炎槍に囚われた仲間
炎槍に囚われた仲間



 山の麓の村人からの依頼があった。神具の回収依頼だ。なんでも、地元の神社に奉納されていた槍に大きな力を秘めているという話で、是非F.i.V.E.の役に立ててほしいとのことだった。
 封印されていた神具を回収する任務に就く覚者達。その中の一人にコロナと呼ばれた者がいた。彼女はそのあまりに強い火の精霊顕現の力ゆえに「コロナ」という異名で呼ばれていた。
 神具の無事を確認。力の放出などはなさそうに見える。これの回収で今回の任務は終わりになるはずであった。
「ん……何だ……?」
 コロナが近づきその槍を持ち上げようとしたとき異変は起きた。それまで沈黙を保っていた槍が突如熱を帯び始める。
「なるほど、こいつは炎を操る者の力を増幅させるモノなのかな」
 警戒をしながら力を暴走させないようにと力を抑えようとするコロナ。しかし、その熱は加速度的に高まっていく。すると凄まじい炎が槍から、そしてコロナの両腕から吹き出す。
「あああああああ!」
 コロナはどうにか手からその獲物を放そうとするも体がいうことをきかず、暴れまわるだけになる。神社の中では燃え広がってしまう、そう感じた彼女は神社からは飛び出すもすぐに体の自由はきかなくなっていく。どうにか槍を手放そうと四方八方へ振り回す。しかし槍は離れず、むしろ炎の暴走が広がっていく。やがて放すための振り回しが周囲への危害へと変わっていく。
 コロナの目の前には炎、炎、炎。真っ赤に揺らめく視界には赤と黄色が入り混じり、白がちらつく。
「落ち着けコロナ!」
「どうしたというの一体!?」
 仲間たちが口々に声をかける。しかし彼女の身を包む炎の勢いは止まることなく、もはや炎の化身となり自我を失った彼女はその場で暴れまわるのみとなっている。
「わ……た……しを……トメ……て……」
 そう小さくつぶやいたのを最後に彼女の体は完全に炎に包まれてしまった。
このままでは彼女が周囲を焼き尽くした後に近隣の村をその業火で包んでしまうことだろう。
 覚者達は戦闘態勢に入る。どうにか無力化出来れば、破綻者となった彼女をどうにか戻せるかもしれない。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:鹿之助
■成功条件
1.敵の全滅
2.コロナの救出
3.なし
こんにちは、鹿之助です。
今回は暑い夏に熱い敵です。
破綻者となりかけているコロナをどうにか救出してあげてください。

【周囲の状況】
周囲は開けた平地です。時刻は夕刻程。
基本的に地面は砂利なので、燃えたりはしません。

【敵】
コロナ(破綻者深度2)
攻撃手段
1.「貫殺撃・改」 :物近単[貫2] [貫:100%,50%]
2.「炎柱」    :特近列 【火傷】
3.「双撃」    :特近単 【解除】【二連】
4.「火焔連弾」  :特遠単 【二連】【火傷】
これらの攻撃を行ってきます。
また、コロナは常に火傷にある程度の耐性を持ちます。 
多彩な攻撃手段で襲いかかる難敵かと思います。

無力化の方法は皆さん次第。
戦闘終了後にF.i.V.E.の専門スタッフに任せるのも手です。

以上ですかね。それでは、皆さんよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年09月18日

■メイン参加者 8人■

『意識の高いドM覚者』
佐戸・悟(CL2001371)
『夢想に至る剣』
華神 刹那(CL2001250)
『悪食娘「グラトニー」』
獅子神・玲(CL2001261)
『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)
『赤ずきん』
坂上・御羽(CL2001318)

●焔の槍
「わ……た……しを……トメ……て……」
 そういってコロナは完全に炎にその身を包みこまれる。その両手で炎吹き上げる神槍を構え、覚者達に向ける。
「コロナさん、落ち着いてください!」
 『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の言葉はコロナには届かない。荒れ狂う火炎のうねりは欠片も弱ったようには見えない。帰ってくるのは呻き声と火の粉だ。ラーラを制しながら『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は首を横に振る。
「ダメですよ。破綻者になった者はそう簡単には止まらない。僕には……わかる……」
「ならば、大人しくさせてから槍を奪えばよいかな?」
「賛成だぜ。あのままじゃ、コロナのカワイイ顔が台無しだからな」
 華神 刹那(CL2001250)の言葉に『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が乗っかる。二人とも戦闘態勢を取る。
「コロナお姉ちゃんはいいけど、あの槍は、こんな危険なものファイヴに持ち帰るべきなの? おにいちゃん、みう、こわいのです」
 『赤ずきん』坂上・御羽(CL2001318)は使用者を暴走させる槍へ恐怖の視線を向ける。ぎゅっと懐良の服の裾を掴み、彼の後ろからコロナを見つめる。そんな彼女の頭を懐良は優しく撫でる。
「安心しろよ。本部にゃオレ達よりも対処できる奴らがいるからよ。任務は回収なんだ。もってったら向こうで判断してくれるだろうよ」
「だが、止む無しとなれば破壊も辞さない、だな?」
 懐良の発言に『意識の高いドM覚者』佐戸・悟(CL2001371)は戦闘態勢を取りながら短く言い放つ。その顔は引き締まり、言葉は何か覚悟を決めたようにも見える。
(ヒョオオオオオオ! あんなのもろに喰らったらどうなっちまうんだぁ!?)
 その眼には欲望の色が渦巻いていた。
「神具の破壊の報告は一応あったはずですが……。今回の任務はあくまで回収、ですからね」
 望月・夢(CL2001307)はその言葉と共に、無茶はしないようにと追加して悟を一瞥する。相手が気にも止めてない所をみて少しの溜息。
「コロナのねーちゃん、待ってろよ。今すぐ俺たちが止めてやるからな!」
 双刀を構え、高らかに宣言した『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)の言葉と共に、コロナは大きな悲鳴とも咆哮とも取れない声を上げ、襲いかかってくる。周囲に火の粉をまき散らし、熱は景色を揺らめかせる。
 まさしく決戦の火蓋が切られた。

●炎熱の使徒
 激しい金属音と火花、火の粉が激しく散るも、悟の盾でコロナの槍は受け止められる。しかし、コロナの一撃は槍撃だけでなく、炎の方も苛烈。悟の体に痛々しい跡をつけていく。
「うぐぅう!! 誰かを身を呈して守るのが俺達の仕事だ! 絶対君を助けるからな!」
 シリアスなセリフを吐く口は苦痛ではない感情で表情が歪んでいる。
「さあ、来いコロナ君! 暴走する君の攻撃、全部受け止めてやるよ!」
「あまり無茶をしすぎるなよ! うっ……らぁ!」
 悟がコロナの攻撃を受け止めている隙に、懐良が愛刀『国包』でコロナと槍を引きはがそうと渾身の連撃を叩き込む。コロナの側もステップで回避を試みるも完全には避けきれず、斬撃を受ける。しかし、その傷口から炎が吹き上がり、すぐさま傷口は見えなくなってしまう。炎の勢いは収まるどころか時間がたつにつれて激しさを増す。
「うお……この温度はやべーな。早くコロナのねーちゃんを助けねーとみんな熱中症になっちまいそうだ」
「これで少しは涼しくなるといいんだけど」
 飛馬の言葉に応ずるかのように玲の生み出した魔性の霧はコロナの周囲を取り巻いていく。コロナの発する火炎と粘り付く霧は互いに衝突しあい蒸気を発する。これ以上の炎の拡大は防げたようだ。それと同時にコロナの足を植物の蔓が絡め取る。
「これで足も止まりました、刹那さん」
「任」
 夢の言葉に僅かな単語だけで応じ、刹那は敵の懐に入り込もうとする。先の一撃で多少のバランスを崩し、足を止められていたコロナはすぐに対応ができずその攻撃を槍を持たない左腕が対応する。
「思い出せ。思い起こせ。己が名を。振るった技を。過ごした日々を!」
 切り払いがコロナの腕から血飛沫を舞わせる。しかしその飛沫もすぐさま燃え尽きる。
「ぐっ……うっ……」
 言葉と斬撃で自我が揺り戻されたのか少し揺らぐ。
「コロナ君! 君も覚者の一人ならそんな槍如きに振り回されるな!」
 その様子を見逃さず玲が声を上げる。苦悶の声を上げ、コロナが苦しみだす。力の暴走により自我を失いかけた彼女の心に、確実に玲の声は届いている。
 しかしそれでもコロナは槍から手を離せないでいる。まだ意識が体をコントロールできていないのだろう。
「さあ、馬鹿げた火遊びはここまでよ。早いところ起きてもらおうかしら」
「不意のことで制御が追いつかなかったのでしょうが……心を強く持ってください。少し痛いですけど我慢してくださいね!」
 ラーラの両手から炎の魔弾が練り上げられていく。それは徐々に大きく、球体の形を形成していく。白色に燃え上がる火球はコロナの体を貫かんばかりの勢いで直撃、続けざまにさらに連撃が浴びせられる。
 コロナは熱こそ耐えるもののその衝撃によって吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先の頭上には雷雲。体勢を立て直す前に雷の追撃が破綻者を襲う。
 受けたダメージは確実。普通の覚者であれば片膝をつくであろうダメージを受けてなお彼女は立ち続ける。

●灼滅の焔
 コロナはダメージも気にせず、槍に炎を纏わせ流れるような連撃を飛馬へと叩き込む。飛馬もその一撃一撃を上手く二振りの刀で受け流す。
「なぁ、ねーちゃんってすげー覚者なんだろ? 俺らで頑張るからさ、ねーちゃんの方でも頑張ってもらえねーかな? ほんの少しでいいからさ。元の自分に戻りたいって、一生懸命祈っててくれよ」
 器用に槍を抑え込み、そのまま飛馬はその槍を離させようとするも突如、槍とコロナから炎が濁流のように溢れ出す。
「退くんだ!」
 そういって悟は飛馬を突き飛ばし、コロナから引きはがす。
「ぅわあぁああああ!」
 コロナの叫びと共に吹き上がった炎は彼女自身を中心に火柱を形成していく。まるで彼女自身の感情の奔流のように際限なく熱気が溢れだしていく。火柱形成の衝撃波に吹き飛ばされた飛馬はさほどでもなかったが、中心にいた悟の被害は大きかった。
「おぉおぉぉおおお!!」
 吹っ飛ばされた先で自身の体に纏わりつく炎を消すために転がる悟。付喪の体だというのに彼の体についた炎の跡は痛ましい。
「だ、だいじょうぶか!? にーちゃん!?」
「ィヒィッ、だい、じょうぶ……ま、まだだ……」
 同時に吹き飛ばされた飛馬に心配されるも自分を気にした様子もなく立ち上がろうとする彼の足はいうことを聞かず、悟はその場に倒れる。
「な、なぜだ……」
「体の限界だよ悟君」
 そう玲が冷静に水行の術式で治療に入る。その体に刻まれた傷は思いのほか深く、手早くやる必要があると直感的に理解する。
「夢君、二人の火傷を」
「えぇ、わかってるわ」
 夢が両の手を合わせると周囲から淡い光が徐々に集まり、飛馬と悟の体へと染み込んでゆく。火傷部分に光が染み込んでいくと徐々に元の皮膚へと戻っていく。
「さっきのがコロナちゃんの感情ってんだったら、自我が戻ってきてるのかもな。だとしたら今がチャンスだ!」
 炎柱を吐き出し終わったコロナの目の前に突如懐良が現れ、彼女へと攻撃を加える。攻撃後の隙だったということもあってか大きく彼女はその体を揺らす。
「そんな槍なんか放ってオレとお茶しにいこーゼ! ヒュッー!」
 ………………
 …………
 ……
 懐良の言葉から長い沈黙が生まれる。
 ――ゴクリ
 果たしてこの言葉は効果があったのだろうか。様子を窺う一同と生唾を飲み込む懐良。
 ふっと、風がそよぐとコロナの体から再び炎が巻き起こる。

●目覚めの一撃
 炎と共に振り上げられたコロナの槍は懐良目掛けて勢いよく振り下ろされる。
「……ダメか!」
「ありゃダメだろ!」
 その槍を飛馬がいなすも勢いある一撃は二人に裂傷を作り出す。しかし傷はそこまで深いものではないためか飛馬は懐良へとツッコミを入れる。
 しかし、槍を振るった後のコロナは炎ではない赤で顔をわずかに染める。あながち完全に効いてないということもないようだ。
 刹那が入れ替わりに切り込み、二人とコロナを引き離す。
「目指したものは何ぞ。求めたものは何ぞ。全て、この場で捨てて、よいのか!」
 刃と槍が交差し、剣戟の音が響き渡る中、一振りごとに刹那が言葉を交える。普段の彼女らしからぬ戦闘スタイルであった。その声は確実にコロナへと届いていた。刃を交えるたびにその炎の勢いは徐々にと弱っていく。
「確実に自我が戻りつつあります! 御羽さん、さっきの、もう一度お願いできますか?」
「いいえ、今度はこっちがチャンスを作るわ」
 ラーラと御羽が自らの術に全力を込めていく。一人は魔眼に、一人は両手の炎球は殺さない程度、しかし動けなくする絶妙なコントロールだ。
「ととっ、大技なら手を貸すよ」
「治療も大筋終わりましたしね」
 ラーラの手に玲の手を重ねるとその炎は蒼へと色を変える。その炎は二人の力でもってより強大に、しかし繊細なコントロールを供えていく。隙を作るための御羽の魔眼には風の祝福。夢の念が御羽に宿るとまるで世界が遅くなったかのように三つの目は対象を捕捉する。
「破綻したまま死ぬなんて嫌でしょう? なら早く起きなさい!」
 怪光線に射られたコロナの体はその場に屈するかの様に片膝をつく。
「うっ……うぅっ……」
 小さくコロナがうめき声をあげ、炎が弱まる。しかし、弱まろうとした炎は槍が煌いたかと思うとまた再び勢いを増させる。
「痛いのは我慢してくださいね。一緒に変えるためですから! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を…イオ・ブルチャーレ!」
 火球はコロナの体目掛けて炎の矢の如く飛んでゆく。蒼の軌道を描くそれがコロナの体に当たると炸裂する。
 青の炎に呑まれたコロナは槍を杖代わりにそれでもと立ち上がる。よろよろと、力なく。
「起きんか! コロナァアアアア!」
 刹那の怒号と共に振り払われた一閃はコロナの体ではなく、槍を空中へと吹き飛ばしていった。

●不可思議な力
 ざぁああ……ざぁああ……
 周囲の木々が風で揺れる。それまで周囲を包んでいた炎はなくなり、静寂が訪れた。
 刹那の吹き飛ばした槍は地に突き刺さり、今は元の変哲もない槍へと戻っている。
 コロナは地に伏し倒れている。呼吸はしているが意識はないようだ。
「終わったようじゃな」
 そういって刹那は刃を収める。
「ふぅ……いい攻めだったな。彼女は動け……そうにはないか。うん、俺が背負って帰ろう」
 どこか満足げな笑みを零しながらコロナを背負う悟。
「お、おいおいその傷塞がりきってないんだろ? そんな体で背負って帰ると……」
 飛馬が傷が痛むと言おうとしたのを察したのか悟はにっこり笑ってその場を立ち去っていく。その眩しい笑顔に飛馬はそれ以上口を開けなかった。
「一応心配だから僕がついていくよ。お腹空いたし、早くご飯食べたいけど、彼女放っておくわけにもいかないしね。お~い、まってよ~」
 そう言って玲は悟を追いかけていく。
 一方ラーラは槍に手をあて、暴走するかどうかを調べていた。
「どうでしょうか? 何か感じますか?」
「いえ、やはり……特には。やはり、専門家に見てもらうほかはないですね」
 夢の疑問にラーラは首を横に振る。火行に秀でた彼女でもわからないのではここにいるものでは誰もわからないだろうという結論が出たことになる。
「みうはおもうのです、壊してしまったほうがいいと。こんなわるいどうぐ……」
「まぁまて御羽。オレらで考えつかない事を考えられるのが本部の人たちだ。オレらはちゃーんと今回起きたことを報告すれば、しっかり対応してくれるはずだぜ。安心しろよ。兄ちゃんの言うことが聞けない訳じゃないだろ?」
 そういって懐良は妹の頭をポンポンと撫でる。御羽も多少の不満はあるにしてうん、と頷いて見せる。
「では、私が持ちましょう。天行故何も起こらないとは思いますが……」
 そういって夢は神具を手にする。何も起きないことに一行は胸をなでおろすもF.i.V.E.につくまで緊張状態は続いていたという。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

夏にOP公開を行ったらすっかり台風が連続する時期になりました。
皆さんが被害にあってないといいんですが。
それはさておき今回も楽しいキャラクター達と会えました。
見知った方もちらほら見えましたが、そういう方とは友人に会えた!
新しい方とはこれから物語を紡ぎあげる仲間に出会えた!
そんな気持ちで執筆していました。
それでは、またの機会にご一緒できればと思います。
ご参加ありがとうございました~




 
ここはミラーサイトです