満月に白狼が吼え狩りをする 裏切る信じる?守護使役
●満月の夜、大妖が動く
『新月の咆哮』ヨルナキ――
巨大な狼を模したその大妖は、破綻者となり滅んだ末の覚者と共に歩んだ守護使役の集合体であるという。
それぞれの守護使役の特性を持つと同時に月齢による再生能力を有し、同時間同時空複数存在と言う時間や空間に捕らわれない存在だ。あらゆるものに捕らわれず、あらゆる刃すら意味をなさない。同時にそれが振るわれるのは人と妖のバランスを調整する時のみで、人のみに猛威を振るうわけではない。
だがしかし、FiVEは大妖『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号を排した。それにより、人と妖のバランスは、大きく人側に傾く。
ヨルナキはFiVEを敵と認識し、『新月の咆哮』をFiVEに宣言する。狩りの始まりを告げる咆哮は、その存在全てを狩る宣言だ。同時にその状態のヨルナキには死を与える事が出来る。互いに死ぬ可能性があるからこそ、狩りなのだ。
そして七月初頭、その日五麟市に大妖が迫る。
咆哮が、満月の元轟いた。
●五麟市
空に浮かぶ突きは新円を描き、雲一つない空が五麟市に訪れる。
そんな夜の街に獣の咆哮が響き渡る。狩りの始まりを告げる、狼の咆哮。
『新月の咆哮』ヨルナキ。
破綻して消えてしまった覚者の守護使役。それらを統合した存在。それがFiVEの人間を『狩り』の対象と認め、赴いたのだ。
大きさ百メートルの巨大な獣。それが咆哮と共に空間を転移して五麟市に姿を現した。何人もの夢見がその事を予知しており、覚者達の準備は万端だ。ヨルナキもそれを察しているのか覚者を探そうとはしない。
<戦わぬものは襲わぬ。武器を捨て、床につけば安全は保障しよう>
五麟市に住むもの全てにその声が聞こえる。戦意を捨てれば襲わない、と。だが――
<これはFiVEの覚者を滅ぼす狩り。そこに所属する者を逃すわけにはいかぬ。
故に汝らには楔を刺そう。一万八千里離れようが、逃れ得ぬものを>
ヨルナキの言葉と共に、覚者達の守護使役が動きを止めて震えだす。ヨルナキの発する圧力に怯え、そして押さえつけられるように縮んでいく。
<時が来れば、汝らの守り手は某と同化する。某とどれだけ離れようが、悪竜となって汝らに牙をむくだろう。某を倒さなければその楔は消えぬ>
――第三次妖討伐抗争の際、AAAの大部隊は背後から『龍』に襲われたと言われている。
それは『龍』と言う巨大な妖ではなく、自らの相棒ともいえる守護使役が襲い掛かってきたのなら?
それは是が非でも秘さねばならない事だった。大妖の能力とはいえ、守護使役が人を襲った。そんな事実が世に知れれば、守護使役に対する恐怖が伝播する。けして放れることのない守護使役に命を狙われる恐怖と、信用されず孤独に生きる守護使役。そんな未来が容易に予測できる。
<来るがいい、FiVEの戦士達。今、汝らを滅ぼそう>
月下の戦いが、今始まる――
『新月の咆哮』ヨルナキ――
巨大な狼を模したその大妖は、破綻者となり滅んだ末の覚者と共に歩んだ守護使役の集合体であるという。
それぞれの守護使役の特性を持つと同時に月齢による再生能力を有し、同時間同時空複数存在と言う時間や空間に捕らわれない存在だ。あらゆるものに捕らわれず、あらゆる刃すら意味をなさない。同時にそれが振るわれるのは人と妖のバランスを調整する時のみで、人のみに猛威を振るうわけではない。
だがしかし、FiVEは大妖『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号を排した。それにより、人と妖のバランスは、大きく人側に傾く。
ヨルナキはFiVEを敵と認識し、『新月の咆哮』をFiVEに宣言する。狩りの始まりを告げる咆哮は、その存在全てを狩る宣言だ。同時にその状態のヨルナキには死を与える事が出来る。互いに死ぬ可能性があるからこそ、狩りなのだ。
そして七月初頭、その日五麟市に大妖が迫る。
咆哮が、満月の元轟いた。
●五麟市
空に浮かぶ突きは新円を描き、雲一つない空が五麟市に訪れる。
そんな夜の街に獣の咆哮が響き渡る。狩りの始まりを告げる、狼の咆哮。
『新月の咆哮』ヨルナキ。
破綻して消えてしまった覚者の守護使役。それらを統合した存在。それがFiVEの人間を『狩り』の対象と認め、赴いたのだ。
大きさ百メートルの巨大な獣。それが咆哮と共に空間を転移して五麟市に姿を現した。何人もの夢見がその事を予知しており、覚者達の準備は万端だ。ヨルナキもそれを察しているのか覚者を探そうとはしない。
<戦わぬものは襲わぬ。武器を捨て、床につけば安全は保障しよう>
五麟市に住むもの全てにその声が聞こえる。戦意を捨てれば襲わない、と。だが――
<これはFiVEの覚者を滅ぼす狩り。そこに所属する者を逃すわけにはいかぬ。
故に汝らには楔を刺そう。一万八千里離れようが、逃れ得ぬものを>
ヨルナキの言葉と共に、覚者達の守護使役が動きを止めて震えだす。ヨルナキの発する圧力に怯え、そして押さえつけられるように縮んでいく。
<時が来れば、汝らの守り手は某と同化する。某とどれだけ離れようが、悪竜となって汝らに牙をむくだろう。某を倒さなければその楔は消えぬ>
――第三次妖討伐抗争の際、AAAの大部隊は背後から『龍』に襲われたと言われている。
それは『龍』と言う巨大な妖ではなく、自らの相棒ともいえる守護使役が襲い掛かってきたのなら?
それは是が非でも秘さねばならない事だった。大妖の能力とはいえ、守護使役が人を襲った。そんな事実が世に知れれば、守護使役に対する恐怖が伝播する。けして放れることのない守護使役に命を狙われる恐怖と、信用されず孤独に生きる守護使役。そんな未来が容易に予測できる。
<来るがいい、FiVEの戦士達。今、汝らを滅ぼそう>
月下の戦いが、今始まる――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『新月の咆哮』ヨルナキの打破
2.五麟市のダメージを一定数以下に抑える
3.守護使役を暴走させない
2.五麟市のダメージを一定数以下に抑える
3.守護使役を暴走させない
ヨルナキ決戦。100mを超すオオカミとの攻防戦です。
・『新月の咆哮』ヨルナキ
大妖。大きさ100mの巨大な獣です。まともにブロックなどできるはずもなく、人間同士の戦略など意味を成しません。
また、覚者達の守護使役に干渉し、背後から襲わせようと命令しています。ヨルナキを倒すしか解除する方法はありません。守護使役に語りかけることで覚者を襲うまでの時間を伸ばすことはできるでしょう。
またヨルナキが狙っているのはFiVEと言う組織です。それは人材と言う意味もありますが、FiVEが有する建物や機材も含まれます。それらを守る者がなければ、五麟学園などはかなりのダメージを追います。
当然ですが、ヨルナキに攻撃を加える者も必要になるでしょう。
以上を鑑みて、部隊を三つに分けます。プレイングの冒頭、もしくはEXプレイングにいずれかを書いてください。書かれなかった場合、ランダムに振り分けたうえでそのキャラの重傷率を増加させます。
【攻撃班】:実際にヨルナキと相対する者です。単純な戦闘能力や回復能力が必要となります。言うまでもありませんが、こちらの数が少なすぎればヨルナキ打破は叶いません。
【防衛班】:ヨルナキが動くたびに発生する衝撃波などから建物やFiVEの人を守ります。移動系の非戦などによりボーナスが得られることが多いです。重傷率低下に繋がります。
【祈祷班】:守護使役に語りかけ、暴走するまでの時間を伸ばします。語りかける数が多いと、何か起きるかもしれません。
攻撃方法
白狼の牙 物遠全 巨大な顎が振るわれ、戦場全てを飲み込みます。
虎狼の吼 特遠全 獣の声が物理的な衝撃となって襲い掛かります。
突撃 物近列 巨躯が動き回るだけで、被害は大きくなります。【ノックB】
高速移動 自付 速度を増し、同時に攻撃の威力を増します。
月の獣 P 依頼出発時の月齢に比例してHPが自己再生します。
新緑の風 P 自身にかかっているバットステータスを、一つに付きHP50点消費して回復します。
『新月の咆哮』 P 特定の人物や組織を設定する。それに属する存在を攻撃する時、命中とダメージにボーナスが付く。
●場所情報
五麟市。満月が照る夜の元。明かりは街の灯りがあるので不要です。
街中のビル通り。その道路にヨルナキがいます。ビルから奇襲したり、真正面から斬りかかったり、背後から攻めたりと自由に攻めてください(不意打ちボーナスなどはありません)。いうまでもありませんが、地の利は覚者にあります。
事前付与は一度だけ可能とします。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
相談日数
9日
9日
参加費
50LP
50LP
参加人数
41/∞
41/∞
公開日
2019年07月19日
2019年07月19日
■メイン参加者 41人■

●ヨルナキⅠ
「ワワンの事は信じてるんだからぁ!」
守護使役を疑うことなく信じながら『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)はヨルナキの前に立つ。守護使役が襲い掛かってくるかもしれないという恐怖は奈南の瞳にはない。今まで共に戦って来た相棒だから、背中を任せるに値する。
「ヨルナキちゃん、かくごー! とりゃー!」
神具を握りしめ、奈南はヨルナキに迫る。源素の力を先端に集め、インパクトの瞬間に源素を一気に解放して爆発させる。タイミング、武器を振るう力、何よりも敵を恐れぬ無邪気さ。その全てがあってこその一撃だ。
「鋭き一撃。幼子と油断するつもりはないが、さりとてその威力は見事」
「ワワンも頑張ってるのにナナンが負けてなんていられないのだ!」
ヨルナキの称賛に勇んで言葉を返す奈南。
「然り。汝の守護使役も頑張っている。しかしそれと汝らの勝利につながるかは――未知数」
「未知数なら、こちらが勝てる要素もあるという事だ」
ヨルナキの言葉に『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が口を開く。大妖。この四半世紀近く、この日本を恐怖で縛りつけてきた存在。数年前なら手の届かなかった存在だが、今は勝てる可能性がある。そう信じられるだけの努力をしてきた。
「守護使役のことは任せたよ。皆……」
戦闘区域外で祈りを捧げる仲間達の方に意識を向けながら、仲間の位置を捕捉する秋人。適度にヨルナキから距離を取りつつ、同時にヨルナキと戦い傷つく者から距離を放し過ぎないように動く。放たれた癒しの水が、静かに傷を癒しいていく。
「ヨルナキ。倒させてもらうよ」
「言葉を返そう。汝らを滅ぼす。これは狩りだ」
「何方の狩りが上手なのか、狩り比べとゆきましょう」
『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)はにこりと微笑み、夜の五麟市を走る。見上げるような大きさのヨルナキ相手に臆することはない。つばめを始めとした覚者達の胸にあるのは戦いの覚悟。今更後れを取るようなものはここにはいない。
「夢路なら、後ろから牙を突き立てられても可愛いものですわ。ですが――」
迫るヨルナキの足を独楽のように回転して回避するつばめ。鋭い風圧が体を襲うが、それすら心地良いとばかりに表情を緩める。そのまま舞うように抜刀し、戦場を一気に駆け巡る。止まることのないつばめの剣舞が、鍔鳴りと共に披露される。
「剛柔自在。これが人の技です。大妖の体躯で追いつけますかしら?」
「人が培った技と言う歴史。どちらが狩人として優秀か、勝負と行こう」
自分の身長ほどの大きな鎌を構え、『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)はヨルナキに挑む。鎌の名前は『白狼』。奇しくもヨルナキの姿と同じ名前だ。ならばどちらがその名にふさわしいか。比べてみたくなるのが狩人の魂だ。
「行くぞ、白狼!」
自らの武器に語りかけ、ツバメは一気に大妖との距離を詰める。この区域に居る仲間の居場所全てを把握し、仲間の攻撃に合わせるように鎌を振るう。時に同時に、時に連続で。ヨルナキの白い毛に、紅色の傷が広がっていく。
「再生能力持ちにバッドステータス回復か。単純なタフネスも楽観できないようだ」
「汝ら人間との違いを理解したか。ならば如何に? 泣いて許しを請うのも選択肢だ」
「まさか。白狼の名にかけて、最後まで戦い抜く」
「……大妖。……妖」
大辻・想良(CL2001476)は静かにその言葉を呟く。父を殺し、自らの人生を狂わせた存在。大妖さえいなければ、妖さえいなければ。……呼吸を繰り返し、冷静さを取り戻す。許せるはずがない。だけど今は、復讐に狩られるよりもやらなくてはいけないことがある。
「天、頑張って……わたしも、がんばるから」
守護使役に声をかけて、想良は戦場に向き直る。憎き相手ではなく、共に戦う仲間を。心を落ち着かせて、天の源素を練り上げる。太陽の化身ともいえる源素の究技。光り輝く天の力が、仲間達の力を大きく増幅させる。
「憎いけど、今は――――」
「やっぱりこのサイズは大きくて目立つねぇ……」
「あれが、『新月の咆哮』時のヨルナキ。この前とは違って全体が見えないほどの大きさですね……」
バイクに二人乗りした『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)はヨルナキを見ながら感嘆の声をあげる。大きさ100mともなれば身体能力の差は努力でどうこうなる領域ではない。逆らうのが馬鹿らしくなる差だ。
「さて、七星剣の時もそうだったけど、無事に明日を迎える為にもヨルナキを倒さないと、だね」
言って恭司がバイクを走らせる。明日を迎える。その為に恭司は戦っていた。今ある『日常』を守るために。明日、大事な人に挨拶するために。それを大事と思えるようになったのは、背中に居る少女のおかげだ。それに報いる為にも、ここで負けるわけにはいかない。
「はい。いつもの事ながら……支援、頼りにしていますね」
恭司の背中にしがみつくように体を寄せて、燐花は頷く。いつも。それを言えるだけ燐花と恭司は共にいた。支えられていること。背中を押してくれること。もう当たり前だからこそ、理解できる大事な事。その支えに報いる為にも、ここで負けるわけにはいかない。
「行くよ。足さえ止まれば走り回らなくて済む」
「このサイズでも足を封じれば起動力は落ちるはずです」
バイクはヨルナキの足元に向かって進む。それを察したヨルナキはそちらに振り向き足を振るうが、それを何とか避ける恭司。ある程度の距離まで近づくと燐花は跳躍し、ビルの壁を蹴って衝撃を緩和しながらヨルナキに斬りかかる。
「燐ちゃん、無理はしないで……と言えないのが辛い所だね」
「はい。お気持ちは嬉しいです」
言って二人は戦場をかける。恭司は覚者のサポートに。燐花はヨルナキとの攻防に
「うーん、あっちはらぶらぶだねー。息あってるねー」
「だな。私とカグヤ並に仲がいい」
「千雪くん。余計な事を考えている余裕があるのかな?」
そんな二人を見ながら『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)は羨ましそうにぼやいて隣を見る。そこには守護使役を撫でている『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)がいた。千雪の遠回しな気持ちには気付いている様子はない。逆に『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575) に釘を刺されて、委縮する羽目になった。
「しかし『FiVE』だけに的を絞っている当たり、守る目標が明確でよかったかもしれないな」
彩吹はヨルナキの攻撃を見ながらそんなことを呟いた。あれだけの巨体なのに、FiVEとは無関係な五麟市の市街には何のダメージも与えていない。そういう意味では先の『黄泉路行列車』とは違っていた。だからと言って善い存在と言うわけではないが。
「蒼羽さーん、多少の無茶は許してー。僕も彩吹さん庇ったり守りたいなー」
ヨルナキの前に立とうとする彩吹を見て、千雪が蒼羽にそう告げる。千雪は基本的に相手を弱める術を使うのに長けるが、前で戦う彩吹が傷つくのを見ていることになる。それは男としては色々悩ましい所があった。この体で彩吹を守りたい。そんな気持ちだ。
「千雪くん、言いたいことはわかってくれるよね?」
蒼羽が千雪の肩を叩く。そのまま力強く千雪に触れた手に力を込めた。気持ちは充分に理解できるが、人には役割がある。その役割を十全に果たすには、十全に果たせる場所にいなければならない。あとその他諸々の気持ちを込めてにっこりとほほ笑んだ。
「……はぁい」
「? どうした?」
「なんでもないよ。さて、行こうか」
蒼羽の掛け声と同時に彩吹が駆け、千雪が術式を展開する。練りに練った木の源素を解き放つ千雪。独特のアレンジが為された蔦がヨルナキの動きを僅かに止める。だがその僅かの隙を縫うように彩吹がヨルナキに迫る。翼を広げ、舞うように打撃を加えていく彩吹。それをサポートするように蒼羽が動いていた。盾となり、機を引いて相手を惑わしたり。攻撃手ではなくサポーターとして仲間を守っていた。
「正面から喧嘩を売られたんだ。言い値で買わせてもらうよ」
「私も兄さんもちょっとやそっとじゃ倒れたりしないよ、千雪。だから無理はしないで」
「や、彩吹さん、そこで男らしく微笑まないで? 惚れ直しちゃうから」
言いながらヨルナキを攻める三人。ふざけ合っているように見える場面もあるが、そこに隙は無い。
五麟市の攻防はまだ始まったばかりだ。
●幕間Ⅰ
「ヨルナキへの攻撃、続いています!」
「ヨルナキの再生能力を突破できるか否か。それが勝負か……!」
「それ以前にヨルナキの攻撃でこちらがもつかどうかです!」
「逃げ遅れた人のリストを早く! 防衛班の覚者に伝達しろ!」
●防衛Ⅰ
「皆は大丈夫かしら……」
遠くヨルナキの姿を確認しながら『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は宙を舞っていた。ここまでくればよほど運が悪くない限り攻撃が直撃する事はない。しかし余波で建物が崩れ、人が巻き込まれる危険性は十分にあった。
「機材関係は認識札をつけて奥に。それと逃げ遅れた方はいませんか?」
FiVEの作業員にテキパキと指示を出す澄香。同時に避難が遅れた者を誘導していた。澄香が護るのは皆が帰る場所。たとえヨルナキに勝てたとしても、変える場所がなければ意味はない。勝つために戦うのではなく、お帰りを言うために戦うのだ。
(ヨルナキは破綻した覚者の守護使役。主と別れ、孤独となった守護使役の集合体)
守護使役の『じゅじゅ』を撫でながら澄香はそんなことを思う。自分の守護使役にはそんな思いをさせたくはない。そして同時に、そうなった守護使役達に同情を感じていた。
「『彼ら』にはもう、お帰りを言ってもらえる人はいないんですね」
「はい。そもそも守護使役がそんな気持ちを持つこと自体、想像できなかったことです」
同じく空を飛ぶ『黒い靄を一部解析せし者』梶浦 恵(CL2000944)が澄香の言葉に頷く。四半世紀前に突如湧いて出た源素と妖と守護使役。まだまだ分からない事ばかりだ。それも無理はない。まだ二〇数年しか研究されていない事例なのだ。分からない事が多くて当然である。
「衝撃波で、衝撃を……逸らす!」
恵はヨルナキの攻撃タイミングを計り、翼をはためかせる。生まれる風の圧力がヨルナキの放つ衝撃を逸らして、施設を守っていた。
「守護使役の集合体が、私達の守護使役をも操る事が出来るとは思いませんでした。
いいえ、これは操っているのではありません。怯えさせているだけ。いうなれば守護使役に干渉している状態」
研究者のサガか、恵は震える守護使役を前に思考を展開していた。
(第三次妖討伐抗争では守護使役が覚者を襲った。それは逆に言えば『人を襲う』程に守護使役が意志と力を持ったという事。
……という事は、つまり――)
「どうした!? どこか具合でも悪いのか!?」
動きを止めた恵みを心配するように『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)が声をかける。なんでもない、と言う返事を聞いて一悟は頷いて走りだす。神秘の加護を足にかけ、速度を増して一直線に走っていく。
「学校は任せた! オレは五麟研究所を守る!」
遠く学校を守る仲間に親指を立てて一悟は自らの体を強化する。そのまま純粋な源素を拳に集め、飛んでくる瓦礫を弾き飛ばす。走り、殴り、そしてまた走る。息が切れる事もあるが、それでも自分に活を入れてまた走り出す。
「負けてたまるか! ここがオレ達の場所なんだ!」
一悟の心は折れない。否、折れないように必死に立ち上がる。大切な場所、大事な物。そういった何かを守るために。勝つために戦うのではない。大事な何かを守るために立ち上がる。
「こっちなの! 慌てないで移動してほしいの!」
野武 七雅(CL2001141)は五麟市を跳び回り、逃げる人を誘導していた。ヨルナキはFiVEに無関係な人間は襲わないが、僅かでもFiVEと関係している人は対象となる。『FiVEに協力する一般人』もその対象だ。そういった人達に声をかけていた。
「大丈夫、大丈夫なの! 強い仲間がこの町も人も守ってくれるの。少しの間こわいかもしれないけれどみんなも信じて応援してほしいの!」
怖くないのか、と言われれば怖い。それが七雅の素直な感想だ。あれだけ巨大な狼を、恐れるなと言うのが無理な話だ。それでも怯えて震えたりはしない。共に戦った仲間がそこに居るのだ。だったらどうにかなる。どうにかしてくれる。だから七雅もどうにかするために動くのだ。
「なつねはこの町、ここに住む人たちの為にがんばるの!」
声を張り上げる七雅。その声に込められた思いが、周りの人を動かしていく。
「被害は最小限に。出来る事は全力で行ないます」
「正直言うと俺、大妖と戦ってみたかったけどな……」
『シューター』叶・笹(CL2001643)と『拳で語れ!』叶・桜(CL2001644)の【双子】はヨルナキの攻撃でダメージを受ける施設を見ながらそう呟く。自分に出来る事。それを自分に出来るだけ行う。それが人事を尽くすという事だ。
「つっても、俺も建物が壊されるより人命救助って考えには賛成だしな!」
笹の小間使いと思われるのは嫌だけどな、と文句を言いながらも【双子】結成の発起人である笹の意見には同意していた。大妖と戦うという名誉よりも、街の安全を優先する。桜と言う人間はそういう人間なのだ。
「戦い終わってFiVEが壊滅的な打撃を受けていた時、それを見た人の心的外傷は大きいです」
それを未然に防ぐのも覚者の仕事、と視線で告げる笹。力ではなく、智をもって人を守る。医療器具の中身を確認して、笹は動き出す。銃士が弾丸を数えるように、笹にとって医療器具の中身が戦う武器。術式と知識。それをもって街を守る戦いに出た。
「桜、動けない人の移動を」
「おーい! 他にも逃げ遅れた人はいないか! あと動ける人も!」
テキパキと指示を出す笹。その指示に従うように桜は声をかけ、体を動かしていた。その場で治療しなくてはいけない状況を考慮し、笹は横たえることのできる場所を用意する。桜もおびえる人達に大丈夫と声をかけ、不安を取り除いていた。
「あそこの瓦礫か。頭悪いけどぶっ壊して――」
「はい。これで痛みは治まります。あとは戦いが終わった時に本格治療を――」
真逆な【双子】は、互いを補いながら街を守っていく。
●幕間Ⅱ
「ヨルナキの守護使役への圧力はまだ続いています!」
「覚者を相手取りながらそういう事もできるのか……!」
「私には見えないんですが、私の守護使役も怯えているんですね……。何もできないというのが悔しいです」
「覚者達に任せるしかない。彼らと守護使役の絆に」
●祈りⅠ
「みんな! ミラノのはなし、きいてほしいの!」
ククル ミラノ(CL2001142)を始めとした覚者達は、守護使役に語りかけることでその暴走を止めようとしていた。
「ユスちゃん、行こう!」
「ええ、アユミ」
『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)と『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197)は手を繋いで自分の守護使役に向き直る。ヨルナキの力の前に震え、時が来れば覚者を『龍』となって滅ぼすと言われた存在。
しかし二人はそれを知ってもなお、守護使役から目をそらさずにいた。
「あゆみは、みみちゃんを信じてる。だってあゆみのたいじな親友だもん!」
歩は自分の守護使役に語りかけていた。どんな時もそばにいてくれた友達。そしてそれを通じて覚者全員の守護使役に語りかける。共に歩んだ絆はけして消えはしない。ヨルナキがどれだけ押さえつけようとも、培った絆は嘘にはならないのだ。
「オンニ、貴女と出会えて、ユスはとてもシアワセなんですのよ」
そしてユスティーナも同様に守護使役に向き合っていた。遠い異国から来た少女の最初に得た絆。他の人と知り合ってその輪は大きくなったけど、最初に得た絆はやはり深い者がある。王族として、一人の人間として。得た縁は失いたくない。
「みんなの力を合わせてヨルナキに『いっしむくいる』とか。楽しそうだと思わない?」
「まあ、アユミ。それは面白い考えですわ」
どんな時でも自分を崩さない。そんな歩とユスティーナ。それは状況を理解していないわけではない。どんな状況でも変わらない隣人がそこに居るからだ。そしてそれは自分越し益も同じ。たとえ信じた者に襲われるかもしれないとしても、最後の最後まで信じてる。
「烏丸、私の声……聞こえてる?」
『森の魔女』立石・魚子(CL2001646)もまた、自分の守護使役に語りかけていた。通常、守護使役は何も語らない。ただ言葉なく寄り添うだけだ。だが、言葉をかける事に意味がないとは思わない。たとえ震えて暴走しようとしていても。否、だからこそ意味がある。
「私はFiVEの中では最近覚者になった方だから、まだ貴方と直接干渉出来た時間は浅いけれど……。貴方の事を視認出来る様になった時の私の感情が、どんな物だったか……知ってる?」
守護使役に触れながら魚子は言葉を続ける。突如力に目覚め、そして突如隣に現れた守護使役。それにどのような感情を抱くかは人それぞれだろう。だが魚子は嬉しかった。この出会いに感謝し、そして微笑んだ。
「そう。烏丸と同じ感情。その感情を思い出して。
他の守護使役も、自分の『大好きな人』のことを思い出してみて!」
そうすれば、震える気持なんか吹き飛ぶから。ヨルナキなんか怖くなくなるから。魚子はそう叫ぶ。この気持ちが、この笑顔が、守護使役達に伝わると信じて。
「ヨルナキ……いや、今はこちらが大事だ」
守護使役を怯えさせるヨルナキに怒りを感じる『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)。ヨルナキもまた守護使役の成れの果てなのだが、だからと言って他の守護使役に主を襲わせようとするなど許しておけない。だが――
「それは他の者に任せよう。今は……小梅」
言ってゲイルは小梅を抱きしめる。時が来れば襲われるかもしれないという事実を知りながら、だからと言って自分の守護使役を手放すつもりはない。例え牙をむかれても、最後まで離れるつもりはなかった。
「俺と小梅の、俺達と守護使役の絆は負けない。俺達と守護使役の絆を試すような事をしてきた事を後悔させてやろう」
これまで歩んできた守護使役との絆。それを思い出しながらゲイルは小梅を撫でる。小さく震える守護使役の身体。それを感じていた。
「レンゲさん……」
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は守護使役と過ごした日々を思い出していた。その容貌から隔絶されて孤独を過ごしていたミュエルの傍にいてくれた存在。守護使役がいなければ、ミュエルは孤独で壊れていただろう。
「レンゲさん、ひとりぼっちだったアタシの、心の拠り所になってくれて、ありがとうね……」
孤独を支えてくれた守護使役に、涙を流しながら言葉を告げるミュエル。これまで一緒だった当たり前の日常。それが壊されることが怖かった。もしレンゲさんを失えば。それを想像するだけ涙が止まらなくなる。
「ヨルナキになった、使役さんたちも、きっと悲しい経緯があったんだろうけど……でも、こんなのは酷いよ……。
これからもずっと、レンゲさんと、友達でいたいよぉ……」
ミュエルの頬から流れる涙が、抱きしめている守護使役に落ちた。
「『一の何か』はとことんこっちの力を利用してくるんだな」
藤森・璃空(CL2001680)は相手のやり方に怒りを感じながら、その勘違いに気付く。『一の何か』が覚者の因子発現をある程度コントロールできるというのなら、覚者に関する力を利用できてもおかしくはないのだ。
「まあいいさ。今は瑠璃だ。大丈夫か?」
言って璃空は自分の守護使役を優しく抱きしめる。胸の中に納まる瑠璃。その存在を改めて感じる。守護使役に気付いたのはつい最近だが、守護使役は生まれた時からずっとそばにいてくれたのだ。それを思うと愛しさがあふれ出してくる。
「俺、前はよく寝込んだりしてたから、心配もかけたかもしれねー、すまねーな」
自分が守護使役を心配するように、自分も守護使役に心配されていたかもしれない。当たり前のことを思い知る。
(ヨルナキになってる守護使役たちも、同じように破綻した奴らのこと心配してたんだよなー、たぶん)
璃空は遠くに居るヨルナキの方を見る。瑠璃を怯えさせることは許せないが、同時に破綻した主をもった守護使役に憐れみを感じていた。彼らの心配は、主に届かなかったのだ。
自分の守護使役をああはさせまい。その想いが璃空の心に去来していた。
●幕間Ⅲ
「ヨルナキ、いまだ健在です。ダメージを受けている様子はありますが……」
「決定打にはなっていない、か。あの巨体だ。体力もかなりのモノなんだろうな」
「先に覚者達の気力が尽きる可能性もあります。やはり施設と機材は捨てて全力で挑んだ方がよかったのでは……」
「それをすれば、覚者達の帰る場所がなくなる。それで心を折られてしまえば、もう大妖には挑めないだろう」
「そうだ。今必死になって守ってくれる覚者達の恩に報いる為にも、こちらはできる事をやろう。怪我人の確認と、ベットの用意だ!」
●防衛Ⅱ
「ツム姫ー、わんこ今どこ?」
「悪ワンコー? んー、あっちの方ぽいかなぁ」
五麟研究所を守る『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)と『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)の【四葩】。悪ワンコことヨルナキの方角を確認しながら、戦えない研究員や職員たちを誘導していた。
「はーい、民のみんなはこっち来てね! ケモナーの民は自重してね」
ヨルナキの方を注視しながらプリンスが手を振って避難誘導する。時折飛んでくる攻撃の余波を土の壁を作って防ぎ、プリンス自身も自らを機械化して攻撃を塞いでいた。守るべきものを堅牢な場所に固め、防衛拠点とする。古来より伝わる城の運用法だ。
「殿ー。ワンコが移動したよー」
守護使役の視界から得た情報をプリンスに伝える紡。ヨルナキに挑む親友や相棒が安心して戦えるように、後ろの守りは充分に支える。その為にやれることは全部やるのだ。飄々と笑って不安を隠し、皆を守るために紡自身も宙を跳び回る。
「あ、南の方から第三波来るよー。殿頑張ってー」
「わんこのはしゃぎは予測できないなぁ。あとツム姫痛い」
バシバシと背中を叩いてヨルナキの攻撃を知らせる紡。それを受けて走って移動するプリンス。半ばふざけたように見えるが的確な情報を伝える紡と、文句を言いながらも仲間の為に動くプリンス。
「殿、ドカンと一発きめちゃってー。ご褒美は駄菓子詰め合わせだよ」
「余、アイスがいい」
それは【四葩】の変わらない日常だ。それを守るために二人は戦う。
「前の、大妖一夜の時にはヨルナキに抜けられてしまいましたけれど……今度は守ってみせますから」
「援護するけど、無理はしないでね」
ヨルナキを見ながら気合を入れる上月・里桜(CL2001274)に高比良・優(CL2001664)は声をかける。AAAを守る戦いではヨルナキを止める事が出来なかった。だが今度は止めてみせる。あの時とは違うのだ、という事を示すのだ。里桜は頷き、走り出す。
「守らなくてはいけない場所は大きく五ヶ所。その内、人が集まる場所を重点的に守ります」
事前に調べた避難場所の情報を思い出しながら里桜は五麟市を走る。前世から力を引き出し、土の加護を身に纏う。飛んでくるヨルナキの攻撃の余波を術式を放って逸らす。受け流しきれない衝撃が里桜を襲うが、土の加護のおかげで損傷は少ない。
「攻撃はボクも逸らすから。里桜は逃げ遅れた人を探すのを優先して」
神具を手にして優が口を開く。瞳に神秘を宿して遠距離の視界を得て、後方から全体を見るような場所に布陣する。震える守護使役を軽くなでた後に、意識を戦場に集中する。五麟市を、そして明日の平和を守るために。
「守護使役の集合体なら、あの姿は納得だけど……『狩り』に対する執着はボクらの守護使役にはないモノだ。別の何かが混じっているのか、それとも……?」
「詮索は後にしましょう。今は五麟市を――」
ヨルナキの在り方に疑問を抱く優。街を守るために走る里桜。大妖を判断する材料は少ない。仮に理解したとして、和解の道はもう存在しない。詮索が無意味とは言わないが、それでも今は優先すべきことがあった。
「八重さんとなら、きっとやれるはず。今日もよしなに、八重さんっ!」
「あらあら、那由多さんと一緒なら何処へでもですよ?」
『泪月』椿 那由多(CL2001442)の言葉に笑顔で答える『深緑』十夜 八重(CL2000122)。迫る大妖、五麟市の危機。FiVEの存亡をかけ戦い。そんな不安もその笑顔で吹き飛んだ。一人だと折れていた恐怖を前に、二人で立ち挑む。
「こっちは守ります。だから、皆……無事に帰って来て!」
五麟市を走る那由多。熱を感知する視力で周囲を見て、倒れている人を見つけて癒しの術式をかけていく。やれる事、出来る事は何でもやる。この五麟市を、FiVEを、仲間を守るために。
「逃げ遅れた人は……あそこですね」
走る那由多と並走するように宙を舞う八重。熱感知では見えない部分をフォローするように宙を舞い、高い場所から五麟市の状況を把握していた。一人で見えない事でも二人で見れば見つけられる。一人で助けられなくても、二人なら助けられる。そう信じていた。
「那由多さん、こっちの道は塞がってますよ」
「ありがとう、八重さん!」
上からの視界で状況を把握する八重。その情報を受けて頷く那由多。互いが何をしたいかを理解して、それを助ける為に互いが動く。僅かなミスが致命的になる状況に置いて、信頼できる友人の存在は大きい。
「誰も死なせない……!」
「気負いすぎずに、二人ならできることも多いですからね?」
気を張る那由多を制するように声をかける八重。友人の言葉を受けて、那由多ははっとしたように肩の力を抜いた。気持ちは大事だが、だからこそ気負い過ぎて倒れるわけにはいかないのだ。
「ヨルナキ……」
篁・三十三(CL2001480)は大妖の一角を見てその名を呟く。第三次妖討伐抗争において、AAAに壊滅的な打撃を与えた存在。元AAAの三十三にとって、その大妖は複雑な思いがあった。
(違う。それは昔の話だ。……そう、AAAだったことも、昔の話)
三十三の人生は、思えば遠回りばかりだ。
助けた者に深く傷つけられてAAAを去り、そしてFiVEに入って再び人を助け始める。折れた心が癒えたわけではない。FiVEの事件でも心が折れそうな事例がないわけでもない。……そもそもの話として、『人を助ける』事例そのものが人の暗部をさらけ出すことが多いのだ。『人の苦難』の大半が、人の欲望による犠牲なのだから。
(それでも僕は人を助けたい)
それは篁・三十三の原点だ。
救った人間に恐れられ、心折れたままに再び人を救う。そんな矛盾の中、それでも前に進むための原動力だ。遠回りかもしれない。また心折れるかもしれない。今度は二度と立てないかもしれない。それでも、その原点だけは譲れなかった。
「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤!」
八卦。天地自然を示す八の図像。即ち世界そのもの。その言葉一つ一つに魂を乗せ、五麟市全土を包むように展開する。かつて『結界王』と呼ばれる隔者が用いた戦闘術式。それを自らを中心に街そのものに広げる。
「人は弱い。だからこそ、強くなれる。
ヨルナキ。お前から見れば人間はちっぽけな存在だろうが、だからこそ守る価値がある!」
答えは得た。いいや、答えは始めから心にある。三十三はずっと人を救うために、戦っていた。
この結界はその到達点。傷つきながらも人を守り続ける一人の男の結果。
大妖の攻撃すら阻む結界が、五麟市全ての人を守る――!
●幕間Ⅳ
「衝撃が止んだ……?」
「強力な結界が張られた模様です! これでこちらは大丈夫かと!」
「そうだな。後はヨルナキと、守護使役か」
「ヨルナキは未だに衰えません。……倒し切るのに、一手足りない模様です……」
「守護使役の方も、覚者達が必死に話しかけていますが未だに……」
「大妖……。本当に倒せるのか……?」
●祈りⅡ
「明日香、私達小さなころからずっとお友達でしょう? 楽しい時もつらい時もずっとそばにいたわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は自分の守護使役『明日香』に話しかける。物心ついたころから傍にいた存在。ずっと一緒に笑い、泣き、共に歩んできた仲。だからこそ、大和にも『明日香』の気持ちがわかる。
「今のあなたは本当のあなたじゃないことはわかっているわ。苦しいでしょう? つらいでしょう?」
震える守護使役の瞳を見て、大和は頷く。大事な友達。言葉こそ話せないが、そのしぐさと動向が全てを教えてくれる。そんな友人を見捨てたりはしない。例え『龍』になって襲い掛かってきたとしても、絶対に逃げたりはしない。
「いつも傍にいてくれてありがとう。今はどんなあなたでもわたしが傍にいるわ」
ありがとう。その一言に全ての思いを込めて、大和は守護使役に手を伸ばした。
「ガルム、怖いですか?」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は震える『ガルム』にそう語りかける。守護使役が暴走して覚者に襲い掛かる。それは確かに恐ろしい事だろう。だが本当に怖い思いをしているのはこの子達なのだ。いのりはそれを理解していた。
「貴方達が今までいのり達を助けてくれたように、今度はいのり達が貴方達を助けたい」
言っていのりは微笑む。それは心からの本心だ。今まで共に歩んだ守護使役。それを危険だという理由で切り捨てることなどできようものか。助けられた分助け返す。それは人として当然の事だ。そしてそれを行う事を恥じないのが秋津洲 いのりと言う人間なのだ。
「貴方達が今までいのり達の傍にいてくれたように、何があってもいのり達は貴方達の傍にいてあげたいと。皆そう願っていますわ」
優しくなでるいのりの手。その手と言葉が、守護使役達を強く癒していく。
「沢山不安だろうけど、西園寺達が皆をヨルナキの思う様には絶対にさせません」
『行ってらっしゃい』西園寺 海(CL2001607)は優しく守護使役達に話しかける。自分の『福』のように守護使役はずっと誰かの傍にいる。それが見える見えないなど関係ない。どう扱われようとも、人にずっと寄り添ってくれた存在だ。それを人を襲う『龍』にはさせない。
「皆はいつだって、どんな時だって、西園寺達を信じて助けてくれました。今度は西園寺達が皆を信じて助けます」
信じる。それはただの言葉だ。それ自体には何の神秘もなく、そして何の効力もない。だがそれはただの言葉で、今まで培ってきた絆があるからこそ意味を成してくる。海が信じると言ったのなら、例え希望が無くとも『福』にとってそれは真実なのだ。言葉は、発する者の行動と態度により意味が変わっていくのだから。
「だから今度は、西園寺達を頼って欲しい。沢山、沢山、甘えて欲しい」
「怖い気持ち……不安な気持ち……消えてしまいそうな気持ち……皆……僕のよく知っている気持ち……」
『いつか羽ばたく日』月影 朧(CL2001599)は守護使役の不安を感じながら、それを理解していた。人が怖い。妖が怖い。古妖が怖い。何もかもが怖くて、近寄りたくなくて。それと同じ感情を抱いているのだというのなら――
「孤独な気持ち……寂しい気持ち……色んな気持ちから君達が『僕達』を救ってくれたんだ」
孤独を知っている。寂しさを知っている。それは心あるなら耐えられない事だ。そこに差し込んだ光を朧は忘れない。その温かさを朧は覚えている。『あたたかいひかり』を朧は知っている。
色々な気持ちが守護使役を包んでいることを知った。ある覚者は元気づけ、ある覚者は友として信じ、ある覚者は共に泣き、ある覚者は優しく抱き寄せ――その全てを朧は感じていた。人と守護使役の在り方に。
(ヨルナキ……。破綻した覚者の……守護使役。その気持ちも……わかる。お前も、同じだったんだ……人に捨てられた……その想いを……守護使役に、伝えている……)
人が守護使役の別れを泣くように、守護使役も人の別れに泣くのだ。その慟哭が狂わせるというのなら、その優しさを僕は伝えよう。この暖かくて優しい贈り物を、みんなに伝えて返そう。
「命を、心を、助けてくれた君達だから……。僕も、勇気を出すよ……!」
朧の言葉と共に、光があふれ出す。五麟市を包み込む温かい光は、はじけるように膨らみ消えた。
その光がもたらした恩恵に、覚者達は驚くことになる。
●幕間Ⅴ
『――ありがとう』
『――ずっとずっと、一緒にいたね』
『――ぼくも一緒に戦いたかった』
『――傷つくあなたを見て、何もできないのが怖かった。失うかもしれないと怯えていた』
『――勇気を、ありがとう。ぼくらも、一緒に、たたかうよ』
声は静かに。だけど確かに。
物言わぬ守護使役の『声』だと理解できた。
そして同時に力があふれ出す。覚者の神具に繋がれる守護使役の力。共に歩んできた足跡の数だけ、覚者の力が増していく。
驚きと共に覚者達は喜ぶ。守護使役と共に戦える喜びを。
喜びと共に覚者達は猛る。この力をもって、ヨルナキを断つと。
「別離を知りながら、共に歩む道を選んだか。
慟哭を知りながら、共に戦うと吼え猛るか。
ならば某との道は別たれた。主と共に消滅せよ。せめてもの慈悲、痛みなく屠ってやろう」
ヨルナキがどのような圧力で守護使役を震えさせていたのか。それは解らない。ただいえる事は、覚者と守護使役の絆は大妖のそれに勝ったという事だ。勝利への一手が、埋まる。
覚者と守護使役の戦いは、佳境へと向かっていた。
●ヨルナキⅡ
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
『煌炎の書』を手に、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は炎を放つ。今まで以上に炎は熱く、そして大きく展開される。『ペスカ』が力を与えてくれる。そんな気がしていた。
「ペスカ! 帰ったらいつものお店で限定ケーキを二つずつ食べますよ。大奮発です!」
ラーラの言葉に頷く『ペスカ』。その返事を確認し、ラーラは更に呪文を展開する。前世から伝わる魔女学。ラーラが培った現代の経験。その二つが絡み合い、魔導書に集う。燎原の火の如く、炎がヨルナキの身体を蹂躙していく。
「これが私と『ペスカ』の力です!」
「見事。なれど某を焼き払うには至らず」
「だったらこれで!」
炎を払ったヨルナキに迫る『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。ビルの間を跳ぶようにして近づき、通り抜け様に斬りかかってヨルナキの肌を割く。『ライライさん』の力が込められた斬撃が白の毛皮に傷をつける。
「君は、君達は……主の魂の元へ行くといい!」
振り返りざまに奏空は跳躍し、ヨルナキに言い放つ。破綻した主の守護使役。その集まりであるヨルナキに、奏空は同情していた。『一の何か』から解放し、主の元に向かわせてあげたい。その想いを込めて、身体能力を大きく増して刃を振るう。
「ヨルナキ、後始末は任せて。必ず、すべてを終わらせてみせる! 『超』! 『白夜』!
踊れ踊れ……俺の風!」
「――これは……っ! 人がここまでの力を持つとは」
「信じていました。太郎丸」
自分の守護使役に声をかけ、『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)はヨルナキを見る。土の源素を強く練り上げ、地に手を付けて力を開放する。振動する大地が高速移動するヨルナキの動きを崩す。
「ヨルナキ、貴方は何故『一の何か』に従うのですか?」
「知れたこと。守護使役が汝らと共にあるのと同じこと」
たまきの問いに事も無げにヨルナキは答える。人と守護使役が共にあるように、ヨルナキは『一の何か』の傍にいる。
「『一の何か』のやっていることを、良しとするのですか?」
「汝ら人間とて人の法に照らし合わせての悪人はおろう。それでも守護使役は共にいる」
にべもなくヨルナキは答える。それがあるべき姿だと。
「――そうですね。私も貴方も、『覚悟』はできているようです」
これ以上の問答に意味はない。たまきはそれを感じて源素を再び練り上げる。
「行くぜ、ヨルナキ!」
動きを止めたヨルナキの背中に向かって、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)がビルから飛び降りた。神域に至るまで練り上げた天の源素を身にまとって身体能力を増し、大妖の背中を一気に駆け上がる。
「空丸! 一緒に戦おーぜ!」
守護使役に語りかける翔。言葉と同時に拳に力を溜めて、解き放つ。衝撃の反動で倒れそうになる翔を空丸がその後ろから支えていた。その温もりを察し、さらに力を込めて衝撃波を放つ翔。
「ヨルナキ、お前の覚者は破綻したのか? 破綻させたのは『一の何か』か?」
「否。 しかし『一の何か』を倒すために限界を超えようとした者がいたのは事実だ。
その覚悟、その想いは主の決意。それを他人の責務にはしない」
「……そーかよ。どこまで形が変わろうが、お前は守護使役なんだな!」
「マリン……」
桂木・日那乃(CL2000941)はもう震えることのない守護使役に手を伸ばし、優しく振れる。その後で戦場に意識を向けた。解き放たれる水の癒しが、ヨルナキの牙で傷ついた者を癒していく。崩れそうになる戦場を支える癒しの砦として日那乃はそこに居た。
「ヨルナキ。あなたのもとに行った守護使役たちは、しあわせ?」
「破綻して主を失った者達だ。傷は深い。それを癒すために心を眠らせている。
その状態を幸福と呼ぶか否か。それは人の価値観だ」
無表情で問いかける日那乃に、静かに言葉を返すヨルナキ。傷を受けたまま生きることが幸せか否か。忘れて眠るのが幸せか。判断はできない。してはいけない。それは当人が決める事なのだ。
(ヨルナキを倒したら、集まった、守護使役たちは……)
日那乃はヨルナキを見ながら、もうどうすることのできないことを思っていた。ヨルナキが死ねば、集められた守護使役がどうなるのか。おそらくは、消えてなくなるのだろう。……もう、どうすることもできないけれど。
「ナマズ、一緒に殴りにいこうか!」
守護使役の『ナマズ』に声をかける『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。相手が守護使役の集合体だろうが、どんな事情を持っているかなんて関係ない。殴りに来たのなら殴り返す。それが遥とナマズのルールだ。
「いっくぜー! 気合入れてぶっ飛ばしてやる! お前も気合を入れろよ!」
守護使役に語りながら、共にビルの間を跳ぶようにして遥はヨルナキに迫る。大妖の大きさにひるむことなく迫り、カウンター気味に拳を振るう。相手の攻撃の威力が高いからこそ、カウンターは深く鋭く突き刺さる。
「どうだ! これがオレと『ナマズ』の拳だ! 簡単に狩れるなんて思うなよ!
オレに拳を向ける奴は、誰であろうと拳を返す!」
「決着つけようで」
静かに『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はヨルナキの前に立つ。大きさ100mの巨体を前に、2mにも満たない凛は塵芥も同然だ。見上げるような大きさであっても、凛は臆することなく刃を構えた。
「焔陰流二十一代目――」
刀を構える。正眼の構え。古流剣術の基礎の基礎。
「――焔陰凛、推して参る!」
呼気。そして叫び。その叫びと同時に凛の持つ『朱焔』に炎が宿る。神代の時代、母親を焼いたとされるヒノカグツチの炎。刀に集中する紅光が高熱を放つ。油断すれば暴走しそうになる炎に、凛は冷や汗を流す。この状態でヨルナキに当てるのは難しい――
(――にゃんた?)
それは夢か幻か。あるいはあの光が魅せた奇跡か。守護使役のにゃんたがヨルナキの方に進んでいく。正確には現在のヨルナキとすこしずれた場所に。だけど凛は理解できた。
(こっち来い、言うんやな! 分かったで!)
何の疑いもなく、凛はにゃんたの進んだ道をなぞるように進んでいく。滑るような剣術家の動き。まっすぐ伸びた姿勢。そして何の不安もない精神。そして、
「な、に」
導かれるようにヨルナキは凛の前に移動していた。驚きの声は、長くは続かない。炎の剣閃が横一文字に放たれる。
「あたしとにゃんたの葬送の炎や。とくと味わい!」
納刀の音。それと同時に炎上する白狼。
「――見事。某の負けだ」
悲鳴はない。断末魔の声もない。その言葉だけを残して、『新月の咆哮』は消滅した。
●戦い終わり――
『ヨルナキ、消滅を確認しました!』
戦いが終わって脱力する覚者達に、FiVEからの放送が聞こえてくる。
施設や人の損傷は、奇跡的と言っていいレベルで少なかったようだ。身を挺して守ってくれたものが多かったおかげだろう。
そして守護使役は――
「喋らなくなったな」
「でも、何かのきっかけでまた喋り出すかもしれないね」
ヨルナキの戦いの最中見せた守護使役との強いつながり。それにより増した力。それは現実のことだ。あの感覚を思い出せば、また戦えるかもしれない。
ともあれ、今は傷を癒そう。けして楽な戦いではなかったのだから――
「ワワンの事は信じてるんだからぁ!」
守護使役を疑うことなく信じながら『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)はヨルナキの前に立つ。守護使役が襲い掛かってくるかもしれないという恐怖は奈南の瞳にはない。今まで共に戦って来た相棒だから、背中を任せるに値する。
「ヨルナキちゃん、かくごー! とりゃー!」
神具を握りしめ、奈南はヨルナキに迫る。源素の力を先端に集め、インパクトの瞬間に源素を一気に解放して爆発させる。タイミング、武器を振るう力、何よりも敵を恐れぬ無邪気さ。その全てがあってこその一撃だ。
「鋭き一撃。幼子と油断するつもりはないが、さりとてその威力は見事」
「ワワンも頑張ってるのにナナンが負けてなんていられないのだ!」
ヨルナキの称賛に勇んで言葉を返す奈南。
「然り。汝の守護使役も頑張っている。しかしそれと汝らの勝利につながるかは――未知数」
「未知数なら、こちらが勝てる要素もあるという事だ」
ヨルナキの言葉に『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が口を開く。大妖。この四半世紀近く、この日本を恐怖で縛りつけてきた存在。数年前なら手の届かなかった存在だが、今は勝てる可能性がある。そう信じられるだけの努力をしてきた。
「守護使役のことは任せたよ。皆……」
戦闘区域外で祈りを捧げる仲間達の方に意識を向けながら、仲間の位置を捕捉する秋人。適度にヨルナキから距離を取りつつ、同時にヨルナキと戦い傷つく者から距離を放し過ぎないように動く。放たれた癒しの水が、静かに傷を癒しいていく。
「ヨルナキ。倒させてもらうよ」
「言葉を返そう。汝らを滅ぼす。これは狩りだ」
「何方の狩りが上手なのか、狩り比べとゆきましょう」
『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)はにこりと微笑み、夜の五麟市を走る。見上げるような大きさのヨルナキ相手に臆することはない。つばめを始めとした覚者達の胸にあるのは戦いの覚悟。今更後れを取るようなものはここにはいない。
「夢路なら、後ろから牙を突き立てられても可愛いものですわ。ですが――」
迫るヨルナキの足を独楽のように回転して回避するつばめ。鋭い風圧が体を襲うが、それすら心地良いとばかりに表情を緩める。そのまま舞うように抜刀し、戦場を一気に駆け巡る。止まることのないつばめの剣舞が、鍔鳴りと共に披露される。
「剛柔自在。これが人の技です。大妖の体躯で追いつけますかしら?」
「人が培った技と言う歴史。どちらが狩人として優秀か、勝負と行こう」
自分の身長ほどの大きな鎌を構え、『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)はヨルナキに挑む。鎌の名前は『白狼』。奇しくもヨルナキの姿と同じ名前だ。ならばどちらがその名にふさわしいか。比べてみたくなるのが狩人の魂だ。
「行くぞ、白狼!」
自らの武器に語りかけ、ツバメは一気に大妖との距離を詰める。この区域に居る仲間の居場所全てを把握し、仲間の攻撃に合わせるように鎌を振るう。時に同時に、時に連続で。ヨルナキの白い毛に、紅色の傷が広がっていく。
「再生能力持ちにバッドステータス回復か。単純なタフネスも楽観できないようだ」
「汝ら人間との違いを理解したか。ならば如何に? 泣いて許しを請うのも選択肢だ」
「まさか。白狼の名にかけて、最後まで戦い抜く」
「……大妖。……妖」
大辻・想良(CL2001476)は静かにその言葉を呟く。父を殺し、自らの人生を狂わせた存在。大妖さえいなければ、妖さえいなければ。……呼吸を繰り返し、冷静さを取り戻す。許せるはずがない。だけど今は、復讐に狩られるよりもやらなくてはいけないことがある。
「天、頑張って……わたしも、がんばるから」
守護使役に声をかけて、想良は戦場に向き直る。憎き相手ではなく、共に戦う仲間を。心を落ち着かせて、天の源素を練り上げる。太陽の化身ともいえる源素の究技。光り輝く天の力が、仲間達の力を大きく増幅させる。
「憎いけど、今は――――」
「やっぱりこのサイズは大きくて目立つねぇ……」
「あれが、『新月の咆哮』時のヨルナキ。この前とは違って全体が見えないほどの大きさですね……」
バイクに二人乗りした『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)はヨルナキを見ながら感嘆の声をあげる。大きさ100mともなれば身体能力の差は努力でどうこうなる領域ではない。逆らうのが馬鹿らしくなる差だ。
「さて、七星剣の時もそうだったけど、無事に明日を迎える為にもヨルナキを倒さないと、だね」
言って恭司がバイクを走らせる。明日を迎える。その為に恭司は戦っていた。今ある『日常』を守るために。明日、大事な人に挨拶するために。それを大事と思えるようになったのは、背中に居る少女のおかげだ。それに報いる為にも、ここで負けるわけにはいかない。
「はい。いつもの事ながら……支援、頼りにしていますね」
恭司の背中にしがみつくように体を寄せて、燐花は頷く。いつも。それを言えるだけ燐花と恭司は共にいた。支えられていること。背中を押してくれること。もう当たり前だからこそ、理解できる大事な事。その支えに報いる為にも、ここで負けるわけにはいかない。
「行くよ。足さえ止まれば走り回らなくて済む」
「このサイズでも足を封じれば起動力は落ちるはずです」
バイクはヨルナキの足元に向かって進む。それを察したヨルナキはそちらに振り向き足を振るうが、それを何とか避ける恭司。ある程度の距離まで近づくと燐花は跳躍し、ビルの壁を蹴って衝撃を緩和しながらヨルナキに斬りかかる。
「燐ちゃん、無理はしないで……と言えないのが辛い所だね」
「はい。お気持ちは嬉しいです」
言って二人は戦場をかける。恭司は覚者のサポートに。燐花はヨルナキとの攻防に
「うーん、あっちはらぶらぶだねー。息あってるねー」
「だな。私とカグヤ並に仲がいい」
「千雪くん。余計な事を考えている余裕があるのかな?」
そんな二人を見ながら『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)は羨ましそうにぼやいて隣を見る。そこには守護使役を撫でている『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)がいた。千雪の遠回しな気持ちには気付いている様子はない。逆に『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575) に釘を刺されて、委縮する羽目になった。
「しかし『FiVE』だけに的を絞っている当たり、守る目標が明確でよかったかもしれないな」
彩吹はヨルナキの攻撃を見ながらそんなことを呟いた。あれだけの巨体なのに、FiVEとは無関係な五麟市の市街には何のダメージも与えていない。そういう意味では先の『黄泉路行列車』とは違っていた。だからと言って善い存在と言うわけではないが。
「蒼羽さーん、多少の無茶は許してー。僕も彩吹さん庇ったり守りたいなー」
ヨルナキの前に立とうとする彩吹を見て、千雪が蒼羽にそう告げる。千雪は基本的に相手を弱める術を使うのに長けるが、前で戦う彩吹が傷つくのを見ていることになる。それは男としては色々悩ましい所があった。この体で彩吹を守りたい。そんな気持ちだ。
「千雪くん、言いたいことはわかってくれるよね?」
蒼羽が千雪の肩を叩く。そのまま力強く千雪に触れた手に力を込めた。気持ちは充分に理解できるが、人には役割がある。その役割を十全に果たすには、十全に果たせる場所にいなければならない。あとその他諸々の気持ちを込めてにっこりとほほ笑んだ。
「……はぁい」
「? どうした?」
「なんでもないよ。さて、行こうか」
蒼羽の掛け声と同時に彩吹が駆け、千雪が術式を展開する。練りに練った木の源素を解き放つ千雪。独特のアレンジが為された蔦がヨルナキの動きを僅かに止める。だがその僅かの隙を縫うように彩吹がヨルナキに迫る。翼を広げ、舞うように打撃を加えていく彩吹。それをサポートするように蒼羽が動いていた。盾となり、機を引いて相手を惑わしたり。攻撃手ではなくサポーターとして仲間を守っていた。
「正面から喧嘩を売られたんだ。言い値で買わせてもらうよ」
「私も兄さんもちょっとやそっとじゃ倒れたりしないよ、千雪。だから無理はしないで」
「や、彩吹さん、そこで男らしく微笑まないで? 惚れ直しちゃうから」
言いながらヨルナキを攻める三人。ふざけ合っているように見える場面もあるが、そこに隙は無い。
五麟市の攻防はまだ始まったばかりだ。
●幕間Ⅰ
「ヨルナキへの攻撃、続いています!」
「ヨルナキの再生能力を突破できるか否か。それが勝負か……!」
「それ以前にヨルナキの攻撃でこちらがもつかどうかです!」
「逃げ遅れた人のリストを早く! 防衛班の覚者に伝達しろ!」
●防衛Ⅰ
「皆は大丈夫かしら……」
遠くヨルナキの姿を確認しながら『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は宙を舞っていた。ここまでくればよほど運が悪くない限り攻撃が直撃する事はない。しかし余波で建物が崩れ、人が巻き込まれる危険性は十分にあった。
「機材関係は認識札をつけて奥に。それと逃げ遅れた方はいませんか?」
FiVEの作業員にテキパキと指示を出す澄香。同時に避難が遅れた者を誘導していた。澄香が護るのは皆が帰る場所。たとえヨルナキに勝てたとしても、変える場所がなければ意味はない。勝つために戦うのではなく、お帰りを言うために戦うのだ。
(ヨルナキは破綻した覚者の守護使役。主と別れ、孤独となった守護使役の集合体)
守護使役の『じゅじゅ』を撫でながら澄香はそんなことを思う。自分の守護使役にはそんな思いをさせたくはない。そして同時に、そうなった守護使役達に同情を感じていた。
「『彼ら』にはもう、お帰りを言ってもらえる人はいないんですね」
「はい。そもそも守護使役がそんな気持ちを持つこと自体、想像できなかったことです」
同じく空を飛ぶ『黒い靄を一部解析せし者』梶浦 恵(CL2000944)が澄香の言葉に頷く。四半世紀前に突如湧いて出た源素と妖と守護使役。まだまだ分からない事ばかりだ。それも無理はない。まだ二〇数年しか研究されていない事例なのだ。分からない事が多くて当然である。
「衝撃波で、衝撃を……逸らす!」
恵はヨルナキの攻撃タイミングを計り、翼をはためかせる。生まれる風の圧力がヨルナキの放つ衝撃を逸らして、施設を守っていた。
「守護使役の集合体が、私達の守護使役をも操る事が出来るとは思いませんでした。
いいえ、これは操っているのではありません。怯えさせているだけ。いうなれば守護使役に干渉している状態」
研究者のサガか、恵は震える守護使役を前に思考を展開していた。
(第三次妖討伐抗争では守護使役が覚者を襲った。それは逆に言えば『人を襲う』程に守護使役が意志と力を持ったという事。
……という事は、つまり――)
「どうした!? どこか具合でも悪いのか!?」
動きを止めた恵みを心配するように『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)が声をかける。なんでもない、と言う返事を聞いて一悟は頷いて走りだす。神秘の加護を足にかけ、速度を増して一直線に走っていく。
「学校は任せた! オレは五麟研究所を守る!」
遠く学校を守る仲間に親指を立てて一悟は自らの体を強化する。そのまま純粋な源素を拳に集め、飛んでくる瓦礫を弾き飛ばす。走り、殴り、そしてまた走る。息が切れる事もあるが、それでも自分に活を入れてまた走り出す。
「負けてたまるか! ここがオレ達の場所なんだ!」
一悟の心は折れない。否、折れないように必死に立ち上がる。大切な場所、大事な物。そういった何かを守るために。勝つために戦うのではない。大事な何かを守るために立ち上がる。
「こっちなの! 慌てないで移動してほしいの!」
野武 七雅(CL2001141)は五麟市を跳び回り、逃げる人を誘導していた。ヨルナキはFiVEに無関係な人間は襲わないが、僅かでもFiVEと関係している人は対象となる。『FiVEに協力する一般人』もその対象だ。そういった人達に声をかけていた。
「大丈夫、大丈夫なの! 強い仲間がこの町も人も守ってくれるの。少しの間こわいかもしれないけれどみんなも信じて応援してほしいの!」
怖くないのか、と言われれば怖い。それが七雅の素直な感想だ。あれだけ巨大な狼を、恐れるなと言うのが無理な話だ。それでも怯えて震えたりはしない。共に戦った仲間がそこに居るのだ。だったらどうにかなる。どうにかしてくれる。だから七雅もどうにかするために動くのだ。
「なつねはこの町、ここに住む人たちの為にがんばるの!」
声を張り上げる七雅。その声に込められた思いが、周りの人を動かしていく。
「被害は最小限に。出来る事は全力で行ないます」
「正直言うと俺、大妖と戦ってみたかったけどな……」
『シューター』叶・笹(CL2001643)と『拳で語れ!』叶・桜(CL2001644)の【双子】はヨルナキの攻撃でダメージを受ける施設を見ながらそう呟く。自分に出来る事。それを自分に出来るだけ行う。それが人事を尽くすという事だ。
「つっても、俺も建物が壊されるより人命救助って考えには賛成だしな!」
笹の小間使いと思われるのは嫌だけどな、と文句を言いながらも【双子】結成の発起人である笹の意見には同意していた。大妖と戦うという名誉よりも、街の安全を優先する。桜と言う人間はそういう人間なのだ。
「戦い終わってFiVEが壊滅的な打撃を受けていた時、それを見た人の心的外傷は大きいです」
それを未然に防ぐのも覚者の仕事、と視線で告げる笹。力ではなく、智をもって人を守る。医療器具の中身を確認して、笹は動き出す。銃士が弾丸を数えるように、笹にとって医療器具の中身が戦う武器。術式と知識。それをもって街を守る戦いに出た。
「桜、動けない人の移動を」
「おーい! 他にも逃げ遅れた人はいないか! あと動ける人も!」
テキパキと指示を出す笹。その指示に従うように桜は声をかけ、体を動かしていた。その場で治療しなくてはいけない状況を考慮し、笹は横たえることのできる場所を用意する。桜もおびえる人達に大丈夫と声をかけ、不安を取り除いていた。
「あそこの瓦礫か。頭悪いけどぶっ壊して――」
「はい。これで痛みは治まります。あとは戦いが終わった時に本格治療を――」
真逆な【双子】は、互いを補いながら街を守っていく。
●幕間Ⅱ
「ヨルナキの守護使役への圧力はまだ続いています!」
「覚者を相手取りながらそういう事もできるのか……!」
「私には見えないんですが、私の守護使役も怯えているんですね……。何もできないというのが悔しいです」
「覚者達に任せるしかない。彼らと守護使役の絆に」
●祈りⅠ
「みんな! ミラノのはなし、きいてほしいの!」
ククル ミラノ(CL2001142)を始めとした覚者達は、守護使役に語りかけることでその暴走を止めようとしていた。
「ユスちゃん、行こう!」
「ええ、アユミ」
『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)と『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197)は手を繋いで自分の守護使役に向き直る。ヨルナキの力の前に震え、時が来れば覚者を『龍』となって滅ぼすと言われた存在。
しかし二人はそれを知ってもなお、守護使役から目をそらさずにいた。
「あゆみは、みみちゃんを信じてる。だってあゆみのたいじな親友だもん!」
歩は自分の守護使役に語りかけていた。どんな時もそばにいてくれた友達。そしてそれを通じて覚者全員の守護使役に語りかける。共に歩んだ絆はけして消えはしない。ヨルナキがどれだけ押さえつけようとも、培った絆は嘘にはならないのだ。
「オンニ、貴女と出会えて、ユスはとてもシアワセなんですのよ」
そしてユスティーナも同様に守護使役に向き合っていた。遠い異国から来た少女の最初に得た絆。他の人と知り合ってその輪は大きくなったけど、最初に得た絆はやはり深い者がある。王族として、一人の人間として。得た縁は失いたくない。
「みんなの力を合わせてヨルナキに『いっしむくいる』とか。楽しそうだと思わない?」
「まあ、アユミ。それは面白い考えですわ」
どんな時でも自分を崩さない。そんな歩とユスティーナ。それは状況を理解していないわけではない。どんな状況でも変わらない隣人がそこに居るからだ。そしてそれは自分越し益も同じ。たとえ信じた者に襲われるかもしれないとしても、最後の最後まで信じてる。
「烏丸、私の声……聞こえてる?」
『森の魔女』立石・魚子(CL2001646)もまた、自分の守護使役に語りかけていた。通常、守護使役は何も語らない。ただ言葉なく寄り添うだけだ。だが、言葉をかける事に意味がないとは思わない。たとえ震えて暴走しようとしていても。否、だからこそ意味がある。
「私はFiVEの中では最近覚者になった方だから、まだ貴方と直接干渉出来た時間は浅いけれど……。貴方の事を視認出来る様になった時の私の感情が、どんな物だったか……知ってる?」
守護使役に触れながら魚子は言葉を続ける。突如力に目覚め、そして突如隣に現れた守護使役。それにどのような感情を抱くかは人それぞれだろう。だが魚子は嬉しかった。この出会いに感謝し、そして微笑んだ。
「そう。烏丸と同じ感情。その感情を思い出して。
他の守護使役も、自分の『大好きな人』のことを思い出してみて!」
そうすれば、震える気持なんか吹き飛ぶから。ヨルナキなんか怖くなくなるから。魚子はそう叫ぶ。この気持ちが、この笑顔が、守護使役達に伝わると信じて。
「ヨルナキ……いや、今はこちらが大事だ」
守護使役を怯えさせるヨルナキに怒りを感じる『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)。ヨルナキもまた守護使役の成れの果てなのだが、だからと言って他の守護使役に主を襲わせようとするなど許しておけない。だが――
「それは他の者に任せよう。今は……小梅」
言ってゲイルは小梅を抱きしめる。時が来れば襲われるかもしれないという事実を知りながら、だからと言って自分の守護使役を手放すつもりはない。例え牙をむかれても、最後まで離れるつもりはなかった。
「俺と小梅の、俺達と守護使役の絆は負けない。俺達と守護使役の絆を試すような事をしてきた事を後悔させてやろう」
これまで歩んできた守護使役との絆。それを思い出しながらゲイルは小梅を撫でる。小さく震える守護使役の身体。それを感じていた。
「レンゲさん……」
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は守護使役と過ごした日々を思い出していた。その容貌から隔絶されて孤独を過ごしていたミュエルの傍にいてくれた存在。守護使役がいなければ、ミュエルは孤独で壊れていただろう。
「レンゲさん、ひとりぼっちだったアタシの、心の拠り所になってくれて、ありがとうね……」
孤独を支えてくれた守護使役に、涙を流しながら言葉を告げるミュエル。これまで一緒だった当たり前の日常。それが壊されることが怖かった。もしレンゲさんを失えば。それを想像するだけ涙が止まらなくなる。
「ヨルナキになった、使役さんたちも、きっと悲しい経緯があったんだろうけど……でも、こんなのは酷いよ……。
これからもずっと、レンゲさんと、友達でいたいよぉ……」
ミュエルの頬から流れる涙が、抱きしめている守護使役に落ちた。
「『一の何か』はとことんこっちの力を利用してくるんだな」
藤森・璃空(CL2001680)は相手のやり方に怒りを感じながら、その勘違いに気付く。『一の何か』が覚者の因子発現をある程度コントロールできるというのなら、覚者に関する力を利用できてもおかしくはないのだ。
「まあいいさ。今は瑠璃だ。大丈夫か?」
言って璃空は自分の守護使役を優しく抱きしめる。胸の中に納まる瑠璃。その存在を改めて感じる。守護使役に気付いたのはつい最近だが、守護使役は生まれた時からずっとそばにいてくれたのだ。それを思うと愛しさがあふれ出してくる。
「俺、前はよく寝込んだりしてたから、心配もかけたかもしれねー、すまねーな」
自分が守護使役を心配するように、自分も守護使役に心配されていたかもしれない。当たり前のことを思い知る。
(ヨルナキになってる守護使役たちも、同じように破綻した奴らのこと心配してたんだよなー、たぶん)
璃空は遠くに居るヨルナキの方を見る。瑠璃を怯えさせることは許せないが、同時に破綻した主をもった守護使役に憐れみを感じていた。彼らの心配は、主に届かなかったのだ。
自分の守護使役をああはさせまい。その想いが璃空の心に去来していた。
●幕間Ⅲ
「ヨルナキ、いまだ健在です。ダメージを受けている様子はありますが……」
「決定打にはなっていない、か。あの巨体だ。体力もかなりのモノなんだろうな」
「先に覚者達の気力が尽きる可能性もあります。やはり施設と機材は捨てて全力で挑んだ方がよかったのでは……」
「それをすれば、覚者達の帰る場所がなくなる。それで心を折られてしまえば、もう大妖には挑めないだろう」
「そうだ。今必死になって守ってくれる覚者達の恩に報いる為にも、こちらはできる事をやろう。怪我人の確認と、ベットの用意だ!」
●防衛Ⅱ
「ツム姫ー、わんこ今どこ?」
「悪ワンコー? んー、あっちの方ぽいかなぁ」
五麟研究所を守る『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)と『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)の【四葩】。悪ワンコことヨルナキの方角を確認しながら、戦えない研究員や職員たちを誘導していた。
「はーい、民のみんなはこっち来てね! ケモナーの民は自重してね」
ヨルナキの方を注視しながらプリンスが手を振って避難誘導する。時折飛んでくる攻撃の余波を土の壁を作って防ぎ、プリンス自身も自らを機械化して攻撃を塞いでいた。守るべきものを堅牢な場所に固め、防衛拠点とする。古来より伝わる城の運用法だ。
「殿ー。ワンコが移動したよー」
守護使役の視界から得た情報をプリンスに伝える紡。ヨルナキに挑む親友や相棒が安心して戦えるように、後ろの守りは充分に支える。その為にやれることは全部やるのだ。飄々と笑って不安を隠し、皆を守るために紡自身も宙を跳び回る。
「あ、南の方から第三波来るよー。殿頑張ってー」
「わんこのはしゃぎは予測できないなぁ。あとツム姫痛い」
バシバシと背中を叩いてヨルナキの攻撃を知らせる紡。それを受けて走って移動するプリンス。半ばふざけたように見えるが的確な情報を伝える紡と、文句を言いながらも仲間の為に動くプリンス。
「殿、ドカンと一発きめちゃってー。ご褒美は駄菓子詰め合わせだよ」
「余、アイスがいい」
それは【四葩】の変わらない日常だ。それを守るために二人は戦う。
「前の、大妖一夜の時にはヨルナキに抜けられてしまいましたけれど……今度は守ってみせますから」
「援護するけど、無理はしないでね」
ヨルナキを見ながら気合を入れる上月・里桜(CL2001274)に高比良・優(CL2001664)は声をかける。AAAを守る戦いではヨルナキを止める事が出来なかった。だが今度は止めてみせる。あの時とは違うのだ、という事を示すのだ。里桜は頷き、走り出す。
「守らなくてはいけない場所は大きく五ヶ所。その内、人が集まる場所を重点的に守ります」
事前に調べた避難場所の情報を思い出しながら里桜は五麟市を走る。前世から力を引き出し、土の加護を身に纏う。飛んでくるヨルナキの攻撃の余波を術式を放って逸らす。受け流しきれない衝撃が里桜を襲うが、土の加護のおかげで損傷は少ない。
「攻撃はボクも逸らすから。里桜は逃げ遅れた人を探すのを優先して」
神具を手にして優が口を開く。瞳に神秘を宿して遠距離の視界を得て、後方から全体を見るような場所に布陣する。震える守護使役を軽くなでた後に、意識を戦場に集中する。五麟市を、そして明日の平和を守るために。
「守護使役の集合体なら、あの姿は納得だけど……『狩り』に対する執着はボクらの守護使役にはないモノだ。別の何かが混じっているのか、それとも……?」
「詮索は後にしましょう。今は五麟市を――」
ヨルナキの在り方に疑問を抱く優。街を守るために走る里桜。大妖を判断する材料は少ない。仮に理解したとして、和解の道はもう存在しない。詮索が無意味とは言わないが、それでも今は優先すべきことがあった。
「八重さんとなら、きっとやれるはず。今日もよしなに、八重さんっ!」
「あらあら、那由多さんと一緒なら何処へでもですよ?」
『泪月』椿 那由多(CL2001442)の言葉に笑顔で答える『深緑』十夜 八重(CL2000122)。迫る大妖、五麟市の危機。FiVEの存亡をかけ戦い。そんな不安もその笑顔で吹き飛んだ。一人だと折れていた恐怖を前に、二人で立ち挑む。
「こっちは守ります。だから、皆……無事に帰って来て!」
五麟市を走る那由多。熱を感知する視力で周囲を見て、倒れている人を見つけて癒しの術式をかけていく。やれる事、出来る事は何でもやる。この五麟市を、FiVEを、仲間を守るために。
「逃げ遅れた人は……あそこですね」
走る那由多と並走するように宙を舞う八重。熱感知では見えない部分をフォローするように宙を舞い、高い場所から五麟市の状況を把握していた。一人で見えない事でも二人で見れば見つけられる。一人で助けられなくても、二人なら助けられる。そう信じていた。
「那由多さん、こっちの道は塞がってますよ」
「ありがとう、八重さん!」
上からの視界で状況を把握する八重。その情報を受けて頷く那由多。互いが何をしたいかを理解して、それを助ける為に互いが動く。僅かなミスが致命的になる状況に置いて、信頼できる友人の存在は大きい。
「誰も死なせない……!」
「気負いすぎずに、二人ならできることも多いですからね?」
気を張る那由多を制するように声をかける八重。友人の言葉を受けて、那由多ははっとしたように肩の力を抜いた。気持ちは大事だが、だからこそ気負い過ぎて倒れるわけにはいかないのだ。
「ヨルナキ……」
篁・三十三(CL2001480)は大妖の一角を見てその名を呟く。第三次妖討伐抗争において、AAAに壊滅的な打撃を与えた存在。元AAAの三十三にとって、その大妖は複雑な思いがあった。
(違う。それは昔の話だ。……そう、AAAだったことも、昔の話)
三十三の人生は、思えば遠回りばかりだ。
助けた者に深く傷つけられてAAAを去り、そしてFiVEに入って再び人を助け始める。折れた心が癒えたわけではない。FiVEの事件でも心が折れそうな事例がないわけでもない。……そもそもの話として、『人を助ける』事例そのものが人の暗部をさらけ出すことが多いのだ。『人の苦難』の大半が、人の欲望による犠牲なのだから。
(それでも僕は人を助けたい)
それは篁・三十三の原点だ。
救った人間に恐れられ、心折れたままに再び人を救う。そんな矛盾の中、それでも前に進むための原動力だ。遠回りかもしれない。また心折れるかもしれない。今度は二度と立てないかもしれない。それでも、その原点だけは譲れなかった。
「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤!」
八卦。天地自然を示す八の図像。即ち世界そのもの。その言葉一つ一つに魂を乗せ、五麟市全土を包むように展開する。かつて『結界王』と呼ばれる隔者が用いた戦闘術式。それを自らを中心に街そのものに広げる。
「人は弱い。だからこそ、強くなれる。
ヨルナキ。お前から見れば人間はちっぽけな存在だろうが、だからこそ守る価値がある!」
答えは得た。いいや、答えは始めから心にある。三十三はずっと人を救うために、戦っていた。
この結界はその到達点。傷つきながらも人を守り続ける一人の男の結果。
大妖の攻撃すら阻む結界が、五麟市全ての人を守る――!
●幕間Ⅳ
「衝撃が止んだ……?」
「強力な結界が張られた模様です! これでこちらは大丈夫かと!」
「そうだな。後はヨルナキと、守護使役か」
「ヨルナキは未だに衰えません。……倒し切るのに、一手足りない模様です……」
「守護使役の方も、覚者達が必死に話しかけていますが未だに……」
「大妖……。本当に倒せるのか……?」
●祈りⅡ
「明日香、私達小さなころからずっとお友達でしょう? 楽しい時もつらい時もずっとそばにいたわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は自分の守護使役『明日香』に話しかける。物心ついたころから傍にいた存在。ずっと一緒に笑い、泣き、共に歩んできた仲。だからこそ、大和にも『明日香』の気持ちがわかる。
「今のあなたは本当のあなたじゃないことはわかっているわ。苦しいでしょう? つらいでしょう?」
震える守護使役の瞳を見て、大和は頷く。大事な友達。言葉こそ話せないが、そのしぐさと動向が全てを教えてくれる。そんな友人を見捨てたりはしない。例え『龍』になって襲い掛かってきたとしても、絶対に逃げたりはしない。
「いつも傍にいてくれてありがとう。今はどんなあなたでもわたしが傍にいるわ」
ありがとう。その一言に全ての思いを込めて、大和は守護使役に手を伸ばした。
「ガルム、怖いですか?」
『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は震える『ガルム』にそう語りかける。守護使役が暴走して覚者に襲い掛かる。それは確かに恐ろしい事だろう。だが本当に怖い思いをしているのはこの子達なのだ。いのりはそれを理解していた。
「貴方達が今までいのり達を助けてくれたように、今度はいのり達が貴方達を助けたい」
言っていのりは微笑む。それは心からの本心だ。今まで共に歩んだ守護使役。それを危険だという理由で切り捨てることなどできようものか。助けられた分助け返す。それは人として当然の事だ。そしてそれを行う事を恥じないのが秋津洲 いのりと言う人間なのだ。
「貴方達が今までいのり達の傍にいてくれたように、何があってもいのり達は貴方達の傍にいてあげたいと。皆そう願っていますわ」
優しくなでるいのりの手。その手と言葉が、守護使役達を強く癒していく。
「沢山不安だろうけど、西園寺達が皆をヨルナキの思う様には絶対にさせません」
『行ってらっしゃい』西園寺 海(CL2001607)は優しく守護使役達に話しかける。自分の『福』のように守護使役はずっと誰かの傍にいる。それが見える見えないなど関係ない。どう扱われようとも、人にずっと寄り添ってくれた存在だ。それを人を襲う『龍』にはさせない。
「皆はいつだって、どんな時だって、西園寺達を信じて助けてくれました。今度は西園寺達が皆を信じて助けます」
信じる。それはただの言葉だ。それ自体には何の神秘もなく、そして何の効力もない。だがそれはただの言葉で、今まで培ってきた絆があるからこそ意味を成してくる。海が信じると言ったのなら、例え希望が無くとも『福』にとってそれは真実なのだ。言葉は、発する者の行動と態度により意味が変わっていくのだから。
「だから今度は、西園寺達を頼って欲しい。沢山、沢山、甘えて欲しい」
「怖い気持ち……不安な気持ち……消えてしまいそうな気持ち……皆……僕のよく知っている気持ち……」
『いつか羽ばたく日』月影 朧(CL2001599)は守護使役の不安を感じながら、それを理解していた。人が怖い。妖が怖い。古妖が怖い。何もかもが怖くて、近寄りたくなくて。それと同じ感情を抱いているのだというのなら――
「孤独な気持ち……寂しい気持ち……色んな気持ちから君達が『僕達』を救ってくれたんだ」
孤独を知っている。寂しさを知っている。それは心あるなら耐えられない事だ。そこに差し込んだ光を朧は忘れない。その温かさを朧は覚えている。『あたたかいひかり』を朧は知っている。
色々な気持ちが守護使役を包んでいることを知った。ある覚者は元気づけ、ある覚者は友として信じ、ある覚者は共に泣き、ある覚者は優しく抱き寄せ――その全てを朧は感じていた。人と守護使役の在り方に。
(ヨルナキ……。破綻した覚者の……守護使役。その気持ちも……わかる。お前も、同じだったんだ……人に捨てられた……その想いを……守護使役に、伝えている……)
人が守護使役の別れを泣くように、守護使役も人の別れに泣くのだ。その慟哭が狂わせるというのなら、その優しさを僕は伝えよう。この暖かくて優しい贈り物を、みんなに伝えて返そう。
「命を、心を、助けてくれた君達だから……。僕も、勇気を出すよ……!」
朧の言葉と共に、光があふれ出す。五麟市を包み込む温かい光は、はじけるように膨らみ消えた。
その光がもたらした恩恵に、覚者達は驚くことになる。
●幕間Ⅴ
『――ありがとう』
『――ずっとずっと、一緒にいたね』
『――ぼくも一緒に戦いたかった』
『――傷つくあなたを見て、何もできないのが怖かった。失うかもしれないと怯えていた』
『――勇気を、ありがとう。ぼくらも、一緒に、たたかうよ』
声は静かに。だけど確かに。
物言わぬ守護使役の『声』だと理解できた。
そして同時に力があふれ出す。覚者の神具に繋がれる守護使役の力。共に歩んできた足跡の数だけ、覚者の力が増していく。
驚きと共に覚者達は喜ぶ。守護使役と共に戦える喜びを。
喜びと共に覚者達は猛る。この力をもって、ヨルナキを断つと。
「別離を知りながら、共に歩む道を選んだか。
慟哭を知りながら、共に戦うと吼え猛るか。
ならば某との道は別たれた。主と共に消滅せよ。せめてもの慈悲、痛みなく屠ってやろう」
ヨルナキがどのような圧力で守護使役を震えさせていたのか。それは解らない。ただいえる事は、覚者と守護使役の絆は大妖のそれに勝ったという事だ。勝利への一手が、埋まる。
覚者と守護使役の戦いは、佳境へと向かっていた。
●ヨルナキⅡ
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
『煌炎の書』を手に、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は炎を放つ。今まで以上に炎は熱く、そして大きく展開される。『ペスカ』が力を与えてくれる。そんな気がしていた。
「ペスカ! 帰ったらいつものお店で限定ケーキを二つずつ食べますよ。大奮発です!」
ラーラの言葉に頷く『ペスカ』。その返事を確認し、ラーラは更に呪文を展開する。前世から伝わる魔女学。ラーラが培った現代の経験。その二つが絡み合い、魔導書に集う。燎原の火の如く、炎がヨルナキの身体を蹂躙していく。
「これが私と『ペスカ』の力です!」
「見事。なれど某を焼き払うには至らず」
「だったらこれで!」
炎を払ったヨルナキに迫る『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。ビルの間を跳ぶようにして近づき、通り抜け様に斬りかかってヨルナキの肌を割く。『ライライさん』の力が込められた斬撃が白の毛皮に傷をつける。
「君は、君達は……主の魂の元へ行くといい!」
振り返りざまに奏空は跳躍し、ヨルナキに言い放つ。破綻した主の守護使役。その集まりであるヨルナキに、奏空は同情していた。『一の何か』から解放し、主の元に向かわせてあげたい。その想いを込めて、身体能力を大きく増して刃を振るう。
「ヨルナキ、後始末は任せて。必ず、すべてを終わらせてみせる! 『超』! 『白夜』!
踊れ踊れ……俺の風!」
「――これは……っ! 人がここまでの力を持つとは」
「信じていました。太郎丸」
自分の守護使役に声をかけ、『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)はヨルナキを見る。土の源素を強く練り上げ、地に手を付けて力を開放する。振動する大地が高速移動するヨルナキの動きを崩す。
「ヨルナキ、貴方は何故『一の何か』に従うのですか?」
「知れたこと。守護使役が汝らと共にあるのと同じこと」
たまきの問いに事も無げにヨルナキは答える。人と守護使役が共にあるように、ヨルナキは『一の何か』の傍にいる。
「『一の何か』のやっていることを、良しとするのですか?」
「汝ら人間とて人の法に照らし合わせての悪人はおろう。それでも守護使役は共にいる」
にべもなくヨルナキは答える。それがあるべき姿だと。
「――そうですね。私も貴方も、『覚悟』はできているようです」
これ以上の問答に意味はない。たまきはそれを感じて源素を再び練り上げる。
「行くぜ、ヨルナキ!」
動きを止めたヨルナキの背中に向かって、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)がビルから飛び降りた。神域に至るまで練り上げた天の源素を身にまとって身体能力を増し、大妖の背中を一気に駆け上がる。
「空丸! 一緒に戦おーぜ!」
守護使役に語りかける翔。言葉と同時に拳に力を溜めて、解き放つ。衝撃の反動で倒れそうになる翔を空丸がその後ろから支えていた。その温もりを察し、さらに力を込めて衝撃波を放つ翔。
「ヨルナキ、お前の覚者は破綻したのか? 破綻させたのは『一の何か』か?」
「否。 しかし『一の何か』を倒すために限界を超えようとした者がいたのは事実だ。
その覚悟、その想いは主の決意。それを他人の責務にはしない」
「……そーかよ。どこまで形が変わろうが、お前は守護使役なんだな!」
「マリン……」
桂木・日那乃(CL2000941)はもう震えることのない守護使役に手を伸ばし、優しく振れる。その後で戦場に意識を向けた。解き放たれる水の癒しが、ヨルナキの牙で傷ついた者を癒していく。崩れそうになる戦場を支える癒しの砦として日那乃はそこに居た。
「ヨルナキ。あなたのもとに行った守護使役たちは、しあわせ?」
「破綻して主を失った者達だ。傷は深い。それを癒すために心を眠らせている。
その状態を幸福と呼ぶか否か。それは人の価値観だ」
無表情で問いかける日那乃に、静かに言葉を返すヨルナキ。傷を受けたまま生きることが幸せか否か。忘れて眠るのが幸せか。判断はできない。してはいけない。それは当人が決める事なのだ。
(ヨルナキを倒したら、集まった、守護使役たちは……)
日那乃はヨルナキを見ながら、もうどうすることのできないことを思っていた。ヨルナキが死ねば、集められた守護使役がどうなるのか。おそらくは、消えてなくなるのだろう。……もう、どうすることもできないけれど。
「ナマズ、一緒に殴りにいこうか!」
守護使役の『ナマズ』に声をかける『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。相手が守護使役の集合体だろうが、どんな事情を持っているかなんて関係ない。殴りに来たのなら殴り返す。それが遥とナマズのルールだ。
「いっくぜー! 気合入れてぶっ飛ばしてやる! お前も気合を入れろよ!」
守護使役に語りながら、共にビルの間を跳ぶようにして遥はヨルナキに迫る。大妖の大きさにひるむことなく迫り、カウンター気味に拳を振るう。相手の攻撃の威力が高いからこそ、カウンターは深く鋭く突き刺さる。
「どうだ! これがオレと『ナマズ』の拳だ! 簡単に狩れるなんて思うなよ!
オレに拳を向ける奴は、誰であろうと拳を返す!」
「決着つけようで」
静かに『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)はヨルナキの前に立つ。大きさ100mの巨体を前に、2mにも満たない凛は塵芥も同然だ。見上げるような大きさであっても、凛は臆することなく刃を構えた。
「焔陰流二十一代目――」
刀を構える。正眼の構え。古流剣術の基礎の基礎。
「――焔陰凛、推して参る!」
呼気。そして叫び。その叫びと同時に凛の持つ『朱焔』に炎が宿る。神代の時代、母親を焼いたとされるヒノカグツチの炎。刀に集中する紅光が高熱を放つ。油断すれば暴走しそうになる炎に、凛は冷や汗を流す。この状態でヨルナキに当てるのは難しい――
(――にゃんた?)
それは夢か幻か。あるいはあの光が魅せた奇跡か。守護使役のにゃんたがヨルナキの方に進んでいく。正確には現在のヨルナキとすこしずれた場所に。だけど凛は理解できた。
(こっち来い、言うんやな! 分かったで!)
何の疑いもなく、凛はにゃんたの進んだ道をなぞるように進んでいく。滑るような剣術家の動き。まっすぐ伸びた姿勢。そして何の不安もない精神。そして、
「な、に」
導かれるようにヨルナキは凛の前に移動していた。驚きの声は、長くは続かない。炎の剣閃が横一文字に放たれる。
「あたしとにゃんたの葬送の炎や。とくと味わい!」
納刀の音。それと同時に炎上する白狼。
「――見事。某の負けだ」
悲鳴はない。断末魔の声もない。その言葉だけを残して、『新月の咆哮』は消滅した。
●戦い終わり――
『ヨルナキ、消滅を確認しました!』
戦いが終わって脱力する覚者達に、FiVEからの放送が聞こえてくる。
施設や人の損傷は、奇跡的と言っていいレベルで少なかったようだ。身を挺して守ってくれたものが多かったおかげだろう。
そして守護使役は――
「喋らなくなったな」
「でも、何かのきっかけでまた喋り出すかもしれないね」
ヨルナキの戦いの最中見せた守護使役との強いつながり。それにより増した力。それは現実のことだ。あの感覚を思い出せば、また戦えるかもしれない。
ともあれ、今は傷を癒そう。けして楽な戦いではなかったのだから――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし
