すり抜ける男
●胸に輝く『S』のエンブレム(全身タイツ)
「俺の名前はスルーマン、物質透過の天才だ。今日も銀行から金を頂戴してやったぜ」
胸に輝く『S』のエンブレム(全身タイツ)とゴーグルが眩しい男はそう言って歯を光らせた。
「だが殺しはしちゃいない、ポリシーに反するからな。だが邪魔する奴は俺のスルー殺法で一網打尽さ! 」
親指を立てるスルーマン。
「おっと、どうやら追手が来たようだ、俺はアジトに退散させてもらう。あばよ! 」
手を振ると彼は壁の中へ消えていった。
●そんなもの見た当人のコメント
「……という変態が延々と話しかけてくる夢見だぞ、どう思う? 」
久方 相馬(nCL2000004)がげっそりしているのは気のせいだろうか?
「ちなみにその後もアジトまで行く過程を見せられた俺は褒められたっていいよな? な? 」
半分虚ろな瞳で少年は資料をばらまく。
「気をとりなしていこう、敵はスルーマンと名乗る物質透過で泥棒をやっている隔者だ、服装のセンスはアレだが、これまでも数々の犯罪を成功させている。詳しいデータはこれ」
ばらまいた資料の中の一枚を抜いて渡す。
その後に今度は五枚の地図を抜き出して重ねるようにした。
「奴は5階建ての廃ビルに居る。コンクリート仕立てで物質透過が可能――つまりは奴のホームグラウンドだ」
さらに相馬は話をつづける。
「ビルには水道が通っている所があるけど、恐らく奴はその箇所を把握しているので追い込むのは難しいと思ってくれ。あと各階の間には天井裏的な高さ1.5メートルのスペースはあるが、ここで戦闘とかはセンスが問われるから勧められねえ……けどチャンスはある」
笑みを浮かべた相馬が重ねた地図の中から一番上の地図を指さし。
「奴はビルの5階のどこかにいる。そしてお前らの侵入には気づかない。その間に何か仕込むことは可能だ。それともう一つ」
最後に相馬が取り出したのは縄、一人を縛るには十分な長さだ。
「スルーマンが行った犯罪行為は窃盗が中心だ、殺さないで捕まえるに留めてくれ。でないと……お前らは超えちゃいけないラインを超えると思う」
そう言って覚者を見つめる彼の表情は真剣なものであった。
「俺の名前はスルーマン、物質透過の天才だ。今日も銀行から金を頂戴してやったぜ」
胸に輝く『S』のエンブレム(全身タイツ)とゴーグルが眩しい男はそう言って歯を光らせた。
「だが殺しはしちゃいない、ポリシーに反するからな。だが邪魔する奴は俺のスルー殺法で一網打尽さ! 」
親指を立てるスルーマン。
「おっと、どうやら追手が来たようだ、俺はアジトに退散させてもらう。あばよ! 」
手を振ると彼は壁の中へ消えていった。
●そんなもの見た当人のコメント
「……という変態が延々と話しかけてくる夢見だぞ、どう思う? 」
久方 相馬(nCL2000004)がげっそりしているのは気のせいだろうか?
「ちなみにその後もアジトまで行く過程を見せられた俺は褒められたっていいよな? な? 」
半分虚ろな瞳で少年は資料をばらまく。
「気をとりなしていこう、敵はスルーマンと名乗る物質透過で泥棒をやっている隔者だ、服装のセンスはアレだが、これまでも数々の犯罪を成功させている。詳しいデータはこれ」
ばらまいた資料の中の一枚を抜いて渡す。
その後に今度は五枚の地図を抜き出して重ねるようにした。
「奴は5階建ての廃ビルに居る。コンクリート仕立てで物質透過が可能――つまりは奴のホームグラウンドだ」
さらに相馬は話をつづける。
「ビルには水道が通っている所があるけど、恐らく奴はその箇所を把握しているので追い込むのは難しいと思ってくれ。あと各階の間には天井裏的な高さ1.5メートルのスペースはあるが、ここで戦闘とかはセンスが問われるから勧められねえ……けどチャンスはある」
笑みを浮かべた相馬が重ねた地図の中から一番上の地図を指さし。
「奴はビルの5階のどこかにいる。そしてお前らの侵入には気づかない。その間に何か仕込むことは可能だ。それともう一つ」
最後に相馬が取り出したのは縄、一人を縛るには十分な長さだ。
「スルーマンが行った犯罪行為は窃盗が中心だ、殺さないで捕まえるに留めてくれ。でないと……お前らは超えちゃいけないラインを超えると思う」
そう言って覚者を見つめる彼の表情は真剣なものであった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.スルーマンの捕縛
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
塩見です。上のコメントは気にしないでください。
今回は物質透過を使いこなす敵との物質透過バトル&知恵と勇気で相手の能力と闘うという感じで行きたいと思います。
物質透過というスキルをどう使うか、どう対策するか。いかに自分の戦場を作り出すか力を入れてプレイングを注ぐことをお勧めします。
また捕縛用に縄を用意しておりますので捕まえたらそれで縛ってください。
●スルーマン
胸に『S』エンブレムが眩しい全身タイツにゴーグルの隔者にして泥棒です
●所持スキル
・物質透過
・ピッキングマン
・透視
・スルーマン正拳:近単(普通の『初級:正拳』です)
・スルーマン鋭刃脚キック:近単(普通の『初級:鋭刃脚』ですよ)
・スルーマン重突ラッシュ:近列(普通の『初級:重突』ですからね)
・スルーマン小手返しバスター(投げ技):近単(普通の『初級:小手返し』ですから大丈夫ですよ)
●ビルMAP
1F
柱が所々立っている吹き抜けとなっております、南側に入り口、北側にエレベーター。北西側に階段があります。
2~5F
北側エレベーターから真っすぐ大きな通路を中心として、
左右2部屋、合計4部屋という構成になっております。
各階の階段から出てすぐの所にトイレがあります。
全階層とも同じ構成です
天井裏
吹き抜けで各種配線やパイプが通ってます。
●侵入
スルーマンは5階にいるため1階から入ってきた覚者の侵入に気づくのに10分ほどかかります。その間に何か対策をすることは可能ですが、話し声などは聞こえてしまう可能性がありますので気を付けてください。
では皆さん、特殊な依頼ではありますが知恵と勇気でよろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2016年02月02日
2016年02月02日
■メイン参加者 6人■

●潜入
(「物質透過自体、ショージキどこからどこまで出来るのかハッキリ分かんないのよね……」)
『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)が送受信・改により、自分の感想を伝達した。
すでに目標とするスルーマンのアジトである、コンクリートビルディングの中に潜入した6名の男女は声を出さずに彼女を介しての送受信による通信体制に移行していた。
(「それじゃ、ふざけた男に悪ふざけで対抗してみる? 」)
黒桐 夕樹(CL2000163)が提案をする、持っていたバッグには大量の尖った石やビー玉、そして洗剤が詰め込まれていた。
(「マアあるテード場当たりになるのはシカタないわ。トモカク、ヤレるだけヤルわよ! 」)
彼の案に頷きながら夏美は全員に発破をかけるように意思を伝えた。
(「ところで……」)
そこに割り込む『白い人』由比 久永(CL2000540)。身に着けていた羽織からフードを下すと発信を続ける。
(「そいつは隔者で泥棒で『するーまん』という名の変態なのだな? 」)
――流れる沈黙。
(「あい分かった」)
沈黙を肯定と判断したのか、久永の伝えた言葉に誰かが息を吐く。
そして覚者達は3名ずつに分かれて行動を開始した。
●足音
動き出したのは鈴白 秋人(CL2000565)に『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100)がそのあとを夕樹がついていく。
作戦では秋人とラビットナイトが韋駄天で移動し、夕樹が後に続く。足音に関しては夏美の守護使役であるニャー子がしのびあしで音を消す予定……だった。
(「嘘!? なんで動かないの!? 」)
意に反して自分の傍についているニャー子に夏美は声を抑えるのが精一杯だった。
――守護使役は主人のもとを決して離れない。
故に夏美が一階にいる限りはニャー子も動かないのは当然のことだった。
そして韋駄天、通常の3倍のスピードで移動するスキルを何ら防音対策を施さずに使用した場合どうなるか……それは彼ら全員がビル内に響き渡る足音、特にラビットナイトの足元からなる下駄の音で思い知ることになった。
かといって、ここで引き下がるわけには行かない。『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)は音を立てないようにしながら2階に上がり、少しでも作戦が成功するように罠を仕掛けに動き、久永もビル内に一基だけあった、エレベーターのスイッチを押して1階に下ろそうとする。
しかし、作戦の瓦解はこれだけではなかった。
3階に上がり透視を試みるラビットナイト。しかし、高さがありすぎて5階を透視することができない。
その間は3階に罠を仕込んだ夕樹が合流、彼らは4階に上がると再び透視を試みるが……。
(「天井裏が厚い!? 」)
自分の頭から天井のスペースに加えて天井裏150センチの高さが透視の範囲である2メートル以上になってしまい5階の様子を見ることは叶わない。
さらに5階に向かう足音に2人は顔を見合わせる。ここにいない人物――秋人が一人5階まで駆け上がったのだ。
各々が作戦を考えていた、罠を仕込もうとした。駆け上がって逃げ場をふさごうとした。
しかし、すり合わせが足りなかった。
それが次々と重なり、ほころびを生み、奇襲のチャンスをつぶしてしまった。
(「――ッ!? 」)
内心に浮かぶ動揺を抑えながら、夕樹は罠を張る。物音、そして敵のものと思われる奇声。
ラビットナイトが慌てて5階に駆け上がる。遅れて夕樹も続き、そして5階で見たものは窓から投げ落される秋人の姿だった。
●奇襲
韋駄天により一気に5階まで駆けあがったライダースーツの男は窓を見つけると、そこを背にして敵の逃げ道を塞ぎにかかった。しかし……。
「それでいいのかい? 」
声は上から聞こえた。
胸元のSのエンブレムが黄色の全身タイツのようにボディラインが目立つスーツにゴーグル姿の男が天井から降りてくると同時に飛び蹴り一閃!
奇襲を受けた秋人が窓ガラスに叩きつけられ、割れたガラスがビルの外へと落ちていく。
「スルーマン鋭刃脚キック! 」
着地、そして片足を上げて面妖なポーズをとるスルーマン。受けた衝撃を頭を振るようにして払い、秋人は体勢を立て直し右手を突き出してB.O.T.を放つ。
「甘い、甘いよ」
スルーマンは近くの壁に飛び込むようにして物質透過を活かして回避すると、次は真横の壁から透過してストレートを放つ。
「クッ……!」
中世的な顔立ちの青年は掌に仕込んだ護符でそれを打ち払うと自らも回転、切り裂くような鋭刃脚を舞わせる。
だが、スルーマンもその蹴り足を裁くと彼の右手を取り捻りあげる。
「スルーマン」
そしてその捻りから逃れようとする力を利用して。
「小手返しバスター! 」
小手返しで窓の外へと放り投げた!
「痛っ!」
秋人はどうにか窓枠をつかみ、転落だけは免れる、しかしガラスが指に食い込み、力を入れるのに時間がかかる。
「そこまでだぴょん。笑顔でみんなのハートをキャッチ♡ 怪盗ラビットナイトぴょん☆ 」
ラビットナイトが可愛さアピール全開のポーズで名乗りを上げた。
「お前みたいな変態泥がいるから怪盗の印象も悪くなるピョン」
挑発とそして秋人が戻ってくるまでの時間稼ぎを兼ねた行動である。
「怪盗は目立って魅せて華麗に優雅に盗むから私からすれば半端者ピョン」
「おいおいおい、お嬢ちゃん……怪盗であろうが泥棒は悪いことだって学校で習わなかったのかい? 」
ゆっくりと近づくスルーマン、言葉にこもるのは侮蔑とそして悪党としての矜持。
「怪盗とかは名前つけたってモノを盗んだら、ただの泥棒さ、俺と変わんねえ。そっちこそ名前で飾って自分の罪を誤魔化そうとしちゃいけないぜ」
自信に満ちた笑みにラビットナイトが返す言葉を見つけられない。
「俺はスルーマン、物質透過の天才にして盗みを働く悪党さ」
「なら、行いの報いは受けるべきだよ」
そこに飛ぶ袋一つ、打ち払うと舞うのは胡椒そして唐辛子。
「才能の活かし方を間違える時点で、天才とは呼べないね」
袋を投げた夕樹がラビットナイトの隣に立ち、言葉を続ける。そのころには秋人も転落の危機から脱出し、スルーマンを挟み打ちにした。
「ゲホゲホ……ところで、この能力がどんなものか知ってるか?」
咳き込みながらゴーグルの男が語り始める。
「1メートルの無機物を通過する能力、そして今俺たちの足元にあるコンクリートは石、砂、水、他、無機化合物でできている……つまりだ」
その瞬間、彼の姿が文字通り沈んだ。
●追跡
「2階、仕掛け完了したッスよ! サクッと済ませてきました、これで階段からは来れないスよ! 」
舞子が残ったテープやワックスなどをバッグに押し込みながら、連絡してきた。その一方で久永はエレベーターに椅子を挟み込んで、ドアが閉まらないようにする。
夏実も拾って来た石や木の枝の束を置いて、戦闘用のスペースを作っていた。
その頭の中では上の状況が逐次伝わっており、1階の状況も含めて送受心・改により全員が共有できるようにしていた。だが一つだけ隠していたものがあった。
奇襲の失敗による、任務の成否。そしてそれは皆が思っていたことでもあった。
「さて……あいつらはどう動くかな?」
光のない天井裏、配管から音が響く中でスルーマンは相手の状況を確認するために上を見え上げて透視を行い、そして夕樹と目が合った。
危険を感じた直後、背後からの気配に気づき、振り向くとそこに居たのはラビットナイト。
スルーマンが階下に逃げ込んだ直後、夕樹はすぐに暗視を使用。位置を割り出すと夏美の送受信・改を利用して奇襲を指示したのだ。
天井裏の高さ1.5メートルに対し、彼女の身長は134㎝。普通の男性なら屈まないといけないところを彼女は全く支障なく動くことが可能だった。
「おごぁっ! 」
腹部に猛の一撃を受けるスルーマン、ラビットナイトの背後では癒しの滴で自身を回復した秋人がカバーに入っている。
追撃を避けるため、スルーマンはまた階下、つまり4階へ逃げ込んだ。入れ替わりに物質透過で合流する夕樹。
ラビットナイトの反動のリスクはあるが、3人はそのまま4階へと追撃を行うべく、物質透過で飛び降りる。そこは4つある部屋の一室、ドアには物質透過対策で椅子を立てかけて置き、通路側には尖った石を巻いてある。
罠を避けようと物質透過で扉を抜けようとする夕樹、おそらく、木製かもしくはドアの材料に有機物が使われているのだろう。弾かれることで扉の材質が無機物ではないことを悟ると、彼らは隣の壁から通路に出る。直後、何か転ぶような音が4階に響き渡った。
「…………」
3人は顔を見合わせると、音のなった方向――トイレの方向へ走っていく。彼らがついた先には仕込んでいたビー玉で盛大に転んでいたスルーマンが身を起こしかけていた。
「チィッ!」
舌打ちとともに近くの壁から隣の部屋に逃げ込むスルーマン。彼を追いかけようと秋人とラビットナイトが物質透過で部屋に入り込もうとする。
(「だめだ!? 」)
透視で部屋の様子を見ていた夕樹が夏美を介して思念を送る。しかし人を介すという行動によって生じるタイムラグにより、その言葉を届いたのは二人が壁から弾かれた後だった。
「知らないのかい? 有機物は通さない。つまり人間が壁につくだけで物質透過は不可能になる」
扉越しに聞こえる言葉。夕樹の目に映ったのは両腕を広げて、壁に密着する男の姿。スルーマンは身を翻すと自らが物質透過を以って覚者達のもとに飛び込みラビットナイトにパンチを見舞う。
「スルーマン正拳! 」
「ピョン!? 」
行動の隙をついたスルーマンの拳にラビットナイトが宙を舞う。だが追撃をさせまいと秋人が床にたたきつけるような鋭刃脚を放ち、それをゴーグルの男はクロスガードで受け、そしてバックステップ、洗剤に足を取られつつも、そのまま階段へと一目散へと逃げていく。
再び追う覚者達。そしてスルーマンは3階に飛び込むとエレベーター前で盛大にぶっ転び、そのまま階下へと沈み込むように逃げ込んだ。
だが、追う覚者達も既に戦いに慣れてきている上に複数仕込んでおいた罠がアドバンテージを作り出す。すぐさま3人は天井裏に透過し、ラビットナイトが招雷を放つ。狭い空間を稲光が照らす。直撃を受けたスルーマンは不利を悟り、落下するように2階へと逃げていった。
そして2階の状況に思わず舌打ちを漏らした。
「ラップとテープそしてワックスか、全部プラクティック原料だな」
2階に張り巡らされたテープやラップ、床にまかれた家庭用ワックスに忌々し気につぶやくスルーマン。舞子の仕込みは彼の行動を制限するのに十分な罠として機能していた。
そこへすかさず降りてくる3人、場所は彼の目の前。そして秋人が一人前に出て物質透過で沈み込もうと試みる……が。
「知らないのか? ワックス――樹脂は有機物だぜ、スルーマン重突ラッシュ! 」
沈み込めなかったことで生まれた隙をスルーマンは逃さなかった、重突による列攻撃。全員が被弾する。夕樹が牽制に巻いた胡椒袋を回避するとゴーグルの男はワックスの滑りを利用してテープの隙間をスライディング、そしてエレベーターの鉄扉をすりぬける様に飛び込んだ。
エレベーターシャフトをつかみ、ブレーキ代わりにすると物質透過でエレベーターの中に入り込み着地、開きかけの扉から1階に出る。
「こりゃまた……歓迎されてるなあ」
軽口を叩く彼を包囲するように夏美、舞子、久永が布陣する。遅れて残りの3人も合流し、そして本番が始まった。
●戦闘
対峙する覚者と隔者、両者に間に緊張が走る。
「安心しな……殺しは好まない」
先に動いたのはゴーグルの男だった、包囲中心のため隊列が決まっていないと判断すると小手調べとばかりに重突を打ち込む。
次々と攻撃を受ける覚者達、特に追跡で被弾していた秋人とラビットナイトのダメージが深い。だが、覚者達も受け身ではない。
「追いかけっこで疲れたろう、ゆっくり休んでよいぞ」
艶舞・寂夜、久永が誘う眠りをゴーグルの男は振り払う。
「いや、結構、スルーさせてくれ」
「スルーなんかしない! させない! むしろペッタリへばりつくわよ! 」
そこへ癒しの滴で回復しつつ、夏美が杖刀饒速日を構え、スルーマンを逃がさないとする。
「へばりつく……事案は勘弁だな」
「そういう意味じゃないわよ! 」
軽口で返し反論をスルーしながらラビットナイトの雷を回避するゴーグルの男、そこへ舞子の飛燕が舞う。
「ああっ、もうなんで左掌に目ッスか! でも多少の怪我は覚悟の上ッス、なりふり構わず死ぬ気で捕まえるッス!」
トンファーでの二連撃を腕で受けて痛みに顔をしかめる、その間に秋人は醒の炎を夕樹が清廉香を使う。
戦闘は覚者優勢で進んでいた。スルーマン自体は手練れの隔者で複数を相手取り、的確に弱っている相手を狙い、ホワイトラビットを一時戦闘不能に陥れた、しかし命数の使用、そして夏美と秋人の回復がそれをフォローする。
それに対してスルーマン自体は回復の手段を持たず、高い攻撃と物質透過というスキルを中心としていた。しかし戦場に彼が優位となるべき壁はなく、周りは覚者で囲まれている。
夕樹が深緑鞭をふるえば、体勢を立て直した秋人のB.O.T.が衝撃となって叩き込まれる、そこへラビットナイトが雷を落とせば、舞子が飛燕で追い打ちをかける。久永も継続的に艶舞・寂夜を投入し、スルーマンを眠らせようとする。
「ここまで来たら、眠るまでやるぞ」
徹底した攻撃が。やがてスルーマンも傷つき、動きが鈍る。そして何度目かの艶舞・寂夜が決まり、とうとうゴーグルの男は眠りについた。
「フフン! デキる女は何時だってエレガントなのよ! 」
先ほどのからかいの仕返しとばかりに夏美は言い放つ、だがそれは心の内を隠すための仮面。少女は心の中で安堵し、そしてそれを隠すためいつも通りに振舞った。
●捕縛
「変態は縄で縛ると喜ぶと聞いたが、コレは良いのか? 」
「いや、彼の言葉が合ってればこれは有機物だから透過されないんだろう? 」
久永の問いに夕樹が切り返す。その言葉を聞いて縄を透過されることを心配していた夏美も杞憂に終わったことを悟る。
「スルーマンだか何だか知らないッスが、盗みは良くないッス! 」
縄で縛られたゴーグルの男に対して舞子が近づく。
「もう悪さできないように、バッチリカメラに収めておくッスよ」
その手にはカメラが一台。そして手が伸び、ゴーグルをはぎ取ると露わになるのは顔立ちの整った精悍な顔立ちの男。
「これは……惚れ……いや、ないッスね」
そうつぶやくと舞子はシャッターを切った。
(「物質透過自体、ショージキどこからどこまで出来るのかハッキリ分かんないのよね……」)
『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)が送受信・改により、自分の感想を伝達した。
すでに目標とするスルーマンのアジトである、コンクリートビルディングの中に潜入した6名の男女は声を出さずに彼女を介しての送受信による通信体制に移行していた。
(「それじゃ、ふざけた男に悪ふざけで対抗してみる? 」)
黒桐 夕樹(CL2000163)が提案をする、持っていたバッグには大量の尖った石やビー玉、そして洗剤が詰め込まれていた。
(「マアあるテード場当たりになるのはシカタないわ。トモカク、ヤレるだけヤルわよ! 」)
彼の案に頷きながら夏美は全員に発破をかけるように意思を伝えた。
(「ところで……」)
そこに割り込む『白い人』由比 久永(CL2000540)。身に着けていた羽織からフードを下すと発信を続ける。
(「そいつは隔者で泥棒で『するーまん』という名の変態なのだな? 」)
――流れる沈黙。
(「あい分かった」)
沈黙を肯定と判断したのか、久永の伝えた言葉に誰かが息を吐く。
そして覚者達は3名ずつに分かれて行動を開始した。
●足音
動き出したのは鈴白 秋人(CL2000565)に『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100)がそのあとを夕樹がついていく。
作戦では秋人とラビットナイトが韋駄天で移動し、夕樹が後に続く。足音に関しては夏美の守護使役であるニャー子がしのびあしで音を消す予定……だった。
(「嘘!? なんで動かないの!? 」)
意に反して自分の傍についているニャー子に夏美は声を抑えるのが精一杯だった。
――守護使役は主人のもとを決して離れない。
故に夏美が一階にいる限りはニャー子も動かないのは当然のことだった。
そして韋駄天、通常の3倍のスピードで移動するスキルを何ら防音対策を施さずに使用した場合どうなるか……それは彼ら全員がビル内に響き渡る足音、特にラビットナイトの足元からなる下駄の音で思い知ることになった。
かといって、ここで引き下がるわけには行かない。『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)は音を立てないようにしながら2階に上がり、少しでも作戦が成功するように罠を仕掛けに動き、久永もビル内に一基だけあった、エレベーターのスイッチを押して1階に下ろそうとする。
しかし、作戦の瓦解はこれだけではなかった。
3階に上がり透視を試みるラビットナイト。しかし、高さがありすぎて5階を透視することができない。
その間は3階に罠を仕込んだ夕樹が合流、彼らは4階に上がると再び透視を試みるが……。
(「天井裏が厚い!? 」)
自分の頭から天井のスペースに加えて天井裏150センチの高さが透視の範囲である2メートル以上になってしまい5階の様子を見ることは叶わない。
さらに5階に向かう足音に2人は顔を見合わせる。ここにいない人物――秋人が一人5階まで駆け上がったのだ。
各々が作戦を考えていた、罠を仕込もうとした。駆け上がって逃げ場をふさごうとした。
しかし、すり合わせが足りなかった。
それが次々と重なり、ほころびを生み、奇襲のチャンスをつぶしてしまった。
(「――ッ!? 」)
内心に浮かぶ動揺を抑えながら、夕樹は罠を張る。物音、そして敵のものと思われる奇声。
ラビットナイトが慌てて5階に駆け上がる。遅れて夕樹も続き、そして5階で見たものは窓から投げ落される秋人の姿だった。
●奇襲
韋駄天により一気に5階まで駆けあがったライダースーツの男は窓を見つけると、そこを背にして敵の逃げ道を塞ぎにかかった。しかし……。
「それでいいのかい? 」
声は上から聞こえた。
胸元のSのエンブレムが黄色の全身タイツのようにボディラインが目立つスーツにゴーグル姿の男が天井から降りてくると同時に飛び蹴り一閃!
奇襲を受けた秋人が窓ガラスに叩きつけられ、割れたガラスがビルの外へと落ちていく。
「スルーマン鋭刃脚キック! 」
着地、そして片足を上げて面妖なポーズをとるスルーマン。受けた衝撃を頭を振るようにして払い、秋人は体勢を立て直し右手を突き出してB.O.T.を放つ。
「甘い、甘いよ」
スルーマンは近くの壁に飛び込むようにして物質透過を活かして回避すると、次は真横の壁から透過してストレートを放つ。
「クッ……!」
中世的な顔立ちの青年は掌に仕込んだ護符でそれを打ち払うと自らも回転、切り裂くような鋭刃脚を舞わせる。
だが、スルーマンもその蹴り足を裁くと彼の右手を取り捻りあげる。
「スルーマン」
そしてその捻りから逃れようとする力を利用して。
「小手返しバスター! 」
小手返しで窓の外へと放り投げた!
「痛っ!」
秋人はどうにか窓枠をつかみ、転落だけは免れる、しかしガラスが指に食い込み、力を入れるのに時間がかかる。
「そこまでだぴょん。笑顔でみんなのハートをキャッチ♡ 怪盗ラビットナイトぴょん☆ 」
ラビットナイトが可愛さアピール全開のポーズで名乗りを上げた。
「お前みたいな変態泥がいるから怪盗の印象も悪くなるピョン」
挑発とそして秋人が戻ってくるまでの時間稼ぎを兼ねた行動である。
「怪盗は目立って魅せて華麗に優雅に盗むから私からすれば半端者ピョン」
「おいおいおい、お嬢ちゃん……怪盗であろうが泥棒は悪いことだって学校で習わなかったのかい? 」
ゆっくりと近づくスルーマン、言葉にこもるのは侮蔑とそして悪党としての矜持。
「怪盗とかは名前つけたってモノを盗んだら、ただの泥棒さ、俺と変わんねえ。そっちこそ名前で飾って自分の罪を誤魔化そうとしちゃいけないぜ」
自信に満ちた笑みにラビットナイトが返す言葉を見つけられない。
「俺はスルーマン、物質透過の天才にして盗みを働く悪党さ」
「なら、行いの報いは受けるべきだよ」
そこに飛ぶ袋一つ、打ち払うと舞うのは胡椒そして唐辛子。
「才能の活かし方を間違える時点で、天才とは呼べないね」
袋を投げた夕樹がラビットナイトの隣に立ち、言葉を続ける。そのころには秋人も転落の危機から脱出し、スルーマンを挟み打ちにした。
「ゲホゲホ……ところで、この能力がどんなものか知ってるか?」
咳き込みながらゴーグルの男が語り始める。
「1メートルの無機物を通過する能力、そして今俺たちの足元にあるコンクリートは石、砂、水、他、無機化合物でできている……つまりだ」
その瞬間、彼の姿が文字通り沈んだ。
●追跡
「2階、仕掛け完了したッスよ! サクッと済ませてきました、これで階段からは来れないスよ! 」
舞子が残ったテープやワックスなどをバッグに押し込みながら、連絡してきた。その一方で久永はエレベーターに椅子を挟み込んで、ドアが閉まらないようにする。
夏実も拾って来た石や木の枝の束を置いて、戦闘用のスペースを作っていた。
その頭の中では上の状況が逐次伝わっており、1階の状況も含めて送受心・改により全員が共有できるようにしていた。だが一つだけ隠していたものがあった。
奇襲の失敗による、任務の成否。そしてそれは皆が思っていたことでもあった。
「さて……あいつらはどう動くかな?」
光のない天井裏、配管から音が響く中でスルーマンは相手の状況を確認するために上を見え上げて透視を行い、そして夕樹と目が合った。
危険を感じた直後、背後からの気配に気づき、振り向くとそこに居たのはラビットナイト。
スルーマンが階下に逃げ込んだ直後、夕樹はすぐに暗視を使用。位置を割り出すと夏美の送受信・改を利用して奇襲を指示したのだ。
天井裏の高さ1.5メートルに対し、彼女の身長は134㎝。普通の男性なら屈まないといけないところを彼女は全く支障なく動くことが可能だった。
「おごぁっ! 」
腹部に猛の一撃を受けるスルーマン、ラビットナイトの背後では癒しの滴で自身を回復した秋人がカバーに入っている。
追撃を避けるため、スルーマンはまた階下、つまり4階へ逃げ込んだ。入れ替わりに物質透過で合流する夕樹。
ラビットナイトの反動のリスクはあるが、3人はそのまま4階へと追撃を行うべく、物質透過で飛び降りる。そこは4つある部屋の一室、ドアには物質透過対策で椅子を立てかけて置き、通路側には尖った石を巻いてある。
罠を避けようと物質透過で扉を抜けようとする夕樹、おそらく、木製かもしくはドアの材料に有機物が使われているのだろう。弾かれることで扉の材質が無機物ではないことを悟ると、彼らは隣の壁から通路に出る。直後、何か転ぶような音が4階に響き渡った。
「…………」
3人は顔を見合わせると、音のなった方向――トイレの方向へ走っていく。彼らがついた先には仕込んでいたビー玉で盛大に転んでいたスルーマンが身を起こしかけていた。
「チィッ!」
舌打ちとともに近くの壁から隣の部屋に逃げ込むスルーマン。彼を追いかけようと秋人とラビットナイトが物質透過で部屋に入り込もうとする。
(「だめだ!? 」)
透視で部屋の様子を見ていた夕樹が夏美を介して思念を送る。しかし人を介すという行動によって生じるタイムラグにより、その言葉を届いたのは二人が壁から弾かれた後だった。
「知らないのかい? 有機物は通さない。つまり人間が壁につくだけで物質透過は不可能になる」
扉越しに聞こえる言葉。夕樹の目に映ったのは両腕を広げて、壁に密着する男の姿。スルーマンは身を翻すと自らが物質透過を以って覚者達のもとに飛び込みラビットナイトにパンチを見舞う。
「スルーマン正拳! 」
「ピョン!? 」
行動の隙をついたスルーマンの拳にラビットナイトが宙を舞う。だが追撃をさせまいと秋人が床にたたきつけるような鋭刃脚を放ち、それをゴーグルの男はクロスガードで受け、そしてバックステップ、洗剤に足を取られつつも、そのまま階段へと一目散へと逃げていく。
再び追う覚者達。そしてスルーマンは3階に飛び込むとエレベーター前で盛大にぶっ転び、そのまま階下へと沈み込むように逃げ込んだ。
だが、追う覚者達も既に戦いに慣れてきている上に複数仕込んでおいた罠がアドバンテージを作り出す。すぐさま3人は天井裏に透過し、ラビットナイトが招雷を放つ。狭い空間を稲光が照らす。直撃を受けたスルーマンは不利を悟り、落下するように2階へと逃げていった。
そして2階の状況に思わず舌打ちを漏らした。
「ラップとテープそしてワックスか、全部プラクティック原料だな」
2階に張り巡らされたテープやラップ、床にまかれた家庭用ワックスに忌々し気につぶやくスルーマン。舞子の仕込みは彼の行動を制限するのに十分な罠として機能していた。
そこへすかさず降りてくる3人、場所は彼の目の前。そして秋人が一人前に出て物質透過で沈み込もうと試みる……が。
「知らないのか? ワックス――樹脂は有機物だぜ、スルーマン重突ラッシュ! 」
沈み込めなかったことで生まれた隙をスルーマンは逃さなかった、重突による列攻撃。全員が被弾する。夕樹が牽制に巻いた胡椒袋を回避するとゴーグルの男はワックスの滑りを利用してテープの隙間をスライディング、そしてエレベーターの鉄扉をすりぬける様に飛び込んだ。
エレベーターシャフトをつかみ、ブレーキ代わりにすると物質透過でエレベーターの中に入り込み着地、開きかけの扉から1階に出る。
「こりゃまた……歓迎されてるなあ」
軽口を叩く彼を包囲するように夏美、舞子、久永が布陣する。遅れて残りの3人も合流し、そして本番が始まった。
●戦闘
対峙する覚者と隔者、両者に間に緊張が走る。
「安心しな……殺しは好まない」
先に動いたのはゴーグルの男だった、包囲中心のため隊列が決まっていないと判断すると小手調べとばかりに重突を打ち込む。
次々と攻撃を受ける覚者達、特に追跡で被弾していた秋人とラビットナイトのダメージが深い。だが、覚者達も受け身ではない。
「追いかけっこで疲れたろう、ゆっくり休んでよいぞ」
艶舞・寂夜、久永が誘う眠りをゴーグルの男は振り払う。
「いや、結構、スルーさせてくれ」
「スルーなんかしない! させない! むしろペッタリへばりつくわよ! 」
そこへ癒しの滴で回復しつつ、夏美が杖刀饒速日を構え、スルーマンを逃がさないとする。
「へばりつく……事案は勘弁だな」
「そういう意味じゃないわよ! 」
軽口で返し反論をスルーしながらラビットナイトの雷を回避するゴーグルの男、そこへ舞子の飛燕が舞う。
「ああっ、もうなんで左掌に目ッスか! でも多少の怪我は覚悟の上ッス、なりふり構わず死ぬ気で捕まえるッス!」
トンファーでの二連撃を腕で受けて痛みに顔をしかめる、その間に秋人は醒の炎を夕樹が清廉香を使う。
戦闘は覚者優勢で進んでいた。スルーマン自体は手練れの隔者で複数を相手取り、的確に弱っている相手を狙い、ホワイトラビットを一時戦闘不能に陥れた、しかし命数の使用、そして夏美と秋人の回復がそれをフォローする。
それに対してスルーマン自体は回復の手段を持たず、高い攻撃と物質透過というスキルを中心としていた。しかし戦場に彼が優位となるべき壁はなく、周りは覚者で囲まれている。
夕樹が深緑鞭をふるえば、体勢を立て直した秋人のB.O.T.が衝撃となって叩き込まれる、そこへラビットナイトが雷を落とせば、舞子が飛燕で追い打ちをかける。久永も継続的に艶舞・寂夜を投入し、スルーマンを眠らせようとする。
「ここまで来たら、眠るまでやるぞ」
徹底した攻撃が。やがてスルーマンも傷つき、動きが鈍る。そして何度目かの艶舞・寂夜が決まり、とうとうゴーグルの男は眠りについた。
「フフン! デキる女は何時だってエレガントなのよ! 」
先ほどのからかいの仕返しとばかりに夏美は言い放つ、だがそれは心の内を隠すための仮面。少女は心の中で安堵し、そしてそれを隠すためいつも通りに振舞った。
●捕縛
「変態は縄で縛ると喜ぶと聞いたが、コレは良いのか? 」
「いや、彼の言葉が合ってればこれは有機物だから透過されないんだろう? 」
久永の問いに夕樹が切り返す。その言葉を聞いて縄を透過されることを心配していた夏美も杞憂に終わったことを悟る。
「スルーマンだか何だか知らないッスが、盗みは良くないッス! 」
縄で縛られたゴーグルの男に対して舞子が近づく。
「もう悪さできないように、バッチリカメラに収めておくッスよ」
その手にはカメラが一台。そして手が伸び、ゴーグルをはぎ取ると露わになるのは顔立ちの整った精悍な顔立ちの男。
「これは……惚れ……いや、ないッスね」
そうつぶやくと舞子はシャッターを切った。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
