≪神器争奪戦≫神の器がもたらすもの
●新人類教会
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして五月某日に動き出した『過激派』。
≪教化作戦≫ともいえる一大蜂起は、しかしFiVEの手により阻止される。虎の子の覚者部隊まで打たれて大打撃を受けた『過激派』は、その作戦を大きく遅らせることになった。
その際に手に入れた『メモリーカード』より、彼らが行う『洗脳』とそれに必要な『神器』の存在が明らかになる。
教会が複数所有し、さらに全国に散らばる『神器』。
それを求めて新人類教会の『過激派』が動き出す。
●洞窟
「姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん……」
人気のない薄暗い洞窟の中。
新人類教会に教化された覚者、長谷川園香はぼそぼそと呟き続ける。向かってくる妖どもを蹴散らしながら――
教会戦闘員達は、ぞろぞろとその後ろからついていく。
「ちっ、本当に神器がこんな場所にあるんだろうな」
「まるで、妖の巣だな」
「とにかく奥に行くぞ。こんな時のために、あの女を連れてきたんだ」
洞窟を進めば進むほど、次から次へと現れる妖達。
新人類教会が収集している神器の一つを求めて、彼らはこの場所を訪れていた。ここまで妖が集まっているのは予想外だったが、長谷川園香の捨て身とも言える進軍のおかげで事なきを得ている状況だ。
「ファイヴ殺すファイヴ殺すファイヴ殺すファイヴ殺すファイヴ殺す……」
園香が自身で噛んだ親指はボロボロになって、血が滲んでいて。妖から受けた複数の傷を治療する様子もない。遠巻きに見やる他の教会戦闘員達すら、その様には薄気味悪さを感じずにはいられなかった。
「最近、ずっとああだが……あの女は、ついに壊れちまったのか?」
「どうも、同じく教化された肉親がファイヴに捕えられたらしくてな。それ以来、ずっとあれさ」
「まあ、ファイヴを敵視している分には問題あるまい」
せいぜい、上手く働いてもらおう。
そんなことを頷き合う教会戦闘員達には、目をもくれず。
長谷川園香は、赤く染まった唇を震わせた。彼女の血走った視線の先、洞窟の奥には――小さな社と、何枚も札が張られた箱が鎮座していた。
●ファイヴ
「新人類教会の件について、動きがありました」
夢見の久方 真由美(nCL2000003)が、皆に説明を始める。
「穏健派のリーダーであり教会の巫女の『村瀬 幸来』らからもたらされた情報により、新人類教会が行う教化と呼ばれる洗脳には神器と呼ばれる存在が関わっていることが判明しました」
具体的に「神器」が何であるかは未だ不明だ。
教会の巫女であり祭事の度に神器に触れていた村瀬幸来も知らないという。
ただ、新人類教会は神器を複数所持している他、各地に散らばっている他の神器を集めるためかなり前から捜索を続けていたようだ。
「今回の皆さんへの依頼は、新人類教会が収集しようとしている神器を奪取することです」
スクリーンに地図が映し出された。
協力者からのタレコミにより、神器が眠っているとされる洞窟の情報だ。
「この洞窟に新人類教会も赴いており。実はその面子についても、少し気になる点があります」
教化作戦のときに、ファイヴは長谷川美和子という教化された覚者を撃退している。
彼女は、今は病院で治療を受けているのだが。
「神器を収集しようとしている者の中に長谷川園香さん……長谷川美和子さんの実妹にあたる方がいるようです」
この覚者の姉妹は、憤怒者に迫害された過去があり。
ともに教会に洗脳され利用されている。
「病院に収容された長谷川美和子さんに関しては、徐々に洗脳は解けてきているようですが。時折攻撃性を発揮して暴れ出すなど未だに日常生活が困難な状態です。これ以上、犠牲者を増やさないためにも神器の奪取をよろしくお願いします」
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして五月某日に動き出した『過激派』。
≪教化作戦≫ともいえる一大蜂起は、しかしFiVEの手により阻止される。虎の子の覚者部隊まで打たれて大打撃を受けた『過激派』は、その作戦を大きく遅らせることになった。
その際に手に入れた『メモリーカード』より、彼らが行う『洗脳』とそれに必要な『神器』の存在が明らかになる。
教会が複数所有し、さらに全国に散らばる『神器』。
それを求めて新人類教会の『過激派』が動き出す。
●洞窟
「姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん……」
人気のない薄暗い洞窟の中。
新人類教会に教化された覚者、長谷川園香はぼそぼそと呟き続ける。向かってくる妖どもを蹴散らしながら――
教会戦闘員達は、ぞろぞろとその後ろからついていく。
「ちっ、本当に神器がこんな場所にあるんだろうな」
「まるで、妖の巣だな」
「とにかく奥に行くぞ。こんな時のために、あの女を連れてきたんだ」
洞窟を進めば進むほど、次から次へと現れる妖達。
新人類教会が収集している神器の一つを求めて、彼らはこの場所を訪れていた。ここまで妖が集まっているのは予想外だったが、長谷川園香の捨て身とも言える進軍のおかげで事なきを得ている状況だ。
「ファイヴ殺すファイヴ殺すファイヴ殺すファイヴ殺すファイヴ殺す……」
園香が自身で噛んだ親指はボロボロになって、血が滲んでいて。妖から受けた複数の傷を治療する様子もない。遠巻きに見やる他の教会戦闘員達すら、その様には薄気味悪さを感じずにはいられなかった。
「最近、ずっとああだが……あの女は、ついに壊れちまったのか?」
「どうも、同じく教化された肉親がファイヴに捕えられたらしくてな。それ以来、ずっとあれさ」
「まあ、ファイヴを敵視している分には問題あるまい」
せいぜい、上手く働いてもらおう。
そんなことを頷き合う教会戦闘員達には、目をもくれず。
長谷川園香は、赤く染まった唇を震わせた。彼女の血走った視線の先、洞窟の奥には――小さな社と、何枚も札が張られた箱が鎮座していた。
●ファイヴ
「新人類教会の件について、動きがありました」
夢見の久方 真由美(nCL2000003)が、皆に説明を始める。
「穏健派のリーダーであり教会の巫女の『村瀬 幸来』らからもたらされた情報により、新人類教会が行う教化と呼ばれる洗脳には神器と呼ばれる存在が関わっていることが判明しました」
具体的に「神器」が何であるかは未だ不明だ。
教会の巫女であり祭事の度に神器に触れていた村瀬幸来も知らないという。
ただ、新人類教会は神器を複数所持している他、各地に散らばっている他の神器を集めるためかなり前から捜索を続けていたようだ。
「今回の皆さんへの依頼は、新人類教会が収集しようとしている神器を奪取することです」
スクリーンに地図が映し出された。
協力者からのタレコミにより、神器が眠っているとされる洞窟の情報だ。
「この洞窟に新人類教会も赴いており。実はその面子についても、少し気になる点があります」
教化作戦のときに、ファイヴは長谷川美和子という教化された覚者を撃退している。
彼女は、今は病院で治療を受けているのだが。
「神器を収集しようとしている者の中に長谷川園香さん……長谷川美和子さんの実妹にあたる方がいるようです」
この覚者の姉妹は、憤怒者に迫害された過去があり。
ともに教会に洗脳され利用されている。
「病院に収容された長谷川美和子さんに関しては、徐々に洗脳は解けてきているようですが。時折攻撃性を発揮して暴れ出すなど未だに日常生活が困難な状態です。これ以上、犠牲者を増やさないためにも神器の奪取をよろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.神器の奪取
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●神器が眠っている洞窟
洞窟の奥には、小さな社と札が張られた箱があり。箱の中に神器が入っています。
神器の影響なのか、妖が周囲から集まっており。洞窟の中には、多くの妖が存在しています。かなり広い洞窟であり、明かりはありません。
新人類教会のメンバーが神器を収集するために赴いており。ファイヴが洞窟に入る頃には、既に彼らは神器のある場所まで到達しています。
●新人類教会
・長谷川園香
新人類教会過激派に捕まり、洗脳されてしまった覚者。
十五歳の女性。
天行:機の因子の使い手。
ちなみに、長谷川園香の姉の長谷川美和子は≪教化作戦≫教化された魂、で登場しています。
・新人類教会戦闘員
新人類教会過激派の一般戦闘員が十五人。
長谷川園香を先頭にして、その後ろについていっています。
(主な戦闘方法)
ナイフ 物近単 〔出血〕〔毒〕〔痺れ〕
電磁警棒 物近単 〔鈍化〕〔弱体〕
機関銃 物遠列
●妖
主にはランク1の生物系の妖達が、洞窟の中へと引き寄せられています。
主な攻撃方法は、噛み付きなどの単純な『物近単』の技となります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/10
6/10
公開日
2016年10月16日
2016年10月16日
■メイン参加者 6人■

●
「ええと、洞窟に入って。新人類教会のひとたち帰ってくるのを、待ち伏せ、する?」
天然の洞穴を前にして。
桂木・日那乃(CL2000941)が、仲間達を顧みる。『大魔道士(自称)』天羽・テュール(CL2001432)が、まず頷いた。
「はい、洞窟の入り口付近で新人類教会が戻ってくるのを待ちぶせしましょう」
「敵は多数、俺達は少数。ならどうやって神器を奪うか考えないとね」
東雲 梛(CL2001410)も同意して、地図を広げる。
事前に本部から調査情報はもらってきていた。洞窟の構図は、大まかにではあるが分かっている。敵の新人類教会が洞窟から出る為に必ず通るルート、しかも出口からそんなに離れていない場所を待ち伏せ場所にしなくてはいけない。
「中から風は吹いていないようだな」
『ブラッドオレンジ』渡慶次・駆(CL2000350)が洞窟内に踏み入って、指の感触を確かめる。もらった情報では、人が通れるような出入口は他にないようだったし。現場で調べた限りにおいても、そういったものは見当たらない。
ある程度開けた場所を待ち伏せ場所と定めると、上月・里桜(CL2001274)が天井付近に守護使役を飛ばした。
「朧、無理はしないでね」
奥まで見ることはできないが。
これで、少しでも異変に気づきやすくすることはできる。
「しかし……この組織、まだあったんだな。因子などというたかがヒトの一要素に妙な思想を持つから、こうなる。余計な手間ばかり取らせてくれる」
葦原 赤貴(CL2001019)は暗視で、視界を確保していた。他にも今回、暗視を備えておいた者は多い。洞窟内は薄暗く、ただの裸眼では仲間の姿を確認するのも一苦労といったところだった。
かといえ、堂々と明かりを使えば敵に先に発見される可能性が高い。
かび臭い匂いに耐えながら、皆は物陰に身を潜めた。
(『神器』って、いろいろなところにある、の、ね。ここは、洞窟のなかの、社のなか? 妖が寄るから。だれか、ひとの来ないところに置いた?)
沈黙が続くなか。
日那乃は黙考する。果たして新人類教会が、やっきになって探している神器とは何なのか。耳を澄ませば、がさごそとまた何かが洞窟内に入ってくる音がする。
狼に似た動物型の妖が、覚者達に気付かずに通り過ぎ。
奥へと踏み入っていった。
覚者達も敢えてそれらを追うつもりはない。寄ってくる妖は自衛のために倒すつもりだが、それ以外は放っておく。
(妖の来襲がぴったり止んだら流石に向こうも感づいちまうからな)
妖達が自分達の近くを通るのを、駆は両の指まで数えてそこからはカウントするのを止めた。
キリがない。
この空洞内は、禍々しい磁場が漂い。そこかしこに、悪しき妖達の気配がする。これをいちいち相手をするのも得策ではない。
気力体力は温存しておくべきだった。
……もっとも、そうも言ってられない事態というのもあるものだが。
「……園香さん、行きだけで結構怪我しているみたいですけど、戻って来ますよね?」
里桜の視線の先。
人の血の跡が、道標のように等間隔に残っており。それは洞窟の奥の奥まで続いていた。
●
「妖は極力スルーしたかったが」
牙を剥き襲いかかってくる蝙蝠のような妖を、赤貴が剣で両断する。
羽を失い地に落ちた個体を一瞥してから、次の相手へと向き直った。まだまだ、同じような妖が暗視した視界にざわめいている。
「こちらに向かってくる以上、仕方ありませんね」
里桜は術符を取り出して迎撃した。
洞窟を徘徊している化け物は、予想以上の数に上っており。一旦、覚者達の存在に気付くと後から後から寄ってきたのだ。
「妖だけでもこんなに……キリがないですね!」
纏霧の術式を使って敵を弱体化させて。
テュールが召雷を打ち放つ。暗闇の中に稲光が発生し、多数の蝙蝠達が悲鳴をあげながら焼き焦げた匂いが充満する。
「本命の新人類教会に備えて、消費は出来るだけ抑えないとね」
仲間の天行で視界が広がった瞬間。
手近な個体に狙いをつけ、梛の破眼光がまた一体を貫く。薄暗い洞窟の内部では、暗視がないと上手く的に当てるのも難しく神経を使う。覚者達は確実に敵を叩き、数を減らすことに専念していた。
「うん? 騒がしいな。今度は奥からまた来たか」
長刀を繰り出して、妖を一突きし。
洞の奥へと、駆は目を凝らした。複数の荒々しい足音に、けたたましい鳴き声、それにつんざくような爆発音……何やら様々な音が薄暗い先で反響し合い。
それらは次第に大きく、こちらへと近付いてくる。
やがて――
「……ファイヴ?」
そんな呟きとともに現れたのは。
妖の頭を片手に、血に塗れた長谷川園香だった。
「ファイ……ヴ……ファイヴ……ファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴ!!」
目を見開き。
呪文のようにうわ言を呟き続け。教化された少女は、妖の死骸を放り投げると。覚者達へ一目散に突撃してきた。
「姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇!」
突き抜けた怒りと殺意。
狙いも何もあったものではない雷が飛び散り、妖と覚者区別なく轟く。
(長谷川美和子さん、前のときのひと? ふうん、教化って薬だけじゃなかった、の、ね。じゃあ、『神器』持って帰ったら。長谷川さん、良くなるのに役に立つ、かも? 妹のひとも、連れて帰れると、いい、ね)
狂ったごとく暴れ始める相手と対峙し。
日那乃は潤しの滴で回復の準備をする。長谷川園香の後方からは、新人類教会の戦闘員達が何事かと顔を出した。
「何だ、どうした?」
「覚者? ファイヴ? 敵か!」
「散開しろ、神器を守れ!」
戦闘員達が慌ただしく叫び。
物々しい機関銃を構えて、総斉射する。弾丸が飛び跳ね、跳弾し、雨嵐と違えるほどに降り注ぐ。妖の唸る声がどこからか耳をつく。一気に戦況は混迷を極めだした。
●
「ファイヴが憎いんだって? よかったな。宿願が叶うぞ。かかってこい」
「ファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴ!」
蔵王・戒で身を固めた駆が挑発すると、長谷川園香は躊躇なくそちらに向かって吠えたて。雷の技を乱発してくる。その勢いはただごとではなく。洞窟内に雷音が咆哮した。
(一番傷を負っているのは戦意の高い長谷川園香……他はあっても軽傷か)
梛はまず、敵の様子、怪我の有無と程度を確認。
怪我の重い者をチェックし、敵の前衛に対して香仇花を使用した。特殊な花より独特な匂いが、紛れる。弱体化を図る香りだ。
「新人類教会……報告書は読んでいましたが、覚者を守るために覚者を洗脳して戦わせるなんて。なんだか矛盾しているような気がしますよ……」
ファイヴ、新人類教会、妖が入り乱れる中。
テュールは妖と一緒に巻き込む形で再び纏霧を、教会メンバーへと発生させた。奇妙な霧が濃度を濃くして纏わりつく。
「ちっ、なんだこれは!」
「前に出過ぎるな!」
「あの女に任せておけっ」
戦闘員達は、怯みながらも必要以上には前に出てこず。
長谷川園香に特攻させて、自分達はその隙をつく動きを見せていた。近寄る者には毒のついたナイフを振るい、電磁警棒を向けてくる。
「早めに回復させる、ね」
日那乃は後衛から仲間の毒を癒し、体力の維持に努めた。
その上で、敵の様子を注意深く見つめる。
「『神器』の箱、だれが持ってるか分からないから。気をつけて見ておく。たぶん、新人類教会の戦闘員のひと、の、リーダーっぽいひと、とか? だれが持ってるか分からなかったら。みんな、逃げられないようにしないと、かも」
洞窟内は音が反響し合って、声が届きにくい。
送受心・改で味方の言葉を拾うことも忘れない。
「ええ、今回の一番の目的は『神器』を奪取することですよね」
錬覇法と蔵王を使いつつ。
里桜も誰が『神器』を持っているのか気をつけていたが、その視線は自然と長谷川園香の方へと向いた。
「でも、できるなら長谷川園香さんを助けられるといいのですけれど」
全体を見て。
園香に話しかける機会がないか、里桜はうかがう。
(脅しが効くレベルなら、こういうときは決定権を持つ者に視線がいく。つまり、所持者か隊長格がわかる。大勢に影響はないが、読み通りの反応を引き出せれば、精神的優位を決定付けられる。手早く済めば、どちらの負傷者も減る。虚勢やお決まりの嘲笑が返ってきたところで、こちらに痛手はなにもない)
一方。
不憫とは思うが手心はなし。園香も戦闘員も、抵抗されれば躊躇なく潰すつもりである赤貴は、英霊の力を引出し。事態を素早く計算すると、召炎波を放ってまとめて焼き払いにかかる。
「!」
炎の津波が、全てを飲み込み。
洞窟のそのものを熱する。衝撃波が、二重三重に渦を巻き。嵐が通り過ぎ、一発叩き込んだあとに一言。
「神器を持っているヤツ。投降して差し出せば、ソイツ『だけ』は生かしてやる」
考えておいた台詞をそらんじて。
赤貴は敵の様子を睥睨する。
「はん、何を言っている! 笑わせるな!」
「こっちこそ、投降すれば生かしておいてやってもいいぞ」
「その後に、じっくりと教化してあの女と同じにしてやる」
返答のほとんどは鉛玉と怒号だった。
だが。
その中に一人だけ、僅かに後ろの仲間へと振り返った者がいた。膨らんだ鞄を持つ戦闘員に向けられた、ちらりとした視線。それを、赤貴は見逃さない。
「あいつだ。あの鞄の中に、神器がある」
剣を突きつけ告発すると、教会戦闘員達はびくりと。
鞄を持った者を守るように身構える。その反応が神器の在り処を如実に現していた。
「ちっ! 神器を絶対に渡すな!!」
「狂信者よ、我が魔力の渦に呑みこまれるがいい!」
固まる相手へと。
テュールが渾身の召雷を放つ。雷が戦闘員と妖を貫き。続いて里桜が迷霧でサポートした。
●
「長谷川園香! 早く、そいつらを片付けろっ!!」
教会戦闘員達が命令を下し。
教化された覚者は、攻勢を強める。その体は傷だらけだが、それを一切気にした様子もない。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
その様は、周りにいる妖すらも。
気味悪がって近付くのをためらっているようにも見えた。
「いいよな憎しみは。良心の呵責なく力を振るえる。世界で二番目に強い意志の力だ。ストレスは発散しなくちゃなあ」
狂乱に染まる敵を前にして。
駆は不敵に笑う。
「後でトッ捕まえてメンタルのケアもするが、一先ずは疲れ果てるまで気力体力吐き出せ。俺の体ならいくらでもくれてやるぜ。生憎サンドバッグにゃなってやらねえがな!」
斬・二の構え。
相手の雷をかいくぐり。切れ味を増した斬撃が、標的をとらえる。
「っ!」
脚に刀身を受け。
さすがに長谷川園香の動きが鈍った。細い右足から夥しい出が流れ落ちる。すかさず、梛は追い討ちをかけた。
「長谷川美和子は生きている」
「……姉……さん……?」
「会いたくないか? 逢いたいなら合わせてやる」
送受心・改で告げた姉の名前に、園香は明らかに動揺し反応する。
そこへ梛は棘散舞を使用して痺れ付与を狙う。洗脳を受けた覚者は、次第に自由を奪われ。掌で躍らせられる。
「長谷川園香さん、お姉さんの長谷川美和子さんは私たちの所に無事でいます。だから、園香さんもお姉さんの所に一緒に行きましょう?」
信じてもらうのは難しいとは思いますけれど……という思いを抱きながら。
今がチャンスと里桜も、園香に言葉をかける。
「う……うう……」
説得によるものか、ダメージによるものか。あるいは、その両方か。
頭を抱え、園香はふらふらと崩れ落ち始める。元々重傷の状態であったこともあり、その動きは加速度的に鈍くなる。
「くっ! 何をやっている長谷川園香!!」
「撃て撃て撃て撃て!」
「道を開けろ!」
長谷川園香が、膝をつくのに危惧を抱き。
戦闘員達が怒鳴りながら、砲火を集中して殺到してくる。赤貴はそれらに向けて、召炎波を撃ち続けた。
「戦意喪失すれば十分だ」
「洞窟のなかで並んでるなら。これを使うといいかも」
日那乃が薄氷を発動させる。
貫通力を持った氷の塊が、戦闘員達をどんどん後列まで突き通る。一つ一つが凍傷を伴う一撃だ。
「ボクの魔力、受け取ってください!」
テュールは填気を仲間に使い。
演舞・舞衣で状態異常の治療を図る。激しい激突が何度も何度も繰り返され、互いに消耗が続く。
「怯むな! 数はこっちが圧倒している。息切れするのは、向こうが先だ」
「くっ……ボクにはまだこの目があります!」
檄を飛ばす戦闘員達に目掛けて。
気力を振り絞って、テュールは第三の眼から光線を放った。それを受けて、敵の一人が倒れた。
「痺れの効果でいくらかでも行動を止められるといいのですけれど」
里桜の隆神槍で、巨大な岩槍が現れ突き出る。
届く相手の足元へと次々と、土行を見舞って敵の動きを鈍らせた。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
混戦の様をていする戦況下。
一喝とともに、駆の地烈が炸裂する。地を這うような軌跡から、跳ね上がるような凄まじい連撃が戦闘員達を蹴散らし。敵の戦線に亀裂が生じる。
刹那。
神器を持った戦闘員が舌打ちして、逃げるか否か逡巡する気配を見せた。
「気をつけて、逃げようとしている」
日那乃が送受心・改で皆に緊急事態を告げ。
すぐにレスポンスがくる。
「させるか」
「しまっ!」
赤貴が鉄甲掌で剛腕を振るう。
戦闘員の身体が舞い、膨らんだ鞄がその手から離れ中身が……札が張られた箱が飛び出す。
「神器が!」
全員の視線が、その行方に集中する。
箱は地面を転がり、蓋が開き。その先には――満身創痍の長谷川園香がいた。
「長谷川園香! 神器を守れ!!」
「……うう」
戦闘員の声に無意識に反応したかのように。
園香はぼんやりと、箱に手を伸ばす。させじと、梛が破眼光で戦闘不能にしよとするほぼ同時。それは、起こった。
「うう……ああああ……ああああああああああああああああああああ!!!!!」
絶叫。
神器に触れた途端。長谷川園香は、頭を掻きむしって苦しみだした。箱が手から落ちる。
「ここはボクたちが食い止めます! 先に行ってください!」
いち早くテュールが、こぼれ落ちた箱を拾う。
箱の中には、片手で握れる程度のつるつるとしたガラスのよう石が入っていた。強烈な不快感を振り払い。できるだけ離れてもらうよう告げて、韋駄天足の仲間の元へと投げ渡す。
「では、お先に。これ以上の戦闘は無意味なので、ほどほどにな」
赤貴は箱をキャッチすると蓋を閉じ。
通常の3倍以上の脚力を発揮して、一言のもとに走り去って離脱した。
「じ、神器が!」
「追え追え!」
「早く取り戻せ!」
慌てて戦闘員達は神器へと追いすがろうとするが。
残った覚者達が、壁となって立ち塞がる。加えて、まだ残った妖が上手く障害物のように働いた。
「状態異常地獄にしてあげるよ」
梛が前衛に香仇花を振りまき弱体化させ、棘散舞で出血と痺れを強いる。混乱して足並みがそろわれない敵は、神器を追うどころではなくなっていった。併せて味方には清廉珀香を使用して、戦線を支えて攻守のバランスをとる。
(あとは憂いがない程度に打倒して帰還だな)
(神具を確保できたし、ある程度教会と妖を片づけられたらボクたちも撤退です)
駆やテュールらも時間を稼ぐことに尽力しながら。
少しずつ距離をとっていく。敵の方も、ここで戦って消耗しても無駄だという思いがあったのだろう。覚者達と教会戦闘員達は、妖を間にするように離れ。
間もなくどちらともなく、撤退を始める。
●
「ちっ、もう神器を追うのは無理か」
「とりあえず退くぞ!」
「あの女はどうする?」
「連れて来い、貴重な戦力だ!」
教会戦闘員達は、苦しみ続ける長谷川園香を担いで洞窟の外に走った。覚者達の現在の戦力では、追うのは不可能であり。これは見逃すしかない。
「人数も時間もない今の状況では諦めるしかありませんか………二人とも、いつか仲良く笑いあえる日がきてほしいですね」
「被害は少なくしたかったけど、この状況だとね」
遠ざかる敵の背を見やって、テュールが呟く。
肩を竦めて、梛は妖に注意しながら出口まで移動する。暗闇の中から外に出ると、圧倒的な光が眩しくて誰もが目を細める。
とにかくも、神器は確保したのだ。
覚者達は洞窟から離れ、小休止してから帰路についた。
「この作戦はまだ被害者が出てない。つまりはテロリストに対して攻性の組織というわけだ、ファイヴは。恨まれてとーぜん。中の旦那よ、読み違えるなよな、頼むぜ」
陽が傾く。
ようやく目が光に慣れてきた駆は、これからのことを半ば祈るようにそっと手をかざした。
「ええと、洞窟に入って。新人類教会のひとたち帰ってくるのを、待ち伏せ、する?」
天然の洞穴を前にして。
桂木・日那乃(CL2000941)が、仲間達を顧みる。『大魔道士(自称)』天羽・テュール(CL2001432)が、まず頷いた。
「はい、洞窟の入り口付近で新人類教会が戻ってくるのを待ちぶせしましょう」
「敵は多数、俺達は少数。ならどうやって神器を奪うか考えないとね」
東雲 梛(CL2001410)も同意して、地図を広げる。
事前に本部から調査情報はもらってきていた。洞窟の構図は、大まかにではあるが分かっている。敵の新人類教会が洞窟から出る為に必ず通るルート、しかも出口からそんなに離れていない場所を待ち伏せ場所にしなくてはいけない。
「中から風は吹いていないようだな」
『ブラッドオレンジ』渡慶次・駆(CL2000350)が洞窟内に踏み入って、指の感触を確かめる。もらった情報では、人が通れるような出入口は他にないようだったし。現場で調べた限りにおいても、そういったものは見当たらない。
ある程度開けた場所を待ち伏せ場所と定めると、上月・里桜(CL2001274)が天井付近に守護使役を飛ばした。
「朧、無理はしないでね」
奥まで見ることはできないが。
これで、少しでも異変に気づきやすくすることはできる。
「しかし……この組織、まだあったんだな。因子などというたかがヒトの一要素に妙な思想を持つから、こうなる。余計な手間ばかり取らせてくれる」
葦原 赤貴(CL2001019)は暗視で、視界を確保していた。他にも今回、暗視を備えておいた者は多い。洞窟内は薄暗く、ただの裸眼では仲間の姿を確認するのも一苦労といったところだった。
かといえ、堂々と明かりを使えば敵に先に発見される可能性が高い。
かび臭い匂いに耐えながら、皆は物陰に身を潜めた。
(『神器』って、いろいろなところにある、の、ね。ここは、洞窟のなかの、社のなか? 妖が寄るから。だれか、ひとの来ないところに置いた?)
沈黙が続くなか。
日那乃は黙考する。果たして新人類教会が、やっきになって探している神器とは何なのか。耳を澄ませば、がさごそとまた何かが洞窟内に入ってくる音がする。
狼に似た動物型の妖が、覚者達に気付かずに通り過ぎ。
奥へと踏み入っていった。
覚者達も敢えてそれらを追うつもりはない。寄ってくる妖は自衛のために倒すつもりだが、それ以外は放っておく。
(妖の来襲がぴったり止んだら流石に向こうも感づいちまうからな)
妖達が自分達の近くを通るのを、駆は両の指まで数えてそこからはカウントするのを止めた。
キリがない。
この空洞内は、禍々しい磁場が漂い。そこかしこに、悪しき妖達の気配がする。これをいちいち相手をするのも得策ではない。
気力体力は温存しておくべきだった。
……もっとも、そうも言ってられない事態というのもあるものだが。
「……園香さん、行きだけで結構怪我しているみたいですけど、戻って来ますよね?」
里桜の視線の先。
人の血の跡が、道標のように等間隔に残っており。それは洞窟の奥の奥まで続いていた。
●
「妖は極力スルーしたかったが」
牙を剥き襲いかかってくる蝙蝠のような妖を、赤貴が剣で両断する。
羽を失い地に落ちた個体を一瞥してから、次の相手へと向き直った。まだまだ、同じような妖が暗視した視界にざわめいている。
「こちらに向かってくる以上、仕方ありませんね」
里桜は術符を取り出して迎撃した。
洞窟を徘徊している化け物は、予想以上の数に上っており。一旦、覚者達の存在に気付くと後から後から寄ってきたのだ。
「妖だけでもこんなに……キリがないですね!」
纏霧の術式を使って敵を弱体化させて。
テュールが召雷を打ち放つ。暗闇の中に稲光が発生し、多数の蝙蝠達が悲鳴をあげながら焼き焦げた匂いが充満する。
「本命の新人類教会に備えて、消費は出来るだけ抑えないとね」
仲間の天行で視界が広がった瞬間。
手近な個体に狙いをつけ、梛の破眼光がまた一体を貫く。薄暗い洞窟の内部では、暗視がないと上手く的に当てるのも難しく神経を使う。覚者達は確実に敵を叩き、数を減らすことに専念していた。
「うん? 騒がしいな。今度は奥からまた来たか」
長刀を繰り出して、妖を一突きし。
洞の奥へと、駆は目を凝らした。複数の荒々しい足音に、けたたましい鳴き声、それにつんざくような爆発音……何やら様々な音が薄暗い先で反響し合い。
それらは次第に大きく、こちらへと近付いてくる。
やがて――
「……ファイヴ?」
そんな呟きとともに現れたのは。
妖の頭を片手に、血に塗れた長谷川園香だった。
「ファイ……ヴ……ファイヴ……ファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴ!!」
目を見開き。
呪文のようにうわ言を呟き続け。教化された少女は、妖の死骸を放り投げると。覚者達へ一目散に突撃してきた。
「姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇! 姉さんの仇!」
突き抜けた怒りと殺意。
狙いも何もあったものではない雷が飛び散り、妖と覚者区別なく轟く。
(長谷川美和子さん、前のときのひと? ふうん、教化って薬だけじゃなかった、の、ね。じゃあ、『神器』持って帰ったら。長谷川さん、良くなるのに役に立つ、かも? 妹のひとも、連れて帰れると、いい、ね)
狂ったごとく暴れ始める相手と対峙し。
日那乃は潤しの滴で回復の準備をする。長谷川園香の後方からは、新人類教会の戦闘員達が何事かと顔を出した。
「何だ、どうした?」
「覚者? ファイヴ? 敵か!」
「散開しろ、神器を守れ!」
戦闘員達が慌ただしく叫び。
物々しい機関銃を構えて、総斉射する。弾丸が飛び跳ね、跳弾し、雨嵐と違えるほどに降り注ぐ。妖の唸る声がどこからか耳をつく。一気に戦況は混迷を極めだした。
●
「ファイヴが憎いんだって? よかったな。宿願が叶うぞ。かかってこい」
「ファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴファイヴ!」
蔵王・戒で身を固めた駆が挑発すると、長谷川園香は躊躇なくそちらに向かって吠えたて。雷の技を乱発してくる。その勢いはただごとではなく。洞窟内に雷音が咆哮した。
(一番傷を負っているのは戦意の高い長谷川園香……他はあっても軽傷か)
梛はまず、敵の様子、怪我の有無と程度を確認。
怪我の重い者をチェックし、敵の前衛に対して香仇花を使用した。特殊な花より独特な匂いが、紛れる。弱体化を図る香りだ。
「新人類教会……報告書は読んでいましたが、覚者を守るために覚者を洗脳して戦わせるなんて。なんだか矛盾しているような気がしますよ……」
ファイヴ、新人類教会、妖が入り乱れる中。
テュールは妖と一緒に巻き込む形で再び纏霧を、教会メンバーへと発生させた。奇妙な霧が濃度を濃くして纏わりつく。
「ちっ、なんだこれは!」
「前に出過ぎるな!」
「あの女に任せておけっ」
戦闘員達は、怯みながらも必要以上には前に出てこず。
長谷川園香に特攻させて、自分達はその隙をつく動きを見せていた。近寄る者には毒のついたナイフを振るい、電磁警棒を向けてくる。
「早めに回復させる、ね」
日那乃は後衛から仲間の毒を癒し、体力の維持に努めた。
その上で、敵の様子を注意深く見つめる。
「『神器』の箱、だれが持ってるか分からないから。気をつけて見ておく。たぶん、新人類教会の戦闘員のひと、の、リーダーっぽいひと、とか? だれが持ってるか分からなかったら。みんな、逃げられないようにしないと、かも」
洞窟内は音が反響し合って、声が届きにくい。
送受心・改で味方の言葉を拾うことも忘れない。
「ええ、今回の一番の目的は『神器』を奪取することですよね」
錬覇法と蔵王を使いつつ。
里桜も誰が『神器』を持っているのか気をつけていたが、その視線は自然と長谷川園香の方へと向いた。
「でも、できるなら長谷川園香さんを助けられるといいのですけれど」
全体を見て。
園香に話しかける機会がないか、里桜はうかがう。
(脅しが効くレベルなら、こういうときは決定権を持つ者に視線がいく。つまり、所持者か隊長格がわかる。大勢に影響はないが、読み通りの反応を引き出せれば、精神的優位を決定付けられる。手早く済めば、どちらの負傷者も減る。虚勢やお決まりの嘲笑が返ってきたところで、こちらに痛手はなにもない)
一方。
不憫とは思うが手心はなし。園香も戦闘員も、抵抗されれば躊躇なく潰すつもりである赤貴は、英霊の力を引出し。事態を素早く計算すると、召炎波を放ってまとめて焼き払いにかかる。
「!」
炎の津波が、全てを飲み込み。
洞窟のそのものを熱する。衝撃波が、二重三重に渦を巻き。嵐が通り過ぎ、一発叩き込んだあとに一言。
「神器を持っているヤツ。投降して差し出せば、ソイツ『だけ』は生かしてやる」
考えておいた台詞をそらんじて。
赤貴は敵の様子を睥睨する。
「はん、何を言っている! 笑わせるな!」
「こっちこそ、投降すれば生かしておいてやってもいいぞ」
「その後に、じっくりと教化してあの女と同じにしてやる」
返答のほとんどは鉛玉と怒号だった。
だが。
その中に一人だけ、僅かに後ろの仲間へと振り返った者がいた。膨らんだ鞄を持つ戦闘員に向けられた、ちらりとした視線。それを、赤貴は見逃さない。
「あいつだ。あの鞄の中に、神器がある」
剣を突きつけ告発すると、教会戦闘員達はびくりと。
鞄を持った者を守るように身構える。その反応が神器の在り処を如実に現していた。
「ちっ! 神器を絶対に渡すな!!」
「狂信者よ、我が魔力の渦に呑みこまれるがいい!」
固まる相手へと。
テュールが渾身の召雷を放つ。雷が戦闘員と妖を貫き。続いて里桜が迷霧でサポートした。
●
「長谷川園香! 早く、そいつらを片付けろっ!!」
教会戦闘員達が命令を下し。
教化された覚者は、攻勢を強める。その体は傷だらけだが、それを一切気にした様子もない。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
その様は、周りにいる妖すらも。
気味悪がって近付くのをためらっているようにも見えた。
「いいよな憎しみは。良心の呵責なく力を振るえる。世界で二番目に強い意志の力だ。ストレスは発散しなくちゃなあ」
狂乱に染まる敵を前にして。
駆は不敵に笑う。
「後でトッ捕まえてメンタルのケアもするが、一先ずは疲れ果てるまで気力体力吐き出せ。俺の体ならいくらでもくれてやるぜ。生憎サンドバッグにゃなってやらねえがな!」
斬・二の構え。
相手の雷をかいくぐり。切れ味を増した斬撃が、標的をとらえる。
「っ!」
脚に刀身を受け。
さすがに長谷川園香の動きが鈍った。細い右足から夥しい出が流れ落ちる。すかさず、梛は追い討ちをかけた。
「長谷川美和子は生きている」
「……姉……さん……?」
「会いたくないか? 逢いたいなら合わせてやる」
送受心・改で告げた姉の名前に、園香は明らかに動揺し反応する。
そこへ梛は棘散舞を使用して痺れ付与を狙う。洗脳を受けた覚者は、次第に自由を奪われ。掌で躍らせられる。
「長谷川園香さん、お姉さんの長谷川美和子さんは私たちの所に無事でいます。だから、園香さんもお姉さんの所に一緒に行きましょう?」
信じてもらうのは難しいとは思いますけれど……という思いを抱きながら。
今がチャンスと里桜も、園香に言葉をかける。
「う……うう……」
説得によるものか、ダメージによるものか。あるいは、その両方か。
頭を抱え、園香はふらふらと崩れ落ち始める。元々重傷の状態であったこともあり、その動きは加速度的に鈍くなる。
「くっ! 何をやっている長谷川園香!!」
「撃て撃て撃て撃て!」
「道を開けろ!」
長谷川園香が、膝をつくのに危惧を抱き。
戦闘員達が怒鳴りながら、砲火を集中して殺到してくる。赤貴はそれらに向けて、召炎波を撃ち続けた。
「戦意喪失すれば十分だ」
「洞窟のなかで並んでるなら。これを使うといいかも」
日那乃が薄氷を発動させる。
貫通力を持った氷の塊が、戦闘員達をどんどん後列まで突き通る。一つ一つが凍傷を伴う一撃だ。
「ボクの魔力、受け取ってください!」
テュールは填気を仲間に使い。
演舞・舞衣で状態異常の治療を図る。激しい激突が何度も何度も繰り返され、互いに消耗が続く。
「怯むな! 数はこっちが圧倒している。息切れするのは、向こうが先だ」
「くっ……ボクにはまだこの目があります!」
檄を飛ばす戦闘員達に目掛けて。
気力を振り絞って、テュールは第三の眼から光線を放った。それを受けて、敵の一人が倒れた。
「痺れの効果でいくらかでも行動を止められるといいのですけれど」
里桜の隆神槍で、巨大な岩槍が現れ突き出る。
届く相手の足元へと次々と、土行を見舞って敵の動きを鈍らせた。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
混戦の様をていする戦況下。
一喝とともに、駆の地烈が炸裂する。地を這うような軌跡から、跳ね上がるような凄まじい連撃が戦闘員達を蹴散らし。敵の戦線に亀裂が生じる。
刹那。
神器を持った戦闘員が舌打ちして、逃げるか否か逡巡する気配を見せた。
「気をつけて、逃げようとしている」
日那乃が送受心・改で皆に緊急事態を告げ。
すぐにレスポンスがくる。
「させるか」
「しまっ!」
赤貴が鉄甲掌で剛腕を振るう。
戦闘員の身体が舞い、膨らんだ鞄がその手から離れ中身が……札が張られた箱が飛び出す。
「神器が!」
全員の視線が、その行方に集中する。
箱は地面を転がり、蓋が開き。その先には――満身創痍の長谷川園香がいた。
「長谷川園香! 神器を守れ!!」
「……うう」
戦闘員の声に無意識に反応したかのように。
園香はぼんやりと、箱に手を伸ばす。させじと、梛が破眼光で戦闘不能にしよとするほぼ同時。それは、起こった。
「うう……ああああ……ああああああああああああああああああああ!!!!!」
絶叫。
神器に触れた途端。長谷川園香は、頭を掻きむしって苦しみだした。箱が手から落ちる。
「ここはボクたちが食い止めます! 先に行ってください!」
いち早くテュールが、こぼれ落ちた箱を拾う。
箱の中には、片手で握れる程度のつるつるとしたガラスのよう石が入っていた。強烈な不快感を振り払い。できるだけ離れてもらうよう告げて、韋駄天足の仲間の元へと投げ渡す。
「では、お先に。これ以上の戦闘は無意味なので、ほどほどにな」
赤貴は箱をキャッチすると蓋を閉じ。
通常の3倍以上の脚力を発揮して、一言のもとに走り去って離脱した。
「じ、神器が!」
「追え追え!」
「早く取り戻せ!」
慌てて戦闘員達は神器へと追いすがろうとするが。
残った覚者達が、壁となって立ち塞がる。加えて、まだ残った妖が上手く障害物のように働いた。
「状態異常地獄にしてあげるよ」
梛が前衛に香仇花を振りまき弱体化させ、棘散舞で出血と痺れを強いる。混乱して足並みがそろわれない敵は、神器を追うどころではなくなっていった。併せて味方には清廉珀香を使用して、戦線を支えて攻守のバランスをとる。
(あとは憂いがない程度に打倒して帰還だな)
(神具を確保できたし、ある程度教会と妖を片づけられたらボクたちも撤退です)
駆やテュールらも時間を稼ぐことに尽力しながら。
少しずつ距離をとっていく。敵の方も、ここで戦って消耗しても無駄だという思いがあったのだろう。覚者達と教会戦闘員達は、妖を間にするように離れ。
間もなくどちらともなく、撤退を始める。
●
「ちっ、もう神器を追うのは無理か」
「とりあえず退くぞ!」
「あの女はどうする?」
「連れて来い、貴重な戦力だ!」
教会戦闘員達は、苦しみ続ける長谷川園香を担いで洞窟の外に走った。覚者達の現在の戦力では、追うのは不可能であり。これは見逃すしかない。
「人数も時間もない今の状況では諦めるしかありませんか………二人とも、いつか仲良く笑いあえる日がきてほしいですね」
「被害は少なくしたかったけど、この状況だとね」
遠ざかる敵の背を見やって、テュールが呟く。
肩を竦めて、梛は妖に注意しながら出口まで移動する。暗闇の中から外に出ると、圧倒的な光が眩しくて誰もが目を細める。
とにかくも、神器は確保したのだ。
覚者達は洞窟から離れ、小休止してから帰路についた。
「この作戦はまだ被害者が出てない。つまりはテロリストに対して攻性の組織というわけだ、ファイヴは。恨まれてとーぜん。中の旦那よ、読み違えるなよな、頼むぜ」
陽が傾く。
ようやく目が光に慣れてきた駆は、これからのことを半ば祈るようにそっと手をかざした。

■あとがき■
今回は、長谷川園香や教会戦闘員をとらえることはできませんでしたが、神器は奪取という結果になりました。洞窟は暗視等がないと少し不利になる場所でした。神器のことも気になりますが。
それでは、ご参加ありがとうございました。
それでは、ご参加ありがとうございました。
