古き世に最強を夢見て
●一つの可能性
戦国――今よりも『武』が尊ばれ、力を持っていた時代。その時代に最強を目指して鍛えられた二本の刀があった。打った刀工の名も、如何な力を振るったかも知られず……ただ、ソレが最強を目指していたということのみが事実として伝わっているという。
「……って謂れがあるんだってさ、この刀」
「へー。いや、それ何もわかってないってことじゃない?」
「あはは、まあ確かにそうだな。可哀想なもんだ」
「可哀想?」
「うん、だって何も知られてなかったら、ほら、ゲームとかにも出られないし」
「最強を目指してたのに行き着く先がゲームかよ」
(「……サイキョウ……」)
カタリ。
「え、おかしいかな。ゲームに出たら強さも決まるじゃん」
「駄目だって。こんな地方のちっちゃいトコに収められてる程度のじゃ、きっと弱いよ」
「ははっ、違いないや」
(「……ヨワイ……」)
カタリ。カタリ。
「……なんか、寒くない?」
「へ?そういや、なんかちょっと……」
話す2人は気付かない。ガラスケースの中の二振りが震えていることに。いや、気付いていてもしょうがなかっただろう。このすぐ後、ケースを砕いて現れた刀の妖によって小さな美術館の周囲の人々は皆殺しにされてしまうのだから。
●それを防ぐため
「……という事件が発生します」
会議室に集まった覚者たちに丁寧にまとめられた資料を渡しつつ、真由子が言った。時間は開館中のお昼頃、場所は田舎町の小さな美術館だ。武器を振り回すのにそれほど不自由はないが、飛行して戦うのはちょっと難しい程度の広さ。一応美術館なので周囲には対象の刀以外にも展示物がある。全く気に留めずに戦えばそれらは壊れてしまうだろう。周囲にいる人は会話している2人以外に客が6人と、美術館の管理者が1人。妖が現れてから逃げるように告げれば問題なく逃げるだろう。また、刀の妖は最強を目指していただけあって、覚者が戦う意志を見せている限りそちらと戦うことを優先するようだ。一般人に被害を出さないことだけは難しくないだろう。
「勿論皆さんが勝てば、ですが。」
真由子はそう言ってから頭を下げる。
「どうか、よろしくお願いします」
戦国――今よりも『武』が尊ばれ、力を持っていた時代。その時代に最強を目指して鍛えられた二本の刀があった。打った刀工の名も、如何な力を振るったかも知られず……ただ、ソレが最強を目指していたということのみが事実として伝わっているという。
「……って謂れがあるんだってさ、この刀」
「へー。いや、それ何もわかってないってことじゃない?」
「あはは、まあ確かにそうだな。可哀想なもんだ」
「可哀想?」
「うん、だって何も知られてなかったら、ほら、ゲームとかにも出られないし」
「最強を目指してたのに行き着く先がゲームかよ」
(「……サイキョウ……」)
カタリ。
「え、おかしいかな。ゲームに出たら強さも決まるじゃん」
「駄目だって。こんな地方のちっちゃいトコに収められてる程度のじゃ、きっと弱いよ」
「ははっ、違いないや」
(「……ヨワイ……」)
カタリ。カタリ。
「……なんか、寒くない?」
「へ?そういや、なんかちょっと……」
話す2人は気付かない。ガラスケースの中の二振りが震えていることに。いや、気付いていてもしょうがなかっただろう。このすぐ後、ケースを砕いて現れた刀の妖によって小さな美術館の周囲の人々は皆殺しにされてしまうのだから。
●それを防ぐため
「……という事件が発生します」
会議室に集まった覚者たちに丁寧にまとめられた資料を渡しつつ、真由子が言った。時間は開館中のお昼頃、場所は田舎町の小さな美術館だ。武器を振り回すのにそれほど不自由はないが、飛行して戦うのはちょっと難しい程度の広さ。一応美術館なので周囲には対象の刀以外にも展示物がある。全く気に留めずに戦えばそれらは壊れてしまうだろう。周囲にいる人は会話している2人以外に客が6人と、美術館の管理者が1人。妖が現れてから逃げるように告げれば問題なく逃げるだろう。また、刀の妖は最強を目指していただけあって、覚者が戦う意志を見せている限りそちらと戦うことを優先するようだ。一般人に被害を出さないことだけは難しくないだろう。
「勿論皆さんが勝てば、ですが。」
真由子はそう言ってから頭を下げる。
「どうか、よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.対象の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ハロウィンとは関係ない戦闘モノです。
【刀の妖】
ランク2の物質系の妖です。
刃で出来た四肢が生えた二振りの刀といった姿をしています。
二体いるように見えますが細く細く糸のようになった刃で繋がっており一体です。
四足獣のような動きで素早く立ち回り攻撃してきます。
●攻撃手段
打撃:峰など面積が多い部分での体当たりです(物近単)
刺突:刃を使った鋭い突きです (物近単貫通2:100%50%:BS出血)
飛斬:全身を使って薙ぎ払います (物近列)
なお、人語を解しているように見えなくもないですが、動物が名前を覚える程度のもので会話はできません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年11月07日
2015年11月07日
■メイン参加者 8人■

●夢を想って
市街地の外れにある小さな美術館。そこに年齢も性別もバラバラな一団が向かっていた。芸術の秋! とやって来た町内会の集まり……ではない。彼らは夢見によって予知された悲劇を回避するためやってきた覚者たちである。移動中も注意深く周囲を観察しているのは『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)だ。彼は件の妖と戦うのに適した場所がないかと注意していた。事前に調べた地形では良い場所はなかったが、地図と実際の町並みが違うというのは彼のバックパッカーとしての経験からしても、ままあることだと言えた。ただ今回は残念ながら空振りだったようだ。あえて言うならば公園などがあったものの、そこを人払いしたり移動したりと考えるとあまり現実的ではないと判断できた。
「まぁ、無いってことが分かるのも実入りだな」
そうしている間に、目的の美術館は目の前になっている。
「美術館で、暴れるなんて、不届き者も、いいとこです。被害が、出ないように、早めに、対処しないと、ですね」
「最強を目指すというのは戦う者として、わからなくもないけどね。だからと言って、無抵抗な人間を斬る事を許容はできない」
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)がちょっと間延びした声で決意を露わにすると、指崎 まこと(CL2000087)も応じて言った。
「実用刀は飾っておくだけでは勿体無い、真価は使ってこそさね。ましてやソレが最強を目指していたなら尚更だ。それが『よく分かんないから弱いだろ』じゃキレても仕方ないんじゃないかな」
刀専門の骨董屋を営んでいる緒形 逝(CL2000156)は特に同情的だ。とはいえ、
「世間はハロウィン一色。でも、妖にはハロウィンとか関係ないしね。むしろイメージ的には活性化しそうかな? まぁ被害出る前に収めよう」
と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が言う。被害を出さずに妖に対処する、それは集まった覚者たちの共通の想いだった。
●戦端
美術館の中に入るとひらけたホールになっていた。覚者たちは悩むまでもなくここが戦う場所に丁度いいだろうと判断した。そうと決まれば行動は早い。指崎 心琴(CL2001195)が管理人を探しに行き、奏空はホールの避難誘導を開始する。残りの6名は刀の展示場所まで一直線だ。『裏切者』鳴神 零(CL2000669)とまことの2人が挟み撃ちできるように配置につき、駆が客を誘導し易いように陣取る。覚者たちの緊張が高まる中、零は思う。
(「最強ていうのは最も強いと書くけれど、そこに至りたい人ってどういう気持ちなんだろうか。男の子みたいに純粋に強くなりたいという事なんだろうか。それとも、この刀の妖怪にもなにか訳があるんだろうか。聞いてみたいな、聞けるかな? 戦いのなかで知れればそれでよし!」)
ガシャーン!!
その‘意気’を感じたのか、妖の姿となった刀がガラスケースを突き破って現れた。それと同時、見張っていた駆が
「妖だ!」
と叫び、その後避難を促す。出現からノータイムで出された指示に居合わせた客たちもパニックになる間もなく避難を開始し出した。まことのマイナスイオンも効果的だったのだろう。
「十天、指崎まこと。いざ尋常に、勝負」
「十天、鳴神零! 推して参る!!」
駆から一拍遅れ、前衛の2人が声をあげた。それは妖の注意を引きつける意味もあるが、立ち向かう者がいると知らせることは避難者の安心にもなるだろう。第六感の力で反応した逝も素早く身構えた。
刃が閃く。
妖の刃が挟み込むように展開した2人を同時に薙ぎ払った。資料では『飛斬』と呼称されていた攻撃方法だ。まことはスモールシールドで、零は大太刀鬼桜で対応するが威力を殺しきれない。
「こいつがランク2か……」
「おぅよ。舐めてかかれる相手じゃねえぜ」
その場の避難を済ませ、覚醒し全盛期の姿となった駆が合流して言う。彼は先日奇しくも二刀流の侍の妖と戦ったばかりであり、そこに油断は無い。他の者も決して侮っていたわけではないが、そんな彼を見てさらに気を引き締めた。
錬覇法で引き出された力が身体中に満ちると共に、アメジストの瞳が真紅に染まる。溢れる自信と気力を乗せて疾風のように駆け抜け、斬りつけた。そうして攻撃を加えつつ『紅蓮夜叉』天楼院・聖華(CL2000348)は語りかける。
「最強に憧れる気持ち、良くわかるぜ。なんてったって、俺も最強を目指してるからな!」
銘があればそれで呼べたのだが見つけることはできなかった。おそらくは伝わっていないのだろう。知性の無い妖が返事をすることも無い。それでも聖華は言葉を投げかけ続ける。勿論、手は緩めない。緩められる相手では無いこともある。しかしそれだけではない熱意が二刀の小太刀に宿っていた。ホールの避難が済むまでは耐える。覚者たちにとっての長い時間が始まった。
●守るための戦い
指崎 心琴は‘正義の味方’を目指している。保護者であるまことから受けた道徳教育が真っ直ぐだったこともあるが、テレビで見たヒーローをかっこいいと思ったからだ。テレビドラマは現実とは違う、そんな事実が突きつけられることもあるだろう。しかし覚者としての力を持ってしまった少年が目指すものとしては、きっと正しい。
「ここに置かれている美術品のひとつが妖になって暴れ出すんだ。だからお客さんを避難させてくれ」
そんな彼の言うことだから美術館の老管理人は素直に信用したのかもしれない。
「安心しろ。僕らは正義の味方だ。危ないものからお前たちを守るのが仕事だ」
そう言い残して心琴は向かう。仲間たちが戦う戦場へと。
「そこ、ですっ!」
淡く青く輝く瞳が敵を見据え、銀閃が弧を描いた。祇澄の五織の彩が繰り出される様子はまるで舞の如く。戦闘中でなければ仲間たちも思わず見惚れていたかもしれない。だが今は全員が妖の動きに集中していた。回復役不在での時間稼ぎは、攻撃を引き付ける前衛2人のの負傷を厳しいものへとしていた。美術品を庇う行動もじわじわと不利を大きくしていく。自由にならない位置取りは時に回避の妨げとなるのだ。2人で挟み込むようにして戦っていたことはダメージコントロールの観点で有効だったようだ。どちらも倒れることなく立っている。まことも零もそれぞれ蔵王と機化硬で防御力を高めていたが、そろそろ限界が近い。逆に防御力を高めていたからこそ、ここまでもったと言うべきか。
「ヤバくなったら言えよ、交代する。お前の為じゃねえぞ、依頼の成功のためだかんな」
駆がそう言い終わるかどうかのタイミング。
「シャアアアアアアアアアアアアア!」
金属を擦り合わせるような音と共に、妖がその身諸共飛び掛っていった。目標は全力防御していなかった分傷の多い零。まともに喰らえば無事ではすまないであろう打撃が迫り来る。
「来たよ! まこと先生!」
信頼する保護者に声をかけながら、心琴が躊躇い無く身体を投げ出し零を庇った。今の自分は、今回のチームの中で単純な戦闘能力という点では少し劣っている。しかしそれはイコール役に立てないということではない。その証拠にであるかのように覚者たちは勢いを取り戻す。
(「このスリル! 楽しいね!」)
小さなヒーローに庇われた零もまたにぃっと笑い構えを正した。
「これだけ強いのなら敵として申し分無し! 鳴神、戦いだーい好き☆ 教えてよ! 貴方の気持ち!」
途中からは実際に声が出ていた。見れば中衛にいた駆と逝が前に出て抑えを交代している。
「十天が2人揃って脱落ってなわけにはいかないよね」
「うん、弟分も来たところだし。……やられっぱなしってのも、好きじゃないしね」
女性陣から『可愛すぎて異性と思えない』と評されるまことの微笑がちょっと黒い。
「心琴君、無理しちゃダメだからね」
2人が痛む身体をおして戦線に復帰し、戦いは続く。蔵王で防御を固めて小手返しで攻める。逝の選んだ戦法は、概ね上手くいっていた。戦いの初期にまことたちが攻撃を受け続けたことで、妖の攻撃のタイミング、リズムがわかるようになってきていたからだ。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
駆が炎を纏ったアチャラナータを突き出し、叩き付ける。流石に妖の刀身に突き刺さることはなかったがダメージは与えたようだ。妖が金属音と共に吹っ飛び……すぐさま戻って来た。反撃とばかりに繰り出された刺突が身体を抉る。
「一筋縄ではいかねえなあ! ……と、助かったぜ」
受けたダメージが思ったより少なかったことに気付いた駆がその原因……蒼鋼壁を使った祇澄に礼を言った。
「指崎さんに、回復してもらって、余裕が、出来ましたので」
「ガソリン入れなおして、張り切るか」
心琴に目線をやって祇澄が返し、駆は再びアチャラナータをフェンシングのように構えた。
その頃、奏空はホールの人払い中をしていた。とはいえこの小さな美術館でホールに長居する者はそうそういない。そのため感情探査による確認が主な行動になっていた。感知できる感情は戦っている仲間以外では、怯えと共に美術館を離れるものばかり。留まっている者はいなさそうだ。
「成る程、いないってことが分かるのも実入り、か」
そして、送受心で逝へとメッセージを送信する。
「終わりましたー!」
戦いが動く。
「送受心が来た、ホールへ移動するよ」
フルフェイスヘルメットを着けながらも、くぐもりもせずよく通る声で逝が声をかけた。声で、目線で、動きで同意を示す覚者たち。再び前衛に復帰したまことがくいっと手招きし、刀を挑発して移動を開始する。知性の低さから怒りはしないものの、攻撃対象が引くならばそれを狩る為に進む。本能的な反応で妖はまことを追った。覚者たちは移動の際も周囲の展示物をなるべく壊さないように気をつけていた。
「重要文化財かもしれないしね! そういう歴史って大事だからね」
「流石に重要文化財は無いんじゃないかな……」
「意外と指定される前のものがぽろっとあったりするよ」
「……マジでか」
ともあれ。戦場はじわじわと移動していく。
●夢見て今は
「鬼さん、こちら。手のなる、方へ、ですよ」
誘っては離すと繰り返すは流麗に。抑えの間に前衛に出なかった分ダメージの少なかった祇澄が得意の剣舞で妖をリードする。他の者は逆走させないように緩く囲った。攻撃の意志に凝り固まった妖を引き寄せるのは容易い。とはいえ全ての攻撃を避け続けるのは無理がある。
「お待たせ、もう少しだ!」
「待ってました、奏空にぃ!」
そこに奏空が合流した。会議室で出会ってからその奏空を他人と思えず『奏空にぃ』と慕う聖華が思わず声をあげる。2人とも暦の因子の持ち主だ。もしかしたら前世で因縁があったのかもしれない。あったとすればそれはきっと良縁だったのだろう。
「天楼院さ……聖華ちゃん、行くよ!」
「おう!!」
雷に打ち据えられた妖に、駆け抜ける疾風が追撃をかけて吹き飛ばす。そして覚者たちはホールに辿り着いた。
「さて、周りに壊れそうなものは……よし、あまりない!」
「ちょっとは、あります、ね」
「まあ美術品はないから」
流石に一息ついて軽口をこぼす者もいる。そんな中で生き生きとし出したのは零だ。
({貴方は一刀で私たち皆の攻撃に屈しないから弱くなんかない、卑下に浸る事なんてない。今日は悲しい事忘れて、馬鹿になって戦闘したい。……一心不乱の戦争を! 私と刀はきっと同類のはず」)
バトルマニアの娘にとっては、同類と見なした相手と戦うのに全力を振るえないのはストレスだったのだろう。倒した後、元の姿に戻ってくれたらいい。そう願いつつ速く鋭く、飛燕が舞う。続くのは祇澄。
「貴方の、求める、強さとは、何ですか! 技量ではなく、強度だとでも、言うのですか!!」
武器として刀を使う者として、この妖に思うこともあるのだろう。
(「刀の真価は、使い手によって、発揮される、物です。刀自身が、強弱に、拘るなんて、おかしいです」)
だから悲しく映るのだ。理解できるモノが道化のようになるのは。攻めの波が積み重なり、妖の動きにもダメージが見て取れるようになっていく。獣の俊敏さは手負いの激しさに変わった。
「強さってなんだよ。弱い者を襲う事か? 違うだろ!」
「おい、刀。お前は十分なくらいに強いぞ。銘がないことや有名じゃないから強くないなんてことはない。僕だってちょっと前まで名前なんて3510号だったぞ。それでも、強い。心は強くあれる。お前たちも心が目覚めた。だから強い」
違うと信じる奏空の雷と、己の境遇と重ねた心の雷が妖をとらえた。
ピシリ。
「それにしても、外見からして如何にも『道を踏み外しました』って感じだな」
動きの鈍った刃の四足を見ながら駆が言った。確かに妖と化したその姿は誰かが持って武器として振るうことはできそうもない。
「持てもしない剣なんて、それこそ強さもクソもねえ。可哀そうだぜ、妖!」
武器としての姿を捨てた時点で『刀としての最強』を目指すことをやめてしまったのかもしれない。駆が大上段からアチャラナータを振り下ろした。
ピシリ。
「最強を目指すんだったらやり方があるのさ」
同じく最強を目指す少女は意外なほど落ち着いた声で語る。
「お前がここで暴れて何になる?『妖怪として』強くなったって、そりゃ違うだろ?」
優しく言い聞かせるように。
「『刀として』最強を目指すなら、使い手が必要なんだ。ソイツと心を通わせて、一緒に強くなって、最強を目指す。どうだ、楽しそうだろ?」
二刀の小太刀が妖の二刀とぶつかり合い……妖は砕け散った。
●夢と先へ
「あ、ハイ。そういうことでお願いします」
怪しいが恩人である。怪しいが意外と対応が真っ当である。怪しいが骨董屋の免許を持っている。そんなわけで逝が被害確認しつつ管理人の対応をしていた。退治できたとはいえ、妖化して暴れた刀だ。一般人が怖いと思うのは当然だろう。また暴れるかも、などという心配からF.i.V.E.に預けることとなった。
「サイキョウを目指すのはむつかしいことなんだな、まこと先生!」
「そうだね。……あ、僕の手当て、心琴君にやってもらおうかな。見てるから、練習だと思って頑張ってみてね」
そう言って心琴に自分の手当てをさせたまことは、その技量を問題ないとみて、仲間たちへの手当てを任せた。本当は戦後の応急手当ては自分でするつもりだったが、最初から前衛を続けていたことによるダメージが蓄積は流石の彼でもきつかった。
「ところで、気持ちはわかったかな?」
身体を重そうにしながらやってきたまことの言葉に零は一瞬きょとんとした。
「アイツの気持ち、教えてって言ってたからさ。戦って分かり合うとか言うしね」
そういえば口に出していたなと、思いを馳せる。
「……アイツ自身も分かってなかったんじゃないかって思ったかな……」
聞かせるとなく口から出た言葉は何故だかしんみりしていて。まことが励ますように笑顔を向ける。そして自分も傷が深そうであるにも関わらず、手当てをしてくれた。
「……ありがと」
手当てに対してか笑顔に対してか、そう言って零は黒い狐面を目深に被った。
「お疲れ様」
「ん……奏空にぃもお疲れ様」
砕けた刀の欠片を眺めていた聖華に奏空が声をかけた。小柄な身体がさらに小さく見えたから。
「聖華ちゃんはお菓子何が好きなのかな?」
会議室での会話を思い出して水を向けてみる。すると聖華のアメジストの瞳が、戦いのときとはまた違った色に輝く。
「まずは……」
お菓子の種類ってそんなにあったんだ……と思うくらいの勢いで好きなお菓子の名前を挙げはじめた妹分を見て、奏空は財布の中身を思い浮かべた。……足りるといいけど。楽しげに一通りお菓子の名前を並べ終わった聖華はいつもの自信と元気に満ち溢れた表情を見せる。
「奏空にぃありがとうな。間違っちゃって、終わってしまったあいつの道の分も、俺が最強を目指すぜ!!」
届かなかった先へ、想いを受け継ぎ次の世代が手を伸ばす。それが人の強さなのかもしれない。言葉を解することもなく、思いを言葉にすることもなかった妖に、意志を見出す者たち。かつて最強を目指したモノから現代を生きる覚者たちへ、確かに何かが受け継がれた。
市街地の外れにある小さな美術館。そこに年齢も性別もバラバラな一団が向かっていた。芸術の秋! とやって来た町内会の集まり……ではない。彼らは夢見によって予知された悲劇を回避するためやってきた覚者たちである。移動中も注意深く周囲を観察しているのは『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)だ。彼は件の妖と戦うのに適した場所がないかと注意していた。事前に調べた地形では良い場所はなかったが、地図と実際の町並みが違うというのは彼のバックパッカーとしての経験からしても、ままあることだと言えた。ただ今回は残念ながら空振りだったようだ。あえて言うならば公園などがあったものの、そこを人払いしたり移動したりと考えるとあまり現実的ではないと判断できた。
「まぁ、無いってことが分かるのも実入りだな」
そうしている間に、目的の美術館は目の前になっている。
「美術館で、暴れるなんて、不届き者も、いいとこです。被害が、出ないように、早めに、対処しないと、ですね」
「最強を目指すというのは戦う者として、わからなくもないけどね。だからと言って、無抵抗な人間を斬る事を許容はできない」
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)がちょっと間延びした声で決意を露わにすると、指崎 まこと(CL2000087)も応じて言った。
「実用刀は飾っておくだけでは勿体無い、真価は使ってこそさね。ましてやソレが最強を目指していたなら尚更だ。それが『よく分かんないから弱いだろ』じゃキレても仕方ないんじゃないかな」
刀専門の骨董屋を営んでいる緒形 逝(CL2000156)は特に同情的だ。とはいえ、
「世間はハロウィン一色。でも、妖にはハロウィンとか関係ないしね。むしろイメージ的には活性化しそうかな? まぁ被害出る前に収めよう」
と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が言う。被害を出さずに妖に対処する、それは集まった覚者たちの共通の想いだった。
●戦端
美術館の中に入るとひらけたホールになっていた。覚者たちは悩むまでもなくここが戦う場所に丁度いいだろうと判断した。そうと決まれば行動は早い。指崎 心琴(CL2001195)が管理人を探しに行き、奏空はホールの避難誘導を開始する。残りの6名は刀の展示場所まで一直線だ。『裏切者』鳴神 零(CL2000669)とまことの2人が挟み撃ちできるように配置につき、駆が客を誘導し易いように陣取る。覚者たちの緊張が高まる中、零は思う。
(「最強ていうのは最も強いと書くけれど、そこに至りたい人ってどういう気持ちなんだろうか。男の子みたいに純粋に強くなりたいという事なんだろうか。それとも、この刀の妖怪にもなにか訳があるんだろうか。聞いてみたいな、聞けるかな? 戦いのなかで知れればそれでよし!」)
ガシャーン!!
その‘意気’を感じたのか、妖の姿となった刀がガラスケースを突き破って現れた。それと同時、見張っていた駆が
「妖だ!」
と叫び、その後避難を促す。出現からノータイムで出された指示に居合わせた客たちもパニックになる間もなく避難を開始し出した。まことのマイナスイオンも効果的だったのだろう。
「十天、指崎まこと。いざ尋常に、勝負」
「十天、鳴神零! 推して参る!!」
駆から一拍遅れ、前衛の2人が声をあげた。それは妖の注意を引きつける意味もあるが、立ち向かう者がいると知らせることは避難者の安心にもなるだろう。第六感の力で反応した逝も素早く身構えた。
刃が閃く。
妖の刃が挟み込むように展開した2人を同時に薙ぎ払った。資料では『飛斬』と呼称されていた攻撃方法だ。まことはスモールシールドで、零は大太刀鬼桜で対応するが威力を殺しきれない。
「こいつがランク2か……」
「おぅよ。舐めてかかれる相手じゃねえぜ」
その場の避難を済ませ、覚醒し全盛期の姿となった駆が合流して言う。彼は先日奇しくも二刀流の侍の妖と戦ったばかりであり、そこに油断は無い。他の者も決して侮っていたわけではないが、そんな彼を見てさらに気を引き締めた。
錬覇法で引き出された力が身体中に満ちると共に、アメジストの瞳が真紅に染まる。溢れる自信と気力を乗せて疾風のように駆け抜け、斬りつけた。そうして攻撃を加えつつ『紅蓮夜叉』天楼院・聖華(CL2000348)は語りかける。
「最強に憧れる気持ち、良くわかるぜ。なんてったって、俺も最強を目指してるからな!」
銘があればそれで呼べたのだが見つけることはできなかった。おそらくは伝わっていないのだろう。知性の無い妖が返事をすることも無い。それでも聖華は言葉を投げかけ続ける。勿論、手は緩めない。緩められる相手では無いこともある。しかしそれだけではない熱意が二刀の小太刀に宿っていた。ホールの避難が済むまでは耐える。覚者たちにとっての長い時間が始まった。
●守るための戦い
指崎 心琴は‘正義の味方’を目指している。保護者であるまことから受けた道徳教育が真っ直ぐだったこともあるが、テレビで見たヒーローをかっこいいと思ったからだ。テレビドラマは現実とは違う、そんな事実が突きつけられることもあるだろう。しかし覚者としての力を持ってしまった少年が目指すものとしては、きっと正しい。
「ここに置かれている美術品のひとつが妖になって暴れ出すんだ。だからお客さんを避難させてくれ」
そんな彼の言うことだから美術館の老管理人は素直に信用したのかもしれない。
「安心しろ。僕らは正義の味方だ。危ないものからお前たちを守るのが仕事だ」
そう言い残して心琴は向かう。仲間たちが戦う戦場へと。
「そこ、ですっ!」
淡く青く輝く瞳が敵を見据え、銀閃が弧を描いた。祇澄の五織の彩が繰り出される様子はまるで舞の如く。戦闘中でなければ仲間たちも思わず見惚れていたかもしれない。だが今は全員が妖の動きに集中していた。回復役不在での時間稼ぎは、攻撃を引き付ける前衛2人のの負傷を厳しいものへとしていた。美術品を庇う行動もじわじわと不利を大きくしていく。自由にならない位置取りは時に回避の妨げとなるのだ。2人で挟み込むようにして戦っていたことはダメージコントロールの観点で有効だったようだ。どちらも倒れることなく立っている。まことも零もそれぞれ蔵王と機化硬で防御力を高めていたが、そろそろ限界が近い。逆に防御力を高めていたからこそ、ここまでもったと言うべきか。
「ヤバくなったら言えよ、交代する。お前の為じゃねえぞ、依頼の成功のためだかんな」
駆がそう言い終わるかどうかのタイミング。
「シャアアアアアアアアアアアアア!」
金属を擦り合わせるような音と共に、妖がその身諸共飛び掛っていった。目標は全力防御していなかった分傷の多い零。まともに喰らえば無事ではすまないであろう打撃が迫り来る。
「来たよ! まこと先生!」
信頼する保護者に声をかけながら、心琴が躊躇い無く身体を投げ出し零を庇った。今の自分は、今回のチームの中で単純な戦闘能力という点では少し劣っている。しかしそれはイコール役に立てないということではない。その証拠にであるかのように覚者たちは勢いを取り戻す。
(「このスリル! 楽しいね!」)
小さなヒーローに庇われた零もまたにぃっと笑い構えを正した。
「これだけ強いのなら敵として申し分無し! 鳴神、戦いだーい好き☆ 教えてよ! 貴方の気持ち!」
途中からは実際に声が出ていた。見れば中衛にいた駆と逝が前に出て抑えを交代している。
「十天が2人揃って脱落ってなわけにはいかないよね」
「うん、弟分も来たところだし。……やられっぱなしってのも、好きじゃないしね」
女性陣から『可愛すぎて異性と思えない』と評されるまことの微笑がちょっと黒い。
「心琴君、無理しちゃダメだからね」
2人が痛む身体をおして戦線に復帰し、戦いは続く。蔵王で防御を固めて小手返しで攻める。逝の選んだ戦法は、概ね上手くいっていた。戦いの初期にまことたちが攻撃を受け続けたことで、妖の攻撃のタイミング、リズムがわかるようになってきていたからだ。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
駆が炎を纏ったアチャラナータを突き出し、叩き付ける。流石に妖の刀身に突き刺さることはなかったがダメージは与えたようだ。妖が金属音と共に吹っ飛び……すぐさま戻って来た。反撃とばかりに繰り出された刺突が身体を抉る。
「一筋縄ではいかねえなあ! ……と、助かったぜ」
受けたダメージが思ったより少なかったことに気付いた駆がその原因……蒼鋼壁を使った祇澄に礼を言った。
「指崎さんに、回復してもらって、余裕が、出来ましたので」
「ガソリン入れなおして、張り切るか」
心琴に目線をやって祇澄が返し、駆は再びアチャラナータをフェンシングのように構えた。
その頃、奏空はホールの人払い中をしていた。とはいえこの小さな美術館でホールに長居する者はそうそういない。そのため感情探査による確認が主な行動になっていた。感知できる感情は戦っている仲間以外では、怯えと共に美術館を離れるものばかり。留まっている者はいなさそうだ。
「成る程、いないってことが分かるのも実入り、か」
そして、送受心で逝へとメッセージを送信する。
「終わりましたー!」
戦いが動く。
「送受心が来た、ホールへ移動するよ」
フルフェイスヘルメットを着けながらも、くぐもりもせずよく通る声で逝が声をかけた。声で、目線で、動きで同意を示す覚者たち。再び前衛に復帰したまことがくいっと手招きし、刀を挑発して移動を開始する。知性の低さから怒りはしないものの、攻撃対象が引くならばそれを狩る為に進む。本能的な反応で妖はまことを追った。覚者たちは移動の際も周囲の展示物をなるべく壊さないように気をつけていた。
「重要文化財かもしれないしね! そういう歴史って大事だからね」
「流石に重要文化財は無いんじゃないかな……」
「意外と指定される前のものがぽろっとあったりするよ」
「……マジでか」
ともあれ。戦場はじわじわと移動していく。
●夢見て今は
「鬼さん、こちら。手のなる、方へ、ですよ」
誘っては離すと繰り返すは流麗に。抑えの間に前衛に出なかった分ダメージの少なかった祇澄が得意の剣舞で妖をリードする。他の者は逆走させないように緩く囲った。攻撃の意志に凝り固まった妖を引き寄せるのは容易い。とはいえ全ての攻撃を避け続けるのは無理がある。
「お待たせ、もう少しだ!」
「待ってました、奏空にぃ!」
そこに奏空が合流した。会議室で出会ってからその奏空を他人と思えず『奏空にぃ』と慕う聖華が思わず声をあげる。2人とも暦の因子の持ち主だ。もしかしたら前世で因縁があったのかもしれない。あったとすればそれはきっと良縁だったのだろう。
「天楼院さ……聖華ちゃん、行くよ!」
「おう!!」
雷に打ち据えられた妖に、駆け抜ける疾風が追撃をかけて吹き飛ばす。そして覚者たちはホールに辿り着いた。
「さて、周りに壊れそうなものは……よし、あまりない!」
「ちょっとは、あります、ね」
「まあ美術品はないから」
流石に一息ついて軽口をこぼす者もいる。そんな中で生き生きとし出したのは零だ。
({貴方は一刀で私たち皆の攻撃に屈しないから弱くなんかない、卑下に浸る事なんてない。今日は悲しい事忘れて、馬鹿になって戦闘したい。……一心不乱の戦争を! 私と刀はきっと同類のはず」)
バトルマニアの娘にとっては、同類と見なした相手と戦うのに全力を振るえないのはストレスだったのだろう。倒した後、元の姿に戻ってくれたらいい。そう願いつつ速く鋭く、飛燕が舞う。続くのは祇澄。
「貴方の、求める、強さとは、何ですか! 技量ではなく、強度だとでも、言うのですか!!」
武器として刀を使う者として、この妖に思うこともあるのだろう。
(「刀の真価は、使い手によって、発揮される、物です。刀自身が、強弱に、拘るなんて、おかしいです」)
だから悲しく映るのだ。理解できるモノが道化のようになるのは。攻めの波が積み重なり、妖の動きにもダメージが見て取れるようになっていく。獣の俊敏さは手負いの激しさに変わった。
「強さってなんだよ。弱い者を襲う事か? 違うだろ!」
「おい、刀。お前は十分なくらいに強いぞ。銘がないことや有名じゃないから強くないなんてことはない。僕だってちょっと前まで名前なんて3510号だったぞ。それでも、強い。心は強くあれる。お前たちも心が目覚めた。だから強い」
違うと信じる奏空の雷と、己の境遇と重ねた心の雷が妖をとらえた。
ピシリ。
「それにしても、外見からして如何にも『道を踏み外しました』って感じだな」
動きの鈍った刃の四足を見ながら駆が言った。確かに妖と化したその姿は誰かが持って武器として振るうことはできそうもない。
「持てもしない剣なんて、それこそ強さもクソもねえ。可哀そうだぜ、妖!」
武器としての姿を捨てた時点で『刀としての最強』を目指すことをやめてしまったのかもしれない。駆が大上段からアチャラナータを振り下ろした。
ピシリ。
「最強を目指すんだったらやり方があるのさ」
同じく最強を目指す少女は意外なほど落ち着いた声で語る。
「お前がここで暴れて何になる?『妖怪として』強くなったって、そりゃ違うだろ?」
優しく言い聞かせるように。
「『刀として』最強を目指すなら、使い手が必要なんだ。ソイツと心を通わせて、一緒に強くなって、最強を目指す。どうだ、楽しそうだろ?」
二刀の小太刀が妖の二刀とぶつかり合い……妖は砕け散った。
●夢と先へ
「あ、ハイ。そういうことでお願いします」
怪しいが恩人である。怪しいが意外と対応が真っ当である。怪しいが骨董屋の免許を持っている。そんなわけで逝が被害確認しつつ管理人の対応をしていた。退治できたとはいえ、妖化して暴れた刀だ。一般人が怖いと思うのは当然だろう。また暴れるかも、などという心配からF.i.V.E.に預けることとなった。
「サイキョウを目指すのはむつかしいことなんだな、まこと先生!」
「そうだね。……あ、僕の手当て、心琴君にやってもらおうかな。見てるから、練習だと思って頑張ってみてね」
そう言って心琴に自分の手当てをさせたまことは、その技量を問題ないとみて、仲間たちへの手当てを任せた。本当は戦後の応急手当ては自分でするつもりだったが、最初から前衛を続けていたことによるダメージが蓄積は流石の彼でもきつかった。
「ところで、気持ちはわかったかな?」
身体を重そうにしながらやってきたまことの言葉に零は一瞬きょとんとした。
「アイツの気持ち、教えてって言ってたからさ。戦って分かり合うとか言うしね」
そういえば口に出していたなと、思いを馳せる。
「……アイツ自身も分かってなかったんじゃないかって思ったかな……」
聞かせるとなく口から出た言葉は何故だかしんみりしていて。まことが励ますように笑顔を向ける。そして自分も傷が深そうであるにも関わらず、手当てをしてくれた。
「……ありがと」
手当てに対してか笑顔に対してか、そう言って零は黒い狐面を目深に被った。
「お疲れ様」
「ん……奏空にぃもお疲れ様」
砕けた刀の欠片を眺めていた聖華に奏空が声をかけた。小柄な身体がさらに小さく見えたから。
「聖華ちゃんはお菓子何が好きなのかな?」
会議室での会話を思い出して水を向けてみる。すると聖華のアメジストの瞳が、戦いのときとはまた違った色に輝く。
「まずは……」
お菓子の種類ってそんなにあったんだ……と思うくらいの勢いで好きなお菓子の名前を挙げはじめた妹分を見て、奏空は財布の中身を思い浮かべた。……足りるといいけど。楽しげに一通りお菓子の名前を並べ終わった聖華はいつもの自信と元気に満ち溢れた表情を見せる。
「奏空にぃありがとうな。間違っちゃって、終わってしまったあいつの道の分も、俺が最強を目指すぜ!!」
届かなかった先へ、想いを受け継ぎ次の世代が手を伸ばす。それが人の強さなのかもしれない。言葉を解することもなく、思いを言葉にすることもなかった妖に、意志を見出す者たち。かつて最強を目指したモノから現代を生きる覚者たちへ、確かに何かが受け継がれた。
