神林瑛莉と絶望の試練
●その女、神林
神林 瑛莉(nCL2000072)。私立五麟学園付属高校3年。口より先に手が出るタイプ。
覚者組織『F.i.V.E.』に所属する、ごく普通の覚者である。
F.i.V.E.における彼女の仕事は、調査活動、新人研修、危険度の著しく低い遺跡調査班の護衛等々。その性質上長期の出張が多く、本業である学生生活も――任務故、出席扱いにはなってはいるものの――サボりがち。
口の悪さも相まって、周囲からは不良として、親しい人間からは(色んな意味で)可哀想な人として見られている。
さて、私立五麟学園付属高校。久しぶりに登校した瑛莉は、放課後、職員室に呼び出されていた。
「神林さん、このままだと留年よ」
瑛莉の担任である女教師は、開口一番にそう言い放った。
「……は?」
突然の衝撃に、頭が理解を拒んだのか。何を言っているのかわからない、という表情で、瑛莉は口を開けた。
「いえ、だからね、留年。神林さんがF.i.V.E.のお仕事でおやすみしているのは分かりますし、それは他の子も同じだから、良いのですけれど。それにしたって、神林さんは休み過ぎよ。特別補修にもほとんど顔を出してないじゃない」
いや、それは仕事が――。
言いかけて、口を閉ざした。
――いやいや、悪いのは、F.i.V.E.の仕事にかまけていた自分自身だ。
意外と真面目な所がある瑛莉である。
「で、その、どうしたら」
「そうね。2週間あげるからしっかり勉強しなさい。その後、テストをして、それに合格したら、ひとまず今学期での留年決定は回避よ」
「ちなみに」
瑛莉は引きつった笑顔で、尋ねた。
「そのテストに合格できなかったら」
女教師は困った顔で言った。
「留年」
●そんなわけで
「頼む……勉強を……教えてください……」
キミたちの前には、土下座する瑛莉の姿があった。
神林 瑛莉(nCL2000072)。私立五麟学園付属高校3年。口より先に手が出るタイプ。
覚者組織『F.i.V.E.』に所属する、ごく普通の覚者である。
F.i.V.E.における彼女の仕事は、調査活動、新人研修、危険度の著しく低い遺跡調査班の護衛等々。その性質上長期の出張が多く、本業である学生生活も――任務故、出席扱いにはなってはいるものの――サボりがち。
口の悪さも相まって、周囲からは不良として、親しい人間からは(色んな意味で)可哀想な人として見られている。
さて、私立五麟学園付属高校。久しぶりに登校した瑛莉は、放課後、職員室に呼び出されていた。
「神林さん、このままだと留年よ」
瑛莉の担任である女教師は、開口一番にそう言い放った。
「……は?」
突然の衝撃に、頭が理解を拒んだのか。何を言っているのかわからない、という表情で、瑛莉は口を開けた。
「いえ、だからね、留年。神林さんがF.i.V.E.のお仕事でおやすみしているのは分かりますし、それは他の子も同じだから、良いのですけれど。それにしたって、神林さんは休み過ぎよ。特別補修にもほとんど顔を出してないじゃない」
いや、それは仕事が――。
言いかけて、口を閉ざした。
――いやいや、悪いのは、F.i.V.E.の仕事にかまけていた自分自身だ。
意外と真面目な所がある瑛莉である。
「で、その、どうしたら」
「そうね。2週間あげるからしっかり勉強しなさい。その後、テストをして、それに合格したら、ひとまず今学期での留年決定は回避よ」
「ちなみに」
瑛莉は引きつった笑顔で、尋ねた。
「そのテストに合格できなかったら」
女教師は困った顔で言った。
「留年」
●そんなわけで
「頼む……勉強を……教えてください……」
キミたちの前には、土下座する瑛莉の姿があった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.神林瑛莉の勉強会に参加する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
留年の危機にある神林瑛莉を救おう!
#シチュエーション
学生寮での勉強会シナリオです。
勉強を教えたり、この隙に瑛莉の部屋を漁ったり、瑛莉で遊んだり、瑛莉と遊んだりできます。
実は自分もやばいんだ! とか、予習復習でせっかくだから、等々、一緒に勉強しても構いません。
気軽に息抜き学生ロールしよう!
#成功条件
『神林瑛莉の勉強会に参加する事』が成功条件です。
瑛莉が留年するか否かは条件ではありません。
つまり……全員で夜通し遊びまくって……瑛莉を留年させることも可能と言う事……!
※仮に瑛莉に勉強を教えるプレイングが一切来なかった場合、神林瑛莉は来年も高校三年生です。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
17/30
17/30
公開日
2016年10月25日
2016年10月25日
■メイン参加者 17人■

●しれんのはじまり
「たのもーーー!!!!! ここで赤点を回避できる術を教えてもらえると聞いて!」
と、大声上げつつ現れたのは葛城 舞子(CL2001275)である。
「いや、普通に勉強する集まりなんだけどな?」
教科書などを広げつつ、神林 瑛莉(nCL2000072)がツッコんだ。
とあるよく晴れた日の学生寮、その談話室で、勉強会が開かれようとしていた。
参加メンバーは本格的に留年の危機にあるモノや、気晴らしに参加したものまで千差万別である。
「細かい事は言いっこなしッスよ! 留年先輩!」
「まだ留年してねぇよ! 留年の『り』の字が見えてきた当たりだよ!」
「奇遇っッスね! 私もいよいよ留年の『ね』の字が見えて来たッスよ!」
「それもうアウトじゃねーか!」
「先輩も一緒に留年して、赤点仲間になるッスよ」
「お前留年回避しに来たんじゃねぇの!?」
「所で見て欲しいッス! この落書き! 傑作じゃないッスか?」
「それオレの教科書じゃねーか!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見やりつつ、「来る所間違えたんじゃないだろうか」と内心思いながら、神薙・凌牙(CL2001514)は、
「まぁ、その辺にして……教えてほしいのだが」
つい最近まで山奥で暮らしていて、学校などにも通った事のない凌牙は、勉強会とは何をすればいいのかがよくわかっていなかった。
いや、勉強すればいい、学べばいい、とはわかっているものの、「何を」「どう」学べばいいのかがまだ理解できていないのだ。
こういった場合、苦手な教科について勉強するものなのだが、そもそもなんの教科の何が苦手なのかもよくわかっていない。
ちなみに、編入試験は全部直感で答えたらしい。
「俺は、何を勉強すればいいんだ、神林」
「いや、それをオレに聞かれても……」
「こういう時は『師に教えてもらうだけでは成長できない。わからない者同士がお互いの知恵を絞りきって突き詰める事で成長する』と我が師匠が言ってた。つまり成長する為には生徒同士で教え合うのがいいのだ」
「ああ、うん、それは確かにそうなんだけどな?」
とは言え、何を勉強すればいいのか聞かれても困る。分からない所を共に悩むことはできるが、流石に「何を勉強すればいいのか」は瑛莉のキャパシティを越えていた。
悩む瑛莉。しかし、舞子は笑顔で、
「禅問答ッスか!?」
「禅……なるほど、深い物なのだな……勉強会とは……」
「いや、納得すんなよ!?」
うんうんと頷く舞子と凌牙。なんか納得されてしまった。
「所で、この公式なのだが……わかるか? 俺にはさっぱりわからない」
「私にもさっぱりッス! でもこういう時は鉛筆を転がすと良いって、うちのお祖母ちゃんが言ってたッス!」
「成程……! 運も実力のうち、という事か……!」
「そう言う事ッスよ、先輩!」
「深いな……勉強会とは……!」
流石にツッコミが追いつかず、パクパクと口を開くだけの瑛莉を尻目に、嬉々として鉛筆を転がす舞子と凌牙。
これはもうダメかもしれない……。
「はいはい、ふざけてないで、ちゃんとやるよ」
捨てる神あれば拾う神あり。用意した教材を生徒に手渡しつつ、四条・理央(CL2000070)が言う。
「分からない所が分からない、って言うのは、基礎ができてない証拠。と言うわけで、まずはしっかり基礎から勉強だよ」
彼女の言う通り、まずは基礎となる知識を習得しなければ、応用にはたどり着けない。
「キミ達……特に神薙君は、何度も問題を解いて、基礎を習得しようね。分からない所はちゃんと説明するから、頑張るんだよ」
そういう彼女は、勉強ダメダメな瑛莉達にとって、まさに救いの神。何やら後光すらさして見える。
「やったぜ……助かるぜ委員長……!」
「ああ、頼りになるな、委員長……!」
「流石ッス、委員長先輩……!」
「いや、ボクは委員長じゃないからね!?」
理央は顔を赤らめつつ否定し、こほんと咳払い一つ、
「とにかく! 神林さんは試験範囲から、二人は全体的に! 始めるよ!」
かくして、まともな勉強会の幕が上がったのだった。よかった。本当によかった……。
●午前・拾う神たちの奮闘
「神林……そこまで大変な目にあっていたんだね。水着剥かれたり囚われのヒロインもやっていたけど、ここでも大変なことになっていたんだね……」
得意な歴史のテキストを広げつつ、鐡之蔵 禊(CL2000029)が言った。
「ああ……何でこう、大変なんだろうな……」
どこか遠い目で答える瑛莉。ごめんなさい。
「まぁ、今回ばかりは自業自得ではあるんだが……しかし意外だな、鐡之蔵、歴史が得意なのか」
「む、ちょっと心外だなぁ。こう見えても専攻は歴史分野だよ」
胸を張る禊。事実、彼女の教え方は実に分かりやすい。歴史と言えば暗記がメインとなってしまうのが勉強する上ではどうしようもないところではあるが、歴史上の出来事に関する小話など、思い出す導線を作って覚えやすくしているのは、彼女自身そうしているからであろうか。
「確かに、分かりやすいんだよな……いや、ほんとに助かる」
「褒めても手加減はしないよ? いつもは助ける立場だけど、今日の私は追い詰める立場だからね」
にっこりと笑って、追加の教材をテーブルに乗せる禊。
「時間は限られてるからね。ちゃんと休憩も入れてあげるから、一緒にがんばろ?」
勿論、教師役は彼女一人ではない。
「や、お困りだと聞いてね。おっさんで良ければ、分かる所は教えてあげるわよ」
と、現れたのは緒形 逝(CL2000156)だ。
「社会情勢と地理と化学と解剖生理は基礎項目、後は数学と語学くらいかね」
と、自身の得意科目を指折り挙げる。「信用できない?」と尋ねると、逝は手近にあった問題集を適当に開くと、そのページの問題を瞬く間に解いてしまった。
「スッゲェな……というか、他の科目もこんな感じなのか?」
思わず声を上げる瑛莉。彼女からしてみれば、専門家かなにかか、と言ったレベルの知識量だ。
「アハハ! まぁ、生きる為に必須だったのよ。センセイの真似事は得意じゃあないけど、分かることなら教えるさね」
と、謙遜する様に言ったものの、逝の教え方もまた非常にうまい。これは心強い。留年回避に向けて強力な味方が参戦したわけだ。
天野 澄香(CL2000194)と水部 稜(CL2001272)も、教員役としての参加だ。
「お勉強を教えるなら水部さんだけで充分かもですけど、女子同士の方が気楽な部分もあるかもしれませんし、ね」
と、瑛莉の勉強を見ていた澄香だが、切りのいいところで一息つくと、
「こうしてると、昔、水部さんに勉強を教えて貰ったの思い出しますね」
「ふむ……ふふ。なら、前に澄香に教えた化学と数学、しっかり瑛莉に教えられるか、お手並み拝見と行こうか」
笑いながら、稜。
「はい? 私が化学教えるんですか? 構いませんけど……」
水部さんが教えた方が早いでしょう、と小首をかしげつつ、澄香は瑛莉に化学の勉強を教え始める。
それは、かつて彼女がそうされたように、分かりやすく、丁寧に。
稜は、自身が後見人を務めた少女の成長に微笑を浮かべつつ、
「さて、ではこちらでは力学的エネルギー保存則の実験と行こうか。高さhの場所から静かに落とした物体の速さが公式通りになるか、実際に目で見て確認してみようじゃないか。なに覚者だ、怪我の心配もない。試しにそこのお前、屋上から――」
真顔で淡々と、何やら恐ろしいことを告げる稜。生徒側が戦々恐々としていると、
「――ボールを落としてもらうだけだ。落ちてこい、と言うと思ったか? それじゃあ傷害罪だ、やるわけないだろ。ふふふ。キオクってのは印象でな、覚えるものはインパクト強くしてナンボだ」
意地の悪そうな笑みを浮かべながら、
「さ、これで公式は頭に入ったろう? 次に行こう」
稜の授業は続く。
「神林さん……来年は、大学部で、会おうね……。待ってるよ……」
「そ、そんな純粋な目で見ないでくれーーッ!!」
明石 ミュエル(CL2000172)の信頼のこもった視線に耐え切れず思わず頭を抱える瑛莉である。
とは言え、別に留年するつもりはないのではあるが。
「ふふ……って事で……勉強、教えてあげるよ……。アタシも、大学生なんだから……」
と、胸を張るミュエル。「ああ、悪いな、助かるよ」と、瑛莉は問題集を一つ、ミュエルへと手渡す。
「考えてみりゃぁ、明石には助けてもらってばっかりか。いつか借りは返さないとな……って、明石?」
反応がないことを訝しがった瑛莉がミュエルへと目をやると、問題集を開き、フリーズしている彼女の姿があった。
ミュエルは、ぎぎぎ、と音が聞こえそうなくらいぎこちなく此方を向くと、
「……え、えっと……この科目は、あんまり得意じゃないから……」
「お、おう。じゃあ、こっちはどうだ?」
差し出された新たな問題集を開くミュエル。見守る瑛莉。フリーズするミュエル。
ミュエルは、ぱたん、と問題集を閉じると、
「…………勉強したら、休憩も必要だよね……? クッキー、作ってきたから……おやつ休憩しよっか……」
と、笑顔で言った。まぁ、確かにいい時間である。そろそろ休憩するのも悪くはないだろう。
そそくさと休憩の準備を始めるミュエルへ、
「明石……その……大学行ったら、一緒に頑張ろうな……」
普段自分へと向けられるような温かい視線を、なんとなく向けてしまう瑛莉であった。
●正午・ひと時の休憩
「根を詰めすぎると頭に入らなくなるから、適度に休憩を挟もうか。美味しい紅茶とおっさんが作ってる薔薇ジャムを添えよう」
逝の一声をきっかけにして、一同は休憩タイムへと入った。
勉強する方はもちろん、教える方にも疲労は蓄積されている。当然、適度な休憩が必要なのだ。
逝によれば、「この休憩にも効率化する為の脳科学的な根拠が有るんだけど、今は休憩中だし話さんよ」との事である。
「蜂蜜レモン水は炭酸水や、お湯で割っても美味しいです。さぁ、どうぞ。頭がスッキリすると思いますよ」
澄香が蜂蜜レモン水を配って回る。勉強疲れの頭には有難い飲み物だ。
「やっぱり、いっぱい勉強した後って……お腹がすくね……」
手作りのクッキーを配り、自身も紅茶などをいただきつつ、ミュエル。
「さぁ瑛莉様、それに皆様! 差し入れをお持ちしましたわ!」
と、ほかほかの焼き芋を差し入れにもってきてくれたのは、秋津洲 いのり(CL2000268)だ。
瑛莉とは交流のある彼女だったが、小学生なので勉強に関する事では力になれないと考え、焼き芋の差し入れを行う事にしたのである。
「沢山ありますので、たくさん食べて、お勉強を頑張ってくださいませね!」
疲れた頭に甘いものは有難い。
「それでは皆さん、いのりはそろそろ寝なくてはなりません。いのりの代わりに、この子が皆さんを見守りますわ」
そう言って彼女は、テーブルの上にアヒルの雛の置物をおいて去っていった。なぜアヒルなのだろう……。
「おう、柄にもなく坂上お兄さんがちょっかいを掛けに来たぜ!」
そう言って現れたのは坂上・恭弥(CL2001321)だ。
「あ、あー! あの、アレ、なんだ、どっかであったよな……?」
既視感に首をかしげる瑛莉。
「ん、そういや俺達初対面だったな……なんで嬢ちゃんの事知ってたんだ?」
と、恭弥も首をかしげる。そうだね、世紀末の話だね。
「まぁ、細かいことはいいや! 男勝りに見えても繊細で乙女な嬢ちゃんな事だ……不安だろう。だから、俺が手助けしてやる!」
「うわーーーっ!! 違う! オレはそういうキャラじゃない……って言うかなんか思い出してきた! 四月くらいにこんな事があった!!」
そうだね、世紀末の話だね。
「いいって、分かってるぜ……所で、今日はいつもの可愛い服装じゃないんだな?」
「違う! 可愛い服とか着た事はない……よな? うん、ない……いや、あるけどそれは局地的なアレで普段はこうだからな!?」
「良いんだぜ、照れなくてよ!」
「うん! 話を! 聞いてくれない!」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてジタバタする瑛莉と、いい笑顔でそれを見守る恭弥。
「それはそれとして、嬢ちゃん達のために夜食……と言うか、時間的に昼食か。作ってやんよ。俺は馬鹿だから勉強は見れねぇから、代わりにな」
と、彼は次々と、野菜大盛りの雑炊やDHA豊富なさんま丼、ホットミルクなど調理、提供し始めた。凄い、結構本格的だぞ!
「それと、嬢ちゃんに似合うと思うぜ……」
と、瑛莉に可愛い合格祈願のお守りをプレゼントしていた。
瑛莉は恥ずかしさのあまり机に突っ伏してジタバタしていた。
さて、しっかりと休憩と食事をとった一同は、いのりのおいていったアヒルの置物が見守る中、勉強会を続けるのであった。
●午後・勉強会でのあれやこれや
諏訪 刀嗣(CL2000002)も、留年の危機にあった。本人自身は、特に気にしてはいなかったのだが、留年などしようものなら妹にバカにされてしまうのは目に見えている。それは癪だ。と言うわけで、不本意ながら勉強会に参加する事になった。
「おっ、諏訪くん? へーえ、キミもそういう事するんだね、よきかなよきかなっ!」
と、些か驚いた様子で言ったのは、鳴神 零(CL2000669)である。
刀嗣は、見られたくない相手に見られてしまった、と、不機嫌そうな顔で零を睨みつつ、
「んだコラ。似合わねえ事ぐれぇわかってんだよ」
「ふふ、怒らないでよ。馬鹿にしてないよ? 偉い偉い、ちゃーんと学生してるんだ」
余裕のある口調の零。その態度に、まるで子供扱いされているように感じてしまう刀嗣の機嫌はどんどん悪くなる。
「どれ、お姉さんにワカラナイところあったら言ってみーよ」
と、刀嗣の前の椅子に腰かけた。テーブルの上に自分のお面をおいて、にっこりと微笑む。
「うるせぇ、余計なお世話だ」
視線を問題集へと移し、無視を決め込む刀嗣。
「ふふ、まぁ、いつでも質問は受け付けるよ」
そう言って、零は視線を窓の外へと向けた。
今日は天気も良く、日差しも心地よい。ましてや食事をとった直後、睡魔の誘惑は強力だ。
いつの間にか零は、うつらうつらと船をこぎはじめ……。
一方、自力で勉強を進めようとしていた刀嗣だが、ぼちぼち限界をきたしていた。
分からない。何もわからない。となれば、目の前の零に頼るしかないのか? しかし、どうにもなぜか、彼女に頼るのは癪だ。
とは言え、このまま時間を無駄にしてもしょうがない。思い悩んだ末、刀嗣は汗などを一筋垂らしつつ、蚊の鳴くような声で、
「鳴神……。お……教えろ……」
と、顔をあげた彼の視界に映ったのは、大きな鼻提灯一つ、寝息を立てる零の姿だった。
「テメェ、自分から聞けって言って寝るたぁいい度胸だな?」
怒気を含んだ刀嗣の声。同時に、パチン、と鼻提灯が割れて、零が目を覚ました。
「ふぇ!!? ふぁっ、あ、なあに?? って、ひぃ!?」
目を覚ました彼女が見たのは、激怒している刀嗣の顔だ。とは言え、彼女には怒られる心当たりが全くない。とは言え、怒られているので、取り合えず謝らなければ。
「え、えへ? じゅ、ジュース奢るから、許して?」
手を合わせ許しを請う零へ、
「貸し1だからな」
と、告げる刀嗣であった。
「なあ、那由多……ちょっと休憩したい」
と、切裂 ジャック(CL2001403)が、向かいに座っている椿 那由多(CL2001442)へと呼びかける。大きくため息を吐いて、机に突っ伏した。
「休憩って……まだ、少ししか進んでへんよ?」
とんとん、と白紙のページを指でつつきつつ、困り顔で、
「ほら、ここ真っ白なんやけど」
しかしジャックは白紙のページは見ないふりだ。
「そういえばお店以外で那由多をみるの久しぶりやんね」
「ん? そや、お店以外でこやって二人でおるんは、久しぶりやね」
お店、とは、那由多が手伝いをしている、彼女の祖母の団子屋の事だろう。
――こうやってみると別人みたいやわ。
ジャックは胸中でつぶやきつつ、那由多をまじまじと見つめる。
「美人だなあ」
ふと、口をついて出た。
「他の女の子にも、そやって言うてるのはお見通しやで」
言いつつ、照れ隠しに軽いデコぴんをジャックにお見舞いしてやる。
ジャックは「いてっ」と額をこすりながら、
「皆には言ってへんよ! 那由多だけやよ?」
「まぁた、上手いこというて……でも、素直に嬉しいんよ、ありがとう」
視線を外して、少し恥ずかしそうに言う那由多。
「ほら、そんな事言わんと、片してしまおっ!」
と、照れ隠しからか、手元にあった課題のノートをジャックの顔面に押し付ける。
「ぶふぁ!!」
不意打ちを受けてのけぞるジャック。そんな彼の様子を見て微笑みながら、
「頑張ったら、帰りにジュース奢るから、ね?」
「えー、ジュース? それより、じゃあ、きちんと終えたらその尻尾触らせてよ。駄目? ちゃんとやるから、さ?」
と、ジャックが意地悪そうににやにやと笑いながら言う物だから、
「尻尾は……あかん、せめて耳に……ってやっぱり両方あかんっ!」
那由多は顔を真っ赤にして、再び課題のノートをジャックの顔面に押し付けるのだった。
蘇我島 恭司(CL2001015)は気分転換に、と、柳 燐花(CL2000695)を連れて勉強会の会場である学生寮へとやってきていた。
「神林さん、一緒に頑張りましょう」
と、燐花も座席につき、自身の課題を進め始める。大勢での勉強会などは彼女にとってもいい刺激になるのでは、と恭司は考えており、どうやらその考えは正解だったようだ。
「燐ちゃん、困ってる? そこはね……」
と、燐花が悩んでいるタイミングで、恭司は説明を入れていく
「…ありがとうございます。公式、こう使うのですね」
彼の説明は燐花にとっても分かりやすく、順調に問題を解いていく。
「燐ちゃん、初めての学生寮はどうかな?」
雑談がてら、恭司が燐花に話しかける。
「学生寮……。本来なら私はこちらにお世話になるべきだったのですよね」
二人は、大家と店子の関係だ。学生寮に入りづらい、という燐花の面倒を、恭司がみている形になる。
「あ、悪ぃ、こっちも頼む!」
と、瑛莉が両手を合わせながら、恭司に教えを求めた。
「あぁ、ごめんね、これは……えっと……?」
しかし、恭司は問題集を見てやや硬直。ううん、と唸った後、
「……教科書、見せてもらっても良いかな? いや、高三の勉強は難しいね……」
「オイオイ……頼むぜ、こっちは結構危ないんだから」
瑛莉が苦笑しつつ言う。とは言え、そこに責める様子はなく、瑛莉も彼との勉強を楽しんでいる様子だ。
そんな二人を眺めながら、燐花はふと、胸にざわめきを覚えた。
いつか、恭司のもとから離れる日が来るのだろう。もしそうなった時、彼の隣には自分以外の誰かがいるのだろうか?
例えば、今のように……。
(……『いつか』は。もう少し後ならいいのに……)
ふとそんな事を考えている自分に気付く。離れたくはない。それは、彼女に初めて芽生えた想い。
(……今は、問題に集中しましょう)
それでも。今は、まだ。彼女はその想いをしまい込むと、目の前の課題に取り組むことにした。
●夜・ラストスパート
「……もし頑張る気があるんだったら、一晩で応用問題を克服する方法もあるよ?」
向日葵 御菓子(CL2000429)がそう宣言したのは、前日の事である。
さて、当日夜、彼女は、右手に何かが色々と入った買い物袋をいくつも提げて、学生寮へとやってきたのだ。
「お、センセイ、差し入れか?」
そんな彼女の姿を見、瑛莉が声をかける。御菓子は頷くと、
「ええ、参考書の山とカフェインドリンクよ」
「参考書はともかく、カフェイン……?」
首をかしげる瑛莉に、
「言ったでしょ? 一晩で応用問題を克服する方法がある、って」
と、御菓子はにっこりと笑って、
「【修羅場モード】発動です」
説明しよう! 【修羅場モード】とは!
一夜漬けという即席叩き込み勉強法を学習内容を凝縮と濃縮をして短期集中・全力疾走で行うことで、シックスセンス・ドーパミン・アドレナリンを引き出し、学習速度と効果を大きく高めることができる最終手段である!(御菓子談)
「えーと、センセイ、それってつまり」
ひきつった笑みを浮かべる瑛莉。しかし御菓子は笑顔を崩さず、
「うん、死ぬ気で頑張れ、って事♪ 体力・精神力を激しく消耗するから安易にはお勧めできないけれど、今の状況を考えるとそれも仕方ないわよね?」
生徒たちの前に、次々とドリンクと参考書を積み上げていく。
「がんば! 骨は拾ってあげるからね?」
「くそーっ! 結局最後はこういうオチかッ!」
夜の談話室に、瑛莉をはじめとした生徒たちの悲鳴がこだましたのであった。
「たのもーーー!!!!! ここで赤点を回避できる術を教えてもらえると聞いて!」
と、大声上げつつ現れたのは葛城 舞子(CL2001275)である。
「いや、普通に勉強する集まりなんだけどな?」
教科書などを広げつつ、神林 瑛莉(nCL2000072)がツッコんだ。
とあるよく晴れた日の学生寮、その談話室で、勉強会が開かれようとしていた。
参加メンバーは本格的に留年の危機にあるモノや、気晴らしに参加したものまで千差万別である。
「細かい事は言いっこなしッスよ! 留年先輩!」
「まだ留年してねぇよ! 留年の『り』の字が見えてきた当たりだよ!」
「奇遇っッスね! 私もいよいよ留年の『ね』の字が見えて来たッスよ!」
「それもうアウトじゃねーか!」
「先輩も一緒に留年して、赤点仲間になるッスよ」
「お前留年回避しに来たんじゃねぇの!?」
「所で見て欲しいッス! この落書き! 傑作じゃないッスか?」
「それオレの教科書じゃねーか!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見やりつつ、「来る所間違えたんじゃないだろうか」と内心思いながら、神薙・凌牙(CL2001514)は、
「まぁ、その辺にして……教えてほしいのだが」
つい最近まで山奥で暮らしていて、学校などにも通った事のない凌牙は、勉強会とは何をすればいいのかがよくわかっていなかった。
いや、勉強すればいい、学べばいい、とはわかっているものの、「何を」「どう」学べばいいのかがまだ理解できていないのだ。
こういった場合、苦手な教科について勉強するものなのだが、そもそもなんの教科の何が苦手なのかもよくわかっていない。
ちなみに、編入試験は全部直感で答えたらしい。
「俺は、何を勉強すればいいんだ、神林」
「いや、それをオレに聞かれても……」
「こういう時は『師に教えてもらうだけでは成長できない。わからない者同士がお互いの知恵を絞りきって突き詰める事で成長する』と我が師匠が言ってた。つまり成長する為には生徒同士で教え合うのがいいのだ」
「ああ、うん、それは確かにそうなんだけどな?」
とは言え、何を勉強すればいいのか聞かれても困る。分からない所を共に悩むことはできるが、流石に「何を勉強すればいいのか」は瑛莉のキャパシティを越えていた。
悩む瑛莉。しかし、舞子は笑顔で、
「禅問答ッスか!?」
「禅……なるほど、深い物なのだな……勉強会とは……」
「いや、納得すんなよ!?」
うんうんと頷く舞子と凌牙。なんか納得されてしまった。
「所で、この公式なのだが……わかるか? 俺にはさっぱりわからない」
「私にもさっぱりッス! でもこういう時は鉛筆を転がすと良いって、うちのお祖母ちゃんが言ってたッス!」
「成程……! 運も実力のうち、という事か……!」
「そう言う事ッスよ、先輩!」
「深いな……勉強会とは……!」
流石にツッコミが追いつかず、パクパクと口を開くだけの瑛莉を尻目に、嬉々として鉛筆を転がす舞子と凌牙。
これはもうダメかもしれない……。
「はいはい、ふざけてないで、ちゃんとやるよ」
捨てる神あれば拾う神あり。用意した教材を生徒に手渡しつつ、四条・理央(CL2000070)が言う。
「分からない所が分からない、って言うのは、基礎ができてない証拠。と言うわけで、まずはしっかり基礎から勉強だよ」
彼女の言う通り、まずは基礎となる知識を習得しなければ、応用にはたどり着けない。
「キミ達……特に神薙君は、何度も問題を解いて、基礎を習得しようね。分からない所はちゃんと説明するから、頑張るんだよ」
そういう彼女は、勉強ダメダメな瑛莉達にとって、まさに救いの神。何やら後光すらさして見える。
「やったぜ……助かるぜ委員長……!」
「ああ、頼りになるな、委員長……!」
「流石ッス、委員長先輩……!」
「いや、ボクは委員長じゃないからね!?」
理央は顔を赤らめつつ否定し、こほんと咳払い一つ、
「とにかく! 神林さんは試験範囲から、二人は全体的に! 始めるよ!」
かくして、まともな勉強会の幕が上がったのだった。よかった。本当によかった……。
●午前・拾う神たちの奮闘
「神林……そこまで大変な目にあっていたんだね。水着剥かれたり囚われのヒロインもやっていたけど、ここでも大変なことになっていたんだね……」
得意な歴史のテキストを広げつつ、鐡之蔵 禊(CL2000029)が言った。
「ああ……何でこう、大変なんだろうな……」
どこか遠い目で答える瑛莉。ごめんなさい。
「まぁ、今回ばかりは自業自得ではあるんだが……しかし意外だな、鐡之蔵、歴史が得意なのか」
「む、ちょっと心外だなぁ。こう見えても専攻は歴史分野だよ」
胸を張る禊。事実、彼女の教え方は実に分かりやすい。歴史と言えば暗記がメインとなってしまうのが勉強する上ではどうしようもないところではあるが、歴史上の出来事に関する小話など、思い出す導線を作って覚えやすくしているのは、彼女自身そうしているからであろうか。
「確かに、分かりやすいんだよな……いや、ほんとに助かる」
「褒めても手加減はしないよ? いつもは助ける立場だけど、今日の私は追い詰める立場だからね」
にっこりと笑って、追加の教材をテーブルに乗せる禊。
「時間は限られてるからね。ちゃんと休憩も入れてあげるから、一緒にがんばろ?」
勿論、教師役は彼女一人ではない。
「や、お困りだと聞いてね。おっさんで良ければ、分かる所は教えてあげるわよ」
と、現れたのは緒形 逝(CL2000156)だ。
「社会情勢と地理と化学と解剖生理は基礎項目、後は数学と語学くらいかね」
と、自身の得意科目を指折り挙げる。「信用できない?」と尋ねると、逝は手近にあった問題集を適当に開くと、そのページの問題を瞬く間に解いてしまった。
「スッゲェな……というか、他の科目もこんな感じなのか?」
思わず声を上げる瑛莉。彼女からしてみれば、専門家かなにかか、と言ったレベルの知識量だ。
「アハハ! まぁ、生きる為に必須だったのよ。センセイの真似事は得意じゃあないけど、分かることなら教えるさね」
と、謙遜する様に言ったものの、逝の教え方もまた非常にうまい。これは心強い。留年回避に向けて強力な味方が参戦したわけだ。
天野 澄香(CL2000194)と水部 稜(CL2001272)も、教員役としての参加だ。
「お勉強を教えるなら水部さんだけで充分かもですけど、女子同士の方が気楽な部分もあるかもしれませんし、ね」
と、瑛莉の勉強を見ていた澄香だが、切りのいいところで一息つくと、
「こうしてると、昔、水部さんに勉強を教えて貰ったの思い出しますね」
「ふむ……ふふ。なら、前に澄香に教えた化学と数学、しっかり瑛莉に教えられるか、お手並み拝見と行こうか」
笑いながら、稜。
「はい? 私が化学教えるんですか? 構いませんけど……」
水部さんが教えた方が早いでしょう、と小首をかしげつつ、澄香は瑛莉に化学の勉強を教え始める。
それは、かつて彼女がそうされたように、分かりやすく、丁寧に。
稜は、自身が後見人を務めた少女の成長に微笑を浮かべつつ、
「さて、ではこちらでは力学的エネルギー保存則の実験と行こうか。高さhの場所から静かに落とした物体の速さが公式通りになるか、実際に目で見て確認してみようじゃないか。なに覚者だ、怪我の心配もない。試しにそこのお前、屋上から――」
真顔で淡々と、何やら恐ろしいことを告げる稜。生徒側が戦々恐々としていると、
「――ボールを落としてもらうだけだ。落ちてこい、と言うと思ったか? それじゃあ傷害罪だ、やるわけないだろ。ふふふ。キオクってのは印象でな、覚えるものはインパクト強くしてナンボだ」
意地の悪そうな笑みを浮かべながら、
「さ、これで公式は頭に入ったろう? 次に行こう」
稜の授業は続く。
「神林さん……来年は、大学部で、会おうね……。待ってるよ……」
「そ、そんな純粋な目で見ないでくれーーッ!!」
明石 ミュエル(CL2000172)の信頼のこもった視線に耐え切れず思わず頭を抱える瑛莉である。
とは言え、別に留年するつもりはないのではあるが。
「ふふ……って事で……勉強、教えてあげるよ……。アタシも、大学生なんだから……」
と、胸を張るミュエル。「ああ、悪いな、助かるよ」と、瑛莉は問題集を一つ、ミュエルへと手渡す。
「考えてみりゃぁ、明石には助けてもらってばっかりか。いつか借りは返さないとな……って、明石?」
反応がないことを訝しがった瑛莉がミュエルへと目をやると、問題集を開き、フリーズしている彼女の姿があった。
ミュエルは、ぎぎぎ、と音が聞こえそうなくらいぎこちなく此方を向くと、
「……え、えっと……この科目は、あんまり得意じゃないから……」
「お、おう。じゃあ、こっちはどうだ?」
差し出された新たな問題集を開くミュエル。見守る瑛莉。フリーズするミュエル。
ミュエルは、ぱたん、と問題集を閉じると、
「…………勉強したら、休憩も必要だよね……? クッキー、作ってきたから……おやつ休憩しよっか……」
と、笑顔で言った。まぁ、確かにいい時間である。そろそろ休憩するのも悪くはないだろう。
そそくさと休憩の準備を始めるミュエルへ、
「明石……その……大学行ったら、一緒に頑張ろうな……」
普段自分へと向けられるような温かい視線を、なんとなく向けてしまう瑛莉であった。
●正午・ひと時の休憩
「根を詰めすぎると頭に入らなくなるから、適度に休憩を挟もうか。美味しい紅茶とおっさんが作ってる薔薇ジャムを添えよう」
逝の一声をきっかけにして、一同は休憩タイムへと入った。
勉強する方はもちろん、教える方にも疲労は蓄積されている。当然、適度な休憩が必要なのだ。
逝によれば、「この休憩にも効率化する為の脳科学的な根拠が有るんだけど、今は休憩中だし話さんよ」との事である。
「蜂蜜レモン水は炭酸水や、お湯で割っても美味しいです。さぁ、どうぞ。頭がスッキリすると思いますよ」
澄香が蜂蜜レモン水を配って回る。勉強疲れの頭には有難い飲み物だ。
「やっぱり、いっぱい勉強した後って……お腹がすくね……」
手作りのクッキーを配り、自身も紅茶などをいただきつつ、ミュエル。
「さぁ瑛莉様、それに皆様! 差し入れをお持ちしましたわ!」
と、ほかほかの焼き芋を差し入れにもってきてくれたのは、秋津洲 いのり(CL2000268)だ。
瑛莉とは交流のある彼女だったが、小学生なので勉強に関する事では力になれないと考え、焼き芋の差し入れを行う事にしたのである。
「沢山ありますので、たくさん食べて、お勉強を頑張ってくださいませね!」
疲れた頭に甘いものは有難い。
「それでは皆さん、いのりはそろそろ寝なくてはなりません。いのりの代わりに、この子が皆さんを見守りますわ」
そう言って彼女は、テーブルの上にアヒルの雛の置物をおいて去っていった。なぜアヒルなのだろう……。
「おう、柄にもなく坂上お兄さんがちょっかいを掛けに来たぜ!」
そう言って現れたのは坂上・恭弥(CL2001321)だ。
「あ、あー! あの、アレ、なんだ、どっかであったよな……?」
既視感に首をかしげる瑛莉。
「ん、そういや俺達初対面だったな……なんで嬢ちゃんの事知ってたんだ?」
と、恭弥も首をかしげる。そうだね、世紀末の話だね。
「まぁ、細かいことはいいや! 男勝りに見えても繊細で乙女な嬢ちゃんな事だ……不安だろう。だから、俺が手助けしてやる!」
「うわーーーっ!! 違う! オレはそういうキャラじゃない……って言うかなんか思い出してきた! 四月くらいにこんな事があった!!」
そうだね、世紀末の話だね。
「いいって、分かってるぜ……所で、今日はいつもの可愛い服装じゃないんだな?」
「違う! 可愛い服とか着た事はない……よな? うん、ない……いや、あるけどそれは局地的なアレで普段はこうだからな!?」
「良いんだぜ、照れなくてよ!」
「うん! 話を! 聞いてくれない!」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてジタバタする瑛莉と、いい笑顔でそれを見守る恭弥。
「それはそれとして、嬢ちゃん達のために夜食……と言うか、時間的に昼食か。作ってやんよ。俺は馬鹿だから勉強は見れねぇから、代わりにな」
と、彼は次々と、野菜大盛りの雑炊やDHA豊富なさんま丼、ホットミルクなど調理、提供し始めた。凄い、結構本格的だぞ!
「それと、嬢ちゃんに似合うと思うぜ……」
と、瑛莉に可愛い合格祈願のお守りをプレゼントしていた。
瑛莉は恥ずかしさのあまり机に突っ伏してジタバタしていた。
さて、しっかりと休憩と食事をとった一同は、いのりのおいていったアヒルの置物が見守る中、勉強会を続けるのであった。
●午後・勉強会でのあれやこれや
諏訪 刀嗣(CL2000002)も、留年の危機にあった。本人自身は、特に気にしてはいなかったのだが、留年などしようものなら妹にバカにされてしまうのは目に見えている。それは癪だ。と言うわけで、不本意ながら勉強会に参加する事になった。
「おっ、諏訪くん? へーえ、キミもそういう事するんだね、よきかなよきかなっ!」
と、些か驚いた様子で言ったのは、鳴神 零(CL2000669)である。
刀嗣は、見られたくない相手に見られてしまった、と、不機嫌そうな顔で零を睨みつつ、
「んだコラ。似合わねえ事ぐれぇわかってんだよ」
「ふふ、怒らないでよ。馬鹿にしてないよ? 偉い偉い、ちゃーんと学生してるんだ」
余裕のある口調の零。その態度に、まるで子供扱いされているように感じてしまう刀嗣の機嫌はどんどん悪くなる。
「どれ、お姉さんにワカラナイところあったら言ってみーよ」
と、刀嗣の前の椅子に腰かけた。テーブルの上に自分のお面をおいて、にっこりと微笑む。
「うるせぇ、余計なお世話だ」
視線を問題集へと移し、無視を決め込む刀嗣。
「ふふ、まぁ、いつでも質問は受け付けるよ」
そう言って、零は視線を窓の外へと向けた。
今日は天気も良く、日差しも心地よい。ましてや食事をとった直後、睡魔の誘惑は強力だ。
いつの間にか零は、うつらうつらと船をこぎはじめ……。
一方、自力で勉強を進めようとしていた刀嗣だが、ぼちぼち限界をきたしていた。
分からない。何もわからない。となれば、目の前の零に頼るしかないのか? しかし、どうにもなぜか、彼女に頼るのは癪だ。
とは言え、このまま時間を無駄にしてもしょうがない。思い悩んだ末、刀嗣は汗などを一筋垂らしつつ、蚊の鳴くような声で、
「鳴神……。お……教えろ……」
と、顔をあげた彼の視界に映ったのは、大きな鼻提灯一つ、寝息を立てる零の姿だった。
「テメェ、自分から聞けって言って寝るたぁいい度胸だな?」
怒気を含んだ刀嗣の声。同時に、パチン、と鼻提灯が割れて、零が目を覚ました。
「ふぇ!!? ふぁっ、あ、なあに?? って、ひぃ!?」
目を覚ました彼女が見たのは、激怒している刀嗣の顔だ。とは言え、彼女には怒られる心当たりが全くない。とは言え、怒られているので、取り合えず謝らなければ。
「え、えへ? じゅ、ジュース奢るから、許して?」
手を合わせ許しを請う零へ、
「貸し1だからな」
と、告げる刀嗣であった。
「なあ、那由多……ちょっと休憩したい」
と、切裂 ジャック(CL2001403)が、向かいに座っている椿 那由多(CL2001442)へと呼びかける。大きくため息を吐いて、机に突っ伏した。
「休憩って……まだ、少ししか進んでへんよ?」
とんとん、と白紙のページを指でつつきつつ、困り顔で、
「ほら、ここ真っ白なんやけど」
しかしジャックは白紙のページは見ないふりだ。
「そういえばお店以外で那由多をみるの久しぶりやんね」
「ん? そや、お店以外でこやって二人でおるんは、久しぶりやね」
お店、とは、那由多が手伝いをしている、彼女の祖母の団子屋の事だろう。
――こうやってみると別人みたいやわ。
ジャックは胸中でつぶやきつつ、那由多をまじまじと見つめる。
「美人だなあ」
ふと、口をついて出た。
「他の女の子にも、そやって言うてるのはお見通しやで」
言いつつ、照れ隠しに軽いデコぴんをジャックにお見舞いしてやる。
ジャックは「いてっ」と額をこすりながら、
「皆には言ってへんよ! 那由多だけやよ?」
「まぁた、上手いこというて……でも、素直に嬉しいんよ、ありがとう」
視線を外して、少し恥ずかしそうに言う那由多。
「ほら、そんな事言わんと、片してしまおっ!」
と、照れ隠しからか、手元にあった課題のノートをジャックの顔面に押し付ける。
「ぶふぁ!!」
不意打ちを受けてのけぞるジャック。そんな彼の様子を見て微笑みながら、
「頑張ったら、帰りにジュース奢るから、ね?」
「えー、ジュース? それより、じゃあ、きちんと終えたらその尻尾触らせてよ。駄目? ちゃんとやるから、さ?」
と、ジャックが意地悪そうににやにやと笑いながら言う物だから、
「尻尾は……あかん、せめて耳に……ってやっぱり両方あかんっ!」
那由多は顔を真っ赤にして、再び課題のノートをジャックの顔面に押し付けるのだった。
蘇我島 恭司(CL2001015)は気分転換に、と、柳 燐花(CL2000695)を連れて勉強会の会場である学生寮へとやってきていた。
「神林さん、一緒に頑張りましょう」
と、燐花も座席につき、自身の課題を進め始める。大勢での勉強会などは彼女にとってもいい刺激になるのでは、と恭司は考えており、どうやらその考えは正解だったようだ。
「燐ちゃん、困ってる? そこはね……」
と、燐花が悩んでいるタイミングで、恭司は説明を入れていく
「…ありがとうございます。公式、こう使うのですね」
彼の説明は燐花にとっても分かりやすく、順調に問題を解いていく。
「燐ちゃん、初めての学生寮はどうかな?」
雑談がてら、恭司が燐花に話しかける。
「学生寮……。本来なら私はこちらにお世話になるべきだったのですよね」
二人は、大家と店子の関係だ。学生寮に入りづらい、という燐花の面倒を、恭司がみている形になる。
「あ、悪ぃ、こっちも頼む!」
と、瑛莉が両手を合わせながら、恭司に教えを求めた。
「あぁ、ごめんね、これは……えっと……?」
しかし、恭司は問題集を見てやや硬直。ううん、と唸った後、
「……教科書、見せてもらっても良いかな? いや、高三の勉強は難しいね……」
「オイオイ……頼むぜ、こっちは結構危ないんだから」
瑛莉が苦笑しつつ言う。とは言え、そこに責める様子はなく、瑛莉も彼との勉強を楽しんでいる様子だ。
そんな二人を眺めながら、燐花はふと、胸にざわめきを覚えた。
いつか、恭司のもとから離れる日が来るのだろう。もしそうなった時、彼の隣には自分以外の誰かがいるのだろうか?
例えば、今のように……。
(……『いつか』は。もう少し後ならいいのに……)
ふとそんな事を考えている自分に気付く。離れたくはない。それは、彼女に初めて芽生えた想い。
(……今は、問題に集中しましょう)
それでも。今は、まだ。彼女はその想いをしまい込むと、目の前の課題に取り組むことにした。
●夜・ラストスパート
「……もし頑張る気があるんだったら、一晩で応用問題を克服する方法もあるよ?」
向日葵 御菓子(CL2000429)がそう宣言したのは、前日の事である。
さて、当日夜、彼女は、右手に何かが色々と入った買い物袋をいくつも提げて、学生寮へとやってきたのだ。
「お、センセイ、差し入れか?」
そんな彼女の姿を見、瑛莉が声をかける。御菓子は頷くと、
「ええ、参考書の山とカフェインドリンクよ」
「参考書はともかく、カフェイン……?」
首をかしげる瑛莉に、
「言ったでしょ? 一晩で応用問題を克服する方法がある、って」
と、御菓子はにっこりと笑って、
「【修羅場モード】発動です」
説明しよう! 【修羅場モード】とは!
一夜漬けという即席叩き込み勉強法を学習内容を凝縮と濃縮をして短期集中・全力疾走で行うことで、シックスセンス・ドーパミン・アドレナリンを引き出し、学習速度と効果を大きく高めることができる最終手段である!(御菓子談)
「えーと、センセイ、それってつまり」
ひきつった笑みを浮かべる瑛莉。しかし御菓子は笑顔を崩さず、
「うん、死ぬ気で頑張れ、って事♪ 体力・精神力を激しく消耗するから安易にはお勧めできないけれど、今の状況を考えるとそれも仕方ないわよね?」
生徒たちの前に、次々とドリンクと参考書を積み上げていく。
「がんば! 骨は拾ってあげるからね?」
「くそーっ! 結局最後はこういうオチかッ!」
夜の談話室に、瑛莉をはじめとした生徒たちの悲鳴がこだましたのであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『お礼のハンカチ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
一応、神林瑛莉は留年を回避したらしいです。
