破滅クリオシティ
破滅クリオシティ


●女は墓場で嗤う

「好奇心とはなんぞや。猫を殺す刃物でございます」
 しんとした墓地に鈴を転がすような女の声が聞こえた。
 墓地を舞台に女の独白めいた講義が始まる。――そこに意味はあるのか、ないのか定かではない。
 

「とかく人というものには、好奇心という根源的な原罪がございます」
 支離滅裂につながる言の葉の羅列は、女の蠱惑的な異常性を持って連なっていく。

「人は知識欲を満たすことでドーパミンを賦活させ、快感を得ることができます」
 悪趣味な冗談そのものでしかないこの誰そ彼時の女王は恍惚とした顔で続けた。

『人の思考というものは何処に収まっているのか』

「古来より何度、同じ問いが繰り返されたのか。その好奇心というもの自体は人間のどこにあるのでしょう? 脳かしら? 心臓かしら? それとも魂?」
 冷静でありながらも情熱を感じさせる歪みがそこにある。これは狂気だ。女の形をした狂気。
 
「ですので、わたくしは分解して確かめてみるのでございます」
 目の前の閃緑岩の墓石を艶かしく撫でる手つきに悪意はない。足元の敷石の隙間を縫うように赤いびろうどが広がっていく。

 かつて人であったその『物体』は何も答えない。
「――解剖して、解体して、小さく小さく細切れにして研究いたしましょう。ええ、とても素敵なことでございます」

 沈みゆく陽光にぎらりと反射するメスが頭骨を開けば、桃色がかったクリーム色のタンパク質が露出する。女は脳の一部を削り取り、スライドガラスにのせカナダバルサムを塗ったカバーガラスで封入し日付と時間を記した付箋を貼ると、宝物のようにドクターバッグにしまった。
 追って、今度は胸を開き、肋骨に守られた――今は鼓動をとめた――心臓をえぐり出す。
「古代エジプト人は魂は心臓に宿ると考えていました。アリストテレスもまた同じくして、心臓に宿ると」
 ぐちゅりと音を立てて、えぐり出した心臓にメスが入る。
「ただのポンプである臓器に心が何故宿ると思ったのでしょうか? とはいえ、心臓を移植することで患者の性格が変わるというお話もあります」
 左心房から三尖弁に向かってメスを進めれば、僧帽弁と乳頭筋がプチプチと軽い抵抗を指先に伝えた。心臓の中を流れていた血液が頬に跳ねる。それがくすぐったいのか女は目を細めた。

「――やはり、ただの血液を巡らせるポンプでしかないのでしょうか? 心など何処にもないではありませんか」
 落胆した表情で血まみれの心臓を投げれば、それは鈍い音をたて一度だけバウンドして血の花を咲かせた。
 
「一方プラトンは脳にあると考えました」
 バッグに仕舞ったプレパラートをもう一度取り出して月光にかざし、そこに心がないかと透かして探してみる。
 なにも、みえない。――心は見えない。
「プラトンはこの電気信号の司令塔に、何を見出したのでしょうか?」

 覚者には魂が宿るともうします。欲しいですわね。そこになら、心はございますか?
 21グラムの神秘のブラックボックス。

 ほしいですわね。ほしい、ほしい。
 そうね、見てみたい。解剖して。解体して。小さく細切れにして。

 こうして、人を解体すれば、まみえさせててくれるのでしょう? 儚いヒトユメの子。
 私の前に、覚者をよこしなさいな。まっているわ。
 覚者の脳と心臓をよこしなさいな。大切に大切に解剖してあげるわ。彼らの魂に心が宿っているのかをみせてちょうだい。

 女は踊る。――人の根源の眠るその墓地で。
 誘蛾灯を手に、「ヒト」を待つ。それがFiveを呼び寄せることになるとしても――構わない。

 さあ、おいでなさいな、好奇の子達。
――私が研究して差し上げましょう。


「今回は急ぎの案件です。お手元の資料をごらんください~」
 久方 真由美(nCL2000003)が資料を配りながら、ブリーフィングの開始を告げた。いつものように間延びする声であるのに逼迫したものを感じる。
「七星剣の隔者が現れました。神具『誘蛾灯』で、一般人をおびき寄せています」
 その凄惨な光景を未来視した真由美は曇らせた双眸を伏せた。
「またこの隔者は、覚者の皆さんが、来ることも予想した上での犯行ですので、自信はあるようです。既に1名の一般人が解体されていました。隔者の凶行をとめてください」
 できれば、これ以上の被害は増やさないで欲しい、と付け足し、真由美は資料ファイルを閉じ一礼した。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
■成功条件
1.太刀花・死霊(たちばな・しだま)の討伐か撃退
2.なし
3.なし
†猫天使姫†です。難依頼になりますので、ご注意を。

成功条件
太刀花・死霊(たちばな・しだま)の討伐か撃退。
一般人の無事については問いません。


時間帯は夜遅いとまでは言わない時間ですが、暗所対策はお願いします。
場所は人気の少ない墓地ですが下記神具の誘蛾灯に5人程度の一般人が誘われています。
既に1人は殺され、脳と心臓を抉りだされています。
覚者の皆様が現地にたどり着いたあと、3ターンに1人現場に誘導されてきます。

あまり時間をかけると近隣地の5人(既に殺された1人含む)以上に、誘蛾灯におびき寄せられる一般人が増えますので迅速な対応をお願いします。
誘蛾灯を破壊したら、誘導効果はなくなります。

太刀花・死霊(たちばな・しだま)
七星剣の隔者です。翼人×水行

中級ランクの術式を使用します。下記死体を前衛にして自分は後衛にいます。
夢見が察知することを承知の上で研究を為そうとしています。
相応の自信と下記神具の効果で覚者の皆様に対応いたします。
名声の高い方の戦い方は、研究済みです。隙あらば覚者の皆様のことも研究材料にしようとしていますのでご警戒ください。
迷い込んだ一般人は優先的に殺し、自分の戦力に加えます。
不利を察知すれば逃亡する可能性もあります。

神具『誘蛾灯』
半径100m圏内の一般人を引き寄せます。引き寄せられた者の意識は茫洋となり、記憶が曖昧になっています。

神具『死滅ストゥーパ』
卒塔婆型の武器です。すべての攻撃に致命を付与します。
近辺にある死体、人骨を操り使役することができます。
死体が新鮮であればあるほど、使役力と能力が強くなります。使役することに手番は消費しません
墓地ですので、近辺から10体ほどの使役を生み出します。
なお、この神具はプレイヤーキャラが使用することは不可能です。破壊していただけますようおねがいします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
9日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2018年02月20日

■メイン参加者 8人■


●みなさんごきげんよう
「まあ、まあまあまあまあまあ!」
 太刀花死霊は覚者達の姿を見ると、後ろにお花畑でも浮かびそうな満面の笑顔で出迎えれば、すぞぞ……と墓土が盛り上がり人骨が10体と、先程殺した死体が立ち上がる。
「来てくれたのね! 来てくれたのね!? 知ってるわ! フルフェイスの悪食さんに、蒼銀の黒猫さん。あらあら、いいの? その、カメラマンさんが大事な人なのでしょう? 私が狙うとは思わなかったのかしら?」
 『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) はそれに答えず体の細胞を加速させると、死霊の前にいる人骨に切り込んだ。
「えー! 恋バナしたかったんですのにー! 答えてくれないなんてつまらないですわ!」
 ひとのこころはどこにあるの。ひとはどうしてこころがあるの。心があれば悩んでしまう。祖父の言葉が全てだった私はどこにいってしまったのだろうか……。
「あなたの研究には正直興味はあります。ですが、手段が、承服できません」
 感情探査にかかる死霊の感情は喜び、楽しみ――そして好奇心だった。事前につかっておいたそれは今だ変わらない。『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) は用心深く誘蛾灯の位置を探る。あった、死霊が腰掛けにしている墓石の横だ。
「自分の何処に有るのか分からんものが、他人の中から見付けられるものかね? その欲求心や好奇心は何処で考え、何から生じたものかね。それこそが、心ではないの?」
「それが研究者というものなのでございます。どこから生じたのか。自分の身の内のどの臓器か? あるというこころの在り処がしりたいのでございます」
 通じ合っているようで、根本がまったく通じあっていない怪人同士のやりとり。感情は……変わらない。
「好奇心、心のありか……解剖したところで、目に見えるものではないと思うんだけどねぇ。心の形が分かっているならまだしも……心とはどういう物だと考えてるんだい?」
 『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) の星の雨がフィールドに降り注ぐ。死霊はそれに対して即時癒しの雨で対抗する。
「それは素敵なかたち。まるで恋のようで、まるで愛のようで、甘い砂糖菓子のようなかたちですわ」
 夢見る少女のように答える姿に、恭司はあれは狂人であると気づいた。こちらの言葉を聞いているようで、聞いていない。
「ある程度言葉を通わせることで、その人が何を考えてるかはわかるものだけど……あれは、違うものだ」
 『月々紅花』環 大和(CL2000477) が太もものホルダーから呪符を引き抜き、口づけをすれば再度星の雨が黄昏の彼岸を照らすように降り注いだ。
「探求心が強く勉強熱心な姿勢は尊敬に値するわ。けれどもそれは人における社会に反しない範囲での話よ」
「ひとむかしまえ。人における社会で、研究名目で人体実験が行われました。覚者であるというだけで研究対象になったのでございます。腕をきりはなせばどれだけで治るのでしょう? 目をつぶせば? 舌を切り落せば? 耳を削げば? 鼻をつぶせば? 羽をちぎれば? どこにでもよくある話でございます」
「それは、あなたのことなのかしら?」
「さあ? 好奇心は猫を殺しますわよ? にゃんにゃん」
 猫の手のようにくいくい、と手首を振れば、それに従うように人骨が揃って覚者達に攻め込んでいく。3人の前衛を越え、中衛にまで食い込んでいく。自らは動かずに、私兵を敵陣後方まで食い込ませて弱い部分に押し込んでいく。ブロックしきれなかった、人骨2体が恭司に強打を食らわせた。燐花は反応しない。今は仕事中だ。私を揺らがせるためにやっているのはわかっている。だから、弱みはみせない。それに蘇我島さんだって、自分が弱みになることが、足をひっぱることがよしとはしないはずだから。燐花の耳がすこしだけ伏せられる。それは本人すら気づいていないだろうゆらぎだ。
 『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243) は思う。魂と心の関係性。21グラムの消失。21グラムとはアメリカの医師、ダンカン・マクドゥーガルが行った魂の重量を計測しようとした実験で算出された数値だ。同じように犬で実験したところ、21グラムの消失は算出されなかった。つまり、魂というものを持つのは人間だけであると結論付けられた。実際には被験者も少なく、十分に実証される数字ではないが、人の心にはのこった。曰く21グラムの魂と。
 つばめもまた、目に見えずとも魂は、体という器に秘められた、ヒトの根源(せいめいりょく)だと思っている。だからそれがこぼれ落ちて消失するのは不思議ではないと思う。それがつばめの信じる21グラム。
 死霊はその尊い21グラムのパンドラボックスに固執し、猟奇殺人を行っている。そう思うだけで寒気がする。
「わたくしは魂は生命力その物を指し、心は其れに乗せる事の出来る興味の指針や意志の方向性だと思っておりますわ」
 後衛に向かった人骨に向かって斬波を双刀・鬼丸から繰り出す。ダメージは与えたが、ギリギリ屠るには至らない。
(とても難しい依頼ですね……でも、難しいからこそボク達がやらないと!)
 離宮院・太郎丸(CL2000131) が、ノートブックを強く握りしめ、妖精の結界を展開する。
「まぁ! まあ! そこの可愛らしい君のつかったそれはなんでございましょう?」
「答える必要はありません」
 口を開きそうになる太郎丸を『教授』新田・成(CL2000538) がぴしゃりと言い放ちながら燐花に土の護りを施す。
「やれやれ、宴が控えているのに七星剣ですか。再戦となるのも手間ですし、ここでキッチリと仕留めておきたいところです」
「まあ、まあ、まあ、あなたも知っているわ。八神さんが怖いのがいるって言ってた人ですわ。お会いできて光栄ですわ! 『教授』。八神さんにも美味しいお酒を教えてあげてくださいましね!……で、あなた方の狙いはコレですわね」
 手元の誘蛾灯を持ち上げふるふると振れば、『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415) の星群の軌跡からの射撃が当たり、硝子がパリンとひび割れる。
「んもう! もふもふしたものがお好きのわりには辛辣ですわね、ゲイルさん」
 ぷんぷんと頬をふくらませた死霊はぽーんと誘蛾灯を覚者たちに向かって投げると、もういらないから差し上げますわと嘯く。
「だって、貴方達が来てくれたのですもの! こんな素敵な方々を誘蛾してくれたのであれば、十全ですわ!」
 太郎丸が投げられた誘蛾灯をあわあわと受け取れば、 様子見をしていた逝が、浸透した人骨達ごと誘蛾灯に向かって地を這う連撃を放つ。ばきり、と嫌な音がして、誘蛾灯が破壊された。
 初期目標とは少々目論見がずれるが、誘蛾灯を壊した以上は、これ以上この場に一般人が迷い込んで来ることはない。一つの懸念がなくなった。だが乱戦にもつれ込んだ戦いはここからである。覚者と死霊のエンカウントからの戦闘はこうして幕を上げた。
「悪食や、ご飯の時間だぞう。ヒトが喰えるのだから遠慮は無しさね」


 燐花は逆手に疾蒼・電燐を持ち直すと、目の前の人骨に飛燕を食らわせる。二連の攻撃は人骨を粉砕するが崩れ落ちるにはまだ少々かかりそうである。
「……人の心が分かるとして。それは幸せなのでしょうか、不幸せなのでしょうか」
 現場に来る前に問うた疑問。それに恭司は「……考えてる全てをわかるようになるというのは、恐らく幸福な事ではないんじゃないかな? パンドラの箱みたいなものだよね……開けなければ、希望をいつまでも入れて置ける。下手に心が見えちゃうと、誰にも心を開けなくなりそうだねぇ……」と答えた。私は蘇我島さんの心が見えてほしいのだろうか? もし逆に私のこころが余さずみられたのなら……。きっとそれは嫌だと思う。知ってほしいきもちとそうじゃないきもち。誰だってそれはもっている、のだとおもう。それを開示してしまうのは、きっとあの人のいうように不幸……ではなくても幸福ではないのだと思う。
「おっさんも研究してくれてるかい?」
「もちろんですわ! 悪食さん! ヘルメットを取ったお姿はとってもイケメンさんなのに、もったいないわぁ」
 逝が死霊に切りこもうと前衛の人骨に対して、直刀・悪食で地面を削りながら裂波を炸裂させる。かくいう死霊は死滅ストゥーパで空中をかき混ぜれば、みるみるうちに水流が現れる。卒塔婆の先を後衛に向ければ濁流が彼らを押し流す。
 濁流が去った後に残る倦怠感。これが、死滅ストゥーパの力かとゲイルは眉を顰めた。その倦怠感を洗い流すように、大和は舞い踊り、浄化を齎す。
「緒方さん、柳さん、抑えられているご遺体はおまかせいたします」
「おーけぃ、おっさん、がんばっちゃうよ」
「了解しました」
 つばめは逡巡しつつも中衛以降に浸透した人骨をその高火力をもって一掃することに切り替える。彼女らが心配していた、10秒ごとに新しい人骨が現れるということは杞憂であったが、その反面動く人骨達の攻撃は単調ではあるものの、体力は高く、攻撃力決して侮れるものではない。実際回復手が回復に手間取られていることがその証左である。浸透した人骨を放置すれば、後衛が削られていく。そうならないために動くのが前衛の仕事だ。
 さらにもう一体。黄泉がえりたてで血まみれのアレはその人骨たちよりも強いことは夢見に示唆されている。太刀花死霊は「FiVEの覚者を研究し、相応の自信でもって、この場にいる」その事実が浮き彫りになり厄介ですわね……と口の中でつばめは呟いた。
「ふむ、少々甘く見ていましたか。厄介ですね」
 同じように状況の推移に目を向けていた、成もまた同じ感想を向ける。成は中衛から貫く波動で死霊を狙うが死霊を守る人骨に阻まれ、なおかつ死滅ストゥーパという武器を狙うということは部位狙いに相当し、減衰した波動でなおかつヒットレートも下がるとあれば、効果は『現状では』見込めないと試算した。
「まずはみなさん、数を減らしましょう。雑多に狙うのではなく確実に、それと蘇我島君と環君は攻撃に注視してください」
「わかったよぅ、教授」
「わかったわ。でも、危なくなれば回復を優先するわね」
 成の指示にみなが了解の旨を伝えれば、恭司は星を降らせる。死滅ストゥーパを一緒に狙っては見たものの、やはり同じように死霊に対する部位攻撃となり、命中率の問題で効果は見込めない。
「こっちは回復には長けている。俺と太郎丸で戦線を支える! 長期戦ができるのはこっちだ」
「はい、後ろはおまかせください! 術式も体術もご遠慮無く! 支えてみせます」
 わんこのような笑顔で太郎丸がえへんと胸をはる。
「すてきすてきすてき! 教授ももふもふの人も! 冷静沈着! ここがFiVEの怖いところですわよね」
 嬉しそうに死霊は手を叩いた。
 
 状況は推移する。役割分担を果たし、攻勢メインで数を減らすことを前提に切り替えた覚者達は、まずは中衛に食いこみ、比較的体力の低い太郎丸を狙う人骨を排除することにする。太郎丸を守ることでゲイルの手が取られ、大和の手番が回復に傾くことを懸念したからである。
 つばめの火力と恭司の全体攻撃によるフォローで、中後衛を狙う人骨は徐々に排除されていく。その間、全体攻撃による死霊への攻撃は続けられるが、その度に回復をされていく。――厄介。その言葉に尽きる状況に一行は辟易するが、持久力という面で秀でているということは、太刀花死霊にとっても同じように、覚者達は厄介だと評価される。
「ああ、もう! なんですの! 攻撃しても回復! 回復って!」
「それはお互い様だよね」
 ヒステリックに騒ぎ出す死霊に呆れた声で恭司が返す。お互いうんざりとしてきた頃合いだ。
「とはいえ、あちらにも余裕はそろそろなくなるころですわ」
 後衛陣に食い込んでいた人骨を倒し終え、残り5体となった人骨を睨みつけつばめは頬を伝う汗を拭った。
「ええ、正念場はここからです」
 成の何度目になるかはもう数えていない波動が、死霊の頬をかすめる。
「攻撃がどう読まれようと、先手を取られる以上どうしようもないでしょう? 猫の力と侮るなかれ、です」
「アハハ!逃がさんよ、悪食に喰い殺されておくれ!」
 つばめがその身をもって前衛で気を引いている間に回り込んだ燐花と逝が死霊の両サイドから切り込むは、龍の御業と四肢を纏う瘴気。
「え?」
 速度に特化した、音速の猫は低くした姿勢から振り上げるように燐光を宿す両の双刃を閃かせればその数瞬後に死霊の白衣が切り裂かれ鮮血を迸らせる。その直後にフルフェイスの怪人の瘴気が死霊に触れ、六腑を引き裂き元素の流れを阻害する。痛みはないが、背筋に冷水を浴びせられたような悪寒が死霊を襲う。
「いったああああいい! ひどい! ひどいわ! 無辜の研究者になんてことをするの!? 女の子に殺すとか、ひどいこと言いすぎですわ!」
「無辜という言葉を辞書で引いてほしいものですね」
 成がやれやれと首を振る。
「うぇ、うぇえええん! ひどい! ひどいわ!」
 とうとう泣き出した死霊は片手で涙を拭いながら、一歩下がり死滅ストゥーパを振り上げる。
「おい、逃げるつもりだぞ!」
 同時に気づいた、大和も回り込もうと走り出そうとするが残る人骨に阻まれる。さり気なく移動していた成もまた、近接しようとしていたところを、死体に阻まれる。
「飛んで逃げるつもりですわ」
 つばめはその懸念は強くもっていた。しかしそれに対応する作戦は立てられてはいなかったというのが、実情だ。武器破壊を全体目標にしていたこともあり、人骨を減らすことについて、少々おざなりになってしまっていた。もし武器が破壊されなかった場合、のこった人骨は妨害を命令されることになる。
「くっ!」
 アステリズムの導きを宿した指輪を掲げ、飛び立ち始める死霊に向ける。痺れを伴うその光は確かに彼女を補足したが、羽先を少しだけ痺れさせるだけにすぎなかった。
「おぼえてらっしゃい! 次こそは、捕まえて、指先から、ゆっくり、ゆっくり、削って、プレパラートに乗せてやりますわ! ばーか! ばーーーーか! だいきらーい!」
 三下のような捨て台詞を残し、死霊は空の彼方に消えた。残った人骨はからり、と軽い音を立て、崩れ落ちていく。死滅ストゥーパの効果範囲から抜けたということであろう。
「……はぁ」
 燐花がその場に崩れ落ちるのを恭司は急いで抱きとめる。彼女が無理をしていることなんてとうの昔に気づいている。張り詰めた糸がきれたようなその動きに心臓が跳ね上がる。
「大丈夫? 燐ちゃん? 怪我しちゃってる?」
「蘇我島さん……大丈夫ですか? よかった」
 気にしないといった。だけど、そんなの振りに決まってる。
「被害は最小限だったわ。誰も倒れてなくて、よかった」
 ほう、と大和が息をついた。
「――それにしてもこの神具一体どこから……今の技術で作れるとも思えませんし。もしかしたらオーパーツ、過去の遺物なのでしょうか……?」
 太郎丸が呟くが、その言葉に答えるものはいなかった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『白銀の嚆矢』
取得者:ゲイル・レオンハート(CL2000415)
特殊成果
なし



■あとがき■

みなさんの連携と気迫で死霊さんは相当びびっておりました。それが早期撤退につながっております。
死体を倒すことに注力し最大火力を死霊に通すための立役者になったつばめさんにMVPを!ご参加ありがとうございました。




 
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