<冷酷島>ふしあわせなベイビー
<冷酷島>ふしあわせなベイビー


●約束されなかった島・第三章
 『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
 本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
 この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
 壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
 弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
 参、島に眠る謎を解明し解決すること。
 そして今回は――

●R3心霊系妖 ふしあわせなベイビー
「領域侵犯を繰り返す妖の討伐……ですか」
 ここは冷酷島のから海を挟んだ湾の一部。前線防衛基地である。
 ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が持ち込んだ調査報告を読んで、夢見の久方 真由美(nCL2000003)は考え込んでいた。
「その妖『ふしあわせなベイビー』は島の南東、住宅街で見つかったR3妖です。
 沢山の心霊系妖をしたがえ、家一軒を易々と倒壊させるような高い破壊力を持っています。
 性格は見た目どおりに幼稚で、遊ぶように破壊を繰り返します。
 しかし妖の本能というべきか……」
「人を見ると無差別に襲いかかる、ってわけか。俺もでくわしたぜ、そいつには」
 獅子王 飛馬(CL2001466)もまた、自身の調査報告書を持って基地の会議室に現われた。
 ラーラや飛馬は島内での任務のあと、独自に内部を調査し、妖の動きを掴んできたのだ。
「でっかい赤ちゃんみたいなオバケだろ? 不気味な奴だぜ。見かけたらすぐに撤退したけど……ちょっと見かけた場所が気がかりなんだよな」
 飛馬が記した地図の場所は、島の南。もともとショッピングセンターがあった場所である。
「西に移動してますね……」
「前に別の妖コミュニティを壊滅させたときの場所だ。空っぽになったからって、新しい遊び場にするつもりかもしれねーぞ」

 その情報は、蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)も掴んでいた。
「これは、ちょっとやそっとじゃ倒せそうに無いね……」
 ファインダーの中におさめた巨大な赤子の幽霊。
 半透明な身体と、両目が闇のようにくぼんだ顔が特徴の妖。
 通称『ふしあわせなベイビー』。
 既に崩壊したショッピングセンターをさらにたたきつぶすという、それこそ子供の遊びのような破壊行動を繰り返していた。
「う、うわあ……島の妖って、こんなのもいるんですね……」
 島の妖コミュニティの破壊を進めるべく調査活動をしていた菊坂 結鹿(CL2000432)も、同じようにここに行き着いた。
 頷く燐花。
「私たちは、前にこの妖と遭遇しています。その時にエネミースキャンをかけた方もいらっしゃいましたから……」
「大雑把にでも能力は把握できてる、ってことですね! それなら対策のしようもある!」
 結鹿はメモにさらさらと気づいたことを書き付けて、恭司たちと共にその場を撤退した。

●R3コミュニティ破壊作戦
「皆に集まって貰ったのは他でもない。冷酷島で領域侵犯を繰り返すR3妖のコミュニティを破壊するためだ」
 冷酷島は湾に囲まれた島だが、逆に言えば海を多少渡れば本土への侵攻ができてしまう場所でもある。
 島内に生まれた複数のコミュニティの中には本土への侵攻をもくろむものもあり、今現在『ふしあわせなベイビー』とそのコミュニティは最も危険な位置にあった。
「これを放置すれば本土に大量の妖が上陸してしまうだろう。防衛戦に配備した人員でも対応はできるが人的犠牲は免れない。そうなる前に、このコミュニティをたたきつぶす」

 方法は、島南部からの船による乗り付けと強襲である。
 その際にはファイヴの二次団体からなる戦闘部隊が同行し、周囲の妖を引きつけて戦ってくれる。主戦力となるメンバーたちは『ふしあわせなベイビー』との戦闘に集中できるだろう。
「ただし戦闘部隊による引きつけが効果をもつのは200秒(20ターン)までと報告されている。長期戦をさけ、時間内に必ず決着をつけてくれ!」

 『ふしあわせなベイビー』はランク3心霊系妖。
 ただし物理的な破壊を好み、人を見つけると沢山の『ベイビーズベイビー』を放って攻撃してくるという特徴をもつ。
「先行して戦力調査をしてくれたメンバーのおかげで目標の能力はほぼ把握できている。実を結び花を咲かせるためにも……皆、頼んだぞ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.ふしあわせなベイビーの撃破
2.なし
3.なし
 こちらはシーズンシナリオ<冷酷島>のひとつです。
 色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
 そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。

【シチュエーションデータ】
船(高速装甲ボート)で陸地に直接突っ込み、妖と戦闘を行ないます。
具体的な所は端折って、とにかく戦闘するための陸地に直でつけられるとお考えください。

『ふしあわせなベイビー』は周囲にいる大量の心霊系妖を統率する能力を持っていますが、それを上回る勢いで同行した戦闘部隊が引きつけてくれます。
ただしもつのは20ターンまで。
20ターン経過してもふしあわせなベイビーが残っていると大量の妖が波のように押し寄せる地獄と化すので、命がけで撤退しなければなりません。
それまでになんとしても倒しましょう。

【エネミーデータ】
・R3心霊系妖 ふしあわせなベイビー
 巨大な赤子のフォルムをした半透明の怨霊のような妖です。
 きわめて強力な物近単攻撃【三連】を行ないます。
 時として頭から大量の小さな赤子霊を放出してすがりつかせる特遠全攻撃を行ない、これには【不安】【封印】【重圧】がつきます。要するに自然治癒半減+体術・術式使用不能です。
 自然治癒を高めて随時BSリカバリをかけるか、味方ガードでBSから逃れてリカバリをかけるかが対抗策となるでしょう。

 見た目の割に物防・特防はフラット型で、体力はあるが特筆するほどではないようです。
 雑魚妖ラッシュが遮られている今、攻撃への対策さえきちんとできればきっと勝てるでしょう。

【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
 島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
 しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
 以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
 ※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年07月19日

■メイン参加者 8人■

『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)

●妖という存在、そのものについて
「『ふしあわせなベイビー』ね……僕らとしては、リベンジマッチになるのかな」
 『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)はカメラの様子を確認しながら独り言のように呟いた。
「あの時は三人きりでしたけど、今回は皆さんがいますから、心強いですね」
 当たり前のように返答する『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
 感応呪術符と呼ばれる、デジカメでいうメモリーカードにあたるパーツをはめ込んでトントンと叩く恭司。
「けど、あの妖……『どういうもの』なんだろうね。水子の集合霊、なのかもしれないね。大量の赤ちゃんが妖災害で亡くなった、とかさ」
「……」
 燐花が気分を悪くするかとちらりと視線をやったが、燐花の表情に変化は無かった。
「どうなのでしょう。そういう形をしているだけ、かもしれません」
「その話って……」
 この話で心にずきりときてしまったのは、燐花ではなく『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)のほうだった。
「いや、今は同情してる場合じゃないんだ。なりたちはどうあれ、妖は妖。命が沢山奪われてるんだから、ここで必ず倒さなきゃ」
 ダメージは自己修復、もとい自己完結したらしい。
 つとめてケアする必要はなかろう。
 同じく話を聞いていた大辻・想良(CL2001476)に至っては、ぼうっとどこか遠くを見たまま『妖は、倒します』と呪文のように呟くだけだった。
 妖の性質やなりたちよりも、むしろ現状の方が気になるようだ。
「崩壊したショッピングセンターって、前にヒトクイケモノが居たところですよね。自分で、移動してきたんでしょうか。それとも、誰かの指示、なんでしょうか」
「『ヒトクイケモノの巣』、でしたっけ。あれは砲撃で完全に破壊した筈でしたけど」
 『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は記憶を手繰るようにして目を瞑った。
「拠点としての能力は完全に失っているはずです。土地が欲しいだけなのでしょうか。他になにか……」
 そういえば、リーダーにあたるヒトクイケモノは倒したが残敵掃討のようなことはしていない。他に優先する案件が山ほどあったので後回しにしたというのもあるのだが、今あの獅子型妖たちはどうしているのだろう。
「とにかく。これ以上あの妖に業を背負わせる前に、ここで止めましょう。島外進出なんて、させるわけにはいきません」

 作戦概要を一旦おさらいしてみよう。
 『ふしあわせなベイビー』に対応する八人の主力メンバーは船を使って戦闘エリアへ直接のりつけ、その間周囲の妖が加勢しないように戦闘部隊が牽制攻撃をしかけるというものである。
 で、その船というのは。
「アハハハハ、アハハハハハハ!」
 緒形 逝(CL2000156)が笑っていた。何かのツボに入ったのか、それとも笑うしか無いような状況なのか。
 原因は船にあるようである。
 できるだけ広く分かりやすい言葉を選ぶなら、ハネのついたボブスレーボードだった。
 側面にジェットの噴射口があるので、見るからにジェット推進で飛ばされる仕組みである。
 常人が乗ったら多分死ぬが、覚者くらい頑丈なら大丈夫だろうという凶悪なシロモノだった。これを作った人は頭がどうかしているらしい。けどロシアにこういう兵器あったよね。
「さて、教授ちゃん。どう思うね」
「水際で撃沈されないだけ、ノルマンディーよりはマシではないですか?」
 『教授』新田・成(CL2000538)が眼鏡を直しながら言う。
 そのことを聞いたわけじゃないが、まあいいかと逝は顔を上げた。
「ここへ来る間、恭司君と水子の話をしたんですがね。現状……この島はあらゆるものが妖化する憎と腐の特異点です。発生原因を考えるのは後回しでよいでしょう」
 どうやら逝の意図はくんでいたらしい。
 そんな二人の後ろで『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)が身を抱くようにして言った。
「本当に大丈夫なのでしょうか……」
「なに、べつに化けて出たりはしないさね」
「いえ……その話ではなくて」
 結鹿は逝が今回の戦闘に置いて被害担当を申し出たことを心配していたのだが、その意図は伝わらなかったようだ。
 直接前に出る以外にも、自分にもできることはある。結鹿はそう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着けた。
 落ち着けて、人間ミサイルの中へと乗り込んだ。

●強襲作戦
 理論上、斜め上に力を加えれば大体のものは飛ぶ。
 重いものでも強い力を素早く加えれば飛ぶとされるが、こと人間を乗せるものをそんな投石器みたいな理論で飛ばすわけにはいかないので、もっと安全で安定した飛行メカニズムが適用されるものである。
 が、今回は本当に投石器レベルのいい加減さで放り込まれた。
 具体的に述べると、水面を音速で走り揚力によって飛んだ細長い物体に詰め込まれ、放物線を描いて『ふしあわせなベイビー』に直接叩き込んだのである。
 むろんそのままぶつかっては仕方ない。接触の寸前に搭乗席のハッチがパージされ、小型パラシュートで一人ずつ排出(もとい射出)される。
 最後に射出された燐花はパラシュートや安全装置をあえて切断。
 船につかまり、速度と質量をまるごとのせて『ふしあわせなベイビー』に突っ込んだ。
 船体が拉げ、爆発音と共に燐花が大きく飛び退く。
 宙返りをかけ、街灯のかさへと着地する。
「このパターンが身体が馴染んできましたな」
 アラセブの大学教授がまず言いそうに無いようなことを言って、成は地面をごろごろと転がって立ち上がり、抜刀による空圧弾を放った。
 こちらに気づいて応戦体勢に入った『ふしあわせなベイビー』に先制した打撃が入る。
 半透明なボディを貫き、穴を開けて向こう側へと抜けていく。
 あいた穴はすぐにふさがり、うろのような目が成を見た。
「厳しい役回りですが、お任せしますよ緒形君」
「ほいほい」
 逝は腕を完全にブレード化すると、表面を硬化させてガード姿勢をとった。
 まるで飛行機の翼がそのまま盾になったような状態である。
「皆さんはくさび型に展開を」
 くさび陣形をざっくり説明すると、前衛ワントップで敵の猛攻をしのぎ中衛から後衛にかけてのメンバーが敵を削っていくフォーメーションである。
 巨大な敵一体と戦う際に有効かっていうとよくわかんないが、短絡的な性格をした『ふしあわせなベイビー』に対して目立つ位置に盾役を起き続けるという選択はかなり正しかった。
「だあだ』
 鳴き声のようなものを放ち、ドンと額を地面につける『ふしあわせなベイビー』。
 頭がばっくりと割れ、中から小さな赤子の霊体が大量にわき出してきた。
 まるで何かの亀裂から虫の群れがわき出したような有様に、結鹿が本能的な『ヒッ』という悲鳴をあげた。
 しかしこれは妖の放つ幻覚のようなもの。攻撃をして打ち払っても意味は無い。ゆえに。
「狙うは本体、のみ!」
 結鹿が剣で地面を切ると、間欠泉のごとくパウダースノウが吹き上がった。
 剣を振りかざせば操られたかのように宙を舞い、剣を中心にうずをまいて凝固していく。
「撃ちます。援護してください!」
 大量の赤子の霊体をはねのけ、巨大な剣となった氷が『ふしあわせなベイビー』を貫いていく。
 その後すぐに結鹿は周囲から群がってくる赤子の霊体たちにまとわりつかれた。
 霊体は足にすがりついたり袖を引っ張ったり、脇腹の肉にかじりついたり首筋にかじりついたりと好き放題にむしばみ始める。
 情報に寄れば(因子専門用語でいうところの)封印と重圧と不安の効果を持つという。
 体術と術式の使用不能、加えて自然治癒力の半減だ。
 結鹿のやったようにオリジナルスキルなら無視できるが、それしか撃てないとなるとそれはそれで困る。
「自然治癒力の底上げを行ないます。奏空さん、重ねがけを!」
「うん……!」
 逝に守られていたラーラは魔方陣を描いて清廉珀香の術式を展開。
 加えて奏空は薬師如来の文言を唱えて治癒の光を呼び出した。
「これで半々はかわせるはず(※1)だよ! あとは適時回復していくから!」
 (※1:公式マニュアルには【不安】による自然治癒半減の対象に強化&補助効果値を含めるかどうかの明記がなされていないので、今回は計算式を明示しないものとします。また同様の理由で【不安】の半減効果が二度以上重複するかどうかについては今回『しない』ものとして判定します)
「ありがとうございます。では……」
 赤子の霊体が光と炎に焼き払われていくなか、想良は飛翔しながら迷霧を展開。
 『ふしあわせなベイビー』を霧に巻いていく。
 時を同じくして、号令を受けたかのように一斉に駆け寄ってくる周囲の心霊系妖たち。
 その中には獅子の形をした霊体も含まれていた。
 スッ、と目を細くしてその様子を見る想良。
 殺されて新たに生まれたのか、性質がねじ曲がったのか、ないしは喰われたのか。それは分からないが……このまま放置していれば『ふしあわせなベイビー』の勢力が取り返しの付かないくらい拡大していたであろうことは事実である。
 追って突入してきた戦闘部隊が心霊系妖たちに次々と砲撃。
 想良はそちらを任せ、自分は次の術式の準備にかかった。
「もしかしたら可哀想な妖なのかもしれないけど、もしそうなら早く解放してあげたいよねぇ」
 デジタル一眼レフを構え、連写モードで撮影。
 秒間百枚近いシャッターメカニズムが呪術となり、無数の火花が『ふしあわせなベイビー』の周囲で散った。
 カスタムしなおしたカメラは随分な威力だ。【痺れ】効果とわずかな攻撃補正値を除けば、通常攻撃でも充分なダメージを与えられるだろう。
 視界の端で燐花を見る。
「無理はしないように、ね」
 一言だけいって、恭司は戦闘を続けた。

●これが現実だと言うのだろうか
 思えばデタラメな話もあったものである。
 自由気ままなカメラおじさんとしてふんわり暮らしていた恭司が、妖災害の中で力に目覚め、まるで転がり落ちるように戦場カメラマンのような有様に変わり、いまや本当に戦場でカメラを撮っていた。
 巨大な赤子に足を掴まれ、振り回される逝の姿。ショッピングセンターだった建物に思い切り叩き付けられ、常人なら何度か死んでいるような衝撃にみまわれている。
 逝自身がなんだか流れに身を任せるような動きをするせいで本当に死んでしまったのではないかと思うことすらあった。
 その姿をピンポイントで画角におさめ、シャッターをきり、傷口を改ざんしていく。大きく激しく振り回される対象にピントをあわせるのは普通なら至難の業だが、恭司は息をするようにそれができた。
 そしてふと、自分たちの姿を引きで撮影してみる。
 巨大な赤子。
 取り囲む老若男女。
 好き放題に振り回されるヘルメットの男。
 戦車や携行砲で武装した兵士たちが外側をむいて囲み、大量の幽霊めがけて絶え間なく砲撃をしかけている。
 これのどこが、現代日本だというのだろう。
 マスコミの報道する『美しき日本』はこんなだったろうか。子供が外で携帯ゲームをして遊び、主婦がカフェでランチを楽しみ、会社員が疲れ切って終電に揺られる社会の一部が、本当にこんなことでいいのだろうか……?
「おっと、こんなこと、らしくないよねえ。まったく」
 けれど、らしくないことを、最近はよくしているようにも思えた。

 頭上を回転しながら飛んでいく逝。
 あまりの衝撃に暴風すら吹いたが、ラーラは歯を食いしばって帽子をおさえた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を!」
 わたあめに身を包んだような守護使役が大きなマッチのようなものをくわえて戦場を走って行く。
 マッチの先端で地面をこすれば、ガソリンをまいたかのように地面に炎が定着していく。『ふしあわせなベイビー』をぐるりと炎が囲んだ所で、ラーラは魔導書のページに手を置いた。
「イオ・ブルチャーレ!」
 燃え上がった炎が『ふしあわせなベイビー』を覆い尽くしていく。
 正確には、囲んだリングが内側に向けて炎を吹きかけ丸焼きにしていく状態である。
 好機とみた想良は(飛んできた逝を一度キャッチすると)雷獣の術式を発動――しようとして、寸前で演舞・舞音にチェンジした。
 奏空がそのようにジェスチャーを送ってきたからである。
 続けて叫ぶ奏空。
「次、『ベイビーズベイビー』来ます!(※2)」
 (※2:この判断は敵がA→B→B→Aと定期的なサイクルでスキルを使用したことからパターン予測したものです。エネミースキャンを使ってターン中の使用スキルをターン開始前に把握して仲間にスキルを対抗入力させた描写ではありません。お間違えないようにご注意ください)
「アハハ! 人使いというか、盾使いが粗くなるなあ」
 逝はなぜか楽しそうに腕翼シールドを展開。想良を庇う。
 飛びかかってくる赤子の霊体をはねのけ、一部は蹴っ飛ばして逆に『ふしあわせなベイビー』にぶつけてやった。
 案外やれるものだ。結鹿がそっと紫鋼塞をかけてくれたおかげもあって、逝もここまで軽く死ぬだけで済んでいた。
 攻撃(空気投げ)がびっくりするほど当たらないのは計算外というか、ぽっかり忘れていたのだが、使い慣れればそれなりにやれそうなバトルスタイルだった。
「コレ専門にやってる子らはたいしたもんさね」
 一方で、逝を盾にしたことで封殺を逃れた想良が演舞を開始。
 自然治癒しきれなかった成や燐花たちから赤子の霊体がそぎ落とされていく。
「そろそろトドメ、といったところですかな」
 エネミースキャンのいいところは、戦闘の終わり時が見えることである。
 成は地面を強く踏みつけ、術式を発動。
 隆神槍がひきおこされ、『ふしあわせなベイビー』を下から貫いていく。
 動きを固定された所で追撃をしかける結鹿。
 助走をつけて飛び込むと、剣で巨大な腕を切断。返す刀でもう一本の腕も切断し、流れるように氷の剣を生成。生まれた剣が隆神槍と同じく『ふしあわせなベイビー』を貫いていく。
 二重の固定。もはや逃げ場はない。
「燐花さん、行こう!」
 加速に加速を重ねる奏空。
 一方で燐花もまた加速を開始。
 速度で引き上げ手数を増やしてダメージを稼いでいくタイプの燐花にとって、こういう攻撃タイミングが絞られるような戦闘では純粋に火力が高いファイターには憧れたりもする。
 とはいえ、何事も今できることをするのがよい。
 奏空が自らのスピードをそのままぶつけ、『ふしあわせなベイビー』を貫いていく。
 更に燐花が自らのスピードをぶつけ、今度は『ふしあわせなベイビー』を内側から破裂させた。
「どうか、静かに眠ってください」
 きらきらとした、よくわからないものになって消えていく妖。
 周囲の妖たちも指示する妖がなくなったせいか急に統率をうしない、ばらばらに散るようになった。
 身を屈め、ブレーキをかけ、そしてゆっくりと立ち上がる。
 燐花や奏空が振り向くと戦闘部隊の連中が撤退の指示を出している。
 かくして燐花たちも彼らと共に島を撤退。
 作戦を終了した。

 コミュニティ『ふしあわせなベイビーとふゆかいな隣人たち』壊滅完了。
 以降は掃討作戦に入り、残った心霊系妖は見つけ次第撃滅されるそうだ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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