ドッペルハウス
●ドッペルハウス
「ねぇ、本当に行くの? 危ないんじゃない?」
「そうだぜ。妖が居るかもしれないだろ」
「二人が行かなくても僕は行くよ、気になるからね」
ドッペルハウス。もう一人の自分が現れる小屋。そんな噂が出てきたのはいつの事だろうか。そしてそんな噂に首を突っ込む人間が居るのはいつもの事だ。
少女と、大柄な少年と、大人しそうな少年。世界は自分を中心に回っていると思い―――危険な一線を容易く踏み越えてしまう。
「大人しいフリしてホント頑固なんだから……」
「見た目はただのログハウスだな……思ったよりデカいけど」
「まあ、いざとなったら小屋に火でもつければ大丈夫だよ。小屋の周りは開けてるから山火事の心配も少なそうだし」
とんでもない事を口走りながら大人しそうな少年が一気にドアを開く。そのままズカズカと何も無い小屋の中へ踏み入り―――、
「やぁ、良く来たね。いっぱい遊ぼうか」
表情の無い顔が、にこやかに出迎えた。
●町に広がる小さな噂
「今回の依頼は姿を映す妖、その討伐になります」
久方真由美(nCL2000003)は手元の書類を読み上げる。その中には普段の妖討伐の物とは違う種類の物も含まれていた。
「同様の機能を持つ施設を参考に考えると、敵の能力はコピーされた側と同じになると考えられます……が、妖の能力によるものなので体力や氣力は妖相当に強化されている可能性が高いと思われます」
F.i.V.E.の管理下にある施設の一つも複数人で挑戦する場合は同様の機能がある事から、的確な予測が立てられる。
とは言え単独で挑んで体力もコピーされる保証はないし、安全確保の都合上単独での任務は許可されていない。ならば囲んで叩くのが一番安全だろう。
「小屋そのものが妖であると考えられますが、コピー体が一種の核になっている可能性が高いとの事です。コピー体を倒せば妖を討伐できるかと思われます。
尚、小屋の外側から攻撃した場合はどうなるかが予測できません。そちらの作戦を選択する場合は充分に注意してください」
以前「電車内に幽霊が出るが実は電車そのものが妖」という事例があった以上、今回も同様の存在である可能性が高い。着々とデータが集まっている証拠であった。
「ねぇ、本当に行くの? 危ないんじゃない?」
「そうだぜ。妖が居るかもしれないだろ」
「二人が行かなくても僕は行くよ、気になるからね」
ドッペルハウス。もう一人の自分が現れる小屋。そんな噂が出てきたのはいつの事だろうか。そしてそんな噂に首を突っ込む人間が居るのはいつもの事だ。
少女と、大柄な少年と、大人しそうな少年。世界は自分を中心に回っていると思い―――危険な一線を容易く踏み越えてしまう。
「大人しいフリしてホント頑固なんだから……」
「見た目はただのログハウスだな……思ったよりデカいけど」
「まあ、いざとなったら小屋に火でもつければ大丈夫だよ。小屋の周りは開けてるから山火事の心配も少なそうだし」
とんでもない事を口走りながら大人しそうな少年が一気にドアを開く。そのままズカズカと何も無い小屋の中へ踏み入り―――、
「やぁ、良く来たね。いっぱい遊ぼうか」
表情の無い顔が、にこやかに出迎えた。
●町に広がる小さな噂
「今回の依頼は姿を映す妖、その討伐になります」
久方真由美(nCL2000003)は手元の書類を読み上げる。その中には普段の妖討伐の物とは違う種類の物も含まれていた。
「同様の機能を持つ施設を参考に考えると、敵の能力はコピーされた側と同じになると考えられます……が、妖の能力によるものなので体力や氣力は妖相当に強化されている可能性が高いと思われます」
F.i.V.E.の管理下にある施設の一つも複数人で挑戦する場合は同様の機能がある事から、的確な予測が立てられる。
とは言え単独で挑んで体力もコピーされる保証はないし、安全確保の都合上単独での任務は許可されていない。ならば囲んで叩くのが一番安全だろう。
「小屋そのものが妖であると考えられますが、コピー体が一種の核になっている可能性が高いとの事です。コピー体を倒せば妖を討伐できるかと思われます。
尚、小屋の外側から攻撃した場合はどうなるかが予測できません。そちらの作戦を選択する場合は充分に注意してください」
以前「電車内に幽霊が出るが実は電車そのものが妖」という事例があった以上、今回も同様の存在である可能性が高い。着々とデータが集まっている証拠であった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ドッペルハウスを倒す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
町に程近い山中にひっそりと佇むログハウス、その屋内での戦闘になります。ログハウス内は120坪程度(一辺が20メートルの正方形)あります。
●目標
ドッペルハウス:妖・心霊系・ランク2:「一番最初に足を踏み入れた者がもう一人現れる小屋」という妖。小屋そのものを攻撃しても良いがどうなるか解らないのでそこは自己責任。
・「もう一人」:P自:一番最初に小屋に足を踏み入れた者の姿を写し取ったモノが現れる。ただし現れたモノの顔には目も鼻も口も耳も無い。
●備考
・一番最初に参加申請をしたキャラクターと同じ副次ステータス、同様のスキル構成の敵が現れます。守護使役は居ませんが体力・氣力は妖側基準で設定されます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年01月16日
2016年01月16日
■メイン参加者 6人■

●
鬱蒼と木々が茂り、落ち葉による腐葉土がフカフカの地面を作る山中。そこにポッカリと出来た空間に、巨大なログハウスが鎮座していた。
ロクな手掛かりも無しに手間取る事無く見つける事が出来たのは上月・里桜(CL2001274)の守護使役に「ていさつ」を使って貰ったからだろう。
「これが件の小屋ですね……夢見さんが見た子供たちが来る前になんとかしないといけませんね」
「120坪のログハウス、とな。一辺の木が全て継ぎ目なしであれば、もはや文化財であるな」
成程華神 刹那(CL2001250)の言う通り、非常に巨大な一軒家だ。とは言え部材は継ぎ足しの跡が多く見られ、何より妖が関わっている以上はまともな物件とも考え難い。
「……ふん。下らない。猿真似の妖だなんて趣味も悪い。しかも、マネするだけでしょ? 程度も悪いわ。遠慮なく燃やすわ。躊躇もなく」
鈴駆・ありす(CL2001269)の言葉に続いたのか、覚者達はログハウスの扉を開く。巨大なワンルームの中心に、ぽつんと人影が立っていた。
カラーガード調のマーチングバンドユニフォームに身を包んだ、小柄な人影。帽子の下ではゆらゆらとサイドアップにした髪が揺れている。
『ふふ、今日は大勢来たのね? 良いですよ、遊びましょう? 沢山、たぁくさん……ね?』
しかし、その顔にある筈の大きく愛嬌のある瞳は存在しない。それどころか鼻も、口も、耳も無い。つるんとした表面だけが取り残されている。
「あぁ、そういえば……今後の為にも本当に顔以外は完全にコピーされてるのかもチェックしないとねん♪」
魂行 輪廻(CL2000534)がくすくすと笑い、動く様子の無い妖―――「もう一人」の周囲へ展開する。恐らく持っているであろうブロウオブトゥルースの貫通能力対策のため、直線上に重ならない布陣を敷くようだ。
「これが悪い妖なら懲らしめるの。お父さんもお母さんも言っていたの「性質の悪い妖は我等古妖にとっても邪魔でしかない。討伐し祓い清めるのも鈴鹿の役目だ」って」
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が抑揚無く口にする。その幼さからか、言動には父母の比重が大きいのが特徴だ。
そして最後、真っ先に足を踏み入れて姿を映し取られた向日葵 御菓子(CL2000429)は俯いて小刻みに震えている。
流石に自身と同じ姿のモノを攻撃するのは躊躇われるかと覚者達が声をかけようとすると、御菓子は勢いよく顔を上げた。
「何で顔が無いのにスタイルはコピーしてるの……ううっ、恥かしいんだってばぁ!」
●
「人数分出てきても良さそうなものではあるが、そこは言うとおり遊びたいのであろうか。はて、妖とはそんな可愛げのあるものであったか?」
先手を取った刹那は水行壱式「薄氷」を「もう一人」に撃ち出す。円錐形の氷弾は無貌の「もう一人」へと奔るが、それはひらりとかわされてしまった。
「偽物のデータが本物と変わり無いか、ついでにチェックしちゃおうかしらん♪」
輪廻が火行壱式「醒の炎」で自身の能力を活性化させる。露わになった柔肌がほんのりと色付き、ここに異性が居れば非常に目の毒になるだろう姿となる。
「相手が何であろうと燃やし尽くすわ。徹底的に」
続いてありすも同様に能力を引き上げる。扇情的な輪廻のそれと同じ技である筈だが、ありすのそれは力強さを感じさせるものだった。
「私のコピーならやっぱり回復メインなのかな……長引くかも」
御菓子は水行壱式「水衣」で水のベールを纏い、自身の防御力を上昇させる。相手は自身と同じ能力を持っているが、彼女は一人ではない。ならば普段通りに動けば良いのだ。
『あはははは! そう、恥ずかしい! 恥ずかしいの! 顔はどうでもいい、体があれば良いと言われてるみたいで恥ずかしいの! あはははは!』
そんな想いを遮るように「もう一人」が嗤う。その思考は間違いなく先程御菓子がした思考であり、更にそこからあらぬ方向へ踏み込んだモノ。気が付けば「もう一人」は水行弐式「海衣」を自身にかけていた。
「偽物の向日葵お姉さん……死んでなの♪」
無邪気に笑いながら鈴鹿が「もう一人」へと斬りかかる。が、二連撃が一度しか当たらない。そこに瓜二つの声が聞こえる。
「あぅ……」
『あははは! 痛い、痛いわ! あっははははは!』
攻撃に反応する御菓子の心情を映した「もう一人」が顔も無いのにケタケタと笑っている。
「小屋そのものが妖で……コピー体が一種の核。山の中に建物というと迷い家みたいな感じもしますけれど、コピーが核なら姿を映すということが先なのかしら……?」
土行壱式「蒼鋼壁」を鈴鹿にかけながら里桜が妖自体に対して考察を重ねる。「山中の家」と「コピー」のどちらが主体なのか、という疑問だった。
「……爆ぜなさい」
ありすの翳した掌から火炎が吹き荒れる。火行壱式「爆裂掌」だ。射程は短いがそれに見合うだけの威力を持った技―――なのだが、これもまた「もう一人」にかわされてしまう。
「水行弐式『海衣』……!」
輪廻が着々と自身の能力を高める。特殊防御を重視したのは御菓子と同等の能力を持った敵ならば特殊に特化している、と考えたからなのだろう。
「……核を倒すと、小屋はどうなるのでしょうか。消える? それとも……?」
ありすへ蒼鋼壁をかけつつ里桜は思案を続ける。同様の構造を有していた電車型妖は討伐後間も無く消滅したという事もあり、その可能性が高いと考えているようだ。
「むぅ……大人しく斬られてほしいの!」
攻撃をかわされた鈴鹿は再び「もう一人」へと斬りかかる。飛燕による連続攻撃が迫り、何とか一回は深手を負わせる事に成功した。
「ひゃっ!」
『切られちゃった! ズバっとイったわね!』
自身が切られた訳では無いのに大仰に反応する御菓子と、表情が無いのに哂っているのが解る「もう一人」。対照的な反応だった。
「まぁ、細かい事は考えぬ。みかこぴーよ、さくっと拙の飯の種となれ」
刹那は鈴鹿の攻撃の隙を突くもやはり「もう一人」に攻撃が当たらない。くるりと飛び跳ねた「もう一人」のスカートが大きく翻った。
「体があればって……誰もそこまで考えてません!」
『あら、そんな事思ってない? 本当に? 普段から男の情欲に塗れた視線を受けていない? 手頃な、手軽な相手だと視覚的に訴えている気分にならない?』
「なりません!」
先程の焼き直しのように御菓子と「もう一人」が自身の防御力を強化する術を使う。使った術がお互い逆だが、結果的にベールを二重に纏った姿はより鏡写しのようになっていた。
そしてケタケタと笑い続ける「もう一人」の言葉を顔を真っ赤にした御菓子が否定する。姿が同じとは言えやはり妖なのだろう。悪辣な姿ばかりが拡大されているようだ。
「さぁて、ガンガン行くわよん♪」
両手に嵌めたナックルを握り、輪廻が攻勢に移る。目にも止まらぬスピードで拳が振るわれ、飛燕の二連撃が見事に「もう一人」を捉えていた。
「うぅ……私まで叩かれてる気分です」
「あらあら、ごめんなさいねん♪」
くすくすと笑いながらも輪廻は「もう一人」から視線を外さない。戦闘経験の多い御菓子と同じ能力の相手は決して油断できないと知っているのだ。
『痛い痛い! 私が叩かれてる! 目の前で私が叩かれてる! 痛い痛い痛い! あははははは!』
「もう一人」が口も無いのに持っていたBE2028-2のベルから波動弾が飛び出る。ブロウオブトゥルース、現の覚者の使う技だ。
「ぐぅっ!? 小癪な!」
圧倒的な威力の攻撃が刹那に命中し、その体力の半分近くを一気に削られる。高い特殊攻撃力を持った御菓子の「もう一人」は攻撃においても油断のならない相手のようだ。
「……ほれ、遊びたいのであろう? 雪合戦といくか!」
三度刹那の薄氷が「もう一人」を狙う。が、特殊特化型の御菓子の能力を持ち防御を固めに固めた「もう一人」の防御力は尋常ではない。
『ん? 当たった? 何か当たった?』
「く……防御が抜けん!」
特殊攻撃の薄氷が完全に防ぎ切られてしまい、刹那は付随効果狙いの攻撃を中止することを決める。元より命中力の低い攻撃でそれを狙う事自体がかなりリスキーという事もあった。
「攻撃した!? それに、喋ってる事も私の感情や考えを反射的に言ってるだけ……?」
攻撃に移った「もう一人」の言動に困惑しつつ、御菓子は本来の回復役としての役目を果たす。水行壱式「癒しの滴」により刹那の体力を回復した。
「お焚き上げよお焚き上げ。炎は全てを浄化してくれるわ」
そう言いながらありすは「もう一人」を爆裂掌の火炎に包む。今度は見事命中したが、爆裂掌は特殊攻撃であり、二重の防御術で強化された「もう一人」には微々たるダメージしか与えられていない。
『はは! 煙い煙い! あっついね!』
「この……!」
通りが悪いのは予見していたが、想定を遥かに超えていたのだろう。しかしありすは攻撃を続ける。それがありすに出来る最善と信じて。
「見た目は顔以外仲間のコピーでも、体力・氣力は妖基準らしいですし……」
里桜は輪廻に蒼鋼壁をかけつつ「もう一人」の能力をエネミースキャンで探る。が、結果解ったのは具体的な数値を除く大凡の数値だけであった。能力値が御菓子と同等である以上、心霊系の特徴が当てはまるとも考え難い。
「汝、悪しき存在よ。我が双刀の力を持って祓い清めん……!」
祓刀・大蓮小蓮を振るい、鈴鹿が「もう一人」へ飛び掛かる。三度目の正直とばかりに振るわれた夫婦刀だが、やはり一度しか当たらなかった。
太刀筋は決して悪くないのだが、やはりまだ未熟な小学生と言った所か。今後の成長に期待するしかないだろう。
「たぁ! ……あら? 向日葵ちゃん、貴女カップ数幾つ?」
「え……えぇっ!? 何でそんな事今聞くんですか!?」
「んー、殴ってみた感じだと見るのと少し違った気がしたの♪」
「ほ、本当ですか!?」
「冗談よん♪」
輪廻の軽口に御菓子が軽くズッコケる。とは言え「もう一人」の隙を突いて飛燕を二回連続で叩き込んだのだ、驚異の四回攻撃の後では信じてしまうのも仕方ないだろう。
「ふふ……燃えなさい。燃えて全てを浄化するのよ」
ありすがまたも火炎を放つが、流石に連続攻撃の後に食らいたくなかったのか「もう一人」に避けられてしまう。
「全くもう……癒しの滴!」
輪廻にからかわれた御菓子は再び刹那を回復させる。全快とまではいかないが、それでも先の一撃のダメージはほぼ消えたようだ。
『内緒ですよ、内緒! 背が低いせいでサイズ以上に見えるなんて内緒です! あっはははは!』
少なくないダメージを受けている筈の「もう一人」は本来の御菓子の役目とは反し、攻撃をし続ける。その対象は里桜。ブロウオブトゥルースの一撃は里桜の体力の六割以上を奪う程であった。
「―――さすれば、穏やかに黄泉の旅路へ行かん事を」
鈴鹿の持つ双刃が煌き、飛燕が「もう一人」へと叩き込まれる。何度も攻撃した事でコツを掴んだのか、遂に飛燕による攻撃を両方当てる事に成功した。
「やったっ! ちゃんと両方当たった!」
ようやくまともに攻撃が当たった事に飛び跳ねて喜ぶ鈴鹿だが、既にその身に残された体力は半分を切っている。もし今一撃当たればひとたまりも無いだろう。
「どれほど効果があるか分かりませんし、邪魔にならないように気をつけないといけませんけれど……」
支援行動を終えた里桜が前衛に出て土行壱式「隆槍」を放つ。が、ログハウス内の地面とは即ち床。つまり妖の一部であるせいか感知されてしまい、攻撃をかわされてしまう。
「一の構え……かの一ノ太刀には遠く及ばぬが、まぁ受けてゆけ。うまくすれば目や口がつくぞ?」
刹那は両手を顔の横まで持ち上げ、八相よりも更に高い。飛び込む事のみを考えた構えからの一撃を振り下ろす。
その素早い一撃は狙いを違わず「もう一人」へと吸い込まれ、その身に決して少なくないダメージを与える事に成功していた。
「ふふっ、今日は調子が良いわぁ♪」
軽い口調で「もう一人」に再び叩き込まれる四連撃。相応の消耗を強いられるものの、体力自慢の輪廻からすれば微々たるものでしかない。内一発は外れたものの、この時点で輪廻一人で「もう一人」の体力の大部分を削っている。
『―――アハッ! アハハハハハ! 痛いイタイITAIいたいィィィイイイイ!』
輪廻の飛燕を受けて大きく後退した「もう一人」はやはり回復をせずにありすへとブロウオブトゥルースを放つ。
「嘘、そん……な―――」
『アハッ!』
その威力は凄まじく、体力的に消耗していなかった筈のありすが一撃で戦闘不能に陥る程であった。
「ありすさん……このぉっ!」
鈴鹿が仇を討たんとばかりに斬りかかるが、感情が先走り過ぎてしまったのか一度捉えた筈の相手に飛燕が一発避けられる。
更に付け加えるなら、飛燕を連発した事で体力に限界が訪れつつあるのも原因か。本人は気付いていないようだが、肩で息をし始めている。
「時に。双方の首を落としたら、誰にも判別できぬ事態となるのか」
一方で刹那は何やら恐ろしい事を呟いている。とは言えどんな状況でも動じないのはある意味強みか、思い切り振られた刀は「もう一人」を深々と傷つけていた。
「鈴鹿さん、回復します!」
御菓子が飛燕の多用で消耗した鈴鹿を回復させる。飛燕は強力な体術だが、その分だけ体力の消耗も激しい技だ。
自身と同じ姿のモノが出てきても、他のメンバーのフォローに回らなければいけない。年長者で戦い慣れしている者の辛い所であった。
「当たって下さいっ!」
里桜は再び「もう一人」を隆槍で狙うも、やはり足元からの攻撃には強いのか避けられてしまう。傍目にはボロボロの「もう一人」の動きは鈍っていないようだ。
「少し……おいたが過ぎるわねん」
低い声が熱気に包まれた筈の空間の温度を下げる。肌が粟立つのを感じる間も無く、「もう一人」の懐へ飛び込んだ輪廻の拳が唸りを上げた。
インパクトの音がほぼ同時に発生した二連撃は「もう一人」を大きく吹き飛ばし、何度か転がった後にぐったりと倒れた「もう一人」はやがて宙に溶けるように消えていった。
「ふふ……まあ、妖基準の体力ならこれぐらいかしらねん?」
●
「ありすさん……大丈夫ですか?」
治療を終え、小屋の外に出たありすに里桜が肩を貸している。以前も同じ依頼を受けていたせいか、あまり人と馴れないありすも文句を言う事は無さそうだ。
「ええ、特に痛む所は無いわ。全く、だらしないわね……もっと、高めないと」
「はい、頑張りましょう……心の中の悪い所ばかり見せるような妖に、負けないように」
ギチリと拳を握ったありすに里桜が笑いかける。身長や顔立ち等似ている所は無い筈なのだが、何故か妹を見守る姉のように見えるのは気のせいだろうか?
「最後の輪廻さんの攻撃凄かったの……私もあの攻撃、教えてほしいの!」
「あれか? いや、すずかも使っておっただろう? ああなりたければこれからも精進する事だ……まあ、今日はよく頑張ったの」
今も前に立って消え始めた小屋を警戒する輪廻に憧れの視線を向ける鈴鹿の頭に、ポンと刹那が手を乗せた。
「あ……えへへ」
ぐりぐりと頭を撫でる刹那に鈴鹿がしがみつく。それを見た御菓子と輪廻は小さく笑みを浮かべていた。
「小屋も無事に消えましたね。任務完了……でしょうか」
「そうねぇ……そう言えば最後に妖の穿いてたパンツが見えたけど、向日葵ちゃんもあれと同じやつ穿いてるのん?」
「えっ……ひ、秘密でっ、ちょっ、やめて下さい! めくらないで!」
そして、最後で台無しである。
鬱蒼と木々が茂り、落ち葉による腐葉土がフカフカの地面を作る山中。そこにポッカリと出来た空間に、巨大なログハウスが鎮座していた。
ロクな手掛かりも無しに手間取る事無く見つける事が出来たのは上月・里桜(CL2001274)の守護使役に「ていさつ」を使って貰ったからだろう。
「これが件の小屋ですね……夢見さんが見た子供たちが来る前になんとかしないといけませんね」
「120坪のログハウス、とな。一辺の木が全て継ぎ目なしであれば、もはや文化財であるな」
成程華神 刹那(CL2001250)の言う通り、非常に巨大な一軒家だ。とは言え部材は継ぎ足しの跡が多く見られ、何より妖が関わっている以上はまともな物件とも考え難い。
「……ふん。下らない。猿真似の妖だなんて趣味も悪い。しかも、マネするだけでしょ? 程度も悪いわ。遠慮なく燃やすわ。躊躇もなく」
鈴駆・ありす(CL2001269)の言葉に続いたのか、覚者達はログハウスの扉を開く。巨大なワンルームの中心に、ぽつんと人影が立っていた。
カラーガード調のマーチングバンドユニフォームに身を包んだ、小柄な人影。帽子の下ではゆらゆらとサイドアップにした髪が揺れている。
『ふふ、今日は大勢来たのね? 良いですよ、遊びましょう? 沢山、たぁくさん……ね?』
しかし、その顔にある筈の大きく愛嬌のある瞳は存在しない。それどころか鼻も、口も、耳も無い。つるんとした表面だけが取り残されている。
「あぁ、そういえば……今後の為にも本当に顔以外は完全にコピーされてるのかもチェックしないとねん♪」
魂行 輪廻(CL2000534)がくすくすと笑い、動く様子の無い妖―――「もう一人」の周囲へ展開する。恐らく持っているであろうブロウオブトゥルースの貫通能力対策のため、直線上に重ならない布陣を敷くようだ。
「これが悪い妖なら懲らしめるの。お父さんもお母さんも言っていたの「性質の悪い妖は我等古妖にとっても邪魔でしかない。討伐し祓い清めるのも鈴鹿の役目だ」って」
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が抑揚無く口にする。その幼さからか、言動には父母の比重が大きいのが特徴だ。
そして最後、真っ先に足を踏み入れて姿を映し取られた向日葵 御菓子(CL2000429)は俯いて小刻みに震えている。
流石に自身と同じ姿のモノを攻撃するのは躊躇われるかと覚者達が声をかけようとすると、御菓子は勢いよく顔を上げた。
「何で顔が無いのにスタイルはコピーしてるの……ううっ、恥かしいんだってばぁ!」
●
「人数分出てきても良さそうなものではあるが、そこは言うとおり遊びたいのであろうか。はて、妖とはそんな可愛げのあるものであったか?」
先手を取った刹那は水行壱式「薄氷」を「もう一人」に撃ち出す。円錐形の氷弾は無貌の「もう一人」へと奔るが、それはひらりとかわされてしまった。
「偽物のデータが本物と変わり無いか、ついでにチェックしちゃおうかしらん♪」
輪廻が火行壱式「醒の炎」で自身の能力を活性化させる。露わになった柔肌がほんのりと色付き、ここに異性が居れば非常に目の毒になるだろう姿となる。
「相手が何であろうと燃やし尽くすわ。徹底的に」
続いてありすも同様に能力を引き上げる。扇情的な輪廻のそれと同じ技である筈だが、ありすのそれは力強さを感じさせるものだった。
「私のコピーならやっぱり回復メインなのかな……長引くかも」
御菓子は水行壱式「水衣」で水のベールを纏い、自身の防御力を上昇させる。相手は自身と同じ能力を持っているが、彼女は一人ではない。ならば普段通りに動けば良いのだ。
『あはははは! そう、恥ずかしい! 恥ずかしいの! 顔はどうでもいい、体があれば良いと言われてるみたいで恥ずかしいの! あはははは!』
そんな想いを遮るように「もう一人」が嗤う。その思考は間違いなく先程御菓子がした思考であり、更にそこからあらぬ方向へ踏み込んだモノ。気が付けば「もう一人」は水行弐式「海衣」を自身にかけていた。
「偽物の向日葵お姉さん……死んでなの♪」
無邪気に笑いながら鈴鹿が「もう一人」へと斬りかかる。が、二連撃が一度しか当たらない。そこに瓜二つの声が聞こえる。
「あぅ……」
『あははは! 痛い、痛いわ! あっははははは!』
攻撃に反応する御菓子の心情を映した「もう一人」が顔も無いのにケタケタと笑っている。
「小屋そのものが妖で……コピー体が一種の核。山の中に建物というと迷い家みたいな感じもしますけれど、コピーが核なら姿を映すということが先なのかしら……?」
土行壱式「蒼鋼壁」を鈴鹿にかけながら里桜が妖自体に対して考察を重ねる。「山中の家」と「コピー」のどちらが主体なのか、という疑問だった。
「……爆ぜなさい」
ありすの翳した掌から火炎が吹き荒れる。火行壱式「爆裂掌」だ。射程は短いがそれに見合うだけの威力を持った技―――なのだが、これもまた「もう一人」にかわされてしまう。
「水行弐式『海衣』……!」
輪廻が着々と自身の能力を高める。特殊防御を重視したのは御菓子と同等の能力を持った敵ならば特殊に特化している、と考えたからなのだろう。
「……核を倒すと、小屋はどうなるのでしょうか。消える? それとも……?」
ありすへ蒼鋼壁をかけつつ里桜は思案を続ける。同様の構造を有していた電車型妖は討伐後間も無く消滅したという事もあり、その可能性が高いと考えているようだ。
「むぅ……大人しく斬られてほしいの!」
攻撃をかわされた鈴鹿は再び「もう一人」へと斬りかかる。飛燕による連続攻撃が迫り、何とか一回は深手を負わせる事に成功した。
「ひゃっ!」
『切られちゃった! ズバっとイったわね!』
自身が切られた訳では無いのに大仰に反応する御菓子と、表情が無いのに哂っているのが解る「もう一人」。対照的な反応だった。
「まぁ、細かい事は考えぬ。みかこぴーよ、さくっと拙の飯の種となれ」
刹那は鈴鹿の攻撃の隙を突くもやはり「もう一人」に攻撃が当たらない。くるりと飛び跳ねた「もう一人」のスカートが大きく翻った。
「体があればって……誰もそこまで考えてません!」
『あら、そんな事思ってない? 本当に? 普段から男の情欲に塗れた視線を受けていない? 手頃な、手軽な相手だと視覚的に訴えている気分にならない?』
「なりません!」
先程の焼き直しのように御菓子と「もう一人」が自身の防御力を強化する術を使う。使った術がお互い逆だが、結果的にベールを二重に纏った姿はより鏡写しのようになっていた。
そしてケタケタと笑い続ける「もう一人」の言葉を顔を真っ赤にした御菓子が否定する。姿が同じとは言えやはり妖なのだろう。悪辣な姿ばかりが拡大されているようだ。
「さぁて、ガンガン行くわよん♪」
両手に嵌めたナックルを握り、輪廻が攻勢に移る。目にも止まらぬスピードで拳が振るわれ、飛燕の二連撃が見事に「もう一人」を捉えていた。
「うぅ……私まで叩かれてる気分です」
「あらあら、ごめんなさいねん♪」
くすくすと笑いながらも輪廻は「もう一人」から視線を外さない。戦闘経験の多い御菓子と同じ能力の相手は決して油断できないと知っているのだ。
『痛い痛い! 私が叩かれてる! 目の前で私が叩かれてる! 痛い痛い痛い! あははははは!』
「もう一人」が口も無いのに持っていたBE2028-2のベルから波動弾が飛び出る。ブロウオブトゥルース、現の覚者の使う技だ。
「ぐぅっ!? 小癪な!」
圧倒的な威力の攻撃が刹那に命中し、その体力の半分近くを一気に削られる。高い特殊攻撃力を持った御菓子の「もう一人」は攻撃においても油断のならない相手のようだ。
「……ほれ、遊びたいのであろう? 雪合戦といくか!」
三度刹那の薄氷が「もう一人」を狙う。が、特殊特化型の御菓子の能力を持ち防御を固めに固めた「もう一人」の防御力は尋常ではない。
『ん? 当たった? 何か当たった?』
「く……防御が抜けん!」
特殊攻撃の薄氷が完全に防ぎ切られてしまい、刹那は付随効果狙いの攻撃を中止することを決める。元より命中力の低い攻撃でそれを狙う事自体がかなりリスキーという事もあった。
「攻撃した!? それに、喋ってる事も私の感情や考えを反射的に言ってるだけ……?」
攻撃に移った「もう一人」の言動に困惑しつつ、御菓子は本来の回復役としての役目を果たす。水行壱式「癒しの滴」により刹那の体力を回復した。
「お焚き上げよお焚き上げ。炎は全てを浄化してくれるわ」
そう言いながらありすは「もう一人」を爆裂掌の火炎に包む。今度は見事命中したが、爆裂掌は特殊攻撃であり、二重の防御術で強化された「もう一人」には微々たるダメージしか与えられていない。
『はは! 煙い煙い! あっついね!』
「この……!」
通りが悪いのは予見していたが、想定を遥かに超えていたのだろう。しかしありすは攻撃を続ける。それがありすに出来る最善と信じて。
「見た目は顔以外仲間のコピーでも、体力・氣力は妖基準らしいですし……」
里桜は輪廻に蒼鋼壁をかけつつ「もう一人」の能力をエネミースキャンで探る。が、結果解ったのは具体的な数値を除く大凡の数値だけであった。能力値が御菓子と同等である以上、心霊系の特徴が当てはまるとも考え難い。
「汝、悪しき存在よ。我が双刀の力を持って祓い清めん……!」
祓刀・大蓮小蓮を振るい、鈴鹿が「もう一人」へ飛び掛かる。三度目の正直とばかりに振るわれた夫婦刀だが、やはり一度しか当たらなかった。
太刀筋は決して悪くないのだが、やはりまだ未熟な小学生と言った所か。今後の成長に期待するしかないだろう。
「たぁ! ……あら? 向日葵ちゃん、貴女カップ数幾つ?」
「え……えぇっ!? 何でそんな事今聞くんですか!?」
「んー、殴ってみた感じだと見るのと少し違った気がしたの♪」
「ほ、本当ですか!?」
「冗談よん♪」
輪廻の軽口に御菓子が軽くズッコケる。とは言え「もう一人」の隙を突いて飛燕を二回連続で叩き込んだのだ、驚異の四回攻撃の後では信じてしまうのも仕方ないだろう。
「ふふ……燃えなさい。燃えて全てを浄化するのよ」
ありすがまたも火炎を放つが、流石に連続攻撃の後に食らいたくなかったのか「もう一人」に避けられてしまう。
「全くもう……癒しの滴!」
輪廻にからかわれた御菓子は再び刹那を回復させる。全快とまではいかないが、それでも先の一撃のダメージはほぼ消えたようだ。
『内緒ですよ、内緒! 背が低いせいでサイズ以上に見えるなんて内緒です! あっはははは!』
少なくないダメージを受けている筈の「もう一人」は本来の御菓子の役目とは反し、攻撃をし続ける。その対象は里桜。ブロウオブトゥルースの一撃は里桜の体力の六割以上を奪う程であった。
「―――さすれば、穏やかに黄泉の旅路へ行かん事を」
鈴鹿の持つ双刃が煌き、飛燕が「もう一人」へと叩き込まれる。何度も攻撃した事でコツを掴んだのか、遂に飛燕による攻撃を両方当てる事に成功した。
「やったっ! ちゃんと両方当たった!」
ようやくまともに攻撃が当たった事に飛び跳ねて喜ぶ鈴鹿だが、既にその身に残された体力は半分を切っている。もし今一撃当たればひとたまりも無いだろう。
「どれほど効果があるか分かりませんし、邪魔にならないように気をつけないといけませんけれど……」
支援行動を終えた里桜が前衛に出て土行壱式「隆槍」を放つ。が、ログハウス内の地面とは即ち床。つまり妖の一部であるせいか感知されてしまい、攻撃をかわされてしまう。
「一の構え……かの一ノ太刀には遠く及ばぬが、まぁ受けてゆけ。うまくすれば目や口がつくぞ?」
刹那は両手を顔の横まで持ち上げ、八相よりも更に高い。飛び込む事のみを考えた構えからの一撃を振り下ろす。
その素早い一撃は狙いを違わず「もう一人」へと吸い込まれ、その身に決して少なくないダメージを与える事に成功していた。
「ふふっ、今日は調子が良いわぁ♪」
軽い口調で「もう一人」に再び叩き込まれる四連撃。相応の消耗を強いられるものの、体力自慢の輪廻からすれば微々たるものでしかない。内一発は外れたものの、この時点で輪廻一人で「もう一人」の体力の大部分を削っている。
『―――アハッ! アハハハハハ! 痛いイタイITAIいたいィィィイイイイ!』
輪廻の飛燕を受けて大きく後退した「もう一人」はやはり回復をせずにありすへとブロウオブトゥルースを放つ。
「嘘、そん……な―――」
『アハッ!』
その威力は凄まじく、体力的に消耗していなかった筈のありすが一撃で戦闘不能に陥る程であった。
「ありすさん……このぉっ!」
鈴鹿が仇を討たんとばかりに斬りかかるが、感情が先走り過ぎてしまったのか一度捉えた筈の相手に飛燕が一発避けられる。
更に付け加えるなら、飛燕を連発した事で体力に限界が訪れつつあるのも原因か。本人は気付いていないようだが、肩で息をし始めている。
「時に。双方の首を落としたら、誰にも判別できぬ事態となるのか」
一方で刹那は何やら恐ろしい事を呟いている。とは言えどんな状況でも動じないのはある意味強みか、思い切り振られた刀は「もう一人」を深々と傷つけていた。
「鈴鹿さん、回復します!」
御菓子が飛燕の多用で消耗した鈴鹿を回復させる。飛燕は強力な体術だが、その分だけ体力の消耗も激しい技だ。
自身と同じ姿のモノが出てきても、他のメンバーのフォローに回らなければいけない。年長者で戦い慣れしている者の辛い所であった。
「当たって下さいっ!」
里桜は再び「もう一人」を隆槍で狙うも、やはり足元からの攻撃には強いのか避けられてしまう。傍目にはボロボロの「もう一人」の動きは鈍っていないようだ。
「少し……おいたが過ぎるわねん」
低い声が熱気に包まれた筈の空間の温度を下げる。肌が粟立つのを感じる間も無く、「もう一人」の懐へ飛び込んだ輪廻の拳が唸りを上げた。
インパクトの音がほぼ同時に発生した二連撃は「もう一人」を大きく吹き飛ばし、何度か転がった後にぐったりと倒れた「もう一人」はやがて宙に溶けるように消えていった。
「ふふ……まあ、妖基準の体力ならこれぐらいかしらねん?」
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「ありすさん……大丈夫ですか?」
治療を終え、小屋の外に出たありすに里桜が肩を貸している。以前も同じ依頼を受けていたせいか、あまり人と馴れないありすも文句を言う事は無さそうだ。
「ええ、特に痛む所は無いわ。全く、だらしないわね……もっと、高めないと」
「はい、頑張りましょう……心の中の悪い所ばかり見せるような妖に、負けないように」
ギチリと拳を握ったありすに里桜が笑いかける。身長や顔立ち等似ている所は無い筈なのだが、何故か妹を見守る姉のように見えるのは気のせいだろうか?
「最後の輪廻さんの攻撃凄かったの……私もあの攻撃、教えてほしいの!」
「あれか? いや、すずかも使っておっただろう? ああなりたければこれからも精進する事だ……まあ、今日はよく頑張ったの」
今も前に立って消え始めた小屋を警戒する輪廻に憧れの視線を向ける鈴鹿の頭に、ポンと刹那が手を乗せた。
「あ……えへへ」
ぐりぐりと頭を撫でる刹那に鈴鹿がしがみつく。それを見た御菓子と輪廻は小さく笑みを浮かべていた。
「小屋も無事に消えましたね。任務完了……でしょうか」
「そうねぇ……そう言えば最後に妖の穿いてたパンツが見えたけど、向日葵ちゃんもあれと同じやつ穿いてるのん?」
「えっ……ひ、秘密でっ、ちょっ、やめて下さい! めくらないで!」
そして、最後で台無しである。
