過去の残影
【月夜の死神】過去の残影



「……」
 元AAAの精鋭。
 日向朔夜は周りを取り囲まれながらも、まったく動じた様子もなく。むしろどこか呆れたように、冷たく嘆息した。
「日向朔夜、あなたを拘束します」
「我々AAAは秘密裏に、ずっとあなたを探していました」
「元AAAの英雄が、殺人者に身を落とすのを見過ごすわけにはいきません」
 月夜の廃墟を背に、影がのびる。
 朔夜を包囲したAAAの隊員達は、五行の技を撃ち込まんと一斉に動き出す。
「AAAの質も……落ちたものだな」
 多勢に無勢。
 絶体絶命の状況に月夜の死神と呼ばれた男は、煩わしげにわずかに指先を動かす。
「なっ! これは」
 刹那、隊員達の動きが止まる。
 いつの間にか身体中に鋼糸が何重にも巻き付けられて、身体の自由がうまくきかない。
「ずっと前から仕掛けられていることにすら気づかないとは……AAAの命運も、そう長くないのかもしれんな」
 吐き捨てる朔夜は、乾いた失望の色を浮かべていた。
 手近な覚者の首筋に手刀を叩き込み転倒させ、包囲を悠々と抜けていく。
「何をやっている! 遠慮することはない!! 奴はAAAの汚名だ、殺して構わんからここで止めろ!」
 部隊のAAA隊長が、ヒステリックに叫ぶ。
 その台詞が終わると同時――彼の頬を高速の弾丸がかすめる。あと少しのずれで、永遠に黙ることになったろう。そのまま尻餅をつき、部隊長は口をぱくぱくと動かした。
「……お前達に興味はない。俺が用があるのは、この先に出没する妖だ」
 目にも止まらぬ早撃ちの神業を披露した死神は、愛銃を仕舞うとそれ以上は目もくれず。自分を捕えにきた元僚友達に背を向け。
 廃墟の奥へと進んでいった。


 嫌な夢を見た。 

「朔夜さん……朔夜さんは、どこに行ったんですかっ!?」
 結城凛が会員制のバーへと駆け込んでくる。
 ここは裏の仕事の斡旋屋であり。何気なく歓談していた店の女主人と朔夜の助手たるアリスは、小さな来客者に目を向けた。
「凛ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
「朔夜先輩なら、仕事で出かけているっすよ」
 凛の様子はただごとではない。ここで預かることになってしばらく経つが。
 その顔色は、九歳の少女とは思えぬほど真剣だった。
「仕事……どこに、どこにですか!?」
「凛ちゃん凛ちゃん、まず落ち着いて。なにかあったの?」
 肩で息をする凛に、女主人は水を差し出してカウンター席に座るように促す。
 小さな背をさすられて、少女は呼吸を整えた。
「……嫌な夢を、見たんです」
「夢?」
 絞り出すような声。
 凛の言葉に、女主人とアリスは顔を見合わせる。
「……朔夜さんが、とても苦しんでいる夢を」

 嫌な夢を見た……あの人が死にたいくらい苦しんでいる夢を。


「今回集まってもらったのは元AAAの隊員、日向朔夜の件だ」
 中 恭介(nCL2000002)が、説明を始める。
 日向朔夜は月夜の死神と呼ばれる職業的暗殺者であり、元AAAの隊員という経歴の持ち主だ。F.i.V.E.はこれまで数度の事件で接触を果たしている。
「前回の事件に携わったメンバーの要請もあって、こちらでも調査してみたのだが、興味深いことがわかった。AAA時代、日向朔夜が最後に従事していたのは第三次妖討伐抗争での最前線任務……彼は、その戦闘の最中に行方不明扱いになっていた」
 第三次妖討伐抗争。
 大妖の一角である『新月の咆哮』ヨルナキとその一派を討とうと大規模な人数を投入した戦いだ。AAAはこれに大敗を喫し、大きくその戦力を衰退する事になる。
「あれはひどい戦いだった……どれだけの者の運命を狂わせたか分からん」
 大勢の犠牲者がでたなか。
 生き残った日向朔夜はAAAに戻ることなく。裏の世界の道を歩み、やがて名を馳せるようになった。彼がどんな心情だったのかは分からない。
 AAAは朔夜を追い、密かに討伐部隊を幾度も差し向けてきたという。
「そこで掴んだ情報なのだが、ある街外れの廃墟で日向朔夜とAAAの討伐部隊が激突したらしい」
 モニターに地図が映し出される。
 AAAの部隊は朔夜にあしらわれた後、また追撃を行う態勢を見せている。対して、朔夜はこの廃墟に出没するという妖が目当てのようだ。
「前から妖の出現が報告されている場所ではあったのだが、その詳細は分かっていなくてな。日向朔夜が絡んでいることを含めて、F.i.V.E.しても捨て置けん」
 故に、こちらも人員を派遣することになったのだが。
 現場には妖だけでなく、日向朔夜、さらにAAAの部隊がいる。立ち回りが重要になってくる。恭介は重々しく頷いた。
「日向朔夜を放っておくわけにはいかんが、妖と同時に相手取るのも難しいだろう。何を優先するかは、現場の君達に任せる。どうか、気をつけて事にあたってくれ」


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.妖の撃退
2.日向朔夜の撃退
3.1か2どちらかを満たせば成功
 今回は、元AAA暗殺者が関わるシリーズシナリオです。
 シナリオ参加者に次回のシナリオへの予約優先権を付与する形で連続していきます。

●日向朔夜(ヒュウガ・サクヤ)
 十九歳。覚者ではなく、高度な訓練を受けた職業的暗殺者。
 月夜の死神の異名を持つ。
 元AAAの精鋭で隔者や妖との戦闘に関してはエキスパートであり、覚者であろうとも危険な相手です。助手の覚者にアリスという女性がいます。
【月夜の死神】元AAAの暗殺者、【月夜の死神】死神の子守唄で以前に登場しています。

(主な攻撃方法)
 リボルバー A:物遠単  【出血】
 手榴弾   A:物遠敵全 【溜め1】
 鋼糸    A:物遠列  【鈍化】

●結城凛
 九歳の少女。
 資産家の親の遺産を受け継ぎ、それを理由に親類達から命を狙われています。
 覚者達に救われ、衰弱していた身体が回復して、今は日向朔夜達の元へ身を寄せています。
 【月夜の死神】元AAAの暗殺者、【月夜の死神】死神の子守唄で以前に登場しています。

●妖
 廃墟に出没しているという妖。
 ランク3の心霊系の妖。詳細は不明。

(主な攻撃手段)
 [攻撃1] A:特近単 【ノックB】【炎傷】
 [攻撃2] A:特近列 【火傷】
 [攻撃3] A:特近単 【解除】【二連】【溜め1】

●AAA部隊
 日向朔夜の討伐を目的としたAAAの部隊。
 妖よりも、朔夜の追撃を第一とします。各術式の覚者が揃っています。部隊長は、朔夜を捕縛よりも殺害すべしと考えています。

●廃墟
 街外れの廃墟。時間帯は夜。
 一般人の人気はなく、打ち捨てられた廃屋などが並んでいます。ちょっとした村程度の広さです。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年11月09日

■メイン参加者 8人■



「廃墟に出る心霊系の妖は現役時代の日向の同僚じゃねーか。火行の覚者なら炎を使う辻褄もあう。日向が元同僚の霊に会いに出向いた裏に何がある? AAAが日向を追う理由も気になる。どでかいヤマだぞこりゃ」
 許された時間では万全には程遠いものの。
 『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)は、考え得る限りの調査をする。
「良かった。凛さん、まだ復讐に動き出した訳じゃ無さそうですね。今回は、朔夜さん……?」
 上月・里桜(CL2001274)は廃墟について、図書館の新聞データベースなどで調べていた。
「やはり第三次妖討伐抗争による戦いの余波で廃墟となった場所のようですね……あとは、だいたいで良いので妖の位置が分かれば」
 妖の位置については、『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)が一足先に動いている。
 手にした地図つきの書類は、恭介から得たものだ。
「今までの経緯は翔くんからだいたい聞きましたけど」
 その上で、疑問がある。
 恭介は本当はもっと詳しい事を知ってるのではないか? 
 朔夜とAAAが対立してしまった原因のようなものをF.i.V.Eの調査で何も判らなかったとは思えない……確定できてないとしても、それっぽい何かは見つけたのでは?
「結局、そちらの質問は躱されましたね」
 返答は、現在開示できる情報は全て開示している。
 その一点張りだった。
 

「第三次妖討伐抗争か。俺もまたそれに参加して上司を失った。失うことは人を狂わせる。日向朔夜もまたあの戦いで大きなものを失ったのだろうか」
「AAAと日向朔夜の間に何があったんだろうな。まだ情報が少なすぎて判断はつかねーけど、ランク3の妖ってのは放っておけねーよな」
 現場の廃墟は静寂に包まれていた。 
 『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は、さっそく土の心での地形把握し。『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が、龍丸のともしびを暗所での明かり取りに活用する。誘輔とともに危険予知を使い、道行きに罠の有無に注意した。
「日向って妖退治すんのに現場に行ったんだろ。なんでAAAはそれを邪魔すんだ? AAAを黙って辞めたからにしたってなんかやり方がひでーって言うか。中さんの話聞いてたら第三次妖討伐抗争の時になんかあったんかなって思ったけど。ま! 日向が悪い奴じゃねーって自分のカンを信じるぜ、オレは!」
 暗視するのは『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)だ。上空では守護使役達がていさつで何か起こってる場所を捜し、そこには飛行する澄香の姿もある。
「ぐるぐる回してみたら、AAAの方達が助けが来たと思って合図をくれたりしないでしょうか……ん?」
 空から辺りを見渡し、懐中電灯を動かしてみる。
 すると、地上からも呼応するように光がこちらを照らしてきた。他のメンバーもその光の元を注目する。
「複数の人の焦りの感情を感じます」
 感情探査を使っていた里桜が指差した先。
 暗視を使った阿久津 ほのか(CL2001276)の眼には、鋼糸に絡まって四苦八苦している一団の姿が写る。
「AAAの人達ですね。お任せしてもいいですか? 私達の方は日向さんと妖を探すのを急ぎます」
 水を向けられた九乙女 少女(CL2001464)達が頷き。
 一行は二手に分かれた。


「空からの光は、君達だったのか」
 AAAは、夜の廃墟で立ち往生していた。
 こちらの姿を見出すと、明かにほっとした様子だ。
「時任さん、私は、どちらに行けば宜しいでしょうか」
「では、あちらの方を」
 少女は成るべく新参であると思われる様、指示を仰いだ。
 千陽達は罠を外し助けるふりをして時間を稼ぐ。
「しかし、F.i.V.Eがなぜこの場所に?」
 AAA部隊長が、いぶかしげに問うてくる。
「我々F.i.V.Eはこの先にいる妖討伐にきました。そちらにも事情があるとは思いますがランク3の相手……共闘をお願いしてもよろしいでしょうか? そちらの組織としても妖の討伐は目的でしょう」
「悪ぃ。今回、俺らの優先撃破目標はあの妖なんだ。まずはあっちの撃破に集中させてくれねーか? そんなにあいつを殺したい理由って何だ」
「日向朔夜。こちらも知らない相手では無いのですが、AAAと何があったのですか? 貴方の様子は尋常ではない」
 千陽に加えて、罠抜けを手伝う飛馬も口を揃えるが。
 相手の反応は芳しくなかった。
「……裏切り者は許さない。それだけだ……助力には感謝するが、我々はあくまでも奴を第一に追う」
 そっぽを向く部隊長。
 それを横目に、千陽はそっと隊員達の方に牽制をかけておく。
「とはいえ、同僚。彼のようにあなた方も殺すなど過激なことはしたくないでしょう」
「それは……まあ」
「日向は、AAAにいたときどういう方でしたか?」
「現役時代のあの人は、英雄でした……戦場で救われた者も数多いです」
 隊員達は、顔を見合わせて歯切れの悪い表情を作っていた。
「何故彼は、元々仲間であった者に刃を向けてまでこんな事をしているのでしょうか」
 手を動かしながら、それと無く少女も情報を集める。
「……我々にも、確かなことは分かりませんが」
「ただ、今回は過去の影を始末しにきたのではと」
 そう言って。
 彼らは部隊長の方を、気遣わしげに見やった。
 人の関係性と言うのは一寸した誤解から拗れてしまう。
「言葉と言う道具を持ってして尚、これなのですから。難しい物ですね」
 いっその事、言葉の無い獣に成り下がれてしまえば救われるのでしょうか……少女は廃墟の中で、ふとそう思った。


「初めまして、朔夜くん」 
 澄香が礼儀正しく挨拶する。
 月夜の死神――日向朔夜は、僅かに振り返って無感動に呟く。
「F.i.V.Eか……見た顔が、幾つかあるな」
 二手に分かれて以降。
 朔夜を追い掛けた覚者達は、まず妖の目撃情報がある場所を目指した。その途上には真新しい罠の数々が設置されており、危険予知を駆使して逆に罠が仕掛けられているルートを進んでいったのだ。守護使役のていさつで、廃ビルに入っていく朔夜を見つけることが出来たのは前準備とスキルで補完しあった結果であった。
「ここの妖の強さを知っていたら、一人で来るのは危険すぎますよ……」
「……」
 早速、顔見知りのほのかが苦言を呈するが。
 朔夜は黙ったまま、ビルの上階へと昇っていった。覚者達は、頷き合ってその背についていく。
「それに……もし知らないなら尚更……助手のアリスさんを連れずに、よく知らない敵の懐に飛び込むなんて……用意周到なあなたらしく無いです」
「……」
「ここへ来たのはお仕事ではなく、個人的に……ではないですか?」
「……仕事だよ」
 死神の歩みが止まり、ほのかは口を閉じる。
 ビルの屋上の中心。
 そこには、月明かりに照らされて赤い炎がゆらゆらと揺らいでいた。徐々に、それは人の姿を形作った。
「だが、一人であいつに会いに来たのは……確かに私情かもしれんな」
 日向朔夜の射るような視線の先。
 炎は若い女性の風貌となる。髪の長い美しい少女だった。美しい……妖だった。
「一人じゃ大変だろ? 一緒に戦おうぜ。退治し終わったらAAAからも逃がしてやるから協力しねーか?」
 油断なく翔が身構えて、提案するのと。
 朔夜が躊躇なく、妖へと発砲したのはどちらが先だったか。
 高速連射の弾丸が、寸分違わず女性の頭を吹き飛ばす。だが、心霊系の妖に物理攻撃の効果はさして期待できない。煙のように、その美しい顔は元に戻っていった。
「……」
 月夜の死神は、気にした様子もなく。
 美しき妖へとその身を躍らせる。その突撃は疾風のごとく。銃撃音が夜の廃墟に響き渡る。
(そう言えば、朔夜さん、前の時襲撃者を撃退する依頼は受けても孤児院の人たちを守る依頼は受けなかったのですよね。自分にできるのは殺すことだけ、と……?)
 大胆不敵か、あるいは捨て身と見るべきか。 
 朔夜の身のこなしを追いながら、里桜は錬覇法と蒼鋼壁の準備に入った。


「……さ……さ……」
 周囲の空気が燃え。
 自身の身体の炎を融合。
 妖が放つ強力な熱の衝撃波が、覚者達を襲う。
「っ」
 恐ろしいほどの熱波。
 蔵王を活性化させていた誘輔は、何とか持ちこたえたものの。あまりの勢いに、前衛から飛ばされることを余儀なくされた。
「なかなか強力ですね」
 澄香の掛けた清廉珀香は、まだ味方に効いている。回復と火傷や炎傷のリカバーを、大樹の息吹と深想水で補う。
 ランク3の相手。
 こちらは二手に分かれてフルメンバーではない。
 当たり前のように、その分こちらの被害も大きくなる……のだが。
(それでも、この程度で済んでいるのは――)
 里桜は癒しの霧を展開しつつ。
 最前線の激闘から目を離せずにいた。
「ささ……さ……」 
 美しき妖が至近距離から撒き散らす炎を。
 日向朔夜は紙一重で躱す。通り過ぎた炎の影に隠れ。そこから、逆に銃撃を浴びせる。一所には決して留まらず。神速の反応で動き続け、対象を蜂の巣に変える。
「……遅いな」
 無感動な吐露。
 朔夜が明確に共闘の意思を持っているかどうかは微妙だが。結果として、この傲然とした死神は、妖の攻撃の半分以上を引きつけていた。
(日向さんからも事情をしっかり確認したいです。でも……深い事情があったとしても、妖をこのまま放っておけませんし)
 ほのかは、鉄甲掌や深想水を駆使して援護した。
 もし、朔夜が妖と決着をつけたいと望むのなら……トドメは託すつもりだ。それほど、月夜の死神の働きは凄まじかった。
「なあ、アンタなんでAAAに狙われてるんだ? あの隊長とか普通じゃねーだろ。オレ達で良かったら力になるぜ。話してみねー?」 
 おかげでというべきなのか。
 翔にもまだ余裕がある。朔夜に注意が向かっている妖へと雷獣を発動させた。
「……お前達には関係ないことだ。それに、あの部隊長と上層部の意向は多分異なる」
 雷撃を受けた妖へと、更に銃弾を続ける朔夜はにべもない。
 その様を観察していた、誘輔は火傷を受けた右手の感覚を確かめながら少しアプローチを変えることにした。
「なあ日向……ひょっとしてこの妖、テメエの顔見知りか? 何か用があってここに来たのか? 俺達に腹を明かしゃ力を貸せるかもしれねえ」
「……」
「時間がなかったせいで完璧には程遠いが、少し調べさせてもらった。第三次妖討伐抗争のとき、最前線にいたテメエの部隊は当時のAAAの派閥争いが原因で満足な味方の援護が得られなかった。結果、多くの死傷者を出した……違うか?」
 調査したカードを切り。 
 前線に再び舞い戻り、活殺打の一撃を敵へと叩き付ける。結果、誘輔と朔夜は真っ直ぐ並び立った。お互いの眼を、はっきりと直視する。
「……少しは鼻が利く奴がいるようだな」
 やがて、朔夜が頭を振る。
 だが、次の句を待つ前。翔の叫びが全てを遮った。
「待った、AAAがもうすぐ来るっ」
  

 AAAと同行していた千陽達は、出来る限り時間を稼いだ。
 罠の可能性を示唆し、ゆっくりと移動させAAAの介入を遅延させる。それは、確かな効果をもたらしてはいたが、やはり限度はある。
「あっちだ。銃撃の音が聞こえるぞ!」
 部隊長がいきり立って、先頭になって駆ける。
 こうなっては仕方がない。千陽は送受心・改を持つ翔へと、すぐに現場に到着するだろう旨を送った。
「見つけたぞ、日向朔夜!」
 屋上への扉を蹴破った部隊長は、他には目もくれず。
 自分のターゲットを発見すると、ガムシャラに銃を向けた。そこにすかさず、同行していた少女は射線を妨害出来る位置へと飛び出した。
「何をしてるっ、邪魔だ!」
「す、すいません。団体での戦闘行動に慣れて居なくて。御免なさい」
 妨害に成功した後は、部隊長の方へ向きお詫びにお辞儀。
 一度目のそれでの反応を見、激情型か、毒気を抜かれるタイプかを判断する。
「ちっ。総員、日向朔夜を抑えろ!」
「ですが、隊長……妖と交戦中の模様ですが……」
「構わん! 日向朔夜が第一目的だ!」
 どうやら激情型で違いないらしい。
 隊員達は納得はしていないようだが、リーダーの命令通りに朔夜の方へと向かった。
「巻き込んだら大変だから前に出てくんなよ!」
「そうそう、流れ弾が当たるかもしれねえ」
 心得た翔は脣星落霜を全体に落として叫ぶ。
 誘輔もタイミングを合わせて誤射するフリをして足を引っ張った。ほのかはずいずいと、部隊長へと迫った。
「中さんからお聞きしてますが……日向さんは第三次妖討伐抗争中に行方不明になってるんですよね?」 
「な、なんだ、お前は?」
「という事は……AAAの皆さんも詳しい事情をよく分かってないのでは?」
「いや、だから」
「AAAはそんな一方的な理由で殺害を企てる組織ではない筈ですよね? あってますか? 違うんですか? 教えてくださいーっ」
 早口でまくしたてられた部隊長は、その相手に精一杯になってしまう。
 戦線は次第に混乱し、皆に合流した千陽は錬覇法で英霊の力を引出し妖へと対する。朔夜への射線をふさぐように立ち回ることを忘れない。
「今は妖の討伐を優先してください、後ほど捕縛は手伝います」
 AAAの隊員達も、判断を決めかねているようだった。
 それを朔夜は呆れたように眺めていた。
「とんだ、茶番だな」
「今回、俺らはあの妖を倒しに来たんだ。敵の敵は仲間……とまでは言わねーけどよ。あいつを倒すまでの間、協力することはできるんじゃねーかな」
 傍らに寄った飛馬は、妖の攻撃から身を呈して朔夜をガードする。
 刀を器用に使って、二連撃を受け止め。二つの太刀が、炎の力を上手く流す。
(妖が使ってくる技、何か既視感あるよな。火行の覚者が使う火柱系や豪炎撃系、双撃系のスキルにちょっと似てるような……関係、ないよな?)
 既視感と違和感を抱えつつ。
 傷付いた仲間を、飛馬はガードし続けた。朔夜はその背中に、視線をそそぐ。
「……お前達は、何のためにここまでする?」
 元AAAの半ば独り言に。
 答えたのは土行の頑丈さを活かして、AAAからの攻撃を庇った誘輔だった。
「俺も凛が泣くところは見たくねえ。テメエだって同じだろ。一人で突っ走って自滅したら後悔するのは遺された人間だ」
 その訴えに。
 月夜の死神は。
 僅かに。ほんの僅かな刹那……苦笑した。
「耳が痛いな……なあ、美月?」
 死神がそう語りかけた相手は、美しい姿をした妖だった。
 そのまま朔夜は、ゆっくりと敵へと踏み出す。
「……さ……さく、や?」
 妖が死神の名前を、たどたどしく紡ぐ。
 そして……紅蓮の炎が死神を襲い、朔夜はそれを正面から受け止めた。
「……本当、AAAの質も落ちたな。俺の下にいたときのお前の炎は、もう少しマシだった」
 炎の直撃を受け。
 それでも、朔夜は歩みを止めない。
「なあ、美月。お前は恨んでいるか? 第三次妖討伐抗争のとき、お前達を、仲間を、守れなかった俺を……大妖ヨルナキという脅威を前にしても、くだらない派閥争いで足を引っ張り合ったAAAを……」
 AAAの面々は、思わず動きを止め。
 覚者達は、その隙に懸命に動く。
「お前達を死なせておいて……俺はこうしてのうのうと生きている。AAAを去った後、気付けば裏の世界に身を置いていたよ」
 千陽は、無頼と無頼漢でプレッシャーをかけ。
 烈空波が真空を斬り裂き。気弾を広範囲にばら撒いて、弾幕を張る。
「まあ、運が良かったな。信頼できる斡旋屋に出会えた。他にも色々面倒を見てもらってる」
 里桜の隆神槍が轟く。
 澄香は朔夜を回復対象とし。仇華浸香で敵を弱め、棘散舞が自由を奪う。
「助手というか、弟子みたいのも出来た。アリスって言ってな……まあ、言うなれば俺からみても相当天才肌な奴なんだが……これがまた生意気で。手を焼いている」
 ……今の私ではまだ、戦力として皆さんの力には到底なれない。
 だから、今回は全力でサポートを、と。少女は、醒の炎で身体を活性化させてから火炎弾を見舞う。
「最近のことで言うと、昔のお前に少し似ている奴に会った。凛って名前で、まだ目覚めてはいないが、夢見の才能があるようだな……美月みたいに、頭が良いくせに変なところで頑固で……何か放っておけない」
 ほのかは、交霊術を使い。
 耳を、感覚を研ぎ澄ませた。何か得られるものがあると信じて。その間にも、月夜の死神は妖の攻撃を無防備に受け続けた。
「テメエが死んだら凛が泣くぞ!」
 このままでは。
 誘輔が説得の単語を持ち出し、朔夜は首を横に振った。
「そうだ……凛の奴に、あの写真を渡してやってくれ。多分、喜ぶ」
 朔夜はそのまま、愛銃を妖へと突きつけた。
 美しい女の……朔夜のかつての仲間の怨念で創られた妖は、覚者達の攻撃により。死神同様、ぼろぼろになっていた。
「や、やめろ! やめてくれ! 日向朔夜!!」
 制止したのは部隊長の悲鳴。
 かつての僚友へ、朔夜は振り返りもせず。ただ答えた。
「これは、もうかつての俺の仲間じゃない。死んだあんたの娘でもない……ただの妖だ」
 発砲音。
 妖の口が僅かに動き。
 月夜の中に幻のように四散した。  


「凛によろしくな!」
「いつかまたお会いできるといいですね」
 翔や澄香の声を背に。
「何時まで一人で恰好付けてるんですか、日向さん」
 少女の言に、一瞬だけ足を止めて。
 月夜の死神は、妖と同様に幻のように立ち去った。
「娘さんの、最後の言葉が聞こえました……『さようなら、お父さん』だそうです」
 放心したAAAの部隊長に、ほのかの言葉が届いたかどうか。
 誘輔は空の月を、見つめた。
「約束はちゃんと守んなきゃな」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 今回は、色々と見当をつけられているなと感じました。また、皆さんの行動が影響してこの連続シナリオは動き出します。 
 それでは、ご参加ありがとうございました。




 
ここはミラーサイトです