≪花骨牌暗躍≫翁言う あずき洗おか人食おか
≪花骨牌暗躍≫翁言う あずき洗おか人食おか


●ただあずきを洗うだけの古妖
「あずき洗おうか、人とって喰おうか」
 声と共にしゃっきしゃっき、と声が響く。
 小豆洗い。その名の通り小豆を洗うだけの古妖である。言っていることは物騒だが実際に人を食うことはなく、音だけで人を脅かす無害な古妖だ。実際、地元の人は何ら危険を感じることなく通り過ぎていく。
 だが、その日は違った。
「あずき洗おうか、人とって喰おうか」
 声と同時に通りかかった人に手が伸びる。そのまま茂みに引きずり込まれ、目隠しをされた。襲われた人間は何をされるのかわからない恐怖に怯える。暴れても強い力で抑えられ、どうしようもない。
「あずき洗おうか、人とって喰おうか」
 言葉と同時にあずきを洗う音が聞こえてくる。しゃっきしゃっき。あずきを洗っている間は食われることはない。しかしあずきを洗う音が止まれば? 押さえられた人はそこにたどり着き、必至に暴れ出す。そのかいあってか拘束が緩み、そこから抜け出るように立ち上がって一気に走り出す。
「あずき洗おうか、人とって喰おうか」
 背中から聞こえてくる声に怯えながら、必死に走り続けた。

 そのようなことが何度も続けば、街の人だって黙ってはいられない。今まで食われた人はいないけど、この先現れないとは限らないのだ。
 恐怖に怯えながら、街の人達は武器を取る――

●FiVE
「あずきって何? どうして洗うの?」
 久方 万里(nCL2000005)は集まった覚者達に向けて説明を開始する……前に首をかしげた。今どきの子は解らないよなぁ、と年配の覚者は苦笑する。
「これはあずき洗いっていう古妖の仕業……に見せかけた七星剣隔者が犯人なの」
 七星剣隔者は昨今古妖と人間の仲を裂こうとしている。何が目的なのかはわからないが、不要な諍いは避けねばならない。
「いきなり殺し合いにはならないみたいだけど、あずき洗いも怒りに血が上って大喧嘩になっちゃうの」
 攻撃的な能力を持つ古妖ではない為、死人が出ることはない。古妖はそのまま街から去って行ってしまうという。
「勘違いされる歌を歌うの問題だけど、一番悪いのはそれを利用する隔者だから」
 皆まで言うな、と万里を止める覚者達。ともあれその隔者を捕らえてしまえばいいだけの話だ。
 万里の視線に見送られ、覚者達は会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.隔者5名の討伐
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 あずきを洗うのは石とか砂を取り除く為です。

●敵情報
・隔者(計五名)
『大尉』熊谷達也
 あずき洗いのニセモノを演じています。86歳男性。土の変化。年齢相応の姿ですが、戦闘開始と同時に二〇代の軍服を着た若者に変わります。
『B.O.T.』『大震』『鉄甲掌・還』『岩纏』『寿老力』『声色変化』『声帯変化』等を活性化しています。

『カウレディ』マリオン・ウィッティントン
 テンガロンハットをかぶった米国女子です。23歳女性。火の獣憑(丑)。好戦的で今回の作戦には乗り気ではないようです。
『猛の一撃』『灼熱化』『爆刃想脚』『毘沙門力』『プロパル』『威風』等を活性化しています。

『黒翼の天使』大崎美郷
 黒い翼をもつ女性です。18歳女性(自称)。地下アイドルをやっていましたが、色々トラブルを起こして隔者に。
『飛行』『仇華浸香』『清廉珀香』『森纏』『ジャミング』『幻影』などを活性化しています。

手下(×2)
 熊谷の手下です。押さえ込んだり目隠ししたりと言った役割を果たします。水の精霊顕現。
『五織の彩』『活殺打』『海衣』『潤しの滴』『土地勘』等を活性化しています。

●NPC
 あずき洗い
 あずきを洗う古妖です。基本的に無害。小豆を取るために一ヶ所に留まらないとか。
 リプレイ中に登場はしません。

●場所情報
 町外れの河原。時々ここであずき洗いの声が聞こえると地元では評判の場所です。
 隔者達は普段は茂みに隠れていますが、FiVEの覚者と気づいて出てきます。
 戦闘時、敵前衛に『熊谷』『手下(×2)』『ウィッティントン』が。敵中衛に『大崎』がいます。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年11月19日

■メイン参加者 6人■

『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『五麟の結界』
篁・三十三(CL2001480)
『輝き、解き放って』
月影 朧(CL2001599)
『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)


「あずき洗いは、あずきを洗うだけの本当に無害な古妖なんだよね」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は前もって調べてきた古妖の事を口にする。河原であずきを洗うだけの古妖。人に害することはない古妖を襲わせようとするのはどういう意図があるのだろうかと首をひねる。
「真の目的はまだわかりませんが、みすみす七星剣の動きを見逃すわけにはいきません」
 スーツの裾を正しながら篁・三十三(CL2001480)は表情を引き締める。七星剣の、花骨牌の、そして八神の目的は解らない。だが黙って手をこまねいているつもりはない。企みを潰し、その動きを止めるのだ。
「……正直、最近の七星剣のやることはせこいと言いますか……」
 どこか溜息をつくように『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は頬に手を当てる。疑いをかけられる古妖からすれば大事だが、『金剛』や『結界王』に比べれば稚拙と言わざるを得ない。子供の悪戯程度しかできない程度に衰えたのだろうか。
「弱々な古妖ちゃんを利用するって、何だか『ズルい!』って思った!」
 両手を真っ直ぐに突き上げて怒りを示す『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。古妖も様々で、人を凌駕する能力を持つ者もいれば子供程度の古妖もいる。力のない古妖を貶めようというのは奈南からすれば『ズルい!』ようだ。
「……その……無力な人の気持ちは……僕にも……少し分かるから……」
 おずおずと月影 朧(CL2001599)は口を開く。因子発現前は様々な圧力を受けて下を向いてきたこともあり、立場が低い者の気持ちはよくわかる。だからこそ、そういった人達のために何かしなくては。その一歩を自分の意志で踏み出す。
「とりあえず、あずき洗いさんの疑いははらさないといけませんから」
 目的も理由もまだわからない。それでも古妖の疑いは晴らそうと上月・里桜(CL2001274)は唇を引き締めた。先の金剛との戦いが心に残っているのか、戦うことには抵抗がある。だが言葉で収められる状況ではないことは理解していた。
「あずき洗おうか、人とって喰おうか」
 歌が聞こえる。あずき洗いがあずきを洗う時の歌だ。老人のようにしゃがれた声だが、明らかに訓練された『よく通る声』だ。歌を印象付けることを重視しており、逆に言えばあずきを洗いながら謡うにははっきりしすぎた。
「あず洗おうか、人とって……まて、そいつらは」
「‥…FiVEの覚者か」
 茂みの中から現れる男女。予知で知った七星剣の隔者。
「思ったよりも露見が早い。有能な夢見がいるようだな」
「仕方ない河岸を変えねばな」
「言葉通りに、だな。どちらにせよここを乗り切らなくては」
「ニホンゴ、わからないデース。デモ、バトルする流れはリョーカイデス」
 言いながら構えを取る隔者。
 勿論、FiVEの覚者もそれを静観していたわけではない。相手の動きを注視しながら守護使役から武装を受け取り展開していく。
 始まりの合図は何だったか。気が付けば覚者と隔者はぶつかり合っていた。


「ナナンが来たー! のだ!」
 元気よく『ホッケースティック改造くん』を振り上げ、奈南が敵に向かう。常に前向きでほのぼのとした雰囲気を持つ奈南。だからこそ今回のような陰湿な行為は許しては置けない。神具をぶんぶんと振り回し、戦いに挑む。
 とん、と地面を蹴って神具を振るう。踏み込みこそ狩るけれど、そこには奈南の全力が込められていた。幼い見た目ながらに秘めたパワーは高く、それが感性の赴くままに放出される。発生する衝撃波が隔者達を打つ。
「ナナンの攻撃は、すっごーく痛いから覚悟してねぇ! だよぉ!」
「七星剣が何を考えているかも重要だけど」
 敵前で隔者と相対する秋人。後ろに向かわせまいと盾になりながら源素を練り上げる。七星剣が何を考えているか。古妖と人の仲たがいは間違いないのだろうが、本当にそれだけなのだろうか。
 考えても答えは出ない。今は隔者に集中しようと意識を切り替える。水の源素を練り上げ、『豊四季式敷式弓』の弦を鳴らす。音に源素が反応するように一匹の水龍となり、戦場を荒れ狂う。龍の顎に噛まれ、水圧に巻き込まれる隔者。
「どちらにせよ、あずき洗いの為に彼らを捕らえないとね」
「……うん。そうだね……ここまで来て、何もしないなんて……いけないと思うから……」
 戦場の空気に押されるように身を縮める朧。これまで下を向いてきた生き方は、そう簡単に変わるものではない。それでも変わることが出来ないわけではなかった。無実の罪を負わされそうになる古妖を救うために。
 木の源素を解放し、蔦で隔者の動きを封じる朧。人を傷つけることは怖い。傷つけられた人がどういう思いをするか、身をもって知っているからだ。だが怯えて何もしなければ、本当に弱い人が傷つく。だから――
「僕は……頑張ります……」
「そうだね。勇気と言うのはそういう事なんだろう」
 朧の言葉に頷く三十三。力のあるなしに関係はない。正しいと思うことに対して敢然と挑むこと。それこそが勇気なのだ。それは朧に告げているようでもあり、いまだに道を定められない自分に言っているようでもあった。
 息を吸って、静かに吐き出す。自己催眠に似た集中法。心を沈め、源素を回転させる。三十三の周りに水が集い、ゆっくりと循環していく。それは五行の循環。正方向に回された力は、周囲の者の健康を促進し、悪意を弾く盾となる。
「与えられた任務は真意を聞かされずともただ遂行するのみ。かつての自分がそうであったようにこの者達もそうなのでしょう」
「やはり何も知らないのでしょうね」
 嘆息する里桜。倒した隔者から多少の情報を得られれば今後の事件に役立つかもしれない。しかし『花骨牌』が動いた事件を鑑みて、実働部隊は詳細を知らないだろうというのは確実だ。そういう所は抜け目がない。
 それでも里桜はこの闘いが無駄とは思わない。あずき洗いへの濡れ衣を晴らすため、術符に力を籠める。里桜の源素が大地を伝い、隔者の足者の土に干渉する。鋭く突きあげられた土の槍が、隔者の足を止める。
「とりあえず、あずき洗いさんの濡れ衣を証明するために全員捕縛しましょうか」
「そうですね。このままにはしておけません」
 里桜の言葉に頷く澄香。町の空気が悪くなっているとはいえ、七星剣は古妖と人との絆を断ち切れているわけではない。夢見の発見が早かったこともあるが、些か大雑把な部分は否めなかった。
 そんなことを思いながらタロットカードの神具を展開する澄香。カードを天に掲げ、源素を放出する。タロットカードの『世界』が示すは完全世界。循環し、終わりのない永遠の繁栄。その意向を示す光が仲間の治癒力を高め、傷をを癒していく。
「古妖のなりすましなんて悪戯は、これで終わりにしてほしいものです」
 古妖に成りすまし、人に危害を加える。真実を知っている者からすれば、くだらない悪戯だ。
 だがそれを知らない人からすれば、十分な脅威なのだ。隣人が殺人鬼だと知って怯えない人はいない。それが誤解かもしれないと思っても、その噂がある以上、恐怖はついてまわる。なにせ自分や親しい人の命がかかっているのだから。
 そういう意味では、『花骨牌』は最小限で最大の不安を振りまいていると言えよう。古妖の人間に対する態度は様々だ。友好的な古妖もいれば中立的な古妖もいる。不干渉を決め込む古妖もいれば、餌と思っている古妖もいる。
 だからこそ、真実を知る者が前に出て堂々と戦う必要があるのだ。


 隔者達は連携だって動いているが、それは覚者とて同じこと。
 秋人、澄香、里桜、奈南が前衛として隔者を阻みながら攻撃を仕掛け、中衛に立つ朧が動きを封じる。三十三が後衛から仲間を癒すという構成だ。
 隔者側も大きくは変わらない。前衛四名と妨害役の中衛。回復役がいないが、その分前のめりに攻める作戦が取れる。中衛からの攻撃は回復役の三十三に向かって飛び、前衛も前衛で回復を施す澄香に攻撃を集中させる。
「流石に狙ってきますよね……」
「回復役をを狙ってくるのは、当然の結果か」
 澄香と三十三が命数を燃やすことになったが、覚者は順調にダメージを積み重ねていた。
「大地の術は……飛んで、避ける……」
 翼をはためかせ、朧が僅かに宙に浮く。大地を揺らす熊谷への対抗策だ。勿論そうなれば相手も攻撃手段を変えてくるのだが、技の一つを封じたのは大きかった。リスクを冒してまで中衛に攻撃を集中させるメリットがないことも幸いし、こちらへの攻撃が減る。
 良く狙い、技を放つ。相手に危害を加えることはあまり気分が良くないが、何かを飲み込むようにそれを押さえて神具を握る。ここでやらなければ別の誰かがかつての自分のように虐げられる。それだけは、決して許してはおけなかった。
「絶対に、止める、んだ……」
「周囲に七星剣の援軍や、一般人は……大丈夫のようですね」
 守護使役に偵察させながら、里桜は戦いを続ける。夢見の情報ではないと言われていたが、それでも確認は重要とばかりに周囲に気を配る。勿論、目の前の敵をおろそかにするつもりはない。
 大地の力を身にまとい、術符を広げて敵陣を穿つ。広範囲に攻めるか、一点に集中させるか。その選択肢があるのは大きい。広範囲の攻撃は大雑把になり命中精度が下がる。確実に倒したいときは、精度の高い単体で攻め、確実に落としていく。
「逃がしませんよ。次は貴方です」
「ええ、そうですね。こんな子供の悪戯みたいな作戦、何が楽しいんですか?」
 澄香は獣憑の女性に向かい問いかける。何処かやる気のなさそうな顔をした女性。個々の感情が強い隔者達はけして一枚岩ではない。その齟齬を澄香は女性の態度に見ていた。
「楽しくないデスヨー。でもオ仕事重要デース」
「お仕事の詳しい内容を知っているのですか? なぜこんなことをするかを」
「サー? ハナカルタはヒョーロー――オウ、ソーリーね」
 話の途中で熊谷に小突かれて、マリオンは口を紡ぐ。流石にこれ以上は喋ってくれないかと澄香は諦めた。翼をはためかせ、空気の弾丸を弱っている隔者に撃ち放つ。
「ヒョーロー……? いや、今は」
 口を滑らせた隔者の言葉を唇に乗せる三十三。相手が外国人だったということもあり、発音も正しくないかもしれない。だが大きく外れているわけでもないのだろう。ともあれ今は目の前の闘いに集中しなくては。
 水の術式を放ち、仲間の傷を癒す。重要なのは攻撃と回復のバランス。攻めてばかりでは仲間が傷つきいつか倒れるが、回復だけだと攻め手が減って戦闘が長引いてしまう。早急にことを解決しながら、且つ仲間を癒す。このバランスが重要なのだ。
「急ぐ必要はありません。焦らず、確実に」
「うん。ここで彼らを止めなくちゃ。その為にも俺達は倒れるわけにはいかない」
 三十三の言葉に頷く秋人。自分達が動ける状態だからこそ、この手は何かを守れる。体が動かせない状態では、たとえ気力があっても何も守れないのだ。相手の拳を受け流しながら、危険度の高い相手から狙って攻撃を加えていく。
 敵を通さないように動きながら、源素を練り上げる。単純火力ではマリオンが、場を乱す意味では熊谷が。しかし秋人は確実に仕留めようとする熊谷の部下達を脅威と受け取ったようだ。衝撃波を放ち、その後ろにいる大崎を含めて隔者を打ち貫く。
「倒れない為にも、先に彼らを落としておきましょう」
「ナナンもがんばるよぉ!」
 ポーズを決めて奈南が神具を隔者に向ける。奈南の攻撃は純粋な源素の力を神具に乗せて殴るという精霊顕現の基礎ともいえる攻撃方法だ。だがその分ローコストで、鍛えられた奈南の動きをもってすれば、それだけで震え上がるほどの力となる。
 奈南のスティック状の神具に込められた源素は土。硬く、それでいて全てを受け止める盾であり鈍器。作物を生み出す母の力が込められた一撃が、隔者を穿つ。悪い子には鉄槌を。反省したら良い子になりなさい。子供のように怒る奈南の顔がそう告げていた。
「『しちせーけん』の人達はなにがしたいのー?」
 奈南の問いかけは覚者全員の疑問符だ。しかし彼らはそれに答えることはない。
 双方ともにダメージを積み重ねていくが、戦いの決定打は回復層の差だ。秋人、澄香、三十三、里桜の四名が回復を行うことが出来る為で誰一人倒れることなく戦いを継続できた。
 隔者が一人、また一人倒れるごとに覚者側が受けるダメージは少なくなる。そうなればもう覚者のペースだ。
「これで終わり! だよぉ!」
 振り上げた『ホッケースティック改造くん』。奈南は最後の凝った大崎に向かう。顔色を変えて逃げようとするが、それより早く奈南は全力で一撃を見舞う。
「改造くんフルスイング! ほーむらん!」
 振るわれる奈南の横なぎの一閃。吹き飛ばされて地面を転がる隔者。隔者が動かなくなったことを確認し、奈南が勝利のサインを取った。


 そして戦いが終わり、覚者達は隔者を問い詰めるが――
「やはり何も言わないか」
「少しは何かを知っているとは思いましたが……」
 口を紡ぐ隔者。あとは彼らを収容するためにバックアップ部隊に任せるとしよう。覚者達は隔者を預ける。
「僕は街の人に説明してくるね。今回の事件が七星剣によるものだと」
 三十三は言って街の方に歩いていく。今回危害が加えられた人たちに事件のあらましと、そして今後このようなことが起きないだろうということを告げる為に。そしてあずき洗いは悪くないということを。
「……僕は、上手くやれたの、かな……?」
 朧はゆっくりと息を吐き、今回の事を反芻する。隔者による悪事は抑えられ、事件は無事に解決した。戦いにも貢献できた。少し前の自分なら、誰かの役に立つなんて考えもしなかったことだ。その実感が少しずつ伝わってくる。
「ナナンは川の掃除をしたいのだぁ。みんなはどう思う?」
 小首をかしげて奈南は川の掃除を提案する。あずき洗いが洗い物をしやすいようにということもあるが、そうすることで街の人も気持ちがすっきりするのではないかと言う思いもある。
「いいですわね。じゃあ道具を持ってきますね」
 奈南の言葉に頷く里桜。町が汚れれば、住む人のモラルも下がると言う。そしてきれいな街を守ろうとするため、清潔な街に住む人は犯罪を犯さなくなる。すぐに効果が出るわけではないが、それでもその一歩となるだろう。
「あずき洗いは、本当に無害な古妖だからね」
 秋人は誤解を解くためにあずき洗いの歌を変えようとしたが、ある文献を見て止めることにした。曰く、あずき洗いは川で遊ぶ子供が事故にあわないように、あえて人を喰うと脅して危機を示したのだ。その優しさをこちらの都合で変えるのはやめておこう。
「七星剣……結局何を企んでいるのでしょうか……?」
 澄香は呟くように口を開き、思考に耽る。古妖と人の仲を裂く。それ自体は確かなのだろう。だがそれで何が生まれる? 『花骨牌』がこんなことをする理由は何なのだろうか? その意図は全く読めないままだ。
 秋風が静かに頬を撫でる。
 風は少しずつ、冷たくなってきていた。

「あずき洗おうか、人とって喰おうか」
 声と共にしゃっきしゃっき、と声が響く。
 綺麗になった川辺で、今日もあずき洗いの歌が聞こえてくる。
 それを咎める人はいない。平和な日常の一部として、あずきを洗う音は流れていた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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