≪蒐囚壁≫夢見6F51A1-459
●
F.i.V.Eと限定協力関係にある組織蒐囚壁財団より、作戦協力依頼が発生した。
内容は施設襲撃および対象の確保。
確保する対象は夢見。
取引条件は夢見をF.i.V.Eに所属在籍させ、大学施設内から出さないこと。
襲撃する施設は栃木県に存在する病院である。
表向きは重度の精神医療施設としているが、その実態は70年以上前から確認されている裏組織『能亜財団』の所有する隔離施設である。
能亜財団は怪異の完全撲滅を目的とする組織で、保護と収容を目的とする蒐囚壁財団と幾度も衝突してきた。
約20年前に覚者戦闘チームを確保した彼らは蒐囚壁財団の国内収容施設を襲撃。複数の怪異が脱走し、一部は奪取されました。
今回の目標である夢見はそうした中の一つです。
名称は、夢見6F51A1-459。
別名、青紫四五九番。
目標の詳しいデータは本作戦の趣旨と異なるため省略する。
●
任務は『(1)敷地への侵入』『(2)施設内での戦闘』『(3)目標確保後の脱出』という三段階に分かれる。
それぞれの場面で隠密性、BSスキル、防衛力が有利に働く。
詳細を説明しよう。
施設『あおぞら記念病院』は人口密集地から遠く離れた山奥に存在する。
表向きに医療施設としているため、敷地境界線は非覚者の警備員を一名ずつ交代で配置しているのみだが、それ以外の敷地境界線は特殊合金による強固な金網と高圧電流によって保護されている。
ただし施設屋上に狙撃兵が配置されており(上空も含め)常に監視を行なっているため、敷地に入る場合は『見つかる覚悟で強行突破をはかる』か『ステルス技能等で隠密に突破する』必要がある。
(※覚醒状態なら長距離狙撃に対して充分な回避行動がとれるため、この時点でのダメージは心配しなくてよい)
尚、誰か一人でも発見された場合警報装置が作動するのでそれ以降の隠密行動は保証されない。
ただし施設外で一切見つからずに裏から侵入し、操作室の非覚者1人を倒した場合に限り、施設内のシャッターを下ろして一部覚者の戦闘参加を阻止できる。
施設内では戦闘を行なう必要がある。
内部には最低でも二十人以上の覚者が透視や熱感知技能を使って巡回しているため、ここからは隠密行動がとれない。
五行因子混合の覚者だが、人数が多いため倒しながら進むというより『攻撃しながら抜ける』という形になる。
そのため相手の手数や速力を落とせるBSがあると有利になるだろう。
また、目標確保のため一時的に足止めをするメンバーも必要になる。
目標が監禁されている部屋とルートは特定済みなので、部屋へまっすぐ向かって目標を確保する。
ただし目標の夢見は足が不自由なため満足に歩くことができず、抱えて移動する必要がある。抱えている間は『目標夢見への味方ガード』以外の戦闘行動が満足に行なえないと考えて欲しい。注意されたい。
敵は目標の脱出阻止もしくは殺害処分を優先するだろう。抱えて移動するには高い防御力が求められ、その保護に回復能力者がいるとより有利だ。
施設を脱出したら迎えのヘリが来るため、即座に搭乗して撤退する。
以後の処理はF.i.V.Eと財団に任せてよいだろう。
F.i.V.Eと限定協力関係にある組織蒐囚壁財団より、作戦協力依頼が発生した。
内容は施設襲撃および対象の確保。
確保する対象は夢見。
取引条件は夢見をF.i.V.Eに所属在籍させ、大学施設内から出さないこと。
襲撃する施設は栃木県に存在する病院である。
表向きは重度の精神医療施設としているが、その実態は70年以上前から確認されている裏組織『能亜財団』の所有する隔離施設である。
能亜財団は怪異の完全撲滅を目的とする組織で、保護と収容を目的とする蒐囚壁財団と幾度も衝突してきた。
約20年前に覚者戦闘チームを確保した彼らは蒐囚壁財団の国内収容施設を襲撃。複数の怪異が脱走し、一部は奪取されました。
今回の目標である夢見はそうした中の一つです。
名称は、夢見6F51A1-459。
別名、青紫四五九番。
目標の詳しいデータは本作戦の趣旨と異なるため省略する。
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任務は『(1)敷地への侵入』『(2)施設内での戦闘』『(3)目標確保後の脱出』という三段階に分かれる。
それぞれの場面で隠密性、BSスキル、防衛力が有利に働く。
詳細を説明しよう。
施設『あおぞら記念病院』は人口密集地から遠く離れた山奥に存在する。
表向きに医療施設としているため、敷地境界線は非覚者の警備員を一名ずつ交代で配置しているのみだが、それ以外の敷地境界線は特殊合金による強固な金網と高圧電流によって保護されている。
ただし施設屋上に狙撃兵が配置されており(上空も含め)常に監視を行なっているため、敷地に入る場合は『見つかる覚悟で強行突破をはかる』か『ステルス技能等で隠密に突破する』必要がある。
(※覚醒状態なら長距離狙撃に対して充分な回避行動がとれるため、この時点でのダメージは心配しなくてよい)
尚、誰か一人でも発見された場合警報装置が作動するのでそれ以降の隠密行動は保証されない。
ただし施設外で一切見つからずに裏から侵入し、操作室の非覚者1人を倒した場合に限り、施設内のシャッターを下ろして一部覚者の戦闘参加を阻止できる。
施設内では戦闘を行なう必要がある。
内部には最低でも二十人以上の覚者が透視や熱感知技能を使って巡回しているため、ここからは隠密行動がとれない。
五行因子混合の覚者だが、人数が多いため倒しながら進むというより『攻撃しながら抜ける』という形になる。
そのため相手の手数や速力を落とせるBSがあると有利になるだろう。
また、目標確保のため一時的に足止めをするメンバーも必要になる。
目標が監禁されている部屋とルートは特定済みなので、部屋へまっすぐ向かって目標を確保する。
ただし目標の夢見は足が不自由なため満足に歩くことができず、抱えて移動する必要がある。抱えている間は『目標夢見への味方ガード』以外の戦闘行動が満足に行なえないと考えて欲しい。注意されたい。
敵は目標の脱出阻止もしくは殺害処分を優先するだろう。抱えて移動するには高い防御力が求められ、その保護に回復能力者がいるとより有利だ。
施設を脱出したら迎えのヘリが来るため、即座に搭乗して撤退する。
以後の処理はF.i.V.Eと財団に任せてよいだろう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.目標(夢見)の確保
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
夢見、青紫四五六番の人格についての記述より。
青紫四五六番はきわめて閉鎖的な性格であるとされ、
好意的な会話は望めないだろうと記述されている。
彼女を財団が発見したのは第一次妖抗争以降で、
国内収容施設で保護されていた。当時の年齢は五歳。
当人が外出や他者との交流を好まなかったため、
生活に支障はなかったそうだ。
また当時から既に足は充分にうごかず、
質問には先天的な脳障害によるものだと話した。
この後能亜財団のもとで二十年近く経過しているため、
人格がどのように変化しているかは不明。
財団から派遣された博士によると『明るく社交的な人間性を期待すべきではない』とのこと。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年04月21日
2016年04月21日
■メイン参加者 8人■

●『あおぞら記念病院』
樹木に紛れるようにして、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)たちは身を潜めていた。
視線の先には目標の建物『あおぞら記念病院』が聳え立っている。
手を尽くして手に入れた地図と改めて見比べてみたが、財団から提供されたルート情報と明らかに異なっている。ダミー情報だ。
将棋で一手差し間違えたような感覚に、千景は内心で舌打ちした。
「それにしても、あれが病院ですか。とてもそうは……」
納屋 タヱ子(CL2000019)は目を細める。
病院らしいのは外壁の白さだけで、鉄格子と有刺鉄線で覆われた建物は病気を治療する意図をみじんも感じさせない。
おまけに狙撃銃を装備した監視員に小銃をさげた警備員。
すぐそばに待機している緒形 逝(CL2000156)の弁を借りるなら『露骨に収容所と言っているようなもの』だ。
野武 七雅(CL2001141)は素直に施設の大きさに驚いているだけのようだが。
七雅は仲間の顔ぶれを改めて観察する。
慎重な千景。油断ならない逝。
そして施設をにらんでいる春野 桜(CL2000257)。彼女も仲間たち同様この組織に疑問を持っているのかと思ったが、目に浮かんでいる殺意は酷くどろりとしたものだった。もはや妄執とすらとれる。
そして残る三人の仲間は、と。
病院敷地内でじっと息を潜めて動かない『小さなかたまり』に視線を移した。
小さなかたまり。もとい離宮院・太郎丸(CL2000131)は動けずにいた。
肉眼視認距離ではないが、明らかに屋上のスナイパーがこちらに向いている。
≪迷彩≫で芝生に紛れてはいるが、動こうものなら発見されてしまうだろう。
『動けませんか?』
足音を殺して先行している仲間から≪送受心≫通信が入ってくる。
≪ステルス≫状態の『教授』新田・成(CL2000538)と『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)である。監視状態ではあるのでゆっくりとした移動だが、それでも太郎丸よりペースが早い。太郎丸は小さく頷いた。
『先に行ってください。ボクは少しでも近づいておきます』
成と燐花は頷き合い、忍び歩きを再開した。
●能亜財団武装拠点栃木支部(千景の回収した資料より)
成と燐花が裏口へ到達するまで苦労はなかった。大事なのはここからである。
スチール扉のノブをゆっくりと回し、なかを覗き込む。
ハンバーガーを食べながら監視カメラを眺める警備員が一人。サーバーからコーヒーをいれている所だ。
音を立てるのは最小限。時間も最小限。その上で最大効果。
そう考えた場合、役割分担は自然に決まった。
成が大きくドアを開け放ち、吹き込んだ風に振り返った警備員の眼前十センチの距離まで燐花が急速接近。
顎と頭に両手を添えると、素早く捻って気絶させた。
崩れ落ちる警備員を抱えて騒音を軽減。
一方で茂零れそうになったコーヒーを奪ってから席につき、操作盤を眺めた。
「わかりますか?」
「見慣れない装置ですが……なに、学はこういうときに役立つ者です」
≪エレクトロテクニカ≫で操作盤を素早くいじり回し、警報装置を事前に消しつつ必要な箇所のシャッターを下ろしていく。更に敷地周辺に巡らせた高圧電流をカットした(ボーナス効果)。
成は警備員が口をつけていないらしいコーヒーを一口飲んだ。
『準備完了、突入を開始して下さい』
施設内部、待機室。
眼鏡の男は受話器を置いて首を振った。
「施設内のシャッターが下りているようだ」
室内には彼を含めて四人。それぞれコードーネームで呼び合っている覚者だ。
眼鏡の男はセオリイ。若い青年がモノクロ。彼と同年代の男女がブラックとイエロウだ。
「警報は出ていないんでしょ? 故障でもした?」
「どうせ警備員がコーヒーでもこぼしたんだ。俺が注意してくる」
「一応外の警備員に様子を確認させたほうがいいわ。監視映像を回して」
モニタースイッチを入れる。すると施設裏側の映像が集音マイクからの音声つきで……。
『かねめのものをうばえー! 覚者が守ってるんだ、きっとあるはずだー!』
(彼らは知らないが)タヱ子の声と、彼女を抱えて猛然とダッシュする逝が映った。
四人は顔を見合わた。
施設へ最初に突入したのは逝たち……ではない。
じりじりと匍匐で距離をつめていた太郎丸である。
ダッシュしてくる逝たちに小銃の狙いを定めた途端に迷彩を解除、太郎丸は一旦蹴りによって銃を跳ね上げると、召喚した雷雲からスパークを放った。
裏口への侵入は失敗したが、シャッター作動から突入までのタイムラグを減らすことができたのだ。
「今です、早く!」
ハンドサインを出す太郎丸。彼に続くように仲間たちが施設に突入していく。
そんな彼らを出迎えたのは能亜財団の覚者ブラックとモノクロである。
「貴様らの欲するものなどない。今すぐ帰れ」
「この施設を見つけたからにはタダじゃ返さないけどね!」
手始めにとモノクロが召雷を放ってくる。
対して、七雅が杖を地面と水平に翳した。
「まけないのっ」
七雅の周囲を螺旋状にあぶくがわき上がり、仲間たちへと拡散していく。
あぶくがはじけて電撃と打ち合い、消臭スプレーの要領でダメージを打ち消していった。
完全に打ち消すには少々足りないが、暫く粘るには十分な回復量である。
「相手も覚者か、ならば」
大剣を抜くモノクロ。
彼の斬撃を桜は出刃包丁によってガードした。本来なら刃こぼれどころか柄から折れそうな包丁だが、わき上がる妄執にも似たエネルギーがヒビ一ついれさせない。
「死ね」
桜はそうとだけ唱えると、袖の下から深緑鞭を解き放った。
モノクロの腕に巻き付いて締め付けるツル。
引きちぎって離れることはできるが、その一手が致命的な隙になることは桜の殺意と妄執にまみれた目を見れば分かる。
日常の中にも存在する、『攻撃する理由を血眼で探しているタイプの人間』だ。触れればやけどする。逃げてもやけどする。
心理的膠着状態。
しかし、モノクロはあえて刺激するようなことを言った。
「貴様にどんな事情があっても、俺は貴様を止める!」
「なら死ね、クズは死ね!」
噛みつくほどに身を乗り出すと、桜は猛攻を開始した。
その横を抜けるように太郎丸たちが走って行く。
「ブラック!」
「分かってるって!」
柄の長いトンファーを構えたブラックが太郎丸に殴りかかる。
が、太郎丸はガードも回避もしない。
なぜなら信じているからだ。
何を?
「いわゆる、『ここは任せて先に行け』というやつですね」
コンバットナイフを構えて割り込んだ千景をだ。
ハンドガンを足下に発砲。途端、波紋のように振動が伝わりブラックとブラウンを同時に撥ね飛ばした。
後から到着したイエロウ。彼女が想定以上の覚者の数に一歩引いていなかれば振動に巻き込まれていただろう。
イエロウはホルスターから銃を抜くと、両手で握って狙いを定めた。
狙いはタヱ子を抱えて走る逝だ。
「止まりなさい! ここの人たちには手を出させないわよ!」
「……」
逝は一言たりとも応えない。ヘルメットの下で何事か言った筈だが、それはタヱ子くらいにしか聞こえなかった。
イエロウは発砲。対してタヱ子はシールドを発生させると逝の前に翳した。
弾が弾かれ、ガラスに当たる。防弾らしく小さなヒビしか入らない。千景や逝はその様子を見て窓からの脱出を想定の中から消した。
逆に言えば、シャッターによって閉じ込めた敵覚者がすぐに窓を割って回り込んでくる危険が無いことも示している。これはこれでよしだ。
さておき。
「つかまってなさいよ」
逝はタヱ子にそう言うと、慣性の法則で壁を走り始めた。更に壁を蹴って天井スレスレを飛び、イエロウの頭上を越えて行く。
「……」
逝の読みとしては、タヱ子を抱えたまま≪韋駄天足≫で走る速度は通常の二倍弱といった所だ。それでもブラックやブラウンたちが走って追いつけない速度は出せた(ボーナス効果)。
夢見が収容されている部屋までのルートは頭に入っている。
途中妨害らしい妨害もなく部屋の前までたどり着いた……のだが。
「念のため来て置いて正解、だったな」
眼鏡を指で押し上げ、セオリイが部屋の前に陣取っていた。
急ブレーキをかける逝。彼を倒さない限り先には進めないだろう。
「お姫様抱っこか? 羨ましいね、俺にも抱かせてくれよ可愛いお嬢さん」
「…………」
タヱ子は巻いたスカーフ越しに顔をしかめた。
夢見を酷い環境に押し込めている連中と聞いたので、きっとモヒカンヘアーでトゲのついた肩パッドをした連中だと思っていたのだが、自分たちとさして変わらないではないか。
「そこをどきなさい!」
「デートしてくれたら考えてもいいぜ」
にらみ合いだ。戦闘は避けられないが、ここで時間をくっては先行した意味が無い。
そう考えていると。
「待ちなさいあんたたち!」
「あわわ、おくれてごめんなのぉ!」
同じ方向から七雅とイエロウが追いついてきた。
他のメンバーなら戦闘を任せられたが七雅は回復主体。少々分が悪い。
逝が戦闘モードを開封しようかと考えた所で、天井のパネルが開いて燐花が降ってきた。
「久々に名乗っておきましょう。十天、柳と申します。あなたの大事なものはこちらにいただきます」
●「任務は周辺に存在する全ての怪異(古妖)の破壊」(千景の回収した資料より)
屋上のスナイパーたち三人は電話機を手に困惑していた。
「今からでも下へ行くか?」
「その必要はありませんよ」
ドアを開けて現われる成。
サブウェポンにしていた拳銃を抜いて成へ向けた。
「そこを動くな、名前と所属を言っ――」
言葉の裏で『しゃらん』という音がした。
途端、銃を構えた男の腕が切りつけられ血を吹いた。
それを目視した時には既に成は仕込み杖を抜いている。仲間が反撃しようとした頃には納刀して地に着けていた。
隆槍が飛び出し、建物の外にスナイパーを突き落とす。
「外側から援護することにしましょう。では、近道を」
残り一人が銃を発砲したが、杖で弾丸を弾いて急接近。スナイパーを抱えると、自ら屋上から飛び降りた。
セオリイと燐花は戦闘を繰り広げていた。
どちらかと言えば燐花が不利。
クナイ二刀流でスピードアタックを得意とする燐花に対し、セオリイはカウンターや防御に秀でていたからだ。
「積極的だなあおい。続きはベッドの上でしないか?」
「下品な人は嫌いです」
燐花は『あの人』と同年代らしいセオリイに露骨な嫌悪感を発していた。軽薄そうな振る舞いは同じだが、セオリイからは女を金で買うような陰湿さを感じるのだ。
だがいつまでも戦闘を続けてはいられまい。
既に逝たちは夢見を抱えて脱出を始めている。セオリイの足止めはほどほどにして逃げなくては……。
「そろそろ帰りたいのですが」
「美女はその日のうちに帰さないことにしてるんでね」
素早く飛び退こうとした燐花の腕を、がしりと掴むセオリイ。
「聞きたいことが山ほど――」
「その手を離しなさい」
セオリイの腕に出刃包丁が突き刺さった。
「間違えたわ。外すわよ」
レバーでも引くように、刺さった包丁をひねり下ろす桜。
『春野さん』
『先に行って。私はこの男を殺すから』
桜は燐花を先に逃がすと、手にした斧をセオリイの顔面めがけて叩き込んだ。
額で迎撃するセオリイ。通常ならスイカ割り状態となる頭はしかし、桜の斧を跳ね返す。
思わずのけぞった桜の首を掴み、セオリイはその場に投げ倒した。
「女学生の次は主婦か。悪くないねえ」
「口の中をズタズタにしてから殺す」
桜は猛毒性のつばを吐きつけた。
入り口付近では千景と太郎丸がまだ戦闘を続けていた。
相手はモノクロとブラックだ。
「気づいたかブラック、こいつら動きが変わった」
「逃げる気だよね」
入り口を通すまいと動いていた彼らは、千陽たちが引き下がろうとした段階で『逃がすまい』にシフトチェンジした。
出口に立ち塞がる二人に、千景と太郎丸が挑みかかる状態である。
「切り開きます!」
太郎丸がノートを開き、鉛筆で書き込まれた文字が空中へ大量に浮き上がる。それらがはじけ、電撃となって相手に襲いかかった。
対する二人は電撃を防御すらせずに突撃してくる。
このまま屋内に押し込むつもりだろう。
千陽は一旦ノックバック戦法をやめ、ナイフを構えてのタックルを仕掛けた。
モノクロの大剣が千陽の肩に深くめり込み、同時にモノクロの肺付近をナイフが貫く。
千景は肩から先が動かなくなったが、肺をやられたモノクロは呼吸を整えるまでの数十秒をロスすることになる。
そこへ、スナイパーをクッションにして屋上から落ちてきた成が参戦。B.O.T.の乱射によってブラックへバックアタックをかけていく。顔をしかめるブラック。
「なんでこんなことすんだよ! お前ら覚者だろ、人間の味方だろ! なのに!」
「それは……」
太郎丸が応えようとしたところで、千陽が制止した。
「時間稼ぎは終わりです。撤収しましょう」
途端、彼らの頭上を飛び越えるように逝が現われた。
彼の両腕には七雅と夢見。そして肩車に跨がるようにタヱ子が乗っていた。
時間を遡って説明しよう。
燐花の参戦によってセオリイのガードを抜けることに成功した逝たちは、室内で悠長に本を読んでいた夢見を発見した。
タヱ子は当初、『こんな所に閉じ込められていた可哀想な夢見さんにどう声をかけたものか』と考えていた。それは千景や太郎丸も同じで、共通した懸念事項だった。
が。
懸念は夢見を目視した瞬間解消された。
夢見『青紫四五九番』は喪服の女性だった。
既に死んでいるのではと思うほど顔は青白く、被ったベールや無表情のせいで死体や人形を思わせる。
椅子に腰掛けての読書だが、本は『人間失格』。
いまドア一枚むこうで戦闘が起きているというのに、本から目すら離さない。
「あなた方が現われることを――」
そこでようやく本から手を離した。
重力に引かれて落ちる本。『置く』とか『閉じる』という行為をせず、ただ捨てたようにすら見えた。
「予め知っていました」
「えっと……」
「あなた方には、簡単なことだったでしょう」
タヱ子が困っていると、逝が夢見を抱え上げた。
「話は後。持って行きたいものは?」
「血と骨さえあれば」
「あいよ」
逝は七雅も一緒に抱えると、スッと身を屈めた。
タヱ子はスカートを押さえてそこに跨がると、ヘルメットを叩いた。
扉を開いて飛び出す逝一行。
それを見て驚いたのはセオリイとイエロウ、でもって燐花である。
「その――その子を離しなさい!」
イエロウが闇雲に銃を乱射。
タヱ子が防御するが、シールドの隙間を縫うように弾が逝に命中した。
歯を食いしばるイエロウ。
「謝らないわよ。アンタが人の手に渡れば人類が――!」
「どうぞご勝手に」
これが、この場で夢見との間で交わされた唯一の会話である。
逝は出口めがけてダッシュを開始。
七雅はタヱ子を中心に回復の霧を発生。
タヱ子はシールドを翳して防御。
全員一塊になった逝一行はイエロウの追跡を受けながら走った。
さすがにここまで抱えては通常スピードしか出ない。夢見だけ抱えて走ると防御と回復を担当する二人を置き去りにしてしまうので、ここは仕方の無いスピードダウンである。
角を曲がる前に、七雅は杖を突き出して叫んだ。
「おっかけてこないでなのぉ!」
薄氷を解き放つ七雅。直撃を受けたイエロウはカーブを曲がりきれずに壁に激突。
身体を起こし、銃を乱射しながら叫んだ。
「絶対取り返すからね、アンタは……!」
イエロウは振り切った。
問題は途中の戦闘エリアだ。
出口付近のモノクロとブラック。
『あの二人をどう突破しましょうか……』
『それなら、タイミングを合わせましょう』
千景たちからの通信だ。
逝は頷いて、カウントを開始した。
入り口まで十秒。
五秒。
三秒。
千景が銃を足下へ向け、太郎丸が雷雲を生み、成が地面に杖を立てる。
振動弾と雷撃、隆槍による一斉攻撃が放たれると同時に彼らの上を逝たちは飛び越えた。
タイミングを合わせるようにして地面すれすれへ接近するヘリ。
ここまで無事に接近できたのは成がスナイパーたちを倒していたからだ(ボーナス効果)。
逝は幅の大きなホップステップジャンプでヘリの中へと飛び込んだ。
頭をごつんとぶつけたタヱ子を覗けば、七雅や夢見は無傷である。
残りの仲間を後続のヘリに任せ、再び上空に上がる。
その場に放り出された夢見は、身体を起こして遠くなる施設を見下ろした。
肩に手を添える七雅。
「……」
言葉には出さないが、七雅は彼女の未来を案じていた。
果実の味を知らない者が川の水を飲むことに不満を漏らさぬように、夢見は幸福を知らないのだろう。
いずれきっと心を開く未来が訪れますようにと、七雅は祈った。
この後、ギリギリまで残った桜を回収してから彼らは現地から撤収した。
樹木に紛れるようにして、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)たちは身を潜めていた。
視線の先には目標の建物『あおぞら記念病院』が聳え立っている。
手を尽くして手に入れた地図と改めて見比べてみたが、財団から提供されたルート情報と明らかに異なっている。ダミー情報だ。
将棋で一手差し間違えたような感覚に、千景は内心で舌打ちした。
「それにしても、あれが病院ですか。とてもそうは……」
納屋 タヱ子(CL2000019)は目を細める。
病院らしいのは外壁の白さだけで、鉄格子と有刺鉄線で覆われた建物は病気を治療する意図をみじんも感じさせない。
おまけに狙撃銃を装備した監視員に小銃をさげた警備員。
すぐそばに待機している緒形 逝(CL2000156)の弁を借りるなら『露骨に収容所と言っているようなもの』だ。
野武 七雅(CL2001141)は素直に施設の大きさに驚いているだけのようだが。
七雅は仲間の顔ぶれを改めて観察する。
慎重な千景。油断ならない逝。
そして施設をにらんでいる春野 桜(CL2000257)。彼女も仲間たち同様この組織に疑問を持っているのかと思ったが、目に浮かんでいる殺意は酷くどろりとしたものだった。もはや妄執とすらとれる。
そして残る三人の仲間は、と。
病院敷地内でじっと息を潜めて動かない『小さなかたまり』に視線を移した。
小さなかたまり。もとい離宮院・太郎丸(CL2000131)は動けずにいた。
肉眼視認距離ではないが、明らかに屋上のスナイパーがこちらに向いている。
≪迷彩≫で芝生に紛れてはいるが、動こうものなら発見されてしまうだろう。
『動けませんか?』
足音を殺して先行している仲間から≪送受心≫通信が入ってくる。
≪ステルス≫状態の『教授』新田・成(CL2000538)と『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)である。監視状態ではあるのでゆっくりとした移動だが、それでも太郎丸よりペースが早い。太郎丸は小さく頷いた。
『先に行ってください。ボクは少しでも近づいておきます』
成と燐花は頷き合い、忍び歩きを再開した。
●能亜財団武装拠点栃木支部(千景の回収した資料より)
成と燐花が裏口へ到達するまで苦労はなかった。大事なのはここからである。
スチール扉のノブをゆっくりと回し、なかを覗き込む。
ハンバーガーを食べながら監視カメラを眺める警備員が一人。サーバーからコーヒーをいれている所だ。
音を立てるのは最小限。時間も最小限。その上で最大効果。
そう考えた場合、役割分担は自然に決まった。
成が大きくドアを開け放ち、吹き込んだ風に振り返った警備員の眼前十センチの距離まで燐花が急速接近。
顎と頭に両手を添えると、素早く捻って気絶させた。
崩れ落ちる警備員を抱えて騒音を軽減。
一方で茂零れそうになったコーヒーを奪ってから席につき、操作盤を眺めた。
「わかりますか?」
「見慣れない装置ですが……なに、学はこういうときに役立つ者です」
≪エレクトロテクニカ≫で操作盤を素早くいじり回し、警報装置を事前に消しつつ必要な箇所のシャッターを下ろしていく。更に敷地周辺に巡らせた高圧電流をカットした(ボーナス効果)。
成は警備員が口をつけていないらしいコーヒーを一口飲んだ。
『準備完了、突入を開始して下さい』
施設内部、待機室。
眼鏡の男は受話器を置いて首を振った。
「施設内のシャッターが下りているようだ」
室内には彼を含めて四人。それぞれコードーネームで呼び合っている覚者だ。
眼鏡の男はセオリイ。若い青年がモノクロ。彼と同年代の男女がブラックとイエロウだ。
「警報は出ていないんでしょ? 故障でもした?」
「どうせ警備員がコーヒーでもこぼしたんだ。俺が注意してくる」
「一応外の警備員に様子を確認させたほうがいいわ。監視映像を回して」
モニタースイッチを入れる。すると施設裏側の映像が集音マイクからの音声つきで……。
『かねめのものをうばえー! 覚者が守ってるんだ、きっとあるはずだー!』
(彼らは知らないが)タヱ子の声と、彼女を抱えて猛然とダッシュする逝が映った。
四人は顔を見合わた。
施設へ最初に突入したのは逝たち……ではない。
じりじりと匍匐で距離をつめていた太郎丸である。
ダッシュしてくる逝たちに小銃の狙いを定めた途端に迷彩を解除、太郎丸は一旦蹴りによって銃を跳ね上げると、召喚した雷雲からスパークを放った。
裏口への侵入は失敗したが、シャッター作動から突入までのタイムラグを減らすことができたのだ。
「今です、早く!」
ハンドサインを出す太郎丸。彼に続くように仲間たちが施設に突入していく。
そんな彼らを出迎えたのは能亜財団の覚者ブラックとモノクロである。
「貴様らの欲するものなどない。今すぐ帰れ」
「この施設を見つけたからにはタダじゃ返さないけどね!」
手始めにとモノクロが召雷を放ってくる。
対して、七雅が杖を地面と水平に翳した。
「まけないのっ」
七雅の周囲を螺旋状にあぶくがわき上がり、仲間たちへと拡散していく。
あぶくがはじけて電撃と打ち合い、消臭スプレーの要領でダメージを打ち消していった。
完全に打ち消すには少々足りないが、暫く粘るには十分な回復量である。
「相手も覚者か、ならば」
大剣を抜くモノクロ。
彼の斬撃を桜は出刃包丁によってガードした。本来なら刃こぼれどころか柄から折れそうな包丁だが、わき上がる妄執にも似たエネルギーがヒビ一ついれさせない。
「死ね」
桜はそうとだけ唱えると、袖の下から深緑鞭を解き放った。
モノクロの腕に巻き付いて締め付けるツル。
引きちぎって離れることはできるが、その一手が致命的な隙になることは桜の殺意と妄執にまみれた目を見れば分かる。
日常の中にも存在する、『攻撃する理由を血眼で探しているタイプの人間』だ。触れればやけどする。逃げてもやけどする。
心理的膠着状態。
しかし、モノクロはあえて刺激するようなことを言った。
「貴様にどんな事情があっても、俺は貴様を止める!」
「なら死ね、クズは死ね!」
噛みつくほどに身を乗り出すと、桜は猛攻を開始した。
その横を抜けるように太郎丸たちが走って行く。
「ブラック!」
「分かってるって!」
柄の長いトンファーを構えたブラックが太郎丸に殴りかかる。
が、太郎丸はガードも回避もしない。
なぜなら信じているからだ。
何を?
「いわゆる、『ここは任せて先に行け』というやつですね」
コンバットナイフを構えて割り込んだ千景をだ。
ハンドガンを足下に発砲。途端、波紋のように振動が伝わりブラックとブラウンを同時に撥ね飛ばした。
後から到着したイエロウ。彼女が想定以上の覚者の数に一歩引いていなかれば振動に巻き込まれていただろう。
イエロウはホルスターから銃を抜くと、両手で握って狙いを定めた。
狙いはタヱ子を抱えて走る逝だ。
「止まりなさい! ここの人たちには手を出させないわよ!」
「……」
逝は一言たりとも応えない。ヘルメットの下で何事か言った筈だが、それはタヱ子くらいにしか聞こえなかった。
イエロウは発砲。対してタヱ子はシールドを発生させると逝の前に翳した。
弾が弾かれ、ガラスに当たる。防弾らしく小さなヒビしか入らない。千景や逝はその様子を見て窓からの脱出を想定の中から消した。
逆に言えば、シャッターによって閉じ込めた敵覚者がすぐに窓を割って回り込んでくる危険が無いことも示している。これはこれでよしだ。
さておき。
「つかまってなさいよ」
逝はタヱ子にそう言うと、慣性の法則で壁を走り始めた。更に壁を蹴って天井スレスレを飛び、イエロウの頭上を越えて行く。
「……」
逝の読みとしては、タヱ子を抱えたまま≪韋駄天足≫で走る速度は通常の二倍弱といった所だ。それでもブラックやブラウンたちが走って追いつけない速度は出せた(ボーナス効果)。
夢見が収容されている部屋までのルートは頭に入っている。
途中妨害らしい妨害もなく部屋の前までたどり着いた……のだが。
「念のため来て置いて正解、だったな」
眼鏡を指で押し上げ、セオリイが部屋の前に陣取っていた。
急ブレーキをかける逝。彼を倒さない限り先には進めないだろう。
「お姫様抱っこか? 羨ましいね、俺にも抱かせてくれよ可愛いお嬢さん」
「…………」
タヱ子は巻いたスカーフ越しに顔をしかめた。
夢見を酷い環境に押し込めている連中と聞いたので、きっとモヒカンヘアーでトゲのついた肩パッドをした連中だと思っていたのだが、自分たちとさして変わらないではないか。
「そこをどきなさい!」
「デートしてくれたら考えてもいいぜ」
にらみ合いだ。戦闘は避けられないが、ここで時間をくっては先行した意味が無い。
そう考えていると。
「待ちなさいあんたたち!」
「あわわ、おくれてごめんなのぉ!」
同じ方向から七雅とイエロウが追いついてきた。
他のメンバーなら戦闘を任せられたが七雅は回復主体。少々分が悪い。
逝が戦闘モードを開封しようかと考えた所で、天井のパネルが開いて燐花が降ってきた。
「久々に名乗っておきましょう。十天、柳と申します。あなたの大事なものはこちらにいただきます」
●「任務は周辺に存在する全ての怪異(古妖)の破壊」(千景の回収した資料より)
屋上のスナイパーたち三人は電話機を手に困惑していた。
「今からでも下へ行くか?」
「その必要はありませんよ」
ドアを開けて現われる成。
サブウェポンにしていた拳銃を抜いて成へ向けた。
「そこを動くな、名前と所属を言っ――」
言葉の裏で『しゃらん』という音がした。
途端、銃を構えた男の腕が切りつけられ血を吹いた。
それを目視した時には既に成は仕込み杖を抜いている。仲間が反撃しようとした頃には納刀して地に着けていた。
隆槍が飛び出し、建物の外にスナイパーを突き落とす。
「外側から援護することにしましょう。では、近道を」
残り一人が銃を発砲したが、杖で弾丸を弾いて急接近。スナイパーを抱えると、自ら屋上から飛び降りた。
セオリイと燐花は戦闘を繰り広げていた。
どちらかと言えば燐花が不利。
クナイ二刀流でスピードアタックを得意とする燐花に対し、セオリイはカウンターや防御に秀でていたからだ。
「積極的だなあおい。続きはベッドの上でしないか?」
「下品な人は嫌いです」
燐花は『あの人』と同年代らしいセオリイに露骨な嫌悪感を発していた。軽薄そうな振る舞いは同じだが、セオリイからは女を金で買うような陰湿さを感じるのだ。
だがいつまでも戦闘を続けてはいられまい。
既に逝たちは夢見を抱えて脱出を始めている。セオリイの足止めはほどほどにして逃げなくては……。
「そろそろ帰りたいのですが」
「美女はその日のうちに帰さないことにしてるんでね」
素早く飛び退こうとした燐花の腕を、がしりと掴むセオリイ。
「聞きたいことが山ほど――」
「その手を離しなさい」
セオリイの腕に出刃包丁が突き刺さった。
「間違えたわ。外すわよ」
レバーでも引くように、刺さった包丁をひねり下ろす桜。
『春野さん』
『先に行って。私はこの男を殺すから』
桜は燐花を先に逃がすと、手にした斧をセオリイの顔面めがけて叩き込んだ。
額で迎撃するセオリイ。通常ならスイカ割り状態となる頭はしかし、桜の斧を跳ね返す。
思わずのけぞった桜の首を掴み、セオリイはその場に投げ倒した。
「女学生の次は主婦か。悪くないねえ」
「口の中をズタズタにしてから殺す」
桜は猛毒性のつばを吐きつけた。
入り口付近では千景と太郎丸がまだ戦闘を続けていた。
相手はモノクロとブラックだ。
「気づいたかブラック、こいつら動きが変わった」
「逃げる気だよね」
入り口を通すまいと動いていた彼らは、千陽たちが引き下がろうとした段階で『逃がすまい』にシフトチェンジした。
出口に立ち塞がる二人に、千景と太郎丸が挑みかかる状態である。
「切り開きます!」
太郎丸がノートを開き、鉛筆で書き込まれた文字が空中へ大量に浮き上がる。それらがはじけ、電撃となって相手に襲いかかった。
対する二人は電撃を防御すらせずに突撃してくる。
このまま屋内に押し込むつもりだろう。
千陽は一旦ノックバック戦法をやめ、ナイフを構えてのタックルを仕掛けた。
モノクロの大剣が千陽の肩に深くめり込み、同時にモノクロの肺付近をナイフが貫く。
千景は肩から先が動かなくなったが、肺をやられたモノクロは呼吸を整えるまでの数十秒をロスすることになる。
そこへ、スナイパーをクッションにして屋上から落ちてきた成が参戦。B.O.T.の乱射によってブラックへバックアタックをかけていく。顔をしかめるブラック。
「なんでこんなことすんだよ! お前ら覚者だろ、人間の味方だろ! なのに!」
「それは……」
太郎丸が応えようとしたところで、千陽が制止した。
「時間稼ぎは終わりです。撤収しましょう」
途端、彼らの頭上を飛び越えるように逝が現われた。
彼の両腕には七雅と夢見。そして肩車に跨がるようにタヱ子が乗っていた。
時間を遡って説明しよう。
燐花の参戦によってセオリイのガードを抜けることに成功した逝たちは、室内で悠長に本を読んでいた夢見を発見した。
タヱ子は当初、『こんな所に閉じ込められていた可哀想な夢見さんにどう声をかけたものか』と考えていた。それは千景や太郎丸も同じで、共通した懸念事項だった。
が。
懸念は夢見を目視した瞬間解消された。
夢見『青紫四五九番』は喪服の女性だった。
既に死んでいるのではと思うほど顔は青白く、被ったベールや無表情のせいで死体や人形を思わせる。
椅子に腰掛けての読書だが、本は『人間失格』。
いまドア一枚むこうで戦闘が起きているというのに、本から目すら離さない。
「あなた方が現われることを――」
そこでようやく本から手を離した。
重力に引かれて落ちる本。『置く』とか『閉じる』という行為をせず、ただ捨てたようにすら見えた。
「予め知っていました」
「えっと……」
「あなた方には、簡単なことだったでしょう」
タヱ子が困っていると、逝が夢見を抱え上げた。
「話は後。持って行きたいものは?」
「血と骨さえあれば」
「あいよ」
逝は七雅も一緒に抱えると、スッと身を屈めた。
タヱ子はスカートを押さえてそこに跨がると、ヘルメットを叩いた。
扉を開いて飛び出す逝一行。
それを見て驚いたのはセオリイとイエロウ、でもって燐花である。
「その――その子を離しなさい!」
イエロウが闇雲に銃を乱射。
タヱ子が防御するが、シールドの隙間を縫うように弾が逝に命中した。
歯を食いしばるイエロウ。
「謝らないわよ。アンタが人の手に渡れば人類が――!」
「どうぞご勝手に」
これが、この場で夢見との間で交わされた唯一の会話である。
逝は出口めがけてダッシュを開始。
七雅はタヱ子を中心に回復の霧を発生。
タヱ子はシールドを翳して防御。
全員一塊になった逝一行はイエロウの追跡を受けながら走った。
さすがにここまで抱えては通常スピードしか出ない。夢見だけ抱えて走ると防御と回復を担当する二人を置き去りにしてしまうので、ここは仕方の無いスピードダウンである。
角を曲がる前に、七雅は杖を突き出して叫んだ。
「おっかけてこないでなのぉ!」
薄氷を解き放つ七雅。直撃を受けたイエロウはカーブを曲がりきれずに壁に激突。
身体を起こし、銃を乱射しながら叫んだ。
「絶対取り返すからね、アンタは……!」
イエロウは振り切った。
問題は途中の戦闘エリアだ。
出口付近のモノクロとブラック。
『あの二人をどう突破しましょうか……』
『それなら、タイミングを合わせましょう』
千景たちからの通信だ。
逝は頷いて、カウントを開始した。
入り口まで十秒。
五秒。
三秒。
千景が銃を足下へ向け、太郎丸が雷雲を生み、成が地面に杖を立てる。
振動弾と雷撃、隆槍による一斉攻撃が放たれると同時に彼らの上を逝たちは飛び越えた。
タイミングを合わせるようにして地面すれすれへ接近するヘリ。
ここまで無事に接近できたのは成がスナイパーたちを倒していたからだ(ボーナス効果)。
逝は幅の大きなホップステップジャンプでヘリの中へと飛び込んだ。
頭をごつんとぶつけたタヱ子を覗けば、七雅や夢見は無傷である。
残りの仲間を後続のヘリに任せ、再び上空に上がる。
その場に放り出された夢見は、身体を起こして遠くなる施設を見下ろした。
肩に手を添える七雅。
「……」
言葉には出さないが、七雅は彼女の未来を案じていた。
果実の味を知らない者が川の水を飲むことに不満を漏らさぬように、夢見は幸福を知らないのだろう。
いずれきっと心を開く未来が訪れますようにと、七雅は祈った。
この後、ギリギリまで残った桜を回収してから彼らは現地から撤収した。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
お疲れ様でした。
依頼成功につき、F.i.V.Eに新たな夢見『青紫・四五九番』が登録されます。
依頼成功につき、F.i.V.Eに新たな夢見『青紫・四五九番』が登録されます。
