<黒い霧>「BANZEN」社員の解放を……!
【闇企業】<黒い霧>「BANZEN」社員の解放を……!


●今度は万全の対策で……!
 「BANZEN」という器具メーカーがある。
 以前は、健康器具を作っていた会社だったのだが、現状、『ファクター』と呼ばれる器具を製造している。
 『ファクター』は現状、2種が販売されている。
 Aタイプは非発現者用で、背中に半球状の器具を背負うことで五行を模したスキルを1つ設定して使用できる。また、若干の身体能力の向上をもたらす効果もある。
 Bタイプは弱発現者の力を一定値まで強める効果をもたらす。
 発現した因子付近に小型の半球状の装置を装着する。因子ごとにプログラムが必須の為に量産が難しいのが現状だとか。
 しかしながら、これらの器具は少なからず需要があり、様々な場所で使われているそうだ。

 とある工場の管理室。
 壁際の階段を上った高架を伝って向かうことができるその場所からは工場内を見渡せるようになっており、至る所のカメラをチェックできる個室だ。
 そこで、『黒霧首領お目付け役』静永・高明(nCL2000200)がなにやら電話で指示を出している。何らかの事件で指名手配されているはずの男だが、AAAが弱体化した状況のせいか、静永は半ば野放し状態となっている。
 彼がこの工場に来てからというもの、好き勝手に製品を何処かへ横流ししているのは、工場長、牧村・茂も知っている。
 製品の開発者とあって、その権限は工場長以上。彼はそれを利用し、もはや一目をはばからずに好き勝手していた。
 ただ、それが徐々に縮小している感がある。それに、牧村は危機感を覚えていた。
(おそらく、口封じされるでしょうな……)
 それも近いうちに。だからこそ、牧村は徐々に作業員に『暇を出していた』。
 さらに、牧村は多少複雑な暗号メールをF.i.V.E.へと送っていた。それは、救助を求める一文を込めている。
 静永に気づかれるのは時間の問題だが、彼らがAAAの代わりに動いてくれれば……。
「なかなか、姑息な真似してますね、工場長」
 やはり、静永には牧原の考えは筒抜けだったらしい。彼は背後から彼に掴みかかった。
「現状、残された作業員は全員捕らえさせてもらいましたよ」
 押さえつけられた牧村は監視カメラを目にし、事務室で作業員達が黒ずくめの者達に捕らえられていたのを確認した。
「この状況なら、F.i.V.E.も動くでしょう。ただ、製品の運び出しが終わるくらいまでは、時間が欲しいのです」
 彼は強引に大きな半球状の器具を牧村へと装着させ、「あ、そうそう」と付け加えるように告げた。
「あなたにも、Cタイプのデータ収集の為に戦ってもらいます。もちろん、拒否は認めません。作業員がどうでもよいなら別ですが」
 ギリッ……。
 牧村は歯軋りして静永を睨む。しかし、抵抗すれば、作業員の命が危うい。
「……作業員は皆、助けてくれるのでしょうな」
「あなた次第ですよ」
 静永は牧村を見下ろし、含み笑いするのである。

 F.i.V.E.の会議室。
「『BANZEN』という会社を知っておるかの?」
 そんな『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)の問いかけに、メンバー達の反応は二分する。非発現者や弱い力の発現者の為の器具を製造、販売しているメーカーだ。
 以前、この会社の工場へと覚者数人が視察に出かけた際、ここに黒霧のお目付け役である静永・高明の姿が確認されている。カーヴァ生体工学研究所の関連事件で指名手配犯。そして、黒霧の構成員である。
「その工場から、SOSとも取れる暗号メールがF.i.V.E.に送られてきたのじゃ」
 静永は黒霧構成員と共に人質をとり、工場に立てこもっているらしい。
 AAAに令状を発行してもらっており、踏み込むことは可能だ。相手もF.i.V.E.が来ると想定してはいるが、情報としては夢見の分だけこちらが有利である。
 ただ、静永もしたたかな男だ。下手をすると、用済みとなった工場関係者が殺害される恐れがある。
 また、黒霧は『離脱』のスキルを持つ。彼らはギリギリまで、自分達が有益になるようにと立ち回ろうとしているのだろう。
「じゃから、工場内に残された工場長、作業員の保護を最優先に動いて欲しいのじゃ」
 黒霧にはおそらく逃げられてしまうだろうが、今、覚者達に取り押さえる有効な手立てはない。なんらかの対抗策が、今回の戦いで得られればよいのだが……。
 けいは黒霧に関する資料を配布する。また、工場の見取り図を合わせて渡し、戦いや工場制圧の参考にして欲しいと彼は語った。
「あと、この一件が片付けば、『ファクター』についての研究も進むと予想されるのじゃ」
 事後、工場長が協力してくれればあるいは、新たな力が得られるかもしれない。
 だからというわけではないが、工場関係者を助けて『ファクター』について聞いてみたいところだ。
「……皆の活躍を、心から願っておるのじゃ」
 覚者達を信頼しているけいは小さく笑みを浮かべて、覚者一行を送り出すのだった。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:難
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.静永の撃退。(逃走も可)
2.「BANZEN」社員全員の保護
3.なし
覚者の皆様、こんにちは。なちゅいです。
黒霧に巣食われた工場の解放を願います。

●隔者
○静永・高明(しずなが・たかあき)……30歳。
 黒霧の一員、霧山・譲のお目付け役。
 暦×土。ナックルをメインに攻撃してきます。

 ・鉄甲掌・還……特近単[貫2・50・100%]
 ・十六夜……物近烈[二連]
 ・岩纏……自・特攻+ 特防+ 最大HP+ 最大+
 ・岩盤烈破……特遠列・重圧
 相手に叩きつけた岩によって、動きを封じる技です。

○黒霧構成員×8体
 個々の力は、覚者の皆さんよりもやや力は劣ります。
 いずれも苦無を武器としております。

・男2人(彩×天、怪×土)、女2人(獣(寅)×火、械×水)。
 静永、工場長と共に正面部隊に襲い掛かります。
・男3人(現×木、械×天、獣(巳)×土)、女1人(翼×火)
 作業員達を、裏手側にある事務室で見張っています。

 また、黒霧は全員、以下のスキルを持っています。
・隠密……気配を全く感じさせず、移動することが出来ます。
 覚者であっても、発見は容易ではありません。
・離脱……戦闘が終われば、
 例え戦闘不能になっても戦場から跡形もなく消え失せます。

●「BANZEN」社員
○工場長……牧村・茂(まきむら・しげる)、42歳。
 発現者。械×土、のこぎりを所持。
 本意ではないですが、技術顧問の静永に逆らえず襲い掛かってきます。
 ほぼ人体実験さながらに、
 Cタイプの器具を装着されて試されている状況です。
 ・機化硬……自・物防+10% 特防+10% 効果継続:12ターン
 ・大震……特近列 ・【ノックB】【ダメ0】
 ・琴富士……特近列・特攻+ 会心:+ 溜め:1ターン

 Cタイプは、コンベンション(転化)タイプ
 形はAタイプと同様に背負う形で半球状、
 発現者の力を強め、
 体力や気力などに制限をかけた分、力に換えるタイプです。

○作業員……10名。非発現者。戦闘には参加しません。
 工場の労働者です。牧村がうまく避難させようとしましたが、
 黒霧構成員に見張られて身動きが取れなくなっています。

●状況
覚者の皆様は、AAAの助けを借りて、
指名手配されている静永を捕らえるべく
何も策がなければ、正面入り口から踏み込むことになります。
なお、AAA自体は人員不足で今回参加しません。

工場は3メートルほどのコンクリート壁があり、
その上は有刺鉄線で囲まれています。

工場内は器具を作る為の機械が稼動しており、
それほど通路は広くありません。
なお、いくつか製品を作る為の生産ラインがあるようです。
工場の出入り口は正面、左右と奥の左右にありますが、
いずれも機械の為に
通路は人1人ないしは2人分の幅しかありません。

こちらの工場内に関しては、
『【闇企業】器具『ファクター』の製造工場へ』(id=1285)に
参加いただいた方々は、ある程度工場内の設備の配置を覚えているものとします。

正面入り口付近のみ、機械がなく交戦できるスペースがあります。
その付近で静永と工場長牧村、黒霧構成員4人がいます。
静永は覚者に抵抗を見せつつ、
牧村の装着した『ファクター』のデータ収集を直接行うようです。

裏手の事務室に黒霧構成員4人と捕らわれの作業員10人がいます。
工場側と裏手に扉がありますが、両方内側から施錠されています。
休憩室を兼ねている為、広めです。
立てこもる構成員が人質を部屋の中央に集める為、
テーブルなどは端に片付けてられております。

それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2017年09月11日

■メイン参加者 6人■


●社員解放作戦決行
 BANZENの工場へと向かうバンの車内。
 メンバー達はしばしの間、作戦を立てつつ私情を語り合う。
「頼っていただいたのですから、作業員の方達、助けたいですね……」
 清楚な見た目の上月・里桜(CL2001274)が本音を漏らすと、灰色の髪の少年、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が声を荒げる。
「いよいよ、BANZENの皆を助け出す事が出来るんだね!」
 黒霧だろうが、静永だろうが、ぶっ飛ばして皆を助けると彼はやる気を見せている。
「工場の方々を人質にとるとは、見下げ果てた男ですわね。静永は」
 おさげの少女、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は、主犯である黒霧、静永・高明に憤りを感じていて。
「へぇー、クソ上司が様子見てたブラックがやっぱり黒霧に繋がってたのか」
 この場にいる2人のスーツ着用フルフェイスの男の片割れ、緒形 譟(CL2001610)が主観を語る。
「正確には、アイビーばりに拡がってる根の1つ……って所かよ」
「こら部下、庭に植えてはいけない物に喩えるんじゃないさね」
 そんな譟を、同じ風貌の『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が嗜める。
 アイビーは見た目こそ良いが、繁殖力が強い植物だ。だからこそ、庭に植えてはいけない植物として知られる。
「ここで働いてる社員が不快に思うだろう。考慮おしよ」
 車は止まり、工場の前にメンバー達はやってきた。以前、この場を訪れた、いのり、奏空、そして、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) は同じ場所にも拘らず、異様な雰囲気を感じていた。
「聞きたい事も有るし、黒霧には全員ご退場願おうか」
 工場を見上げる逝に、部下、譟が悪態づく。
「つか、社畜より酷え働き方してる癖に、他人のは許せないんだな、クソ上司……。オレが入って無えのが不思議ですわあ!」
 さらに、譟は勢いで続ける。
「まあ、オレらの所属元よりはマシっしょ。むしろホワイトじゃね?」
「まあ……F.i.V.E.も黒霧も確かにホワイトだねえ。あとね部下、それ以上言ったら交代させるぞう」
 彼らが一体どこに所属しているのか聞いてみたいところだが、それはさておき。
 今は「BANZEN」社員の身の安全確保である。下手すれば、黒霧が口封じに彼らを殺害してしまう恐れすらあるのだ。
「決して誰も犠牲にしたりしませんわ。いのり達のこの力は救い求める誰かの為にあるのですから」
「敵方の数の方が上回っているみたいですが……負けません。非人道的な行いを続けさせるわけにはいかないんです」
 いのりが決意を見せると、制服姿の可愛らしいクウォーターの少女、ラーラもまた意気込みを見せる。
 ラーラが言うように問題は、立てこもる相手の方が多いこと。その上で、黒霧の中でもかなり強い力を持つ静永を相手にせねばならない。
 メンバー達は到着までの時間、出来る限り作戦を詰めていくのである。

●霧に脅かされた工場
 覚者達は二手に分かれ、作戦を開始する。
 6人いる覚者のうち、4人がAAAの令状を手にし、覚醒状態で正面から工場内へと入っていく。
 入り口入ってすぐ、彼らを白衣姿の男が出迎える。
「やはり来ましたか、F.i.V.E.……」
「もうここには用はない筈ですわよ。さっさと帰って霧山のお守でもしていなさいませ!」
 女子高生ほどの体格に成長した姿のいのりは、母親の遺品であるボンデージ衣装を纏い、杖を突きつけて怒りの声を上げる。
 静永はにやりと笑い、頭を振った。
「そのつもりですよ。ですが……」
 彼はナックルをつけた拳を覚者達へと見せつけて。
「私としてはできるだけ、邪魔者は始末したいのですよ」
 物陰から現れる黒霧構成員に、ラーラは視線を走らせて敵の動きの捕捉に努める。
 譟、逝は物質透過を使いながら、敵の後方へと回りこんでいく。
 物陰から正面のいのり、ラーラを狙う敵を、譟は鋭聴力で足音、呼吸音を拾いながら捕捉、送受心を使う逝へと情報伝達を行う。
(右後方、左後方に1人ずつ、あと……。あっちに1人向かってるぞ)
 譟が告げると、いのり、ラーラに歩み寄っていく男の姿がある。女性2人は背中に器具をつけた彼を知っていた。
「工場長さん……」
 ラーラが呟いたとおり、工場見学の際に優しく応対してくれた男性。その時名前は確認していなかったが、牧村・茂という名らしい。
「…………」
「さあ、あなたにも働いてもらいますよ、工場長」
 苦い顔をしてのこぎりを手にする牧村を目にしながら、逝は別働班の2人とも連絡を取る。

 裏口を目指す里桜、奏空組。
「黒霧の方達は裏手と工場側の扉の近くに、でしょうか……?」
 里桜がそんな推測を立てつつ、2人は工場奥にある事務室に立てこもる黒霧構成員の状況を探る。
 逝が使う送受心を介し、意思疎通ができる。
 それを利用し、まず、里桜が感情探査で中の様子を窺う。
(さすがに中に14人もいるなら、分かるはず……)
 彼女の想像通り、真ん中に10人が集められ、その四方を黒霧らしき者が取り囲む。
 奏空もまた透視を使って状況を直に確認する。その際、2人は守護使役のていさつの力を借り、敵と救出対象の位置を確定させる。
(思った以上に隙がないね……)
 相手もプロの集団だ。そうそうボロを出すこともないだろう。
 やむを得ず、2人はタイミングを見ながら、物質透過してコンクリート壁を通り抜ける。
 構成員が囲む四方の間を斜めに挟み込むようにして、彼らは内部へ突撃していった。

 工場正面口に戻って。
「さて、そろそろ行きましょうか」
 こちらも戦いが始まろうとしている。静永の言葉を合図として応戦の構えを見せる相手へ、覚者達が仕掛け始めたのだ。
 率先して殴りかかってくる静永。その拳を物陰から飛び出した逝が受け止める。
 思ったよりも重い一撃に、逝が小さく嗚咽を漏らす。
 続き、牧村も小さく首を振ってのこぎりを振り上げる。
(牧村様が眠って下さればよいのですが)
 戦いを強要される相手と戦うことは、覚者達とて本意ではない。いのりは敵陣を眠りに誘う空気で包み込む。
 物陰の構成員1人が眠り始めたものの、静永、牧村は健在。簡単にはこの場を制圧させてはくれない。
(あ、おいクソ上司! 工場長は殺ったらダメだから絶対に殺るなよ、作業員を全員助けたら気絶させる程度にしろよ!)
(はいはい、工場長は殺らないわよ)
 部下、譟の言葉に、逝が頷く。そのやりとりもまた、送受心で行われ、相手には聞こえていない。
(アレも社員の1人だもの、気をつけるぞう。データ取らせたくないし、スルー対応ね)
 そんな呼びかけを耳にしながらも、髪を銀色に変色させたラーラは自身の力を解放すべく、ペスカに預けた金の鍵で魔導書の封印を解除する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 そうして、向かい来る黒霧に対し、ラーラは燃え上がる炎を叩きつけて行くのである。

●霧を振り払うべく
 事務室へと飛び込む里桜、奏空組。
 その奇襲にも黒霧構成員達は冷静に対処するが、「BANZEN」社員達の表情が一気に明るくなる。
「俺達はF.i.V.E.。助けに来たよ!」
 覚醒したことで、金髪を揺らす奏空がこの場の社員へと名乗りを上げる。
「F.i.V.E.……こいつらを倒してくれ!」
 事前に、牧村から話は聞いていたのだろう。彼らは奏空の声に声援を送り始める。
 それに少しやりにくさを覚える構成員達だが、冷静に侵入者の相手をし始める。現状、静永の指示が来ない為か、社員に手を出す様子が見られないのが、覚者にとっては幸いと言えた。
「落ち着いて、端に寄ってください」
 里桜も覚醒して、長い髪を桃色に変色させていた。
 端に寄せられたテーブルなどを盾にするようにと彼女は願いつつ、自身の力を高めて相手の攻撃に備える。
 その間に、素早い奏空が部屋の上部に出現させた黒雲から雷を落とす。彼は社員達へと攻撃が及ばぬよう立ち回り、両手の忍者刀で地を這うような軌跡を描きつつ襲い掛かる。
 里桜もまた、生成された岩を粉砕した形で、奏空と攻撃対象が重なることを意識して敵陣へと浴びせかけていく。

 工場正面では、激しい戦いが繰り広げられていた。
 前に立つ逝の影から、譟が戦闘機の主翼のように変形させた腕で閃光手榴弾を投げつけ、相手の目を潰す。
 強烈な光が周囲を包む中、譟は上司へと工場長の抑え、そして、構成員を狙うよう呼びかける。
「クソ上司も従え下さい!! 敵にデータ渡すの嫌だろ?!」
 こちらも両腕を戦闘機の主翼のようにしていた逝が鎧のように岩を纏って守りを固め、牧村の前に立ちはだかって。
「データも取らせたくないし、攻撃は避けるぞう」
 彼はそのまま、牧村を抑えつけようとする。
 とはいえ、攻撃対象には入れようとはしない。狙うは黒霧構成員、そして静永だ。
 ラーラもまた、その手から雪豹の如き銀の炎を敵陣へと放つ。
 それが戦場を駆け抜けると、構成員2体ががっくりと膝を突いて眠りに落ちる。
 3人が無力化したのは大きいが、それでも、静永はまるで意に介することなく覚者達へと飛び込んできて拳によるワンツーを叩き込んできた。
 フルフェイス2人が抑えてはいるが、静永の攻撃力は非常に高く、防御してなお、体力を大きく削ってくる。
 静永、そして、牧村が攻撃してくる中、いのりは眠った構成員を見下ろす。
(思ったよりは効果がありましたわね、しかし……)
 すぐに起き上がった付喪の女が、仲間を目覚めさせようとスキルを行使している。
 そこで、いのりは相手の感情に働きかけ、敵を混乱させようとする。すると、先ほどの付喪の女性が混乱し始めていた。
(混乱していれば、離脱しれないかもしれませんし……)
 いずれにせよ、少しは時間が稼げる。裏口のメンバーが合流するまで、耐えられれば、こちらのものなのだ。
 その上で、可能な限り敵の数も減らす。譟は相手に高密度の霧で包み込み、弱体化をはかる。
「ちょっと部下ー、飛ばされたら掴まえて。出来る時で良いわよ!」
 そして、仲間の眠り、混乱スキルに耐えた構成員へと逝が迫り、相手の体勢を崩して投げ飛ばす。
 同じく、ラーラが狙いをその構成員に定め、拳大の炎を連続して放つ。
 牧村も覚者へとのこぎりで切りかかってきていたが、ラーラが思っていたように黒霧メンバーをガードで庇うなどするわけではない。おかげで、牧村に攻撃する必要はなさそうだ。
 また、いのりは敵が工場内を動き回ることも想定していたものの、相手がうぬぼれているのか、それとも牧村の装着する器具のデータが直に欲しいのか、工場内を移動する素振りはない。
 いのりとしてはそれはそれで好都合と、敵陣へと光の粒を降らしていく。
 牧村はその対象からは外していたが、いのりは彼が背中に装着する器具の破壊もできればと、波動弾で狙うとタイミングをはかるのである。

 一方、裏手側。
 多少敵はこちらよりも能力が低いとは言え、相手は暗殺のプロ集団。多少の力の差は連携攻撃で補ってくる。
 序盤は、2対4で押される結果となっていた。
 奏空は素早く攻め立てていくが、1体を落としたところで構成員が投げ付けた苦無、そして、翼人の女性が繰り出した拳大の火球が炸裂し、奏空は一度意識を失ってしまう。
 それでも、彼は命を削って立ち上がり、その女性に刃を見舞って昏倒させる。意識を失った黒霧は、掻き消えるように姿を消していく。
 消耗していても、数が覚者と同数以下となれば状況は好転する。
 刃を叩き込んで奏空が1体を倒せば、里桜も地面から岩槍を出現させて相手を貫き、この場から構成員を強制的に離脱させていく。
 そして、2人は手早く体力の回復を行い、この場を後にする。
「私達が出たら、中から施錠してください」
「終わるまで、ここにいてくださいね!」
 そうして、里桜と奏空は正面で戦うメンバーと合流すべく、工場側へと向かっていくのだった。

●一気に工場制圧を……!
 正面での戦いもまた、激しさを増す。
 序盤こそ、上手く敵を抑えていた覚者達であったが、徐々に構成員が起き出した事もあり、静永は攻勢を強める。
「ほらほら、どうしました?」
 含み笑いをする静永が豪腕を逝に叩きつけると、貫通して譟が威力の篭った一打を浴びることとなる。
 さらに、静永の指示で畳み掛けるように、起き上がった構成員が飛苦無を投げつける。
 油断していたわけではなかったろうが、譟は飛びそうになる意識を堪えていた。
 覚者達は敵の猛攻に耐えながらも、構成員を叩く。
 呪いを帯びた直刀・悪食で逝が構成員へと斬り倒してしまえば、ラーラが飛ばす炎の塊が1体を炎で狙い撃ち、完全に沈黙させていく。いずれも霧の様にして姿を消してしまう。
 徐々に倒れ行く構成員。ただ、なかなか攻めあぐねる状況なのは、やはり、静永の存在が大きい。
 静永の猛攻は覚者達の体力を大きく削ぎ落とす。しかも、回復の手がほとんどない為、覚者側は消耗戦を強いられていた。
 そんな中、工場内を駆け、仲間の元に急ぐ奏空、里桜。
「ん、向こう終わったみたいね」
 送受心で確認していた逝が、彼らの状況を仲間達へと伝える。
 それを聞き、ラーラが牧村へと呼びかけた。
「……ということは、人質は解放されたみたいですよ、牧村さん。もう戦わなくっていいんです」
「…………」
 牧村も、覚者達の言葉を信じていないわけではなかったろう。
 だが、この場では、静永が目を光らせている。
「しくじりましたか……?」
 小さく呟く静永は、どこからか現した大きな岩を覚者達へとぶつけてくる。
 守りを固めていた逝もそれを受け、かなり疲労困憊と言った状態。
 しかし、そこで裏口から工場内を通って駆けつけた奏空と里桜。奏空が仲間の気の流れを活性化させ、里桜が恵みの雨を降らして回復支援する。
「助かる!」
「さーて、反撃開始といくわよ」
 フルフェイス2人がここぞと、構成員達へと刃を浴びせかける。
「牧村さん……!」
「これは……」
 戸惑う牧村。しかし、そこで、静永が冷めた視線を彼に向け、拳を振るってくる。
 しかしながら、そこで牧村を庇ったのはいのりだ。
「あうっ……」
 小さく呻いて床を這ういのり。代わりに奏空が静永へと飛び込む。
「……今度こそ、……負けない!」
 両手の忍者刀、「KURENAI」と「KUROGANE」で奏空は地を這う連撃を静永へと浴びせかけていく。
「前みたいに、やぶれかぶれの攻撃じゃない」
 里桜が迷霧で敵を包む中、静永は後方へと飛びずさる。白衣は裂かれ、頬にも傷が走っていて。
「まあ、いいでしょう。時間も稼げましたし、データも取れました」
 指を鳴らして残る構成員を撤退させると、彼は覚者達へと言い放つ。
「では、また会いましょう」
 不利を悟ったのか、静永もまた霧のようになってその場から消えていったのだった。

 かくして、BANZEN社員は全員が解放された。
 多少、事情聴取はあったものの、工場長牧村もお咎めなし。
 F.i.V.E.のメンバーに興味があるのならば、器具「ファクター」についての話も、牧村は前向きに話してくれると言う。
 また、工場支援については、いのりが自身の祖父へと掛け合うとのことだ。
 無事にこの一件は解決したものの、この場から消えた黒霧の暗躍は続く。
 覚者達は捕らえることもままならぬ相手にやきもきしながらも、工場を後にしていくのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

黒霧の撃退、お疲れ様でした。
無事、BANZENの社員達も救出できて何よりです。

黒霧の対応が続きますが、
落ち着いたら、器具について話が聞けるかもしれません。

今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!




 
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