≪教化作戦≫ただそれだけの理由で彼らは殉教します
●新人類教会
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして一月某日。穏健派の『村瀬幸来』を過激派から保護するFiVE。
一時雌伏の時を過ごしていた新人類教会過激派だが、力を蓄えた過激派達がまた活動を開始する。
●裏切りの羊
「……分かった、ありがとう」
男が謝辞を述べて電話を切る。その様子を見て傍らの部下が問いかける。
「荒関さん、今の電話は?」
「新人類教会非武装派のミサの日時と場所の連絡さ」
荒関と呼ばれた男が手元のメモ帳に情報を書き写しながら答える。
「新人類教会というと、あの……」
「そう覚者を『新人類』として崇め奉り守っていこうとする崇高な方々さ。丁度いい『古妖覚醒』や緑川の件などで直接動けない若い奴のガス抜きと訓練を兼ねさせてもらおう」
彼の言葉に部下が疑問を口にする。
「確かに我ら『良き隣人』向きの仕事ではありますが……罠の可能性はありませんか?」
「ありうるな、だから古参ではなく若いメンバーを中心に構成、覚者と遭遇時は撤退という形で動け。それと新型の武器が来ているだろ? あれが使えるかも試して来い」
一通りの情報をメモにしたため部下に渡すと、彼は一礼して部屋を出る。
「誰が何を考えているかは知らないが、過激派だけで組織は成り立たないことを理解していないようだな」
一人、荒関は部屋の中で呟いた。
ある小さな教会、数台車が停められる駐車場に中に二台のワゴン車が入り込み、複数人の黒ずくめの男達が下りてきた。
彼らはミサの行われている聖堂の扉を少しだけ開けると、中に手榴弾を放り込む。
「新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいます。守りましょう彼らを、育てましょう彼らを、それが我々旧人類の役目であり――」
ミサを取り仕切る司祭、彼の演説は視界に入り込んだ数個の黒い物体によって止められた。
直後響く爆発音、そして入り込む黒ずくめの男達。
――その日の虐殺で生き残った者は無く『新人類教会』は彼らを殉教者とし、そしてさらなる武装化を信者へと促すのであった。
●未来を変えろ!
「以上が、今回の夢見の顛末です。また同じタイミングで新人類教会の内部告発者よりコンタクトがありました……『新人類教会に陰謀あり。協力求む』と、おそらく今回の件もその一端と思われます。」
久方 真由美(nCL2000003)の表情は固い。
「それでは状況を説明します。敵は憤怒者組織『良き隣人』、全員新型のライフルと狙撃銃で武装しています。総人数は14名」
地図を出しながら状況の説明を開始する。
「場所は駐車場スペースが広めにとられた小さな教会。介入タイミングは彼らが車から降りて教会に襲撃を仕掛ける直前です」
地図に車代わりの四角形を書き込みながら真由美の説明は続く。
「教会の中には新人類教会の穏健派の人達がいますので駐車場内で戦闘を済ませてください。また『良き隣人』側は車などを盾に攻撃してきますが、勝ち目がないと悟ると撤退を開始します」
説明を終えた真由美は最後に全員を見回すと。
「新人類教会の思惑は分かりませんが、信者から死者がでると彼らにとって都合のよい結果になると思います。それだけは食い止めてください」
そう言って頭を下げた。
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして一月某日。穏健派の『村瀬幸来』を過激派から保護するFiVE。
一時雌伏の時を過ごしていた新人類教会過激派だが、力を蓄えた過激派達がまた活動を開始する。
●裏切りの羊
「……分かった、ありがとう」
男が謝辞を述べて電話を切る。その様子を見て傍らの部下が問いかける。
「荒関さん、今の電話は?」
「新人類教会非武装派のミサの日時と場所の連絡さ」
荒関と呼ばれた男が手元のメモ帳に情報を書き写しながら答える。
「新人類教会というと、あの……」
「そう覚者を『新人類』として崇め奉り守っていこうとする崇高な方々さ。丁度いい『古妖覚醒』や緑川の件などで直接動けない若い奴のガス抜きと訓練を兼ねさせてもらおう」
彼の言葉に部下が疑問を口にする。
「確かに我ら『良き隣人』向きの仕事ではありますが……罠の可能性はありませんか?」
「ありうるな、だから古参ではなく若いメンバーを中心に構成、覚者と遭遇時は撤退という形で動け。それと新型の武器が来ているだろ? あれが使えるかも試して来い」
一通りの情報をメモにしたため部下に渡すと、彼は一礼して部屋を出る。
「誰が何を考えているかは知らないが、過激派だけで組織は成り立たないことを理解していないようだな」
一人、荒関は部屋の中で呟いた。
ある小さな教会、数台車が停められる駐車場に中に二台のワゴン車が入り込み、複数人の黒ずくめの男達が下りてきた。
彼らはミサの行われている聖堂の扉を少しだけ開けると、中に手榴弾を放り込む。
「新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいます。守りましょう彼らを、育てましょう彼らを、それが我々旧人類の役目であり――」
ミサを取り仕切る司祭、彼の演説は視界に入り込んだ数個の黒い物体によって止められた。
直後響く爆発音、そして入り込む黒ずくめの男達。
――その日の虐殺で生き残った者は無く『新人類教会』は彼らを殉教者とし、そしてさらなる武装化を信者へと促すのであった。
●未来を変えろ!
「以上が、今回の夢見の顛末です。また同じタイミングで新人類教会の内部告発者よりコンタクトがありました……『新人類教会に陰謀あり。協力求む』と、おそらく今回の件もその一端と思われます。」
久方 真由美(nCL2000003)の表情は固い。
「それでは状況を説明します。敵は憤怒者組織『良き隣人』、全員新型のライフルと狙撃銃で武装しています。総人数は14名」
地図を出しながら状況の説明を開始する。
「場所は駐車場スペースが広めにとられた小さな教会。介入タイミングは彼らが車から降りて教会に襲撃を仕掛ける直前です」
地図に車代わりの四角形を書き込みながら真由美の説明は続く。
「教会の中には新人類教会の穏健派の人達がいますので駐車場内で戦闘を済ませてください。また『良き隣人』側は車などを盾に攻撃してきますが、勝ち目がないと悟ると撤退を開始します」
説明を終えた真由美は最後に全員を見回すと。
「新人類教会の思惑は分かりませんが、信者から死者がでると彼らにとって都合のよい結果になると思います。それだけは食い止めてください」
そう言って頭を下げた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.憤怒者組織『良き隣人』の撃退
2.新人類教会穏健派の安全確保
3.なし
2.新人類教会穏健派の安全確保
3.なし
どうも塩見です
今回は教会を襲撃する憤怒者組織『良き隣人』の撃退をお願いします。
詳細は下記の通りです。
●舞台
左右5台ずつ合計10台くらいの車が止められる(戦えるスペース的には20メートル四方)小さな教会。
駐車場には車が4台ほど間を空けて駐車しています。
敵はその真ん中にワゴン車2台で乗り付けて教会に襲撃を仕掛けます。
●敵(総勢14名)
2名は車で待機、2名が車の護衛、10名が教会襲撃に動きます。
車などを使って遮蔽を取りながら戦闘を行いますが不利を悟ると撤退します。
武装は下記の通りです
・教会襲撃担当
アサルトライフルカグツチ装備
単射:物遠単
連射:物遠列
手榴弾:遠列【火傷】
・車護衛担当
K-10対覚者狙撃銃装備
狙撃:物遠単[貫2][貫:100%,50%]
・運転手
ピストル装備:物遠単
●新人類教会信者
教会内でミサ中です。
戦闘が始まると避難しようと動き出します。パニックになったらどう動くかは分からないので何らかの方法は居るかもしれません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月06日
2016年05月06日
■メイン参加者 8人■

●吶喊
ミサの行われている教会、その駐車場に二台の車が入り込んでいく。
黒塗りのワゴン車は駐車スペースに停めずに駐車場の中央に停車すると、車内から出てきた12名の男達が六名に分かれて車の左右に展開、弾倉を装填し武器の安全装置を外す。そこへ一人の少年が走りこんだ。
「させるかぁぁぁぁあ!」
韋駄天足により飛び出した『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は一人敵陣に飛び込むと地を這うような拳の連撃を『良き隣人』と名乗るワゴン車の片側に居た憤怒者五人に叩き込む。
「お前たちの身勝手で、罪のない一般人が死ぬなんて絶対にさせない!」
最後の一人を倒し、咆哮するように叫ぶ獣憑の少年。直後その左肩を一発の銃弾が貫き、背後にあった乗用車に孔を開ける。
「悪いが、これが俺達の戦い方だ」
一歩下がっていた男が狙撃銃を構えて答える。直後ワゴン車の向こう側よりもう一名が小唄の右側めがけて狙撃する。左肩を撃たれた直後の右側への射撃、優位な位置を取られた一瞬の迷いの間に憤怒者達は体勢を立て直す。
「扇状に広がれ、中心は分かってるな」
狙撃していた男が指示を出し、憤怒者達は展開する、包囲せず扇のように広がった男達がアサルトライフルを要の位置に居る小唄へ向けて引鉄を引く。銃声が鳴り、鉄芯で作られた安物の銃弾が憤怒を伴って少年を襲う。
韋駄天足による移動は距離という概念を短くし、速く戦場に到達できる利点がある。それで助かる命がある一方、それを一人で行うという事はリスクをはらむ。
一つの戦場での正解が他の戦場でも常に正解とは限らない。小唄がそれを理解したのは自らの身を弾丸が貫いた時。
車の反対側に居た憤怒者達も射撃に参加し、殺意と憤怒の器楽曲が加速する。曲目が終わる頃には少年は穴だらけの車のボンネットに背中を預け天を仰いでいた。
「弾倉装填、次の射撃用意。奴らは二度殺さないと死なない」
狙撃銃の男がボルトを引き次弾を装填するとそれに倣って男達が空になった弾倉を捨てて新しいマガジンを装填し、銃口を上げる。
――その時だった。
「武器も持たん連中を一方的に嬲り殺す奴らが良き隣人とかギャグで言うてんのか?」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が冷笑と共に戦場へと駆けていく。その後ろには六名の覚者。
「散開!」
狙撃銃を持った男の号令に憤怒者達は散らばり、各々車を盾に覚者を迎え撃つ姿勢を整えた。
●迎撃
駐車場に止められた車、そして中心部に停められたワゴン車。覚者達の進むルートを二つに分けられるようにして憤怒者は迎え撃つ。
一方FiVEの覚者は彼らの向こうにある教会の扉を抑えたい、故にどちらかを進むしかなった。現に教会の扉は開かれて、外を覗こうとする人が出てきている。
「…………」
ボンネットに身体を預けていた少年が命を削り立ち上がる。衝撃でぼやけていた意識が鮮明になってきた頃、敵の動きに気づき狙撃銃の男に殴りかかった。
「絶対に、行かせるかよ!!」
口の中にある鉄の味の液体を呑み込んだ小唄の一撃が狙撃銃を持つ男の手を跳ね上げて、がら空きのボディにフックを叩き込む。拳に伝わる感触が思ったより硬い。
「――!?」
「ぐっ……全員撃て!」
苦悶の声を上げつつも号令をかける狙撃手。彼の声に従って憤怒者の銃が火を噴いた。
しかし少年の攻撃によるタイミングのズレを見逃すほど覚者達は無能ではなく教会の防衛と小唄のフォローの為に自然と行動を開始していた。
「ハジメマシテ糞雑魚共。でもってサヨナラだ」
ボンネットを踏み台にして『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が憤怒者の一人を飛び越えて背後を取る。
(俺様を都合よく動かせると思ってるなら間違いだっつーのを教えてやるいい機会だ)
贋作虎徹の鯉口を切りながら思考するのは自らを御しようする者に対する反発。それを振り向きざまの抜刀へと込める。
胴を薙ぐはずだった刀が途中で止まり硬い感触が手に伝わった、浅い。
思考より速く刀嗣の腕が動き、即座に剣を引き、右手一本での首元狙いの飛燕へとつないでいく。柔らかいものを切る感触と金属の当たる感触が同時に来た。憤怒者が咄嗟に銃を盾にして刀を食い止め、自分の防具で止める。木製のハンドガードが切断され、着ていたベストのアラミド繊維が露わになる。
「穿光!」
同じタイミングで凛の鋭さを増した刺突が車を貫き、その衝撃を向こう側の男に撃ちこむ。だが強力な一撃も車という壁に減衰され半減した威力となれば憤怒者の方も耐えうるのは容易であった。
「あれ、ニポンじゃ信仰と推しメンは自由じゃなかったけ? ……推しメン固定でどうやって総選挙するの?」
機化硬で身を固めたプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が諧謔満ちた疑問を口にしながらもう一台の車の方に回り込む、その背後には『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)が鎌を構えている。
(「新人類教会に陰謀あり。協力求む」だったな。このリークに関して取りようよって 此方が罠に嵌められる可能性も指してはいないか?)
思考と共にツバメが行うは記録装置のテレキネシスでの操作。しかしそれらしきものは見当たらず、行動は不発に終わる。それを悟ったツバメは疾風のように白狼と名付けた大鎌を振るう。
鎌の一撃が男の胴に叩き込まれる。だが切断には至らずに代わりに憤怒者のセラミックプレートを叩き割る。
その間隙をぬって三人の男女が駆け抜けた。
●布陣
深緋・幽霊男(CL2001229)が憤怒者に向けて一対のカトラスを構えればその背後で『教授』新田・成(CL2000538)と『ナイスボディな頼もしき姉御』風織 紡(CL2000764)が教会の扉に張り付き、外に出ないように呼び掛ける。
「あたしは別にいいんですが、ここを通ったらどうなるかわかりませんよ?」
白いワンピース姿の仮面の女が持つナイフは刃が捻じられて禍々しさを助長させる、殺人鬼をアナグラムした名を持つ『それ』を見て信者がたじろけば。
「憤怒者が襲ってきています。我々が守りますから、教会内から出ずに、扉からは離れてください」
成の穏やかな口調から紡がれるワーズワースが人々に安心を与え、彼らは扉から離れていく。それを確認した老紳士が扉に触れると金属が動き、鍵がかかる音がした。
「さて、良き隣人の諸君。我々は君達の敵対組織で、そして君達の組織に退場願いたいと思っている。成果が君達の身柄でも、手ぶらで帰るよりは良い――それでは、始めましょうか」
振り向き、成が憤怒者に告げるのは宣戦布告。
(何にせよこれは、売られた喧嘩です。では、精々高く買わせていただきましょうか)
「よくわかりませんが、虐殺を防げばよいんですよね? 多勢! いいじゃないですか!!」
一方で錬覇の法で自らを強化した紡の言葉を弾んでいる。
「……ああ、殺しちゃいけねーんですね、すまんです。殺さずにころしますね」
仮面越しでも彼女が笑うのが伝わってきた。
「困ったなあ。見逃してくれない?」
「そうだね、お駄賃しだいかな?」
憤怒者の言葉に答えとばかりに包帯の女がトリガーを絞れば体術によって精度を増した銃撃が襲い掛かる。更に成が杖を抜き、仕込みを抜剣。銃弾と衝撃波に狙撃銃を持った男が被っていたヘルメットとバラクーダが吹き飛び、鮮血にまみれた顔を露わにしながらも車の陰へと逃げ込んだ。
「楽はさせてもらえそうにないな」
男の呟きが聞こえたのかどうかは分からないが、
「諏訪君、存分に刈り取ってくると良い」
老紳士の言葉に憤怒者達は仕事が難しいものに変わったことを自覚した。
●隠滅
教会を時計の12時に例えるとその12時の位置に成と幽霊男に紡。そこから6時の方向へと伸びる位置にワゴン車が二台、居るのは狙撃銃の男と運転手が二名ずつ。一方、8時の方向にある車の近くで憤怒者二名と凛と刀嗣。10時の方向にある車の周辺にも憤怒者二名とプリンス、そしてツバメ。そして2時と4時の位置にある車の陰には憤怒者が二名ずつ。
それが現時点での彼らの位置。
そして小唄、彼がいる位置は9時の位置、そして教会と自分の位置に近いのは10時の敵。必然と彼の脚はそちらへと駆けていく。
「おやー、サビオ要る? 持ってきてないけど?」
「いらないよ! それより気を付けて! 思ったより『硬い』」
「ああ、確かに刃が通らなかった」
プリンスの言葉に小唄が応えつつ走り、ツバメがそれを補足する。
「そりゃ普通の民だもの、ニポンのムシャアーマーでもないとすぐに倒れちゃうよ」
そりゃそうだとばかりに振るったインフレブリンガーが地を這うように跳ね上がり憤怒者二人をまとめて浮き上がらせて、そして大地に叩きつけるように振り下ろす。そこへ小唄が追い打ちをかけるように蹴り上げて殴る。覚者二人による地烈のラッシュ、実質四回の攻撃が憤怒者の防具を壊し、装具だったものを散乱させる。
肉体へのダメージを防具で肩代わりさせた憤怒者はその場から立ち上がり、即座に突撃銃を連射する。当たらずともその動きを止めるのは十分、そして当たったとしても覚者の動きを止めるのは難しい――狐憑の少年を除いては。
「ぐっ……」
先ほどの一斉射撃の傷もあり膝を着く小唄、だが覚者の側もこれで終わりではない。ツバメの振るう最後の地烈が防具を失った憤怒者の肉に食い込み、そして薙ぎ払う。倒れ行く憤怒者二人、火薬が弾ける音がしたのはその直後だった。
「サーメート!」
銃声と男の声は同時だった狙撃銃が火を噴き、小唄の身体を銃弾が貫通し少年が倒れる。直後、ワゴン車を超えるように手榴弾が倒れた男達の目の前に転がり、爆発する。
爆風と衝撃、そしてテルミット反応による高温の炎が倒れた憤怒者の持っていた手榴弾に引火し、更なる爆発と炎を引き起こす。
目の前で舞う紅蓮の炎、良き隣人に対する怒り。強い炎がすぐに消えてしまう様に小唄の意識もそこで途切れた。
「焼夷手榴弾ですか」
「なんじゃね? それ」
老紳士の呟きに包帯の女が問う。
「見ての通りです。どうやら彼ら教会を燃やす以外の事も考えていたようです」
(荒関君とやらは、随分と勤勉ですね。その点については、組織の長に相応しいのかもしれませんが……)
「あーいらいらしますねぇ。奴ら近寄ってこねーですよ!」
仮面の女がナイフを手で弄びながら、左腕から気弾を掃射する。烈波の勢いに手榴弾を投げた男が地面に叩きつけられ、もう一人の男が盾にしている車のドアがひしゃげる。
「初めて列攻撃使いましたけど結構威力でてきもちいーですね! でもいらつきます!」
楽しそうに感想を述べる紡、彼女達の前にも手榴弾が落ちてくる。
「ワンサウザント、ツーサウザント……」
何かを歌う様に歩く老紳士、そして興味深げに見る幽霊男。成は手榴弾の目の前まで歩くと杖を逆さに持ち、ゲートボールよろしく握りで手榴弾を打つ。明後日の方向で爆発と炎が舞う中、成が杖を持ち替えて腰だめに構える。
「深緋君、援護を」
「はーいと言っておけばいいのかな?」
答えつつ幽霊男がトリガーを絞る。口調に反して視線はただ車の方へ、特に何も考えず。
『顔』の見えない子に興味はない。ならば、びじねすらいくに、それが楽だから。
無数の弾丸が車に撃ち込まれる。間断のない鉛の雨、制圧射撃と呼ばれる火力支援が憤怒者の動きを封じ、車に隠れる以外の行動を許さない。
そこに放たれるは仕込みによる衝撃波。B.O.T、現の因子が放つ波動は車を突き抜けてその向こうの男へと叩き込まれる。くぐもった悲鳴が聞こえた気がした。
●撤退
「新田のジジイも派手にやってるな」
爆発音を耳にしながら立ち上がる男へと対峙する刀嗣、目の前の憤怒者は腰だめに突撃銃を構えて、射撃に移ろうとしている。刀の感触から何らかの防具は身に着けているだろう、だが……。
(何にしても小細工しか出来ねえ奴らじゃたかが知れてる)
銃声が鳴る。だが銃口の位置には黒髪となった暦はおらず、運足で間合いを詰めた刃が肘の内側を切り付け――
(小細工なんざ全部踏み潰して)
「そのままの勢いでついでに虫の巣でもぶっつぶしてやりてぇところだ」
勢いを殺さずに流れるように喉笛に刃を走らせる。
「期待なんぞしちゃいなかったが思ったより雑魚だったな」
首を垂れ膝から崩れ落ちる男を目の前にただ呟く。その言葉にあるのは諦観かそれとも渇望か、それを知るのは本人のみ。
一方、凛も相手が車から離れたとみると回り込み、切りかかる。迫りくる覚者へ憤怒者が突撃銃を発砲する。超視力がそれを捉える。けれど叩き落とすには身体がついていかない。いくら優れた視力と言えど、体術を以ってしても、それだけでは望む動きは叶わない。成すには五感を極め、動作を反復しさらに上をいかねばならない。
故に赤毛の暦は身体を伏せ、弾道から身を避けると。
「逆波!」
そこから跳ね上げるような連撃を叩き込む。
仰け反るように倒れ行く憤怒者、そして。
「手榴弾!」
もう一人の狙撃手が叫ぶと二つの手榴弾が憤怒者へと落ちていった。反射的に庇おうとする凛。しかし自らが攻撃に動いた後では反応が間に合わない。
目の前で炎が舞った。例え化学反応が作る高温の炎と言えど火の心を持つ凛の肌を焼くことは出来ない、だが衝撃が彼女の身体を襲い、車へと叩きつけた。
「撤退だ、引き揚げろ!」
ワゴン車から声が上がった。狙撃手の内まだ行動を起こしていなかった一人が後ろ側の車に乗り込み、運転手とともに刀嗣と凛へ牽制の射撃を行う。
無論、覚者もそれを黙って見ているわけでは無かった。
「ご随意にって言ったじゃん、プロフェッサー。ちょっとくらい手伝ってよ」
倒れた小唄をツバサに任せたプリンスが先頭のワゴン車の前に出るとボンネットに一撃。エアバッグが作動し拳銃を構えようとした運転手が圧しつけられ行動の自由を奪われる。
「では、殿下をお手伝いさせていただきましょう」
老紳士が答え、仕込みを杖に納めれば既に放たれた衝撃波がタイヤを跳ね飛ばし、車が傾く。
その間に憤怒者たちは次々と後方のワゴン車に乗り込んでいく。刀嗣と凛は深追いせず、その場に対峙し、幽霊男も興味なさげに逃げる様子を見る。一方、紡はナイフで切るチャンスを逸して苛立ちを露わにする。そんな中、成は一歩前に出て。
「荒関君にお伝え下さい。今度一席如何ですか、と」
「伝えておく、店はこっちで指定で良いな?」
顔を露わにした狙撃手が返答と共に発砲する。
「はい、できれば酒の美味い店でお願いします」
返答と共に抜いた仕込みを収めた。
狙撃手の銃が壊れるのと老紳士の耳元を弾丸が通り過ぎるのはほぼ同時の出来事だった。
●隣人
「そうとんがらずにちょっとくらいお話しようよ、推しメンと推し王家についてとか」
運転手を縛り上げた手をパンパンと軽く叩き、プリンスが問いかける。
「…………」
唯一の生存者である運転手は黙して語らない。その一方で離れた場所では成と幽霊男が焼死体となった躯の前でしゃがんでいた。
「駄目ですね機関部も弾薬の暴発とかで弾けてますし、焼夷弾で溶かされてます」
「困ったなあ。僕、新兵器とか好きなんだよね。それを奪うのも」
かつて武器だったモノを前に二人が話す。できれば銃の回収を図りたかったが全ての武器が壊されてしまい、唯一運転手の持っていた拳銃も憤怒者たちが良く使う物であった。二人の様子を見てか運転手が口を開く。
「すまないな、上の命令で武器は奪われないように壊せって言われたんだ」
そう答える男の顔に素足での蹴りが叩き込まれる。
「殴る蹴るくらいはいいですよね? それくらいさせてください」
同意を求めつつ紡は蹴り続ける。任務とは言え本人が望むことが出来なかった苛立ちとそれとは別に足に伝わる感触が心地良い。それは凛が止めるまで続き刀嗣はつまらなそうに眺める。
いつの間にか綺麗になった素足を眺めながらワンピースの少女は身を翻し、入れ替わりにやってくるのは包帯を巻いた女。
「人でなしだから『人間』って奴が好きなんだけど。君らはどう?何か背負うモノとかある?狗っころって不味いし。あ、でも君らの事は『今は』言わなくていいよ。喰うなら、ちゃんと喰いたいから」
幽霊男の言葉は何かを試す様な何かがあった、運転手の男は焼け焦げた死体を顎で指し
「……あそこにいる奴も俺も覚者の戦いで家族が死んだ。殺されたのもいれば巻き添えになったものも居る。そして帰ってきた言葉は『仕方がなかった』だ。
『良き隣人』は隣に居るはずだった人間を失った者が覚者の隣に居るものを奪い去る集まりさ。大したものじゃないだろうが、人が動くには充分だろう?」
男の言葉に女は興味を浮かべ顔を近づける。
「なら荒関君とか如何なのかしら。喰う価値ある? 君らから見てどう?」
「腹壊すぜ」
男の顔には笑みがあった。
「あんなこと言ってるけど、どう思うプロフェッサー?」
「そうですね」
幽霊男達の様子を見てプリンスが話しかける中、成の視線に映るのは焼けた死体と硝煙、そして爆薬の匂い。何かを思い出し。それを隠す様に眼鏡をかけると、
「彼等は憤怒者というよりテロリストです。そして世界はテロリストには容赦しない」
杖で地面を突き。
「よって世界標準を教育して差し上げましょう」
それはかつて冬のコンテナで憤怒者へと向けた言葉であった。
ミサの行われている教会、その駐車場に二台の車が入り込んでいく。
黒塗りのワゴン車は駐車スペースに停めずに駐車場の中央に停車すると、車内から出てきた12名の男達が六名に分かれて車の左右に展開、弾倉を装填し武器の安全装置を外す。そこへ一人の少年が走りこんだ。
「させるかぁぁぁぁあ!」
韋駄天足により飛び出した『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は一人敵陣に飛び込むと地を這うような拳の連撃を『良き隣人』と名乗るワゴン車の片側に居た憤怒者五人に叩き込む。
「お前たちの身勝手で、罪のない一般人が死ぬなんて絶対にさせない!」
最後の一人を倒し、咆哮するように叫ぶ獣憑の少年。直後その左肩を一発の銃弾が貫き、背後にあった乗用車に孔を開ける。
「悪いが、これが俺達の戦い方だ」
一歩下がっていた男が狙撃銃を構えて答える。直後ワゴン車の向こう側よりもう一名が小唄の右側めがけて狙撃する。左肩を撃たれた直後の右側への射撃、優位な位置を取られた一瞬の迷いの間に憤怒者達は体勢を立て直す。
「扇状に広がれ、中心は分かってるな」
狙撃していた男が指示を出し、憤怒者達は展開する、包囲せず扇のように広がった男達がアサルトライフルを要の位置に居る小唄へ向けて引鉄を引く。銃声が鳴り、鉄芯で作られた安物の銃弾が憤怒を伴って少年を襲う。
韋駄天足による移動は距離という概念を短くし、速く戦場に到達できる利点がある。それで助かる命がある一方、それを一人で行うという事はリスクをはらむ。
一つの戦場での正解が他の戦場でも常に正解とは限らない。小唄がそれを理解したのは自らの身を弾丸が貫いた時。
車の反対側に居た憤怒者達も射撃に参加し、殺意と憤怒の器楽曲が加速する。曲目が終わる頃には少年は穴だらけの車のボンネットに背中を預け天を仰いでいた。
「弾倉装填、次の射撃用意。奴らは二度殺さないと死なない」
狙撃銃の男がボルトを引き次弾を装填するとそれに倣って男達が空になった弾倉を捨てて新しいマガジンを装填し、銃口を上げる。
――その時だった。
「武器も持たん連中を一方的に嬲り殺す奴らが良き隣人とかギャグで言うてんのか?」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が冷笑と共に戦場へと駆けていく。その後ろには六名の覚者。
「散開!」
狙撃銃を持った男の号令に憤怒者達は散らばり、各々車を盾に覚者を迎え撃つ姿勢を整えた。
●迎撃
駐車場に止められた車、そして中心部に停められたワゴン車。覚者達の進むルートを二つに分けられるようにして憤怒者は迎え撃つ。
一方FiVEの覚者は彼らの向こうにある教会の扉を抑えたい、故にどちらかを進むしかなった。現に教会の扉は開かれて、外を覗こうとする人が出てきている。
「…………」
ボンネットに身体を預けていた少年が命を削り立ち上がる。衝撃でぼやけていた意識が鮮明になってきた頃、敵の動きに気づき狙撃銃の男に殴りかかった。
「絶対に、行かせるかよ!!」
口の中にある鉄の味の液体を呑み込んだ小唄の一撃が狙撃銃を持つ男の手を跳ね上げて、がら空きのボディにフックを叩き込む。拳に伝わる感触が思ったより硬い。
「――!?」
「ぐっ……全員撃て!」
苦悶の声を上げつつも号令をかける狙撃手。彼の声に従って憤怒者の銃が火を噴いた。
しかし少年の攻撃によるタイミングのズレを見逃すほど覚者達は無能ではなく教会の防衛と小唄のフォローの為に自然と行動を開始していた。
「ハジメマシテ糞雑魚共。でもってサヨナラだ」
ボンネットを踏み台にして『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が憤怒者の一人を飛び越えて背後を取る。
(俺様を都合よく動かせると思ってるなら間違いだっつーのを教えてやるいい機会だ)
贋作虎徹の鯉口を切りながら思考するのは自らを御しようする者に対する反発。それを振り向きざまの抜刀へと込める。
胴を薙ぐはずだった刀が途中で止まり硬い感触が手に伝わった、浅い。
思考より速く刀嗣の腕が動き、即座に剣を引き、右手一本での首元狙いの飛燕へとつないでいく。柔らかいものを切る感触と金属の当たる感触が同時に来た。憤怒者が咄嗟に銃を盾にして刀を食い止め、自分の防具で止める。木製のハンドガードが切断され、着ていたベストのアラミド繊維が露わになる。
「穿光!」
同じタイミングで凛の鋭さを増した刺突が車を貫き、その衝撃を向こう側の男に撃ちこむ。だが強力な一撃も車という壁に減衰され半減した威力となれば憤怒者の方も耐えうるのは容易であった。
「あれ、ニポンじゃ信仰と推しメンは自由じゃなかったけ? ……推しメン固定でどうやって総選挙するの?」
機化硬で身を固めたプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が諧謔満ちた疑問を口にしながらもう一台の車の方に回り込む、その背後には『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)が鎌を構えている。
(「新人類教会に陰謀あり。協力求む」だったな。このリークに関して取りようよって 此方が罠に嵌められる可能性も指してはいないか?)
思考と共にツバメが行うは記録装置のテレキネシスでの操作。しかしそれらしきものは見当たらず、行動は不発に終わる。それを悟ったツバメは疾風のように白狼と名付けた大鎌を振るう。
鎌の一撃が男の胴に叩き込まれる。だが切断には至らずに代わりに憤怒者のセラミックプレートを叩き割る。
その間隙をぬって三人の男女が駆け抜けた。
●布陣
深緋・幽霊男(CL2001229)が憤怒者に向けて一対のカトラスを構えればその背後で『教授』新田・成(CL2000538)と『ナイスボディな頼もしき姉御』風織 紡(CL2000764)が教会の扉に張り付き、外に出ないように呼び掛ける。
「あたしは別にいいんですが、ここを通ったらどうなるかわかりませんよ?」
白いワンピース姿の仮面の女が持つナイフは刃が捻じられて禍々しさを助長させる、殺人鬼をアナグラムした名を持つ『それ』を見て信者がたじろけば。
「憤怒者が襲ってきています。我々が守りますから、教会内から出ずに、扉からは離れてください」
成の穏やかな口調から紡がれるワーズワースが人々に安心を与え、彼らは扉から離れていく。それを確認した老紳士が扉に触れると金属が動き、鍵がかかる音がした。
「さて、良き隣人の諸君。我々は君達の敵対組織で、そして君達の組織に退場願いたいと思っている。成果が君達の身柄でも、手ぶらで帰るよりは良い――それでは、始めましょうか」
振り向き、成が憤怒者に告げるのは宣戦布告。
(何にせよこれは、売られた喧嘩です。では、精々高く買わせていただきましょうか)
「よくわかりませんが、虐殺を防げばよいんですよね? 多勢! いいじゃないですか!!」
一方で錬覇の法で自らを強化した紡の言葉を弾んでいる。
「……ああ、殺しちゃいけねーんですね、すまんです。殺さずにころしますね」
仮面越しでも彼女が笑うのが伝わってきた。
「困ったなあ。見逃してくれない?」
「そうだね、お駄賃しだいかな?」
憤怒者の言葉に答えとばかりに包帯の女がトリガーを絞れば体術によって精度を増した銃撃が襲い掛かる。更に成が杖を抜き、仕込みを抜剣。銃弾と衝撃波に狙撃銃を持った男が被っていたヘルメットとバラクーダが吹き飛び、鮮血にまみれた顔を露わにしながらも車の陰へと逃げ込んだ。
「楽はさせてもらえそうにないな」
男の呟きが聞こえたのかどうかは分からないが、
「諏訪君、存分に刈り取ってくると良い」
老紳士の言葉に憤怒者達は仕事が難しいものに変わったことを自覚した。
●隠滅
教会を時計の12時に例えるとその12時の位置に成と幽霊男に紡。そこから6時の方向へと伸びる位置にワゴン車が二台、居るのは狙撃銃の男と運転手が二名ずつ。一方、8時の方向にある車の近くで憤怒者二名と凛と刀嗣。10時の方向にある車の周辺にも憤怒者二名とプリンス、そしてツバメ。そして2時と4時の位置にある車の陰には憤怒者が二名ずつ。
それが現時点での彼らの位置。
そして小唄、彼がいる位置は9時の位置、そして教会と自分の位置に近いのは10時の敵。必然と彼の脚はそちらへと駆けていく。
「おやー、サビオ要る? 持ってきてないけど?」
「いらないよ! それより気を付けて! 思ったより『硬い』」
「ああ、確かに刃が通らなかった」
プリンスの言葉に小唄が応えつつ走り、ツバメがそれを補足する。
「そりゃ普通の民だもの、ニポンのムシャアーマーでもないとすぐに倒れちゃうよ」
そりゃそうだとばかりに振るったインフレブリンガーが地を這うように跳ね上がり憤怒者二人をまとめて浮き上がらせて、そして大地に叩きつけるように振り下ろす。そこへ小唄が追い打ちをかけるように蹴り上げて殴る。覚者二人による地烈のラッシュ、実質四回の攻撃が憤怒者の防具を壊し、装具だったものを散乱させる。
肉体へのダメージを防具で肩代わりさせた憤怒者はその場から立ち上がり、即座に突撃銃を連射する。当たらずともその動きを止めるのは十分、そして当たったとしても覚者の動きを止めるのは難しい――狐憑の少年を除いては。
「ぐっ……」
先ほどの一斉射撃の傷もあり膝を着く小唄、だが覚者の側もこれで終わりではない。ツバメの振るう最後の地烈が防具を失った憤怒者の肉に食い込み、そして薙ぎ払う。倒れ行く憤怒者二人、火薬が弾ける音がしたのはその直後だった。
「サーメート!」
銃声と男の声は同時だった狙撃銃が火を噴き、小唄の身体を銃弾が貫通し少年が倒れる。直後、ワゴン車を超えるように手榴弾が倒れた男達の目の前に転がり、爆発する。
爆風と衝撃、そしてテルミット反応による高温の炎が倒れた憤怒者の持っていた手榴弾に引火し、更なる爆発と炎を引き起こす。
目の前で舞う紅蓮の炎、良き隣人に対する怒り。強い炎がすぐに消えてしまう様に小唄の意識もそこで途切れた。
「焼夷手榴弾ですか」
「なんじゃね? それ」
老紳士の呟きに包帯の女が問う。
「見ての通りです。どうやら彼ら教会を燃やす以外の事も考えていたようです」
(荒関君とやらは、随分と勤勉ですね。その点については、組織の長に相応しいのかもしれませんが……)
「あーいらいらしますねぇ。奴ら近寄ってこねーですよ!」
仮面の女がナイフを手で弄びながら、左腕から気弾を掃射する。烈波の勢いに手榴弾を投げた男が地面に叩きつけられ、もう一人の男が盾にしている車のドアがひしゃげる。
「初めて列攻撃使いましたけど結構威力でてきもちいーですね! でもいらつきます!」
楽しそうに感想を述べる紡、彼女達の前にも手榴弾が落ちてくる。
「ワンサウザント、ツーサウザント……」
何かを歌う様に歩く老紳士、そして興味深げに見る幽霊男。成は手榴弾の目の前まで歩くと杖を逆さに持ち、ゲートボールよろしく握りで手榴弾を打つ。明後日の方向で爆発と炎が舞う中、成が杖を持ち替えて腰だめに構える。
「深緋君、援護を」
「はーいと言っておけばいいのかな?」
答えつつ幽霊男がトリガーを絞る。口調に反して視線はただ車の方へ、特に何も考えず。
『顔』の見えない子に興味はない。ならば、びじねすらいくに、それが楽だから。
無数の弾丸が車に撃ち込まれる。間断のない鉛の雨、制圧射撃と呼ばれる火力支援が憤怒者の動きを封じ、車に隠れる以外の行動を許さない。
そこに放たれるは仕込みによる衝撃波。B.O.T、現の因子が放つ波動は車を突き抜けてその向こうの男へと叩き込まれる。くぐもった悲鳴が聞こえた気がした。
●撤退
「新田のジジイも派手にやってるな」
爆発音を耳にしながら立ち上がる男へと対峙する刀嗣、目の前の憤怒者は腰だめに突撃銃を構えて、射撃に移ろうとしている。刀の感触から何らかの防具は身に着けているだろう、だが……。
(何にしても小細工しか出来ねえ奴らじゃたかが知れてる)
銃声が鳴る。だが銃口の位置には黒髪となった暦はおらず、運足で間合いを詰めた刃が肘の内側を切り付け――
(小細工なんざ全部踏み潰して)
「そのままの勢いでついでに虫の巣でもぶっつぶしてやりてぇところだ」
勢いを殺さずに流れるように喉笛に刃を走らせる。
「期待なんぞしちゃいなかったが思ったより雑魚だったな」
首を垂れ膝から崩れ落ちる男を目の前にただ呟く。その言葉にあるのは諦観かそれとも渇望か、それを知るのは本人のみ。
一方、凛も相手が車から離れたとみると回り込み、切りかかる。迫りくる覚者へ憤怒者が突撃銃を発砲する。超視力がそれを捉える。けれど叩き落とすには身体がついていかない。いくら優れた視力と言えど、体術を以ってしても、それだけでは望む動きは叶わない。成すには五感を極め、動作を反復しさらに上をいかねばならない。
故に赤毛の暦は身体を伏せ、弾道から身を避けると。
「逆波!」
そこから跳ね上げるような連撃を叩き込む。
仰け反るように倒れ行く憤怒者、そして。
「手榴弾!」
もう一人の狙撃手が叫ぶと二つの手榴弾が憤怒者へと落ちていった。反射的に庇おうとする凛。しかし自らが攻撃に動いた後では反応が間に合わない。
目の前で炎が舞った。例え化学反応が作る高温の炎と言えど火の心を持つ凛の肌を焼くことは出来ない、だが衝撃が彼女の身体を襲い、車へと叩きつけた。
「撤退だ、引き揚げろ!」
ワゴン車から声が上がった。狙撃手の内まだ行動を起こしていなかった一人が後ろ側の車に乗り込み、運転手とともに刀嗣と凛へ牽制の射撃を行う。
無論、覚者もそれを黙って見ているわけでは無かった。
「ご随意にって言ったじゃん、プロフェッサー。ちょっとくらい手伝ってよ」
倒れた小唄をツバサに任せたプリンスが先頭のワゴン車の前に出るとボンネットに一撃。エアバッグが作動し拳銃を構えようとした運転手が圧しつけられ行動の自由を奪われる。
「では、殿下をお手伝いさせていただきましょう」
老紳士が答え、仕込みを杖に納めれば既に放たれた衝撃波がタイヤを跳ね飛ばし、車が傾く。
その間に憤怒者たちは次々と後方のワゴン車に乗り込んでいく。刀嗣と凛は深追いせず、その場に対峙し、幽霊男も興味なさげに逃げる様子を見る。一方、紡はナイフで切るチャンスを逸して苛立ちを露わにする。そんな中、成は一歩前に出て。
「荒関君にお伝え下さい。今度一席如何ですか、と」
「伝えておく、店はこっちで指定で良いな?」
顔を露わにした狙撃手が返答と共に発砲する。
「はい、できれば酒の美味い店でお願いします」
返答と共に抜いた仕込みを収めた。
狙撃手の銃が壊れるのと老紳士の耳元を弾丸が通り過ぎるのはほぼ同時の出来事だった。
●隣人
「そうとんがらずにちょっとくらいお話しようよ、推しメンと推し王家についてとか」
運転手を縛り上げた手をパンパンと軽く叩き、プリンスが問いかける。
「…………」
唯一の生存者である運転手は黙して語らない。その一方で離れた場所では成と幽霊男が焼死体となった躯の前でしゃがんでいた。
「駄目ですね機関部も弾薬の暴発とかで弾けてますし、焼夷弾で溶かされてます」
「困ったなあ。僕、新兵器とか好きなんだよね。それを奪うのも」
かつて武器だったモノを前に二人が話す。できれば銃の回収を図りたかったが全ての武器が壊されてしまい、唯一運転手の持っていた拳銃も憤怒者たちが良く使う物であった。二人の様子を見てか運転手が口を開く。
「すまないな、上の命令で武器は奪われないように壊せって言われたんだ」
そう答える男の顔に素足での蹴りが叩き込まれる。
「殴る蹴るくらいはいいですよね? それくらいさせてください」
同意を求めつつ紡は蹴り続ける。任務とは言え本人が望むことが出来なかった苛立ちとそれとは別に足に伝わる感触が心地良い。それは凛が止めるまで続き刀嗣はつまらなそうに眺める。
いつの間にか綺麗になった素足を眺めながらワンピースの少女は身を翻し、入れ替わりにやってくるのは包帯を巻いた女。
「人でなしだから『人間』って奴が好きなんだけど。君らはどう?何か背負うモノとかある?狗っころって不味いし。あ、でも君らの事は『今は』言わなくていいよ。喰うなら、ちゃんと喰いたいから」
幽霊男の言葉は何かを試す様な何かがあった、運転手の男は焼け焦げた死体を顎で指し
「……あそこにいる奴も俺も覚者の戦いで家族が死んだ。殺されたのもいれば巻き添えになったものも居る。そして帰ってきた言葉は『仕方がなかった』だ。
『良き隣人』は隣に居るはずだった人間を失った者が覚者の隣に居るものを奪い去る集まりさ。大したものじゃないだろうが、人が動くには充分だろう?」
男の言葉に女は興味を浮かべ顔を近づける。
「なら荒関君とか如何なのかしら。喰う価値ある? 君らから見てどう?」
「腹壊すぜ」
男の顔には笑みがあった。
「あんなこと言ってるけど、どう思うプロフェッサー?」
「そうですね」
幽霊男達の様子を見てプリンスが話しかける中、成の視線に映るのは焼けた死体と硝煙、そして爆薬の匂い。何かを思い出し。それを隠す様に眼鏡をかけると、
「彼等は憤怒者というよりテロリストです。そして世界はテロリストには容赦しない」
杖で地面を突き。
「よって世界標準を教育して差し上げましょう」
それはかつて冬のコンテナで憤怒者へと向けた言葉であった。
