母の日と血塗れの花束
母の日と血塗れの花束



「すいません、カーネーションで花束を作ってもらえますか?」
 この日が近付くと。
 花屋はいつもより、忙しくなる。
「はい、母の日用のプレゼントですか?」
 店員が笑顔で接客すると、お客である中学生程度の少女が頷いた。
 店内には、他にもさまざまな年代の男女が母の日用に花を求めて品物を物色している。
「あ、そうです。だから、メッセージカードもお願いします」
「分かりました。こちらを、どうぞ」
 店員が花束を作っている間。
 数度考え込んだ後に、少女はペンを片手に白紙のカードに何やら書き込み始めた。いつもは言えない言葉をペンに乗せる。
「お待たせ致しました。母の日用の花束になります」
 出来上がったのは、カーネーションを中心にした小さな花束。ほのかな、ふんわりとした匂いが鼻孔をくすぐる。品物を受け取ると、少女は書き終ったカードを花束へそっとしのばせた。
「お買い上げありがとうございました。お母様もきっと、喜ばれると思いますよ」
「はは、そうだと良いんですけどね」
 実は普段、あまり母親と折り合いがよくない少女は苦笑する。
 小さな花束を抱えて家路につくと、周りにも同じようにプレゼントを手にする人達が多く見られた。
 この人達は、どんな風に母親に贈り物をするんだろう。自分は、上手くできるだろうか。期待と不安で胸がいっぱいになってきた少女は、頭の中もゴチャゴチャで……気づくのが遅れた。
「ぎゃああああああ!」
 甲高い悲鳴が、すぐ近くで聞こえる。
 それも一つや二つではない。そこかしこから、絶叫と不吉な衝撃音が反響した。
「な、何?」
 わけがわからず、少女が動けずにいると。
 そいつは。いや、そいつらは、街角から姿を現した。
「!」
 少女は目を見開く。
 物陰から現れたそれらは。身体中に血に塗れたカーネーションの花を纏わせた、この世ならざる野犬達。その鋭い牙の生えた口からは、人の腕がくわえられていて。
 殺意のこもった、野生の瞳が獲物へと注がれていた。


「生物系の妖達が、人を襲う事件が起ころうとしています」
 久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に説明を始める。
 予知された現場は、ある街中。
 妖達が、母の日にとカーネーションの花を手にした者達を襲い出すのだという。
「この妖達は、どうやらプレゼント用にカーネーションの花を買い求めた者に反応するようです。優先的に、それを持つ者を襲い始めます」
 事件が起きる日。
 現場近くでは、多くの者がカーネーションの花を購入しており。
 このままでは、無力な一般市民たちが次々と妖達の餌食になってしまう。
「手をこまねいて放っておくわけにはいきません。皆さんには一般人の保護と、妖の撃退をお願いします」
 敵はランク2の妖が二体。
 ランク1の妖が五体。
 カーネーションの花を身体に纏わせた、野犬のような姿をして物陰から人へと近付く。
「前もって一般人に避難を呼びかけたり、花を買わないように細工するのは妖の動きが読めなくなってしまうので行うべきではありません」
 後手に回ることになるが、妖達が現れるまでは手を出すことはできない。
 その上で出来る限り、犠牲者を少なくしなければならなかった。
「日頃の感謝のために、親に贈り物を用意したから殺される……それでは、あまりにも救われません。皆さんの力をどうかお貸し下さい」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.妖達の撃退
2.一般人の死傷者を三十人以内に抑える
3.なし
 今回は、妖に関連するシナリオとなります。

■敵情報
 生物系妖七体
 ランク1:五体
 ランク2:二体

 カーネーションの花を身体から生やした、野犬の姿をしています。母の日用に、カーネーションの花を購入した者を優先的に襲い出します。

(主な攻撃手段)
 獣の牙 [攻撃] A:物近単
 花棘  [攻撃]A:特遠単 【出血】
 花の雫 [回復] A:特近味単 特攻:+20 HP回復 (これを使えるのはランク2のみ)

■現場
 細まった路地の多い街中。
 周辺では、母の日用にプレゼントを買った者達が溢れており。
 その数は、百人を超えます。妖達は、それらの人々を襲っては移動していきます。
 予知された現場近くには、オープニングに出てきた花屋があります。
 
 よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年05月23日

■メイン参加者 10人■

『月下の白』
白枝 遥(CL2000500)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)


 件の花屋は、贈り物を求める客でにぎわっていた。
 葦原 赤貴(CL2001019)は、敵の引き寄せにとカーネーションを購入する。
「折角だ、それなりによい花束にしてもらおう」
「はい、少々お待ち下さい」
 覚者達は分かれて行動。
 周辺の地形、路地形状、建築物等を確認してまわる。
「無事に持って帰れたら、母の日用に、使えるかしら?」
 上月・里桜(CL2001274)もカーネーションの花束を買って持っていく。現場の周辺の地理を地図できるだけ把握した。
(妖など、所詮獣です。なぜ、カーネーションを買うものを襲うのかは知れませんが。仇をなすならば、ここで狩るまで)
 敵はいつ来るかわからない。
 里桜とチームの『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)は、エネミースキャンを最初から発動させている。カーネーションを買い、同じく買った人間の顔は覚えるだけ覚えておくのも忘れない。狙われる人物をある程度特定できそうだ。
(10人で分担すればなんとかならないだろうか。買った人物さえわかれば、敵の到達位置も先回りで予測可能かも)
 カーネーションを手に『裏切者』鳴神 零(CL2000669)も「可能なだけカーネーションを買った人物の顔を覚えておくように」と伝達していた。
「今回は鳴神ちゃんと組んで動くさね」
 緒形 逝(CL2000156)は、最寄りの街角の物陰を警戒し先手を狙う。
(感情探査を使い「殺意・敵意」などの感情を中心に拾う……本能的なものだから拾いにくいかも知れんな)
 とりあえずカーネーションを持ってれば敵の攻撃対象になるらしいので、こちららも事前に入手してある。
「母の日ってなんか照れくさいよなー、うんうん」
「素敵な日に、悲しみなんていらないよね」
 花を買い。『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)は花屋の前で空丸を飛ばしてていさつし、犬が来るのが見えないか警戒する。一緒に行動する『月下の白』白枝 遥(CL2000500)は、飛行で敵と怪我人を探索した。
「なんで母の日にカーネーション生やした妖が。カーネーション買った人達を襲うかは知らないけど誰も死なせないよ!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は、カーネーションを購入し胸元に挿し。使役のていさつで上空から一般人、妖の位置を探る。
「これはまた面倒で厄介な状況だなぁ。母の日とカーネーション、あの獣達にとってこのふたつが何を意味するのかはわからないけれど。ただ家族を想い花を贈ろうとするだけの人達を、死なせるわけにはいかない」
「倒すことももちろん大事だが、できるだけ死傷者を出さないようにしないと。いかに迅速に対応ができるかが要だな」
 指崎 まこと(CL2000087)は事前に自身もカーネーションを購入し、狙われる対象に。仲間の皆と連携し、敵出現位置の特定と一般人達の素早い誘導を行う手筈だ。水蓮寺 静護(CL2000471)は、避難誘導よりも各個撃破に専念するつもり。
 彼らの標的は、ランク2だ。

● 
「ていさつできる方は他にもいますし、私は範囲広めで探していようかしら。それから、カーネーションを持った人がどれくらいいるか、も」
 心配なのは妖が分散して現れた場合。
 早めに妖を見つけられるように、里桜は守護使役の朧に周囲をていさつして貰っていた。
「……見つけました。ちょうど、こちらに向かっています」
 花束を持った一般人の背後に迫る野犬の妖の影。
 即座に、分かったことは送受心・改で伝える。
「急ぎましょう」
「十天が長、九鬼菊。参ります」
 里桜が韋駄天足で先行し、菊も負けじと続く。
「な、なんだっ。こいつは!?」
「皆さん、避難を」
「そちらへ逃げて下さい」
 間一髪、滑りこみ。
 近接して里桜が獣の牙をガード。そこへ少し遅れて到着した、菊が鎌を振るって牽制した。口頭で避難を指示し、敵がいない方向を大まかにでも示してそちらへ逃げるように促す。
「ガルルルルル!」
 身体から血に染まった花を生やす妖。
 一体の野犬が唸り、一般人達が恐怖に震える。
「さあ、飢えた獣が狩られる日に致しましょう」
 解析。
 目の前の敵はランク1。
 菊はランク2と1を仕分けし仲間へ伝える。
 超視力も併用して逃さないように。カーネーションを買った人間が近くにいないか判断し、敵の行動を予測。
「お遊びは終わりです。獣の思考は読めませんが、これもこちらの生存戦略。人に仇なすものを放っては置けません」
 怪我をした一般人を庇いつつ。
 敵側の視界に皆を入れないように立ち回る。
(母の日にカーネーションを買った者を襲う妖……。やっぱり、人のいろんな想いが集まると妖が現れるのかしら? その、きっかけとか、核? となるようなものを見つければ、いいのかしら……?)
 人が離れたら、里桜は錬覇法をかけてから隆槍で攻撃。野犬へと地面が槍のように隆起した。
 情報は送受信・改を持つ者によって、中継済み。
 他の者達もそれぞれ妖達を捕捉している。
「成瀬くん、見つけたよ。妖が東に一体、南にもう一体」
「分かった。みんなへ中継するぜ」
 遥は発見した敵に見つからないように、送心で相方に報告する。
 翔も指示された方向を、ていさつで確認。
(声に出したら周りの人達に聞こえてパニくるかもだしな)
 判明した情報を。
 送受心・改で仲間達に妖の方角と数を伝えていく。送受心中は、遥が水衣をかけてから辺りを警戒護衛した。
(どれがランク2か、見た目で判るかなと思っていたけど。あれは、ランク1っぽいかな。戦ってみねーと分かんねーかな、やっぱ)
 伝達が終わったら、翔達もその中の一体に向かう。入り組んだ路地を物質透過で、建物をすり抜けて最短距離で駆けた。
「F.i.V.E.の覚者だ。ここは任せて早く避難しろ」
 抜剣と同時に覚醒
 味方から情報を受けた赤貴は、避難を行い戦闘を開始する。
 市民の多い方向への移動を阻害しつつ錬覇法を使い。妖と対する。
「オオオ……オオオオ!」
「こいつは、ランク1か」
 敵の行動や攻撃威力から推測しランクを判断して、中継役の翔へ伝える。迅速に情報共有した。
「死なせないために、殺す。一秒でも早く。1体でも多く。確実に」
 疾風斬りが一閃。
 隆槍を当て、連打して速攻。
 野犬の牙を回避しながら、大剣を横薙ぎ。カーネーションを狙うようにと突撃してくる敵と、真っ向からぶつかる。
「犬型の妖が複数出ました。そいつらはカーネーションを購入した人に反応して攻撃してきます! カーネーションを置いて避難してください」
 また、別の場所でも。ていさつで見つけた一番近い場所にいる妖の元へと。
 錬覇法で自身の攻撃力を上げ、双刀を抜き単身駆けだす奏空。ワーズ・ワースによる周囲の人達への避難を呼びかける。
「さぁ、俺が相手するよ! ……この胸元のカーネーション、散らしてみせろよ」
「ガアアアア!」
 飛燕で全力攻撃。
 目にも止まらぬ二連撃で、飛んでくる鋭い棘を撃ち落とした。
(自分への癒しはギリギリでいい。妖の数を減らし一般人を守るのが先決!)
 負傷した一般人には、癒しの滴で回復を施す。
 ランク1が相手とはいえ、攻撃に防御にと消耗を強いられた。
「うう……」
「今日はお母さんにありがとうって言う日だよ! 生きて帰ってちゃんと伝えなきゃでしょ」
 神秘の力を宿す雫が、倒れた男性を癒す。
 恐怖に包まれた戦場に、力強い鼓舞の声が響き渡った。
「母の日の為にカーネーションを買う人を襲う妖とはな。全く以て許しがたい」
 できれば一般人が襲われる前に迅速に対応したい。
 静護は水礫で敵を撃って牽制を仕掛けた。怯んだ一瞬で一般人が離れたり、攻撃対象がこちらに向いてくれれば幸い――という意図からだったが。
「グルルッツ!」
 他より一際巨体を誇る妖は、水の塊を吹き飛ばし。
 予想以上の勢いと速度をもって、凶悪な牙を剥いてきた。
(……間違いない、これがランク2)
 霞返しで確実にダメージを与えつつ、一般人が襲われないうちに避難できるよう時間を稼ぐ。
 細心の注意を払い。
 敵の攻撃の後の先をとって、カウンターで迎撃する。冷気を放つ日本刀が、白光に煌めいた。
「十天、指崎まこと。いざ尋常に、勝負だ」
「ガアアアアア!」
 飛行して速やかに移動していたまことも、ランク2の妖と遭遇していた。
 突出しすぎないよう注意しつつ、命の危険に晒されている一般人の元へと躊躇わず突っ込む。
「そのまま足を止めないで、逃げてください!」
「うわわ!」
「ゆ、揺れ!」
 戦闘の際は高度飛行にならないよう注意。
 まことは、敵と一般人との間に割り込み。大震で両者を反対方向に吹き飛ばす事で、無理やり引き剥がす。足場が大きく揺れ、飛んでいる彼以外上手く動くことができない。
(倒せって言われると流石に厳しいけど、抑えるだけならなんとでもなる)
 蔵王に紫鋼塞で防御を強化。
 他の所に向かわれないよう移動を阻止しながら、無視されない程度に殴りつける。
 各所で入り乱れる殺意と敵意。
 悲鳴と戦闘音。
 逝はごちゃ混ぜになった感情を探査して、肩を竦めた。
「そも、今のご時世に野犬なぞ居らんのよな。まして花が生えてる犬種は、とんと見た事が無い。どっちが本体なのか気になるねえ、咲いてる花の1つを回収してみるか?」
 群れている妖。
 回復を使う犬が居たことを――確認し連絡。
「だがまあ……ソレ等は悪食にとっては些細な事さね、喰えるならば人でも妖でも何でも良いのよ。喰うついでに、人民を脅やかすモノを処分出来るし」
 半ば呟くように一息。
 味方がまだ対応していない、最寄りの敵へと距離を詰めにかかる。
「鳴神ちゃん、ちょっと失礼」
 丁寧に横抱きで零を抱え。
 逝は韋駄天足で移動する。少し遠めであるため、この方が効率が良い。
「……どうも」
「アハハ、当然のマナーだろう?」
 路地を全速力で駆け。
 その間、抱えられた零は声を張った。
「妖が出た! 妖はファイヴがどうにか抑えますので、この場から離れて!!」
 敵の位置から逃げるよう一般人へ伝達し、ワーズ・ワースを使って指示。
 更に危険予知が働く。
「か、怪物が来た!?」
「走れ!!」
 パニック起こしている一般人には、特に大声で。
 妖のいない方向を指し示す。目に写るのは妖と、それに追われる女の子。零は仲間の腕からするりと抜けだすと、今度は子供を自分が抱えるように庇い出す。
「緒形さん、敵の相手を頼みます!」
「野良犬は出荷よー」
 前に出た逝は、初手は圧投で速さを削ぐように攻撃。
 投げっぱなしにせず素早く小手返しを叩き込む。妖の身体が、固い地面へと容赦なく叩きつけられる。
「ギャン!」
「頭は念入りに喰い散らかすかな、真っ赤な花が咲くぐらいに」
 イイ感じに動きが鈍れば。
 刀の瘴気を練り上げ。念弾を当てて花も一緒に潰しにかかる。一連の動作中は敵を一般人から引き剥がし、遠ざけるように留意した。
(母の日くらい、笑って過ごしたいじゃない。私には家族はいないけど、きっと母親がいればそう思う。だから、全員救うわ)
 味方が注意を引きつけている間に、子供を安全な場所へと送ると。敵の視界を一般人から離すように回り込んで、零は飛燕一択で攻撃を続けた。
 誰一人として犠牲は出さない。
 これは覚悟だ。


「カーネーションをそこに置いて、こっから離れろ!」
 翔は襲われてる人との間に入って一般人を庇った。
 カーネーションを目の前で振って見せて、妖の意識をこっちへ向かせる。
「カーネーションは一時的に預かります」
 近くの怪我人や一般人を避難誘導。
 併せて癒しの滴と霧を使い分けて、遥は治療を行っていた。
(せっかく買ったのだもの、大切な気持ち、きっと守ってみせるから……)
 一般人から預かったカーネーションは戦闘終了後に花屋に預けるので取りに行って欲しいと伝えて置く。
「敵が纏まってると攻撃しやすいんだけどな」
「ガァアアルアア!」
 向かってくる敵へと。
 雷獣で翔が雷を落とす。今回の敵は、基本的に各地にばらけている。しかし、覚者達は予めカーネーションを買った者の情報をくみ取り、また出来る限り退避勧告して被害を抑えることに成功していた。
「ランク2と戦っているのは、まことさんと静護さんか。これも、皆へ伝えておかないとな」
 中継役を担う翔には、次々と情報が飛び込んでくる。
 その度に、他の者へと伝達し。その隙を狙われないように、遥がフォローする。
「成瀬くん、下がって」
 エアブリットで攻撃。
 敵を足止めして近付けさせず。傷や出血は深想水でリカバーした。
「感謝の気持ちを伝える大事な日なのに、滅茶苦茶にするなんて……カーネーションを買った人も、折角綺麗に咲いたカーネーションも可哀想だよ」
 氷の塊を作り上げ。
 機を見た、遥の薄氷が敵の身体を貫通。
「カーネーション狙う犬って何なんだろうな。せっかく母ちゃんに感謝しようとしてるのに台無しにするなんてひでー事。何としてでも止めねーとだな!」
 そこに翔の雷撃が、合わさり。
 ついに身体を黒焦げにされた妖は、動かなくなった。二人は一息つく間もなく、次の戦場へと渡る。それは、他の面々も同じだ。
(上月さんは、僕が守ります)
 菊は懸命に、仲間の盾となり。
 回復に、攻撃にと奮戦する。妖の牙をその身で受け、互いに消耗を繰り返し。
「いきます」
 その陰から、里桜が土行を発動。
 隆槍で創られた地面の槍が、敵を突き刺し。何とか勝利を収める。
「やりましたね。でも、ランク2の班が心配です」
「ええ、近くの場所から援護に行きましょう」
 また、意図せず合流するという場面もある。
 奏空と赤貴は、自分の相手と戦いながら移動するうちに顔を合わせていた。
「母の日に何かトラウマがあってその念がこの妖を生んだのかな……?」
「さあな。まずは被害を減らす」
 飛燕と疾風斬り。
 渾身の斬撃が次々と、妖達へと浴びせられ。二対二を続けているうちに、他の仲間が駆けつける。
「遅くなったな」
「今、加勢します」
 翔と遥。菊と里桜。
 二つのチームがほぼ同時に、戦列に参加。一気に、形勢は覚者達へと傾き。
「これなら」
 奏空の双刀が軽やかに舞い。
 二体の妖は、そのままほどなく消滅した。
「先に行く」
 赤貴は休まずに次へ。
 予め見ておいた周辺情報と、送受心で受け取る敵位置等の情報を総合して最短距離を移動。韋駄天足で速度を上げ、蜘蛛糸で自身を持ち上げて障害物を回避して急行する。
「母の日、父の日は自分の親と向き合う大事な日だ。それを蔑ろにする輩は何としてでも倒さねばなるまい」
 静護はランク2相手に一歩も退かず。
 醒の炎で活性化した身体で、斬・一の構えから刀を何度も振るい続けた。身体中が、傷だらけになろうともその闘志はいささかも衰えていない。
 そこへ、自分の相手を片付けた逝と零が乱入する。相変わらず、逝が零を抱えた格好だ。
「おっさん前衛だな、連携を意識して速やかに殲滅する」
「何が不満なのか。何が気に入らないのか。何が原因で妖化したのかしらないけど。ここは貴方たちが荒らしていい場所では無いわ」
 逝が敵を、ふわりと投げ飛ばし。
 艶舞・寂夜で零が睡眠を誘い。雷獣で痺れさせる。そこに連動して、静護も攻撃を重ねた。
「グウウウ……」
 妖は攻勢を嫌がるように、後退を始める。
 だが、そうはさせじと飛び込んできたのは先行していた赤貴だ。
「倒せれば上々、そうでなくても攻撃を引き寄せる程度にはなるはず」
 蜘蛛糸を利用して飛び上がった態勢から、急降下。
 妖へと刃を突き刺す。妖が悲鳴をあげ、他の面子も姿を見せて後ろから援護する。
「消えなさい!!」
 手になじんだ零の大太刀が、一喝とともに二連撃。
 ランク2の妖も、これにはひとたまりもなく。音も無く消滅した。
「最後まで立っていたほうが勝者、ってヤツだね」
 まことは攻撃より支援を重視し、自身や周囲の負傷した一般人に対して癒力活性による回復を行っていく。
 無理をして倒しにいく必要は無い、時間を稼げば良い。
 最後まで、相手を引きつける。
「僕とお前、どちらが先に音をあげるか、我慢比べだ!」
「ガアアアアアア!」
 相手はランク2。
 多少の傷では、自己回復してしまう。それでも必死に意識を保ち、希望を繋ぐ。棘を飛ばす妖の後ろ――そこに仲間達の姿を認めたとき。まことは、勝利を確信した。
(速やかに負傷者に対して応急手当、それと救急の手配をしないと)
 そんなことを覚者は思い。
 妖の断末魔が、路地に木霊した。
 
「妖の花は……枯れてしまったか」
 比較用にと採取した花がボロボロと崩れる。
 頭を振る逝の横で、零は花屋にフォローを入れていた。
「貴方のせいでこうなったんでは無いわ。だから気負いせず、花を売り続けて。貴方のカーネーションとっても綺麗だからね」
 他の者は、被害者の救急搬送等を手伝う。
 死にさえしなければ取り戻せるものもあるのだから、一人でも確実に。
(オレは、贈る相手がいないからな)
 戦うと決めた時点で、合意の上連絡を絶っている。
 赤貴は持っていた花はそのうちの1人に、激励を兼ねて渡す。
「改めて買って、オレも母ちゃんに持っていこうかな」
 翔は癒しの滴で治療して回っていた。まだまだ、現場は慌ただしい。
 そっと遥は目を瞑る。
「皆の母の日、守れたかな? 花を渡せてたら良いな……うん、僕も花を買おうかな。母さんに渡してみよう」
 幸せは人は二倍に、勇気を出した人が報われる、そんな素敵な日で有りますように。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 ご参加ありがとうございました。
 今回の結果は、一般人の怪我人が十九人。
 死者はなし。
 妖は全て撃破ということになりました。
 
 参加者の皆さんのおかげで無事に多くの人達が家路につくことができ。カーネーションを贈ることができました。
 妙な妖もいたものですが、参加者の方が願ったように素敵な母の日でありますように。




 
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