バトルオブナイツ・ヘビーマシンズ
バトルオブナイツ・ヘビーマシンズ



 工事現場でその事件は起きた。
「今日は妙に騒がしいな、嫌な予感がするぜ」
 安全ヘルメットを被った作業員が工具を片手にヘルメットの目隠しを上げた。
 頭上から、足場材を組み立てていた作業員が顔を出す。
「余計なこと言ってんじゃねえ。さっさと終わらせて帰ろうぜ。今夜は合コンあるんだろ」
「だな、仕事が終われば合コンだ。……ん? なあおい、やっぱ何か聞こえないか」
「またかよ。さっさと作業に……」
 二人の更に上から、巨大な何かが影をかけた。
 見上げるとそこには、停めて置いたはずのショベルカーがあるではないか。
 否、ショベルカーが人型に無理矢理変形したような物体である。
「ア、ア、妖だ!」
「やべえっ!」
 慌てて逃げ出す作業員たち。
 そんな彼らを追い立てるかのように、周囲の重機が次々と妖化していく。
 その結果……。


「最低限の安全対策しかしていなかった作業員たちの多くに死傷者が出る……予定だ!」
 久方 相馬(nCL2000004)はそのように語った。
 つまり、彼のみた予知夢の出来事なのだ。
「現場に割り込んで人々を避難させ、妖も退治できれば被害を最小限に抑えられるだろう。つまり、俺たちの出番ってわけだ!」
 妖はランク1物体系。
 重機を元にした複数体で構成されている。
 防御力が比較的高く、物理攻撃に優れた傾向にあるようだ。
「わかる限りの情報は資料に書き付けて置いた。あとは頼んだぜ、みんな!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
●補足事項

 敵のデータ
・ショベルカーノ妖×1
 二台のショベルカーがくっついた巨大な妖です。
 ショベル状の腕で殴りつける攻撃や、ショベルそのものを盾にした防御術に優れています。
 攻撃一つ一つに重力系BSがつくため、これに対処しておかないと体術の使用に難が出ます。

・フォークリフトノ妖×2
 ショベルカーより一回り小さいが、人間と比べれば充分に大きい妖です。いわば中型。
 高速機動で走り回り、鋭利にねじ曲がったフォークハンドで刺すように攻撃してきます。防御力に加えて回避力が高いので、確実に倒すには命中精度の高い攻撃を選択しましょう。

・鉄板ノ妖×5
 足場材を混ぜ合わせたような妖です。
 かろうじて人型はしていますが、1メートル程度と小型。
 覚者と比べて戦闘力は低いようで、純粋な打撃攻撃(近単物理)のみ可能なようです。

 戦闘エリアは元々工事現場だというだけあって一般人は立ち入り禁止になっています。
 避難させる対象は現場作業員のみ。彼らも自主的にちゃんと逃げるはずなので、よほど油断しない限り被害が行くことはないでしょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2016年05月26日

■メイン参加者 9人■


●Bogey Battle
 巨大な鉄の塊が大地を叩き、砂塵を吹き上げる。
 宮神 羽琉(CL2001381)は大きく後ろに飛びながら、翼を広げて上昇した。
 周囲では工事作業員たちが手早く安全処理をしながら撤退していくが、どういう危険対策をしていても『重機や足場材が急に妖になったら』なんて想定は難しい。みなバラバラに走って行く。
「F.i.V.Eです、妖は私たちが対処しますから避難してください」
「みんなー、ここは私たちに任せて!」
「速く逃げちまえ、怪我しても労災認定されるかわかんねえぞ!」
 仲間たちの誘導も普通のものだ。当然と言えば当然である。羽琉だって学校の避難訓練はしたことがあっても、避難誘導の訓練なんてしたことがない。
 放っておけばそのうちみんな逃げ切るだろうから、そこまで意識する必要はないのだが……。
「せめて方角だけでもハッキリしたいな」
 ショベルカー二台分の巨大な妖がずしんずしんと足音をたてて迫ってくる光景に肩が震えてくる。
 と同時に、作業員たちが最も巨大なショベルカーの進行方向上へ逃げていることがわかってきた。
 無いとは思うが、万が一羽琉たちが全滅したらすぐに狙われてしまう。
「みんな、あっちです。側面方向に!」
「子供か? くっ……たすかる!」
 羽琉の誘導に応じて作業員たちが駆けだしていく。
 あとは敵を退けるだけだ。
 天空に指を翳すと、羽琉は暗雲を呼び寄せた。

 羽琉の雷が降り注ぐ中、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は棍棒を振り回していた。
 作業員たちを追いかけようとする鉄板ノ妖をはねのけるためだ。
「ランクは低くても数が居るとやっぱり厄介だね」
 鉄板ノ妖が助走つきのジャンプで殴りかかってくる。パンチと言っても鉄パイプだ。常人なら死にかねない。
 渚は後退しながらそれをかわしていく。胴体めがけて棍棒を叩き付け、鉄板ノ妖をはね飛ばした。
 同じくじりじり後退する国生 かりん(CL2001391)。
「ヤッバイこれ、ぶっちゃけ金貰えるからってナメてま――ひい!」
 足下を狙って繰り出された鉄パイプから飛び退き、ダッシュで逃げるかりん。
「まじスンマセン! 覚者お金になるとか思ってまじスンマセンでしたー!」
 かりんはポケットからワンストロークでスマートホンを取り出して立ち上げる。流れる親指さばきで不思議なカメラアプリを起動。
 走りながら振り向きざまに連射モードで右から左へ流し撮りした。
 途端、鉄板ノ妖の足下が次々に爆発炎上。
「あとヨロシクー!」
「よろしくって……」
 横を駆け抜けていくかりんをジト目で見送ってから、『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は右手でフィンガースナップ。
「いくわよ。ゆる、開眼!」
 人差し指の先端に炎をともすと、指鉄砲の構えをとった。
「まとめて燃やしてあげるわ!」
 追いかけてくる鉄板ノ妖たちに向けて心でトリガーを引く。すると指から激しい炎が発射され、風圧でもって鉄板ノ妖たちを押し返していく。
「まったく、つまらない妖が出たものね。あからさまな人間の敵。くだらないわ」
 横に並ぶ赤坂・仁(CL2000426)。
「それでも任務だ」
「分かってるわよ」
「物質系妖ランク1、推定七体。対象を殲滅する」
 仁は『腰だめ』姿勢でグレネードランチャーの安全装置を解除。通常弾を装填、発射。二歩前進。
 更に装填。発射。二歩前進。
 これを繰り返して鉄板ノ妖たちにリードをとっていく。
 一見簡単そうに見えるが、集団相手に二歩ずつ着実に前進していくことの難しさはかりんたちがダッシュで後退しながら戦っていたことからも分かると思う。
 仁はこれを全くの無表情でこなしていた。
「ショベルカーノ妖、くるぞ。対処を頼む」
「分かりました」
 上月・里桜(CL2001274)が仁に並ぶように全身。
 こちらが押し込んだことで、後ろからゆっくりと追ってきていたショベルカーノ妖が合流。歩調を早めてショベル状の腕を振り上げてくる。
「いかにもな『叩き付け』。対応も分かりやすいですね」
 ナチュラルに歩きながら、両手に厚い白手袋をはめ込んだ。彼女なりの術式装甲である。
 振り下ろされるショベル。里桜は両手を翳すと、それをがっしりと受け止めた。
 人間が一瞬で潰されかねない衝撃だ。
 しかし里桜は五体すべてをそのままに保っている。代わりに地面が放射状にひび割れ、小石が沸くように散った。
「暫くおさえます。その間に」
「分かってる、鉄板どもを蹴散らすんだよな!」
 『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)はぐねぐねとした薙刀を取り出し、腰を中心にぐるりと回した。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
 指で印をきって、鉄板ノ妖へ突撃。
 右から左から襲い来る妖の攻撃を中国棒術でさばきながらはねのけていく。
 が、そんな彼らの横を高速で抜けていく妖があった。
 獣めいた四本足で、頭部があるはずの部分が二叉槍と化した妖。フォークリフトノ妖である。
「わりい、抜かれた!」
「構わんとも」
 『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は前髪を指ではねあげると、両手を槍突撃の構えに固定した。
「妖よ、もはや語るまい。ただ駆け抜けるのみ――槍をもて、りゅうおー!」
 懐良の手の中に大槍が生まれる。その時にはすでに突撃は始まっていた。
 正面から突っ込んでくるフォークリフトノ妖に対し、こちらも正面突撃だ。
 リーチの差は妖側が上。しかし懐良は構わず正面からぶつかる……と見せかけて槍を足下の土に突き立て、棒高跳びの要領で頭上をとった。
 フォークリフトノ妖が空振りを悟ってブレーキをかける。
 一方の懐良はコンパクトに着地。相手がターンする隙をついて槍を叩き付けると、一撃離脱で走り出した。
 なぜならもう一体のフォークリフトノ妖が突っ込んできたからだ。
 あとは、走った先に嵐山 絢音(CL2001409)が構えていたからだ。
 刀を抜いて両手でしっかりと持ち、正面へ向けている。さながら剣道試合のようだ。
 が、懐良はそんなことより。
「いつぞやの黒タイツさん! 後ろの奴たのむ!」
「は?」
 衣類で呼ばれたのは流石に初めての絢音である。
 ちょっと前に会ったときもヘイホーとかコージョーセンとか意味分かんないこという男子だなと思っていたが、苦手ランクがもう一段階上がった感じである。
 いや、今はさて置こう。
「……」
 黙って突撃。懐良とすれ違うと、刀をより鋭角に構える。
 彼女をひと突きにしようと迫る二台のフォークリフトノ妖。
 四本の槍が集中。
 接触する、寸前。絢音は刀を槍の先端に押し当てつつスライディング。
 物理的に相殺状態となった槍の下をくぐり抜け、かがんだ姿勢のまま振り向きざまに二体同時に斬りつける。
 ここからは懐良と同じだ。一撃離脱で逃げるに限る。
 と、思った矢先。
 懐良が腹ばいの姿勢でこちらを見ていた。
「……」
「……」
「……なんですか」
 咄嗟にスカートを押さえる絢音。
 懐良は前髪を指ではねあげ、にやりと笑った。
「計算通り、とだけ言っておこうか」
 苦手ランクが更に上がった。


「くらいやがれ!」
 鉄板ノ妖を薙刀のスイングによって投げ飛ばす駆。
 宙を舞った妖は、鉄骨に激突して砕け散った。
 そんな駆めがけて横から突っ込んでくるフォークリフトノ妖。
 咄嗟に薙刀を繰り出し、斬撃を差し込む。
 が、同時に駆もフォークリフトノ妖による槍の突き上げをくらっていた。
 このまま振り回されてはまずい。
 仁が飛び込み、フォークリフトノ妖を靴底で蹴りつけた。
 鉄板でも仕込んだ特殊シューズなのだろうか。ただの革靴が激しく加熱し、フォークリフトノ妖を強制的に後退させる。
 と同時に駆を引っ張り抜き、渚の方へと投げた。
「回復だ。急げ」
「うん! 工事のおじさんたちも無事に逃げられたみたいだし、本気出していくよ!」
 渚が腕まくりのモーションをした、その時。
「そっちへ行きます、備えて!」
 粉塵の中から里桜の声が聞こえ、地面が黒くなった。
 正確に、かつ俯瞰的に述べよう。
 里桜が防御力に任せて押さえていたショベルカーノ妖が激しく跳躍し、駆や仁たちめがけて両腕のショベルを叩き付けてきたのだ。
 当たろうが当たるまいが関係なく、地形ごと吹き飛ばす打撃。もとい爆撃である。
 一気に体勢を崩される。陣形が前衛に寄っていただけあって被害も大きい。
 ここぞとばかりにフォークリフトノ妖と僅かに残った鉄板ノ妖が攻撃にかかる。
「いけない……」
 里桜は表情をほんの僅かに険しくした。
 妖の連携ができはじめている。
 はじめはバラバラに人を襲い、多少ダメージを受けても渚の癒力活性で充分カバーできていた。
 しかし時間が経つにつれ、彼らがこちらに集中砲火を仕掛けてくるようになったのだ。
 最初の狙いは最も深く突っ込んでいた駆だ。
 タダでやられてたまるかとばかりに鉄板ノ妖を次々にはねのける駆だが、流石に集中砲火となるとつらい。渚たちの回復で追いつかなくなるのだ。
「やべえっ……! すまん、後は任せた!」
 これ以上戦闘の継続は難しいと判断して駆は戦場から走って離脱。
 代わりとばかりに絢音と懐良がショベルカーノ妖へ突っ込んでいく。
 自分の足下を駆が抜けていくのを確認してから、羽琉は戦闘を続行。
 深く息を吸い、深く息を吐き、弓道の構えをとってショベルカーノ妖へ狙いをつけた。
 相手は巨大だ。どこを狙っても当たるだろう。
 だが当てるなら最も有利な部分に当てたい。
「すみません、どこに当てれば!」
「待ってください、今スキャンを……」
 里桜がちらりとショベルカーノ妖をうかがった。
「どうも電子系統は電子制御系は死んでいるようですね。燃料も使わずに動いているかと」
「なら、バッテリーとかガソリンタンクはそのままですよね! って、映画みたいにドカンといくかな……いや、打たないよりマシだっ」
 羽琉はエアブリットを発射。
 弾はショベルカーノ妖に元々あったであろう燃料タンクに命中した。
 とはいえ軽く表面走行を削っただけだ。なんせ重機である。簡単に穴が空いては困る。
 それによく考えたらトランスフォームではないのだ。妖化した時点で完全に別物。燃料だって残っているかどうか。
「そういうときは迷わず打ちまくれ。急所だったらラッキーだが、そうでなくても損はない!」
 懐良が叫んだ。羽琉が打った箇所を更に叩くように槍を突き込む。
 激しく加熱した槍の先端が表面装甲を更にえぐり、内部へと浸透。途端、激しい爆発がおこった。
 ショベルカーノ妖がわずかにバランスを崩す。ニヤリと笑う懐良。
「今だ、ぶった切れ黒タイツさん! 狙いは駆動系の中心があるであろう胸部分!」
「……」
 いい加減衣類で呼ぶのをやめて欲しい。
 とは言っていられない絢音である。
 ショベルカーノ妖がショベルを叩き付けてくるが、横から割り込んだ里桜が両手を突っ張ってガード。
 こらえきれずに思い切り殴り飛ばされたが、そちらに意識はむけない。彼女が作ってくれた絶好の隙だ。
 絢音はショベルに飛び乗り、更に腕を駆け上がると、胸部めがけて飛びかかった。
 刀に炎を纏わせ、大上段からの斬り下ろし。
 袈裟斬りと呼ぶにはあまりに大胆な斬撃によって、ショベルカーノ妖はぐらりと仰向けに倒れ、そしていくつかの接続部分が分離。スクラップと化したのだった。
 深く深く息を吐く絢音。
 ふと振り返ると、懐良が四つん這いで絢音を見上げていた。
「気にするな。続けてくれ」
「……」
 苦手ランクがまた上がった。

 一方こちらは仁。
 フォークリフトノ妖がぐるぐると周囲を駆け回り中で、グレネードランチャーを乱射していた。
 弾を焼夷弾に変更。とにかく当たれとばかりにぶっ放す。
 ショベルカーノ妖にくらった重力系障害の解除は渚や羽琉に任せておく。
 とにかく殲滅が先だ。
 そして敵が自分だけ狙ってくれているなら、それに超したことはない。
「隙を作る。併せて集中砲火しろ」
「えっなに聞こえない! チェキを作る!? チューしろ!? なにに!?」
「ちがうわよ」
 かりんが耳に手を当てて叫んでいる。なるほど送受心はこういうときに便利なのかと、改めて思うありす。
 そうこうしていると、フォークリフトノ妖が仕掛けてきた。
 仁の背後から狙い澄ましたように突撃。槍が仁の身体を貫いた。
 が、仁の狙い通りだ。わざと晒した背中である。
 神具でもなんでもない隠しナイフを袖下から滑り出し、逆手に握って叩き込む。真っ赤に加熱されたナイフがめり込む
 そこへかりんが猛烈に突撃した。
 集中砲火つってんのに突撃しちゃった。だいたいチューだと思ってるし。
「アタシの因子、見してやる!」
 拳を握り込むと、手の甲にキスをした。
「こんにゃろお!」
 燃えさかる拳。
 パンチのしかたを知らないのか、指の関節が鳴っちゃいけない音を出したが、構わず殴り抜いた。
「痛った! 手ぇー痛った!」
 手首を押さえてぴょんぴょんはねるかりん。
 その後ろで、フォークリフトノ妖がばらばらに崩壊していく。
「結果良ければなんとやら、かしらね」
 ありすは左手を開いて破眼光を発射。残りのフォークリフトノ妖を一瞬だけ制止させると、右手でフィンガースナップ。
 炎の波をたて、フォークリフトノ妖を火炎に飲み込んでいく。
 たちまち炎上したフォークリフトノ妖が立ち上がろうとするが、ありすは踏みつけて押さえ込む。
「あなたに、どんな想いが宿っていたのかしらね。あとで大事な道具を壊したこと、謝らなくちゃ」
 両手を開き、妖へ翳した。
「おやすみなさい」
 激しい光が、全てを包む。

 かくして、工事現場で突如発生した妖事件は収束した。
 後日談というわけではないが、こんな話もしておこう。
 その様子を遠目に見ていた一人の男が、妖を倒すF.i.V.E覚者たちを見てこう呟いた。
「僕の経営力と彼らの力が合わされば、もしかしたら地域の活気を取り戻せるかも……よし、そうと決まれば!」
 男は名刺ケースを手に、覚者たちへと歩き出した。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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