妖怪友仁録・第導話――導かれし六枚
●ファイヴ村お悩み相談室へようこそ!
「あのお、もし。あなたが見たというのは……こんな顔でしたか!?」
などと言って顔を上げたのは、顔のない成人女性だった。
カウンター越しにそれを見つめる眼鏡の女性。ちらりと書類に目を落とすと……。
「はい。『のっぺらぼう』の方ですね。今回はどうされましたか?」
「あ、はい。ここへ来れば相談に乗ってくれると聞いたのですが……」
ここは世にも奇妙なファイヴ村。廃村から一躍名物村にまで発展したこの土地は、古妖を積極的に受け入れる姿勢から行政的にも着目され古妖特区としての地位を確立している。
その一方で、訪れる古妖の多種多様なお悩み相談も受け付けていた。
「実は私の隠れ里が山賊に乗っ取られてしまいまして」
山賊とは時代錯誤な、と思う無かれ。
日本逢魔化以降、警察より強い一般市民が急増したことで地方には無法地帯が生まれ、無線が通じない時期には通りかかる者を襲って身ぐるみをはぐ集団も存在していた。
「私たちは『妖怪組合』という組合を作って長年隠れ里で暮らしておりました。基本的には自給自足。時には人に化けて稼ぎに出たり、インターネットを通じて収入を得たりして……」
古妖の妖に、怪物の怪。ひとから離れたものたちの組合という意味で、『妖怪組合』である。
彼らは自分たちの社会的立場をわきまえ細々と暮らしていたというが、ある日里を見つけた山賊たちに集落を奪われてしまったという。
「この村を新しい住処とすることはできます。けれど、あの土地は私たちにとって故郷。取り戻す手伝いを、どうかして頂けませんでしょうか」
勿論、ファイヴは困っている方がいればどんな所にでも。
そう応えた受付女性に、のっぺらぼうは一つの銀貨を取り出した。
「自分たちの故郷を取り戻すのです。直接は乗り込めませんが、かわりに私たちの妖力をお貸しします。この『妖怪銀貨』で」
●妖怪銀貨と山賊の砦
「というわけで、皆に集まってもらったの」
久方 万里(nCL2000005)は村に集まった覚者たちに人数分の銀貨を見せた。
「山賊が集落を奪って砦にしちゃったんだ。それを取り返すのが任務なんだけど……ただ正面から乗り込んで戦うわけにはいかないの。とらわれている古妖を助けたり、村が焼かれるのを防いだり、数が沢山いる山賊隔者と渡り合ったりするにはね」
そこで、といってさきほどの銀貨を掲げた。
「集落の古妖さんたちが、力を貸してくれることになったの。この銀貨を媒介にすることで、一時的に古妖さんの力を使うことができるんだよ!」
銀貨は六枚。
『のっぺらぼう』『えんえんら』『へまむし』『くはしや』『かまいたち』『かげわに』だ。
それぞれが特別な力を持っており、銀貨を介してその力を使うことができる。
「使うかどうかは皆に任せるよ。皆にも特別な能力があるからね。
けどこの古妖たちの力は覚者のスキルではまねできないものばかりだから、活用していったほうがいいかも」
ミッションは砦への潜入。
混乱させ隙をつくりとらわれた古妖を救出し、追ってくる山賊たちを倒すのだ。
「古妖たちと力を合わせて、頑張ろうね!」
「あのお、もし。あなたが見たというのは……こんな顔でしたか!?」
などと言って顔を上げたのは、顔のない成人女性だった。
カウンター越しにそれを見つめる眼鏡の女性。ちらりと書類に目を落とすと……。
「はい。『のっぺらぼう』の方ですね。今回はどうされましたか?」
「あ、はい。ここへ来れば相談に乗ってくれると聞いたのですが……」
ここは世にも奇妙なファイヴ村。廃村から一躍名物村にまで発展したこの土地は、古妖を積極的に受け入れる姿勢から行政的にも着目され古妖特区としての地位を確立している。
その一方で、訪れる古妖の多種多様なお悩み相談も受け付けていた。
「実は私の隠れ里が山賊に乗っ取られてしまいまして」
山賊とは時代錯誤な、と思う無かれ。
日本逢魔化以降、警察より強い一般市民が急増したことで地方には無法地帯が生まれ、無線が通じない時期には通りかかる者を襲って身ぐるみをはぐ集団も存在していた。
「私たちは『妖怪組合』という組合を作って長年隠れ里で暮らしておりました。基本的には自給自足。時には人に化けて稼ぎに出たり、インターネットを通じて収入を得たりして……」
古妖の妖に、怪物の怪。ひとから離れたものたちの組合という意味で、『妖怪組合』である。
彼らは自分たちの社会的立場をわきまえ細々と暮らしていたというが、ある日里を見つけた山賊たちに集落を奪われてしまったという。
「この村を新しい住処とすることはできます。けれど、あの土地は私たちにとって故郷。取り戻す手伝いを、どうかして頂けませんでしょうか」
勿論、ファイヴは困っている方がいればどんな所にでも。
そう応えた受付女性に、のっぺらぼうは一つの銀貨を取り出した。
「自分たちの故郷を取り戻すのです。直接は乗り込めませんが、かわりに私たちの妖力をお貸しします。この『妖怪銀貨』で」
●妖怪銀貨と山賊の砦
「というわけで、皆に集まってもらったの」
久方 万里(nCL2000005)は村に集まった覚者たちに人数分の銀貨を見せた。
「山賊が集落を奪って砦にしちゃったんだ。それを取り返すのが任務なんだけど……ただ正面から乗り込んで戦うわけにはいかないの。とらわれている古妖を助けたり、村が焼かれるのを防いだり、数が沢山いる山賊隔者と渡り合ったりするにはね」
そこで、といってさきほどの銀貨を掲げた。
「集落の古妖さんたちが、力を貸してくれることになったの。この銀貨を媒介にすることで、一時的に古妖さんの力を使うことができるんだよ!」
銀貨は六枚。
『のっぺらぼう』『えんえんら』『へまむし』『くはしや』『かまいたち』『かげわに』だ。
それぞれが特別な力を持っており、銀貨を介してその力を使うことができる。
「使うかどうかは皆に任せるよ。皆にも特別な能力があるからね。
けどこの古妖たちの力は覚者のスキルではまねできないものばかりだから、活用していったほうがいいかも」
ミッションは砦への潜入。
混乱させ隙をつくりとらわれた古妖を救出し、追ってくる山賊たちを倒すのだ。
「古妖たちと力を合わせて、頑張ろうね!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖の救出
2.山賊退治
3.なし
2.山賊退治
3.なし
まってましたの現代妖怪絵巻でございます。
でもって注意。本編で登場する『妖怪』という単語は妖怪組合オリジナルのものです。この世界ではむかしから古妖っていう名前がリアルでいう妖怪を表わす基本の単語なんだよって社長が言ってました。
●妖怪銀貨
さあて気になるスペシャルアイテム、妖怪銀貨についてご説明しましょう。
こちらのアイテム、一枚一枚に古妖の姿が彫り込まれた特別な依代銀でできています。持ち主が求め、古妖側が了承した場合のみ、古妖の力を持ち主が行使できます。
技能スキルやパッシブスキルがもう一枠増えた感じでお考えください。
といっても、使えるのは今回のシナリオ内のみですので、慎重に選択してくださいね。(本音:ええい早い者勝ちだ!)
ではそれぞれの効果について説明しましょう。
・のっぺらぼう:特定人物に変身できます。タネは強烈な集団幻覚なので変身中は決して見破られることがなく、その人をよく知らなくても完璧な再現ができます。
・えんえんら:身体を煙に変えることができます。狭い隙間もらーくらく。戦闘中でも自在に実行・解除ができますが、能力値にはボーナスが入りません。
・へまむし:明かりを消してびっくりさせる古妖。その能力は現代でも有効で、LED電球だろうが非常照明だろうが星明かりだろうが一定時間真っ暗にすることができます。こんなことになったらそりゃ相手は大混乱ですよ。
・くはしや:火車という名前で有名な火を纏ったネコです。炎を纏い超高速で走れます。その速度通常のなんと10倍。ものを抱えても速度が落ちない韋駄天即の上位互換。
・かまいたち:ノータイムで敵や物体を切り裂きます。戦闘に便利なパッシブ能力で、全ての攻撃や回復行動に真空斬撃による追撃効果が発生します。
・かげわに:対象1体を独自の影空間に引きずり込むことができます。影の出る場所ならどこでもOK。引きずり込んだらタイマンバトルの始まりです。
●山賊の砦
集落を改造した砦です。
6棟ほどの木造住宅が密集した土地をぐるりと高い壁が囲んでいます。
唯一の出入り口は門番が見張っており、強行突破は難しいでしょう。
山賊は実に30人くらいいますが、そのうち隔者は5人。あちこちをうろついているので見つからないように侵入し、まずは混乱する状況を作りましょう。
古妖パワーを使うのがオススメですが、技能スキルを使ってあれこれやってみるのもいいでしょう。
古妖は六つのうちのどれかの建物にとらわれています。
どんな古妖かは見てのお楽しみ。大きさは人間と同じかそれ以下で自律して動けるので、見つけたら素早く助け出しましょう。
具体的には檻に閉じ込められているので覚者パワーでガッてやりましょう。その後勝手にダッシュさせてもいいですし、古妖パワーで抱えて走ってもいいでしょう。
古妖を助け出したらいよいよバトルパートです。
山賊の隔者が襲いかかってくるので、古妖パワーを借りたり自力で踏ん張ったりして戦います。
山賊は五行バラバラで彩と獣の混成。武器は刀や銃などです。
他の発現してない山賊は勝負にならないとふんで遠巻きに見ているはずです。勝負がつけば投降するでしょう。
あとは縛ってかためて110番通報です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
5/6
公開日
2017年09月05日
2017年09月05日
■メイン参加者 5人■

●古妖、怪人、妖怪組合。
人と古妖はわかり合えぬ。
……などと言ったのはどこの誰か。
古妖の姿が彫り込まれた銀貨を手に、上月・里桜(CL2001274)は意識を集中させた。
日を背負ったネコが里桜だけに見える姿で浮かび上がり、一緒に守護使役の朧も飛び上がった。
上空から俯瞰した簡易砦は、六軒の小屋が寄り集まるようにしてできている。
共同で使う井戸や大竈が置かれ、一昔前の集落を思わせた。
この場所で古妖たちが身を寄せ合って暮らしていた光景を思い浮かべ、同時に山賊たちが我が物顔で占拠している光景に心を痛めた。
「治安が悪化すると、こういう人たちも出てくるんですね……」
「さて、どこからどう料理したもんかしら?」
人型の煙めいた古妖が刻み込まれたえんえんらの銀貨。それをくるりと回して、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)はヘルメットのバイザーをつまんだ。
送受心ラインを接続。
透視能力を発動。
砦内のあちこちに山賊の人影を発見。
透視情報を里桜に送信。
里桜はていさつによる情報とリンク。加えて感情探査で各個体の現在感情を割り当て、返信。
それらの情報を、逝は10秒スパンのリアルタイムで残りのメンバーに送信する。
「さて、まずはあちらさんからかね」
逝と里桜が隠れていたのは砦の裏側。
山道をひっそりと進み、山賊たちに気付かれぬように張り付いていた。
その一方で……。
「まずは砦の出入り口を確保しなければなりませんね」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)は岩陰から砦の様子をうかがっていた。
こちらは砦正面。逝たちとは別のルートで接近していたチームである。
カマイタチの彫り込まれた妖怪銀貨を握りしめ、突入のタイミングを伺う結鹿。
「タイミングは私たちが作るよ。まずは門番さんをなんとかしたいけど……」
「ああ。囲んで殴るにゃ人の目が多すぎるな」
難しい顔をする『ファイヴ村管理人雇用担当』栗落花 渚(CL2001360)と『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)。
逝から送られてきた山賊たちの分布図を見る限り、門番を倒す所を見られれば流れるように古妖ととらえている連中に伝わる。人質に取られれば厄介だし、そうでなくても危険にさらしたくない。里桜が古妖から強い恐怖や不安の感情を察知しているので、なおさらである。
「他の連中がちらっとよそ見した瞬間に消えちまえば、ちょっと塀の裏に言った程度に思われるだろう。ここは俺たちの出番だな」
義高が銀貨を握ると、彼にしか見えない古妖の姿が浮かび上がった。
ワニとサメを一緒にしたような怪物で、地面を水面にみたてて泳いでいる。否、影を泳いでいるのだ。
「あいつを影の空間にストンと引きずり込んでくれ」
「ウム、任されよぉう」
すいすいと門番の足下へ泳いでいく。
すると、門番が落とし穴にでも落ちたように消えてしまった。ひゃあという声はしたものの、それ以上何も物音がしないせいで他の山賊たちは気にしていない。
「よしきた!」
影の中は暗い。光のない暗黒。けれど不思議と人の姿だけは見えるという奇妙な空間だった。
そんな空間に、ベベンという独特の音楽が響く。有名な仕事人のテーマソングである。
「決め台詞は省略するぜ」
自慢の斧、ギュスターブを振りかざし、義高が現われた。
「さあて、他人の痛みを思い知れ!」
門番がどこにも届かない悲鳴を上げる頃。
「なあおい、いるか?」
姿が見えない時間が長かったからか別の山賊が門番の様子を見に来ていた。
「ヘイ旦那、ここにいやすぜ」
特徴的な顔の門番が、頭を中指でかりかりとやりながら塀の裏から顔を出した。
「なんだいるんじゃあねえか。てっきりサボってんのかと思ったぜ」
「へへへ、隙あらばサボろうかと思ってたんですやすがね。旦那の目が厳しいもんでして」
「そういうことは堂々と言うんじゃあねえよ」
などと冗談を交わしてから、門番は急に真面目な顔になった。
「ところで、気のせいだといいんでやんすが、東側の壁をカリカリやってる奴がいるみたいですぜ。動物ですかねえ。ちょっくらおいら、様子を見てきましょうか」
「あんだと? そう言ってまたサボるだろうが。いいよ、俺が見てくる」
そう言って、山賊の一人が部下を連れて東側へと向かっていった。守護使役から武器を取り出している所からして隔者だろう。
「へへえ、どうも」
門番は愛想笑いを浮かべ……そして、顔がぺろんとはがれて落ちた。
門番は岩陰で目を回している頃だ。
山賊たちを東側へ誘導したのは誰あろう、渚である。
のっぺらぼうの彫り込まれた妖怪銀貨を握り、義高を招き入れる。
「普通に『東側に誰か居るかも』って言っただけなのに、なんであんな風に信じ込んじゃうんだろう……」
「我々のっぺらぼうは集団幻覚の古妖なのです」
渚だけに見えるよううかびあがった顔の無い女性。
「相手は、門番が同じことを主張したように自分の脳内で補完しているのですよ。違和感が強すぎると精神失調を起こして、しまいには偽りに気づいてしまいますが、長らく同居生活でもしないことにはバレないでしょう」
「べ、便利だけど恐いね……」
完全な変装どころじゃない。隣人がいつの間にか他人と入れ替わっているかのような恐怖である。
『のっぺらぼう』はそもそもそういう恐怖心から語られた古妖なのだから、当然と言えば当然か。
「それじゃあわたしは、この子と一緒に東側に回りますね」
結鹿は送受信越しにそう言い残して、砦東側の壁に張り付いた。
「おい、この辺に誰かいるのか」
かりかりという音がする。
近くに行って、見てみなければならぬ。
山賊の中でも発現している五人の内の一人。彼が塀の外を回ってやってきたのは、木々の茂る土の上。
しかしそこには誰もおらず、ただ塀に何かが彫り込まれていた。
大きく。
なめらかに。
刃で切り込んだかのように。
『う』
『し』
『ろ』
はっとして振り返った隔者山賊
樹幹の影から飛び出した結鹿が、氷の剣を突き出していた。
「ぐおお!?」
咄嗟に手斧で振り払う――が、直後に襲った見えない真空斬撃が隔者山賊を切り裂いていく。
思わず斧を取り落とす。
「恨みはらさでおくべきか、です! お覚悟なさい!」
そこからの仕合など語るべくもなし。一方的にたたき伏せ、山賊たちは悲鳴をあげて砦の出入り口へと走り出した。
それを逃がす結鹿ではない。
「かまいたちさん!」
浮かび上がる三匹のイタチ。連係プレイで山賊を転ばし、斬り、血が出ぬように薬を塗る。
鋭く綺麗な切り口は、血も出ぬほどにすっぱりと肌を裂いていた。
うわあといって転倒する山賊たち。
騒ぎを聞きつけ、他の山賊たちもやってくるだろう。だがその時には既に……。
一方その頃、古妖ととらえていた小屋。
騒ぎを聞いた隔者山賊の一人が、小屋へと駆けつけていた。
「おい、外が騒が――ぐお!?」
突如吹きすさぶ突風。
思わず目を覆い、開いた時には古妖をとらえていた檻がぱかんと口を開けていた。勿論中身は空っぽである。
「な、なんでだ。いつの間に……」
「お前らが目を離してる隙にだ」
背後から声がした。
振り返れば、自らの影からつるりとしたスキンヘッドが突き出ている。
凝視してみれば、ひょきひょきと大男が生えてきた。否、大男ではない、斧をかついだ義高である。
一緒になって飛び出す渚。
「古妖さんたちを捕まえて閉じ込めるなんて酷いこと、もうさせないよ!」
二人がかりのタコ殴り。
隔者山賊がいくら超人的な術を使えるからといって、ひとたまりもない話である。
さて、檻から出た古妖たちがどうなったかと言えば。
「ッ――!」
指先から糸を放ち、塀の先端に貼り付ける里桜。
助け出した古妖たちを抱えたまま、猛スピードで塀を駆け上がっていく。
その速さはよじ登るだとか跳ねるだとかいう次元をはるかに超え、壁をすりぬけたのかと思うほどの手際であった。
暴風を起こすほどの勢いで停止し、古妖たちを地面に下ろしてやる。どうやら自力で早く走れるタイプではないようで、地面でうごうごしている。
けどどうやら古妖たちは安堵しているようだ。
里桜はその状態に満足しつつ、背後から追ってくる山賊たちの声に耳を立てた。
「私はこの子たちをもっと安全な所へ移します。あとはお任せしても?」
「ん」
手をぱたぱたと降る逝。
すぐに身体を煙に変えると、空へと舞い上がった。
山賊たちにもメンツというものがある。というより、それしかない。
とらえていた古妖がみすみす奪われたとあっては部下たちに示しが付かず、離反されれば命もあやうい。
必死になって追いかけてくる彼らは、途端奇妙な煙にまかれた。
生木をいぶしたような黒煙だ。吸えば気持ちが悪くなる。
途端に咳き込み、足を止める山賊たち。
一体何だと隔者山賊が頭を上げたその途端。
「や、おっさんよ」
首がごきりとよくない角度にねじ曲げられた。
崩れ落ちる隔者山賊。
その人知を越えた振る舞いに、他の山賊たちは両手を挙げて膝を突いた。
●妖怪銀貨は絆の証
散り散りになった山賊たちを鎮圧することほど簡単なことはない。
文字通りの各個撃破で残った隔者山賊を倒してとらえ、残りの山賊たちも命惜しさに投降したところを縛り上げた。
あとは警察の仕事だが……。
「皆さんは、集落でこのまま暮らすんですか?」
古妖たちが集まる中、里桜はくはしやの頭をぐいぐい撫でながら言った。
「あちしらは古妖にゃ。どれだけ文明が発達してもヒトじゃないにゃにかにゃ。一緒に暮らせにゃい……と」
「思っていたんですがあ」
かまいたちとえんえんらが、それぞれ顔を見合わせる。
黙ってぷかぷかしているかげわに。なんかいじけているへまむし。
彼らの視線がのっぺらぼうに集まった。どうやら彼女は集落のリーダー的存在であるらしい。
「あなたがたファイヴは、人と古妖が共存する環境を既に作っておられました。よければそのノウハウ、教えていただけますでしょうか」
もちろん。
と損得抜きで応えるのがファイヴの気質である。
そんな中、義高が銀貨をずいっと突きだした。
「こいつには、いやお前には助けられた。けど人間にゃ過ぎたちからだぜ。人に見せれば悪い奴が寄ってくる」
「はい、私も一生の秘密にします」
同じく銀貨を突き出す結鹿。
しかしかげわにやかまいたちは、それをずいっと押し返した。
「それは確かに貸したもの。しかし返すことはない」
「キュキュ!」
同じく返そうとした里桜や逝にも、くはしやたちは同じ対応をした。
むろん、のっぺらぼうもである。
「この妖怪銀貨は、刻まれた古妖の力を代行できる道具。しかし代行するには古妖側がそれを承認しなければなりません。つまり銀貨はただの媒体……信頼と絆があって、初めて力を持つのです」
そう言われて、渚は強く銀貨を握りしめた。
「我々も日頃色々とお仕事をしますので、たまにしか力をお貸しできませんが、もし必要な時が来たらお声をかけてくださいな。きっと、お力になりますから」
一度、試すかのように貸し与えられた妖怪銀貨。
しかし今は友情と絆の証として、彼らの手の中に残った。
この絆が新たなる出会いを生み、新たなる事件へと続くことは……まだ彼らにははかりえぬことである。
人と古妖はわかり合えぬ。
……などと言ったのはどこの誰か。
古妖の姿が彫り込まれた銀貨を手に、上月・里桜(CL2001274)は意識を集中させた。
日を背負ったネコが里桜だけに見える姿で浮かび上がり、一緒に守護使役の朧も飛び上がった。
上空から俯瞰した簡易砦は、六軒の小屋が寄り集まるようにしてできている。
共同で使う井戸や大竈が置かれ、一昔前の集落を思わせた。
この場所で古妖たちが身を寄せ合って暮らしていた光景を思い浮かべ、同時に山賊たちが我が物顔で占拠している光景に心を痛めた。
「治安が悪化すると、こういう人たちも出てくるんですね……」
「さて、どこからどう料理したもんかしら?」
人型の煙めいた古妖が刻み込まれたえんえんらの銀貨。それをくるりと回して、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)はヘルメットのバイザーをつまんだ。
送受心ラインを接続。
透視能力を発動。
砦内のあちこちに山賊の人影を発見。
透視情報を里桜に送信。
里桜はていさつによる情報とリンク。加えて感情探査で各個体の現在感情を割り当て、返信。
それらの情報を、逝は10秒スパンのリアルタイムで残りのメンバーに送信する。
「さて、まずはあちらさんからかね」
逝と里桜が隠れていたのは砦の裏側。
山道をひっそりと進み、山賊たちに気付かれぬように張り付いていた。
その一方で……。
「まずは砦の出入り口を確保しなければなりませんね」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)は岩陰から砦の様子をうかがっていた。
こちらは砦正面。逝たちとは別のルートで接近していたチームである。
カマイタチの彫り込まれた妖怪銀貨を握りしめ、突入のタイミングを伺う結鹿。
「タイミングは私たちが作るよ。まずは門番さんをなんとかしたいけど……」
「ああ。囲んで殴るにゃ人の目が多すぎるな」
難しい顔をする『ファイヴ村管理人雇用担当』栗落花 渚(CL2001360)と『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)。
逝から送られてきた山賊たちの分布図を見る限り、門番を倒す所を見られれば流れるように古妖ととらえている連中に伝わる。人質に取られれば厄介だし、そうでなくても危険にさらしたくない。里桜が古妖から強い恐怖や不安の感情を察知しているので、なおさらである。
「他の連中がちらっとよそ見した瞬間に消えちまえば、ちょっと塀の裏に言った程度に思われるだろう。ここは俺たちの出番だな」
義高が銀貨を握ると、彼にしか見えない古妖の姿が浮かび上がった。
ワニとサメを一緒にしたような怪物で、地面を水面にみたてて泳いでいる。否、影を泳いでいるのだ。
「あいつを影の空間にストンと引きずり込んでくれ」
「ウム、任されよぉう」
すいすいと門番の足下へ泳いでいく。
すると、門番が落とし穴にでも落ちたように消えてしまった。ひゃあという声はしたものの、それ以上何も物音がしないせいで他の山賊たちは気にしていない。
「よしきた!」
影の中は暗い。光のない暗黒。けれど不思議と人の姿だけは見えるという奇妙な空間だった。
そんな空間に、ベベンという独特の音楽が響く。有名な仕事人のテーマソングである。
「決め台詞は省略するぜ」
自慢の斧、ギュスターブを振りかざし、義高が現われた。
「さあて、他人の痛みを思い知れ!」
門番がどこにも届かない悲鳴を上げる頃。
「なあおい、いるか?」
姿が見えない時間が長かったからか別の山賊が門番の様子を見に来ていた。
「ヘイ旦那、ここにいやすぜ」
特徴的な顔の門番が、頭を中指でかりかりとやりながら塀の裏から顔を出した。
「なんだいるんじゃあねえか。てっきりサボってんのかと思ったぜ」
「へへへ、隙あらばサボろうかと思ってたんですやすがね。旦那の目が厳しいもんでして」
「そういうことは堂々と言うんじゃあねえよ」
などと冗談を交わしてから、門番は急に真面目な顔になった。
「ところで、気のせいだといいんでやんすが、東側の壁をカリカリやってる奴がいるみたいですぜ。動物ですかねえ。ちょっくらおいら、様子を見てきましょうか」
「あんだと? そう言ってまたサボるだろうが。いいよ、俺が見てくる」
そう言って、山賊の一人が部下を連れて東側へと向かっていった。守護使役から武器を取り出している所からして隔者だろう。
「へへえ、どうも」
門番は愛想笑いを浮かべ……そして、顔がぺろんとはがれて落ちた。
門番は岩陰で目を回している頃だ。
山賊たちを東側へ誘導したのは誰あろう、渚である。
のっぺらぼうの彫り込まれた妖怪銀貨を握り、義高を招き入れる。
「普通に『東側に誰か居るかも』って言っただけなのに、なんであんな風に信じ込んじゃうんだろう……」
「我々のっぺらぼうは集団幻覚の古妖なのです」
渚だけに見えるよううかびあがった顔の無い女性。
「相手は、門番が同じことを主張したように自分の脳内で補完しているのですよ。違和感が強すぎると精神失調を起こして、しまいには偽りに気づいてしまいますが、長らく同居生活でもしないことにはバレないでしょう」
「べ、便利だけど恐いね……」
完全な変装どころじゃない。隣人がいつの間にか他人と入れ替わっているかのような恐怖である。
『のっぺらぼう』はそもそもそういう恐怖心から語られた古妖なのだから、当然と言えば当然か。
「それじゃあわたしは、この子と一緒に東側に回りますね」
結鹿は送受信越しにそう言い残して、砦東側の壁に張り付いた。
「おい、この辺に誰かいるのか」
かりかりという音がする。
近くに行って、見てみなければならぬ。
山賊の中でも発現している五人の内の一人。彼が塀の外を回ってやってきたのは、木々の茂る土の上。
しかしそこには誰もおらず、ただ塀に何かが彫り込まれていた。
大きく。
なめらかに。
刃で切り込んだかのように。
『う』
『し』
『ろ』
はっとして振り返った隔者山賊
樹幹の影から飛び出した結鹿が、氷の剣を突き出していた。
「ぐおお!?」
咄嗟に手斧で振り払う――が、直後に襲った見えない真空斬撃が隔者山賊を切り裂いていく。
思わず斧を取り落とす。
「恨みはらさでおくべきか、です! お覚悟なさい!」
そこからの仕合など語るべくもなし。一方的にたたき伏せ、山賊たちは悲鳴をあげて砦の出入り口へと走り出した。
それを逃がす結鹿ではない。
「かまいたちさん!」
浮かび上がる三匹のイタチ。連係プレイで山賊を転ばし、斬り、血が出ぬように薬を塗る。
鋭く綺麗な切り口は、血も出ぬほどにすっぱりと肌を裂いていた。
うわあといって転倒する山賊たち。
騒ぎを聞きつけ、他の山賊たちもやってくるだろう。だがその時には既に……。
一方その頃、古妖ととらえていた小屋。
騒ぎを聞いた隔者山賊の一人が、小屋へと駆けつけていた。
「おい、外が騒が――ぐお!?」
突如吹きすさぶ突風。
思わず目を覆い、開いた時には古妖をとらえていた檻がぱかんと口を開けていた。勿論中身は空っぽである。
「な、なんでだ。いつの間に……」
「お前らが目を離してる隙にだ」
背後から声がした。
振り返れば、自らの影からつるりとしたスキンヘッドが突き出ている。
凝視してみれば、ひょきひょきと大男が生えてきた。否、大男ではない、斧をかついだ義高である。
一緒になって飛び出す渚。
「古妖さんたちを捕まえて閉じ込めるなんて酷いこと、もうさせないよ!」
二人がかりのタコ殴り。
隔者山賊がいくら超人的な術を使えるからといって、ひとたまりもない話である。
さて、檻から出た古妖たちがどうなったかと言えば。
「ッ――!」
指先から糸を放ち、塀の先端に貼り付ける里桜。
助け出した古妖たちを抱えたまま、猛スピードで塀を駆け上がっていく。
その速さはよじ登るだとか跳ねるだとかいう次元をはるかに超え、壁をすりぬけたのかと思うほどの手際であった。
暴風を起こすほどの勢いで停止し、古妖たちを地面に下ろしてやる。どうやら自力で早く走れるタイプではないようで、地面でうごうごしている。
けどどうやら古妖たちは安堵しているようだ。
里桜はその状態に満足しつつ、背後から追ってくる山賊たちの声に耳を立てた。
「私はこの子たちをもっと安全な所へ移します。あとはお任せしても?」
「ん」
手をぱたぱたと降る逝。
すぐに身体を煙に変えると、空へと舞い上がった。
山賊たちにもメンツというものがある。というより、それしかない。
とらえていた古妖がみすみす奪われたとあっては部下たちに示しが付かず、離反されれば命もあやうい。
必死になって追いかけてくる彼らは、途端奇妙な煙にまかれた。
生木をいぶしたような黒煙だ。吸えば気持ちが悪くなる。
途端に咳き込み、足を止める山賊たち。
一体何だと隔者山賊が頭を上げたその途端。
「や、おっさんよ」
首がごきりとよくない角度にねじ曲げられた。
崩れ落ちる隔者山賊。
その人知を越えた振る舞いに、他の山賊たちは両手を挙げて膝を突いた。
●妖怪銀貨は絆の証
散り散りになった山賊たちを鎮圧することほど簡単なことはない。
文字通りの各個撃破で残った隔者山賊を倒してとらえ、残りの山賊たちも命惜しさに投降したところを縛り上げた。
あとは警察の仕事だが……。
「皆さんは、集落でこのまま暮らすんですか?」
古妖たちが集まる中、里桜はくはしやの頭をぐいぐい撫でながら言った。
「あちしらは古妖にゃ。どれだけ文明が発達してもヒトじゃないにゃにかにゃ。一緒に暮らせにゃい……と」
「思っていたんですがあ」
かまいたちとえんえんらが、それぞれ顔を見合わせる。
黙ってぷかぷかしているかげわに。なんかいじけているへまむし。
彼らの視線がのっぺらぼうに集まった。どうやら彼女は集落のリーダー的存在であるらしい。
「あなたがたファイヴは、人と古妖が共存する環境を既に作っておられました。よければそのノウハウ、教えていただけますでしょうか」
もちろん。
と損得抜きで応えるのがファイヴの気質である。
そんな中、義高が銀貨をずいっと突きだした。
「こいつには、いやお前には助けられた。けど人間にゃ過ぎたちからだぜ。人に見せれば悪い奴が寄ってくる」
「はい、私も一生の秘密にします」
同じく銀貨を突き出す結鹿。
しかしかげわにやかまいたちは、それをずいっと押し返した。
「それは確かに貸したもの。しかし返すことはない」
「キュキュ!」
同じく返そうとした里桜や逝にも、くはしやたちは同じ対応をした。
むろん、のっぺらぼうもである。
「この妖怪銀貨は、刻まれた古妖の力を代行できる道具。しかし代行するには古妖側がそれを承認しなければなりません。つまり銀貨はただの媒体……信頼と絆があって、初めて力を持つのです」
そう言われて、渚は強く銀貨を握りしめた。
「我々も日頃色々とお仕事をしますので、たまにしか力をお貸しできませんが、もし必要な時が来たらお声をかけてくださいな。きっと、お力になりますから」
一度、試すかのように貸し与えられた妖怪銀貨。
しかし今は友情と絆の証として、彼らの手の中に残った。
この絆が新たなる出会いを生み、新たなる事件へと続くことは……まだ彼らにははかりえぬことである。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『妖怪銀貨『くはしや』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:上月・里桜(CL2001274)
『妖怪銀貨『のっぺらぼう』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:栗落花 渚(CL2001360)
『妖怪銀貨『かまいたち』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『妖怪銀貨『かげわに』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:田場 義高(CL2001151)
『妖怪銀貨『えんえんら』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:上月・里桜(CL2001274)
『妖怪銀貨『のっぺらぼう』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:栗落花 渚(CL2001360)
『妖怪銀貨『かまいたち』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『妖怪銀貨『かげわに』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:田場 義高(CL2001151)
『妖怪銀貨『えんえんら』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)

■あとがき■
今回の報酬として『妖怪銀貨』が与えられています。
このアイテムは妖怪銀貨が使用可能な依頼でのみ呼び出せるケータイ番号みたいなものなので、普段は大事にしまっておいてください。
使用可能な依頼は基本的に<妖怪友仁録>のタグがついた依頼、もしくはSTコメント欄に使用可能の旨が書かれた依頼となってございます。
このアイテムは妖怪銀貨が使用可能な依頼でのみ呼び出せるケータイ番号みたいなものなので、普段は大事にしまっておいてください。
使用可能な依頼は基本的に<妖怪友仁録>のタグがついた依頼、もしくはSTコメント欄に使用可能の旨が書かれた依頼となってございます。
