古妖と妖と少年と
古妖と妖と少年と


●アヤカシが現れた、あいつらのせいだ
 時代と共に変わっていくところがある。
 妖の出現で変わっていくところがある。
 古妖はかつて町を守っていた。しかし信じる人が減り、町が街に変わることで力を失い老人と姿を変えてひっそりと暮らしていた。
 少年は妖によって両親を失い施設に居た。しかし彼らになじめずに居場所を探すために外へ飛び出していった。
 そんな二人が知り合い、やがて共に暮らしていくのには時間がかからなかった。
 けれど、世間は『お化け屋敷の少年』と彼を呼び、そして避けた。

 ある時、二人の前に妖が二体現れた。
 古妖である老人は少年を守るために戦った。
 騒ぎを知り、街の人も駆けつけてきた。
 人々は『お化け屋敷の少年とそのお化け』が妖を操っていると思い、少年を引きはがした。
 人の行いに呆然とする古妖に勇気ある覚者が一撃を放つと、老人は死に人々は歓喜した。
 少年が泣いている傍で勇気ある覚者は妖に立ち向かい、一撃のもとに倒されると、人々は恐怖に包まれた。
 そして雨が降りはじめた。

●FiVEは行く
「FiVE、出動してください。目標は妖二体、生物系および物質系、ランクは2相当」
 全てを話した久方 真由美(nCL2000003)は最後にそう告げた。
 それ以外に何が言えるのだ。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:塩見 純
■成功条件
1.妖二体の撃破
2.なし
3.なし
少年がどうとか古妖がどうとか関係ありません。街に妖が出て、人々が困ってるならFiVE出動です。

どうも、塩見です今回は普通に妖退治になります、よろしくお願いします。
詳細は以下の通りです。

●舞台
工場と団地の間を横切る河川のそばの荒れ野原。近くに古妖の家があるくらいです。
タイミング悪く天気は雨です。

●古妖
死にました。妖のそばにいます。

●少年
古妖にすがりつき泣いています。
なんででしょうか?

●人々
恐怖に駆られて逃げまどっています。
妖を倒せば皆さんは感謝されるでしょう。

●妖(生物系)
魚の頭部と恐竜の身体が合わさったような外見をしています。
爪のある腕と大きな尻尾、そして鳴き声が武器です。
・爪:物近単
・尻尾:物近列
・鳴き声:特遠単[貫3][貫:100%,60%,30%]

●妖(物質系)
錆びたV型エンジンのような頭をした金属の人間のような外見をしています。
鉄球のような右腕と排気口から出るガスが武器です。
・鉄球:物近単
・ガス:全体【弱体】

以上です、
これが現場です、よろしくお願いします。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年04月19日

■メイン参加者 8人■


●雨が降る
 ぽつぽつと雫が地面に叩きつけられ、河に波紋を作る。
 勇気ある覚者だった骸の血は洗い流され、少年の鳴き声は聞こえない。けれど二体の妖の咆哮は人々を捉え、足を竦めさせた。
 その時だった。風が流れ、雨水が弾かれる音が人々の耳を打つ。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
 真言が力となり『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)の姿を二十代の若者に変え、灼熱化する体内の炎が熱となり彼を濡らそうとする雫を蒸発させる。
 韋駄天足による加速を以って生物系の妖に立ちはだかった彼は自分の方へと視線を向けさせ、少年達から視界を逸らす。
「直ちにこちらへ逃げて来てください! 俺達はあなた達を守りに来たファイヴという組織の者です!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が声を張り上げ、避難を指示する。
「ファイヴ?」「FiVEだ!」
 人々が一斉に声を上げ歓声と共に奏空へと縋りつく。
「助けてくれ!」「あの覚者がヘマをしなかったらこんなことに……」「元はと言えばあのガキが悪いんだ!」
「落ち着いてください! 避難を! すぐに避難を!」
 保身と自己弁護で手一杯の人々を必死に宥めすかし、少年は避難を促す。ワーズワースを準備し忘れたことで人々をコントロール出来なくなり、送受信・改が無いことで雨音にかき消され正確に言葉が伝播せず、人々は我先へと彼に群がっていく。
(恐慌、無理解、挙句がそれか……やるせない話であるな)
『天狗の娘』鞍馬・翔子(CL2001349)がその様子を見て内心溜息をつく。けれど死ぬ理由にはならない。助けねばなと恐怖に怯える人々をなだめすかし、避難を促す。
『生命の盾持ち』栗落花 渚(CL2001360)も避難を促しながら泣いている少年の元へ走り、避難を促す。
「君も早く!」
「嫌だ!」
 少年が拒絶し、古妖だったモノへと覆いかぶさる。
「古妖のおじいさん、頑張ったんだね。お疲れ様……あとは私たちに任せてゆっくり休んでてね」
 渚が声をかける、しかし返ってきたのは更に強い反発。
「何を言ってるんだ! お前らがやったくせに!!」
 少年にとっては自分と古妖だけが世界だった、しかし人々が世界を壊した。だからFiVEも彼にとっては同じだった。

●泥が跳ねる
 叫ぶ少年の声に物質系の妖が頭を動かす。
「どこを見ている」
『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)が妖の前に立ち紫鋼の要塞となる盾を紡ぐ。
(一般人共の反応は往々にして正しいむしろこの少年は珍しいとも言える)
 独りを好む結唯も少年へと視線を向け考察する。けれどそれを楽しむ余裕は妖のV型の頭部より吐き出される煙によって遮られる。それは周囲に広がり駆けつけるFiVEの覚者を苦しめる力となる。
「こども、も、普通のひとだから、助ける?」
 煙の中を飛び込む翼人の少女が居た、桂木・日那乃(CL2000941)だ。彼女が作り出す浄化物質が煙と絡み合い、煙を打ち消す力を強める働きを促していく。
 何かを察した生物系の妖が鳴く、声は衝撃波となりて駆と日那乃に襲い掛かる。だが事前に示し合わせた通りに位置取りをしていた為、捕らえたのは駆のみ衝撃に耐える間に踊りこむ影が一人。
「どうした処で人間なんて手前の都合で生きてるモンだがな」
 深緋・幽霊男(CL2001229)が雑に巻かれた包帯から覗く赤の瞳で人々を横目に見ながらつぶやいた。
(誰だってそうだ。僕だってそうだ)
 匂いは雨で消えてしまうが超視力がチャンスを見つける。視力に身体が完全についていくことは出来ないがそれでもジキルハイドで妖の魚の頭を殴りつけ、太い脚を払って圧投は出来る。妖が舞い、泥が跳ね、包帯が汚れる。
「……ホントに、人間って。知れば知るたび、守りたくなくなってくるわね」
 一歩離れた位置で全てを見ていた『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)にとって、古妖との暮らしが長かった分、人の所業は愚かしく見えるのだろう。
「もちろん、こんな人たちだけじゃないんでしょうけど……はぁ。気乗りしないわ」
 だからと言って助けない訳にも行かない。醒の炎が体温を上げ、右手に炎を宿した。

●汚泥にまみれる
 縋りつく人々を落ち着かせるのに時間を浪費した。けれど誰しも命は惜しい。落ち着きを取り戻た人々は自然と戦場から離れて行き、奏空と翔子は行動の自由を得る。
 泥が跳ねるのを気にせずに探偵見習いは渚と少年達の元を駆け寄り、天狗の娘は戦う仲間の元へと向かう。
 奏空の前に居るのは古妖にしがみつく少年と困り果てる少女。
「ここは危ないから移動しよう、おじいさんも一緒だよ」
 優しく少年に告げると古妖だったモノを抱えていく、泥が服を汚していくがそんなことは気にはならなかった。
「触るな!」
 少年が縋りつく、だがその身体を渚が抱えていく。
「触るな!」
 少年が叫ぶ、二人は唇をかみしめながら人々とは離れたところに古妖の遺体を置き、少年にここにいるように告げた。
 奇異の眼が彼らに刺さる。だがそんな事はどうでもよかった。
「彼らはこの妖とは無関係です。後で説明します」
 灰色の髪は金に染まり双眸は桃色に映える。その姿と言葉に人々は押し黙る。渚も覚醒しその視線は妖へと向いていた。

 一方、妖と戦う覚者達。多彩な技を警戒して先に生物系を潰そうと駆は疾風のように駆け抜け、抜き胴に鉈を振るう。消耗は激しいが灼熱化で上乗せした威力が今必要なのだ。
 幽霊男も前に出て火打石の付いた古臭いカトラスでアマツバメが飛ぶように連撃を放つ。彼女が与えた負荷は妖生来の攻撃を封じることは能わぬが動きを減じる効果はある。
 故に先手を取ることが出来、そして自らが前に出ることで相手の戦術を限定させることが出来た。生物系の妖が背を向け、二人を巻き込むように太い尻尾の一撃を叩きつける。
 日那乃が回復に動こうとするが思いとどまる、戦いは隣でも起こっているからだ。
 少し離れた場所では結唯が一人でもう一体の妖と対峙していた。双舞刀・絶影を振るい鋼鉄の身体へと刃を立て、切れていく鋼の身。
 だが、彼女の前に立つ鋼の妖はそれを物ともせずに右腕を振り上げる。結唯が妖の腕の鉄球へと視線を移した時、既にそれは無く、彼女の腹を打っていた。肋をへし折る音がした。同時に閃光が奔り、妖の右腕から鋼が落ちる。
 生物系への攻撃方法に比べ物質系の攻撃は二種類と少なかった。けれどこの妖にとって攻撃はこの方法だけで十分だった、これだけで相手が倒せるのだから。
 すぐに日那乃が潤しの雨を呼び、汚泥に汚れた身体を洗い流し、傷を癒す。出来るだけ多くを回復をさせたいからという選択故の行動。だが完全に回復できたのは幽霊男のみ、駆とそれ以上に結唯のダメージが大きい。紫鋼塞が無ければどうなっていたか分からない。最初に選んだ選択が功を奏し、まだ自らの役目を行うことが出来た。
 ありすが右手に宿した炎を地面に叩きつける、濡れた大地を紅蓮が走り火柱となって生物系の妖を焼く。
「ふん……アンタ達に恨みはないけど、八つ当たりよ。受け取りなさい」
 ありすの言葉には八つ当たり以上の何かがあった。
「おい」
 駆が物質系の妖へ視線を向けながら幽霊男に呼びかける。
「あれ、見えたか?」
「超視力でかろうじて、けど避けられるかと言えば無理だね」
「なら急ぐか」
 言って駆がアチャラナータを振り回す。そこへ合流した翔子が放った種が棘となって成長し生物系の妖を傷つける。傷口から流れる体液が雨に洗われるがそれでも止まる気配はない。包帯姿の女が追い打ちの飛燕で切り付けると妖の咆哮が響く。
「鳴き声だ!」
 駆の声に反応して皆が動き射線をずらす。だが妖は構わずに鳴き声を放つ、一番弱っている結唯に対して。
 恐竜のような身体に傷が広がると同時に戦闘服の女は体勢を崩す。ランク2とは言われても肉食動物並みの知性は在る、故に誰を狙うかと言えば一番傷ついている者。だからこそ貫通の恩恵を無視してでも遠くに届く攻撃を選びそして、鋼の妖がそれに呼応した。
(まぁ、死ぬなら死ぬで、それは「何か」が足りない奴だからな)
 鉄球を受けて吹き飛ぶ姿を見ながら幽霊男は思い、そして口にする。
「けど、最後にそれを分けるのは、そいつが「持ってる」かどうかだ」
 吹き飛ぶ女を受け止める腕があった、細いけれど力強い腕。
「お待たせしました!」
「遅い」
 命を削った結唯は奏空の腕を振り払い、彼に紫鋼の盾を施すと再び相手に向かって歩き始めた。

●雨音をかき消して
 奏空と渚が合流したとはいえ、移動に全てを費やしたために能動的な行動に移ることは出来ない。けれど攻撃と回復の不足はこれで補える。
 日那乃による再度の潤しの雨。皆の疲労が癒され、傷が塞がっていく。その間の牽制も兼ねてだろう、ありすが前に出て叩きつけるような火柱で鋼の妖を焼く。オイルが焼けるような嫌な匂いがした。その間隙を突いて生物系が迫る。
「速くなってきたな」
 自らにかかっていた弱化が解けたように妖の負荷が解けたことを確認した幽霊男がカトラスを構えて前に出る。恐竜のような爪を掻い潜ると逆手に持ったジキルハイドを相手の延髄に当て引き寄せ、そして払う。宙を舞う妖、生まれた隙を逃さずに駆が大鉈を振るい大地に叩きつける。バウンドしたその肉体めがけて翔子が狙いを定め、圧縮空気の弾丸を撃ち込んだ。吹き飛ばされつつも立ち上がる生物系の妖、物質系の妖はその様子を見て、一瞬躊躇する……が。
「お前の相手は俺達だよ!」 
 奏空の声で目の前の対象を思い出す、傷ついたはずの黒服の女。だが、彼女の傷は暦の少年による癒しの滴で一撃に充分耐えうる状態にまで回復していた。
 結唯が舞う、愚直なまでの絶影での攻撃。岩砕の備えは相対する敵が分かれた時点で使えなくなった、それ以外の方法を考えていれば効果的に戦えたはずでその余裕も持っていた、だが行わなかった。
 故に傷は与えても決定打とならず、鉄球の洗礼を再び受ける事になる。
 だが、それも日那乃と渚がそろったことにより回復の不足は無くなった。雨と滴が彼女を癒し、再び盾となりうる力を取り戻させる。
 ありすが下がり、指を弾く。乾いた音と摩擦で火花が散り、それが炎をなって手に収まる。
「とてもアタシ好みなスキルね、これ」
 それは誰かを守るために役立ててほしいと願い託された炎。これを以って誰を守るのか……今は古妖と人をいつかは誰かを。
「全部、燃えてしまいなさい!」
 薙ぎ払う様に振り払った腕から津波のような炎が妖を飲み込んでいる。炎が呑み込む音が雨音をかき消して、蒸発した水蒸気が周囲の湿度を上げる。
 そして雨音が再び聞こえた時、妖が一体消えた。

●涙雨
 悲しみの涙が化して降ると思われる雨を涙雨という。
 もしこの雨がそうだとしたら、誰が悲しみ、涙を流しているのであろう?
 それを知る者はここには居ない。居るのは妖と覚者とそれを見守る少年と何も知らない人々だけ。

 そのうちの一人、奏空が吠える。自らの失敗を補おうとする心か、それとも反応の速い生物系の妖が消えたことで彼が機先を制する機会を得た故か、錬覇による英霊の力を引き出した覚者は小振りの双刀・天地を持って走り出す、刀を翼に見立てるように――飛燕。すれ違いざまに胴を切り、大地を蹴ってターン、懐に潜り込んで切り上げる二連の斬撃。
「ワントップだ」
「前衛を適宜入れ替えろ」
 駆と幽霊男が声を出し、左右からヒット&アウェイで攻めていく。二人の様子を見て結唯も一撃を加えるとその場から下がっていく。
 連続する斬撃に妖の鋼が割れ、原色の液が流れ出す。だが傷ついた妖はかまわないとばかりに最初に斬撃を放った少年に鉄球を叩きつけた。小柄故に跳ねるその身体、泥にまみれて立ち上がる口元に赤いものがこぼれる。
 雨足が激しくなる、それは日那乃が降らす雨。回復を促し体術の疲労を癒していく。味方の回復に専念する少女はこの戦いは見て何を感じるか、それを知るのは本人のみ、ただわかるのは……。
「被害が出るなら消す」
 いつも呟く言葉、被害を看過しないその言霊が力となり雨となり覚者達を立ち上がらせる。
 その雨を跳ねのけて翔子のエアブリットが物質系に撃ち込まれる。鉄球を振り抜いたタイミングに叩き込まれた弾丸が鋼鉄の体を揺るがせ、たたらを踏ませ、そこをありすの炎が襲う。
 渚の回復でどうにか戦える状態にまで持ち込んだ奏空が再び吠える、吠える、吠える。自分の中にいる何かが彼を動かし、そして雨雲から獣の咆哮を思わせるほどの轟音を伴う落雷を妖へ落とす。
 露出した部分から火花が散り、反射とカウンターで積み重なったダメージもあり妖の動きが止まる。それを好機と呼んだ覚者が一斉に立ち向かう。
 アリスの火柱が妖を包み、紅蓮が視界を妨げる。炎が消えると同時に翔子の投げた種が発芽し棘となって妖に亀裂を刻み。飛び込んだ結唯が絶影にてそれを広げる。
「いい仕事をする」
 幽霊男がカトラスのフリントを起こしながらつぶやくと入れ替わりに亀裂への一撃、そして火打石が落ち、炸裂音が鳴る。
 下がる包帯の女の足元に転がるのは熱を持った空薬莢。ジキルハイド、それはカトラスの仮面を被った機関銃。剣銃一対の飛燕を受け上体が反る鋼の妖、だが踏みとどまりさらに一歩踏み込むと麻痺した身体を厭わないかのように右腕を振り上げる。
「……こんなの悲しすぎるよ」
 金属音が鳴り、渚の振るった金棒が妖の腕を打ち、鉄球を跳ね上げ遮るものを無くす。
「助けられなくて済まない。本当に、すまない」
 駆が謝るのは少年に対して、少年少女への虐待には敏感な心故、放たれる斬・一の構えは重い。
 得意とする大鉈での刺突、刃は妖の背まで貫通した。
「――調伏」
 アチャラナータを引き抜き、背を向ける不動を名乗る男。
「……ダメだな俺は。ミッションだと割り切れねえや」
 自嘲の呟きと妖が崩れるのは同時だった。

●雨はやまない
 妖が消えても雨はやまない。けれど人々は集い、そして感謝の声を上げる。
「ありがとう」「ありがとう」「よくぞ化け物を倒してくれた」「流石FiVEだ!」「それに比べてあの覚者使えねえ!」「奴があんなことしなければこんな風にならなかった!」
 歓喜の声を上げる人々に奏空が冷静さを促し、そして妖と古妖の違いを説こうとする。
 けれど人々の熱狂は消えない。
「そんなことはどうだっていい!」「私たちは助かったんだ!」「俺達が安全ならそれでいいんだ!」
 出てくる言葉はやがて身勝手な自己弁護へと変わっていく。そんな彼等を咎める事は出来ないと考える奏空の心に渦巻くのは何だろう……。
「止めておけ」
 ありすが彼らの方へ向かおうとするところにまだ負傷が残っている結唯が声をかける。
「人間は自分の都合のいいようにしかものを見ない、我々があれこれ言っても無駄だ」
 だがありすは彼女の言葉を鼻で笑う様に無視し、人々の前に立ち睨みつける、第三の眼を開き、人々に恐れを抱かせるように。その姿を見て、人々は後ずさり、そして距離を置く。
 そんな人々を一瞥すると彼女は少年の方へ歩いていく。
 少年は古妖の前で正座していた。
「アンタは、これからどうするの? あの家に戻る?」
「…………」
 アリスの言葉に沈黙を続ける少年。そんな少年に覚者は声をかける。それぞれのやり方で。
「街のひとたちにいってみる、けど。古妖と君が妖操ってないって本当に知ってるのは、君だけだから。本当なら、そう言って」
「…………」
 日那乃の呼びかけに少年は沈黙する。
「……無理は言わんが、どうせなら、彼の優しさに報いる生き方をする方がいいと思うぞ」
「…………」
 翔子の言葉にも少年は答えない。
「僕んトコ来い。餓鬼の一人くらいは養える。理由は省くが、お前みたいの方が役に立ちそうだしな」
「……嫌だ」
 幽霊男の声に応えるのは拒絶の言葉。そんな彼に駆が近寄る。
「坊主、一緒に来てくれ。弔いが必要だ」
「弔い……何言ってるんだ!? おじちゃんは死んでない!」
 駆の言葉に溜め込んでいたものが壊れ、叫ぶ。少年は自分の世界が壊れたことをまだ理解できていなかった。そして覚者達はそれに気づけなかった。
「おじちゃんが死ぬわけないじゃないか、おじちゃんは古妖なんだ、だから古妖のところに帰っていったんだよ。死ぬわけないんだ、そうだよね?」
 そう信じたいという表情で問いかける少年に覚者は答えに窮する。唯一答えを返せたのは同じように古妖と生きていた赤毛の少女
「……そう、好きになさい」
 突き放す様で、それでいて優しい言葉。
「アンタがいたから、おじいさんはアンタを守ろうと戦ったのよ。それを、忘れないで」
「分かってるよ! だから……僕はおじちゃんに会いに行くんだ! どけてくれ!」
 けど、その言葉は届かない。
 やがて少年は歩き始めた、宛てもない道を。
 覚者は止めることが出来ず、人々は怖れの視線をぶつけながら道を開ける。その中を少年が歩いていき、そして人々がまた集まった頃、彼の姿は見えなくなった。
「恩も忘れ、義も忘れ。残ったのは仇だけだなんて、皮肉よね」
 少年が歩いて行った先を見つめながらありすは一人呟いた。

 ――雨は止まない。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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