<雷獣結界>稲妻が封じた髑髏を打ち砕け
●電波障害
FiVEの覚者達が雷獣の元に訪れ、衝撃の事実が判明した。
四半世紀の間日本を覆っていた電波障害。それは全国に存在する雷獣という古妖の仕業だった。
彼らは妖を封じるために電磁波を出して自らの結界を生み出していた。それが結果として電波障害を生んでいたのだ。
そして二十年以上結界を維持していた雷獣も疲弊し、結界の維持は限界が近いという。
雷獣の結界がなくなれば、そこに封じられた妖が世に出てしまう。そうなれば混乱は必至だ。
電波障害を解決するため。
妖を滅し、平和を保つため。
何よりも、雷獣を助けるため。
FiVEは大々的に覚者を派遣し、雷獣結界内の妖を討つ作戦を発動させた。
●雷獣『天鱗』
「よくぞ参った。我が名は天麟」
一つ目小僧に案内されて覚者達がやってきたのは、古びた坑道を思わせる洞窟だった。洞窟を支えるように柱が建てられていた。少し進んだその先に、年老いた猫を思わせる古妖がいた。――まあ、猫は体中に帯電していないし、体長2メートルを超えたりはしないだろうが。
雷獣。
全国に存在する雷の古妖。一つ目小僧の話が確かなら、この山に結界を敷き、強力な妖を封じているという。
その結界が結果として電波を阻害し、日本に発生している電波障害の原因となっていたのだ。
そして雷獣自身も、その結界を維持するのが限界であるという。
「情けない話だ。二十五年程度で限界が来るとは。我も老いたという事か」
古妖の時間間隔からすれば、二十五年は短いのだろう。だが人間からすれば二十五年は大きい。
もし二十五年前にこの妖が解き放たれていれば、近隣の街は瞬く間に死の街となっていただろう。それほどの妖だ。
「がしゃどくろ、と最初は思ったのだがな」
雷獣は結界の中で暴れる妖を見てそう呟いた。
巨大な人間の髑髏。なるほどそれは古妖の一種、がしゃどくろを想起させる。
だがその肩からは六本の腕を生やし、肋骨の一つ一つが生きているかのように結界を破壊しようと蠢いているのだ。目の前にあるものすべてを破壊し尽くす。その動きから感じ取れるのは妖のそれ。
坑道という暗き穴の中で生まれたそれは、重機を思わせる。暗い穴の中で死んだ者たちが、地上を求めた思いの結晶。土を砕き、岩を砕き、光を求める炭鉱の死者の集合体。
だが同情はできない。妖となったそれが求めるのは死と破壊。地上に出て満足するような、そんな存在ではないのだ。
「合図とともに結界を解除する。済まぬが我は結界を張りなおすために力を籠めねばならぬ故、加勢はできぬ。そうならぬように願っておるが、万が一という事もあるのでな」
覚者が妖を倒せれば問題はないが、もし負けた時は妖を再度閉じ込めなくてはならない。あの妖を外に出してはいけない、という意味では当然の行動だ。
覚者達は互いに頷きあい、妖に挑む準備を始めた。
FiVEの覚者達が雷獣の元に訪れ、衝撃の事実が判明した。
四半世紀の間日本を覆っていた電波障害。それは全国に存在する雷獣という古妖の仕業だった。
彼らは妖を封じるために電磁波を出して自らの結界を生み出していた。それが結果として電波障害を生んでいたのだ。
そして二十年以上結界を維持していた雷獣も疲弊し、結界の維持は限界が近いという。
雷獣の結界がなくなれば、そこに封じられた妖が世に出てしまう。そうなれば混乱は必至だ。
電波障害を解決するため。
妖を滅し、平和を保つため。
何よりも、雷獣を助けるため。
FiVEは大々的に覚者を派遣し、雷獣結界内の妖を討つ作戦を発動させた。
●雷獣『天鱗』
「よくぞ参った。我が名は天麟」
一つ目小僧に案内されて覚者達がやってきたのは、古びた坑道を思わせる洞窟だった。洞窟を支えるように柱が建てられていた。少し進んだその先に、年老いた猫を思わせる古妖がいた。――まあ、猫は体中に帯電していないし、体長2メートルを超えたりはしないだろうが。
雷獣。
全国に存在する雷の古妖。一つ目小僧の話が確かなら、この山に結界を敷き、強力な妖を封じているという。
その結界が結果として電波を阻害し、日本に発生している電波障害の原因となっていたのだ。
そして雷獣自身も、その結界を維持するのが限界であるという。
「情けない話だ。二十五年程度で限界が来るとは。我も老いたという事か」
古妖の時間間隔からすれば、二十五年は短いのだろう。だが人間からすれば二十五年は大きい。
もし二十五年前にこの妖が解き放たれていれば、近隣の街は瞬く間に死の街となっていただろう。それほどの妖だ。
「がしゃどくろ、と最初は思ったのだがな」
雷獣は結界の中で暴れる妖を見てそう呟いた。
巨大な人間の髑髏。なるほどそれは古妖の一種、がしゃどくろを想起させる。
だがその肩からは六本の腕を生やし、肋骨の一つ一つが生きているかのように結界を破壊しようと蠢いているのだ。目の前にあるものすべてを破壊し尽くす。その動きから感じ取れるのは妖のそれ。
坑道という暗き穴の中で生まれたそれは、重機を思わせる。暗い穴の中で死んだ者たちが、地上を求めた思いの結晶。土を砕き、岩を砕き、光を求める炭鉱の死者の集合体。
だが同情はできない。妖となったそれが求めるのは死と破壊。地上に出て満足するような、そんな存在ではないのだ。
「合図とともに結界を解除する。済まぬが我は結界を張りなおすために力を籠めねばならぬ故、加勢はできぬ。そうならぬように願っておるが、万が一という事もあるのでな」
覚者が妖を倒せれば問題はないが、もし負けた時は妖を再度閉じ込めなくてはならない。あの妖を外に出してはいけない、という意味では当然の行動だ。
覚者達は互いに頷きあい、妖に挑む準備を始めた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の打破。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
日本の状態異常をかけた戦いです。相応のBOSSを用意しました。
●敵情報
・炭鉱の骸骨(×1)
大きさ四メートル程の巨大な上半身のみの骸骨です。分類は動物系・妖。ランクは3。六本の腕を使い、這うようにして移動しています。
『髑髏』『肋骨』『肩』のそれぞれに体力が存在し、同一速度で独立して攻撃してきます。これらすべてで一つのキャラクター扱いです。また、移動するときは一斉に移動します。三カ所の体力を0にしない限り、動きは止まりません。
ルール的には『髑髏』『肋骨』『肩』が同一列に居る扱いです。
『髑髏』
黒煙 特遠列 口から炭素の粉を吐き、呼吸を奪います。〔猛毒〕
火吹 特近貫3 口から火を噴きます。(100%、50%、25%)〔火傷〕
眼窩 特遠単 何もない空洞の瞳で睨みます。〔呪い〕
怨嗟 P 共に苦しもうと呪いの声をあげています。この部位が存在する限り、PCの『自然治癒』にマイナス修正。
『肋骨』
骨槍 物近列 鋭い肋骨が肉を貫きます。〔二連〕
捕え 物近単 肋骨で絡めとり、複数の骨で絡むように突き刺してきます。〔流血〕
砕き 物近単 岩盤すら砕く肋骨の一撃。〔解除〕
蠢骨 P 蠢く肋骨により攻めにくいです。この部位が存在する限り、PCの『命中補正』にマイナス修正。
『肩』
拳骨 物遠単 長い腕で殴ってきます。
合掌 特遠全 両手を合わせ、衝撃波を放ちます。
投擲 物近列 近くにある岩を投げつけてきます。
多脚 P 六本の腕による不規則な攻め。この部位が存在する限り、PCの『回避』にマイナス修正。
●場所情報
兵庫県北部にある山の中。そこにある洞窟。広さは四人並ぶと命中と回避にマイナス修正が突きます。五人は並べません。
雷獣が照らしてくれるので、明かりの問題はありません。足場も戦闘に支障がないものとします。
雷獣と一つ目小僧は覚者が失敗した時に備えて、結界の張り直しの為に待機しています。
妖と覚者との距離は十メートルからスタートします。事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年12月10日
2016年12月10日
■メイン参加者 8人■

●
覚者はここで妖を止め、新たな未来を得るため。
妖はここを出て、街を襲うため。
目的は『未来』と『本能』によるもの。和解の道はない。
ならば言葉は不要。両者は互いの武装を構える。
稲妻の結界が消えた瞬間、激闘は始まっていた。
●
「初撃に全力を」
初手を取ったのは『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)だ。『疾蒼』と『電燐』と呼ばれる短刀を手に、真っ直ぐに妖に向かう。全身の細胞に源素を通し、その動きを活性化しての動き。しなやかに近づく姿は、正に猫の如く。
速く。速く。無駄を削り、抵抗を削り、最短距離で刀を突きつける。速度は燐花の武器。斬撃の瞬間までその動きを止めることなく、真っ直ぐに短刀は振るわれる。その手ごたえを自覚するよりも速く、二撃目を放つ。流れるような速度の刃。
「流石に二連続は、辛いですね」
(骨だけあって防御力は高くないようですね。その分体力が多いようです)
燐花の斬撃が与えたダメージを分析しながら『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)が納得する。情報分析は誡女の分野にして、武器。情報を知り、そこからどう攻めるか。仲間と情報を共有していく。
情報を伝えながら、誡女自身も戦場に挑む。天の源素を一点に集め、そして爆発させる。集った源素は霧となり、妖の周りに散布された。視界を奪い、気配を乱し、こちらの動きを認識させにくくする霧。打撃ではない戦いへの貢献が誡女の役目。
「比較的脆い部分などあればいいのですが……」
(炭鉱……事故で人死にが出易く、地の底故に無念も溜まり易い)
『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は暴れる妖を見ながら、彼らがはい出てきた炭鉱の闇を見る。ガスや落盤等による死亡は多く存在し、そしてそのまま埋葬される。そこに怨念がたまるのなら、こういう姿になるのだろう。そんな事を思っていた。
無論、妖を赦すつもりはない。抜刀し、水の源素を刀に纏わせる。妖を赦しはしない。冬佳がやるべきは無念を祓う事。纏わせた水で清めるように、刀を振るう。水の源素が牙となり、妖を砕かんと襲い掛かる。
「ここを通すわけにはいきません。貴方達の為にも」
「そうなのです。もう眠ってください」
妖を憐れむように『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は言葉を重ねる。炭鉱による死者。闇の中、呼吸すらできずに苦しんで死んでいった人達。この妖はそのなれの果て。彼らがやるべきは破壊ではない。安らかな眠りなのだ。
傷ついた仲間たちを見ながら、飛鳥はステッキを手にして水の源素を集中させる。集中は深く、されど力を入れすぎず。ふんわりとしたリズムを刻むように源素を展開し、水の癒しを仲間に施していく。
「髑髏さんが元気だとお仕事一杯なのです」
「安心しなさいな。髑髏はすぐに食ってやるさね」
フルフェイスの奥から緒形 逝(CL2000156)が言葉を発する。恨みを発するような妖の行動を、むしろ良しと言わんばかりに頷いていた。恨み辛みは『直刀・悪食』の大好物。それを前にして、満足しているのだ。
鞘から抜かれた『直刀・悪食』。それを構える逝の構えは素人に近いが、刀から発せられる異様な『気』が妖の攻撃を躊躇させていた。土の源素で守りを固め、真っ直ぐに刃を振るう。禍を喰らう刀が、怨念で固まった妖を傷つける。
「底無しの飢えを満たしてやるのも、おっさんのお仕事の一つさね」
「しかしまあ……何もこんな奇怪な昆虫の様な形状をしなくても。ねぇ?」
六本の腕で這うように動き回る妖を見ながら『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は苦笑する。肋骨は顎を思わせるように蠢き、髑髏は無感情にこちらを睨んでいる。妖に生物的なものを求めるのは間違っているが、これは流石に気持ち悪い。
嫌悪感を無理やり閉じ込めて、恭司は妖に意識を集中する。術符を手にしてそこに源素を集わせる。天の源素が集まり光を発し、白く輝く稲妻となる。雷は恭司の意志に従い炭坑内を突き進み、轟音と共に妖に突き刺さった。
「雷獣の前で雷の術っていうのは……失礼なのかな?」
「それを気にしていたら何もできないよ」
『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は妖を真っ直ぐに見る。ランク3。確かに二十五年前の覚者では対抗できそうにない存在だ。これを封じてくれた雷獣に感謝の念を送る。そしてその信頼に応えるべく、強く神具を握りしめた。
前世とのつながりを強く意識しながら、仲間達を見た。主に攻撃を受けている前衛を中心に、理央は癒しの術を行使する。ランク3の妖のからのダメージを全快できるとは思えないが、それでも気持ちだけは負けないと気合を入れて。
「荒事は専門外だとか言うつもりは無い。全力で妖を倒すよ」
「まあ、何とかなるんじゃない。これだけいれば」
銀の棍を回転させながら東雲 梛(CL2001410)が頷く。どこか緊張感のない声。だがその瞳は真っ直ぐに妖に向いていた。目を逸らすことなく、その挙動全てを見逃すまいとばかりの真剣さ。恐怖を押さえ込むようにゆっくり吐息を吐く。
第三の瞳を額に開き、木の源素を活性化させる。心を落ち着かせる香を発して味方の自然治癒力を高めた後に、妖に向かって圧縮した香を放つ。纏わりつく香が骨に染み入り、怨霊を祓うように力を弱めていく。
「ほんとタフだね、コイツ」
八人の覚者の攻撃を受けて、怯みもしない妖。髑髏が数多くの状態異常を放ち、肋骨が惑わし、肩の六本腕が強烈な一撃を加えてくる。
「……くっ!」
「命数なんぞくれてやるさ」
妖の攻撃で燐花と逝が命数を削られるほどの傷を受ける。
ギシャアアアアアアアアアアア!
妖の声が坑道に響く。それは咆哮か雄叫びか。怨嗟にも似た感情をぶつけるような、そんな音だ。
それに臆する覚者はいない。鋼の意志を神具に乗せて、覚者達は戦場に挑む。
●
狭い坑道の中、覚者達は陣形を組んで戦っていた。
前衛に燐花、逝、冬佳。中衛に理央、梛、誡女。後衛に恭司、飛鳥。その内中衛の梛と誡女は前衛が傷ついた時に前に出る要因として控える形だ。
「おっさんはいいよ。倒れるまで頑張るさ」
もっとも、逝は不退転の意志を示していたが。
「交代します」
「分かった。行くぜ」
燐花と梛が入れ替わる。妖の攻撃を受けることには変わりないが、肋骨の攻撃を受けないだけでもダメージは異なる。
「こんな妖を二〇年以上封じていたとはね」
眼前の妖を前にして梛は改めてその強さを肌で感じる。不気味な骸骨。蠢く肋骨。虫を想起させる六本腕。十分に成長したと思う自分だが、それでも倒しきれるか自信がない。だが退きはしない。今まで封じてくれた雷獣への敬意も込めて。
回復が追い付いていないことを察し、梛は攻撃から回復にシフトする。樹木の生命力をイメージする。荒れた大地に花開く力強さ。源素の解放と共に癒しの力が仲間たちに広がっていく。
「髑髏はあともう少しで倒せそうだ。一気に行こう」
「ならボクが潰させてもらうよ」
仲間の癒しをメインに動いていた理央が攻勢に出る。仲間の回復と敵の攻撃を天秤にかけ、リスクが少ない方を選ぶ。確実に倒せる自信はない。だがうまくいけば仲間の負担が減る。ならばと決意して符を構える。
今まで使用していた水の源素から、火の源素に変更する。理央の属する源素ではない為負担はあるが、構わず術を展開した。複数の源素を使うことが理央の強み。炎の弾丸が連続して妖に叩き込まれる。炎に飲まれ、髑髏が崩れ落ちていく。
「よし。これで少し楽になるね」
「次は肋骨か。行くぞ、悪食」
蠢く肋骨を前に逝がペットを散歩に誘うような声で神具を妖に向ける。フルフェイスに阻まれて、その表情はわからない。笑っているのか、戦意に満ちているのか、それとも狂気に満ちているのか。
最短の手で近づいて、無力化する。軍隊格闘術の基礎。逝の動きはまさにそれだった。自らが受ける傷を構うことなく妖に迫り、真っ直ぐに神具を叩きつける。逝の腕から流れる血が坑道を濡らす。だがそれ以上の打撃を与えた感覚はあった。
「さあ悪食や、御馳走だぞう!」
「あわわ。今すぐ癒しますから」
仲間の傷が深くなるのを見ながら、飛鳥は回復の術式を展開する。回復を施しても妖の攻撃でそれ以上の傷を負ってしまう。だれも傷つく事なく帰りたいと思う飛鳥だが、ランク3の妖はそれを許さぬとばかりに攻めてくる。
それでも飛鳥は回復を止めはしない。それは回復が自分の役割という事もある。FiVEの任務でもある。長い間結界を維持してきた雷獣の恩でもある。だがそれ以上に、この妖を解放してあげたかった。その為に力の限り、仲間を癒す。
「皆さん、頑張ってください!」
「ええ。これを地上に出すわけにはいかない」
誡女と後退して中衛に下がった冬佳が妖に刀を向ける。妖は人を襲う存在。ましてやこれは二十五年近く稲妻により閉じ込められていたモノだ。時間が恨みを昇華することはなく、むしろより強く人を襲おうと咆哮をあげていた。
息を吸い、吐く。同時に刀を握りしめ構えを取る。幼き頃から父に教わった刀術。破邪斬妖の剣を振るうは今ぞ。蠢く肋骨の動きを意識しながら一歩踏み込む。地を這うような下段からの一閃。そして返す刀で大上段から妖を切り伏せる。
「例え貴方達が光を求めていたとしても」
「そうだね。彼らが帰るべきはここじゃない。あの世だ」
恭司は古い縁故のジャーナリストから聞いた炭鉱の話を思い出す。致死性の高いガスを掘り当ててしまった炭鉱は、他に被害が広がる前に炭鉱夫ごとその道を塞いだという。そうしなければ皆が死んでしまうからだ。悲しい話だが、その現実の上に今が成り立つ。
未来を選ぶという事はそういう事だ、と恭司は強く自覚する。それはカメラマンとして現実を『写し』てきたからこそ分かる事。電波障害を解決した日本がどうなるか。どんなリターンとリスクがあるのか。まだそれはわからない。だが今はこの妖を滅するのみ。
「燐ちゃん、無理しないでね」
「はい。お互いに」
恭司の言葉に応じる燐花。だが無理をしないと倒せないのも事実だという事は、燐花も理解している。手にした短刀は逝から渡された者。贈り物に恥じぬよう自らを律し、息を整える。
やるべきことは変わらない。最大速度をもって相手に肉薄し、速度を殺さぬように一撃を加える。速さは燐花の強さ。その強さは同じ時を過ごしたいと思う大事な人を守るため。その名を胸に刻み、刃を振るう。
「まだ倒れるわけにはいきません」
(ええ。まだ、です)
前衛で妖の攻撃を受けながら誡女が言葉なく拳を握る。誡女は研究員だ。前衛できったはったを行うことはまずない。だがこれが神秘解明のためになるのなら傷つくことを厭わない。その為にも、まだ倒れるわけにはいかない。
攻撃を続ける仲間達の傷を癒すべく、体内の『気』を循環させる。生命力と呼ばれるそれを手のひらに集め、そっと移すイメージ。手のひらを仲間の体に当てて、そこから血から注いでいく。仲間が妖を倒してくれると信じて、誡女はサポートに徹する。
(雷獣に託されたこの厄災。必ず倒して見せます)
激しい攻撃を受けても、心折れることなく覚者達は妖に挑む。
だが肉体的な傷は誤魔化しようがない。梛と誡女が命数を削るほどの傷を受け、逝が膝をつく。倒れた逝の穴を埋めるように燐花が前に出た。
バッドステータスで覚者達の動きを阻害する髑髏は倒したが、火力の高い六本腕と肋骨はいまだに健在だ。スキャンしてもまだ倒れる兆候は見られない。
激戦は終局に向かい加速していく。
●
覚者達は三つの部位を一斉に攻めようと、主に広範囲の攻撃を仕掛けていた。
広範囲の攻撃は確かに効率よく全体に打撃を与えることが出来るが、その命中精度は単体攻撃に比べれば低い。ましてや――
「肋骨が蠢いて――!」
蠢く肋骨が覚者を惑わし、その命中率を更に下げる結果となっていた。結果、複数の場所に打撃を加えることはできるがその傷は浅く、決定打を与えるには至らない。
無論、時間をかければ倒しきることはできる。如何に肋骨が惑わそうが、覚者達の狙いから完全に身を護るには至らない。
問題は、それまで彼らの肉体が持つか否か――
「倒れるのは絶対に嫌です」
深手を負いながらなんとか意識を保つ燐花。今は何とか耐えたが、次は起き上がれるかどうか。
「まだです! まだまだ頑張れますの!」
必死に癒し続ける飛鳥。ステッキを振るい、気力の続く限り癒し続ける。何度も、何度も。
「気力も尽きてきた人は言ってね。ボクが何とかするから」
「やれやれ。手が足りないねぇ」
気力が切れてきた覚者の為に理央と恭司が気力の充填に回る。だがその手番だけ回復が遅れ、覚者の傷が深くなっていく。
「これでどうだ!」
梛の一撃が肋骨を砕き、瓦解させる。残るは一部位。だがその六本腕は傷こそ受けているが打破には遠い。
このまま押し切られる。そんな不安が覚者達の心を支配し始めていた。負けるつもりはない。だが精神論だけではこの状況を打破できない。
誡女は強く、その事を理解していた。そして思考する。今自分に何ができるか。今まで得た知識を総動員し、この場でうてる最善手は何か。
答えは、あっさり見つかった。数分前に自分が見た光景。この妖を捕らえていた雷の檻。
――雷獣結界。
(あれならこの妖の動きを捕らえることが出来る)
だが如何に天行の誡女であっても、雷獣と同等の稲妻を生み出すことはできない。人間が操る源素の力は、古妖の能力には及ばない。雷獣結界を生み出すには、奇跡が必要だ。
(我が身、我が魂は未来への礎に。足りないならば血でも命でも捧げましょう )
ならば奇跡を起こそう。
紅崎・誡女という人間を存在させる根源ともいえる存在。それが削られる。同時に彼女を中心に爆ぜるように稲妻が走り、縛鎖となって妖を縛る。
『雷獣結界・模倣』
後ろで控えていた雷獣が上げた声は感嘆だろうか。それを判別する余裕は今の覚者達にはなかった。千載一遇のこの機会、逃すわけにはいかぬと全力で攻撃を加える。
動きを封じられた妖はそこから脱しようともがいて雷の拘束を振りほどくが、稲妻の網と覚者の攻撃で満身創痍だった。
「――邪気に歪んだ無念の思い。時を経て還れるよう、その邪気を祓わせていただきます」
そこに冬佳の刀が振り上げられる。彼女もまた、満身創痍。ここを外せば後がないと悲鳴を上げる肉体に活を入れて、痛みに耐えながら刀を振り下ろす。
「滅せよ。その魂、黄泉國に渡れ!」
振り下ろされた冬佳の斬撃が、妖を両断して文字通りの骸と化した。
●
(……どうやら、限界のようです、ね)
戦闘終了と同時に誡女が激しい睡魔に襲われ、倒れ伏す。自らの一部を削った反動だろうか。糸が切れた人形のように、くたりと崩れ落ちた。
「あー……勝てたか。おっさんだけ倒れてたとは情けない」
戦闘が終わり、意識を取り戻した逝が起き上がり告げる。戦闘初期から退くことなく妖に打撃を加えていた為、戦闘離脱は致し方ない事ではあった。
「強かった。疲れた……」
梛の言葉は、全員の代弁だった。誡女が奇跡を起こさなければ、妖に押し切られていた可能性もある。それほどの相手だった。
「天麟さん。長い間お疲れさまでした。守ってくれてありがとうなのよ」
飛鳥は雷獣に向かい一礼し、妖が伏して消えた場所に石を沿える。坑道で失われた人たちを弔うように、御墓を作る。
「そうだね。人の知らぬ所で災いを封じてくれてた事に感謝を」
雷獣に対して、理央は頭を下げる。二十五年前にこの妖が解放されていれば、かなりの被害が出ていただろう。今があるのは、雷獣のおかげなのだ。
「…………」
冬佳は無言で飛鳥が作った墓に手を合わせる。妖は滅んだ。彼らの魂が迷うことなくあの世に行けますように。
「しかしこれで電波障害が解決するのか……。歴史の動く瞬間だね」
この瞬間を写真に収めたい。そう思い、恭司はシャッターを切っていた。歴史が動いた一瞬がカメラの中に切り取られ、永遠に保存される。
「生まれた時からこの状況だったので慣れたと言えば慣れたのですが……」
電波が使えないことが普通だった燐花は、電波障害がない世界がどのような物か想像がつかなかった。だが、それが改革であることは理解できる。
そう。この地方を包んでいた稲妻の檻は消え去った。
FiVEの覚者の手により、日本は新たなるステージへと進むことが出来たのだ。
後に誡女が起こした奇跡と雷獣からの教えにより、FiVEは小規模な<雷獣結界>の術式を生み出すことになる。
だがそれは先の話、今は静かに、体を癒そう。
電波障害解解決により、FiVEは人々から様々な期待を受けることになるのだから――
覚者はここで妖を止め、新たな未来を得るため。
妖はここを出て、街を襲うため。
目的は『未来』と『本能』によるもの。和解の道はない。
ならば言葉は不要。両者は互いの武装を構える。
稲妻の結界が消えた瞬間、激闘は始まっていた。
●
「初撃に全力を」
初手を取ったのは『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)だ。『疾蒼』と『電燐』と呼ばれる短刀を手に、真っ直ぐに妖に向かう。全身の細胞に源素を通し、その動きを活性化しての動き。しなやかに近づく姿は、正に猫の如く。
速く。速く。無駄を削り、抵抗を削り、最短距離で刀を突きつける。速度は燐花の武器。斬撃の瞬間までその動きを止めることなく、真っ直ぐに短刀は振るわれる。その手ごたえを自覚するよりも速く、二撃目を放つ。流れるような速度の刃。
「流石に二連続は、辛いですね」
(骨だけあって防御力は高くないようですね。その分体力が多いようです)
燐花の斬撃が与えたダメージを分析しながら『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)が納得する。情報分析は誡女の分野にして、武器。情報を知り、そこからどう攻めるか。仲間と情報を共有していく。
情報を伝えながら、誡女自身も戦場に挑む。天の源素を一点に集め、そして爆発させる。集った源素は霧となり、妖の周りに散布された。視界を奪い、気配を乱し、こちらの動きを認識させにくくする霧。打撃ではない戦いへの貢献が誡女の役目。
「比較的脆い部分などあればいいのですが……」
(炭鉱……事故で人死にが出易く、地の底故に無念も溜まり易い)
『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は暴れる妖を見ながら、彼らがはい出てきた炭鉱の闇を見る。ガスや落盤等による死亡は多く存在し、そしてそのまま埋葬される。そこに怨念がたまるのなら、こういう姿になるのだろう。そんな事を思っていた。
無論、妖を赦すつもりはない。抜刀し、水の源素を刀に纏わせる。妖を赦しはしない。冬佳がやるべきは無念を祓う事。纏わせた水で清めるように、刀を振るう。水の源素が牙となり、妖を砕かんと襲い掛かる。
「ここを通すわけにはいきません。貴方達の為にも」
「そうなのです。もう眠ってください」
妖を憐れむように『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は言葉を重ねる。炭鉱による死者。闇の中、呼吸すらできずに苦しんで死んでいった人達。この妖はそのなれの果て。彼らがやるべきは破壊ではない。安らかな眠りなのだ。
傷ついた仲間たちを見ながら、飛鳥はステッキを手にして水の源素を集中させる。集中は深く、されど力を入れすぎず。ふんわりとしたリズムを刻むように源素を展開し、水の癒しを仲間に施していく。
「髑髏さんが元気だとお仕事一杯なのです」
「安心しなさいな。髑髏はすぐに食ってやるさね」
フルフェイスの奥から緒形 逝(CL2000156)が言葉を発する。恨みを発するような妖の行動を、むしろ良しと言わんばかりに頷いていた。恨み辛みは『直刀・悪食』の大好物。それを前にして、満足しているのだ。
鞘から抜かれた『直刀・悪食』。それを構える逝の構えは素人に近いが、刀から発せられる異様な『気』が妖の攻撃を躊躇させていた。土の源素で守りを固め、真っ直ぐに刃を振るう。禍を喰らう刀が、怨念で固まった妖を傷つける。
「底無しの飢えを満たしてやるのも、おっさんのお仕事の一つさね」
「しかしまあ……何もこんな奇怪な昆虫の様な形状をしなくても。ねぇ?」
六本の腕で這うように動き回る妖を見ながら『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は苦笑する。肋骨は顎を思わせるように蠢き、髑髏は無感情にこちらを睨んでいる。妖に生物的なものを求めるのは間違っているが、これは流石に気持ち悪い。
嫌悪感を無理やり閉じ込めて、恭司は妖に意識を集中する。術符を手にしてそこに源素を集わせる。天の源素が集まり光を発し、白く輝く稲妻となる。雷は恭司の意志に従い炭坑内を突き進み、轟音と共に妖に突き刺さった。
「雷獣の前で雷の術っていうのは……失礼なのかな?」
「それを気にしていたら何もできないよ」
『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は妖を真っ直ぐに見る。ランク3。確かに二十五年前の覚者では対抗できそうにない存在だ。これを封じてくれた雷獣に感謝の念を送る。そしてその信頼に応えるべく、強く神具を握りしめた。
前世とのつながりを強く意識しながら、仲間達を見た。主に攻撃を受けている前衛を中心に、理央は癒しの術を行使する。ランク3の妖のからのダメージを全快できるとは思えないが、それでも気持ちだけは負けないと気合を入れて。
「荒事は専門外だとか言うつもりは無い。全力で妖を倒すよ」
「まあ、何とかなるんじゃない。これだけいれば」
銀の棍を回転させながら東雲 梛(CL2001410)が頷く。どこか緊張感のない声。だがその瞳は真っ直ぐに妖に向いていた。目を逸らすことなく、その挙動全てを見逃すまいとばかりの真剣さ。恐怖を押さえ込むようにゆっくり吐息を吐く。
第三の瞳を額に開き、木の源素を活性化させる。心を落ち着かせる香を発して味方の自然治癒力を高めた後に、妖に向かって圧縮した香を放つ。纏わりつく香が骨に染み入り、怨霊を祓うように力を弱めていく。
「ほんとタフだね、コイツ」
八人の覚者の攻撃を受けて、怯みもしない妖。髑髏が数多くの状態異常を放ち、肋骨が惑わし、肩の六本腕が強烈な一撃を加えてくる。
「……くっ!」
「命数なんぞくれてやるさ」
妖の攻撃で燐花と逝が命数を削られるほどの傷を受ける。
ギシャアアアアアアアアアアア!
妖の声が坑道に響く。それは咆哮か雄叫びか。怨嗟にも似た感情をぶつけるような、そんな音だ。
それに臆する覚者はいない。鋼の意志を神具に乗せて、覚者達は戦場に挑む。
●
狭い坑道の中、覚者達は陣形を組んで戦っていた。
前衛に燐花、逝、冬佳。中衛に理央、梛、誡女。後衛に恭司、飛鳥。その内中衛の梛と誡女は前衛が傷ついた時に前に出る要因として控える形だ。
「おっさんはいいよ。倒れるまで頑張るさ」
もっとも、逝は不退転の意志を示していたが。
「交代します」
「分かった。行くぜ」
燐花と梛が入れ替わる。妖の攻撃を受けることには変わりないが、肋骨の攻撃を受けないだけでもダメージは異なる。
「こんな妖を二〇年以上封じていたとはね」
眼前の妖を前にして梛は改めてその強さを肌で感じる。不気味な骸骨。蠢く肋骨。虫を想起させる六本腕。十分に成長したと思う自分だが、それでも倒しきれるか自信がない。だが退きはしない。今まで封じてくれた雷獣への敬意も込めて。
回復が追い付いていないことを察し、梛は攻撃から回復にシフトする。樹木の生命力をイメージする。荒れた大地に花開く力強さ。源素の解放と共に癒しの力が仲間たちに広がっていく。
「髑髏はあともう少しで倒せそうだ。一気に行こう」
「ならボクが潰させてもらうよ」
仲間の癒しをメインに動いていた理央が攻勢に出る。仲間の回復と敵の攻撃を天秤にかけ、リスクが少ない方を選ぶ。確実に倒せる自信はない。だがうまくいけば仲間の負担が減る。ならばと決意して符を構える。
今まで使用していた水の源素から、火の源素に変更する。理央の属する源素ではない為負担はあるが、構わず術を展開した。複数の源素を使うことが理央の強み。炎の弾丸が連続して妖に叩き込まれる。炎に飲まれ、髑髏が崩れ落ちていく。
「よし。これで少し楽になるね」
「次は肋骨か。行くぞ、悪食」
蠢く肋骨を前に逝がペットを散歩に誘うような声で神具を妖に向ける。フルフェイスに阻まれて、その表情はわからない。笑っているのか、戦意に満ちているのか、それとも狂気に満ちているのか。
最短の手で近づいて、無力化する。軍隊格闘術の基礎。逝の動きはまさにそれだった。自らが受ける傷を構うことなく妖に迫り、真っ直ぐに神具を叩きつける。逝の腕から流れる血が坑道を濡らす。だがそれ以上の打撃を与えた感覚はあった。
「さあ悪食や、御馳走だぞう!」
「あわわ。今すぐ癒しますから」
仲間の傷が深くなるのを見ながら、飛鳥は回復の術式を展開する。回復を施しても妖の攻撃でそれ以上の傷を負ってしまう。だれも傷つく事なく帰りたいと思う飛鳥だが、ランク3の妖はそれを許さぬとばかりに攻めてくる。
それでも飛鳥は回復を止めはしない。それは回復が自分の役割という事もある。FiVEの任務でもある。長い間結界を維持してきた雷獣の恩でもある。だがそれ以上に、この妖を解放してあげたかった。その為に力の限り、仲間を癒す。
「皆さん、頑張ってください!」
「ええ。これを地上に出すわけにはいかない」
誡女と後退して中衛に下がった冬佳が妖に刀を向ける。妖は人を襲う存在。ましてやこれは二十五年近く稲妻により閉じ込められていたモノだ。時間が恨みを昇華することはなく、むしろより強く人を襲おうと咆哮をあげていた。
息を吸い、吐く。同時に刀を握りしめ構えを取る。幼き頃から父に教わった刀術。破邪斬妖の剣を振るうは今ぞ。蠢く肋骨の動きを意識しながら一歩踏み込む。地を這うような下段からの一閃。そして返す刀で大上段から妖を切り伏せる。
「例え貴方達が光を求めていたとしても」
「そうだね。彼らが帰るべきはここじゃない。あの世だ」
恭司は古い縁故のジャーナリストから聞いた炭鉱の話を思い出す。致死性の高いガスを掘り当ててしまった炭鉱は、他に被害が広がる前に炭鉱夫ごとその道を塞いだという。そうしなければ皆が死んでしまうからだ。悲しい話だが、その現実の上に今が成り立つ。
未来を選ぶという事はそういう事だ、と恭司は強く自覚する。それはカメラマンとして現実を『写し』てきたからこそ分かる事。電波障害を解決した日本がどうなるか。どんなリターンとリスクがあるのか。まだそれはわからない。だが今はこの妖を滅するのみ。
「燐ちゃん、無理しないでね」
「はい。お互いに」
恭司の言葉に応じる燐花。だが無理をしないと倒せないのも事実だという事は、燐花も理解している。手にした短刀は逝から渡された者。贈り物に恥じぬよう自らを律し、息を整える。
やるべきことは変わらない。最大速度をもって相手に肉薄し、速度を殺さぬように一撃を加える。速さは燐花の強さ。その強さは同じ時を過ごしたいと思う大事な人を守るため。その名を胸に刻み、刃を振るう。
「まだ倒れるわけにはいきません」
(ええ。まだ、です)
前衛で妖の攻撃を受けながら誡女が言葉なく拳を握る。誡女は研究員だ。前衛できったはったを行うことはまずない。だがこれが神秘解明のためになるのなら傷つくことを厭わない。その為にも、まだ倒れるわけにはいかない。
攻撃を続ける仲間達の傷を癒すべく、体内の『気』を循環させる。生命力と呼ばれるそれを手のひらに集め、そっと移すイメージ。手のひらを仲間の体に当てて、そこから血から注いでいく。仲間が妖を倒してくれると信じて、誡女はサポートに徹する。
(雷獣に託されたこの厄災。必ず倒して見せます)
激しい攻撃を受けても、心折れることなく覚者達は妖に挑む。
だが肉体的な傷は誤魔化しようがない。梛と誡女が命数を削るほどの傷を受け、逝が膝をつく。倒れた逝の穴を埋めるように燐花が前に出た。
バッドステータスで覚者達の動きを阻害する髑髏は倒したが、火力の高い六本腕と肋骨はいまだに健在だ。スキャンしてもまだ倒れる兆候は見られない。
激戦は終局に向かい加速していく。
●
覚者達は三つの部位を一斉に攻めようと、主に広範囲の攻撃を仕掛けていた。
広範囲の攻撃は確かに効率よく全体に打撃を与えることが出来るが、その命中精度は単体攻撃に比べれば低い。ましてや――
「肋骨が蠢いて――!」
蠢く肋骨が覚者を惑わし、その命中率を更に下げる結果となっていた。結果、複数の場所に打撃を加えることはできるがその傷は浅く、決定打を与えるには至らない。
無論、時間をかければ倒しきることはできる。如何に肋骨が惑わそうが、覚者達の狙いから完全に身を護るには至らない。
問題は、それまで彼らの肉体が持つか否か――
「倒れるのは絶対に嫌です」
深手を負いながらなんとか意識を保つ燐花。今は何とか耐えたが、次は起き上がれるかどうか。
「まだです! まだまだ頑張れますの!」
必死に癒し続ける飛鳥。ステッキを振るい、気力の続く限り癒し続ける。何度も、何度も。
「気力も尽きてきた人は言ってね。ボクが何とかするから」
「やれやれ。手が足りないねぇ」
気力が切れてきた覚者の為に理央と恭司が気力の充填に回る。だがその手番だけ回復が遅れ、覚者の傷が深くなっていく。
「これでどうだ!」
梛の一撃が肋骨を砕き、瓦解させる。残るは一部位。だがその六本腕は傷こそ受けているが打破には遠い。
このまま押し切られる。そんな不安が覚者達の心を支配し始めていた。負けるつもりはない。だが精神論だけではこの状況を打破できない。
誡女は強く、その事を理解していた。そして思考する。今自分に何ができるか。今まで得た知識を総動員し、この場でうてる最善手は何か。
答えは、あっさり見つかった。数分前に自分が見た光景。この妖を捕らえていた雷の檻。
――雷獣結界。
(あれならこの妖の動きを捕らえることが出来る)
だが如何に天行の誡女であっても、雷獣と同等の稲妻を生み出すことはできない。人間が操る源素の力は、古妖の能力には及ばない。雷獣結界を生み出すには、奇跡が必要だ。
(我が身、我が魂は未来への礎に。足りないならば血でも命でも捧げましょう )
ならば奇跡を起こそう。
紅崎・誡女という人間を存在させる根源ともいえる存在。それが削られる。同時に彼女を中心に爆ぜるように稲妻が走り、縛鎖となって妖を縛る。
『雷獣結界・模倣』
後ろで控えていた雷獣が上げた声は感嘆だろうか。それを判別する余裕は今の覚者達にはなかった。千載一遇のこの機会、逃すわけにはいかぬと全力で攻撃を加える。
動きを封じられた妖はそこから脱しようともがいて雷の拘束を振りほどくが、稲妻の網と覚者の攻撃で満身創痍だった。
「――邪気に歪んだ無念の思い。時を経て還れるよう、その邪気を祓わせていただきます」
そこに冬佳の刀が振り上げられる。彼女もまた、満身創痍。ここを外せば後がないと悲鳴を上げる肉体に活を入れて、痛みに耐えながら刀を振り下ろす。
「滅せよ。その魂、黄泉國に渡れ!」
振り下ろされた冬佳の斬撃が、妖を両断して文字通りの骸と化した。
●
(……どうやら、限界のようです、ね)
戦闘終了と同時に誡女が激しい睡魔に襲われ、倒れ伏す。自らの一部を削った反動だろうか。糸が切れた人形のように、くたりと崩れ落ちた。
「あー……勝てたか。おっさんだけ倒れてたとは情けない」
戦闘が終わり、意識を取り戻した逝が起き上がり告げる。戦闘初期から退くことなく妖に打撃を加えていた為、戦闘離脱は致し方ない事ではあった。
「強かった。疲れた……」
梛の言葉は、全員の代弁だった。誡女が奇跡を起こさなければ、妖に押し切られていた可能性もある。それほどの相手だった。
「天麟さん。長い間お疲れさまでした。守ってくれてありがとうなのよ」
飛鳥は雷獣に向かい一礼し、妖が伏して消えた場所に石を沿える。坑道で失われた人たちを弔うように、御墓を作る。
「そうだね。人の知らぬ所で災いを封じてくれてた事に感謝を」
雷獣に対して、理央は頭を下げる。二十五年前にこの妖が解放されていれば、かなりの被害が出ていただろう。今があるのは、雷獣のおかげなのだ。
「…………」
冬佳は無言で飛鳥が作った墓に手を合わせる。妖は滅んだ。彼らの魂が迷うことなくあの世に行けますように。
「しかしこれで電波障害が解決するのか……。歴史の動く瞬間だね」
この瞬間を写真に収めたい。そう思い、恭司はシャッターを切っていた。歴史が動いた一瞬がカメラの中に切り取られ、永遠に保存される。
「生まれた時からこの状況だったので慣れたと言えば慣れたのですが……」
電波が使えないことが普通だった燐花は、電波障害がない世界がどのような物か想像がつかなかった。だが、それが改革であることは理解できる。
そう。この地方を包んでいた稲妻の檻は消え去った。
FiVEの覚者の手により、日本は新たなるステージへと進むことが出来たのだ。
後に誡女が起こした奇跡と雷獣からの教えにより、FiVEは小規模な<雷獣結界>の術式を生み出すことになる。
だがそれは先の話、今は静かに、体を癒そう。
電波障害解解決により、FiVEは人々から様々な期待を受けることになるのだから――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
久しぶりの戦闘重視描写となりました。
雷獣と電波障害の関係はアラタナル初期からの設定です。
それがこうして解決したことは、どくどく個人的に肩の荷が下りた気がします。
まあ、雷獣のイラストを見た時は『あ、こっちがボスでよかったじゃない? その方が燃えない?』と思いもしましたが。
ともあれお疲れ様です。ゆっくりと傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
久しぶりの戦闘重視描写となりました。
雷獣と電波障害の関係はアラタナル初期からの設定です。
それがこうして解決したことは、どくどく個人的に肩の荷が下りた気がします。
まあ、雷獣のイラストを見た時は『あ、こっちがボスでよかったじゃない? その方が燃えない?』と思いもしましたが。
ともあれお疲れ様です。ゆっくりと傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
