新年と、御籤のカミ
新年と、御籤のカミ


●新年と、御籤のカミ
「よいしょ、っと……これで最後かな」
 壮年の男性が抱えていた段ボールを降ろす。普段はあまり参拝客の多い神社ではないが、それでも氏子はそれなりに多い。正月ともなればバイトを雇う必要があるぐらいには繁盛するのだ。
 段ボールの中身は新年に欠かせない御守り、熊手、絵馬や破魔矢等々。生憎と覚者や妖が存在していても神通力の類には恵まれず、こうして業者に発注した物を売っているのが現状である。
「虚仮の一念何とやら、信じる者は―――ありゃ余所様か」
 はっはっは、と笑う男性。どちらかと言えば「鰯の頭も信心から」の方が近いが誰も聞いているモノは居ら―――否、居る。
「うわっ!?」
 倉庫に積まれた段ボールが飛び散り、男性が驚いて転がる。何事かとそちらを見れば、そこにはよく見た形の見た事も無いモノがあった。
 パタパタと折り畳まれた髪、いや紙。そこに書かれた「吉」の文字。つらつらと繋がる文面。毎年仕入れているおみくじと同じ形のモノだ。その何倍も大きいサイズを除けば。
「な、ん……」
 驚きのあまり動きが停まる男性。その視線の先でおみくじの文面が滲み、新たな文が出てくる。
『末吉:積もった恨みに注意するべし』
 誰からのだ、そう思った瞬間に男性の体を衝撃が襲う。そのショックで思考がようやく動き始める。妖。事もあろうに神の社に現れやがった。
「この……不届き者がぁっ!」
 男性は覚者でも格闘技の心得がある訳でも無く、勝てる見込みは無い。が、それでもこの神社の宮司。神に仕える者なのだ。妖などに荒らされてたまるものか。

●シンネンジャンボハナイノ!?
「年末の忙しい時期ですが……皆さん、事件です」
 久方真由美(nCL2000003)が話し始める。まるでどこぞのホテルマンのようだ。
「以前のお寺といい、妖は本当にどこでも現れるんですね……まあ、新年の人でごった返す時期に当たらなかっただけ良かったと考えましょう」
 新年の参拝客が大量に居る中で妖が暴れれば間違いなく大惨事になる。ならば守る対象が一人だけの今回はまだマシだ。
「それと今回の妖は紙製のおみくじだそうです。少し早いですがお焚き上げをしてしまいましょう」
 おみくじは焚き上げる物なのだろうか。とは言え、真由美の言う通りに紙製だ。良く燃えるだろう。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:杉浦則博
■成功条件
1.御籤のカミを倒す
2.宮司の男性を助ける
3.なし
●場面
・とある神社の裏手。社務所や鎮守の森、倉庫等に囲まれているが戦うのに必要なスペースはある。

●目標
 御籤のカミ:妖・物質系・ランク1:新年用に用意したおみくじが妖になったもの。常に[浮遊]している。紙で出来ているので恐らく良く燃える。
・八卦八卦:A特遠単:御籤のカミに書かれている事が変化する。意味の解らない事だったり下らない事だったりするので深く考えないのが吉。[凶]
 宮司の男性:一般人:仕入れた道具の荷卸し中に襲われる。妖に立ち向かう気概はあるが声をかければ大人しく下がるだろう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年01月07日

■メイン参加者 6人■



「居ました、予知通りに神社の裏手です!」
 守護使役の「ていさつ」を使って現場を発見した上月・里桜(CL2001274) が仲間に伝える。事前に現場にやって来たものの、何故か入れ違いで宮司に会えず出直してきた途端の急展開であった。
 覚者達六人が裏手に回ると、そこには一触即発といった状況の宮司と巨大な御神籤型妖の姿があった。そこに割って入り、宮司を背に庇う覚者達。
「全く、この書き入れ時に……こほん、この忙しい時にっ。私も、忙しいんですからっ」
 巫女装束姿の神室・祇澄(CL2000017) が双刀・鎬を抜き放ち、その切っ先を妖―――御籤のカミに突きつけて牽制する。
 勇ましい表情とは裏腹に聞こえたのは随分と現実的な話だったのは聞かない方が良いのだろうか。
「危ない、ですから。ここは任せて、下がってください」
「妖の相手といえば私達覚者の領分。おまかせください!」
 非礼とは知りつつも御籤のカミを警戒する為に背を向けたまま声を駆けた祇澄の言葉をラーラ・ビスコッティ(CL2001080) が引き取る。
「妖相手にその気迫……成程、覚者か。済まない、恩に着るよ」
 ワーズ・ワースの効果か、それともこういった事態には慣れているのか、宮司は若干の悔しさを滲ませながら駆け出した。あっという間にその姿が見えなくなる。
「F.i.V.E.から依頼があるからと思ってきてみれば、こんな下級妖とはね。ま、肩慣らしにはちょうど良いわね」
「御籤の紙とはずいぶん小さな物が妖化したものだ。だが、やる事が変わるわけでなし。速やかに任務を遂行するまで」
 ぐるぐると肩を回しながら前衛に出る鈴駆・ありす(CL2001269) と担いだライフルの安全装置を外す赤坂・仁(CL2000426) 。既にその脳内に宮司の存在は無く、眼前の敵に集中していた。
「正月のおみくじは新年始まって最初の一大イベントッスよ! それを邪魔するヤツは許せないッス! まして神社に現れるなんて、罰当たりもいいところッスよ!」
 コンパウンドボウと専用の矢を手に持った葛城 舞子(CL2001275) が吠える。神仏を恐れない妖を止めるための戦いが始まる。


「神聖なる神具に憑きし悪しき妖よ。断じて許す事は出来ません。あなたを、滅します……神室神道流、神室祇澄。いざ!」
 戦端を開いたのは祇澄の一撃だった。双刀・鎬を握った手首にある紋様が光を放ち、刃を通して御籤のカミへと叩き込まれる。五織の彩と呼ばれる攻撃だ。
「通常、物質系の妖には術式が効かないはずですが…予知によるとどうやら炎に弱いみたいです」
 続いてラーラが醒の炎で自身を強化する。火行を持つラーラは火属性の攻撃を得意としており、それを更に底上げする事で強力な一撃を放つつもりのようだ。
『小吉:機会を逃すと後悔が続く。積極的に動くべし』
 祇澄の攻撃から立ち直ったらしい御籤のカミの表面が滲み、新たな文字が現れる。つい目で追ってしまう文面の末尾へ視線が移ると、祇澄の体に衝撃が走った。
「く……ふぅ、ダメージ自体はそう高くありませんね」
 衝撃に一瞬身を強張らせるが、これまで数々の戦闘経験を積んだ祇澄にとっては無視して良いレベルのダメージでしかなかったようだ。
「第三の目、開眼ッス! ―――って、なんでそっちに開くッスか!?」
「あら、額に開くよりは手の方が狙いやすくて良いと思うけど?」
 舞子はビシっとポーズを決めて怪の因子の特徴である第三の目を額に開こうとするが、何故か掌に現れてしまう。
 驚く舞子に前衛のありすが振り返って答える。ありすは第三の目から放つ怪光線「破眼光」が使いやすいという理由で自分から右掌に第三の目を開いていた。
「そ、そうッスか? 手だとちょっと気持ち悪いッスよ……ま、まあ気を取り直して! 破眼光、発射ッス!」
 舞子は一瞬動きを止めるも、戦闘中である事を思い出して御籤のカミへと手を翳す。牽制も含めて放たれた二発の破眼光は見事御籤のカミに命中していた。
「お焚き上げだか何だか知らないけど、要するに全部燃やしてしまえばいいんでしょ?」
 同じ因子を持つ舞子の活躍に触発されたのか、ありすが醒の炎で攻撃力を上昇させる。元から赤い髪を持つありすの気迫により、まるで全身が燃え上がっているようだった。
「物質系なら物理的攻撃で攻めるのがセオリーだな」
 今回の任務で唯一の男性である仁はそう言うと両手で保持したライフルから念弾を放つ。元AAA所属だけあって銃器には馴染みがあるのだろう。現に放った一撃は御籤のカミのほぼ中心に命中していた。
「どこでも、もですけど、なんでも妖になるのですね」
 里桜は土行壱式「蒼鋼壁」を前衛のありすにかけ、ひらひらと揺れる御籤のカミを見ながらポツリと呟いた。この四半世紀で増大する妖については未だ不明な点も多く、発生条件も今後の研究が期待される分野である。

「そこだ……!」
 普段から寡黙な仁は戦闘時もその静かさを保ったままに攻撃を続ける。ランク1の妖が相手という事もあり、攻撃に専念する事に決めたようだ。
「神をも畏れぬその不敬! 叩き切って差し上げましょう!」
 現場へ向かう道中、御神籤の由来とそれに現れた今回の妖に対しての憤りを隠さなかった祇澄は再び双刀・鎬を振るう。
 御籤のカミが激しく切り刻まれるも、大きさ相応の重量があるのかひらひらと舞い上がる事もなく切り裂かれた。
「燃やすわ。受けなさい」
 火行壱式「炎撃」の炎を左腕に灯し、ありすが拳を思い切り突き出す。良い場所に当たったのか紙製だからか、御籤のカミは盛大に燃え上がり始めた。
 醒の炎で強化された一撃は御籤のカミの一部を突き破り、拳を引けば貫通箇所から端までが無残に引き裂かれてしまう。固定されていない紙を突き破る威力の一撃であった。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 体に火が付きのたうち回る様に動き始めた御籤のカミに、ラーラの追撃が入る。火行壱式「火炎弾」が当たり、更に御籤のカミは勢いよく燃え上がり始めた。
 特殊攻撃力がズバ抜けて高いラーラの一撃は甚大なダメージを御籤のカミへと与えている。攻撃の余波で祇澄が切り捨てた紙片が燃え尽きたほどだ。
「確かに、御神籤って色々想いが乗りそうですけど、これって新品なのでしょう?」
 里桜は祇澄に蒼鋼壁をかけながらも思索を続ける。確かに放棄された工事用具や寺の鐘等、人の情念が乗った物が物質系の妖として現れやすい。まあ、それに関しては研究班の報告を待たなければいけないだろう。
『―――。』
 ひらりひらりと燃える熱で舞い上がった御籤のカミは表面の文面が滲むも、そのまま何も浮かばなくなってしまう。どうやら先の破眼光で受けた呪いによって動けなくなってしまったようだ。
「凶がでたくらいじゃ、私は凹まないッスよ! 大吉ならラッキーだし、凶でもこの先運気は上がるしかないッスからね! ポジティブシンキングなら負けないッス! 大凶は……ちょっとショックッスが……」
 ひらひらと舞い上がった御籤のカミに対し、舞子がコンパウンドボウを引き絞る。カリカリと滑車が回り、放たれた矢は見事に御籤のカミを貫いた。
 と、それが追い打ちになったのか燃えて巻き上げられた御籤のカミは完全に上空へと浮かび上がってしまう。これでは遠距離攻撃はともかく、近距離攻撃では当たらないだろう。

「鬱陶しい。じっとしてなさい」
 逃げるように上空へ飛んだ御籤のカミにありすの破眼光が撃ち込まれる。右掌から放たれた光線は御籤のカミを貫くも、若干距離が離れたせいか致命傷には至らなかったようだ。
「ふん……しぶといわね」
『末吉:やる事、考える事が多い。努力を怠るな』
 上空に舞い上がった御籤のカミは簡単に手出しできない場所から攻撃をした―――のだが、所詮はランク1の妖と言うべきか。
 攻撃した相手はまたもや祇澄。蒼鋼壁によって先程よりも防御力が上がり、更に反射されたダメージが御籤のカミに残るばかりであった。
「悪さをする前にしっかりお炊き上げしないとです。次は良いおみくじに生まれてくださいね」
 そう言ったラーラの眼前に生じたのは先程より一回り以上大きい火球であった。今までの一撃は周囲の被害を懸念して威力を抑えていたという事か、凶悪とも言える威力の火炎弾が御籤のカミに当たり、その身の火勢が更に強くなる。
「……落ちろ」
 三度仁の念弾が御籤のカミを捉える。多少距離が離れても問題は無いと言いたげに脇を締め、長銃身のライフルから放たれた弾が既に死に体の御籤のカミを貫いた。
「目標は物質系ですし、私も火行でもないので、どの程度有効かは分かりませんけど……」
 里桜が術符を投げ、その端が御籤のカミに触れた途端に術符が爆ぜる。その衝撃に押され、既にその体の半分近くを失った御籤のカミがひらりと宙を舞った。
「皆景気よく燃やしてるッスね、それならコイツもおまけッス!」
 最早飛ぶと言うよりも落ちると言った方が正しい御籤のカミに舞子が手を翳し、そこから覗く第三の目から破眼光を放つ。
 一筋の光が御籤のカミの中心を貫き、紙でできた体が燃え上がるスピードが一気に上がる。そのまま数秒もしない内に、御籤のカミは僅かな煤を残して燃え尽きてしまうのだった。
「……やれやれ、御神籤を乗っ取るとは何たる罰当たりでしょうか。巫女でありながら信仰心のそこまで篤くない私よりも罰当たりです」
 妖の消滅を確認した祇澄が軽く言うが、周囲の皆はツッコんでいいのかどうか解らず曖昧な笑みを浮かべるだけであったとか。


「祓い給え……清め給え……六根清浄」
 祇澄が戦闘の余波で荒れた裏庭を真っ先に整え始める。流石に神社の生まれという事だろう。宮司とも話をしにいく心積もりのようだ。
「私らも荷物の片付けとか手伝っていかないッスか? 結構派手に暴れちゃったみたいッスから」
「そうだな。後始末専門の班が居るとは言え、自分達で片付けれるものは片付けた方が良いだろう」
 それに続く形で舞子と仁が転がった段ボールを元の位置へと戻し始める。盛大に火をつけていたが何とか倉庫の中は無事のようだ。
「どうせですし、神社の新年の準備のお手伝いでもしましょうか……?」
「時間があればお御籤を引いたり、参拝もしておきたいですね」
「せっかくだし、ちゃんとしたおみくじを引いていこうかしら。ま……内容はどうでもいいけど」
 中々に難易度の高い提案をする里桜に、意外な程手慣れた様子で地面を均すラーラ。ありすもおみくじは引いておきたいようだ。
 ……その結果がどうなったかは、文字通り神のみぞ知る。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『御神籤』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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