桜の木には
桜の木には



 桜咲く。
 多くの桜が植えられた、自然公園。
 満開の花々の下には、多くの人々が集まり。花見を楽しんでいた。
「綺麗な桜だねえ」
「これぞ、花見日和」
「食も進むってなもんだ」
 穏やかな日差し。
 時折吹く春風に枝が揺れ、桜吹雪が舞う。
 親子連れ、カップル、職場の同僚や学校の友達。様々な関係の人が集い、笑い合って花を愛で、用意した料理をつつく。
 よくある日本の春の光景。
 桜には不思議な魅力がある。
 人を引きつけ、人を和ませ、人を笑わせる。
 だが。
 こういう話もある。
 桜の木は、この世ならざる者を引き寄せることがあると。
「サク……サクサクサク」
「クラ、クラクラクラ」
 すっと現れる、手を繋いだ二体の妖。
 幽霊のように身体が透けた、男女が一本の桜の木の下で揺蕩う。
「コロコロコ……」
「ロ、ロスス……」
 ドス黒い殺気を込めた瞳。
 二体は、大勢の花見客達を呪い殺すように睥睨する。


「お花見の席に、妖の事件が起こることを予知しました」
 久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に依頼内容を説明する。
 各地で、桜が開花し。
 今は多くの場所で、花見日和だが。そういう所でも、妖による危険な事件は起こる。
「桜の木に誘われて、心霊系の妖が二体。ある花見会場に現れます」
 その花見会場には、二百人以上の人々で賑わっているのだが。
 この妖二体は、そんな人々を襲い出すのだという。このままでは、大勢の人々が危険にさらされることになる。
「事前に花見客を避難させると、どう妖が反応するかわからないので却って危険です。皆さんには、花見客の中に混じって妖が出現するまで待ち構えてもらい。敵が現れたら、一般人達を守りながら戦闘という流れになります」
 この心霊系妖は、幽霊のような姿をした男女。
 どうやら悲恋の末に桜の木の下で自殺を遂げた恋人の怨念が、妖となったもののようだ。そのせいか、桜に集う人々に強い敵意を抱き根絶やしにしようとする。
「今回の妖は、桜に反応するようですから。これを上手く利用すれば、敵の動きを誘導することが可能かもしれません」
 桜に魅かれて現れた妖だ。
 何か強い想いでもあるのかもしれない。使う力も、桜に関係したものが多いようだ。
「決して油断のできない相手です。皆さん、どうかお気をつけて。お花見を楽しむ人達を、どうか守ってあげてください」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.妖の撃退
2.一般人の死傷者を二十人以下に抑えること
3.なし
 今回は妖に関連するシナリオとなります。

■心霊系妖二体
 ランク2の心霊系妖が二体。
 桜に魅かれて現れ、桜に集まる人々に敵意を抱いて殺戮を開始します。桜に強く反応する特性があり。過去に、悲恋により桜の下で自殺した恋人同士の怨念が、妖と化したものの模様。
 
(主な攻撃手段)
 桜鞭  :特遠単 【出血】
 桜吹雪 :特近列 【弱体】
 桜香  :特遠味全 自然治癒 効果継続:12ターン

■自然公園
 たくさんの桜が植えられた自然公園。
 時刻は昼間。
 桜が満開状態。二百人以上の人々が、花見を楽しんでいます。そこに、紛れ込んで妖が出現するのを待ち伏せ。
 戦闘になったら、一般人達の犠牲をなるべく少なくすることを目指して、戦うことになります。

 よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年04月21日

■メイン参加者 10人■

『意識の高いドM覚者』
佐戸・悟(CL2001371)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『感情探究の道化師』
葛野 泰葉(CL2001242)


「今年も立派に咲いたでござるなあ。……最も、優雅に花見見物といえないのが、少し残念でござるが」
 『ヒカリの導き手』神祈 天光(CL2001118)は、自然公園の見事な桜を見やり目を細める。麗らかな陽気で、周りには花見客が溢れ。絶好の花見日和であった。
「お花見シーズンのこの季節、人々の笑顔が満面の桜の下で咲き誇る……いい光景だ」
 ペアを組んだ『意識の高いドM覚者』佐戸・悟(CL2001371)も、頷きつつ。折れた太い桜の木の枝を拾う。
「ところでこれを見てくれ……どう思う」
「……どう思う、とは?」
「とても……大きいだろ? これを……こうだ!」
 悟が頭にそれを括り付けて装備する。
 天光の目の前で、珍妙な格好を惜し気もなく披露して。
「これで妖が俺に攻撃を集中させてくれたらいいなと思ってね」
 ツッコミ待ち。
 守護使役のえむは、そんな主人の様子を見ながらていさつを行って妖を探していた。
 覚者達は、二人組に分かれてそれぞれ現場に入り込んでいる。花見客に紛れている『白い人』由比 久永(CL2000540)と葉柳・白露(CL2001329)の二人も、その一員である。
「桜の下には死体があるという話は怪談としては面白いが、実際化けて出てこられるのは困りものだなぁ」
「事前に知ってても助けれないとか業な職だよね、覚者って。あ、職じゃないか」
 公園内の地理から、あらかじめ安全そうな場所や避難先は決めておいてある。
 久永は桜の木を注視しながらも、子供や老人など避難の際に手が必要な者がどれくらいいるのか把握していった。白露は第六感を巡らせて妖が、居そうな場所を探した。
「……ふむ、少しでもカップルらしく見える様に手でも繋ごうか? ハハ、何戯けただけさ、折角の花見だからね、少しは雰囲気を味わう事も必要さ」
 と、『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)もおちゃらけつつ、注意深く周辺を見て、さらに第六感も発動させて妖が現れたらすぐに動けるように待機している。
 桜の樹の傍、大勢の人がにぎやかにしている付近で周囲の様子をみながら、ペアの三島 椿(CL2000061)は園内マップと見比べる。出入口場所とルートを把握して、花見客が迅速に避難できるよう検討していた。
「今のところ、異常はありません」
「了解。こちらも警戒を続けるよ」
 椿からの連絡。
 送受心・改を持つ『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は連絡役を担っている。広く公園内をカバーできるようにして、予め一般人を避難させる場所……桜の木のない場所を何か所か決めておく。
「幸せそうに大勢の人達が楽しんでいる。……この笑顔を絶対に守らなきゃ」
「いつ、妖が現れるか分からないから、気をつけないとね」
 奏空の言葉に、一緒に組む『生命の盾持ち』栗落花 渚(CL2001360)は頷いて、いつでも戦闘に入れるように機化硬の準備を怠らないようにする。
「今回のお役目は事前準備が重要じゃの」
「ええと、妖が現れるまでは、担当の待機場所の辺りをゆっくり歩いていましょうか。なるべく桜の木の近くを、お花見のふりしながら」
 『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)と上月・里桜(CL2001274)の二人も、巡回を続けている。
「周囲の様子や、花見客を避難させる場所を探さねばならぬの」
「公園の地理とか出入口の数と位置。避難するのに良さそうな場所。お花見客はどんな人がどんな状態で何人くらいいるか。それから妖がどこに現れるか、ですね」
 桜の木がない場所や、いっそのこと公園の外に避難してもらわねばならないかもしれない。樹香は超直観を活性化し、周囲に気を配りながら歩く。里桜は自分達だけでなく、守護使役の朧にも周りをていさつしていて貰った。さらに奏空同様、送受心・改を持つ里桜は連絡役の一人として彼とは少し離れた場所を担当していた。


「妖がくるわ! 逃げて!!」
 それは突然のことだった。
 椿の第六感が閃き、後方から敵の一撃をぎりぎりで躱す。
「サクサクサクサク……ラ」
 ぼんやりとした輪郭。
 身体が透けた男の姿をした、心霊系の妖が二人の覚者の前に現れた。すかさず椿はブロックに入る。
「皆さん、お花見中失礼いたします。私達はFiVEの者です。現在この場所に凶悪な妖が出現しました。奴等は桜に近づく傾向にあります。皆さんの事は我々がお守りしますのでどうか騒がず慌てずけれど迅速に避難をお願いいたします」
 泰葉は妖が現れたのを確認したら、仲間が妖をブロックしてる間にすぐさま仮面(喜)を被った。ワーズ・ワースを発動させて一般人達に避難を呼びかける。
 避難場所は桜の木がなさそうな広めの場所。
 出入り口が近い者は外へ。
「ふむ、桜に想い出がある幽霊カップルねェ……平時なら興味深い観察対象ではあるんだが、流石に花見シーズンで無差別に襲う相手だとそういう事も言ってられないね」
 妖は、その腕を桜の枝のように変化させ。
 そのまま、鞭のように鋭くしならせる。ゆらゆらと波がかかった顔には、憎悪の色が浮かんでいた。
「さて一般人の犠牲をどこまで減らせるか……お仕事と行きましょうか」
 周囲の人々は、最初何が起こっているか不審がり。
 次第に、悲鳴があがり。
 絶叫は次々と伝播していくかのようだった。
「泰葉さんと椿さんのところには、男性の妖が出たようです……先に避難誘導を開始しましょう」
 連絡を受けて、いち早く事態を知った里桜は、ていさつで探しておいた避難場所に人を集めようと動き出す。スキルを使って呼びかけ、場合によっては公園の外へと。樹香もそれを手伝うが。
「里桜さん、妖の気配じゃ」
 そんな二人の前にも、別の妖が現れる。
 こちらは女。ノイズがはしった、透明な身体から桜吹雪を吹きつけてくる。
「クラクラクラクラ……」
「すぐに、こちらのことも他のメンバーに伝えます」
 里桜は送受心・改を使って連絡を行い、ブロックに向かう。
 樹香も妖へと接近して、積極的に攻撃を仕掛けた。
「二体同時、同場所に現れてくれればよかったのじゃが、これはそれなりの対応をせねばならぬの……二手に分かれての戦闘、避難誘導と忙しくなりそうじゃ」
 棘散舞を使って、敵を痺れさせることを狙う。
 少しでも避難に役立つよう、妖をここに縛り付けるつもりだ。
(痺れを起こしたり、ワシを狙ってくるなら、周囲の被害が減るからの) 
 樹香はそっと呟き。 
 敵意に満ちた妖へと、種を付着させて踊らせる。
「ともかく、気を付けて戦うとしようぞ」
「はい、後ろには通しません」
 里桜が蒼鋼壁で、守りを固める。
 すると、妖が桜の花弁を舞わせた。幻想的な光景は、目の保養にはなるが。その実、花弁の一枚一枚が鋭い刃のようになっており。それが一般人の方へと向かう。
「ひっ!」
「危ない、です」
 間一髪、里桜のガードが間に合う。
 恐怖のあまり強かに転倒した、一般人の子供へと樹香は手を差し伸べた。
「大丈夫かの? 少し擦り剥いておるか」
 泣きじゃくる子供へと、大樹の息吹を使って傷を癒す。
 何とか、落ち着かせてここから離れさせた。
(……さて、今回のお役目は桜に恨みを持つ妖が相手じゃ。周囲には一般人が大勢いるゆえ、より気をつけて戦わねばならぬの)


「早く逃げてください!」
 奏空は、声をあげて周囲の人に避難を促していた。
 自分達はF.i.V.E.の者という事を伝え。ワーズ・ワースの力を借りて扇動を行い、送受心・改を使い広く避難指示が伝わるようにする。
「うう、怖いよう」
「大丈夫だからね!」
 怯える子供を抱きかかえ。
 できるだけ迅速に、安全な場所へと……移そうとしたところへ。桜の木周辺をていさつさせていた守護使役が、信じられないものを見つける。
「サクククククク!」
「妖? 何で、ここに……」
「皆さん、もっと離れて。危ないよ」
 現れたのは、仲間達が戦っていたはずの男性型の妖。
 21メートル以上離れるよう呼びかけていた渚が、更に距離をとるように声を張り。機化硬が施された身体を、盾とするように前に出る。
『こちら、椿よ。戦っていた妖が、姿を消したわ。今は飛行して、近くにいる人達の頭上から避難するように声を掛けて、相談していたルートを案内しているところ』
『里桜です。こちらも、妖を見失いました。檜山 樹香さんが相手を麻痺させはしましたが、私達が一般の人々を庇う隙を突かれました』
 仲間からの連絡を受け、奏空は事態の深刻さを知る。
 どうやら、この妖は活発に動き回るつもりのようだ。覚者達も人数がばらけていることと、周囲に花見客がいることで深追いができないでいた。
「妖の一体は、俺達のところに来た。増援を頼むよ」
 奏空が皆に連絡して、仲間が駆けつけてくれるまで敵のブロックへと動く。一般人へと飛びそうになる攻撃をカバーする。
「必ず全員助けるんだ!」
「サクサクサクサクク!」
 手足を桜の枝に変化させて、妖は鞭を振るってくる。
 出血が重なり、桜と一緒に鮮血が舞い散った。それが、自分の血だと認識する前に、また次の攻撃が来る。
「私にはまだこれくらいしか出来ないけど……みんなを守りたいから」
 渚は前衛として一般人との間に立ち塞がり、一般人の避難が出来るまでの時間を稼ぐ。全力で防御して、決して下がらないように自らを叱咤した。


「慌てる気持ちは分かるけど押し合いへし合いは止めろー。あと、桜の木には近づくなー」
 白露は怪我人を背負って避難させていた。
 他の組からの連絡を受けて、久永は飛行してより正確な出現位置を把握する。
「あそこか? ……皆、現場から出来るだけ離れるように」
 一般人に妖の出現を報せ、近くの避難場所もしくは出入り口へ誘導。
 手が必要なものには手を貸し、避難場所に怪我人がいた場合には回復術を施す。
「元気な者は、救急に連絡をつけるようにしてくれ」
「は、はい」
「余もここで手当ばかりしているわけにはいかぬでな」
 それくらいは一般人に頼んでも問題ないだろうと、指示を出す。
 ことはスムーズに済み。白露と久永は、いち早く自分達の近くにいた一般人の避難を済ませることが出来た。
「それでは、由比さん。連絡もあったことだし」
「先程空から確認した、妖の所へ行くとしようか」
 二人は、前線へと急行する。
 奏空と渚が、敵を引きつけている前線へと。
「サククククク!」
 駆け付けたちょうど、その時。
 妖が、また一般人目掛けて桜吹雪を向けようとしているところだった。
「ほら、大事な桜を傷つけるよ! それとも燃やそうか?」
 白露は現場に飛び込み。
 わざと見せつけるように刀で桜の木を攻撃……するフリをして気を引く。
「サクサクサクサク!!」
 効果は、絶大だった。
 妖は激昂して白露へと標的を変える。そのまま、引き離すように覚者達は動いた。
「どうやら、間に合ったようだな」
「助かったよ。ブロックを頼めるかな」
「分かった。任せてもらおうか」
 奏空は合流した仲間に、戦いを託して自分は避難誘導の役目に移る。
 久永は、周囲に害がいかぬように囮となる。敵は桜に反応するとのことだから、桜の近くから離れぬようエアブリットで的を狙う。さらに傷付いた渚達を、癒しの霧と演舞・舞衣で回復させた。
「一般人の怪我人の方にも、回復を頼むね……ほら、こっちだよ!」
 桜の木が燃えない距離で、白露は火柱を呼び出し。
 燃え盛る炎の柱が噴出し、敵の鞭を延焼させた。


「平和な光景を暴力で壊そうなどとするのは言語道断。たとえ、そこに俺達にはわからない深い恨みなどの理由があろうともね。だからその怒りも恨みも嘆きも全部俺が受け止めよう! さあ、俺を攻撃しろ! 貴様達の全力の攻撃で俺を痛めつけてくれ!」
 ハアハアと。
 悟は遭遇した女性型の妖から一般人を守っていた。
「さあ、来いよ! 貴様等が大好きな桜を付けた男がここに居るぞ! そんな一般ピーポーを攻撃するより俺を攻撃しろよ! さあさあ、もっと攻撃するんだよ!」
 蔵王を掛けて盾役として攻撃を受ける。
 ドM故に。
「クララッラララ!!!」
 煽られた妖は、覚者に攻撃を自身に集中する。もしかしたら、覚者が頭に括り付けた桜の木の枝も気に障ったのかもしれない。
「フハハハ! やってみろヨォォォ! 俺をもっと攻撃しろォォォ!!!」
 体力をどんどん削られるのと反比例するように、悟はだんだんとテンションがハイになっていき。高笑いしながら嬉々として攻撃を受け、蒼鋼壁で攻撃を反射させる。
 ……ちなみに。
「都会の者とは不可思議でござるなあ」
 と、傍らでは天光が被虐趣味っぷりに何とも神妙な顔をしていた。だが、ともかくも一般人から敵の注意が逸れているのは事実だ。
「ここは拙者らが抑えるでござる! 故に、皆の者は早くここから離れるでござる!」
 気を取り直して、天光は妖へと斬りかかる。
 海衣を使って防御を高めつつ、斬・一の構えで切りあっていく。
「神祈君、やるね!」
「守備は任せてほしいでござる」
 天光は敵の攻撃を最も受け続ける仲間が危うくなると、命力分配で自らの生命力を分け与え。一般人を庇って攻撃を受け止めながら、負傷者がいれば随時癒しの滴で治療していった。
(ドン引きの蔑みの視線もご褒美だ。倒れる時も少しでも攻撃を受けようと前のめりに!)
 そんな決意で、奮闘する悟に対し。
(被害はなるべく抑えたいでござる)
 天光は辛抱強く、フォローを行う。
 気の遠くなるような作業……しかし、彼らは最も相手を引き付けて時間を稼いでのけた。
「誰も傷つけさせない!!」
 椿が戦場へと滑りこみ、花見客を庇ってエアブリット。
 避難誘導やその後処理を素早く終わらせて、こちらの戦闘に参戦してきたのだ。そのまま味方の回復と、バッドステータス解除に努める。
「クラクラクラクラクラ!」
「さて、その感情。俺にもっと魅せてくれ!」
 泰葉も怒りの仮面に付け替え、火纏を纏う。
 回避主体で立ち回りつつ、圧撃や豪炎撃で集中攻撃を行う。強化された火力が、敵の桜吹雪を燃やし尽くす。
「来てくれたでござるか」
「お待たせしました」
「今度こそ、完全に痺れさせてやるとしようかのぅ」
 天光は安堵の息を吐く。
 里桜と樹香も、避難誘導を終えて合流した。
「しかし、桜の下には死体が眠っているというが、妖として出てくるとはの」
 樹香が再び棘散舞。
 敵の動きは確実に、鈍くなっていく。
「桜には、色々な想いが集まるということでしょうか」 
 前衛に出た里桜は、隆槍を発動。
 地面が鋭い槍のように隆起して、妖を襲う。敵は痺れた身体が上手く動かず、直撃した。
「グウウウウウウウ……!」
 覚者達の集中攻撃を受け。
 女性型の妖は唸りながら、またその場を離れ始めた。すかさずエネミースキャンをする里桜。
「どうやら、もう一体の妖の方へと助けを求めて動くつもりのようですね」
 ほとんど誘導も終了しており、敵も弱っていることから今度は決定的に離されることはない。ほどなくして、二つに分かれていたチームの戦場が入り混じる。
「サクサクサク!」
「クラクラクラ!」
「どんな悲恋を辿ったかは知らぬが、死して尚、共にあるのだから二人の絆は本物であろう。いつまでも今生にしがみついておらず、来世で幸せになってくれ」
 久永は揃った二体に対し、迷霧を張り弱らせる。更には脣星落霜で輝く星の粒を降らせ。雷獣で激しい雷を発生させた。術式の嵐が、妖達を苛む。
「なんていうかはた迷惑な奴らだね、別に桜の木の所有者でもない癖に……八つ当たり? まあなんでも良いけど面倒な事この上ない」
「悲しいことがあったんだね。……だけど、桜の花が好きで、それを楽しんでる人達を手にかけるなんて許さないよ」
 相手の自然治癒を上回るように、白露は炎撃を中心に攻撃。渚は中衛に、後衛にと移動して、命力分配と癒力活性で味方を癒す。奏空も演舞・舞音でリカバーし。
「桜は……日本人の心を癒してくれるものだろ。何があって、何を想い、そこで命を絶ったかは知らないけど……無関係の人達の幸せまで絶っていいわけないだろ! あんた達も桜が好きだったのなら……これ以上自分達の過ちで汚しちゃ駄目だ!」
 ――せめて呪縛から解き放ってあげる。……あの世で幸せになってね。
「桜の花びらと共に天へ舞え! ――飛燕!」
 奏空は目にも止まらぬ二連撃を男性型へと放ち。
 ほぼ同時に泰葉が、猛の一撃を女性型へと直撃させる。
「ああ、君達がどんな恨みがあるのかは知らないが……悪くない感情だったよ」
 物理攻撃の効果が薄い、心霊系の妖が。
 もはや、それすらも……致命打だったとばかりに弱り切っていて。
「「サク……ラ」」
 と。
 口を揃えて、消滅した。

「……確かに実らぬ物があったかもしれぬし、とてつもなく悔しかったのでござろうが、その恨みを何の関係のない人々に向けるのは良くない事でござる。過去で縛られず、未来に進めるように成仏するでござるよ」
 寺育ちの天光が、経を唱える。
 その後は、負傷者がいないか探して治療して回った。
「ふぅ……今回も良い攻めを漫喫したよ」
 悟は良い笑顔で倒れていた。
 その横で、久永は現場の桜へと視線をはしらせる。
「とんだ花見になってしまったな。桜にも害がなければよいのだが」
「無事に終わったことだし、ワシ等も花見といきたいところじゃの。お茶とおむすびを準備してきたのじゃ」
 事後処理も終えると、樹香がお弁当を取り出した。
 つい先程のことなど、嘘のように。
 桜はまだまだ散る気配もなく満開に咲き乱れる。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 皆さんの活躍で、妖は撃破。一般人の被害は十二人が負傷(避難時の転倒などを含む)、死者はなしという結果になりました。 ちなみに実はこの妖は、桜以外にももう一つ。悲恋だったこともあってか、男女ペアを襲いやすいという特性があったりもしました。
 桜も人も無事でしたし、事件後はきっと皆でお花見を楽しめたと思います。
 それでは、ご参加ありがとうございました。




 
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