<黒い霧>霧に狙われた雷獣
<黒い霧>霧に狙われた雷獣


●雷を包む黒い霧
 雷獣といえば、電波障害を起こしていた原因として知られている。
 同時に、彼らは四半世紀もの間、数々の妖を封じてくれていた。人間にとって守り神のような存在でもある。
 現在、結界は解かれている。F.i.V.E.の働きにより、雷獣が抑え付けていた妖を討伐したことが大きな要因だ。
 彼らは結界を解いてその役目を終え、ひっそりと暮らしている。

 ――その雷獣が今、危機に陥っている。

 兵庫の山奥。
 すでに老いてしまった雷獣『天麟』は自身の役目を終え、蹲って眠りについていたのだが、剣呑なる殺気を感じてゆっくりと起き上がる。
「今更、我に何を求めるのか――」
 その前に現れるのは、数体の全身黒ずくめの人影。
「ドーモ、ライジュウサン」
 そのうちの1人が妙にテンション高く語りかける。
 カタコトなところを見ると日本人ではなさげだが、フードを取り去ったその姿は黒い髪に褐色の目を持ち、日本人らしい特徴もなくはない。西洋系の日系人といったところだろう。
「出会ったばかりデスガ、アナタには死んでモライマース」
「…………我の命、貴様らにとられるほど、安くはないぞ」
 襲い来る黒い影。雷獣はその力に脅威を覚えつつも身構える。己の死期になるかもしれないと感じながら。

 一方、F.i.V.E.にて。
「夢見が黒霧の活動を予見した」
 中 恭介(nCL2000002)は会議室に集まった覚者達へと告げる。
 なんでも、雷獣『天鱗』が黒霧に狙われる予知を、久方 万里(nCL2000005)が夢見で行ったというのだ。なお、万里はこの場には不在である。
「しかしながら、なぜ雷獣が狙われているのか……」
 雷獣が結界を張ることを止めたことで日本から電波障害がなくなり、電波、無線機器などに悪影響がなくなった。
 人間にとっては、メリットばかりの状況。デメリットとなる妖の活動活性化についても、F.i.V.E.が対象を討伐したことでほぼほぼ食い止めている。
 黒霧が雷獣を狙う理由として考えられるのは、まず、誰かからの依頼。
 しかし、人間がこの討伐を依頼する動機など全く持って見当たらない。
 妖などであれば、力を阻害される可能性のある存在であり、倒されるのを喜ぶ可能性はあるが、いくらなんでも人間である黒霧と妖が繋がっているとは考えにくい。
「雷獣が生きていることでまずい状況……。離脱を阻害される、とか」
「ふむ、ありえる話だな」
 そこで、覚者の誰かが声を出したことで、中が唸りながらも答える。
 これまで、F.i.V.E.は黒霧の暗躍に煮え湯を飲まされてきた。
 それは、彼らの持つスキル、『離脱』にある。黒霧を名乗る者達はこのスキルのお陰で、戦場から忽然と姿を消してしまうのだ。
 いくら物理的に押さえつけていても、黒霧は戦意をなくした地点で戦場から霧のように消え失せてしまう。覚者達も様々な手を講じてはいたが、半ばお手上げといった状況だった。
 もはや打つ手なしかと思った矢先、この一件である。
 向こうも、雷獣とF.i.V.E.が繋がっている情報は得ているだろう。だからこそ、F.i.V.E.は自分達を完全に捕縛する手段を得る事を恐れているかもしれない。
「すでに、雷獣を排除する為、黒霧の手勢が送られているはず」
 現状、敵の行動を事前に食い止められなかった為に出遅れている状況だが、現場に急ぐことで雷獣を守ることができるはずだ。これまで妖を封じてきた労を労う為にも、黒霧の魔の手から護りたい。
「お前達の力で、助けてやってくれ」
 中のブリーフィングが終わるやいなや、覚者達は現場へと急行していくのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.雷獣を護り切ること
2.黒霧の撃退
3.なし
黒霧構成員が、雷獣を狙っていることは分かりました。
皆様のお力で守っていただきますよう願います。

●敵
○黒霧構成員……6人
・ケヴィン・暮森(-・くれもり)……23歳男性。
 覚醒時、額に第3の目を発現します。
 最近、発現した日系人。怪×天、カミソリを武器として所持。
 前衛に立ち、率先して切りかかってきます。
 発現後、才能もあってか因子の力を十二分に使いこなし、
 覚者の皆様よりも強い力を持ちます。
 セリフ例)
「ジャパニーズ、ニンジャ、なんてサイコーなんデショウ!!」
「トゥルーサーのミナサーン、これはテンチュウデース!!」
「シズルどのに逆らうオロカモノは、セイバイシマース!!」

・末端構成員、5人。
 男性……暦×天、獣(申)×火、彩×水。
 女性……現×木、械×土
 覚者の皆さんよりもやや力は劣り、いずれも苦無を武器としております。

 黒霧は以下のスキルを持っています。
・隠密……気配を全く感じさせず、移動することが出来ます。
 覚者であっても、発見は容易ではありません。
・離脱……戦闘が終われば、
 例え戦闘不能になっても戦場から跡形もなく消え失せます。

●NPC
・雷獣『天鱗』
 猫や虎のような見た目をしていますが、
 巨大な体を持ち、全身から雷を放つ事ができます。

 すでに囲まれた状況の雷獣は体力が3割ほど減っています。
 スキル「雷獣」「脣星落霜」「雷纏」を使用して応戦しております。

●状況
 現場は山中の高い岩場(7~8mほど)、
 厚さ5mほどの岩壁に囲まれた場所で、頭上は空を仰ぐことができます。
 中には、1ヶ所のみあるトンネル(人一人通れる高さと幅)を
 通って入ることができます。

 中は直径50mほどの円状で戦うには十分な広さがあり、
 そこで眠りについていた雷獣を、
 黒霧構成員が囲む形で襲っております。
 現場到着時、黒霧と雷獣交戦から2ターンが経過しています。

●追加情報
 プレイヤー情報ですが、この依頼を成功させると、
 『離脱阻害』のスキル
(弱電波を放つことで、『離脱』スキルを使用する者を縛り付ける)を
 入手できます。ご希望の方はラーニングを活性化願います。

 それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2017年09月24日

■メイン参加者 6人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)

●黒霧の狙い
 兵庫にやってきたF.i.V.E.の覚者達は、山奥でひっそりと暮らしていたはずの雷獣『天鱗』の元へと急ぐ。
「黒霧ちゃん達に、お世話になった雷獣ちゃんが襲われてるって聞いて、ナナンは黙ってられないのだ!」
 ほのぼのした雰囲気の『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)だが、今回ばかりは雷獣を助けようと気合が入っている。
「絶対! 雷獣ちゃんを助けなきゃ!!」
「ほおう。今度は雷獣狙いで来たのかね……」
 フルフェイスを被った『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) はこの状況を聞いて、どことなく感心したように声を出す。
「なんというか……、有利に立ち回れるよう動く度にボロが出るというか……」
「これまで手を焼いてきた『離脱』スキルですが、雷獣さんが状況打破の糸口を握っているかもしれないと……」
 今回の黒霧の動きによって、探偵に憧れる『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は確信を抱く。クォーターである為か青い瞳を持つ『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) が改めて状況を整理しながら呟くのに、彼は頷いた。
「『離脱』を阻害する方法を雷獣さんが……?」
 穏やかな印象の黒髪美人、上月・里桜(CL2001274)が小さく言葉を繰り返すと、逝が「あゝ、そういう事か」と何かを得心して。
「霞を集めるのに、ザルを振り回してた様なものか」
 彼はしばし、黒霧のスキル「離脱」について思案する。
 離脱が施された術式の一種だと仮定するなら、物理では効果が無い。その術式に干渉しなければ結果として留める事も出来ない。
 そして、『結界』で妖を留める術を持つ古妖(ヒト)が居る……。使う要素は違えど、その構成が化学である事に変わりないというところだろうか。
(恐らくは、雷獣結界の指向性を変える事で特定対象に効果を及ぼす?)
 ならばこそ、その答え合わせをしたいと彼は考える。
「益々、生きててもらわんと困るねえ。花装に守宮、出といで久し振りの出番だぞう」
 2本の妖刀を取り出す逝。1本は間引きされた刀身に磁力が帯び、もう1本は刀身に様々な花の彫り物が施されていた。
「今回こうして動いてくれたからこそ、それが分かった。鳩も鳴かずば豆鉄砲食わらないって奴だよね!」
 自信満々に叫ぶ奏空。ちなみに、正しくは『雉も鳴かずば撃たれまい』である。
「黒霧が雷獣の持つかもしれない、離脱阻害の力を狙うのは解りますけれど……」
 チーム最年少の『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は静かに喋り始めたが、その表情は明らかに憤怒している。
「だからと言って年老いて、静かに最期を待つ者をそっとしてすらおけないんですの!?」
 例え雷獣がいのり達に協力してくれずとも、雷獣の穏やかな時を妨げる黒霧を決して許してはおけないと、いのりは苛立ちを露わにする。
「黒霧の狙いがいずれにせよ、雷獣さんを殺させる訳にはいきませんね」
「はい、一先ずは天麟さんの安全が優先です」
 何かあるのは間違いないが、里桜は黒霧を阻止しようと意気込む。ラーラがそれに同意していた。
「黒霧ちゃん達は、ナナン達がちゃんとした天誅をするよぉ!」
 奈南も元気いっぱい叫び、黒霧の打倒を誓うのである。

●トンネルを抜けて……
 さて、一行は程なく厚くそして高くそびえる岩盤の前にたどり着く。
 中からは不明瞭だが、なにやら怒号が聞こえてくる。
 岩場内部は上部を覆う物がないという。それもあって、予め里桜が守護使役の朧を飛ばし、真下の状況を確認させる。
「やはり、雷獣さんが……」
 岩場の内部では、6人の黒ずくめの者達が雷を纏う大きな獣……雷獣『天麟』へと襲い掛かっていた。
 取り急ぎ、中に通じるトンネルを発見した覚者達。予め突入の順番は道中で決めており、真っ先に突入した逝がトンネルを駆け抜ける。
 黒ずくめ達は基本、連携しながら手にする苦無や術式を使い、大型の獣を攻め立てるのだが……。
「カクゴ、してクダサーイ!」
 えらくテンションの高いカタコトの男だけが叫びながら、カミソリを振り回している。
 覚醒して両腕を戦闘機の主翼のように変化させた逝は、そいつに対してエネミースキャンを試みながら飛び込む。
「あれがケヴィンとかいう奴みたいね」
 敵の分析に成功した逝は、それを後続の仲間達へと伝えていく。個別に見なければいけないのが多少面倒だが、情報がないよりは格段に状況は良くなる。
 すぐ後ろにいたのは、灰色の髪を金に変色させた奏空だ。
「雷獣! 助けに来たよ!」
 トンネルを抜けた彼は雷獣へと大声で呼びかけ、黒霧の前に飛び込む。
「お主らは……」
 天麟は雷を黒ずくめへと落として応戦しながら、駆けつけてきたF.i.V.E.に少しだけ驚きの表情を向けた。
(雷獣、俺達に力を貸してほしい)
(……承知した)
 送受心・改で端的に言葉を交わす奏空は、雷獣の気の流れを活性化させて傷を塞ごうとする。
「黒霧は雷獣から離れるんだ! お前らの相手は俺達F.i.V.E.だ!」
 今度は敵の注意を引き付けるべく黒霧へと彼が言い放つと、3番手の奈南もまた雷獣を守る為にと飛び込んでいく。
「ンン、クセモノデース!」
「一気にいくのだ!」
 叫ぶ彼女に対し、黒霧小隊を率いるケヴィン・暮森は部下に呼びかける。次々に飛び込んでくる覚者を危険視した黒霧は奈南の前に立ち塞がった。
 だが、奈南はそれを想定済み。彼女は閃光手榴弾をバラ撒き、敵の目をくらませ、さらに生み出した気弾を浴びせかけていく。
 敵の足が鈍ったところで、ラーラ、いのりが続く。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 魔女っ娘衣装に身を包むラーラは、最初から本気モード。仲間に治癒力を高める香りを振り撒いて態勢を整え、しっかりと敵を見据えてその挙動を逐一確認する。
「雷獣の眠りを妨げるのはお止めなさい!」
 いのりは覚醒によって女子高生時の姿に変貌し、母親譲りのボンデージ衣装を纏って黒霧に叫びかける。
 それだけでなく、いのりは相手を粘りつくほどに濃い霧で包み込み、敵の能力を下げようと試みていた。
 そして、最後は里桜。だが、黒霧の一部がトンネル側にやってきていたこともあって、出口を塞がれた形となる。
(ここまで進んでいれば、物質透過で……)
 里桜は内側の空間までの間の岩盤を通り抜け、黒霧の真横に現れる。そして、雷獣を含めて潤しの雨を降らしていく。
 岩場の中の交戦。覚者達は全力で雷獣の守りに徹しつつ、黒霧構成員の撃退を目指す。

●雷獣を護りきれ!
 岩場に入ってきた黒霧構成員。その狙いは間違いなく雷獣「天麟」に向いている。
 構成員達は黙したまま戦い続けているが、2、3人を逝が抑える。彼曰く、緩衝材の役割との事だ。
「簡単に倒せるとお思いでないよ」
 2本の妖刀、「鎧塚守宮」、「鎧塚守宮」で天麟をガードする逝は、如何なる構成員の攻撃も通しはしない。
「おっさんを如何にかしない限り届かないし、お宅らは地団駄踏んで帰ってもらう」
 彼は飛んでくる苦無を弾き飛ばし、さらに火の玉や地面から出る岩槍をシャットアウトする。
 最後尾の里桜がこの場に姿を見せたことを受け、敵に雷を落としていた奏空は暴れるハーフの男を直接抑えにかかる。
「ハッハー、ジャパニーズニンジャ、サイコーデース!!」
 額の三つ目から怪光線を発射するケヴィン・暮森に、奏空は少しばかり苛立ちを見せていた。
(片言の日本語でニンジャニンジャと喚かれると、なんだかうるさい)
 青筋を浮かべる奏空は、黒霧を挟んだ向こう側の天麟が雷を発するのを見て、仕掛ける。
 二対の忍者刀「KURENAI」と「KUROGANE」で地を這う軌跡を描き、彼は跳ね上がるようにしてケヴィンに切りかかった。
「ぜんぜん忍んでないから、忍者じゃない!」
 前世で忍びの者だったという記憶がかすかにある奏空にとって、目の前の相手は忍者と認められないのだろう。
「カッキーン!」
 ホッケースティック改造くんを振るい、敵を殴りつけていた奈南。仲間が揃ったこともあって、彼女は雷獣へと駆け寄っていく。
「雷獣ちゃん!」
 奈南は自身の生命力を削り、すでに傷ついていた雷獣の体を癒す。
「すまぬな」
 返礼に対してにっと笑って返した奈南は、改めて黒霧と対する。
 その間に、メンバー達は徐々に黒霧を叩く。
 足音を消して移動するラーラは、岩場というこの場所を最大限に生かして立ち回る。
「随分と胡散臭い方が刺客のようですが……」
 後方に位置取った彼女は、片言で喋るケヴィンを見つめて。
 ただ、奏空に猛然と攻め立てる相手の実力は折り紙つき。油断せずに行かねばとラーラは気合を入れつつ自身の力を高める。
 まずは、手前で邪魔する構成員を駆逐しようと、ラーラは描いた魔法陣より真紅の火猫を呼び出し、構成員達に向けてけしかける。
 疾走する猫は敵陣に飛び込み、痺れを走らせていたようだ。
 前線で壁となる逝、奏空を、里桜が回復を繰り返す。彼女は折を見て、自身の力を高め、さらに防御シールドを展開していた。
「トゥルーサーのミナサーン、テンチュウデース!!」
 やはり、ケヴィンは手ごわい。前のめりに攻め立ててくる彼の姿に、奈南は眉をひそめて。
「仕える人を間違っているし、悪い人に仕えてるのに『天誅』って言うのはおかしいって、ナナンだって分かるよぉ!」
 大きくホッケースティック改造くん振りかぶった奈南は、構成員1人を昏倒させる。そいつは地に倒れる前にこの場から姿を消していく。
「そんな人は、ナナン達が成敗してくれるのだー!!」
「シズルどのに逆らうオロカモノは、セイバイシマース!!」
 交錯する仲間と黒霧。いのりは戦いながらも、ケヴィンの姿を見てやや呆れていたようで。
(それにしてもこの方、本当に忍者を理解しているのでしょうか?)
 いのりは敵全員に感情の奥底に働きかけ、激情、焦燥を呼び起こす。それによって、2体の構成員が混乱し始めていた。
 それでも、我の強いケヴィンに効果がないようで、いのりは折角だからと自身の考えを彼へと告げる。
「真に優秀な忍者とは誰にも知られず生き、誰にも知られず任務をこなし、誰にも知られず死んで行く者ですわ」
 いのりはさらに、ケヴィンを煽る言葉をぶつける。
「既に名も姿も知られた貴方は例え高い戦闘力があったとしても、忍者としては所詮二流ですわね」
 しかしながら、ケヴィンにはさほど効果がないようで。
「チッチッ、ニンジャはニンムをカンスイすることが全てデース」
 ケヴィンは体術も使いこなすようで、カミソリで必殺の一撃を狙う。奏空の体を傷つけた彼は、その血をペロリと舐め取ったのだった。

 黒霧構成員は見事に連携を取って覚者を苦しめる。
 人数的な問題もあって、序盤こそなかなか黒霧の隙に付け入るのが難しい状況もあったが、徐々に形勢は覚者達の方に傾くこととなる。
 その間、ずっと防御体制を取り続けていた逝は、目の前の獣憑が繰り出す炎を纏わせた苦無を受け止めて。
「まあ喰われないだけ、マシだと思っておくれ。悪食を持ってきてたら、お宅らの心と魂を喰い殺すまで止まれないしね」
 何のことか分からない構成員はさらに炎の塊を彼へと飛ばすが、逝はさほど痛手を受けた様子はない。里桜の回復が十分に行き届いていたことが大きいようだ。
「そうだ。この前に喰ったヒトは元気になったかね? 『またお出で』って伝えておいておくれ」
 逝に構成員が気を取られている隙に、いのりが敵陣へと星の輝きを伴う光の粒を降らせ、逝が抑える敵を沈める。そいつは煙のようにこの場から姿を消してしまう。
 その際、いのりはケヴィンを範疇に収めることを忘れない。徐々にではあるが、覚者達は構成員の数を減らしつつ、攻め立てる。
 それに伴ってラーラもまた内側に入りこみ、黒霧を引き離そうとする。そして、すかさず拳大の炎を連続して浴びせかけ、構成員1人をこの場から退去させてしまう。
 敵の数が減れば、里桜の負担も軽くなる。回復の合間を見た彼女は、岩の槍を地面から突き出して1体を沈めた。
 その間ずっと奏空がケヴィンを抑え続ける。彼は速度を力に変え、圧倒的なるスピードで敵の体を刻む。
 されど、ケヴィンも負けてはいない。鈍く光るカミソリは、覚者達の急所を的確に狙おうとしている。
「イチゲキヒッサツデース!」
 この頃になれば、逝がケヴィンの抑えにも回っていた。覚者達も疲弊してきてはいたが、敵はそれ以上に痛手を被っており、態勢を整えられずにいる。
 奈南が気弾を発してケヴィンもろとも浴びせかけた構成員を地に伏すと、ラーラが炎を連続して浴びせ、唯一残るケヴィンを追い込む。
「シット、忍務はシッパイデース……」
 戦意を失ったケヴィンは煙のように消え、この場からいなくなる。構成員達もまた全員の姿が跡形もなくなっていた。
「逃げたか……」
 頭上を見上げる天麟。静けさを取り戻した岩場で、彼はようやく蹲るように身体を丸めて座り込んだのだった。

●黒霧に対する大きな力
 黒霧を退けた覚者達。
 奈南が真っ先に雷獣、天麟の元へと駆けつける。
「雷獣ちゃん、大丈夫? 怖くなかったかなぁ……?」
 奈南が天麟の傷を気遣うと、彼は小さく首肯した。
「問題ない。感謝するぞ」
「もう眠りを邪魔する者はおりません。静かにお休み下さいませ」
 いのりも天麟に、安らかに時を過ごすよう求める。
 そこで、里桜が恵み雨を天麟に降らせることで、傷を癒しながら問いかけた。
「黒霧に狙われる心当たりはありませんか?」
「おそらく……、我に奴らを縛り付ける力を持つからだろうな」
 先ほど、黒霧が離脱していく様を天麟も目にしていた。
 交戦中ということもあり、彼は戦いに集中していたようだったが、その気になれば雷獣として雷を飛ばし、戦場から離れられないようにできたとのことだ。
「あの『離脱』には、私達も困っていまして……」
「ならば、少し時間を貰うぞ。お主らならば、使いこなすことができよう」
 希望する里桜に、奏空、逝はしばしの間、雷獣より相手を戦場に束縛する為の力を与える手解きを受ける。
 戦場に微弱な雷を放出することで、離脱の発動を阻止するというもの。これさえ使うことができれば、悠々自適に逃げ去る黒霧を捕らえる事ができるかもしれない。
「これで今度こそ捕まえてやる!」
「ふむ、大方は合ってそうね」
 奏空は、今度こそ黒霧を一網打尽にと意気込む。逝も己の考えが大方合っていることを確認しつつ、実践していたい様子だった。

 そうして、力を与えてもらった後は、覚者達は再び雷獣を安らかに眠らせる為、この場を離れることにする。
「困った時は、ナナン達がいつでも守るから安心して欲しいのだ!」
 また危険にさらされれば、すぐに駆けつける。奈南は大声でそう天麟に呼びかけ、去り行く仲間を追いかけるのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

黒霧の撃退、お疲れ様でした。
ラーニングを装備し、かつ希望のあったお三方へ、
黒霧の『離脱』対抗スキルをお送りいたします。

一気に黒霧を攻め立てるきっかけとなれば幸いです。
今回も参加していただき、
本当にありがとうございました!!

ラーニング成功!
スキル:雷獣地縛
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
取得者:上月・里桜(CL2001274)
取得者:緒形 逝(CL2000156)





 
ここはミラーサイトです