戦乱のその爪跡を消し去ろう
戦乱のその爪跡を消し去ろう


●日ノ丸事変と呼ばれた戦いの後
 FiVEとヒノマル陸軍の古都を舞台とした攻防は、FiVEの勝利に終わった。
 だがヒノマル陸軍の戦火は京都を蹂躙し、多大なる被害を及ぼした。警察やAAAをはじめとした公的機関はこの復興に動くことになる。先ずは水道や電気などのライフラインの復旧や、家を壊された人の仮設住宅がメインとなる。
 だがそれで十分とは言えない。ヒノマル陸軍により様々なものを失った人もいる。そのショックで呆然自失となり、心に傷を負うものも出るだろう。戦闘は終わらせるよりも、終わった後の処理の方が大変で時間がかかるものなのだ。

●FiVEの覚者達
「というわけで、ワシらも復興を手伝うぞ」
『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)は集まった覚者に向けて、元気よく告げる。
「こういう時はお上に任せっきりにしてはいかん。人を救うのは人じゃ。戦いで傷ついた人を救うため、もうひと踏ん張りするぞぃ」
 大戦経験者である源蔵は、こういう時に人を救うのは行政とそこに住む人々の両方であることを身をもって知っている。誰かが動けば、つられて動く。今は上を向くことができなくとも、お腹が膨れれば余裕が生まれる。人を救うのは、神でも源素でもない。同じ人間の手なのだ。
「幸か不幸か、ワシらは世間から覚者組織という認識がない。覚者への怒りを受けることなく、活動ができるわい」
 今回の戦いは隔者が起こした戦争だ。一般人からすれば、覚者も隔者も同じこと。源素に目覚めた者への偏見と恐怖を受けることなく、復興活動ができる。名目上、五麟学園で募ったボランティアという立場で行動することになる。
「ま、戦いで疲れてるじゃろうから無理強いはせんよ。どうする?」
 源蔵の誘いにあなたは――



■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:どくどく
■成功条件
1.京都の復興を手伝う
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 決戦アフター。あるいは幕間のお話です。
 
●場所情報
 京都。【日ノ丸事変】でダメージを受けた町です。ところどころに戦いの後が見られ、避難した人が公共の建物内に集合しています。ヒノマル陸軍が略奪していったコンビニやスーパーに食料の類はなく、住処を破壊された人は公共が建てた仮設住宅に移動しています。道には瓦礫が転がっており、これらを除去しなければ車も動かせません。
 
 行動は主に四種類です。プレイングの頭かEXプレイングに行動する番号を書いてください。下記にない行動があれば【5】でお願いします。
【1】食事手配。料理を作ったり、配給したり。ガスボンベなどはこちらで用意します。
【2】瓦礫撤去。破壊されて生まれた瓦礫を撤去していきます。肉体労働はこちらで。
【3】治療行為。源素や医療行為による怪我人の治療を行います。気力とかはイベシナなので気にせずにどうぞ。
【4】娯楽提供。塞ぎこんだ気分を吹き飛ばすのは、娯楽です。音楽、演劇、絵画……笑う余裕ができれば、人は動けます。

●NPC
 榊原源蔵
 爺です。基本的に【2】で瓦礫撤去を行っています。ですが、呼ばれればどこにでも行きます。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
42/∞
公開日
2015年11月14日

■メイン参加者 42人■

『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『月下の黒』
黒桐 夕樹(CL2000163)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ママは小学六年生(仮)』
迷家・唯音(CL2001093)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『ヒカリの導き手』
神祈 天光(CL2001118)
『名も無きエキストラ』
エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)
『デブリフロウズ』
那須川・夏実(CL2000197)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『暁の脱走兵』
犬童 アキラ(CL2000698)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『卑金の魂』
藤城・巌(CL2000073)
『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)


 ヒノマル陸軍との抗争が終わり、京都に多大なる被害を及ぼした隔者が去った。
 永遠に戦争を行いたい彼らがもたらしたのは、日常を壊す破壊の爪跡。源素に目覚めた者の力は、かくも恐ろしいのかと人々に恐怖を植え付ける。
 だが、その傷跡を癒すべく京都を守った覚者達が動き出す。


「街をめちゃくちゃにしたのが覚者なら、復興の手伝いをするのも覚者じゃないとね」
 言って食事を運ぶのは笹雪。普通の人からすれば、ヒノマル陸軍もFiVEも等しく『能力者』だ。植え付けられる悪いイメージは払拭しておいた方がいい。とはいえ、できることはそう多くない。自分にできることは何か、と考えて食料配給を行うことにした。
 アルコールなどを用意して清潔に気を使い、アレルギーの有無などを確認して料理を配る。持病を持っている人がいれば、それに考慮した食品を持ってくる。その為に調理する人と話を聞きながらの大忙しだ。
「ねぇねぇ、その作ってるのってどんなのが入ってるのー?」
「カレーだから、野菜とスパイス。アレルギー項目はこんな所かな」
 カレーの鍋をかき混ぜながら結鹿が答える。エプロンをかけて袖を捲り、大鍋にカレーライスとコンソメスープを作るべく火を付ける。こういう時は暖かい食べ物が貴重だと聞いて、大量に用意したのだ。
 野菜を均等な形に切って、順番に入れる。アクを取りながら具を足していき、適度にスパイスを加えた。食欲をそそる香りと結鹿の笑顔。栄養と疲労回復を目的としたスープを食器によそって配給していく。
「皆さん、お待たせしました。ご飯、どうぞぉ~っ!」
「こちらには豚汁うどんもありますよー!」
 同じく湯気を立たせた鍋を前に飛鳥が言う。母に教えてもらった料理だ。京都の野菜をたくさん用意して、豚肉やうどんと一緒に煮込む。薬味に九条ネギと練とうがらしを加え、十分に煮込んだ一品だ。
 けが人を癒すのはそういった技術や術を使う人に任せて、飛鳥は気落ちしている人たちの心を癒す方に回っていた。一人では手が回らないため、被災した人にも少し手伝ってもらった。紅葉の木の下で、皆と一緒に料理を作る。体を動かすことで、被災者も気をまぎらしていた。
「あったまるし、お腹もいっぱいなるし、栄養満点だしでとってもいいのよ」
「こっちにも豚汁があるよ!」
 鍋をかき混ぜながら禊が食事を待つ人たちに呼びかける。元気のいい声に暗い気分になっていた人は顔をあげ、豚汁を食べるために歩き出す。禊の笑顔につられるように笑みを浮かべ、渡された豚汁を口にする。
 確かに日の丸事変で京都はダメージを受けた。だけど人はまだここにいる。ここにいる皆で頑張り、ここにいる皆で立ち直ろう。今回の戦いで、色々なものを失ったけど、その分、新たしいモノを築いていかなくては。
「私たちはまだ歩ける。私たちはまだ動ける。だから、明日をより良いモノにするために、頑張っていこう!」
 禊の元気な言葉は、少しずつだが町の人たちに伝播していく。

「手を切らないように、ゆっくりでいいからな」
「ふふーん、凜音ちゃんに教えてもらったから、怪我なんてしないんだぞ!」
 言いながら野菜を切っているのは凜音と椿花。凜音は椿花の訪朝の手つきを見ながら、この手で刀をもって人を切るんだよな、とそんなことを思う。できるころなら彼女には戦ってほしくない……だが、そうもいかないのが現状だ。
「どうしたのよ?」
「なんでもない。それより気をつけろよ。手を切ったら治してやるが、痛い思いはしない方がいいだろ?」
「ん……確かに痛いのは嫌なんだぞ。凜音ちゃん、ありがとう」
 でも、怪我しても凜音ちゃんに治してもらえるなら。そんなことを想像する椿花。しばらく手を止めて考える。優しく手を取って絆創膏を張ってくれる凜音ちゃん。それはそれで……。
「どうした?」
「なんでもない。次はどうするの?」
「そうだな。火が通るまで少しあるな。椿花。カレーのルー、どれがいい?」
 子供用の甘口ルーだろうな、と思いながら凜音は問いかける。だが椿花の答えは予想に反したものだった。
「椿花の好きなルー? うーん、あ、辛口がいいんだぞ!」
「は? ちゃんと甘口あるだろ?」
「椿花、辛口食べれるもん……凜音ちゃんと一緒の辛口が食べたいんだぞ!」
(最近やけにこいつ背伸びしたがるな……)
 意地を張る椿花に諦めたように辛口ルーを手にする凜音。
「あー。じゃあ、一緒に辛口な。ただし、少し食べて無理ならストップだからな」
 凜音の対応に喜ぶ椿花。だが十数分後、
(……か、辛くない。もん……。泣いてないもん……)
 カレーの刺激で泣き出すことになった。

【モルト】の四人はおにぎりを作り、皆に配ることになった。大量のご飯と具材。それを前に一つずつ丁寧に握っていく。
「阿久津さんの割烹着すごくいい感じー! なんかお母さん! って飛びつきたい感じ!」
「ああ、さすが我らのチームおかんだ」
 奏空と鷲哉が割烹着姿の亮平を褒め称える。自分の母親の衣装を借りてきて来た亮平だが、不思議と違和感はなかった。それだけ真剣におにぎりを作るのに従事している為だろうか。
「運ぶのはこれでいいのか?」
 そんな三人が作ったおにぎりを行成が配っていく。大量のおにぎりを運ぶのは結構な労働だ。美味しそうなおにぎりを前に我慢しながら、集まった人たちに配っていく。大人に子供に。単純だが大変な作業だ。
「俺、ツナマヨが好きだから俺はツナマヨのおにぎり握りまーす!」
 自分で食べるわけじゃないけどね、と言いながら奏空はおにぎりを握っていく。いろいろ教えてもらいながら、朝から必死に握ったおにぎり。その形は歪だが、回数を重ねていく旅にコツをつかんだのか少しずついびつさは消えていく。
「工藤君のおにぎりはツナマヨか。小さい子も食べやすい具だし、美味いよな」
「ちょっと形はいびつになっちゃったけど、愛情たっぷり! ……多分!」
 亮平に褒められ、頭を掻く奏空。できたおにぎりを行成と一緒に配っていく。
「んー……こんなものかな」
 業務用の大鍋で豚汁を作りながら鷲哉は料理の出来具合を確かめていた。家で作るときの煮込み方だが、基礎はしっかり押さえてある。火の通りにくい物優先で煮込んでいき、肉と豆腐とこんにゃくを入れる。味噌を加えて少し味見をする。
「阿久津ー。ちょっと味見てくんねー?」
「うん、豚肉と野菜の旨味がしっかり出てて美味い。豚肉は疲れた時にいいし、元気出ると思う」
 亮平のお墨付きを受けて、鷲哉は食器に豚汁を配分する。具も量も均等に。
「味は私が保証する。数もあるので、落ち着いて食べてほしい」
 おにぎりや豚汁を配給する行成。多くの人たちが集まっており、それぞれに異なった対応をしていた。子供相手にはしゃがみ込み、大人相手には慌てないように注意を促し、空腹で余裕がなくなるのは当たり前だ。今はお腹を満たし、余裕を生んでほしい。
「志賀君、配膳の方ありがとう。あちこち運ぶの大変だったよな、お疲れ様」
「いえ。阿久津さん達もお疲れ様です」
「一段落したら俺達もごはんにしよう。みんな、おなかが空いただろう?」
 亮平の言葉に【モルト】の皆は賛成、と声をあげた。


 食べ物だけが人の心を癒すのではない。培った文化もまた、人の心を癒す。
「来るもの拒まず、夜司の青空俳句教室じゃ」
 夜司は集まった人に短冊と筆を渡す。俳句。五七五の一七文字で表す定型詩である。
「……と言うてもいきなりでは難しいか。よろしい ならば儂が手本を見せよう
『戦過ぎ 初霜降らす 京の今日かな』」
 字余ってるじゃないか、という言葉にニカリと笑みを浮かべて夜司は言葉を返す。
「字余り字足らず、形式にこだわらず感じた事をありのままに書くのじゃよ。俳句とは和の心、日本の伝統じゃ」
 戦の後、今日の京都に初霜は降る。だが霜が過ぎれば春が来る。そのころには京都も元気を取り戻しているだろう。夜司はそう信じていた。
「『戦乱の 空気を飛ばす 秋風よ』……おや?」
「マジカルミラクルゆいねっち、登場!」
 向こうの通りでは唯音がポーズを決めていた。フリフリヒラヒラのピンクを基調とした服を来て、ハートマークのステッキを振り回す。魔女っ子アニメのテーマソングをかけて高いところから現れた。みんなの注目を受けながら、お約束とばかりに跳躍する。
 自分がまだ子供であることを唯音は自覚している。だからこそできる元気づける方法。覚者の力は心を癒すものではない。だけどこの力で困った人を助けることができるのなら。因子発現してよかったと唯音は本当に思う。
「マジカルミラクルゆいねっちの応援よろしくね!」
「歌はあっちにお任せして……え? 役割分担ですよ」
 あはは、と笑うさくら。思っていたよりもひどい状況に汗をかきながら、危険な場所に行こうとする子供たちを押しとどめた。素手で瓦礫を触れば裂傷を負う。知らずに横を通過しただけで大怪我をした人もいるのだ。
 様々な職種を転々と変えていたさくら。その経験で得た話術や遊びで子供たちの気を引いていた。あやとりをして視覚的に喜ばせ、あやとりを知る老人を巻き込んでコミュニケーションを図ったり。
「さ、自分にできる役割を探しましょうか。あたしも、きみも」
「では私は人形劇をしますね」
 たまきは両手に人形を嵌めて人形の口をぱくぱく動かす。右手には白いウサギが。左手には緑色のカメが。人形劇の題名は「うさぎとかめ」だ。怖い話よりも怖くない話を。遅くとも頑張るカメが報われる話を。そんな思いが込められていた。
 人と戦うことは決して得意ではないたまき。だが彼女は臆病な自分を奮い立たせて戦場に向かう。ここもまた戦いの場所。銃を持った敵はいないけど、彼らの爪跡が今の敵。人形劇にハンカチ落としに。戦禍に悩む子供を癒すのがたまきの戦い。
「ハンカチ落ろしですけど、皆さん知ってますかー?」
「ハンカチ落としに入れなかった人はこちらにどうぞ。絵本をお読みますよ」
 灯は幼稚園児を相手していた。子供を持つ親御を自由にすることも含めての行動だ。親たちの感謝の言葉を受ける灯。妹や弟がいる灯は、この年齢の子供の扱いに慣れている。子供たちに見せるように絵本を開き、朗読を開始する。
 選んだ絵本は『おおきなかぶ』だ。皆で力を合わせてかぶを引っ張る話。リズムを重視した歌うような文章。難しいことでも皆で力を合わせればきっと解決できる。小さい力でもきっと何かの役に立つ物語。
「だからみんな、お父さんとお母さん今とっても大変だけど、いい子でお手伝いするんですよー」
「「はーい」」
 灯の声に沢山の子供の手が上がった。

「え、冬ったらコレじゃないの?」
 更地になった広場に巨大なクリスマスツリーを用意するプリンス。いやまあ時期的にはあってるんですがね、王子。予算的にはかなり無理をしたが、それでも押し通すのがプリンスの人徳か。
 プリンスは集まった子供たちと一緒に飾りつけをする。天辺の星を突けるのは王の務め……と主張するがなく子供には勝てないのか役割を譲る。梯子を一緒に上りながら、故そり子供たちに耳打ちした。
「特別に王家の秘密を教えてあげるよ。実は余、死ぬのと高い所超怖い。でも我慢してるのさ、王子が元気ないと民も元気出せないしね」
「何をやっているのか……でも、ま、頑張ったみたいだし。いっか」
 呆れるように紡がプリンスの行為を見ていた。そして目の前の子供たちに目を向ける。竹とんぼに万華鏡。手作りのおもちゃを子供たちと一緒に作っていた。周りの影響を受けやすい子供たちに、せめて楽しい時間をと用意したものだ。
「殿下! 無茶はしないでくださいねっ」
 ツリーの下で手作りのおもちゃを作りながら、プリンスに向けて千陽が言う。使い慣れたナイフを使い、竹を削っていく。自分の血腥いナイフが、こんな平和的に使えることに少しだけ嬉しさを感じていた。子供たちに注意しながら、一緒に作っていく。
「紡、えっとその。この間、怒っていたと聞きましたが、その」
 おもちゃ作成の合間を縫って千陽が紡に問いかける。珍しく歯切れの悪い口調だ。
「ん?」
「すまなかったと思っています」
 先の戦いで無茶をした自分を怒っているのだろう。それを理解して謝罪する千陽。その言葉に紡は千陽の腕に額を寄せて小さな声で言った。
「ボクのとこに帰ってきてくれるなら……それでいいよ」
「はい。戦場から帰還を果たすのが軍人の本分ですから」
 その言葉に瞳を閉じる紡。そういえば告げていなかったな、と思い言うべき言葉を口にした。
「ん……お帰り。千陽」


 別の所ではヒノマル陸軍に破壊された町の、瓦礫撤去を行うものもいる。
「秩序、治安、健康。全て綺麗で清潔な環境なくしては存在し得ない。さあ、掃除を始めましょう」
 柔軟体操をした夏南が手袋をして道に向かう。清潔第一の夏南は穢れた者や汚いものを触ることを拒絶する。だからこそ、京都の町が不清潔なままなのが許せないでいた。車道にある瓦礫を神具を使って撤去していく。
 地図を見ながら公共機関や病院へ続く道を優先的に掃除していく。自分に専門技術や資格がない事に夏南は苛立ちを感じていた。覚者がいかに力があるとはいえ、やれることに限度がある。運搬車か清掃車でもあれば、と思ってしまう。
「トラックとか、清掃車の免許取ろうかしら。いくつからだっけ」
「二トントラックなら普通免許で行けるから一八歳からだな」
 夏南の疑問に答えたのは駆だ。駆は覚醒すると姿が大きく変わるため、あえて覚醒せずに活動していた。あくまで人間のボランティアとして、労働力を提供していた。少しでも景色を変えて、車が通る道を確保するために。
 バックパッカーとしていろいろな国を旅していた時も、碌でもない場所は例外なく雑多に荒れていたし、整然とした場所では倫理もそれなりだった。こういった瓦礫を放置すれば、国の管理が滞っていると思われて人のモラルは低下するのだ。一刻も早く復旧しなくては。
「こっちにも大きいのがあるぞ。誰か来てくれー」
「任せるであります! 巨大な瓦礫をブレイク解体と参りましょう――解身(リリース)!」
 爆音と光と共にアキラが覚醒し、全身黒の鎧を身にまとう。大きな重機が入り込めそうにない場所の瓦礫を中心に、撤去及び破壊を行っていた。狭い路地などの瓦礫や鎖骨を砕いて小さくし、運びやすくしていく。
『ただ化物を始末してさえいれば、それで自分の一生はOKだ』……そう思っていた時期がアキラにある。だがこの拳は化け物を退治するだけのものではない。こうして人の役に立つために振るわれていた。
「こちらに人形が落ちていたでありますよ!」
「ああ、もしかしたらこの辺に住んでいた住人のものかもしれないんで」
 アキラが見つけた人形を預かる夕樹。逃げる際に子供がなくしたものかもしれない。そう思い人形を確認する。流石に名前は書いていないが、堕ちていた場所と人形の形をメモに取った。誰かが探しているかもしれない。
 作り上げるのは日を重ねるけど壊れるのは、あっという間。破壊された京都の町を見て、そんな感慨にふける夕樹。ついこの間まで普通にあった街並みが、こうも変わるなんて。ペットボトルの水を飲みながら、少しずつ瓦礫を撤去していく。
「起こった事実は変えられないから。今できる事を、次へ進む為に」
「そうだな。今はやれることをやろう」
 夕樹の言葉に同意する守夜。ヘルメットに軍手、安全靴。用意できるだけの装備を身に着けて瓦礫撤去を行う。周囲の状況をよく確認し、神具の大槌を持ち上げて振り下ろす。仲間と声を掛け合って、安全第一で動く守夜。
 遠くで作業している榊原の方を見る守夜。同じ火の精霊顕現として、そして武芸をたしなむものとして、親しみと尊敬を抱いている。遠い未来、年を取った自分を想像する守夜。ああいう老人になれるだろうか。その為に、今日を生きる。
「流石は榊原老師、やる時はやる人だな」
「褒めても何も出んよ……ってどうした、藤城の?」
 榊原の近くで黙々と作業をする巌。何か言いたげに顔をあげ、そして降ろす。
「榊原老……自分は、幼少よりただ身を鍛え力を磨くのみで育って来ました。ですが同時に『その力は人と世を護る為にのみ使う物である』と常にそう教えられ、無論今もそう信念して拳を握っております」
 ですが……と町を見る巌。破壊された京都の町。巌はそれを見て無念の声をあげる。
「他に、或いはもっと、出来る事は無かったのか。歩む道に、誤りや欠落があるのではないか、と……」
 うまく立ち回れば、ヒノマル陸軍が暴れるより前に彼らを押さえることができたのではないか? そうすればこの被害はなかったのではないか? 声にはそんな自分への悔恨が含まれていた。
「そうじゃな。その通りじゃ。ワシらはもう少しうまくやれたかもしれん。なら次はうまくやればいい。その気持ちがあるなら、いつかは成し遂げ得るわい」
 そんな弱音を肯定し、そして次に生かせと百年生きた翁は言う。
 その言葉が巌にどう響いたかはわからない。ただ、一礼し黙々と作業に戻る。

「やれやれ ひでー有様だな。同業者にゃ戦場カメラマンもいるが、まさか日本でこんな光景にお目にかかるたァな」
「ここら辺に住んでる人達にはだいぶ迷惑かけたな。ほらやるぞ、誘輔」
 誘輔と柾はそんな会話をしながら瓦礫撤去を行う。共に覚醒した状態で作業を行う。力が増しているとはいえ過信せず、慎重に作業を行っていた。慌てず焦らず。少しずつだけど確実に。
「少し休憩するか」
「そうっすね、センパイ」
 柾の言葉に賛同して、瓦礫に腰掛けて一服する誘輔。しばしの沈黙の後、
「なあセンパイ……じゃねーや三島さん。結婚しねーの? 三島サンなら寄ってくる女くさるほどいるだろ」
 そんなことを尋ねる誘輔。その言葉に柾は苦笑して答えた。
「いいなと思う人かいなかったわけじゃないが……色々と考えてな。
 そういうお前はどうなんだ?」
「俺は相手も予定もねーけど。まあ……」
 言って周囲を見回す誘輔。たくさんの瓦礫を前にため息をつくように紫煙を吐く。
「こーゆー物騒な世の中でガキ作りたくねーって奴の気持ちは、わからねーでもねー」
「確かにな」
 大切な人が守れない事が怖くて作れない。大切な人を失った事がある柾は、失うことの痛みを知っている。
「ほら、さっさと作業に戻るぞ」
 その傷を見せることなく、柾は休憩を終えて働き出す。誘輔もそれ以上は追及せずに、その後を追った。

「戦争は終わったでござるが……万全無事とは言えぬ状況でござる」
「そうですね。僕はこういった『後片付け』に興味は全く微塵たりとも存在しないのですがね」
 瓦礫を前に天光が苦々しく拳を握り、エヌが興味なさげにため息をつく。正義感の強い天光はヒノマル陸軍の破壊行為に怒りを感じ、事象を傍観することに徹したいエヌは自発的に動くことを良しとしなかった。
「崩れた建物に、負傷人、やる事が沢山あるでござる。拙者も力を貸すでござるよ!」
「どうぞ頑張ってください」
「何を言うでござるかエヌ殿。一緒に働くでござる!」
「先も言いましたが、興味がありませんので」
 プラスとマイナス。ポジティブとネガティブ。天光とエヌの態度は真逆を向いていた。
「覚者というのは強者であり、弱きを護る存在であるべきでござる。一般人を護る事こそ、覚者たるものの使命でござる」
「覚者だからなんだと使命感を持つのは結構ですが、他人を巻き込んで己の正義を押し付けないで欲しい物です」
「そのようなことを――」
「あ。あそこの瓦礫崩れそうですよ。早く撤去しないと」
 エヌが指さす瓦礫は、確かに危ういバランスで保たれていた。その指摘を受けて天光は瓦礫の方に走り出す。
「どうせならどこかで大きく悲鳴でもあがりませんかねぇ」
「不穏当なことを言ってないで、一緒に働くでござるよー!」
 ため息をつくエヌの発言に、遠くから天光の声が響いた。

「じいちゃん、この折れた柱捨てるやつか?」
「もっと大切に扱わんか! それはただの瓦礫とちゃうんやで」
「イチゴ、張り切りすぎてケガをしないでネ」
 一悟、研吾、リサの【光邑家】は破壊された建築物の立て直しを行っていた。宮大工の研吾の指示の下、光邑組総出での作業である。孫の一悟もそれを手伝っている。とはいえ流石に建築の知識はないので、資材の運搬や仕分け程度だ。
「どれがガラクタでどれが使えるかなんてわからねぇよ」
「何が使えて何を作り直さないといけないか。そいつは先に調べておくものなんだよ」
 建築とは一つの資材だけを見て行うものではない。完成品から逆算し、そこから必要なものを求めるのだ。その図面があるとないとではできることは大きく違う。
「それにネ、再利用できなかった廃材も、根付や箸置き、他にもいろいろ加工できると思うノ」
 帳簿をつけながらリサが言葉を継ぐ。この復興で光邑組が出費した費用をまとめていた。あとでFiVEに請求書を送るらしい。……今回の責任者である榊原が帳簿を見て、回れ右して逃走するのだが、それは別の話である。
「売上は全部、被災者の方に寄付シマス。いいアイデアでしょ、ケンゴ?」
「ああ。流石だぜ、リサ」
 アクセサリー作家のリサならではのアイデアである。それに頷く研吾。
「奥が深いんだな、大工って」
「大工だけじゃねぇ。全ての仕事は奥が深いんだ。分かったらしっかり勉強しろよ、一悟」
「ふふ。そろそろお昼にしまショウ。おにぎりを作ってきたノ」
「あ。皆に配ってくるぜ」
 リサの用意した昼食を光邑組の皆に配っていく一悟。自分にできることは多くないけど、それでも何かを手伝いたくて。
 ふと、一悟の視線が街を見る。ヒノマル陸軍に蹂躙された町を。
「日の丸の連中、ひでえことするよな。天下とりてぇていうならさ、民の生活のこととかちゃんと考えなきゃなんないだろ。裸の王様にでもなりてぇのかってんだ」
 瓦礫の上に立つ王。それが正しくないことは、今の一悟にもわかる。
 だからこそ、復興を急がねば。そう心に思うのであった。


「ひどい……」
 たまきはヒノマル陸軍の侵攻で傷ついた人たちを前に、憤りを感じていた。彼らの理念など関係ない。無関係な一般人を巻き込んで為しえる理想に、何の意味があるのだろうか。その怒りを抑えながら、けが人の元に駆け寄る。
 たまきは自分が覚者になったことを恨んだことがあった。因子発現して、白い目で見られることも少なくなかった。だけど得たものもある。人を救う力が今手にあるのなら、それを誇り皆を癒そう。傷つけるのが源素なら、癒すのも源素だ。
「さあ、そこに並んで!かたっぱしから治すわよ!」
「お願いします。傷ついた人達を治し、癒したいんです」
 重傷者を中心に御菓子が癒しに回る。意識のない人や歩くのが困難な人が集められた場所で、源素を使った癒しを行使する。今回の事件による覚者への風評を考えると、可能な限り源素の力を使わずに癒したいのだが、そうも言ってられない。
 怪我のひどい人を医者から聞いて、順番に。この手が届く限り、できるだけ多くの人を助けよう。そうでなければ、この力を得た意味はない。消毒や接ぎ木などの医療行為はできないけど、この力で傷をいやすことができれば。
「守りたい……お願い間に合ってっ!」
「回復がわたしの仕事、だから」
 ぼそりと、だけど確かに口にする日那乃。避難所に集められた怪我人を見て、神具の書物を開いて水の力を開放する。冷たい水が傷の熱を冷やすように広がり、少しずつ怪我を癒していく。
 診断は医者に任せて、重傷の人を癒す日那乃。病院に搬送できる体制が整えば、すぐに行くように言って次の怪我人に向かう。一人ずつ確実に。淡々とした口調と動作だが、その態度は確かに怪我人を癒す者の動きだ。
「他にも怪我してるひとがいたら、ここのことを教えて」
「さて、巫女さんの本領発揮よ! 癒して癒して癒しまくっていくわ!」
 逆に元気よく人を癒すのは小梅だ。巫女って別に人癒さないよなぁ、という意見を打ち消すかのように元気よく人を癒していく。塞ぎこんでいた人たちはその元気に充てられて、少しずつ元気を取り戻していく。
「はーい、くまもり神社をよろしくー。ご利益もたくさんあるわよー、是非参拝にいらしてねー!」
「神社の……宣伝?」
「多少の宣伝くらいいいでしょう!? アタシだって大変なんだから、これくらい見逃しなさいよ!」
 しっかり自分の神社の参拝客を増やそうとするのは、まあ御愛嬌か。
「怪しい宗教とかじゃないってば!」
「言えば言うほどアヤシク思えるわよ」
 夏実が怪我人に包帯を巻きながら冷静にツッコミを入れた。医療の心得がある夏実だが源素の癒しを中心に治療を行っていた。もちろん知識をおソロ化にするつもりはない。源素の力だけで足りない分は、医療行為でサポートしていく。
 ヒノマル陸軍のせいで植え付けられた覚者への偏見。それを払しょくするためには、源素の癒しが有用であることを示すのが一番だ。
「つまりワタシはこう言う打算と狙いがあって治療してるの。
 べ、別に怪我人が心配とか元気になって欲しいとかそんなナヨナヨした動機じゃないわよ! カンチガイは禁止なんだから!」
「……誰に向かって言ってるんでしょうか?」
 明後日の方向を見て叫ぶ夏実を見ながら秋人が首をかしげる。そのあとで避難所の怪我人に向き直った。治療する人と治療を受ける人の気分をリラックスさせるために、シトラス系の香水を出し、その香りを周囲に広げていく。
 香を焚きながら、一人一人回っていく秋人。様々なアルバイトでの対人経験から、その人が一番気が楽になるであろう声色に変えて話しかけ、ゆっくり眠れるように落ち着かせていた。
「まだまだ先は長いですね。焦らず行こう」
「こんなに怪我人が……」
 多くの被害者たちを見て、椿は息をのむ。、これは覚者同士の抗争が与えた被害。その一端でしかないのだ。巻き込まれた人は覚者の恐ろしさを身に刻んでいるだろう。あるいは憎んでいることもあるだろう。
 それでも、椿は覚者として癒す道を選ぶ。怒りの声を受けることもあった。なじられることもあった。拒否されることもあった。そして喜ばれることも、感謝されることも、励まされることもあった。その全てを椿はしっかり受け止める。
「改めてみるとすごい被害ね……。これが覚者同士が戦うという事なのね」
 これから戦い続ければ、こういう人たちが増えていくのだろうか。その未来を想像し、そうさせないためにも頑張らなくてはと椿は奮起した。

「戦争の傷跡は建物だけじゃない。何だかんだで人も傷ついた。それに傷口は放っておくとそこから雑菌が侵入して――」
「うんうん。聞いてる聞いてる」
 静護の説明に相槌を打つ聖。お互い嫌いあっているはずなのに、なぜか離れられない二人。今回もそんなこんなで一緒に治療行為をするために避難所にやってきていた。説明を止めて、静護が問いかける。
「にしても聖、君が治療だなんて随分らしくないじゃないか」
「まー、柄にもないって言い分はわかるよ? でも私だって包丁で指切ったらバンソーコーくらい貼るよ?」
 自分の怪我はそうだろうが、と言いかけて静護は口を紡ぐ。一人でも多くの手助けが必要な時期だ。やる気になっているのなら水を差さない方がいい。
「人はいるし、あまり一人の治療に時間は使えない。重傷者は僕が治す。聖は小さなけがを頼む」
 言って静護は水の源素を手のひらに集め、怪我人の傷に近づける。淡い光が怪我に触れ、少しずつその傷を塞いでいく。
「了解! という訳でバンソーコー、消毒液、ガーゼ、包帯、医療等テープを用意してみました!」
 聖は救急箱からいろいろ取り出し、てきぱきと動く。小さな傷は絆創膏を貼り、それで収まらない傷口は周りを消毒液でふき取り、ガーゼとテープで傷口を覆った。
「……ところで、填気って何かに使えない?」
「気落ちしている人には効果があるんじゃないか?」
 二人は息があった動きで怪我人たちを治療していく。

 看護師のまこととその手伝いをしている心琴は本業さながらの動きで治療をしていた。二人は源素による治療ではなく、医療知識を中心とした治療だ。真の指示に心琴が従う形で二人は動いていた。
(今の所ここの人達は割と落ち着いてるし、問題が起こる事はないと思うけど……)
 覚者に対する反発。それを注意しながらまことは患者たちを診ていた。優しい空気を醸し出しながら、優しくかみ砕いた説明を加えて治療する。看護とは看護する者とされる者の信頼が影響する。どれだけ腕がよくとも信頼が得られなければ治療は続かない。
「痛いのは当たり前だ。すこし我慢したらなんとかなるぞ」
 心琴はそう言って、怪我人の傷の周りを清潔な布でふき取る。痛みがあるのはまだ体が健常な証。だからまだ大丈夫なのだ。心琴自身、先の戦線で大怪我を負いまだ十分に癒えきっていないのに、それを気にせず治療を行っていた。
「なあ、まこと先生、こんなに痛い目にあっても、みんな頑張って生きていこうとしている。それは凄いことだな」
「みんなさ、あの地獄の中で生きる事を諦めなかったからここに居るんだ。凄いよね、ホント」
 何人もの人を診てきたまことは、人間の生命力の強さを感じることが多い。それは単純な体力や寿命という意味もあるが、生きようと思う人間の力の素晴らしさだ。
「やっぱり人を助けるって、何かを壊すよりはずっとずっと気持ちがいいのかもしれないな」
「うん。その気持ちを、忘れないようにね」
 癒しの心。正義の心。それは確かに芽吹いていた。


 数日かけて行われた復興作業は、破壊の爪跡からすれば小さなものだっただろう。
 だがそこから元気をもらった人たちが立ち上がり、再生の波は少しずつ大きくなる。
 一つまた一つと重ねていくことで、いつかはこの傷が消えてなくなるだろう。
 
 戦争を求めるヒノマル陸軍は去った。
 今は空に、明るい日の丸が昇っている。
 今日も太陽の元、戦禍を消し去ろう―― 
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 イベシナですが、これも戦い。




 
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