温泉旅館のいたずら童子
●夏は楽しんでますか?
お盆も過ぎたというのにまだまだ暑い。
夏休みも残り少なくなり、この開放的な雰囲気を最後に味わおうと計画を立てている人も多いだろう。
しかし次の季節に向けて忙しく準備している行楽施設があるものまた事実。
夏の主役が海ならば、秋の主役はなんと言っても山だろう。
山を真っ赤な化粧を施す紅葉、夏の間にたっぷりとお日様の光と大地の祝福をうけて実った秋の味覚。
そしてそんな秋を満喫する場を提供する温泉はまさにこれからがシーズン。
そんな行楽客を迎えるべく温泉宿は準備の真っ最中、それはここ私立五麟学園と提携している宿泊施設も変わらない。
なんといってもこの宿の売りは大きな露天風呂である。
都会から外れた場所にあるおかげだろう、満天の星空の下温泉につかりながら自然のイルミネーションを満喫できる。
体に悪いなんて知りつつもちょっと一杯と効能たっぷりの湯を楽しむなんてのもたまらない。
大きな施設はそれだけ準備も大掛かりにになる、今はまさに猫の手も借りたい忙しさだった。
しかしそれは楽しい忙しさでもある、心地のよい疲れと共に大勢の行楽客を迎えることはとても嬉しく、わくわくしてしまうものだ。
そして、それは何も従業員に限ったことではないみたいです。
●戦うだけじゃないんですよ
「皆さんは温泉はお好きですか?」
会議室に集められた覚者達に久方 真由美(nCL2000003)は、ぽんと手を合わせてにこやかに言った。
「私立五麟学園に縁のある温泉旅館があるんですけど、すごく忙しいみたいなんですよ。それで、皆さんのお力をお借できないかと思いまして。早い話が大きな露天風呂の大掃除をお願いしたいと思っています」
えっ、そんなの従業員がやればいいじゃないかと誰かが声を上げた、しかし真由美は指をほっぺたに当てて首をかしげる。
「そうなんですが、この温泉はただの温泉じゃないんですよね。実はずっと昔からある天然温泉に後から旅館を建築したものなんです。その後分かったんですけれど、どうやらその温泉には古妖が住んでいたらしくて。あっ、悪い古妖じゃありませんよ、そうですね……座敷童子をイメージしていただければ分かりやすいかと思います」
座敷童子といえば小さな子供のような古妖、いたずら好きではあるが家に幸せをもたらすといわれている。
確かに害があるわけではなさそうだ、言い伝えが確かならばいてもらったほうがはるかに良いだろう。
「この時期はその子もこれから賑やかになるのが嬉しいらしくて、すごくいたずらっ子になるみたいなんです。テンションが上がっちゃって、結構いたずらも派手になっちゃっうみたいで。ですからこういう不思議なことに慣れている皆さんにお願いしたいんです」
それでもいたずらの域を出ないらしい、命のやり取りも辞さない覚者にとってはかわいらしいもののようだ。
いたずらに付き合いつつ掃除、大きな露天風呂をデッキブラシでゴシゴシやったりたわしでゴシゴシやったりというとても地味なお仕事。
地味だなぁと言いたげな覚者を前に真由美はニコニコと笑顔を浮かべている。
「戦ってばかりじゃ心がすさんでしまいますから、息抜きだと思ってよろしくお願いします。お掃除が終わったら夜にはお湯を張ってくれるとの事ですから、一番風呂を楽しんでくださいね。それと」
真由美はきょろきょろと周りに偉い人がいないか確かめた上で、口元に手をやり声を小さくする。
「お一人につきお銚子2本、またはジュース2本までなら経費で落とせますよ」
真由美はいたずらっぽくウィンクをして見せたのだった。
お盆も過ぎたというのにまだまだ暑い。
夏休みも残り少なくなり、この開放的な雰囲気を最後に味わおうと計画を立てている人も多いだろう。
しかし次の季節に向けて忙しく準備している行楽施設があるものまた事実。
夏の主役が海ならば、秋の主役はなんと言っても山だろう。
山を真っ赤な化粧を施す紅葉、夏の間にたっぷりとお日様の光と大地の祝福をうけて実った秋の味覚。
そしてそんな秋を満喫する場を提供する温泉はまさにこれからがシーズン。
そんな行楽客を迎えるべく温泉宿は準備の真っ最中、それはここ私立五麟学園と提携している宿泊施設も変わらない。
なんといってもこの宿の売りは大きな露天風呂である。
都会から外れた場所にあるおかげだろう、満天の星空の下温泉につかりながら自然のイルミネーションを満喫できる。
体に悪いなんて知りつつもちょっと一杯と効能たっぷりの湯を楽しむなんてのもたまらない。
大きな施設はそれだけ準備も大掛かりにになる、今はまさに猫の手も借りたい忙しさだった。
しかしそれは楽しい忙しさでもある、心地のよい疲れと共に大勢の行楽客を迎えることはとても嬉しく、わくわくしてしまうものだ。
そして、それは何も従業員に限ったことではないみたいです。
●戦うだけじゃないんですよ
「皆さんは温泉はお好きですか?」
会議室に集められた覚者達に久方 真由美(nCL2000003)は、ぽんと手を合わせてにこやかに言った。
「私立五麟学園に縁のある温泉旅館があるんですけど、すごく忙しいみたいなんですよ。それで、皆さんのお力をお借できないかと思いまして。早い話が大きな露天風呂の大掃除をお願いしたいと思っています」
えっ、そんなの従業員がやればいいじゃないかと誰かが声を上げた、しかし真由美は指をほっぺたに当てて首をかしげる。
「そうなんですが、この温泉はただの温泉じゃないんですよね。実はずっと昔からある天然温泉に後から旅館を建築したものなんです。その後分かったんですけれど、どうやらその温泉には古妖が住んでいたらしくて。あっ、悪い古妖じゃありませんよ、そうですね……座敷童子をイメージしていただければ分かりやすいかと思います」
座敷童子といえば小さな子供のような古妖、いたずら好きではあるが家に幸せをもたらすといわれている。
確かに害があるわけではなさそうだ、言い伝えが確かならばいてもらったほうがはるかに良いだろう。
「この時期はその子もこれから賑やかになるのが嬉しいらしくて、すごくいたずらっ子になるみたいなんです。テンションが上がっちゃって、結構いたずらも派手になっちゃっうみたいで。ですからこういう不思議なことに慣れている皆さんにお願いしたいんです」
それでもいたずらの域を出ないらしい、命のやり取りも辞さない覚者にとってはかわいらしいもののようだ。
いたずらに付き合いつつ掃除、大きな露天風呂をデッキブラシでゴシゴシやったりたわしでゴシゴシやったりというとても地味なお仕事。
地味だなぁと言いたげな覚者を前に真由美はニコニコと笑顔を浮かべている。
「戦ってばかりじゃ心がすさんでしまいますから、息抜きだと思ってよろしくお願いします。お掃除が終わったら夜にはお湯を張ってくれるとの事ですから、一番風呂を楽しんでくださいね。それと」
真由美はきょろきょろと周りに偉い人がいないか確かめた上で、口元に手をやり声を小さくする。
「お一人につきお銚子2本、またはジュース2本までなら経費で落とせますよ」
真由美はいたずらっぽくウィンクをして見せたのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.露天風呂のお掃除をしよう
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
宿の夕食より朝食のほうがちょっと好きだったりします。
では以下詳細です。
■仕事内容
露天風呂の掃除をしていただきますので、濡れてもいい格好をしてきてください。
主に風呂内の岩や、洗い場の石畳をデッキブラシでこすったり細かいところはたわしなどで清掃。
洗い場にはシャワー設備や鏡もありますので忘れずに。
清掃用具はブラシのほかに放水用ホース、高圧洗浄機など一通りそろっておりますのでお好きな物をどうぞ。
学園の施設ですが全員に通達されている為どなたでも参加可能です。
■ロケーション
とある山間に建てられた温泉旅館、露天風呂が舞台となります。
露天風呂は泳げるくらいに広く、洗い場もそれなりにあります。
湯は所々から入り込んでおり完全に空というわけではありません(くるぶしちょっと上くらい)
常に新しい湯と循環しているので泉質はきわめて良好、清掃時の汚れも温泉童子が即座に流してくれるため常に清浄です。
■エネミーデータ
・古妖 温泉童子 1体
古い温泉旅館に住む古妖です。
ちょっといたずら好きではありますが見たものには幸運が訪れたり商売が繁盛したりという言い伝えがあります。
露天風呂のどこからか常に皆さんを覗いています。
以下の行動をとりますが、さらに何かしてくるかも?
・纏わりつく、進入してくる、撫で回す(遠距離 単体)
温泉から触手状のにゅるっとしたものが現れ無差別に行動をとります、ダメージはなく簡単に振り落せます。
元が温泉ですので保湿成分たっぷりで美肌効果があり、うるおいを与えます。
振り落さないでいると図に乗ってきます。
・シャワーから冷水ブシャー(近距離 単体)
読んで字の如し、ダメージなし
・桶がすっ飛んでくる(遠距離 単体)
当たり所が悪ければ1ダメージくらい食らうかもしれません
なお、温泉童子は覚者が攻撃すれば簡単に死亡します。
■清掃終了後ついて
温泉に入っていただけます、未成年者にはアルコール類は出ませんのでご了承ください。
入湯時間は夜になります、満月に満天の星空が皆さんを迎えてくれます。
おもちゃ可。
●注意!
触手の攻撃により恥ずかしい目に合う場合があります。
入浴は混浴になりますので各自水着着用のこと、全裸厳禁!
素っ裸で入ると記載されていたらすごくダサい水着を着せます。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
7/7
公開日
2015年09月02日
2015年09月02日
■メイン参加者 7人■

●F.i.V.Eお掃除隊
雲ひとつない快晴の空、山から聞こえるセミの大合唱。
まだまだ夏だと主張している快晴の空はまさに絶好のお掃除日和だ。
濃緑な木々を茂らせる山の中に鎮座する露天風呂は実に雄大な姿で温泉客を迎えてくれる、自然を楽しむには絶好のロケーションであろう。
しかしそれは温泉を利用する客にしてみればのこと。
「これは、結構広い……」
湯の抜けた風呂というのはがらんとしていて見た目以上に広く見えてしまう。
長良 怜路(CL2000615)が目の前に広がる入湯施設を見て思わず呟いてしまうのも頷けるというものだ。
しかしだからといって手をこまねいていてはいつまでたっても終わらない、デッキブラシを手にすると怜路は黙々と端から洗い場の床を磨き始めた。
「掃除だってのに真面目だねぇ。いたずら好きの妖もいるってのにさ」
風呂掃除はあまり経験がない、その上その妖に温泉旅館の進退がかかってるとくれば下手に手出しもできない。
聞けば本気で攻撃するようなことがなければ童子を殺すことはないらしいが……自分は我慢できるのかと鳴海 蕾花(CL2001006)は自問自答する。
「大丈夫なのです! 蕾花様はワタシがお守りしますから!」
蕾花の不安を払拭するように『F』ウィチェ・F・ラダナン(CL2000972)はえへんと胸を張って見せた。
気持ちよく温泉に入るにはまず掃除を頑張り、その上で蕾花をいたずらの魔の手から守る。
ウィチェに課せられた課題は多いが、成し遂げてみせると少女は息を撒く。
「ありがとうよ、でもその手に持ったアヒルはもう少し後でな」
「あれっ!?」
気温も上昇の一途、山の中とはいえ熱気の篭りつつある。そんな露天風呂内を水のレーザービームが迸った。
「わわ、これすっごい!」
『デウス・イン・マキナ』弓削 山吹(CL2001121)の手にある高圧洗浄機の威力は水道につながれたホースの水圧などとは比べ物にならない。
実はテレビCMで見かけたこの装置が気になって手にとって見たのだが、思いのほかご機嫌な機械のようだ。
「これ、ひとつあると便利そうだなぁ。買っちゃおうかな」
山吹は岩肌を削るように洗い流していくのが面白くて手当たり次第に水を撒き散らしていく。
「すごいのは分かるがもうちょっと向こうを向けてくれ。飛沫が飛んできてかなわん」
勢い良く岩肌にぶつかる水流は砕け盛大に飛び散る。岩肌をたわしでこすっていた由比 久永(CL2000540)は水滴を滴らせながら苦笑を浮かべていた。
「あぁごめんなさい! わざとじゃ!」
「分かっておるよ、まぁ照りつける日光に比べればだいぶ心地いいがのう」
どうせ濡れるからと赤地に金色のラインの入ったビキニという夏満喫を地で行く格好の山吹に比べると、久永は長袖パーカーにズボン、麦わら帽子をかぶりおまけに日焼け止めと完全防備の装いで掃除に挑んでいた。
「さぁて、童子はどこから来るのやら。掃除を手伝ってくれたら後で飴ちゃんをやるぞ」
少しくらいならじゃれられてもいい、子供のする事じゃないか。
ずっと全力でやっては疲れてしまう、久永は折り曲げた体を元に戻すように伸びをすると一際大きな体が縮こまっているのを見つけた。
「ほう、お主は掃除のしどころをわかっているようだな」
「うむ。こういう風呂って言うのは岩の間とか細かいところを掃除しなきゃだめなんだ」
筋肉質な体に白の六尺褌という男という生物をまさに体現した『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は、体を折り曲げて岩肌の間をこまめにこすり汚れを落としていく。
細かいところに目が向くのは探偵としての性だろうか、この依頼においてそれは正しい。
しかし作業に集中しつつも周りへの警戒は怠らない、度々職業を間違えられる眼光が光る。
(今回は女性が多い、俺が身を晒せばそれだけ周りへの被害を減らせるだろう)
ゲイルは悲壮な自己犠牲の思いを胸に秘めていた。
しかしそんな彼とは裏腹に『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は童子の存在に胸をときめかせている。
「妖とだって分かり合えるよね、隠れてないで姿を見せてね」
御菓子は信じている、種の垣根を越えて思いはきっと通じると。そのためにはまずこちらの真剣な姿を見せてこちらから心を開かねばなるまい。
いたずらしてくると言うことは興味を持っているということなのだから。昔から温泉に住んでいるというのなら、掃除を真剣にやる姿に何か感じてくれるはずである。
「さ、おいで。お話しましょ?」
普段と違う露天風呂内、真面目に掃除をしている覚者の姿をじっと物陰から見つめる小さな人影。
湯を抜いた風呂なんてめったに状況である、温泉童子にいたずら心を抑えろなんて言う方が無理だったようだ。
●いたずらするよー
「うっぷ! つめてっ!」
並んでいるシャワーから勢い良く冷水が噴射され、鏡の近くを掃除していた蕾花はずぶぬれになった。
もちろん誰も蛇口をひねってはいない、ついにきたかと蕾花はデッキブラシをぎゅっと握った。
鏡に映るのはいつも見慣れた自分のはずである、のだが。
「んっ?」
鏡に映った自分の姿に違和感を感じる、濡れてしまったジャージ姿はまだ分かるのだが……なんかこう、物足りない。
ぺったーん。
「おおっ!? あたしの胸が!」
「どうしたんですか! 胸をやられましたか! って、あれれっ!?」
ウィチェは後ろで聞こえた蕾花の声を聞いて慌てて振り向いた。しまった、蕾花さまは自分が守るはずなのにと内心焦る。
振り向いたそこには鏡がある。
一緒に並んで映る自分と蕾花を見てウィチェも声をあげてしまった。
ぼいーん。
いったい何事なのか、鏡の中のウィチェはとても14歳とは思えない見事に盛り上がった胸をお持ちになっていた。
二人は思わず互いの胸を凝視した、そこにあったのは本来あるべきの膨らみ。
くすくす。
どこからか笑い声が聞こえる。見れば鏡の中の二人がなんとも小憎らしい笑みを浮かべているではないか、どうやら温泉童子に一杯食わされたようだ。
「なるほどね、やってくれるよ」
鏡の中の自分をかき消すように蕾花は盛大にシャワーを鏡にかけて鏡に映った自分を崩した。
「あっ、消えちゃう」
「んっ?」
どことなく名残惜しげなウィチェは視線をそらして誤魔化し何事もなかったように掃除を再開する。
そんな二人をよそに怜路はただひたすらに掃除に専念している、いついたずらされるかといった居心地の悪さはあったもののいつしか掃除に集中していたずらのことなど忘れるていた。
照りつける太陽と労働で白い半袖シャツに汗が滲み体に張り付いて気持ちが悪い、それを童子が汲み取ったのかは知らないが。
ぺちゃ
「うわっ……?」
何かねっとりとした物が頭にかかった気がして、怜路は触手がくっついてきたと思い慌てて振りほどいた。
手についたそれはぬるぬるしていていいにおいがする。
「ボディソープ……?」
手についたそれは普通に買うことができる液状石鹸だった。
露天風呂なのだからあっても不思議は無いのだが、どうしてここに?
そう思うまもなく頭と手についたボディソープがモコモコと盛大に泡立ち始めた。
「……!……!?」
逃れるまもなく泡はあっという間に怜路の姿を覆い隠してしまった、泡の彫像の出来上がりである。
視界が真っ白になり何も見えない、怜路は突然のことに目を白黒させる。
「なんだ、あの泡の塊は」
飛んできたシャボン玉にはて? と首をかしげた久永は視線の先に奇妙な物体を見つける。
モコモコと動いているそれに持ったホースで水をかけてみると、いい香りがする怜路が現れた。
「お主だったか、風呂に入るにはまだ早いぞ」
「た、助かった……」
げほげほとむせながら怜路は安堵の息を漏らす、近くで小さく笑う子供の声を聞いた気がした。
●迫る魔の手
ばっしゃーん!
「あいたたたた」
協力して掃除をしていた山吹と御菓子は浴槽内で何かに足を引っ張られ、重なり合うように転倒した。
上がった水しぶきはなかなか盛大なものだったが、お湯が残っているために怪我をしなかったのが幸いだった。
「いたた、御菓子さん大丈夫?」
「わたしは大丈夫、ごめんね、すぐにどくから」
「うん、……まって。なにかおかしい」
ぐっと御菓子がお湯から手を引き抜こうとするがそれを阻止するかのようにものすごくお湯が重い。
「いったいこれは……ひゃんっ!」
山吹はしゅるりと足に絡み付いてきた何かに驚いて声を上げる。くるぶしからふくらはぎ、膝の裏へとゆっくりと、しかし確実に進行してくるそれにピクリと若い体が反応する。
「ちょ、ちょっと。大丈夫?んっ!?」
体の下でぴくぴくと体を跳ねさせる山吹に声をかけた御菓子だったが、自分の細い腕に上ってくる透明なにゅるっとしたものを目にして目を見開く。
うねうねと動くそれはゆっくりと見せ付けるように御菓子の体に魔の手を伸ばす。
山吹の感じるのが目に見えない未知の恐怖ととるならば、御菓子は見えているからこその恐怖を味わった。
「あ、ちょっとへんなところ触らないで、んっ、ひゃ、んっ!」
「ちょっと、そんなにぐにぐにしっ、ん、ないでっ、んはぁっ」
まるで柔かく温かいゼリーに埋まってしまったかのように二人は身動きが取れない。
体の自由が利かないのをいいことに絡みつくそれはゆっくりと、しかし確実に領土を広げていった。
温泉の温かさ、触手により与えられる得体の知れない熱、そして柔らかな体の重なり合ったところから分け与えられる体温と心臓の鼓動が世界を支配していくようだ。
ここには男性の目もあるのに、声を我慢しようとすればするほど甘い声が出てしまう。
「なっ、まだ、お掃除は、ひぅっ、終わってないのにぃ」
「胸、胸はだめなのぉ。んっくぅ」
あぁ、このまま二人はオトナな感覚に囚われてしまうのか。触手もさらに御菓子の柔らかそうな尻に魔の手を伸ばそうとして。
「おっさんか!」
久永がざぶざぶと水しぶきを上げながら二人に近づいて、いけない触手を払い落とす。
さらに熱に浮かされたようにボーっとしている二人へホースを向け、冷水を浴びせた。
いたずらが来るのは分かっていた。仲間がされてしまってもなるべく見守っていようと思っていたが、このままでは桃色の空間が広がってしまうと思わずツッコミをいれてしまった。
「つめたっ!」
「きゃっ、んっ!」
文字通りいきなり冷や水をかけられた二人は目をぱちくりさせると我に返った。呼吸がかかりそうなほど、お互いの体の柔らかさが分かってしまうほど、近い。
顔を真っ赤にした二人は頭の中からいけない感触を追い出すように距離をとった。
「なんということ、まだ未成年もおるというのに教育に悪い。おいたする子にはめっが必要かな?」
久永は足元から伸びてきた触手に話しかけるようにちょっと悪い顔を見せると、それは軌道を変えて左右にうろうろしだした。
「とぼけておるな、こやつ」
二人が触手に侵攻を受けていたころ、ゲイルもまた触手と戦っていた。
筋肉質な肉体がなぜか日光に反射している。薄膜状になった温泉がパックのようにゲイルに絡み付いていた。
着る温泉と銘打てばいいだろうか、所々に残る傷をやさしく包むかのようで痛みなどは感じないが、むずむずとした感覚がある。
これ自体はそれほど悪くはない、褌の結び目を執拗に狙わなければの話だが。
「こら、やめろ! ここにいられなくなってしまう!」
褌の締め付けが緩んでいくのが分かる、このまま外れてしまえばどんなことになるかは火を見るより明らか。
まさぐられるだけなら我慢しようと思っていたが生まれたままの姿を晒してしまうのは勘弁願いたい。
手を削ぐように体の表面を撫でて行くとぱしゃりと触手が剥がれ落ちていった。なんだか来た時よりもお肌がすべすべしているような気がする。
「ふぅ。危ないところだった」
「安心しているところ悪いがな。その……まだ危機は続いておるぞ」
久永が目をそらしながら言った。何がどういう危機かはあえて言うまい。
「むうっ!」
ゲイルは慌てて褌をつかむと緩んだ褌を締め直す、大丈夫、見られてはいないはずだ。
たぶん。
騒がしい声を上げつつも確実に露天風呂はきれいになっていく。
飛んできた桶に頭をすっぽり覆われた怜路が慌てふためいたり、掃除に飽きてきた蕾花が背中を守っているウィチェに水をぶっ掛けるという裏切りを行ったりと紆余屈折があったものの、それでも終わりは近づいて。
いつしか真っ青だった空は空が茜色に焼けて、照りつける太陽が緩み始めたころ。
露天風呂は覚者達の働きのおかげで一年の汚れはすっかり落とされ、客を迎える準備を整えることができた。
曇りのない鏡、足にも不快なぬめりは感じない。
これで今シーズンも大勢の人々が楽しみ、癒され、思い出を作ることができるだろう。
●また、おいでよ
月明かりが岩肌を照らす、見上げれば瞬く満天の星空に怜路はほーっとため息をついた。
都会ではなかなか見れる星の数ではない。じっと空を見つめているとなんだか吸いこまれそうな感じがして心と体の境界線が無くなって行くような感覚を覚える。
溶けてしまいそうな精神を引き戻したのはガアガアと口をパクパクさせるアヒルの玩具。
「あ、ごめんなさい。こういうのはお嫌いですか?」
「いや……」
「すごい星空ですね、一緒に横になって見ますか? お空がとってもきれいですよ」
ウィチェはアヒルと同じく体を仰向けにしてぷかりと浮かんでいる。プールと違い暖かなお湯が体に心地よい。こんな芸当普通のお風呂じゃできやしない。
怜路は勧められたものの気恥ずかしさが先に立つのだろう、いや、と小さく呟くと誤魔化すように伸びをした。
「混浴とはのう、まさか風呂で男と一緒に酒を飲むとは思わなかったぞ」
「こういう機会でもなければな、おっと、すまんな」
久永は風呂桶に入ったお銚子を手に取るとゲイルのお猪口に日本酒を注いだ、溢れそうになるお猪口に口をつけるとゲイルは一気に呷った。
労働の後の体に染み渡るようだ、お返しにと久永に日本酒を注ぐと二人は微笑みあった。
「風呂で酒を飲むのは体に悪いようだが、心地よさと引き換えならしょうがないのぉ」
「うむ、しっかりと働いたんだ。少しくらい贅沢しても罰は当たるまいよ」
久永は上機嫌だ。月見で一杯、大変結構なことじゃないか。
お銚子2本で潰れるほど久永は柔ではない、若いメンバーの中で比較的年長の二人は酒とうまい付き合いができる。
ゲイルは酒ものめるが甘党でもある、内心風呂上りのフルーツ牛乳を楽しみにしていた。
いつの間にか周りはセミの声に変わり煌びやかな虫の声の合唱が響き、夏から秋へのうつろいを肌で感じることができる。
「もう夏も終わりなんだなぁ」
山からそよいで来る風は昼の熱気を忘れてしまったかのようだ。岩に腰掛けて休んでいる蕾花の火照った体を爽やかな風がなでていく。
最初は掃除なんて、と少し思ってはいたけれど根が風呂好きということもあるのだろう。足だけお湯につけると湯がしみこんでくるようで心地いい。
「まぁ、この湯に免じて少しくらいのいたずらは目を瞑ってやるさ」
「少しぐらいじゃないよっ」
お湯のせいか恥ずかしさのせいか分からないが、顔を赤くした山吹は口までお湯に沈むとぶくぶくと水面に泡を浮かべさせる。
あぁ恥ずかしい、けれどまぁ頑張った甲斐はあったと思う。
夜空はキレイだし自分達で掃除した風呂もえもいわれぬものがある。最中は色々あったけれどそれもまたいい思い出になるだろうか。
温泉で火照った体に流し込むジュースは格別だろう、我慢すれば我慢するほどおいしいはずだ。
「んー、リンゴジュースにしようかな」
童子はいたずらを仕掛けてきたものの姿を見ることはできなかった、それが御菓子には少し残念だった。
異文化コミュニケーションを図るにはまだ少し時間がかかるようだが、それでも御菓子は友達になれたと思っている。
「もう少し時間をかければ、あなたは姿を見せてくれるかな?」
もし今度来ることがあれば実家のお菓子でも持ってこようか、洋菓子だけどきっと気に入ってくれると信じている。
色々あった一日も終わりが近づき、時が経つにつれ口数が少なくなっていた。
秋風は爽やかさと共に寂しさも運んでくる。
「……そろそろ出るか」
ゲイルが風呂から身を起こす、火照った肌は少し赤みを帯びていて湯気を立てていた。
もう一度来ることがあれば次は一年後だろう、それまではしばしのお別れ。
ふとした拍子に会話が途切れ露天風呂に一時の静寂が訪れたその時。
アリガトウ、マタネ
「今、何か聞こえましたか?」
ウィチェは聞きなれない声を耳にしてきょろきょろとあたりを見渡した。
彼女に限らず聞こえたのだろう、皆一様何かを探すように視線を動かしている。
「……今のが童子の声、なのかな?」
怜路は呟く、仕事とは言え感謝されればやはり嬉しいものだ。
ふ、と蕾花の顔に笑みが浮かぶ。
「今度来たらジュースでも分けてやるよ、じゃあな!」
最後の最後でねぎらってくれた見えぬ童子に向けて蕾花がひらひらと手を振る。
満月を映す温泉は静かに水面を揺らしていた。
雲ひとつない快晴の空、山から聞こえるセミの大合唱。
まだまだ夏だと主張している快晴の空はまさに絶好のお掃除日和だ。
濃緑な木々を茂らせる山の中に鎮座する露天風呂は実に雄大な姿で温泉客を迎えてくれる、自然を楽しむには絶好のロケーションであろう。
しかしそれは温泉を利用する客にしてみればのこと。
「これは、結構広い……」
湯の抜けた風呂というのはがらんとしていて見た目以上に広く見えてしまう。
長良 怜路(CL2000615)が目の前に広がる入湯施設を見て思わず呟いてしまうのも頷けるというものだ。
しかしだからといって手をこまねいていてはいつまでたっても終わらない、デッキブラシを手にすると怜路は黙々と端から洗い場の床を磨き始めた。
「掃除だってのに真面目だねぇ。いたずら好きの妖もいるってのにさ」
風呂掃除はあまり経験がない、その上その妖に温泉旅館の進退がかかってるとくれば下手に手出しもできない。
聞けば本気で攻撃するようなことがなければ童子を殺すことはないらしいが……自分は我慢できるのかと鳴海 蕾花(CL2001006)は自問自答する。
「大丈夫なのです! 蕾花様はワタシがお守りしますから!」
蕾花の不安を払拭するように『F』ウィチェ・F・ラダナン(CL2000972)はえへんと胸を張って見せた。
気持ちよく温泉に入るにはまず掃除を頑張り、その上で蕾花をいたずらの魔の手から守る。
ウィチェに課せられた課題は多いが、成し遂げてみせると少女は息を撒く。
「ありがとうよ、でもその手に持ったアヒルはもう少し後でな」
「あれっ!?」
気温も上昇の一途、山の中とはいえ熱気の篭りつつある。そんな露天風呂内を水のレーザービームが迸った。
「わわ、これすっごい!」
『デウス・イン・マキナ』弓削 山吹(CL2001121)の手にある高圧洗浄機の威力は水道につながれたホースの水圧などとは比べ物にならない。
実はテレビCMで見かけたこの装置が気になって手にとって見たのだが、思いのほかご機嫌な機械のようだ。
「これ、ひとつあると便利そうだなぁ。買っちゃおうかな」
山吹は岩肌を削るように洗い流していくのが面白くて手当たり次第に水を撒き散らしていく。
「すごいのは分かるがもうちょっと向こうを向けてくれ。飛沫が飛んできてかなわん」
勢い良く岩肌にぶつかる水流は砕け盛大に飛び散る。岩肌をたわしでこすっていた由比 久永(CL2000540)は水滴を滴らせながら苦笑を浮かべていた。
「あぁごめんなさい! わざとじゃ!」
「分かっておるよ、まぁ照りつける日光に比べればだいぶ心地いいがのう」
どうせ濡れるからと赤地に金色のラインの入ったビキニという夏満喫を地で行く格好の山吹に比べると、久永は長袖パーカーにズボン、麦わら帽子をかぶりおまけに日焼け止めと完全防備の装いで掃除に挑んでいた。
「さぁて、童子はどこから来るのやら。掃除を手伝ってくれたら後で飴ちゃんをやるぞ」
少しくらいならじゃれられてもいい、子供のする事じゃないか。
ずっと全力でやっては疲れてしまう、久永は折り曲げた体を元に戻すように伸びをすると一際大きな体が縮こまっているのを見つけた。
「ほう、お主は掃除のしどころをわかっているようだな」
「うむ。こういう風呂って言うのは岩の間とか細かいところを掃除しなきゃだめなんだ」
筋肉質な体に白の六尺褌という男という生物をまさに体現した『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は、体を折り曲げて岩肌の間をこまめにこすり汚れを落としていく。
細かいところに目が向くのは探偵としての性だろうか、この依頼においてそれは正しい。
しかし作業に集中しつつも周りへの警戒は怠らない、度々職業を間違えられる眼光が光る。
(今回は女性が多い、俺が身を晒せばそれだけ周りへの被害を減らせるだろう)
ゲイルは悲壮な自己犠牲の思いを胸に秘めていた。
しかしそんな彼とは裏腹に『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は童子の存在に胸をときめかせている。
「妖とだって分かり合えるよね、隠れてないで姿を見せてね」
御菓子は信じている、種の垣根を越えて思いはきっと通じると。そのためにはまずこちらの真剣な姿を見せてこちらから心を開かねばなるまい。
いたずらしてくると言うことは興味を持っているということなのだから。昔から温泉に住んでいるというのなら、掃除を真剣にやる姿に何か感じてくれるはずである。
「さ、おいで。お話しましょ?」
普段と違う露天風呂内、真面目に掃除をしている覚者の姿をじっと物陰から見つめる小さな人影。
湯を抜いた風呂なんてめったに状況である、温泉童子にいたずら心を抑えろなんて言う方が無理だったようだ。
●いたずらするよー
「うっぷ! つめてっ!」
並んでいるシャワーから勢い良く冷水が噴射され、鏡の近くを掃除していた蕾花はずぶぬれになった。
もちろん誰も蛇口をひねってはいない、ついにきたかと蕾花はデッキブラシをぎゅっと握った。
鏡に映るのはいつも見慣れた自分のはずである、のだが。
「んっ?」
鏡に映った自分の姿に違和感を感じる、濡れてしまったジャージ姿はまだ分かるのだが……なんかこう、物足りない。
ぺったーん。
「おおっ!? あたしの胸が!」
「どうしたんですか! 胸をやられましたか! って、あれれっ!?」
ウィチェは後ろで聞こえた蕾花の声を聞いて慌てて振り向いた。しまった、蕾花さまは自分が守るはずなのにと内心焦る。
振り向いたそこには鏡がある。
一緒に並んで映る自分と蕾花を見てウィチェも声をあげてしまった。
ぼいーん。
いったい何事なのか、鏡の中のウィチェはとても14歳とは思えない見事に盛り上がった胸をお持ちになっていた。
二人は思わず互いの胸を凝視した、そこにあったのは本来あるべきの膨らみ。
くすくす。
どこからか笑い声が聞こえる。見れば鏡の中の二人がなんとも小憎らしい笑みを浮かべているではないか、どうやら温泉童子に一杯食わされたようだ。
「なるほどね、やってくれるよ」
鏡の中の自分をかき消すように蕾花は盛大にシャワーを鏡にかけて鏡に映った自分を崩した。
「あっ、消えちゃう」
「んっ?」
どことなく名残惜しげなウィチェは視線をそらして誤魔化し何事もなかったように掃除を再開する。
そんな二人をよそに怜路はただひたすらに掃除に専念している、いついたずらされるかといった居心地の悪さはあったもののいつしか掃除に集中していたずらのことなど忘れるていた。
照りつける太陽と労働で白い半袖シャツに汗が滲み体に張り付いて気持ちが悪い、それを童子が汲み取ったのかは知らないが。
ぺちゃ
「うわっ……?」
何かねっとりとした物が頭にかかった気がして、怜路は触手がくっついてきたと思い慌てて振りほどいた。
手についたそれはぬるぬるしていていいにおいがする。
「ボディソープ……?」
手についたそれは普通に買うことができる液状石鹸だった。
露天風呂なのだからあっても不思議は無いのだが、どうしてここに?
そう思うまもなく頭と手についたボディソープがモコモコと盛大に泡立ち始めた。
「……!……!?」
逃れるまもなく泡はあっという間に怜路の姿を覆い隠してしまった、泡の彫像の出来上がりである。
視界が真っ白になり何も見えない、怜路は突然のことに目を白黒させる。
「なんだ、あの泡の塊は」
飛んできたシャボン玉にはて? と首をかしげた久永は視線の先に奇妙な物体を見つける。
モコモコと動いているそれに持ったホースで水をかけてみると、いい香りがする怜路が現れた。
「お主だったか、風呂に入るにはまだ早いぞ」
「た、助かった……」
げほげほとむせながら怜路は安堵の息を漏らす、近くで小さく笑う子供の声を聞いた気がした。
●迫る魔の手
ばっしゃーん!
「あいたたたた」
協力して掃除をしていた山吹と御菓子は浴槽内で何かに足を引っ張られ、重なり合うように転倒した。
上がった水しぶきはなかなか盛大なものだったが、お湯が残っているために怪我をしなかったのが幸いだった。
「いたた、御菓子さん大丈夫?」
「わたしは大丈夫、ごめんね、すぐにどくから」
「うん、……まって。なにかおかしい」
ぐっと御菓子がお湯から手を引き抜こうとするがそれを阻止するかのようにものすごくお湯が重い。
「いったいこれは……ひゃんっ!」
山吹はしゅるりと足に絡み付いてきた何かに驚いて声を上げる。くるぶしからふくらはぎ、膝の裏へとゆっくりと、しかし確実に進行してくるそれにピクリと若い体が反応する。
「ちょ、ちょっと。大丈夫?んっ!?」
体の下でぴくぴくと体を跳ねさせる山吹に声をかけた御菓子だったが、自分の細い腕に上ってくる透明なにゅるっとしたものを目にして目を見開く。
うねうねと動くそれはゆっくりと見せ付けるように御菓子の体に魔の手を伸ばす。
山吹の感じるのが目に見えない未知の恐怖ととるならば、御菓子は見えているからこその恐怖を味わった。
「あ、ちょっとへんなところ触らないで、んっ、ひゃ、んっ!」
「ちょっと、そんなにぐにぐにしっ、ん、ないでっ、んはぁっ」
まるで柔かく温かいゼリーに埋まってしまったかのように二人は身動きが取れない。
体の自由が利かないのをいいことに絡みつくそれはゆっくりと、しかし確実に領土を広げていった。
温泉の温かさ、触手により与えられる得体の知れない熱、そして柔らかな体の重なり合ったところから分け与えられる体温と心臓の鼓動が世界を支配していくようだ。
ここには男性の目もあるのに、声を我慢しようとすればするほど甘い声が出てしまう。
「なっ、まだ、お掃除は、ひぅっ、終わってないのにぃ」
「胸、胸はだめなのぉ。んっくぅ」
あぁ、このまま二人はオトナな感覚に囚われてしまうのか。触手もさらに御菓子の柔らかそうな尻に魔の手を伸ばそうとして。
「おっさんか!」
久永がざぶざぶと水しぶきを上げながら二人に近づいて、いけない触手を払い落とす。
さらに熱に浮かされたようにボーっとしている二人へホースを向け、冷水を浴びせた。
いたずらが来るのは分かっていた。仲間がされてしまってもなるべく見守っていようと思っていたが、このままでは桃色の空間が広がってしまうと思わずツッコミをいれてしまった。
「つめたっ!」
「きゃっ、んっ!」
文字通りいきなり冷や水をかけられた二人は目をぱちくりさせると我に返った。呼吸がかかりそうなほど、お互いの体の柔らかさが分かってしまうほど、近い。
顔を真っ赤にした二人は頭の中からいけない感触を追い出すように距離をとった。
「なんということ、まだ未成年もおるというのに教育に悪い。おいたする子にはめっが必要かな?」
久永は足元から伸びてきた触手に話しかけるようにちょっと悪い顔を見せると、それは軌道を変えて左右にうろうろしだした。
「とぼけておるな、こやつ」
二人が触手に侵攻を受けていたころ、ゲイルもまた触手と戦っていた。
筋肉質な肉体がなぜか日光に反射している。薄膜状になった温泉がパックのようにゲイルに絡み付いていた。
着る温泉と銘打てばいいだろうか、所々に残る傷をやさしく包むかのようで痛みなどは感じないが、むずむずとした感覚がある。
これ自体はそれほど悪くはない、褌の結び目を執拗に狙わなければの話だが。
「こら、やめろ! ここにいられなくなってしまう!」
褌の締め付けが緩んでいくのが分かる、このまま外れてしまえばどんなことになるかは火を見るより明らか。
まさぐられるだけなら我慢しようと思っていたが生まれたままの姿を晒してしまうのは勘弁願いたい。
手を削ぐように体の表面を撫でて行くとぱしゃりと触手が剥がれ落ちていった。なんだか来た時よりもお肌がすべすべしているような気がする。
「ふぅ。危ないところだった」
「安心しているところ悪いがな。その……まだ危機は続いておるぞ」
久永が目をそらしながら言った。何がどういう危機かはあえて言うまい。
「むうっ!」
ゲイルは慌てて褌をつかむと緩んだ褌を締め直す、大丈夫、見られてはいないはずだ。
たぶん。
騒がしい声を上げつつも確実に露天風呂はきれいになっていく。
飛んできた桶に頭をすっぽり覆われた怜路が慌てふためいたり、掃除に飽きてきた蕾花が背中を守っているウィチェに水をぶっ掛けるという裏切りを行ったりと紆余屈折があったものの、それでも終わりは近づいて。
いつしか真っ青だった空は空が茜色に焼けて、照りつける太陽が緩み始めたころ。
露天風呂は覚者達の働きのおかげで一年の汚れはすっかり落とされ、客を迎える準備を整えることができた。
曇りのない鏡、足にも不快なぬめりは感じない。
これで今シーズンも大勢の人々が楽しみ、癒され、思い出を作ることができるだろう。
●また、おいでよ
月明かりが岩肌を照らす、見上げれば瞬く満天の星空に怜路はほーっとため息をついた。
都会ではなかなか見れる星の数ではない。じっと空を見つめているとなんだか吸いこまれそうな感じがして心と体の境界線が無くなって行くような感覚を覚える。
溶けてしまいそうな精神を引き戻したのはガアガアと口をパクパクさせるアヒルの玩具。
「あ、ごめんなさい。こういうのはお嫌いですか?」
「いや……」
「すごい星空ですね、一緒に横になって見ますか? お空がとってもきれいですよ」
ウィチェはアヒルと同じく体を仰向けにしてぷかりと浮かんでいる。プールと違い暖かなお湯が体に心地よい。こんな芸当普通のお風呂じゃできやしない。
怜路は勧められたものの気恥ずかしさが先に立つのだろう、いや、と小さく呟くと誤魔化すように伸びをした。
「混浴とはのう、まさか風呂で男と一緒に酒を飲むとは思わなかったぞ」
「こういう機会でもなければな、おっと、すまんな」
久永は風呂桶に入ったお銚子を手に取るとゲイルのお猪口に日本酒を注いだ、溢れそうになるお猪口に口をつけるとゲイルは一気に呷った。
労働の後の体に染み渡るようだ、お返しにと久永に日本酒を注ぐと二人は微笑みあった。
「風呂で酒を飲むのは体に悪いようだが、心地よさと引き換えならしょうがないのぉ」
「うむ、しっかりと働いたんだ。少しくらい贅沢しても罰は当たるまいよ」
久永は上機嫌だ。月見で一杯、大変結構なことじゃないか。
お銚子2本で潰れるほど久永は柔ではない、若いメンバーの中で比較的年長の二人は酒とうまい付き合いができる。
ゲイルは酒ものめるが甘党でもある、内心風呂上りのフルーツ牛乳を楽しみにしていた。
いつの間にか周りはセミの声に変わり煌びやかな虫の声の合唱が響き、夏から秋へのうつろいを肌で感じることができる。
「もう夏も終わりなんだなぁ」
山からそよいで来る風は昼の熱気を忘れてしまったかのようだ。岩に腰掛けて休んでいる蕾花の火照った体を爽やかな風がなでていく。
最初は掃除なんて、と少し思ってはいたけれど根が風呂好きということもあるのだろう。足だけお湯につけると湯がしみこんでくるようで心地いい。
「まぁ、この湯に免じて少しくらいのいたずらは目を瞑ってやるさ」
「少しぐらいじゃないよっ」
お湯のせいか恥ずかしさのせいか分からないが、顔を赤くした山吹は口までお湯に沈むとぶくぶくと水面に泡を浮かべさせる。
あぁ恥ずかしい、けれどまぁ頑張った甲斐はあったと思う。
夜空はキレイだし自分達で掃除した風呂もえもいわれぬものがある。最中は色々あったけれどそれもまたいい思い出になるだろうか。
温泉で火照った体に流し込むジュースは格別だろう、我慢すれば我慢するほどおいしいはずだ。
「んー、リンゴジュースにしようかな」
童子はいたずらを仕掛けてきたものの姿を見ることはできなかった、それが御菓子には少し残念だった。
異文化コミュニケーションを図るにはまだ少し時間がかかるようだが、それでも御菓子は友達になれたと思っている。
「もう少し時間をかければ、あなたは姿を見せてくれるかな?」
もし今度来ることがあれば実家のお菓子でも持ってこようか、洋菓子だけどきっと気に入ってくれると信じている。
色々あった一日も終わりが近づき、時が経つにつれ口数が少なくなっていた。
秋風は爽やかさと共に寂しさも運んでくる。
「……そろそろ出るか」
ゲイルが風呂から身を起こす、火照った肌は少し赤みを帯びていて湯気を立てていた。
もう一度来ることがあれば次は一年後だろう、それまではしばしのお別れ。
ふとした拍子に会話が途切れ露天風呂に一時の静寂が訪れたその時。
アリガトウ、マタネ
「今、何か聞こえましたか?」
ウィチェは聞きなれない声を耳にしてきょろきょろとあたりを見渡した。
彼女に限らず聞こえたのだろう、皆一様何かを探すように視線を動かしている。
「……今のが童子の声、なのかな?」
怜路は呟く、仕事とは言え感謝されればやはり嬉しいものだ。
ふ、と蕾花の顔に笑みが浮かぶ。
「今度来たらジュースでも分けてやるよ、じゃあな!」
最後の最後でねぎらってくれた見えぬ童子に向けて蕾花がひらひらと手を振る。
満月を映す温泉は静かに水面を揺らしていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『童子印の手ぬぐい』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
