<冷酷島>助けられる人がいるなら手を伸ばす
●約束されなかった島・第三章
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●前線基地拡張計画
事務方 執事(nCL2000195)は夢見である以前に、ここ冷酷島の建設に関わったGM建設の社長補佐である。
「シェルターに籠もって居る間にみた予知夢に関しては、追々書面にしてお渡ししましょう。それよりも、このシェルターを通じて島内の探索範囲を広げる計画を進めるべきでしょうね」
いくら事務方が夢見であるとはいえ予知はあくまで受け身なもの。島の人々を助けたいと考えるなら、自分から動かねばなるまい。
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) はそれを実体験として知っていた。
「行動するにも、ここは妖だらけの島だからねえ」
「道を確保するために倒す必要があるなら、任せてください」
どこへの道かといえば、以前聞いた映像集積棟だろう。
『⾳楽教諭』向⽇葵 御菓⼦(CL2000429) は小さく手を上げた。
「島中の防犯カメラの映像が集まってるっていう施設に行けば、探索がずっと進むはずよね。まずはそこからじゃないかな」
「確かに。シェルターは島の下水道にも通じています。そこを利用すれば、映像集積棟へと安全なパスを形成することができるはずです。そのためにはまず、途中に出没する妖を倒す必要がありますが……」
事務方がまとめた妖のデータは以下の通りである。
マガツネズミ:生物系妖R1。強力な噛みつき攻撃をし、身体や歯には毒がある。自然治癒やBS回復を常備できると有利。
マガツローチ:生物系妖R1。異常に素早く三連続攻撃を得意とする。脆いので先行さえとれれば有利。
マガツヘドロ:物質系妖R1。ネズミやローチを回復・かつ攻防を強化する能力をもつ。見つけたら即殺したい対象。
「通路の形成方法については適切なスタッフに任せますので、まずはこの妖の排除をお願いします。映像集積棟にさえパスをつなげられれば、そこの情報をもとに要救助者を見つけることができるでしょう。
そういう意味でいえばこれは『準備のための準備』。積み重ねることで確実な力となります。どうか、お力を貸してください」
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●前線基地拡張計画
事務方 執事(nCL2000195)は夢見である以前に、ここ冷酷島の建設に関わったGM建設の社長補佐である。
「シェルターに籠もって居る間にみた予知夢に関しては、追々書面にしてお渡ししましょう。それよりも、このシェルターを通じて島内の探索範囲を広げる計画を進めるべきでしょうね」
いくら事務方が夢見であるとはいえ予知はあくまで受け身なもの。島の人々を助けたいと考えるなら、自分から動かねばなるまい。
『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) と『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) はそれを実体験として知っていた。
「行動するにも、ここは妖だらけの島だからねえ」
「道を確保するために倒す必要があるなら、任せてください」
どこへの道かといえば、以前聞いた映像集積棟だろう。
『⾳楽教諭』向⽇葵 御菓⼦(CL2000429) は小さく手を上げた。
「島中の防犯カメラの映像が集まってるっていう施設に行けば、探索がずっと進むはずよね。まずはそこからじゃないかな」
「確かに。シェルターは島の下水道にも通じています。そこを利用すれば、映像集積棟へと安全なパスを形成することができるはずです。そのためにはまず、途中に出没する妖を倒す必要がありますが……」
事務方がまとめた妖のデータは以下の通りである。
マガツネズミ:生物系妖R1。強力な噛みつき攻撃をし、身体や歯には毒がある。自然治癒やBS回復を常備できると有利。
マガツローチ:生物系妖R1。異常に素早く三連続攻撃を得意とする。脆いので先行さえとれれば有利。
マガツヘドロ:物質系妖R1。ネズミやローチを回復・かつ攻防を強化する能力をもつ。見つけたら即殺したい対象。
「通路の形成方法については適切なスタッフに任せますので、まずはこの妖の排除をお願いします。映像集積棟にさえパスをつなげられれば、そこの情報をもとに要救助者を見つけることができるでしょう。
そういう意味でいえばこれは『準備のための準備』。積み重ねることで確実な力となります。どうか、お力を貸してください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.進路上の全ての妖(※1)を撃破すること
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。
【シチュエーションデータ】
下水道を通って、途中に現われる妖を撃破します。
妖は人間を見つければ仲間を呼びながら次々襲ってくるので、こちらから探索して回る必要はありません。
要するに、休憩なしのエネミーラッシュです。
エネミーデータはOPにあるとおりですので、ここではラッシュの状態について解説します。
ラッシュ中は敵が毎ターン・ランダムで補充され続けます。
全体数は9~18。前中後衛に分かれて自動配置されます。
また以下のような配置になるため、前衛多めでかつ『進路』『退路』のそれぞれに攻撃担当をつけなければなりません。
そのかわり、『それぞれに前衛が2人以上』居る場合は地形効果補正として中衛以後へ敵が侵入しません。
敵→敵妖
前→味方前衛
後→味方後衛
==============
敵敵敵 前後前 敵敵敵
敵敵敵 前 前 敵敵敵
敵敵敵 前後前 敵敵敵
==============
例として解説しますと、列攻撃は進路か退路どちらかにしか飛びません。
全体攻撃は戦場全体に届くので割とお勧めですが、命中率と火力期待値に難があります。
それぞれの担当を決めた後は、『○○が出てきたら優先的に攻撃』といった具合にプレイングをきっていくとスムーズになるでしょう。
反応速度がめちゃめちゃ高い方はマガツローチを先に潰しておくと三連攻撃を阻止できてお得ですし、自然治癒の高い方や優秀なBS回復がいるとマガツネズミの攻撃をうけても平気でいられます。
ラッシュ状態は撃破数が総合で100に達したところで終了。依頼達成扱いとなります。敵の数がめっちゃ多いので、スタミナ切れにはご注意ください。
【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年07月30日
2017年07月30日
■メイン参加者 8人■

●レイコクアンダーザロード
円形レバー式の手動開閉扉を開ければ、シェルターから地下通路へ直接通行することができる。
内部は未だ薄暗く、肩と足首に装着するタクティカルライトを装備することになった。
細かい話は置いておいて、要するに神秘戦闘中の照明確保に理想的な高級機材である。懐中電灯もペンダントライトもヘッドライトも、色々不十分なのだ。
「この地下通路を押さえれば映像集積棟につながる。ということは、今後の探索の足がかりになるだけじゃなく、島の経過を知ることも出来るんじゃないかな」
ハシゴを下りながら、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はそんな風に呟いた。
「それだけじゃないさね。この要領で、重要施設とのバイパスをつなげられるし、避難経路にも出来る。地上をウロウロしてたときより何倍も効率的に移動できるわよ」
追って下りてきた緒形 逝(CL2000156)が、すたんとコンクリートの地面に着地した。
「シェルターの確保といい今回といい、島攻略のターニングポイントになりますね」
「あ、あのー……」
鼻の詰まったような声で『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)が呼びかけてきた。
「地面は大丈夫ですか~? 服とか、よごれませんか~?」
若干涙声でもある。
きっと下水道を通ると言われてかなり汚い場所を想像したのだろう。
汚水管は当然のこと、長く人の手から離れる下水道は小さな生物の住処になりやすく悪臭や汚れが酷いと聞く。
が、しかし。
「あれ? きたなくない?」
以外とすっきりした、『水の流れてるトンネル』みたいな状態に結鹿は小首を傾げた。
ライトで周囲を照らす『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。
「ここは、多分雨水を逃がすための分流式下水管だろうね。それも比較的新しく作ってるから、綺麗なんじゃないかな」
「わあっ、よかったです! 服に付いたにおいがずっととれないんじゃないかって、心配で心配で……」
恭司たちが会話で戦闘前の気分を和らげている中、大辻・想良(CL2001476)はひとり気持ちを閉ざしていた。正確には、守護使役だけを会話の相手にしていた。
「一般の人たち……別に助けたくないわけじゃないし、目の前で襲われていたら、助けると思うけど……島の中に残されてる人たちも、助かったらいいと思うけど……。戦闘部隊の人たちを気にするのは、わたしが嫌だから、だよ。あの人たちがお父さんみたいになったら……あ、でもそんなこと言ってたら、お父さんに怒られるかも。悲しむかも。それは、嫌だな……うん、じゃあ、頑張ろう」
想良の後ろに立つ『F.i.V.E.の抹殺者』春野 桜(CL2000257)。
何か言われるかと、ちらりと振り返ってみたが。
「妖に支配された島。きっと沢山の人命が奪われたんでしょうね。そんな的は殺してしまいましょう。殺してしまいましょうね。遠慮なんていらないわ。誰も止めやしないもの。沢山殺しましょう。殺して殺して殺しましょう。ええ、殺しましょう……ね、斉藤さん」
桜は桜で守護使役と会話しているようだった。本当はもっと深刻な状態なのだが、人生経験の浅い想良にはまだ分からぬことである。一生分からなくてもいいことかもしれない。
タイミングを最後にして、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)と『教授』新田・成(CL2000538)も地下道へと降り立った。
「ここを制圧できれば……」
今まで場当たり的に妖を倒したり人を救助したりしてきた姿勢が、一転して妖や民間人の場所をまとめて特定して出動する姿勢に変わる。
それは島の攻略に向け、エンドマークが見えたことを意味していた。
「島が本来の姿を取り戻したとしても、喪われた命が戻ることはありませんが……それでも」
「ええ、それでも価値はあるでしょう。これも立派な、災害復興なのですから」
「災害復興……」
大きな災害が起きたとき、人はこの世の終わりを思うもの。
多くの人命が失われ、財産が失われ、しかし人々の憐憫が記憶だけは失わせず、使命を帯びた人々が未来だけは失わせない。
ジムカタの話では、ファイブによる島の災害復興運動がテレビや新聞で報じられ、他県に避難した元住民たちが感謝や激励のメールを送ってくることもあるという。
「しかし、映像集積棟ですか。電波不純の時代に作られた歪んだ技術がこうして役に立つとは……感慨深いものですな」
島中に設置されたカメラは犯罪防止を目的とはしているものの、もしかしたらこうした事態のために作られたのでは……と成は考えた。
勿論島を作るに当たって出資者というものがいて、政治屋というものがいて、それらの思惑の上で転がりながら建設をしていたはずだ。妖の出ない島というスローガンに真っ向から反するような妖災害対策設備なんてものは企画段階からはねられてしまう。津波災害用シェルターやバイパスになるように作られた地下道は、もしや……。
と考えたところで。
ぞん、という奇妙な音と共に大量の妖が前後より迫ってきた。
ゴキブリ、ドブネズミ、ヘドロがそれぞれ巨大化した妖が、大量にである。
「やっぱりこうなるんじゃないですかー!」
結鹿が全てをはねのけるかのごとく、叫んだ。
●ファーストラッシュ
ゴキブリという生物の強さは地球上でもまれに見るもので、特にその素早さとしぶとさはあらゆる家庭を悩ませる。
が、素早さとて常人の常識。百戦錬磨にしてファイヴトップクラスの実力者たちからすれば、有象無象のひとつにすぎない。
具体例を述べるなら。
「先行します」
マガツローチが羽根をばたつかせて飛びかからんとするその寸前、燐花は懐から出した鉄串を投擲。
扇状に放たれた鉄串がマガツローチを貫き、周囲のマガツネズミをも吹き払っていく。
鉄串を受けても耐えたマガツネズミが牙をむき出しにし、襲いかかってくる。
「汚い鼠」
対するは桜。小さな携帯スプレー缶を取り出すと、自分と周囲に除菌剤を散布した。
桜の歪んだ呪いがかかった除菌剤である。通常の毒は勿論のこと、マガツネズミの前歯から感染する妖の毒にすら抵抗できた。
更に、桜は別のスプレー缶を取り出して鼠や新たに配置に加わったマガツローチたちへと浴びせていく。
こちらはこちらで殺虫スプレーのようだが、凶悪なサイズをしたマガツローチがたちまちのうちにひっくり返り、その動きを止めていく。
「汚くて、危なくて、危険で……ああ、殺しましょう。もっともっと、殺しましょうね」
それこそ自宅の廊下でも掃除するような、平然とした表情で毒をまき散らしていく桜である。
その、控えめに述べてどうかしている様子におののきながらも、結鹿は敵の侵攻を阻むかのように立ち塞がった。
「こうなったら、とことんやりますよ! 早く終わらせてお風呂に入るんですから!」
結鹿は右手に青い光を、左手に赤い光をともし、それぞれを握り込んで神秘の鎧へと変化させた。
鎧と言ってもパーティーに着ていくような綺麗なドレスである。そのドレスがしかし、マガツネズミの歯をはねのけるのだ。
「まずは、回復役から……!」
マガツヘドロのいるエリアめがけ、空中に形成した氷の槍を投擲。
ねばねばとしたボディに突き刺さる氷の槍。そのボディが氷結し、その隙に想良が術式を練って天井に手を翳した。
ばちばちとスパークする手から、大量のエネルギー弾が放たれる。
放物線を描いたエネルギー弾が地下道のあちこちへ着弾、破裂していった。
氷結したマガツヘドロなど一撃粉砕である。
ぴくり、と後ろを振り返る想良。
照明器具で照らしているとはいえやはり薄暗いエリアである。暗視スキルを活性させている想良には、音もさることながら敵との距離感がしっかりとつかめていた。
彼女の反応を見て、同じように振り返る恭司。
「皆、後ろからも来るよ」
カメラのモードを切り替え、襲いかかる妖の群れを画角に収めた。無数のターゲットがディスプレイに表示され、撮影ボタンを押し込んだと同時に激しいフラッシュが妖たちに浴びせかけられた。
フラッシュにやられたマガツヘドロがぐねりと身体を歪める。
チャンスだ。成は目をぎらりと光らせると、空間を切り裂くように抜刀。放たれた衝撃が矢となって飛び、マガツヘドロへ直撃。粉砕させた。
「島の地下は初めてでしたが、なかなか過酷な労働環境のようですね」
「3Kそろった下水掃除だもの。あ、殺されるも含めて4Kか、アハハ!」
一方で逝はどこか浮かれた様子だった。いつも通りといえばそうだが。
「それ、ここから先は通さないぞう」
刀を無理矢理に振り回し、食らいついてくるマガツローチやマガツネズミを蹴散らしていく。
暗視スキルによって確保された視界はかなり有利に機能しているようだ。
マガツネズミを掴んで放り投げ、刀で切断する。まるまま野球のトスバッティングのフォームだった。野球と違うのは、ボールが飛ばずに真っ二つになる点と、衝撃で周囲の連中まで切り裂かれていくことである。
「うーん……」
分かっては居たけどひどい現場だ。
御菓子は複雑な顔をして、しかし油断なく楽器を構えた。
「まずは洗い流しちゃいましょう」
御菓子の得意な一節をヴィオラで奏で始める。すると空中に突如清らかな水流が生まれ、やがて激流となって妖たちを洗い流していく。
戦力的な部分も影響して、戦闘はかなり安定しているようだ。
注意すべきはスタミナか……。
●バランスの勝利
ファイヴが往々にして募集するR1ラッシュ系の依頼で気をつけるべきことは、大きく分けて隊列とスタミナの維持である。
そして最大の敵は偶然によるハプニングだ。
例えば隊列を維持するために、偶然の集中被弾からのノックアウトを防がねばならない。特に体力の目安を80%でなく120%くらいに置いておかないと、いざ60%くらいまで減った所で集中攻撃を受けるなんて偶然もおこりうる。ダイスを一回転がしたくらいじゃファンブルはおきないが、何回も転がしているとそういうことも起こる。
具体例をあげるとすると今回……。
「…………」
結鹿がマガツローチの残骸にまみれていた。あとマガツネズミの残骸にもまみれていたし、マガツヘドロの残骸にもまみれていた。
妖の死体とゆーものはないので、要するに元になったであろう生物や物体の死骸諸々にまみれているわけである。
「……だ、大丈夫、ですか?」
さすがの燐花も言葉に詰まるほどの有様である。
だって目が死んでるし。
「知ってたよ……わたし知ってた……こうなるって……」
女子中学生がしちゃいけない顔もしていた。久しぶりに。
「終わったら、シャワーをあびましょうね」
シェルターの中にはシャワールームもあったはずだ。というか生活環境が一通りあったはずだ。
結鹿はこくんと頷いた。死んだ目で。
「はいはい、大丈夫だからね。怪我してない?」
そこへ御菓子がやってきて、結鹿の頭をよしよしと撫でてくれた。
一旦口の周りをハンカチでぬぐうと、ペットボトルのお茶を取り出して呑ませてやる。
そうしている間に結鹿の目の光が戻ってきた。
「長期戦は安全が第一よ。集中力も乱れやすいし、無理をして戦線が崩れるとみんなバタバターっていくこともあるんだから、少しの怪我でもすぐ言うこと。いい?」
「はい!」
結鹿が女子中学生らしくなってきた。
一方で。
「ふふふ、沢山殺せるのね。立っているだけでこんなにクズが沸いてくるんだから……ふふ」
どろどろに汚れた包丁を手に、桜はうっとりと天井を見つめていた。
なんでも、ファイヴがご立派な組織になっちゃった手前いつも通りの振る舞いができなくなり、桜なりに鬱憤がたまっていたようである。逆に言うとその辺りちゃんと気にかけるだけのマナーがある女性なのだ。
「さあ、もっと殺しましょう。もっともっと殺しましょう」
「…………」
想良は桜に残った毒を術式を使って除去しつつ、彼女のありさまを見た。
エプロンドレスがあらゆるものでどろどろによごれ、見るも無惨な状態なはずなのに、桜自身はまるで動じた様子がない。
どころか、キッチンで晩ご飯でも作るかのようなテンションでいた。
この歪みさえなければ素敵な女性のはずだ。しかしこの歪みこそが、桜の今持っている全てでもあった。
「じっとしてください。除去、しますから」
「ありがとう。ねえ、次はまだなの? 殺すゴミはまだなの?」
目を見開いたまま言う桜に、想良は沈黙だけを返した。
ファイヴには、こういう人もいるのだ。それは知っておくべき事実であり、学んでおくべき社会でもあった。
さて、隊列の維持の話をしたばかりだが、今度はスタミナの維持である。
「燐ちゃん、確か継続戦闘は苦手なんだっけ」
「はい。素早さには自信があるのですが……」
別のラッシュの切れ目。恭司に手当されながらのこと。
燐花は腕に貼り付けられたねこさんの絆創膏を見て、目をぱちくりとやった。
「ああ、それは……かき集めた医療品が少なかったからっていうのもあるんだけど、まあ、燐ちゃんが喜ぶかと思ってね」
ベルトポーチ型の救急箱を閉じて苦笑する恭司。40歳の男がねこさんの絆創膏もないだろう、という自虐的な笑みだったが、燐花にはどこか暖かく見えた。
「他に、スタミナが切れそうなひとはいるかな。すぐに回復できるとはいっても一人ずつだから、早めにいってね」
チームのスタミナ問題は恭司の大填気でほぼ補えていた。
例えば結鹿の氷巖華は消費MP120。最大MPが1000ちょいなので8発も打てばガス欠になってしまうが、恭司の大填気で500は回復できるので充分フォローできるのだ。
「さて皆さん。ラッシュももうじき終わるでしょう」
時計とメモを確認して、成が顔を上げた。
「準備は万端ですか?」
「ん。おっさんはいつでも」
「フル充電ってところかな燐ちゃんは?」
「大丈夫です」
「私も、ラストスパートで頑張ります!」
「最後だからって無理は禁物ですからね」
「はい、わかりました。油断なく、ですね」
「随分殺せたわ。綺麗にして帰りましょう」
「では」
ざざざざざ。波打つように闇がうごめき、妖の群れが襲い来る。
「アハハ、この分だと余裕で終わってしまうなあ」
自ら群れに突っ込み、刀をぶん回して切り刻む逝。
マガツローチを踏みつけて粉砕すると、逃げようとしたマガツヘドロに瘴気の弾を放った。
ぐちゃりとねじれるマガツヘドロ。
成は素早く距離を詰めると。
「破」
最低限の気合いだけで抜刀、切断。振り払って納刀。
ただ抜いて斬るというだけの行為で、マガツヘドロは爆発したようにはじけ飛んだ。
反対側では燐花と結鹿が敵に飛びかかり、桜が包丁を妖に突き立てる。
彼女たちの体力を上限いっぱいに保つべく楽器演奏のテンポを引き上げる御菓子。
想良と恭司は術式を乱射して下水道内に激しいスパークを起こした。
煙にまみれ、それらが晴れた時には、無事に立つ八人のみがあった。
●映像集積棟および情報集積棟
マンホールを開け、地上に出る成。
目の前には写真で説明されていた施設があった。
扉をドアノブごと破壊する形で開く。
中は少々荒れてはいるものの、妖の被害をうけてはいないようだ。
巨大な液晶ディスプレイパネルが壁に設置され、数台のパソコンとデスクが並んでいる。
「まるでオペレーションセンターですね」
「ええ。データセンターとは思えないでしょう。電波が通らない時代ならではの最新設備ですからね」
後ろからの声に振り返ると、戦闘部隊を引き連れたジムカタがいた。
地下道の妖を除去したことで、彼の通行が可能になったのである。
だとしても、なかなか行動の早い男であるようだ。
「こちらはアクセスキーです。サーバー監視業者に問い合わせて発行させました。暫く何名かに預けます」
「拝借します」
「あっ、私もいいですか? パソコンとか、分かるので」
「ではまず二枚……」
結鹿と成はキーカードを受け取り、デスクについた。
覚醒状態を解き、腕組みしてディスプレイを眺める逝。
そして皆がディスプレイに注目する中、逝はパソコンのスイッチを入れた。
円形レバー式の手動開閉扉を開ければ、シェルターから地下通路へ直接通行することができる。
内部は未だ薄暗く、肩と足首に装着するタクティカルライトを装備することになった。
細かい話は置いておいて、要するに神秘戦闘中の照明確保に理想的な高級機材である。懐中電灯もペンダントライトもヘッドライトも、色々不十分なのだ。
「この地下通路を押さえれば映像集積棟につながる。ということは、今後の探索の足がかりになるだけじゃなく、島の経過を知ることも出来るんじゃないかな」
ハシゴを下りながら、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はそんな風に呟いた。
「それだけじゃないさね。この要領で、重要施設とのバイパスをつなげられるし、避難経路にも出来る。地上をウロウロしてたときより何倍も効率的に移動できるわよ」
追って下りてきた緒形 逝(CL2000156)が、すたんとコンクリートの地面に着地した。
「シェルターの確保といい今回といい、島攻略のターニングポイントになりますね」
「あ、あのー……」
鼻の詰まったような声で『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)が呼びかけてきた。
「地面は大丈夫ですか~? 服とか、よごれませんか~?」
若干涙声でもある。
きっと下水道を通ると言われてかなり汚い場所を想像したのだろう。
汚水管は当然のこと、長く人の手から離れる下水道は小さな生物の住処になりやすく悪臭や汚れが酷いと聞く。
が、しかし。
「あれ? きたなくない?」
以外とすっきりした、『水の流れてるトンネル』みたいな状態に結鹿は小首を傾げた。
ライトで周囲を照らす『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。
「ここは、多分雨水を逃がすための分流式下水管だろうね。それも比較的新しく作ってるから、綺麗なんじゃないかな」
「わあっ、よかったです! 服に付いたにおいがずっととれないんじゃないかって、心配で心配で……」
恭司たちが会話で戦闘前の気分を和らげている中、大辻・想良(CL2001476)はひとり気持ちを閉ざしていた。正確には、守護使役だけを会話の相手にしていた。
「一般の人たち……別に助けたくないわけじゃないし、目の前で襲われていたら、助けると思うけど……島の中に残されてる人たちも、助かったらいいと思うけど……。戦闘部隊の人たちを気にするのは、わたしが嫌だから、だよ。あの人たちがお父さんみたいになったら……あ、でもそんなこと言ってたら、お父さんに怒られるかも。悲しむかも。それは、嫌だな……うん、じゃあ、頑張ろう」
想良の後ろに立つ『F.i.V.E.の抹殺者』春野 桜(CL2000257)。
何か言われるかと、ちらりと振り返ってみたが。
「妖に支配された島。きっと沢山の人命が奪われたんでしょうね。そんな的は殺してしまいましょう。殺してしまいましょうね。遠慮なんていらないわ。誰も止めやしないもの。沢山殺しましょう。殺して殺して殺しましょう。ええ、殺しましょう……ね、斉藤さん」
桜は桜で守護使役と会話しているようだった。本当はもっと深刻な状態なのだが、人生経験の浅い想良にはまだ分からぬことである。一生分からなくてもいいことかもしれない。
タイミングを最後にして、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)と『教授』新田・成(CL2000538)も地下道へと降り立った。
「ここを制圧できれば……」
今まで場当たり的に妖を倒したり人を救助したりしてきた姿勢が、一転して妖や民間人の場所をまとめて特定して出動する姿勢に変わる。
それは島の攻略に向け、エンドマークが見えたことを意味していた。
「島が本来の姿を取り戻したとしても、喪われた命が戻ることはありませんが……それでも」
「ええ、それでも価値はあるでしょう。これも立派な、災害復興なのですから」
「災害復興……」
大きな災害が起きたとき、人はこの世の終わりを思うもの。
多くの人命が失われ、財産が失われ、しかし人々の憐憫が記憶だけは失わせず、使命を帯びた人々が未来だけは失わせない。
ジムカタの話では、ファイブによる島の災害復興運動がテレビや新聞で報じられ、他県に避難した元住民たちが感謝や激励のメールを送ってくることもあるという。
「しかし、映像集積棟ですか。電波不純の時代に作られた歪んだ技術がこうして役に立つとは……感慨深いものですな」
島中に設置されたカメラは犯罪防止を目的とはしているものの、もしかしたらこうした事態のために作られたのでは……と成は考えた。
勿論島を作るに当たって出資者というものがいて、政治屋というものがいて、それらの思惑の上で転がりながら建設をしていたはずだ。妖の出ない島というスローガンに真っ向から反するような妖災害対策設備なんてものは企画段階からはねられてしまう。津波災害用シェルターやバイパスになるように作られた地下道は、もしや……。
と考えたところで。
ぞん、という奇妙な音と共に大量の妖が前後より迫ってきた。
ゴキブリ、ドブネズミ、ヘドロがそれぞれ巨大化した妖が、大量にである。
「やっぱりこうなるんじゃないですかー!」
結鹿が全てをはねのけるかのごとく、叫んだ。
●ファーストラッシュ
ゴキブリという生物の強さは地球上でもまれに見るもので、特にその素早さとしぶとさはあらゆる家庭を悩ませる。
が、素早さとて常人の常識。百戦錬磨にしてファイヴトップクラスの実力者たちからすれば、有象無象のひとつにすぎない。
具体例を述べるなら。
「先行します」
マガツローチが羽根をばたつかせて飛びかからんとするその寸前、燐花は懐から出した鉄串を投擲。
扇状に放たれた鉄串がマガツローチを貫き、周囲のマガツネズミをも吹き払っていく。
鉄串を受けても耐えたマガツネズミが牙をむき出しにし、襲いかかってくる。
「汚い鼠」
対するは桜。小さな携帯スプレー缶を取り出すと、自分と周囲に除菌剤を散布した。
桜の歪んだ呪いがかかった除菌剤である。通常の毒は勿論のこと、マガツネズミの前歯から感染する妖の毒にすら抵抗できた。
更に、桜は別のスプレー缶を取り出して鼠や新たに配置に加わったマガツローチたちへと浴びせていく。
こちらはこちらで殺虫スプレーのようだが、凶悪なサイズをしたマガツローチがたちまちのうちにひっくり返り、その動きを止めていく。
「汚くて、危なくて、危険で……ああ、殺しましょう。もっともっと、殺しましょうね」
それこそ自宅の廊下でも掃除するような、平然とした表情で毒をまき散らしていく桜である。
その、控えめに述べてどうかしている様子におののきながらも、結鹿は敵の侵攻を阻むかのように立ち塞がった。
「こうなったら、とことんやりますよ! 早く終わらせてお風呂に入るんですから!」
結鹿は右手に青い光を、左手に赤い光をともし、それぞれを握り込んで神秘の鎧へと変化させた。
鎧と言ってもパーティーに着ていくような綺麗なドレスである。そのドレスがしかし、マガツネズミの歯をはねのけるのだ。
「まずは、回復役から……!」
マガツヘドロのいるエリアめがけ、空中に形成した氷の槍を投擲。
ねばねばとしたボディに突き刺さる氷の槍。そのボディが氷結し、その隙に想良が術式を練って天井に手を翳した。
ばちばちとスパークする手から、大量のエネルギー弾が放たれる。
放物線を描いたエネルギー弾が地下道のあちこちへ着弾、破裂していった。
氷結したマガツヘドロなど一撃粉砕である。
ぴくり、と後ろを振り返る想良。
照明器具で照らしているとはいえやはり薄暗いエリアである。暗視スキルを活性させている想良には、音もさることながら敵との距離感がしっかりとつかめていた。
彼女の反応を見て、同じように振り返る恭司。
「皆、後ろからも来るよ」
カメラのモードを切り替え、襲いかかる妖の群れを画角に収めた。無数のターゲットがディスプレイに表示され、撮影ボタンを押し込んだと同時に激しいフラッシュが妖たちに浴びせかけられた。
フラッシュにやられたマガツヘドロがぐねりと身体を歪める。
チャンスだ。成は目をぎらりと光らせると、空間を切り裂くように抜刀。放たれた衝撃が矢となって飛び、マガツヘドロへ直撃。粉砕させた。
「島の地下は初めてでしたが、なかなか過酷な労働環境のようですね」
「3Kそろった下水掃除だもの。あ、殺されるも含めて4Kか、アハハ!」
一方で逝はどこか浮かれた様子だった。いつも通りといえばそうだが。
「それ、ここから先は通さないぞう」
刀を無理矢理に振り回し、食らいついてくるマガツローチやマガツネズミを蹴散らしていく。
暗視スキルによって確保された視界はかなり有利に機能しているようだ。
マガツネズミを掴んで放り投げ、刀で切断する。まるまま野球のトスバッティングのフォームだった。野球と違うのは、ボールが飛ばずに真っ二つになる点と、衝撃で周囲の連中まで切り裂かれていくことである。
「うーん……」
分かっては居たけどひどい現場だ。
御菓子は複雑な顔をして、しかし油断なく楽器を構えた。
「まずは洗い流しちゃいましょう」
御菓子の得意な一節をヴィオラで奏で始める。すると空中に突如清らかな水流が生まれ、やがて激流となって妖たちを洗い流していく。
戦力的な部分も影響して、戦闘はかなり安定しているようだ。
注意すべきはスタミナか……。
●バランスの勝利
ファイヴが往々にして募集するR1ラッシュ系の依頼で気をつけるべきことは、大きく分けて隊列とスタミナの維持である。
そして最大の敵は偶然によるハプニングだ。
例えば隊列を維持するために、偶然の集中被弾からのノックアウトを防がねばならない。特に体力の目安を80%でなく120%くらいに置いておかないと、いざ60%くらいまで減った所で集中攻撃を受けるなんて偶然もおこりうる。ダイスを一回転がしたくらいじゃファンブルはおきないが、何回も転がしているとそういうことも起こる。
具体例をあげるとすると今回……。
「…………」
結鹿がマガツローチの残骸にまみれていた。あとマガツネズミの残骸にもまみれていたし、マガツヘドロの残骸にもまみれていた。
妖の死体とゆーものはないので、要するに元になったであろう生物や物体の死骸諸々にまみれているわけである。
「……だ、大丈夫、ですか?」
さすがの燐花も言葉に詰まるほどの有様である。
だって目が死んでるし。
「知ってたよ……わたし知ってた……こうなるって……」
女子中学生がしちゃいけない顔もしていた。久しぶりに。
「終わったら、シャワーをあびましょうね」
シェルターの中にはシャワールームもあったはずだ。というか生活環境が一通りあったはずだ。
結鹿はこくんと頷いた。死んだ目で。
「はいはい、大丈夫だからね。怪我してない?」
そこへ御菓子がやってきて、結鹿の頭をよしよしと撫でてくれた。
一旦口の周りをハンカチでぬぐうと、ペットボトルのお茶を取り出して呑ませてやる。
そうしている間に結鹿の目の光が戻ってきた。
「長期戦は安全が第一よ。集中力も乱れやすいし、無理をして戦線が崩れるとみんなバタバターっていくこともあるんだから、少しの怪我でもすぐ言うこと。いい?」
「はい!」
結鹿が女子中学生らしくなってきた。
一方で。
「ふふふ、沢山殺せるのね。立っているだけでこんなにクズが沸いてくるんだから……ふふ」
どろどろに汚れた包丁を手に、桜はうっとりと天井を見つめていた。
なんでも、ファイヴがご立派な組織になっちゃった手前いつも通りの振る舞いができなくなり、桜なりに鬱憤がたまっていたようである。逆に言うとその辺りちゃんと気にかけるだけのマナーがある女性なのだ。
「さあ、もっと殺しましょう。もっともっと殺しましょう」
「…………」
想良は桜に残った毒を術式を使って除去しつつ、彼女のありさまを見た。
エプロンドレスがあらゆるものでどろどろによごれ、見るも無惨な状態なはずなのに、桜自身はまるで動じた様子がない。
どころか、キッチンで晩ご飯でも作るかのようなテンションでいた。
この歪みさえなければ素敵な女性のはずだ。しかしこの歪みこそが、桜の今持っている全てでもあった。
「じっとしてください。除去、しますから」
「ありがとう。ねえ、次はまだなの? 殺すゴミはまだなの?」
目を見開いたまま言う桜に、想良は沈黙だけを返した。
ファイヴには、こういう人もいるのだ。それは知っておくべき事実であり、学んでおくべき社会でもあった。
さて、隊列の維持の話をしたばかりだが、今度はスタミナの維持である。
「燐ちゃん、確か継続戦闘は苦手なんだっけ」
「はい。素早さには自信があるのですが……」
別のラッシュの切れ目。恭司に手当されながらのこと。
燐花は腕に貼り付けられたねこさんの絆創膏を見て、目をぱちくりとやった。
「ああ、それは……かき集めた医療品が少なかったからっていうのもあるんだけど、まあ、燐ちゃんが喜ぶかと思ってね」
ベルトポーチ型の救急箱を閉じて苦笑する恭司。40歳の男がねこさんの絆創膏もないだろう、という自虐的な笑みだったが、燐花にはどこか暖かく見えた。
「他に、スタミナが切れそうなひとはいるかな。すぐに回復できるとはいっても一人ずつだから、早めにいってね」
チームのスタミナ問題は恭司の大填気でほぼ補えていた。
例えば結鹿の氷巖華は消費MP120。最大MPが1000ちょいなので8発も打てばガス欠になってしまうが、恭司の大填気で500は回復できるので充分フォローできるのだ。
「さて皆さん。ラッシュももうじき終わるでしょう」
時計とメモを確認して、成が顔を上げた。
「準備は万端ですか?」
「ん。おっさんはいつでも」
「フル充電ってところかな燐ちゃんは?」
「大丈夫です」
「私も、ラストスパートで頑張ります!」
「最後だからって無理は禁物ですからね」
「はい、わかりました。油断なく、ですね」
「随分殺せたわ。綺麗にして帰りましょう」
「では」
ざざざざざ。波打つように闇がうごめき、妖の群れが襲い来る。
「アハハ、この分だと余裕で終わってしまうなあ」
自ら群れに突っ込み、刀をぶん回して切り刻む逝。
マガツローチを踏みつけて粉砕すると、逃げようとしたマガツヘドロに瘴気の弾を放った。
ぐちゃりとねじれるマガツヘドロ。
成は素早く距離を詰めると。
「破」
最低限の気合いだけで抜刀、切断。振り払って納刀。
ただ抜いて斬るというだけの行為で、マガツヘドロは爆発したようにはじけ飛んだ。
反対側では燐花と結鹿が敵に飛びかかり、桜が包丁を妖に突き立てる。
彼女たちの体力を上限いっぱいに保つべく楽器演奏のテンポを引き上げる御菓子。
想良と恭司は術式を乱射して下水道内に激しいスパークを起こした。
煙にまみれ、それらが晴れた時には、無事に立つ八人のみがあった。
●映像集積棟および情報集積棟
マンホールを開け、地上に出る成。
目の前には写真で説明されていた施設があった。
扉をドアノブごと破壊する形で開く。
中は少々荒れてはいるものの、妖の被害をうけてはいないようだ。
巨大な液晶ディスプレイパネルが壁に設置され、数台のパソコンとデスクが並んでいる。
「まるでオペレーションセンターですね」
「ええ。データセンターとは思えないでしょう。電波が通らない時代ならではの最新設備ですからね」
後ろからの声に振り返ると、戦闘部隊を引き連れたジムカタがいた。
地下道の妖を除去したことで、彼の通行が可能になったのである。
だとしても、なかなか行動の早い男であるようだ。
「こちらはアクセスキーです。サーバー監視業者に問い合わせて発行させました。暫く何名かに預けます」
「拝借します」
「あっ、私もいいですか? パソコンとか、分かるので」
「ではまず二枚……」
結鹿と成はキーカードを受け取り、デスクについた。
覚醒状態を解き、腕組みしてディスプレイを眺める逝。
そして皆がディスプレイに注目する中、逝はパソコンのスイッチを入れた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『情報集積棟のカード』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『情報集積棟のカード』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『情報集積棟のカード』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
