【日ノ丸事変】黎明たる選択
●京都某所
「ヒノマル陸軍……この戦闘狂達め」
新興覚者組織『黎明』に属する少女。
火行の覚者たるアルカは、仲間を逃がしながら唇を噛む。彼女の視線の先には、七星剣の隔者達が群を成している。
「貴様等の小さき火如きでは、我らの炎に抗うことなど出来んぞ。黎明の覚者!」
古めかしい軍服を纏った隔者達が叫ぶ。
七星剣直系団体ヒノマル陸軍。
戦うことが、戦う理由。暴力を真っ向から肯定する隔者達の集団が、街中で黎明のメンバーを追い詰め襲撃していく。暴虐な炎が舞い散り、牙を振るっていくのを止める術はない。
「このっ、私達が何をした! お前達の目的は何なの!?」
アルカの問いは。
ヒノマル陸軍に対しては愚問以外の何物でもない。
「笑止! 戦争に理由などない! 戦争のために戦争をし、戦争が次なる戦争を呼ぶのみよ!」
理屈は不要。
これ以上は戦いで語れとばかりに、また一段と激しい炎があがった。
「……話が通じる相手では、ないようね」
黎明という組織自体が、このままでは壊滅の危機にある。
何とか被害を最小限に抑えるように後退しつつ。黎明の少女、アルカの口からはぽつりと呟きが漏れた。
「例の組織がどう動いてくれるか……それが鍵ね」
「『黎明』という新興覚者組織から、救援の要請がありました」
夢見の久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に説明を始める。その顔はいつもより深刻だ。
「以前にFiVEと交戦したこともある、七星剣のヒノマル陸軍が動き出したようです。新興覚者組織である『黎明』を狙い、大規模な戦争をする事が目的の模様です」
新興組織『黎明』もヒノマル陸軍を迎え撃つようだが、食い止めきれるかは定かでは無い。そこで『黎明』の一員である暁という者より、『自分達は七星剣に潰されてしまうだろう、その前に助けて欲しい。見返りの情報は提供するつもりだ』という旨の要請が入ったのだ。
「確かに彼等は七星剣に追われている現状です。野放しにしておくと、また違う組織から狙われ、今回のような事件が勃発する恐れがあります」
このような事情を鑑みて。
ひとまずFiVEは、『黎明』の救援に向かうこととなったのだ。
「皆さんに、お願いするのは『黎明』のアルカさん達の救出です。現在、ヒノマル陸軍に追われて相当疲弊した状態にあるようですので、これを助けてあげて下さい」
覚者のアルカ達は、バラバラになりながらも街中を逃げ回っているらしい。
彼女達と接触し保護。ヒノマル陸軍からの追手を振り払う、というのが今回の依頼となる。
「あともう一つ。『黎明』の皆さんをFiVEに招き入れるかも検討を行います。これは、皆さんの投票を参考にして決定されますので、是非ともご意見をお聞かせ下さいね」
大きな決定が、覚者達一人一人の意思によって左右される。
何かが動き出そうとしていた。
「正直、何が正しいのかは誰にも分かりません。どうか、後悔のない行動と選択を、よろしくお願いします」
「ヒノマル陸軍……この戦闘狂達め」
新興覚者組織『黎明』に属する少女。
火行の覚者たるアルカは、仲間を逃がしながら唇を噛む。彼女の視線の先には、七星剣の隔者達が群を成している。
「貴様等の小さき火如きでは、我らの炎に抗うことなど出来んぞ。黎明の覚者!」
古めかしい軍服を纏った隔者達が叫ぶ。
七星剣直系団体ヒノマル陸軍。
戦うことが、戦う理由。暴力を真っ向から肯定する隔者達の集団が、街中で黎明のメンバーを追い詰め襲撃していく。暴虐な炎が舞い散り、牙を振るっていくのを止める術はない。
「このっ、私達が何をした! お前達の目的は何なの!?」
アルカの問いは。
ヒノマル陸軍に対しては愚問以外の何物でもない。
「笑止! 戦争に理由などない! 戦争のために戦争をし、戦争が次なる戦争を呼ぶのみよ!」
理屈は不要。
これ以上は戦いで語れとばかりに、また一段と激しい炎があがった。
「……話が通じる相手では、ないようね」
黎明という組織自体が、このままでは壊滅の危機にある。
何とか被害を最小限に抑えるように後退しつつ。黎明の少女、アルカの口からはぽつりと呟きが漏れた。
「例の組織がどう動いてくれるか……それが鍵ね」
「『黎明』という新興覚者組織から、救援の要請がありました」
夢見の久方 真由美(nCL2000003)が、覚者達に説明を始める。その顔はいつもより深刻だ。
「以前にFiVEと交戦したこともある、七星剣のヒノマル陸軍が動き出したようです。新興覚者組織である『黎明』を狙い、大規模な戦争をする事が目的の模様です」
新興組織『黎明』もヒノマル陸軍を迎え撃つようだが、食い止めきれるかは定かでは無い。そこで『黎明』の一員である暁という者より、『自分達は七星剣に潰されてしまうだろう、その前に助けて欲しい。見返りの情報は提供するつもりだ』という旨の要請が入ったのだ。
「確かに彼等は七星剣に追われている現状です。野放しにしておくと、また違う組織から狙われ、今回のような事件が勃発する恐れがあります」
このような事情を鑑みて。
ひとまずFiVEは、『黎明』の救援に向かうこととなったのだ。
「皆さんに、お願いするのは『黎明』のアルカさん達の救出です。現在、ヒノマル陸軍に追われて相当疲弊した状態にあるようですので、これを助けてあげて下さい」
覚者のアルカ達は、バラバラになりながらも街中を逃げ回っているらしい。
彼女達と接触し保護。ヒノマル陸軍からの追手を振り払う、というのが今回の依頼となる。
「あともう一つ。『黎明』の皆さんをFiVEに招き入れるかも検討を行います。これは、皆さんの投票を参考にして決定されますので、是非ともご意見をお聞かせ下さいね」
大きな決定が、覚者達一人一人の意思によって左右される。
何かが動き出そうとしていた。
「正直、何が正しいのかは誰にも分かりません。どうか、後悔のない行動と選択を、よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.一連の事件の被害を最小限に留める
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は、新興組織『黎明』とヒノマル陸軍に関連する全体シナリオとなります。
●ヒノマル陸軍
全員現因子の火行使いで構成されています。人数は七人。戦闘配置は、だいたい同数ずつにばらけます。戦闘に特化した、かなりの強敵です。新興組織『黎明』のメンバーを追っています。
●新興組織『黎明』のアルカ達
火行のアルカを中心として、ヒノマル陸軍から逃げている覚者達です。人数は五人。バラバラに逃げており、その中で何名がまだ生きているかは不明。彼女達を出来る限り、助け出して下さい。
●現場
中規模の繁華街。アルカ達が街中を逃げて、ヒノマル陸軍がそれを追っています。アルカ達は出来るだけ人の居ない所へ逃げようとしているようです。
●投票
この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
何も書かれていない場合は無効と見なします。
それでは、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
サポート人数
4/4
4/4
公開日
2015年10月29日
2015年10月29日
■メイン参加者 10人■
■サポート参加者 4人■

●
「正直何がどうなってどうしたらいいかなんて分からない。けど、まずは目の前で助けを求める人達を助けたい。『探偵見習い』としてあれこれ考えるのはそれからだ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が、持参した街の地図を片手に意気込む。他の者にも、既に地図は配布済みだ。
「ライライさんお願い。でもあまり高く飛ばないで」
守護使役によるていさつを、敵に悟られない位置にて行う。街中に逃げている、黎明のメンバーの捜索と保護が目的だ。
(初めての作戦がこんななんて聞いてない……)
怖いなんて、口が裂けても言えないが。
鋭聴力で周囲を探る『イッパンジン』風織 歩人(CL2001003)の耳には、そこかしこから戦闘音が飛び込んできていた。
今回、覚者達は主に三班に分かれて行動している。
戦闘重視班。
臨機応変班。
そして、この偵察重視班。
「やれ、目的が戦争で手段も戦争。火種を煽って火の粉を散らして、散らした火の粉を更に煽って大火にする。しょうも無い連中だね、絡まれた『黎明』もご愁傷様、だ」
気合を入れる『くれないのそら』七墜 昨良(CL2000077)の担当は通信。今回は各班との連携が重要となるため、情報は送受心で逐一交換している。
「……ん? これは」
人気のない方向を、奏空は見やる。感情探査に、気になるものが引っ掛かったのだ。
歩人が耳を澄ませて頷く。人々の会話、怪しい集団、追いかけていた、逃げている……数々のワードを耳が捕え。
「弱弱しく、アルカと呟く声が聞こえる」
「なんかそんな感じ~。血の匂いもするよ~。あそこからかな~」
八百万 円(CL2000681)のかぎわけると土の心を頼りに、覚者達は急行する。辿り着いた裏路地には、血塗れになった男女が蹲っていた。
「うう……貴方達は?」
「……覚者か? ヒノマル陸軍ではないようだが」
二人は傷だらけだった。
どうやら、黎明の覚者に間違いないようだ。
「俺達は敵じゃない。黎明のメンバーである暁という少年の頼みで救助しに来た」
奏空が簡単に事情を説明して、癒しの滴で治療にかかる。
完治とはいかぬが、二人ともこれで一命は取りとめるだろう。
「救援に来てくれたのか……アルカさんが言っていた覚者組織」
「そうだ、アルカさん! お願い、アルカさんを助けてっ。私達を逃がすために囮になって……」
「分かっている。今はどの辺りにいるか見当がつくなら、教えて」
偵察班は出来るだけの情報を得て。
昨良が送受心を使って、他班とも全て共有した。
「……敵と思わしき足音と、武器防具の金属音が、こちらに向かって来ている」
「確かに、好戦的な感情が近付いているね……うん、ライライさん方でも確認がとれた。あっちに、逃げよう」
歩人と奏空は、すぐに危機を察知する。
黎明の二人を護衛し。身を隠しながら、敵を避けて離脱。合わせて、その旨も皆に連絡するのを忘れない。
「ヒノマルなんちゃらは心底どうでもいいが、助けを求められて拒否するほどワルな気分でもなし
一働き、がんばりますか」
●
「偵察班から連絡があった。急ぐぜ」
仲間からの連絡を受けた『ヒーロー志望』成瀬 翔(CL2000063)は、黎明によってもたらされた情報を元に見当をつけ。空丸を飛ばしてていさつで騒ぎが起きてる方向を捜して、そちらへ向かう。アルカは未だに、戦場で味方を退避させるために動いているということだった。
(敵に空丸を見られてこっちに誘き寄せられてくれれば尚いいよな! ほら、こっちにも敵がいるぞ、ヒノマル!)
隠密性が要される他班と違い。戦闘重視班の主な目的は敵を引きつけて、時間を稼ぐこと。
だからなるべく高く、目立つように守護使役を飛ばす。
「近い。多分、あっちにヒノマルの人達がいる……四人くらい?」
感情探査を使い。桂木・日那乃(CL2000941)が貰っておいた地図と睨めっこしながら、敵の位置と人数を報せる。現場に近付くごとに、戦闘音は大きくなっていった。
「見えた。すぐそこ」
皆の情報や音を頼りにして。
『浄火』七十里・夏南(CL2000006)も透視で視認範囲を広げた。街の地図を手に、足場があまり良くないので適宜低空飛行する。
「熱反応もあり。敵に、誰かが追いかけられているな」
「分かった。連絡入れとく」
寺田 護(CL2001171)の言葉に、翔が頷く。ていさつの能力でも、逃げている者達がはっきりと見えた。他の班に状況を伝えておく。
「ふははは!」
「ほら、どうした! 黎明の覚者!」
「くっ!」
そこは普段は、人が溢れているだろう大通りだった。
だが、ヒノマル陸軍が暴れ回っているせいか一般人の姿はまばらで。代わりにあるのは、隔者に追われる覚者の姿。
「ア、アルカさん、私を置いて……逃げて下さい」
「馬鹿を言っている暇があるなら、走りなさいっ。気をしっかり持って!」
利発そうな赤髪の少女。
アルカは仲間一人をほぼ担ぐような形で、戦いながら後退していた。それを軍服を着たヒノマル陸軍四人が追い回している。今にも炎が黎明の二人を飲み込まんとし――
「なんとかは死なないと治らないと昔から云う。陳腐で低能な思想だわ。私が殺して治してあげる」
そこに夏南が割り込んでブロック。
醒の炎を使って、肉体を活性化させる。
「あなたが、アルカね。保護しに来たわ」
「もう大丈夫だぜ」
襟首を掴まえられたアルカは、素早く状況を察したようだった。安堵の息を吐いて、こちらの一人一人に頭を下げてみせる。
「……ありがとうございます。正直、こちらの要請に応じてくれるか不安でしたが。間一髪助かりました」
「何か色々あるみてーだけどさ。弱い者の味方、それがヒーローじゃん? だから黎明の連中助ける! 難しい事はあとで頭いい奴に任せるぜ!」
「なつねが住んでる近くが大変な事になってるの。どうにかしないといけないの」
翔が敵を引きつけるように、立ちはだかって位置取り。心地よい空気感を再現。演舞・清風を全員にかけて、戦闘態勢をを整えた。野武 七雅(CL2001141) も錬覇法で、英霊の力を引き出す。
「あん?」
「黎明の新手か?」
「まあ、良い。どちらにせよ……」
「叩き潰すまで!」
ヒノマル陸軍は、新たに現れた覚者達にも頓着した様子はなく。
躊躇なく、銃を構え。破壊の炎をその手に、苛烈に先制してくる。
「戦争したいひとたち、迷惑」
日那乃は、後衛からの回復役。
癒しの滴で傷を癒し、演舞・舞衣で治療をする。手が空いたら、エアブリットを打ち込んだ。
「アルカちゃん達は、危ないから離れていてね」
「はん! 一人たりとも、逃がすな!」
大島 天十里(CL2000303)は、両手に巻いた鎖を振り回して戦う。
本人曰く、これがしっくりくるらしい。
(あくまで足止め、消費が激しい体術の使用は避ける)
だが、それはそれとして。
「汚い連中は焼いて殺す」
夏南はブロックした目の前の相手に。
術符を腕に巻き付け顔面に炎撃を叩き込む。
「ぐっ!」
「その鼻っ柱をへし折れば少しは身の程が分かるだろう」
まともに、強烈な一撃を喰らい。
火傷を負い。鼻が折れた軍服の男は顔をしかめて――それから、それは楽しそうに笑った。
「……やるな、貴様等! これこそが戦争というのよ!!」
戦闘狂達は、心から暴力を楽しむ。
鍛え抜かれた技と力が、戦場で如何なく発揮される。
「敵が現って事はB.O.T使ってくるぜ、みんな貫通に気をつけろ!」
「ほう。状況判断も的確だな!」
貫通を喰らわないように、なるべく味方と重ならないように動き。
翔はこちらもB.O.T.と召雷で、複数を巻き込めるように撃ち合う。雷撃と波動弾が、派手に飛び交い。お互いに光の弾幕が輝く。
「普通のひとは逃げて」
「は、はい!」
ヒノマル陸軍は誰がいようとお構いなし。
戦闘は否応なしに激化する。
大量の流れ弾から、日那乃が取り残された通行人のガードも行う。
「街の中で戦うと、周りの建物に火がついたり、普通のひとが巻き込まれたりしないか気をつけないとかも?」
アルカ達も出来れば、逃がしておきたいところだが。
少しでも隙を見せれば、一気に敵の砲火に晒されかねない。
イタズラに動くことが出来ぬまま、膠着状態に陥っていき――そこに遊撃の臨機応変班が駆けつけ、再び事態は動き出した。
●
「黎明に関しては不安要素もあるが……襲われる者を見過ごすわけにはいかない。戦争は戦い『争う』ものだ、一方的に振るわれるそれは戦争と呼ぶに値しない。止めさせてらうぞ」
臨機応変班の『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)が、戦闘重視班の交戦に介入。早急に対応しにかかる。錬覇法で攻撃力を高め、水礫で牽制。一気に接近し、貫殺撃と重突で敵の壁を崩す。鋭く重い突きが、不意を突かれた相手へと直撃した。
「おお!」
「側面から来襲か!」
「ははは! これは良い! より戦争らしくなってきた!」
「全くもって虚しいね。手段が目的になってる例の連中は、花火みたいな物だ。派手で騒がしいが記憶にすら残らんよ。他がきな臭い所為でな」
臨機応変班の通信係。
緒形 逝(CL2000156)は、他班の翔と昨良と連絡を取り合い。常に全体を把握していた。状況によって、探索でも戦闘でも対応するのが遊撃の役目だ。まずは、蔵王を使用。その後に、前衛として敵を小手返しで捌く。
「今回の件は、不可解な点が多いですが、目の前で人死には出したくないですからね」
さっそく回復と援護を、鈴白 秋人(CL2000565)は行う。
『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)も、味方の回復を主体に動いた。数が多ければ秋人とともに癒しの霧。回復対象には、傷の深い黎明も入っている。
(ヒノマル陸軍という名前の割に、やっている事は軍というより賊ね。七星剣と新興勢力の争いというのも何だか興味は惹かれないわ。まあ、私が気になるのは未知の力があるかどうかだけなのだけど)
臨機応変班と戦闘重視班を合わせれば、敵の二倍以上の兵数となる。
急襲が上手くいったこともあり、相手の戦線は混乱をきたした。前ほどの余裕は見られない。他のことに……例えば逃げようとする者にかまう暇はないだろう。
「今のうちに――」
「退避を!」
戦闘重視班の面々が前に出て、足止め体制を整える。
救出対象たるアルカ達、黎明を臨機応変班に護衛を任せて託す。
「そちらだけで大丈夫だろうか?」
「絶対に後を追わせはしねーぜ!」
戦力規模を考えての行成の問いに。
翔が力強く請け負う。追手に攻撃を集中砲火した。
「人民は後衛に早く」
生存率を上げるために、 逝はアルカ達を後ろへと誘導する。
「ちっ! 敵の一部が逃げるぞ!」
「仕方ない、捨て置け!」
「今は、目の前の敵が先決だ!」
この件に関する、ヒノマル陸軍の半数以上がここに集まっているのだ。
戦力的には苦しいが、ここでそれを止めていられるだけでも他の者を助けることに繋がる。こぞって攻め立ててくる隔者と、戦闘重視班は真っ向から激突した。その隙に、臨機応変班は急速に距離をとる。
「どうにか、上手くいきましたね」
「偵察重視班が発見したのを入れると、これで保護した黎明は四人か」
仲間を抱えたアルカが、覚者達の視線を受けて何やら考え込む。
他の黎明の者と違い、まだ彼女は余力があるようだった。
「私達の仲間が、もう一人逃げています。力添えを願えますか?」
「ああ。でも、その前に回復を万全にしておこう」
せっかく追手との交戦状態から外れることができたのだ。
この合間を利用して、行成が癒しの滴で体力回復を施しておく。
「一般人に被害を出さないように、出来るだけ人の少ない方へ逃がしたから……恐らくは、あちらの方だと。案内します」
アルカが示したのは、倉庫が並ぶ区画だった。
余程、身内が心配なのか少女の赤毛が忙しなく揺れる。
「ちょっと待て。この興奮している感情は、ヒノマル何たら……」
移動すること幾許か。
先を急ぐ仲間に、感情探査を行っていた逝が待ったをかける。
「まだ、こちらに気付いてはいないか。移動方向が分かったら、その先へ……いや。何かあるみたいだな」
不審・警戒・発見。
敵の感情がそんなものに変化したのを感知して、逝が仲間に知らせる。同時に偵察重視班から連絡が入った。
『こちら、偵察重視班。ヒノマル陸軍と会敵した。応援を頼む』
場所は、臨機応変班のすぐそば。
逝が感知したのは、偵察重視班とヒノマル陸軍の接触だったのだ。戦闘重視班は、恐らく手一杯だろう。こちらで動くしかない。
●
「ねーちゃんいつもこんなことやってんのかよ」
歩人が前衛に立って、積極的に味方をガードする。
基本的に戦闘を避けて。察知されにくいように、静かに動いていた偵察重視班であるが。やはり黎明の怪我人を、伴っているのが響いた。
ヒノマル陸軍二人に発見され、止む無く戦闘へと突入するはめになったのだ。
「戦って良いんだ~」
円だけは、大喜びして飛燕や地烈を見舞っていたが。人並外れた脚力で、襲われそうな黎明の二人を運んで駆け回っていたが。
まあ、それはともかく。
「す、すいません。俺達のせいで」
「まぁ私は、先の通りヒノマルなんちゃらに興味はない。見返りどうのでもなく、気が乗ったから助けに来たわけさ」
昨良は中衛で、填気を使用して味方の気力を補助する。
回復が長持ちすることに重きをおき。敵が纏まっている場合は、召雷で複数巻き込んで攻撃。
「お互い無事に終わったら、後でお菓子でもぼりぼりして祝おうじゃないか。私の家は駄菓子屋だからね、安くするよ」
前衛が足りず、後衛や『黎明』メンバーに攻撃が届きそうな場合は前衛に移動する心積もりだった。もっとも、そろそろ自身の気力が心許ない。最前線に立たなければならぬのも時間の問題だ。せいぜい倒れないように立ち回る。
「無事に終わったら? 笑わせるな!」
「お前らの終幕は、ここだ!」
紅蓮の炎が炸裂する。
奏空は体を張ってメンバーを守り、応援が来るまで応戦した。
「全員、伏せて」
雷雲を呼び、召雷を起こす。
苦無によって近接する敵と、鍔競り合いを演じる。仲間の来援を信じて。そして、その努力は正しく報われた。
「――何とか」
「間に合ったか」
臨機応変班が敵との間に割って入る。
鋭聴力で現場の詳細を予め熟知していた行成が、鋭刃脚で敵の武器を跳ね上げる。秋人がそれに続き。守護使役のもちまるが、宙に浮いた武器をぱくぱくで処分してしまった。
「なっ!」
「貴様等!」
(なるべく消耗はしないように――)
ヒノマル陸軍がいきり立つのを、逝は動き回って回避に努めた。黎明が狙われたら庇いにも入る。エメレンツィアは味方を癒しの滴で回復させつつ、通常攻撃で援護した。
「偵察班は先に行って」
「殿はこちらが務める」
「了解。先に行かせてもらう」
「く! 待て!」
偵察重視班が先行して、臨機応変班が後退を支える。
ヒノマル陸軍も追撃するが。不意打ちで武器を失い、火力が減退したせいだろう。今一つ精彩を欠き。二班ともに敵を振り切ることに成功する。
(何とか、ガードし切れたか……)
離脱するときも、仲間が攻撃を受けないように注意していた歩人だった。早速、情報を交換をし。二班はそのまま、最後の黎明を救出に向かう。
「……見つけた。急行するよ」
「あ、待ってください。私も行きます」
ピヨのていさつにより、目星をつけていた区画を見ていた秋人が呟き。地図を確認してから、韋駄天足により先陣を切る。アルカも仲間を覚者達に任せて、付いていった。
「ククク! 追い詰めたぞ、黎明!」
「うう……ここまでか。アルカさんの幻が……見える?」
倉庫に囲まれた一画。一人の覚者が、一人の隔者に追われて覚悟を決めていたが。彼の目に映っていたのは勿論、幻ではない。
「させない」
「っ!」
猛スピードで秋人が、ヒノマル陸軍の太腿を狙撃。
悶絶する敵を尻目に、アルカは最後の黎明へと駆け寄った。
「良かったっ。これで全員、無事ね!」
「アルカ……さん?」
「感動の再会のところ悪いが、来るぞ」
秋人が第六感を発揮して、隔者が反撃してくるのを防御する。
「よくもやってくれたな!」
「……」
足止めか。
回復しながら離脱か。
何れにしても、もうすぐ味方も来る。それまで、堪え切れれば――
……その同刻。
「我が炎を受けよ!」
「火は消す」
戦闘重視班は、未だに激戦の中にいた。
日那乃の水礫が、敵の炎とぶつかり合い。翔と夏南は相手の回復役に目をつけて攻め立てた。
「集中攻撃するっ」
「確実に死んでもらう」
波動弾が直撃し。
圧縮されたエアブリッドが、ヒノマル陸軍の一人に畳み掛けられた。
「気合い入れろ! そんなものか!」
「邪魔にならないようにがんばるの」
煽りながら護が回復や填気に尽力。
七雅は後衛から攻守をサポートする。
「何の!」
「戦争に勝つのは我々だ!」
覚者も隔者も譲らない。一進一退の攻防は容易に決着はつかず。
だが、唐突に終結を迎える。
「! 連絡が入った。他の班の退避が終わった」
味方の退避が完了した知らせを、翔が受信したのだ。
深追いは無用。顔を見合わせて自分達も撤退へと移る。
「任務終了、ね」
「!」
地を這うような軌跡から、夏南の連撃が敵前衛を散らした。
負傷が重なった回復手が倒れ……覚者達は、混乱に乗じて姿を消す。燃え盛る炎の煙が、目くらましになったのは皮肉だったが。
確かな結果を得て、一同は早々に炎の街を後にした。
「正直何がどうなってどうしたらいいかなんて分からない。けど、まずは目の前で助けを求める人達を助けたい。『探偵見習い』としてあれこれ考えるのはそれからだ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が、持参した街の地図を片手に意気込む。他の者にも、既に地図は配布済みだ。
「ライライさんお願い。でもあまり高く飛ばないで」
守護使役によるていさつを、敵に悟られない位置にて行う。街中に逃げている、黎明のメンバーの捜索と保護が目的だ。
(初めての作戦がこんななんて聞いてない……)
怖いなんて、口が裂けても言えないが。
鋭聴力で周囲を探る『イッパンジン』風織 歩人(CL2001003)の耳には、そこかしこから戦闘音が飛び込んできていた。
今回、覚者達は主に三班に分かれて行動している。
戦闘重視班。
臨機応変班。
そして、この偵察重視班。
「やれ、目的が戦争で手段も戦争。火種を煽って火の粉を散らして、散らした火の粉を更に煽って大火にする。しょうも無い連中だね、絡まれた『黎明』もご愁傷様、だ」
気合を入れる『くれないのそら』七墜 昨良(CL2000077)の担当は通信。今回は各班との連携が重要となるため、情報は送受心で逐一交換している。
「……ん? これは」
人気のない方向を、奏空は見やる。感情探査に、気になるものが引っ掛かったのだ。
歩人が耳を澄ませて頷く。人々の会話、怪しい集団、追いかけていた、逃げている……数々のワードを耳が捕え。
「弱弱しく、アルカと呟く声が聞こえる」
「なんかそんな感じ~。血の匂いもするよ~。あそこからかな~」
八百万 円(CL2000681)のかぎわけると土の心を頼りに、覚者達は急行する。辿り着いた裏路地には、血塗れになった男女が蹲っていた。
「うう……貴方達は?」
「……覚者か? ヒノマル陸軍ではないようだが」
二人は傷だらけだった。
どうやら、黎明の覚者に間違いないようだ。
「俺達は敵じゃない。黎明のメンバーである暁という少年の頼みで救助しに来た」
奏空が簡単に事情を説明して、癒しの滴で治療にかかる。
完治とはいかぬが、二人ともこれで一命は取りとめるだろう。
「救援に来てくれたのか……アルカさんが言っていた覚者組織」
「そうだ、アルカさん! お願い、アルカさんを助けてっ。私達を逃がすために囮になって……」
「分かっている。今はどの辺りにいるか見当がつくなら、教えて」
偵察班は出来るだけの情報を得て。
昨良が送受心を使って、他班とも全て共有した。
「……敵と思わしき足音と、武器防具の金属音が、こちらに向かって来ている」
「確かに、好戦的な感情が近付いているね……うん、ライライさん方でも確認がとれた。あっちに、逃げよう」
歩人と奏空は、すぐに危機を察知する。
黎明の二人を護衛し。身を隠しながら、敵を避けて離脱。合わせて、その旨も皆に連絡するのを忘れない。
「ヒノマルなんちゃらは心底どうでもいいが、助けを求められて拒否するほどワルな気分でもなし
一働き、がんばりますか」
●
「偵察班から連絡があった。急ぐぜ」
仲間からの連絡を受けた『ヒーロー志望』成瀬 翔(CL2000063)は、黎明によってもたらされた情報を元に見当をつけ。空丸を飛ばしてていさつで騒ぎが起きてる方向を捜して、そちらへ向かう。アルカは未だに、戦場で味方を退避させるために動いているということだった。
(敵に空丸を見られてこっちに誘き寄せられてくれれば尚いいよな! ほら、こっちにも敵がいるぞ、ヒノマル!)
隠密性が要される他班と違い。戦闘重視班の主な目的は敵を引きつけて、時間を稼ぐこと。
だからなるべく高く、目立つように守護使役を飛ばす。
「近い。多分、あっちにヒノマルの人達がいる……四人くらい?」
感情探査を使い。桂木・日那乃(CL2000941)が貰っておいた地図と睨めっこしながら、敵の位置と人数を報せる。現場に近付くごとに、戦闘音は大きくなっていった。
「見えた。すぐそこ」
皆の情報や音を頼りにして。
『浄火』七十里・夏南(CL2000006)も透視で視認範囲を広げた。街の地図を手に、足場があまり良くないので適宜低空飛行する。
「熱反応もあり。敵に、誰かが追いかけられているな」
「分かった。連絡入れとく」
寺田 護(CL2001171)の言葉に、翔が頷く。ていさつの能力でも、逃げている者達がはっきりと見えた。他の班に状況を伝えておく。
「ふははは!」
「ほら、どうした! 黎明の覚者!」
「くっ!」
そこは普段は、人が溢れているだろう大通りだった。
だが、ヒノマル陸軍が暴れ回っているせいか一般人の姿はまばらで。代わりにあるのは、隔者に追われる覚者の姿。
「ア、アルカさん、私を置いて……逃げて下さい」
「馬鹿を言っている暇があるなら、走りなさいっ。気をしっかり持って!」
利発そうな赤髪の少女。
アルカは仲間一人をほぼ担ぐような形で、戦いながら後退していた。それを軍服を着たヒノマル陸軍四人が追い回している。今にも炎が黎明の二人を飲み込まんとし――
「なんとかは死なないと治らないと昔から云う。陳腐で低能な思想だわ。私が殺して治してあげる」
そこに夏南が割り込んでブロック。
醒の炎を使って、肉体を活性化させる。
「あなたが、アルカね。保護しに来たわ」
「もう大丈夫だぜ」
襟首を掴まえられたアルカは、素早く状況を察したようだった。安堵の息を吐いて、こちらの一人一人に頭を下げてみせる。
「……ありがとうございます。正直、こちらの要請に応じてくれるか不安でしたが。間一髪助かりました」
「何か色々あるみてーだけどさ。弱い者の味方、それがヒーローじゃん? だから黎明の連中助ける! 難しい事はあとで頭いい奴に任せるぜ!」
「なつねが住んでる近くが大変な事になってるの。どうにかしないといけないの」
翔が敵を引きつけるように、立ちはだかって位置取り。心地よい空気感を再現。演舞・清風を全員にかけて、戦闘態勢をを整えた。野武 七雅(CL2001141) も錬覇法で、英霊の力を引き出す。
「あん?」
「黎明の新手か?」
「まあ、良い。どちらにせよ……」
「叩き潰すまで!」
ヒノマル陸軍は、新たに現れた覚者達にも頓着した様子はなく。
躊躇なく、銃を構え。破壊の炎をその手に、苛烈に先制してくる。
「戦争したいひとたち、迷惑」
日那乃は、後衛からの回復役。
癒しの滴で傷を癒し、演舞・舞衣で治療をする。手が空いたら、エアブリットを打ち込んだ。
「アルカちゃん達は、危ないから離れていてね」
「はん! 一人たりとも、逃がすな!」
大島 天十里(CL2000303)は、両手に巻いた鎖を振り回して戦う。
本人曰く、これがしっくりくるらしい。
(あくまで足止め、消費が激しい体術の使用は避ける)
だが、それはそれとして。
「汚い連中は焼いて殺す」
夏南はブロックした目の前の相手に。
術符を腕に巻き付け顔面に炎撃を叩き込む。
「ぐっ!」
「その鼻っ柱をへし折れば少しは身の程が分かるだろう」
まともに、強烈な一撃を喰らい。
火傷を負い。鼻が折れた軍服の男は顔をしかめて――それから、それは楽しそうに笑った。
「……やるな、貴様等! これこそが戦争というのよ!!」
戦闘狂達は、心から暴力を楽しむ。
鍛え抜かれた技と力が、戦場で如何なく発揮される。
「敵が現って事はB.O.T使ってくるぜ、みんな貫通に気をつけろ!」
「ほう。状況判断も的確だな!」
貫通を喰らわないように、なるべく味方と重ならないように動き。
翔はこちらもB.O.T.と召雷で、複数を巻き込めるように撃ち合う。雷撃と波動弾が、派手に飛び交い。お互いに光の弾幕が輝く。
「普通のひとは逃げて」
「は、はい!」
ヒノマル陸軍は誰がいようとお構いなし。
戦闘は否応なしに激化する。
大量の流れ弾から、日那乃が取り残された通行人のガードも行う。
「街の中で戦うと、周りの建物に火がついたり、普通のひとが巻き込まれたりしないか気をつけないとかも?」
アルカ達も出来れば、逃がしておきたいところだが。
少しでも隙を見せれば、一気に敵の砲火に晒されかねない。
イタズラに動くことが出来ぬまま、膠着状態に陥っていき――そこに遊撃の臨機応変班が駆けつけ、再び事態は動き出した。
●
「黎明に関しては不安要素もあるが……襲われる者を見過ごすわけにはいかない。戦争は戦い『争う』ものだ、一方的に振るわれるそれは戦争と呼ぶに値しない。止めさせてらうぞ」
臨機応変班の『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)が、戦闘重視班の交戦に介入。早急に対応しにかかる。錬覇法で攻撃力を高め、水礫で牽制。一気に接近し、貫殺撃と重突で敵の壁を崩す。鋭く重い突きが、不意を突かれた相手へと直撃した。
「おお!」
「側面から来襲か!」
「ははは! これは良い! より戦争らしくなってきた!」
「全くもって虚しいね。手段が目的になってる例の連中は、花火みたいな物だ。派手で騒がしいが記憶にすら残らんよ。他がきな臭い所為でな」
臨機応変班の通信係。
緒形 逝(CL2000156)は、他班の翔と昨良と連絡を取り合い。常に全体を把握していた。状況によって、探索でも戦闘でも対応するのが遊撃の役目だ。まずは、蔵王を使用。その後に、前衛として敵を小手返しで捌く。
「今回の件は、不可解な点が多いですが、目の前で人死には出したくないですからね」
さっそく回復と援護を、鈴白 秋人(CL2000565)は行う。
『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)も、味方の回復を主体に動いた。数が多ければ秋人とともに癒しの霧。回復対象には、傷の深い黎明も入っている。
(ヒノマル陸軍という名前の割に、やっている事は軍というより賊ね。七星剣と新興勢力の争いというのも何だか興味は惹かれないわ。まあ、私が気になるのは未知の力があるかどうかだけなのだけど)
臨機応変班と戦闘重視班を合わせれば、敵の二倍以上の兵数となる。
急襲が上手くいったこともあり、相手の戦線は混乱をきたした。前ほどの余裕は見られない。他のことに……例えば逃げようとする者にかまう暇はないだろう。
「今のうちに――」
「退避を!」
戦闘重視班の面々が前に出て、足止め体制を整える。
救出対象たるアルカ達、黎明を臨機応変班に護衛を任せて託す。
「そちらだけで大丈夫だろうか?」
「絶対に後を追わせはしねーぜ!」
戦力規模を考えての行成の問いに。
翔が力強く請け負う。追手に攻撃を集中砲火した。
「人民は後衛に早く」
生存率を上げるために、 逝はアルカ達を後ろへと誘導する。
「ちっ! 敵の一部が逃げるぞ!」
「仕方ない、捨て置け!」
「今は、目の前の敵が先決だ!」
この件に関する、ヒノマル陸軍の半数以上がここに集まっているのだ。
戦力的には苦しいが、ここでそれを止めていられるだけでも他の者を助けることに繋がる。こぞって攻め立ててくる隔者と、戦闘重視班は真っ向から激突した。その隙に、臨機応変班は急速に距離をとる。
「どうにか、上手くいきましたね」
「偵察重視班が発見したのを入れると、これで保護した黎明は四人か」
仲間を抱えたアルカが、覚者達の視線を受けて何やら考え込む。
他の黎明の者と違い、まだ彼女は余力があるようだった。
「私達の仲間が、もう一人逃げています。力添えを願えますか?」
「ああ。でも、その前に回復を万全にしておこう」
せっかく追手との交戦状態から外れることができたのだ。
この合間を利用して、行成が癒しの滴で体力回復を施しておく。
「一般人に被害を出さないように、出来るだけ人の少ない方へ逃がしたから……恐らくは、あちらの方だと。案内します」
アルカが示したのは、倉庫が並ぶ区画だった。
余程、身内が心配なのか少女の赤毛が忙しなく揺れる。
「ちょっと待て。この興奮している感情は、ヒノマル何たら……」
移動すること幾許か。
先を急ぐ仲間に、感情探査を行っていた逝が待ったをかける。
「まだ、こちらに気付いてはいないか。移動方向が分かったら、その先へ……いや。何かあるみたいだな」
不審・警戒・発見。
敵の感情がそんなものに変化したのを感知して、逝が仲間に知らせる。同時に偵察重視班から連絡が入った。
『こちら、偵察重視班。ヒノマル陸軍と会敵した。応援を頼む』
場所は、臨機応変班のすぐそば。
逝が感知したのは、偵察重視班とヒノマル陸軍の接触だったのだ。戦闘重視班は、恐らく手一杯だろう。こちらで動くしかない。
●
「ねーちゃんいつもこんなことやってんのかよ」
歩人が前衛に立って、積極的に味方をガードする。
基本的に戦闘を避けて。察知されにくいように、静かに動いていた偵察重視班であるが。やはり黎明の怪我人を、伴っているのが響いた。
ヒノマル陸軍二人に発見され、止む無く戦闘へと突入するはめになったのだ。
「戦って良いんだ~」
円だけは、大喜びして飛燕や地烈を見舞っていたが。人並外れた脚力で、襲われそうな黎明の二人を運んで駆け回っていたが。
まあ、それはともかく。
「す、すいません。俺達のせいで」
「まぁ私は、先の通りヒノマルなんちゃらに興味はない。見返りどうのでもなく、気が乗ったから助けに来たわけさ」
昨良は中衛で、填気を使用して味方の気力を補助する。
回復が長持ちすることに重きをおき。敵が纏まっている場合は、召雷で複数巻き込んで攻撃。
「お互い無事に終わったら、後でお菓子でもぼりぼりして祝おうじゃないか。私の家は駄菓子屋だからね、安くするよ」
前衛が足りず、後衛や『黎明』メンバーに攻撃が届きそうな場合は前衛に移動する心積もりだった。もっとも、そろそろ自身の気力が心許ない。最前線に立たなければならぬのも時間の問題だ。せいぜい倒れないように立ち回る。
「無事に終わったら? 笑わせるな!」
「お前らの終幕は、ここだ!」
紅蓮の炎が炸裂する。
奏空は体を張ってメンバーを守り、応援が来るまで応戦した。
「全員、伏せて」
雷雲を呼び、召雷を起こす。
苦無によって近接する敵と、鍔競り合いを演じる。仲間の来援を信じて。そして、その努力は正しく報われた。
「――何とか」
「間に合ったか」
臨機応変班が敵との間に割って入る。
鋭聴力で現場の詳細を予め熟知していた行成が、鋭刃脚で敵の武器を跳ね上げる。秋人がそれに続き。守護使役のもちまるが、宙に浮いた武器をぱくぱくで処分してしまった。
「なっ!」
「貴様等!」
(なるべく消耗はしないように――)
ヒノマル陸軍がいきり立つのを、逝は動き回って回避に努めた。黎明が狙われたら庇いにも入る。エメレンツィアは味方を癒しの滴で回復させつつ、通常攻撃で援護した。
「偵察班は先に行って」
「殿はこちらが務める」
「了解。先に行かせてもらう」
「く! 待て!」
偵察重視班が先行して、臨機応変班が後退を支える。
ヒノマル陸軍も追撃するが。不意打ちで武器を失い、火力が減退したせいだろう。今一つ精彩を欠き。二班ともに敵を振り切ることに成功する。
(何とか、ガードし切れたか……)
離脱するときも、仲間が攻撃を受けないように注意していた歩人だった。早速、情報を交換をし。二班はそのまま、最後の黎明を救出に向かう。
「……見つけた。急行するよ」
「あ、待ってください。私も行きます」
ピヨのていさつにより、目星をつけていた区画を見ていた秋人が呟き。地図を確認してから、韋駄天足により先陣を切る。アルカも仲間を覚者達に任せて、付いていった。
「ククク! 追い詰めたぞ、黎明!」
「うう……ここまでか。アルカさんの幻が……見える?」
倉庫に囲まれた一画。一人の覚者が、一人の隔者に追われて覚悟を決めていたが。彼の目に映っていたのは勿論、幻ではない。
「させない」
「っ!」
猛スピードで秋人が、ヒノマル陸軍の太腿を狙撃。
悶絶する敵を尻目に、アルカは最後の黎明へと駆け寄った。
「良かったっ。これで全員、無事ね!」
「アルカ……さん?」
「感動の再会のところ悪いが、来るぞ」
秋人が第六感を発揮して、隔者が反撃してくるのを防御する。
「よくもやってくれたな!」
「……」
足止めか。
回復しながら離脱か。
何れにしても、もうすぐ味方も来る。それまで、堪え切れれば――
……その同刻。
「我が炎を受けよ!」
「火は消す」
戦闘重視班は、未だに激戦の中にいた。
日那乃の水礫が、敵の炎とぶつかり合い。翔と夏南は相手の回復役に目をつけて攻め立てた。
「集中攻撃するっ」
「確実に死んでもらう」
波動弾が直撃し。
圧縮されたエアブリッドが、ヒノマル陸軍の一人に畳み掛けられた。
「気合い入れろ! そんなものか!」
「邪魔にならないようにがんばるの」
煽りながら護が回復や填気に尽力。
七雅は後衛から攻守をサポートする。
「何の!」
「戦争に勝つのは我々だ!」
覚者も隔者も譲らない。一進一退の攻防は容易に決着はつかず。
だが、唐突に終結を迎える。
「! 連絡が入った。他の班の退避が終わった」
味方の退避が完了した知らせを、翔が受信したのだ。
深追いは無用。顔を見合わせて自分達も撤退へと移る。
「任務終了、ね」
「!」
地を這うような軌跡から、夏南の連撃が敵前衛を散らした。
負傷が重なった回復手が倒れ……覚者達は、混乱に乗じて姿を消す。燃え盛る炎の煙が、目くらましになったのは皮肉だったが。
確かな結果を得て、一同は早々に炎の街を後にした。

■あとがき■
ご参加ありがとうございました。本件の黎明の覚者は、全員無事に救出されました。
今回の件で、また何かが動いたことと思います。皆さん一人一人の行動と決断が、どのように進んでいくのか楽しみです。
今回の件で、また何かが動いたことと思います。皆さん一人一人の行動と決断が、どのように進んでいくのか楽しみです。
