【仏装仏具】滅相銃と墓地の妖
●
座禅を組む駆。
警策と呼ばれる座禅中の肩を叩く棒を持って立つソウガン住職。
そんな光景を、畳敷きの和室に転がって奏空と駆が眺めていた。
風鈴の音と蝉の声。
木々のざわめきも遠く、先日の妖災害などなかったかのように静かな時が流れていた。
縁側には逝と結唯、そして維摩というなんとも会話のしづらそうな三人が並び、むっつりと黙ったまま庭木を眺めている。
何から話した者だろうか。座布団にあぐらをかいた飛馬が困っていると、人数分の麦茶をトレーに乗せた夢がやってきた。
「お話を、再開しましょうか」
ソウガン住職は寺を管理する僧侶である。
「この滅相銃は先々代の住職が遠い霊山で作ったとされている。一丁しかないが、興味があるなら譲ろう。その代わり一つ頼まれては貰えないだろうか」
住職はそんな風に、今回の妖退治依頼を切り出した。
住職の管理しているのは寺だけではない。
檀家たちの墓地も管理対象に含まれている。
資産的な意味では墓地も寺も同じなので区別するほどではないが、裏の山のかなり奥まった所に墓地は作られているのだそうだ。
「多少道は険しいが、上れないような山ではない。昔はとくに苦労も感じなかったのだが……最近になって墓地に妖が現われるようになったのだ。お盆だというのに墓参りもできず、檀家さんたちは困り果てている。これを倒してくれたら、滅相銃を譲ろう。どうかね」
座禅を組む駆。
警策と呼ばれる座禅中の肩を叩く棒を持って立つソウガン住職。
そんな光景を、畳敷きの和室に転がって奏空と駆が眺めていた。
風鈴の音と蝉の声。
木々のざわめきも遠く、先日の妖災害などなかったかのように静かな時が流れていた。
縁側には逝と結唯、そして維摩というなんとも会話のしづらそうな三人が並び、むっつりと黙ったまま庭木を眺めている。
何から話した者だろうか。座布団にあぐらをかいた飛馬が困っていると、人数分の麦茶をトレーに乗せた夢がやってきた。
「お話を、再開しましょうか」
ソウガン住職は寺を管理する僧侶である。
「この滅相銃は先々代の住職が遠い霊山で作ったとされている。一丁しかないが、興味があるなら譲ろう。その代わり一つ頼まれては貰えないだろうか」
住職はそんな風に、今回の妖退治依頼を切り出した。
住職の管理しているのは寺だけではない。
檀家たちの墓地も管理対象に含まれている。
資産的な意味では墓地も寺も同じなので区別するほどではないが、裏の山のかなり奥まった所に墓地は作られているのだそうだ。
「多少道は険しいが、上れないような山ではない。昔はとくに苦労も感じなかったのだが……最近になって墓地に妖が現われるようになったのだ。お盆だというのに墓参りもできず、檀家さんたちは困り果てている。これを倒してくれたら、滅相銃を譲ろう。どうかね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖をすべて撃破する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
それはさておき、状況を整理しましょう。
●目的
山の妖を全て倒すこと。
この作戦より少し前にファイヴの夢見が妖を察知しています。
そのため適切に人員配置が可能です。
●マップデータ
山の西側と東側の新旧それぞれの墓地が作られています。
それぞれ距離が離れており、うっそうとした草木に遮られて視界も通りません。
●シチュエーションデータ
距離が離れており、どちらか一箇所だけをせめると片側の妖が気づいて挟み撃ちを仕掛けてくる可能性があるため、二手に分かれて作戦にあたります。
墓地の規模は東西それぞれで違います。
・東側墓地:端から端まで50メートルほど。現われる妖は数が多く戦闘力が低いタイプ(覚者以下憤怒者以上)。
・西側墓地:直径10メートルほどの狭い墓地。現われる妖は一体だけだが戦闘力が高い(覚者三人分と同等)
妖発生により人が入って折らず、数年間手入れされていません。雑草が多く木々も深く茂り、昼でも少々薄暗い場所になるでしょう。
●エネミーデータ
・東側墓地
人間サイズの心霊系妖ランク1。
日常的な道具を武器にして格闘をしかけてきます。
数は多いですが知能が低く、前衛担当が工夫して気を引き続けていればそちらに攻撃が集中してくれるでしょう
戦闘力は覚者より低いですが、体力がそこそこあるのでよほど攻撃を集中させないとワンターンキルは難しいでしょう。戦力差はそこそこあるので物理特殊どっちでも大体いけます。
・西側墓地
身の丈3メートルの心霊系妖ランク2。
複数の人間の残留思念がごちゃ混ぜになったような姿をしており、二本の刀で戦います。
攻撃にはノックバックと負荷、更に痺れがついています。
命中補正と回避補正が高いためこちらからのBS攻撃は難しいでしょう。
体力はそこそこ。防御については物理攻撃に強く特殊攻撃に弱いつくりをしています。
ソウガン住職との約束により、この依頼を達成すると滅相銃が手に入ります。一丁だけ、アイテムドロップ扱いとなります。
性能をざっくり言うと特攻専門の機関銃です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年09月21日
2016年09月21日
■メイン参加者 8人■

●墓地の妖
大辻・想良(CL2001476)は肩掛け鞄を持ち直すと、舗装の粗い山道を踏みしめた。
「墓地に妖……出て当然というか……妥当です、よね」
「近くのやつにアテられて出てきた感じかねえ」
山からは寺を見下ろすことができる。
建物がかなり崩れているのが、妖との激戦を思い起こさせた。
刀を担ぐ緒形 逝(CL2000156)。
「文字通り化けて出たところに悪いが、ちと大人しくなってもらうとしよう」
「そもそも、どうしてもっと早くどこかに依頼しなかったんでしょうか」
「依頼なあ」
ギターを背負って歩く『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)。
「そういや妖退治って、どこに頼んだらやってくれんだろ。害虫駆除とかはそういう業者あるけどさ」
「行政登録が成されないので非公式ではありますが、『妖ハンター』のような仕事はあると聞きますね」
この先の情報を自分なりに分析しつつ、望月・夢(CL2001307)はちらりと振り返った。
「お寺はあまり裕福ではなさそうでしたから、人を近づけない形での安全策をとったのかもしれませんね」
命がけの闇商売というだけでかかる金額が跳ね上がりそうなものである。
かといって熊対策をする猟友会のようなボランティアでは続かなかろう。
一方で、前回の仏像妖化事件はそれこそ害虫駆除業者をケチった後の悪化具合そのものといえるのかもしれない。
AAAが疲弊している今、ファイヴのような非営利団体を日本は必要としている。
とまあ、生々しい話はさておき。
「お墓参りができないなんて、ご先祖様も檀家さんも可哀想です」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)のそんな言葉に、『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)も頷いた。
「それもあるけど、今回は住職のおっちゃんへのわびも兼ねてんだ」
「ああ、滅相銃でしたか……好みでは無いのですが、いただければ既存兵器の改良につながるかもしれませぬ」
あまり深入りはしませんよという顔で述べる深緋・久作(CL2001453)。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が頭をかいて苦い顔をした。
「その条件がなくたって、危険な妖は放っておけないですよ。それに気になることもあるし……」
向かう先は、寺の管理する墓地。
妖のはびこる戦場である。
●
本来は静かな墓地が、妖たちによって荒らされていた。
あえて舗装された道をさけて茂みの中から様子をうかがっていたのだが、あまりの光景に想良が顔をしかめた。
「知能の低いランク1とはいえ……」
死者への冒涜、という言葉がピッタリはまる。妖が人類の敵と言われるのもわかろうというものだ。
補助用の護符を束で取り出し、仲間の顔ぶれを確認する。
想良に加えて逝、ヤマト、夢という四人である。
「ええと、補助スキルを使う人はさければいいんですか?」
「その心配はいりませんよ」
夢が儀礼用の短剣で祝詞を刻み始める。
「大辻様の補助スキルは術式型。私の補助スキルは体術型ですからぶつかることはありません。安心して行使してください」
「あっ、そうでしたね」
護符を空に投げはつ想良。
術式が発動するタイミングを見計らって、ヤマトは茂みから飛び出した。
翼を広げて飛行状態を維持すると、ギターを強かに弾き鳴らした。
「行くぜレイジングブル! とびっきりのレクイエムを聞かせてやろうぜ!」
ヤマトの姿をみとめて戦闘姿勢に入った妖たちへ、ヤマトは激しい召炎波を解き放った。
音の波とシンクロするように巻き起こった炎がたちまち妖たちを飲み込んでいく。
「オレは経典も読めなきゃたいした供養もできないけど……妖の呪縛から解放するくらいはできる! だから来いよ、全員まとめて送ってやるぜ! こいつが送り火代わりだ!」
再び弦をかきならすと、周囲に激しい火花が散り始めた。
炎の波をかきわけて襲いかかる妖たちが火花に弾かれるように吹き飛んでいく。
「さて、と」
一足遅れて前へ出る逝。
刀を野球のバットのごとくいい加減に構えると、じりじりと地面をふみしめた。
「イイ台詞は全部ヤマトちゃんが言ってくれたからね。おっさんは身体を動かす係をやらせてもらうよ」
飛来する石をかわし、刀で打ち上げる。飛びかかってきた妖の頭に直撃し、転倒した所に今度はゴルフクラブのように剣を叩き付けた。
逝を目下の敵として認識した妖たちが彼を取り囲み、草刈り鎌や包丁を握った者たちから次々に襲いかかってくる。
四方八方からの攻撃だが、それを踊るように次から次へとかわしていく逝。
数で押すつもりなのか、墓地のいたる場所から現われた妖が逝へと狙いをつけて駆け出す――が、その第一歩から何かに躓いて転倒した。
足下を見れば、無数に生えていた雑草が違いを結びあって足をとる罠に変わっていた。
ハッとして別方向を見ると、そこには。
「格下の集団が相手であれば……」
夢が短剣を地面に突き立て、何かの指で印を組んでいた。
印を組み替えると、草花から不思議な蒸気が吹き上がり妖たちの身体にまとわりついていく。
まるで海中に落ちたかのような動きの鈍さにもだもだとあばれる妖たち。
夢は短剣を抜いて、祝詞を唱える準備にかかった。
「まるで独壇場、ですね」
人間の形をした4~50キロの物体を投擲するには相応の重量と物理構造が必要になるが、それをただ『押す』だけでこなすこの物体は、なるほど確かにバケモノである。
無数の墓石と樹枝をへし折り、樹幹を砕いて回転する久作は、両足と片腕でもって強制着地。
地面を盛大にえぐった所で、軸にしていた腕が折れたことに気がついた。
庇っている暇はない。
妖が駆け寄ってくる。
(暴力性の塊というわけですか。下手に小細工はかえって足をすくわれるかもしれませぬ)
牽制がてらに流し射撃を加えつつジャンプで後退。
大上段から叩き付けられた刀が大地を爆ぜさせ、先刻まで久作がいた場所を大きくえぐっていく。
土埃の残る中、側面から回り込む。
死角をとった。
腕を掴み、上下逆さに返すようにして地面へ投げつける。
が、妖や頭と腕を足に変え、逆に足を腕と頭に変えて強制着地。久作の掴んでいた腕を逆に掴んで握りつぶすと、首めがけて刀を振り込んだ。
腕を千切る勢いでのけぞり、ギリギリで回避。ごろごろと転がって退避。
その隙にラーラが魔術を発動させた。
(妖がこの地点に現われたのなら、墓地の残留思念がとらわれているかもしれません。だとしたら一刻も早く……)
前方に生み出した魔方陣から小型の弾を連続発射。
被弾予測箇所に自ら穴を開ける形で回避する妖――だが、その斜め上方向にさらなる魔方陣が発生。機関銃のごとく炎弾のラインを虚空に刻み込んだ。
咄嗟に飛び退いた妖だが、射撃に腕を千切られる。
祈りの言葉を唱え続ける飛馬。
本来なら敵味方の間に割り込んで防御に徹したい所だが今は味方の支援が先だ。
けれど時間がかかりすぎている。
奏空の回復に頼るしかないのが現状だ。
一方の奏空は刀を水平に持ち、刀身表面に彫り込まれた経文を二本指でなぞるようにして術式強度を高めていた。
(おっちゃんから貰ったこの刀……重いな。でも、使いこなさなきゃ!)
練り上げたエネルギーが粘液のように集まり、久作の腕へとまとわりつく。
へし折れた骨や千切れた肉、断裂した血管の間に割り込んで疑似細胞化を開始。片腕だけでも動くようになった久作は飛び込み前転によって落とした武器を回収。立ち上がる間もなく膝立ち姿勢のまま水圧弾を乱射した。
体内から二本の刀を生み出してそれらを弾き始める妖。
弾ききれない分が妖の身体を破壊していくが、そのたびに形が修復されていった。
一見回復しているようだが、集合した残留思念というリソースを今現在の戦闘行為だけに集中させているのだ。いわゆる全力のその場しのぎである。
逆に言えばそれだけの爆発力でもってぶつかってきているのだ。あなどれば負ける。
飛馬は一通りの準備を終えて妖へと突撃。
両手の刀を翼のように広げて斬りかかった。
連続で打ち出す飛馬の刀がことごとく打ち払われていく。
更には払われる動作が打ち込む動作に変わりはじめ、身を乗り出した姿勢だった飛馬の身体は徐々にのけぞるような姿勢へとシフトしていく。
爆発音に近い打撃を受け、飛馬の刀が高く跳ね上げられる。
胸や腹、腕が次々と切り裂かれ、切り裂くスピード以上の衝撃に飛馬の身体が浮いた。
切り裂きに次ぐ切り裂き。まるでミキサーにかかったトマトだ。
奏空が必死に回復に勤しむが、ダメージの蓄積スピードの方が早かった。
(相性の悪さか。もしくは戦術選択を誤ったか。負荷状態はともかく、身体の痺れがきつい)
得意のカウンターも使えぬまま、飛馬はひたすら防御に徹するしかなかった。
救いがあるとすれば、今回の妖がランク2の中でも思考力の弱い個体であったことだろうか。
全力防御時の防御力なら、直撃をうけがちな飛馬でも多少は耐えることができるし、妖もシェル状態の飛馬をよせばいいのにムキになって叩き続けるからだ。
もし、久作から攻めた方が楽だと妖が気づいていたなら、この勝負がかなりギリギリなものになったかもしれない。
必死に連撃を耐える飛馬に、奏空は腕をプルプルさせながら回復術を行使し続けた。相当な重量がある鉄の棒を、先端だけを持って水平に保つというのは想像する数倍も難しいものだ。
だが今はうまく回復できるのが奏空だけなのだ。頑張らないわけにはいかない。
明日は筋肉痛確定だと想いながら、奏空は必死で経文をなぞり、唱え続けた。
一方のラーラは全身をぐねぐねと曲げながら跳ね回る妖めがけて無数に開いた魔方陣で対抗。
妖を中心に前後左右とその中間を含めた十二の魔方陣を一斉展開。しかる後火炎魔術の連続発動。
何とか全方位にエネルギーの幕を作って防御しにかかる妖だが、ハッと見上げると頭上を上下反転した久作が飛んでいた。
頭めがけて水圧弾を連射。
半宙返りをかけ、妖のそばへと着地した。
その背後でぼこぼこと膨らんでいく妖の頭部。
久作が立ち上がり、フリントロック式の銃身からあがる水蒸気を振り払う。
と同時に、妖は爆発四散した。
時間をやや遡って、東側。
ヤマトは墓石の間を縫うようジグザグに飛行していた。
古い墓石ではあるが、人間の背丈よりも高い墓が並んでいる。そうとう古いもののようで今はむしろ掃除がしにくいと嫌がられがちなタイプだが、今は敵との視界をさえぎってくれる。
ということでヤマトは、投石をしあぐねている妖の背後に回り込みギターをかき鳴らした。
「響け、レイジングブル!」
一音ごとに空気が歪み、弾丸となって打ち出されていく。
踊るようにはじけて消える妖たち。その間を想良は護符束を手に駆け抜けた。
「よく狙って……」
紙飛行機のように折った札を投擲。
妖たちの頭上で勝手に開いた札が凝縮された黒雲となり、激しいスパークを起こして周囲の妖を蹴散らしていく。
「ふむ」
逝は飛んでくる石や棒を足運びと手のひらの動きだけで完全に無力化しながら彼らの様子を観察していた。
圧倒的な戦力差。
ちょっぴり迫力のある的撃ちゲームだ。
だがそれは、夢が彼我の戦力差を大幅に変化させているからだ。
たとえば想良の火力では召雷を連発してもわずかなダメージしか与えられないような場面も存在したが、敵の動きが殆ど殺されている上に味方は火力の二重強化を受けているのでレベル帯を見違えるほど凄まじい火力を発揮している。
多くの味方を有する戦闘において、夢は全く隙の無いエンチャンターだ。課題をあら探しするとすれば、反応速度と命中補正を上げることで連続行動の目が増えるだろうということくらいだ。
「おかげでさっきから楽でしかたない。おっさん、こっちにいなくてもよかったかな? ま、向こうも向こうでうまくやるさね」
鼻歌でも始めそうな余裕さで刀を握り、ぐるりと振り回す。
それだけで彼をタコ殴りにしようとしていた妖たちは一斉にきりさかれ、消滅していった。
暫く囲まれていたというのに逝は傷らしい傷はまったくない。
覚者戦闘において大きな戦力差は人数では覆せないという証明のような、そんな戦闘であった。
「状況終了……ですね」
他に妖がいないことを確認して、夢は武器を収納した。
●
「立つ鳥跡を濁さずではありませんが……」
亀の子たわしを手に、夢は額をぬぐった。
妖被害を恐れて人を近づけなかったせいで墓地は荒れ放題だ。
草刈りから始まって苔をおとし、石を磨いていく必要がある。ものによっては墓石がまるごと倒れていたりするので、八人がかりでも結構な重労働だ。
その様子から、飛馬は友ヶ島の海岸線を思い出していた。
「妖化の原因は確かにわかってないけど、妖が沢山でた島は観光客のゴミがたまったことが原因だったらしいぜ」
「掃除で予防になるなら、やらない手はないですね」
バケツに水をくんで並べていく想良。
住職はその様子に、感心したように頷いた。
「それは盲点だった。人知を越えたバケモノだ、状況に関係なく現われると思っておった」
「……」
『まあ出るときは無菌室にだって出るけどね』という言葉を一旦しまっておく逝。
妖が『なにかわるいもの』につくと仮定すれば間違っていないし、なにより恐怖や不安におびえるより良い。
「まあ、とにかく解決してよかった。すまないが寺の修復でお金はあまり……」
そう言いながら茶封筒を取り出す住職の腕をヤマトがぐいっと押し返した。
「よせって、お金なんていらねーよ。それより、困ったことがあったらいつでも相談してくれよな」
「本当か。それは……助かる」
頭をなで上げてから、鞄にしまい込んでいた滅相銃を取り出した。
「だが約束は約束だ。これは受け取ってくれ」
銃を受け取る奏空。
「いいんですか?」
「手元にあったから使っていたが、世に出回っている神具とそうかわらんものだ。ワシには技術もないから、持っていても適切な手入れすらできん」
「そう、言うなら……」
「貰えばいいのではないですか。先々代の住職が作ったということであれば年代物でしょう。妖の発生現象より前のものでは?」
「先々代の代替わりは20年前と聞いている。滅相銃が作られた時期はわからんが、そういう意味では最近のものだ」
最近の……。
ラーラは銃身をよく観察してみた。
形状としては携行式ミニガンに近く、回転する銃身部分がマニ車になっていた。
マニ車とは回すことで祈りに代わるという仏具である。とはいえ清い心と自分の手で回さなければ意味が無いともいわれ、ガトリングガンにくっつけたからって効果がでるものではない。
「ソウガン様、滅相銃の複製は私たちにも可能なのでしょうか」
「い、いや……そう言われてもな。神具の製作のことはワシにもわからんのだ。神具の刀や銃が作れれば、滅相銃も作れるものなのか?」
「えっ……?」
深く考えたことはないが。
たとえ話として。
通常の銃器を神具に加工できる技術をもった人間がいるとして、じゃあ魔導書や護符を作れるのかといえば怪しいし、設計図があれば作れるというような単純な物体ではないだろう。
神具と通常兵器の違いについては深く述べないので、なんかしらの詳しい資料を見て欲しい。
「とにかく、ありがたくいただきます!」
滅相銃を特に欲しがる人もいなかったので、軽くサイコロを転がして奏空が受け取ることにした。
かくして彼らは妖退治と墓の掃除をおえ、山を後にしたのだった。
大辻・想良(CL2001476)は肩掛け鞄を持ち直すと、舗装の粗い山道を踏みしめた。
「墓地に妖……出て当然というか……妥当です、よね」
「近くのやつにアテられて出てきた感じかねえ」
山からは寺を見下ろすことができる。
建物がかなり崩れているのが、妖との激戦を思い起こさせた。
刀を担ぐ緒形 逝(CL2000156)。
「文字通り化けて出たところに悪いが、ちと大人しくなってもらうとしよう」
「そもそも、どうしてもっと早くどこかに依頼しなかったんでしょうか」
「依頼なあ」
ギターを背負って歩く『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)。
「そういや妖退治って、どこに頼んだらやってくれんだろ。害虫駆除とかはそういう業者あるけどさ」
「行政登録が成されないので非公式ではありますが、『妖ハンター』のような仕事はあると聞きますね」
この先の情報を自分なりに分析しつつ、望月・夢(CL2001307)はちらりと振り返った。
「お寺はあまり裕福ではなさそうでしたから、人を近づけない形での安全策をとったのかもしれませんね」
命がけの闇商売というだけでかかる金額が跳ね上がりそうなものである。
かといって熊対策をする猟友会のようなボランティアでは続かなかろう。
一方で、前回の仏像妖化事件はそれこそ害虫駆除業者をケチった後の悪化具合そのものといえるのかもしれない。
AAAが疲弊している今、ファイヴのような非営利団体を日本は必要としている。
とまあ、生々しい話はさておき。
「お墓参りができないなんて、ご先祖様も檀家さんも可哀想です」
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)のそんな言葉に、『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)も頷いた。
「それもあるけど、今回は住職のおっちゃんへのわびも兼ねてんだ」
「ああ、滅相銃でしたか……好みでは無いのですが、いただければ既存兵器の改良につながるかもしれませぬ」
あまり深入りはしませんよという顔で述べる深緋・久作(CL2001453)。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が頭をかいて苦い顔をした。
「その条件がなくたって、危険な妖は放っておけないですよ。それに気になることもあるし……」
向かう先は、寺の管理する墓地。
妖のはびこる戦場である。
●
本来は静かな墓地が、妖たちによって荒らされていた。
あえて舗装された道をさけて茂みの中から様子をうかがっていたのだが、あまりの光景に想良が顔をしかめた。
「知能の低いランク1とはいえ……」
死者への冒涜、という言葉がピッタリはまる。妖が人類の敵と言われるのもわかろうというものだ。
補助用の護符を束で取り出し、仲間の顔ぶれを確認する。
想良に加えて逝、ヤマト、夢という四人である。
「ええと、補助スキルを使う人はさければいいんですか?」
「その心配はいりませんよ」
夢が儀礼用の短剣で祝詞を刻み始める。
「大辻様の補助スキルは術式型。私の補助スキルは体術型ですからぶつかることはありません。安心して行使してください」
「あっ、そうでしたね」
護符を空に投げはつ想良。
術式が発動するタイミングを見計らって、ヤマトは茂みから飛び出した。
翼を広げて飛行状態を維持すると、ギターを強かに弾き鳴らした。
「行くぜレイジングブル! とびっきりのレクイエムを聞かせてやろうぜ!」
ヤマトの姿をみとめて戦闘姿勢に入った妖たちへ、ヤマトは激しい召炎波を解き放った。
音の波とシンクロするように巻き起こった炎がたちまち妖たちを飲み込んでいく。
「オレは経典も読めなきゃたいした供養もできないけど……妖の呪縛から解放するくらいはできる! だから来いよ、全員まとめて送ってやるぜ! こいつが送り火代わりだ!」
再び弦をかきならすと、周囲に激しい火花が散り始めた。
炎の波をかきわけて襲いかかる妖たちが火花に弾かれるように吹き飛んでいく。
「さて、と」
一足遅れて前へ出る逝。
刀を野球のバットのごとくいい加減に構えると、じりじりと地面をふみしめた。
「イイ台詞は全部ヤマトちゃんが言ってくれたからね。おっさんは身体を動かす係をやらせてもらうよ」
飛来する石をかわし、刀で打ち上げる。飛びかかってきた妖の頭に直撃し、転倒した所に今度はゴルフクラブのように剣を叩き付けた。
逝を目下の敵として認識した妖たちが彼を取り囲み、草刈り鎌や包丁を握った者たちから次々に襲いかかってくる。
四方八方からの攻撃だが、それを踊るように次から次へとかわしていく逝。
数で押すつもりなのか、墓地のいたる場所から現われた妖が逝へと狙いをつけて駆け出す――が、その第一歩から何かに躓いて転倒した。
足下を見れば、無数に生えていた雑草が違いを結びあって足をとる罠に変わっていた。
ハッとして別方向を見ると、そこには。
「格下の集団が相手であれば……」
夢が短剣を地面に突き立て、何かの指で印を組んでいた。
印を組み替えると、草花から不思議な蒸気が吹き上がり妖たちの身体にまとわりついていく。
まるで海中に落ちたかのような動きの鈍さにもだもだとあばれる妖たち。
夢は短剣を抜いて、祝詞を唱える準備にかかった。
「まるで独壇場、ですね」
人間の形をした4~50キロの物体を投擲するには相応の重量と物理構造が必要になるが、それをただ『押す』だけでこなすこの物体は、なるほど確かにバケモノである。
無数の墓石と樹枝をへし折り、樹幹を砕いて回転する久作は、両足と片腕でもって強制着地。
地面を盛大にえぐった所で、軸にしていた腕が折れたことに気がついた。
庇っている暇はない。
妖が駆け寄ってくる。
(暴力性の塊というわけですか。下手に小細工はかえって足をすくわれるかもしれませぬ)
牽制がてらに流し射撃を加えつつジャンプで後退。
大上段から叩き付けられた刀が大地を爆ぜさせ、先刻まで久作がいた場所を大きくえぐっていく。
土埃の残る中、側面から回り込む。
死角をとった。
腕を掴み、上下逆さに返すようにして地面へ投げつける。
が、妖や頭と腕を足に変え、逆に足を腕と頭に変えて強制着地。久作の掴んでいた腕を逆に掴んで握りつぶすと、首めがけて刀を振り込んだ。
腕を千切る勢いでのけぞり、ギリギリで回避。ごろごろと転がって退避。
その隙にラーラが魔術を発動させた。
(妖がこの地点に現われたのなら、墓地の残留思念がとらわれているかもしれません。だとしたら一刻も早く……)
前方に生み出した魔方陣から小型の弾を連続発射。
被弾予測箇所に自ら穴を開ける形で回避する妖――だが、その斜め上方向にさらなる魔方陣が発生。機関銃のごとく炎弾のラインを虚空に刻み込んだ。
咄嗟に飛び退いた妖だが、射撃に腕を千切られる。
祈りの言葉を唱え続ける飛馬。
本来なら敵味方の間に割り込んで防御に徹したい所だが今は味方の支援が先だ。
けれど時間がかかりすぎている。
奏空の回復に頼るしかないのが現状だ。
一方の奏空は刀を水平に持ち、刀身表面に彫り込まれた経文を二本指でなぞるようにして術式強度を高めていた。
(おっちゃんから貰ったこの刀……重いな。でも、使いこなさなきゃ!)
練り上げたエネルギーが粘液のように集まり、久作の腕へとまとわりつく。
へし折れた骨や千切れた肉、断裂した血管の間に割り込んで疑似細胞化を開始。片腕だけでも動くようになった久作は飛び込み前転によって落とした武器を回収。立ち上がる間もなく膝立ち姿勢のまま水圧弾を乱射した。
体内から二本の刀を生み出してそれらを弾き始める妖。
弾ききれない分が妖の身体を破壊していくが、そのたびに形が修復されていった。
一見回復しているようだが、集合した残留思念というリソースを今現在の戦闘行為だけに集中させているのだ。いわゆる全力のその場しのぎである。
逆に言えばそれだけの爆発力でもってぶつかってきているのだ。あなどれば負ける。
飛馬は一通りの準備を終えて妖へと突撃。
両手の刀を翼のように広げて斬りかかった。
連続で打ち出す飛馬の刀がことごとく打ち払われていく。
更には払われる動作が打ち込む動作に変わりはじめ、身を乗り出した姿勢だった飛馬の身体は徐々にのけぞるような姿勢へとシフトしていく。
爆発音に近い打撃を受け、飛馬の刀が高く跳ね上げられる。
胸や腹、腕が次々と切り裂かれ、切り裂くスピード以上の衝撃に飛馬の身体が浮いた。
切り裂きに次ぐ切り裂き。まるでミキサーにかかったトマトだ。
奏空が必死に回復に勤しむが、ダメージの蓄積スピードの方が早かった。
(相性の悪さか。もしくは戦術選択を誤ったか。負荷状態はともかく、身体の痺れがきつい)
得意のカウンターも使えぬまま、飛馬はひたすら防御に徹するしかなかった。
救いがあるとすれば、今回の妖がランク2の中でも思考力の弱い個体であったことだろうか。
全力防御時の防御力なら、直撃をうけがちな飛馬でも多少は耐えることができるし、妖もシェル状態の飛馬をよせばいいのにムキになって叩き続けるからだ。
もし、久作から攻めた方が楽だと妖が気づいていたなら、この勝負がかなりギリギリなものになったかもしれない。
必死に連撃を耐える飛馬に、奏空は腕をプルプルさせながら回復術を行使し続けた。相当な重量がある鉄の棒を、先端だけを持って水平に保つというのは想像する数倍も難しいものだ。
だが今はうまく回復できるのが奏空だけなのだ。頑張らないわけにはいかない。
明日は筋肉痛確定だと想いながら、奏空は必死で経文をなぞり、唱え続けた。
一方のラーラは全身をぐねぐねと曲げながら跳ね回る妖めがけて無数に開いた魔方陣で対抗。
妖を中心に前後左右とその中間を含めた十二の魔方陣を一斉展開。しかる後火炎魔術の連続発動。
何とか全方位にエネルギーの幕を作って防御しにかかる妖だが、ハッと見上げると頭上を上下反転した久作が飛んでいた。
頭めがけて水圧弾を連射。
半宙返りをかけ、妖のそばへと着地した。
その背後でぼこぼこと膨らんでいく妖の頭部。
久作が立ち上がり、フリントロック式の銃身からあがる水蒸気を振り払う。
と同時に、妖は爆発四散した。
時間をやや遡って、東側。
ヤマトは墓石の間を縫うようジグザグに飛行していた。
古い墓石ではあるが、人間の背丈よりも高い墓が並んでいる。そうとう古いもののようで今はむしろ掃除がしにくいと嫌がられがちなタイプだが、今は敵との視界をさえぎってくれる。
ということでヤマトは、投石をしあぐねている妖の背後に回り込みギターをかき鳴らした。
「響け、レイジングブル!」
一音ごとに空気が歪み、弾丸となって打ち出されていく。
踊るようにはじけて消える妖たち。その間を想良は護符束を手に駆け抜けた。
「よく狙って……」
紙飛行機のように折った札を投擲。
妖たちの頭上で勝手に開いた札が凝縮された黒雲となり、激しいスパークを起こして周囲の妖を蹴散らしていく。
「ふむ」
逝は飛んでくる石や棒を足運びと手のひらの動きだけで完全に無力化しながら彼らの様子を観察していた。
圧倒的な戦力差。
ちょっぴり迫力のある的撃ちゲームだ。
だがそれは、夢が彼我の戦力差を大幅に変化させているからだ。
たとえば想良の火力では召雷を連発してもわずかなダメージしか与えられないような場面も存在したが、敵の動きが殆ど殺されている上に味方は火力の二重強化を受けているのでレベル帯を見違えるほど凄まじい火力を発揮している。
多くの味方を有する戦闘において、夢は全く隙の無いエンチャンターだ。課題をあら探しするとすれば、反応速度と命中補正を上げることで連続行動の目が増えるだろうということくらいだ。
「おかげでさっきから楽でしかたない。おっさん、こっちにいなくてもよかったかな? ま、向こうも向こうでうまくやるさね」
鼻歌でも始めそうな余裕さで刀を握り、ぐるりと振り回す。
それだけで彼をタコ殴りにしようとしていた妖たちは一斉にきりさかれ、消滅していった。
暫く囲まれていたというのに逝は傷らしい傷はまったくない。
覚者戦闘において大きな戦力差は人数では覆せないという証明のような、そんな戦闘であった。
「状況終了……ですね」
他に妖がいないことを確認して、夢は武器を収納した。
●
「立つ鳥跡を濁さずではありませんが……」
亀の子たわしを手に、夢は額をぬぐった。
妖被害を恐れて人を近づけなかったせいで墓地は荒れ放題だ。
草刈りから始まって苔をおとし、石を磨いていく必要がある。ものによっては墓石がまるごと倒れていたりするので、八人がかりでも結構な重労働だ。
その様子から、飛馬は友ヶ島の海岸線を思い出していた。
「妖化の原因は確かにわかってないけど、妖が沢山でた島は観光客のゴミがたまったことが原因だったらしいぜ」
「掃除で予防になるなら、やらない手はないですね」
バケツに水をくんで並べていく想良。
住職はその様子に、感心したように頷いた。
「それは盲点だった。人知を越えたバケモノだ、状況に関係なく現われると思っておった」
「……」
『まあ出るときは無菌室にだって出るけどね』という言葉を一旦しまっておく逝。
妖が『なにかわるいもの』につくと仮定すれば間違っていないし、なにより恐怖や不安におびえるより良い。
「まあ、とにかく解決してよかった。すまないが寺の修復でお金はあまり……」
そう言いながら茶封筒を取り出す住職の腕をヤマトがぐいっと押し返した。
「よせって、お金なんていらねーよ。それより、困ったことがあったらいつでも相談してくれよな」
「本当か。それは……助かる」
頭をなで上げてから、鞄にしまい込んでいた滅相銃を取り出した。
「だが約束は約束だ。これは受け取ってくれ」
銃を受け取る奏空。
「いいんですか?」
「手元にあったから使っていたが、世に出回っている神具とそうかわらんものだ。ワシには技術もないから、持っていても適切な手入れすらできん」
「そう、言うなら……」
「貰えばいいのではないですか。先々代の住職が作ったということであれば年代物でしょう。妖の発生現象より前のものでは?」
「先々代の代替わりは20年前と聞いている。滅相銃が作られた時期はわからんが、そういう意味では最近のものだ」
最近の……。
ラーラは銃身をよく観察してみた。
形状としては携行式ミニガンに近く、回転する銃身部分がマニ車になっていた。
マニ車とは回すことで祈りに代わるという仏具である。とはいえ清い心と自分の手で回さなければ意味が無いともいわれ、ガトリングガンにくっつけたからって効果がでるものではない。
「ソウガン様、滅相銃の複製は私たちにも可能なのでしょうか」
「い、いや……そう言われてもな。神具の製作のことはワシにもわからんのだ。神具の刀や銃が作れれば、滅相銃も作れるものなのか?」
「えっ……?」
深く考えたことはないが。
たとえ話として。
通常の銃器を神具に加工できる技術をもった人間がいるとして、じゃあ魔導書や護符を作れるのかといえば怪しいし、設計図があれば作れるというような単純な物体ではないだろう。
神具と通常兵器の違いについては深く述べないので、なんかしらの詳しい資料を見て欲しい。
「とにかく、ありがたくいただきます!」
滅相銃を特に欲しがる人もいなかったので、軽くサイコロを転がして奏空が受け取ることにした。
かくして彼らは妖退治と墓の掃除をおえ、山を後にしたのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
アイテムドロップ!
取得キャラクター:『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)
取得アイテム:略式滅相銃・業型
取得キャラクター:『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)
取得アイテム:略式滅相銃・業型
