<黒い霧>黒霧はすぐそこにいる
<黒い霧>黒霧はすぐそこにいる



 『黒霧』、隔者世界にあってその名は恐怖と共に知られている。
 源素という存在がこの世に現れる前から、彼らは裏社会に存在していた。
 潜伏、スパイ活動、情報収集、そして暗殺。
 闇の権力の刃として動きながら、その尻尾を掴ませることなく、『黒霧』は縦横無尽の活躍を見せていた。
 ここ数年、鳴りを潜めていたが、彼らは活動を再開した。
 黒い霧はひそやかに、しかしたしかに日本に広がっているのだ。

 人気のない道路で、数人の隔者を従え、女は長い黒髪をたなびかせる。
「フン、他愛ないわね」
 大地に倒れ伏した警備員達を前に『黒霧』の隔者、麻宮逸樹(あさみや・いつき)はほくそ笑む。
 逸樹の表向きの顔は、国内神秘の研究者だ。その顔で神秘研究組織に入りこんだ彼女は、今日資料を移送するという情報を掴み、その研究成果を奪取した。
「さて、後始末よ。あなた達の死因は、過労から自動車走行中に意識を失っての事故死ね」
 そう言って魔姫は警備員を彼らが乗っていた車に乗せ、エンジンをかける。
 朝の新聞には、誰も見ない三面記事として警備員たちの死は載るのだろう。そして、魔姫は今まで通り素知らぬ顔で研究員として生活を続けるはずだ。
 『黒霧』はそうやってきた。
 そして、これからも闇の中で生きていく。
 大きな爆発音がして、火柱が上がった。


「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
 集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
 麦の渡してきた資料によると、『七星剣』の隔者がとある神秘研究機関から研究資料を強奪するのだという。以前より機関にはスパイは潜んでいて、警備の薄いタイミングを狙っての強奪ということだ。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね。その中で襲ってくる隔者の人は、『黒霧』って名乗ってる。最近、活動を大々的にしてきているんだって」
 『七星剣』は国内最大規模の隔者組織だ。FIVEとは何度も矛を交えている。
 そして、『黒霧』は『七星剣』関連組織の1つ、近年内部抗争で混乱していたが、現在はまとまって大規模な動きを見せているのだという。
 主としてスパイ活動を専門とする組織で、この度は以前より狙っていた情報を手に入れるために動いたということだ。
 夢見の情報もあるので告発することも出来そうだが、少なくとも物証は無い。その程度なら隔者にはごまかしきる自信と準備があるのだろう。そうなると、撃退して確実な物証を手に入れたいところだ。
 それに何より、放っておけば警備の人間は確実に殺される。許すわけにはいかない。
 説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:KSK
■成功条件
1.資料の保護
2.なし
3.なし
皆さん、こんばんは。
ナンジャニンジャ、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は隔者と戦っていただきます。

●戦場
 人通りのない、夜のビル街です。
 PC達は研究資料を輸送中の車が襲われているところに到着します。
 時刻は夜で、暗くなっています。

●隔者
 『黒霧』に所属する隔者達です。
 全員共通で「隠密(気配を全く感じさせず移動可能)」、「離脱(戦闘不能になっても離脱可能)」というスキルを持ちます。
 今回の場合、襲撃を行っているところに向かうので、それほど気にする必要はありません。
 ・麻宮逸樹
 木行の翼人です。
 『黒霧』の隔者で、スパイ活動を行っています。
 長い黒髪の女性。実力は高めで、クールな性格をした慎重なタイプです。
 術式を中心的に使い、仇華侵香を得意とします。

 ・戦闘員
 『黒霧』に属する隔者達です。
 体術メインの前衛タイプが3人、術式攻撃メインの後衛タイプが3人、術式メインの回復後衛タイプが2人います。いずれも隠密を得意としますが、実力は覚者たちに劣ります。

●一般人
 神秘関連の資料を輸送している警備員たちです。車に乗っていて、2人います。
 並の人間としては強いですが、隔者と戦っても勝ち目はありません。
 戦闘が始まれば、後衛に配置される形になります。
 何らかの手段で落ち着かせることが出来れば、覚者たちの指示に従ってくれるでしょう。
 資料は彼らが車に積んでいます。
 彼らが生存すれば、隔者がスパイとして組織に侵入していたことを証言してくれます。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2017年08月25日

■メイン参加者 6人■



 まだ暗い街の中に、緒形・譟(CL2001610)はフルフェイスにスーツという姿で潜んでいた。決して過ごしやすい状況ではなく、気分は最悪だった。
「クソ上司、こうゆう事は敏感なんだよな。普段は無茶振りと非常識が服着て歩いてるような感じなのに」
 周りに聞こえないよう小声でぼやく譟。
 夜遅くにいきなり呼び出されたのだ。しかもギリギリの時間。機嫌が良かろうはずもない。
 それでもあの時、上司である『冷徹の論理』緒形・逝(CL2000156)の命令に背くわけにいかなかった。上司の声は笑っていなかった。おそらくは、資料の強奪なんてやる連中が癇に障っていたのだろう。
 そうなると、譟としては一刻も早く事件を解決する方がマシという判断になる。
「それにしても、ビル影掛かるような暗い所かよ……マジで襲撃のテンプレじゃねえか。」
 譟がそんなことを考えているうちに、動きがあったようだ。上月・里桜(CL2001274)が皆に合図を送る。どうやら、彼女の守護使役である朧の目に映ったようだ。
 素早く動き出す覚者たち。
(……資料を奪うなんて研究者の風上にも置けない、あら、隔者の方でしたね)
 元々、里桜は研究組織としてのFIVEに興味を持って五麟に来た口だ。それだけに、隔者達のやろうとしていることが許せないのだろう。
「もちろん、警備員の方達は守ります」
 わざわざ口に出して呟くのは、本来の目的を忘れないようにするためだ。裏を返すと、それだけ隔者達に対して怒っているのだろう。
 ともあれ、覚者たちは素早く襲撃する覚者と襲われる車の間に割って入った。
「落ち着きなさい。大丈夫かしら? ひとまず、私たちの指示を聞いてもらえるかしら。終わるまで車の中でじっとしていて欲しいの。それが一番安全だから。変に逃げたりしないでね?」
「俺達はFIVEです! 貴方達を助けに来ました! 外に出ると危ないので中にいてください! 必ず俺達が守ります! 車内では身を屈めていてくださいね!」
 『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)の言葉に頷く警備員たち。『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が告げたFIVEの名が効いたというのもあるだろう。この少年の活躍は、国内で少なからず知られている。
 そして、エメレンツィアは落ち着いているように話しながらも、内心穏やかではなかった。
(黒霧……大きく動いているわね、ホント。これは、アナタの本心? それとも……いえ、やめましょう。当人が居るわけでもないし。今はここを切り抜ける事だけ考えましょう)
 エメレンツィアは『黒霧』、いやその首領である霧山譲と因縁浅からぬ関係だ。それだけに、ここ最近見せる彼らの動向には思う所がある。
 闖入者がやって来たことを受けて、隔者達は慎重に戦いの構えを取る。
 対して、楠瀬・ことこ(CL2000498)は決めのポーズを取った。
「あいどる、ことこちゃん、参上! いぇいっ☆」
 『あいどるは皆に一瞬の笑顔と幸せを与えるもの!』がことこのモットー。だから戦闘中だろうが笑顔なのは当然のことだ。
 とは言え、ことこは何も考え無しに名乗ったわけでもない。
 『黒霧』の活動を妨害していけば、それは相手に対するけん制になるはずだ。そうすれば、結果としてこうした事件を未然に防ぐことが出来るようになる。
(まーそのうちFIVE憎し、でこっちに向かってくるんだろうけどねー)
 その様を想像してうんざりするが、それでもことこは笑顔を崩さない。
 一方、『冷徹の論理』緒形・逝(CL2000156)はフルフェイスの下で、感情も見せずにくつくつ笑う。
「おや、懲りないねえ。しかも雑だ。具体的な事は言わないけど手段は選んだ方が良いんでない?」
 逝は語る。この現場での犯行は、至って粗雑だと。
 そして、何事もこうした些細なところから露呈するというのが物語でもパターンである。飯のタネにならなくても首を突っ込みたがる連中などいくらでもいる。
 内部で偽装工作もあるのだろうが、そうしたことの積み重ねがあればごまかしきれるものではない。
「……と、現場を見てこんなに思う事が有るんだけど言い訳が有れば、どうぞ言っておくれ」
「ハッ、ばかばかしい。現実にそんな名探偵がそうそう転がっているわけないでしょう?」
 逝の言葉を笑い飛ばそうとする隔者。だが、強引な手段がFIVEの介入を招いたという現実もある。『黒霧』は隠しきれない証拠を無意味に増やしているだけと言えよう。
 そして、当の探偵見習いである奏空は隔者の言葉に笑いをこらえている。
「リケジョなおねーさんが実はニンジャ! みたいなのって、なんかかっこいいけど……」
 だが、悪の陰謀と戦う探偵見習いだって負けてはいない。奏空は自身に宿る英霊の力を引き出した。
「かっこいいけど、倒して資料は守らせて貰うよ!」


 こうしてまだ薄暗い中、覚者と隔者の戦いは始まった。数は隔者が勝るため、覚者としては苦戦を強いられることになる。『黒霧』の戦闘力は隔者業界の中では決して低いものではないのだ。
 しかし、ここの戦闘力としては覚者の方が勝っている。
「あなたの戦い方なら、上からブロックを抜けたりすることがあるかしら?」
 隔者達の前に立ちながら、里桜は柔らかく微笑む。しかし、その笑顔の裏側で、敵の戦い方についての解析が同時に行われていた。
 里桜は元々戦士として修業を積んだわけでもないし、FIVEに来たのも神秘探求が目的だ。そういう意味では、戦士とは言えないタイプである。
 だが、実戦経験では『黒霧』の隔者に劣らないし、こういう時の判断力はむしろ勝る。
「この先には進ませませんよ」
 そう言って、里桜は周囲をまとわりつくような霧を展開させた。
 本人も土行の力で守りを固めており、言にたがわず十二分の備えで仲間のカバーに回っているのだ。
 そこへことこは雨あられと高圧縮した空気の弾丸を降らせる。
「ことこちゃんのターン、開始だよっ! エアブリット乱射していくよー!」
 ことこの周りを色とりどりの木の葉が舞い、ちょっとしたステージのようだ。
 十分に守りを固めた覚者たちの前に、隔者達は手を出しあぐねる。そこで、後ろに控えていた隔者が、背後の車に向かって炎の弾丸を放ってきた。
 だが、その程度の悪あがきは計算の内だ。
 地面に向かって急降下したことこは、自分の身体を盾に炎を防ぐ。
「わたしたちがあの人たちを退けるから。車の中でじっとしてて? 頭とか出さずに『だいじなもの』をしっかり抱えててねっ」
 恐怖する警備員たちに向けて、ことこはとびっきりのにこにこ笑顔を向ける。
 怪我が痛くないわけではない。
 だが、いつだって笑顔なのがアイドルの仕事だ。
 その一方で、同じように車のカバーに向かっていた譟は悪態をつきながら、浄化物質を周囲に撒く。
「まあ……クソ上司は多少弱くなっても変わりないからオマケで良いけど、味方は別だ」
 実際の所、敵のリーダー格はこちら側の身体能力を低下させて来るのが基本戦術だ。決して大きなものではないが、放置するには鬱陶しい。
 だが、それにカウンターを決めてやるのが工兵の仕事だ。そして、同時に相手の言動にも注意を払っていた。
 先ほど仕掛けた逝のカマかけに対して、隔者は大きく動じることは無かった。唯一動じたのは、組織的犯行を指摘した時だった。
 スパイ組織が存在を知られてしまっているのは片手落ちかもしれないが、長く続けていれば隠蔽そのものが困難だ。そして、『黒霧』は長く続いた組織にふさわしい能力を持っている。
 ここまでする以上、資料があった組織内での偽装工作は十分で、FIVEの介入を懸念して戦力を用意したものと思われる。
 だが、『黒霧』には大きな誤算があった。
 それはFIVEの実力だ。
「『七星剣』の思い通りにはならないのがファイヴだってとこを見せてやる!」
 奏空の刃が回復を行う隔者を切り裂いていく。その姿は羅刹を思わせる、猛々しいものだ。
 人食いの怪物とも、仏法の守護者とも言われる羅刹。その本質は破壊を司る鬼神だ。
 悩みながらも自分の力と向き合う奏空にこれほどふさわしい技もないだろう。
「『黒霧』が動き出したってことは、『七星剣』も本気を出してきたってことかもしれないけど、そうはさせない」
 淡く輝く瞳で、奏空はキッと隔者達を睨みつける。
 その迫力は、年上の隔者達相手でも恐れを抱かせるには十分だった。
「大丈夫? まだ行けるわよね」
 エメレンツィアは仲間の負傷具合を確認する。戦況は覚者たちが押している状態だ。数の不利はむしろ、隔者の方にある。加えて、回復役も倒れた以上、ここから隔者が粘ることは難しいだろう。
 そこで、エメレンツィアは決着をつけるべく動き始める。
 彼女の手に握られているのは国事詔書。レプリカではあるが、神皇ローマ皇帝カール6世が発布した詔書を元にした、強力な法具だ。
 その存在はエメレンツィアにとっての道標であり、女帝としての英霊の力をさらに高めてくれる。
「これならいけるわね。水の龍よ、飲み込みなさい! そして、女帝の前に跪きなさい!」
 エメレンツィアの詠唱に応じて、水の龍が呼び出される。龍は戦場を縦横に駆け巡り、隔者達を牙にかけていく。
「おっさんも負けてられないねえ。食い散らかすぞう」
 妙にうれしそうな声を上げる逝。
 先ほどからずっと乱暴に剣を振り回しているが、一向に息切れする気配を見せていない。
「そろそろ麻宮ちゃんとも遊べるかね?」
 フルフェイスの中で何かが嗤ったような気がした。
 危険を察知した隔者は距離を取ろうとするが、逝はそんな彼女を引っ掴み、そのまま大地に叩きつける。
「余裕が無い時は黙ってお仕事するものさね。効率おちるわよ」
 そして、逝は倒れた相手に刃を叩きつけた。すると、どこからか黒い霧が現れ、周囲を包んでいく。しかし、構わず剣を振り抜く。
 すると、霧は晴れ、隔者の姿は消えていた。
 最後に感じた、黒い霧の手ごたえの無さに対して、逝はわずかに舌打ちした。


 気付けば倒した隔者達の姿は消えていた。まるで、黒い霧に紛れてしまったかのように。
「わっかりやすい証拠、あればいいのになぁ」
 ことこはきょろきょろと周囲を見渡すが、残念ながら痕跡は残されていなかった。今後も『黒霧』と戦うには、何かしら彼らの逃亡を防ぐ手段が求められているのかもしれない。
「相変わらず尻尾を残さない手腕には感心するわ。色々探りたいところだけど、難しいわね」
 エメレンツィアも嘆息を漏らすが、警備員を守ることが出来た以上、この場は覚者たちの勝利だ。加えて証言も得られたので、今回被害にあった研究機関には入念な調査の手が入る。これ以上の被害にあうことはあるまい。
 奏空の資料を見たいという希望は、今回のお礼代わりにと叶えられた。内容は覚者の身体能力に関する統計だ。単体でどうにかなるようなものではないが、神具の作成やスキルの開発の土台になり得るものだ。『七星剣』には戦力の拡充を目論むものもいるので、奪われていればそうした連中の手に渡っていたに違いない。
「何も盗られてなければ、それで良い。資料の保護という意味では」
 逝は安心したような声を漏らす。もっとも、その真意はフルフェイスに阻まれてうかがい知ることは出来ないが。
「しかし、何が目的でまた大々的に動き出したのかしら。鳴りを潜めていた振りをしていた方が都合はよかったでしょうに」
 エメレンツィアの疑問はそこに尽きる。ここ最近は『黒霧』による事件は増えており、今までの動きと比べても違和感がある。
「まあ、いずれにしろ夢見がある以上見つけられてはいたのでしょうけど……何かが動き出しそうね」
 そんな覚者たちを早めの朝日が照らしつける。暑い1日を感じさせる、強烈な朝日だ。
 だが、まだ太陽も黒い霧を晴らすことは出来ない。
 覚者たちはそれをはっきりと感じていた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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