カグツチの匠
●ハイテクシティでの脱走劇
とある県のとある市の外れ、山間を切り開き、主にIT関連産業を育成することを目的に、企業に分譲したソフトウェア研究開発型の工業団地。通称、ハイテクシティ。
その中の一つ、三階建ての小さなオフィスビルの一室にて彼女は作業していた。
年の頃は二十代を半ばすぎた位、髪の毛を後ろでまとめ、近視を眼鏡で補っている。しかし、彼女が手に取って組み立てているのはソフトウェアではなく銃火器。鉛の弾丸を以て人を殺める武器であった。
そんな物騒な作業をしている女の背中に声をかける男がいた。
「そろそろ進捗を報告してくれないかな? うちのボスがうるさくてね」
「……できたわ」
「……は?」
男が聞き返すと女は組み立てが済んだ短機関銃を持ちながら振り返り、引鉄を絞った。
火薬が爆発する音と真鍮の薬莢がコンクリートの床に落ちる音が響き、次に男が倒れる。
「マシンピストル五型カグツチ、威力はどうかしら?」
女はありったけの弾倉を持ち出すと男から鍵を奪い、部屋から出る。
「さて出口はあっちだったわね?」
「ニゲダス……ヨクナイ」
片言の抑揚のない日本語、彼女が声のする方向に振り向いた直後、頭部だったものが床に転がり、赤く染まった首の無い女の体が崩れ落ちた。
●カグツチの秘密
「とまあ、これが僕の見た夢見。で、最初にちょっと説明をするね」
白衣を着た猫背の夢見中野・チャールズ(nCL2000139)は寝ぼけ眼をこすりながら、ライフルを一丁取り出した。
「これ、以前にある憤怒者が使っていた『カグツチ』って呼ばれる自動小銃ね、前に君たちに確保してもらってAAAにも照会して調べてもらったんだけど」
弾が入っていないことを確認し、壁に向かって構えたりした後、銃を置くチャールズ。
「元々はAAAや他の政府機関が神具のトライアルを行った際に提出されたモデルに似ているということが分かった。特徴としては『威力が劣るけど、量産しやすい』。そのためにライフル型にしないと威力を出せないということと、使用される弾丸が合わなくて不採用になったんだけど……どうやら、これを小型化しようとする動きがあって設計者の娘さんを軟禁して作業させていたみたいなんだ。僕が見た夢見はそれね、じゃあ本番入ろうか?」
夢見が資料を机に広げる。
「今回の目的はその娘さんの救出。場所はとある市のハイテクシティに建てられた三階建てのオフィスビル。娘さんはその二階で作業している」
出した資料はオフィスビルの見取り図。
「そして、障害となるのは一般人の護衛が一階に十名、二階に五名、それと『払い下げ』と呼ばれている辰の獣憑の隔者が一名になる。非戦闘員とかはいないから安心してくれ」
一通り説明を終わったチャールズはポットに入ったコーヒーを入れながら、皆に視線を向ける。
「カグツチは既に市場に流通し始めている、その上小型化されたら厄介この上ない。ゲーム機を買う値段で武器を持たれたら……みんな困るだろ?」
とある県のとある市の外れ、山間を切り開き、主にIT関連産業を育成することを目的に、企業に分譲したソフトウェア研究開発型の工業団地。通称、ハイテクシティ。
その中の一つ、三階建ての小さなオフィスビルの一室にて彼女は作業していた。
年の頃は二十代を半ばすぎた位、髪の毛を後ろでまとめ、近視を眼鏡で補っている。しかし、彼女が手に取って組み立てているのはソフトウェアではなく銃火器。鉛の弾丸を以て人を殺める武器であった。
そんな物騒な作業をしている女の背中に声をかける男がいた。
「そろそろ進捗を報告してくれないかな? うちのボスがうるさくてね」
「……できたわ」
「……は?」
男が聞き返すと女は組み立てが済んだ短機関銃を持ちながら振り返り、引鉄を絞った。
火薬が爆発する音と真鍮の薬莢がコンクリートの床に落ちる音が響き、次に男が倒れる。
「マシンピストル五型カグツチ、威力はどうかしら?」
女はありったけの弾倉を持ち出すと男から鍵を奪い、部屋から出る。
「さて出口はあっちだったわね?」
「ニゲダス……ヨクナイ」
片言の抑揚のない日本語、彼女が声のする方向に振り向いた直後、頭部だったものが床に転がり、赤く染まった首の無い女の体が崩れ落ちた。
●カグツチの秘密
「とまあ、これが僕の見た夢見。で、最初にちょっと説明をするね」
白衣を着た猫背の夢見中野・チャールズ(nCL2000139)は寝ぼけ眼をこすりながら、ライフルを一丁取り出した。
「これ、以前にある憤怒者が使っていた『カグツチ』って呼ばれる自動小銃ね、前に君たちに確保してもらってAAAにも照会して調べてもらったんだけど」
弾が入っていないことを確認し、壁に向かって構えたりした後、銃を置くチャールズ。
「元々はAAAや他の政府機関が神具のトライアルを行った際に提出されたモデルに似ているということが分かった。特徴としては『威力が劣るけど、量産しやすい』。そのためにライフル型にしないと威力を出せないということと、使用される弾丸が合わなくて不採用になったんだけど……どうやら、これを小型化しようとする動きがあって設計者の娘さんを軟禁して作業させていたみたいなんだ。僕が見た夢見はそれね、じゃあ本番入ろうか?」
夢見が資料を机に広げる。
「今回の目的はその娘さんの救出。場所はとある市のハイテクシティに建てられた三階建てのオフィスビル。娘さんはその二階で作業している」
出した資料はオフィスビルの見取り図。
「そして、障害となるのは一般人の護衛が一階に十名、二階に五名、それと『払い下げ』と呼ばれている辰の獣憑の隔者が一名になる。非戦闘員とかはいないから安心してくれ」
一通り説明を終わったチャールズはポットに入ったコーヒーを入れながら、皆に視線を向ける。
「カグツチは既に市場に流通し始めている、その上小型化されたら厄介この上ない。ゲーム機を買う値段で武器を持たれたら……みんな困るだろ?」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.オフィスビル内に軟禁されている女性の救出。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どうも、塩見です。
今回は定番的な「家屋侵入して、目標ゲットそして逃走」という形のシナリオで行きます。
詳細は以下の通りです。
●オフィスビル
一階が人を迎える応接スペースや受付カウンター
二階が作業部屋や護衛(と称した看守)の詰め所、事務作業などの部屋が合わせて六つ。
通路を真ん中に左右に三室ずつあるかたちです、トイレと給湯スペースはビルの端の階段のそばにあります。
三階は軟禁されている女性や、護衛たちの部屋になっています。
●時間
女性が作業している最中に侵入が可能です。
準備に時間がかかる、一階で手間取ってしまうなどあった場合は女性もアクションを起こす可能性があります。
●人物
・女性
カグツチを作った者の娘で、このビルでカグツチの小型化作業を強いられています。
小型化したカグツチを完成させて、ひそかに脱出の機会を狙っています
・護衛
一階に十名、二階に五名。
間違って営業にやってきた方々を丁重に、女性を狙ってくる者を「さらに丁重」におもてなしする方々です。
各階の護衛にはリーダー格が一名、います。
武装
アブトマットカグツチ単射:物遠単
アブトマットカグツチ連射:物遠列
ナイフ:通常攻撃
・隔者『払い下げ』
辰の獣憑、土行の隔者です。
何らかの処置で知能が低くなってしまい、護衛の簡単な命令に反応するだけになっていますが反射神経が強く、油断すると先手を取ってくる可能性はあります。
ちなみに受けている命令は「侵入者を殺せ」「女が逃げたら殺せ」の二つです
武装
ナックル
攻撃
通常攻撃
地烈
斬・二の構え
蔵王・戒
紫鋼塞
では、ビル内での戦闘および救出の物語の参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年08月11日
2016年08月11日
■メイン参加者 8人■

●鋼と人の思惑
「金の重みが命の重み。二束三文で売り買いされるのが、今の世の中でございます。それにつけても恐ろしきは人の業。覚者憎しで技術が発達する。惜しい事でございます。惜しむ事でございます。解り合えぬというなら。分かちあえぬというなら」
深緋・久作(CL2001453)が語る、いや騙る。
「どちらかが死に絶えるしかないのでございます」
「……まあどう取り繕ってもカチコミだわな。逮捕じゃなく制圧。官憲でもない俺らが、人間を」
彼が振り返った先に居るのは肥満体の中年男。『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)は嘆息とともに呟いた。
皆より下がった位置で『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は複雑な表情でそれを見ていた。彼にとって騙る部の姓と武器は苦いものを思い出させる。
「どうかなさいました?」
『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)が歩調を合わせて問いかける、彼が関わった一つの事件の後、何かを引きずって落ち込んでいたのを知っていたから。
「大丈夫です、クー先輩。お互い頑張りましょうね!」
努めて振る舞うその仕草が心に刺さる。掛ける言葉を探ることが出来ず、彼女の手が少年の髪へとのびる。
「無茶は禁物ですよ」
頭を撫でられ笑顔を見せる小唄、つられてクーも笑みを漏らす。狐と戌の獣憑同士のちょっとした触れ合い。
つかの間のひと時、けれどそれもわずかな時間。宮神 羽琉(CL2001381)の言葉が現実へと意識を戻す。
「見つけました、あれが件の建物です」
そう言ってひっそりと建つ三階建てのビルを指さした。
●潜入
「では、私と御白君、そして桂木君は屋上へ参ります」
『教授』新田・成(CL2000538)の言葉に八重霞 頼蔵(CL2000693)が頷く。三人は発見を避けるために回り込むようにビルへ移動すると少年と老人は手足に意識を集中し、壁に張り付き登り始める。もう一人の翼人の少女、桂木・日那乃(CL2000941)は黒い翼を広げると二人に速度を合わせて羽ばたいていく。
屋上へと向かう三名の間に言葉は無い。敵に察知されることを警戒してのこともあるが他に理由もあった。けれどそれを深く追及する者はおらず、そうすることを必要とする者も居なかった。
「――よっと」
跳ねるように屋上の床に着地する小唄、成は扉のほうに近づくと日那乃の方へ向き尋ねる。
「視えますか?」
「ん……、二階に七人、四人固まって、退屈そう。三人は別々、一人は何か作ろう、として、そばに一人。もう一人、よくわからない」
感情探査をレーダーのように使い、おおむねの人員の位置を探る少女の言葉で安全を確認すると成はノブへと手をかける。
「……こんな物がなければ死ぬ人は減るのに」
「これは荒関君の遺産です」
呟く少年に振り向かずに答える老人。
「そして、彼の全てを殺すと私は約束しました」
「……行く、よ」
少女に促され少年は歩を進める。その足音を聞き、成はノブを握る手に力を込めた。
●突入
屋上からの潜入に成功したことが頼蔵の送受心・改を介して伝わると、残りの覚者も行動を開始する。
(銃器の小型化・量産とかさ、神具でなくても勘弁して欲しいよ。物自体は使い方次第なんだろうけど、今回はどう聞いても、一から十までアウトでしょ)
彼らについていきながら羽琉が任務の内容に心を曇らす。
(けど、捕まっているひとを助けたうえでそういうのを止められるなら、頑張ろう)
だが、すぐに考え方を切り替えると瞬間記憶をフルに使い、ビルの見取り図を思い出す。その間に頼蔵は身体全体の細胞を活性化させ、駆とクーは土の鎧を身にまとう。
各々の準備がすむと真っ先に動いたのは頼蔵、ビルに入り受付には似つかわしくない体格の男へ近寄ると即座に飛燕。
(今後の面倒が増える事は好ましくないのでな)
急所を狙った二連突きが男の肉体に突き刺さる。
「失礼、邪魔だったもので」
倒れ行く男を尻目に口を開く襲撃者に男達は次々と突撃銃を構え、応戦しようと試みる。間隙をぬって久作が階段を確保し、意識をそちらに向けた男達には駆が疾風のごとく駆け抜けて、経典を開き鞭のような一撃を次々と叩き込み、クーが気によるプレッシャーで圧力をかけて相手を牽制する。
「FiVEの渡慶次・駆だ、人質の返還を要求する」
駆が勧告し。
「簡潔に申し上げましょう。掃除に来ました」
クーが告げ。
「投降いただくとお互い手間が省けるかと。如何です?」
階段の途中からも久作が呼びかける。
「いきなり刺したり、要求したり、降伏するかと思えば掃除宣言……バラバラじゃないか、お前達!?」
被害を免れた男の一人が抗議の代わりに突撃銃を連射し、鉄で出来た安物の銃弾を襲撃した覚者へと浴びせかける。ダメージが少ない男達もそれに続き、階段を陣取る久作へと狙いを定める。そこへ羽琉が眠りを誘うよう空気を操作し、階段へ銃を構えた男が力なく崩れ落ちる。
「助けるための暴力は矛盾感じるけど、先を思うと、やらなきゃって……」
気持ちを落ち着けようと深呼吸する少年を久作は興味深く見つめる、この世に同じ人間などいないけれど、それもまた人生。
けれど思索の時間は、眠っている男を起こそうと敵が動き始めたことで中断された。カトラスから薬莢が落ちて男がまた一人倒れていった。
「だったら遠慮なくかかってこいよ」
大いなる黒と名付けた漆黒に塗られた経典を片手に駆が挑発する。
(俺はお前たちを悪党と呼ぶ資格がねえから)
その心中の呟きに気づく者は敵味方とも居ない……。
●『払い下げ』
極力音を立てないようにしながら三名の覚者が二階へと降りていく。壁を背に覗き込めば、ライフルを持った男が三室向かい合わせになった部屋の真ん中に陣取り欠伸をする。
送受信を介して、小唄が位置を確認すれば音を立てないように浮いていた少女は頷きを返す。
三人の視線が交錯して、それぞれが動き始めた。
少年が地を這うように駆け出し、跳ね上がるように拳を男の腹に叩き込む。一撃で突撃銃を持つ手から力が抜け、金属が床に転がる音がした。同時にもう一撃、今度は顎先に叩き込み男を仰け反らせる頃には男の意識は失われた。
すぐに成が扉に触れ、開錠する。
「向かい、く――」
何かに気づいた日那乃が警告を発す間もなく向かいの部屋の扉を破壊して影が襲い掛かる。気づいた成が仕込みに手をかけ刃を抜こうとした時、影がその手を抑える。
「ブキツカウ、ダメ」
反射的に老紳士が頭を下げるとそこには鋭い爪の付いたナックルをはめた腕が通り過ぎた。
距離を取る成、向き直る小唄。視線の先に居るのは白目の目立つ辰の獣憑、低い姿勢で歯をむき出しにするその姿は人というよりは肉食獣のようであり、口元からこぼれた涎からは嫌な匂いがした。
「初めまして、『払下げ』さん(Mr. Disposal)。私は侵入者です。どうぞよしなに」
「シンニュウシャ、コロス」
成が皮肉を込めて挨拶をすると片言の言語で呟いた『払い下げ』はその身に岩の鎧を鱗のように纏い攻撃に備えた。
「敵襲だ!」
彼らの背後から男達が突撃銃を持って現れる。
「日那乃ちゃん!」
小唄が叫び、男達に向かうと成は紫鋼の守りを固めて『払い下げ』へと対峙する。その間に翼人の少女は扉を開き、部屋の中に入った。
「……誰?」
疲れた女の声がした。
「カグツチの銃作ったひと、もういない、の?」
少女が問いかける。
「ええ、父はもう居ないわ。ここにいるのは親の夢をドブに浸す手伝いをしている女よ。何の用かしら?」
「助けにきた」
自嘲にまみれた返答に対して答えた日那乃の言葉に女が立ち上がる。
「貴女みたいな娘に助けられたと知ったら、父に怒られるわ。でも……ここで逃げなきゃもっと怒られるわね」
疲れの残っていた口調は生気に漲り、軽口が出る様になっていった。
「わたし、ガードするね」
「ええ、よろしく頼むわ、小さなお嬢さん」
●制圧そして脱出
羽琉の艶舞・寂夜が再度男達を眠らせ、そこへ久作が銃弾を撃ち込み、駆が疾風のように打ち倒していく。
クーのメイド服が翻り裂くような鋭い蹴りが男達を次々とノックアウトしていくと、残った一人も頼蔵の持つ騎兵刀の二突きで崩れ落ちる。
「こっちは終わった、そっちはどうだ?」
制圧を確認した頼蔵が送受信・改にて上の状況を確認する。
(「『払い下げ』と戦闘中! 急いで!」)
小唄から伝わったのは助けを呼ぶ声、それを聞いて真っ先に飛び出したのはクー。彼女が通り過ぎたのを見て、久作も興味深げについていき、他の仲間もそれに続いた。
紫の光が隔者自身を包むと『払い下げ』は地面に手を着き地を這うように走る。少女と女に向かって!
「ニゲルノ、ヨクナイ」
隊列ができる隙間を狙って、地を這うような爪の連撃が少女を襲う。漆黒の羽が舞い日那乃が右肩を抑えた。
「割り込みはいけませんよ」
さらなる攻撃を加えさせまいと割り込んだ成が抜剣からのB.O.T.を放つと波動が隔者の動きを止め、距離を取らせる。同時に老紳士の腕にも衝撃は伝わり、袖口から赤いものがこぼれていく。
その間隙を狙って男達が二列に分かれて突撃銃の引鉄を引く。男達に向かっていた小唄が反射的に腕で銃弾をかばおうとするが、男達が狙うのは少年ではなく逃げようとする女、必然的にその銃弾はガードに回っている日那乃へと降り注ぐ。
華奢な少女の身体が衝撃で踊るように動く、けれど……
「だいじょう、ぶ」
少女の膝が折れることはない。
「……こん――のぅ!!」
小唄が叫び、地を這うように走ると目の前に男へと跳ね上がるような一撃、その余勢を駆って、次々と男達を倒していく。狐憑の勢いは止まらない、さらに身を屈め力を溜めると後列で銃を構える男達へと拳を振るった。
男達を倒して振り向く少年、瞳に移ったのは紫鋼塞で速度を落としてもなお、先手を取っていく速さを持った隔者の唸り声。そこに頼蔵の声が聞こえた。
「『払い下げ』と戦闘中! 急いで!」
成を援護するために小唄は『払い下げ』の背後にとびかかった。
少年の姿を認めると老紳士の動きはブロックと牽制を主に切り替えるため一歩二歩と下がっていく、追いすがろうと隔者が迫ったとき背後からの一撃が『払い下げ』の腎臓辺りを打ち抜いた。
「……っ!」
カウンターが反動となって拳に走り、激痛と骨がきしむ音がする。それでも構わずにもう一度アッパーを打つと隔者の姿が消え、拳が空を切る。
「左!」
成の声に気づいて咄嗟に右に飛ぶ少年、左側からの爪の一撃をかろうじてよける。
「二人とも今です!」
仕込みから放たれたB.O.T.を隔者が避ける。だがそれは少女と女が逃げる時間を作る為の牽制打。
自由を得た日那乃が窓を開ける。少女は女を抱えたまま外に出ると地に足がついたところで下して、口を開く。
「逃げる、よ。走って」
女は言われるとおりに芝生を抜け、アスファルトを駆けていった。
●『払い下げ』て使い捨てられる
「オンナ、ニゲタ……コロス!」
対象が逃げられたことを察知した『払い下げ』が追いかけようと窓へ走る。それを阻むように前に立つ成。
「オマエモ、ミンナコロス……コロス!!」
「一人として殺しません。誰にも殺させません」
女を追いかけようとそして成に襲い掛かろうとした隔者を阻むは巨大な岩槍。
小唄の隣に立った灰色の髪のメイドは隣の少年に目配せした後、正面を向く。
「そして、これは私のプライドでもあります」
そう『払い下げ』へと宣言すると、黄金のトンファーブレードを構える。その横を久作が駆け抜けると
「殺すのは嫌いです」
背中から押すように岩槍へと圧投する。
その隙に羽琉が男達の詰め所に行き情報を仕入れつつ、頼蔵が瀕死の護衛を探す。しかし皆、意識不明となって動けないか、連れてくるまでの時間が足りない。
「さて、押し切れるかどうかはわからねえな。『払い下げ』がどれぐらい強いか」
撤退も考えつつ真言とともに放たれるB.O.T.が隔者を貫き、それに呼応するように小唄が連撃を叩き込む。全員カウンターでのダメージなどお構いなしに。
一方『払い下げ』も体術を封じられながらも持っている武器を振るい、成を排除せんとする。彼を倒せば後は女を追いかけるのみ、それしか命令を与えられていない男には他の行動など浮かびはしなかった。仕込みと爪がぶつかり合い、お互いにカウンターで傷を受ける。
覚者、隔者、双方とも回復はなく強化と補助を重ねた『払い下げ』が反射で凌駕する程度。
ここで効率的に攻撃を進めていけば覚者の勝利は一気に固まるのだが、『払い下げ』への攻撃を定めていなかった者が居たために今一歩押し切れず、かといって撤退を狙うには命令を忠実に守る隔者の排除が必要であった。
だが、時間が彼らを味方した。
辰の獣憑である隔者を形づける鱗を象る岩の鎧が崩れ落ち、紫に盾も消えた時、クーが足元を貫くように放った岩の槍がようやく効果を発揮し、相手に痺れをもたらして、その速さを打ち消した。
狼が地を疾るように妖剣・Queueが『払い下げ』の足元を弾き、圧投をもたらす。久作が起き上がろうとした隔者をカトラスで引っ掛けると銃声が二回、それに合わせて『払い下げ』の体が跳ね上がる、そこへ小唄が潜り込む
「ナウマクサンマンダ」
駆の真言が唱えられる中、腹への一撃から一歩踏み出し振り回すようなロシアンフックが顎を揺らす。
「バサラダン・カン!」
開かれた経典を銃身とし、完成された真言を撃鉄として放たれるB.O.T.、波動が衝撃となりて隔者を壁に叩きつける。
「コロス、コロス!コロス!!」
なおも叫び痺れに抗おうとする『払い下げ』。その耳元へ仕込み杖の切っ先が突き付けられた。
「発音は正しく……はっきりと」
荒い息を整えてから成がそう告げると剣先から撃たれたB.O.T.が両耳を貫く、白目を向き、穴という穴から血を流した『払い下げ』がその場に崩れ落ちる、まるで使い捨ての兵器のように……。
●カグツチの業
「とりあえず、事務データは記録したけれど。これ使えるかな?」
「難しいかもしれません」
ビルから離れた場所、事後を任せつつ、情報を記憶し整理している羽琉にクーが嘆息を漏らす。
「彼らに聞いてみましたが、代理人を挟んで雇われた外部の者みたいなようで、武器も『払い下げ』も最初からあったそうです」
「あいつらに聞くよりは……」
肩をすくめた久作の視線がベンチに座る女へ向く。
「彼女のほうが話もあうのではないですか。過去も含めて」
それは誰の過去であろうか、知るものは白い髪に戻った彼、ただ一人。
「我々は武器製造を阻止するために。貴女はご自身の自由のために。単なる利害の一致です」
「はっきり言ってくれるわね。でもありがとう、おかげで助かったわ」
ベンチに座り、両手で頬杖しながら成の言葉に答える女。そこに歩み寄る狐憑の少年。
「どうして、銃を改良していたんです?」
小唄の問いに女は考え込み、言葉を選ぶように少しずつ口を開く。
「元々カグツチは父の考えたものだったのよ、図面は私が引いたけどね。父が考えたのは『妖が来た時にすぐに戦えるような入手しやすく壊れにくい武器』、さすがに誰でも武器が持てる可能性があったのと、ライフルだと諸外国を刺激するからトライアルからは落ちたけどね」
その言葉に小唄の表情が固まり、女は困ったような顔をした。
「もしそれで嫌な目にあったとしたら、ごめんなさい」
頬杖を解くと謝罪の言葉を述べ、身振りを混ぜながら女の言葉は続く。
「続けていいかしら? そのあと父が病気になっちゃってね、治療費のためにやむを得ず、ある企業にカグツチの設計図を売っちゃったの、結局父は死んだけど。で、今度はそっちからカグツチの改良を依頼というか脅迫されたのよ……ほら、小さな銃って隠しやすいでしょ?悪い事をするにはその方が良いのよ」
彼女の言葉を聞き、黙る一同。何かの気づいたのか頼蔵が問いかける。
「では、その設計図を買い、小型化を強いた会社は?」
彼の問いに女は深呼吸をして、一言。
「……ジェノーカンパニー」
そう告げた。
「金の重みが命の重み。二束三文で売り買いされるのが、今の世の中でございます。それにつけても恐ろしきは人の業。覚者憎しで技術が発達する。惜しい事でございます。惜しむ事でございます。解り合えぬというなら。分かちあえぬというなら」
深緋・久作(CL2001453)が語る、いや騙る。
「どちらかが死に絶えるしかないのでございます」
「……まあどう取り繕ってもカチコミだわな。逮捕じゃなく制圧。官憲でもない俺らが、人間を」
彼が振り返った先に居るのは肥満体の中年男。『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)は嘆息とともに呟いた。
皆より下がった位置で『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は複雑な表情でそれを見ていた。彼にとって騙る部の姓と武器は苦いものを思い出させる。
「どうかなさいました?」
『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)が歩調を合わせて問いかける、彼が関わった一つの事件の後、何かを引きずって落ち込んでいたのを知っていたから。
「大丈夫です、クー先輩。お互い頑張りましょうね!」
努めて振る舞うその仕草が心に刺さる。掛ける言葉を探ることが出来ず、彼女の手が少年の髪へとのびる。
「無茶は禁物ですよ」
頭を撫でられ笑顔を見せる小唄、つられてクーも笑みを漏らす。狐と戌の獣憑同士のちょっとした触れ合い。
つかの間のひと時、けれどそれもわずかな時間。宮神 羽琉(CL2001381)の言葉が現実へと意識を戻す。
「見つけました、あれが件の建物です」
そう言ってひっそりと建つ三階建てのビルを指さした。
●潜入
「では、私と御白君、そして桂木君は屋上へ参ります」
『教授』新田・成(CL2000538)の言葉に八重霞 頼蔵(CL2000693)が頷く。三人は発見を避けるために回り込むようにビルへ移動すると少年と老人は手足に意識を集中し、壁に張り付き登り始める。もう一人の翼人の少女、桂木・日那乃(CL2000941)は黒い翼を広げると二人に速度を合わせて羽ばたいていく。
屋上へと向かう三名の間に言葉は無い。敵に察知されることを警戒してのこともあるが他に理由もあった。けれどそれを深く追及する者はおらず、そうすることを必要とする者も居なかった。
「――よっと」
跳ねるように屋上の床に着地する小唄、成は扉のほうに近づくと日那乃の方へ向き尋ねる。
「視えますか?」
「ん……、二階に七人、四人固まって、退屈そう。三人は別々、一人は何か作ろう、として、そばに一人。もう一人、よくわからない」
感情探査をレーダーのように使い、おおむねの人員の位置を探る少女の言葉で安全を確認すると成はノブへと手をかける。
「……こんな物がなければ死ぬ人は減るのに」
「これは荒関君の遺産です」
呟く少年に振り向かずに答える老人。
「そして、彼の全てを殺すと私は約束しました」
「……行く、よ」
少女に促され少年は歩を進める。その足音を聞き、成はノブを握る手に力を込めた。
●突入
屋上からの潜入に成功したことが頼蔵の送受心・改を介して伝わると、残りの覚者も行動を開始する。
(銃器の小型化・量産とかさ、神具でなくても勘弁して欲しいよ。物自体は使い方次第なんだろうけど、今回はどう聞いても、一から十までアウトでしょ)
彼らについていきながら羽琉が任務の内容に心を曇らす。
(けど、捕まっているひとを助けたうえでそういうのを止められるなら、頑張ろう)
だが、すぐに考え方を切り替えると瞬間記憶をフルに使い、ビルの見取り図を思い出す。その間に頼蔵は身体全体の細胞を活性化させ、駆とクーは土の鎧を身にまとう。
各々の準備がすむと真っ先に動いたのは頼蔵、ビルに入り受付には似つかわしくない体格の男へ近寄ると即座に飛燕。
(今後の面倒が増える事は好ましくないのでな)
急所を狙った二連突きが男の肉体に突き刺さる。
「失礼、邪魔だったもので」
倒れ行く男を尻目に口を開く襲撃者に男達は次々と突撃銃を構え、応戦しようと試みる。間隙をぬって久作が階段を確保し、意識をそちらに向けた男達には駆が疾風のごとく駆け抜けて、経典を開き鞭のような一撃を次々と叩き込み、クーが気によるプレッシャーで圧力をかけて相手を牽制する。
「FiVEの渡慶次・駆だ、人質の返還を要求する」
駆が勧告し。
「簡潔に申し上げましょう。掃除に来ました」
クーが告げ。
「投降いただくとお互い手間が省けるかと。如何です?」
階段の途中からも久作が呼びかける。
「いきなり刺したり、要求したり、降伏するかと思えば掃除宣言……バラバラじゃないか、お前達!?」
被害を免れた男の一人が抗議の代わりに突撃銃を連射し、鉄で出来た安物の銃弾を襲撃した覚者へと浴びせかける。ダメージが少ない男達もそれに続き、階段を陣取る久作へと狙いを定める。そこへ羽琉が眠りを誘うよう空気を操作し、階段へ銃を構えた男が力なく崩れ落ちる。
「助けるための暴力は矛盾感じるけど、先を思うと、やらなきゃって……」
気持ちを落ち着けようと深呼吸する少年を久作は興味深く見つめる、この世に同じ人間などいないけれど、それもまた人生。
けれど思索の時間は、眠っている男を起こそうと敵が動き始めたことで中断された。カトラスから薬莢が落ちて男がまた一人倒れていった。
「だったら遠慮なくかかってこいよ」
大いなる黒と名付けた漆黒に塗られた経典を片手に駆が挑発する。
(俺はお前たちを悪党と呼ぶ資格がねえから)
その心中の呟きに気づく者は敵味方とも居ない……。
●『払い下げ』
極力音を立てないようにしながら三名の覚者が二階へと降りていく。壁を背に覗き込めば、ライフルを持った男が三室向かい合わせになった部屋の真ん中に陣取り欠伸をする。
送受信を介して、小唄が位置を確認すれば音を立てないように浮いていた少女は頷きを返す。
三人の視線が交錯して、それぞれが動き始めた。
少年が地を這うように駆け出し、跳ね上がるように拳を男の腹に叩き込む。一撃で突撃銃を持つ手から力が抜け、金属が床に転がる音がした。同時にもう一撃、今度は顎先に叩き込み男を仰け反らせる頃には男の意識は失われた。
すぐに成が扉に触れ、開錠する。
「向かい、く――」
何かに気づいた日那乃が警告を発す間もなく向かいの部屋の扉を破壊して影が襲い掛かる。気づいた成が仕込みに手をかけ刃を抜こうとした時、影がその手を抑える。
「ブキツカウ、ダメ」
反射的に老紳士が頭を下げるとそこには鋭い爪の付いたナックルをはめた腕が通り過ぎた。
距離を取る成、向き直る小唄。視線の先に居るのは白目の目立つ辰の獣憑、低い姿勢で歯をむき出しにするその姿は人というよりは肉食獣のようであり、口元からこぼれた涎からは嫌な匂いがした。
「初めまして、『払下げ』さん(Mr. Disposal)。私は侵入者です。どうぞよしなに」
「シンニュウシャ、コロス」
成が皮肉を込めて挨拶をすると片言の言語で呟いた『払い下げ』はその身に岩の鎧を鱗のように纏い攻撃に備えた。
「敵襲だ!」
彼らの背後から男達が突撃銃を持って現れる。
「日那乃ちゃん!」
小唄が叫び、男達に向かうと成は紫鋼の守りを固めて『払い下げ』へと対峙する。その間に翼人の少女は扉を開き、部屋の中に入った。
「……誰?」
疲れた女の声がした。
「カグツチの銃作ったひと、もういない、の?」
少女が問いかける。
「ええ、父はもう居ないわ。ここにいるのは親の夢をドブに浸す手伝いをしている女よ。何の用かしら?」
「助けにきた」
自嘲にまみれた返答に対して答えた日那乃の言葉に女が立ち上がる。
「貴女みたいな娘に助けられたと知ったら、父に怒られるわ。でも……ここで逃げなきゃもっと怒られるわね」
疲れの残っていた口調は生気に漲り、軽口が出る様になっていった。
「わたし、ガードするね」
「ええ、よろしく頼むわ、小さなお嬢さん」
●制圧そして脱出
羽琉の艶舞・寂夜が再度男達を眠らせ、そこへ久作が銃弾を撃ち込み、駆が疾風のように打ち倒していく。
クーのメイド服が翻り裂くような鋭い蹴りが男達を次々とノックアウトしていくと、残った一人も頼蔵の持つ騎兵刀の二突きで崩れ落ちる。
「こっちは終わった、そっちはどうだ?」
制圧を確認した頼蔵が送受信・改にて上の状況を確認する。
(「『払い下げ』と戦闘中! 急いで!」)
小唄から伝わったのは助けを呼ぶ声、それを聞いて真っ先に飛び出したのはクー。彼女が通り過ぎたのを見て、久作も興味深げについていき、他の仲間もそれに続いた。
紫の光が隔者自身を包むと『払い下げ』は地面に手を着き地を這うように走る。少女と女に向かって!
「ニゲルノ、ヨクナイ」
隊列ができる隙間を狙って、地を這うような爪の連撃が少女を襲う。漆黒の羽が舞い日那乃が右肩を抑えた。
「割り込みはいけませんよ」
さらなる攻撃を加えさせまいと割り込んだ成が抜剣からのB.O.T.を放つと波動が隔者の動きを止め、距離を取らせる。同時に老紳士の腕にも衝撃は伝わり、袖口から赤いものがこぼれていく。
その間隙を狙って男達が二列に分かれて突撃銃の引鉄を引く。男達に向かっていた小唄が反射的に腕で銃弾をかばおうとするが、男達が狙うのは少年ではなく逃げようとする女、必然的にその銃弾はガードに回っている日那乃へと降り注ぐ。
華奢な少女の身体が衝撃で踊るように動く、けれど……
「だいじょう、ぶ」
少女の膝が折れることはない。
「……こん――のぅ!!」
小唄が叫び、地を這うように走ると目の前に男へと跳ね上がるような一撃、その余勢を駆って、次々と男達を倒していく。狐憑の勢いは止まらない、さらに身を屈め力を溜めると後列で銃を構える男達へと拳を振るった。
男達を倒して振り向く少年、瞳に移ったのは紫鋼塞で速度を落としてもなお、先手を取っていく速さを持った隔者の唸り声。そこに頼蔵の声が聞こえた。
「『払い下げ』と戦闘中! 急いで!」
成を援護するために小唄は『払い下げ』の背後にとびかかった。
少年の姿を認めると老紳士の動きはブロックと牽制を主に切り替えるため一歩二歩と下がっていく、追いすがろうと隔者が迫ったとき背後からの一撃が『払い下げ』の腎臓辺りを打ち抜いた。
「……っ!」
カウンターが反動となって拳に走り、激痛と骨がきしむ音がする。それでも構わずにもう一度アッパーを打つと隔者の姿が消え、拳が空を切る。
「左!」
成の声に気づいて咄嗟に右に飛ぶ少年、左側からの爪の一撃をかろうじてよける。
「二人とも今です!」
仕込みから放たれたB.O.T.を隔者が避ける。だがそれは少女と女が逃げる時間を作る為の牽制打。
自由を得た日那乃が窓を開ける。少女は女を抱えたまま外に出ると地に足がついたところで下して、口を開く。
「逃げる、よ。走って」
女は言われるとおりに芝生を抜け、アスファルトを駆けていった。
●『払い下げ』て使い捨てられる
「オンナ、ニゲタ……コロス!」
対象が逃げられたことを察知した『払い下げ』が追いかけようと窓へ走る。それを阻むように前に立つ成。
「オマエモ、ミンナコロス……コロス!!」
「一人として殺しません。誰にも殺させません」
女を追いかけようとそして成に襲い掛かろうとした隔者を阻むは巨大な岩槍。
小唄の隣に立った灰色の髪のメイドは隣の少年に目配せした後、正面を向く。
「そして、これは私のプライドでもあります」
そう『払い下げ』へと宣言すると、黄金のトンファーブレードを構える。その横を久作が駆け抜けると
「殺すのは嫌いです」
背中から押すように岩槍へと圧投する。
その隙に羽琉が男達の詰め所に行き情報を仕入れつつ、頼蔵が瀕死の護衛を探す。しかし皆、意識不明となって動けないか、連れてくるまでの時間が足りない。
「さて、押し切れるかどうかはわからねえな。『払い下げ』がどれぐらい強いか」
撤退も考えつつ真言とともに放たれるB.O.T.が隔者を貫き、それに呼応するように小唄が連撃を叩き込む。全員カウンターでのダメージなどお構いなしに。
一方『払い下げ』も体術を封じられながらも持っている武器を振るい、成を排除せんとする。彼を倒せば後は女を追いかけるのみ、それしか命令を与えられていない男には他の行動など浮かびはしなかった。仕込みと爪がぶつかり合い、お互いにカウンターで傷を受ける。
覚者、隔者、双方とも回復はなく強化と補助を重ねた『払い下げ』が反射で凌駕する程度。
ここで効率的に攻撃を進めていけば覚者の勝利は一気に固まるのだが、『払い下げ』への攻撃を定めていなかった者が居たために今一歩押し切れず、かといって撤退を狙うには命令を忠実に守る隔者の排除が必要であった。
だが、時間が彼らを味方した。
辰の獣憑である隔者を形づける鱗を象る岩の鎧が崩れ落ち、紫に盾も消えた時、クーが足元を貫くように放った岩の槍がようやく効果を発揮し、相手に痺れをもたらして、その速さを打ち消した。
狼が地を疾るように妖剣・Queueが『払い下げ』の足元を弾き、圧投をもたらす。久作が起き上がろうとした隔者をカトラスで引っ掛けると銃声が二回、それに合わせて『払い下げ』の体が跳ね上がる、そこへ小唄が潜り込む
「ナウマクサンマンダ」
駆の真言が唱えられる中、腹への一撃から一歩踏み出し振り回すようなロシアンフックが顎を揺らす。
「バサラダン・カン!」
開かれた経典を銃身とし、完成された真言を撃鉄として放たれるB.O.T.、波動が衝撃となりて隔者を壁に叩きつける。
「コロス、コロス!コロス!!」
なおも叫び痺れに抗おうとする『払い下げ』。その耳元へ仕込み杖の切っ先が突き付けられた。
「発音は正しく……はっきりと」
荒い息を整えてから成がそう告げると剣先から撃たれたB.O.T.が両耳を貫く、白目を向き、穴という穴から血を流した『払い下げ』がその場に崩れ落ちる、まるで使い捨ての兵器のように……。
●カグツチの業
「とりあえず、事務データは記録したけれど。これ使えるかな?」
「難しいかもしれません」
ビルから離れた場所、事後を任せつつ、情報を記憶し整理している羽琉にクーが嘆息を漏らす。
「彼らに聞いてみましたが、代理人を挟んで雇われた外部の者みたいなようで、武器も『払い下げ』も最初からあったそうです」
「あいつらに聞くよりは……」
肩をすくめた久作の視線がベンチに座る女へ向く。
「彼女のほうが話もあうのではないですか。過去も含めて」
それは誰の過去であろうか、知るものは白い髪に戻った彼、ただ一人。
「我々は武器製造を阻止するために。貴女はご自身の自由のために。単なる利害の一致です」
「はっきり言ってくれるわね。でもありがとう、おかげで助かったわ」
ベンチに座り、両手で頬杖しながら成の言葉に答える女。そこに歩み寄る狐憑の少年。
「どうして、銃を改良していたんです?」
小唄の問いに女は考え込み、言葉を選ぶように少しずつ口を開く。
「元々カグツチは父の考えたものだったのよ、図面は私が引いたけどね。父が考えたのは『妖が来た時にすぐに戦えるような入手しやすく壊れにくい武器』、さすがに誰でも武器が持てる可能性があったのと、ライフルだと諸外国を刺激するからトライアルからは落ちたけどね」
その言葉に小唄の表情が固まり、女は困ったような顔をした。
「もしそれで嫌な目にあったとしたら、ごめんなさい」
頬杖を解くと謝罪の言葉を述べ、身振りを混ぜながら女の言葉は続く。
「続けていいかしら? そのあと父が病気になっちゃってね、治療費のためにやむを得ず、ある企業にカグツチの設計図を売っちゃったの、結局父は死んだけど。で、今度はそっちからカグツチの改良を依頼というか脅迫されたのよ……ほら、小さな銃って隠しやすいでしょ?悪い事をするにはその方が良いのよ」
彼女の言葉を聞き、黙る一同。何かの気づいたのか頼蔵が問いかける。
「では、その設計図を買い、小型化を強いた会社は?」
彼の問いに女は深呼吸をして、一言。
「……ジェノーカンパニー」
そう告げた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
