≪ヒノマル陸軍≫壱六式霊子強化服
≪ヒノマル陸軍≫壱六式霊子強化服



 ヒノマル陸軍技術研究員・ゴウハラ博士。
 研究室を週に一回は爆発させることで有名な彼は早々に正規の学会に見切りをつけ、自由な研究と開発が可能なヒノマル陸軍へ移った奇人の一人である。
 研究テーマは一貫して『より効率的に覚醒した人体を破壊するには?』で、『戦争のための戦争』を掲げるヒノマル陸軍との相性も良好であった。
 そんな彼がやっと完成させたのが……。
「霊子強化服。攻撃に対してアクティブに反応する霊力装甲と、攻撃行動時の霊力補助機能を備えた強化服だ。こいつを次のコンペにかける」
 コンペとは、ヒノマル陸軍総帥・暴力坂が主催する技術競争ゲームである。
 組織に所属する無数の天才たちが新たに開発した兵器を実戦で使用し、成果を試すというものだ。
「問題はどんな相手に挑むかだな。身内では出来レースを疑われるし、弱い敵では性能を引き出せん……うーむ」
 ゴウハラ博士は太った腹とはげた頭を同時に撫でつつ、きわめて難しい顔をして……から、ふと新聞を見た。
『新生組織F.i.V.E設立! 妖やリジェクター被害でお困りの際はお近くの役所や交番まで!』
「…………おお!」
 ゴウハラ博士は頭と腹を同時に叩いた。


 ――という予知夢を、久方 相馬(nCL2000004)は皆に説明していた。
 ここはF.i.V.Eの会議室。覚者も集まっている。
「そんなわけで、依頼……というか、犯行予告というか、勧誘というか……その、よくわからないものが来てしまった」
 久方 相馬(nCL2000004)は難しい顔をして、プリントアウトした電子メール文を皆へ見せた。
 差出人は『ヒノマル陸軍技術研究員・ゴウハラ博士』。
 季節の挨拶と社交辞令から始まり、これこれこの時間にここへ1チームよこさないと町で暴れますよという旨の文章を挟んで丁寧な挨拶で締められていた。
「こちらは9人。相手は6人。さっき説明した新装備の実験として投入されているようだ」
 実質的に市民が人質にとられている以上、戦わないわけにはいかないだろう。
 まさか自分の開発する兵器のコンペで罠を張ったりはしないだろうから、増援や伏兵を含めた余計な心配はいらない。あくまで戦闘をしにいくつもりであたればよいだろう。
「両者そろった段階で戦闘開始。半数以上の戦闘不能で撤退する予定らしく……こちらが勝ったら一人あたり100万円くれるらしい」
「「ん?」」
 最後にすごいことを言ったな。
 そんな視線に、相馬は前言を繰り返した。
「勝ったら一人百万円」
「……本気か」
 勝つつもりでやっている、ということだろう。
 こうなってくると、相手に注目の敵対組織F.i.V.Eを選ぶ辺りにも本気を感じるというものだ。
「この戦いは余計な被害を引き受けるだけでなく、相手が持つであろう今後の力量を測るいい機会でもある。めいっぱい戦ってきてくれ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.ゴウハラ博士の部隊と戦闘する
2.なし
3.なし
●依頼目的
 ゴウハラ博士の部隊と戦闘を行なうことが目的です。
 勝っても負けてもよそに被害が行くわけでは無いので、戦闘をした時点で依頼は成功扱いになります。
 (逆に言うと、試合をぶちこわしにしたり、強化服を奪ったり、戦闘を放棄したりすると失敗扱いになります)

●ゴウハラ博士の部隊
 兵器実用実験のために組織された部隊です。
 メールで送られてきたスペックは以下の通り。(名前は仮名)
・アルファ:暦・火行。刀使い。前衛担当。
・ベータ:現・火行。手斧使い。前衛担当。
・デルタ:獣・土行。盾使い。状況に応じて味方をガード。
・ガンマ:翼・水行。後衛回復担当。
・イプシロン:現・木行。中衛で攻撃と回復を両立。
・ゼータ:現・天行。後衛砲撃支援担当。
 レベル平均17。全員命数復活あり。

 強化服は通常防具と同じでステータスに補正をつけるものです。
 どのステータスにどの程度補正がつくかはわかっていませんが、相手の自信の強さからいって『試合には負ける』可能性も頭の隅に置いておいてください。
 尚、相手に対する戦闘外調査行動はAAAによってし尽くされているので、これ以上得るものはないでしょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2016年05月12日

■メイン参加者 9人■

『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)

●ランボウコンペB031『霊子強化服』
 敵対組織とのエンカウントバトルとしてはかなり異例だが、市営運動公園のサッカー場を半日ほど借りたゴウハラ博士と待ち合わせ時間を決めて合流し、開始時間と制限時間を決めて撮影機材に囲まれた状態で戦闘を開始することになった。
 定められた制限時間は4時間。これだけあれば必ず終わるだろうという、逆に言えばこれ以上かかるならやめようという取り決めだ。
 ちなみに、試合後は弁当も出る。
「どういう考えかたしてんだあいつら……」
 覚醒して準備万端の『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)は、ストレッチをしながらコート西側の中央に陣取っていた。あえてサッカーで言うとMF中央の位置である。
 対する東側コートには、新兵器の霊子強化服を来たヒノマル陸軍側の兵隊が準備運動をしながら開始時間を待っている。
 この試合を持ちかけてきたゴウハラ博士は部下の研究員らしき連中と共に、北側のやや高い位置の観客席でノートをつけていた。完全に性能試験のテイである。
 待ちが基本的に苦手な深緋・幽霊男(CL2001229)が手をぶらぶらとさせた。
「こういうやりかたも嫌いでは無いが、舐められたものだな。金なぞいらぬから獲物をくれよ」
「いや百万で買えよ。いいの買えるよ多分」
 幽霊男と同じくFW位置にあぐらをかく『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)。未覚醒のでっぷりした状態である。
「百万、本当なんだよな? 脅し形式なのは気にくわないが、試合形式で賞金まで出るとは」
 直立姿勢でFW位置で待つ『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)。こっちは待つのが得意といった風で、スーツのネクタイもきっちりと締めている。
「試合に出るだけでOKで勝てば百万……」
 DF位置よりやや前に出た辺りで『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は車いす
に腰掛けている。
「我々のモチベーションは当社比百倍ですよ!」
「われわれ!? いややる気はあるけどお金目的じゃ……いやお金は欲しいけど、欲しいけどさ!」
 両手をばたばたやる『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)。
 位置的には翔と槐の中間くらいのMFである。
「……」
 一方で、『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)はFWとMFの中間あたりの位置でボードにいくつかメモ書きをしていた。
 隣から覗き込む『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)。
「楽しみだねー! ヒノマルさんって太っ腹だよね!」
 『そうですね』という笑顔で頷く誡女。
 少し後ろでは華神 悠乃(CL2000231)が両手に籠手を嵌めて霊力を循環させている。彼女なりの準備運動だろうか。
「今回みたいなの、隔者だからこそできる手法よね。やるからには勝ちたいところだけど……」
 誡女と悠乃はそれぞれの陣形を見比べてみた。
 サッカー的に見ても覚者戦闘的に見ても、西方F.i.V.E側はかなり前のめりの陣形だ。
 攻撃力で押し込み、前衛を早急に崩すのが目的だろう。
 対して東方ヒノマル陸軍側は六人構成でFW・MF・DFへ均等に配置している。相手がどんなチームでも対応できる配置で、中央のMFが動くことで攻撃的な陣形にも守備的な陣形にも変化できるようになっている、ようだ。
「今回陣形を見た限りだと、こっちの攻撃性に対応して守備力を固めてくるはず。MFの土行が守備の要になるから、そいつをどれだけ早く落とせるかよね。火力は勿論だけど、相手の回復を遅らせる工夫もあれば尚よし……か」
 悠乃は最後にぴょんぴょんと垂直跳びをしてフットワークを調整すると、『どうとでも動けるような』構えをとった。彼女の体術があまりに先鋭的なために名前のつけようがないが、一番近いのはコンバットフィットネスのイントロモーションである。
 そうこうしていると、ゴウハラ博士が拡声器を手に取った。
『それでは試合を開始する。買ったら一人100万円。制限時間四時間。ヨーイ……ハジメッ!』


「ナウマクサンマンダ・バサラダン――カン!」
 試合開始の合図と共に、駆は気合いを入れた。身体は激しくシェイプアップされ、別人と見まごうほどの毛髪と目つきをした彼は、自らのラフスタイルを覆い隠すように硬土の武者鎧を身に纏い始める。
 相手の土行、デルタの動きを見てみたが、彼は前衛のアルファに紫鋼塞をかけはじめた。物特両方に反射属性をもつかわりに速力をおとす。こちらの攻撃的陣形を見ての守備固めだろう。
 が、防御フィールドが完成するより早く柾がベータに速攻をかけた。
 素早いフットワークで距離を詰め、顔面を狙ったジャブからのフックパンチをつなげる。
 手応えはあったが、殴る直前に霊力の壁がパンチの衝撃を和らげているのが分かった。
 強化服の効果だろう。理屈は分からないが、この分だと物理攻撃にも特殊攻撃にも一定の耐性がありそうだ。
 アルファとベータは反撃を開始。防御を固めた翔を後回しにして、まずは柾へと炎を纏わせた斬撃を仕掛けてくる。
 この分だと柾の持つ『隠し球』には気づいていない様子だ。ガード姿勢であえて受ける。
 隙ありとばかりに飛びかかる幽霊男。カトラスをベータの脇腹に突き刺すと、零距離から鉛玉を射撃。霊力壁によってやや防がれているものの、スーツ自体は普通の防刃スーツだ。強化プラスチック装甲がウィークポイントに敷かれているが、その隙間であれば充分に刃が通る。見た目としても、かなりスマートな印象だ。
 ベータへの集中攻撃とみたガンマがベータ単体の回復を開始。
 時を同じくして誡女は迷霧を展開させた。
 誡女の予想だが、土行デルタは次のターンで火行ベータへの紫鋼塞を行なうだろう。一度戦闘不能になって命数復活してからが味方ガードの時期と見た。問題はデルタが蔵王・戒と紫鋼塞のどちらで守りを固めるかだ。
「そろそろだな! ヒノマル陸軍、無駄に戦火を広めるようなやり方は認めないぜ! あと百万円は絶対くれよ! 絶対だぞ!」
 聖華が動き出した。ダブルブレードを交差させ、ベータ……を通り過ぎてデルタへ襲いかかる。
 前衛二名でブロックが拮抗している現在、仮に後衛へ下がったとしてもデルタへの直接攻撃がしやすいのだ。回復担当を晒すことになるので、恐らく後衛までは下がれないだろうが。
 聖華は身を回転させ、コマのようにデルタへと斬りかかる。シールドを展開し、霊力壁を厚くして防御するデルタ。
 悠乃はそんなデルタの背後に回り込み、両手でがぶりと頭を掴むようなフォームをとった。
 赤く加熱した爪がヘルメットに食い込み、ぎりぎりと圧迫していく。
 デルタのピンチだ。ゼータは印を結ぶと、空へ向けてライフルを構えた。
 霊力がライフルの内部を伝わり、天空へと打ち出される。召雷……いや雷獣だ。強化服の影響もあって術式が強化されている。特殊攻撃力への補正もあるようだ。
「だったら勝負だ、まけねー!」
 翔がスマートホンを眼前に翳すと、アプリケーションを起動。画面の中で立体的に展開した陰陽術式が光を生み、雷獣を発動させる。
 敵の狙いは中衛の聖華と悠乃。翔の狙いは前衛のアルファとベータだ。
 これでお敵ダメージは前衛と中衛に分散した形になる。
 回復を始めようとしたイプシロンだが、先んじて槐がふわりと立ち上がった。
 天空に両手をふんわりふんわりさせることで雰囲気を捻っていく。敵の集中をこじらせ、眠りを誘う作戦だ。
 うっかり前衛が眠ろうものなら袋だたきである。イプシロンは急いで清廉香へシフト。空中にスプレーガンで特殊効果のある香料を散布しはじめる。
 そうした槐の空気合戦が続く中、一拍遅れて動き出したのはきせきである。
「いくよー、動きづらくなっちゃえー!」
 きせきは捕縛蔓を出現させると、敵勢めがけて大量にわき上がらせる。
 個体スペックの差が相応に埋まっていく。
 睡眠と鈍重の効果は侮ることはできない。今回はイプシロンが、次回からはゼータがその対応に追われることになるだろう。
 しかし逆に言えば、全体BSを的確に対処できるのであれば、二人がかりでやる必要はなくなる。きせきの捕縛蔓は敵前衛へのファーストヒットを深めるためのもので、次回からは攻撃と自己回復に専念するつもりのようだ。
 と、そこで。
 悠乃ときせきの行なっていた『浅いエネミースキャン』がおおむね完了した。
 追い込み開始、である。

 戦闘は当初の予想通り、火力で攻めるF.i.V.E側と守備力で耐えるヒノマル陸軍側という形になった。
 ヒノマル陸軍は前衛のアルファと中衛のデルタの回復を交互に。
 F.i.V.E側は前衛からの攻撃が集中する柾をあえて無視して中衛のきせきや悠乃たちの回復につとめた。回復担当が元々足りていないので、聖華が自力で癒力活性し、足りない分を誡女が交互に癒力活性していくスタイルとなっている。
 そしてF.i.V.E側の攻撃だが、序盤の散らし具合はそこそこに、前衛単体への集中砲火へとすぐにシフトした。ベータを全員で殴り倒す作戦である。
 前のめりの布陣から、中衛以後への浸透攻撃を警戒していたヒノマル陸軍側は対応に若干の迷いを見せたものの、紫鋼塞と単体回復でしのぐことに徹した。
 まずは柾の撃破である。
 こうして戦闘は予想通りに進む……かに思われたが。
 転機は柾が一度目の命数復活を遂げた所で訪れた。

「待ってたぜ、このタイミング……!」
 相手の集中攻撃に耐えかねてギリギリのラインを超えて一度ノックダウンした柾だが、命数を削って復活。ボクシングのフォームをとると、凄まじいパンチをベータめがけて繰り出した。
 ヘルメットを破壊し、顔面へめりこむ柾の拳。
 見たことの無い技にゴウハラ博士は前のめりになった。
「あれはオリジナルスキル……いや、違うな。誰かから受け継いだ技か!」
 拳を振り抜いた柾はそのままの姿勢で硬直。カウンター気味に繰り出されたベータとアルファの攻撃によって今度こそ倒れることになったのだが……。
 計算外だったのはベータの残存体力である。このままの計算ならもう暫くはもつと思っていた体力が大幅に削られたため、デルタは前衛に出て急遽味方ガードに出るはめになったのだ。
 ちなみにここまでの流れでベータは一度命数復活を使っている。次に落ちたらアウトだ。
 動きには出していないが、ヒノマル側はF.i.V.E側を三人倒す前に一人倒されたらアウトなのだ。そういうバランスになっている。
 デルタは自分に紫鋼塞をかけた状態のまま味方ガードを開始。
 これ幸いと駆はデルタへの攻撃を開始。
 防御をがっちり固めたデルタは反射属性と仲間の回復に任せてじっと耐えに徹した。
 F.i.V.E側の作戦はデルタをどれだけ早く倒せるか翔はここぞとばかりにB.O.T.を連射。
 そこへ槐が『眠くなる空気』を作り始める。土行が眠ったらアウトだ。偶然眠らないことを祈ってゼータが演舞で対抗しはじめる。
 一方でこちらは集中攻撃だとばかりに悠乃ときせきはベータを庇うデルタへと襲いかかる。
「いっけー! こうげきー!」
 きせきは刀をぐるぐると振り回し、デルタたちへと乱れ打ちを仕掛けていく。
 悠乃は一度ぐっと両拳を引き絞ると、炎を纏わせてデルタの翳した盾を連続で殴りつけ始めた。
 問題は反射ダメージだが。微量に蓄積する程度であれば後でカバーできる。
 今はデルタを落とすことに集中せねば。
「やべえ、そろそろだ。交代――ぐお!?」
 駆は体力の減少を感じて悠乃とポジションを交代……しようとした所で、ゼータの雷獣によって追撃をうけリタイア。
 代わりに悠乃が前衛にチェンジする。
「俺、こうみえてあんまり打たれ強くないんだよねえ」
「見た目がりっがりじゃん」
 一方で、攻撃対象が完全に定まった幽霊男はデルタへの攻撃を更に激化。
 盾の隙間にカトラスをねじ込んで銃撃をかます。
「髭親父に伝えてくれ。『忠告痛み入る』と。『返礼として生身で首をたたき落とす』とも」
 デルタの残存体力徐々に減っていく。一ターンに受けるダメージ量と回復量では、どうしてもダメージが勝ってしまうのだ。
「そろそろトドメだ!」
 翔が更に雷獣を発動。激しい雷に打たれ、デルタはその場にぐったりと倒れた。

 そこからの試合経過をダイジェストで紹介していこう。
 仲間二人と引き替えに防御の要である所のデルタを落としたF.i.V.E側。
 残る前衛二人を叩きつぶしにかかるが、相手の火力もかなりのものだ。
 危ない前衛を中衛と交代することでしのいでいたが、すぐに『体力2割の前衛と体力5割の中衛を交代』といったようなギリギリの状態となり、終盤には交代の意味を失っていく。回復手不足で交代作戦をとるとおこる現象である。
 その後回復を断わった幽霊男、仲間の回復を担当していた聖華がリタイア。
 勝負がついたのは、後衛から火力で押していた翔とひたっすら『ねむねむ空間』を演出していた槐、フットワークでギリギリしのいでいた悠乃とその頃には自己回復に集中していたきせき。そして誡女が残った状態である。
 悠乃のスピンキックがアルファの脇腹にめりこみ、サッカーコートの端まで蹴り飛ばした時点で試合終了となった。
 ヒノマル陸軍前衛三名リタイア。半数の戦闘不能により撤退条件を満たし、試合終了である。

●ゴウハラ博士
「いやーいいデータがとれた。これでコンペに安心して挑める。ほいファイトマネー」
 懐から茶封筒を取り出し、一人一人に手渡していくゴウハラ博士。
「お、おう……」
 本当に百万くれたよこいつ、という顔で駆はそれを受け取った。
 F.i.V.E側はほぼ半壊。このまま『両者死ぬまで』という勝負をしていたら勝てていたかどうか怪しい。……いや、案外イケてたかもしれないが。
「合計900万、か」
 柾も駆と同じようなことを考えていたようで、スポーツタオルを首にかけたままじっとベンチに座っている。
 しかしゴウハラ博士。捕獲されたら一大事なのにこう軽々接触してくる状況はどういうカラクリなんだろうか。
 いざ捕獲を試みたらヒノマル陸軍総出で襲いかかってくるとかそういうヤツだろうか。
 正直、暴力坂が一人で訪問してきただけで軽く全滅できるので、人質にもなりそうにないが。
 翔が札束の中身にどん引きしながら顔を上げる。
「つーか本当にいいのか? 新兵器だろ? 機密事項とかじゃねーのか?」
「べつに」
「べつに!?」
 ゴウハラ博士は自分の頭と腹を同時になで回した。
「F.i.V.Eは夢見が沢山いるんだろう? 隠しててもすぐにバレる。なら最初から見せて尚且つ状況を有効利用したい。そんなところだ。データもなかなかいいし、そのうちブームになるかもな」
「なってもらっちゃこまるんだけどねー」
 ダウンストレッチをしつつぼやく悠乃。
 彼女はゴウハラ博士と強化服の『着心地と機能性』についてかなり話し合っていて、着心地なんて考えたこともなかった博士はめっちゃメモをとっていた。悠乃の札束が他の人より五割ほど分厚いのはそのせいだろうか。
 そういうことは考えず、札束片手にきゃっきゃするきせき。
「強化服ってヒーローみたいでかっちょいいのに、もったいないよー!」
「ヒーローは人体実験できんだろう」
「そっかあー」
「『そっかあ』じゃねえって。納得してんなって!」
 聖華は札束をそうそうに人に預けていた。よわい16歳に百万円は重い。
「……」
 預かっているのは誡女だ。お金の使い道は考えていないが、よい勉強になったくらいの顔をしている。
 ちなみに槐は足が不自由だっていう設定を忘れて『ひゃっくまーんえんっ、ひゃーくまんえんっ』と喜びの舞いを踊っている。
 幽霊男は……というと。札束とか鍋敷きと一緒でしょうみたいな顔をして乱暴に懐へ入れた。
「そういやあ、あの戦いは何が目的じゃ。死体集めか?」
「あの……ああ、京都の」
 ゴウハラ博士はノートに色々まとめ書きをしながら横目で見た。
「もうネタばらしはされてると思ったが。逢魔ヶ時がヒノマル陸軍の戦力をノーコストで利用してF.i.V.Eをおびき寄せて内部に潜り込むのが、そもそもの目的だろう。正直ヒノマル陸軍に何のメリットもない。七星剣のしがらみで利用されてやっただけだ。有望そうな覚者集団を見つけてボスは喜んでるがな」
「なんじゃ」
 つまらん、とは言わない。
 その分だとただ『戦いたいだけ』の理由でF.i.V.Eへ遠足にくる可能性もありそうだからだ。
 ボウハラ博士は一通り作業を終えると、機材を片付けて撤収を始めた。
「これは帰りの電車賃だ。そのうちF.i.V.Eの拠点にも襲撃をかけるからー、じゃあ気をつけて帰れよー」
「うん、じゃあねー!」
「おうわりいな」
「では……」
「ん? いま途中なんて言った? なんて言った?」
 依頼終了。解散である。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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