな人達に負けたのよ。
覚者だからって絶対じゃない。見下していた相手に足元を掬われることだってあるのよ。今回は夢見が気付いて助かったけど、次はないかもしれないわよ」
「言い分は理解できます。確かに命を懸けて戦うことは強要できません」
冬佳は静かに告げる。覚者だから戦わなくてはならない。そんな法は何処にもない。だが彼は街の為に命を懸けて戦ったのだ。
「……何故、貴方は命を賭けて戦い始めたのか。その原点の想いを、もしかして忘れているのではないですか?」
「戦う……原点……」
その一言に口を閉ざし、押し黙る覚者。彼なりに思う所があるのだろう。
話し合いの結果、覚者はAAAを通して法的処理を行うことになった。恨みがたまった街の人と覚者の距離を放した方がいい、という考えもある。
もしかしたら小田原平治は改心したかもしれない。しなかったかもしれない。それが分かるのは未来の話で、そして別の話だ。
だが、彼が生きている限りは改心の可能性はある。
街を守る覚者として、妖と戦う未来の可能性が――

■あとがき■
どくどくです。
小田原に対する態度がひどいひどい。まあ当然なんですが。
憤怒者戦は基本的に『弱者』との戦いです。
それは能力的に劣っているというよりは『選ばれていない』事による優劣です。
例えれば「背が高い低い」「胸が大きい小さい」のような自分ではどうしようもない事象に対する劣等からきています。
小田原は『選ばれた』人間です。極端な増長ではありますが、こう思う覚者もいるだろうなぁ……という思いからこのシナリオは生まれました。
まあ、どくどくが『クズキャラを書くが楽しい』という思いもありますが。
MVPはそんな小田原の心を一番揺さぶった水瀬様に。
いきなり心変わりはしないでしょうが、何かを思い出すきっかけにはなりました。
それではまた、五麟市で。
小田原に対する態度がひどいひどい。まあ当然なんですが。
憤怒者戦は基本的に『弱者』との戦いです。
それは能力的に劣っているというよりは『選ばれていない』事による優劣です。
例えれば「背が高い低い」「胸が大きい小さい」のような自分ではどうしようもない事象に対する劣等からきています。
小田原は『選ばれた』人間です。極端な増長ではありますが、こう思う覚者もいるだろうなぁ……という思いからこのシナリオは生まれました。
まあ、どくどくが『クズキャラを書くが楽しい』という思いもありますが。
MVPはそんな小田原の心を一番揺さぶった水瀬様に。
いきなり心変わりはしないでしょうが、何かを思い出すきっかけにはなりました。
それではまた、五麟市で。
