【金剛無双】VS金剛
【金剛無双】VS金剛



「――強さとは何か?」
 七星剣幹部。
 最強の一角『金剛』は静かに一人ごちる。
「儂は覚者となる前から、強さを求め続けてきた。そのうちに最強の名を冠されるようにもなった」
 金剛の前には巨大な妖が敵意剥き出しに並び。
 金剛の後ろには無数の屍が打ち捨てられていた。
 独り言を聞いているのは、生きた妖と死んだ妖のみ。
「やらなければやられる、そんな時代。どんな主義主張を声高に叫ぼうと、みじめな敗者の弁は誰の心も打たん」
 唸りをあげて巨体の妖が三体同時に躍りかかる。
 牛頭の怪物が体躯以上の棍棒を振り回し、金剛はそれを避けることもしない。徒手空拳のまま、そっと小指一本を突き立て鈍器を止める。妖はピクリとも動けず。動きを封じられまま、今度は金剛のごくごく軽い手刀を受けて三体まとめて粉々に張り倒された。
「強さこそが正義。弱さこそが悪。その原理は人間も妖も大差ないのかもしれん」
 人が近寄らぬ山中。
 ここは危険な妖共のたむろする場所だった。一般人はおろか、覚者であろうとも並みの使い手では生きて出られぬ。そんな魔窟を、金剛はのんびり散歩するがごとく闊歩し……出会ったものはことごとく皆殺しにする。ここで最も恐れるべきは妖ではない。この老婆であった。
「……ふむ。どうも歳をとると、お喋りになっていかん」
 恐らくこの山のボスであろう、一際偉容漂う妖を。
 あっさり瞬殺して、金剛は息を吐く。
 そんな七星剣の幹部の横に、いつの間にか人影が控えていた。
「金剛師、七星杯の予選が全て終了いたしました」
「ほう、ようやくか」
 現れた部下の報告に、金剛は首を鳴らす。
 七星杯。それは金剛が主催する武闘大会、強さが全てを決する戦場の名。
「ならばすぐに本選を始める。準備せえ」
「予定通り本選には金剛師も?」
「うむ。久々に良い退屈しのぎができそうじゃ……次の一手を打つのに相応しい花火をあげるとしようか」
 言葉とは裏腹に、金剛はつまらなそうに修羅場を後にする。
 この最強の一角の通った後に……残ったものは何もない。


「金剛を暗殺!?」
「しー! 声が大きい!」
 とある一室。
 真剣な顔を並べて固まる一団がいた。七星剣金剛の暴虐によって全てを奪われた者、金剛の脅威に危機感を露わにしている者、七星剣金剛に対して抵抗を試みようとしている者達であった。その数は今日集まれなかった者も含めて、膨大な人数になっていた。
「……今度、七星杯の本選が始まる。そのときに金剛が現れるという情報があってな」
「そこに紛れ込んで、上手く金剛を仕留めることが出来ればというわけか」
「しかし、それは……あまりにもリスクが大きくないか?」
 下手をすれば、金剛の逆鱗に触れることになる。
 今まで無数の屍を築いてきた、七星剣最強の一角の逆鱗に。
「もちろん危険は覚悟のうえだ。だが、こんなチャンスは滅多にない。それに、暗殺者の方も折り紙つきの腕利きを用意する。元AAAの凄腕だ」
 机上に写真と資料が投げ出される。
 そこには――日向朔夜という名前が記されていた。


「七星剣幹部金剛がついに自ら動き出した」
 中 恭介(nCL2000002)が、説明を始める。
 金剛が関与する七星杯という大会。ファイヴも何度か予選で対したこともあるが、その本選が開かれるという。そして、その本選には金剛自身が出場するというのだ。
「そして、向こうから直々にファイヴ宛てに招待状が来た」
 恭介は古ぼけた文書を読みあげる。
 そこには大胆にも、特別枠としてファイヴに本選出場の権利を設けるという旨が記載されていた。「大変危険ではあるが、これはチャンスだ。上手くいけば、七星剣幹部と接触がかなう」
 本選はトーナメント式の個人戦になる。
 七星杯の予選に勝ち上がってきた者同士が一対一で戦っていき、勝ち残った者が優勝する。トーナメントの最中に金剛と対する機会があるかもしれない。
「また、夢見が気になる予知をとらえた。今度の七星杯に紛れて、なんと金剛を暗殺しようとする動きがあるらしい」
 金剛に敵対する者達は数多い。
 この機に乗じてという動きあるというのだ。
「だが、これは現時点では相当に危険な賭けだ。そこで君達には二つやってもらいたいことがある」
 一つはトーナメントに参加して、金剛の能力や今後の動きを探ること。
 もう一つは、金剛の暗殺のため紛れ込んだ抵抗勢力と何とかコンタクトをとり、計画を思いとどまらせてファイヴと協力関係を結ぶように交渉すること。
「金剛は七星剣最強の一角と呼ばれる存在だ。勿論、この機会に撃破することが叶えばそれが一番だが……迂闊なことをすれば、最悪な結果を招きかねない。また、金剛も今後の展開を何やら企んでいるようだ。命懸けの任務にはなるが、よろしく頼む」 


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.七星剣幹部『金剛』の撃破
2.『金剛』の能力、作戦の調査。及び抵抗勢力と協力態勢を築く
3.1か2どちらかの条件を満たせば成功
 今回は七星剣『金剛』に関連するシナリオになります。

●このシナリオの特徴
 金剛主催の七星杯という大会が開催されています。
 今回赴くのはその決戦会場です。ルールはトーナメント式の一対一の戦い。相手を降参させる、リング場外に落とす、相手を殺す、いずれかを満たせば勝利となる。組み合わせ次第ではファイヴの者同士で戦う可能性もあり。また、いつ金剛と戦うことになるかも運かつランダムになります。

●現場
 とある地下闘技場。
 中央には石造りのリング。金剛一派に取り囲まれています。また、裏の世界の隔者やら七星剣の関係者やら大勢の観客がきています。

●大会参加者
 主には腕自慢のアウトロー達が集って参加しています。
 覚者もいれば、非覚者もいます。決勝に残った参加者は総勢で100人ほどです。

●七星剣幹部『金剛』
 七星剣最強の一角。
 今回の七星杯の主催者。外見は小柄な老婆だが、その強さは圧倒的。決勝トーナメントに参加しています。トーナメントのどこで金剛と当たるかは完全なるランダムです。また、金剛は今回戦うときは武器なしの素手で、覚者としての能力は使わない模様。
 それでも真正面から『金剛』と戦えば、甚大な被害がでます。
 また『金剛』を倒すことを目指す場合、さらに難易度が上がります。

●金剛一派
 此度の大会主催者です。
 会場を見張っており、審判役を務めています。

●金剛に対する抵抗勢力
 七星杯本選に紛れ込んで、金剛の暗殺を目論んでいます。
 暗殺犯として選ばれたのは、元AAAの日向朔夜という人物であり。他にも何人もの抵抗勢力が会場内に潜伏している模様です。抵抗勢力と協力態勢を築く場合には、これに接触して暗殺を取りやめさせ交渉する必要があります。

●ファイヴの行動について
 トーナメントに参加する者と、紛れ込んだ金剛を暗殺しようとする抵抗勢力を探し出し交渉する者に分かれてことに当たってください。一人で両方とも担当しようとすると、充分な効果が得られません。
 トーナメント参加者は主に戦闘内容が、抵抗勢力を探し出す者は探索と交渉の内容が鍵になります(探索班であって戦闘が発生する可能性はあります)。金剛との戦闘と、抵抗勢力との交渉が上手くいくか否かが今後の展開にも大きくかかわってきます。
 ただし、金剛撃破を目指すのならば、この限りではありません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2018年03月11日

■メイン参加者 10人■



「勝者、特別枠のファイヴ!」
「………なんですか、この特別枠というのは」
 歓声に包まれ、見事に初戦の勝ち名乗りを受けつつも。
 『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)は、どことなく不満そうだ。
(少なくともワタシは、予選で勝利を収めたはずなのですが。わざわざあちらの流儀に乗って駆け回った結果が、コノザマですか。まったく、今まで何をしていたのやら)
 ともあれ、トーナメントだ。
 速攻をかけて短期戦。稼いだ時間は、休息にあてる。
「金剛の手の内、暴いておきたいところです」
 『教授』新田・成(CL2000538)も順調に勝ち上がっていた。
 仕込み杖で打たれた参加者は目を回している。対戦相手は自分が隔者ではなかったのを感謝すべきだろう。そうでなければ不殺とはいかなかったのだから。
「酒々井さん、次に備えて回復を」
「うん、よろしく」
 『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は他の試合のチェックをしつつ、離宮院・太郎丸(CL2000131)の治療を受けておいた。今日はとびきりの大物と戦う予定だ。体調は万全に臨みたい。
「まずは勝ち上がる!」
「くっ、強い」
 『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が相手の炎術式にカウンターを合わせ。
 霞舞が綺麗に決まった。五織の彩・改で身体が重くなっていた隔者はふらつき。そこにここぞというタイミングで爆鍛拳を繰り出し、対戦相手はリング場外へと高らかに飛んでいった。
「ほう、あいつもファイヴの覚者か!」
「噂に違わぬ強さだな!」
 ファイヴの覚者達の活躍は、本選においても際立っており。
 観客達の注目を集め、七星杯はどこまでもヒートアップしていった。


「ツム姫、ここポップコーン食べ放題だよ! イチゴ味」
「うん……殿、あそこが怪しい」
 『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)はインテリヤクザ風の服装で偽装、『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)が八つ当たり含みでその横っ腹を肘でぐりぐりしている。盛り上がる観客席周辺で、情報が得られそうな者達を鷹の目で見つけては近付く。
「やあ、ちょっと話に入れてくれるかい」
「ん? ああ、構わないが」
 プリンスの接触に合わせ、紡の守護使役がさえずる。話題はスムーズに進み、金剛に関する情報を引き出す方向に誘導する。
「近々大規模な……って話はもう知ってるね。貴公だけは大丈夫って言いきれる? 余達の情報じゃ、対象は「自分以外全て」だよ。何億積んでも例外はない」
「む」
 何やら訳知り顔の観客達は顔を見合わせた。
「確かに、金剛は危険だが」
「隔者連合の結城征十郎は便宜をはかってくれると」
「ああ。ファイヴを孤立させるあの作戦に協力すれば、お目こぼしも」
「――あの作戦?」
 鋭く問うと、観客達は慌てて口をつぐんだ。
(もし、どの道も最悪でしかないのなら。それ以外の道を模索すればいいんじゃない? つまりは、そーいう事かな)
 恐怖によって飼い慣らされた犬達の様子に。
 ゆっくり紡は頭を振る。
「たまきさん、朔夜さんの特徴を教えて」
「多分、変装している可能性が高いと思います」
 『月々紅花』環 大和(CL2000477)は超視力で不審な人物を探り、『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)が超直感を働かす。
 すると、分かるかすかな違和感。ある人物が試合も観ずに動き回っている。
「朔夜さん、ですね?」
「お前は……確かファイヴの賀茂か」
「後ろのそれは、爆弾ですね。暗殺用の」
 日向朔夜は金剛一派の格好をして紛れ、会場内のあちこちに爆発物を密かに仕掛けていた。恐らく相当綿密に計算した上での設置であろう。
「朔夜さんの事です。出来る限り作戦を成功させる為に準備万端だと思います。今回はその準備した事を、対抗勢力の方々の命を守る為に、使わせて頂けないでしょうか……?」
「……どうやら、色々とこちらの事情は割れているようだな」
「凛さんのその後はどうですか……? 今回の事は、凛さんは知っているのでしょうか……? 結城会長との関連を探るおつもりですか……?」
 たまきの言葉に、朔夜は沈黙する。
 だが、敵意は感じられず。大和が引き継ぐ。
「夢見の三兄弟すべてが悲惨な未来を見ているわ。恐らくこのまま金剛の暗殺計画を行った場合の未来じゃないかしら」
「……夢見が?」
「夢見の能力はご存知だと思うのだけれど、FiVEに所属する有能な3名の夢見が悲惨な未来の夢を見たわ。これは今日このまま暗殺計画を進めると起こってしまう未来だと思うの」
「……」
「金剛については七星でも最強クラスと聞くわ。朔夜さんはじめ他の皆さんも十分な手練れだと思うのだけれど、少人数で隙をついても恐らくひっくり返されてしまうと思うわ」
 朔夜は大和の目をじっと見つめ。
「お前達の言い分は分かった。なら俺の依頼主を説得するんだな」
 覚者達は顔を見合わせるが、そこに上月・里桜(CL2001274)から送受心・改で連絡が入る。
(――皆さん、暗殺の依頼を出した抵抗勢力の方を見つけました)


「金剛さんの先の企みって何でしょうか?」
 里桜は、感情探査で恐怖や不安を感じている者を探索していた。
「……金剛さんの抵抗勢力の方達が、いたのですね……それに暗殺……、ここで朔夜さんの名前を聞くなんて。やっぱり凛さんが結城さんの心配をしているのかしら……?」
 トーナメント参加者や観客なら喜や楽の感情があるだろうから、それらを持たない方を探す。守護使役にもあまり目立たないように周囲を見てもらう。
 そんな里桜の姿を、太郎丸はしかと確認していた。
(金剛を狙う人たちは明確な意思を持ってここにいるはず。結界の力で人が減れば見つけやすくなるかもしれません)
 妖精結界を使い、怖いもの見たさでトーナメントを見に来た観客などを自然に会場から遠ざける。里桜達が抵抗勢力の人間を見つけることができたのは、このようなサポートもあったからこそであった。
「金剛暗殺の噂がありますけど、ご存知ですか?」
「!」
「大丈夫、私達はFiVEの者です」
 目星をつけた男が、動揺したのを見逃さず。
 里桜は当たりを引いたことを悟った。
「……分かった。場所を変えよう」
 抵抗勢力の男は、会場の隅に移動する。
 そこには男の仲間達を思われる者達が集まっており、里桜から連絡を受けたファイヴの覚者達も合流する。
「FiVEは、金剛の抵抗勢力に対し協力を申し出ます」
「協力だって?」
「金剛さんの力がどれ程かよく分かりませんし、不意打ちでの攻撃は難しいと思います。夢見さん情報によればFiVEも抵抗勢力の方達も同じ立場ですから。負けるつもりはありませんけれど。どうか今回の暗殺の中止か延期をお願いします」
「いや、しかし……ここまで来て」
 里桜の弁に、抵抗勢力の面々は困惑の色を浮かべる。
 余計な不安を、大和は一蹴した。
「FiVEは他の七星幹部を討取った事があるわ。その時は元AAAをはじめ大きな協力があっての事。それでようやく一人の幹部を落としたのよ。夢見の結果をみても金剛がこのままで良いとは思わないわ。今日は情報収集に徹し互いに協力関係として動くことはできないかしら」
「確かに、実績のあるファイヴの力を得られれば頼もしいが」
 相手は揺れている。
 たまきも誠心誠意、説得を繰り返す。
「金剛さん主催の大会ですから、金剛さん一派、七星剣幹部の方々が多く居る中での暗殺計画……危険が過ぎる割りには得られる物が、ほぼ皆無です」
「それは……」
「まずは金剛さんの能力、情報、計画を知った上で、次回以降金剛さんと相対する際、情報が有る無しでは状況も変わると思います」
「だが、金剛とまみえるチャンスを……」
「金剛さんと相見える時は必ず来ます。その為に「今」倒そうとするのでは無く、私達との協力関係を先に結んだ上でなら、計画を阻み、打ち倒す事も可能かと……それ迄は、少し待って頂けないでしょうか……?」
 覚者達の熱意を前にして。
 抵抗勢力のメンバーは、最後には根負けしたように首を縦に振った。

● 
「あと少しで試合が動きます」
「試合が?」
「その上で、金剛さんのこの先の目的について何か知っているのならお聞きしたいのですが――」
 里桜の問いに、抵抗勢力が答えようとして。
 一層の歓声に全てがかき消される。
「金剛! 金剛! 金剛! 金剛! 金剛!」
 リングの上には七星剣最強の一角たる金剛。
 対戦相手である完全武装した隔者の銃火器が火を吹き。金剛は素手で、全ての弾丸を易々とキャッチする。
「武具に頼るのも、また一つの強さ……だが浅い」
 金剛は軽く指を弾く。ただそれだけで、隔者巨体はバラバラに吹き飛ぶ。圧倒的な強さに、金剛コールは鳴り止むことを知らない。
 その中で、真正面から金剛に対する者がいた。
「今までいい試合続いてるけどさー。ぶっちゃけ金剛さん、レベル違いすぎ! 闘鶏に熊が参加してるようなもんだ」
「それにこちらも有象無象との戦いばかり、おまけに八百長で若手に譲れとなれば興ざめだ」
「ねえ、こんなご丁寧にちまちましたの、まどろっこしくない? 七星剣の観客のひとたちもそうでしょ?」
 遥が。
 成が。
 数多が。
 最強の戦士の前に出る。
「ほう。坊や達はファイヴの……で、何が言いたいのかのう」
 金剛は目を細める。
 その視線は愛しい孫を見るようでもあり。その愛しい孫を、躊躇なく八つ裂きすることを夢見るようでもある。覚者達は負けじと、堂々と主張する。
「でも、今勝ち残ってる30人くらいでかかれば、割と勝負になりそうかなって見えた!」
「面倒だから全員乱戦で良いのでは。それとも金剛は、一対一でしか最強を名乗れない?」
「どっちが勝つかわかってるようなおままごとの試合じゃあ賭けとかもあったもんじゃないでしょう? どうせなら派手なの見たくなぁい? で、挑戦者さんたちも消耗していくのも馬鹿らしいでしょ? せっかくのお祭り、派手にいきまっしょい」
 遥と成が金剛を挑発し。
 数多が華やかなオーラを振りまきギャラリーを煽る。
「そうだ、そうだ!」
「やれやれ!」
 ヒートアップした観客達の、バトルロワイヤルを熱望する声。
「どう? お婆ちゃん。まさか皆に狙われるのが怖いってわけでもないでしょ? 舐めプしてないで、本気だしてよ」
「あ、ごめん、無理ならいいんだわ。そうだよな、いいかげん金剛さんも歳だもんな。いくら強くてもさすがに強者30人いっぺんは無理だな!」
「ああ、責めている訳ではありません。己の分(武)を弁えて負け戦を避ける。立派なことだ。最強などという大言壮語さえ無ければ」
 覚者達は金剛を舞台に引きずり出すように試み。
 それは、見事に的中した。
「ふふ、よかろう。リング上の30人に限らん。我が部下にも手出しはさせん。他にも混ざりたい輩がいれば、この金剛の首を狙ってみるが良い!」
 どこまでも響き渡る一喝。
 会場の熱量は最高潮に達する。
「お待たせプロフェッサー、花火の時間だ」
 プリンスからのバトルロワイヤル開始の合図を引き金に、リング上は戦場となる。
 この世で最も危険な戦場に。 
「The worst is not, So long as we can say, ‘This is the worst’」
 シャーロットの身体が青い光に包まれた。
 これは魂の力の解放。
 最強という最悪に、剣を突き立てる力と、意志を。
「骨がありそうなのがいるのう!」
「ええ、まだまだ、いくらでもやれるのですよ」
 シャーロットと金剛が激突する。
 一撃必殺の剣戟と拳撃が入り乱れ、お互いを噛みきらんと牙を剥く。あまりの衝撃に突風が生まれ、生半な者では近付くことすら許されぬ。
「これは、すごいですね」
 序盤からの圧倒的な激闘に、太郎丸も気を引き締める。
「……さて、今回のこの依頼今後を大きく左右する事になりそうですね……出来ることを最大限に行っていきましょう」
 彼はこれまで勝ち上がりつつも、仲間のケアを第一の役割としてきた。
 それは、この場でも変わらない。
「とにかく金剛に近付かないとね」
「フォローしましょう」
 数多と成は背中合わせに戦う。
 乱戦が乱戦を呼び、どこから不意打ちをくらうことになるか分からぬ。数多が金剛の元へと辿り着くように、成はB.O.T.・改で周りの敵を振り払う。
「ファイヴ、覚悟しろっ」
「どいてもらうからな!」
 遥も人の壁に阻まれている。
 無論、金剛を標的とする者が最も多いのだが、これまで目立ってきたファイヴを獲物と定める者も少なくはない。拳を叩きつけて、己が道を開く。
「今ならあのコンゴーに勝てるかもよ!? 出世間違いなしだ!」
 プリンスは試合場外を煽って飛び入りさせ。
 乗じて自分も試合場へ。乱闘を縫って仲間との合流を目指す。それに紡も続いた。
「媼との本格的な対峙まで出来るだけ温存させてあげたいし」
 

(剣と強さを見つめ続けるならば、最強を越えていくのは必然として)
 白夜では弾かれる。
 ならば逆鱗を。
 それでも届かぬならばDead or Aliveを乗せる。
 動作に不要な痛覚は遮断し、超視力で周囲動向への反応を補助し、他者がいれば遮蔽に活かす。より強い剣を振るいながらも、戦い続けられるよう立ち回る。
「ははははは! 面白い、面白いぞファイヴの覚者!」
 シャーロットの奮戦に、金剛は壮絶な笑みを作る。
 七星剣最強の一角の攻撃は、能力抜きの余波であっても周りの者を根絶やしにするのに充分であった。既に何十人もが犠牲となり、死体が爆発的に量産され、ファイヴの覚者達も急速な消耗を余儀なくされる。
「大丈夫ですっボクが回復しますっ!!」
 太郎丸は必死になって、潤しの滴と雨で戦線を支えた。
 紡や、同じくリングに飛び込んだ大和らも回復や援護をする。
「大妖に挑むことすら無い最強とは……強さの底が知れますな、金剛」
「そうじゃのう。全ての覚者を跪かせたら、次は大妖狩りとしゃれこもうか」
 成は鉄甲掌・還で探りを入れ、エネミースキャンを行う。
 その視線の先では、数多が間髪入れず櫻火繚乱を繰り出していた。
「櫻火真陰流、酒々井数多。炎のように、櫻のように。征きます!」
「来るが良い。この金剛、逃げも隠れもせぬ!」 
 舞い散る桜、燃え盛る焔の如く激しく美しく対象を複数回斬りつける剣戟。それらを全て生身で受け切り……それでも金剛はびくともしない。
(魂を使わないと、有効打は無理か)
 何度も拳をまみえた遥の身体はボロボロだ。今のところ何とか張り合えているのはシャーロットだけであり、そのおかげでぎりぎり持ちこたえている。やはり、最強を冠する相手。普通のやり方では傷一つ付けられず。覚悟を決めるしかない。
(魂削るのはオレがやる。少なくとも数多センパイにはやらせねえ)
 封印していた達人戦闘術を今こそ使う。
 さらに魂を使用しパワーとスピードに上乗せ。金色の輝きがその拳に宿る。
「む」
 ただならぬ気配に金剛が気付くが、シャーロットの剣が邪魔をしてコンマ数秒反応が遅れ。
 結果、奇跡の力に後押しされた遥の方が速い。光の矢となって、自分が現在放てる最大威力の爆鍛拳を見舞う。渾身の一振りは、初めて金剛を僅かばかり後退させることを強いる。
「この金剛にたたらを踏ませたか! これは敬意を表さねばなるまいな!」
 金剛の手には、いつの間にか巨大な杵が。
 数多は今が好機だと確信した。
(正直お婆ちゃんになっても強さを求めるってかっこいいと思う。だから私も強さを求めるものとして負けれない)
 遥の気持ちは嬉しい。
 だが、その遥が作ってくれたチャンスを潰すわけにはいかない。八卦の構え・極で魂を燃やす。
「ほほう! お嬢ちゃん、それはもしや!」
「そう、これは結界王の技よ。ぶっ倒して奪い取ってやったわ。貴方は何を奪い取らせてくれる?」
 金剛の本気の一打に。
 カウンターで強烈な攻撃を跳ね返す。
 耳をつんざく崩壊音、全員の視界がホワイトアウトし――次に飛び込んできたのはリングそのものが吹き飛んだ異様な光景だった。
「全員場外の無効試合で七星杯は終幕か……認めよう。そなたらは本気を出すに相応しい強者だと」
 悠然と金剛は。
 特にシャーロット、遥、数多らを見やる。
「聞け者共! これより我々金剛一派は、ファイヴの包囲殲滅を行う! ファイヴに与する輩も全て潰す! ファイヴの首を、金剛軍より先にとった者には死に様くらいは選ばせてやろうぞ!」
 完全な宣戦布告。
 騒然となった会場の敵意が、ファイヴの覚者達に向かう。
「やぁオバアチャン、お祭り台無しにしちゃってごめんね」
「構わんよ。むしろ楽しめた」
 プリンスは傷付いた仲間を抱え、紡が確保しておいた退路へと避難誘導をする。
「最後まで付き合うけどさ……殿、このヘルプ代は高くつくからね?」
 一人でも多く連れ帰る。
 追ってくる有象無象を払いのけ、覚者達は脱出を図る。
(そこまで強さに……守る為の強さではなく、蹂躙する為の強さを追求し始める様になったのか……蹂躙する強さだけでも、誰の心にも響きませんよね……?)
 大震で敵を追いおとしつつ、自問するたまきを見透かしたように。
 金剛は呟く。
「人は人を攻撃することに本能的な快感を覚える。強者たろうとすれば特に。お嬢ちゃん達も覚えの一つや二つはあるんじゃないかね?」
 身体が重い。
 追手を振り切って、見上げた空は暗く沈んでいた。
「……今日は……月が綺麗な夜になりそうですね」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
『最強が認めし者』
取得者:シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)
『最強が認めし者』
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
『最強が認めし者』
取得者:酒々井 数多(CL2000149)
特殊成果
なし




 
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