【マニコロ】宿命館大学との接触
●マニコロをめぐって
新たな神具の可能性、『特殊マニ車理論』をめぐって宿命館大学との接触をはかる。
そんな依頼が、ファイヴ覚者へと託された。
●特殊マニ車理論
「皆、一旦預けて貰った滅相銃の調査が完了したので、その内容を伝えたい。
加えて長期的な依頼をすることになるが、あわせて聞いて欲しい」
中 恭介(nCL2000002)がそう説明したのは、ファイヴが以前入手した『滅相銃(めっそうがん)』という特殊な神秘武器に関する話である。
寺の住職が所有していた特殊な仏具で、特殊マニ車理論と呼ばれる複雑な術方式が用いられている武器だ。
「これの複製は今のファイヴに不可能ではないが、劣化コピーになってしまう。現状それなりに強力な神具を生産可能な今、その必要は感じられない。
だがしかし、この武器に使われている特殊マニ車理論を用いれば新たな神具開発にかなり期待がもてる、とも報告されている」
ならば入手した滅相銃から理論を割り出して応用しては? という意見があったが、アタリはかぶりを振って言った。
「この武器に使われている技術を解読しても、理論の全容を知るのは難しい。小学校の算数を学んだ頭で急に大学の専門的な数学を解こうとするようなものだ。
だが逆に、専門家を直接引き入れるのなら話は違ってくる。
今回の最終目的は『特殊マニ車理論』の理解、もしくは専門家の獲得だ」
●宿命館大学との接触
ファイヴやAAAによる調査の結果、ある大学に専門家が存在することが明らかとなった。
「それが私立宿命館大学。日本逢魔化以降に作られた大学で、神秘の調査や技術の解明を目的としている組織だ」
そう言った意味では五麟大学に近いところがあるが、ファイヴのように戦闘にはきわめて消極的だという。
「この組織はごく僅かな戦闘担当者と大勢の研究員および学生というくくりで構成されている。
それに神具の戦闘利用に反対する立場をとっていて、ファイヴと友好的とはいいがたいのが現状だ」
ダイナマイトしかり、人工知能しかり、技術の戦争利用を忌避する思想は世界的に見ても珍しくない。
宿命館大学にはそういったムードができあがっているのだ。
「実際、五麟大学やファイヴはこの組織とコンタクトをとったことはないし、お互いにノータッチの組織だ。
この気に接し方を考えるというのもいいかもしれない。
そしてファイヴは、接し方を決めるのは所属する覚者であるべきだと考えた。
つまり、皆に託すことにした」
接触できるタイミングは夢見の予知によって割り出してある。
担当者どうしで相談して、今後の方策を固めよう。
新たな神具の可能性、『特殊マニ車理論』をめぐって宿命館大学との接触をはかる。
そんな依頼が、ファイヴ覚者へと託された。
●特殊マニ車理論
「皆、一旦預けて貰った滅相銃の調査が完了したので、その内容を伝えたい。
加えて長期的な依頼をすることになるが、あわせて聞いて欲しい」
中 恭介(nCL2000002)がそう説明したのは、ファイヴが以前入手した『滅相銃(めっそうがん)』という特殊な神秘武器に関する話である。
寺の住職が所有していた特殊な仏具で、特殊マニ車理論と呼ばれる複雑な術方式が用いられている武器だ。
「これの複製は今のファイヴに不可能ではないが、劣化コピーになってしまう。現状それなりに強力な神具を生産可能な今、その必要は感じられない。
だがしかし、この武器に使われている特殊マニ車理論を用いれば新たな神具開発にかなり期待がもてる、とも報告されている」
ならば入手した滅相銃から理論を割り出して応用しては? という意見があったが、アタリはかぶりを振って言った。
「この武器に使われている技術を解読しても、理論の全容を知るのは難しい。小学校の算数を学んだ頭で急に大学の専門的な数学を解こうとするようなものだ。
だが逆に、専門家を直接引き入れるのなら話は違ってくる。
今回の最終目的は『特殊マニ車理論』の理解、もしくは専門家の獲得だ」
●宿命館大学との接触
ファイヴやAAAによる調査の結果、ある大学に専門家が存在することが明らかとなった。
「それが私立宿命館大学。日本逢魔化以降に作られた大学で、神秘の調査や技術の解明を目的としている組織だ」
そう言った意味では五麟大学に近いところがあるが、ファイヴのように戦闘にはきわめて消極的だという。
「この組織はごく僅かな戦闘担当者と大勢の研究員および学生というくくりで構成されている。
それに神具の戦闘利用に反対する立場をとっていて、ファイヴと友好的とはいいがたいのが現状だ」
ダイナマイトしかり、人工知能しかり、技術の戦争利用を忌避する思想は世界的に見ても珍しくない。
宿命館大学にはそういったムードができあがっているのだ。
「実際、五麟大学やファイヴはこの組織とコンタクトをとったことはないし、お互いにノータッチの組織だ。
この気に接し方を考えるというのもいいかもしれない。
そしてファイヴは、接し方を決めるのは所属する覚者であるべきだと考えた。
つまり、皆に託すことにした」
接触できるタイミングは夢見の予知によって割り出してある。
担当者どうしで相談して、今後の方策を固めよう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.宿命館大学の人間と接触する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
宿命館大学の人間と接触することが今回の目的です。
接触さえできれば後は担当者に託されているので、その方法は問いません。
敵対する。友達になる。いっそ身分をふせて宿命館大学関係者になろうとしてみる。――など様々なパターンが考えられます。
ただし、全員ひとまとまりで活動しつつ方針が大きく異なっていると、相手にかなり悪い印象をあたえてしまいます。
ある程度方針をまとめておく必要があるでしょう。
●接触のタイミング
宿命館大学には5人程度の戦闘担当者が存在します。
神具の特性の理解や、神秘解明のための実地調査などに用いられる人員で、ヘッドハンティングなどによって集められています。
平均レベルは高くちょっと強めですが、逆に言うと彼らだけしか経験値を積んでいないという側面も持ち合わせています。
彼らはある日時に実地テストとして妖との戦闘実験を行ないます。
比較的安全なエリアで、10体ほどいる妖(物質系妖ランク2)を半数ほど倒してからさっさと撤退するつもりのようです。
ここに参戦するかたちでインパクトをあたえ、接触することができるでしょう。
特殊な技能で気を引いたり、あえて実力を低く見せて侮らせたり、色々やり方はあると思われます。
戦闘に入った時点で既に全ては始まっていると考えて行動して下さい。
●特殊マニ車理論とその専門家について
『この大学に専門家がいる』というところまでは調査できましたが、そこから先は全くわかっていません。
相手が誰で、どういう人物かもわかっていない段階ですので、慎重な行動を心がけてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年10月22日
2016年10月22日
■メイン参加者 6人■

●特殊マニ車理論を追って
車窓を景色が走って行く。
列車の揺れを肘に感じながら『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は膝に乗せた機関銃へ目をやった。
「宿命館大学かあ。神具の戦闘利用に反対してるっていうのは、どういうことなんだろう」
「どうって、そりゃ危ないからだろ」
冷凍ミカンを剥きながら振り向く『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)。
「隔者とかに会ってればさ、嫌でも分かるぜ。使う奴が悪ければ悪い火種になっちまう」
「銃社会の銃みたいなものかな。それに、強い武器から身を守るためにはより強い武器が必要になる。きっと悪循環になることを危惧してるんじゃないかなって。でも俺たちが相手にしてるのは人間だけじゃないんだ。妖には改心する余地なんかない。それから護るために武器は必要なんだ……」
「考えすぎやない?」
柿ピーの柿だけつまんで食べていく『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。
「武器なら既に山ほど出回っとるし。逆にゆうたら、こんだけ出回ってるなら新しい技術で金儲けしようって連中も出てくるやろ。あたしはそっちやと思うなあ。つか、特殊マニ車理論ってなんなん。マニ車ってあれよな、回すやつ」
「えっと……」
上月・里桜(CL2001274)が読んでいた本のページをめくった。
「マニ車(まにぐるま)。ひと回しすることで祈りに代える仏具でしたね。名前から想像するに、込められた術式を簡単に発動させる理論でしょうか。けど、学問というものはえてして説明が難しいものですから……」
どこでも同じだが、大学で専門的な学問に携われば、それが簡単に他人へ説明できるものでないことを知るだろう。特に研究中の分野となれば、最先端の人間が今まさに知ろうとしていることである。
こういった研究が『どの程度役に立つか』『簡単に説明できるか』というモノサシで誤解されることも、世の中ではしばしばである。
硬い煎餅をばきりと割って分け合う『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)と納屋 タヱ子(CL2000019)。
「ま、俺たちがやることはもう決まってる。ファイヴの関係者だってことは伏せて、できればヘッドハンティングして欲しいってとこだよな」
「これまでファイブが獲得した未開スキルや珍しい神具を見せつけることで学術的な好奇心を刺激するんでしたね。今回接触する相手に件の専門家がいる前提でかかったほうがいいかもしれません。打ち合わせはしっかりしていきましょう」
タヱ子は硬い煎餅を無理矢理に噛み砕いた。
●宿命館大学、神秘学研究室、実地調査助手団
「さー諸君、今日も元気にお仕事だー!」
天高く突き上がる拳。
細い白腕に輝くような銀髪。青い目をした美女である。
見るからに日本人ではなかったが、日本語はえらく流ちょうなようだ。
「「イエーア!」」
その後ろでサブマシンガンを突き上げる四人の男女。
特徴をざっくり述べると……丸めがねをかけた黒人男性、驚くほど長身で屈強な黒髪女性、四十代ほどのよれた雰囲気の男性、十代前半と見えるアラブ系少年。
一度見れば大体忘れないような一団だが、彼らがいわゆる『宿命館大学の戦闘担当者』だった。
遠くから双眼鏡で様子をうかがっていた飛馬が一言『大学生って感じじゃねーな』と呟いたのは、誰もが同意するところである。
「介入のタイミングはどうしますか? やはり戦闘がはじまってから? それとも暫く様子を?」
「はじめに決めたとおりだ。今すぐ行こう!」
飛馬とタヱ子はむくりと立ち上がり、戦闘担当者たち――ひいては妖の発生地点へと走り出した。
「カガヤキ、牽制!」
「ほいほい」
煙草をくわえた男、カガヤキがアサルトライフルを使って妖を牽制し始める。
何気ない動作だが動きがあまりに洗練されすぎている。覚者でないうちから長く実戦経験を積んできた人間の動きだった。
妖の集団を足止めするが、わざと牽制射撃を緩くした妖が一体だけ向かってくる。
「構えてツルギ」
「はいハクタカ」
長身の女が腰のホルスターに手をかけようとしたその瞬間、明後日の方向から丸盾が飛んできた。
地面をえぐるように削ってから、まるで意志でももっているかのごとく飛んできた方向へとターンして戻っていく。
その方向を、猛禽類のように鋭い目でにらむ白髪の女、ハクタカ。
戻ってきた盾が、少女のガントレットに磁石めいた力で接続される。
敵か味方か。
そういうにらみ方をされたことを、タヱ子は肌で感じた。
ならば言葉は不要。行動で示すのみ。
タヱ子の後ろからダッシュした飛馬が空中で一転。妖とツルギたちの間に立ち塞がると、刀を抜いて防御姿勢をとった。
一応、四段階の防御スキルの重ねがけを予定していたが、序盤に自分から何も動かないのはまずい。まずは味方ガードによって自己アピールに出たのだ。防御固めは後からでもできる。
粘液と岩が混ざり合ったような、二足歩行のトカゲのようなシルエットをした妖が殴りつけてくるが、飛馬はそれを刀で受け止める。
ならばともう一度殴りかかろうとした妖の頭上にかかる影。
翼を広げた『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)である。
「さあ行くぜ、相棒(レイジングブル)!」
ヤマトがピックを掴み、ギターの早引きをし始める。
するとどこからともなく巨大スピーカーの幻影と共に火炎放射機の群れが発生。妖たち全体へと炎の波がぶつけられる。
「助太刀するぜ、倍の数相手はきついだろ!」
「んー……」
ハクタカは頭をがしがしとかきまぜた。
小銃を構えたまま、無表情で立つ少年。ネームタグにはTOKIと掘ってある。
「ハク、倒す?」
「『善意の通りすがり』っぽいし、揉め事は起こしたくないなー」
「じゃあ、傍観?」
「それだと仕事になんないんだよねー。とりま様子見かな。アサマ、タイミングを見て仕事始めちゃって」
「ああ、うん。分かったよ」
丸めがねの黒人男性は気の弱そうな顔で頷いた。
一方で、『善意の通りすがり』はちゃっかり人数を増やしていた。
「ひゃあっ! わっ! こっちこないでくださいっ!」
凛はかよわい女性のフリをして刀を振り回しては、妖を一瞬で真っ二つにしていく。
斜め切りおろしからの返す刀で振り払い。その動作で妖は腰から割けて崩れていくのだ。
「あ、あたりました。や、やったあ!」
(なんやこの演技、か、かゆい! 身体のどっかがかゆい!)
引きつりそうになる頬を耐える凛である。
そんなことはお構いなしに襲いかかってくる妖。
岩をグルカナイフのように整形して斬りかかってくる。
咄嗟に偶然受け止めた風を装う凛の後ろで、里桜は牛革のカバーがついたアルバムを器用にぱらぱらとめくった。
「凛さん、回復します。もう暫く押さえてください」
ページのひとつからL版サイズのシートを引き抜き、回転させて投げつける。投げつける先は凛である。
まるで空気に溶けるように透明化したシートがそのまま凛に接触、吸収されていく。
「っしゃあ! ……じゃなくて、は、はい! ありがとうございます!」
調子狂うなあもうという顔で妖を蹴り飛ばす凛である。
と、その時。凛の足下で大爆発が起きた。
「いっ……!?」
凛を巻き込んで、今さっき蹴り飛ばした妖と別方向から隙を突こうとしてきた妖数体がまとめて爆発に飲み込まれ、そして吹き飛んでいく。
「なっ、なにす――るんですか!?」
「HAHAHA!」
振り返ると、爆破スイッチめいたものを握った眼鏡の黒人男性(アサマ)が葉を見せて笑っていた。
「いやあ、ほら、大丈夫だろう? 怪我はないよお嬢さん」
「そんなこといっ……ほんまや」
身体をぱたぱた叩いてみる凛。爆発の中心にいたというのに全くダメージを受けていない。
よく見ると、アサマの握っているスイッチは筒状の金属を両手で左右逆方向にグッと捻るタイプのスイッチで、表面には見たことも無い文字列が彫り込まれている。
(もしかして、コレが特殊マニ車理論ってやつなんか……? 爆弾で吹っ飛ばしても味方は傷付けんゆうことか?)
立ち止まる凛の真上を、激しい跳躍で飛び越えていく長身の女(ツルギ)。
背中から小さな翼を広げると、腰のホルスターから銃を二丁まとめて抜いた。
銃には直接ナイフのような刃がついている。
(ガンナイフ?)
ツルギは空中で身をひねると、妖たちに二丁拳銃で連射。
リボルバー式の弾倉が回り、弾丸がはき出されていく。
凛だけではない。里桜にも『それ』は見えていた。
リボルバー弾倉の表面と、そして弾頭。それぞれに見たことも無い文字が彫り込まれていたことに。
ツルギは弾丸を一発残らずクリーンヒットさせると、妖の間を低空飛行でジグザグに駆け抜けていく。
一瞬遅れてばっさりと傷口を開く妖たち。
「もーそろそろかな。いいよ、撤収ー」
いつの間にかビデオカメラを回していたハクタカが手を振った。
大きく空中でターンをかけ、にっこりと笑うツルギ。
けれど妖はまだ残っている。ツルギを追いかけようと飛びかかる準備をしていた。
「危ない!」
奏空はかつて(偶然にも)もらい受けた機関銃、滅相銃を構えた。
「祈りよ、マニ車にのって銃に宿れ!」
引き金を引くや、三重反転で回り始める先端のマニ車。
ほんのりと淡く輝く経文がばちばちとスパークをおこし、雷の弾を次々にはき出した。
弾は妖たちに直撃、びくびくとけいれんしながら倒れた妖たちは、そのまま消滅。泥や岩へとかえっていった。
銃を下ろし、ゆっくりと振り返る奏空。
手を振っていたハクタカが、ゆっくりとその手を下ろした。
敵か味方か。猛禽類のような鋭い目が奏空を見ている。
●能登研究室
「わーっ! 見てみて、子供! 子供がいる!」
奏空やら飛馬やらヤマトやらタヱ子やらが、知らない女性に抱きかかえられてはもみくちゃにされていた。
眼帯に眼鏡に白衣という、付属特徴のありすぎる女は名前を『ノト』といい、自前の研究助手をもつ神秘学の研究者だと名乗った。
齟齬がでないように送受心で話しあって相談した話をまとめれば、どうやら彼女が『特殊マニ車理論の専門家』とみて間違いなさそうだ。
ちなみにメンバーの名前はそれぞれ能登(のと)、白鷹(はくたか)、劒(つるぎ)、浅間(あさま)、輝輝(かがやき)、トキというらしい。見るからに黒人男性やアラブ系が混じっているのにモロな漢字名を名乗っている辺り、国籍をいじっているか偽名かどちらかだろう。
が、少なくとも能登は見た限り純日本人である。
「で? キミたちはボランティアで妖退治をしてるんだって?」
「そうなんだ。かっこいーだろ」
「私は妖から人を守るために仕方なくですけど」
「おんなじよーなもんじゃない!」
ぎゅいぎゅいと無表情のタヱ子を抱きしめる能登。
奏空は(割と経験はあるが)激しいボディランゲージに疲れて距離をとった。
用件を先に行っておかねばならぬ。
「俺はこれのことを知りたいんだ。もっとお役に立てるようにしたい!」
「それ……滅相銃だよね。二十年前の業型だ」
能登の目が一瞬だけ鋭くなった。
「はい。和尚さんにいただいて」
「ふうん……」
何か考えた様子だったが、それも一瞬のことだった。
すぐにテンションをきゃいきゃいしたものに切り替える。
ヤマトもこれ以上は流石に疲れると思ったのか奏空に続いて離脱した。
「能登さんたち、実験で戦ってるんだって? 危なそうだな、力貸せそうなら協力するぜ」
「えー、子供が妖退治なんて危ないよ。可愛い顔が傷ついちゃう」
「おいおい、トキもいるのに子供はダメって理屈は通らねえだろお」
召炎波や蒼炎の導といったスキルから違う技術発展をした人間たちだということは伝わったと思うが、それが相手にどうとられるかはまだ分からない。
目新しいから研究したいといって取り込むか、よその人だから信用できないといって拒絶するかは人それぞれだ。
リアルな話、目新しいものを何でも取り込む姿勢だったら今頃技術はダダ漏れである。
そうでないほうが、どちらかと言えば良い。
凛は(かなり里桜を参考にして)おしとやかなフリをして自己紹介を続けた。
「あ、わたし、代々受け継いできた剣術を活かすために妖退治をするみなさんにご一緒してるんです。でも私、まだ弱くて……そ、そちらの皆さんはとてもお強いんですね!」
「マジで? 伝説の神兵みたい? 結婚したい?」
メンバーの中では一番年上らしい輝輝がニコニコしながら応じてきた。
このオッサンぐいぐいくんなと思って引きかけたが、愛想笑いで耐える凛である。
「あ、そうだ、カッパの保湿クリームを持ってるんです。よくきくんですよ。よかったら」
「いいよ」
白鷹が保湿クリームの箱を出した所で、軽く手を翳す形で止めた。
掴まない。触らない。遠くも無ければ視界を遮りすぎない。
間合いをはかることに長けた人間のしぐさである。
凛は『余計な動きをしたら殺される』と本能的に察して動きを止めた。
白鷹は笑顔だ。輝輝も笑顔である。
だがどうしてだろう、二人とも目が笑っているように思えない。
能登は歓迎ムードだが、凛たちがどこかしらのスパイである可能性を警戒しているのだろう。その証拠といっていいか、白鷹は表情を維持したまま言った。
「あと、その演技はやめたほうがいいよ。侮らせて喰うみたいで、本気でやってる相手に失礼だ」
「……ん」
他のメンバーはまだ分からないが、白鷹と輝輝に関しては、下手な嘘はすぐにバレると思ったほうがいい。と、凛は心にとめた。
場を取りなすように里桜が頭を下げる。
「これも何かの縁ですし、よろしかったら、研究のお手伝いをさせて頂けませんか?」
相手から言い出してこないうちから切り込んだのは、このまま放置しておくと『じゃあ気をつけて帰ってねー』と言って分かれてしまう可能性が大きくなってきたからだ。
相手から切り出してくれるのを待つには、名刺交換から暫く期間をおいてというちょっぴり長期的なスパンを要求されることがある。『なんとなく妖退治の時だけ一緒になることがあるふんわりとした名前のない集団』相手ではそういったスパンはみこめないし、信用を起きづらいとも考えたのだ。
こういうとき、窓口になっておく個人が必要だ。
警戒されづらく、話しやすく、できればマトモそうだといい。
……という相談が送受心内でこっそり成された上で、里桜が名刺を取り出した。
「興味がありましたら、こちらにご連絡下さい。メンバーは入れ替わるかもしれませんが、同じ程度のレベルの覚者チームをご用意できると思いますので」
「そう、ありがと。きっと連絡するね」
能登は名刺を受け取って、にっこりと笑った。
車窓を景色が走って行く。
列車の揺れを肘に感じながら『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は膝に乗せた機関銃へ目をやった。
「宿命館大学かあ。神具の戦闘利用に反対してるっていうのは、どういうことなんだろう」
「どうって、そりゃ危ないからだろ」
冷凍ミカンを剥きながら振り向く『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)。
「隔者とかに会ってればさ、嫌でも分かるぜ。使う奴が悪ければ悪い火種になっちまう」
「銃社会の銃みたいなものかな。それに、強い武器から身を守るためにはより強い武器が必要になる。きっと悪循環になることを危惧してるんじゃないかなって。でも俺たちが相手にしてるのは人間だけじゃないんだ。妖には改心する余地なんかない。それから護るために武器は必要なんだ……」
「考えすぎやない?」
柿ピーの柿だけつまんで食べていく『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。
「武器なら既に山ほど出回っとるし。逆にゆうたら、こんだけ出回ってるなら新しい技術で金儲けしようって連中も出てくるやろ。あたしはそっちやと思うなあ。つか、特殊マニ車理論ってなんなん。マニ車ってあれよな、回すやつ」
「えっと……」
上月・里桜(CL2001274)が読んでいた本のページをめくった。
「マニ車(まにぐるま)。ひと回しすることで祈りに代える仏具でしたね。名前から想像するに、込められた術式を簡単に発動させる理論でしょうか。けど、学問というものはえてして説明が難しいものですから……」
どこでも同じだが、大学で専門的な学問に携われば、それが簡単に他人へ説明できるものでないことを知るだろう。特に研究中の分野となれば、最先端の人間が今まさに知ろうとしていることである。
こういった研究が『どの程度役に立つか』『簡単に説明できるか』というモノサシで誤解されることも、世の中ではしばしばである。
硬い煎餅をばきりと割って分け合う『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)と納屋 タヱ子(CL2000019)。
「ま、俺たちがやることはもう決まってる。ファイヴの関係者だってことは伏せて、できればヘッドハンティングして欲しいってとこだよな」
「これまでファイブが獲得した未開スキルや珍しい神具を見せつけることで学術的な好奇心を刺激するんでしたね。今回接触する相手に件の専門家がいる前提でかかったほうがいいかもしれません。打ち合わせはしっかりしていきましょう」
タヱ子は硬い煎餅を無理矢理に噛み砕いた。
●宿命館大学、神秘学研究室、実地調査助手団
「さー諸君、今日も元気にお仕事だー!」
天高く突き上がる拳。
細い白腕に輝くような銀髪。青い目をした美女である。
見るからに日本人ではなかったが、日本語はえらく流ちょうなようだ。
「「イエーア!」」
その後ろでサブマシンガンを突き上げる四人の男女。
特徴をざっくり述べると……丸めがねをかけた黒人男性、驚くほど長身で屈強な黒髪女性、四十代ほどのよれた雰囲気の男性、十代前半と見えるアラブ系少年。
一度見れば大体忘れないような一団だが、彼らがいわゆる『宿命館大学の戦闘担当者』だった。
遠くから双眼鏡で様子をうかがっていた飛馬が一言『大学生って感じじゃねーな』と呟いたのは、誰もが同意するところである。
「介入のタイミングはどうしますか? やはり戦闘がはじまってから? それとも暫く様子を?」
「はじめに決めたとおりだ。今すぐ行こう!」
飛馬とタヱ子はむくりと立ち上がり、戦闘担当者たち――ひいては妖の発生地点へと走り出した。
「カガヤキ、牽制!」
「ほいほい」
煙草をくわえた男、カガヤキがアサルトライフルを使って妖を牽制し始める。
何気ない動作だが動きがあまりに洗練されすぎている。覚者でないうちから長く実戦経験を積んできた人間の動きだった。
妖の集団を足止めするが、わざと牽制射撃を緩くした妖が一体だけ向かってくる。
「構えてツルギ」
「はいハクタカ」
長身の女が腰のホルスターに手をかけようとしたその瞬間、明後日の方向から丸盾が飛んできた。
地面をえぐるように削ってから、まるで意志でももっているかのごとく飛んできた方向へとターンして戻っていく。
その方向を、猛禽類のように鋭い目でにらむ白髪の女、ハクタカ。
戻ってきた盾が、少女のガントレットに磁石めいた力で接続される。
敵か味方か。
そういうにらみ方をされたことを、タヱ子は肌で感じた。
ならば言葉は不要。行動で示すのみ。
タヱ子の後ろからダッシュした飛馬が空中で一転。妖とツルギたちの間に立ち塞がると、刀を抜いて防御姿勢をとった。
一応、四段階の防御スキルの重ねがけを予定していたが、序盤に自分から何も動かないのはまずい。まずは味方ガードによって自己アピールに出たのだ。防御固めは後からでもできる。
粘液と岩が混ざり合ったような、二足歩行のトカゲのようなシルエットをした妖が殴りつけてくるが、飛馬はそれを刀で受け止める。
ならばともう一度殴りかかろうとした妖の頭上にかかる影。
翼を広げた『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)である。
「さあ行くぜ、相棒(レイジングブル)!」
ヤマトがピックを掴み、ギターの早引きをし始める。
するとどこからともなく巨大スピーカーの幻影と共に火炎放射機の群れが発生。妖たち全体へと炎の波がぶつけられる。
「助太刀するぜ、倍の数相手はきついだろ!」
「んー……」
ハクタカは頭をがしがしとかきまぜた。
小銃を構えたまま、無表情で立つ少年。ネームタグにはTOKIと掘ってある。
「ハク、倒す?」
「『善意の通りすがり』っぽいし、揉め事は起こしたくないなー」
「じゃあ、傍観?」
「それだと仕事になんないんだよねー。とりま様子見かな。アサマ、タイミングを見て仕事始めちゃって」
「ああ、うん。分かったよ」
丸めがねの黒人男性は気の弱そうな顔で頷いた。
一方で、『善意の通りすがり』はちゃっかり人数を増やしていた。
「ひゃあっ! わっ! こっちこないでくださいっ!」
凛はかよわい女性のフリをして刀を振り回しては、妖を一瞬で真っ二つにしていく。
斜め切りおろしからの返す刀で振り払い。その動作で妖は腰から割けて崩れていくのだ。
「あ、あたりました。や、やったあ!」
(なんやこの演技、か、かゆい! 身体のどっかがかゆい!)
引きつりそうになる頬を耐える凛である。
そんなことはお構いなしに襲いかかってくる妖。
岩をグルカナイフのように整形して斬りかかってくる。
咄嗟に偶然受け止めた風を装う凛の後ろで、里桜は牛革のカバーがついたアルバムを器用にぱらぱらとめくった。
「凛さん、回復します。もう暫く押さえてください」
ページのひとつからL版サイズのシートを引き抜き、回転させて投げつける。投げつける先は凛である。
まるで空気に溶けるように透明化したシートがそのまま凛に接触、吸収されていく。
「っしゃあ! ……じゃなくて、は、はい! ありがとうございます!」
調子狂うなあもうという顔で妖を蹴り飛ばす凛である。
と、その時。凛の足下で大爆発が起きた。
「いっ……!?」
凛を巻き込んで、今さっき蹴り飛ばした妖と別方向から隙を突こうとしてきた妖数体がまとめて爆発に飲み込まれ、そして吹き飛んでいく。
「なっ、なにす――るんですか!?」
「HAHAHA!」
振り返ると、爆破スイッチめいたものを握った眼鏡の黒人男性(アサマ)が葉を見せて笑っていた。
「いやあ、ほら、大丈夫だろう? 怪我はないよお嬢さん」
「そんなこといっ……ほんまや」
身体をぱたぱた叩いてみる凛。爆発の中心にいたというのに全くダメージを受けていない。
よく見ると、アサマの握っているスイッチは筒状の金属を両手で左右逆方向にグッと捻るタイプのスイッチで、表面には見たことも無い文字列が彫り込まれている。
(もしかして、コレが特殊マニ車理論ってやつなんか……? 爆弾で吹っ飛ばしても味方は傷付けんゆうことか?)
立ち止まる凛の真上を、激しい跳躍で飛び越えていく長身の女(ツルギ)。
背中から小さな翼を広げると、腰のホルスターから銃を二丁まとめて抜いた。
銃には直接ナイフのような刃がついている。
(ガンナイフ?)
ツルギは空中で身をひねると、妖たちに二丁拳銃で連射。
リボルバー式の弾倉が回り、弾丸がはき出されていく。
凛だけではない。里桜にも『それ』は見えていた。
リボルバー弾倉の表面と、そして弾頭。それぞれに見たことも無い文字が彫り込まれていたことに。
ツルギは弾丸を一発残らずクリーンヒットさせると、妖の間を低空飛行でジグザグに駆け抜けていく。
一瞬遅れてばっさりと傷口を開く妖たち。
「もーそろそろかな。いいよ、撤収ー」
いつの間にかビデオカメラを回していたハクタカが手を振った。
大きく空中でターンをかけ、にっこりと笑うツルギ。
けれど妖はまだ残っている。ツルギを追いかけようと飛びかかる準備をしていた。
「危ない!」
奏空はかつて(偶然にも)もらい受けた機関銃、滅相銃を構えた。
「祈りよ、マニ車にのって銃に宿れ!」
引き金を引くや、三重反転で回り始める先端のマニ車。
ほんのりと淡く輝く経文がばちばちとスパークをおこし、雷の弾を次々にはき出した。
弾は妖たちに直撃、びくびくとけいれんしながら倒れた妖たちは、そのまま消滅。泥や岩へとかえっていった。
銃を下ろし、ゆっくりと振り返る奏空。
手を振っていたハクタカが、ゆっくりとその手を下ろした。
敵か味方か。猛禽類のような鋭い目が奏空を見ている。
●能登研究室
「わーっ! 見てみて、子供! 子供がいる!」
奏空やら飛馬やらヤマトやらタヱ子やらが、知らない女性に抱きかかえられてはもみくちゃにされていた。
眼帯に眼鏡に白衣という、付属特徴のありすぎる女は名前を『ノト』といい、自前の研究助手をもつ神秘学の研究者だと名乗った。
齟齬がでないように送受心で話しあって相談した話をまとめれば、どうやら彼女が『特殊マニ車理論の専門家』とみて間違いなさそうだ。
ちなみにメンバーの名前はそれぞれ能登(のと)、白鷹(はくたか)、劒(つるぎ)、浅間(あさま)、輝輝(かがやき)、トキというらしい。見るからに黒人男性やアラブ系が混じっているのにモロな漢字名を名乗っている辺り、国籍をいじっているか偽名かどちらかだろう。
が、少なくとも能登は見た限り純日本人である。
「で? キミたちはボランティアで妖退治をしてるんだって?」
「そうなんだ。かっこいーだろ」
「私は妖から人を守るために仕方なくですけど」
「おんなじよーなもんじゃない!」
ぎゅいぎゅいと無表情のタヱ子を抱きしめる能登。
奏空は(割と経験はあるが)激しいボディランゲージに疲れて距離をとった。
用件を先に行っておかねばならぬ。
「俺はこれのことを知りたいんだ。もっとお役に立てるようにしたい!」
「それ……滅相銃だよね。二十年前の業型だ」
能登の目が一瞬だけ鋭くなった。
「はい。和尚さんにいただいて」
「ふうん……」
何か考えた様子だったが、それも一瞬のことだった。
すぐにテンションをきゃいきゃいしたものに切り替える。
ヤマトもこれ以上は流石に疲れると思ったのか奏空に続いて離脱した。
「能登さんたち、実験で戦ってるんだって? 危なそうだな、力貸せそうなら協力するぜ」
「えー、子供が妖退治なんて危ないよ。可愛い顔が傷ついちゃう」
「おいおい、トキもいるのに子供はダメって理屈は通らねえだろお」
召炎波や蒼炎の導といったスキルから違う技術発展をした人間たちだということは伝わったと思うが、それが相手にどうとられるかはまだ分からない。
目新しいから研究したいといって取り込むか、よその人だから信用できないといって拒絶するかは人それぞれだ。
リアルな話、目新しいものを何でも取り込む姿勢だったら今頃技術はダダ漏れである。
そうでないほうが、どちらかと言えば良い。
凛は(かなり里桜を参考にして)おしとやかなフリをして自己紹介を続けた。
「あ、わたし、代々受け継いできた剣術を活かすために妖退治をするみなさんにご一緒してるんです。でも私、まだ弱くて……そ、そちらの皆さんはとてもお強いんですね!」
「マジで? 伝説の神兵みたい? 結婚したい?」
メンバーの中では一番年上らしい輝輝がニコニコしながら応じてきた。
このオッサンぐいぐいくんなと思って引きかけたが、愛想笑いで耐える凛である。
「あ、そうだ、カッパの保湿クリームを持ってるんです。よくきくんですよ。よかったら」
「いいよ」
白鷹が保湿クリームの箱を出した所で、軽く手を翳す形で止めた。
掴まない。触らない。遠くも無ければ視界を遮りすぎない。
間合いをはかることに長けた人間のしぐさである。
凛は『余計な動きをしたら殺される』と本能的に察して動きを止めた。
白鷹は笑顔だ。輝輝も笑顔である。
だがどうしてだろう、二人とも目が笑っているように思えない。
能登は歓迎ムードだが、凛たちがどこかしらのスパイである可能性を警戒しているのだろう。その証拠といっていいか、白鷹は表情を維持したまま言った。
「あと、その演技はやめたほうがいいよ。侮らせて喰うみたいで、本気でやってる相手に失礼だ」
「……ん」
他のメンバーはまだ分からないが、白鷹と輝輝に関しては、下手な嘘はすぐにバレると思ったほうがいい。と、凛は心にとめた。
場を取りなすように里桜が頭を下げる。
「これも何かの縁ですし、よろしかったら、研究のお手伝いをさせて頂けませんか?」
相手から言い出してこないうちから切り込んだのは、このまま放置しておくと『じゃあ気をつけて帰ってねー』と言って分かれてしまう可能性が大きくなってきたからだ。
相手から切り出してくれるのを待つには、名刺交換から暫く期間をおいてというちょっぴり長期的なスパンを要求されることがある。『なんとなく妖退治の時だけ一緒になることがあるふんわりとした名前のない集団』相手ではそういったスパンはみこめないし、信用を起きづらいとも考えたのだ。
こういうとき、窓口になっておく個人が必要だ。
警戒されづらく、話しやすく、できればマトモそうだといい。
……という相談が送受心内でこっそり成された上で、里桜が名刺を取り出した。
「興味がありましたら、こちらにご連絡下さい。メンバーは入れ替わるかもしれませんが、同じ程度のレベルの覚者チームをご用意できると思いますので」
「そう、ありがと。きっと連絡するね」
能登は名刺を受け取って、にっこりと笑った。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
