<レイブン>羽黒山特異点における神秘調査任務
<レイブン>羽黒山特異点における神秘調査任務


●ファイヴ二次組織『レイブン』とは
 ・ファイヴ所属覚者の宿命館大学への出入りを認めること。
 ・所属教授である能登博士との接触を認めること。
 ・宿命館大学が求めた場合ファイヴは要求を解決するためのチームの編成につとめること。
  ――これを『レイブン』と呼称する。

 そして今日も、レイブンに新たな依頼が舞い込んだ。

●メモ『羽黒権現と廃仏毀釈について』
「羽黒山へ調査に行くんだけど、同行してもらえないかな」
 という、宿命館大学の教授・能登博士からの依頼を受けてファイヴ二次団体『レイブン』はそのチーム募集を開始した。
 依頼内容は前言の通りの同行任務。その理由は、羽黒山に発見された特異点の調査によるものである。

「羽黒山には元々寂光寺っていうお寺があったんだけど、神仏分離と廃仏毀釈をうけて出羽神社に強制改宗させられた経緯があるの」
 廃仏毀釈とは主に明治政府による神仏分離運動をさす。
 元々神道と仏教が同一のものであった時代と区切りをつける意図だったが、運動の激化によって廃仏運動へと発展した所もあったという。
 寂光寺はそのあおりを受けた寺だと言っていいだろう。
「その際に多くの仏像や地蔵像なんかが破壊されたんだけど、当時信仰していた羽黒権現の像をかくまうために隠し仏閣が作られたという話なの。
 軽く現場で調査をしてみたんだけど、どうやらそこが特異点化していて、周囲に悪影響を与えてるみたいなのね」
 説明ばかりになってしまって申し訳ないが、特異点とはこの世界に点在する特殊なエネルギースポットである。内部に特殊空間が広がっていたり、周囲で特殊な現象が起きたりといった特徴をもつ。
「特に今回は悪質で、心霊系妖がきわめて発生しやすい状態になっているの。あくまで統計的にだけど」
 妖の発生原因はいまだハッキリとしておらず、妖というもの自体未知の存在だ。しかしそんな妖でも『一定期間に何件妖化するか』程度のデータは、集まるところには集まっているのだ。(五麟学園もそのひとつである)
「私は現地に再び入って、特異点化した隠し仏閣を見つけ出すつもり。
 みんなに依頼するのは、調査に際して発生する妖の撃破。ひいては私の身の安全ね」
 神秘研究を主とする宿命館大学のメリットはともかく。
 妖化が頻繁に発生する現象をつきとめ、止めることにはファイヴとしても大きな価値がある。
「どうかな、メンバーは集められそう?」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.依頼終了まで能登博士が無事でいること
2.なし
3.なし
 待ちに待ったというべきか、独立組織『レイブン』のシナリオです。
 念のため説明を加えておきますが、これまでも1~2人で解決できる程度の依頼が発生していて、それをメンバー持ち回りでちょこちょこと引き受けていたという扱いになっています。(半公式設定ですので、PCの設定に組み込んで頂いて大丈夫です)
 またレイブンは新規メンバーをいつでも募集していますので、『今回からメンバー入りした』『以前からメンバー入りして依頼もちょくちょくこなしていた』という設定で加わることができます。
 五麟学園とはまた違う神秘探求のシナリオをお楽しみください。

●依頼の概要
・主に能登博士を護衛、出現した妖などの敵対存在と戦闘。可能であれば調査の協力。
 →道中に現われる妖と戦いつつ山中を移動。
 →目的地についたら周辺の妖を倒して安全を確保。
 →調査終了後は帰路にて妖と戦闘。(この部分はプレイングから省いて構いません)

 夢見の予知はありません。
 ただし前回の調査内容から、現われる妖の強さと傾向は分かっています。
 詳細なスペックについては後述します。

 依頼中、能登博士に危害が及ばないよう注意してください。
 能登博士は覚者ではないため、攻撃に対して非常に脆弱です。
 現われる妖を全て倒していけば安全。いざというときの味方ガードもすればより安全となります。
 調査中は博士の直属傭兵部隊(5名)も参加しているため、(最悪依頼参加メンバーが成立ギリギリでも)戦力的にギリギリ足りるようになっています。

●エネミーデータ
 道中に現われるであろう敵のスペックです

・さまよう亡者
 R1心霊系妖。
 掴みかかり生気を吸う(特近単)
 主に集団であらわれ、こちらを包囲するようにして襲いかかってくる。
 体力は低いがとにかく数がいるため、気力消耗に注意して進むべき。

・怒り狂う亡者
 R2心霊系妖。
 特異点周辺に出現。
 棍棒による破壊(物近単)
 呪詛をまき散らす(特遠列)
 最低でも10体確認されており、いち早く撃破することが推奨される。

●宿命館大学とは
 神具や勾玉、妖や古妖といった神秘を専門に研究する学術機関です。
 日本逢魔化以降に設立され、五麟大学と同じく神秘研究を行なっています。
 ただし五麟大学(及びファイブ)と異なる点として、神具や古妖の兵器利用に否定的な立場を示しており、より純粋な学術機関として機能しています。
 ファイヴとはあえて直接的な関わりを持たず、二次団体『レイヴン』とのみ契約関係をもっています。

●NPCの解説
・白鷹(はくたか):直属傭兵団のリーダー
・剱(つるぎ):屈強なガンナイフ使い
・浅間(あさま):紳士的爆弾魔
・輝輝(かがやき):歴戦の傭兵
・トキ:天才少年兵
・能登(のと):宿命館大学の博士。『レイブン契約』の大学側責任者。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2017年08月02日

■メイン参加者 7人■

『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『鬼灯の鎌鼬』
椿屋 ツバメ(CL2001351)
『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)

●レイブン
 宿命館大学とファイヴ二次団体『レイブン』の関わりはつい近年のことではあるが、スタッフ同士の人間関係は良好だった。
「しかし、これだけメンバーがそろうのも久しぶりだな」
 『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)は深く呼吸を整えながら、今回の依頼参加メンバーを見回した。
 八人枠でひとつ空いて七名。任務は能登博士の護衛と探索の手伝い。
 能登博士直属の傭兵部隊もあわせると十二名におよぶ規模での作戦行動となった。
 R3単体に挑む際に安定して必要な人員と述べれば、今回の過酷さを推し量ることが出来るだろう。
「今日もよろしくお願いします!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はぺこりと頭を下げ、背負った機関銃を押さえた。
 ここは羽黒山のふもと。
 妖の頻出により通行が規制され、大学名義で調査および事態の収拾にあたる能登博士とその助手しか立ち入ることが許されていない。
 助手という言い方は少し妙だが、要するに傭兵部隊とイレブンたちである。
「準備は万端です。ほな、行きましょ」
 既に覚醒状態となった『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が、先陣を切るように歩き始める。
「そういや、出羽三山って蜂子皇子ってお人が開祖らしいな。狼のような顔しとるらしいけど因子持ちやったんやろかね?」
「イエスでもあるしノーでもあるかなあ」
 両サイドに『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)とトキを据える形で、能登博士は煙草をくわえた。山中でも容赦なく歩き煙草をする辺り、根はアウトローなのかもしれない。さておき……。
「因子っていうのは全ての人間に潜在的に存在しているもので、発現現象はその表面化に過ぎないっていう見方が有力だから……その説で言えば、因子があったかどうかはイエス。覚者かどうかならノーだね」
「なんや細かい話ですね……」
「細かいこと話すのが仕事だからねえ」
 そう言いながらトキや飛馬の頭をわしゃわしゃしはじめる。
 こっちは仕事じゃなく趣味である。もしくは、コミュニケーションスタイルだ。
「二人とも今回の任務分かってるかい?」
「敵が出たら倒す」
「博士を守る!」
「シンプルでよろしい」
 無表情なトキとは対照的に、ふんすと胸を張って見せる飛馬。
「俺は難しいことよくわかんねーから、いつも通りにやるつもりだぜ」
「よーしよし、いいこだー!」
 白鷹が飛馬の頭をわしゃわしゃしはじめた。
 能登と白鷹は育った文化圏が違うのか、子供に対して過剰にボディタッチをする。
 それが信頼を適時確認するための動作であることを、彼らは経験で知っていた。
 自分は加わりませんよとでも言うように一歩ひいてついてくる『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)。
「さ、道中お気をつけて。妖退治もあくまで『ついで』でございますから」
「隠し仏閣の調査、でしたよね」
 地図を片手に地面をとんとんと踏む上月・里桜(CL2001274)。
「それが特異点化の原因なのでしょうか。調べてみなければ、分かりませんね」
 どうやら知らないことを知るということが楽しいようで、里桜は少しわくわくした様子で歩いていた。
 知ることが楽しいといえば、梶浦 恵(CL2000944)も同じである。
 ファイヴの研究員という立場ゆえ……というより恵本来の知的好奇心ゆえの、今回の応募であった。
「恵はなんの研究してんの」
 輝輝が妙なフランクさで問いかけてきた。アラフィフのくだけた男だが、目つきや立ち振る舞いから油断ならない空気を感じた。が、過去の報告を読む限り無害な相手である。
「妖や覚者の力……強いて言えば術でしょうか」
「へー、かっこいいじゃん。モテそう」
 すごくいい加減なことを言う男である。
 しかしそう言いながら、ずっと遠くに目をこらした。
 ごく自然に、スムーズにアサルトライフルを構えて声を張る。
「妖に見つかった。距離100メートル。30秒で戦闘範囲だ、構えろ」

●首無し地霊
 時系列を大幅に省くことをお許し頂きたい。
 なぜならば――。
「9時方向多数、5時、2時、12時方向からも来ています!」
 ベルトポーチからタロットサイズのカードを大量に取り出し、まき散らすかのように放る里桜。
「もしかしたら感情の強い妖ではと思っていましたが、ここまで露骨だとは……」
 地を駆け迫る獣の群れが如く。
 野を這い集まる虫の群れが如く。
 首から上がかすむように崩れた心霊系妖が大量に地面から沸きだしては殺意をむき出しにして襲いかかってくるのだ。
 激しい呪詛が脳をゆするように響き、亡霊がすがりつくたび背筋がぞくりと冷たくなっていく。
 頭痛がするほど強烈な感情の群れに顔をしかめつつも、里桜はカードをそれぞれ霧に変換。一部を敵にまとわりつかせると、別の一部を味方の回復にあてていく。
 信仰による死とはこれほどまで人の魂を縛るものなのか。それとも、妖の性質がそうさせてしまっているのか。
 次のカードを手に取るも、エネルギーがかすれたように伝わってくれない。弾(氣力)切れか……。
 崩れた顔が自分を強くにらんだように感じて、里桜は反射的に目を背けた。
「大丈夫。妖は己の本能に準じているだけです」
 途端に氣力が回復し、里桜は急いでさらなる回復を開始した。
 自分も含め、身体から抜けていった生気が暖かさとなって戻っていくのを感じた。
「助かりました……」
「いえ、なにせこの数ですからね」
 恵はQRタイプの術式コードがプリントされたテープ付箋を数枚はがすと複合術式の刻印されたジッポライターで次々と焼いていく。そのたびに花火のごとく飛び上がったエネルギーの弾がホーミングして妖たちへとぶつかっていく。
「現在の研究では心霊系妖が感情を持ちがちだとされていますが、それは物質系や自然系に比べて人間に造形が近いからであって、妖は共通して人間への強い本能的殺意を持っています。感情探査にかからないのは彼らにとってそれが標準的な状態であるから、そして知性が低く感情というものを形成していないからでしょう」
 小さく息を吐き、燃え尽きる妖たちを見回す恵。
「果実や穀物の糖分が化学反応を起こしてアルコールができるように、この場に存在していた殺意や破壊的な感情を妖が過剰に抽出されたにすぎません。恐れることも、ないんですよ」
「斬って倒せるだけオバケよかマシや!」
 新たに沸いた妖を目測でロックする凛。
 二本指を刀の背に据え、奏でるように切っ先へ向けて撫で滑らせる。
 すると刀の筋に反って炎が燃え上がり、振れば紅蓮の尾を引いた。
 対抗するように、棍棒を握りしめた亡霊たちがうなりを上げて突撃してくる。
 顔を前にした前傾姿勢で迫る三体。
 一方の凛は一歩目から強引に斬撃。中央の妖を真っ二つに切り裂きながら通り抜けターンアンドジャンプ。
 殻ぶった二体目に回転をかけながら飛びかかり、後頭部から足下にかけて一刀両断にした。
「ほい、もう一発!」
 三体目が振り向く――のと同じテンポで刀をV字に振り上げ、逆袈裟斬りで真っ二つにした。
 そんな凛の左右を抜けるように、亡霊が両手を突き出しながら能登博士へ駆け寄っていく。
「そっち行ったで!」
「任せとけ!」
 刀を一本抜き、水平に構える飛馬。
 彼の刀に直接掴みかかってきた亡霊の勢いを踵を踏ん張ってこらえると、ヒュウと強く呼吸した。
 服の表面に力が行き渡り、鱗が連なる張り付くように石の装甲ができあがっていく。
 さらには各所の筋肉が漲り、妖をはねのける。
「ここから先は通さない。まとめてかかってこい!」
 ふたふりめの刀を抜き、手の中でくるくると回す飛馬。
 対する亡霊は呪詛を黒い炎のように吹き付けてくるが、刀を扇風機のように回転させて防ぎきった。
「安心してくれよ博士。俺がぜってー危ねーめにあわせねえからな!」
「HAHA!」
 途端、飛馬を中心に大爆発が起こった。
 足下に転がされたグレネードが爆発したのだ。妖がまとめて吹き飛んでいくが、飛馬は無事だ。びっくりはしたが、フシギなことに味方には無害な爆発なのである。
 マニコロ型のスイッチをかちりとやって、再び別のグレネードと接続する浅間。
「アサマさん! 爆発させるときは教えてくれって前から言ってんだろ!」
「いやあ、飛馬君が頑丈なものだからつい」
「いいわけになってねー!」
「じゃれている余裕はないぞ。逆側からも来ている」
 大地をジグザグに走り抜け、木枝の上に立ち止まるツバメ。
 大鎌をくるくると回し構えを変えると、ムーンサルトスピンジャンプで共に妖の集団の中に飛び込んでいく。
 空中のツバメめがけて棍棒を一斉に突き込む妖たち。
 が、彼らの貫いたのはツバメの残像だった。
 既に彼らの中心でうずくまっていたツバメは、第三の目を大きく開いて破壊光線を発射。自らを中心に円を描くように振り回すと、妖たちをひとところに焼き切った。
 消滅する妖たち。その上をカエルのような奇抜な跳躍で飛び越えていく妖の集団を見上げ、ツバメは鋭く声を張った。
「つばめ、そっちへ行ったぞ」
「手は打っておりますわ」
 立てた小指をピッと引くつばめ。すると地面へ密かにはっていた植物のツタが足きりヒモのごとく上がり、先頭の妖を派手に転倒させる。
 慌ててブレーキをかける妖たちだが、その隙につばめは彼らの向こう側を歩いていた。
 まるで当たり前のように通り過ぎ、携えていた刀をカチンと納める。
 すると、後からやってきた斬撃が妖たちを一斉に切り裂き、細切れにしていった。
 妖が棍棒を掴み、つばめへと殴りかかる。
 刀を納めて自然に直立したつばめは、まるでダンスのステップを踏むように紙一重に棍棒をかわしていく。
 上段振り下ろしを半身になってかわし、コンパクトな横降りを半歩退いてかわし、踏み込んで繰り出した突きを再び半身になってかわし――相手の腕を手でそっと押さえ、体勢を固定すると刀の柄頭で素早く相手の顎を打ち砕いた。
「うわあ、皆経験重ねてるなあ……」
 あわあわとする奏空。だが負けては居られない。
「俺だって! 滅相銃の力を見せてやるよ!」
 奏空は滅相銃を構えると、祈りを込めてトリガーを引いた。
 回転するマニコロバレル。打ち出された大量の弾丸が祈りの雷を伴い、妖たちを次々に破砕していく。
「そのまま」
 奏空にそう言い放ってスナイパーライフルを構えるトキ。奏空の肩を台にすると、襲いかかってくる妖の頭を片っ端から的確に打ち抜いていく。
「うわ! 耳が! 音が!」
「我慢して」
「相変わらずだなもう!」
 奏空は上体を固定したまま機関銃を右へ左へ流すように乱射。
 トキが討ち漏らした妖を面制圧でもって打ち払っていく。
「リロード!」
「わかった、伏せて!」
 マニコロ弾を込め直すトキに応じて、奏空が特別な祈りを込めて滅相銃を空に向けて乱射した。
 弾が空中で魔矢に変異し、ホーミングして周囲の妖へ次々と降り注いでいく。
 そうして吹き払われた妖は消滅し、最後には静寂だけが残った。
 銃を構え、周囲を警戒するように見回す輝輝や剱。
「クリア」
「クリア」
「オーケー、次のお仕事いこっか」
 白鷹が拳銃をリロードしながら、ため息のように言った。

●隠し仏閣と羽黒大権現
 地面に手を当て、じっと意識を集中する里桜。
「妙ですね。地形と見た目に差がある気がします」
「土の心、ですか」
 デジタルボードにペンを走らせながら、恵はちらりと里桜の顔を見た。
「土行の固有技能。土との親和性から地形を把握できますが、人工的な建造物は把握できないことが多いとされています。もしかしたら」
「はい……」
 眼前のもりあがった部分に目を細める里桜。
「地形に隠すように、人工物が埋められている可能性がありますね」
「物質透過の出番か!」
 ギラッと目を光らせる凛だが、まあ落ち着けと言って飛馬が服を引いた。
「中に人が入れるくらいのスペースがあればいいけど、中ったらこう、スカッといくんじゃないか? 俺試したことないからわかんねーけど」
「なんや面倒くさい。透視も一緒にもっとくんやったかなあ。まだ出番は先かいな」
「いえ、もう出番のようですよ」
 次をスコップで掘り起こすと、人がぎりぎり通れるサイズの扉が現われた。

 土と扉に隠れて埋まっていたのは石で掘られた仏像だった。
「これが羽黒大権現の像かな?」
 何気なく触れてみる凛。
 すると、水に滴を落としたように風の波紋が広がった。
 空気に違和感。ぞくりとして振り返る凛。
 するとそこは、金銀きらびやかに飾った古い仏閣。それも仏像を前にした祈りの場であった。
「これは……」
「どうなってんだ?」
 慌てて引き戸を開き、外に出る奏空と飛馬。
 夜空は満天の星空。
 どこまでも無限に続く卒塔婆と墓石の列。
 その中央に、この仏閣は存在していた。
「弔ってたんだ……ここで隠れて」
「じゃあ、この場所って、特異点の『中身』ってことなのか?」
 はっとした二人の呟きをよそに、能登博士は黙々と計測器を走らせていた。
「持ち帰って詳しく調べないとわからないけど、寺が強制改宗された時代のものみたいだね。素材は普通のものだけど、長く人がふれてない分劣化も弱いみたい」
「待て、古妖の気配を感じる」
 外に出て行こうとする博士を止め、ツバメが視線を走らせた。
「つばめ、罠の気配はどうだ」
「そういった感じはしませんわ。最初の扉で罠は終わっておりましたから」
「…………」
 扉に罠あったんか、という顔でゆっくり振り返る凛。
 針金を翳して、先に解除しておきましたよとジェスチャーするつばめ。
「ここまで入ってしまえばもはや止める意味はない、ということだな」
「そのようですわね。何か考えはありまして? 梶浦さん」
 つばめに視線を向けられ、恵は何度か頷いてからデジタルボードをペンで叩いた。
「私は、特異点は力の川の本流、もしくは合流地点だと考えています。そして正常な特異点とは滞っていない川。しかしその川幅ゆえに色々なものを呼び寄せてしまう……とも」
「私は鉱脈って考えだったなあ」
 能登博士が計測器を揺らしながら言った。
「長い年月、力のもとが蓄積して圧縮された結果生まれる金や琥珀のようなものが集まった場所。自然に生まれることもあれば、人工的に生まれることもある」
「流れと蓄積」
「立体で考えて」
「地下水?」
「温泉の原理だね」
「つまり羽黒大権現の像は泉穴の蓋であり?」
「意図的にか自然にか埋まって相互作用が無くなったと見るべきで」
「まってまって二人で話進めないでわかんない俺全然ついていけてないから!」
 両手をぶんぶん振って間に割り込む奏空。
 恵と能登博士はハッとして苦笑した。
「えっとつまり、古い無念ある魂をこの空間で弔っていたんだけど、、蓋を閉じられたことで腐ってしまったんだね」
「風や水の通しをよくしないとものは綺麗にならないでしょう?」
「だから蓋を解くのと同時に流れをよくする加工を施してやる必要があって」
「そのためには宗教にそった形か現代術式による施工かを選択する必要がありませんか」
「じゃあ神社庁に連絡とってみるかな。習合時代の技術残ってるかもだし」
「依銀なら製造しているところを知っていますよ」
「まってまってまた二人で進んでるー!」
 今度は飛馬が両手をばたばたやって割り込んだ。
「まあ、こっからはプロのお仕事ってことだよ。私たちは邪魔しないようにお手伝いしようね」
 白鷹に両腕でがばっとやられて、奏空たちは黙らされた。 

 かくして……。

 隠し仏閣はその存在を継続して隠されたまま、『力の風通りを良くする』というかなりまっとうな手段でもって特異点の正常化が成された。
 もとは仏像の下に人骨を密かに埋めることで隠れた葬儀を行なっていた場所だったが役割を終えて久しく、自然な変化によって閉じこもった状態になってしまったという。特異点化したものを即座に破壊するのはより大きな事故の引き金となる可能性があるとして、今回は流れを正常化するという形に落ち着いたのだった。
 やがて周囲に妖が発生し続けることはなくなり、元の静かな山に戻っていくだろう。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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