【妖精郷】村襲う妖の群れを食い止めろ
●村の西南側
エフィルディスは数名の子供と一緒に走っていた。
尖った耳をもつ兄妹。その奇異さを隠すようにフードを被って生活していた子供たちを引き取り、ようやく自分達の村にたどり着く直前に、妖の咆哮が響いた。
エフィルディスも覚者である。戦闘経験こそ少ないが、妖と戦ったこともある。
だが、戦ったことのない子供を抱えて十数の妖を相手するとなれば話は別だ。子供達を護るために戦いを避け、必死で走る。
だがそれも限界があった。子供の足と体力に合わせていれば、いずれ妖に追い付かれる。なら――
「お姉ちゃん……? どうして止まるの? 妖が来ちゃうよ?」
「この道をまっすぐ進んだら、黒い影が出てくるの。そうしたら耳を見せて『タコ』って言って。そうしたら影さんは通してくれるわ」
「え? お姉ちゃんはどうするの?」
「行きなさい。お姉ちゃんも後でいくから」
――結界の向こうに兄妹がたどり着くまで、足止めをする。その後で走って戻ればいい。エフィルディスはそう考えて、二人の子供を送り出す。躊躇しながらも二人は村に向かって走り出した。
だがエフィルディスは知らない。その結界が今、故合って存在しないことに。
何の介入もなければ、数十秒後にエフィルディスが走る先には結界の守りがあるはずの場所で妖に殺されている兄妹が転がっている。そんな未来があることを。
●村
『妖精』と呼ばれる覚者達の村。
特殊な結界を張って妖の危惧から身を護っていた村だが、諸事情により一時的に結界が解除されてしまった。結界の再構成自体は容易なため、何ら問題はない。結界を張りなおす間に妖に襲撃を受けても、数体ぐらいなら村の戦力で食い止めることはできる。
だが――
「妖の数は百を下らない。それが群れを成して二方向から突撃してくる」
その言葉に村の『妖精』達はざわめいた。さらには、
「外で因子発現した子達を連れてくるエフィルディスが妖の進路上にいる。このままだと、妖の突撃に巻き込まれてしまうぞ!」
状況を確認した『妖精』達は冷や汗を流す。結界を再構成しながら妖を足止めし、さらには仲間を助けに行かないといけない。全てをこなすには、村の『妖精』だけではとても手が足りない。
何かを見捨てない限り、別の何かを失ってしまう。苦渋の選択を強いられる状況――
だが幸運なことに、ここには『妖精』以外の覚者達がいた。
彼らはこの村の人間ではない。たまたま知って、この村に訪れた客人だ。冷徹な事を言えば村を助けるために妖に挑む理由はない。命を削るような戦いをする理由はない。妖に滅ぼされる村などこの四半世紀で幾つもあった。ここもその一つになるだけでしかない。
むしろ今から逃げれば巻き込まれずに済む。『妖精』や村の人達も気遣って、妖が来ない方向の逃げ道を教えてくれた。此方から逃げれば安全に帰ることが出来る。
貴方の選択は――
エフィルディスは数名の子供と一緒に走っていた。
尖った耳をもつ兄妹。その奇異さを隠すようにフードを被って生活していた子供たちを引き取り、ようやく自分達の村にたどり着く直前に、妖の咆哮が響いた。
エフィルディスも覚者である。戦闘経験こそ少ないが、妖と戦ったこともある。
だが、戦ったことのない子供を抱えて十数の妖を相手するとなれば話は別だ。子供達を護るために戦いを避け、必死で走る。
だがそれも限界があった。子供の足と体力に合わせていれば、いずれ妖に追い付かれる。なら――
「お姉ちゃん……? どうして止まるの? 妖が来ちゃうよ?」
「この道をまっすぐ進んだら、黒い影が出てくるの。そうしたら耳を見せて『タコ』って言って。そうしたら影さんは通してくれるわ」
「え? お姉ちゃんはどうするの?」
「行きなさい。お姉ちゃんも後でいくから」
――結界の向こうに兄妹がたどり着くまで、足止めをする。その後で走って戻ればいい。エフィルディスはそう考えて、二人の子供を送り出す。躊躇しながらも二人は村に向かって走り出した。
だがエフィルディスは知らない。その結界が今、故合って存在しないことに。
何の介入もなければ、数十秒後にエフィルディスが走る先には結界の守りがあるはずの場所で妖に殺されている兄妹が転がっている。そんな未来があることを。
●村
『妖精』と呼ばれる覚者達の村。
特殊な結界を張って妖の危惧から身を護っていた村だが、諸事情により一時的に結界が解除されてしまった。結界の再構成自体は容易なため、何ら問題はない。結界を張りなおす間に妖に襲撃を受けても、数体ぐらいなら村の戦力で食い止めることはできる。
だが――
「妖の数は百を下らない。それが群れを成して二方向から突撃してくる」
その言葉に村の『妖精』達はざわめいた。さらには、
「外で因子発現した子達を連れてくるエフィルディスが妖の進路上にいる。このままだと、妖の突撃に巻き込まれてしまうぞ!」
状況を確認した『妖精』達は冷や汗を流す。結界を再構成しながら妖を足止めし、さらには仲間を助けに行かないといけない。全てをこなすには、村の『妖精』だけではとても手が足りない。
何かを見捨てない限り、別の何かを失ってしまう。苦渋の選択を強いられる状況――
だが幸運なことに、ここには『妖精』以外の覚者達がいた。
彼らはこの村の人間ではない。たまたま知って、この村に訪れた客人だ。冷徹な事を言えば村を助けるために妖に挑む理由はない。命を削るような戦いをする理由はない。妖に滅ぼされる村などこの四半世紀で幾つもあった。ここもその一つになるだけでしかない。
むしろ今から逃げれば巻き込まれずに済む。『妖精』や村の人達も気遣って、妖が来ない方向の逃げ道を教えてくれた。此方から逃げれば安全に帰ることが出来る。
貴方の選択は――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.結界完成(30ターン)まで生存する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
成功条件は最低限です。それ以上を得るのなら相応のプレイングが必要になります。
●敵情報
・妖(×百以上)
生物系妖、物質系妖、心霊系妖、自然系妖の群れです。全てランク1。個体としての能力は弱いのですが、数が多く対処を誤れば数に飲まれてしまいます。
知性はありません。ただ目に見える者を攻撃しながら突撃する、というスタイルです。
結界が完成するとそれ以上進むことが出来ず、諦めて引き返します。
●味方情報
・『妖精』の村人
村を護るための結界を再構成しながら、突撃してくる妖を迎撃します。南側と西南側の両方に配置されています。結界は五分(三〇ターン後)に完成します。
戦場を突破した妖を各10体までを食い止めることが出来ます(11体目から、村に被害が出ます)。
・偉人列伝
前世持ちだけで構成された覚者グループです。頼めば戦力に加わります。
相談で指示されればその通りに動きます(プレイングでの指示は不要です)。ですが命数復活はしません。
『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
過去に何度か(割としょーもない経緯で)FiVEと抗戦した覚者です。前世持ちの木行。足をがくがく震わせながら、自分を奮い立たせるように見栄を張って参戦します。
『錬覇法』『葉纏』『仇華浸香』『大樹の息吹』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。
『鬼の剣士』中塚・琴音
火の前世持ち。一七歳女子。
島津豊久の生まれ変わりを自称しています。神具は日本刀。戦闘大好き。
『錬覇法』『灼熱化』『斬・二の構え』『十六夜』『毘沙門力』『覚醒爆光』中を活性化しています。
『老年悪漢王』郷田・勅久
水の前世持ち。八十歳男性。
ビリー・ザ・キッドの生まれ変わりを自称しています。ハンドガンを手にして戦います。
『錬覇法』『烈空烈波』『波動弾』『寿老力』『覚醒爆光』等を活性化しています。
『黒の王』葛城・徹
土の前世持ち。三十五歳男性。
ナレースワンの生まれ変わりを自称しています。全身日焼けしたマッチョ体質。肉体には自信あり。
『錬覇法』『無頼漢』『蔵王・戒』『大黒力』『覚醒爆光』等を活性化しています。
『砂漠の女王』楠木・詩織
水の前世持ち。十歳女性。
クレオパトラ7世フィロパトルの生まれ変わりを自称しています。エジプトっぽい杖を手に回復に回ります。
『錬覇法』『水纏』『潤しの滴』『潤しの雨』『氷巖華』『アイドルオーラ』『マイナスイオン』等を活性化しています。
・エフィルディス
『<南瓜夜行2017>妖精が悪い奴らに攫われる』に出てきた『妖精』です。
村の外で因子発現した『妖精』の子供二人を逃がし、妖の群れの足止めをしています。
自分を回復させながら攻撃を受け、時間を稼いでいます。
・『妖精』の兄妹
因子発現して間もない子供の『妖精』です。
一定以上のダメージを受ければ、死亡します。
●場所情報
戦場を便宜上二つに区切ります。
共に敵前衛までの距離は10メートルとします。
・南側
川辺の広場。足場は安定しており視界も良好。明りも戦闘に支障はありません。ここ以外で戦うと戦いに支障が出るため、戦闘するにはここが最適との事。
三ターンごとに『敵後衛』に妖が五体出没します。
戦闘開始時、敵前衛に『妖(×5)』がいます。
・西南側
細い獣道。足場は安定していますが、横に並ぶのは三名が限界です。両脇は草木が生い茂り、武器を振り回すことは困難でしょう。明かりも戦闘に支障はありません。
三ターンごとに『敵後衛』に妖が五体出没します。
戦闘開始時、敵後衛に『エフィルディス』『妖(×5)』、敵前衛に『妖精(×2)』『妖(×2)』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年01月30日
2018年01月30日
■メイン参加者 8人■

●
「百を超える妖の群れですか。数だけは百鬼夜行宛らですね」
迫る妖の群れを見ながら『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は銀の髪をなびかせる。土煙をあげて迫る様々な妖の行進。時間が夜で彼らが古妖なら確かに百鬼夜行だ。最も妖には知性はなく、ただ本能のままに突き進むだけなのだが。
「……逃げられるわけ、ないじゃないですか」
鉛のように重く宮神 羽琉(CL2001381)は決意を紡ぐ。村の人が危ないから逃げろ、と行ってくれたのは純粋な優しさだ。だがそれに甘んじるわけにはいかなかった。命を救えなかった涙の苦さは、身に染みて知っているのだから。
「エフィルディス様……」
別の戦場のことを気に掛ける『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。頼れる仲間がそちらに向かっているとはいえ、絶対はありえない。不安を打ち消すように瞳をつぶり、そして開いて戦場を見る。今は自分がやるべきことをやるのみだ。
「相手が低ランクのみ、というのは救いかしら」
術符を手にして『月々紅花』環 大和(CL2000477)は道を走る。数が多いとはいえ、個体としての強さは高くはない。それでも戦闘経験のない覚者では対応は難しいだろう。急いで助けに行かなくては。焦燥が歩幅を広げていく。
「大丈夫……皆守るから……」
器物化した両足で大地を駆ける『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)。見た目の奇異さで迫害され、孤立する『妖精』を集める村。そんな村を守りたいと思うのは、かつての自分を重ねたからか。それ故に決意は強い。
「はい。皆さん救いましょう」
頷くように『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が答える。襲われる子供。エフィルディス、そして『妖精』の村。全てを守り切るのは容易ではない。それでもやって見せると道の先を見た。迫る妖の群れと、『妖精』の姿が見える。
「救助戦。かつ防衛戦ですね。耐久力にはあまり自信がありませんが」
それでも負けるつもりはない、と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は告げる。敵の数は多い。殲滅するまでにこちらが尽き果ててしまうだろう。だが勝利条件はそこではない。命を救い、守り切る。
「心は巌の如く構え、身は獅子の如く奮迅させよ……だったか」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は巖心流の教えを口にする。巌とは岩の山、不動の精神をもち動揺することなく構えよ。獅子とは狛犬と対になる伝説の生き物。神社仏閣の門番。一たび牙を向けば、容赦なく敵を討つ守護者。その心身をもって敵前に立つべし。
二つに分かれた戦場。片方に戦力を集めれば、そちらの被害は少ない。だがもう片方の被害は大きくなる。
覚者達は敢えて戦力を分け、両方の戦場を守りきろうとしていた。薄氷を踏むような危うさだが、被害を最小限にしようとするのならこれが最善手。
妖の叫び声。それに応じる様に覚者達もそれぞれの戦場で鬨の声を上げた。
●
「例え『発明王の生まれ変わり』であっても百を超える妖とか普通に怖いわけなのだが!」
「気持ちは理解しますし至極当然の反応ですが、状況が状況ですのでよろしくお願いします」
「あ、ここまで来てビビりとかいいんで」
「大丈夫、貴方の前世は偉大な事を成した方なのでしょう? でしたら貴方に出来ない筈はありませんわ!」
と『発明王』が迫る妖を前にビビっている所に冬佳と羽琉といのりが声をかける一幕があった後に、南側の戦闘が始まった。偉人列伝と冬佳の四人が前衛で妖を止めながら、羽琉といのりががその後ろから火力と回復を叩き込む作戦だ。
「妖から人々を守る戦いこそ本義なれば」
抜刀した冬佳がつま先を妖に向ける。冬佳の父もAAAとして人を守った。父が守った平和を護りたい。勿論守りたい理由はそれだけではない。日常の中にある暖かさや優しさ。何でもないようなそういったことを守る事こそが、冬佳の本懐だ。
刀を振るい、構えなおす。剣術の基本は『型』を繰り返すこと。一つ振って確認。二つ振って確認。その所作の繰り返しが斬撃となる。基本を積み重ねた冬佳の斬撃は、神に捧げる舞のように美しい。その剣筋状にある妖は魅了されるように近づき、切り裂かれる。
「――此処から先へは通しません」
「おお、流石FiVE。吾輩いらなくない? 帰っていい? 駄目ですねわかってます」
「はい。怪我したら回復致しますので頑張ってくださいね」
赤いボンデージ風の戦闘装束に身を包んだいのりがおっとりした口調で『発明王』を引き留める。母の遺品である衣装を神具化したもので、十七歳の姿になったいのりにはぴったり合うのだが、恥ずかしいのだけはどうしようもない。口に出せる状況ではないが。
『冥王の杖』を一振りし、源素の力を集めるいのり。源素は杖の先に集まり光り輝き、その明るさは少しずつ増していく。いのりの合図とともに光は天に伸び、空中で爆ぜるように拡散して妖に矢となって降り注いでいく。
「いのり達のこの力は救いを求める誰かの為にあるのだから!」
「はい。まだ実力は充分とは言えませんが」
力不足を悔やむように羽琉は拳を握る。だがそれで足踏みをするような羽琉ではない。足りない事柄を認め、その部分をどう補うか。自分ができる最大限の行動は何か。大事なのは実力ではない。己を知り、そして行動する事。だから、羽琉は臆さない。
しゃがみ、立ち、弓を手にする。射法八節の初め。心を鎮めるために羽琉はそのイメージをする。六十メートル先の直径一メートルの的を狙うように意識を集中させ、矢を放つ。イメージの解放と同時に降り注ぐ天の弓。源素の光が妖に襲い掛かる。
「それでもここは通しません。僕と、そして大切な人のために」
奮闘する覚者達。その火力は進行する妖を蹂躙するに十分だ。
「鍛えられた筋肉の威力!」「敵だ、敵をよこせ!」「吾輩、智謀キャラなんだけどなぁ!」
偉人列伝の三人も必死になって(一部戯言を言いながら)戦うが、妖は矢次に戦場に突貫してくる。命を惜しむという知性がないがゆえに、その勢いは止まることはない。
川辺の防衛戦は、まだ始まったばかりだ。
●
そして南西側の戦場――村に向かう一本道。妖に襲われる子供の『妖精』と、少し離れた所にいるエフィルディス。
「面制圧のような戦いはあまり得意ではありませんが……実戦こそが最高の練習ですね」
真っ先に動いたのは燐花だ。前につんのめるように体を傾け、その勢いのままに駆け出していく。しなやかな動きは猫のよう。二本の妖刀を手に一気に妖との距離を詰める。手首を翻し、青の瞳を細めて妖を睨んだ。
『妖精』の子供、妖、燐花自身。それぞれの位置を正確に把握する。子供を傷つけないように意識しながら、二本の刀を交互に振るう。変幻自在の刃の動き。その素早さと的確な斬撃は燐花の空間把握能力の賜物か。子供を傷つけることなく、妖の血飛沫が上がる。
「救出は任せます」
「分かりました。任せてください!」
言って翼をはためかせる澄香。目指すは妖が群れを成して攻撃しているエフィルディスだ。体力に自信はないのであの数の妖の中に向かえば怪我は避けられないのだが、躊躇している余裕はない。子供たちの頭上を越えて、一気に迫る。
エフィルディスの元にたどり着いた澄香は、彼女と妖の間に割って入るように入り込んでタロットカード型の神具を構える。『節制』は献身を、『世界』はハッピーエンドを示す。そのカードが導くように、身を挺して澄香はエフィルディスを護る。
「エフィルディスさん、FiVEの者です。助けに来ました」
「ふぁい? え? あ、ありがとうございます」
「あ……FiVEって、知らないん、だ」
困惑するエフィルディスを見たミュエルは、言って頷く。俗世から隔絶された生活をしているのなら、FiVEのことを知らないのも道理か。だが助けに来たという意図は伝わったようなので、とりあえずは一安心。それよりも今は――
子供達と妖の間に割って入るミュエル。付喪の力で身体を固くし、妖の攻撃をその身に受ける。爪による斬撃とコードから発せられる稲妻。痛みが通り抜けるが、それを意に介することなく、ミュエルは妖を見た。その目に怯えはなく、ただ強い意志だけがある。
「大丈夫……あなた達も、妖精のお姉さんも、アタシ達が守るから……ね……」
「もしかして、お姉ちゃん達も村の人なの?」
「違うわ。でも今は村の仲間よ」
あやすように優しく『妖精』の子供を撫でながら大和は呪符を指で挟む。村を守ることは当然だが、この子達やエフィルディスを傷つけさせやしない。源素を体内で循環させながら、いきり立つ妖を静かに見ていた。
術符を振るい、印を切る。稲光が発生したかと思えば、次の瞬間に妖は雷撃を受けて痺れていた。妖に知性はない。無抵抗な子供よりも、自分を傷つける者に手を出すだろう。挑発するように大和は銀の髪を梳く。妖の怒りが突き刺さるのを感じていた。
「今のうちよ。妖はわたし達に任せなさい」
「でも、あれだけの数の妖なんだよ!」
「そうだな。だから俺に任せてきれ」
太刀を抜いて構える飛馬。妖の前に立ち、背中越しに子供達と言葉を交わしていた。かつて自分が隔者から守ってもらったように、今度は自分がこの子達を守ろう。この子達だけではなく、『妖精』達すべてをこの刀にかけて守り抜く。
地面を軽く斬りつける。刀の間合で刻まれた線。この線は神秘的に妖の進行を止めることはできない。だがそこより先に入った妖は、皆飛馬の刀に攻撃を止められていた。ここから先は通さない。爪も、牙も、炎も、氷も、悪意さえもここが行き止まりだ。
「こっから先は立ち入り禁止だ。妖精のねーちゃんと子供はわたさねーよ!」
啖呵を切る飛馬。その気持ちはここに立ちつ覚者の共通の言葉だ。
だが妖の数は多い。次々とやってくる妖は波のよう。暴威が形となってここに立つ者に襲い掛かる。
様々な思いを込めて、戦いは続いていく。
●
南側の闘いの目的は『妖をできるだけ足止めする』事である。それは妖を足止めする覚者の数が多ければ為しやすい。
「よし、吾輩ここから回復に専念する! 痛いのやだとかそんなことではないのであしからず!」
なのでダメージ蓄積により攻勢から回復に移行する『発明王』の行動もあながち間違いではない。一人倒れるたびに妖が突破される確率が跳ね上がるからだ。
「数が増えてきましたわね!」
前衛が妖を押さえていれる数を超過し、後衛までやってきた妖をいのりはその身をもって防いでいた。覚者の気力が減ってくればいのりは気力回復に努めることになり、攻撃に出る機会も減ってくる。継戦能力を維持しなければならないが故の弊害だ。
(ミュエルさん……大丈夫でしょうか……?)
口にはしないものの、もう一つの戦場に居る恋人を心配する羽琉。彼も身を張って妖を止めながら、戦線の維持に努めていた。いのりと役割分担するように攻撃と回復を交代で行っているがゆえに、バランスのいい戦場コントロールが出来ていた。だが――
「流石にすべては止めきれませんか……!」
悔やむように冬佳は戦線を突破する妖の背中を見る。追えば目の前にいる妖を押さえきれなくなるため、見送るしかない。村には何人かの防衛役が出てきていることもあり大きな被害は出ないだろう。そう言い聞かせて刀を振るった。
完全に妖を止める事こそできなかったが、六名の覚者の奮闘がなければ村まで被害が及んでいただろう。
●
「ええと、貴方達は? あ、貴方はこの前の?」
「お久しぶりね。説明は後。今はここを凌ぐわ」
FiVEの陣に戻ったエフィルディスは、見知った覚者に声をかける。大和はそれに応えるように頷いて、妖に目を向けた。説明している余裕はない。
「あら、よっと!」
二本の太刀を振るいながら飛馬が敵陣で舞う。攻撃してきた妖の大剣に乗るように立ち、別方向からきた槍を捌く。無傷とは言わないが、その多くを凌いでいた。目まぐるしく動く戦場の中、確実に足止めをする要となっていた。
「大丈夫……この程度なら、痛くない、から……」
心霊系妖の冷風を受けながらミュエルが口を開く。お返しにと放った香風が妖を塵にする。爪や刃の傷こそ目立つが、ミュエルは術式系統の攻撃への耐性は高い。その特性を生かし、前に立って妖に立ち向かっていた。
「流石にこの数全てを避けきれませんが……」
蒼銀の炎を煌めかせ、燐花は戦場を駆ける。足を止めることなく走り回り、すり抜け様に妖を切る。その速度をとらえきれる妖は少なく、結果として大きなダメージを受けることなくこの防衛戦を乗り切っていた。
「一気に焼き払います!」
タロットカードを戦場に向け、横なぎに振るう澄香。その軌跡のままに炎の波が生まれ、戦場の妖は赤い舌に飲み込まれる。全体攻撃は狙いこそ甘くなるが、澄香の術式の威力は随一だ。避けきれなくとも無視できない傷が残ることになる。
「確実に仕留めていくわ」
妖に追い打ちをかける様に大和が動く。太ももに装着してあるベルトのホルダーから術符を取り出し、短く印を切る。源素の力が活性化され、雷撃が妖を襲った。一息つく間もなく現れる妖を見ながら、新たな術符を用意する。
「皆さん、大丈夫ですか!」
覚者にとって予想外の誤算は、エフィルディスの回復能力である。五つの源素に属さない回復の術式。おそらく因子由来の物なのだろうそれが、覚者の闘いに大きく貢献していた。
そして――
●
村を円状に囲むように黒い霧が発生する。それは少しずつ濃度を増し、影の壁となって一つの結界となった。
「皆さん、早く! 合言葉は前と同じにしています!」
結界を張った『妖精』の声が響く。その声に弾かれるように覚者達は村に向かって走り出す。
その背中を追う妖。体力の残っている者は振り向いてその攻撃を弾き、サポートしながら結界内へと向かっていく。以前言った合言葉を口にして、影の内側へと転がり込んだ。
襲い掛かってくる妖は結界に阻まれ、結界の防衛機構により傷ついていく。その様子を見て、覚者達は安堵の息を漏らす。
多少妖が突破したが、村には何の被害を出す程ではなかった。そして何よりも、
「皆さん……ええと、FiVEでよろしいですか? ありがとうございます」
「「おにいちゃんおねえちゃん、ありがとう!」」
エフィルディスと『妖精』の子供達も無事、助けることが出来た。彼らを救うために尽力した彼らにとって、この謝礼と結果が最大の報酬だった。
「エフィルディス様、ご無事で何よりですわ!」
南側で戦っていた覚者達も合流し、三人の無事を喜びあう。
「あれ? あの、お久しぶりです。その……どういう事なんです?」
村に帰ってきたら妖に追われ、あるはずの結界はなく『妖精』以外の覚者が防衛の手助けをしていた。しかもその一部はかつて外で出会った者達だ。困惑するエフィルディス。そんな彼女に結界を張った『妖精』が簡単に説明をした。
「そうだったんですか。皆さん、村を守っていただいて改めてありがとうございます。
貴方達がいなければ、村がどうなっていたか」
「いえ。成り行きとはいえ結界を消したこちらにも責任はありますし」
「立ち話もなんです。村に戻りませんか。傷を治さなければいけませんし」
言われて覚者は自分達の傷具合を確認する。命数こそ削らなかったが、五分間の戦いは大きく体力と気力を削っていた。個体としてみれば弱いランク1だったとはいえ、やはりあの数では無傷とはいかない。
(そもそも、どうしてこんな大量の妖が現れたのでしょうか……?)
燐花は戦場の方を振り返り、思考を巡らせる。ランク1に知性はない。群を作って襲う程度の考えはあるが、計画立てて何処かを襲撃するほどの知性はない。偶然か? それとも『けしかけた』何かがいるのか? 仮に居たとして何が目的なのか?
首を振って推測を止める。決定づけるには情報が足りない。今は一つの村を襲った脅威が去ったことを喜ぼう。
そして新たな覚者達との絆が結ばれたことを。
●
かくして妖精郷と呼ばれた覚者の村との物語は、一旦ここで幕引きとなる。
今回の件もあり『妖精』達の興味は外の覚者に向けられることになる。それは純粋な謝礼や興味もあるが、今回の襲撃を受けての対策も含まれていた。防衛を結界のみに頼るわけにはいかず、そういった情報を求めた結果だ。
FiVEもまた『妖精』への援助を惜しまないことを約束する。互いに交流を深め、技術を交換することで互いの仲は深まっていく。四半世紀外部との接触を制限していた『妖精』達が慣れるまで時間はかかりそうだが、いずれ五麟市に耳が尖った覚者が歩くことになるだろう。
こことは異なる世界への『門』が存在する『妖精』の村。その村由来の覚者。
故に彼らは『異(ことなり)の因子:異邦人』と呼ばれることになる。
「百を超える妖の群れですか。数だけは百鬼夜行宛らですね」
迫る妖の群れを見ながら『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)は銀の髪をなびかせる。土煙をあげて迫る様々な妖の行進。時間が夜で彼らが古妖なら確かに百鬼夜行だ。最も妖には知性はなく、ただ本能のままに突き進むだけなのだが。
「……逃げられるわけ、ないじゃないですか」
鉛のように重く宮神 羽琉(CL2001381)は決意を紡ぐ。村の人が危ないから逃げろ、と行ってくれたのは純粋な優しさだ。だがそれに甘んじるわけにはいかなかった。命を救えなかった涙の苦さは、身に染みて知っているのだから。
「エフィルディス様……」
別の戦場のことを気に掛ける『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。頼れる仲間がそちらに向かっているとはいえ、絶対はありえない。不安を打ち消すように瞳をつぶり、そして開いて戦場を見る。今は自分がやるべきことをやるのみだ。
「相手が低ランクのみ、というのは救いかしら」
術符を手にして『月々紅花』環 大和(CL2000477)は道を走る。数が多いとはいえ、個体としての強さは高くはない。それでも戦闘経験のない覚者では対応は難しいだろう。急いで助けに行かなくては。焦燥が歩幅を広げていく。
「大丈夫……皆守るから……」
器物化した両足で大地を駆ける『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)。見た目の奇異さで迫害され、孤立する『妖精』を集める村。そんな村を守りたいと思うのは、かつての自分を重ねたからか。それ故に決意は強い。
「はい。皆さん救いましょう」
頷くように『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が答える。襲われる子供。エフィルディス、そして『妖精』の村。全てを守り切るのは容易ではない。それでもやって見せると道の先を見た。迫る妖の群れと、『妖精』の姿が見える。
「救助戦。かつ防衛戦ですね。耐久力にはあまり自信がありませんが」
それでも負けるつもりはない、と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は告げる。敵の数は多い。殲滅するまでにこちらが尽き果ててしまうだろう。だが勝利条件はそこではない。命を救い、守り切る。
「心は巌の如く構え、身は獅子の如く奮迅させよ……だったか」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は巖心流の教えを口にする。巌とは岩の山、不動の精神をもち動揺することなく構えよ。獅子とは狛犬と対になる伝説の生き物。神社仏閣の門番。一たび牙を向けば、容赦なく敵を討つ守護者。その心身をもって敵前に立つべし。
二つに分かれた戦場。片方に戦力を集めれば、そちらの被害は少ない。だがもう片方の被害は大きくなる。
覚者達は敢えて戦力を分け、両方の戦場を守りきろうとしていた。薄氷を踏むような危うさだが、被害を最小限にしようとするのならこれが最善手。
妖の叫び声。それに応じる様に覚者達もそれぞれの戦場で鬨の声を上げた。
●
「例え『発明王の生まれ変わり』であっても百を超える妖とか普通に怖いわけなのだが!」
「気持ちは理解しますし至極当然の反応ですが、状況が状況ですのでよろしくお願いします」
「あ、ここまで来てビビりとかいいんで」
「大丈夫、貴方の前世は偉大な事を成した方なのでしょう? でしたら貴方に出来ない筈はありませんわ!」
と『発明王』が迫る妖を前にビビっている所に冬佳と羽琉といのりが声をかける一幕があった後に、南側の戦闘が始まった。偉人列伝と冬佳の四人が前衛で妖を止めながら、羽琉といのりががその後ろから火力と回復を叩き込む作戦だ。
「妖から人々を守る戦いこそ本義なれば」
抜刀した冬佳がつま先を妖に向ける。冬佳の父もAAAとして人を守った。父が守った平和を護りたい。勿論守りたい理由はそれだけではない。日常の中にある暖かさや優しさ。何でもないようなそういったことを守る事こそが、冬佳の本懐だ。
刀を振るい、構えなおす。剣術の基本は『型』を繰り返すこと。一つ振って確認。二つ振って確認。その所作の繰り返しが斬撃となる。基本を積み重ねた冬佳の斬撃は、神に捧げる舞のように美しい。その剣筋状にある妖は魅了されるように近づき、切り裂かれる。
「――此処から先へは通しません」
「おお、流石FiVE。吾輩いらなくない? 帰っていい? 駄目ですねわかってます」
「はい。怪我したら回復致しますので頑張ってくださいね」
赤いボンデージ風の戦闘装束に身を包んだいのりがおっとりした口調で『発明王』を引き留める。母の遺品である衣装を神具化したもので、十七歳の姿になったいのりにはぴったり合うのだが、恥ずかしいのだけはどうしようもない。口に出せる状況ではないが。
『冥王の杖』を一振りし、源素の力を集めるいのり。源素は杖の先に集まり光り輝き、その明るさは少しずつ増していく。いのりの合図とともに光は天に伸び、空中で爆ぜるように拡散して妖に矢となって降り注いでいく。
「いのり達のこの力は救いを求める誰かの為にあるのだから!」
「はい。まだ実力は充分とは言えませんが」
力不足を悔やむように羽琉は拳を握る。だがそれで足踏みをするような羽琉ではない。足りない事柄を認め、その部分をどう補うか。自分ができる最大限の行動は何か。大事なのは実力ではない。己を知り、そして行動する事。だから、羽琉は臆さない。
しゃがみ、立ち、弓を手にする。射法八節の初め。心を鎮めるために羽琉はそのイメージをする。六十メートル先の直径一メートルの的を狙うように意識を集中させ、矢を放つ。イメージの解放と同時に降り注ぐ天の弓。源素の光が妖に襲い掛かる。
「それでもここは通しません。僕と、そして大切な人のために」
奮闘する覚者達。その火力は進行する妖を蹂躙するに十分だ。
「鍛えられた筋肉の威力!」「敵だ、敵をよこせ!」「吾輩、智謀キャラなんだけどなぁ!」
偉人列伝の三人も必死になって(一部戯言を言いながら)戦うが、妖は矢次に戦場に突貫してくる。命を惜しむという知性がないがゆえに、その勢いは止まることはない。
川辺の防衛戦は、まだ始まったばかりだ。
●
そして南西側の戦場――村に向かう一本道。妖に襲われる子供の『妖精』と、少し離れた所にいるエフィルディス。
「面制圧のような戦いはあまり得意ではありませんが……実戦こそが最高の練習ですね」
真っ先に動いたのは燐花だ。前につんのめるように体を傾け、その勢いのままに駆け出していく。しなやかな動きは猫のよう。二本の妖刀を手に一気に妖との距離を詰める。手首を翻し、青の瞳を細めて妖を睨んだ。
『妖精』の子供、妖、燐花自身。それぞれの位置を正確に把握する。子供を傷つけないように意識しながら、二本の刀を交互に振るう。変幻自在の刃の動き。その素早さと的確な斬撃は燐花の空間把握能力の賜物か。子供を傷つけることなく、妖の血飛沫が上がる。
「救出は任せます」
「分かりました。任せてください!」
言って翼をはためかせる澄香。目指すは妖が群れを成して攻撃しているエフィルディスだ。体力に自信はないのであの数の妖の中に向かえば怪我は避けられないのだが、躊躇している余裕はない。子供たちの頭上を越えて、一気に迫る。
エフィルディスの元にたどり着いた澄香は、彼女と妖の間に割って入るように入り込んでタロットカード型の神具を構える。『節制』は献身を、『世界』はハッピーエンドを示す。そのカードが導くように、身を挺して澄香はエフィルディスを護る。
「エフィルディスさん、FiVEの者です。助けに来ました」
「ふぁい? え? あ、ありがとうございます」
「あ……FiVEって、知らないん、だ」
困惑するエフィルディスを見たミュエルは、言って頷く。俗世から隔絶された生活をしているのなら、FiVEのことを知らないのも道理か。だが助けに来たという意図は伝わったようなので、とりあえずは一安心。それよりも今は――
子供達と妖の間に割って入るミュエル。付喪の力で身体を固くし、妖の攻撃をその身に受ける。爪による斬撃とコードから発せられる稲妻。痛みが通り抜けるが、それを意に介することなく、ミュエルは妖を見た。その目に怯えはなく、ただ強い意志だけがある。
「大丈夫……あなた達も、妖精のお姉さんも、アタシ達が守るから……ね……」
「もしかして、お姉ちゃん達も村の人なの?」
「違うわ。でも今は村の仲間よ」
あやすように優しく『妖精』の子供を撫でながら大和は呪符を指で挟む。村を守ることは当然だが、この子達やエフィルディスを傷つけさせやしない。源素を体内で循環させながら、いきり立つ妖を静かに見ていた。
術符を振るい、印を切る。稲光が発生したかと思えば、次の瞬間に妖は雷撃を受けて痺れていた。妖に知性はない。無抵抗な子供よりも、自分を傷つける者に手を出すだろう。挑発するように大和は銀の髪を梳く。妖の怒りが突き刺さるのを感じていた。
「今のうちよ。妖はわたし達に任せなさい」
「でも、あれだけの数の妖なんだよ!」
「そうだな。だから俺に任せてきれ」
太刀を抜いて構える飛馬。妖の前に立ち、背中越しに子供達と言葉を交わしていた。かつて自分が隔者から守ってもらったように、今度は自分がこの子達を守ろう。この子達だけではなく、『妖精』達すべてをこの刀にかけて守り抜く。
地面を軽く斬りつける。刀の間合で刻まれた線。この線は神秘的に妖の進行を止めることはできない。だがそこより先に入った妖は、皆飛馬の刀に攻撃を止められていた。ここから先は通さない。爪も、牙も、炎も、氷も、悪意さえもここが行き止まりだ。
「こっから先は立ち入り禁止だ。妖精のねーちゃんと子供はわたさねーよ!」
啖呵を切る飛馬。その気持ちはここに立ちつ覚者の共通の言葉だ。
だが妖の数は多い。次々とやってくる妖は波のよう。暴威が形となってここに立つ者に襲い掛かる。
様々な思いを込めて、戦いは続いていく。
●
南側の闘いの目的は『妖をできるだけ足止めする』事である。それは妖を足止めする覚者の数が多ければ為しやすい。
「よし、吾輩ここから回復に専念する! 痛いのやだとかそんなことではないのであしからず!」
なのでダメージ蓄積により攻勢から回復に移行する『発明王』の行動もあながち間違いではない。一人倒れるたびに妖が突破される確率が跳ね上がるからだ。
「数が増えてきましたわね!」
前衛が妖を押さえていれる数を超過し、後衛までやってきた妖をいのりはその身をもって防いでいた。覚者の気力が減ってくればいのりは気力回復に努めることになり、攻撃に出る機会も減ってくる。継戦能力を維持しなければならないが故の弊害だ。
(ミュエルさん……大丈夫でしょうか……?)
口にはしないものの、もう一つの戦場に居る恋人を心配する羽琉。彼も身を張って妖を止めながら、戦線の維持に努めていた。いのりと役割分担するように攻撃と回復を交代で行っているがゆえに、バランスのいい戦場コントロールが出来ていた。だが――
「流石にすべては止めきれませんか……!」
悔やむように冬佳は戦線を突破する妖の背中を見る。追えば目の前にいる妖を押さえきれなくなるため、見送るしかない。村には何人かの防衛役が出てきていることもあり大きな被害は出ないだろう。そう言い聞かせて刀を振るった。
完全に妖を止める事こそできなかったが、六名の覚者の奮闘がなければ村まで被害が及んでいただろう。
●
「ええと、貴方達は? あ、貴方はこの前の?」
「お久しぶりね。説明は後。今はここを凌ぐわ」
FiVEの陣に戻ったエフィルディスは、見知った覚者に声をかける。大和はそれに応えるように頷いて、妖に目を向けた。説明している余裕はない。
「あら、よっと!」
二本の太刀を振るいながら飛馬が敵陣で舞う。攻撃してきた妖の大剣に乗るように立ち、別方向からきた槍を捌く。無傷とは言わないが、その多くを凌いでいた。目まぐるしく動く戦場の中、確実に足止めをする要となっていた。
「大丈夫……この程度なら、痛くない、から……」
心霊系妖の冷風を受けながらミュエルが口を開く。お返しにと放った香風が妖を塵にする。爪や刃の傷こそ目立つが、ミュエルは術式系統の攻撃への耐性は高い。その特性を生かし、前に立って妖に立ち向かっていた。
「流石にこの数全てを避けきれませんが……」
蒼銀の炎を煌めかせ、燐花は戦場を駆ける。足を止めることなく走り回り、すり抜け様に妖を切る。その速度をとらえきれる妖は少なく、結果として大きなダメージを受けることなくこの防衛戦を乗り切っていた。
「一気に焼き払います!」
タロットカードを戦場に向け、横なぎに振るう澄香。その軌跡のままに炎の波が生まれ、戦場の妖は赤い舌に飲み込まれる。全体攻撃は狙いこそ甘くなるが、澄香の術式の威力は随一だ。避けきれなくとも無視できない傷が残ることになる。
「確実に仕留めていくわ」
妖に追い打ちをかける様に大和が動く。太ももに装着してあるベルトのホルダーから術符を取り出し、短く印を切る。源素の力が活性化され、雷撃が妖を襲った。一息つく間もなく現れる妖を見ながら、新たな術符を用意する。
「皆さん、大丈夫ですか!」
覚者にとって予想外の誤算は、エフィルディスの回復能力である。五つの源素に属さない回復の術式。おそらく因子由来の物なのだろうそれが、覚者の闘いに大きく貢献していた。
そして――
●
村を円状に囲むように黒い霧が発生する。それは少しずつ濃度を増し、影の壁となって一つの結界となった。
「皆さん、早く! 合言葉は前と同じにしています!」
結界を張った『妖精』の声が響く。その声に弾かれるように覚者達は村に向かって走り出す。
その背中を追う妖。体力の残っている者は振り向いてその攻撃を弾き、サポートしながら結界内へと向かっていく。以前言った合言葉を口にして、影の内側へと転がり込んだ。
襲い掛かってくる妖は結界に阻まれ、結界の防衛機構により傷ついていく。その様子を見て、覚者達は安堵の息を漏らす。
多少妖が突破したが、村には何の被害を出す程ではなかった。そして何よりも、
「皆さん……ええと、FiVEでよろしいですか? ありがとうございます」
「「おにいちゃんおねえちゃん、ありがとう!」」
エフィルディスと『妖精』の子供達も無事、助けることが出来た。彼らを救うために尽力した彼らにとって、この謝礼と結果が最大の報酬だった。
「エフィルディス様、ご無事で何よりですわ!」
南側で戦っていた覚者達も合流し、三人の無事を喜びあう。
「あれ? あの、お久しぶりです。その……どういう事なんです?」
村に帰ってきたら妖に追われ、あるはずの結界はなく『妖精』以外の覚者が防衛の手助けをしていた。しかもその一部はかつて外で出会った者達だ。困惑するエフィルディス。そんな彼女に結界を張った『妖精』が簡単に説明をした。
「そうだったんですか。皆さん、村を守っていただいて改めてありがとうございます。
貴方達がいなければ、村がどうなっていたか」
「いえ。成り行きとはいえ結界を消したこちらにも責任はありますし」
「立ち話もなんです。村に戻りませんか。傷を治さなければいけませんし」
言われて覚者は自分達の傷具合を確認する。命数こそ削らなかったが、五分間の戦いは大きく体力と気力を削っていた。個体としてみれば弱いランク1だったとはいえ、やはりあの数では無傷とはいかない。
(そもそも、どうしてこんな大量の妖が現れたのでしょうか……?)
燐花は戦場の方を振り返り、思考を巡らせる。ランク1に知性はない。群を作って襲う程度の考えはあるが、計画立てて何処かを襲撃するほどの知性はない。偶然か? それとも『けしかけた』何かがいるのか? 仮に居たとして何が目的なのか?
首を振って推測を止める。決定づけるには情報が足りない。今は一つの村を襲った脅威が去ったことを喜ぼう。
そして新たな覚者達との絆が結ばれたことを。
●
かくして妖精郷と呼ばれた覚者の村との物語は、一旦ここで幕引きとなる。
今回の件もあり『妖精』達の興味は外の覚者に向けられることになる。それは純粋な謝礼や興味もあるが、今回の襲撃を受けての対策も含まれていた。防衛を結界のみに頼るわけにはいかず、そういった情報を求めた結果だ。
FiVEもまた『妖精』への援助を惜しまないことを約束する。互いに交流を深め、技術を交換することで互いの仲は深まっていく。四半世紀外部との接触を制限していた『妖精』達が慣れるまで時間はかかりそうだが、いずれ五麟市に耳が尖った覚者が歩くことになるだろう。
こことは異なる世界への『門』が存在する『妖精』の村。その村由来の覚者。
故に彼らは『異(ことなり)の因子:異邦人』と呼ばれることになる。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『妖精郷の守護者』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
『妖精郷の守護者』
取得者:獅子王 飛馬(CL2001466)
『妖精郷の守護者』
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『妖精郷の守護者』
取得者:宮神 羽琉(CL2001381)
『妖精郷の守護者』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『妖精郷の守護者』
取得者:環 大和(CL2000477)
『妖精郷の守護者』
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『妖精郷の守護者』
取得者:水瀬 冬佳(CL2000762)
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
『妖精郷の守護者』
取得者:獅子王 飛馬(CL2001466)
『妖精郷の守護者』
取得者:柳 燐花(CL2000695)
『妖精郷の守護者』
取得者:宮神 羽琉(CL2001381)
『妖精郷の守護者』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『妖精郷の守護者』
取得者:環 大和(CL2000477)
『妖精郷の守護者』
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『妖精郷の守護者』
取得者:水瀬 冬佳(CL2000762)
特殊成果
なし
